(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】クリーニング装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 21/00 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
G03G21/00 318
(21)【出願番号】P 2021086138
(22)【出願日】2021-05-21
【審査請求日】2024-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村内 淳二
(72)【発明者】
【氏名】中野 健
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-014981(JP,A)
【文献】特開2005-070196(JP,A)
【文献】特開2005-266299(JP,A)
【文献】特開昭59-095553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を清掃するクリーニング装置であって、
所定の移動方向に移動する移動体に当接して、前記移動体の付着物を掻き取る弾性部材
と、
前記弾性部材を支持する支持部材と、
を備え、
前記弾性部材は、前記移動体に当接する側の当接端部に設けられ、前記移動体と前記弾性部材との当接に起因して発生する内部応力の振動を低減する応力低減部を備え、
前記応力低減部は、前記弾性部材が前記移動体に当接したときに前記移動方向に対して非垂直となる方向に延びて
おり、
前記支持部材は、前記応力低減部が、前記当接端部における、前記移動体との当接部分側とは反対側になるように前記弾性部材を支持する、
クリーニング装置。
【請求項2】
前記応力低減部は、溝または切り込みである、
請求項1に記載の
クリーニング装置。
【請求項3】
前記応力低減部と前記移動方向とのなす角度は、10°から80°の範囲内である、
請求項1または請求項2に記載の
クリーニング装置。
【請求項4】
前記応力低減部は、前記当接端部に沿う所定方向に並んで複数設けられている、
請求項1~3の何れか1項に記載の
クリーニング装置。
【請求項5】
前記応力低減部は、前記所定方向の一部に設けられている、
請求項4に記載の
クリーニング装置。
【請求項6】
前記応力低減部は、前記所定方向の端部に設けられている、
請求項5に記載の
クリーニング装置。
【請求項7】
前記応力低減部は、前記所定方向の全域に設けられている、
請求項4に記載の
クリーニング装置。
【請求項8】
前記応力低減部は、前記当接端部から、前記移動方向に対して傾斜し、かつ、前記当接端部における前記所定方向の中央部とは反対側に向けて傾斜する、
請求項5~7の何れか1項に記載の
クリーニング装置。
【請求項9】
前記移動体は、媒体に形成するための画像を担持する像担持体であり、
前記応力低減部は、前記弾性部材における、前記移動体の画像形成領域に対応する部分に設けられる、
請求項1~8の何れか1項に記載のクリーニング装置。
【請求項10】
所定の移動方向に移動する移動体と、
請求項
1~9の何れか1項に記載のクリーニング装置と、
を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性部材、クリーニング装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置には、トナー像を担持する像担持体(例えば、感光体ドラム等の移動体)の表面にクリーニングブレード等の弾性部材を当接させることにより、移動体の付着物を除去するクリーニング装置が設けられる。
【0003】
ところで、近年の画像形成装置の高速化に伴い、移動体の移動速度が速くなることにより、弾性部材と移動体との間で発生する摩擦力が増大するので、弾性部材がめくれたり、弾性部材が摩耗しやすく、ひいては部品交換の対象になりやすいという問題がある。
【0004】
部品交換が多くなると、交換時間によるロスに起因して画像形成装置の生産性に影響を与えるため、生産性向上の観点から、部品交換のロスを低減すべく、弾性部材の低ストレス化、長寿命化が課題となっている。
【0005】
このような課題を解決するため、例えば、特許文献1には、像担持体に当接するクリーニング部材を、像担持体の駆動方向に対して角度を有して当接させる構成が開示されている。また、特許文献2には、像担持体に対して、端部のみ斜めに当接可能な構成が開示されている。特許文献1および特許文献2に記載の構成では、像担持体の移動方向に対して斜めになる部分に、クリーニング部材と像担持体との間で発生する摩擦力を作用させて内部応力の振動を低減することで、弾性部材のめくれや弾性部材の摩耗を抑制することが可能となる。
【0006】
また、特許文献3には、クリーニング部材に像担持体の移動方向に直交する方向に延在するスリットを形成した構成が開示されている。この技術では、クリーニング部材と像担持体とを当接させたときにスリットを開かせることにより、クリーニング部材の当接圧を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-082587号公報
【文献】特開2018-189848号公報
【文献】特開2011-197251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、移動体の移動方向に対して角度を有して弾性部材を、移動体に当接させるので、弾性部材を配置するスペースを確保する必要が生じる。また、特許文献2に記載の構成でも同様に、端部の斜め部分を配置するスペースを確保する必要が生じる。
【0009】
そのため、特許文献1および特許文献2に記載の構成では、比較的幅の広い移動体を有する構成の場合、弾性部材を配置することが不可能な場合が生じるため、弾性部材のめくれや弾性部材の摩耗を抑制する構成として一定の限界があり、弾性部材の長寿命化を図ることができない構成となっていた。
【0010】
また、特許文献3に記載の構成では、上記の内部応力の振動を低減することができないため、弾性部材の摩耗を抑制する構成として一定の限界があった。
【0011】
本発明の目的は、長寿命化を図ることが可能な弾性部材、クリーニング装置および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る弾性部材は、
所定の移動方向に移動する移動体に当接して、前記移動体の付着物を掻き取る弾性部材であって、
前記移動体に当接する側の当接端部に設けられ、前記移動体と前記弾性部材との当接に起因して発生する内部応力の振動を低減する応力低減部を備え、
前記応力低減部は、前記弾性部材が前記移動体に当接したときに前記移動方向に対して非垂直となる方向に延びている。
【0013】
本発明に係るクリーニング装置は、
移動体を清掃するクリーニング装置であって、
所定の移動方向に移動する移動体に当接して、前記移動体の付着物を掻き取る弾性部材と、
前記弾性部材を支持する支持部材と、
を備え、
前記弾性部材は、前記移動体に当接する側の当接端部に設けられ、前記移動体と前記弾性部材との当接に起因して発生する内部応力の振動を低減する応力低減部を備え、
前記応力低減部は、前記弾性部材が前記移動体に当接したときに前記移動方向に対して非垂直となる方向に延びており、
前記支持部材は、前記応力低減部が、前記当接端部における、前記移動体との当接部分側とは反対側になるように前記弾性部材を支持する。
【0014】
本発明に係る画像形成装置は、
所定の移動方向に移動する移動体と、
上記のクリーニング装置と、
を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、弾性部材の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る画像形成装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】本実施の形態に係る画像形成装置の制御系の主要部を示す図である。
【
図4】弾性部材を、Z方向の-側から見た図である。
【
図6】変形例に係る弾性部材を、Z方向の-側から見た図である。
【
図7】変形例に係る弾性部材を、Z方向の-側から見た図である。
【
図8】第1評価実験に用いた実験装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る画像形成装置1の全体構成を概略的に示す図である。
図2は、本実施の形態に係る画像形成装置1の制御系の主要部を示す図である。
【0018】
図1および
図2に示す画像形成装置1は、電子写真プロセス技術を利用した中間転写方式のカラー画像形成装置である。すなわち、画像形成装置1は、感光体ドラム413上に形成されたY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナー像を中間転写ベルト421に一次転写し、中間転写ベルト421上で4色のトナー像を重ね合わせた後、用紙S(記録媒体)に二次転写することにより、画像を形成する。
【0019】
また、画像形成装置1には、YMCKの4色に対応する感光体ドラム413を中間転写ベルト421の走行方向に直列配置し、中間転写ベルト421に一回の手順で各色トナー像を順次転写させるタンデム方式が採用されている。
【0020】
図2に示すように、画像形成装置1は、画像読取部10、操作表示部20,画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50、定着部60および制御部101を備える。
【0021】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)102、ROM(Read Only Memory)103、RAM(Random Access Memory)104等を備える。CPU102は、ROM103から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAM104に展開し、展開したプログラムと協働して画像形成装置1の各ブロックの動作を集中制御する。このとき、記憶部72に格納されている各種データが参照される。記憶部72は、例えば不揮発性の半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ)やハードディスクドライブで構成される。
【0022】
制御部101は、通信部71を介して、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の通信ネットワークに接続された外部の装置(例えばパーソナルコンピューター)との間で各種データの送受信を行う。制御部101は、例えば、外部の装置から送信された画像データを受信し、この画像データ(入力画像データ)に基づいて用紙Sに画像を形成させる。通信部71は、例えばLANカード等の通信制御カードで構成される。
【0023】
図1に示すように、画像読取部10は、ADF(Auto Document Feeder)と称される自動原稿給紙装置11および原稿画像走査装置12(スキャナー)等を備えて構成される。
【0024】
自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された原稿Dを搬送機構により搬送して原稿画像走査装置12へ送り出す。自動原稿給紙装置11により、原稿トレイに載置された多数枚の原稿Dの画像(両面を含む)を連続して一挙に読み取ることが可能となる。
【0025】
原稿画像走査装置12は、自動原稿給紙装置11からコンタクトガラス上に搬送された原稿またはコンタクトガラス上に載置された原稿を光学的に走査し、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサー12aの受光面上に結像させ、原稿画像を読み取る。画像読取部10は、原稿画像走査装置12による読取結果に基づいて入力画像データを生成する。この入力画像データには、画像処理部30において所定の画像処理が施される。
【0026】
図2に示すように、操作表示部20は、例えばタッチパネル付の液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)で構成され、表示部21および操作部22として機能する。表示部21は、制御部101から入力される表示制御信号に従って、各種操作画面、画像の状態、各機能の動作状況等の表示を行う。操作部22は、テンキー、スタートキー等の各種操作キーを備え、ユーザーによる各種入力操作を受け付けて、操作信号を制御部101に出力する。
【0027】
画像処理部30は、入力画像データに対して、初期設定またはユーザー設定に応じたデジタル画像処理を行う回路等を備える。例えば、画像処理部30は、制御部101の制御下で、階調補正データ(階調補正テーブル)に基づいて階調補正を行う。また、画像処理部30は、入力画像データに対して、階調補正の他、色補正、シェーディング補正等の各種補正処理や、圧縮処理等を施す。これらの処理が施された画像データに基づいて、画像形成部40が制御される。
【0028】
図1に示すように、画像形成部40は、入力画像データに基づいて、Y成分、M成分、C成分、K成分の各有色トナーによる画像を形成するための画像形成ユニット41Y、41M、41C、41K、中間転写ユニット42等を備える。
【0029】
Y成分、M成分、C成分、K成分用の画像形成ユニット41Y、41M、41C、41Kは、同様の構成を有する。図示および説明の便宜上、共通する構成要素は同一の符号で示し、それぞれを区別する場合には符号にY、M、CまたはKを添えて示すこととする。
図1では、Y成分用の画像形成ユニット41Yの構成要素についてのみ符号が付され、その他の画像形成ユニット41M、41C、41Kの構成要素については符号が省略されている。
【0030】
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414およびドラムクリーニング装置415等を備える。
【0031】
感光体ドラム413は、例えばドラム状の金属基体の外周面に、有機光導電体を含有させた樹脂よりなる感光層が形成された有機感光体よりなる。
【0032】
制御部101は、感光体ドラム413を回転させる駆動モーター(図示略)に供給される駆動電流を制御することにより、感光体ドラム413を一定の周速度で回転させる。
【0033】
帯電装置414は、例えば帯電チャージャーであり、コロナ放電を発生させることにより、光導電性を有する感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。
【0034】
露光装置411は、例えば半導体レーザーで構成され、感光体ドラム413に対して各色成分の画像に対応するレーザー光を照射する。その結果、感光体ドラム413の表面のうちレーザー光が照射された画像領域には、背景領域との電位差により各色成分の静電潜像が形成される。
【0035】
現像装置412は、二成分逆転方式の現像装置であり、感光体ドラム413の表面に各色成分の現像剤を付着させることにより静電潜像を可視化してトナー像を形成する。
【0036】
現像装置412には、例えば帯電装置414の帯電極性と同極性の直流現像バイアス、または交流電圧に帯電装置414の帯電極性と同極性の直流電圧が重畳された現像バイアスが印加される。その結果、露光装置411によって形成された静電潜像にトナーを付着させる反転現像が行われる。
【0037】
ドラムクリーニング装置415は、トナー像を担持する感光体ドラム413を清掃するための清掃部200等を有し、中間転写ベルト421に転写されずに感光体ドラム413の表面に残留するトナーを除去する。ドラムクリーニング装置415は、本発明の「クリーニング装置」に対応する。ドラムクリーニング装置415の詳細については後述する。
【0038】
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、一次転写ローラー422、複数の支持ローラー423、二次転写ローラー424およびベルトクリーニング装置426等を備える。
【0039】
中間転写ユニット42は、無端状ベルトで構成され、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも一つは駆動ローラーで構成され、その他は従動ローラーで構成される。例えば、K成分用の一次転写ローラー422よりもベルト走行方向の下流側に配置されるローラー423Aが駆動ローラーであることが好ましい。これにより、一次転写ニップにおけるベルトの走行速度を一定に保持しやすくなる。駆動ローラー423Aが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。
【0040】
一次転写ローラー422は、各色成分の感光体ドラム413に対向して、中間転写ベルト421の内周面側に配置される。中間転写ベルト421を挟んで、一次転写ローラー422が感光体ドラム413に圧接されることにより、感光体ドラム413から中間転写ベルト421へトナー像を転写するための一次転写ニップが形成される。
【0041】
二次転写ローラー424は、駆動ローラー423Aのベルト走行方向下流側に配置されるバックアップローラー423Bに対向して、中間転写ベルト421の外周面側に配置される。中間転写ベルト421を挟んで、二次転写ローラー424がバックアップローラー423Bに圧接されることにより、中間転写ベルト421から用紙Sへトナー像を転写するための二次転写ニップが形成される。
【0042】
一次転写ニップを中間転写ベルト421が通過する際、感光体ドラム413上のトナー像が中間転写ベルト421に順次重ねて一次転写される。具体的には、一次転写ローラー422に一次転写バイアスを印加し、中間転写ベルト421の裏面側、つまり、一次転写ローラー422と当接する側にトナーと逆極性の電荷を付与することにより、トナー像は中間転写ベルト421に静電的に転写される。
【0043】
その後、用紙Sが二次転写ニップを通過する際、中間転写ベルト421上のトナー像が用紙Sに二次転写される。具体的には、バックアップローラー423Bに二次転写バイアスを印加し、用紙Sの表面側、つまり、中間転写ベルト421と当接する側にトナーと同極性の電荷を付与することにより、トナー像は用紙Sに静電的に転写され、当該用紙Sは定着部60に向けて搬送される。
【0044】
ベルトクリーニング装置426は、二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残留する転写残トナーを除去する。なお、二次転写ローラー424に代えて、二次転写ローラーを含む複数の支持ローラーに、二次転写ベルトがループ状に張架された構成いわゆるベルト方式の二次転写ユニットを採用しても良い。
【0045】
定着部60は、用紙Sの定着面、つまりトナー像が形成されている面側に配置される定着面側部材を有する上側定着部60A、用紙Sの裏面つまり定着面の反対の面側に配置される裏面側支持部材を有する下側定着部60B、および加熱源60C等を備える。定着面側部材に裏面側支持部材が圧接されることにより、用紙Sを挟持して搬送する定着ニップが形成される。
【0046】
定着部60は、トナー像が二次転写され、搬送されてきた用紙Sを定着ニップで加熱、加圧することにより、用紙Sにトナー像を定着させる。定着部60は、定着器F内にユニットとして配置される。
【0047】
用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52および搬送経路部53等を備える。給紙部51を構成する3つの給紙トレイユニット51a~51cには、坪量やサイズ等に基づいて識別された用紙Sが予め設定された種類毎に収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53a等の複数の搬送ローラーを有する。
【0048】
給紙トレイユニット51a~51cに収容されている用紙Sは、最上部から一枚ずつ送出され、搬送経路部53により画像形成部40に搬送される。そして、画像形成部40において、中間転写ベルト421のトナー像が用紙Sの一方の面に一括して二次転写され、定着部60において定着工程が施される。画像形成された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。
【0049】
次に、ドラムクリーニング装置415の詳細について説明する。
図3は、清掃部200の側面図である。
【0050】
なお、本実施の形態の清掃部200の構造を説明するにあたり、直交座標系(X,Y,Z)を使用する。後述する図においても共通の直交座標系(X,Y,Z)で示している。X方向は、感光体ドラム413の幅方向に平行な方向であり、後述する弾性部材210の当接端部に沿う方向(所定方向)である。Y方向は、感光体ドラム413の幅方向(X方向)および弾性部材210の厚みの方向に直交する方向であって、後述する弾性部材210が、後述する支持部材220の支持部分から延出する方向である。Z方向は、弾性部材210の厚みの方向である。
【0051】
図3に示すように、上述したように、ドラムクリーニング装置415は、感光体ドラム413を清掃するための清掃部200を有する。清掃部200は、弾性部材210と、支持部材220とを有する。
【0052】
弾性部材210は、X方向およびY方向に延びる板状の部材であり、例えばポリウレタン製のもので構成される。また、弾性部材210のX方向の長さは、弾性部材210のY方向の長さよりも長くなっている。
【0053】
なお、弾性部材210の厚み(Z方向の長さ)は、画像形成装置1の大きさに応じて適宜設定される。また、弾性部材210のY方向の長さは、画像形成装置1の大きさに応じて適宜設定される。
【0054】
弾性部材210は、X方向に平行で、かつ、Y方向の+側の当接端部におけるZ方向の+側の角部分(当接部分)が感光体ドラム413の表面に当接するように配置される。これにより、弾性部材210は、回転移動する感光体ドラム413に当接することで、中間転写ベルト421に転写されずに感光体ドラム413の表面に残留するトナーを除去する。感光体ドラム413は、本発明の「移動体」に対応する。
【0055】
支持部材220は、弾性部材210を支持する板金であり、ドラムクリーニング装置415を構成する筐体等に固定される。支持部材220は、SECC等の鋼板をL字状に折り曲げて構成されている。
【0056】
支持部材220は、Y方向の+側の端部において、弾性部材210のZ方向の-側から、弾性部材210のY方向の-側の端部を支持する。支持部材220と弾性部材210とは、接着剤や両面テープ等により、接着される。
【0057】
また、
図4および
図5に示すように、弾性部材210における感光体ドラム413に当接する側(Y方向の+側)の当接端部には、応力低減部211が設けられている。応力低減部211は、例えば、溝や切込みであり、感光体ドラム413と弾性部材210との当接に起因して発生する内部応力の振動を低減する。
【0058】
なお、応力低減部が溝である場合は、弾性部材の成型装置によって、溝状の凹みを弾性部材に設け、応力低減部が切込みである場合は、応力低減部を有さない弾性部材に、カッター等の工具によって切込みを弾性部材に設けることで、応力低減部を弾性部材に設けることが可能である。
【0059】
内部応力の振動とは、2つの部材のうちの一方が復元力を受ける状態で、相対運動する2つの部材が当接することにより、その当接部分における摩擦により励起される振動のことである。
【0060】
応力低減部211は、弾性部材210の当接端部における感光体ドラム413との当接部分(Z方向の+側)とは反対側(Z方向の-側)に設けられている。つまり、支持部材220は、応力低減部211が、当接端部における、感光体ドラム413との当接部分側とは反対側になるように弾性部材210を支持する。
【0061】
また、応力低減部211は、当接端部のX方向の全域において、X方向に並んで複数設けられており、弾性部材210が感光体ドラム413に当接したときに、感光体ドラム413の移動方向(Y方向)に対して非垂直となる方向に延びている。具体的には、応力低減部211は、弾性部材210の当接端部からY方向に対して傾斜しており、応力低減部211とY方向とのなす角度は、10°から80°の範囲内である。そして、複数の応力低減部211のそれぞれは、互いに平行になるように並んでいる。
【0062】
弾性部材210は、感光体ドラム413と当接しているので、感光体ドラム413が回転する(移動する)ことにより、弾性部材210と感光体ドラム413との間には摩擦力が発生する。
【0063】
このような相対運動する2つの部材が当接することにより、その2つの部材の当接部分においては摩擦力に基づく内部応力の振動が発生することが一般的に知られている。
【0064】
具体的には、弾性部材と感光体ドラムとの間で発生する摩擦力に起因して弾性部材の内部に応力が発生して、上記の内部応力の振動が発生する。内部応力の振動が発生すると、弾性部材と感光体ドラムとの間で発生する摩擦力と、当該摩擦力に起因する内部応力の振動とによって、弾性部材がめくれやすくなったり、弾性部材が摩耗しやすくなる。
【0065】
本実施の形態では、応力低減部211が弾性部材210に設けられているので、弾性部材210と感光体ドラム413との間で摩擦力が発生すると、感光体ドラム413の移動方向(Y方向)に対して傾斜する応力低減部211に当該摩擦力が作用する。
【0066】
そうすると、Y方向に平行な方向に沿って発生する応力を、応力低減部211が存在することにより、Y方向に対して斜行する方向に作用させることができる。これにより、弾性部材210内部における応力を低減することができるので、摩擦力に起因する内部応力の振動を低減することができ、ひいては弾性部材210のめくれや摩耗を抑制することができる。
【0067】
その結果、弾性部材210の長寿命化を図ることができるので、弾性部材210の交換頻度を低減することができ、ひいては画像形成装置1の長寿命化に寄与することができる。
【0068】
ところで、感光体ドラムの移動方向と垂直な方向に延びる切込み(または溝)を有する構成であると、感光体ドラムと弾性部材との間で発生する摩擦力に切込みが直交するため、切込みに直交する方向に応力が発生する。そのため、このような構成は、内部応力の振動を低減することができない構成であるため、内部応力の振動に起因した弾性部材のめくれや摩耗を抑制することができない。
【0069】
それに対し、本実施の形態では、応力低減部211が摩擦力(Y方向)に対して非垂直な方向に延びているので、摩擦力に対して斜行する方向に応力を作用させることができる。その結果、内部応力の振動を低減することができ、ひいては弾性部材210の長寿命化を図ることができる。
【0070】
また、複数の応力低減部211が弾性部材210におけるX方向の全域に設けられているので、弾性部材210全体における内部応力の振動を低減することができる。
【0071】
なお、上記実施の形態では、複数の応力低減部211が、X方向で互いに平行に並んでいたが、本発明はこれに限定されず、X方向で互いに平行に並んでいなくても良い。例えば、
図6に示すように、応力低減部211の傾斜方向が、弾性部材210のX方向の中央部に対して異なっていても良い。
【0072】
具体的には、応力低減部211は、弾性部材210の当接端部から、弾性部材210の当接端部のX方向の中央部とは反対側に向けて傾斜する。
【0073】
このようにすることで、応力低減部211に作用する摩擦力を、弾性部材210の端部側、つまり、外側に向かう側に向けることができる。その結果、内部応力の振動の低減効果をさらに高めることができる。
【0074】
また、上記実施の形態では、応力低減部211がX方向の全域に設けられていたが、本発明はこれに限定されず、弾性部材210におけるX方向の一部に設けられていても良い。
【0075】
例えば、
図7に示すように、複数の応力低減部211は、弾性部材210におけるX方向の端部に設けられている。
【0076】
弾性部材210におけるX方向の端部の位置は、感光体ドラム413におけるX方向の端部に対応する位置である。つまり、弾性部材210におけるX方向の端部の位置は、感光体ドラム413の表面に塗布される滑剤が少なくなりやすい位置であったり、画像形成領域の端でトナー像が少なくなりやすい位置である。
【0077】
そのため、弾性部材210におけるX方向の端部は、弾性部材210のめくれが発生しやすい部分である。このような弾性部材210におけるX方向の端部のみに、応力低減部211を設けることで、弾性部材210のめくれが発生することを抑制することができる。また、応力低減部211を設ける必要性が高い箇所のみに、応力低減部211を設けるので、弾性部材210の製造工程を簡素化することができる。
【0078】
また、弾性部材におけるX方向の端部以外に、負荷がかかりやすい部分が存在する場合、端部以外の一部のみに応力低減部を設けるようにしても良い。
【0079】
また、上記実施の形態では、応力低減部が当接端部における感光体ドラムとの当接部分とは反対側に位置していたが、本発明はこれに限定されず、感光体ドラムとの当接部分側に位置していても良い。
【0080】
ただし、当接部分側に応力低減部が位置すると、感光体ドラムの付着物が応力低減部内に入り込む場合があるので、感光体ドラムとの当接部分とは反対側に応力低減部を設けることが好ましい。また、当接部分側に応力低減部を設ける場合は、付着物が応力低減部内に入ることを回避する観点から、弾性部材と感光体ドラムとの当接部分よりも外側の部分に応力低減部を設けることが好ましい。
【0081】
また、上記実施の形態では、応力低減部が溝または切込みであったが、本発明はこれに限定されず、例えば、Y方向に対して傾斜する方向に延びる凸部であっても良い。
【0082】
また、上記実施の形態では、弾性部材210がX方向に平行に配置されていたが、本発明はこれに限定されず、応力低減部が移動方向に対して非垂直である限り、弾性部材がX方向に対して傾斜して配置されていても良い。これによれば、応力低減部も傾斜させることにより、弾性部材の傾斜量を少なくすることができる。ただし、画像形成装置における配置スペースの観点から、弾性部材がX方向に平行に配置されていることが好ましい。
【0083】
また、上記実施の形態では、感光体ドラムを移動体とするドラムクリーニング装置をクリーニング装置として例示したが、本発明はこれに限定されず、ベルトクリーニング装置等、感光体ドラム以外のものを移動体とする装置をクリーニング装置としても良い。
【0084】
その他、上記実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0085】
次に、本実施の形態に係るクリーニング装置の評価実験について説明する。
図8は、第1評価実験に用いた実験装置300を概略的に示す図である。
図8に示すように、実験装置300は、回転(移動)可能に構成されたディスク部材310(移動体)と、ディスク部材310に当接するブレード部材320とを有する。ディスク部材310は、図示しない駆動源から駆動力を伝達されることで回転する。ブレード部材320は、ポリウレタン製の弾性部材であり、サイズが2mm×10mm×14mmのものである。ブレード部材320は、図示しない支持部により、取付角度や押し込み量を調整可能である。
【0086】
また、実験装置300には、光弾性法を用いてブレード部材320内の応力分布を可視化するため、1/4波長板内蔵の撮像部材(不図示)と、円偏光フィルター内蔵の高輝度LED(Light Emitting Diode)光源(不図示)とが設けられている。これらにより、ディスク部材310の裏側から、ブレード部材320との当接部分の光学像と光弾性像とを同時に取得することが可能となる。
【0087】
まず、第1評価実験では、応力低減部を設けない構成(第1比較例)、ブレード部材を移動方向に対して10°傾斜して配置した構成(第2比較例)、応力低減部の移動方向に対する傾斜角度を0°とした構成(第1実施例)、応力低減部の移動方向に対する傾斜角度を45°とした構成(第2実施例)のそれぞれについて光弾性像を取得して、応力、弾性部材の端部の引き込み量、弾性部材の端部の振動とを計測した。
【0088】
また、第1実施例および第2実施例における応力低減部は、切込みであり、深さを1mm、長さを5mm、隣の応力低減部との間隔を1mmとした。なお、後述する実施例における応力低減部についても同様である。
【0089】
図9Aに示すように、第1比較例では、光弾性像において応力の等色線が円形状に複数発生し縞次数が多く、ブレード部材の内部で応力が高い状態となっている。そのため、
図10に示すように、第1比較例の応力、引き込み量および振動が比較的大きな値(
図10における「大」)で計測されたことが確認された。
【0090】
また、
図9Bに示すように、第2比較例では、光弾性像において応力の縞次数が少なく、ブレード部材の内部の応力が低減された状態となっている。そのため、
図10に示すように、第2比較例の応力、引き込み量および振動が比較的小さな値(
図10における「小」)で計測されたことが確認された。しかし、第2比較例では、ブレード部材の配置スペースを設ける必要があるため、実用的な構成ではない。
【0091】
図9Cに示すように、第1実施例では、光弾性像における応力の縞が応力低減部に沿って直線状で区切られて抑制されており、縞次数が少なくなって、ブレード部材の内部応力が低減された状態となっている。つまり、第1実施例では、第1比較例のように、内部で応力が低減された。そのため、
図10に示すように、第1実施例の応力および引き込み量が比較的小さな値(
図10における「小」)で計測されたことが確認された。また、振動についても、第2比較例ほど、低減できてないが、第1比較例と比較すると、十分に小さな値(
図10における「中」)で計測されたことが確認された。
【0092】
図9Dに示すように、第2実施例では、光弾性像におけるX方向の応力が応力低減部に沿ってY方向に伝達され抑制されており、縞次数が少なくなって、ブレード部材の内部応力が低減された状態となっている。つまり、第2実施例では、第1比較例のように、内部で応力が低減された。そのため、
図10に示すように、第2実施例の応力、引き込み量および振動がいずれも比較的小さな値(
図10における「小」)で計測されたことが確認された。
【0093】
なお、第2実施例では、応力低減部の深さを0.5mmとしたものについても、同様の計測を行い、良好な結果が確認できたが、深さを1mmとしたものの方が良好な結果が確認できた。
【0094】
次に、
図1に示す画像形成装置1を用いて、弾性部材においてめくれの発生状況を評価する評価実験(第2評価実験)を行った。
図11は、第2評価実験の実験結果を示す表である。第3実施例は、
図4に示す構成である。第4実施例は、
図6に示す構成である。第5実施例は、
図7に示す構成である。第6実施例は、弾性部材における感光体ドラムと当接する側の部分に応力低減部を設けた構成であって、感光体ドラムとの当接部分から1mm離れた位置に応力低減部を設けた構成である。比較例は、第1評価実験の第1比較例である。
【0095】
図11に示すように、比較例では、弾性部材にめくれが発生したことが確認されたのに対し(
図11における「×」)、第3実施例から第6実施例においては、いずれもめくれの発生が抑えられたことが確認された(
図11における「○」または「◎」)。特に、第4実施例では、弾性部材のめくれの発生が顕著に抑えられたことが確認された(
図11における「◎」)。
【0096】
次に、第4実施例に示す構成において、応力低減部の角度の範囲の有効性を評価する評価実験を行った。具体的には、第3評価実験では、第4実施例の構成において、応力低減部におけるY方向とのなす角度を異ならせた弾性部材を用いて、第2評価実験と同様に、弾性部材においてめくれの発生状況を評価した。
図12は、第3評価実験の実験結果を示す表である。
【0097】
図12に示すように、いずれの角度において、めくれの発生が抑えられたことが確認された(
図12における「○」または「◎」)。特に、角度が10°、45°、80°の場合、角度が5°、85°の場合よりも、弾性部材のめくれの発生が顕著に抑えられたことが確認された(
図12における「◎」)。つまり、本実施の形態における応力低減部とY方向とのなす角度の範囲が、10°~80°の範囲内が好ましいことが確認できた。
【符号の説明】
【0098】
1 画像形成装置
40 画像形成部
200 清掃部
210 弾性部材
211 応力低減部
220 支持部材
413 感光体ドラム
415 ドラムクリーニング装置