(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】複合中空糸膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/08 20060101AFI20250311BHJP
B01D 67/00 20060101ALI20250311BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20250311BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20250311BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D67/00
B01D69/12
B01D69/10
B01D69/02
(21)【出願番号】P 2021001207
(22)【出願日】2021-01-07
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2020005531
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】矢矧 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】三原 崇晃
(72)【発明者】
【氏名】坂下 竜太
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-080314(JP,A)
【文献】特開2004-314059(JP,A)
【文献】特開2019-107577(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103007778(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102266726(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44
B05C1/00-21/00
D01D5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製膜溶液を貯留しているコーティングノズルに中空糸基材を通過させて中空糸基材の周囲に製膜溶液をコーティングする複合中空糸膜の製造方法であって、前記コーティングノズルは、前記中空糸基材の軸方向に平行な断面においてテーパー部と導出平行部とを含み、前記導出平行部が前記中空糸基材を前記コーティングノズルの系外に導出する部分を構成し
、前記導出平行部の長さが1~30mmであり、かつ、前記導出平行部の内径Aと前記中空糸基材の平均外径Bとの比B/Aが1以上であることを特徴とする複合中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
高分子溶液を貯留しているコーティングノズルに中空糸基材を通過させて中空糸基材の周囲に高分子溶液をコーティングする複合中空糸膜の製造方法であって、前記コーティングノズルは、前記中空糸基材の軸方向に平行な断面においてテーパー部と導出平行部とを含み、前記導出平行部が前記中空糸基材を前記コーティングノズルの系外に導出する部分を構成し
、前記導出平行部の長さが1~30mmであり、かつ、前記導出平行部の内径Aと前記中空糸基材の平均外径Bとの比B/Aが1以上であることを特徴とする複合中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
前記中空糸基材の引張弾性率が1~100GPaである、請求項1または2に記載の複合中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
前記導出平行部の内表面のマルテンス硬さが5N/mm
2以下である、請求項1~3のいずれかに記載の複合中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
前記導出平行部の内径Aと前記中空糸基材の平均外径Bとの比B/Aが1以上1.5以下である、請求項1~4のいずれかに記載の複合中空糸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合中空糸膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のガスや液体などの混合流体から所望の成分を分離するための中空糸膜として、支持体上に分離機能層を形成した複合中空糸膜が知られている。その製造技術としては、支持体となる基材上に高分子溶液をコーティングした後、コーティング層を相分離などを用いて固定化、定着させることで支持体上に分離機能層を形成する、積層法が挙げられる。
【0003】
積層法におけるコーティングの方法としては、コーティング層の原料となるコート溶液を貯留したノズルに支持体を導入し、支持体の外表面にコート溶液をコーティングする方法が開示されている。(特許文献1、2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-314059号公報
【文献】特開2019-107577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように弾性樹脂からなるコーティングノズルを用いることは糸切れの抑制に有効であるが、ノズル中心軸と中空糸基材中心軸とのずれや生産設備の振動に起因する糸道の変動により、円周方向および繊維軸方向の膜厚均一性が低下する課題があった。また、中空糸基材がノズルを通過する際に、ノズル内部流体が高圧になり中空糸基材が半径方向に圧縮されることで変形し、コーティング層の膜厚が増加したり、繊維軸方向の膜厚均一性が低下したりする場合があった。
【0006】
本発明は、中空糸基材の変形や糸道の変動に起因するコーティング不良を軽減し、長時間安定的に均一なコーティング層を形成することができ、かつ膜厚をより薄膜化できる複合中空糸膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討した結果、コーティングノズルの出口側にテーパー部および導出平行部を設けること、そして導出平行部の内径を中空糸基材の外径に対して適切な関係を満足するように設定することにより、上記コーティング層の膜厚の均一性および薄膜化の課題をいずれも解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明における課題は、主に以下のいずれかの構成によって解決される。
(1)製膜溶液を貯留しているコーティングノズルに中空糸基材を通過させて中空糸基材の周囲に製膜溶液をコーティングする複合中空糸膜の製造方法であって、前記コーティングノズルは、前記中空糸基材の軸方向に平行な断面においてテーパー部と導出平行部とを含み、前記導出平行部が前記中空糸基材を前記コーティングノズルの系外に導出する部分を構成し、かつ、前記導出平行部の内径Aと前記中空糸基材の平均外径Bとの比B/Aが1以上であることを特徴とする複合中空糸膜の製造方法。
(2)高分子溶液を貯留しているコーティングノズルに中空糸基材を通過させて中空糸基材の周囲に高分子溶液をコーティングする複合中空糸膜の製造方法であって、前記コーティングノズルは、前記中空糸基材の軸方向に平行な断面においてテーパー部と導出平行部とを含み、前記導出平行部が前記中空糸基材を前記コーティングノズルの系外に導出する部分を構成し、かつ、前記導出平行部の内径Aと前記中空糸基材の平均外径Bとの比B/Aが1以上であることを特徴とする複合中空糸膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コーティングノズルに導出平行部を設けることにより、糸道の変動を抑制して長時間安定的にコーティングすることが可能になるとともに、導出平行部の内径を中空糸基材の外径に対して適切な関係を満足するように設定することにより、中空糸基材とコーティングノズルとの中心軸のずれが小さくなるため、コーティングによって形成される分離機能層の膜厚均一性に優れる分離膜に適した複合中空糸膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態で用いられるコーティングノズルの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合中空糸膜の製造方法においては、高分子溶液などの製膜溶液を貯留しているコーティングノズルに中空糸基材を通過させて中空糸基材の周囲に該製膜溶液をコーティングする。このようにして中空糸基材上にコーティング層を形成し、相分離などにより固定化、定着させることで、中空糸基材上に分離機能層を有する複合中空糸膜を形成することができる。なお、以下においては、高分子溶液を製膜原液として用い、それを層分離させることで複合中空糸膜を得る態様を詳述するが、かかる態様の代わりに、ポリアミック酸などの反応性樹脂前駆体溶液や重合性のモノマー溶液を用い、それらを、高分子溶液を用いる場合と同様にして中空糸基材にコーティングし、環化反応、架橋反応、重合反応などを進行させることにより複合中空糸膜を得てもよい。
【0012】
<高分子溶液>
本発明において高分子溶液とは、基材上に分離機能層となるコーティング層を形成するため、コーティング層の前駆体に流動性を持たせたものであり、特に限定されないが、主に高分子化合物と溶媒とから構成される。
【0013】
高分子化合物とは、溶媒に溶解されるものである必要があり、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルを挙げることができる。さらに、酢酸セルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、再生セルロースまたはこれらの混合物等のセルロース系材料、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアラミド、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂なども挙げることができる。これら樹脂は1種類のみを用いても、複数種類を組み合わせて用いても良い。
【0014】
また溶媒は、前記高分子化合物を溶解するものである必要があり、1種類のみでも、複数種類を組み合わせて使用しても良い。高分子溶液の溶媒としては高分子が溶解する溶媒であれば任意に使用できる。一例として、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒や、メタノールやエタノールなどのアルコール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタンなど各種溶媒を使用できる。
【0015】
高分子溶液は、粘度が1~500Pa・sであることが好ましい。高分子溶液の粘度は高いほど、絞り膜厚作用を受けやすくなり円周方向のコーティング膜厚の均一性が高くなるので、高分子溶液の粘度は1Pa・s以上が好ましく、20Pa・s以上がより好ましい。一方、粘度が高くなりすぎると、高分子溶液の調整や送液が困難になるため、高分子溶液の粘度は500Pa・s以下が好ましく、300Pa・s以下がより好ましい。なお、粘度はJIS Z 8803:2011 10(円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法)に準拠し、回転粘度計(MCR301、Anton-Paar社製)を用いて、25℃においてせん断速度1sec-1で測定する。
【0016】
高分子溶液には、その特性を大きく損ねない範囲で、製膜性を改善したり膜物性を向上させたりすることを目的として、各種添加剤を含有してもよい。各種添加材は前記目的に合致するものであれば特に限定されないが、相分離を利用した多孔性材料を作製するという目的には非溶媒が好ましい。非溶媒は、コーティング層からの脱溶媒の観点から前記の溶媒と混和するものが選択されることが好ましい。
【0017】
<中空糸基材>
本発明における中空糸基材(以下、基材と呼称する場合もある)は、その形状が限定されず、中空糸やチューブ状の形状であれば従来公知のものを任意に選択することができる。基材の材質は、特に限定されないが、従来公知のものから選択されることが好ましい。一例として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン若しくはポリフッ化ビニリデン等の、織物、編物、組物、不織布などの繊維構造体からなるチューブが挙げられる。また、アルミナやジルコニアのチューブ、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、もしくはそれらの繊維構造体など、無機材料からなる基材を用いることも好ましい。基材が無機材料であると、耐薬品性に優れ、高分子溶液をコーティングする際に、高分子溶液に含有される溶媒による中空糸基材の変形が抑制され、膜厚均一性に優れたコーティング膜が得られる。
【0018】
基材は無孔質でも多孔質でもよいが、多孔質であることが好ましい。基材が多孔質であると、基材とコーティング膜との接着性が良く、引張強度が向上するため、工程通過性に優れる。また、基材が多孔質であると透過抵抗が小さく、最終的に得られる複合中空糸膜の流体透過性を高めることからも、基材は多孔質であることが好ましい。
【0019】
基材の物性も、特に限定されないが、膜厚均一性の観点から軸方向の引張弾性率が1~100GPaの範囲であることが好ましい。コーティングノズルを通過する際に圧縮応力を受け基材が変形すると膜厚均一性が低下するため、基材の変形抑制の観点から引張弾性率は1GPa以上であることが好ましい。すなわち、引張弾性率が1GPa以上であると、コーティングノズル内部の圧力による基材の変形を抑制でき、膜厚均一性が向上するため、品質に優れたコーティング膜が得られる。一方、基材の引張弾性率は、低いほど基材が柔軟で、破断を抑制して長時間安定的にコーティングできることから、100GPa以下が好ましく、50GPa以下がより好ましい。引張弾性率は、JIS L 1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法) 8.9のA法に従って測定される。
【0020】
<コーティングノズル>
〔形状〕
本発明で用いるコーティングノズルとしては、例えば
図1に示すように、ノズル本体31と導出管32とから構成され、これらによって内部に高分子溶液の貯留部13を形成しているものなどを用いることができる。
図1に示すコーティングノズルにおいては、ノズル本体31に、高分子溶液供給部11となる開口部と、中空糸基材導入部12となる開口部とが形成され、中空糸基材1の走行方向下流側に導出管32が接続されている。導出管32は、中空糸基材1の走行方向下流側に向かうに従って径が小さくなるテーパー部14と、そのテーパー部に続く、中空糸基材をコーティングノズル3の系外へ導出する導出平行部15とから構成されている。
【0021】
高分子溶液の貯留部13は、ノズル本体31と導出管32の内部を高分子溶液で満たす機能を有していれば形状は特に限定されず、基材の軸方向に対して垂直方向の断面形状は、円形や多角形など任意に選択できる。外観形状は特に制限されず、円錐形や円筒形、角柱形など任意に選択できる。
【0022】
中空糸基材導入部12となる開口部は、基材を高分子溶液の貯留部13へ導く機能を有していれば特に限定されず、基材の軸方向に対して垂直方向の断面形状は、円形や多角形など任意に選択できる。断面形状は基材の状態に合わせて任意に選択することが可能であるが、基材の断面形状における外形と同様の断面形状を持つものであることが好ましい。すなわち、基材の断面形状における外形が円形である場合には、開口部の断面形状も円形であることが好ましい。
【0023】
テーパー部14は、基材に高分子溶液を付与する機能に加え、導出平行部に向かってその断面積が狭まることで絞り膜厚作用を発現する。すなわち、流体力学における流体潤滑の原理によれば、二つの面の間に潤滑物質を流し、しかも上記の二つの面の間隔が潤滑物質の流れ方向に沿って狭くなっている場合、潤滑物質にはその流れに対して垂直な方向に潤滑膜圧力が発生し、潤滑物質が幅方向に拡げられる。これを絞り膜圧作用(スクイーズ作用)という。これによりテーパー部を有するコーティングノズルを用いて得た分離機能層は、その膜厚均一性が向上する。テーパー部14の角度は大きいほど、高分子溶液から基材が受けるせん断力が小さくなり、基材の切断が防止され工程通過性に優れる。一方、テーパー部14の角度は小さいほど、基材とコーティングノズルとの中心軸のずれが小さくなるという効果が得られる。その結果、膜厚均一性に優れる品質安定性の良い膜が得られ、最終的に得られる複合中空糸膜の流体透過性も高めることができる。以上の観点から、テーパー部14の角度は、導出平行部を基準として、2°~40°であることが好ましく、中でも、工程通過性と膜厚均一性とをバランスよく向上するという観点からは、5°~25°であることがより好ましい。
【0024】
導出平行部15は、コーティングノズルから基材を導出する際に基材の位置を規制する役割を果たす。導出平行部15は、基材の軸方向に沿った長さが長いほど、基材の周方向における膜厚均一性が高くなる。そのため、導出平行部15の基材の軸方向に沿った長さは、0.1mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましい。一方、導出平行部15が長くなりすぎると、基材が通過する際に高分子溶液から基材が受けるせん断力が大きくなり、基材が切断される懸念がある。そのため、導出平行部15の基材の軸方向の長さは30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。特に、高分子溶液の25℃における粘度が30Pa・s以上の場合、導出平行部15の基材軸方向の長さが1mm以上5mm以下であると、膜厚均一性と工程通過性とに極めて優れることから、より好ましい。
【0025】
そして、本発明においては、導出平行部15の内径を、用いる中空糸基材の外径に応じて設定する。すなわち、導出平行部15の内径Aと中空糸基材1の平均外径Bとの比B/Aが1以上となるように設定する。導出平行部15の内径Aがかかる関係を満足することで、コーティングによって形成される分離機能膜の膜厚均一性を高めつつ膜厚を薄くすることができる。すなわちB/A比が1以上であると、ノズルと中空糸基材のクリアランスが基材による導出平行部の拡幅分のみと非常に小さいため、基材とコーティングノズルとの中心軸のずれが小さくなるという効果が得られる。その結果、薄膜でありながら膜厚均一性に優れる品質安定性の良い膜が得られ、最終的に得られる複合中空糸膜の流体透過性も高めることができる。
【0026】
ここで、導出平行部15の内径Aは、導出平行部15における基材の軸方向長さが二等分となる位置において、基材の軸方向に対して垂直に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察し、その断面の内側に存在する空隙部分に対して楕円をフィッティングし、該楕円における長径および短径から、(長径+短径)/2として算出した内径である。また、基材の平均外径Bとは、基材1mについて、軸方向に100mm単位で基材断面を走査型電子顕微鏡で観察し、各断面に対して楕円をフィッティングし、その楕円における長径および短径から、(長径+短径)/2として算出した外径の平均値である。
【0027】
なお、B/A比は、小さいほど基材が導出平行部を通過しやすい。そのため、B/A比は1.5以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。
【0028】
高分子溶液供給部11は、コーティングノズルの貯留部13に高分子溶液を供給する機能を有していれば特に限定されない。たとえば、供給ラインとの接続の観点から従来公知のものを用いることが可能であるが、加工や接続の容易性から断面形状が円形状であることが好ましい。
【0029】
〔材質〕
コーティングノズルにおいて、高分子溶液の貯留部13、中空糸基材導入部12、および高分子溶液供給部11の材質は特に限定されず、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂またはステンレス等の金属などが例示される。そして、かかる部位の材質は導出平行部と同一の素材であってもよく、耐薬品性、成形性、機械的強度等を考慮して選択することが好ましい。
【0030】
一方、導出平行部15は、柔らかい材質であれば、ノズル内部に存在する高分子溶液に発生する圧力により導出平行部が拡幅されるので、基材の切断や詰まりを抑制でき、また、基材の外径変動が大きい場合にも基材が導出平行部を通過しやすい。そのため、導出平行部15の内表面のマルテンス硬さが5N/mm2以下であることが好ましい。5N/mm2以下の場合は、基材の外径変動による基材の破断を抑制する効果が得られることから好ましく、3N/mm2以下であることが更に好ましい。一方、導出平行部15の内表面のマルテンス硬さが大きいと、導出平行部の変形が抑制され、基材と導出平行部とのクリアランスが保持され易い。そのため、マルテンス硬さは0.3N/mm2以上であることが好ましい。よって、導出平行部の内表面を構成する材質は、マルテンス硬さ0.3~5N/mm2の範囲で適切に選択されることが好ましい。
【0031】
ここで定義するマルテンス硬さは、ISO14577-1:2015(計装化押し込み硬さ)における材料パラメータ(Annex A)に対応したマイクロレンジの押し込み硬さの評価において、圧子の押し込み過程の試験力と押し込み深さの関係から算出され、塑性変形および弾性変形の両方を含む硬さの指標である。本手法により得られたマルテンス硬さの値が大きいほど硬いことを示す。マルテンス硬さはナノインデンターや微小硬度計により測定する。具体的には、圧子の押し込み負荷増加時の最大試験荷重と押し込み深さ曲線を取得し、下記式にて算出された値を採用する。また測定では角度115°の三角錐型の圧子を用いる。
HM=F/As(h)=F/(26.43×h2)
【0032】
ここで、HMはマルテンス硬さ[N/mm2]、Fは最大試験荷重[N]、As(h)は深さhにおける圧子の表面積[mm2]、hは押し込み深さ[mm]を示す。
【0033】
コーティングノズルの内表面のマルテンス硬さ測定は、基材の軸方向に対して垂直な2つの断面を形成し、断面間の厚みが0.1mmとなるようにコーティングノズルの導出平行部を切り出して試料とし、試料が形成する2つの断面のうちの1つの断面が下になるようにシリコン基板へ接着、固定して微小硬度測定を行う。ここで微小硬度測定箇所は、試料断面のうち、導出平行部を形成する厚みの1/2よりも基材が通る側とする。ただし微小硬度測定を行う箇所は、圧痕の面積に対して10倍以上の面積を持つ部分を選択し、押し込み試験力は0.1mN、また押し込み深さは10μm以内で、任意の10か所について測定を行った後、最大値と最小値を除く8点のデータについて、相加平均した値を採用する。
【0034】
導出平行部を構成する材質として、具体的には、ゴムや熱可塑性エラストマーが挙げられる。ゴムの一例としては、天然ゴム(NR)、合成天然ゴム(イソプレンゴム)(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EP)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM、ANM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム(PUR、U)、シリコーンゴム(Si、Q、VMQ、SR)、フッ素ゴム(FKM、FEPM、FFKM)、エチレン・酢酸ビニルゴム(EVA)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、多硫化ゴム(T)が好ましい。また、熱可塑性エラストマーの一例としては、ポリスチレン系、オレフィン/アルケン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系エラストマーが挙げられる。高分子溶液が含有する溶媒に対する耐溶剤性と、機械的強度の観点から、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴムまたはシリコーンゴムが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の好ましい実施の例を記載するが、これらの記載は本発明を限定するものではない。
【0036】
[膜厚均一性]
得られたコーティング膜の膜厚均一性を評価するため、コーティング膜の最大平均膜厚、最小平均膜厚を測定し、最大平均膜厚/最小平均膜厚の比を膜厚均一性の指標とした。比は、1.2以下であれば非常に優れた均一性、1.2より大きく1.5以下は優れた均一性、1.5より大きく3.0以下は良好な均一性とし、3.0より大きいものは不適とした。ここで最大平均膜厚及び最小平均膜厚は、次のように算出した。まず、コーティング膜1mを100mm単位で変形を抑制しつつ切断し、膜断面を走査型電子顕微鏡で観察した。各断面に対して基材部分に最小二乗法により楕円をフィッティングし、得られた楕円に対する接線と垂直な方向に、接点から基材外側へスキャンして膜厚を測定した。そして、観察した膜断面における最大値と最小値とをそれぞれ算出し、観察した断面すべてにおける最大値の相加平均値、最小値の相加平均値を、それぞれ最大平均膜厚及び最小平均膜厚とした。
【0037】
[実施例1]
二液硬化型シリコーンゴムをコーティングノズルの金型に流し込み、熱風乾燥機内で加熱して架橋反応を行った後に冷却して金型から樹脂を取り出すことによって、シリコーンゴムからなる、コーティングノズルを作製した。作製したコーティングノズルにおいて、導出平行部15は中空管状であり、内径Aが4300μm、基材の軸方向の長さが2mmであった。また、導出平行部の内表面のマルテンス硬さは0.5N/mm2であった。そして、導出平行部を基準としたテーパー部14の角度は30°であった。
【0038】
作製したコーティングノズルを用いて、多孔質アルミナからなる基材(中空形状、引張弾性率7GPa、外径5000±100μm、平均外径B5000μm)上にコーティング層を形成した。このとき、B/A比は1.16であった。なお、コーティング層形成時の詳細な条件は次のとおりであった。
【0039】
コーティングノズルに、ポリアクリロニトリル/ジメチルスルホキシド(DMSO)(質量比30/70)からなる高分子溶液を供給するとともに、基材を搬送して、基材上に高分子溶液をコーティングした。その後、凝固および乾燥工程を経て、基材上にコーティング層を形成した。
【0040】
コーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.14であり、非常に優れた膜厚均一性と工程通過性を示した。特に工程通過性は、50m分の連続運転でも基材の切断が見られない非常に優れたものであった。
【0041】
[実施例2]
コーティングノズルの導出平行部の内径Aを4900μmに変更した以外は、実施例1と同様にしてコーティング層を形成した。このとき、B/A比は1.02であった。
【0042】
コーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.31であり、優れた膜厚均一性を示し、特に工程通過性は50m分の連続運転でも基材の切断が見られない、非常に優れたものであった。
【0043】
[実施例3]
コーティングノズルの導出平行部の内径Aを3400μmに変更した以外は、実施例1と同様にしてコーティング層を形成した。このとき、B/A比は1.47であった。
【0044】
コーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.09であり、非常に優れた膜厚均一性と、50m分の連続運転で1度の基材の切断があったものの、良好な工程通過性を示した。
【0045】
[比較例1]
コーティングノズルの導出平行部の長さを0.7mmに変更した以外は、実施例1と同様にしてコーティング層を形成した。
【0046】
コーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.46であり、優れた膜厚均一性を示し、工程通過性は、50m分の連続運転でも基材の切断が見られない非常に優れたものであった。
【0047】
[実施例4]
コーティングノズルの導出平行部の長さを28mmに変更した以外は、実施例1と同様にしてコーティング層を形成した。
【0048】
得られたコーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.05であり、非常に優れた膜厚均一性を示した。また工程通過性は、50m分の連続運転でも基材の切断が見られない非常に優れたものであった。
【0049】
[比較例2]
コーティングノズルの導出平行部の長さを35mmに変更した以外は、実施例1と同様にしてコーティング層を形成した。
【0050】
得られたコーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.08であり、非常に優れた膜厚均一性を示した。また50m分の連続運転で2度の基材切断があったものの、良好な工程通過性を示した。
【0051】
[実施例5]
実施例1と同様の手法により、導出平行部15が中空管状で、その内径Aが260μm、基材の軸方向の長さが2mmのコーティングノズルを作製した。また、導出平行部の内表面のマルテンス硬さは0.5N/mm2であった。導出平行部を基準としたテーパー部14の角度は30°であった。
【0052】
作製したコーティングノズルを用いて、ポリスルホンからなる多孔質基材(中空形状、引張弾性率1.5GPa、外径300±10μm、平均外径B300μm)上に、実施例1と同様にコーティング層を形成した。このとき、B/A比は1.15であった。
【0053】
コーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.41であり、優れた膜厚均一性を示し、工程通過性は、50m分の連続運転でも基材の切断が見られない非常に優れたものであった。
【0054】
[実施例6]
実施例1と同様の手法により、導出平行部15が中空管状で、その内径Aが430μm、基材の軸方向の長さが2mmのコーティングノズルを作製した。また、導出平行部の内表面のマルテンス硬さは0.5N/mm2であった。導出平行部を基準としたテーパー部14の角度は30°であった。
【0055】
作製したコーティングノズルを用いて、ポリエチレンからなる多孔質基材(中空形状、引張弾性率0.7GPa、外径500±10μm、平均外径B500μm)上に、実施例1と同様にコーティング層を形成した。このとき、B/A比は1.16であった。
【0056】
コーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は2.27であり、良好な膜厚均一性を示し、工程通過性は、50m分の連続運転でも基材の切断が見られない非常に優れたものであった。
【0057】
[実施例7]
空隙率を適宜調整して引張弾性率を54GPaとした多孔質アルミナからなる基材(中空形状、外径5000±100μm、平均外径B5000μm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてコーティング層を形成した。
【0058】
得られたコーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.08であり、非常に優れた膜厚均一性を示した。また50m分の連続運転で1度の基材切断があったものの、良好な工程通過性を示した。
【0059】
[実施例8]
実施例1と同様の手法にて、シリコーンゴムの架橋度を適宜調整し、導出平行部の内表面のマルテンス硬さが6.5N/mm2のコーティングノズルを作製した。導出平行部は、中空管状であり、内径Aが4300μm、基材の軸方向の長さが2mmであった。導出平行部を基準としたテーパー部14の角度は30°であった。
【0060】
作製したコーティングノズルを用いて、実施例1と同様の基材上にコーティング層を形成した。
【0061】
コーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.10であり、非常に優れた膜厚均一性を示した。また50m分の連続運転で1度の基材切断があったものの、良好な工程通過性を示した。
【0062】
[実施例9]
コーティングノズルのテーパー部の角度を8°に変更した以外は、実施例1と同様にしてコーティング層を形成した。
【0063】
得られたコーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.03であり、非常に優れた膜厚均一性を示した。また50m分の連続運転で1度の基材切断があったものの、良好な工程通過性を示した。
【0064】
[実施例10]
コーティングノズルのテーパー部の角度を24°に変更した以外は、実施例1と同様にしてコーティング層を形成した。
【0065】
得られたコーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は1.08であり、非常に優れた膜厚均一性を示した。また工程通過性は、50m分の連続運転でも基材の切断が見られない非常に優れたものであった。
【0066】
[比較例3]
導出平行部の内径Aが5300μmのコーティングノズルを使用した以外は、実施例1と同様にコーティング層を形成した。このとき、B/A比は0.94であった。
【0067】
50m分の連続運転でも基材の切断が見られなかったが、コーティング層の最大平均膜厚/最小平均膜厚の比は3.52であり、膜厚均一性に劣っていた。
【0068】
【0069】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、複数のガスや液体などの混合流体から所望の成分を分離するために用いられる複合中空糸膜の製造に際して、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 中空糸基材
3 コーティングノズル
11 高分子溶液供給部
12 中空糸基材導入部
13 高分子溶液の貯留部
14 テーパー部
15 導出平行部
16 導出平行部の内層
17 導出平行部の外層
31 ノズル本体
32 導出管