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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】燃料電池触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20250311BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20250311BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20250311BHJP
   B01J 37/06 20060101ALI20250311BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20250311BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20250311BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
H01M4/86 M
B01J23/89 M
B01J37/04 102
B01J37/06
B01J37/34
H01M4/88 K
H01M4/92
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021022411
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2021190418
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2020094999
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】桑木 聴
(72)【発明者】
【氏名】長井 智幸
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0178357(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0099069(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0226120(US,A1)
【文献】Efficient synthesis of Pt-Co nanowires as cathode catalysts for proton exchange membrane fuel cells,RSC Advances,The Royal Society of Chemistry,2020年02月10日,10,p.6287-6296
【文献】The durability of carbon supported Pt nanowire as novel cathode catalyst for 1.5kW PEMFC stack,Applied Catalysis B:Environmental,ELSEVIER,2015年,162,p.133-140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
B01J 23/89
B01J 37/04
B01J 37/06
B01J 37/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた燃料電池触媒。
(1)前記燃料電池触媒は、
導電性を有する担体と、
前記担体表面に担持されたPtを含むナノワイヤ粒子と
を備えている。
(2)前記ナノワイヤ粒子は、
短径が0.8nm超10nm以下であり、
長さが10nm以上50nm以下であり、
担持率が15mass%以上50mass%以下である。
(3)前記燃料電池触媒は、MA(Pt質量当たりの活性)が500A/gPt以上30000A/gPt以下である。
【請求項2】
ECSA(有効電気化学表面積)が40m2/gPt以上200m2/gPt以下である請求項1に記載の燃料電池触媒。
【請求項3】
SA(比活性)が1400μA/cm2以上15000μA/cm2以下である請求項1又は2に記載の燃料電池触媒。
【請求項4】
Ni含有量が1.5mass%以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の燃料電池触媒。
【請求項5】
以下の構成を備えた燃料電池触媒の製造方法。
(1)前記燃料電池触媒の製造方法は、
Pt前駆体、Ni前駆体、W(CO)6及び/又はMo(CO)6、並びに、含窒素界面活性剤をオレイルアミン中に分散させ、前駆体溶液を得る第1工程と、
前記前駆体溶液を160℃以上190℃以下の温度で2時間以上保持することにより、ナノワイヤ粒子の表面が前記オレイルアミンで修飾されたナノワイヤ粒子前駆体を得る第2工程と、
前記ナノワイヤ粒子前駆体を洗浄することにより、表面を修飾している前記オレイルアミンの一部が除去された前記ナノワイヤ粒子を得る第3工程と、
導電性を有する担体の表面に、前記ナノワイヤ粒子を担持させ、前記担体表面に前記ナノワイヤ粒子が担持された触媒前駆体を得る第4工程と、
前記触媒前駆体を洗浄することにより、前記ナノワイヤ粒子の表面に残存している前記オレイルアミンをさらに除去し、請求項1から3までのいずれか1項に記載の燃料電池触媒を得る第5工程と
を備えている。
(2)前記第3工程は、シクロヘキサン/エタノール混合溶媒を用いて、前記ナノワイヤ粒子前駆体の洗浄を1回行う工程からなる。
(3)前記第5工程は、芳香族炭化水素、シクロパラフィン、及び、n-パラフィンからなる群から選ばれるいずれか1以上のみからなる溶媒を用いて、前記触媒前駆体を3回以上洗浄する工程からなる。
【請求項6】
前記第5工程の後に、前記燃料電池触媒を酸処理することにより、前記燃料電池触媒に含まれるNiを溶出させ、請求項4に記載の燃料電池触媒を得る第6工程をさらに備えている請求項5に記載の燃料電池触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池触媒及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、担体の表面にPtを含むナノワイヤ粒子が高密度に担持され、担体表面におけるナノワイヤ粒子の凝集が少なく、かつ、触媒被毒による活性低下の少ない燃料電池触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置されている。ガス拡散層の外側には、さらにガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA、ガス拡散層、及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の電極触媒には、通常、担体表面に触媒粒子が担持されたものが用いられる。触媒粒子には、Pt、Pd、Ruなどの貴金属、又はこれらを含む合金が用いられる。電極反応は、触媒粒子の表面において起こるので、担体表面に微細な触媒粒子を高分散に担持させると、貴金属の利用率が向上し、高価な貴金属の使用量の低減が可能になる。そのため、微細な触媒粒子の製造方法及び担持方法に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、
(a)Pt(acac)2、Ni(acac)2、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)、及びMo(CO)6をオレイルアミン(OA)中に溶解させ、
(b)得られた均一溶液をオイルバス中において160℃で2時間加熱し、
(c)コロイド生成物を遠心分離により捕集し、シクロヘキサン/エタノール(1:9、v/v)混合液で3回洗浄する
Ptナノワイヤの製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、非特許文献1には、
(a)このようにして得られたPtナノワイヤをカーボン担体表面に担持させ、
(b)Ptナノワイヤ/Cをシクロヘキサン/エタノール混合液で3回洗浄する
ことにより得られる触媒が開示されている。
【0006】
同文献には、
(A)このような方法により、直径が0.8nmであり、アスペクト比が約22.5であるPtナノワイヤが得られる点、及び、
(B)Ptナノワイヤ/Cの質量活性(MA)、比活性(SA)、及び電気化学的有効表面積(ECSA)は、それぞれ、1.06A/mg、1.39mA/cm2、及び76.4m2/gである点、
が記載されている。
【0007】
非特許文献1に記載の方法を用いると、Ptナノワイヤを合成することができる。しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、Ptナノワイヤを凝集させることなく、Ptナノワイヤを担体表面に高担持密度で担持することはできない。また、非特許文献1に記載の方法により得られるPtナノワイヤ/C触媒は、相対的に触媒活性が低い。
さらに、Ni(acac)2等のNi化合物は、合金効果と面制御によるナノワイヤ触媒の高活性化のために必要な成分であるが、製造条件によっては、触媒中にNi又はNi化合物が残存することがある。Ptと合金化したNiは、Ptの触媒活性を向上させる作用があるが、触媒中に含まれるNi、Ni化合物、及びPtと合金化したNiは、燃料電池環境下では容易に溶出し、カチオンコンタミの原因となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kezhu Jiang et al., Sci. Adv. 2017;3:e1601705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、担体の表面にPtを含むナノワイヤ粒子が高密度に担持され、ナノワイヤ粒子の凝集が少なく、かつ、触媒被毒による活性低下の少ない燃料電池触媒及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、金属イオンの溶出の少ない燃料電池触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る燃料電池触媒は、以下の構成を備えている。
(1)前記燃料電池触媒は、
導電性を有する担体と、
前記担体表面に担持されたPtを含むナノワイヤ粒子と
を備えている。
(2)前記ナノワイヤ粒子は、
短径が0.8nm超10nm以下であり、
担持率が15mass%以上50mass%以下である。
【0011】
本発明に係る燃料電池触媒の製造方法は、以下の構成を備えている。
(1)前記燃料電池触媒の製造方法は、
Pt前駆体、Ni前駆体、W(CO)6及び/又はMo(CO)6、並びに、含窒素界面活性剤をオレイルアミン中に分散させ、前駆体溶液を得る第1工程と、
前記前駆体溶液を160℃以上190℃以下の温度で2時間以上保持することにより、ナノワイヤ粒子の表面が前記オレイルアミンで修飾されたナノワイヤ粒子前駆体を得る第2工程と、
前記ナノワイヤ粒子前駆体を洗浄することにより、表面を修飾している前記オレイルアミンの一部が除去された前記ナノワイヤ粒子を得る第3工程と、
導電性を有する担体の表面に、前記ナノワイヤ粒子を担持させ、前記担体表面に前記ナノワイヤ粒子が担持された触媒前駆体を得る第4工程と、
前記触媒前駆体を洗浄することにより、前記ナノワイヤ粒子の表面に残存している前記オレイルアミンをさらに除去し、本発明に係る燃料電池触媒を得る第5工程と
を備えている。
(2)前記第3工程は、シクロヘキサン/エタノール混合溶媒を用いて、前記ナノワイヤ粒子前駆体の洗浄を1回行う工程からなる。
(3)前記第5工程は、芳香族炭化水素、シクロパラフィン、及び、n-パラフィンからなる群から選ばれるいずれか1以上のみからなる溶媒を用いて、前記触媒前駆体を3回以上洗浄する工程からなる。
【0012】
前記燃料電池触媒の製造方法は、
前記第5工程の後に、前記燃料電池触媒を酸処理することにより、前記燃料電池電極触媒に含まれるNiを溶出させる第6工程
をさらに備えているのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
ナノワイヤ粒子を合成した後、相対的に弱い洗浄を行うと、表面修飾剤であるオレイルアミンが過度に除去されないので、ナノワイヤ粒子の凝集を抑制することができる。そのため、ナノワイヤ粒子を凝集させることなく、ナノワイヤ粒子を担体表面に高密度に担持することができる。
また、ナノワイヤ粒子を担体表面に担持した後、相対的に強い洗浄を行うと、残存している表面修飾剤をほぼ完全に除去することができる。そのため、残存している表面修飾剤による触媒被毒を抑制することができる。
さらに、ナノワイヤ粒子を担体表面に担持した後、酸洗浄を行うと、燃料電池触媒中に残存しているNiをほぼ完全に除去することができる。そのため、燃料電池環境下における触媒からのNiの溶出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(A)は、実施例1で得られた触媒のSTEM像である。図1(B)は、比較例1で得られた触媒のSTEM像である。
図2】非特許文献1で得られた触媒のTEM像(非特許文献1より引用)である。
図3】実施例1で得られた触媒のTEM像である。
図4】実施例1で得られたナノワイヤ粒子(担持前)のSTEM像である。
【0015】
図5図5(A)は、実施例1で得られた触媒(酸処理前)のSTEM像である。図5(B)は、同触媒のPt元素のマッピング像である。図5(C)は、同触媒のNiの元素マッピング像である。
図6図6(A)は、実施例1で得られた触媒(酸処理後)のSTEM像である。図6(B)は、同触媒のPt元素のマッピング像である。図6(C)は、同触媒のNiの元素マッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 燃料電池触媒]
本発明に係る燃料電池触媒(以下、単に「触媒」ともいう)は、
導電性を有する担体と、
前記担体表面に担持されたPtを含むナノワイヤ粒子と
を備えている。
【0017】
[1.1. 担体]
担体は、導電性材料からなる。担体の材料は、導電性を示し、かつ、燃料電池作動環境下において使用可能なものである限りにおいて、特に限定されない。担体の材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0018】
[1.2. ナノワイヤ粒子]
[1.2.1. 形状]
本発明において、「ナノワイヤ粒子」とは、ワイヤ状の細長い形状を有し、直径がナノメートルサイズである粒子をいう。後述する方法を用いると、短径が0.8nm超10nm以下であるナノワイヤ粒子が得られる。
製造条件を最適化すると、短径は、0.8nm超3nm以下となる。
同様に、製造条件を最適化すると、長さは、10nm以上50nm以下となる。
【0019】
[1.2.2. 組成]
本発明において、ナノワイヤ粒子は、Ptを含む。後述する方法を用いると、Pt含有量が90mass%以上であるナノワイヤ粒子が得られる。製造条件を最適化すると、Pt含有量は、95mass%以上、あるいは、98mass%以上となる。
ナノワイヤ粒子に含まれることがある不純物としては、例えば、出発原料に由来する金属元素(例えば、Ni、Mo、Wなど)などがある。
【0020】
[1.2.3. 担持率]
「担持率」とは、触媒の総質量に対するナノワイヤ粒子の質量の割合をいう。
一般に、担持率が小さくなりすぎると、膜電極接合体(MEA)を作製した際の、単位体積当たりのPt量が少なくなる。そのため、発電に十分なPt量を確保するために必要な触媒層の厚さが厚くなる。一般に、触媒層が厚くなるほど、触媒層内の物質移動に係わる抵抗が大きくなる。従って、担持率は、15mass%以上である必要がある。担持率は、好ましくは、20mass%以上、さらに好ましくは、30mass%以上である。
一方、担持率を必要以上に大きくしても、効果に差が無く、実益がない。従って、担持率は、50mass%以下である必要がある。
【0021】
[1.3. 特性]
[1.3.1. ECSA(有効電気化学表面積)]
本発明に係る燃料電池触媒は、担体表面にナノワイヤ粒子が高密度で担持され、かつ、ナノワイヤ粒子の凝集が少ないために、高いECSAを示す。製造条件を最適化すると、ECSAが40m2/gPt以上200m2/gPt以下である触媒が得られる。製造条件をさらに最適化すると、ECSAは、70m2/gPt以上、あるいは、100m2/gPt以上となる。
【0022】
[1.3.2. MA(Pt質量当たりの活性)]
ナノワイヤ粒子は、直径がナノメートルサイズであり、Pt質量あたりの表面積が大きいため、また、高活性な(111)面を高密度で有するために、高いMAを示す。製造条件を最適化すると、MAが500A/gPt以上30000A/gPt以下である触媒が得られる。製造条件をさらに最適化すると、MAは、875A/gPt以上、あるいは、1250A/gPt以上となる。
【0023】
[1.3.3. SA(比活性)]
本発明に係る燃料電池触媒は、高いSAを示す。製造条件を最適化すると、SAが1400μA/cm2以上15000μA/cm2以下である触媒が得られる。製造条件をさらに最適化すると、SAは、1800μA/cm2以上、あるいは、2000μA/cm2以上となる。
【0024】
[1.3.4. Ni含有量]
「Ni含有量」とは、触媒の総質量に対するNiの質量の割合をいう。
合金効果と面制御によりナノワイヤ触媒を高活性化するためには、Ni(acac)2のようなNi前駆体を使用する必要がある。この場合、使用したNi前駆体の一部がそのまま、又は、Ni前駆体が分解・反応することにより生成するNi化合物若しくはNiとして触媒中に残存することがある。Ptと合金化したNiは、Ptの触媒活性を向上させる作用がある。しかし、触媒中に含まれるNi、Ni化合物、及びPtと合金化したNiは、燃料電池環境下では容易に溶出し、カチオンコンタミの原因となる場合がある。
これに対し、後述する方法を用いると、Ni含有量が1.5mass%以下である触媒が得られる。Ni含有量は、少ないほど良い。製造条件を最適化すると、Ni含有量は、0.01mass%以下となる。
【0025】
[2. 燃料電池触媒の製造方法]
本発明に係る燃料電池触媒の製造方法は、
Pt前駆体、Ni前駆体、W(CO)6及び/又はMo(CO)6、並びに、含窒素界面活性剤をオレイルアミン中に分散させ、前駆体溶液を得る第1工程と、
前記前駆体溶液を160℃以上190℃以下の温度で2時間以上保持することにより、ナノワイヤ粒子の表面が前記オレイルアミンで修飾されたナノワイヤ粒子前駆体を得る第2工程と、
前記ナノワイヤ粒子前駆体を洗浄することにより、表面を修飾している前記オレイルアミンの一部が除去された前記ナノワイヤ粒子を得る第3工程と、
導電性を有する担体の表面に、前記ナノワイヤ粒子を担持させ、前記担体表面に前記ナノワイヤ粒子が担持された触媒前駆体を得る第4工程と、
前記触媒前駆体を洗浄することにより、前記ナノワイヤ粒子の表面に残存している前記オレイルアミンをさらに除去し、本発明に係る燃料電池触媒を得る第5工程と
を備えている。
【0026】
本発明に係る燃料電池触媒の製造方法は、
前記第5工程の後に、前記燃料電池触媒を酸処理することにより、前記燃料電池電極触媒に含まれるNiを溶出させる第6工程
をさらに備えていても良い。
【0027】
[2.1. 第1工程]
まず、Pt前駆体、Ni前駆体、W(CO)6及び/又はMo(CO)6、並びに、含窒素界面活性剤をオレイルアミン中に分散させ、前駆体溶液を得る(第1工程)。
【0028】
[2.1.1. 成分]
Pt前駆体は、ナノワイヤ粒子の主原料である。Pt前駆体の種類は、ナノワイヤ粒子を合成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。Pt前駆体としては、例えば、白金(II)アセチルアセトナート(Pt(acac)2)、塩化白金酸(H2PtCl6)、テトラアンミン白金クロリド(Pt(NH3)4Cl2)などがある。
【0029】
Ni前駆体は、合金効果と面制御によるナノワイヤ触媒の高活性化のために必要な成分である。前駆体溶液中に強力な還元剤(例えば、グルコース)が含まれていない場合、通常、Ni前駆体は還元されることがなく、実質的にPtのみからなるナノワイヤ粒子が得られる。但し、合成条件によっては、Ni又はNi化合物が副生することがある。
Ni前駆体の種類は、ナノワイヤ粒子を合成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。Ni前駆体としては、例えば、Ni(II)アセチルアセトナート(Ni(acac)2)、塩化ニッケル(NiCl2)、酢酸ニッケル(Ni(CH3COO)2)などがある。
【0030】
W(CO)6及びMo(CO)6は、ナノワイヤ粒子の長さや表面の凹凸を制御するために必要な成分である。前駆体溶液には、W(CO)6又はMo(CO)6のいずれか一方が含まれていても良く、あるいは、双方が含まれていても良い。
前駆体溶液にW(CO)6及び/又はMo(CO)6を添加すると、W(CO)6又Mo(CO)6からCOが放出される。放出されたCOは、成長途中のナノワイヤ粒子の表面において吸着・脱離を繰り返す。その結果、ナノワイヤ粒子の長さや表面の凹凸が制御されると考えられる。
【0031】
含窒素界面活性剤は、Ptをワイヤ状に成長させるために必要な成分である。前駆体溶液に含窒素界面活性剤を添加すると、棒状ミセルが生成し、その棒状ミセル内でPt前駆体が還元されることで、ナノワイヤ粒子が生成すると考えられる。
含窒素界面活性剤の種類は、ナノワイヤ粒子を合成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。含窒素界面活性剤としては、例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DDAB)などがある。
【0032】
オレイルアミンは、
(a)原料を溶解させるための溶媒、
(b)Pt前駆体を還元するための還元剤、及び、
(c)ナノワイヤ粒子の表面に吸着し、ナノワイヤ粒子の凝集を防ぐ表面修飾剤
として機能する。
但し、オレイルアミンの還元力は相対的に弱いので、Pt前駆体の還元は進行するが、Ni前駆体の還元は、通常、ほとんど進行しない。
【0033】
[2.1.2. 濃度]
前駆体溶液に含まれる各成分の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。
一般に、Pt前駆体の濃度が低すぎると、ナノワイヤ粒子の収量が少なくなる。従って、Pt前駆体の濃度は、0.24mass%以上が好ましい。
一方、Pt前駆体の濃度を必要以上に高くしても、効果に差が無く、実益がない。従って、Pt前駆体の濃度は、0.48mass%以下が好ましい。
【0034】
一般に、Ni前駆体の濃度が低すぎると、合金効果と面制御によるナノワイヤ触媒の高活性化が得られなくなる。従って、Ni前駆体の濃度は、0.01mass%以上が好ましい。
一方、Ni前駆体の濃度が高くなりすぎると、還元されるNi量が多くなる。従って、Ni前駆体の濃度は、0.15mass%以下が好ましい。
【0035】
一般に、W(CO)6及びMo(CO)6の総濃度が低すぎると、ナノワイヤ粒子を回収できなくなる。従って、W(CO)6及びMo(CO)6の総濃度は、0.07mass%以上が好ましい。
一方、W(CO)6及びMo(CO)6の総濃度を必要以上に高くしても、効果に差が無く、実益がない。従って、W(CO)6及びMo(CO)6の総濃度は、0.7mass%以下が好ましい。
【0036】
一般に、含窒素界面活性剤の濃度が低すぎると、棒状ミセルを形成できなくなり、Ptがナノワイヤ状に成長しなくなる。従って、含窒素界面活性剤の濃度は、0.39mass%以上が好ましい。
一方、含窒素界面活性剤の濃度を必要以上に高くしても、効果に差が無く、実益がない。従って、含窒素界面活性剤の濃度は、3.0mass%以下が好ましい。
【0037】
[2.2. 第2工程]
次に、前駆体溶液を160℃以上190℃以下の温度で2時間以上保持する(第2工程)。これにより、ナノワイヤ粒子の表面がオレイルアミンで修飾されたナノワイヤ粒子前駆体が得られる。
【0038】
処理温度が低すぎると、還元反応が進行しない。従って、処理温度は、160℃以上が好ましい。
一方、処理温度が高すぎると、界面活性剤の融点に達してしまい、ミセル形成ができなくなる場合がある。従って、処理温度は、190℃以下が好ましい。
【0039】
処理時間が短すぎると、ナノワイヤ粒子が得られる割合が低下する。従って、処理時間は、2時間以上が好ましい。
一方、処理時間を必要以上に長くしても、効果に差がなく、実益がない。従って、処理時間は、目的に応じて最適な時間を選択するのが好ましい。
【0040】
[2.3. 第3工程]
次に、ナノワイヤ粒子前駆体を洗浄することにより、表面を修飾しているオレイルアミンの一部が除去されたナノワイヤ粒子を得る(第3工程)。
【0041】
オレイルアミンは、ナノワイヤ粒子を形成するために必要な成分であるが、触媒の活性点を被毒する物質でもある。触媒被毒を低減するには、ナノワイヤ粒子の表面からオレイルアミンを完全に除去するのが好ましい。しかしながら、オレイルアミンは、溶液中に生成したナノワイヤ粒子の凝集を抑制する表面修飾剤としても機能する。そのため、反応終了後、担体表面に担持させる前に、ナノワイヤ粒子の表面を修飾しているオレイルアミンの全部が除去されるような条件下で洗浄すると、ナノワイヤ粒子が凝集しやすくなる。
【0042】
従って、ナノワイヤ粒子前駆体を担体表面に担持する前に行う洗浄は、副生成物及び未反応物が除去され、かつ、ナノワイヤ粒子の表面を修飾しているオレイルアミンの一部が除去されるような条件下で行う必要がある。本発明において、担持前の洗浄は、シクロヘキサン/エタノール混合溶媒を用いて、ナノワイヤ粒子前駆体の洗浄を1回だけ行う。この点が、従来とは異なる。
シクロヘキサン/エタノール混合溶媒は、中程度の洗浄力を持つ。そのため、シクロヘキサン/エタノール混合溶媒を用いて多数回洗浄を行うと、オレイルアミンが過度に除去される。従って、担持前の洗浄は、1回だけ行う。
【0043】
混合溶媒中のシクロヘキサンの含有量は、目的に応じて最適な含有量を選択する。一般に、シクロヘキサンの含有量が少なくなりすぎると、洗浄不足が生じる。従って、シクロヘキサンの含有量は、10vol%以上が好ましい。
一方、シクロヘキサンの含有量を必要以上に多くしても、効果に差が無く、実益がない。従って、シクロヘキサンの含有量は、50vol%以下が好ましい。
【0044】
[2.4. 第4工程]
次に、導電性を有する担体の表面に、ナノワイヤ粒子を担持させる(第4工程)。これにより、担体表面にナノワイヤ粒子が担持された触媒前駆体が得られる。
担体表面へのナノワイヤ粒子の担持方法は、特に限定されない。例えば、ナノワイヤ粒子前駆体及び担体を溶媒中に分散させ、超音波を照射すると、ナノワイヤ粒子前駆体及び担体が均一に分散すると同時に、ナノワイヤ粒子表面のオレイルアミンが溶媒によって徐々に除去される。さらに、ナノワイヤ粒子表面のオレイルアミンの大半が除去されると、ナノワイヤ粒子が担体上に付着する。その結果、担体表面にナノワイヤ粒子を担持することができる。
【0045】
[2.5. 第5工程]
次に、触媒前駆体を洗浄することにより、ナノワイヤ粒子の表面に残存しているオレイルアミンをさらに除去する(第5工程)。これより、本発明に係る燃料電池触媒が得られる。
【0046】
上述したように、オレイルアミンは、凝集を抑制するための表面修飾剤であると同時に、触媒被毒の原因物質でもある。触媒被毒を低減するためには、ナノワイヤ粒子を担体表面に担持した後に行う洗浄は、ナノワイヤ粒子の表面に残存しているオレイルアミンがほぼ完全に除去されるような条件下で行うのが好ましい。「ほぼ完全に除去される」とは、洗浄後の触媒のSAが1400μA/cm2以上であることをいう。
本発明において、担持後の洗浄は、芳香族炭化水素、シクロパラフィン、及び、n-パラフィンからなる群から選ばれるいずれか1以上のみからなる溶媒を用いて、触媒前駆体を3回以上洗浄する。この点が、従来とは異なる。
【0047】
芳香族炭化水素、シクロパラフィン、及び、n-パラフィンは、いずれも、シクロヘキサン/エタノール混合溶媒に比べて洗浄力が強い。そのため、これらを用いて触媒前駆体を洗浄すると、残存しているオレイルアミンの大半を除去することができる。
上記の溶媒は、洗浄力が強いので、1回の洗浄でも相応の効果が得られる。しかしながら、一般に、洗浄回数が多くなるほど、オレイルアミンの残存量が少なくなる。触媒被毒を低減するためには、洗浄回数は、3回以上である必要がある。洗浄回数は、好ましくは、5回以上である。
【0048】
[2.6. 第6工程]
次に、必要に応じて、燃料電池触媒を酸処理する(第6工程)。これにより、燃料電池触媒に含まれるNiを溶出させることができる。
【0049】
オレイルアミンは、還元剤としても機能するが、還元力は相対的に弱い。そのため、前駆体溶液中のNi前駆体は、通常、ほとんど還元されない。しかしながら、製造条件によっては、触媒中にNi又はNi化合物が混入することがある。Ptと合金化したNiは、Ptの触媒活性を向上させる作用があるが、触媒中に含まれるNi、Ni化合物、及びPtと合金化したNiは、燃料電池環境下では容易に溶出し、カチオンコンタミの原因となる場合がある。Niの溶出を抑制するには、触媒を予め酸洗浄し、残存しているNiを除去するのが好ましい。
【0050】
酸処理の条件は、残存しているNiを除去することが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。例えば、1M硫酸水溶液中に燃料電池触媒を添加し、12時間攪拌すると、残存しているNiの大半を除去することができる。
酸処理後、燃料電池触媒を回収し、洗浄、乾燥する。
【0051】
[3. 作用]
オレイルアミンは、ナノワイヤ粒子の凝集を防ぐ表面修飾剤としての機能を持つ。オレイルアミン共存下でナノワイヤ粒子を合成した後、ナノワイヤ粒子をシクロヘキサン/エタノール混合溶媒で3回洗浄すると、オレイルアミンがナノワイヤ粒子表面から過度に除去される。そのため、ナノワイヤ粒子の凝集を抑制するのが困難となり、担体表面にナノワイヤ粒子を高密度、かつ、高分散に担持することは難しい。
【0052】
次に、ナノワイヤ粒子を担体表面に担持した後、シクロヘキサン/エタノール混合溶媒で3回洗浄しても、ナノワイヤ粒子の表面に残存しているオレイルアミンを完全に除去することができない。残存しているオレイルアミンは、触媒の活性点をブロック(被毒)し、触媒活性を低下させる原因となる。
さらに、合金効果と面制御によりナノワイヤ触媒を高活性化させるためにNi前駆体を用いると、製造条件によっては、触媒中にNi又はNi化合物が含まれることがある。Ni、Ni化合物、及びPtと合金化しているNiは、燃料電池環境下では容易に溶出し、カチオンコンタミの原因となる。
【0053】
これに対し、ナノワイヤ粒子を合成した後、相対的に弱い洗浄を行うと、表面修飾剤であるオレイルアミンが過度に除去されないので、ナノワイヤ粒子の凝集を抑制することができる。そのため、ナノワイヤ粒子を凝集させることなく、ナノワイヤ粒子を担体表面に高密度に担持することができる。
また、ナノワイヤ粒子を担体表面に担持した後、相対的に強い洗浄を行うと、残存している表面修飾剤をほぼ完全に除去することができる。そのため、残存している表面修飾剤による触媒被毒を抑制することができる。
さらに、ナノワイヤ粒子を担体表面に担持した後、酸洗浄を行うと、燃料電池触媒中に残存しているNiをほぼ完全に除去することができる。そのため、燃料電池環境下における触媒からのNiの溶出を抑制することができる。
【実施例
【0054】
(実施例1、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
Pt(acac)2、Ni(acac)2、Mo(CO)6、及びセチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC)をオレイルアミン中に超音波分散させ、前駆体溶液を得た。この前駆体溶液を160℃に昇温し、2時間保持した。その後、室温まで徐冷し、Ptを含むナノワイヤ粒子が分散しているコロイド溶液を得た。
コロイド溶液からナノワイヤ粒子を回収し、ナノワイヤ粒子をシクロヘキサン/エタノール混合溶媒(体積比=1:9)で1回洗浄することにより、未反応物と表面修飾剤の一部とを除去した。
【0055】
次に、洗浄後のナノワイヤ粒子、及びカーボン担体をシクロヘキサン/エタノール混合溶媒(体積比=1:1)中に分散させ、1時間超音波照射することでナノワイヤ粒子をカーボン担体表面に担持させた。分散液からナノワイヤ粒子担持カーボン(以下、「ナノワイヤ粒子/C」ともいう)を回収し、ナノワイヤ粒子/Cをトルエンで5回洗浄した。
洗浄後、エタノールに溶媒置換し、ナノワイヤ粒子/Cを吸引ろ過し、80℃で乾燥させた。さらに、乾燥後の触媒を1M硫酸中、室温で12時間攪拌し、触媒中のNiの除去を行った。
【0056】
[1.1. 比較例1]
非特許文献1を模擬して触媒を合成した。Pt(acac)2、Ni(acac)2、Mo(CO)6、及びCTACをオレイルアミン中に超音波分散させ、前駆体溶液を得た。この前駆体溶液を160℃に昇温し、2時間保持した。その後、室温まで徐冷し、Ptを含むナノワイヤ粒子が分散しているコロイド溶液を得た。
コロイド溶液からナノワイヤ粒子を回収し、ナノワイヤ粒子をシクロヘキサン/エタノール混合溶媒(体積比=1:9)で3回洗浄することにより、未反応物と表面修飾剤とを除去した。
【0057】
次に、洗浄後のナノワイヤ粒子、及びカーボン担体をシクロヘキサン/エタノール混合溶媒(体積比=1:1)中に分散させ、1時間超音波照射することでナノワイヤ粒子をカーボン担体表面に担持させた。分散液からナノワイヤ粒子/Cを回収し、ナノワイヤ粒子/Cをシクロヘキサン/エタノール混合溶媒(体積比=1:9)で3回洗浄した。
洗浄後、エタノールに溶媒置換し、ナノワイヤ粒子/Cを吸引ろ過し、80℃で乾燥させた。
【0058】
[2. 試験方法]
[2.1. TEM及びSTEM観察、並びに、組成分析]
透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、触媒の観察を行った。
また、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いて、得られた触媒の組成分析を行った。
【0059】
[2.2. 電気化学評価]
回転ディスク電極(RDE)を用いて、触媒の電気化学評価を行った。セルは三極式とし、電解液には0.1M HClO4を用いた。参照極及び対極には、それぞれ、可逆水素電極(RHE)及びPt黒メッシュを用いた。
Arで飽和した電解液に作用電極を浸漬し、0.05V⇔1.2V(RHE)でサイクリックボルタモグラム(CV)が安定するまで電位サイクルを行った。その後、電解液をO2で飽和させ、電極を1600rpmで回転させながら、リニアスイープボルタモグラム(LSV、正方向電位掃引、掃引速度:10mV/s)を行った。
【0060】
[3. 結果]
[3.1. TEM及びSTEM観察、並びに、組成分析]
[3.1.1. ナノワイヤ粒子の担持状態]
図1(A)に、実施例1で得られた触媒のSTEM像を示す。図1(B)に、比較例1で得られた触媒のSTEM像を示す。実施例1では、カーボン担体表面にナノワイヤ粒子が均一に担持されていた。一方、比較例1では、ナノワイヤ粒子が凝集している箇所や、ナノワイヤ粒子が担持されていない箇所が確認された。
【0061】
比較例1では、担持前にナノワイヤ粒子をシクロヘキサン/エタノール混合溶媒(体積比=1:9)で3回洗浄している。この方法では、担持前のナノワイヤ粒子の表面修飾剤を除去しすぎるために、担持前にナノワイヤ粒子同士の凝集が起こり、ナノワイヤ粒子が凝集した状態でカーボン担体表面に担持されたと考えられる。
これに対し、実施例1では担持前の洗浄が1回であるために、表面修飾剤が過度に除去されることがなく、ナノワイヤ粒子同士の凝集が抑制されたと考えられる。
【0062】
[3.1.2. ナノワイヤ粒子の担持率]
図2に、非特許文献1で得られた触媒のTEM像(非特許文献1より引用)を示す。図3に、実施例1で得られた触媒のTEM像を示す。図2及び図3中、白丸で囲ったカーボン粒子は、それぞれ、他のカーボン粒子と重なっていない粒子を表す。
図2の場合、白丸で囲った5つのカーボン粒子の表面上のナノワイヤ粒子の数は、17本であった。一方、図3の場合、白丸で囲った5つのカーボン粒子の表面上のナノワイヤ粒子の数は、24本であった。従って、実施例1の担体1つあたりのナノワイヤ粒子の数は、非特許文献1のそれよりも多いと考えられる。換言すれば、実施例1のナノワイヤ粒子の担持率は、非特許文献1のそれよりも高いと考えられる。
【0063】
実施例1については、担持率をICPにより分析した。その結果、担持率は、19.7mass%であった。非特許文献1には担持率の記載はないが、これより少なかったと考えられる。また、非特許文献1では、担持の際のカーボン粒子に対するナノワイヤ粒子の仕込み量が少なかったと考えられる。
【0064】
[3.1.3. ナノワイヤ粒子の形状]
図4に、実施例1で得られたナノワイヤ粒子(担持前)のSTEM像を示す。図4において、ランダムに選んだ30個のナノワイヤ粒子の短径を調べた。その結果、短径の平均は1.2nmであり、非特許文献1のそれ(0.8nm)より大きかった。
【0065】
[3.1.4. 酸処理]
図5(A)に、実施例1で得られた触媒(酸処理前)のSTEM像を示す。図5(B)に、同触媒のPt元素のマッピング像を示す。図5(C)に、同触媒のNiの元素マッピング像を示す。さらに、表1に、実施例1で得られた触媒(酸処理前)について、図5(A)の四角で囲った領域内で行った定量分析結果を示す。
図5より、カーボン表面には、ナノワイヤ粒子だけでなく、粒径の異なるいくつかの球状の粒子も担持されていることが分かる。また、図5(B)、図5(C)、及び表1より、粒径30nm程度の球状粒子は、Niであることが分かる。
【0066】
【表1】
【0067】
図6(A)に、実施例1で得られた触媒(酸処理後)のSTEM像を示す。図6(B)に、同触媒のPt元素のマッピング像を示す。図6(C)に、同触媒のNiの元素マッピング像を示す。
図6に示すように、酸処理後の触媒については、粒径30nm程度の大きな粒子は観察されておらず、酸処理によってNiは溶出したと考えられる。
表2に、実施例1で得られた触媒(酸処理後)のICP-MS分析結果を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
酸処理前の触媒には、Niが確認されている。そのため、酸処理前の触媒をそのまま燃料電池環境下で使用した場合、このNiが溶出することで、カチオンコンタミとして燃料電池の性能低下を起こすと考えられる。
これに対し、最後に酸処理を行うと、Niを溶出させることができるので、カチオンコンタミによる性能低下を抑制できると考えられる。
【0070】
[3.2. 電気化学評価]
表3に、実施例1及び比較例1で得られた触媒の電気化学表面積(ECSA)、Pt重量活性(MA)、及び比活性(SA)を示す。なお、表3には、非特許文献1に開示されている値も併せて示した。表3より、以下のことが分かる。
【0071】
(1)比較例1のMA及びSAは、実施例1のそれらより低い。この原因の一つとして、担持後の洗浄不足による触媒被毒が考えられる。比較例1では、担持後にシクロヘキサン/エタノール混合溶媒で洗浄を行っている。しかし、溶媒の洗浄力が弱く、洗浄回数も少ないため、表面修飾剤が残存し、触媒表面の活性点をブロックしていると考えられる。
(2)実施例1では、担持後の触媒を、より洗浄力の強い有機溶媒であるトルエンで5回洗浄しているため、表面修飾剤が十分に除去され、活性が高くなったと考えられる。
【0072】
(3)比較例1は、実施例1に比べてECSAが小さい。これは、上述したようにナノワイヤ粒子の凝集が起こり、これによって触媒の利用率が低下したためと考えられる。結果として、比較例1のMA(=ECSAとSAの積)は、実施例1より小さくなった。
(4)実施例1のECSAは、非特許文献1のそれより小さい。これは、実施例1で得られたナノワイヤ粒子の短径が非特許文献1のそれより大きいためと考えられる。
【0073】
(5)実施例1のMAは、非特許文献1のそれと同程度であった。一方、実施例1のSAは、非特許文献1のそれより大きい。この結果は、非特許文献1では担持後の洗浄が不十分であり、触媒表面と周囲に表面修飾剤が残っていることを示唆している。
(6)非特許文献1では担持率が記載されていないが、上述したようにSTEM像から、非特許文献1の担持率は実施例1のそれより低いことが示唆されている。仮に、非特許文献1において実施例1と同程度の担持率にした場合、担持前の洗浄回数が多いため、粒子同士の凝集が起き、活性が低下すると考えられる。また、担持率が低い触媒を用いてMEAを作製する場合において、白金目付量を同一にした時には、担持率が高い触媒を用いた場合に比べて触媒層が厚くなり、高電流域性能が低くなると考えられる。
【0074】
【表3】
【0075】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る燃料電池触媒は、自動車用動力源、定置型小型発電機等に用いられる固体高分子形燃料電池の空気極及び/又は燃料極の電極触媒として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6