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特許7647102エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
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  • 特許-エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20250311BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20250311BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08G59/50
C08J5/24 CFC
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020570072
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041333
(87)【国際公開番号】W WO2021095627
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2019206896
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】川崎 順子
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0134926(US,A1)
【文献】特開2008-095013(JP,A)
【文献】特表2017-535652(JP,A)
【文献】特開2010-077176(JP,A)
【文献】特開2014-227473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/50
C08L 63/00
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ、下記条件(1)~()を満たすエポキシ樹脂組成物。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:芳香族ジアミン
[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にアミド基、ケトン基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有し、分子内にエポキシ基を有さず、かつ、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物
(1):構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eと構成要素[B]の活性水素のモル数Hとの比H/Eが、0.50以上1.30以下である。
(2):構成要素[C]の少なくとも一部が、その分子量mとエポキシ樹脂組成物の硬化物の理論架橋点間分子量Mとの比m/Mにおいて0.10以上0.60以下であることを満足する。
(3):構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eと前記条件(2)を満足する構成要素[C]のモル数Cとの比C/Eが、0.01以上0.20以下である。
(4):70℃で2時間保持した時の粘度が、70℃における初期粘度の5.0倍以下である。
(5):エポキシ樹脂組成物の硬化物の理論架橋点間分子量Mが500以下である。
【請求項2】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物強化繊維に含浸してなるプリプレグ。
【請求項3】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物強化繊維に含浸した状態で硬化してなり、構成要素[C]は架橋構造に取り込まれることなく当該架橋構造の空隙部に存在する、繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途などの繊維強化複合材料に好適に用いられる、エポキシ樹脂組成物、ならびに該エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、その高い比強度、比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿、自転車、筐体などのスポーツ、一般産業用途などに広く利用されている。この繊維強化複合材料に用いられる樹脂組成物としては、耐熱性や生産性の観点から主に熱硬化性樹脂が用いられ、中でも強化繊維との接着性などの力学特性の観点からエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0003】
近年、さらなる軽量化が求められる用途へ繊維強化複合材料を適用するには各種物性の向上が必要である。そのため、繊維強化複合材料の各種機械特性向上を目的として、マトリックス樹脂として用いるエポキシ樹脂の弾性率や伸度、強度の向上が要求されている。しかしながら、高い弾性率を有するエポキシ樹脂硬化物は一般に脆く、伸度や強度が低くなる傾向にある。このため、高い弾性率と伸度、強度を同時に向上することが技術的な課題であった。
【0004】
この課題の改善を図るため、様々な検討がなされている。例えば、特定の構造を有するエポキシ樹脂とナノフィラーを組み合わせることで弾性率と強度の改善を図る手法が検討されている(特許文献1)。また、硬化剤として用いるジシアンジアミドが溶け残って欠陥となるのを低減するために添加剤を配合することで、樹脂強度の向上を図る手法が検討されている(特許文献2)。また、RTM成形法向けの樹脂組成物では欠陥となりにくい液状の硬化剤を用いる手法が検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-95675号公報
【文献】国際公開第2019/181402号
【文献】特開2014-227473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術を用いた場合でも、得られる樹脂硬化物や繊維強化複合材料の機械特性は十分とは言えず、さらなる機械特性の向上が求められている。また、特許文献2の技術を用いた場合、樹脂強度の向上効果が得られるが、弾性率の向上については何ら考慮されておらず、弾性率と強度をいずれも向上可能な技術が求められている。また、特許文献3の技術を用いた場合、樹脂組成物の反応性が高く、プリプレグ用途に用いるために十分なポットライフを有していなかった。
【0007】
そこで、本発明は、プリプレグおよび繊維強化複合材料用途に好適に用いることができる、弾性率、強度、およびポットライフに優れたエポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ、下記条件(1)~(5)を満たすエポキシ樹脂組成物である。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:芳香族ジアミン
[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にアミド基、ケトン基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有し、分子内にエポキシ基を有さず、かつ、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物。
(1):構成要素[A]のエポキシ基 のモル数Eと構成要素[B]の活性水素のモル数Hとの比H/Eが、0.50以上1.30以下である。
(2):構成要素[C]の少なくとも一部が、その分子量mとエポキシ樹脂組成物の硬化物の理論架橋点間分子量Mとの比m/Mにおいて0.10以上0.60以下であることを満足する。
(3):構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eと前記条件(2)を満足する構成要素[C]のモル数Cとの比C/Eが、0.01以上0.20以下である。
(4):70℃で2時間保持した時の粘度が、70℃における初期粘度の5.0倍以下である。
(5):エポキシ樹脂組成物の硬化物の理論架橋点間分子量Mが500以下である。
【0009】
また本発明は、本発明のエポキシ樹脂組成物強化繊維に含浸してなるプリプレグである。
【0010】
また本発明は、本発明のエポキシ樹脂組成物強化繊維に含浸した状態で硬化してなり、構成要素[C]は架橋構造に取り込まれることなく当該架橋構造の空隙部に存在する、繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プリプレグおよび繊維強化複合材料用途に好適に用いることができる、弾性率、強度およびポットライフに優れたエポキシ樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例2(C/E=0.10)、実施例5(C/E=0.02)、実施例6(C/E=0.05)、実施例7(C/E=0.16)、比較例1(C/E=0.00)、比較例8(C/E=0.23)における、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eに対する構成要素[C]のモル数Cの比C/Eと、弾性率との関係を示す図である。
図2図2は、実施例2(C/E=0.10)、実施例5(C/E=0.02)、実施例6(C/E=0.05)、実施例7(C/E=0.16)、比較例1(C/E=0.00)、比較例8(C/E=0.23)における、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eに対する構成要素[C]のモル数Cの比C/Eと、強度との関係を示す図である。
図3図3は、実施例1(m/M=0.29)、実施例2(m/M=0.35)、実施例3(m/M=0.55)、実施例4(m/M=0.40)、比較例1、比較例4(m/M=1.40)、比較例9(m/M=0.68)における、エポキシ樹脂組成物の硬化物の理論架橋点間分子量Mに対する構成要素[C]の分子量mの比m/Mと、弾性率との関係を示す図である。なお、構成要素[C]を含まない比較例1はm/M=0.00の位置にプロットした。
図4図4は、実施例1(m/M=0.29)、実施例2(m/M=0.35)、実施例3(m/M=0.55)、実施例4(m/M=0.40)、比較例1、比較例4(m/M=1.40)、比較例9(m/M=0.68)における、エポキシ樹脂組成物の硬化物の理論架橋点間分子量Mに対する構成要素[C]の分子量mの比m/Mと、強度との関係を示す図である。なお、構成要素[C]を含まない比較例1はm/M=0.00の位置にプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明において「以上」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも大きいことを意味する。また、「以下」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも小さいことを意味する。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、構成要素[A]~[C]を必須成分として含む。本発明において「構成要素」とは組成物に含まれる化合物を意味する。
【0015】
本発明における構成要素[A]は、エポキシ樹脂である。構成要素[A]のエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上含むものが、樹脂組成物を加熱硬化して得られる硬化物のガラス転移温度を高くし、耐熱性を向上させることができるため好ましい。また、1分子中にエポキシ基を1個含むエポキシ樹脂を配合してもよい。これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、適宜配合して用いてもよい。
【0016】
構成要素[A]のエポキシ樹脂としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、ビスフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型、イソシアヌレート型、ヒダントイン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型等のエポキシ樹脂が挙げられる。中でも物性のバランスが良いことから、ジアミノジフェニルメタン型やアミノフェノール型、ビスフェノール型のエポキシ樹脂が特に好ましく用いられる。
【0017】
ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY9512(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY9663(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“エポトート(登録商標)”YH-434(東都化成(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0018】
ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂の市販品としては、TG3DAS(三井化学ファイン(株)製)などが挙げられる。
【0019】
アミノフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM120(住友化学(株)製)、ELM100(住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0510(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0600(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0610(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
【0020】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPON(登録商標)”825(三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(東都化成(株)製)、およびDER-331やDER-332(以上、ダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0021】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“アラルダイト(登録商標)”GY282(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”1750(以上、三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YD-170(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0022】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、前記以外のエポキシ化合物も適宜配合してもよい。
【0023】
本発明における構成要素[B]は、芳香族ジアミンである。芳香族ジアミンがそのグループに含まれるポリアミンは、エポキシ基と反応し得るアミノ基を複数有し、硬化剤として機能する。中でも芳香族ポリアミン、とりわけ芳香族ジアミンは、エポキシ樹脂硬化物に高い機械特性や耐熱性を与えることができる点で硬化剤として優れる。
【0024】
芳香族ジアミンに分類されるものとして、2,2’-ジエチルジアミノジフェニルメタン、2,4-ジエチル-6-メチル-m-フェニレンジアミン、4,6-ジエチル-2-メチル-m-フェニレンジアミン、4,6-ジエチル-m-フェニレンジアミン等のジエチルトルエンジアミン、4,4’-メチレンビス(N-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-sec-ブチルアニリン)、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。中でも、得られる硬化物の機械特性に優れることから、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンが好ましい。また、本発明のエポキシ樹脂組成物を70℃で保持した時の粘度増加を抑え、ひいてはポットライフを効果的に向上させることができる点から、芳香族ジアミンとしては、固形のものを用いることが好ましく、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンおよび4,4’-ジアミノジフェニルスルホンのうち少なくとも一方を含むことが特に好ましい。
【0025】
芳香族ジアミンの市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA-220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”WA(三菱ケミカル(株)製)、および3,3’-DAS(三井化学(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-MIPA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA 80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
【0026】
本発明における芳香族ジアミンの配合量としては、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eと芳香族ジアミンの活性水素のモル数Hとの比H/Eが0.50以上1.30以下であることが重要であり(条件(1))、好ましくは0.70以上、1.20以下、より好ましくは0.80以上、1.10以下である。H/Eをかかる範囲内とすることで、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとの反応により架橋構造を適切に形成でき、強度や伸度に優れた樹脂硬化物が得られる。加えて、H/Eを0.80以上、1.10以下とすることで、後述する構成要素[C]が架橋構造中に保持されやすくなり、弾性率や強度、伸度の向上効果が得られる。
【0027】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物において、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eと、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンおよび4,4’-ジアミノジフェニルスルホンのうち少なくとも一方の総モル数との比((3,3’-ジアミノジフェニルスルホンおよび4,4’-ジアミノジフェニルスルホンのうち少なくとも一方の総モル数)/E)が0.50以上、1.30以下であることが好ましい。0.50以上、1.30以下、より好ましくは0.70以上、1.20以下、さらに好ましくは0.80以上、1.10以下とすることで、本発明のエポキシ樹脂組成物を70℃で保持した時の粘度増加を抑え、ひいてはポットライフを効果的に向上させることができる。
【0028】
構成要素[C]は、沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつ、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物である。ここで、エポキシ樹脂と付加反応しうるアミンやフェノール、エポキシ樹脂と共重合しうる酸無水物、エポキシ樹脂の自己重合反応開始剤となり得るイミダゾール、芳香族ウレア化合物、三級アミン化合物などの化合物は、エポキシ樹脂の硬化能を有する化合物であり、エポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物には該当しない。
【0029】
構成要素[C]は、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとが反応して形成される架橋構造において、架橋構造に取り込まれることなく、その空隙部に存在し、硬化後もその状態が保持される。これにより、得られるエポキシ樹脂硬化物の弾性率が高くなる。また、驚くべきことに、構成要素[C]を配合することで、高弾性率のみならず、高伸度で高強度なエポキシ樹脂硬化物が得られることを発明者は見出した。この理由については定かではないが、発明者は以下のように考えている。構成要素[C]は分子内にエポキシ基を有さず、かつ、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さないことにより、架橋構造を形成するエポキシ樹脂や芳香族ジアミンと反応しない。そのため、構成要素[C]は、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとが反応して形成される架橋構造と共有結合により拘束されることが無く、架橋構造の空隙部に適切に保持されることにより、硬化物中の空隙を効果的に埋めることができ、硬化物の弾性率が高くなるのだと発明者は考えている。また、硬化物に歪みを与えた際には、構成要素[C]が架橋構造の中を自由に動けるため、破壊に至るまでの歪みエネルギーを緩和でき、硬化物の伸度並びに強度が高くなるのだと発明者は考えている。
【0030】
また、構成要素[C]の沸点が130℃以上、より好ましくは180℃以上であることで、エポキシ樹脂組成物が硬化する際の構成要素[C]の揮発を抑制でき、機械特性に優れた樹脂硬化物や繊維強化複合材料が得られる。さらに、得られる繊維強化複合材料におけるボイドの発生や機械特性の低下を抑制できる。本発明において、沸点は常圧(101kPa)での値である。また、常圧での沸点が測定できない場合は、沸点換算図表で101kPaに換算された換算沸点を用いることができる。
【0031】
構成要素[C]の分子量mは50以上250以下であり、より好ましくは70以上120以下である。構成要素[C]の分子量をかかる範囲とすることで、構成要素[C]は、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとが反応して形成される架橋構造の空隙部に適切に保持され、弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られる。
【0032】
構成要素[C]は、分子内にアミド基、ケトン基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する化合物であることが好ましい。構成要素[C]が分子内に上記のような高極性の官能基を有する場合、構成要素[A]と構成要素[B]から形成される架橋構造中の水酸基と構成要素[C]との間に強い分子間相互作用が働き、構成要素[C]が架橋構造の空隙部に適切に保持されやすくなるため、特に優れた伸度や強度の向上効果が得られる。
【0033】
かかる構成要素[C]としては、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチルプロピオンアミド、N-エチルアセトアミド、N-メチルアセトアニリド、N,N’-ジフェニルアセトアミド等のアミド類、およびエタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール等のジオール類等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、適宜配合して用いてもよい。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物の理論架橋点間分子量Mは500以下であることが好ましく、より好ましくは400以下、さらに好ましくは250以下である。理論架橋点間分子量Mをかかる範囲とすることで、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとの反応により形成される架橋構造の空隙中に構成要素[C]が保持されやすく、弾性率や強度、伸度に特に優れた硬化物が得られるため好ましい。
【0035】
ここで、理論架橋点間分子量Mとは、エポキシ樹脂組成物を構成する各成分から計算によって導き出される値であり、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる全樹脂硬化物の質量Wを全樹脂硬化物が持つ架橋点の数Nで除した値である。すなわち、Mが大きいほど、架橋構造中の空隙サイズが大きくなると考えられる。ここで、全樹脂硬化物の質量Wとは、エポキシ樹脂組成物に含まれる全てのエポキシ樹脂成分およびポリアミン成分の合計質量を意味し、それ以外の構成要素については、計算に入れない。
【0036】
理論架橋点間分子量Mは以下に述べる計算によって求められる。まず、エポキシ樹脂組成物中に、k種(kは整数)のエポキシ樹脂成分が含まれる場合、このうちi番目(iは1~kの整数)のエポキシ樹脂成分の配合量をa(単位:g)とする。また、エポキシ樹脂組成物中に、l種(lは整数)のポリアミン成分が含まれる場合、このうちj番目(jは1~lの整数)のポリアミンの配合量をb(単位:g)とすると、全樹脂硬化物の質量W(単位:g)は式(1)で求められる。
【0037】
【数1】
【0038】
i番目のエポキシ樹脂成分のエポキシ当量をE、i番目のエポキシ樹脂成分1分子が持つエポキシ基の数をxとする。また、j番目のポリアミン成分の活性水素当量をH、j番目のポリアミン成分1分子が持つ活性水素の数をyとする。全樹脂硬化物に含まれる架橋点の数Nは、エポキシ樹脂とポリアミンとの配合比が、化学量論量の場合、ポリアミンが過剰の場合、およびエポキシ樹脂が過剰の場合で求め方が異なる。どの求め方を採用するかは、式(2)により求められる、エポキシ樹脂とポリアミンとの配合比を表す配合比指数βにより決定する。
【0039】
【数2】
【0040】
ここで、β=1である場合は、エポキシ樹脂とポリアミンとの配合比が化学量論量であり、架橋点の数Nは式(3)により求められる。この架橋点の数Nは、反応し得る全てのエポキシ基と全てのポリアミンの活性水素とが反応することによって生じる架橋点の数を表す。
【0041】
【数3】
【0042】
また、β>1の場合は、ポリアミンが化学量論量よりも過剰であり、架橋点の数Nは式(4)により求められる。
【0043】
【数4】
【0044】
また、β<1の場合は、エポキシ樹脂が化学量論量よりも過剰であり、架橋点の数Nは式(5)により求められる。
【0045】
【数5】
【0046】
ここで、E×x、およびH×yはそれぞれi番目のエポキシ樹脂成分の平均分子量、およびj番目のポリアミン成分の平均分子量を表す。また、(x-2)は、i番目のエポキシ樹脂成分1分子中の全てのエポキシ基がポリアミンの活性水素と反応し、架橋構造に取り込まれることによって生じる架橋点の数を表す。また、(y-2)はj番目のポリアミン1分子中の全ての活性水素がエポキシ基と反応し、架橋構造に取り込まれることによって生じる架橋点の数を表す。例えば、i番目のエポキシ樹脂成分が4官能エポキシ樹脂の場合、1分子は4個のエポキシ基を持ち、生じる架橋点の数は4-2の2個となる。1官能エポキシ樹脂の場合、生じる架橋点の数は0個として計算する。また、j番目のポリアミン成分が1分子当たり2個の活性水素を持つ場合、生じる架橋点の数は2-2の0個となる。上述した式により求められたW、Nを用い、理論架橋点間分子量Mは式(6)により求められる。
【0047】
【数6】
【0048】
ここで、例として、エポキシ樹脂1(エポキシ基:3個、エポキシ当量:98g/eq)90g、エポキシ樹脂2(エポキシ基:2個、エポキシ当量:135g/eq)10g、およびポリアミン1(活性水素:4個、活性水素当量:45g/eq)44.7gからなるエポキシ樹脂組成物の樹脂硬化物について、理論架橋点間分子量Mを求めてみる。まず、全樹脂硬化物の質量Wは式(1)より144.7gである。また、式(2)より求められるβは1であるので、全樹脂硬化物が有する架橋点の数Nは式(3)により、0.803と求められる。したがって、樹脂硬化物の理論架橋点間分子量Mは式(6)により、180と求められる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、構成要素[C]の少なくとも一部が、その分子量mとエポキシ樹脂組成物の硬化物の理論架橋点間分子量Mとの比m/Mにおいて0.10以上0.60以下であることを満足することも重要である(条件(2))。本発明は、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとの反応により形成される架橋構造の空隙サイズに対して適切な分子量の構成要素[C]を配合することで、樹脂硬化物の弾性率や強度、伸度が向上するものである。しかしながら、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとの反応により形成される架橋構造の空隙サイズは、用いるエポキシ樹脂や芳香族ジアミンの種類によって逐一変動する。そのため、m/Mを上記範囲内とすることで、構成要素[C]が架橋構造の空隙に適切に保持され、弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られる。好ましくは、m/Mを0.30以上、0.50以下とすることで、特に弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られる。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eと前記条件(2)を満足する構成要素[C]のモル数Cとの比C/Eが0.01以上0.20以下であることが重要である(条件(3))。C/Eをかかる範囲内とすることで、構成要素[C]は、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとが反応して形成される架橋構造の空隙部に適切に保持され、弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られる。また、前記m/Mを0.30以上、0.50以下とし、さらにC/Eを好ましくは0.07以上、0.20以下とすることで、特に高い弾性率を有する硬化物が得られる。また、前記m/Mを0.30以上、0.50以下とし、さらにC/Eを好ましくは0.01以上、0.13以下とすることで、特に高い強度を有する硬化物が得られる。さらに、前記m/Mを0.30以上、0.50以下とし、さらにC/Eを好ましくは0.07以上、0.13以下とすることで、弾性率と強度のいずれも特に優れた硬化物が得られる。
【0051】
本発明の樹脂組成物は、70℃で2時間保持した時の粘度が、70℃における初期粘度の5.0倍以下であることも重要である(条件(4))。かかる比(「粘度増加倍率」とも呼ぶ)を5.0倍以下、より好ましくは3.0倍以下、さらに好ましくは2.5倍以下とすることで、樹脂組成物を混練する工程や樹脂組成物を強化繊維へ含浸する工程において樹脂組成物の粘度変化が小さくなり、ポットライフを長くすることができる。また、成型する際の樹脂組成物の流動量のばらつきを小さくし、繊維強化複合材料に含まれる樹脂含有量の変動を抑制でき、寸法や機械特性が安定した繊維強化複合材料を得ることができる。
【0052】
粘度増加倍率は、構成要素[B]の芳香族ジアミンとして固形のもの、中でも3,3’-ジアミノジフェニルスルホンおよび4,4’-ジアミノジフェニルスルホンのうち少なくとも一方を用いることで、効果的に抑えることができる。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、弾性率や強度、伸度に優れており、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好適に用いられる。すなわち本発明の繊維強化複合材料は、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維からなる。
【0054】
繊維強化複合材料を得る方法としては、ハンドレイアップ法、RTM法、フィラメントワインディング法、引抜成形法など、成形工程において強化繊維に樹脂組成物を含浸させる方法や、あらかじめ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグを、オートクレーブ法やプレス成形法によって成形する方法がある。なかでも、繊維の配置および樹脂の割合を精密に制御でき、複合材料の特性を最大限に引き出すことができるため、あらかじめ、エポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグとしておくことが好ましい。すなわち本発明のプリプレグは、本発明のエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなる。
【0055】
本発明のプリプレグ及び本発明の繊維強化複合材料に用いる強化繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を好ましく挙げることができるが、炭素繊維が特に好ましい。強化繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、単一のトウ、織物、ニット、および組紐などの繊維構造物が用いられる。強化繊維として2種類以上の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などを組み合わせて用いても構わない。
【0056】
炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0057】
炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、有撚糸の場合は炭素繊維を構成するフィラメントの配向が平行ではないため、得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、炭素繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良い解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0058】
炭素繊維は、引張弾性率が200GPa以上440GPa以下であることが好ましい。炭素繊維の引張弾性率は、炭素繊維を構成する黒鉛構造の結晶度に影響され、結晶度が高いほど弾性率は向上する。この範囲であると炭素繊維強化複合材料の剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。より好ましい弾性率は、230GPa以上400GPa以下であり、さらに好ましくは260GPa以上370GPa以下である。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R7608(2008)に従い測定された値である。
【0059】
本発明のプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、有機溶媒を用いず、樹脂組成物を加熱により低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法により、プリプレグを製造することができる。
【0060】
またホットメルト法では、加熱により低粘度化した樹脂組成物を、直接、強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルム付きの離型紙シートをまず作製し、次いで強化繊維の両側あるいは片側から樹脂フィルムを強化繊維側に重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂組成物を含浸させる方法などを用いることができる。
【0061】
プリプレグ中の強化繊維の含有率は、30質量%以上90質量%以下が好ましい。30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは65質量%以上とすることで、比強度と比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点を得られやすい。また、繊維強化複合材料の成形の際、硬化時の発熱量が高くなりすぎるのを抑えることができる。一方、90質量%以下、より好ましくは85質量%以下とすることで、樹脂の含浸不良による複合材料におけるボイドの発生を抑えることができる。またプリプレグのタック性を維持することができる。
【0062】
本発明の繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して樹脂を硬化させる方法を一例として、製造することができる。ここで熱及び圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が採用される。
【0063】
本発明の繊維強化複合材料は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途に広く用いることができる。より具体的には、一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両などの構造体等に好適に用いられる。スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット用途に好適に用いられる。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0065】
<実施例および比較例で用いられた材料>
(1)構成要素[A]:エポキシ樹脂
・“アラルダイト(登録商標)”MY0600(アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量:118g/eq、エポキシ基の数:3、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)
・“jER(登録商標)”825(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:170g/eq、エポキシ基の数:2、三菱ケミカル(株)製)
・グリシドール(分子量:74、エポキシ当量:74g/eq、エポキシ基の数:1、沸点:167℃、東京化成工業(株)製)。
【0066】
(2)構成要素[B]:芳香族ジアミン
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、活性水素当量:62g/eq、活性水素の数:4、三井化学ファイン(株)製)
・セイカキュアS(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、活性水素当量:62g/eq、活性水素の数:4、和歌山精化工業(株)製)
・“jERキュア(登録商標)”WA(ジエチルトルエンジアミン、活性水素当量:45g/eq、活性水素の数:4、三菱ケミカル(株)製)。
【0067】
(3)構成要素[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50~250の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつ、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物。
・1,2-エタンジオール(沸点:197℃、分子量m:62、東京化成工業(株)製)
・1,2-プロパンジオール(沸点:188℃、分子量m:76、東京化成工業(株)製)
・1,2-ヘキサンジオール(沸点:245℃、分子量m:118、東京化成工業(株)製)
・N-メチルプロピオンアミド(沸点:223℃、分子量m:87、東京化成工業(株)製)
・N,N’-ジフェニルアセトアミド(沸点(換算値):410℃、分子量m:211、東京化成工業(株)製)
・1,2-オクタンジオール(沸点:267℃、分子量m:146、東京化成工業(株)製)。
【0068】
(4)その他の化合物
・エタノール(沸点:78℃、分子量m:46、東京化成工業(株)製)
・N,N’-ジフェニル-4-メトキシベンズアミド(沸点:468℃、分子量m:303、東京化成工業(株)製)。
【0069】
<各種評価方法>
以下の測定方法を使用し、各実施例のエポキシ樹脂組成物を測定した。
【0070】
(1)樹脂硬化物の3点曲げ測定
未硬化の樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、30℃から速度1.7℃/分で昇温して125℃の温度で5時間保持した後、速度1.7℃/分で昇温して225℃の温度で2時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを2.5mm/分、サンプル数n=6とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げ測定を実施した時の、弾性率、強度および伸度の平均値をそれぞれ樹脂硬化物の弾性率、強度、伸度とした。
【0071】
(2)樹脂組成物の粘度測定
動的粘弾性装置ARES-G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、上下部測定冶具に直径40mmの平板のパラレルプレートを用いて上部と下部の冶具間距離が1mmとなるようにエポキシ樹脂組成物をセットし、ねじりモード(測定周波数:0.5Hz)でエポキシ樹脂組成物の70℃における初期粘度、および装置にセットした状態で70℃で2時間保持した時の粘度をそれぞれ測定した。また、70℃で2時間保持した時の粘度を70℃における初期粘度で除して、粘度増加倍率とした。
【0072】
<実施例1>
(樹脂組成物の作製)
次の手法にて、樹脂組成物を作製した。
【0073】
混練装置中に表1に記載の構成要素[A]として“アラルダイト(登録商標)”MY0600を100部投入し、混練しながら目標温度55~65℃まで加熱し、構成要素[B]として3,3’-DASを53部加えて30分間撹拌した。その後、構成要素[C]として1,2-エタンジオールを5部加えてさらに10分間撹拌し、樹脂組成物を得た。
【0074】
このとき、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eに対する構成要素[B]の活性水素のモル数Hの比H/Eは1.00であった。また、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eに対する構成要素[C]のモル数Cの比C/Eは0.10であった。また、構成要素[A]と構成要素[B]からなるエポキシ樹脂組成物の理論架橋点間分子量Mは216、構成要素[C]の分子量mは62であり、m/Mは0.29であった。
【0075】
得られた樹脂組成物について樹脂硬化物の3点曲げ測定を行ったところ、弾性率は5.1GPa、強度は225MPa、伸度は5.9%であった。後記する比較例1(構成要素[C]の配合なし)と比較して、優れた弾性率と強度、伸度が得られた。また、70℃で2時間保持した時の粘度は、70℃での初期粘度の2.2倍であり、十分なポットライフを有していた。
【0076】
<実施例2~10,12、参考例1
表1,2の配合比に従って上記実施例1と同様の手順でそれぞれの構成要素[A],[B]および[C]を配合し、樹脂組成物を得た。
【0077】
実施例の各種測定結果は表1,2に示すとおりであり、実施例2~10,12および参考例1のように樹脂組成物の配合を変更した場合においても、優れた樹脂硬化物の弾性率、強度、伸度が得られた。また、粘度増加倍率も良好であった。
【0078】
<比較例1~10>
表2の配合比に従って上記実施例1と同様の手順でそれぞれの構成要素[A]および[B](ならびに[C]またはその代替物)を配合し、樹脂組成物を得た。
【0079】
比較例1では構成要素[C]に相当するものを配合していない。比較例1と実施例1とを比較すると、構成要素[C]を配合することで、樹脂硬化物の弾性率、強度、および伸度がそれぞれ向上しており、特に強度や伸度が飛躍的に向上していると分かる。
【0080】
比較例2も構成要素[C]に相当するものを配合していない。比較例2と実施例6とを比較すると、構成要素[C]を配合することで、樹脂硬化物の弾性率、強度が飛躍的に向上していると分かる。
【0081】
比較例3では、構成要素[C]の代わりにエタノールを配合した。エタノールは、構成要素[C]における沸点が130℃以上という条件、および、分子量mが50以上250以下という条件を満たしていない。比較例3と実施例1とを比較すると、沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の要件を満たす構成要素[C]を配合することで、得られる樹脂硬化物の弾性率や強度、伸度が向上すると分かる。
【0082】
比較例4では、構成要素[C]の代わりにN,N’-ジフェニル-4-メトキシベンズアミドを配合した。N,N’-ジフェニル-4-メトキシベンズアミドは、構成要素[C]における分子量mが50以上250以下という条件を満たしていない。また、エポキシ樹脂組成物の理論架橋点間分子量Mと構成要素[C]の分子量mとの比m/Mが0.10以上0.60以下という条件を満たしていない。比較例4と実施例1とを比較すると、上記条件を満たすことで、得られる樹脂硬化物の弾性率や強度、伸度が向上すると分かる。
【0083】
比較例5では、構成要素[C]の代わりにグリシドールを配合した。グリシドールは分子内にエポキシ基を有する。比較例5と実施例1とを比較すると、構成要素[C]が分子内にエポキシ基を有さないことで、得られる樹脂硬化物の弾性率や強度、伸度が向上すると分かる。
【0084】
比較例6、7では、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eと構成要素[B]の活性水素のモル数Hとの比H/Eが、0.50以上1.30以下であるという条件を満たしていない。比較例6、7と実施例1とを比較すると、上記条件を満たすことで、得られる樹脂硬化物の強度が向上すると分かる。
【0085】
比較例8では、構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eと構成要素[C]のモル数Cとの比C/Eが、0.01以上0.20以下であるという条件を満たしていない。比較例8と実施例1とを比較すると、上記条件を満たすことで、得られる樹脂硬化物の弾性率や強度、伸度が向上すると分かる。
【0086】
比較例9では、構成要素[A]と構成要素[B]からなるエポキシ樹脂組成物の理論架橋点間分子量Mと構成要素[C]の分子量mとの比m/Mが、0.10以上0.60以下であるという条件を満たしていない。比較例9と実施例1とを比較すると、上記条件を満たすことで、得られる樹脂硬化物の弾性率や強度、伸度が向上すると分かる。
【0087】
比較例10では、エポキシ樹脂組成物を70℃で2時間保持した時の粘度が70℃における初期粘度の5.0倍以下であるという条件を満たしていない。そのため、エポキシ樹脂を混合する工程での粘度の増加が大きく、ポットライフが短い組成物であった。比較例10と実施例1とを比較すると、上記条件を満たすことで、得られる樹脂組成物のポットライフが長く、取扱い性に優れると分かる。
【0088】
ここで、実施例2、実施例5、実施例6、実施例7、比較例1、比較例8を比較すると、これらは同じ構成要素[A]、構成要素[B]、構成要素[C]を含むエポキシ樹脂組成物であり、構成要素[C]の配合量のみが異なる。構成要素[A]のエポキシ基のモル数Eに対する構成要素[C]のモル数Cの比C/Eと弾性率との関係を図1に、強度との関係を図2に図示した。図1、2より、本発明のエポキシ樹脂組成物において、0.01≦C/E≦0.20であることで、弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られると分かる。また、0.07≦C/E≦0.20であると、特に弾性率に優れた硬化物が得られ、0.01≦C/E≦0.13であると、特に強度に優れた硬化物が得られると分かる。
【0089】
さらに、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、比較例9は、同じ構成要素[A]、構成要素[B]を同じ配合比で含むエポキシ樹脂組成物であり、構成要素[C]の種類が異なる、または用いていない。m/Mと弾性率との関係を図3に、強度との関係を図4に図示した。図3、4における実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、比較例9の比較より、本発明の樹脂組成物において、0.10≦m/M≦0.60の関係となることで、樹脂硬化物の弾性率や強度に優れた硬化物が得られると分かる。また、0.30≦m/M≦0.50の関係を満たすとき、特に弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られると分かる。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
図1
図2
図3
図4