(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02B 19/12 20060101AFI20250311BHJP
F02M 26/00 20160101ALI20250311BHJP
F02B 5/02 20060101ALI20250311BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20250311BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20250311BHJP
F02P 15/02 20060101ALI20250311BHJP
F02B 1/08 20060101ALI20250311BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
F02B19/12 D
F02B19/12 A
F02M26/00 301
F02B5/02
F02D21/08 301G
F02P5/15 G
F02P15/02
F02B1/08
F02D43/00 301N
F02D43/00 301B
(21)【出願番号】P 2021125487
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】大野 諒平
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄司
(72)【発明者】
【氏名】内田 健司
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183809(JP,A)
【文献】特開2020-094554(JP,A)
【文献】特開2002-070558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0222643(US,A1)
【文献】特開2008-309062(JP,A)
【文献】特開2019-049258(JP,A)
【文献】米国特許第11060443(US,B1)
【文献】独国特許出願公開第102020110960(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102020130836(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 19/12
F02M 26/00
F02B 5/00 ~ 5/02
F02D 21/08
F02P 5/145 ~ 5/155
F02P 15/02
F02B 1/08
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒を形成するシリンダブロックおよびシリンダヘッドと、
前記気筒に往復動可能に収容されたピストンと、
前記シリンダブロック、前記シリンダヘッド、及び前記ピストンにより画成された主燃焼室と、
前記主燃焼室と隔壁により隔てられるとともに、当該隔壁に形成された連通孔を通じて前記主燃焼室と連通する副室と、
前記主燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置と、
前記主燃焼室内の混合気に点火する主点火装置と、
前記副室内の混合気に点火する副点火装置と、
前記気筒から排出された排気ガスの一部を前記気筒に導入される吸気が流通する吸気通路に還流させるEGR装置と、
前記燃料噴射装置、前記主点火装置、前記副点火装置、及び前記EGR装置に電気的に接続されて当該各装置に制御用の電気信号を出力する制御装置とを備え、
前記EGR装置によって前記排気ガスの一部をEGRガスとして前記吸気通路に還流させる特定領域でエンジンが運転されている場合に、前記制御装置は、
前記副点火装置の点火時期である副点火時期が、前記主点火装置の点火時期である主点火時期よりも遅角側となるように前記主点火装置及び前記副点火装置を制御するとともに、
エンジン回転数が同一で、且つ、前記主燃焼室および前記副室に存在する全ガス中に占める前記EGRガスの割合であるEGR率が異なる前記特定領域内の2つの条件のうち前記EGR率が小さい方を低EGR条件、大きい方を高EGR条件としたとき、前記主点火時期に対する前記副点火時期の遅角量である点火位相差が前記低EGR条件よりも前記高EGR条件で大きくなるように、前記主点火装置及び前記副点火装置を制御する、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンシステムにおいて、
前記制御装置は、前記特定領域での運転時、前記EGR率が高くなるほど前記点火位相差が大きくなるように、前記主点火装置及び前記副点火装置を制御する、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンシステムにおいて、
前記制御装置は、前記特定領域での運転時、前記副点火時期を膨張行程中に設定する、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエンジンシステムにおいて、
前記制御装置は、前記特定領域での運転時、前記主点火時期を圧縮行程中に設定する、ことを特徴とするエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主燃焼室と副室とを備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両等に搭載されるエンジンにおいて、その燃費性能や排ガス性能を高めるために主燃焼室とこれと連通する副室とを設けることが検討されている。具体的に、主燃焼室とこれと連通する副室とを設けて、副室で生成された火炎を主燃焼室に噴出させれば、主燃焼室での燃焼速度を高めて燃費性能の向上が図れるとともに、未燃混合気の残留を抑制して排ガス性能の向上を図ることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、シリンダブロック、シリンダヘッドおよびピストンにより区画された主燃焼室(特許文献1における主室)と、これと連通する副室と、吸気ポートに設けられて吸気ポートを介して主燃焼室に燃料を供給する主燃料噴射弁と、主燃焼室内の混合気に点火を行う主室点火プラグと、副室に燃料を直接噴射する副燃料噴射弁と、副室内の混合気に点火を行う副室点火プラグとを備えたエンジンが開示されている。このエンジンでは、主燃焼室に形成された混合気であって主燃料噴射弁から噴射された燃料と空気の混合気が主室点火プラグによって先ず点火され、その後、副室に形成された混合気であって副燃料噴射弁から噴射された燃料と空気の混合気が副室点火プラグによって点火されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のエンジンでは、主燃焼室と副室とにそれぞれ個別に燃料が噴射されるように構成されており、1つの気筒に対して2つの燃料噴射弁が必要となる。そのため、構造が複雑化するとともにコスト面で不利になる。これに対して、主燃焼室と副室とを有するエンジンにおいて、主燃焼室にのみ燃料噴射弁を設けることが考えられる。しかしながら、主燃焼室にのみ燃料噴射弁を設ける構成では、燃料噴射弁から噴射された燃料が副室に十分に導入されず、副室内で混合気が適切に燃焼しないおそれがある。つまり、主燃焼室と副室とを設けることで得られる燃費性能および排ガス性能の向上効果が充分に得られないおそれがある。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、主燃焼室と副室とを備えるエンジンシステムにおいて燃費性能および排ガス性能を確実に高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、気筒を形成するシリンダブロックおよびシリンダヘッドと、前記気筒に往復動可能に収容されたピストンと、前記シリンダブロック、前記シリンダヘッド、及び前記ピストンにより画成された主燃焼室と、前記主燃焼室と隔壁により隔てられるとともに、当該隔壁に形成された連通孔を通じて前記主燃焼室と連通する副室と、前記主燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記主燃焼室内の混合気に点火する主点火装置と、前記副室内の混合気に点火する副点火装置と、前記気筒から排出された排気ガスの一部を前記気筒に導入される吸気が流通する吸気通路に還流させるEGR装置と、前記燃料噴射装置、前記主点火装置、前記副点火装置、及び前記EGR装置に電気的に接続されて当該各装置に制御用の電気信号を出力する制御装置とを備え、前記EGR装置によって前記排気ガスの一部をEGRガスとして前記吸気通路に還流させる特定領域でエンジンが運転されている場合に、前記制御装置は、前記副点火装置の点火時期である副点火時期が、前記主点火装置の点火時期である主点火時期よりも遅角側となるように前記主点火装置及び前記副点火装置を制御するとともに、エンジン回転数が同一で、且つ、前記主燃焼室および前記副室に存在する全ガス中に占める前記EGRガスの割合であるEGR率が異なる前記特定領域内の2つの条件のうち前記EGR率が小さい方を低EGR条件、大きい方を高EGR条件としたとき、前記主点火時期に対する前記副点火時期の遅角量である点火位相差が前記低EGR条件よりも前記高EGR条件で大きくなるように、前記主点火装置及び前記副点火装置を制御する、ことを特徴とする。
【0008】
吸気通路ひいては気筒内にEGRガスが還流されると、主燃焼室内のガスに占める混合気(燃料と空気の混合気)の割合は小さくなる。そのため、EGRガスの吸気通路への還流が実施される場合は、副室内に混合気が入りにくくなり副室内での適切な燃焼が実現されにくくなる。これに対して、本発明では、EGRガスの吸気通路への還流が実施される特定領域において、副点火時期が主点火時期よりも遅角側の時期とされる。副点火時期を主点火時期よりも遅角側の時期とすれば、主点火装置による点火によって主燃焼室で混合気を燃焼させて、これにより生じた主燃焼室の圧力上昇を利用して副室に混合気を押し込むことができる。従って、本発明によれば、EGRガスを気筒に導入しつつ主燃焼室に加えて副室内での適切な燃焼を実現でき、燃費性能および排気性能を確実に高めることができる。
【0009】
しかも、本発明では、同一エンジン回転数においてEGR率が大きいとき(高EGR条件のとき)の方が小さいとき(低EGR条件のとき)よりも主点火時期に対する副点火時期の遅角量である点火位相差が大きくされる。つまり、EGR率が大きいときの方が小さいときよりも、主燃焼室の圧力上昇に伴う混合気(燃料)の副室への導入が開始してから副点火装置による点火が行われるまでの期間が長くされる。そのため、EGR率が大きいことで副室に混合気が入りにくい場合に、副室内に導入される混合気の量を確保して主燃焼室および副室内での適切な燃焼を確実に実現できる。また、EGR率が小さいことで比較的副室に混合気が入りやすい場合に、主燃焼室内での燃焼開始後の比較的早い時期に副室での燃焼を開始させることができ、燃焼期間を短くして燃費性能をより確実に高めることができる。
【0010】
前記構成において、好ましくは、前記制御装置は、前記特定領域での運転時、前記EGR率が高くなるほど前記点火位相差が大きくなるように、前記主点火装置及び前記副点火装置を制御する(請求項2)。
【0011】
このようにすれば、点火位相差をEGR率に応じた適切な値として、副室内での適切な燃焼を実現しつつ燃費性能をより一層確実に高めることができる。
【0012】
ここで、膨張行程では主燃焼室内の圧力が時間とともに低下していくことから、膨張行程で副点火装置による点火が行われる場合は特に主燃焼室から副室への混合気の流入は難しくなる。これに対して、本発明では、上記のように、主燃焼室での燃焼に伴う主燃焼室の圧力上昇を利用して副室に混合気を押し込むことができる。従って、前記制御装置が、前記特定領域での運転時、前記副点火時期を膨張行程中に設定する構成においても、副室内の混合気の量を確保できる(請求項3)。
【0013】
前記構成において、好ましくは、前記特定領域でエンジンが運転されている場合に、前記制御装置は、前記主点火時期を、圧縮行程中の時期に設定する(請求項4)。
【0014】
この構成によれば、ピストンの圧縮作用による主燃焼室内の圧力上昇と燃焼に伴う主燃焼室内の圧力上昇とを利用して副室により確実に混合気を導入できる。従って、副室での混合気の適切な燃焼をより一層確実に実現できる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明のエンジンシステムによれば、燃費性能および排ガス性能を確実に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの概略構成図である。
【
図3】副点火ユニットの先端部を側方から見た部分断面図である。
【
図7】第2領域におけるインジェクタと点火プラグの制御手順を示したフローチャートである。
【
図8】第2領域でのインジェクタの駆動パルス、主点火時期および副点火時期の一例を示した図である。
【
図9】第2領域でのインジェクタの駆動パルス、主点火時期および副点火時期の他の例を示した図である。
【
図10】第2領域におけるエンジン回転数と各パラメータとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(エンジンの全体構成)
図1は、本発明のエンジンシステムの好ましい実施形態を示す概略構成図である。エンジンシステム1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に導入される空気(吸気)が内側を流通する吸気通路4と、エンジン本体2から導出された排気ガスが内側を流通する排気通路6と、EGR装置50とを備える。エンジンシステム1は、車両にその走行用の動力源等として搭載される。エンジン本体2は、主としてガソリンを燃料とする4ストロークのガソリンエンジンであり、ガソリンを含む燃料がエンジン本体2に供給される。
【0018】
図2は、エンジン本体2の概略断面図である。本実施形態では、エンジン本体2は、複数の気筒22を有する多気筒エンジンである。例えば、エンジン本体2は、一列に並ぶ(
図1の紙面と直交する方向に並ぶ)4つの気筒22を有する。エンジン本体2は、複数の気筒22が内部に形成されたシリンダブロック52と、各気筒22の上端開口を塞ぐ底面54aを有してシリンダブロック52の上面に取り付けられるシリンダヘッド54と、各気筒22にそれぞれ往復摺動可能に収容された複数のピストン24とを備える。なお、本実施形態では、シリンダブロック52からシリンダヘッド54に向かう側を上、その逆を下として扱うが、これは説明の便宜のためであって、エンジンの据付姿勢を限定する趣旨ではない。
【0019】
各気筒22のピストン24の上方には、主燃焼室26がそれぞれ区画されている。主燃焼室26は、シリンダブロック52に形成された気筒22の内周面22aと、シリンダヘッド54の底面(下面)54aと、ピストン24の冠面24aとによって画成されている。主燃焼室26には後述するインジェクタ28からの噴射によって燃料が供給される。ピストン24は、この燃料と空気の混合気の燃焼による膨張力を受けて上下方向に往復動する。
【0020】
シリンダブロック52の下部(ピストン24の下方)には、エンジン本体2の出力軸であるクランク軸20が設けられている。クランク軸20は、各気筒22のピストン24とコネクティングロッド21を介して連結されており、ピストン24の往復運動に応じて中心軸回りに回転する。
【0021】
シリンダヘッド54には、吸気通路4から供給される空気を主燃焼室26に導入するための吸気ポート8と、主燃焼室26で生成された排気ガスを排気通路6に導出するための排気ポート12とが、それぞれ気筒22ごとに形成されている。シリンダヘッド54には、吸気ポート8の主燃焼室26側の開口を開閉する吸気弁10と、排気ポート12の主燃焼室26側の開口を開閉する排気弁14とが、それぞれ気筒22ごとに設けられている。本実施形態では、1つの気筒22につき2つの吸気弁10および2つの排気弁14が設けられている。
【0022】
吸気弁10および排気弁14は、それぞれ、シリンダヘッド54に配設された動弁機構16、18により、クランク軸20の回転に連動して開閉駆動される。吸気弁10用の動弁機構16には、吸気弁10のバルブリフト量および開閉タイミングを電動で可変に制御する可変バルブリフト機構(吸気S-VT)16aが設けられている。同様に、排気弁14用の動弁機構18にも、排気弁14のバルブリフト量および開閉タイミングを電動で可変に制御する可変バルブリフト機構(排気S-VT)18aが設けられている。
【0023】
シリンダヘッド54には、インジェクタ28、主点火プラグ32および副点火ユニット30が各気筒22につきそれぞれ1組ずつ設けられている。インジェクタ28は請求項の「燃料噴射装置」に相当し、主点火プラグ32は請求項の「主点火装置」に相当する。
【0024】
インジェクタ28は、主燃焼室26に燃料を噴射する噴射弁である。インジェクタ28の先端部28xには、燃料を噴射する噴射口が形成されている。インジェクタ28は、その先端部28xが主燃焼室26を上方から臨むようにシリンダヘッド54に取り付けられている。本実施形態では、インジェクタ28は、その先端部28xが主燃焼室26の天井面の中央(詳細には、気筒22の軸線上)に位置するように配設されている。
【0025】
主点火プラグ32は、主燃焼室26内の混合気に火花放電による点火を行うものである。主点火プラグ32の先端には、火花を放電するための電極部32xが設けられている。この電極部32xは、中心電極32aと側方電極(アース)32bとを含む。主点火プラグ32は、その電極部32xが燃焼室5を上方から臨むようにシリンダヘッド54に取り付けられている。本実施形態では、主点火プラグ32は、その電極部32xが主燃焼室26の天井面のうちインジェクタ28の先端部28xよりも吸気ポート8側に位置するように配設されている。
【0026】
副点火ユニット30は、主燃焼室26に火炎を噴出するための装置である。副点火ユニット30の詳細については後述する。
【0027】
吸気通路4は、各気筒22の吸気ポート8と連通するようにシリンダヘッド54の一側面に接続されている。吸気通路4には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ34と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁36と、サージタンク38とが設けられている。
【0028】
吸気通路4の下流端は複数の通路に分岐している。各分岐通路はそれぞれ1つの吸気ポート8に接続されている。各気筒22について、2つの吸気ポート8の一方につながる分岐通路には、これを開閉するスワールバルブ56(
図5参照)が設けられている。
【0029】
排気通路6は、各気筒22の排気ポート12と連通するようにシリンダヘッド54の一側面(吸気通路4と反対側の面)に接続されている。排気通路6には、三元触媒等の触媒41が内蔵された触媒装置40が設けられている。
【0030】
EGR装置50は、排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路4に還流させて、吸気通路4を介してこれと連通する主燃焼室26に導入する(還流させる)ための装置である。EGR装置50は、排気通路6と吸気通路4とを連通するEGR通路42と、EGR通路42にそれぞれ設けられたEGR弁46とEGRクーラ44とを有する。EGR通路42の上流端は、触媒装置40の下流端であって触媒41よりも下流側の排気通路6に接続され、EGR通路42の下流端は、サージタンク38に接続されている。EGR弁46は、EGR通路42を開閉してEGRガスの流量を調整するバルブである。EGRクーラ44は、EGRガスを冷却する熱交換器である。EGRクーラ44は、EGR弁46よりも下流側に配設されている。
【0031】
(副点火ユニット30)
図3は、副点火ユニット30の先端部30xを側方から見た部分断面図である。
図4は、副点火ユニット30の先端部30xの平面図(先端側から見た)である。
【0032】
副点火ユニット30は、火花放電によって混合気に点火を行う副点火プラグ62を有する。副点火プラグ62の先端には、火花を放電するための電極部62xが設けられている。電極部62xは、中心電極62aと側方電極(アース)62bとを含む。副点火ユニット30は、その先端部30xに設けられて副点火プラグ62の電極部62xを覆うカバー部材64を備える。カバー部材64の内側には、所定の空間である副室60が区画されている。換言すると、副点火プラグ62はその電極部62xが副室60を臨むように配設されており、副室60内の混合気に点火を行う。カバー部材64は、副点火ユニット30の先端側に向かって膨出する中空の半球状を呈している。上記の副点火プラグ62は請求項の「副点火装置」に相当し、上記のカバー部材64は請求項の「隔壁」に相当する。
【0033】
図2に示すように、副点火ユニット30は、その先端部30xが主燃焼室26を上方から臨むようにシリンダヘッド54に取り付けられている。本実施形態では、副点火ユニット30は、主燃焼室26の天井面のうちインジェクタ28よりも排気ポート12側の位置に取り付けられている。本実施形態では、この取付状態において、カバー部材64のほぼ全体が主燃焼室26内に位置している。
【0034】
カバー部材64には、その表裏を貫通して主燃焼室26と副室60とを連通する複数の連通孔66が形成されている。カバー部材64の内側空間つまり副室60は、これら連通孔66を介して主燃焼室26と連通している。このように、本実施形態では、エンジン本体2に上記のように構成された副点火ユニット30が取り付けられることで、カバー部材64によって主燃焼室26と隔てられ、且つ、連通孔66を通じて主燃焼室26と連通する副室60がエンジン本体2に形成されている。
【0035】
本実施形態では、カバー部材64に3つの連通孔66が形成されている。
図4に示すように、3つの連通孔66はカバー部材64の頂点Aを通るカバー部材64の軸線回りに120度間隔で形成されている。また、
図3に示すように、各連通孔66は、側面視で、頂点Aから45度の位置に形成されている。また、カバー部材64の半径および厚みはそれぞれ5mm、1mmとされて、各連通孔66の直径は1.2mmとされている。
【0036】
副点火ユニット30は、主燃焼室26に火炎を噴出する。具体的に、インジェクタ28から主燃焼室26内に燃料が噴射されて主燃焼室26内で空気と燃料の混合気が形成されると、この混合気の一部は連通孔66を介して副室60内に導入される。副室60内に十分量の混合気が存在する状態で副点火プラグ62によって火花放電が行われると、副室60内にて混合気は燃焼を開始し、副点火プラグ62の電極部62x付近から周囲へと火炎が伝播していく。そして、この火炎は連通孔66を介して主燃焼室26に噴出/放出され、主燃焼室26内の混合気に伝搬する。
【0037】
ここで、上記のように、主点火プラグ32による点火が行われると、主点火プラグ32の電極部32x付近からも周囲へと火炎が伝搬していく。これより、主点火プラグ32と副点火プラグ62の双方により点火が行われて主燃焼室26および副室60内で適切に混合気が燃焼すれば、主燃焼室26内の混合気には複数の位置から火炎が伝搬されることになり、主燃焼室26内での混合気の燃焼速度が高められて燃費性能が高められるとともにノッキングの発生および未燃混合気の残留が抑制されることになる。
【0038】
(制御系統)
図5は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるECU100は、エンジンを統括的に制御する装置であり、各種演算処理を行うプロセッサ(CPU)と、ROMおよびRAM等のメモリーと、各種の入出力バスとを含むマイクロコンピュータにより構成されている。ECU100は、請求項の「制御装置」に相当する。
【0039】
ECU100には、各種センサによる検出情報が入力される。例えば、ECU100には、エンジンシステム1に設けられたエアフローセンサSN1、吸気温センサSN2、吸気圧センサSN3、水温センサSN4およびクランク角センサSN5や、車両に設けられたアクセル開度センサSN6の検出値が入力される。エアフローセンサSN1は、吸気通路4を通過してエンジン本体2に導入される吸気の流量を検出する。吸気温センサSN2および吸気圧センサSN3は、エンジン本体2に導入される吸気の温度および圧力をそれぞれ検出する。水温センサSN4は、エンジン本体2を冷却するエンジン冷却水の温度を検出する。クランク角センサSN5は、クランク軸20の回転角度であるクランク角およびエンジン回転数を検出する。アクセル開度センサSN6は、車両に備わるアクセルペダル(不図示)の開度であるアクセル開度を検出する。
【0040】
ECU100は、各種センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を行う。ECU100は、インジェクタ28、主点火プラグ32、副点火プラグ62、EGR装置50(詳細には、EGR弁46)等と電気的に接続されており、演算結果等に基づいて、これら装置に制御用の電気信号を出力する。
【0041】
図6は、横軸をエンジン回転数、縦軸をエンジン負荷としたエンジンの運転領域を示すマップである。
図6に示すように、エンジンの運転領域は、インジェクタ28および点火プラグ32、62の制御内容に応じて、3つの領域A1~A3(第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3)に大別される。
【0042】
第1領域A1は、エンジン回転数が所定の第1回転数N1以下且つエンジン負荷が所定の第1負荷Tq1以下の低速低負荷領域である。第2領域A2は、エンジン回転数が所定の第2回転数N2以下且つエンジン負荷が第1負荷Tq1よりも高く且つ所定の第2負荷Tq2以下の低速中負荷領域である。第3領域A3は、その他の領域である。第2領域A2は請求項の「特定領域」に相当する。
【0043】
第1領域A1では、HCCI燃焼(予混合圧縮着火燃焼、HCCI:Homogeneous Compression Charge Ignition)が実現されるように、インジェクタ28および点火プラグ32、62が制御される。具体的に、第1領域A1では、吸気行程中にインジェクタ28から燃料が噴射される。また、点火プラグ32、62の駆動(これら点火プラグ32、62による点火)が停止される。
【0044】
上記のようにインジェクタ28は主燃焼室26を臨んでおり、インジェクタ28から噴射された燃料は主燃焼室26の全体に拡散可能となっている。これより、第1領域A1では、吸気行程中にインジェクタ28から燃料が噴射されることで、圧縮上死点に到達するまでの間に主燃焼室26内で燃料と空気とが十分に混合される。そして、第1領域A1では、この十分に混合された混合気(予混合気)がピストン24の圧縮により高温・高圧化されることで圧縮上死点付近において自着火する。
【0045】
HCCI燃焼では、混合気の空燃比(主燃焼室26内の燃料重量に対する主燃焼室26内の空気重量の割合)を、火炎伝播が不可能なレベルにまでリーンに(高く)して燃費性能を高めることができる。これより、第1領域A1では、主燃焼室26内の混合気の空燃比が理論空燃比(14.7)よりもリーンに(高く)なるように、スロットル弁36の開度が調整される。
【0046】
第1領域A1を除く他の領域(第2領域A2および第3領域A3)では、主点火プラグ32と副点火プラグ62とが駆動されて火炎伝播燃焼が実現される。つまり、これらの領域A2、A3では、点火プラグ32、62の電極部32x、62xからの火花放電によって電極部32x、62x回りに火炎核が生成され、火炎核から周囲へと火炎が伝搬していくことで主燃焼室26および副室60の混合気が燃焼するSI燃焼(SI:Spark Ignition)が実現される。また、これらの領域A2、A3では、主燃焼室26内の混合気の空燃比が理論空燃比近傍になるように、スロットル弁36の開度が調整される。
【0047】
ここで、エンジン負荷が特に低い領域では、EGRガスを吸気通路4および主燃焼室26に還流させるEGRを実施すると燃焼が不安定になりやすい。また、エンジン負荷あるいはエンジン回転数が特に高い領域では、EGRを実施すると十分量の空気が主燃焼室26に導入されないおそれがある。これより、第3領域A3では、EGRが停止される。つまり、第3領域A3では、EGR弁46が全閉とされる。一方、低速中負荷領域の第2領域A2では、EGRの実施によってポンピングロスおよび冷却損失の低減に伴う燃費性能の向上が見込めることから、EGRを実施する。つまり、第2領域A2ではEGR弁46が開弁されてEGRガスが吸気通路4および主燃焼室26に還流される。
【0048】
(第2領域A2での制御内容)
次に、本発明の特徴である第2領域A2での制御内容について説明する。
図7は、ECU100により実施される第2領域A2での、EGR弁46、インジェクタ28、主点火プラグ32および副点火プラグ62の制御手順の全体の流れを示したフローチャートである。
【0049】
ECU100は、まず、各種情報を読み込む(ステップS1)。ECU100は、クランク角センサSN5により検出されたエンジン回転数、アクセル開度センサSN6により検出されたアクセル開度等を読みこむ。
【0050】
次に、ECU100は、エンジンに要求されているトルクである要求トルクつまりエンジン負荷を算出する(ステップS2)。ECU100は、ステップS1で読み込んだエンジン回転数およびアクセル開度に基づいて要求トルク(エンジン負荷)を算出する。
【0051】
次に、ECU100は、エンジンの運転ポイントが第2領域A2であるか否かを判定する(ステップS3)。具体的に、ECU100は、ステップS1で読み込んだエンジン回転数およびステップS2で算出した要求トルク(エンジン負荷)に基づいて、現在のエンジンの運転ポイントが第2領域A2内のポイントであるか否かを判定する。
【0052】
ステップS3の判定がNOであってエンジンの運転ポイントが第2領域A2内のポイントではない場合、ECU100は処理を終了する(第1領域A1あるいは第3領域A3の制御を実施する)。一方、ステップS3の判定がYESであってエンジンの運転ポイントが第2領域A2内のポイントである場合、ECU100はステップS4に進む。
【0053】
ステップS4にて、ECU100は、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づいて、EGR率の目標値を設定する。EGR率は、主燃焼室26および副室60に存在する全ガス中に占めるEGRガスの割合である。詳細には、EGR率は、主燃焼室26および副室60に存在するガスの合計重量に対する主燃焼室26および副室60に存在するEGRガスの合計重量の割合である。
【0054】
次に、ECU100は、ステップS4で設定した目標EGR率が実現されるEGR弁46の開度を算出する(ステップS5)。例えば、ECU100は、ステップS4で設定した目標EGR率、エンジン回転数、エアフローセンサSN1により検出された吸気の量等に基づいて、目標EGR率が実現されるEGR弁46の開度を算出する。
【0055】
また、ECU100は、インジェクタ28による燃料噴射が開始される時期である燃料噴射時期、主点火プラグ32の点火時期である主点火時期(主点火プラグ32が点火つまり火花放電を行うクランク角での時期)および副点火プラグ62の点火時期である副点火時期(副点火プラグ62が点火つまり火花放電を行うクランク角での時期)を設定する(ステップS6)。
【0056】
次に、ステップS7にて、ECU100は、EGR弁46の開度をステップS5にて算出した開度にする。詳細には、ECU100は、EGR弁46を開閉駆動する駆動装置に指令を出してEGR弁46の開度をステップS4にて設定した開度にする。また、ECU100は、ステップS6にて設定した燃料噴射時期に燃料の噴射が開始されるようにインジェクタ28を駆動する。また、ECU100は、ステップS4にて設定した主点火時期に主点火プラグ32による点火が行われるように主点火プラグ32を駆動する。また、ECU100は、ステップS4にて設定した副点火時期に副点火プラグ62による点火が行われるように副点火プラグ62を駆動する。
【0057】
上記のステップS6で設定される燃料噴射時期と主点火時期と副点火時期、および、ステップS4で設定される目標EGR率の詳細について次に説明する。
【0058】
図8および
図9は、第2領域A2に含まれる運転ポイントP1、P2における、インジェクタ28の駆動パルスと、主点火時期tmと、副点火時期tsとをそれぞれ示した図である。
図6に示すように、運転ポイントP2は、運転ポイントP1と同じエンジン回転数N10で、且つ、運転ポイントP1よりもエンジン負荷が高いポイントである。
【0059】
図8および
図9に示すように、第2領域A2では、燃料噴射時期tinjが吸気行程中の時期とされて、吸気行程中にインジェクタ28から主燃焼室26内への燃料噴射が開始される。
【0060】
第2領域A2では、EGRが実施されることから、目標EGR率は0よりも大きい値に設定される。ここで、エンジン負荷が高くなると主燃焼室26に導入すべき空気量が増大する。そのため、エンジン負荷が高いときに多量のEGRガスを吸気通路4および主燃焼室26に還流させると、主燃焼室26に十分な量の空気量を導入できないおそれがある。これより、第2領域A2では、エンジン回転数が同一で且つエンジン負荷が異なる2つの運転ポイント(例えば、運転ポイントP1、P2)において、エンジン負荷が低い運転ポイント(P1)の目標EGR率の方が、エンジン負荷が高い運転ポイント(P2)の目標EGR率よりも高い値に設定される。
【0061】
上記のように、EGR弁46の開度調整により目標EGR率は実現される。これより、第2領域A2では、エンジン回転数が同一で且つエンジン負荷が異なる2つの運転ポイント(例えば、運転ポイントP1、P2)において、エンジン負荷が低い運転ポイント(P1)のEGR率の方が、エンジン負荷が高い運転ポイント(P2)のEGR率よりも大きくなる。
【0062】
図8および
図9に示すように、第2領域A2では、主点火時期tmが副点火時期tsよりも進角側の時期に設定されて、まず主点火プラグ32による点火が行われ、その後、副点火プラグ62による点火が行われる。本実施形態では、主点火時期tmは圧縮行程中の時期に設定され、副点火時期tsは膨張行程中の時期に設定される。
【0063】
上記の点火順序は第2領域A2全体で実現されるが、副点火時期tsの主点火時期tmに対する遅角量つまり主点火時期tmから副点火時期tsまでのクランク角での期間である点火位相差dtは運転ポイントによって変更される。
図8および
図9に示すように、第2領域A2では、エンジン回転数が同一で且つエンジン負荷が異なる2つの運転ポイント(例えば、運転ポイントP1、P2)において、エンジン負荷が低い運転ポイント(P1)の点火位相差dtの方が、エンジン負荷が高い運転ポイント(P2)の点火位相差dtよりも大きくされる。上記のように、エンジン負荷が低いときの方がEGR率は高くなる。これより、エンジン回転数が同一で且つエンジン負荷が異なる2つの運転ポイント(例えば、運転ポイントP1、P2)において、点火位相差dtは、EGR率が高い運転ポイント(P1)の方がEGR率が低い運転ポイント(P2)よりも大きくされる。
【0064】
本実施形態では、エンジン回転数が同一で且つエンジン負荷が異なる2つの運転ポイント(例えば、運転ポイントP1、P2)において、エンジン負荷が低くEGR率が高い運転ポイント(P1)の主点火時期tmの方が、エンジン負荷が高くEGR率が低い運転ポイント(P2)の主点火時期tmよりも進角側の時期となるように、主点火時期tmは設定される。また、エンジン負荷が低くEGR率が高い運転ポイント(P1)の副点火時期tsの方が、エンジン負荷が高くEGR率が低い運転ポイント(P2)の主点火時期tmよりも遅角側の時期となるように、副点火時期tsは設定される。そして、これら時期の設定により、エンジン負荷が低くEGR率が高い運転ポイント(P1)の点火位相差dtがエンジン負荷が高くEGR率が低い運転ポイント(P2)の点火位相差dtよりも大きくされる。なお、エンジン回転数が同一で且つエンジン負荷が異なる2つの運転ポイント(例えば、運転ポイントP1、P2)において、エンジン負荷が低くEGR率が高い運転ポイント(P1)は請求項における「高EGR条件」に相当し、エンジン負荷が高くEGR率が低い運転ポイント(P2)は請求項における「低EGR条件」に相当する。
【0065】
図10は、第2領域A2におけるエンジン負荷と各パラメータとの関係を示した図である。
図10の一番上のグラフは、エンジン負荷と目標EGR率ひいてはEGR率(実際のEGR率)の関係を示したグラフである。
図10の上から二番目のグラフは、エンジン負荷と点火位相差dtの関係を示したグラフである。
図10の上から三番目のグラフは、エンジン負荷と主点火時期tmおよび副点火時期tsの関係を示したグラフである。なお、これらのグラフには、エンジン回転数一定でのエンジン負荷と各パラメータとの関係が示されている。
【0066】
図10に示すように、第2領域A2では、目標EGR率はエンジン負荷が低くなるほど高い値に設定され、これによりEGR率(実際のEGR率)はエンジン負荷が低くンあるほど高い値に制御される。本実施形態では、目標EGR率およびEGR率はエンジン負荷の減少にほぼ比例して増大される。
【0067】
また、第2領域A2では、エンジン負荷が低くなるほど、つまり、EGR率が高くなるほど、主点火時期tmは進角側の時期に設定されるとともに副点火時期tsは遅角側の時期に設定される。そして、エンジン負荷が低くなるほど、つまり、EGR率が高くなるほど、点火位相差dtは大きい値に制御される。本実施形態では、エンジン負荷の減少つまりEGR率の増大にほぼ比例して、主点火時期tmは進角され、且つ、副点火時期tsは遅角される。また、これによってエンジン負荷の減少つまりEGR率の増大にほぼ比例して点火位相差dtは増大される。また、本実施形態では、エンジン負荷の変化量つまりEGR率の変化量に対する主点火時期tmの進角量の方が副点火時期tsの遅角量よりも大きくなるように、これら点火時期tm、tsが設定される。
【0068】
なお、本実施形態では、上記のように設定された目標EGR率および各時期(燃料噴射時期tinj、主点火時期、副点火時期ts)が予めECU100にエンジン回転数とエンジン負荷とについてマップで記憶されている。ECU100は、上記のステップS4、S6において、ECU100は、記憶しているマップから現在のエンジン負荷とエンジン回転数とに対応する値を抽出する。
【0069】
(作用等)
以上のように、上記実施形態では、EGRが実施される第2領域A2において、主点火時期tmが副点火時期tsよりも進角側の時期に設定されて、主点火プラグ32により主燃焼室26の混合気に点火が行われてから副点火プラグ62により副室60の混合気に点火が行われる。そのため、主燃焼室26と副室60との双方において混合気を適切に燃焼させることができる。
【0070】
具体的に、第2領域A2では、EGRが実施されることで主燃焼室26内には空気に加えてEGRガスが導入される。そのため、第2領域A2では、ピストン24の圧縮作用のみで主燃焼室26から副室60に十分量の混合気を押し込むのが難しくなる。特に、上記実施形態では、第2領域A2において副点火時期tsが膨張行程中の時期、つまり、主燃焼室26の圧力が低下していく途中の時期に設定されるため、ピストン24の圧縮作用のみでは主燃焼室26から副室60に十分量の混合気を導入できないおそれがある。そして、副室60内に十分量の混合気が導入されていないと、副点火プラグ62が点火(火花放電)を行っても、失火等が生じて副室60内での混合気の適切な燃焼が実現されない。
【0071】
これに対して、点火順序を上記の順序として、副点火プラグ62の点火よりも前に主点火プラグ32による点火を行えば、主燃焼室26での混合気の燃焼に伴う圧力上昇によって副室60への混合気の流入を促進でき、副室60内に十分量の混合気を押し込むことができる。特に、上記実施形態では、主点火時期tmが圧縮行程中の時期とされる。そのため、ピストン24の圧縮作用による主燃焼室26内の圧力上昇と、燃焼に伴う主燃焼室26内の圧力上昇とを利用して、副室60により確実に十分量の混合気を導入できる。
【0072】
従って、上記実施形態によれば、主燃焼室26に加えて副室60で混合気を適切に燃焼させることができ、燃費性能および排ガス性能を確実に高めることができる。
【0073】
しかも、第2領域A2に含まれるエンジン回転数が同一で且つエンジン負荷が異なる2つの運転ポイント(例えば、運転ポイントP1、P2)において、エンジン負荷が低くEGR率が高い運転ポイント(P1)の点火位相差dtの方が、エンジン負荷が高くEGR率が低い運転ポイント(P2)の点火位相差dtよりも大きくされる。つまり、主点火プラグ32による点火が行われて主燃焼室26の圧力が上昇するのに伴って混合気(燃料)の副室60への導入が開始してから、副点火プラグ62による点火が行われるまでの期間が、EGR率が高いときの方が低いときよりも長くされる。
【0074】
そのため、EGR率が高いことで副室60に混合気が特に入りにくい場合であっても、副点火プラグ62の点火前に副室60内に十分量の混合気を確実に導入でき、副室60内での混合気の適切な燃焼をより確実に実現できる。また、EGR率が小さいことで副室60に比較的混合気が入りやすい場合には、主燃焼室26内での燃焼開始後の比較的早い時期に副室60での燃焼を開始させることができ、燃焼期間を短くして燃費性能をより一層確実に高めることができる。
【0075】
特に、上記実施形態では、第2領域A2において、エンジン負荷が低くなってEGR率が高くなるほど点火位相差dtが大きくされる。そのため、点火位相差dtをEGR率に応じた適切な値として、副室60での適切な燃焼を確実に実現できるとともに燃焼期間の短縮によって燃費性能をより一層確実に高めることができる。
【0076】
(変形例)
副点火ユニット30のカバー部材64の具体的形状および寸法は、上記に限られない。また、カバー部材64に設けられる連通孔66の数および寸法は上記に限られない。また、副点火ユニット30の取付位置は上記に限られない。例えば、副点火ユニット30は、インジェクタ28の先端部28xに対して排気ポート12側に設けられてもよい。
【0077】
上記実施形態では、第2領域A2において、EGR率が高くなるほど点火位相差dtが大きくされる場合を説明したが、EGR率と点火位相差dtの関係は、第2領域A2に含まれるエンジン回転数が同一で且つEGR率が異なる2つの運転ポイントにおいて、EGR率が高い運転ポイントの点火位相差dtの方が、EGR率が低い運転ポイントの点火位相差dtよりも大きいという関係であればよく、上記実施形態の関係に限られない。例えば、第2領域A2をEGR率が高い側と低い側とに分けて、EGR率が高い側の点火位相差dtをEGR率が低い側の点火位相差dtよりも大きくする一方で、EGR率が高い側とEGR率が低い側とのそれぞれにおいてはEGR率に関わらず点火位相差dtを一定としてもよい。
【0078】
また、第1領域A1および第2領域A2の制御内容は上記に限られない。
【0079】
また、エンジン本体2の気筒数等の詳細構造は上記に限られない。
【符号の説明】
【0080】
1 エンジンシステム
2 エンジン本体
4 吸気通路
24 ピストン
28 インジェクタ(燃料噴射装置)
26 主燃焼室
30 副点火ユニット
32 主点火プラグ(主点火装置)
46 EGR弁
50 EGR装置
52 シリンダブロック
54 シリンダヘッド
60 副燃焼室
62 副点火プラグ(副点火装置)
64 カバー部材(隔壁)
66 連通孔
100 ECU(制御装置)