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  • 特許-撥水塗膜のリコート条件設定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】撥水塗膜のリコート条件設定方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/10 20060101AFI20250311BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20250311BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20250311BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20250311BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20250311BHJP
   C09D 9/00 20060101ALI20250311BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
B05D3/10 N
B05D3/00 D
B05D3/12 E
B05D5/00 Z
B05D7/00 N
C09D9/00
C09D201/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021125732
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2023020397
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北元 美貴
(72)【発明者】
【氏名】大川 新太朗
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】久野 浩司
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-316820(JP,A)
【文献】特開2021-075715(JP,A)
【文献】カーコーティングを除去したい!どうしたらいいの?,カーライフお役立ちマガジン,日本,コスモ石油販売株式会社,2020年08月27日,https://cos.cosmo-oil.co.jp/blog-detail/2/1000000242/,特に「どんなときにカーコーティングを除去するの?」の項
【文献】ガラスコーティングを除去した方がいい状況とは?自分でも可能?,お役立ち情報,日本,ユナイト株式会社,2021年02月28日,https://www.unite-carlife.com/8907/,特に「ガラスコーティングを剥がすメリット」の項
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00- 10/00
101/00-201/10
B60S 1/00- 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用外装部材に撥水塗膜をリコートするための条件設定方法であって、
前記車両用外装部材の表面に形成されている撥水塗膜を剥離する剥離工程と、
前記剥離工程後に、前記表面に撥水塗膜を形成して塗膜付車両用外装部材を得るリコート工程と、
前記リコート工程後の前記撥水塗膜に試験用液滴を付着させ撥水評価を行う評価工程と、を具備し、
前記評価工程において前記試験用液滴の転落角が20°以下である場合に、前記剥離工程および前記リコート工程で用いたリコート条件を合格と評価する、870nmにおける透過率が88%以上でありかつレーダ装置の表側に配置される塗膜付車両用外装部材への撥水塗膜のリコート条件設定方法。
【請求項2】
前記評価工程において前記試験用液滴の接触角が100°以上である場合に、前記剥離工程および前記リコート工程で用いたリコート条件を前記合格のうち上位である優良と評価する、請求項1に記載の870nmにおける透過率が88%以上でありかつレーダ装置の表側に配置される塗膜付車両用外装部材への撥水塗膜のリコート条件設定方法。
【請求項3】
前記剥離工程と前記リコート工程を繰り返し行い、4回目の前記リコート工程を行った後に前記評価工程を行う、請求項1または請求項2に記載の870nmにおける透過率が88%以上でありかつレーダ装置の表側に配置される塗膜付車両用外装部材への撥水塗膜のリコート条件設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用外装部材に撥水塗膜をリコートするための条件設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用外装部材には撥水性が要求される場合がある。
近年、車両には、走行安全や歩行者保護等を図るために、各種のレーダを搭載するのが一般的である。例えば、LiDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれるリモートセンシング技術においては、レーダにより、対象物と車両との距離を測定している。具体的には、当該レーダは、近赤外光や可視光、紫外線等を対象物に照射するとともに、その反射光を検知する。
また、クルーズコントロールやオートクルーズと称される車両走行中の速度維持システムにおいては、レーダにより、先行車両と自車両との距離を測定している。当該レーダは、ミリ波やレーザ波を車両前方に照射するとともに、その反射光を検知する。
【0003】
これらのレーダは、通常、車両用外装部材の奥側(すなわち車体側)に配置される。この場合、当該車両用外装部材に多くの水滴が付着すると、当該車両用外装部材を経てレーダにより高精度でセンシングを行うことが困難になる。
【0004】
車両用外装部材に撥水性を付与することで、当該問題が解消または軽減されると期待される(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-187725号公報
【文献】特許第4395628号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、ボンネット等、車両におけるボディシェルの塗膜上に保護被膜を形成する技術が紹介されている。また、特許文献2には、天井部位等、車両におけるボディシェルの塗膜上に、撥水性被膜を形成する技術が紹介されている。
特許文献1、2に紹介されている被膜を、レーダの表側に配置する車両用外装部材に形成すれば、当該車両用外装部材への水滴の付着を抑制できると考えられる。
【0007】
ところで、一般的な保護被膜や撥水性被膜は、使用するにつれて変質し、性能劣化する。したがって、特許文献1、2に紹介されている保護皮膜や撥水性被膜を車両用外装部材に形成しても、当該車両用外装部材に良好な撥水性能を長期間付与し続けることは困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、車両用外装部材に良好な撥水性能を長期間付与し続け得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の撥水塗膜のリコート条件設定方法は、
車両用外装部材に撥水塗膜をリコートするための条件設定方法であって、
前記車両用外装部材の表面に形成されている撥水塗膜を剥離する剥離工程と、
前記剥離工程後に、前記表面に撥水塗膜を形成して塗膜付車両用外装部材を得るリコート工程と、
前記リコート工程後の前記撥水塗膜に試験用液滴を付着させ撥水評価を行う評価工程と、を具備し、
前記評価工程において前記試験用液滴の転落角が20°以下である場合に、前記剥離工程および前記リコート工程で用いたリコート条件を合格と評価する、撥水塗膜のリコート条件設定方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の撥水塗膜のリコート条件設定方法によると、車両用外装部材に良好な撥水性能を長期間付与し続けることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】リコート1回目~4回目の塗膜付車両用外装部材における転落角および接触角の推移を表すグラフである。
図2】リコート1回目~4回目の塗膜付車両用外装部材における転落角および接触角の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例等に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0013】
本発明の撥水塗膜のリコート条件設定方法は、撥水塗膜が耐久劣化することを前提として、耐久劣化した撥水塗膜を剥離し、当該撥水塗膜をリコートすなわちコートし直すことによって、車両用外装部材に良好な撥水性能を長期間付与し続けることを意図したものである。そして、リコートされた撥水塗膜が良好な撥水性能を有し得るか否かを事前に評価することで、実車に搭載された塗膜付車両用外装部材への撥水塗膜のリコートを好適に行い得る、剥離工程やリコート工程の条件を設定することを意図したものである。
【0014】
剥離工程やリコート工程の詳細な条件は、例えば、車両用外装部材の形状や材料、撥水塗膜に用いる塗料の組成等に応じて種々に異なる。
したがって、塗料と車両用外装部材との組み合わせ毎に、予め本発明の撥水塗膜のリコート条件設定方法を行い、当該組み合わせに応じた最適な撥水塗膜のリコート条件を設定しておくことで、実車に搭載された塗膜付車両用外装部材への撥水塗膜のリコートを、様々な場面、環境または状況において一定水準で安定的に行うことが可能である。
換言すると、本発明の撥水塗膜のリコート条件設定方法を用いると、ディーラーやカー用品店、ガススタンド等、業態や店舗を問わず安定的な品質で撥水塗膜のリコートサービスを行い得る。
【0015】
これにより、本発明の撥水塗膜のリコート条件設定方法によると、実車に搭載された塗膜付車両用外装部材に良好な撥水性能を長期間付与し続けることが可能である。
以下、本発明の撥水塗膜のリコート条件設定方法をその行程毎に説明する。また、以下、必要に応じて、本発明の撥水塗膜のリコート条件設定方法を本発明の条件設定方法と称する場合がある。
【0016】
本発明の条件設定方法は、剥離工程、リコート工程および評価工程を具備する。
このうち剥離工程は、車両用外装部材の表面に形成されている撥水塗膜を剥離する工程である。
【0017】
車両用外装部材は撥水塗膜を形成し得るもの、または撥水塗膜を形成することが好適なものであれば良く、その用途や形状、材料等は特に限定されないが、上記したようなレーダ装置の表側に配置されるものであるのが好適である。
【0018】
本発明の条件設定方法では、車両用外装部材の材料は限定されず、ポリカーボネート(PC)、アクリル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-共重合合成樹脂(ABS)等の樹脂材料を例示できる。
車両用外装部材としては、各種のコート層が形成されたものを用いても良い。例えば、上記した各種の樹脂材料からなる母材上に、ハードコート等のコート層を形成しても良い。
【0019】
車両用外装部材の大きさもまた特に限定されず、エンブレムのように小型であっても良いし、フロントグリルのように大型であっても良い。
【0020】
撥水塗膜は、撥水性を有するものであれば良い。ここでいう撥水性とは、水をはじくか、または、水とのなじみ性の低い性質であることを意味する。撥水塗膜は、車両用外装部材の表面に形成される都合上、耐候性に優れたものであるのが好ましい。
【0021】
具体的には、撥水塗膜用の塗料としては、各種の撥水性または疎水性の塗料を用いることができ、フッ素系の塗料が特に好適である。
特に、当該撥水塗膜用の塗料としては、特開2016-147469号公報に開示されているような、金属アルコキシド等の硬化成分とシランカップリング剤とを、溶媒に溶解させた塗料を用いるのがより好ましい。当該溶媒としては、アルコール基またはケトン基のいずれかを有する溶媒や水溶性溶媒等の比較的高い沸点を有する溶媒を含むものが好適である。
【0022】
撥水塗膜は、車両用外装部材上に直接形成しても良いし、車両用外装部材上に形成されたプライマー層上に形成しても良い。
【0023】
本発明の条件設定方法における剥離工程では、何らかの方法で、車両用外装部材の表面に形成されている撥水塗膜を剥離すれば良い。当該剥離工程には、例えば、メチルエチルケトン(MEK)またはエタノール等の有機溶媒やアルカリ、水溶性溶剤等で撥水塗膜を溶解させる化学的剥離方法を用いても良いし、ヤスリやブラシ、紙や不織布製のワイパー等により撥水塗膜を掻き取る物理的剥離方法を用いても良いし、これらを併用しても良い。
【0024】
ここで、上記の剥離工程では、撥水塗膜を剥離すれば良く、当該撥水塗膜の下層、例えば既述したプライマー層やハードコート層等は、剥離工程後にも剥離せず車両用外装部材に残存したままであっても良い。
【0025】
これらの下層や車両用外装部材は、剥離工程によって傷つく可能性がある。したがって、剥離工程で過大な力を加えた場合や、剥離工程を繰り返した場合等には、下層や車両用外装部材の平滑性が損なわれる虞がある。このような場合には、アンカー効果により、リコート後の撥水塗膜が下層や車両用外装部材に比較的強固に一体化され、次のリコートの際に充分に剥離し難い可能性がある。
【0026】
したがって剥離工程は、撥水塗膜を車両用外装部材から充分に剥離させ得るだけの回数や強度で行うのが好ましい。剥離工程後に車両用外装部材の表面に残存する撥水塗膜は、車両用外装部材の表面における任意の測定領域を100面積%としたときに10面積%以下であるのが好適であり、5面積%以下であるのがより好適であり、3面積%以下であるのが特に好適である。当該評価は、顕微鏡下で取得した画像を、画像処理することにより行うことが可能である。
【0027】
なお、撥水塗膜が上記の範囲にまで剥離されれば、車両用外装部材の表面は平滑であるように見える。
したがって、本発明の条件設定方法で設定した条件を用いて、実車に搭載された塗膜付車両用外装部材の撥水塗膜をリコートする場合、剥離工程が完了したか否かは、その質量を測定することにより判断しても良いし、作業者の目視にて判断しても良い。画像解析等のその他の手法により判断しても良い。
【0028】
リコート工程は、剥離工程後の車両用外装部材の表面に撥水塗膜を形成する工程である。リコート工程で形成する撥水塗膜は、剥離工程で剥離した撥水塗膜と同じものであっても良いし異なるものであっても良い。剥離工程後に撥水塗膜が残存する場合、当該撥水塗膜とのなじみ性を考慮すると、リコート工程で形成する撥水塗膜は、剥離工程で剥離した撥水塗膜と同じものであるのが好ましい。
【0029】
リコート工程は、一般的な塗装方法により行えば良い。当該一般的な塗装方法として、例えば、刷毛やスポンジ等の塗布用具を用いて車両用外装部材に塗料を塗布する方法や、スプレーを用いて車両用外装部材に塗料を噴霧する方法や、塗料に車両用外装部材を浸す方法を挙げることができる。
【0030】
その後、必要に応じて、車両用外装部材に塗布等された塗料に含まれる溶媒を、乾燥や加熱等により除去することで、車両用外装部材がリコートされて、塗膜付車両用外装部材が得られる。
【0031】
本発明の条件設定方法では、リコート工程後に評価工程を行う。評価工程では、具体的には、リコート工程後の撥水塗膜に試験用液滴を付着させ、撥水評価を行う。そして、当該試験用液滴の転落角が20°以下である場合に、そのリコート条件、すなわち、剥離工程およびリコート工程で用いたリコート条件を合格と評価する。
【0032】
合格の場合には、その撥水塗膜が充分な撥水機能を有するということが可能であり、剥離工程およびリコート工程が好適になされたということも可能である。つまり、評価工程で得られた評価が合格であれば、その条件は、車両用外装部材を好適にリコートでき、充分な撥水機能を有する塗膜付車両用外装部材を得るために好適だ、と判断できる。これにより、本発明の条件設定方法によると、撥水塗膜のリコートを好適に行い得る剥離工程やリコート工程の条件を、適切に設定することが可能である。
【0033】
ここでいう転落角とは、塗膜付車両用外装部材上の試験用液滴が転落するまで塗膜付車両用外装部材を傾け、そのときに測定した角度を意味する。より具体的には、試験体である塗膜付車両用外装部材上に試験用液滴を付着させ、試験用液滴を高速度カメラで捉えつつ、塗膜付車両用外装部材を載置または保持した試料ステージを傾ける。そして、試験用液滴が塗膜付車両用外装部材から転落したときの試料ステージの角度と、初期状態での試料ステージの角度との差を、転落角とする。転落角は撥水性についての動的な指標ということができる。
【0034】
上記した試験用液滴を形成するための液体としては、少なくとも液状媒体を含み、必要に応じて当該液状媒体に添加材を添加したものを用い得る。液状媒体は、水系のものであっても良いし、非水系のものであっても良いが、塗膜が撥水性であることを考慮すると、水を50体積%以上含有するものであるのが好ましい。水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水等の一般的なものを用いれば良い。当然乍ら、試験用液滴を形成するための液体は、これらの水のみからなるもの、すなわち100体積%の水を含有するものであるのも好適である。
【0035】
上記の添加材は、実車に搭載された塗膜付車両用外装部材に実際に付着する液滴、例えば雨水や泥水等に近い組成を再現し得るものであるのが好ましく、水に可溶のものであっても良いし、水に不溶のものであっても良い。水に可溶な添加材としては、グリセリン、エチレングリコールを例示することが可能である。水に不溶な添加材としては、鉱物油、シリコンオイル等の油、タルク、マイカ、ゼオライト、スメクタイト等の鉱物を例示することが可能である。これらの添加剤は、単独で使用しても良いし、複数を併用しても良い。
【0036】
リコート工程後の撥水塗膜に試験用液滴を付着させる方法は特に限定されず、塗膜付車両用外装部材における撥水塗膜上に液体を何らかの方法で付与すれば良い。撥水塗膜上の当該液体は、表面張力により試験用液滴となる。
【0037】
リコート工程後の撥水塗膜に試験用液滴を付着させる方法としては、例えば、上記した液体を撥水塗膜上に単に垂らしても良いし、刷毛等で塗っても良いし、スプレー装置を用いて噴霧しても良い。何れの場合にも、撥水塗膜上には、滴り落ちる程度の量の液体を付与するのが好適である。
【0038】
試験用液滴の転落角を測定し塗膜付車両用外装部材の撥水評価を行う方法としては、後述する実施例の欄に記載した方法、または、試験用液滴が付着した塗膜付車両用外装部材を当該方法と同程度に傾けかつ試験用液滴の様子を監視し得る方法を採用すれば良い。または、表面技術 Vol.60,No.1,2009 第21頁~第26頁に紹介されている撥水性の評価法等を参考にして転落角を測定しても良い。
【0039】
塗膜付車両用外装部材は、単独で撥水評価を行っても良いし、実車に搭載した状態で撥水評価を行っても良い。実際に即した条件で撥水評価を行うためには、実車に搭載した状態で塗膜付車両用外装部材の撥水評価を行うのが好ましい。また、撥水評価を容易にかつ効率よく行うためには、塗膜付車両用外装部材単独で撥水評価を行うのが好ましい。
【0040】
撥水評価に供する塗膜付車両用外装部材は、実車に搭載するものと同じ形状であっても良いし、単なる試験片であっても良い。実際に即した条件で評価するためには、実車に搭載するものと同じ形状であるのが好適である。
【0041】
本発明の条件設定方法では、上記の転落角が20°以下である場合に、そのリコート条件を合格と評価する。転落角が小さい方が撥水性は高いことを考慮すると、合格と評価するための転落角は、19.5°以下であるのが好ましく、19°以下であるのがより好ましい。
【0042】
なお、リコートを繰り返すと、剥離工程後に残存する撥水塗膜の量や、剥離工程により撥水塗膜の下層や車両用外装部材に形成される傷の数や大きさ等が増大し、その上層に形成される撥水塗膜の平滑性が損なわれることが予想される。したがって、リコートの繰り返し回数が過大になると、撥水塗膜の撥水性能が低下し、撥水評価で測定される転落角は20°を超えると考えられる。
【0043】
後述する実施例の欄で詳しく説明するが、リコートが好適に為されている場合、リコートの繰返し回数が4回以内であれば、評価工程における試験用液滴の転落角は20°以下となる。したがって、リコート条件の評価をより厳密に行うためには、4回のリコートを行った状態で評価工程を行うのが好ましい。
【0044】
なお、実車に搭載された塗膜付車両用外装部材につき、本発明の条件設定方法で設定した条件に基づきリコートを行う場合にも、リコートの回数は4回までとするのが好ましい。換言すると、実車に搭載された塗膜付車両用外装部材につき、本発明の条件設定方法で設定した条件に基づきリコートを行う場合、それまでのリコート回数が3回以下である場合にのみ、リコートを実施するのが好ましい。
【0045】
ところで上記したように、本発明の条件設定方法では、撥水塗膜の撥水性能を評価するために、動的な評価基準である転落角を採用した。本発明の条件設定方法では、撥水性能の評価をより精密に行うために、動的な評価基準である転落角による評価に加えて、静的な評価基準である接触角による評価を行っても良い。具体的には、本発明の条件設定方法では、評価工程において、試験用液滴の接触角が100°以上である場合に、そのリコート条件を合格のうちでも上位である優良と評価するのが好ましい。
【0046】
ここでいう接触角とは、所謂ぬれ性を意味し、JIS K6768:1999に基づいて測定することができる。試験用液滴に用いる液体としては、JIS K6768:1999に開示されている混合液を用いても良いし、転落角の測定に用いる液体と同じものを用いても良い。試験用液滴の接触角が大きければ、塗膜付車両用外装部材の表面と試験用液滴とのなす角度が大きく、塗膜付車両用外装部材のぬれ性が低い、塗膜付車両用外装部材が撥水性に優れている、ということができる。
【0047】
評価工程において、試験用液滴の接触角が102°以上である場合に優良と評価するのが好ましく、105°以上である場合に優良と評価するのがより好ましい。
【0048】
以下、具体例を挙げて本発明の条件設定方法を説明する。
【0049】
(実施例1)
実施例1の条件設定方法では、車両用外装部材として、車両に搭載されたLiDARを覆うカバーを採用した。実施例1の条件設定方法は、当該カバーの表面に形成されている撥水塗膜をリコートするための条件を設定する方法である。
【0050】
実施例1の条件設定方法は、準備工程、剥離工程、リコート工程および評価工程を具備する。
【0051】
〔準備工程〕
準備工程では、車両用外装部材の表面に撥水塗膜が形成された塗膜付車両用外装部材を準備した。
車両用外装部材は、ポリカーボネート製であり略平板状をなす母材と、当該母材の表面に形成されたハードコート層とを具備するものを用いた。ハードコート層は、アクリルウレタン系の塗料を母材上に塗工し、乾燥および硬化させることで形成されたものである。
【0052】
ハードコート層上に、さらに、特開2016-147469号公報に開示されている撥水塗膜の材料をディッピングし、これを乾燥させることで、車両用外装部材の表面に撥水塗膜が形成された塗膜付車両用外装部材を準備した。なお、このとき形成された撥水塗膜は、膜厚200nmであった。
【0053】
〔剥離工程〕
上記の塗膜付車両用外装部材の撥水塗膜を、水溶性溶剤に浸した紙で拭き取った。水溶性溶剤としてはペンギンワックス株式会社製のニュースーパークリンを用い、紙としては市販の紙ワイパーを用いた。当該拭き取りの操作は、作業者が目視にて撥水塗膜が消失したと認定できるまで続けた。
【0054】
その後、車両用外装部材の表面を顕微鏡下で撮像し、画像処理することにより、車両用外装部材の表面に残存する撥水塗膜の量を測定した。車両用外装部材の表面に残存する撥水塗膜の量が2面積%以下であったため、撥水塗膜が充分に剥離されたと判断した。
【0055】
〔リコート工程〕
剥離工程後の車両用外装部材につき、準備工程と同様の方法で撥水塗膜を形成し、リコート1回目の塗膜付車両用外装部材を得た。このとき形成された撥水塗膜は、準備工程同様の膜厚200nmと推測される。
【0056】
〔評価工程〕
リコート工程で得られたリコート1回目の塗膜付車両用外装部材につき、転落角および接触角を測定した。転落角の測定にあたり試験用液滴を形成するための液体としては水を用いた。また、接触角の測定はJIS K6768:1999に基づいて行い、接触角の測定にあたり試験用液滴に用いる液体としては、JIS K6768:1999に開示されている混合液を用いた。
【0057】
転落角は、協和界面科学社製の接触角計に滑落ユニットを装着したものを用いて測定した。塗膜付車両用外装部材を試料ステージに取り付け、イオン交換水を入れたディスペンサを用いて、撥水塗膜上に20μL程度の微少な試験用液滴を形成した。そして、試験用液滴を高速度CCDカメラで連続的に撮像しつつ、試料ステージを水平状態から傾けて、試験用液滴が転落したときの試料ステージの角度を測定した。このときの試料ステージの角度を転落角とした。
【0058】
なお、剥離工程前の塗膜付車両用外装部材についても、事前に、転落角および接触角を測定した。
以上の工程により、1回目のリコートが終了した。
【0059】
上記の剥離工程~評価工程を3回繰り返し、2回目~4回目のリコートを行った。当該試験はn=2で行った。
リコート1回目~4回目の塗膜付車両用外装部材における転落角および接触角の推移を図1および図2に示す。
【0060】
図1および図2に示すように、リコート1回目~4回目までは、転落角20°以下かつ接触角100°以上の状態が維持され、撥水塗膜の撥水性能は十分に発揮された。
この結果から、転落角が20°以下となるリコート条件であれば、リコートにより充分な撥水性能を有する撥水塗膜を形成できることがわかる。また、当該リコートの繰り返し回数が4回以下であれば、リコートにより形成された撥水塗膜には充分な撥水性能が付与されることがわかる。
【0061】
参考までに、リコート1回目~4回目の塗膜付車両用外装部材につき、870nmにおける透過率を測定したところ、リコート1回目~4回目の塗膜付車両用外装部材の何れについても、透過率88%以上であり、充分な透過率を有していた。
この結果から、転落角が20°以下となるリコート条件であれば、リコートの繰り返し回数が4回以下の範囲においては、リコートにより十分に平滑でありレーダ装置の表側に配置するのに充分な撥水塗膜を形成できることがわかる。
【0062】
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。また、実施形態を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施できる。
図1
図2