(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】過給機付きエンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 37/18 20060101AFI20250311BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20250311BHJP
F02D 9/02 20060101ALI20250311BHJP
F01P 3/12 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
F02B37/18 A
F02D23/00 N
F02D9/02 C
F02D9/02 341H
F02D9/02 341J
F01P3/12
(21)【出願番号】P 2021085159
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜大
(72)【発明者】
【氏名】藤山 智彰
(72)【発明者】
【氏名】林 一英
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147954(JP,A)
【文献】特開2017-8724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00
F02D 23/00
F02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体と、エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、エンジン本体から排出される排気ガスが流通する排気通路と、前記吸気通路に設けられるコンプレッサおよび前記排気通路に設けられるタービンを含み吸気を過給するターボ過給機とを備えた過給機付きエンジンの制御装置であって、
前記吸気通路の前記コンプレッサよりも下流側に設けられて吸気を冷却するインタークーラと、
前記吸気通路の前記コンプレッサと前記インタークーラとの間の部分に設けられて前記吸気通路を流通する吸気の量を調整するスロットルボディと、
前記ターボ過給機の過給量を変更可能な過給量変更手段と、
前記過給量変更手段を制御する制御手段とを備え、
前記スロットルボディは、前記吸気通路の前記コンプレッサと前記インタークーラとの間の部分を開閉するスロットルバルブと、当該スロットルバルブを囲み且つ前記エンジン本体を冷却する冷却水が内側を流通するバルブケースとを有し、
前記制御手段は、
前記ターボ過給機によって過給された後の吸気と前記冷却水との温度差が所定の基準温度差以下になるように前記過給量変更手段を制御する
とともに、
過給圧の目標値である目標過給圧をエンジンの運転条件に基づいて設定し、且つ、設定した前記目標過給圧が所定の上限過給圧よりも高い場合は前記目標過給圧を前記上限過給圧と同じ値に補正する目標過給圧設定部と、
前記過給圧が前記目標過給圧設定部で設定された前記目標過給圧になるように前記過給量変更手段を制御する過給圧制御部とを備え、
前記目標過給圧設定部は、前記冷却水の温度が高いときは低いときよりも前記上限過給圧を高い値に設定する、ことを特徴とする過給機付きエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の過給機付きエンジンの制御装置において、
前記過給量変更手段は、前記排気通路に設けられて前記タービンをバイパスするバイパス通路と、当該バイパス通路を開閉するウエストゲートバルブとを有し、当該ウエストゲートバルブの開度を変更することで前記過給量を変更する、ことを特徴とする過給機付きエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン本体と、エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、エンジン本体から排出される排気ガスが流通する排気通路と、前記吸気通路に設けられるコンプレッサおよび前記排気通路に設けられるタービンを含み吸気を過給するターボ過給機とを備えた過給機付きエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気通路にこれを開閉可能なスロットルバルブが設けられたエンジンでは、スロットルバルブの開閉が不能になるとエンジン本体に適切な量の吸気が導入されなくなる。そこで、従来より、スロットルバルブが開閉不能になるのを防止するべく、エンジン本体を冷却する冷却水をスロットルバルブを囲むバルブケースに供給することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、スロットルバルブの氷結を防止するべく、バルブケースに冷却水通路を設けて、エンジン本体のシリンダヘッドから導出された冷却水を上記の冷却水通路に導入した後、ウォーターポンプに戻すようにしたエンジンが開示されている。このように冷却水をバルブケースに供給する構成では、エンジン本体から導出された比較的温度の高い冷却水によってバルブケースを温めることができ、吸気に含まれる水蒸気がスロットルバルブの周囲で氷結してスロットルバルブの開閉を阻害するのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ターボ過給機およびターボ過給機により過給された吸気を冷却するインタークーラを備え、車両等に搭載されるエンジンでは、車載レイアウトの都合等によって、インタークーラがスロットルバルブよりも下流側に配設される場合がある。この配置では、ターボ過給機により過給された高温・高圧の吸気がまずスロットルバルブを通過し、その後、インタークーラで冷却される。そのため、この配置が採用されたエンジンにおいて、上記のような冷却水によってバルブケースを冷却するという構成を単純に採用するとスロットルバルブが固着するおそれがある。
【0006】
具体的には、スロットルボディは冷却水により冷却される一方、スロットルバルブは高温の吸気によって加熱される結果、スロットルバルブがバルブケースに対して相対的に大きく膨張してスロットルバルブがバルブケースに固着するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、スロットルバルブの固着を抑制可能なターボ過給機付きエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジン本体と、エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、エンジン本体から排出される排気ガスが流通する排気通路と、前記吸気通路に設けられるコンプレッサおよび前記排気通路に設けられるタービンを含み吸気を過給するターボ過給機とを備えた過給機付きエンジンの制御装置であって、前記吸気通路の前記コンプレッサよりも下流側に設けられて吸気を冷却するインタークーラと、前記吸気通路の前記コンプレッサと前記インタークーラとの間の部分に設けられて前記吸気通路を流通する吸気の量を調整するスロットルボディと、前記ターボ過給機の過給量を変更可能な過給量変更手段と、前記過給量変更手段を制御する制御手段とを備え、前記スロットルボディは、前記吸気通路の前記コンプレッサと前記インタークーラとの間の部分を開閉するスロットルバルブと、当該スロットルバルブを囲み且つ前記エンジン本体を冷却する冷却水が内側を流通するバルブケースとを有し、前記制御手段は、前記ターボ過給機によって過給された後の吸気と前記冷却水との温度差が所定の基準温度差以下になるように前記過給量変更手段を制御するとともに、過給圧の目標値である目標過給圧をエンジンの運転条件に基づいて設定し、且つ、設定した前記目標過給圧が所定の上限過給圧よりも高い場合は前記目標過給圧を前記上限過給圧と同じ値に補正する目標過給圧設定部と、前記過給圧が前記目標過給圧設定部で設定された前記目標過給圧になるように前記過給量変更手段を制御する過給圧制御部とを備え、前記目標過給圧設定部は、前記冷却水の温度が高いときは低いときよりも前記上限過給圧を高い値に設定する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、ターボ過給機の過給量の調整によって、ターボ過給機により昇温・昇圧された後にスロットルバルブに到達してこれを加熱する吸気の温度と、バルブケースを冷却する冷却水の温度との差が、所定の基準温度差以下に抑えられる。そのため、バルブケースの温度に対してスロットルバルブの温度が過度に高くなるのを防止でき、バルブケースに対するスロットルバルブの相対的な膨張を小さく抑えてスロットルバルブの固着を抑制できる。
【0011】
ここで、冷却水の温度およびバルブケースの温度が高い方が、スロットルバルブが固着するおそれのあるスロットルバルブの温度および吸気(ターボ過給機により昇温・昇圧された後にスロットルバルブに到達する吸気)の温度の下限値は高くなり、スロットルバルブが固着するおそれのある吸気の圧力つまり過給圧の下限値は高くなる。そのため、本発明によれば、冷却水の温度が高いときの方が上限過給圧が高くされるとともに上限過給圧を超えない範囲でエンジンの運転条件に基づいて設定された目標過給圧となるように過給圧が制御されることで、スロットルバルブの固着を抑制しつつ実現可能な過給圧の範囲を広く確保することができ、過給圧をエンジンの運転条件に応じた適切な値にできる機会を多くできる。
【0012】
前記構成において、前記過給量変更手段としては、前記排気通路に設けられて前記タービンをバイパスするバイパス通路と、当該バイパス通路を開閉するウエストゲートバルブとを有し、当該ウエストゲートバルブの開度を変更することで前記過給量を変更するものが挙げられる(請求項2)。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のターボ過給機付きエンジンの制御装置によれば、スロットルバルブの固着を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの構成を示した図である。
【
図4】過給圧の制御内容を示したフローチャートである。
【
図5】エンジン水温と基準温度差との関係を示したグラフである。
【
図6】エンジン水温と上限吸気温との関係を示したグラフである。
【
図7】上限吸気温と上限過給圧との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(エンジンの全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る過給機付きエンジンの制御装置が適用されたエンジンの好ましい実施形態を示す概略システム図である。エンジンは、燃料の供給を受けて駆動されるエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路50と、エンジン本体1から排出された排気ガスが流通する排気通路60とを備える。エンジンは、排気通路60を通過する排気ガスにより駆動されるターボ過給機70を備えており、排気通路60に設けられて排気により駆動されるタービン71と、吸気通路50に設けられてタービン71により回転駆動されて吸気を過給するコンプレッサ72とを有する。このエンジンは、自動車等の車両にその走行用の動力源等として搭載される。
【0016】
エンジン本体1は、
図1の紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2a(
図1ではそのうちの一つのみを示す)を有する直列多気筒型のものである。エンジン本体1は、複数の気筒2aが内部に形成されたシリンダブロック2と、各気筒2aの上端開口を塞ぐようにシリンダブロック2の上面に取り付けられたシリンダヘッド3と、各気筒2aにそれぞれ往復摺動可能に収容された複数のピストン4とを備える。なお、本実施形態では、シリンダブロック2からシリンダヘッド3に向かう側を上、その逆を下として扱うが、これは説明の便宜のためであって、エンジンの据付姿勢を限定する趣旨ではない。
【0017】
各気筒2aのピストン4の上方には、それぞれ燃焼室5が区画されている。燃焼室5には、後述するインジェクタ10からの噴射によって燃料が供給される。供給された燃料と空気との混合気が燃焼室5で燃焼し、当該燃焼による膨張力を受けてピストン4は上下方向に往復運動する。
【0018】
シリンダブロック2の下部(ピストン4の下方)には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸13が設けられている。クランク軸13は、各気筒2aのピストン4とコネクティングロッドを介して連結され、ピストン4の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転する。
【0019】
シリンダブロック2には、クランク角センサSN1および水温センサSN2が取り付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸13の回転角度であるクランク角と、クランク軸13の回転数であるエンジン回転数とを検出する。水温センサSN2は、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3の内部を流通してエンジン本体1を冷却する冷却水の温度つまりエンジン水温を検出する。具体的に、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3には、各内側に冷却水が流通するウォータジャケットが形成されており、冷却水は、シリンダブロック2に取り付けられたウォーターポンプ(不図示)によって、ウォータジャケットと、車両に搭載されて冷却水を冷却可能なラジエータとの間で循環される。
【0020】
シリンダヘッド3には、燃焼室5と連通する吸気ポート6および排気ポート7が、それぞれ気筒2aごとに形成されている。また、シリンダヘッド3には、吸気弁8、排気弁9、インジェクタ10および点火プラグ11の組合せが、それぞれ気筒2aごとに装備されている。吸気弁8は、吸気ポート6の燃焼室5側の開口を開閉するバルブである。排気弁9は、排気ポート7の燃焼室5側の開口を開閉するバルブである。インジェクタ10は、燃焼室5に燃料を噴射する噴射弁である。本実施形態では、インジェクタ10は、サイド噴射方式で燃料を噴射するようにシリンダヘッド3に取り付けられており、その先端が燃焼室5の内周面から燃焼室5を臨むように配設されている。
【0021】
吸気通路50は、各気筒2aの吸気ポート6と連通するようにシリンダヘッド3の一側面に接続されている。吸気通路50には、その上流側から順に、エアクリーナ51、コンプレッサ72、スロットルボディ80、インタークーラ53、およびサージタンク54が配置されている。
【0022】
エアクリーナ51は、吸気中の異物を除去するフィルターである。スロットルボディ80は、吸気通路50を流通する吸気の量を調整するものである。スロットルボディ80の詳細は後述する。コンプレッサ72は、上記のようにタービン71によって駆動されて吸気を過給つまり昇温・昇圧するものである。インタークーラ53は、ターボ過給機70(詳しくはコンプレッサ72)により過給された吸気を冷却する熱交換器である。サージタンク54は、各気筒2aに吸気を均等に配分するための空間を提供するタンクである。
【0023】
図2は、
図1のスロットルボディ80周辺を拡大して示した概略図である。
図2に示すように、スロットルボディ80は、吸気通路50の内側つまり吸気の流路に配設されてこれを開閉するスロットルバルブ81を有する。スロットルバルブ81は、バタフライ弁であり、吸気の流れと交差する方向に延びる回動軸82がその中心軸回りに回動されることで吸気の流路を開閉する。本実施形態では、スロットルボディ80は、電動式であり、回動軸82つまりスロットルバルブ81を回動させるモータ83を有する。また、スロットルボディ80は、スロットルバルブ81を囲み、スロットルバルブ81を回動可能に支持するバルブケース85を有する。バルブケース85は、略円筒状を有し、その内側空間は吸気の流路の一部を構成している。つまり、スロットルボディ80は、バルブケース85の内側空間が吸気の流路の一部を構成するように吸気通路50に配設されている。そして、スロットルバルブ81はバルブケース85によって区画された吸気通路50の一部分を開閉することで、吸気通路50を流通する吸気の量を変更する。
【0024】
バルブケース85は、その内側を、エンジン本体1を冷却する上記の冷却水が流通するように構成されている。具体的に、バルブケース85の内側には、冷却水が流通する通路86が形成されており、バルブケース85には、当該通路86に冷却水を導入するための導入口87と、通路86を流通した後の冷却水を導出するための導出口88が設けられている。導入口87および導出口88は、ウォーターポンプとラジエータとの間で冷却水を循環させる循環通路と接続されており、この循環通路を流通する冷却水がバルブケース85内の通路86に供給される。この構成により、本実施形態では、スロットルバルブ81の周辺が氷結することに伴ってスロットルバルブ81が固着するのが防止されるようになっている。具体的には、外気温が非常に低い場合には吸気中の水分がスロットルバルブ81の周辺で氷結する結果スロットルバルブ81が固着するおそれがある。これに対して、エンジン本体1を通過することで外気温よりも温度が高くなった冷却水がバルブケース85内に供給されれば、スロットルバルブ81周辺の氷を解かしてこれの固着を防止できる。
【0025】
吸気通路50には、エアフローセンサSN3および吸気圧センサSN4が配置されている。エアフローセンサSN3は、吸気通路50におけるエアクリーナ51とコンプレッサ72の間の部分に配置され、当該部分を通過する吸気の流量である吸気量を検出する。吸気圧センサSN4は、サージタンク54に配置され、当該サージタンク54を通過する吸気の圧力を検出する。サージタンク54を通過する吸気はターボ過給機70によって過給された後の吸気であり、サージタンク54内の圧力は過給圧である。これより、吸気圧センサSN4は過給圧を検出している。
【0026】
排気通路60は、各気筒2aの排気ポート7と連通するようにシリンダヘッド3の一側面(吸気通路50と反対側の面)に接続されている。排気通路60には、上流側から順に、タービン71、三元触媒等の触媒が内蔵された触媒コンバータ61が設けられている。
【0027】
また、排気通路60には、タービン71をバイパスするバイパス通路62が設けられており、バイパス通路62を通過することで排気通路60の排気ガスの一部がタービン71を通らずにタービン71よりも下流側の部分に流れるようになっている。バイパス通路62は、排気通路60の触媒コンバータ61よりも上流側の部分に接続されている。バイパス通路62には、ウエストゲートバルブ用モータ64によって駆動されてバイパス通路62を開閉するウエストゲートバルブ63が設けられている。
【0028】
ウエストゲートバルブ63の開度は、全閉、全開およびこれらの間の任意の開度に変更され得るようになっており、ウエストゲートバルブ63の開度に応じてバイパス通路62を流通する排気ガスの量およびタービン71を通過する排気ガスの量が変更される。タービン71を通過する排気ガスの量が変化するとターボ過給機70の過給量つまり過給圧は増減する。具体的には、ウエストゲートバルブ63の開度が小さく(閉じ側に)されると、バイパス通路62を通過する排気ガスの量が少なくなってタービン71を通過する排気ガスの量が多くなる結果、タービン71によるコンプレッサ72の回転駆動力が大きくなってターボ過給機70の過給量および過給圧が大きくなる。反対に、ウエストゲートバルブ63の開度が大きく(開き側に)されると、バイパス通路62を通過する排気ガスの量が多くなってタービン71を通過する排気ガスの量が少なくなる結果、タービン71によるコンプレッサ72の回転駆動力が小さくなって過給圧が小さくなる。このように、本実施形態では、ウエストゲートバルブ63の開度に応じてターボ過給機70の過給量および過給圧が変更されるようになっており、ウエストゲートバルブ63およびこれが配設されたバイパス通路62が、請求項の「過給量変更手段」に相当する。
【0029】
(制御系統)
図3は、エンジンの制御系統を示す機能ブロック図である。本図に示されるECU100は、エンジンを統括的に制御するための装置であり、各種演算処理を行うプロセッサ(CPU)と、ROMおよびRAM等のメモリーと、各種の入出力バスとを含むマイクロコンピュータにより構成されている。
【0030】
ECU100には、エンジンの各センサによる検出情報が入力される。例えば、ECU100は、上記したクランク角センサSN1、水温センサSN2、エアフローセンサSN3および吸気圧センサSN4と電気的に接続されている。ECU100には、当該各センサSN1~SN4によって検出された情報、つまりクランク角、エンジン回転数、エンジン水温、吸気量、過給圧等の情報が逐次入力される。また、ECU100には、エンジンが搭載される車両に備わる各種センサによる検出情報も入力される。本実施形態において、車両には、車両に備わるアクセルペダルの開度であるアクセル開度を検出するアクセルセンサSN5が設けられている。ECU100には、アクセルセンサSN5によって検出されたアクセル開度の情報も逐次入力される。
【0031】
ECU100は、上記各センサSN1~SN5からの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。例えば、ECU100は、インジェクタ10、点火プラグ11、スロットルバルブ81(詳しくはスロットルバルブ81を駆動するモータ83)およびウエストゲートバルブ63(詳しくはこれを駆動するウエストゲートバルブ用モータ64)と電気的に接続されており、上記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0032】
(過給圧の制御)
上記のように、本実施形態では、コンプレッサ72とインタークーラ53との間にスロットルバルブ81が配設されている。これより、コンプレッサ72により昇温・昇圧された吸気は、インタークーラ53で冷却される前にスロットルバルブ81に到達する。そのため、スロットルバルブ81は、高温の吸気によって加熱されて高温になる。一方、上記のように、バルブケース85の内側には冷却水が流通しており、バルブケース85は冷却水によって冷却されることでその温度は低く抑えられる。これより、バルブケース85は膨張していない、あるいは、バルブケース85の膨張量は小さく抑えられているにも関わらず、
図2の鎖線に示すように、スロットルバルブ81が大きく膨張するおそれがある。そして、このようにバルブケース85に対してスロットルバルブ81が過度に膨張すると、スロットルバルブ81とバルブケース85との隙間が確保されなくなってスロットルバルブ81の回動が不能になる、つまり、スロットルバルブ81が固着するおそれがある。そこで、本実施形態では、このようなスロットルバルブ81の固着が生じるのを回避するべく、以下に説明する過給圧の制御を実施する。
【0033】
ECU100は、過給圧の目標値である目標過給圧を設定する目標過給圧設定部102、および、目標過給圧が実現されるようにウエストゲートバルブ63を制御する過給圧制御部101を機能的に有する。これら過給圧制御部101よおび目標過給圧設定部102を含むECU100は、請求項の「制御手段」に相当する。
【0034】
図4は、ECU100(過給圧制御部101、目標過給圧設定部102)により実施される過給圧の制御内容を示したフローチャートである。以下では、適宜、スロットルバルブ81を加温する吸気であって、ターボ過給機70で過給された後且つインタークーラ53で冷却される前の吸気を、過給後吸気という。
【0035】
まず、ステップS1にて、ECU100は、センサSN1~SN5等により検出された各種情報を読み込む。ステップS1では、ECU100は、少なくとも、エンジン回転数、アクセル開度、過給圧、エンジン水温を読み込む。
【0036】
次に、ステップS2にて、ECU100は、ステップS1で読み込んだ情報に基づいて目標過給圧を設定する。目標過給圧は、上記のように過給圧つまりサージタンク54内の圧力の目標値である。ECU100は、エンジンの運転条件に基づいて目標過給圧を設定する。具体的には、ECU100は、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づいて目標過給圧を設定する。なお、ECU100は、アクセル開度とエンジン回転数等からエンジン負荷を算出する。
【0037】
次に、ステップS3にて、ECU100は、上限吸気温を設定する。上限吸気温は、スロットルバルブ81の固着を回避可能な過給後吸気の温度の最大値である。
【0038】
具体的には、上記のように、スロットルバルブ81の固着は、バルブケース85に対してスロットルバルブ81が過度に膨張すると生じる。バルブケース85に対してスロットルバルブ81が過度に膨張するのは、バルブケース85の温度つまり冷却水の温度であるエンジン水温に対して、バルブケース85の温度つまりこれを加温する過給後吸気の温度が過度に高くなったときである。すなわち、過給後吸気の温度とエンジン水温との差が所定の基準温度差よりも高くなると、バルブケース85に対してスロットルバルブ81が過度に膨張してスロットルバルブ81は固着することになり、上記の上限吸気温は、エンジン水温との差がこの基準温度差となる温度である。
【0039】
本実施形態では、基準温度差、つまり、過給後吸気の温度とエンジン水温の温度差の上限値(スロットルバルブ81の固着を回避可能な上記温度差の最大値)は、
図5に示すように設定されている。具体的には、基準温度差は、エンジン水温が所定水温Tw1(例えば、80℃)以下では、エンジン水温に関わらず一定の値dT(例えば、110℃)とされ、エンジン水温が所定水温Tw1より高い場合はエンジン水温が高くなるほど低くなるように設定されている。ただし、エンジン水温が所定水温Tw1より高い場合においてもエンジン水温に対する基準温度差の変化幅は小さく(例えば、10℃程度とされており)、基準温度差はエンジン水温に関わらず概ね一定の値に設定されているといえる。
【0040】
基準温度差が
図5に示すように設定されていることに伴い、本実施形態では、上限吸気温は
図6のように設定される。つまり、上限吸気温は、エンジン水温に基準温度差を足した値であるので、上限吸気温は、エンジン水温が高いほど高い値となるように設定される。本実施形態では、
図6に示す、エンジン水温と上限吸気温との関係が予めマップで設定されてECU100に記憶されており、ECU100はこのマップから、ステップS1で読み込んだエンジン水温に対応する上限吸気温を抽出する。
【0041】
図4に戻り、ECU100は、ステップS3に次いでステップS4にて、上限過給圧を設定する。上限過給圧は、過給後吸気の温度が上限吸気温となるときの過給圧である。過給後吸気の温度と過給圧とは比例する。これより、ECU100は、
図7に示すように、ステップS3で設定した上限吸気温が高いほど上限過給圧が高くなるようにこれを設定する。ここで、上記のように、上限吸気温は、エンジン水温が高いほど高い値に設定される。これより、上限過給圧は、エンジン水温が高いほど高い値に設定されることになる。本実施形態では、
図6に対応する上限吸気温と上限過給圧のマップが予め設定されてECU100に記憶されており、ECU100はこのマップからステップS3で設定した上限吸気温に対応する値を抽出する。
【0042】
次に、ステップS5にて、ECU100は、ステップS2で設定した目標過給圧がステップS4で設定した上限過給圧よりも高いか否かを判定する。
【0043】
ステップS5の判定がYESであってステップS2で設定した目標過給圧が上限過給圧よりも高い場合、ECU100は、ステップS6に進み、上限過給圧を目標過給圧に設定し直す。つまり、ECU100は、目標過給圧を上限過給圧と同じ値に補正する。
【0044】
次に、ECU100は、ステップS7に進み、目標過給圧に基づいてウエストゲートバルブ63の開度を調整する。具体的には、ECU100は、ステップS1で読み込んだ過給圧(吸気圧センサSN4の圧力)が目標過給圧になるように、ウエストゲートバルブ63の開度を調整する。
【0045】
一方、ステップS5の判定がNOであってステップS2で設定した目標過給圧が上限過給圧以下の場合、ECU100は、そのままステップS7に進む。つまり、ECU100は、目標過給圧の補正を行わず、目標過給圧をステップS2で設定した目標過給圧に維持する。そして、ステップS7にて、この目標過給圧が実現されるようにウエストゲートバルブ63の開度を調整する。
【0046】
(作用等)
以上のように、本実施形態では、過給圧が目標過給圧になるようにウエストゲートバルブ63の開度が変更され、エンジン回転数に基づいて設定された目標過給圧が上限過給圧よりも高い場合は目標過給圧が上限過給圧と同じ値に補正される。そのため、過給圧が上限過給圧よりも高くなるのを回避でき、これにより、過給後吸気の温度が上限吸気温よりも高くなること、ひいては、過給後吸気の温度とエンジン水温との差が基準温度差よりも高くなるのを回避できる。つまり、上記実施形態によれば、ターボ過給機70の過給量の調整によって、過給後吸気の温度(つまりターボ過給機70によって過給された後の吸気)とエンジン水温(つまり冷却水の温度)との差が基準温度差以下に抑えられる。従って、スロットルバルブ81がバルブケース85に対して過度に膨張するのを回避でき、スロットルバルブ81の固着を抑制できる。また、エンジン回転数に基づいて設定された目標過給圧が上限過給圧よりも低い場合には、過給圧をエンジン回転数に対応した適切な圧力にすることができる。
【0047】
また、上記のように、エンジン水温が高いときの方が低いときよりも上限吸気温が高くなることに対応して、上限過給圧はエンジン水温が高いときの方が低いときよりも高い値とされる。そのため、上記のように、過給後吸気の温度が上限吸気温よりも高くなること、および、過給後吸気の温度とエンジン水温との差が基準温度差よりも高くなるのを回避してスロットルバルブ81の固着を抑制しながら、過給圧のとり得る範囲を広くすることができ、過給圧をエンジン回転数に応じた適切な値にできる機会を多くすることができる。
【0048】
(変形例)
上記実施形態では、ウエストゲートバルブ63の開度の変更によってターボ過給機70の過給圧つまりターボ過給機70の過給量を変更させる場合を説明したが、ターボ過給機70の過給圧および過給量を変更させるための具体的な手段はこれに限らない。例えば、ターボ過給機として、タービン内における排気ガスが通過する通路の面積を変更できるもの(いわゆる、VGT:Variable Geometry Turbo)を用いて、前記の通路面積を変更することで過給圧を増減させるようにしてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、エンジン水温に基づいて上限吸気温を設定し、設定した上限吸気温に基づいて上限過給圧を設定した場合を説明したが、上限吸気温の設定を省略し、エンジン水温から上限過給圧を直接設定してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、吸気圧センサSN4の検出値に基づいて当該検出値が目標過給圧になるようにウエストゲートバルブ63の開度を変更する場合を説明したが、吸気圧センサSN4の検出値を用いずに目標過給圧に基づいてウエストゲートバルブ63の開度を変更してもよい。例えば、ウエストゲートバルブ63の開度と過給圧との関係を予め実験等で求めてECU100に記憶させておき、ECU100に、記憶している関係から目標過給圧が実現されるウエストゲートバルブ63の開度を設定して当該開度をこの設定値としてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、上限吸気温に基づいて上限過給圧を設定し、過給圧と上限過給圧とを比較して過給圧が上限過給圧以下になるようにウエストゲートバルブ63の開度を変更する場合を説明したが、過給圧と上限過給圧との比較ではなく、過給後の吸気の温度と上限吸気温との比較に基づき、過給後の吸気の温度が上限吸気温以下になるようにウエストゲートバルブ63の開度を変更してもよい。例えば、上記ステップS2で目標過給圧を設定した後、当該目標過給圧が実現された場合の過給後の吸気の温度を推定し、当該推定値が上限吸気温よりも高い場合は、目標過給圧を小さい値に補正して、補正後の目標過給圧にウエストゲートバルブ63の開度を変更してもよい。
【0052】
また、前記実施形態に係るエンジンの制御装置が適用されるエンジンの気筒数等の具体的な構造は前記に限らない。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン本体
80 スロットルボディ
81 スロットルバルブ
85 バルブケース
50 吸気通路
53 インタークーラ
60 排気通路
62 バイパス通路(過給量変更手段)
63 ウエストゲートバルブ(過給量変更手段)
70 ターボ過給機
71 タービン
72 コンプレッサ