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特許7647138異常診断システムおよび異常診断方法、周波数の揺らぎ補正処理装置および補正処理方法、異常診断プログラムおよび周波数の揺らぎ補正処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】異常診断システムおよび異常診断方法、周波数の揺らぎ補正処理装置および補正処理方法、異常診断プログラムおよび周波数の揺らぎ補正処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20250311BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021018234
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2022121075
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】堀 貴雅
(72)【発明者】
【氏名】林 孝則
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-046211(JP,A)
【文献】特開2006-113002(JP,A)
【文献】特開2006-125976(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068446(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159784(WO,A1)
【文献】特開2020-030111(JP,A)
【文献】特開2013-200144(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0104200(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - 17/00
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
G05B 23/00 - 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する異常診断システムであって、
前記診断対象の加速度データについて周波数の揺らぎ補正を行う補正処理部と、
前記揺らぎ補正の結果を逐次学習して学習結果モデルを生成する逐次学習処理部と、
前記学習結果モデルを用いて診断対象の現在の加速度データに基づき前記異常の有無を判定する診断処理部と、
を備え、
前記補正処理部は、前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を実行する移動平均部を備え、
前記移動平均部は、周波数の幅を移動平均の幅とし、前記周波数データの周波数帯域毎に移動平均の幅を定める
ことを特徴とする異常診断システム。
【請求項2】
診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する異常診断システムであって、
前記診断対象の加速度データについて周波数の揺らぎ補正を行う補正処理部と、
前記揺らぎ補正の結果を逐次学習して学習結果モデルを生成する逐次学習処理部と、
前記学習結果モデルを用いて診断対象の現在の加速度データに基づき前記異常の有無を判定する診断処理部と、
を備え、
前記補正処理部は、前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を実行する移動平均部を備え、
前記移動平均部は、周波数の幅を移動平均の幅とし、前記加速度データを周波数変換した周波数データの周波数帯に応じて移動平均の幅を変動させる
ことを特徴とする異常診断システム。
【請求項3】
診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する際、診断対象の加速度データについて周波数の揺らぎ補正を行う装置であって
前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を行ことで前記揺らぎを補正する移動平均部を備え、
前記移動平均部は、周波数の幅を移動平均の幅とし、前記周波数データの周波数帯域毎に移動平均の幅を定める
ことを特徴とする補正処理装置。
【請求項4】
診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する際、診断対象の加速度データについて周波数の揺らぎ補正を行う装置であって
前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を行ことで前記揺らぎを補正する移動平均部を備え、
前記移動平均部は、周波数の幅を移動平均の幅とし、前記加速度データを周波数変換した周波数データの周波数帯に応じて移動平均の幅を変動させる
ことを特徴とする補正処理装置。
【請求項5】
コンピュータにより診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する異常診断方法であって、
前記診断対象の加速度データについて周波数の揺らぎ補正を行う補正処理ステップと、
前記揺らぎ補正の結果を逐次学習して学習結果モデルを生成する逐次学習処理ステップと、
前記学習結果モデルを用いて診断対象の現在の加速度データに基づき前記異常の有無を判定する診断処理ステップと、
を有し、
前記補正処理ステップは、前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を実行する移動平均ステップを有し、
前記移動平均ステップは、周波数の幅を移動平均の幅とし、前記周波数データの周波数帯域毎に移動平均の幅を定める
ことを特徴とする異常診断方法。
【請求項6】
コンピュータにより診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する異常診断方法であって、
前記診断対象の加速度データについて周波数の揺らぎ補正を行う補正処理ステップと、
前記揺らぎ補正の結果を逐次学習して学習結果モデルを生成する逐次学習処理ステップと、
前記学習結果モデルを用いて診断対象の現在の加速度データに基づき前記異常の有無を判定する診断処理ステップと、
を有し、
前記補正処理ステップは、前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を実行する移動平均ステップを有し、
前記移動平均ステップは、周波数の幅を移動平均の幅とし、前記加速度データを周波数変換した周波数データの周波数帯に応じて移動平均の幅を変動させる
ことを特徴とする異常診断方法。
【請求項7】
診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する際、コンピュータにより診断対象の加速度データについて周波数の揺らぎ補正を行う方法であって
前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を行ことで前記揺らぎを補正する移動平均ステップを有し、
前記移動平均ステップは、周波数の幅を移動平均の幅とし、前記周波数データの周波数帯域毎に移動平均の幅を定める
ことを特徴とする補正処理方法
【請求項8】
診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する際、コンピュータにより診断対象の加速度データについて周波数の揺らぎ補正を行う方法であって
前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を行ことで前記揺らぎを補正する移動平均ステップを有し、
前記移動平均ステップは、周波数の幅を移動平均の幅とし、前記加速度データを周波数変換した周波数データの周波数帯に応じて移動平均の幅を変動させる
ことを特徴とする補正処理方法。
【請求項9】
請求項1または2記載の異常診断システムとして、
コンピュータを機能させることを特徴とする異常診断プログラム。
【請求項10】
請求項3または4記載の補正処理装置として、
コンピュータを機能させることを特徴とする補正処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断対象の稼働状態を逐次学習し、学習結果に基づき異常を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機などの機器の異常診断は、診断対象の機器に設置された加速度センサの加速度データの定Q変換などに基づく診断により行われている(特許文献1,2参照)。
【0003】
基本的な診断手法として診断対象が正常に動作し続けている場合には異常時の加速度データが少ないことから、正常時の加速度データのみを学習して現在の加速度データが正常時と比較してどれだけ異なっているかを数値化することで、診断対象の正常/異常を診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-198619
【文献】特開2017-198620
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(1)従来の異常診断の手法は、以下に示す事情により診断の精度が低下するおそれがあった。
【0006】
すなわち、前述のように診断対象が安定稼働している正常動作時の状態を学習するため、診断対象の稼働停止時(以下、「過渡期」と記述する。)の不安定な加速度が異常と判定される場合があった。
【0007】
また、加速度センサの設置直後や、診断対象の修繕を行った直後などは加速度センサの出力が安定しない場合もあった。例えば加速度センサは、マグネット吸着や接着剤、ボルト締めなどで診断対象に設置されるが、設置状態の馴染むまでセンサ出力が安定しない。また、診断対象の修繕を行った場合、対象機器を土台にボルト締めすることが多く、ボルト締め具合などが馴染むまでセンサ出力が安定しない。
【0008】
このようなセンサ出力が安定しない過渡期の加速度データは、安定稼働中に比べて加速度が大きかったり小さかったりするので、その期間のデータを学習すると診断精度が低下してしまう。
【0009】
さらに図1に示すように、ある一定の期間(例えば1週間または1か月)の診断対象の加速度データを学習すると、その期間を基準に年変動が発生する。この年変動の影響により、診断対象が正常である場合でも閾値を超えて異常が誤検出される場合がある。このような年変動は、温度により診断対象の膨張や収縮を招き、ポンプなどの場合には水に溶け込む空気量が変化することが影響しているものと考えられている。
【0010】
(2)そこで、加速度センサによる加速度データを学習・診断する際、加速度データを変換した周波数データをオクターブ周波数毎に区切り、区切られた区間毎に平均値などの特徴量を算出し、算出された特徴量から過渡期と判定された区間を学習・診断の対象から除外する手法が提案されている。
【0011】
このような手法は、図2(a)に示すように、回転機1の土台3が強固であれば問題は生じない。ところが、図2(b)に示すように、不安定な土台3の上に回転機1を設置した場合、加速度センサ2による加速度データは回転機1の振動だけでなく、土台3の振動にも影響されてしまう。
【0012】
その結果、図3に示すように、土台3の振動により周波数が揺らいでしまって、学習・診断の対象データ(学習データ・周波数データ)に回転機1の本来の周波数が現れないおそれがある。
【0013】
また、前記揺らぎに起因して前記区切りの位置では、周波数成分がどちらの区間に含まるかによって学習データ・診断データが大きく変わるおそれがある。例えば回転周波数の大きな成分が区切りの位置となった場合には、どちらの区間に含まるかによって前記特徴量が大きく異なってしまう。
【0014】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、加速度データの振幅の揺らぎの影響を抑えて診断精度の向上を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明の一態様は、診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する異常診断システムであって、
前記診断対象の加速度データから得られた加速度振幅の移動平均に基づき揺らぎ補正を行う補正処理部と、
前記揺らぎ補正の結果を逐次学習して学習結果モデルを生成する逐次学習処理部と、
前記学習結果モデルを用いて診断対象の現在の加速度データに基づき前記異常の有無を判定する診断処理部と、を備える。
【0016】
(2)本発明の他の態様は、診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する際、診断対象の加速度データの加速度振幅の揺らぎを補正する装置であって、
前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を行ことで前記揺らぎを補正する移動平均部を備える。
【0017】
(3)本発明のさらに他の態様は、コンピュータにより診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する異常診断方法であって、
前記診断対象の加速度データから得られた加速度振幅の移動平均に基づき揺らぎ補正を行う補正処理ステップと、
前記揺らぎ補正の結果を逐次学習して学習結果モデルを生成する逐次学習処理ステップと、
前記学習結果モデルを用いて診断対象の現在の加速度データに基づき前記異常の有無を判定する診断処理ステップと、を有する。
【0018】
(4)本発明のさらに他の態様は、診断対象の稼働状態を逐次学習して異常を診断する際、コンピュータにより診断対象の加速度データの加速度振幅の揺らぎを補正する方法であって、
前記加速度データを周波数変換した周波数データに基づき周波数の移動平均処理を行ことで前記揺らぎを補正する移動平均ステップを有する。
【0019】
(5)なお、本発明は、コンピュータを前記異常診断システム/前記周波数の揺らぎ補正処理装置として機能させるプログラムとして構成することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加速度データの振幅の揺らぎの影響を抑えて異常診断の精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】診断対象の稼働データの変動を示した乖離度の経時的変化を示すグラフ。
図2】(a)は診断対象の回転機を強固な土台の上に設置した状態を示すイメージ図、(b)は前記回転機を不安定な土台の上に設置した状態を示すイメージ図。
図3】周波数解析結果の揺らぎを示すグラフ。
図4】本発明の実施形態に係る異常診断システムにより回転機を診断する状態を示す構成図。
図5】実施例1の異常診断システムの構成図。
図6】同 周波数揺らぎ補正処理部の構成図。
図7】同 異常診断の処理内容を示すフローチャート。
図8】N次の周波数ずれを示すグラフ。
図9】実施例2の周波数揺らぎ補正処理部の構成図。
図10】実施例3の周波数揺らぎ補正処理部の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る異常診断システムを説明する。この異常診断システムは、診断対象の周波数解析時に移動平均処理を施すことにより、周波数の揺らぎ補正を行って異常診断の精度向上を図っている。ここでは回転機(電動機・発電機)を診断対象の機器の一例として説明する。
【0023】
図4中の1は、ポンプ・ターボブロワ・水車などの回転体設備4に接続された診断対象の回転機を示している。この回転機1の軸受などには加速度センサ2が設置され、また加速度センサ2の出力信号を加速度データとして計測するデータ計測器5が設置されている。
【0024】
このような設置状態の下、前記異常診断システム6は、データ計測器5の計測した加速度データを解析し、回転機1の稼働状態を診断する。このとき加速度センサ2・データ計測器5・前記異常診断システム6は、有線/無線によりそれぞれ接続され、データ送受信が可能となっている。以下、前記異常診断システム6を実施例1~3に基づき具体的に説明する。
【実施例1】
【0025】
図5図7に基づき前記異常診断システム6の実施例1を説明する。ここでは前記異常診断システム6には、計測器5により計測された回転機1の加速度データが入力される。
【0026】
(1)前記異常診断システムの構成例
前記異常診断システム6は、コンピュータにより構成され、通常のコンピュータのハードウェアリソース(例えばCPU,RAM・ROMなどの一次憶装置,HDD,SSDなどの二次記憶装置)を備えている。
【0027】
このハードウェアリソースとソフトウェアリソース(OS,アプリケーションなど)との協働の結果、前記異常診断システム6は、図5に示すように、記憶部7,周波数の揺らぎ補正処理部8,過渡期除去部9,学習期間選定部10,逐次学習処理部11,診断処理部12,診断結果伝送部13とを実装する。
【0028】
記憶部7は、コンピュータの一次記憶装置/二次記憶装置に構築され、前記異常診断システム6に入力された加速度データが記憶され、また各部8~12の出力データが記憶される。
【0029】
前記補正処理部8は、記憶部7の加速度データを入力とし、図6に示すように、周波数変換部15,移動平均部16を実装する。この周波数変換部15は、入力された加速度データを周波数データに変換し、変換された周波数データを移動平均部16に出力する。
【0030】
移動平均部16には、周波数変換部15の出力した周波数データが入力され、入力された周波数データについて周波数強度の移動平均処理を行うことで周波数の揺らぎ補正を実行する。
【0031】
このとき本実施例では、事前に加速度データの計測時間に応じて定めた周波数の幅を移動平均の幅として、周波数強度の移動平均処理を行うものとする。なお、前記揺らぎ補正結果、即ち前記揺らぎ補正後の周波数データは記憶部7に出力される。
【0032】
過渡期除去部9は、図5に示すように、記憶部7に記憶された前記揺らぎ補正結果(前記揺らぎ補正後の周波数データ)を入力とし、回転機1の稼働状態が過渡期であるか否かを判定する。このとき過渡期と判定すれば、該周波数データを逐次学習・診断の対象データ(学習データ・診断データ)から除外する。この過渡期除去結果は記憶部7に出力される。
【0033】
学習期間選定部10は、過渡期ではないと判定された学習データを入力として逐次学習の期間を自動的に選定する。ここで選定された学習期間データは、記憶部7に出力される。
【0034】
逐次学習処理部11は、記憶部7に記憶された前記揺らぎ補正結果および学習期間データを入力とする。ここでは学習期間に応じた前記揺らぎ補正後の周波数データに基づき回転機1の正常な稼働状態を逐次的に学習し、学習結果モデルを生成する。この逐次学習の結果、生成された学習結果モデルは、記憶部7に出力される。
【0035】
診断処理部12は、記憶部7に記憶された現在の回転機1の加速度データおよび学習結果モデルを入力とする。ここでは学習結果モデルを用いて現在の加速度データから回転機1の状態を診断し、診断結果データを記憶部7に出力する。
【0036】
なお、診断結果伝送部13は、記憶部7に記憶された診断結果データを入力とし、入力された診断結果データを監視制御システムやクラウドシステムに伝送する通信制御部として機能する。
【0037】
(2)前記異常診断システム6の処理内容
図7に基づき前記異常診断システム6の処理内容(S01~S09)を説明する。ここでは回転機1の正常状態を逐次学習する学習ステージ(S01~S07)と、現在の回転機1の状態が異常か否かを判定する診断ステージ(S08,S09)とが実行される。
【0038】
S01:正常状態の回転機1の稼働により処理が開始され、加速度センサ2の出力信号がデータ計測器5により加速度データとして計測され、計測された加速度データが記憶部7に順次記憶される。
【0039】
S02:前記補正処理部8は、記憶部7に記憶された加速度について周波数の揺らぎ補正を実行する。ここでは周波数変換部15が、入力された加速度データを定Q変換(特許文献1,2参照)やフーリエ変換などの手法により周波数データに変換する。変換された周波数データに対して、移動平均部16が周波数の揺らぎ補正を実行する。
【0040】
この場合、図2(b)に示した不安定な土台3などによる振動の影響で周波数ずれが発生したとしても、「1Hz」以上のずれが発生することは殆ど無い。そのため、事前に「1Hz」の範囲の幅を移動平均の幅と定めて、周波数強度の移動平均処理を実行する。
【0041】
このような移動平均処理による周波数の揺らぎ補正は、入力された加速度データに対する周波数解析として行われる。このとき加速度データの計測時間によって周波数の分解能が異なるので、計測時間を考慮して移動平均の幅を定める。
【0042】
例えば計測時間が「10秒」の場合には周波数の分解能が「0.1Hz」刻みとなる。そこで、時系列の周波数データに対して「1Hz」の範囲の移動平均を行うために移動平均の幅を「0.1Hz」として10サンプル分化し、各サンプルの平均値をグラフ化して移動平均の処理を実行する。
【0043】
S03:過渡期除去部9が、前記補正後の周波数データに回転機1の稼働の過渡期のデータが含まれるか否かを確認する。例えば前記補正後の周波数データを分割し、分割された各区間の周波数ピーク値を求め、各周波数のピーク値間に閾値(1~2Hz)以上の差があれば過渡期と判定する。確認の結果、過渡期と判定されれば、学習データ・診断データから除外し、記憶部7に過渡期除去結果を出力して記憶部7の記憶データを更新する。
【0044】
S04:学習期間選定部10は、S03の処理後に記憶部7から学習データ(過渡期と判定されなかった学習データ)を取得し、加速度センサ2のセンサ出力が安定した期間を学習期間として選定する。
【0045】
例えばセンサ設置後や修繕後は実行値が高くなるため、加速度データの実効値の移動平均を計算し、該移動平均の傾きを求める。この傾きの標準偏差を計算し、該傾きが一週間「±δ」の範囲に収まった時点を学習期間の開始時期として選定することができる。
【0046】
S05:S04で学習期間が選定された場合、逐次学習処理部11が1年間の逐次学習を行って学習結果モデルを生成し、S06に進む。この学習手法については、例えば特許文献1,2の手法を用いることができる。
【0047】
このとき前記異常診断システムを構成するコンピュータのCPU性能によっては、例えば毎日一つの学習データを学習してもよく、あるいは1週間に一つの学習データを学習してよりものとする。なお、S04で学習期間が選定されなかった場合はS01の処理に戻る。
【0048】
S06,S07:図1に示したような、年変動を抑制するためには最低1年間は逐次学習を継続する必要がある。そこで、逐次学習処理部11は、S05で1年分学習が終了しているか否かを確認する。確認の結果、1年分の学習が終了していなければS07に進んで逐次学習を再開し、学習結果モデルを生成する。一方、終了していればS08に進む。
【0049】
なお、1年分の学習終了後は、年変動の影響が無くなるので逐次学習を行う必要がないが、引き続き逐次学習を継続してもよいものとする。
【0050】
S08,S09:診断処理部12は、学習結果モデルを用いて現在の加速度データから回転機1の状態を診断し、診断結果を記憶部7に記憶する(S08)。ただし、現在の加速度データに周波数の揺らぎ補正(S02)・過渡期除去(S03)と同様の処理を施し、かかる処理後のデータを診断データとして診断処理部12により前記診断が行われるものとする。
【0051】
このとき基本的に回転機1などの設備の機器に異常が発生した場合、異常状態が継続することが多い。そこで、診断精度を向上させる観点から1度の診断結果だけではなく、連続して異常判定された場合に回転機1に異常が発生したもの診断する設定が好ましい。なお、診断結果伝送部13は、記憶部7に記憶されたS08の診断結果データを監視制御システムやクラウドなどに有線/無線により伝送する(S09)。
このように本実施例の前記異常診断システム6によれば、回転機1の加速度データを周波数データに変換し、変換された周波数データの周波数の範囲毎に周波数強度の移動平均処理を施すことで周波数の揺らぎ補正が実行される(S02)。
【0052】
これにより加速度データが回転機1の振動以外の要因の影響を受ける場合に前記要因の影響を抑制することが可能となる。例えば回転機1が図2(b)の不安定な土台3上に設置されている場合であっても、該土台3の振動の影響が抑制され、正確な学習データ・診断データを得ることができる。
【0053】
その結果、S03の過渡期除去処理・S04の学習期間選定処理を経て良好な学習結果モデルを生成でき、S08の診断精度が向上する。また、正確な診断データが得られるため、回転機1の現在の稼働状況を正確に把握でき、この点でも診断精度を向上させることができる。
【実施例2】
【0054】
図8および図9に基づき前記異常診断システム6の実施例2を説明する。ここでは実施例1の「周波数の揺らぎ補正処理(S02)」において、周波数帯毎に移動平均の幅を変えることで実施例1よりも揺らぎの影響を抑制する。
【0055】
すなわち、図8に示すように、周波数は倍々の位置にN次の周波数が現れるため、高周波になればなるほど周波数のずれが大きくなる。そこで、本実施例では、周波数帯に応じて移動平均の幅を変えて、周波数強度の移動平均処理を実行する。
【0056】
一般的に加速度センサ2の周波数範囲は「5kHz~10kHz」なので、その周波数範囲を想定する。このとき移動平均の幅を変える周波数の区切りは任意でよいものとする。
【0057】
ただし、通常、(A)「0~1kHz」は変位や速度などの低周波領域、(B)「1kHz」以上は加速度などの高周波領域とみなされるので、(A)(B)の周波数帯に分けることが好ましい。なお、さらに細分化して(a)1~3kHz、(b)3~5kHz、(c)5kH以上に分けてもよい。
【0058】
前述の(A)(B)の周波数帯に分けた場合に移動平均部16は、図9に示すように、(A)の周波数帯について「1Hz」の範囲で低周波の移動平均を行い、(B)の周波数帯について「10Hz」の範囲で高周波の移動平均を行う。この移動平均の幅「1Hz,10Hz」は一例であって任意に設定してよいものとする。
【0059】
このように本実施例の前記異常診断システム6によれば、周波数帯に応じて移動平均の幅を変えて周波数強度の移動平均処理が実行されるため、特に回転周波数の高調波のずれの影響が抑制され、この点で診断精度をさらに向上させることができる。
【実施例3】
【0060】
図10に基づき前記異常診断システム6の実施例3を説明する。ここでは移動平均部16における移動平均の幅を周波数に応じて変化(変動)させることで周波数の揺らぎ補正が実行される。
【0061】
すなわち、回転機1の異常診断においては回転周波数が重要となる。回転機1は、回転周波数のN次毎に回転周波数が現れるため、実施例2のように移動平均の幅を固定した場合、適切な前記揺らぎ補正が困難なおそれがある。
【0062】
例えば回転周波数が「10Hz」の場合、「20Hz」,「30Hz」などのN次に回転周波数成分が現れ、また回転周波数が「50Hz」の場合には、「100Hz」,「150Hz」などのN次に回転周波数成分が現れる。
【0063】
そうすると図2(b)の不安定な土台3などの影響により回転周波数に「0.1Hz」のずれが発生した場合、N次毎に周波数のずれが大きくなってしまう。
【0064】
ここで「1kH」までの周波数のずれを想定すると、回転周波数が「10Hz」の場合には「1kHz」までで100次の回転周波数の高調波が発生することとなる。そのため、「1kH」までに「0.1(Hz)×100(次)=10(Hz)」の周波数ずれが発生する。
【0065】
また、回転周波数が「50Hz」の場合には、「1kHz」までに20次の回転周波数の高調波が発生するため、「1kHz」までに「0.1(Hz)×20(次)=2(Hz)」の周波数ずれが発生する。このような事情からすれば回転周波数に応じて移動平均の幅を変更することで前記揺らぎ補正をより効果的に行える。
【0066】
そこで、回転機1の回転周波数を基準にして、図10に示すように、移動平均の幅を周波数変換部15で変換された周波数データの周波数帯「1~n」に応じて自動的に変えて周波数強度の移動平均処理を行う。具体的には以下のステップ(S11~S15:図示省略)により移動平均処理を行う。
【0067】
S11:回転機1の回転周波数を設定する。これは回転機1の仕様から求めて定めることができる。例えば「10Hz」などと回転周波数を設定しておくものとする。
【0068】
S12:回転機1の加速度データの計測時間を設定する。例えば「5秒」などと計測時間を設定しておくものとする。
【0069】
S13:回転機1の周波数のずれを設定する。例えば「0.1Hz」などと周波数のずれを設定しておくものとする。
【0070】
S14:現在の周波数位置、即ち周波数データ中の現在位置における移動平均の幅を計算する。ここで
・現在の周波数位置:X[Hz]
・回転周波数:N[Hz]
・計測時間:T[秒]
・周波数のずれ:H[Hz]
とすれば、移動平均の幅[W]は式(1)により計算することができる。
式(1):W=X[Hz]÷N[Hz]×H[Hz]×T[秒]
S15:S15の計算により移動平均の幅を計算し、移動平均の幅を変化させながら周波数強度の移動平均処理を行う。
【0071】
このように本実施例の前記異常診断システム6によれば、現在の周波数位置に応じた移動平均の幅が回転機1の回転周波数を基に自動的に計算されるため、低周波や高周波,高調波などを自動で考慮した移動平均処理を行うことができ、簡易に診断精度を向上させることができる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。例えば前記補正処理部8を前記異常診断システム6とは別のコンピュータに周波数の揺らぎ補正処理装置(周波数変換部15,移動平均部16)として構成してもよい。
【0073】
また、本発明は、コンピュータを前記異常判定システム6/前記周波数の揺らぎ補正装置として機能させる異常診断プログラム/周波数の揺らぎ補正処理プログラムとして構成することもできる。
【0074】
この異常診断プログラムによれば、コンピュータによりS01~S09,S11~S15などの処理ステップ(異常診断方法)が実行される。一方、周波数の揺らぎ補正処理プログラムによれば、コンピュータによりS02,S11~S15の処理ステップ(周波数の揺らぎ補正方法)が実行される。
【符号の説明】
【0075】
1…回転機(診断対象)
2…加速度センサ
3…土台
4…回転体設備
5…データ計測器
6…異常診断システム
7…記憶部
8…周波数の揺らぎ補正処理部(周波数の揺らぎ補正装置)
9…過渡期除去部
10…学習期間選定部
11…逐次学習処理部
12…診断処理部
13…診断結果伝送部
15…周波数変換部
16…移動平均部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10