(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】カーボンペーパーの巻き取り方法およびそれを用いたカーボンペーパー巻回体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 23/195 20060101AFI20250311BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20250311BHJP
B65H 18/04 20060101ALI20250311BHJP
B65H 18/10 20060101ALI20250311BHJP
B65H 23/188 20060101ALI20250311BHJP
B65H 23/032 20060101ALI20250311BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250311BHJP
【FI】
B65H23/195
H01M4/88 C
B65H18/04
B65H18/10
B65H23/188
B65H23/032
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021054817
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土肥 一生
(72)【発明者】
【氏名】井上 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】千田 崇史
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-302557(JP,A)
【文献】特開2015-160708(JP,A)
【文献】特開2019-142656(JP,A)
【文献】特開2010-070334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 23/195
H01M 4/88
B65H 18/04
B65H 18/10
B65H 23/188
B65H 23/032
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される長尺状のカーボンペーパーをコアボビンに巻き取るカーボンペーパーの巻き取り方法であって、
巻回径が巻き取り開始時に比べ40mm以上増加する所定の張力転換点まで40N/m以上の一定張力で巻き取り、前記張力転換点経過後は張力を減少させながら巻き取り、かつ巻き取り終了時の張力を20N/m以上とするカーボンペーパーの巻き取り方法。
【請求項2】
巻き取り開始から前記張力転換点までの前記カーボンペーパーの巻回径の変化率が20~160%である、請求項1に記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
【請求項3】
前記張力転換点経過後の前記カーボンペーパーの巻回径の変化率が10~250%である、請求項1または2に記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
【請求項4】
前記張力転換点経過後の巻き取りトルクの変化率が-100~+160%である、請求項1~3のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
【請求項5】
巻き取り終了時の巻回径が500mm以上である、請求項1~4のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
【請求項6】
前記コアボビンの外径が76mm以上である、請求項1~5のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
【請求項7】
曲げ弾性率が2~50GPa、静摩擦係数が0.1~0.7、引張強度が1~10kN/mであるカーボンペーパーの巻き取りに用いられる、請求項1~6のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
【請求項8】
巻き取りの前にカーボンペーパーの端部位置を検出する端部位置検出手段を設け、該端部位置検出手段の検出信号により巻きズレを防止するよう制御する、請求項1~7のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法を含むカーボンペーパー巻回体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンペーパーの巻き取り方法に関する。カーボンペーパーは、固体高分子型燃料電池やメタノール型燃料電池などの燃料電池のガス拡散電極基材や、酸素や水素などの気体を活物質として使用する電池の電極基材として主に用いられる。
【背景技術】
【0002】
燃料電池において発電反応が起こる、膜-電極接合体を構成するガス拡散電極基材の材料としては、炭素短繊維を樹脂炭化物で結着した多孔質のカーボンペーパーが一般的に用いられる。長尺状のカーボンペーパーを搬送する際には、カーボンペーパーを巻き取って巻回体として取り扱う必要がある。しかしながら、表面の摩擦係数が小さく、脆性の高いカーボンペーパーを巻き取る際には、巻き取り張力が低いと巻きズレが発生し、巻き取り張力が高いと巻きズレは発生しないかわりにカーボンペーパーの端部の微小な傷から破断しやすいという問題があり、巻き取り条件の制御に特有の困難性がある。
【0003】
カーボンペーパーの巻き取り方法として、特許文献1では、初期巻き取り張力を30N/m以上、最終巻き取り張力を20N/m以上とし、かつ巻き始めから巻き終わりにかけて巻き取り張力を漸減させる方法が提案されている。しかし、カーボンペーパーは多孔質で厚さ変形しやすいため、巻き取り張力を漸減させながら巻き取っても、カーボンペーパー間の圧力緩和により張力漸減の効果が低下し、特に大径にしようとした場合には依然として巻きズレが発生する問題があった。
【0004】
また、特許文献2では、最終巻き取り張力T2を初期巻き取り張力T1以上とし、さらにT2は巻き取り直径を用いて算出した値以下とすることが提案されている。しかしながら、外周のカーボンペーパーからの締め付け力の累積が内周のカーボンペーパーにかかるため、特に低密度のカーボンペーパーで内周での巻き締まりや、カーボンペーパー厚さの減少によるずれが起こりやすい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-302557号公報
【文献】特開2008-247610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーボンペーパーを大径の巻回体とした場合(典型的には巻き取り終了時の巻回径が500mm以上である場合)においても巻きズレを十分に低減可能な巻き取り方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の通りである。
(1)連続的に搬送される長尺状のカーボンペーパーをコアボビンに巻き取るカーボンペーパーの巻き取り方法であって、巻回径が巻き取り開始時に比べ40mm以上増加する所定の張力転換点まで40N/m以上の一定張力で巻き取り、前記張力転換点経過後は張力を減少させながら巻き取り、かつ巻き取り終了時の張力を20N/m以上とするカーボンペーパーの巻き取り方法。
(2)巻き取り開始から前記張力転換点までの前記カーボンペーパーの巻回径の変化率が20~160%である、(1)に記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
(3)前記張力転換点経過後の前記カーボンペーパーの巻回径の変化率が10~250%である、(1)または(2)に記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
(4)前記張力転換点経過後の巻き取りトルクの変化率が-100~+160%である、(1)~(3)のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
(5)巻き取り終了時の巻回径が500mm以上である、(1)~(4)のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
(6)前記コアボビンの外径が76mm以上である、(1)~(5)のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
(7)曲げ弾性率が2~50GPa、静摩擦係数が0.1~0.7、引張強度が1~10kN/mであるカーボンペーパーの巻き取りに用いられる、(1)~(6)のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
(8)巻き取りの前にカーボンペーパーの端部位置を検出する端部位置検出手段を設け、該端部位置検出手段の検出信号により巻きズレを防止するよう制御する、(1)~(7)のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載のカーボンペーパーの巻き取り方法を含むカーボンペーパー巻回体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カーボンペーパーを連続的に巻き取る際に、大径であっても巻きズレが小さい巻回体とすることができ、梱包、輸送等における巻き崩れを防止し、カーボンペーパー巻回体のハンドリング性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】カーボンペーパー巻回体に巻きズレが生じた状態の一例を示す側面図
【
図2】本発明の巻き取り方法を実施するための巻き取り装置の一実施態様を示す側面概略図
【
図3】カーボンペーパーの端部位置検出手段の一実施態様を示す正面図
【
図4】実施例・比較例における巻き始めからの巻き取り張力の推移を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本明細書において「~」はその両端の数値を含む範囲を示す記号として用いる。
【0011】
カーボンペーパーとは、炭素短繊維を含む抄造体をフェノール樹脂等の有機物の炭化物で結着してなる構造物である。カーボンペーパーは、曲げ弾性率が高く、静摩擦係数が低く、圧力で厚さが減少しやすく、脆い性質を有するので、本発明の巻き取り方法を好ましく適用することができる。カーボンペーパーは、固体高分子型燃料電池やメタノール型燃料電池などの燃料電池のガス拡散電極基材や、酸素や水素などの気体を活物質として使用する電池の電極基材として好ましく用いられる。
【0012】
カーボンペーパーを構成する炭素繊維は、PAN系、ピッチ系、レーヨン系など、いずれも使用可能であるが、製造時や使用時に折損しにくいPAN系の炭素繊維が好ましい。炭素繊維を結着する炭化物の前駆体となる有機物としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチ、タール等が挙げられ、含浸、成形等の加工が容易である熱硬化性樹脂が好ましく、残炭率の高いフェノール樹脂がさらに好ましい。
【0013】
カーボンペーパーを構成する炭素短繊維の繊維長は3~20mmが好ましく、さらに好ましくは5~15mmである。炭素短繊維の繊維長を上記範囲とすることにより、炭素短繊維を抄造する際の分散性を向上させ、目付ばらつきを抑制することができる。
【0014】
なお、カーボンペーパーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂で撥水処理されたものであってもよい。また、カーボンブラック、黒鉛粉末などの炭素粒子とPTFEなどの撥水性樹脂の混合物層(ガス拡散電極基材のマイクロポーラス層)を表面に設けたガス拡散電極基材としてのカーボンペーパーの巻き取りにも、本発明の巻き取り方法は有効である。すなわち、本明細書において、「カーボンペーパー」には、このような付加要素を備えたものも含む用語として用いる。
【0015】
カーボンペーパーの曲げ弾性率は、2~50GPaであることが好ましく、2~30GPaがより好ましく、さらに好ましくは2~20GPaである。カーボンペーパーの曲げ弾性率が2GPaより小さいと、例えば、燃料電池のガス拡散電極基材用途で使用する場合にハンドリング性が悪く、またセパレータの溝への落ち込みが生じることがある。カーボンペーパーの曲げ弾性率が50GPaよりも大きいと、カーボンペーパーをコアボビンにロール状に巻き取る際、剛性によりコアボビンにカーボンペーパーが沿いにくく、巻き取りやすさが低下し、巻きズレの原因となることがある。カーボンペーパーの曲げ弾性率は、JIS K 6911(1995)に規定される方法に準拠して求めることができる。このとき、試験片の幅は15mm、長さは40mm、支点間距離は15mmとする。また、支点と圧子の曲率半径は3mm、荷重速度は2mm/minとする。曲げ弾性率は、ロール状への巻き取りやすさや、ハンドリング性の良否を示す指標となる。
【0016】
また、カーボンペーパーの静摩擦係数は、0.1~0.7であることが好ましく、0.2~0.6がより好ましく、さらに好ましくは0.2~0.5である。カーボンペーパーの静摩擦係数が0.1よりも小さいと、巻回体におけるカーボンペーパーの層間の摩擦力が小さいため、巻き取り後に端部ズレが発生しやすくなる。カーボンペーパーの静摩擦係数が0.7よりも大きいと、従来の技術で巻き端面が揃っているカーボンペーパーの巻回体を得ることができる。カーボンペーパーの静摩擦係数は、新東科学株式会社製静摩擦係数測定機「ポータブル摩擦計ミューズ Type:94i」等を用いて測定することができる。直径25mmに切り取った一方のサンプルを、測定器下面にある重りに貼り付け、測定器を他方のサンプル上に置き、測定開始すると、自動で重りを水平方向に移動させる荷重が加えられていく。滑り始める瞬間の荷重を最大静止摩擦力F(N)、重りの重さを垂直力G(N)とし、静摩擦係数μを測定する。静摩擦係数μは下記式より求めることができる。測定回数は10回とし、10個の平均値から静摩擦係数を算出する。
【0017】
μ=F/G
カーボンペーパーの引張強度は1~10kN/mであることが好ましく、2~10kN/mであることがより好ましい。1kN/m未満であるとハンドリング性が低下する傾向にある。カーボンペーパーの引張強度は、サイズ15mm×100mmの試験片を引張速度2mm/minにて引っ張り、破断した際の張力から測定する。このとき長尺カーボンペーパーの長手方向が100mmとなるようにサンプリングする。測定回数は5回とし、5個の平均値から引張強度を算出する。
【0018】
連続的に搬送される長尺状のカーボンペーパーは、コアボビンに巻き取られ、巻回体となる。巻き取ったカーボンペーパーの割れを防止するためには、コアボビンの外径は76mm以上が好ましく、152mm以上がより好ましい。一方、コアボビンの外径が大きすぎると、長尺のカーボンペーパーを巻き取っても、巻回径の変化率が小さいため、巻ズレを抑制する効果が得られにくくなる傾向がある。また、巻回体全体が大きくなり、ハンドリング性が低下する問題も生じる。そのため、コアボビンの外径は400mm以下が好ましく、250mm以下がより好ましい。
【0019】
本発明の巻き取り方法においては、巻回径が巻き取り開始時に比べ一定以上増加する所定の点まで一定張力でカーボンペーパーを巻き取るが、当該所定の点を本明細書においては「張力転換点」と呼び、巻き取り開始時に比べた巻回径の増加量(mm)で定義するものとする。本発明においては、巻回径が巻き取り開始時に比べ40mm以上増加する点まで一定張力でカーボンペーパーを巻き取るが、この場合、張力転換点は40mm以上である、と表現する。本発明においては、張力転換点は40mm以上であり、より好ましくは60mm以上である。一定張力で巻き取られる部分が小さいと、張力転換点付近での巻きズレが起こりやすい。一定張力の範囲が大きくなると内周での巻きズレが悪化するため、450mm以下が好ましい。
【0020】
本発明において、張力転換点までの一定とする巻き取り張力は、巻きズレ抑制のため40N/m以上とし、200N/m以上とすることがより好ましい。また、脆性の高いカーボンペーパーの破断を抑制するため、この張力は10kN/m以下とすることが好ましい。
【0021】
巻き取り開始から前記張力転換点までの巻回径の変化率(A)は、20~160%が好ましく、20%~100%がより好ましい。20%未満では張力一定による巻きズレ防止効果が不十分であり、160%を超えると、後述する比較例の張力一定巻き同様の巻きズレが大きくなる可能性がある。巻き取り開始から前記張力転換点までの巻回径の変化率(A)は以下の式で計算される。
【0022】
A=(D2-D1)/D1×100
A:巻き取り開始から前記張力転換点までの巻回径の変化率
D1:巻き取り開始時の巻回径
D2:張力転換点での巻回径
巻き取り開始時の巻回径D1は巻き付けるコアボビンの外径とし、ノギスや定規で測定する。巻き取り開始後の巻回径は赤外線センサにより巻き取ったカーボンペーパーの最外周表面位置を検出し計算する。もしくは予め測定した巻き取られるカーボンペーパーの厚みと巻き取り軸の回転数とD1から計算する。
【0023】
巻き取り張力はフリーロールに設定した張力計により測定する。
【0024】
本発明においては、張力転換点経過後は張力を減少させながら巻き取り、巻き取り終了時の張力を20N/m以上とする。巻き取り終了時の張力は、50N/m以上とすることがより好ましい。最終の巻き取り張力が20N/m未満だと、梱包や輸送、巻き出しの際に巻崩れが発生しやすくなる。
【0025】
張力転換点経過後の巻回径の変化率(B)は、10~250%であることが好ましく、100%~220%がより好ましい。変化率が10%未満だと、張力を小さくして巻きズレを抑制する効果が十分得られない傾向があり、250%を超過すると巻き始めから張力漸減した場合と同様、巻きズレが発生しやすくなる傾向がある。張力転換点経過後の巻回径の変化率(B)は以下の式で計算される。
【0026】
B=(D3-D2)/D2×100
B:張力転換点経過後の巻回径の変化率
D2:張力転換点での巻回径
D3:巻き取り終了時の巻回径
また、張力転換点経過後の巻き取りトルクの変化率(C)は、-100%~+160%が好ましく、-90%~50%がより好ましい。変化率が-100%未満だと、梱包、輸送時や巻き出す際に巻崩れが発生しやすくなり、巻回体のハンドリング性が低下する傾向がある。また、変化率が+160%を超過すると、巻きズレが悪化する傾向がある。張力転換点経過後の巻き取りトルクの変化率(C)は以下の式で計算される。
【0027】
C=(T3×D3-T2×D2)/(T2×D2)×100
C:張力転換点経過後の巻き取りトルクの変化率
T2:張力転換点での張力
T3:巻き取り終了時の張力
D2:張力転換点での巻回径
D3:巻き取り終了時の巻回径
巻きズレ量tは
図1に示すとおり、巻回体の巻きズレを含む全幅Wとカーボンペーパーの幅W
Sをスケールやノギスを用いて測定し、下記式より求めることができる。
【0028】
t=W-W
S
t:巻きズレ量(mm)
W:巻き取り体の巻きズレを含む全幅(mm)
W
S:カーボンペーパーの幅(mm)
カーボンペーパーの蛇行等により巻き取り位置が巻き取り軸の中心軸方向と平行な方向にずれることによる巻ズレを防ぐため、本発明の方法でカーボンペーパーの巻き取りを行うにあたっては、
図2に示すように、巻き取りの前にカーボンペーパーの端部位置を検出する端部位置検出手段6を設け、当該端部位置検出手段の検出信号により巻きズレを防止するよう制御することが好ましい。具体的には、端部位置検出手段6の検出信号に基づき、端部位置検出手段の下流側に配された巻き取り軸3、ニップロール5、フリーロール7などを、巻き取り軸の中心軸と平行な方向、すなわちカーボンペーパーの進行方向と直交する左右方向に移動させることによって、巻き取り装置をカーボンペーパーの蛇行に追従させ、巻きズレを低減することが好ましい。
【0029】
図3はカーボンペーパーの端部位置検出手段の一実施態様を示す正面図である。
図3に示されるように、端部位置検出手段6は、カーボンペーパー1の進行方向の左右いずれかの一端、または両端の位置を検出できるよう設置されることが好ましい。カーボンペーパー端部の位置検出手段には、EPC(登録商標:株式会社ニレコ)等の非接触式のカーボンペーパー端部位置検出手段を用いることが好ましい。前記カーボンペーパー端部の位置検出手段のセンサ部は光源に赤外線発光ダイオードを用いた光電式センサや超音波センサ、空気圧による検出方法などがあるが特段の制約はない。
【0030】
なお、上述の巻き取り方法を含むカーボンペーパーの製造方法もまた、本発明の一側面として理解されることは言うまでもない。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0032】
[実施例1]
東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300-6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6000本)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水溶液に浸漬し、乾燥して、炭素繊維の目付が約37g/m2の長尺の炭素繊維抄造体を得てロール状に巻き取った。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素繊維紙100重量部に対して20重量部に相当する。
【0033】
鱗片状黒鉛(平均粒径5μm)、フェノール樹脂、メタノールを混合した分散液を用意した。上記炭素繊維抄造体に、炭素繊維紙100重量部に対してフェノール樹脂が110重量部になるように、上記分散液を連続的に含浸し、乾燥を経てロール状に巻き取った。フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを固形分重量で1:1に混合した樹脂を用いた。
【0034】
続いて、樹脂を含浸した炭素繊維抄造体を、プレス成形機に上面盤および下面盤が互いに平行となるようセットし、面盤温度200℃で、プレスの開閉を繰り返しながら間欠的に搬送しつつ加熱加圧処理に供し、得られた焼成前のカーボンペーパーをロール状に巻き取った。
【0035】
得られたカーボンペーパーを、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2000℃の加熱炉に導入して焼成を行い、得られたカーボンペーパーをロール状に巻き取った。得られたカーボンペーパーは厚さ0.18mm、気孔率80%、曲げ弾性率10GPa、静摩擦係数0.3、引張強度2.5kN/mであった。
【0036】
カーボンペーパーを巻き取る様子を
図2に示す。ロール状に巻き取る巻き取り軸3と該巻き取り軸3の前にカーボンペーパー1をニップするニップロール5と該ニップロール5の上流側に設けられたカーボンペーパーの端部位置検出手段6と、該位置検出からの検出信号により、前記巻き取り軸を巻き取り軸中心軸と平行な方向に移動させる移動手段と該移動手段を制御する制御部とを有してなるカーボンペーパーの巻き取り装置を用いて、外径が170mmのコアボビン4に前記カーボンペーパーを巻き取っており、幅300mm、長さ1600mのカーボンペーパーを、巻き出し開始時の巻き取り張力T1=800N/mで巻回径D2=240mmになるまで巻き取り(張力転換点=70mm)、その後、張力を長さあたり低下量一定で漸減させながら、巻き終わりの張力がT3=100N/mになるように巻き取った。大きな巻きズレ、破断や欠けなどの問題を生じることなく安定して巻き取りが可能であった。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0037】
[実施例2]
T1=850N/mで巻回径D2=400mmになるまで巻き取り(張力転換点=230mm)、巻き終わりの張力T3=600N/mとした以外は実施例1と同様に巻き取った。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0038】
[実施例3]
長さ1100mのカーボンペーパーを、T1=780N/mで巻回径D2=220mmになるまで巻き取り(張力転換点=50mm)、巻き取り終了時の張力T3=250N/mとした以外は実施例1と同様に巻き取った。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0039】
[実施例4]
T1=751N/mで巻回径D2=244mmになるまで巻き取り(張力転換点=74mm)、巻き取り終了時の張力T3=578N/mとした以外は実施例1と同様に巻き取った。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0040】
[比較例1]
長さ1000mのカーボンペーパーを、T1=430N/mで、巻き取り終了まで張力一定とした以外は実施例1と同様に巻き取った。1000m巻き取ったところ巻きズレが大きくなった。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0041】
[比較例2]
長さ1000mのカーボンペーパーを、T1=30N/mで巻回径D2=200mmになるまで巻き取り(張力転換点=30mm)、巻き取り終了時の張力T3=20N/mとした以外は実施例1と同様に巻き取った。600m巻き取ったところ巻きズレが大きくなった。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0042】
[実施例5]
炭素繊維の目付を30.5g/m2とした以外は実施例1と同様にして、厚さ0.15mm、気孔率80%、曲げ弾性率7GPa、静摩擦係数0.3、引張強度2kN/mのカーボンペーパーを得た。長さ1800mの前記カーボンペーパーを、T1=499N/mで巻回径D2=222mmになるまで巻き取り(張力転換点=52mm)、巻き取り終了時の張力T3=333N/mとした以外は実施例1と同様に巻き取った。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0043】
[実施例6]
T1=521N/mで巻回径D2=232mmになるまで巻き取り(張力転換点=62mm)、巻き取り終了時の張力T3=155N/mとした以外は実施例5と同様に巻き取った。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0044】
[比較例3]
T1=400N/mで、巻き取り終了まで張力一定とした以外は実施例5と同様に巻き取った。巻き取り長さ1300mで巻きズレが大きくなり巻き取りを中止した。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0045】
[実施例7]
実施例5記載のカーボンペーパーで2000℃熱処理後ロール状に巻き取られたカーボンペーパーを巻き出し、PTFE水性ディスパージョンに浸漬した後引き上げ、110℃に設定したトンネル型乾燥機で乾燥した。カーボンペーパーのPTFE付着率は2wt%となるよう設定した。続けてダイコーターを用いてPTFEとカーボンブラックを含むマイクロポーラス層塗液を塗布した後、110℃の乾燥機を通過させ水分を乾燥、さらに温度を350℃に設定した焼結炉を通過、焼結を実施、両端部スリット後、微多孔層のカーボンペーパーへの転写を防ぐため長尺の厚み0.05mmの紙を重ね、巻き取り機にて巻き取った。得られたマイクロポーラス層を片面に設けたカーボンペーパーは厚さ0.18mm,曲げ弾性率5GPa、静摩擦係数0.5、引張強度5kN/mであった。上記の微多孔層を片面に設けた、幅280mm,長さ1600mのカーボンペーパーは、T1=350N/mで巻回径D2=350mmになるまで巻き取り(張力転換点=180mm)、その後張力を小さくしながら巻き取り、巻き取り終了時の張力をT3=130N/mとして巻き取った。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0046】
[実施例8]
長さ1100mの前記カーボンペーパーをT1=514N/mで巻回径D2=429mmになるまで巻き取り(張力転換点=259mm)、巻き取り終了時の張力T3=201N/mとした以外は実施例7と同様に巻き取った。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0047】
[比較例4]
T1=514N/mで、巻き取り終了まで張力一定とした以外は実施例8と同様に巻き取った。巻き取り長さ1100m巻き取りを中止した。諸元、巻き取り結果を表1に示す。また、巻き取り張力の推移を
図4に示す。
【0048】
【符号の説明】
【0049】
1:カーボンペーパー
2:カーボンペーパー巻回体
3:巻き取り軸
4:コアボビン
5:ニップロール
6:カーボンペーパーの端部位置検出手段
7:フリーロール
W:カーボンペーパー巻回体の巻きズレを含む全幅
WS:カーボンペーパーの幅