(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】信号生成装置、信号生成プログラムおよび信号生成方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
G01S7/40 160
(21)【出願番号】P 2021131330
(22)【出願日】2021-08-11
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池上 富大
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-510826(JP,A)
【文献】国際公開第2019/234946(WO,A1)
【文献】特開2016-99312(JP,A)
【文献】特開2010-133766(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102019208431(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/287634(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置によるレーダ波の送受信を模擬するレーダシミュレーションにおいて、前記レーダシミュレーションにおける前記レーダ装置が受信する受信波に相当する信号を生成する信号生成装置(1)であって、
前記レーダシミュレーションにおける前記レーダ装置が送信する1または複数の送信波のそれぞれについて、1または複数の前記送信波に対する1または複数の前記受信波の振幅と前記受信波の周波数との関係を示す予め設定された1または複数の受信波関数に基づいて、前記受信波の
前記振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす
周波数範囲内において、周波数の関数で表される波形である周波数波形を算出するように構成された抽出部(S10~S140)と、
前記抽出部によって
算出された前記
周波数波形を、時間の関数で表される前記波形である時間波形に変換し、変換された前記時間波形を
前記受信波の信号として生成するように構成された変換部(S150)と
を備える信号生成装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の信号生成装置であって、
前記抽出条件は、前記周波数波形の前記振幅の大きさと正の相関を有する抽出パラメータが予め設定された抽出判定値以上であることである信号生成装置。
【請求項3】
請求項1に記載の信号生成装置であって、
前記周波数波形において、前記周波数波形の前記振幅の大きさと正の相関を有する抽出パラメータがピークとなる前記周波数における前記抽出パラメータをピークパラメータとし、
前記ピークパラメータから予め設定された減算値を減算させた値を減算抽出判定値として、
前記抽出条件は、前記周波数波形の前記抽出パラメータが予め設定された減算抽出判定値以上であることである信号生成装置。
【請求項4】
請求項1に記載の信号生成装置であって、
前記周波数波形において、前記周波数波形の前記振幅の大きさと正の相関を有する抽出パラメータがピークとなる前記周波数をピーク周波数として、
前記抽出条件は、前記周波数波形において、前記ピーク周波数を含むように予め設定された抽出図形の内部に含まれる前記周波数であることである信号生成装置。
【請求項5】
レーダ装置によるレーダ波の送受信を模擬するレーダシミュレーションにおいて、前記レーダシミュレーションにおける前記レーダ装置が受信する受信波に相当する信号を生成する信号生成装置(1)コンピュータを、
前記レーダシミュレーションにおける前記レーダ装置が送信する1または複数の送信波のそれぞれについて、1または複数の前記送信波に対する1または複数の前記受信波の振幅と前記受信波の周波数との関係を示す予め設定された1または複数の受信波関数に基づいて、前記受信波の
前記振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす
周波数範囲内において、周波数の関数で表される波形である周波数波形を算出するように構成された抽出部(S10~S140)、及び、
前記抽出部によって
算出された前記
周波数波形を、時間の関数で表される前記波形である時間波形に変換し、変換された前記時間波形を
前記受信波の信号として生成するように構成された変換部(S150)
として機能させるための信号生成プログラム(24)。
【請求項6】
レーダ装置によるレーダ波の送受信を模擬するレーダシミュレーションにおいて、前記レーダシミュレーションにおける前記レーダ装置が受信する受信波に相当する信号を生成する信号生成装置(1)が実行する信号生成方法であって、
前記レーダシミュレーションにおける前記レーダ装置が送信する1または複数の送信波のそれぞれについて、1または複数の前記送信波に対する1または複数の前記受信波の振幅と前記受信波の周波数との関係を示す予め設定された1または複数の受信波関数に基づいて、前記受信波の
前記振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす
周波数範囲内において、周波数の関数で表される波形である周波数波形を算出し、
算出された前記
周波数波形を、時間の関数で表される前記波形である時間波形に変換し、変換された前記時間波形を
前記受信波の信号として生成する信号生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号生成装置、信号生成プログラムおよび信号生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、逆フーリエ変換を用いて信号を生成する信号生成装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
時間の関数で表される時間波形を生成する場合には、通常、互いに周波数が異なる複数の時間波形を足し合わせる方法が用いられる。この方法では、1つの時間波形におけるサンプル点数と、時間波形の数との両方に比例して演算時間が増大し、信号生成に要する時間が長くなってしまう。
【0005】
また、逆フーリエ変換を用いて、周波数の関数で表される周波数波形を時間波形に変換する演算を行うことによって信号を生成する場合であっても、周波数波形におけるサンプル点数と、周波数波形の数との両方に比例して演算時間が増大し、さらに逆フーリエ変換の処理時間が追加されるため、信号生成に要する時間が更に長くなってしまう。
【0006】
本開示は、信号生成のために行われる演算に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、抽出部(S10~S140)と、変換部(S150)とを備える信号生成装置(1)である。
抽出部は、周波数の関数で表される波形である周波数波形において、周波数波形の振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす周波数に対応する部分を、抽出波形として抽出するように構成される。
【0008】
変換部は、抽出部によって抽出された抽出波形を、時間の関数で表される波形である時間波形に変換し、変換された時間波形を信号として生成するように構成される。
このように構成された本開示の信号生成装置は、周波数波形において振幅が大きい部分を抽出し、抽出された抽出波形を時間波形に変換する演算を行うため、周波数波形を時間波形に変換する演算に要する時間を短縮することができる。なお、本開示の信号生成装置は、周波数波形において振幅が大きい部分を抽出して時間波形に変換するため、周波数波形の全体を変換することによって生成された時間波形との差異が小さくなるように信号を生成することができる。
【0009】
本開示の別の態様は、コンピュータを、抽出部、及び、変換部として機能させるための信号生成プログラム(24)である。
本開示の信号生成プログラムによって制御されるコンピュータは、本開示の信号生成装置の一部を構成することができ、本開示の信号生成装置と同様の効果を得ることができる。
【0010】
本開示の更に別の態様は、周波数の関数で表される波形である周波数波形において、周波数波形の振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす周波数に対応する部分を、抽出波形として抽出する信号生成方法である。そして、本開示の信号生成方法は、更に、抽出された抽出波形を、時間の関数で表される波形である時間波形に変換し、変換された時間波形を信号として生成する。
【0011】
このように構成された本開示の信号生成方法は、本開示の信号生成装置にて実行される方法であり、当該方法を実行することで、本開示の信号生成装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】レーダシミュレータの構成を示すブロック図である。
【
図2】受信波生成処理を示すフローチャートである。
【
図3】2次元フーリエスペクトルの具体例を示す図である。
【
図4】抽出スペクトル配列と、抽出スペクトル配列に基づいて生成された受信波とを示す図である。
【
図5】受信波生成に要する演算時間と、波数との関係を示すグラフである。
【
図6】複数の時間波形を加算して受信波を生成する手順を示す図である。
【
図8】1次元フーリエスペクトルから時間波形を生成する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本開示の実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態のレーダシミュレータ1は、
図1に示すように、表示部11と、操作入力部12と、データ記憶部13と、データ入出力部14と、制御部15とを備える。
【0014】
表示部11は、図示しない表示装置を備え、表示装置の表示画面に各種画像を表示する。
操作入力部12は、図示しないキーボードおよびマウスを介して使用者が行った入力操作を特定するための入力操作情報を出力する。
【0015】
データ記憶部13は、各種データを記憶するための記憶装置である。
データ入出力部14は、有線または無線で接続された外部機器との間でデータの入出力を行う。
【0016】
制御部15は、CPU21、ROM22およびRAM23等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成される。マイクロコンピュータの各種機能は、CPU21が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROM22が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、CPU21が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、制御部15を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0017】
ROM22には、シミュレーションプログラム24が格納されている。シミュレーションプログラム24は、レーダシミュレータ1に予めインストールされていてもよいし、記録媒体またはネットワークを介してインストールされるようにしてもよい。記録媒体としては、例えば光ディスク、磁気ディスクおよび半導体メモリなどが挙げられる。
【0018】
シミュレーションプログラム24は、高精度な三次元地図データを用いて、道路の三次元形状および道路周辺の三次元形状などを仮想空間上に再現し、この仮想空間上に再現された道路で車両を走行させるように構成されている。さらにシミュレーションプログラム24は、仮想空間上で走行する車両に搭載されているレーダ装置によるレーダ波の送受信を模擬するように構成されている。
【0019】
ROM22に格納されたシミュレーションプログラム24を起動することによって、車両の走行と、レーダ装置によるレーダ波の送受信とを模擬するレーダシミュレーションが実行される。
【0020】
次に、レーダシミュレーションにおいて、レーダ装置が受信するレーダ波(以下、受信波)を生成する受信波生成処理の手順を説明する。
受信波生成処理は、レーダシミュレーションにおいて、レーダ装置によって送信されるレーダ波(以下、送信波)を生成する送信波生成処理が実行される毎に、送信波生成処理の終了後に開始される。なお、送信波生成処理は、レーダシミュレーションにより形成されている仮想空間において予め設定されたレーダ波送信周期が経過する毎に実行される。
【0021】
受信波生成処理が実行されると、制御部15のCPU21は、
図2に示すように、まずS10にて、RAM23に設けられた送信波数pを設定する。具体的には、CPU21は、直近の送信波生成処理において生成された送信波の数を示す値を、送信波数pに格納する。
【0022】
次にCPU21は、S20にて、RAM23に設けられた送信波識別番号qに0を格納する。
さらにCPU21は、S30にて、直近の送信波生成処理において生成された1または複数の送信波のうち、q番目の送信波を選択する。
【0023】
そしてCPU21は、S40にて、q番目の送信波が物体で反射することによってレーダ装置が受信するレーダ波(以下、q番目の受信波)の2次元フーリエスペクトルについて、X軸方向インデックス範囲(idx_min~idx_max)を算出する。
【0024】
ここで、S40における処理を具体的に説明する。
本実施形態では、1つの受信波の2次元フーリエスペクトルは、式(1)で定義されている。
【0025】
式(1)において、Fは2次元フーリエスペクトルの成分、Aはq番目の受信波の最大振幅、φはq番目の受信波の位相、fはq番目の受信波の周波数である。また、idxは0~255の整数、idyは0~1023の整数である。また、W=256、H=1024である。
【0026】
【0027】
図3に示す2次元フーリエスペクトルFS1は、1つの受信波の2次元フーリエスペクトルの具体例である。2次元フーリエスペクトルFS1のX軸は、レーダ波を反射した物体の速度に対応した周波数を示す。2次元フーリエスペクトルFS1のY軸は、レーダ波を反射した物体の距離に対応した周波数を示す。
【0028】
CPU21は、まず、レーダシミュレーションの結果に基づいて、q番目の受信波の2次元フーリエスペクトルの最大振幅A、位相φおよび周波数fを決定する。なお、受信波の最大振幅A、位相φおよび周波数fは、q番目の送信波を反射した物体の種別および位置などに基づいて決定される。
【0029】
またCPU21は、決定された最大振幅A、位相φおよび周波数fを代入した式(1)において、
図3の2次元フーリエスペクトルFS1に示すように、2次元フーリエスペクトルの振幅が予め設定された抽出判定値以上となるX軸方向位置の最小値をX軸方向インデックス最小値idx_minとして算出する。さらに、2次元フーリエスペクトルの振幅が予め設定された抽出判定値以上となるX軸方向位置の最大値をX軸方向インデックス最大値idx_maxとして算出する。なお、2次元フーリエスペクトルFS1において抽出図形Fexの内側の領域で、2次元フーリエスペクトルの振幅が抽出判定値以上となっている。
【0030】
S40の処理が終了すると、CPU21は、
図2に示すように、S50にて、RAM23に設けられたX軸方向位置idxに、S40で算出されたX軸方向インデックス最小値idx_minの値を格納する。
【0031】
次にCPU21は、S60にて、X軸方向位置idxにおけるY軸方向インデックス範囲(idy_min~idy_max)を算出する。すなわち、CPU21は、Y軸方向インデックス最小値idy_minおよびY軸方向インデックス最大値idy_maxを算出する。具体的には、CPU21は、
図3に示すように、X軸方向位置idxにおいて、2次元フーリエスペクトルの振幅が抽出判定値以上となるY軸方向位置の最小値をY軸方向インデックス最小値idy_minとして算出する。さらにCPU21は、X軸方向位置idxにおいて、2次元フーリエスペクトルの振幅が抽出判定値以上となるY軸方向位置の最大値をY軸方向インデックス最大値idy_maxとして算出する。
【0032】
S60の処理が終了すると、CPU21は、
図2に示すように、S70にて、RAM23に設けられたY軸方向位置idyに、S60で算出されたY軸方向インデックス最小値idy_minの値を格納する。
【0033】
そしてCPU21は、S80にて、(idx,idy)における2次元フーリエスペクトルの値を式(1)に基づいて算出し、算出した値を、抽出スペクトル配列における(idx,idy)の点で加算する。
【0034】
抽出スペクトル配列は、例えば
図4の抽出スペクトル配列SA1で示すように、レーダ波を反射した物体の速度に対応した周波数をX軸とし、レーダ波を反射した物体の距離に対応した周波数をY軸として、式(1)で表される2次元フーリエスペクトルの値を示す。
【0035】
抽出スペクトル配列は、初期状態では、全ての(idx,idy)において値が0に設定されている。そして、S80において、(idx,idy)の点で値が加算される毎に、(idx,idy)の点における値が、加算された値だけ増加する。
【0036】
図4の抽出スペクトル配列SA1における抽出フーリエスペクトルES1は、1つの受信波の2次元フーリエスペクトルのうち、その振幅が抽出判定値以上となる2次元フーリエスペクトルである。
【0037】
S80の処理が終了すると、CPU21は、
図2に示すように、S90にて、Y軸方向位置idyに格納されている値が、S60で算出されたY軸方向インデックス最大値idy_max以上であるか否かを判断する。ここで、Y軸方向位置idyに格納されている値がY軸方向インデックス最大値idy_max未満である場合には、CPU21は、S100にて、Y軸方向位置idyをインクリメントし、S80に移行する。すなわち、CPU21は、Y軸方向位置idyに格納されている値に1加算した値をY軸方向位置idyに格納する。
【0038】
一方、Y軸方向位置idyに格納されている値がY軸方向インデックス最大値idy_max以上である場合には、CPU21は、S110にて、X軸方向位置idxに格納されている値が、S40で算出されたX軸方向インデックス最大値idx_max以上であるか否かを判断する。ここで、X軸方向位置idxに格納されている値がX軸方向インデックス最大値idx_max未満である場合には、CPU21は、S120にて、X軸方向位置idxをインクリメントし、S60に移行する。すなわち、CPU21は、X軸方向位置idxに格納されている値に1加算した値をX軸方向位置idxに格納する。
【0039】
一方、X軸方向位置idxに格納されている値がX軸方向インデックス最大値idx_max以上である場合には、CPU21は、S130にて、送信波識別番号qをインクリメントする。すなわち、CPU21は、送信波識別番号qに格納されている値を1加算する。さらにCPU21は、S140にて、送信波識別番号qに格納されている値が、送信波数pに格納に格納されている値以上であるか否かを判断する。
【0040】
ここで、送信波識別番号qに格納されている値が、送信波数pに格納されている値未満である場合には、CPU21は、S30に移行する。一方、送信波識別番号qに格納されている値が、送信波数pに格納されている値以上である場合には、CPU21は、S150にて、S80の処理によって値が加算されることにより作成された抽出スペクトル配列に対して高速フーリエ逆変換を行うことによって、受信波を生成し、受信波生成処理を終了する。
【0041】
図4の抽出スペクトル配列SA2は、0番目から(p―1)番目までの全ての受信波について抽出円の内側に位置する2次元フーリエスペクトルを抽出した結果の一例である。
図4のグラフG1は、抽出スペクトル配列に対して高速フーリエ逆変換を行うことによって生成された受信波の時間変化の一例である。グラフG1における時間波形WF1は、生成された受信波の実部の時間変化を示す。グラフG1における時間波形WF2は、生成された受信波の虚部の時間変化を示す。
【0042】
このように構成されたレーダシミュレータ1は、周波数の関数で表される波形である2次元フーリエスペクトルにおいて、2次元フーリエスペクトルの振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす周波数に対応する部分を、抽出スペクトル配列として抽出する。本実施形態の抽出条件は、2次元フーリエスペクトルの振幅が抽出判定値以上であることである。
【0043】
そしてレーダシミュレータ1は、抽出された抽出スペクトル配列を、時間の関数で表される時間波形に変換し、変換された時間波形を信号として生成する。
このようなレーダシミュレータ1は、2次元フーリエスペクトルにおいて振幅が大きい部分を抽出し、抽出された抽出スペクトル配列を時間波形に変換する演算を行うため、周波数波形を時間波形に変換する演算に要する時間を短縮することができる。なお、レーダシミュレータ1は、周波数波形において振幅が大きい部分を抽出して時間波形に変換するため、周波数波形の全体を変換することによって生成された時間波形との差異が小さくなるように信号を生成することができる。
【0044】
図5は、本実施形態において受信波を生成するのに要する演算時間と、
図6に示すように複数の時間波形を合算することによって受信波を生成するのに要する演算時間とを、送信波の数(すなわち、波数)を変化させて比較した図である。
【0045】
図6は、互いに周波数が異なる3つの時間波形WF11,WF12,WF13を加算することにより、受信波の波形WF14が生成されることを示している。
図5に示すように、波数が1である場合には、本実施形態と、複数の時間波形を合算して受信波を生成する場合とで、演算時間の差はほとんど無い。しかし、波数が10,100,1000,10000である場合には、本実施形態での演算時間は、複数の時間波形を合算して受信波を生成する場合の演算時間より、10倍~100倍程度短くなる。
【0046】
以上説明した実施形態において、レーダシミュレータ1は信号生成装置に相当し、シミュレーションプログラム24は信号生成プログラムに相当し、S10~S140は抽出部としての処理に相当し、S150は変換部としての処理に相当する。
【0047】
また、2次元フーリエスペクトルは周波数波形に相当し、抽出スペクトル配列は抽出波形に相当し、2次元フーリエスペクトルの振幅は抽出パラメータに相当する。
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0048】
[変形例1]
例えば上記実施形態では、抽出条件は、2次元フーリエスペクトルの振幅が抽出判定値以上である形態を示した。しかし、例えば
図7の2次元フーリエスペクトルFS2で示すように、抽出条件は、2次元フーリエスペクトルの振幅がピークとなる周波数(以下、ピーク周波数)を含むように予め設定された抽出図形の内部に含まれる周波数であるようにしてもよい。なお、2次元フーリエスペクトルFS2における抽出図形は抽出矩形Rexである。また、ピーク周波数を含むように予め設定された抽出図形は矩形に限定されるものではなく、例えば、2次元フーリエスペクトルFS3の抽出円Cexで示すように、円形であってもよい。
【0049】
[変形例2]
また上記実施形態では、2次元フーリエスペクトルにおいて、予め設定された抽出条件を満たす周波数に対応する部分を抽出する形態を示した。しかし、周波数波形は2次元スペクトルに限定されるものではなく、例えば
図8に示すように、1次元スペクトルにおいて抽出条件を満たす周波数に対応する部分を抽出するようにしてもよいし、3次元以上のスペクトルにおいて抽出するようにしてもよい。
【0050】
[変形例3]
また上記実施形態では、抽出条件は、2次元フーリエスペクトルの振幅が抽出判定値以上である形態を示した。しかし、例えば
図8に示すように、横軸を周波数とし縦軸をパワーとする1次元フーリエスペクトルFS4において、パワーが予め設定された減算抽出判定値Jex以上であることを抽出条件とするようにしてもよい。減算抽出判定値Jexは、ピークパワーPWpeakから予め設定された減算値SVを減算させた値である。ピークパワーPWpeakは、1次元フーリエスペクトルFS4において、ピークとなる周波数におけるパワーである。
【0051】
図8は、1次元フーリエスペクトルFS4において、抽出波形Wex1,Wex2,Wex3が抽出され、抽出波形Wex1,Wex2,Wex3に対して高速フーリエ逆変換を行うことによって、受信波の波形WF21が生成されることを示している。
【0052】
なお、パワーは抽出パラメータに相当し、ピークパワーPWpeakはピークパラメータに相当する。
[変形例4]
また上記実施形態では、2次元フーリエスペクトルの振幅が抽出パラメータである形態を示したが、抽出パラメータは振幅に限定されるものではなく、振幅の大きさと正の相関を有するパラメータであればよい。例えば、
図8の1次元フーリエスペクトルFS4で示すように、パワーを抽出パラメータとしてもよい。
【0053】
[変形例5]
また上記実施形態では、フーリエ逆変換を用いて信号を生成する形態を示したが、周波数波形を時間波形に変換することができる変換方法であればよく、例えばウェーブレット変換でもよい。
【0054】
[変形例6]
また上記実施形態では、信号としてレーダ波を生成する形態を示したが、レーダ波に限定されるものではなく、例えば音声信号の生成であってもよい。
【0055】
本開示に記載の制御部15およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部15およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部15およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。制御部15に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0056】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0057】
上述したレーダシミュレータ1の他、当該レーダシミュレータ1を構成要素とするシステム、当該レーダシミュレータ1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、信号生成方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1…レーダシミュレータ、15…制御部、24…シミュレーションプログラム