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特許7647100不純物拡散組成物、それを用いた半導体素子の製造方法および太陽電池の製造方法
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  • 特許-不純物拡散組成物、それを用いた半導体素子の製造方法および太陽電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】不純物拡散組成物、それを用いた半導体素子の製造方法および太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/225 20060101AFI20250311BHJP
   H10F 10/00 20250101ALI20250311BHJP
   H10F 71/00 20250101ALI20250311BHJP
【FI】
H01L21/225 R
H01L21/225 D
H10F10/00
H10F71/00 140
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020551436
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035439
(87)【国際公開番号】W WO2021060182
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019175316
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北田 剛
(72)【発明者】
【氏名】弓場 智之
(72)【発明者】
【氏名】秋本 旭
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-195203(JP,A)
【文献】特開2017-103379(JP,A)
【文献】特開2013-153052(JP,A)
【文献】特開2010-062334(JP,A)
【文献】特開2006-310373(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176716(WO,A1)
【文献】特開2014-103232(JP,A)
【文献】特開2014-030011(JP,A)
【文献】特開2013-008953(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/225
H10F 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリビニルアルコール、(B)不純物拡散成分、および(C)シロキサンを含み、(A)ポリビニルアルコールのケン化度が20モル%以上50モル%未満であり、(B)不純物拡散成分がホウ酸であり、(C)シロキサンが下記一般式(1)、(2)のいずれかで示される部分構造と、下記一般式(3)、(4)のいずれかで示される部分構造とをそれぞれ少なくとも1種以上含み、(A)ポリビニルアルコールと(C)シロキサンの質量比率(A):(C)が30:70~75:25であり、pHが4.0~6.5であり、
さらに(D)溶媒を含有し、(D)溶媒中の水の含有量が0.1~5質量%である不純物拡散組成物。
【化1】
(RおよびRは、それぞれ独立に水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基、炭素数2~10のアルケニル基のいずれかを表し、複数のRおよびRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは炭素数6~15のアリール基を表し、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数6~15のアリール基のいずれかを表し、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【請求項2】
(D)溶媒がラクタム系溶媒または環状エステル系溶媒を含有し、(D)溶媒中のラクタム系溶媒または環状エステル系溶媒の含有量が20質量%以上である請求項1に記載の不純物拡散組成物。
【請求項3】
さらに(E)チクソ剤を含有し、(E)チクソ剤が酸化ケイ素の微粒子である請求項1または2に記載の不純物拡散組成物。
【請求項4】
さらに(F)カルボン酸を0.01~0.1質量%含有する請求項1~のいずれかに記載の不純物拡散組成物。
【請求項5】
(F)カルボン酸が蟻酸である請求項に記載の不純物拡散組成物。
【請求項6】
半導体基板に請求項1~のいずれかに記載の不純物拡散組成物を塗布して不純拡散組成物膜を形成する工程と、前記不純物拡散組成物膜から不純物を拡散させて半導体基板に不純物拡散層を形成する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項7】
半導体基板にn型不純物拡散組成物を塗布し、n型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、p型不純物拡散組成物である請求項1~のいずれかに記載の不純物拡散組成物を塗布して不純物拡散組成物膜を形成する工程と、当該半導体基板を加熱することにより、n型不純物拡散層とp型不純物拡散層を同時に形成する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項8】
半導体基板の一方の面にp型不純物拡散組成物である請求項1~のいずれかに記載の不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記半導体基板のもう一方の面に、n型不純物拡散組成物を塗布し、n型不純物拡散組成膜を形成する工程と、当該半導体基板を加熱することにより、p型不純物拡散層とn型不純物拡散層を同時に形成する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項9】
半導体基板の一方の面にp型不純物拡散組成物である請求項1~のいずれかに記載の不純物拡散組成物を部分的に塗布して第一のp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記第一のp型不純物拡散組成物膜が形成されていない部分に第二のp型不純物拡散組成物を塗布して低濃度のp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記半導体基板のもう一方の面に、n型不純物拡散組成物を塗布し、n型不純物拡散組成膜を形成する工程と、当該半導体基板を加熱することにより、高濃度のp型不純物拡散層、低濃度のp型不純物拡散層、n型不純物拡散層を同時に形成する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項10】
複数の半導体基板を用いた半導体素子の製造方法であって、下記(a)~(c)の工程を含み、(b)及び(c)の工程において、二枚一組の半導体基板を、各々の第一導電型の不純物拡散組成物膜が形成された面が互いに向い合せになるように配置する半導体素子の製造方法。
(a)各半導体基板の一方の面に請求項1~のいずれかに記載の不純物拡散組成物を塗布して第一導電型の不純物拡散組成物膜を形成する工程。
(b)前記第一導電型の不純物拡散組成物膜が形成された半導体基板を加熱して、前記半導体基板へ前記第一導電型の不純物を拡散して、第一導電型の不純物拡散層を形成する工程。
(c)第二導電型の不純物を含むガスを有する雰囲気下で前記半導体基板を加熱して、前記半導体基板の他方の面に第二導電型の不純物を拡散して、第二導電型の不純物拡散層を形成する工程。
【請求項11】
請求項10のいずれかに記載の半導体素子製造方法を含む太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物拡散組成物、それを用いた半導体素子の製造方法および太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池の製造において、半導体基板中にp型またはn型の不純物拡散層を形成する場合には、基板上に拡散源を形成して熱拡散により半導体基板中に不純物を拡散させる方法が採られている。拡散源形成には、CVD法や液状の不純物拡散組成物の溶液塗布法が検討されている。中でも溶液塗布法は、高価な設備を必要とせず、量産性にも優れていることから好適に用いられる。
【0003】
溶液塗布法によりp型不純物拡散層を形成する場合、通常、ホウ素化合物と、ポリビニルアルコール等の水酸基含有高分子化合物とを含有する塗布液を、スピンコート法やスクリーン印刷法を用いて半導体基板表面に塗布し、熱拡散させる。このような塗布液において、スクリーン印刷時の連続印刷性の観点から、ホウ素含有拡散組成物に一般的に用いられる水を使用せず、多価アルコール系溶媒と、ケン化度が50~90モル%と比較的低い範囲にあるポリビニルアルコールを用いたホウ素含有拡散組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-8953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようなケン化度のポリビニルアルコールを使用する場合、拡散性が十分ではない課題があった。
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、半導体基板への均一な不純物拡散と、スクリーン印刷の際の優れた連続印刷性とを可能とする不純物拡散組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の不純物拡散組成物は以下の構成を有する。すなわち、本発明は、(A)ポリビニルアルコール、(B)不純物拡散成分、および(C)シロキサンを含み、(A)ポリビニルアルコールのケン化度が20モル%以上50モル%未満であり、(B)不純物拡散成分がホウ酸であり、(C)シロキサンが下記一般式(1)、(2)のいずれかで示される部分構造と、下記一般式(3)、(4)のいずれかで示される部分構造とをそれぞれ少なくとも1種以上含み、(A)ポリビニルアルコールと(C)シロキサンの質量比率(A):(C)が30:70~75:25である不純物拡散組成物である。
【0008】
【化1】
【0009】
(RおよびRは、それぞれ独立に水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基、炭素数2~10のアルケニル基のいずれかを表し、複数のRおよびRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは炭素数6~15のアリール基を表し、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数6~15のアリール基のいずれかを表し、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体基板への均一な不純物拡散と、スクリーン印刷の際の優れた連続印刷性とを可能とする不純物拡散組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態にかかる半導体素子の製造方法を示す工程断面図である。
図2A】本発明の第2の実施形態にかかる半導体素子の製造方法を示す工程断面図である。
図2B】本発明の第2の実施形態にかかる半導体素子の製造方法を用いた裏面接合型太陽電池の作製方法を示す工程断面図である。
図3A】本発明の第3の実施形態にかかる半導体素子の製造方法を示す工程断面図である。
図3B】本発明の第3の実施形態にかかる半導体素子の製造方法を用いた両面発電型太陽電池の作製方法を示す工程断面図である。
図4A】本発明の第4の実施形態にかかる半導体素子の製造方法を示す工程断面図である。
図4B】本発明の第4の実施形態にかかる半導体素子の製造方法を用いた両面発電型太陽電池の作製方法を示す工程断面図である。
図5】本発明の第5の実施形態にかかる半導体素子の製造方法を示す工程断面図である。
図6】本発明の不純物拡散組成物を用いたバリア性評価の一例を示す工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る不純物拡散組成物およびこれを用いた半導体素子の製造方法の好適な実施形態を、必要に応じて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施形態により限定されるものではない。
【0013】
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、(A)ポリビニルアルコール、(B)不純物拡散成分、および(C)シロキサンを含み、(A)ポリビニルアルコールのケン化度が20モル%以上90モル%未満であり、(C)シロキサンが下記一般式(1)、(2)のいずれかで示される部分構造と、下記一般式(3)、(4)のいずれかで示される部分構造とをそれぞれ少なくとも1種以上含む。
【0014】
【化2】
【0015】
およびRは、それぞれ独立に水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基、炭素数2~10のアルケニル基のいずれかを表し、複数のRおよびRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは炭素数6~15のアリール基を表し、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数6~15のアリール基のいずれかを表し、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0016】
なお、本明細書において、「不純物拡散組成物」を単に「組成物」という場合がある。
【0017】
(A)ポリビニルアルコール
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、(A)ポリビニルアルコール(以下、単に「(A)PVA」と称する場合がある。)を含み、(A)ポリビニルアルコールのケン化度が20モル%以上90モル%未満である。(A)ポリビニルアルコールを含むことにより、(B)不純物拡散成分と錯体を形成し、塗布時に均一な被膜を形成することができる。(A)ポリビニルアルコールのケン化度を20%以上とすることで、(B)不純物拡散成分との錯体安定性が高まり、拡散性と拡散均一性が向上する。また、(A)ポリビニルアルコールのケン化度を90%未満とすることで、有機溶媒に対する溶解性が向上する。保存安定性向上の観点から、(A)ポリビニルアルコールのケン化度は70モル%未満であることが好ましく、50モル%未満であることがより好ましい。すなわち、(A)ポリビニルアルコールのケン化度を20モル%以上90モル%未満とすることで、有機溶媒に対する溶解性と錯体安定性が両立し、ひいては半導体基板への均一な不純物拡散と、スクリーン印刷の際の優れた連続印刷性とを可能とする不純物拡散組成物を提供することができる。
【0018】
(A)ポリビニルアルコールの平均重合度は、溶解度と錯体安定性の点で150~1000が好ましい。本発明において、平均重合度およびケン化度は、いずれもJIS K 6726(1994)に従って測定した値である。ケン化度は当該JISに記載の方法のうち逆滴定法によって測定した値である。
【0019】
良好な熱拡散と、組成物除去後の基板上の有機残渣抑制の点で、(A)PVAの含有量は、組成物全体100質量%中に1~20質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
【0020】
(B)不純物拡散成分
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、(B)不純物拡散成分を含む。(B)不純物拡散成分を含むことにより、半導体基板中に不純物拡散層を形成することができる。p型の不純物拡散成分としては、13属の元素を含む化合物であることが好ましく、中でもホウ素化合物であることが好ましい。n型の不純物拡散成分としては、15族の元素を含む化合物であることが好ましく、中でもリン化合物であることが好ましい。
【0021】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、三酸化二ホウ素、メチルボロン酸、フェニルボロン酸、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリオクチル、ホウ酸トリフェニル等を挙げることができる。なかでもドーピング性の点から、(B)不純物拡散成分がホウ酸であることが好ましい。
【0022】
リン化合物としては、五酸化二リン、リン酸、ポリリン酸、リン酸メチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸プロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、リン酸トリフェニルなどのリン酸エステルや、亜リン酸メチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸エチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸プロピル、亜リン酸ジプロピル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸ブチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸エステルなどが例示される。なかでもドーピング性の点から、リン酸、五酸化二リン、ポリリン酸が好ましい。
【0023】
不純物拡散組成物中に含まれる(B)不純物拡散成分の含有量は、半導体基板に求められる抵抗値により任意に決めることができるが、組成物全体100質量%中に0.1~10質量%であることが好ましい。
【0024】
また、拡散均一性の観点から、(A)PVAと(B)不純物拡散成分の質量比(A):(B)としては、1:1~20:1が好ましく、4:1~10:1がより好ましい。
【0025】
(C)シロキサン
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、(C)シロキサンを含み、(C)シロキサンが下記一般式(1)、(2)のいずれかで示される部分構造と、上記一般式(3)、(4)のいずれかで示される部分構造とをそれぞれ少なくとも1種以上含む。一般式(1)で示される部分構造と一般式(2)で示される部分構造は、混在してもよくいずれか一つでもよい。また、一般式(3)で示される部分構造と一般式(4)で示される部分構造は、混在してもよくいずれか一つでもよい。(C)シロキサンを含むことにより、不純物拡散組成物膜を緻密化させることができる。また、(B)不純物拡散成分の拡散性を向上させることができる。
【0026】
不純物拡散組成物において、(A)ポリビニルアルコールと(C)シロキサンの質量比率(A):(C)が30:70~75:25であることが好ましい。(A)PVAの質量比率を30%以上とすることで拡散性が向上しやすくなり、(A)PVAの質量比率を75%以下とすることでPVA特有の糊性が抑制されやすくなるため、スクリーン印刷時の張り付きが抑制されやすくなる。
【0027】
(C)シロキサン中に、一般式(3)、(4)のいずれかで示される部分構造がSi原子換算で25モル%以上含まれることが好ましい。これによってポリシロキサン骨格同士の架橋密度が高くなりすぎず、厚膜でもクラックがより抑制される。これにより、焼成、熱拡散工程でクラックが入りにくくなるため、不純物拡散の安定性を向上させることができる。また、不純物の熱拡散後にその不純物拡散層を他の不純物拡散剤に対するマスクとして活用することができる。マスク性を持たせるには拡散後の膜厚が大きいほうがよく、厚膜でもクラックが入りにくい本発明の不純物拡散組成物が好適に利用できる。また増粘剤等の熱分解成分が添加された組成物においても、シロキサンのリフロー効果により、熱分解により生成した空孔を埋めることが可能となり、空孔の少ない緻密な膜を形成することができる。従って、拡散時の雰囲気に影響されにくく、また他の不純物に対する高いマスク性が得られる。
【0028】
一方、シロキサン中に、一般式(3)、(4)のいずれかで示される部分構造がSi原子換算で95モル%以下含まれることが好ましい。これによって拡散後の剥離残渣をなくすことが可能となる。残渣は有機物が完全に分解・揮発せずに残った炭化物であると考えられ、ドーピング性を阻害するだけでなく、後に形成する電極とのコンタクト抵抗を上昇させ、太陽電池の効率を低下させる原因となる。
【0029】
耐クラック性、マスク性、保存安定性をより向上させ、拡散雰囲気の影響を低減する観点から、(C)シロキサン中の一般式(3)、(4)のいずれかで示される部分構造の含有量は、35モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。また、雰囲気や膜厚の影響なく、残渣を発生させないためには、一般式(3)、(4)のいずれかで示される部分構造の含有量が80モル%以下であることが好ましい。R、RおよびRがアルキル基の場合、炭素数を6以下とすることにより、残渣の発生を抑制するとともに、Rのアリール基によるリフロー効果を十分に引き出すことが可能になる。
【0030】
における炭素数6~15のアリール基は無置換体、置換体のどちらでもよく、組成物の特性に応じて選択できる。炭素数6~15のアリール基の具体例としては、フェニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、p-ヒドロキシフェニル基、p-スチリル基、p-メトキシフェニル基、ナフチル基が挙げられるが、特にフェニル基、p-トリル基、m-トリル基が好ましい。
【0031】
、R、Rにおける炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数6~15のアリール基はいずれも無置換体、置換体のどちらでもよく、組成物の特性に応じて選択できる。
【0032】
炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、トリフルオロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-メトキシ-n-プロピル基、グリシジル基、3-グリシドキシプロピル基、3-アミノプロピル基、3-メルカプトプロピル基、3-イソシアネートプロピル基が挙げられるが、残渣の点から、炭素素4以下のメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基が好ましい。
【0033】
炭素数1~7のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基が挙げられる。
【0034】
炭素数2~10のアルケニル基の具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1,3-ブタンジエニル基、3-メトキシ-1-プロペニル基、3-アクリロキシプロピル基、3-メタクリロキシプロピル基が挙げられるが、残渣の点から、炭素数4以下のビニル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1,3-ブタンジエニル基、3-メトキシ-1-プロペニル基が特に好ましい。
【0035】
炭素数1~6のアシルオキシ基の具体例としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アクリロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が挙げられる。
【0036】
炭素数6~15のアリール基の具体例としては、Rにおけるものと同じものが挙げられる。
【0037】
より緻密かつ耐クラック性の高い膜を形成するために、RおよびRが水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基のいずれかを表し、Rが炭素数1~4のアルキル基または炭素数2~4のアルケニル基を表すことが好ましい。すなわち、ポリシロキサンの構成ユニットがすべて3官能性のオルガノシランからなることが好ましい。
【0038】
また、(C)シロキサンの20%熱分解温度が550℃以上であることが好ましい。これにより、(C)シロキサン以外の有機成分を熱分解して完全に除去した後で、(C)シロキサンによるリフロー効果が得られるので、より緻密で残渣の少ない膜が得られる。ここで、20%熱分解温度とは、(C)シロキサンの重量が熱分解により20%減少する温度である。熱分解温度は、熱重量測定装置(TGA)などを用いて測定することができる。
【0039】
一般式(3)、(4)のユニットの原料となるオルガノシランの具体例としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-ヒドロキシフェニルトリメトキシシラン、p-トリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-メトキシフェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、1-ナフチルトリメトキシシラン、2-ナフチルトリメトキシシラン、1-ナフチルトリエトキシシラン、2-ナフチルトリエトキシシランが好ましく用いられる。中でも、フェニルトリメトキシシラン、p-トリルトリメトキシシラン、p-メトキシフェニルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0040】
一般式(1)、(2)のユニットの原料となるオルガノシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラアセトキシシランなどの4官能性シラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリn-ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリn-ブトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、グリシジルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどの3官能性シラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジ(n-ブチル)ジメトキシシランなどの2官能性シランが挙げられる。なお、これらのオルガノシランは単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのオルガノシランの中でも、膜の緻密性、耐クラック性、残渣および硬化速度の点から3官能性シランが好ましく用いられる。
【0041】
(C)シロキサンは、例えば、オルガノシラン化合物を加水分解した後、該加水分解物を溶媒の存在下、あるいは無溶媒で縮合反応させることによって得ることができる。加水分解反応の各種条件、例えば酸濃度、反応温度、反応時間などは、反応スケール、反応容器の大きさ、形状などを考慮して適宜設定することができるが、例えば、溶媒中、オルガノシラン化合物に酸触媒および水を1~180分かけて添加した後、室温~110℃で1~180分反応させることが好ましい。このような条件で加水分解反応を行うことにより、急激な反応を抑制することができる。反応温度は、より好ましくは30~130℃である。
【0042】
加水分解反応は、酸触媒の存在下で行うことが好ましい。酸触媒としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などのハロゲン化水素系無機酸、硫酸、硝酸、リン酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、ホウ酸、テトラフルオロホウ酸、クロム酸などのその他無機酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸、酢酸、クエン酸、蟻酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、ピルビン酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸などのカルボン酸を例示することができる。本発明の酸触媒はドーピング性の観点からケイ素、水素、炭素、酸素、窒素、リン以外の原子を極力含まないことが好ましく、リン酸、ギ酸、酢酸、カルボン酸系の酸触媒を用いることが好ましい。
【0043】
酸触媒の好ましい含有量は、加水分解反応時に使用される全オルガノシラン化合物100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~5重量部である。酸触媒の量を上記範囲とすることで、加水分解反応が必要かつ十分に進行するよう容易に制御できる。
【0044】
オルガノシラン化合物の加水分解反応および該加水分解物の縮合反応に用いられる溶媒は、特に限定されず、樹脂組成物の安定性、塗れ性、揮発性などを考慮して適宜選択できる。また、溶媒を2種以上組み合わせてもよいし、無溶媒で反応を行ってもよい。溶媒の具体例としては、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルジグリコールアセテート、アセト酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルイミダゾリジノン、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、ジイソブチルケトン、プロピレングリコールt-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテルなどを挙げることができる。これらのほか、国際公開第2015/002132号段落47に記載されているものを挙げることができる。
【0045】
良好な熱拡散と、組成物除去後の基板上の有機残渣抑制の点で、(C)ポリシロキサンの含有量は、組成物全体100質量%中に1~30質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
【0046】
(D)溶媒
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、さらに(D)溶媒を含むことが好ましい。(D)溶媒の含有量は、組成物全体100質量%中に10~90質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましい。
【0047】
(D)溶媒は特に制限なく用いることができるが、スクリーン印刷法やスピンコート印刷法などを利用する場合の印刷性をより向上させる観点から、沸点が100℃以上の溶媒であることが好ましい。沸点が100℃以上であると、例えば、スクリーン印刷法で用いられる印刷版に不純物拡散組成物を印刷した際に、不純物拡散組成物が印刷版上で乾燥し固着することを抑制できる。
【0048】
沸点が100℃以上の溶媒の含有量は、溶媒の全量に対して20重量%以上であることが好ましい。沸点100℃以上の溶媒としては、水(沸点100℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(沸点176℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点156.4℃)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)、乳酸メチル(沸点145℃)、乳酸エチル(沸点155℃)、ジアセトンアルコール(沸点169℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点174℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点188℃)、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(沸点229℃)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217℃)、ブチルジグリコールアセテート(沸点246℃)、アセト酢酸エチル(沸点181℃)、N-メチル-2-ピロリドン(沸点204℃)、N、N-ジメチルイミダゾリジノン(沸点226℃)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点213℃)、1,3-ブチレングリコールジアセテート(沸点232℃)、ジイソブチルケトン(沸点168℃)、プロピレングリコールt-ブチルエーテル(沸点151℃)、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(沸点170℃)、アセチルアセトン(沸点140℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点245℃)を例示することができる。
【0049】
また、(D)溶媒はラクタム系溶媒または環状エステル系溶媒を含有することが好ましい。ラクタム系溶媒または環状エステル系溶媒を含有することにより、不純物拡散組成物の粘度上昇を抑制しやすくなり、また、(A)PVAを効率よく溶解しやすくなる。また、ラクタム系溶媒または環状エステル系溶媒が含まれることで、(A)PVAと(B)不純物拡散成分の錯体の安定性がより向上する。その結果、既に錯体を形成した(A)PVAと(B)不純物拡散成分がさらに反応して3次元的な錯体を形成するといった事象が抑制されやすくなり、不純物拡散組成物の経時的な増粘や、増粘に起因するゲル状異物の発生が抑制されやすくなる。これにより、不純物拡散組成物を用いて塗布を行うと塗布膜厚が均一となりやすく、その後の不純物拡散工程においても均一な不純物拡散が得られやすい。
【0050】
ラクタム系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン等を挙げることができる。環状エステル系溶媒としては、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-オクタラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカノラクトン、δ-デカノラクトン、γ-ウンデカラクトン、δ-ウンデカラクトン、ω-ウンデカラクトン、ω-ペンタデカラクトン等を挙げることができる。これらは単独、または2種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0051】
不純物拡散組成物中に含まれるラクタム系溶媒または環状エステル系溶媒の含有量は、不純物拡散組成物中の粘度の上昇をより効果的に抑制する点で、当該不純物拡散組成物中に含まれる溶媒中の20質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。含有量の上限は、特に限定されないが、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。なお、不純物拡散組成物がラクタム系溶媒と環状エステル系溶媒とを両方含む場合の含有量は、両者の合計含有量を表す。
【0052】
また、(A)PVAは水溶液としても溶解できるため、(D)溶媒は水を含有してもよい。(D)溶媒が水を含有する場合、溶液の保存安定性、スクリーン連続印刷性、拡散性の観点から、(D)溶媒中の水の含有量は0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがさらに好ましい。
【0053】
(E)チクソ剤
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、スクリーン印刷性の点から、さらに(E)チクソ剤を含有することが好ましい。ここで、チクソ剤とは、不純物拡散組成物にチクソ性を付与する化合物を表す。また、チクソ性を付与するとは、低せん断応力時の粘度(η)と高せん断応力時の粘度(η)の比(η/η)を大きくすることである。(E)チクソ剤を含有することで、スクリーン印刷のパターン精度をより高めることができる。それは以下のような理由による。チクソ剤を含有する不純物拡散組成物は、高せん断応力時には粘度が低いため、スクリーン印刷時にスクリーンの目詰まりが起こりにくく、低せん断応力時には粘度が高いため、印刷直後の滲みやパターン線幅の太りが起きにくくなる。
【0054】
(E)チクソ剤としては、具体的に、セルロース、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム系多糖類、ジェランガム系多糖類、グァーガム系多糖類、カラギーナン系多糖類、ローカストビーンガム系多糖類、カルボキシビニルポリマー、水添ひまし油系、水添ひまし油系と脂肪酸アマイドワックス系、特殊脂肪酸系、酸化ポリエチレン系、酸化ポリエチレン系とアマイド系の混合物、脂肪酸系多価カルボン酸、リン酸エステル系界面活性剤、長鎖ポリアミノアマイドとリン酸の塩、特殊変性ポリアマイド系、ベントナイト、モンモリロン石、マグネシアンモンモリロン石、テツモンモリロン石、テツマグネシアンモンモリロン石、バイデライト、アルミンバイデライト、サポー石、アルミニアンサポー石、ラポナイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、有機ヘクトライト、酸化ケイ素の微粒子(微粒子酸化ケイ素)、コロイダルアルミナ、炭酸カルシウムなどを例示できる。組成物中の他成分との相溶性や残渣低減の点から、(E)チクソ剤が酸化ケイ素の微粒子であることが特に好ましい。チクソ剤は単独でも使用できるが、2種類以上のチクソ剤を組み合わせることも可能である。また、増粘剤と組み合わせて使用することがより好ましく、より高い効果を得ることができる。
【0055】
微粒子のサイズとしては、数平均粒子径が5nm以上500nm以下であることが好ましい。前記範囲にすることで、適度な分子間相互作用が得られ、高いチクソ性を付与することが可能となる。微粒子のサイズは、数平均粒子径が7nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上30nm以下であることが最も好ましい。
【0056】
本発明における微粒子のサイズは、透過型電子顕微鏡での観察により測定される。ランダムに選択した10個の粒子の長径を測定し、その平均を数平均粒子径とする。
【0057】
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物の粘度に制限はなく、印刷法、膜厚に応じて適宜変更することができる。ここで例えば好ましい印刷形態の一つであるスクリーン印刷方式の場合、拡散組成物の粘度は5,000mPa・s以上であることが好ましい。印刷パターンのにじみを抑制し良好なパターンを得ることができるからである。さらに好ましい粘度は10,000mPa・s以上である。上限は特にないが保存安定性や取り扱い性の観点から100,000mPa・s以下が好ましい。
【0058】
ここで、粘度は、1,000mPa・s未満の場合は、JIS Z 8803(1991)「溶液粘度-測定方法」に基づきE型デジタル粘度計を用いて回転数20rpmで測定された値であり、1,000mPa・s以上の場合は、JIS Z 8803(1991)「溶液粘度-測定方法」に基づきB型デジタル粘度計を用いて回転数20rpmで測定された値である。
【0059】
チクソ性は、上記粘度測定方法で得られた異なる回転数における粘度の比から求めることができる。本発明においては、回転数20rpmでの粘度(η20)と回転数2rpmでの粘度(η)の比(η/η20)をチクソ性と定義する。スクリーン印刷で精度の良いパターン形成するためには、チクソ性が2以上であることが好ましく、3以上がさらに好ましい。
【0060】
(F)カルボン酸
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、組成物のpHを調整する観点から、さらに(F)カルボン酸を含むことが好ましい。カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、シュウ酸などが挙げられる。中でも、(F)カルボン酸が蟻酸であることがより好ましい。pH調整効果の観点より、(F)カルボン酸の含有量は組成物全体中に0.01~0.1質量%であることが好ましい。
【0061】
(G)界面活性剤
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、界面活性剤を含有しても良い。界面活性剤を含有することで、塗布ムラが改善し、より均一な塗布膜が得られる。界面活性剤としてはフッ素系界面活性剤や、シリコーン系界面活性剤が好ましく用いられる。界面活性剤の含有量は、含有する場合、不純物拡散組成物中0.0001~1重量%とするのが好ましい。
【0062】
(H)増粘剤
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、増粘剤を含有しても良い。これにより、粘度調整を行うことができる。また、スクリーン印刷などの印刷法でより精密なパターンで塗布することができる。増粘剤は緻密膜形成や残渣低減の点から、90%熱分解温度が400℃以下であることが好ましい。増粘剤は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシド、アクリル酸エステル系樹脂であることが好ましく、中でも、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、アクリル酸エステル系樹脂であることが好ましい。保存安定性の点から、増粘剤がアクリル酸エステル系樹脂であることが特に好ましい。ここで、90%熱分解温度とは、増粘剤の重量が熱分解により90%減少する温度である。熱分解温度は、熱重量測定装置(TGA)などを用いて測定することができる。
【0063】
これら増粘剤の含有量は、不純物拡散組成物中に3重量%以上20重量%以下であることが好ましい。この範囲であることにより、十分な粘度調整効果が得られやすくなると同時に、より緻密な膜形成が可能になる。
【0064】
(pH)
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、pHが4.0~6.5であることが好ましい。この範囲においては、(A)PVAと(B)不純物拡散成分との錯体がより安定化する。また、組成物をある程度の期間保存した後に拡散用途に供しても、不純物拡散濃度の基板面内均一性が良好に保たれる。
【0065】
pHの調整方法としては、組成物に酸、塩基を添加する方法や、後述するようにイオン交換樹脂による不純物低減時に調整する方法などがあるが、これらに限定されない。
【0066】
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸や、上記(F)カルボン酸をはじめとする有機酸が好ましい。
【0067】
塩基としては、金属元素やハロゲンが含まれていない点から、有機アミンが好ましい。
【0068】
特に、保存安定性がより向上するという観点から、有機アミンの添加と蟻酸、硫酸、硝酸、酢酸またはシュウ酸の添加を組み合わせる方法や、有機アミンの添加とイオン交換樹脂による調整を組み合わせる方法が好ましい。
【0069】
有機アミンとしては芳香族アミン、脂肪族アミンなどが上げられるが、塩基性が高く、より少量添加で効果のある点から、脂肪族アミンが好ましい。組成物の他成分との副反応抑制の観点からより好ましくは3級アミンである。
【0070】
脂肪族3級アミンの具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、エチルピペリジン、ピペリジンエタノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくはピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、エチルピペリジン、ピペリジンエタノールなどの脂肪族環状3級アミンである。
【0071】
有機アミンの含有量として好ましいのは、組成物全体の0.01~2質量%である。より好ましくは組成物全体の0.02~0.5質量%、さらに好ましくは組成物全体の0.03~0.1質量%である。
【0072】
本発明におけるpHは、pHメーター(LAQUA F-71、堀場製作所製)を用いて測定される値である。pHの校正は、JIS Z 8802(2011)「pH測定方法」に定められているうち、下記の5種類の標準液(pH2、4、7、9、12)を用いて行う。
○pH2標準液(しゅう酸塩)
0.05mol/L 四しゅう酸カリウム水溶液
○pH4標準液(フタル酸塩)
0.05mol/L フタル酸水素カリウム水溶液
○pH7標準液(中性りん酸塩:下記2水溶液の混合液)
0.025mol/L リン酸二水素カリウム水溶液
0.025mol/L リン酸水素二ナトリウム水溶液
○pH9標準液(ほう酸塩)
0.01mol/L 四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)水溶液
○pH12標準液
飽和水酸化カルシウム水溶液。
【0073】
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、ナトリウム(Na)の量が0.05ppm以下であることが好ましい。Naの低減方法としては、組成物の各構成物を、再結晶、蒸留、カラム分別、イオン交換等で高純度化する方法が用いられるが、イオン交換樹脂を用いた方法が好ましい。
【0074】
イオン交換については、(A)~(C)の成分を含む組成物全体、または、(A)~(C)の成分のうち少なくとも1つを、イオン交換樹脂によってイオン交換処理する方法が上げられる。Naは製造工程の過程で混入する場合があるため、(A)~(C)の成分を含む組成物全体の状態で、最後にイオン交換を行うのが最も好ましい。具体的な方法としては、陽イオン交換樹脂を充填したカラムに不純物拡散組成物を通して行う、不純物拡散組成物の液中に陽イオン交換樹脂を添加して攪拌し、イオン交換後にイオン交換樹脂を除去するなどがあるが、これらに限定されない。
【0075】
特に、陽イオン交換樹脂を用いた場合、イオン交換後の不純物拡散組成物のpHは7未満となるため、不純物低減と同時に目的のpHに調整することが可能である。
【0076】
pHの値を4.0~6.5に調整するためのイオン交換処理方法として、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを組み合わせてイオン交換処理を行う方法が好ましい。組み合わせの方法としては、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を適宜混合してカラムに充填し、不純物拡散組成物を通す方法や、陽イオン交換樹脂を充填したカラムと陰イオン交換樹脂を充填したカラムに連続して通す方法などがあるが、これらに限定されない。
【0077】
(固形分濃度)
本発明の実施の形態に係る不純物拡散組成物は、固形分濃度としては特に制限はないが、1質量%以上90質量%以下が好ましい範囲である。本濃度範囲よりも低いと塗布膜厚が薄くなりすぎ所望のドーピング性、マスク性を得にくい場合がある。また、本濃度範囲よりも高いと保存安定性が低下する場合がある。
【0078】
<半導体素子の製造方法>
本発明の半導体素子の製造方法の第1の実施形態は、半導体基板に本発明の不純物拡散組成物を塗布して不純拡散組成物膜を形成する工程と、前記不純物拡散組成物膜から不純物を拡散させて半導体基板に不純物拡散層を形成する工程を含む。
【0079】
また、本発明の半導体素子の製造方法の第2の実施形態は、半導体基板にn型不純物拡散組成物を塗布し、n型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、p型不純物拡散組成物である本発明の不純物拡散組成物を塗布して不純物拡散組成物膜を形成する工程と、当該半導体基板を加熱することにより、n型不純物拡散層とp型不純物拡散層を同時に形成する工程を含む。
【0080】
また、本発明の半導体素子の製造方法の第3の実施形態は、半導体基板の一方の面にp型不純物拡散組成物である本発明の不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記半導体基板のもう一方の面に、n型不純物拡散組成物を塗布し、n型不純物拡散組成膜を形成する工程と、当該半導体基板を加熱することにより、p型不純物拡散層とn型不純物拡散層を同時に形成する工程を含む。
【0081】
また、本発明の半導体素子の製造方法の第4の実施形態は、半導体基板の一方の面にp型不純物拡散組成物である本発明の不純物拡散組成物を部分的に塗布して第一のp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記第一のp型不純物拡散組成物膜が形成されていない部分に第二のp型不純物拡散組成物を塗布して低濃度のp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記半導体基板のもう一方の面に、n型不純物拡散組成物を塗布し、n型不純物拡散組成膜を形成する工程と、当該半導体基板を加熱することにより、高濃度のp型不純物拡散層、低濃度のp型不純物拡散層、n型不純物拡散層を同時に形成する工程を含む。
【0082】
また、本発明の半導体素子の製造方法の第5の実施形態は、複数の半導体基板を用いた半導体素子の製造方法であって、下記(a)~(c)の工程を含み、(b)及び(c)の工程において、二枚一組の半導体基板を、各々の第一導電型の不純物拡散組成物膜が形成された面が互いに向い合せになるように配置する。
(a)各半導体基板の一方の面に本発明の不純物拡散組成物を塗布して第一導電型の不純物拡散組成物膜を形成する工程。
(b)前記第一導電型の不純物拡散組成物膜が形成された半導体基板を加熱して、前記半導体基板へ前記第一導電型の不純物を拡散して、第一導電型の不純物拡散層を形成する工程。
(c)第二導電型の不純物を含むガスを有する雰囲気下で前記半導体基板を加熱して、前記半導体基板の他方の面に第二導電型の不純物を拡散して、第二導電型の不純物拡散層を形成する工程。
【0083】
以下、これらの半導体素子の製造方法に適用できる不純物拡散層の形成方法を、図面を用いて説明する。なお、いずれも一例であり、本発明の半導体素子の製造方法に適用できる方法はこれらに限られるものではない。
【0084】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の半導体素子の製造方法の第1の実施形態の一例を示すものである。まず、図1の(a)に示すように、半導体基板11の上にp型不純物拡散組成物膜12を形成する。
【0085】
半導体基板としては、例えば不純物濃度が1015~1016atoms/cmであるn型単結晶シリコン、多結晶シリコン、およびゲルマニウム、炭素などのような他の元素が混合されている結晶シリコン基板が挙げられる。p型結晶シリコンやシリコン以外の半導体を用いることも可能である。半導体基板は、厚さが50~300μm、外形が一辺100~250mmの概略四角形であることが好ましい。また、フッ酸溶液やアルカリ溶液などで表面をエッチングしておくことが好ましい。エッチングしておくことにより、スライスダメージや自然酸化膜を除去することができる。
【0086】
半導体基板の受光面に保護膜を形成してもよい。この保護膜としては、例えば、CVD(化学気相成長)法やスピンオングラス(SOG)法などの手法によって製膜する、酸化シリコンや窒化シリコンなどの公知の保護膜を適用することができる。
【0087】
不純物拡散組成物の塗布方法としては、例えばスピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、スリット塗布法、スプレー塗布法、凸版印刷法、凹版印刷法などが挙げられる。
【0088】
これらの方法で塗布膜を形成後、不純物拡散組成物膜をホットプレート、オーブンなどで、50~200℃の範囲で30秒~30分間乾燥することが好ましい。乾燥後の不純物拡散組成物膜の膜厚は、不純物の拡散性の観点から100nm以上が好ましく、エッチング後の残渣の観点から3μm以下が好ましい。
【0089】
次に、図1の(b)に示すように、不純物を半導体基板11に拡散させ、p型不純物拡散層13を形成する。
【0090】
不純物の拡散方法は、例えば、公知の熱拡散方法を利用することができる。具体的には例えば、電気加熱、赤外加熱、レーザー加熱、マイクロ波加熱などの方法を用いることができる。
【0091】
熱拡散の時間および温度は、不純物拡散濃度、拡散深さなど所望の拡散特性が得られるように適宜設定することができる。例えば、800℃以上1200℃以下で1~120分間加熱拡散することで、表面不純物濃度が1019~1021の拡散層を形成できる。
【0092】
拡散雰囲気は、特に限定されず、大気中で行ってもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いて雰囲気中の酸素量等を適宜コントロールしてもよい。拡散時間短縮の観点から雰囲気中の酸素濃度を3%以下にすることが好ましい。また、必要に応じて拡散前に200℃~850℃の範囲で焼成を行ってもよい。
【0093】
次に、図1の(c)に示すように、半導体基板11の表面に形成されたp型不純物拡散組成物膜12を除去する。
【0094】
除去方法としては、例えば、公知のエッチング法を用いることができる。
【0095】
エッチングに用いる材料としては、特に限定されないが、例えばエッチング成分としてフッ化水素、アンモニウム、リン酸、硫酸、硝酸のうち少なくとも1種類を含み、それ以外の成分として水や有機溶媒などを含むものが好ましい。以上の工程により、半導体基板にp型不純物拡散層を形成することができる。
【0096】
なお、上の例ではp型不純物拡散組成物膜を利用してp型不純物拡散層を形成する場合について述べたが、本実施形態はこれに限られるものではなく、n型不純物拡散組成物膜を利用してn型不純物拡散層を形成する場合にも当然に適用できる。
【0097】
続いて、図1の(d)を用いて本発明の第1の実施形態の一例にかかる半導体素子の製造方法を利用した太陽電池の製造方法を説明する。この実施形態の一例で得られる太陽電池は、片面発電型太陽電池である。
【0098】
まず図1の(d)に示すように、表面にパッシベーション層16、裏面にパッシベーション層17を形成する。
【0099】
パッシベーション層としては、それぞれ、例えば、公知の材料を用いることができる。これらの層は単層でも複数層でもよい。例えば、熱酸化層、酸化アルミニウム層、SiNx層、アモルファスシリコン層を積層したものがある。
【0100】
パッシベーション層17の側のパッシベーション層としては特に酸化アルミニウム層が好ましい。これによって電極としての役割も果たす。
【0101】
これらのパッシベーション層は、プラズマCVD法、ALD(原子層堆積)法等の蒸着法、又は塗布法により形成できる。
【0102】
この実施形態の一例では、パッシベーション層16は受光面の一部の領域に、パッシベーション層17は裏面の全面に形成されている。
【0103】
その後、図1の(e)に示すように、受光面のパッシベーション層16の存在しない部分にコンタクト電極18を形成する。
【0104】
電極は、電極形成用ペーストを付与した後に加熱処理して形成することができる。
【0105】
これにより、片面発電型太陽電池10が得られる。
【0106】
(第2の実施形態)
図2Aは、本発明の半導体素子の製造方法の第2の実施形態の一例を示すものである。まず図2Aの(a)に示すように、半導体基板21の上にn型不純物拡散組成物膜24をパターン形成する。
【0107】
n型不純物拡散組成物膜の形成方法としては、例えばスクリーン印刷法、インクジェット印刷法、スリット塗布法、スプレー塗布法、凸版印刷法、凹版印刷法などが挙げられる。
【0108】
これらの方法で塗布膜を形成後、n型不純物拡散組成物膜をホットプレート、オーブンなどで、50~200℃の範囲で30秒~30分間乾燥することが好ましい。
【0109】
乾燥後のn型不純物拡散組成物膜の膜厚は、p型不純物に対するマスク性を考慮すると、200nm以上が好ましく、耐クラック性の観点から5μm以下が好ましい。
【0110】
次に図2Aの(b)に示すように、n型不純物拡散組成物膜24をマスクとしてp型不純物拡散組成物膜22を形成する。
【0111】
この場合、図2Aの(b)に示すように、p型不純物拡散組成物膜を全面に形成してもよいし、n型不純物拡散組成物膜がない部分にのみ形成しても構わない。また、p型不純物拡散組成物の一部がn型不純物拡散組成物膜に重なるように塗布してもよい。
【0112】
p型不純物拡散組成物の塗布方法としては、例えばスピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、スリット塗布法、スプレー塗布法、凸版印刷法、凹版印刷法などが挙げられる。
【0113】
これらの方法で塗布膜を形成後、p型不純物拡散組成物膜をホットプレート、オーブンなどで、50~200℃の範囲で30秒~30分間乾燥することが好ましい。乾燥後のp型不純物拡散組成物膜の膜厚は、p型不純物の拡散性の観点から100nm以上が好ましく、エッチング後の残渣の観点から3μm以下が好ましい。
【0114】
続いて、図2Aの(c)に示すように、n型不純物拡散組成物膜24中のn型の不純物拡散成分とp型不純物拡散組成物膜22中のp型の不純物拡散成分を同時に半導体基板21中に拡散させ、n型不純物拡散層25とp型不純物拡散層23を形成する。
【0115】
不純物拡散組成物の塗布方法、焼成方法および拡散方法としては前記と同様の方法が挙げられる。
【0116】
次に、図2Aの(d)に示すように、半導体基板21の表面に形成されたn型不純物拡散組成物膜24およびp型不純物拡散組成物膜22を除去する。
【0117】
除去方法としては、例えば、公知のエッチング法を用いることができる。
【0118】
以上の工程により、半導体基板にn型およびp型の不純物拡散層を形成することができる。このような工程とすることにより従来法と比較し、さらに工程を簡略化することができる。
【0119】
ここでは、n型不純物拡散組成物の塗布の後、p型不純物拡散組成物の塗布を行う例を示したが、p型不純物拡散組成物の塗布の後、n型不純物拡散組成物の塗布を行うことも可能である。すなわち、図2Aの(a)においてn型不純物拡散組成物の塗布に代えてp型不純物拡散組成物の塗布を行い、図2Aの(b)においてp型不純物拡散組成物の塗布・拡散に代えてn型不純物拡散組成物の塗布を行うことも可能である。
【0120】
本発明の半導体素子の製造方法の第2の実施形態においては、n型不純物拡散組成物の塗布の後、p型不純物拡散組成物の塗布を行うことが好ましい。
【0121】
続いて、図2Bを用いて、本発明の第2の実施形態の一例にかかる半導体素子の製造方法を利用した太陽電池の製造方法を説明する。この実施形態の一例で得られる太陽電池は、裏面接合型太陽電池である。
【0122】
まず図2Bの(e)に示すように、裏面にn型不純物拡散層25およびp型不純物拡散層23が成された半導体基板21の、その裏面上の全面に保護膜26を形成する。次に図3(f)に示すように、保護膜26をエッチング法などによりパターン加工して、保護膜開口26aを形成する。
【0123】
さらに、図2Bの(g)に示すように、ストライプ塗布法やスクリーン印刷法などにより、開口26aを含む領域に電極ペーストをパターン塗布して焼成することで、n型コンタクト電極29およびp型コンタクト電極28を形成する。これにより、裏面接合型太陽電池20が得られる。
【0124】
(第3の実施形態)
図3Aは、本発明の半導体素子の製造方法の第3の実施形態の一例を示すものである。
【0125】
まず、図3Aの(a)に示すように、半導体基板31の上にp型の本発明の不純物拡散組成物を用いてp型不純物拡散組成物膜32を形成する。次に、図3Aの(b)に示すように、半導体基板31のp型不純物拡散組成物膜32が形成された面と反対側の面にn型不純物拡散組成物膜34を形成する。
【0126】
次に、図3Aの(c)に示すように、p型不純物拡散組成物膜32とn型不純物拡散組成物膜34を半導体基板31中に同時に拡散させ、p型不純物拡散層33とn型不純物拡散層35を形成する。
【0127】
不純物拡散組成物の塗布方法、焼成方法および拡散方法としては前記と同様の方法が挙げられる。
【0128】
次に、図3Aの(d)に示すように、半導体基板31の表面に形成されたp型不純物拡散組成物膜32およびn型不純物拡散組成物膜34を除去する。
【0129】
除去方法としては、例えば、公知のエッチング法を用いることができる。
【0130】
以上の工程により、半導体基板にn型およびp型の不純物拡散層を形成することができる。このような工程とすることにより従来法と比較し、工程を簡略化することができる。
【0131】
ここでは、p型不純物拡散組成物の塗布後、n型不純物拡散組成物の塗布を行う例を示したが、n型不純物拡散組成物の塗布後、p型不純物拡散組成物の塗布を行うことも可能である。
【0132】
続いて、図3Bを用いて、本発明の第3の実施形態の一例にかかる半導体素子の製造方法を利用した太陽電池の製造方法を説明する。この実施形態の一例で得られる太陽電池は、両面発電型太陽電池である。
【0133】
まず図3Bの(e)に示すように、受光面及び裏面にそれぞれパッシベーション層36とパッシベーション層37を形成する。
【0134】
パッシベーション層に用いられる材料や、層の構成、形成方法としては、第1の実施形態におけるものと同様のことが当てはまる。
【0135】
この実施形態の一例では、パッシベーション層36とパッシベーション層37は受光面および裏面の一部の領域に形成されている。
【0136】
その後、図3Bの(f)に示すように、受光面及び裏面のそれぞれにおいて、パッシベーション層36と37の存在しない部分にp型コンタクト電極38およびn型コンタクト電極39を形成する。
【0137】
電極は、電極形成用ペーストを付与した後に加熱処理して形成することができる。
【0138】
これにより、両面発電型太陽電池30が得られる。
【0139】
(第4の実施形態)
図4Aは、本発明の半導体素子の製造方法の第4の実施形態の一例を示すものである。
【0140】
まず、図4Aの(a)に示すように、半導体基板41の上に本発明の高濃度のp型不純物拡散組成物を部分的に塗布して高濃度のp型不純物拡散組成物膜42を形成する。
【0141】
次に、図4Aの(b)に示すように、半導体基板41の高濃度のp型不純物拡散組成物膜42が形成されていない部分に低濃度のp型不純物拡散組成物を塗布して低濃度のp型不純物拡散組成物膜42’を形成する。
【0142】
次に、図4Aの(c)に示すように、半導体基板41のもう一方の面に、n型不純物拡散組成物膜43を形成する。
【0143】
次に、図4Aの(d)に示すように、高濃度のp型不純物拡散組成物膜42と低濃度のp型不純物拡散組成物膜42’とn型不純物拡散組成物膜43を半導体基板41中に同時に拡散させ、高濃度のp型不純物拡散層44と低濃度のp型不純物拡散層44’とn型不純物拡散層45を形成する。不純物拡散組成物の塗布方法、焼成方法および拡散方法としては前記と同様の方法が挙げられる。
【0144】
次に、図4Aの(e)に示すように、半導体基板41の表面に形成された高濃度のp型不純物拡散組成物膜42、低濃度のp型不純物拡散組成物膜42’およびn型不純物拡散組成物膜43を除去する。
【0145】
除去方法としては、例えば、公知のエッチング法を用いることができる。
【0146】
以上の工程により、半導体基板にn型およびp型の不純物拡散層を形成することができる。このような工程とすることにより従来法と比較し、工程を簡略化することができる。
【0147】
ここでは、p型不純物拡散組成物の塗布後、n型不純物拡散組成物の塗布を行う例を示したが、n型不純物拡散組成物の塗布後、p型不純物拡散組成物の塗布を行うことも可能である。
【0148】
また、低濃度のp型不純物拡散層とn型不純物拡散層を形成するためにペーストによる塗布法を例示したが、ガス拡散でも構わない。
【0149】
また、高濃度のp型不純物拡散層とは、表面のp型不純物濃度が1×1020以上のことを指し、低濃度の不純物拡散層とは、表面のp型不純物濃度が1×1020未満のことを指す。
【0150】
続いて、図4Bを用いて、本発明の第4の実施形態の一例にかかる半導体素子の製造方法を利用した太陽電池の製造方法を説明する。この実施形態の一例で得られる太陽電池は、両面発電型太陽電池である。
【0151】
まず図4Bの(f)に示すように、受光面にパッシベーション層46を、裏面にパッシベーション層47を形成する。パッシベーション層に用いられる材料や、層の構成、形成方法としては、第1の実施形態におけるものと同様のことが当てはまる。
【0152】
この実施形態の一例では、パッシベーション層46とパッシベーション層47は受光面および裏面の一部の領域に形成されている。
【0153】
その後、図4Bの(g)に示すように、受光面及び裏面のそれぞれにおいて、パッシベーション層46とパッシベーション層47の存在しない部分にp型コンタクト電極48およびn型コンタクト電極49を形成する。
【0154】
電極は、電極形成用ペーストを付与した後に加熱処理して形成することができる。
【0155】
これにより、両面発電型太陽電池40が得られる。
【0156】
(第5の実施形態)
図5は、本発明の半導体素子の製造方法の第5の実施形態の一例を示すものである。
【0157】
((a)工程)
図5の(a)に示すように、半導体基板51の一方の面に第一導電型の不純物拡散組成物を塗布して第一導電型の不純物拡散組成物膜52を形成する。
【0158】
以下の説明では、第一導電型をp型、第二導電型をn型として説明する。すなわち、第一導電型の不純物拡散組成物膜とは、p型不純物拡散組成物膜である。第一導電型と第二導電型は、もちろん、逆であってもよい。
【0159】
図5の(a)では半導体基板の一方の面の全面にp型の不純物拡散組成物を塗布する態様を説明したが、部分的にp型の不純物拡散組成物を塗布してもよい。不純物拡散組成物の塗布方法、焼成方法としては前記と同様の方法が挙げられる。
【0160】
((b)工程)
図5の(b)-1に示すように、一方の面にp型不純物拡散組成物膜52が形成された半導体基板51を、二枚一組で、各々のp型不純物拡散組成物膜52が形成された面を互いに向い合せにして拡散ボード110に配置する。
【0161】
拡散ボードは半導体基板を配置するための溝を有している。拡散ボードの溝のサイズやピッチ等については特に制限はない。拡散ボードは水平方向に対して傾斜していてもよい。拡散ボードの材質は拡散温度に耐えられるものであれば特に制限はないが、石英が好ましい。
【0162】
次に図5の(b)-2に示すように、半導体基板51が配置された拡散ボード110を拡散炉100にて加熱して、半導体基板51へp型の不純物を拡散して、p型不純物拡散層53を形成する。
【0163】
このとき、二枚一組の半導体基板が前述の配置であるため、p型不純物拡散組成物膜からp型不純物が気中に拡散しても、それが半導体基板のp型不純物拡散組成物膜が形成された面とは反対側の面に到達しにくい。そのため、半導体基板において目的とする箇所とは異なる箇所にも不純物が拡散する、いわゆるアウトディフュージョンを抑制することができる。不純物拡散組成物の拡散方法としては前記と同様の方法が挙げられる。
【0164】
また、(b)工程の前に、例えば、一方の面にp型の不純物拡散組成物膜が形成された半導体基板を拡散時の加熱処理温度以下の温度でかつ、酸素を含む雰囲気下で加熱処理することで、p型不純物拡散組成物膜中のバインダー樹脂等の有機分の少なくとも一部を除去しておくことが好ましい。p型不純物拡散組成物膜中のバインダー樹脂等の有機分の少なくとも一部を除去しておくことで、半導体基板上のp型不純物拡散組成物膜中の不純物成分の濃度を上げることができ、p型の不純物の拡散性が向上しやすい。
【0165】
((c)工程)
(c)の工程ではn型の不純物を含むガスを流しながら、半導体基板を加熱して、n型不純物拡散層55を形成する。
【0166】
n型の不純物を含むガスとして、POClガス等が挙げられる。例えばPOClガスは、POCl溶液にNガスや窒素/酸素混合ガスをバブリングすることや、POCl溶液を加熱することで得ることができる。なお、第二導電型がp型の場合は、BBr、BCl等のガスが挙げられる。
【0167】
加熱温度は、750℃~1050℃が好ましく、800℃~1000℃であることがより好ましい。
【0168】
ガス雰囲気としては特に制限は無いが、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン等の混合ガス雰囲気であることが好ましく、窒素と酸素の混合ガスであることがより好ましく、酸素の含有率が5体積%以下である窒素と酸素の混合ガスが特に好ましい。
【0169】
また、ガス雰囲気の変更の工程時間短縮ができることから(b)工程と同じガス雰囲気のまま(c)工程を行うことが好ましい。特に、(b)工程におけるガス雰囲気中の窒素と酸素の比率と、(c)工程におけるガス雰囲気中の窒素と酸素の比率が同じであることが好ましい。この場合の好ましい比率は、体積比で酸素:窒素=1:99~5:95である。
【0170】
(b)工程の後、p型不純物拡散層の上部にはp型不純物拡散組成物膜の熱処理物層が残っている。これをn型の不純物を含むガスに対するマスクとして、(c)の工程を行うことが好ましい。こうすることで、p型不純物拡散層へのn型の不純物の混入を抑制できる。
【0171】
(b)の工程と(c)の工程はどちらを先に行ってもよく、また、(c)の工程は、(b)の工程と同時に行うこともできる。p型不純物拡散組成物膜の熱処理物層をマスクとして用いる場合は、(c)の工程を(b)の工程よりも後で行うことが好ましい。
【0172】
さらに、(c)の工程を、(b)の工程の後、連続して行うことがより好ましい。例えば、(b)の工程の後、拡散ボードを焼成炉から取り出さずにそのまま(c)の工程に移ることが好ましい。(c)の工程を、(b)の工程の後、連続して行うとは、(b)の工程の後に続いて(c)の工程を行うことをいう。
【0173】
前記(c)の工程でのn型の不純物拡散層を形成するときの加熱温度が、前記(b)の工程でのp型の不純物拡散層を形成するときの加熱温度よりも50~200℃低い温度であることが好ましい。(c)の工程でのn型の不純物拡散層を形成するとき加熱温度を、(b)工程でのp型の不純物拡散層を形成するときの加熱温度よりも50~200℃低い温度とすることで、(c)の工程を(b)の工程の後連続して行う場合、(b)の工程で形成されたp型の不純物拡散層への加熱の影響を最小限にできるため、p型の不純物拡散を制御しやすくなる。
【0174】
(c)の工程において、p型不純物を含むガスで拡散するときに比べ、n型不純物を含むガスで拡散するときの方が加熱温度が低温でできることから、第一導電型がp型であり、第二導電型がn型であることが好ましい。
【0175】
<太陽電池素子の製造方法>
本発明の太陽電池の製造方法は、本発明の半導体素子の製造方法を含む。具体的には、上述の工程で得られる、第一導電型の不純物拡散層および第二導電型の不純物拡散層が形成された半導体基板の各不純物拡散層上に電極を形成する工程を有する。詳細については、図1にて片面発電型太陽電池、図2にて裏面接合型太陽電池、図3および図4にて両面発電型太陽電池を例に挙げて説明している。
【0176】
本発明の半導体素子の製造方法および太陽電池の製造方法は、上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれるものである。
【0177】
本発明の不純物拡散組成物は、太陽電池などの光起電力素子や、半導体表面に不純物拡散領域をパターン形成する半導体デバイス、例えば、トランジスターアレイやダイオードアレイ、フォトダイオードアレイ、トランスデューサーなどにも展開することができる。
【実施例
【0178】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、用いた化合物のうち、略語を使用しているものについて、以下に示す。
GBL:γ-ブチロラクトン
PVA:ポリビニルアルコール
MeTMS:メチルトリメトキシシラン
PhTMS:フェニルトリメトキシシラン。
【0179】
(1)溶液粘度および保存安定性
粘度1,000mPa・s未満の不純物拡散組成物は、東機産業(株)製回転粘度計TVE-25L(E型デジタル粘度計)を用い、液温25℃、回転数20rpmでの粘度を測定した。また、粘度1,000mPa・s以上の不純物拡散組成物は、ブルックフィールド製RVDV-11+P(B型デジタル粘度計)を用い、液温25℃、回転数20rpmでの粘度を測定した。ここで不純物拡散組成物の作製直後の粘度と作製後25℃で30日間保管後の粘度を測定し、保存安定性の指標とした。粘度の上昇率が5%以内のものをexcellent(A)、5%を上回り20%以内のものをgood(B)、20%を上回り30%以内のものをacceptable (C)、30%を上回るものをbad(D)と判定した。
【0180】
(2)剥離性評価
6インチ角のテクスチャー付きn型シリコンウェハー((株)エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーション製、表面抵抗200Ω□)を1%フッ酸水溶液に1分浸漬したあと水洗し、エアブロー後ホットプレートで140℃5分処理した。
【0181】
測定対象の不純物拡散組成物を、公知の塗布法でプリベーク膜厚が500nm程度になるように該シリコンウェハーに塗布した。塗布後、シリコンウェハーを140℃で5分間プリベークした。
【0182】
続いて各シリコンウェハーを電気炉内に配置し、窒素:酸素=99:1(体積比)の雰囲気下、900℃で30分間維持して不純物を熱拡散させた。
【0183】
熱拡散後の各シリコンウェハーを、5重量%のフッ酸水溶液に23℃で1分間浸浸させて、拡散剤およびマスクを剥離した。剥離後、シリコンウェハーを純水に浸漬させて洗浄し、表面の目視により残渣の有無を観察した。1分浸漬後目視で表面付着物が確認でき、ウエスでこすっても除去できないものをworst(D)、1分浸漬後目視で表面付着物が確認できるがウエスでこすることで除去できるものをbad(C)、30秒を上回り1分以内で表面付着物が目視確認できなくなったものをgood(B)、30秒以内で表面付着物が目視確認できなくなったものをexcellent(A)とした。生産タクトの観点からgood(B)でも使用可ではあるが、excellent(A)であることが好ましい。
【0184】
(3)シート抵抗値測定
剥離性評価に用いた不純物拡散後のシリコンウェハーに対して、p/n判定機を用いてp/n判定し、表面抵抗を四探針式表面抵抗測定装置RT-70V (ナプソン(株)製)を用いて測定し、シート抵抗値とした。シート抵抗値は不純物拡散性の指標となるものであり、抵抗値が小さい方が、不純物拡散量が大きいことを意味する。
【0185】
(4)拡散均一性
シート抵抗値測定に用いた不純物拡散後のシリコンウェハーの中心部分に対して、二次イオン質量分析装置IMS7f(Camera社製)を用いて、不純物の表面濃度分布を測定した。得られた表面濃度分布から100μm間隔で10点の表面濃度を読み取り、その平均と標準偏差の比である「標準偏差/平均」を計算し、「標準偏差/平均」が0.3以下のものをexcellent(A)、0.3を上回り0.6以下のものをgood(B)、0.6を上回り0.9以下のものをnot bad(C)、0.9を上回るものをbad(D)と判定した。不純物の表面濃度のバラツキは、発電効率に大きく影響するため、excellent(A)であることが最も好ましい。
【0186】
(5)バリア性
3cm×3cmにカットしたn型シリコンウェハー((株)フェローテックシリコン製、表面抵抗率410Ω/□)を1%フッ酸水溶液に1分浸漬したあと水洗し、エアブロー後ホットプレートで140℃5分処理した。
【0187】
図6(a)に示すように、各実施例及び比較例のp型不純物拡散組成物を、公知の塗布法でプリベーク膜厚が500nm程度になるように該シリコンウェハー61に塗布した。塗布後、シリコンウェハーを140℃で5分間プリベークし、p型不純物拡散組成物膜62を作製した。
【0188】
次に、図6(b)に示すように、n型不純物拡散性組成物(OCD T-1、東京応化工業製)を、公知の塗布法でプリベーク膜厚が500nm程度になるように別のシリコンウェハー63に塗布した。塗布後、シリコンウェハーを140℃で5分間プリベークし、n型不純物拡散組成物塗膜64を作製した。
【0189】
続いて、図6(c)に示すように、上記p型不純物拡散組成物膜62が形成されたシリコンウェハー61と、n型不純物拡散組成物膜64が形成されたシリコンウェハー63とを、5mmの間隔を空けて対面させて電気炉内に配置し、窒素:酸素=99:1(体積比)の雰囲気下、900℃で30分間維持して不純物を熱拡散させた。これにより、図6(d)に示すように、シリコンウェハー61にはp型不純物拡散層65が、シリコンウェハー63にはn型不純物拡散層66が、それぞれ形成された。
【0190】
熱拡散後、各シリコンウェハーを、5重量%のフッ酸水溶液に23℃で1分間浸漬させて、硬化した拡散剤を剥離した(図6(e))。
【0191】
その後、シリコンウェハー61に対して、二次イオン質量分析装置IMS7f(Camera社製)を用いて、リン元素の表面濃度分布を測定した。リン元素の表面濃度が低い方が対面のn型不純物拡散組成物から拡散するリン元素へのバリア性が高いことを意味する。得られたリン元素の表面濃度が1017以下のものをexcellent(A)、1017を上回り1018以下のものをgood(B)、1018を上回り1019以下のものをnot bad(C)、1019を上回るものをbad(D)と判定した。
【0192】
なお、n型不純物拡散組成物の場合は、以下のように測定する。
3cm×3cmにカットしたn型シリコンウェハー((株)フェローテックシリコン製、表面抵抗率410Ω/□)を1%フッ酸水溶液に1分浸漬したあと水洗し、エアブロー後ホットプレートで140℃5分処理した。
【0193】
図6(a)に示すように、p型不純物拡散組成物(東京応化工業製)を、公知の塗布法でプリベーク膜厚が500nm程度になるように該シリコンウェハー61に塗布した。塗布後、シリコンウェハーを140℃で5分間プリベークし、p型不純物拡散組成物膜62を作製した。
【0194】
次に、図6(b)に示すように、本発明のn型不純物拡散性組成物を、公知の塗布法でプリベーク膜厚が500nm程度になるように別のシリコンウェハー63に塗布した。塗布後、シリコンウェハーを140℃で5分間プリベークし、n型不純物拡散組成物塗膜64を作製した。
【0195】
続いて、図6(c)に示すように、上記p型不純物拡散組成物膜62が形成されたシリコンウェハー61と、n型不純物拡散組成物膜64が形成されたシリコンウェハー63とを、5mmの間隔を空けて対面させて電気炉内に配置し、窒素:酸素=99:1(体積比)の雰囲気下、900℃で30分間維持して不純物を熱拡散させた。これにより、図6(d)に示すように、シリコンウェハー61にはp型不純物拡散層65が、シリコンウェハー63にはn型不純物拡散層66が、それぞれ形成された。
【0196】
熱拡散後、各シリコンウェハーを、5重量%のフッ酸水溶液に23℃で1分間浸漬させて、硬化した拡散剤を剥離した(図6(e))。
【0197】
その後、シリコンウェハー63に対して、二次イオン質量分析装置IMS7f(Camera社製)を用いて、ボロン元素の表面濃度分布を測定した。ボロン元素の表面濃度が低い方が対面のp型不純物拡散組成物から拡散するボロン元素へのバリア性が高いことを意味する。得られたボロン元素の表面濃度が1017以下のものをexcellent(A)、1017を上回り1018以下のものをgood(B)、1018を上回り1019以下のものをnot bad(C)、1019を上回るものをbad(D)と判定した。
【0198】
(6)スクリーン印刷性
スクリーン印刷により各実施例及び比較例の不純物拡散組成物をストライプ状にパターニングし、そのストライプ幅精度を確認した。
【0199】
基板としては、一辺156mmのn型単結晶シリコンからなる半導体基板を用意し、スライスダメージや自然酸化物を除去するために、両表面をアルカリエッチングした。この際、半導体基板の両面には典型的な幅が40~100μm、深さ3~4μm程度の無数の凹凸が形成され、これを塗布基板とした。
【0200】
スクリーン印刷機(マイクロテック(株)TM-750型)を用い、スクリーンマスクとしては幅200μm、長さ13.5cmの開口部をピッチ600μmで175本形成したもの(SUS(株)製、400メッシュ、線径23μm)を用い、ストライプ状のパターンを形成した。
【0201】
p型不純物拡散組成物をスクリーン印刷後、空気中にて基板を140℃で5分間、さらに230℃で30分間加熱することで、厚さ約1.5μm、幅約210μm、ピッチ600μm、長さ13.5cmのパターンを形成した。
【0202】
ここで任意の1本のラインについて等間隔で10点につきライン幅を測定し、塗布幅の標準偏差が12.5μm以内のものをexcellent(A)、12.5μmを上回り15μm以内のものをgood(B)、15μmを上回り17.5μm以内のものをnot bad(C)、17.5μmを上回り20μm以内のものをbad(D)と判定した。
【0203】
(7)スクリーン連続印刷性
上記スクリーン印刷性評価を1000枚連続して行ってもにじみやかすれなどの塗布不良が発生しないものをexcellent(A)、上記スクリーン印刷性評価を100~999枚連続して行うまでの間ににじみやかすれなどの塗布不良が発生するものをgood(B)、上記スクリーン印刷性評価を10~99枚連続して行うまでの間ににじみやかすれなどの塗布不良が発生するものをnot bad(C)、上記スクリーン印刷性評価を10枚連続して行うまでの間ににじみやかすれなどの塗布不良が発生するものをbad(D)と判定した。
【0204】
(8)張り付き
上記スクリーン印刷性評価を1000枚連続して行っても張り付きが発生しないものをexcellent(A)、上記スクリーン印刷性評価を100~999枚連続して行うまでの間に張り付きが発生するものをgood(B)、上記スクリーン印刷性評価を10~99枚連続して行うまでの間に張り付きが発生するものをnot bad(C)、上記スクリーン印刷性評価を10枚連続して行うまでの間に張り付きが発生するものをbad(D)と判定した。
なお、実施例5、6、8、9、11~17、19は、それぞれ参考例5、6、8、9、11~17、19と読み替える。
【0205】
参考例
(1)ポリシロキサン溶液Aの合成
1000mLの三口フラスコにKBM-13(メチルトリメトキシシラン)を183.25g、KBM-103(フェニルトリメトキシシラン)を266.75g、GBLを403.36g仕込み、40℃で攪拌しながら水145.29gにギ酸0.45gを溶かしたギ酸水溶液を30分かけて添加した。滴下終了後、40℃で1時間撹拌した後、70℃に昇温し、30分撹拌した。その後、オイルバスを115℃まで昇温した。昇温開始1時間後に溶液の内温が100℃に到達し、そこから1時間加熱攪拌した(内温は100~110℃)。得られた溶液を氷浴にて冷却し、ポリシロキサン溶液A(PhTMS(50)/MeTMS(50))を得た。ポリシロキサン溶液Aの固形分濃度は39.0質量%であり、重量平均分子量(Mw)は2500であった。
【0206】
(2)不純物拡散組成物1の作製
上記で合成したポリシロキサン溶液A13.42gと、ホウ酸1.31gと、ケン化度が89モル%のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)製)(以下ポリビニルアルコール(89)と表す)11.63gと、微粒子酸化ケイ素であるアエロジルVPNKC130(日本アエロジル(株)製)3.9gと、GBL24.64gと、テルピネオール35.1gと、水10gを混合し、均一になるように十分撹拌した。ここで、ポリシロキサン溶液Aからの持ち込みの蟻酸の量は0.006質量%である。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0207】
参考例
ポリビニルアルコールのケン化度を70モル%としたこと以外は、参考例1と同様にして不純物拡散組成物2を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0208】
参考例
ポリビニルアルコールのケン化度を69モル%としたこと以外は、参考例1と同様にして不純物拡散組成物3を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0209】
参考例
ポリビニルアルコールのケン化度を50モル%としたこと以外は、参考例1と同様にして不純物拡散組成物4を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0210】
実施例5
ポリビニルアルコールのケン化度を49モル%としたこと以外は、参考例1と同様にして不純物拡散組成物5を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0211】
実施例6
ポリビニルアルコールのケン化度を20モル%としたこと以外は、参考例1と同様にして不純物拡散組成物6を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0212】
参考例
(A)ポリビニルアルコールと(C)シロキサンの質量比率(A):(C)を20:80としたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物7を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0213】
実施例8
(A)ポリビニルアルコールと(C)シロキサンの質量比率(A):(C)を30:70としたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物8を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0214】
実施例9
(A)ポリビニルアルコールと(C)シロキサンの質量比率(A):(C)を75:25としたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物9を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0215】
参考例10
(A)ポリビニルアルコールと(C)シロキサンの質量比率(A):(C)を80:20としたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物10を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0216】
実施例11
溶媒をGBLからN-メチル-2-ピロリドンに変更したこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物11を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0217】
実施例12
水の量を5.0gとしたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物12を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0218】
実施例13
水の量を2.5gとしたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物13を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0219】
実施例14
不純物拡散組成物5に蟻酸を0.004g添加し、組成物中の蟻酸の量が0.01質量%となるように不純物拡散組成物14を作製した。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0220】
実施例15
不純物拡散組成物5に蟻酸を0.094g添加し、組成物中の蟻酸の量が0.1質量%となるように不純物拡散組成物15を作製した。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0221】
実施例16
不純物拡散組成物5にイオン交換樹脂による処理(X)を実施し、不純物拡散組成物16を作製した。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。ここで、イオン交換樹脂による処理(X)とは、以下の処理こと指す。
(X)得られた溶液を陽イオン交換樹脂(オルガノ(株)製、アンバーリスト15JS-HG-DRY)を充填したカラムに通す。
【0222】
実施例17
不純物拡散組成物5にイオン交換樹脂による処理(Y)を実施し、不純物拡散組成物17を作製した。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。ここで、イオン交換樹脂による処理(Y)とは、以下の処理こと指す。
(Y)得られた溶液を陽イオン、陰イオン混合の交換樹脂(オルガノ(株)製、アンバーリストMSPS2-1-DRY)を充填したカラムに通す。
【0223】
実施例18
不純物拡散組成物13に蟻酸を0.004g添加し、組成物中の蟻酸の量が0.01質量%となるように不純物拡散組成物18を作製した。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0224】
実施例19
微粒子酸化ケイ素を抜いたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物19を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示す結果となった。
【0225】
参考例20
ホウ酸の代わりにホウ酸トリメチルを使用したこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物20を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示す結果となった。
【0226】
比較例1
ポリビニルアルコールのケン化度を90モル%としたこと以外は、実施例1と同様にして不純物拡散組成物21を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、スクリーン連続印刷性に劣る結果となった。
【0227】
比較例2
ポリビニルアルコールのケン化度を10モル%としたこと以外は、実施例1と同様にして不純物拡散組成物22を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、拡散均一性に劣る結果となった。
【0228】
比較例3
(MeTMS(100)/PhTMS(0))としたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物23を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、拡散均一性に劣る結果となった。
【0229】
比較例4
(MeTMS(0)/PhTMS(100))としたこと以外は、実施例5と同様にして不純物拡散組成物24を得た。得られた溶液の評価結果は、表2に示すとおり、拡散均一性に劣る結果となった。
【0230】
【表1-1】
【0231】
【表1-2】
【0232】
【表2】
【符号の説明】
【0233】
10、20、30、40 太陽電池
11、21、31、41、51、61、63 半導体基板
12、22、32、42、42’、52、62 p型不純物拡散組成物膜
13、23、33、44、44’、53 p型不純物拡散層
24、34、43、64 n型不純物拡散組成物膜
25、35、45、55、66 n型不純物拡散層
16、17、26、36、37、46、47 パッシベーション層
18、28、29、38、39、48、49 コンタクト電極
26 保護膜
26a 開口
100 拡散炉
110 拡散ボード
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6