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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】2-シアノアクリレート系接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/04 20060101AFI20250311BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
C09J4/04
C09J11/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020215592
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101160
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 晃
(72)【発明者】
【氏名】大村 健人
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-182580(JP,A)
【文献】特開昭52-111936(JP,A)
【文献】特開2000-290599(JP,A)
【文献】特表2008-518073(JP,A)
【文献】特開平07-082530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 4/04
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤組成物であって、
アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の2-シアノアクリレート化合物と、下記式(1)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物を、前記2-シアノアクリレート化合物100質量部に対して600ppm以上6000ppm以下含有する、2-シアノアクリレート系接着剤組成物。
【化1】
(式(1)中、nは1~2の整数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~13の炭化水素基を表し(但し、R の全てが水素原子である場合を除く)、結合aは単結合であっても二重結合であってもよく、2つのRは互いに結合して環状炭化水素基を形成してもよい。
【請求項2】
前記式(1)におけるRが、それぞれ独立に、水素原子、直鎖若しくは側鎖を有する炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、又はアリール基であるか(但し、R の全てが水素原子である場合を除く)、2つのRが互いに結合して環状炭化水素基を形成している、請求項に記載の2-シアノアクリレート系接着剤組成物。
【請求項3】
前記アルキル-2-シアノアクリレートが、2-オクチル-2-シアノアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノアクリレート、n-オクチル-2-シアノアクリレート、及びn-ヘキシル-2-シアノアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の2-シアノアクリレート系接着剤組成物。
【請求項4】
金属製の第1の部品と、これに接着された第2の部品とを少なくとも備え、前記第1の部品と前記第2の部品とが接着剤を介して接合されてなる接合品であって、前記接着剤が、請求項1~3のいずれか1項に記載の2-シアノアクリレート系接着剤組成物である、接合品。
【請求項5】
少なくとも一方が金属製である2つの部品を、請求項1~3のいずれか1項に記載の2-シアノアクリレート系接着剤組成物を介して接合することを含む、接合品の製造方法。
【請求項6】
下記式(1)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸化合物を含む、2-シアノアクリレート系接着剤組成物の金属に対する接着強度向上用薬剤であって、前記2-シアノアクリレート系接着剤組成物は、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の2-シアノアクリレート化合物を含むものであり、前記カルボン酸化合物は、前記2-シアノアクリレート化合物100質量部に対して600ppm以上6000ppm以下の量で添加されるように用意されている、接着強度向上用薬剤。
【化3】
(式(1)中、nは1~2の整数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~13の炭化水素基を表し(但し、R の全てが水素原子である場合を除く)、結合aは単結合であっても二重結合であってもよく、2つのRは互いに結合して環状炭化水素基を形成してもよい。
【請求項7】
アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の2-シアノアクリレート化合物を含む2-シアノアクリレート系接着剤組成物に、下記式(1)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸化合物を、前記2-シアノアクリレート化合物100質量部に対して600ppm以上6000ppm以下の量で添加する、2-シアノアクリレート系接着剤組成物の接着強度向上方法。
【化5】
(式(1)中、nは1~2の整数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~13の炭化水素基を表し(但し、R の全てが水素原子である場合を除く)、結合aは単結合であっても二重結合であってもよく、2つのRは互いに結合して環状炭化水素基を形成してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅、アルミ等の金属に対する接着強度に優れた2-シアノアクリレート系接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2-シアノアクリレート系接着剤組成物は、主成分である2-シアノアクリレートが有する特異なアニオン重合性により、被着体表面に付着する僅かな水分等の微弱なアニオンによって重合を開始し、各種材料を短時間で強固に接合することができる。そのため、所謂、瞬間接着剤として電子・電気・自動車などの各種産業界、レジャー分野及び一般家庭で広く用いられている。
【0003】
近年、プリント配線板、ワイヤーハーネスなど金属配線を含む電気・電子部品等の製造に2-シアノアクリレート系接着剤組成物が用いられており、金属に対する接着性の向上が要求されている。
特許文献1~3には、特定の構造を有するオニウム塩を2-シアノアクリレート化合物に配合することにより、金属及び極性が低い熱可塑性エラストマーに対し優れた接着速度を発現するとともに、硬化物の外観や貯蔵安定性に優れる接着剤組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、近年、2-シアノアクリレート系接着剤組成物の金属に対する接着性、特に、電気・電子部品の製造に用いられる銅及びアルミニウムに対する接着性、特に接着強度の更に一層の向上が要求されている。
特に、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートは、アルキル基の炭素数が3以下のアルキル-2-シアノアクリレートに比して、硬化体の柔軟性に優れている反面、接着強度が弱いため、接着強度の向上が望まれている。
【0005】
特許文献4には、2-シアノアクリレート化合物にpKaが1.2~4.0の2-シアノアクリレート可溶性カルボン酸及びアニオン重合促進剤を配合することにより、木質系材料や発泡材料に対して優れた含浸硬化性を示す含浸用組成物が提案されているが、硬化速度の改善を検討しているに過ぎず、接着強度の改良については記載しておらず、ましてや、銅及びアルミニウムなどの金属に対する接着強度の改良について開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/042082号公報
【文献】国際公開第2015/137156号公報
【文献】国際公開第2018/003682号公報
【文献】特開2000-53924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートを含有する接着剤組成物の、アルミ、銅などの金属に対する接着強度を向上させ、かかる金属の配線を含む電気・電子部品等の製造に好適な2-シアノアクリレート系接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート又はエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートに、特定のカルボン酸化合物を含有させることにより、従来よりもアルミニウム、銅等の金属に対する接着強度が優れた2-シアノアクリレート系接着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、その一局面によれば、接着剤組成物であって、
アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の2-シアノアクリレート化合物と、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物を、JIS K 6849に準拠して測定した銅基材に対する接着強度が、前記接着剤組成物から前記カルボン酸化合物を除いた接着剤組成物よりも高くなるのに十分な量で含有する、2-シアノアクリレート系接着剤組成物を提供する。
【0010】
【化1】

(式(1)中、nは1~2の整数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~13の炭化水素基を表し、結合aは単結合であっても二重結合であってもよく、2つのRは互いに結合して環状炭化水素基を形成してもよい。)
【0011】
【化2】

(式(2)中、Rは炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の接着剤組成物は、前記カルボン酸化合物を、JIS K 6849に準拠して測定した銅基材に対する接着強度が、前記接着剤組成物から前記カルボン酸化合物を除いた接着剤組成物に対して20%以上高くなるのに十分な量で含有する。
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の接着剤組成物は、前記カルボン酸化合物を、JIS K 6849に準拠して測定したアルミニウム基材に対する接着強度が、前記接着剤組成物から前記カルボン酸化合物を除いた接着剤組成物に対して3%以上高くなるのに十分な量で含有する。
【0013】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、本発明の接着剤組成物は、前記カルボン酸化合物を、前記2―シアノアクリレート化合物100質量部に対して15ppm以上含有する。
本発明の他の好ましい実施形態によれば、本発明の接着剤組成物は、前記カルボン酸化合物を、前記2―シアノアクリレート化合物100質量部に対して6000ppm以下含有する。
【0014】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、前記式(1)におけるRが、それぞれ独立に水素原子、直鎖若しくは側鎖を有する炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、又はアリール基であるか、2つのRが互いに結合して環状炭化水素基を形成している。
本発明の他の好ましい実施形態によれば、前記式(2)におけるRが、直鎖若しくは側鎖を有する炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、又はアリール基である。
本発明の他の好ましい実施形態によれば、前記アルキル-2-シアノアクリレートは、2-オクチル-2-シアノアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノアクリレート、n-オクチル-2-シアノアクリレート、及びn-ヘキシル-2-シアノアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明の他の好ましい実施形態によれば、前記エステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートが、メトキシエチル-2-シアノアクリレート、エトキシエチル-2-シアノアクリレート及びブトキシエチル-2-シアノアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0015】
本発明は、他の局面によれば、金属製の第1の部品と、これに接着された第2の部品とを少なくとも備え、前記第1の部品と前記第2の部品とが接着剤を介して接合されてなる接合品であって、前記接着剤が、前記した本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物である、接合品を提供する。
【0016】
本発明は、さらに他の局面によれば、少なくとも一方が金属製である2つの部品を、前記した本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物を介して接合することを含む、接合品の製造方法を提供する。
【0017】
本発明は、さらに他の局面によれば、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸化合物を含む、2-シアノアクリレート系接着剤組成物の金属に対する接着強度向上用薬剤であって、前記2-シアノアクリレート系接着剤組成物は、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の2-シアノアクリレート化合物を含むものである、接着強度向上用薬剤を提供する。
【0018】
本発明は、さらに他の局面によれば、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の2-シアノアクリレート化合物を含む2-シアノアクリレート系接着剤組成物に、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸化合物を、JIS K 6849に準拠して測定した前記接着剤組成物の銅基材に対する接着強度を高くするのに十分な量で添加する、2-シアノアクリレート系接着剤組成物の接着強度向上方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート又はエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートに、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸化合物を配合することとしたので、上記2-シアノアクリレート化合物を含む接着剤組成物のアルミニウム、銅等の金属に対する接着強度、とりわけ銅に対する接着強度を従来よりも向上させることができ、上記2-シアノアクリレート化合物の応用範囲を拡張することができるる。また、本発明によれば、同様のカルボン酸化合物を、上記2-シアノアクリレートを含有する既存の2-シアノアクリレート系接着剤組成物の金属に対する接着強度を向上させる用途に使用できることが明らかとされた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
1. 2-シアノアクリレート化合物
本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物は、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート及びエステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の2-シアノアクリレート化合物を主たる接着性成分として含有してなる。
【0022】
1-1.アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレート
アルキル基の炭素数が4以上のアルキル-2-シアノアクリレートとしては、種々のものが使用可能である。アルキル-2-シアノアクリレートのエステル残基に相当するアルキル基の炭素数の上限は特に限定されないが、例えば、12以下とすることができる。かかるアルキル-2-シアノアクリレートの具体例としては、n-ブチル-2-シアノアクリレート、sec-ブチル-2-シアノアクリレート、イソブチル-2-シアノアクリレート(2-メチルプロピル-2-シアノアクリレート)、n-ペンチル-2-シアノアクリレート、n-ヘキシル-2-シアノアクリレート、n-ヘプチル-2-シアノアクリレート、1-メチルペンチル-2-シアノアクリレート、n-オクチル-2-シアノアクリレート、2-オクチル-2-シアノアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノアクリレート、n-ノニル-2-シアノアクリレート、イソノニル-2-シアノアクリレート、n-デシル-2-シアノアクリレート、イソデシル-2-シアノアクリレート、n-ウンデシル-2-シアノアクリレート、n-ドデシル-2-シアノアクリレート等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用することもできる。
【0023】
これらの中でも、本発明による銅に対する接着強度の向上効果が高い点から、炭素数が5~10のアルキル基を有するアルキル-2-シアノアクリレートが好ましく、その具体例としては、n-ペンチル-2-シアノアクリレート、n-ヘキシル-2-シアノアクリレート、n-ヘプチル-2-シアノアクリレート、1-メチルペンチル-2-シアノアクリレート、n-オクチル-2-シアノアクリレート、2-オクチル-2-シアノアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノアクリレート、n-ノニル-2-シアノアクリレート、イソノニル-2-シアノアクリレート、n-デシル-2-シアノアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。このうち、より好ましくは、2-オクチル-2-シアノアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノアクリレート、n-オクチル-2-シアノアクリレート、及びn-ヘキシル-2-シアノアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0024】
1-2.エステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレート
エステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートとしては、アルコキシアルキル-2-シアノアクリレート及び環状アルキルエーテルの2-シアノアクリレート等が挙げられる。
なお、本発明において、「エステル残基」とは、当該化合物におけるエステル結合以外の部分、すなわち、2-シアノアクリレートにエステル結合した-CO-O-Rで示される基のうちの-Rで示される部分のことである。
【0025】
アルコキシアルキル-2-シアノアクリレートとしては、アルコキシアルキル基の炭素数が2~12のものが好ましく、アルコキシアルキル基の炭素数が2~10のものがより好ましく、アルコキシアルキル基の炭素数が2~8のものがさらにより好ましい。アルコキシアルキル-2-シアノアクリレートの具体例としては、メトキシエチル-2-シアノアクリレート、エトキシエチル-2-シアノアクリレート、プロポキシエチル-2-シアノアクリレート、イソプロポキシエチル-2-シアノアクリレート、ブトキシエチル-2-シアノアクリレート、ヘキシロキシエチル-2-シアノアクリレート、2-エチルヘキシロキシエチル-2-シアノアクリレート、ブトキシエトキシエチル-2-シアノアクリレート、ヘキシロキシエトキシエチル-2-シアノアクリレート、2-エチルヘキシロキシエトキシエチル-2-シアノアクリレート、メトキシプロピル-2-シアノアクリレート、メトキシプロポキシプロピル-2-シアノアクリレート、メトキシプロポキシプロポキシプロピル-2-シアノアクリレート、エトキシプロピル-2-シアノアクリレート及びエトキシプロポキシプロピル-2-シアノアクリレート等が挙げられる。
環状アルキルエーテルの2-シアノアクリレートの具体例としては、テトラヒドロフルフリル-2-シアノアクリレート等が挙げられる。
エステル残基にエーテル結合を有する2-シアノアクリレートは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
これらの中でも、メトキシエチル-2-シアノアクリレート、エトキシエチル-2-シアノアクリレート及びブトキシエチル-2-シアノアクリレート等のアルコキシ基の炭素数が1~8のアルコキシエチル-2-シアノアクリレートを使用することが、入手容易で安定性に優れるため好ましく、エトキシエチル-2-シアノアクリレートが特に好ましい。
【0027】
1-3.その他の2-シアノアクリレート化合物
本発明では、上記した2-シアノアクリレート化合物に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の2-シアノアクリレート化合物を併用することができる。
かかる他の2-シアノアクリレート化合物としては、アルキル基の炭素数が1~3のアルキル-2-シアノアクリレート、シクロヘキシル-2-シアノアクリレート、シクロヘキセニルシアノアクリレート、フェニル-2-シアノアクリレート、クロロエチル-2-シアノアクリレート、アリル-2-シアノアクリレート、プロパギル-2-シアノアクリレート、ベンジル-2-シアノアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル-2-シアノアクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル-2-シアノアクリレートなどが挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
2.カルボン酸化合物
本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物は、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸化合物を含む。
【0029】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、シアノアクリル酸(2-シアノプロペン酸)、シアノ酢酸、2-シアノプロピオン酸、2-シアノブタン酸、2-シアノペンタン酸、2-シアノヘキサン酸、2-シアノヘプタン酸、2-シアノオクタン酸、2-シアノノナン酸、2-シアノデカン酸、2-シアノドデカン酸、2-シアノ-2-シクロヘキシリデン酢酸、2-シアノ-2-シクロヘプチル酢酸、2-シアノ-3-フェニルプロピオン酸、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸、2-シアノ-3-メチル-2-ブテン酸などが挙げられる。
【0030】
上記式(1)で表される化合物のうち、2つのRが互いに結合して環状炭化水素基を形成しているものの具体例としては、1-シアノ-1-シクロプロパンカルボン酸、1-シアノ-1-シクロブタンカルボン酸、1-シアノ-1-シクロペンタンカルボン酸、1-シアノ-1-シクロヘキサンカルボン酸などの、2つのRが互いに結合して炭素数3~6の環状炭化水素基を形成しているものが挙げられる。
【0031】
これらの化合物うち、前記式(1)におけるRが、それぞれ独立に、水素原子、直鎖若しくは側鎖を有する炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、又はアリール基であるか、2つのRが互いに結合して環状炭化水素基を形成している化合物が好ましく、極めて少量の添加で金属に対する接着性が向上することから、下記式(1-1)で表されるシアノアクリル酸、下記式(1-2)で表されるシアノ酢酸、及び、下記式(1-3)で表される1-シアノ-1-シクロプロパンカルボン酸がより好ましい。
【0032】
【化3】
【0033】
【化4】
【0034】
【化5】
【0035】
上記式(2)で表される化合物の具体例としては、ピルビン酸(2-オキソプロパン酸)、2-オキソ酪酸(2-オキソブタン酸)、2-オキソ吉草酸(2-オキソペンタン酸)、α-ケトイソ吉草酸(3-メチル-2-オキソブタン酸)、4-メチル-2-オキソ吉草(4-メチル-2-オキソペンタン酸)、3-メチル-2-オキソ吉草酸(3-メチル-2-オキソペンタン酸)、フェニルグリオキシル酸、2-シクロヘキシル-2-オキソ酢酸、2-オキソ-4-フェニル-3-ブテン酸などが挙げられる。
これらの化合物うち、前記式(2)におけるRが、直鎖若しくは側鎖を有する炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、又はアリール基である化合物が好ましく、極めて少量の添加で金属に対する接着性が向上することから、下記式(2-1)で表されるピルビン酸がより好ましい。
【0036】
【化6】
【0037】
3. 2-シアノアクリレート系接着剤組成物
本発明は、上記2-シアノアクリレート化合物が特定のカルボン酸化合物を含有する場合に、当該カルボン酸化合物を含有しない場合よりもアルミニウムや銅などの金属に対する接着性が大幅に向上することを見出したことに基づくものである。
したがって、本発明によれば、上記カルボン酸化合物の含有量は、JIS K 6849に準拠して測定した銅基材に対する接着強度が、前記カルボン酸化合物を添加しない場合よりも高くなるのに十分な量に設定される。
【0038】
好ましくは、本発明の接着剤組成物中のカルボン酸化合物の含有量は、2-シアノアクリレート化合物のアルミニウム基材及び/又は銅基材に対する接着性の有意な向上効果が得られ、実用的な接着強度を示す量とされる。
本発明において、「接着性の有意な向上効果」とは、銅基材に対する接着性の場合は、JIS K 6849に準拠して測定した銅基材に対する接着強度が、前記カルボン酸化合物を除いた接着剤組成物に対して好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上高くなることをいい、アルミニウム基材に対する接着性の場合は、JIS K 6849に準拠して測定したアルミニウム基材に対する接着強度が、前記カルボン酸化合物を除いた接着剤組成物に対して好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上高くなることをいう。
【0039】
本発明の接着剤組成物中のカルボン酸化合物の適切な含有量は、2―シアノアクリレート化合物及びカルボン酸化合物の種類によって異なるが、当該含有量の下限は、上記「接着性の有意な向上効果」が得られる値として設定することが好ましい。
上記含有量の下限は、通常、2―シアノアクリレート化合物100質量部に対して、15ppm以上であり、好ましくは30ppm以上であり、より好ましくは300pp以上であり、さらにより好ましくは500ppm 以上であり、一層さらにより好ましくは1200ppmであり、特に好ましくは2100ppm以上である。
上記含有量の上限は、本発明の接着剤の実用性又は経済性を損なわない量であれば特に限定されず、6000ppm以下が好ましい。
本発明の接着剤組成物中のカルボン酸化合物の含有量は、例えば、液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0040】
本発明で使用する2-シアノアクリレート化合物は、純度99%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがさらに好ましい。2-シアノアクリレートの純度が99%以上であれば、瞬間接着性、保存安定性及び接着耐熱性に優れるため好ましい。
【0041】
本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物には、貯蔵安定性を向上させる目的で、二酸化硫黄、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、プロパンサルトン、三フッ化ホウ素錯体等のアニオン重合禁止剤や、ハイドロキノン、カテコール、ピロガロール等のラジカル重合禁止剤を添加することができる。また、接着速度を向上させる目的で、ポリエチレングリコール誘導体、クラウンエーテル、カリックスアレン等の硬化促進剤を添加することができる。さらに、目的に応じて増粘剤、可塑剤、充填剤、エラストマー、チクソ性付与剤、密着性付与剤、架橋剤、染料、香料等を添加してもよい。これらの添加剤の添加量は、本発明の上記カルボン酸化合物の添加による接着強度の向上効果及び本発明の接着剤の実用性又は経済性が損なわれない範囲で適宜選択することができる。
【0042】
4.接合品及びその製造方法
本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物は、金属に対する接着強度に優れているので、少なくとも一方が金属製である2つの部品を接合する製造方法において、両者を接合するための接着剤として好適に使用できる。したがって、本発明によれば、金属製の第1の部品と、これに接着された第2の部品とを少なくとも備え、前記第1の部品と前記第2の部品とが、本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物を介して接合されてなる接合品を製造できる。この場合、本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物は、第1の部品の金属面に直接接着させてもよく、また、予めプライマー処理した金属面に接着させてもよい。第1の部品を構成する金属としては、アルミニウム又は銅が好ましい。第2の部品の材質は特に制限されず、金属、プラスチック、ゴム、木材、コンクリート等から適宜選択できる。
【0043】
本発明の接合品としては、2つのシート状の部品を重ね合わせて接合した積層体や、線状の部品の周囲を他の部品で被覆して接合した積層体などが挙げられ、例えば、金属部品が樹脂成形品に貼り付けられた物品が挙げられ、より具体的には、プリント配線板及びその積層体、ファイヤーハーネス、コネクタ、被覆電線等が挙げられる。
【実施例
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。また、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
【0045】
実施例1~26、及び、比較例1~5
表1~2に示す成分を表1~2に示す配合割合で常法により混合し、接着剤組成物を調製し、下記のとおり評価した。
【0046】
評価
得られた接着剤組成物について、JIS K 6861に準拠し、室温におけるアルミニウム基材及び銅基材に対する引張接着強度を測定した。また、カルボン酸化合物を含有しない場合の比較例に対する接着強度の増加率を計算した。それらの結果を表1~2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1に示すように、カルボン酸化合物を含有する実施例1~26の場合、銅基材に対する接着強度は比較例に対して30%以上の増加率を示し、アルミニウム基材に対する接着強度も比較例より増加した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の2-シアノアクリレート系接着剤組成物は、アルミニウム、銅などの金属に対する接着強度に優れているので、金属の配線を含む電気・電子部品等の製造に好適であり、また、金属を被着物とする他の産業分野でも広く利用され得るものである。