(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20250311BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
(21)【出願番号】P 2020197581
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和間 良太郎
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116842(JP,A)
【文献】特開2019-054013(JP,A)
【文献】特開2003-036882(JP,A)
【文献】特開昭60-182662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/00-10/04,10/06-10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極電極材料を含む負極と、正極とを含む鉛蓄電池であって、
前記負極電極材料は、有機防縮剤と硫酸バリウムとを含み、
前記有機防縮剤は、ビスフェノールユニットを含む縮合物であり、
前記硫酸バリウムの表面積は、前記負極電極材料1gあたり0.04m
2以上であ
り、
前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は0.9質量%以上であり、
前記負極電極材料は、前記有機防縮剤以外のポリマー化合物をさらに含み、
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で100ppm~1000ppmの範囲にあり、
前記ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される
1
H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池。
【請求項2】
負極電極材料を含む負極と、正極とを含む鉛蓄電池であって、
前記負極電極材料は、有機防縮剤と硫酸バリウムとを含み、
前記有機防縮剤は、ビスフェノールユニットを含む縮合物であり、
前記硫酸バリウムの表面積は、前記負極電極材料1gあたり0.04m
2以上であ
り、
前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は0.9質量%以上であり、
前記負極電極材料は、前記有機防縮剤以外のポリマー化合物をさらに含み、
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で100ppm~1000ppmの範囲にあり、
前記ポリマー化合物は、オキシC
2-4
アルキレンユニットを繰り返し構造として含む、鉛蓄電池。
【請求項3】
前記硫酸バリウムの平均粒径は0.5μm以上で1.0μm以下である、請求項1
または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記有機防縮剤は、ビスフェノールSユニットとビスフェノールAユニットとを含む縮合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、通常、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などを含む。各極板は、集電体と電極材料とを備える。様々な機能を付与する観点から、電極材料には、様々な添加剤が添加されている。
【0003】
特許文献1(特開2012-043594号公報)は、「負極活物質に、硫酸バリウム、リグニン、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩、ビスフェノール類・スルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物を、必須成分として含有する鉛蓄電池用負極板。」(請求項1)を開示している。
【0004】
特許文献2(特開平10-040906号公報)は、「負極活物質の放電生成物と同じ結晶形を有し、且つ結晶核となり得るMSO4(例えばBaSO4)からなる微細化剤粉末が負極活物質層中に含有されてなる密閉形鉛蓄電池用負極板において、前記微細化剤粉末として、該微細化剤粉末をレーザー回折式粒土分布測定法により求めたメディアン径を直径として算出した球体の表面積と粉末個数とを掛けた値S1と、BET法で求めた該微細化剤粉末全体の総表面積S2との比S2/S1が2.2以下となる粉末を用いることを特徴とする密閉形鉛蓄電池用負極板。」を開示している。
【0005】
特許文献3(国際公開第2018/100639号)は、「正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液と、を備える鉛蓄電池であって、前記負極が、負極活物質の原料と、バリウムを含む粒子(硫酸バリウム等)と、を含有する混合物の化成処理物を含む負極材を有し、前記粒子の化成処理前における平均一次粒径が0.10μm以下であり、前記電解液がナトリウムイオンを含有する、鉛蓄電池。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-043594号公報
【文献】特開平10-040906号公報
【文献】国際公開第2018/100639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉛蓄電池では、様々な特性の向上が求められている。例えば、鉛蓄電池では、高い高率放電性能(特に低温における高率放電性能)と高い充電受入性能とが求められている。これらの両方を高いレベルで実現することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、鉛蓄電池に関する。当該鉛蓄電池は、負極電極材料を含む負極と、正極とを含む鉛蓄電池であって、前記負極電極材料は、有機防縮剤と硫酸バリウムとを含み、前記有機防縮剤は、ビスフェノールユニットを含む縮合物であり、前記硫酸バリウムの表面積は、前記負極電極材料1gあたり0.04m2以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高率放電性能および充電受入性能が共に高い鉛蓄電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【
図2】硫酸バリウム粒子の表面積(Z)と低温高率放電性能との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】硫酸バリウム粒子の表面積(Z)と充電受入性能との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。なお、この明細書において、「数値A~数値B」という場合、当該範囲は、数値Aおよび数値Bを含む。
【0012】
(鉛蓄電池)
本実施形態に係る鉛蓄電池は、負極電極材料を含む負極と、正極とを含む。負極電極材料は、有機防縮剤と硫酸バリウムとを含む。有機防縮剤は、ビスフェノールユニットを含む縮合物である。当該有機防縮剤を、以下では、「有機防縮剤(B)」と称する場合がある。硫酸バリウムの表面積は、負極電極材料1gあたり0.04m2以上である。以下では、負極電極材料1gあたりの硫酸バリウムの表面積を、「表面積(Z)」と称する場合がある。本実施形態に係る鉛蓄電池の典型的な一例では、負極電極材料中の硫酸バリウムは粒子の状態で存在しているとみなすことができるため、硫酸バリウムを硫酸バリウム粒子と読み替えることができる。
【0013】
負極電極材料に硫酸バリウムを添加することによって、鉛蓄電池の特性が向上することが知られている。添加された硫酸バリウムは、放電時に生成する硫酸鉛の核として作用し、結果として微細な硫酸鉛が生成する。そのため、放電時には硫酸鉛が生成しやすくなる。また、生成される硫酸鉛が微細であることから、充電時において硫酸鉛の溶解が容易となる。これらの理由によって鉛蓄電池の特性が向上すると考えられる。しかし、検討の結果、本願発明者らは、負極電極材料に添加される有機防縮剤の種類によって、硫酸バリウムの添加の効果が異なることを新たに見出した。さらに検討した結果、本願発明者らは、有機防縮剤の種類および硫酸バリウムの添加条件と、鉛蓄電池の特性との間には特定の関係があることを見出した。本発明は、この新たな知見に基づく発明である。
【0014】
本実施形態の構成によれば、高率放電性能および充電受入性能が共に高い鉛蓄電池が得られる。この効果が得られる理由は、現在のところ明確ではないが、以下のように考えることが可能である。硫酸バリウムの表面が有機防縮剤で被覆されると、硫酸バリウムの添加による効果が低下する。様々な検討から、有機防縮剤(B)が負極活物質や添加剤を被覆する面積が、同量のリグニン化合物が負極活物質や添加剤を被覆する面積よりも大きい可能性があることが分かった。そのため、有機防縮剤として有機防縮剤(B)を用いる場合には、所定値以上の表面積(Z)を有するように硫酸バリウムを負極電極材料に添加する必要があると考えられる。
【0015】
ビスフェノールは、2つのヒドロキシフェニル基を有する化合物である。ビスフェノールユニットは、縮合物を構成するユニットのうち、ビスフェノールに由来するユニットである。当該縮合物は、ビスフェノールを含む複数の化合物を縮合させることによって得られる。以下では、ビスフェノールを、「ビスフェノール化合物」と称する場合がある。
【0016】
負極電極材料1gあたりの硫酸バリウムの表面積(Z)は、0.04m2以上であり、0.05m2以上であってもよい。当該表面積(Z)の上限は特に限定されず、0.15m2以下、0.09m2以下、または0.07m2以下であってもよい。当該表面積を0.15m2以下とすることによって、硫酸バリウムの含有量が多くなりすぎることによる弊害(例えば鉛粒子(活物質)同士の結着性の低下)を抑制できる。これらの下限と上限とは、矛盾がない限り、任意に組み合わせることができる。例えば、当該表面積(Z)は、0.04m2~0.15m2の範囲、0.04m2~0.09m2の範囲、0.04m2~0.07m2の範囲、0.05m2~0.15m2の範囲、0.05m2~0.09m2の範囲、0.05m2~0.07m2の範囲にあってもよい。
【0017】
負極電極材料1gあたりの硫酸バリウムの表面積(Z)は、例えば、硫酸バリウムの添加量、および、硫酸バリウムの粒径のうちの少なくとも一方を変化させることによって調整できる。例えば、硫酸バリウムの添加量を増加させることによって表面積(Z)を大きくすることができる。また、硫酸バリウムの添加量が同じである場合、硫酸バリウムの粒径が小さいほど、表面積(Z)が大きくなる。
【0018】
硫酸バリウムの平均粒径は0.5μm以上で1.0μm以下であってもよい。硫酸バリウムの平均粒径は、0.5μm以上で0.8μm以下であってもよく、0.8μm以上で1.0μm以下であってもよい。硫酸バリウムの平均粒径を0.5μm以上とすることによって、硫酸バリウムが流出することを抑制できる。硫酸バリウムの平均粒径を1.0μm以下とすることによって、少ない添加量で硫酸バリウムの表面積(Z)を大きくすることができる。
【0019】
負極電極材料中の硫酸バリウムの平均粒径は、例えば、負極板を作製する際に添加する硫酸バリウム粒子の粒径を変化させることによって調整できる。様々な粒径を有する硫酸バリウム粒子が市販されているため、それらを用いることによって、添加する硫酸バリウム粒子の粒径を簡単に制御できる。
【0020】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.9質量%以上であってもよい。当該含有量を0.9質量%以上とすることによって、高率放電性能と充電受入性能とを特に高いレベルで両立できる。当該含有量は、0.5質量%以上、0.9質量%以上、1.2質量%以上、1.5質量%以上、または1.8質量%以上であってもよい。当該含有量の上限は特に限定されないが、例えば、3.2質量%以下、2.8質量%以下、2.4質量%以下、または2.1質量%以下であってもよい。これらの下限と上限とは、矛盾がない限り、任意に組み合わせることができる。例えば、当該含有量は、0.5~3.2質量%の範囲、0.9~2.8質量%の範囲、1.2~2.8質量%の範囲、1.5~2.8質量%の範囲、0.9~2.4質量%の範囲、または0.9~2.1質量%の範囲にあってもよい。
【0021】
硫酸バリウムの表面積(Z)、平均粒径、および負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、後述する方法で測定される。すなわち、それらは、後述する方法で測定される値である。
【0022】
ビスフェノールユニットの例には、ビスフェノールAユニット、ビスフェノールSユニット、およびビスフェノールFユニットなどが含まれる。有機防縮剤(B)は、ビスフェノールAユニット、ビスフェノールSユニット、およびビスフェノールFユニットからなる群より選択される少なくとも1種を含む縮合物であってもよい。例えば、有機防縮剤(B)は、ビスフェノールAユニットを含んでもよいし、ビスフェノールSユニットを含んでもよいし、ビスフェノールFユニットを含んでもよいし、それらから選択される2種または3種のユニットを含んでもよい。例えば、有機防縮剤(B)は、ビスフェノールSユニットとビスフェノールAユニットとを含む縮合物であってもよい。なお、ビスフェノールAユニット、ビスフェノールSユニット、およびビスフェノールFユニットはそれぞれ、ビスフェノールA、ビスフェノールS、およびビスフェノールFに由来するユニットである。
【0023】
有機防縮剤(B)は、ビスフェノールユニットに加えて他のユニットを含んでもよい。他のユニットの例には、フェノールスルホン酸ユニットなどが含まれる。
【0024】
有機防縮剤(B)は、例えば、上記のユニットの由来となる化合物と他の化合物とを縮合させることによって得ることが可能である。他の化合物の例には、アルデヒド化合物(例えばホルムアルデヒド)、亜硫酸ナトリウムなどが含まれる。有機防縮剤(B)は、市販のものを用いてもよいし、公知の合成方法に基づいて合成してもよい。有機防縮剤(B)の具体例については後述する。
【0025】
有機防縮剤(B)は、ビスフェノールとアルデヒド化合物とを反応させることによって合成してもよい。ここで、ビスフェノールとアルデヒド化合物との反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、硫黄元素を含むビスフェノール(例えば、ビスフェノールS)を用いたりすることによって、硫黄元素を含む有機防縮剤(B)を得ることが可能である。有機防縮剤(B)を得るために縮合させるビスフェノールは、一種でもよいし、二種以上でもよい。なお、アルデヒド化合物は、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)でもよいし、アルデヒドの縮合物(または重合物)などでもよい。アルデヒド縮合物(または重合物)としては、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキシメチレンなどが挙げられる。アルデヒド化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0026】
ビスフェノールは、硫黄含有基を有してもよい。すなわち、有機防縮剤(B)は、硫黄元素を含んでもよい。硫黄含有基は、ビスフェノールに含まれる芳香環に直接結合していてもよい。硫黄含有基の例には、スルホン酸基およびスルホニル基などが含まれる。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0027】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤(B)の含有量は、0.01質量%以上であってもよい。この構成によれば、低温高率放電性能を特に高めることができる。当該含有量は、0.05質量%以上、0.1質量%以上、または0.2質量%以上であってもよい。当該含有量は、1.0質量%以下、0.6質量%以下、0.4質量%以下、または0.2質量%以下であってもよい。これらの下限と上限とは矛盾がない限り、任意に組み合わせることができる。例えば、当該含有量は、0.01~1.0質量%の範囲、0.05~0.4質量%の範囲、0.05~0.2質量%の範囲、または0.1~0.2質量%の範囲にあってもよい。
【0028】
負極電極材料は、有機防縮剤(B)以外の他の有機防縮剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。そのような他の有機防縮剤の例は後述する。ただし、有機防縮剤の量が多くなることによる弊害を抑制するために、負極電極材料における他の有機防縮剤の含有量(質量基準)は、負極材料における有機防縮剤(B)の含有量よりも少ないことが好ましい。例えば、負極電極材料における他の有機防縮剤の含有量(質量基準)は、負極材料における有機防縮剤(B)の含有量の0~0.9倍の範囲(例えば、0~0.5倍の範囲、0~0.3倍の範囲、または0~0.1倍の範囲)にあってもよい。
【0029】
負極電極材料の好ましい一例は、以下の条件(1)を満たし、さらに以下の条件(2)および/または(3)を満たす。当該一例は、さらに、以下の条件(4)および/または(5)を満たしてもよい。
(1)負極電極材料1gあたりの硫酸バリウムの表面積(Z)は、0.04m2以上または0.05m2以上である。当該表面積(Z)は、上記の範囲にあってもよい。
(2)硫酸バリウムの平均粒径は0.5μm以上で1.0μm以下である。当該平均粒径は、上記の範囲にあってもよい。
(3)負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は0.9質量%以上であり、例えば、0.9~2.8質量%の範囲にある。当該含有量は、上記の範囲にあってもよい。
(4)ビスフェノールユニットは、ビスフェノールAユニット、ビスフェノールSユニット、およびビスフェノールFユニットからなる群より選択される少なくとも1種である。ビスフェノールユニットは、ビスフェノールAユニットおよび/またはビスフェノールSユニットであってもよい。有機防縮剤(B)は、上述した縮合物であってもよい。
(5)負極電極材料中に含まれる有機防縮剤(B)の含有量は、0.01~1.0質量%の範囲にある。当該含有量は上記範囲にあってもよい。負極電極材料における有機防縮剤(B)以外の有機防縮剤の含有量(質量基準)は、負極材料における有機防縮剤(B)の含有量よりも少なくてもよい。
【0030】
負極電極材料は、有機防縮剤(B)以外の所定のポリマー化合物をさらに含んでもよい。当該ポリマー化合物を、以下では「ポリマー化合物(P)」と称する場合がある。負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で100ppm~1000ppmの範囲にあってもよい。当該含有量は、100ppm未満であってもよいし、1000ppmより多くてもよい。当該含有量は、50ppm以上、100ppm以上、または200ppm以上であってもよい。当該含有量は、2000ppm以下、1000ppm以下、600ppm以下、または400ppm以下であってもよい。これらの下限と上限とは、任意に組み合わせることができる。例えば、当該含有量は、50ppm~600ppmの範囲、100ppm~600ppmの範囲、200ppm~600ppmの範囲、200ppm~400ppmの範囲にあってもよい。
【0031】
ポリマー化合物(P)の第1の例は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物である。この明細書において、1H-NMRスペクトルは、特に記載がない限り、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されたスペクトルである。ポリマー化合物(P)の第2の例は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物である。ポリマー化合物(P)の第1の例に含まれるポリマー化合物と、ポリマー化合物(P)の第2の例に含まれるポリマー化合物とは、少なくとも一部で重複している。ポリマー化合物(P)には、市販のものを用いてもよい。あるいは、公知の方法でポリマー化合物(P)を合成してもよい。
【0032】
ポリマー化合物(P)を負極電極材料に添加することによって、過充電電気量を低減し、それによって電解液の減液量を低減することが可能である。ポリマー化合物(P)によって過充電電気量を低減できるのは、次のような理由によるものと考えられる。ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造などを含むため、線状構造を取り易い。そのため、負極電極材料に添加されたポリマー化合物(P)は、負極電極材料中の鉛の表面を薄く広く覆う。ポリマー化合物(P)で鉛の表面が覆われることによって、水素過電圧が上昇し、その結果、過充電時に水素が発生する副反応が起こり難くなる。一方で、ポリマー化合物(P)の添加量が多いと、充電受入性の低下が生じる場合がある。本発明では、特定のポリマー化合物(P)を特定の量だけ負極電極材料に添加している。これによって、充電受入性能が高く、電解液の減液量が少ない鉛蓄電池が得られる。
【0033】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)を用いる場合、ポリマー化合物(P)が鉛に対してより吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、過充電電気量をより効果的に低減することができるとともに、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができる。
【0034】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池(VRLA型鉛蓄電池)および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもよい。
【0035】
本明細書中、負極電極材料中の物質(有機防縮剤、ポリマー化合物(P)、硫酸バリウムなど)の分析は、特別な記載がない限り、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板の負極電極材料を用いて求められる。
【0036】
(用語の説明)
(電極材料)
負極電極材料および正極電極材料の各電極材料は、通常、集電体に保持されている。電極材料とは、極板から集電体を除いた部分である。極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれるものとする。極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、電極材料は、極板から集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0037】
(ポリマー化合物(P))
ポリマー化合物(P)は、下記(i)および(ii)の少なくとも一方の条件を充足する。
条件(i)
ポリマー化合物(P)は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
条件(ii)
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む。
【0038】
条件(i)において、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来するものである。つまり、条件(ii)を充足するポリマー化合物(P)は、条件(i)を充足するポリマー化合物(P)でもある。条件(i)を充足するポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニット以外のモノマーユニットの繰り返し構造を含んでもよく、ある程度の分子量を有すればよい。上記(i)または(ii)を充足するポリマー化合物(P)の数平均分子量(Mn)は、例えば、300以上であってもよい。
【0039】
(オキシC2-4アルキレンユニット)
オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R1-で表されるユニットである。ここで、R1はC2-4アルキレン基(炭素数が2~4の範囲にあるアルキレン基)を示す。R1は、炭素数が異なるアルキレン基を含んでもよい。
【0040】
(有機防縮剤)
有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。
【0041】
(数平均分子量)
数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
【0042】
(重量平均分子量)
重量平均分子量(Mw)は、GPCにより求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
【0043】
(有機防縮剤中の硫黄元素含有量)
有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0044】
(満充電状態)
液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.005倍の値(A)になった時点で充電を終了した状態である。
【0045】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0046】
(鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素の上下方向)
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えている。横置き型の制御弁式鉛蓄電池など、耳部が、極板の側部に側方に突出するように設けられることもあるが、多くの鉛蓄電池では、耳部は、通常、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
【0047】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0048】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、負極集電体と、負極集電体に支持された負極電極材料とを含む。
【0049】
(負極集電体)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0050】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0051】
(負極電極材料)
負極電極材料は、有機防縮剤(B)と硫酸バリウムとを含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(具体的には、鉛もしくは硫酸鉛)を含む。負極電極材料は、炭素質材料および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。添加剤としては、有機防縮剤、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0052】
(ポリマー化合物(P))
ポリマー化合物(P)の第1の例は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。ポリマー化合物(P)に含まれるオキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物(P)は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0053】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよい。ポリマー化合物(P)には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の上記繰り返し構造が含まれていてもよい。
【0054】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物(P)には、界面活性剤(より具体的には、ノニオン界面活性剤)に分類されるものも包含される。
【0055】
ポリマー化合物(P)としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。ポリC2-4アルキレングリコールの例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが含まれる。
【0056】
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体などが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0057】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、全構成単位に占めるオキシC2-4アルキレンユニットの割合は、50mol%~100mol%の範囲にあってもよく、60mol%~100mol%の範囲(例えば75mol%~100mol%の範囲)にあってもよく、60mol%~95mol%の範囲(例えば75mol%~95mol%の範囲)にあってもよい。ここで、オキシC2-4アルキレンユニットは、オキシエチレンユニットおよび/またはオキシプロピレンユニットであってもよい。
【0058】
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物(P)が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナンなど)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖または糖アルコールなど)などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖または糖アルコールとしては、例えば、ショ糖、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。糖または糖アルコールは、鎖状構造および環状構造のいずれであってもよい。ポリオールのポリアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物(P)のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物(P)が線状構造を取りやすい観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
【0059】
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR2基を有する(式中、R2は有機基である。)。ポリマー化合物(P)の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物(P)の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR2基であってもよい。
【0060】
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R3基を有する(式中、R3は有機基である。)。ポリマー化合物(P)の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物(P)の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R3基であってもよい。
【0061】
有機基R2およびR3のそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有するものであってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有するものであってもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~30であってもよく、1~20であってもよく、1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
【0062】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど)など)が挙げられる。
【0063】
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
【0064】
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
【0065】
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)などが挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
【0066】
鉛表面にポリマー化合物(P)が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素炭素二重結合を2つ有するジエニル基、炭素炭素二重結合を3つ有するトリエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0067】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上、トリエニル基では4以上である。鉛表面にポリマー化合物(P)が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基やアルケニル基が好ましい。
【0068】
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、i-デシル、ウンデシル、ラウリル(ドデシル)、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、イコシル、ヘンイコシル、ベヘニルなどが挙げられる。
【0069】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、シス-9-ヘプタデセン-1-イル、パルミトレイル、オレイルなどが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0070】
ポリマー化合物(P)のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を用いると、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物(P)を用いた場合にも過充電電気量を低減することができる。また、このようなポリマー化合物(P)のうち、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有するもの、またはオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するものなどが好ましい。
【0071】
ポリマー化合物(P)は、1つ以上の疎水性基を有するものであってもよい。疎水性基としては、上記の炭化水素基のうち、例えば、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基、長鎖脂肪族炭化水素基が挙げられる。長鎖脂肪族炭化水素基としては、上記の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基など)のうち、炭素数が8以上のものが挙げられ、12以上が好ましく、16以上がより好ましい。中でも、長鎖脂肪族炭化水素基を有するポリマー化合物(P)は、鉛に対して過度な吸着を起こし難く、充電受入性の低下抑制効果がさらに高まるため、好ましい。ポリマー化合物(P)は、疎水性基の少なくとも1つが、長鎖脂肪族炭化水素基であるものであってもよい。長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、30以下、26以下、または22以下であってもよい。
【0072】
長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、8以上(または12以上)30以下、8以上(または12以上)26以下、8以上(または12以上)22以下、10以上30以下(または26以下)、あるいは10以上22以下であってもよい。
【0073】
ポリマー化合物(P)のうち、親水性基と疎水性基とを有するものはノニオン界面活性剤に相当する。オキシエチレンユニットの繰り返し構造は、高い親水性を示し、ノニオン界面活性剤における親水性基となり得る。そのため、上記の疎水性基を有するポリマー化合物(P)は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。このようなポリマー化合物(P)は、疎水性と、オキシエチレンユニットの繰り返し構造による高い親水性とのバランスにより、鉛に対して選択的に吸着しながらも、鉛の表面を過度に覆うことを抑制できるため、過充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができる。このようなポリマー化合物(P)は、比較的低分子量(例えば、Mnが1000以下)であっても、鉛に対する高い吸着性を確保することができる。
【0074】
上記のポリマー化合物(P)のうち、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物などは、ノニオン界面活性剤に相当する。
【0075】
疎水性基を有し、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、ポリエチレングリコールのエーテル化物(アルキルエーテルなど)、ポリエチレングリコールのエステル化物(カルボン酸エステルなど)、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエーテル化物(アルキルエーテルなど)、上記ポリオール(トリオール以上のポリオールなど)のポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物(カルボン酸エステルなど)などが挙げられる。このようなポリマー化合物(P)の具体例としては、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されない。中でも、ポリエチレングリコールのエステル化物、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物などを用いると、より高い充電受入性を確保できるとともに、過充電電気量を顕著に低減できるため、好ましい。
【0076】
過充電電気量を低減する効果がさらに高まるとともに、より高い充電受入性を確保し易い観点からは、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む場合も好ましい。この場合、オキシエチレンユニットの繰り返し構造の場合と比べると、充電受入性が低くなる傾向があるが、この場合であっても、過充電電気量を低く抑えながら、高い充電受入性を確保することができる。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物(P)は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH2-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物(P)は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH2-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH2-に由来する。
【0077】
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)などが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ポリオキシプロピレン-ポリオキシアルキレン共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体)と称することがある。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体)であってもよい。エーテル化物としては、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のアルキルエーテル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のアルキルエーテルなど)などが挙げられる。エステル化物としては、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のカルボン酸エステル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のカルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
【0078】
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体など)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(上記R2が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(ブチルエーテルなど)など)、カルボン酸ポリプロピレングリコール(上記R3が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるカルボン酸ポリプロピレングリコール(酢酸ポリプロピレングリコールなど)など)、トリオール以上のポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物(グリセリンのポリプロピレンオキサイド付加物など)が挙げられるが、ポリマー化合物(P)はこれらに限定されない。
【0079】
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、100mol%以下である。上記共重合体においては、オキシプロピレンユニットの割合は、90mol%以下であってもよく、75mol%以下または60mol%以下であってもよい。
【0080】
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、10mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、20mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、5mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、10mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、あるいは20mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)であってもよい。
【0081】
鉛に対するポリマー化合物(P)の吸着性が高まるとともに、線状構造を取り易くなる観点から、ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物(P)は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物(P)の1H-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値V1が、所定のピークの積分値の合計VSUMに占める割合が大きい。ここで、ピークの積分値の合計VSUMは、積分値V1と、-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計である。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。過充電電気量を低減する効果がさらに高まるとともに、より高い充電受入性を確保し易い観点からは、上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物(P)が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH2-基や-CH<基を有する場合、1H-NMRスペクトルにおいて、-CH2-基や-CH<基の水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
【0082】
負極電極材料は、ポリマー化合物(P)を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0083】
ポリマー化合物(P)は、例えば、Mnが500万以下の化合物を含んでもよく、300万以下または200万以下の化合物を含んでもよく、50万以下または10万以下の化合物を含んでもよく、50000以下または20000以下の化合物を含んでもよい。より高い充電受入性を確保する観点からは、ポリマー化合物(P)は、Mnが10000以下の化合物を含むことが好ましく、5000以下または4000以下の化合物を含んでもよく、3000以下または2500以下の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、300以上または400以上であってもよく、500以上であってもよい。過充電電気量を低減する効果がさらに高まる観点からは、このような化合物のMnは、1000以上が好ましく、1500以上または1800以上がより好ましい。ポリマー化合物(P)としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物(P)は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有してもよい。
【0084】
上記の化合物のMnは、300以上(または400以上)500万以下、300以上(または400以上)300万以下、300以上(または400以上)200万以下、300以上(または400以上)50万以下、300以上(または400以上)10万以下、300以上(または400以上)50000以下、300以上(または400以上)20000以下、300以上(または400以上)10000以下、300以上(または400以上)5000以下、300以上(または400以上)4000以下、300以上(または400以上)3000以下、300以上(または400以上)2500以下、500以上(または1000以上)500万以下、500以上(または1000以上)300万以下、500以上(または1000以上)200万以下、500以上(または1000以上)50万以下、500以上(または1000以上)10万以下、500以上(または1000以上)50000以下、500以上(または1000以上)20000以下、500以上(または1000以上)10000以下、500以上(または1000以上)5000以下、500以上(または1000以上)4000以下、500以上(または1000以上)3000以下、500以上(または1000以上)2500以下、1500以上(または1800以上)500万以下、1500以上(または1800以上)300万以下、1500以上(または1800以上)200万以下、1500以上(または1800以上)50万以下、1500以上(または1800以上)10万以下、1500以上(または1800以上)50000以下、1500以上(または1800以上)20000以下、1500以上(または1800以上)10000以下、1500以上(または1800以上)5000以下、1500以上(または1800以上)4000以下、1500以上(または1800以上)3000以下、あるいは1500以上(または1800以上)2500以下であってもよい。
【0085】
負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、例えば、8ppm以上であり、10ppm以上であってもよい。過充電電気量の低減効果をさらに高める観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましい。負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、例えば、1000ppm以下であり、1000ppm未満であってもよく、700ppm以下であってもよく、600ppm以下または500ppm以下であってもよい。より高い充電受入性を確保し易い観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、400ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、200ppm以下または160ppm以下であってもよく、150ppm以下または120ppm以下であってもよく、100ppm以下であってもよい。
【0086】
負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量(質量基準)は、8ppm以上(または10ppm以上)1000ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)1000ppm未満、8ppm以上(または10ppm以上)700ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)600ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)500ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)400ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)300ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)200ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)160ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)150ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)120ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)100ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)1000ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)1000ppm未満、20ppm以上(または30ppm以上)700ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)600ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)500ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)400ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)300ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)200ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)160ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)150ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)120ppm以下、あるいは20ppm以上(または30ppm以上)100ppm以下であってもよい。
【0087】
(有機防縮剤)
有機防縮剤は、通常、リグニン化合物と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン化合物以外の有機防縮剤であるとも言える。負極電極材料に含まれる有機防縮剤としては、リグニン化合物および合成有機防縮剤などが挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を、一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。有機防縮剤(B)の例には、以下で説明する合成有機防縮剤の一部が含まれる。
【0088】
リグニン化合物としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。
【0089】
合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
が抑制され、高い充電受入性を確保することができる。
【0090】
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いる場合も好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)およびその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。芳香族化合物としてビスフェノール化合物を用いた縮合物は、有機防縮剤(B)に含まれる。
【0091】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基またはアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基またはアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(具体的には、アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
【0092】
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物[ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)など]が好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0093】
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、より高い充電受入性を確保する上で有利である。過充電電気量を低減する効果が高まる観点からは、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いることも好ましい。
【0094】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されないが、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩などが挙げられる。
【0095】
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を少なくとも用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
【0096】
負極電極材料は、上記の有機防縮剤のうち、例えば、硫黄元素含有量が2000μmol/g以上の有機防縮剤(第1有機防縮剤)を含んでもよい。第1有機防縮剤としては、上記の合成有機防縮剤(上記の縮合物など)などが挙げられる。
【0097】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、2000μmol/g以上であればよく、3000μmol/g以上が好ましい。有機防縮剤の硫黄元素含有量の上限は特に制限されず、過充電電気量を低減する効果がさらに高まる観点からは、9000μmol/g以下が好ましく、8000μmol/g以下がより好ましい。
【0098】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)9000μmol/g以下、あるいは2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)8000μmol/g以下であってもよい。
【0099】
第1有機防縮剤は、硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含む縮合物を含み、縮合物は、芳香族化合物のユニットとして、少なくともビスフェノール化合物のユニットを含んでもよい。すなわち、第1有機防縮剤は、有機防縮剤(B)であってもよい。その場合、この明細書において、第1の有機防縮剤を、有機防縮剤(B)と読み替えることができる。
【0100】
第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、7000以上であることが好ましい。第1有機防縮剤のMwは、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。
【0101】
負極電極材料は、例えば、硫黄元素含有量が2000μmol/g未満の有機防縮剤(第2有機防縮剤)を含むことができる。第2有機防縮剤としては、上記の有機防縮剤のうち、リグニン化合物、合成有機防縮剤(例えばビスフェノール縮合物)などが挙げられる。第2有機防縮剤の硫黄元素含有量は、1000μmol/g以下が好ましく、800μmol/g以下であってもよい。第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量の下限は特に制限されないが、例えば、400μmol/g以上である。
【0102】
第2有機防縮剤のMwは、例えば、7000未満である。第2有機防縮剤のMwは、例えば、3000以上である。
【0103】
負極電極材料は、第1有機防縮剤に加え、第2有機防縮剤を含んでもよい。第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを併用する場合、これらの質量比は任意に選択できる。
【0104】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.005質量%以上であり、0.01質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量がこのような範囲である場合、高い低温高率放電容量を確保することができる。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。充電受入性の低下を抑制する効果がさらに高まる観点からは、有機防縮剤の含有量は、0.3質量%以下が好ましく、0.25質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下または0.15質量%以下がさらに好ましく、0.12質量%以下であってもよい。
【0105】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)1.0質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.5質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.3質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.25質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.2質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.15質量%以下、あるいは0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.12質量%以下であってもよい。
【0106】
(炭素質材料)
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0107】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば、5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。
【0108】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0109】
(負極電極材料または構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。測定または分析に先立ち、満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。負極板に貼付部材が含まれている場合、必要に応じて、貼付部材を除去する。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を入手する。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。試料Aの質量を測定することによって、負極板中の負極電極材料の質量が求められる。
【0110】
(1)硫酸バリウムの表面積および含有量の測定
負極電極材料中の硫酸バリウムの表面積の測定には、粉砕した試料Aを用いる。測定は、以下の手順で行われる。まず、粉砕した試料A100gに対し、硝酸500mL(濃度:20質量%)を加え、約20分加熱することによって、鉛成分を溶解させる。このようにして得られた液体を濾過することによって、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、メンブレンフィルタを用いて吸引濾過を施す。この濾過によって濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料(以下では、「試料C」と称する場合がある)をメンブレンフィルタから回収する。
【0111】
次に、回収された試料Cの質量(M(C+Ba))を測定する。その後、試料Cの表面積(S(C+Ba))を、窒素吸着(BET)法によって測定する。続いて、表面積を測定した試料Cを、100mLの水溶液に分散させて分散液を得る。当該水溶液は、NaOH濃度が1mol/LでEDTAの濃度が0.3mol/Lである。得られた分散液を、40℃で20時間撹拌することによって硫酸バリウムを溶解させる。このようにして得られた液体を濾過し、濾別された固形分を乾燥することによって、炭素質材料のみを得ることができる。得られた炭素質材料の質量(M(C))を測定する。また、得られた炭素質材料の表面積(S(C))を、窒素吸着(BET)法によって測定する。表面積(S(C+Ba))から表面積S(C)を差し引くことによって、硫酸バリウムの表面積(S(Ba))が求められる。表面積(S(Ba))を試料Aの質量(ここでは100g)で除することによって、負極電極材料1gあたりの硫酸バリウムの表面積(Z)が求められる。質量(M(C+Ba))から質量(M(C))を差し引くことによって、硫酸バリウムの質量(M(Ba)が求められる。質量(M(Ba)と試料A(負極電極材料)の質量(ここでは100g)とから、負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量(質量%)が求められる。
【0112】
(2)硫酸バリウムの平均粒径の測定
負極電極材料中の硫酸バリウムの平均粒径の測定には、粉砕せずに試料Aを用いる。まず、試料A10gに対し、硝酸50mL(濃度:20質量%)を加え、約20分加熱することによって鉛成分を溶解させる。このようにして得られた液体を濾過することによって、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて、炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を分散液から除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引濾過を施し、固形分を濾別する。濾別された試料(固形分)とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。この混合試料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、EDS分析を行う。この観察および分析によって、硫酸バリウム(硫酸バリウム粒子)を識別し、その粒径を計測する。ここで、粒径とは、円相当径である。粒径の測定は、任意に選択された1000個の硫酸バリウム粒子について行い、測定されたそれらの粒径の平均値を硫酸バリウムの平均粒径とする。すなわち、硫酸バリウムの平均粒径とは、ここに記載された方法で測定される平均粒径を意味する。
【0113】
(3)ポリマー化合物(P)の分析
(3-1)ポリマー化合物(P)の定性分析
粉砕した試料Aを用いる。100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物(P)を抽出する。その後、濾過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物(P)が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物(P)について、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび熱分解GC-MSから選択される少なくとも1つから情報を得ることで、ポリマー化合物(P)を特定する。
【0114】
抽出により得られるポリマー化合物(P)が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件で1H-NMRスペクトルを測定する。この1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
【0115】
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
【0116】
1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V1)を求める。また、ポリマー化合物(P)の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH2-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V2)を求める。そして、V1およびV2から、V1がV1およびV2の合計に占める割合(=V1/(V1+V2)×100(%))を求める。
【0117】
なお、定性分析で、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、1H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
【0118】
(3-2)ポリマー化合物(P)の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したmr(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、1H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(Sa)とTCEに由来するピークの積分値(Sr)を求め、以下の式から負極電極材料中のポリマー化合物(P)の質量基準の含有率Cn(ppm)を求める。
【0119】
Cn=Sa/Sr×Nr/Na×Ma/Mr×mr/m×1000000
(式中、Maはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Naは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、Mrはそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるため、Nr=2、Mr=168である。また、m=100である。
【0120】
例えば、ポリマー化合物(P)がポリプロピレングリコールの場合、Maは58であり、Naは3である。ポリマー化合物(P)がポリエチレングリコールの場合、Maは44であり、Naは4である。NaおよびMaは、各モノマー単位のNa値およびMa値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値である。
【0121】
なお、定量分析では、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
【0122】
(3-3)ポリマー化合物(P)のMn測定
上記のクロロホルム可溶分を用いて、ポリマー化合物(P)のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物(P)のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物(P)のMnを算出する。ただし、エステル化物またはエーテル化物などは、クロロホルム可溶分中で分解した状態であり得る。
【0123】
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃±1℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=2,000,000、200,000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
【0124】
(4)有機防縮剤の分析
(4-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
粉砕した試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出物から、必要に応じて、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、試料Bと称する)が得られる。
【0125】
このようにして得た有機防縮剤の試料Bを用いて測定した赤外分光スペクトル、試料Bを蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、試料Bを重水等の所定の溶媒で溶解することにより得られる溶液のNMRスペクトル、または物質を構成している個々の化合物の情報をえることができる熱分解GC-MSなどから得た情報を組み合わせて、有機防縮剤の種類を特定する。
【0126】
なお、上記抽出物からの第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との分離は、次のようにして行なう。まず、上記抽出物を、赤外分光、NMR、および/またはGC-MSで測定することにより、複数種の有機防縮剤が含まれているかどうかを判断する。次いで、上記抽出物のGPC分析により分子量分布を測定し、複数種の有機防縮剤が分子量により分離可能であれば、分子量の違いに基づいて、カラムクロマトグラフィーにより有機防縮剤を分離する。分子量の違いによる分離が難しい場合には、有機防縮剤が有する官能基の種類および/または官能基の量により異なる溶解度の違いを利用して、沈殿分離法により一方の有機防縮剤を分離する。具体的には、上記抽出物をNaOH水溶液に溶解させた混合物に、硫酸水溶液を滴下して、混合物のpHを調節することにより、一方の有機防縮剤を凝集させ、分離する。分離物を再度NaOH水溶液に溶解させたものから上記のように不溶成分を濾過により取り除く。また、一方の有機防縮剤を分離した後の残りの溶液を、濃縮する。得られた濃縮物は、他方の有機防縮剤を含んでおり、この濃縮物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。
【0127】
(4-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(4-1)と同様に、有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。各有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の各有機防縮剤の含有量を求める。
【0128】
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定するものとする。
【0129】
(4-3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(4-1)と同様に、有機防縮剤の試料Bを得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で試料Bを燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液を得る。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(c1)を求める。次に、c1を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
【0130】
(4-4)有機防縮剤のMw測定
上記(4-1)と同様に、有機防縮剤の試料Bを得た後、有機防縮剤のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMwと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線および有機防縮剤のGPC測定結果に基づき、有機防縮剤のMwを算出する。
【0131】
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:濃度1mol/LのNaCl水溶液:アセトニトリル(体積比=7:3)の混合溶液
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=275,000、35,000、12,500、7,500、5,200、1,680)
【0132】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、例えば、鉛粉と、有機防縮剤(B)と、必要に応じて、ポリマー化合物(P)、炭素質材料、他の添加剤からなる群より選択される少なくとも一種とに、水および硫酸(または硫酸水溶液)を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0133】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0134】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。クラッド式の正極板の構成は前述の通りである。
【0135】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0136】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみや、耳部分のみ、枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0137】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0138】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0139】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0140】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および微多孔膜から選択される少なくとも一種などが用いられる。
【0141】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0142】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。造孔剤としては、ポリマー粉末およびオイルからなる群より選択される少なくとも一種などが挙げられる。
【0143】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0144】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0145】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液には、上記のポリマー化合物(P)が含まれていてもよい。
【0146】
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))を含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0147】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
【0148】
電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0149】
(その他)
鉛蓄電池は、電槽のセル室に極板群と電解液とを収容する工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の各セルは、各セル室に収容された極板群および電解液を備える。極板群は、セル室への収容に先立って、正極板、負極板、およびセパレータを、正極板と負極板との間にセパレータが介在するように積層することにより組み立てられる。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、極板群の組み立てに先立って、準備される。鉛蓄電池の製造方法は、極板群および電解液をセル室に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。
【0150】
極板群における各極板は、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。
【0151】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例を、図面を参照しながら以下に説明する。以下で説明する実施形態には、上述した説明を適用できる。また、以下で説明する実施形態を、上述した説明に基づいて変更してもよい。また、以下で説明する事項を、上述した実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する事項のうち、本発明に必須ではない事項は省略してもよい。
【0152】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0153】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0154】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式やバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0155】
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有するものであってもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えるものであってもよい。
【0156】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0157】
(1)負極電極材料を含む負極と、正極とを含む鉛蓄電池であって、
前記負極電極材料は、有機防縮剤と硫酸バリウムとを含み、
前記有機防縮剤は、ビスフェノールユニットを含む縮合物であり、
前記硫酸バリウムの表面積は、前記負極電極材料1gあたり0.04m2以上である。
【0158】
(2)上記(1)において、前記硫酸バリウムの平均粒径は0.5μm以上で1.0μm以下であってもよい。
【0159】
(3)上記(1)または(2)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は0.9質量%以上であってもよい。
【0160】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤は、ビスフェノールSユニットとビスフェノールAユニットとを含む縮合物であってもよい。
【0161】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、前記有機防縮剤以外のポリマー化合物をさらに含んでもよく、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で100ppm~1000ppmの範囲にあってもよく、前記ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有してもよい。
【0162】
(6)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、前記有機防縮剤以外のポリマー化合物をさらに含んでもよく、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で100ppm~1000ppmの範囲にあってもよく、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを繰り返し構造として含んでもよい。
【0163】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0164】
《鉛蓄電池A1~A10、C1~C6》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウム粒子と、カーボンブラックと、有機防縮剤と、必要に応じてポリマー化合物(P)とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。次に、負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0165】
電池C1~C5の負極板の作製では、有機防縮剤として、リグニンスルホン酸ナトリウム(リグニン化合物)を用いる。電池C6およびA1~A10の負極板の作製では、有機防縮剤として、有機防縮剤(B)を用いる。具体的には、スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物を用いる。ポリマー化合物(P)には、ポリプロピレングリコール(数平均分子量が約2000)を用いる。電池C1~C5の負極板の作製では、負極電極材料中のリグニンスルホン酸ナトリウムの含有量が0.33質量%となるように、リグニンスルホン酸ナトリウムを負極ペーストに添加する。電池C6およびA1~A10の負極板の作製では、負極電極材料中の有機防縮剤(B)の含有量が0.13質量%となるように、有機防縮剤(B)を負極ペーストに添加する。硫酸バリウム粒子およびポリマー化合物(P)は、負極電極材料中の含有量が表1の含有量となるように負極ペーストに添加する。また、各負極板の作製では、負極電極材料中のカーボンブラックの含有量が0.9質量%となるように、負極ペーストにカーボンブラックを添加する。硫酸バリウムの平均粒径は、平均粒径が異なる市販の硫酸バリウム粒子を用いることによって変化させる。負極ペーストに添加する硫酸バリウム粒子の量および/または当該粒子の比表面積を変化させることによって、負極電極材料1gあたりの硫酸バリウムの表面積(Z)を変化させることができる。
【0166】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0167】
(c)試験電池の作製
試験電池は定格電圧2V/セル、定格5時間率容量は32Ahである。試験電池の極板群は、正極板7枚と負極板7枚で構成する。負極板はポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、正極板と交互に積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液(硫酸水溶液)とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.28である。
【0168】
(2)評価
(a)充電受入性能の評価
満充電後の試験電池を用いて、所定の積算電気量を測定する。具体的には、試験電池を、6.4Aで30分放電し、16時間放置する。その後、試験電池を2.42V/セルで定電圧充電(電流の上限:200A)する。このときの充電開始から10秒間の積算電気量を測定する。いずれの作業も、25℃±2℃の水槽中で行う。鉛蓄電池C1の積算電気量を100%としたときの各電池の積算電気量の比率によって、各鉛蓄電池の充電受入性能を評価する。
【0169】
(b)軽負荷試験後の低温における高率放電性能の評価
上記鉛蓄電池を用いて、以下の条件で高温軽負荷試験を行う。具体的には、JIS D5301に指定される通常の4分-10分試験よりも過充電条件にするために、以下の条件で、1分間の放電1分と10分間の充電とで構成される充放電サイクル(1分-10分試験)を75℃で実施する。この充放電サイクルを1220サイクル繰り返す高温軽負荷試験を、上記鉛蓄電池を用いて行う。
放電:25A、1分
充電:2.47V/セル、25A、10分
水槽温度:75℃
【0170】
上記高温軽負荷試験後の満充電後の試験電池を、-15℃で端子電圧が1.0V/セルに到達するまで放電電流150Aで放電する。そして、このときの放電時間(s)を用いて、軽負荷試験後の低温における高率放電性能を評価する。放電時間が長いほど、低温高率放電性能に優れる。鉛蓄電池C1の放電時間を100としたときの比率(%)で各電池の低温高率放電性能を評価する。
【0171】
製造条件および評価結果の一部を表1に示す。表1において、硫酸バリウムの表面積(Z)は、負極電極材料1gあたりの表面積である。硫酸バリウムの含有量およびポリマー化合物(P)の含有量は、負極電極材料における質量基準の含有量である。
【0172】
【0173】
表1の低温高率放電性能および充電受入性能は、数値が高いほど好ましい。表1の低温高率放電性能は、好ましくは100%以上、より好ましくは105%以上、さらに好ましくは110%以上、特に好ましくは115%以上である。であることがより好ましく、115%以上であることがさらに好ましい。表1の充電受入性能は、好ましくは102%以上、より好ましくは105%以上、さらに好ましくは110%以上、特に好ましくは115%以上(例えば120%以上)である。低温高率放電性能が100%以上で且つ充電受入性能が102%よりも高い電池が好ましい。
【0174】
表1に示すように、有機防縮剤として有機防縮剤(B)を用い、硫酸バリウムの平均粒径が0.04μm以上(例えば0.05μm以上)である電池A1~A10は、電池C1~C6とは異なり、高い低温高率放電性能と高い充電受入性能とを両立できる。
【0175】
表1に示すように、負極電極材料にポリマー化合物(P)を添加した電池A4~A6はいずれも、高い低温高率放電性能と高い充電受入性能とを示した。
【0176】
電池C1~C4および電池C6、A1~A3の低温高率放電性能および充電受入性能の評価結果をそれぞれ、
図2および
図3に示す。電池C1~C4の有機縮合物はリグニン化合物である。電池C6、A1~A3の有機縮合物は、有機縮合物(B)である。
【0177】
図2に示すように、硫酸バリウムの表面積(Z)が増えると、高率放電性能が向上する。この向上は、有機防縮剤としてリグニン化合物を用いる電池ではゆるやかである。一方、有機防縮剤として有機防縮剤(B)を用いる電池では、硫酸バリウムの表面積(Z)が0.02m
2/gより大きい領域(例えば0.04m
2/g以上や0.05m
2/g以上)で高率放電性能が急激に上昇する。
【0178】
図3に示すように、有機防縮剤としてリグニン化合物を用いる電池では、硫酸バリウムの表面積(Z)の増加に伴って、充電受入性能がわずかに低下する。一方、有機防縮剤として有機防縮剤(B)を用いる電池では、硫酸バリウムの表面積(Z)の増加に伴って、充電受入性能が向上する。有機防縮剤(B)を用いる電池では、硫酸バリウムの表面積(Z)が0.02m
2/gより大きい領域(例えば0.04m
2/g以上や0.05m
2/g以上)で充電受入性能が大きく上昇する。
【0179】
上記の結果が得られる理由は、現在のところ明確ではないが、以下のように考えることが可能である。硫酸バリウムの表面が有機防縮剤で被覆されると、硫酸バリウムの添加による効果が低下する。様々な検討から、有機防縮剤(B)が負極活物質や添加剤を被覆する面積が、同量のリグニン化合物が負極活物質や添加剤を被覆する面積よりも大きい可能性があることが分かった。そのため、有機防縮剤として有機防縮剤(B)を用いる場合には、所定値以上の表面積(Z)を有するように硫酸バリウムを負極電極材料に添加する必要があると考えられる。
【0180】
硫酸バリウムの表面積(Z)を所定値以上とすることによる効果を高めるには、硫酸バリウムの平均粒径も重要である。硫酸バリウムの平均粒径を小さくすることによって、必要な添加量を低減することができる。逆に、硫酸バリウムの平均粒径を大きくすることによって、硫酸バリウムが負極電極材料の細孔を閉塞させるという問題や、負極活物質同士が結着しにくくなるという問題を回避しやすくなる。そのため、硫酸バリウムの平均粒径を所定の範囲とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明は、鉛蓄電池に利用できる。本発明の鉛蓄電池は、例えば、PSOC条件下で充放電されるIS用鉛蓄電池としてアイドリングストップ車に用いるのに適している。また、鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、産業用蓄電装置(例えば、電動車両(フォークリフトなど)などの電源)などとして好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されない。
【符号の説明】
【0182】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓