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特許7647451工作機械、制御方法、制御プログラム、及び記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】工作機械、制御方法、制御プログラム、及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/155 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
B23Q3/155 F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021140771
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023034508
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佳也
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/135958(WO,A1)
【文献】特開昭60-118478(JP,A)
【文献】特開2009-104316(JP,A)
【文献】特開2018-039068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q3/155-3/157
G05B19/18-19/416
G05B19/42-19/427
B23Q15/00-15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械において、
前記工具マガジンの駆動源であるモータと、
前記モータのトルク値を検出するトルク検出部と、
前記モータの駆動により前記工具マガジンを旋回した後における前記工具マガジンの停止時前記トルク検出部が検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御部と
を備えたことを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記取得部は、前記トルク検出部が検出した前記トルク値が所定の第一値以上の場合前記補正量を演算し、前記トルク値が前記第一値未満の場合には前記補正量を演算しないこと
を特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械において、
前記工具マガジンの駆動源であるモータと、
前記モータのトルク値を検出するトルク検出部と、
前記工具マガジンが保持する工具の配置に変更があった場合に前記モータの駆動による前記工具マガジンの旋回中に前記トルク検出部が検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御部と
を備えたことを特徴とする工作機械。
【請求項4】
前記工具マガジンの位置を検出する位置検出部と、
前記モータの駆動により前記工具マガジンの少なくとも半周分の旋回中に前記位置検出部が検出した前記工具マガジンの位置と、前記工具マガジンが該位置にある時に前記トルク検出部が検出した前記トルク値とを関連付けて記憶する記憶部と
を備え、
前記取得部は、前記記憶部が記憶した前記工具マガジンの位置と前記トルク値とに基づいて、前記補正量を演算すること
を特徴とする請求項に記載の工作機械。
【請求項5】
前記取得部は、前記トルク検出部が検出した前記トルク値の最大値と最小値との差分が所定の第二値以上の場合に、前記補正量を演算し、前記差分が前記第二値未満の場合には前記補正量を演算しないこと
を特徴とする請求項に記載の工作機械。
【請求項6】
前記工具マガジンは減速機を備え、
前記取得部は、前記工具マガジン及び前記減速機の剛性値と、前記トルク検出部が検出した前記トルク値とに基づいて、前記補正量を演算すること
を特徴とする請求項1からの何れかに記載の工作機械。
【請求項7】
複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御する制御方法であって、
前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、
前記モータの駆動により前記工具マガジンを旋回した後における前記工具マガジンの停止時前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程と
を備えたことを特徴とする制御方法。
【請求項8】
複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御する制御方法であって、
前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、
前記工具マガジンが保持する工具の配置に変更があった場合に前記モータの駆動による前記工具マガジンの旋回中に前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程と
を備えたことを特徴とする制御方法。
【請求項9】
前記工具マガジンの位置を検出する位置検出工程と、
前記モータの駆動により前記工具マガジンの少なくとも半周分の旋回中に前記位置検出工程で検出した前記工具マガジンの位置と、前記工具マガジンが該位置にある時に前記トルク検出工程で検出した前記トルク値とを関連付けて記憶する記憶工程と
を備え、
前記取得工程では、前記記憶工程で記憶した前記工具マガジンの位置と前記トルク値とに基づいて、前記補正量を演算すること
を特徴とする請求項に記載の制御方法。
【請求項10】
複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御するコンピュータに、
前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、
前記モータの駆動により前記工具マガジンを旋回した後における前記工具マガジンの停止時前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程と
を実行させるための制御プログラム。
【請求項11】
複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御するコンピュータに、
前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、
前記工具マガジンが保持する工具の配置に変更があった場合に前記モータの駆動による前記工具マガジンの旋回中に前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程と
を実行させるための制御プログラム。
【請求項12】
複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御するコンピュータに、
前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、
前記モータの駆動により前記工具マガジンを旋回した後における前記工具マガジンの停止時前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程と
を実行させるための制御プログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項13】
複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御するコンピュータに、
前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、
前記工具マガジンが保持する工具の配置に変更があった場合に前記モータの駆動による前記工具マガジンの旋回中に前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程と
を実行させるための制御プログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械、制御方法、制御プログラム、及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、主軸に装着する工具を収納するマガジンを備えた工作機械を開示する。マガジンは、工具を保持する複数のグリップを外周に備える。マガジンは、減速機を用いてモータと連結する。工具交換動作時、工作機械は、モータの駆動を制御して主軸の直下に交換対象の工具を配置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4767925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の工具をマガジン外周の一部に偏って保持した場合、工具にかかる重力に因り、マガジンの停止時にモータや減速機にかかる負荷のトルクであるアンバランストルクは増大する。アンバランストルクの増大に因り、減速機の歯面は弾性変形する場合がある。該場合、工作機械は、マガジンモータの回転量をエンコーダで制御しても減速機においてずれを生じ、交換対象の工具を保持するグリップを正しい交換位置に位置決めできない可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、工具にかかる重力に因り工具マガジンの停止時にかかるアンバランストルクが増大しても、工具交換動作の精度を確保することができる工作機械、制御方法、制御プログラム、及び記憶媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一態様に係る工作機械は、複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械において、前記工具マガジンの駆動源であるモータと、前記モータのトルク値を検出するトルク検出部と、前記モータが前記工具マガジンを停止時、又は駆動中に、前記トルク検出部が検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得部と、前記取得部で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
工具マガジン外周の一部に複数の工具を偏って収納すると、工具マガジンの停止時にモータにかかる負荷のトルクであるアンバランストルクは、工具にかかる重力に因って増大する。工具マガジンに収納する工具の数を増やす場合や、工具マガジンが大型の工具を収納する場合、アンバランストルクは、より増大する。アンバランストルクが増大した分、工具マガジンは変形等により旋回角度と異なる角度で停止する。該場合、工作機械は、トルク値の増大分に相当する補正角度分、工具マガジンの旋回角度を補正することで、工具を工具交換位置へ正しく配置し、工具交換の精度を確保できる。また、工作機械は、工具を工具交換位置へ確実に移動できるので、工具を確実に主軸に装着することができ、工具交換動作の失敗の可能性や、失敗時に工具落下による破損の可能性を低減することができる。
【0008】
第一態様において、前記取得部は、前記トルク検出部が検出した前記トルク値が所定の第一値以上の場合に、前記補正量を演算してもよい。トルク値が第一値未満の場合、工具マガジンの位置補正を行わずとも十分に工具交換動作の精度を確保できる可能性があるので、工作機械は、補正のための処理を省くことができる。
【0009】
第一態様において、前記工具マガジンの位置を検出する位置検出部と、前記工具マガジンの移動中に前記位置検出部が検出した前記工具マガジンの位置と、前記工具マガジンが該位置にある時に前記トルク検出部が検出した前記トルク値とを関連付けて記憶する記憶部とを備え、前記取得部は、前記記憶部が記憶した前記工具マガジンの位置と前記トルク値とに基づいて、前記補正量を演算してもよい。工作機械は、工具マガジンの移動中に検出した工具マガジンの位置とトルク値を記憶し、交換対象の工具を工具交換位置へ移動する時、工具マガジンの移動の補正量を記憶値から求めることで、工具マガジンの移動を精度よく行うことができる。
【0010】
第一態様において、前記取得部は、前記トルク検出部が検出した前記トルク値の最大値と最小値との差分が所定の第二値以上の場合に、前記補正量を演算してもよい。トルク値の最大値と最小値の差分が第二値未満の場合、工具マガジンの位置補正を行わずとも十分に工具交換動作の精度を確保できる可能性があるので、工作機械は、補正のための処理を省くことができる。
【0011】
第一態様において、前記工具マガジンは減速機を備え、前記取得部は、前記装工具マガジン及び前記減速機の剛性値と、前記トルク検出部が検出した前記トルク値とに基づいて、前記補正量を演算してもよい。工作機械は、工具マガジンと減速機の剛性値を補正量の演算に用いることで、工具交換動作の精度をより高めることができる。
【0012】
本発明の第二態様に係る制御方法は、複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御する制御方法であって、前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、前記モータが前記工具マガジンを停止時、又は駆動中に、前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程とを備えたことを特徴とする。第二態様によれば、第一態様と同様の効果を奏する。
【0013】
第二態様において、前記工具マガジンの位置を検出する位置検出工程と、前記工具マガジンの移動中に前記位置検出工程で検出した前記工具マガジンの位置と、前記工具マガジンが該位置にある時に前記トルク検出工程で検出した前記トルク値とを関連付けて記憶する記憶工程とを備え、前記取得工程では、前記記憶工程で記憶した前記工具マガジンの位置と前記トルク値とに基づいて、前記補正量を演算してもよい。故に第一態様と同様の効果を奏する。
【0014】
本発明の第三態様に係る制御プログラムは、複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御するコンピュータに、前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、前記モータが前記工具マガジンを停止時、又は駆動中に、前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程とを実行させる。第三態様によれば、第一態様と同様の効果を奏する。
【0015】
本発明の第四態様に係る記憶媒体は、複数の工具を収納した工具マガジンと、前記工具マガジンが収納した複数の工具の中から一つの工具を装着する主軸とを備えた工作機械を制御するコンピュータに、前記工具マガジンの駆動源であるモータのトルク値を検出するトルク検出工程と、前記モータが前記工具マガジンを停止時、又は駆動中に、前記トルク検出工程で検出した前記トルク値に基づいて、前記工具マガジンが前記主軸に工具を着脱する位置である工具交換位置と前記主軸に装着する工具の位置とのずれを補正する補正量を取得する取得工程と、前記取得工程で取得した前記補正量を用いて前記モータを制御する制御工程とを実行させるための制御プログラムを記憶する。第四態様によれば、第一態様と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】工作機械1の正面図である。
図2】主軸ヘッド7周囲の右側面図である。
図3】工作機械1の電気的構成を示すブロック図である。
図4】工具マガジン20の旋回角度補正の説明図である。
図5】第一実施形態の工具交換処理のフローチャートである。
図6】第二実施形態の工具交換処理のフローチャートである。
図7】工具マガジン20の旋回角度と旋回トルクTtとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一実施形態を説明する。本実施形態は図中に示す矢印の向きで、工作機械1の左右、前後、上下を説明する。工作機械1の左右方向、前後方向、上下方向は夫々、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向である。工具交換装置15の向きもこれに倣う。
【0018】
工作機械1の構成を説明する。図1図2に示すように、工作機械1は基台2、コラム5、主軸ヘッド7、主軸9、制御箱6、作業台10、工具交換装置15等を備える。基台2は略直方体状の鉄製土台であり前後方向に延びる。コラム5は基台2上面後側に配置する。主軸ヘッド7(図2参照)はコラム5前面に沿って昇降可能である。主軸9は主軸ヘッド7内部に回転可能に配置する。主軸9は下向きに開口する装着穴(図示略)を備える。装着穴は主軸ヘッド7下部に位置する。工具4は工具ホルダ3に固定する。工具ホルダ3は主軸9の装着穴に着脱自在に装着する。主軸ヘッド7は内部に把持機構(図示略)を備える。把持機構は装着穴に装着した工具ホルダ3を把持する。把持機構は、主軸ヘッド7の昇降に応じて把持を解除する。本実施形態は以下説明において、工具4と工具ホルダ3を纏めて工具4と呼ぶ。主軸9は主軸ヘッド7に設けた主軸モータ52(図3参照)の駆動で回転する。工具4は主軸9と一体して回転する。
【0019】
制御箱6は数値制御装置40(図3参照)を格納する。数値制御装置40は工作機械1の動作を制御する。作業台10は基台2上面略中央に設け主軸ヘッド7下方に位置する。作業台10はX軸方向とY軸方向に移動可能である。被削材(図示略)は作業台10上面に治具(図示略)で固定する。工作機械1は作業台10と主軸ヘッド7を相対的にX軸、Y軸、Z軸の3軸方向に移動し被削材に工具4を接触させて被削材に切削加工を施す。
【0020】
工具交換装置15は工具マガジン20と複数のグリップアーム25を備える。工具マガジン20は円盤状のアルミ合金製である。工具マガジン20は略円形状の正面がやや下方に傾斜する。工具マガジン20は背面中心部に軸部21を備え、軸部21はコラム5側に突出する。一対のフレーム8はコラム5前面上部の左右両側から前方に延びる。支持台18は一対のフレーム8の先端部に固定する。支持台18は前面に軸支部19を備える。軸支部19は軸部21を回転可能に軸支する。支持台18は上部に減速機56を固定する。減速機56は複数のギヤとカム(図示略)を有する。マガジンモータ55は減速機56上部に固定する。マガジンモータ55の駆動軸は減速機56を介して軸部21と連結する。減速機56はマガジンモータ55の回転力を減速して軸部21に伝達する。コラム5は一対のフレーム8を介して工具マガジン20を支持する。
【0021】
複数のグリップアーム25は工具マガジン20の外周に沿って放射状に配置する。グリップアーム25の本数は28本である。グリップアーム25は工具4を着脱自在に保持する。グリップアーム25が工具4を保持した状態を、工具マガジン20が工具4を収納した状態と呼ぶ。工具マガジン20は背面外周部に沿って複数の支点台70を等間隔に配置する。複数の支点台70は、複数のグリップアーム25の夫々の位置に対応して配置する。支点台70は対応するグリップアーム25をコラム5との間で揺動可能に支持する。工具保持部26はグリップアーム25の先端部に設け、且つ平面視略U字状である。工具保持部26は工具4を着脱可能に保持する。グリップアーム25のコラム5側中間部はローラ27を回転可能に支持する。主軸ヘッド7の昇降時、ローラ27はカム11のカム面を摺動する。カム11は、主軸ヘッド7前面の右端部に沿って固定する。カム11のカム面は上下に延びる直線部11Aと直線部11A端部から斜め後方に傾斜する傾斜部11Bを備える。
【0022】
工具マガジン20は軸部21中心に旋回する。工具交換装置15は工具マガジン20を旋回することによって、所定の工具4を工具交換位置に位置決めする。工具交換位置は工具マガジン20が主軸9に工具4を着脱する位置であり、工具マガジン20の最下部位置である。工具交換装置15は工具交換動作で、主軸9に装着する工具4と工具交換位置にある工具4とを入れ替え交換する。
【0023】
操作盤46(図3参照)は工作機械1を覆うカバー(図示略)の外壁等に配置する。操作盤46は表示部47(図3参照)と入力部48(図3参照)を備える。表示部47は数値制御装置40からの指令に基づき各種画面、異常情報等を表示する。入力部48は各種情報、操作指示等の入力を受付け、数値制御装置40に入力情報を出力する。
【0024】
工具交換動作を説明する。図2に示すように、主軸ヘッド7は工具マガジン20が旋回可能な位置であるATC原点へ上昇を開始する。工具交換位置に在るグリップアーム25のローラ27は、カム11のカム面を直線部11A、傾斜部11Bの順に摺動する。傾斜部11Bを摺動することにより、ローラ27はコラム5側に移動する。故にグリップアーム25は支点台70を中心に右側面視反時計回りに揺動する。工具保持部26は主軸9に向けて移動し、主軸9に装着した工具4を保持する。主軸ヘッド7内部の把持機構は工具4の把持を解除することによって、工具4は主軸9から取り外し可能となる。工具保持部26が工具4を保持した状態で、主軸ヘッド7は更に上昇することによって、工具4は主軸9から抜ける。ローラ27はカム11の傾斜部11Bから下方に離れる。その後、主軸ヘッド7はATC原点で停止する。
【0025】
工具マガジン20は旋回し、対象工具を工具交換位置に位置決めをする。対象工具は、次に主軸9に装着する工具である。工具交換位置に在るグリップアーム25の工具保持部26は対象工具を保持する。対象工具は、主軸9の装着穴の下方に位置する。
【0026】
主軸ヘッド7はATC原点から下降を開始する。工具4は主軸9の装着穴に進入する。把持機構は工具4を把持するので、工具4は主軸9から取り外し不能となる。主軸ヘッド7は更に下降する。工具交換位置に在るグリップアーム25のローラ27は、カム11の傾斜部11Bを下から上に摺動する。グリップアーム25は支点台70を中心に右側面視時計回りに揺動する。ローラ27はカム11の傾斜部11Bから直線部11Aを下から上へ摺動する。ローラ27は直線部11Aに接触した状態なので、工具保持部26が工具4の前方に離れた状態で、グリップアーム25はその姿勢を保持する。主軸ヘッド7は更に下降して目標位置で停止し、工具交換動作は終了する。
【0027】
図3を参照し、工作機械1の電気的構成を説明する。工作機械1の制御を担う数値制御装置40は、CPU31、ROM32、RAM33、記憶装置34、入出力部35、駆動回路41~45を備える。CPU31、ROM32、RAM33、記憶装置34は、入出力部35に電気的に接続する。CPU31は数値制御装置40を統括制御する。ROM32は、主プログラムを含む各種プログラム等を記憶する。主プログラムは主処理を実行する。主処理は、NCプログラムを一行ずつ読み込んで各種動作を実行する。NCプログラムは各種制御指令を含む複数行で構成し、工作機械1の軸移動、工具交換動作等を含む各種動作を行単位で制御する。ROM32は書き換え可能なEEPROM又はフラッシュメモリでもよい。該場合、各種プログラムはCD-ROM、フラッシュメモリ等の記憶媒体に記憶し、ROM32にコピーして数値制御装置40に導入してもよい。RAM33は各種情報を一時的に記憶する。記憶装置34は不揮発性であり、NCプログラム、デフォルト値、閾値等の各種データを記憶する。CPU31は作業者が操作盤46の入力部48で入力したNCプログラムに加え、外部入力で読み込んだNCプログラム等を記憶装置34に記憶できる。
【0028】
駆動回路41はZ軸モータ51とエンコーダ61に接続する。駆動回路42は主軸モータ52とエンコーダ62に接続する。駆動回路43はX軸モータ53とエンコーダ63に接続する。駆動回路44はY軸モータ54とエンコーダ64に接続する。駆動回路45は工具マガジン20を駆動するマガジンモータ55とエンコーダ65に接続する。Z軸モータ51、主軸モータ52、X軸モータ53、Y軸モータ54、マガジンモータ55は何れもサーボモータである。駆動回路41~45はCPU31から指令を受け、対応する各モータ51~55に駆動電流を夫々出力する。駆動回路41~45はエンコーダ61~65からエンコーダ情報を受け、位置と速度のフィードバック制御を行う。エンコーダ情報は、トルクモニタ値、速度、位置等の各種情報を含む。エンコーダ情報は入出力部35を介してCPU31が読み取ることができる。入出力部35はグリップ検出部66と、操作盤46の表示部47と入力部48に夫々電気的に接続する。グリップアーム25は、グリップ検出部66が検出可能な識別子を有する。グリップ検出部66は工具交換位置に在るグリップアーム25の識別子を検出する。尚、グリップ検出部66は、グリップアーム25が正確に工具交換位置に在る場合に限らず、識別子を検出する。即ちグリップ検出部66は、工具交換位置に最も近いグリップアーム25の識別子を検出する。
【0029】
図4を参照し、工具交換動作時における工具マガジン20の旋回角度の補正について説明する。数値制御装置40は、工具交換動作時に工具マガジン20を旋回し、交換対象の対象工具4Aを最下部の工具交換位置に移動する。工具マガジン20は28本のグリップアーム25を備え、周方向に隣り合うグリップアーム25の位置間隔をピッチという。1ピッチは2π/28[rad]である。数値制御装置40は、現在、工具交換位置にあるグリップアーム25と、対象工具4Aを保持するグリップアーム25とのピッチ差に応じて旋回角度を求め、駆動回路45を制御する。駆動回路45は、エンコーダ65からのエンコーダ情報に基づき、マガジンモータ55の駆動軸を旋回角度に対応する回転量分、駆動する。
【0030】
図4(A)に示すように、工具マガジン20は外周の一部に偏って複数の工具4を保持する場合がある。該場合、工具マガジン20の重心Gは、複数の工具4にかかる重力に因って回転中心部22からずれ、工具マガジン20の外周寄りで工具4が偏る側の位置に在る。工具マガジン20の停止時にマガジンモータ55及び減速機56にかかる負荷のトルクであるアンバランストルクは、工具4の重さ、工具4配置の偏りの大きさ等に因り重心Gの位置に応じて増大する。
【0031】
図4(B)に示すように、数値制御装置40は、対象工具4Aを工具交換位置に移動する為、工具マガジン20を正面視時計回りに、例えば9ピッチ分旋回する。駆動回路45は、アンバランストルクの影響があっても、フィードバック制御により、マガジンモータ55の駆動軸を9ピッチ分の旋回角度に相当する回転量に正しく駆動する。一方、アンバランストルクの増大に因って、減速機56の歯面は弾性変形する場合がある。該場合、マガジンモータ55の駆動軸が正しい回転量に駆動しても、減速機56の弾性変形に因って、工具マガジン20は旋回角度よりも多く旋回する可能性がある。対象工具4Aの位置は、工具交換位置からずれる。
【0032】
図4(C)に示すように、数値制御装置40は、減速機56の弾性変形に因って位置ずれした対象工具4Aを工具交換位置に正しく配置する為、工具マガジン20の角度補正を行う。減速機56の弾性変形量は、アンバランストルクの大きさに応ずる。マガジンモータ55が駆動軸の回転を停止状態に保持する為の保持トルクの大きさは、アンバランストルクに応じて増減する。故に数値制御装置40は、マガジンモータ55の保持トルクを検出し、保持トルクに基づいて工具マガジン20の角度補正を行う。即ち数値制御装置40は、アンバランストルクの増大によって工具マガジン20が旋回し過ぎた角度を保持トルクに基づいて求め、工具マガジン20を正面視反時計回りに旋回し、対象工具4Aを工具交換位置に配置する。
【0033】
図5を参照し、工具交換処理を説明する。数値制御装置40のCPU31は、NCプログラムを1ブロック毎に解釈し工具交換指令を生成すると、ROM32に記憶したプログラムを読み出して実行することにより、工具交換処理を実行する。CPU31は、現在、工具交換位置にあるグリップアーム25と、対象工具4Aを保持するグリップアーム25のピッチ差を求め、工具マガジン20の旋回角度を算出してRAM33に記憶する(S1)。ROM32は予め1ピッチ分の旋回角度を記憶している。
【0034】
CPU31は駆動回路41に指示し、Z軸モータ51を駆動して主軸ヘッド7をATC原点に移動する(S2)。CPU31は駆動回路45に指示し、マガジンモータ55を駆動して工具マガジン20の旋回を開始する(S3)。駆動回路45はフィードバック制御により、マガジンモータ55の駆動軸を、旋回角度に対応する回転量分、正確に駆動する。CPU31はマガジンモータ55の駆動軸の回転量が旋回角度に対応する回転量に達したら、マガジンモータ55の駆動を停止して工具マガジン20の旋回を停止する(S4)。
【0035】
CPU31は、駆動回路45から、マガジンモータ55のエンコーダ情報としてのトルクモニタ値を取得する(S5)。取得したトルクモニタ値は、マガジンモータ55が駆動軸を停止した状態に保持する為の保持トルクThである。CPU31は、保持トルクThが予め設定した第一値以上であるか否か判断する(S6)。第一値は、アンバランストルクによって減速機56の歯面が弾性変形する場合の保持トルクの値を予め測定した規定値である。保持トルクThが第一値未満の場合(S6:NO)、減速機56の歯面は弾性変形はするものの位置決め精度に影響するものではない。故に工具マガジン20は旋回し過ぎず、対象工具4Aを工具交換位置に配置する。CPU31は駆動回路41に指示し、Z軸モータ51を駆動して主軸ヘッド7を下降する。把持機構は対象工具4Aを把持し、主軸9に対象工具4Aを装着する(S10)。主軸ヘッド7は更に下降して所定位置で停止し、工具交換動作は終了する。
【0036】
一方、工具交換動作における工具マガジン20の旋回後に取得した保持トルクThが第一値以上の場合(S6:YES)、減速機56の歯面は弾性変形する可能性がある。マガジンモータ55の駆動軸が旋回角度相当の回転量を正確に駆動しても、減速機56の弾性変形によって、工具マガジン20は旋回し過ぎ、対象工具4Aを工具交換位置からずれて配置する。CPU31は、保持トルクThに基づき、工具交換位置の位置と対象工具4Aを保持するグリップアーム25の位置とのずれを補正する為の補正角度θを算出してRAM33に記憶する(S7)。補正角度θは、以下の式で算出する。
θ=k・Th
なお、係数kは減速機56と工具マガジン20の剛性を表す固定値であり、単位は[rad/N・m]である。係数kは予めROM32又は記憶装置34に記憶する。
【0037】
CPU31は駆動回路45に指示し、マガジンモータ55を駆動して工具マガジン20の旋回を開始する(S8)。駆動回路45はフィードバック制御により、マガジンモータ55の駆動軸を、補正角度θに対応する回転量分、正確に駆動する。CPU31はマガジンモータ55の駆動軸の回転量が補正角度θに対応する回転量に達したら、マガジンモータ55の駆動を停止して工具マガジン20の旋回を停止する(S9)。工具マガジン20は、対象工具4Aを工具交換位置に配置する。CPU31はZ軸モータ51を駆動して主軸ヘッド7を下降する。把持機構は対象工具4Aを把持し、主軸9に対象工具4Aを装着する(S10)。主軸ヘッド7は更に下降して所定位置で停止し、工具交換動作は終了する。
【0038】
以上説明したように、工具マガジン20の外周の一部に複数の工具4を偏って収納すると、工具マガジン20の停止時にマガジンモータ55にかかる負荷のトルクであるアンバランストルクは、工具4にかかる重力に因って増大する。工具マガジン20に収納する工具4の数を増やす場合や、工具マガジン20が大型の工具4を収納する場合、アンバランストルクは、より増大する。アンバランストルクが増大した分、工具マガジン20は変形等により旋回角度と異なる角度で停止する。該場合、工作機械1は、トルク値の増大分に相当する補正角度θ分、工具マガジン20の旋回角度を補正することで、工具4を工具交換位置へ正しく配置し、工具交換の精度を確保できる。また、工作機械は、工具を工具交換位置へ確実に移動できるので、工具を確実に主軸に装着することができ、工具交換動作の失敗の可能性や、失敗時に工具落下による破損の可能性を低減することができる。
【0039】
保持トルクThが第一値未満の場合、工具マガジン20の位置補正を行わずとも十分に工具交換動作の精度を確保できる可能性があるので、工作機械1は、補正のための処理を省くことができる。
【0040】
工作機械1は、工具マガジン20と減速機56の剛性に基づく係数kを補正角度θの演算に用いることで、工具交換動作の精度をより高めることができる。
【0041】
上記第一実施形態の説明にて、マガジンモータ55は本発明のモータの一例である。S5の処理を実行するCPU31は本発明のトルク検出部の一例である。S7の処理を実行するCPU31は本発明の取得部の一例である。S8、S9の処理を実行するCPU31は本発明の制御部の一例である。
【0042】
本発明の第二実施形態を説明する。第二実施形態は第一実施形態の変形例である。第二実施形態は、工具マガジン20の旋回時にマガジンモータ55にかかる旋回トルクTtを予め測定し、工具交換動作時に旋回するピッチ分に対応する補正角度θを旋回トルクにTtに基づいて算出する。第二実施形態の工作機械1は、第一実施形態と同一の構成を備え、図6に示す工具交換処理を実行する。
【0043】
工具交換処理の実行に先立ち、作業者は、工具マガジン20に新たな工具4を取り付けた場合や、工具4を取り替えた場合に、マガジン情報の編集を行う。マガジン情報は、複数のグリップアーム25の夫々の保持状態を示す情報である。記憶装置34はマガジン情報として、工具マガジン20におけるグリップアーム25を特定するグリップ番号と、工具情報と、後述する旋回トルクTtとを対応付けて記憶する。数値制御装置40は表示部47にマガジン情報の編集画面(図示略)を表示し、作業者が入力部48を介してマガジン情報の編集を行う。数値制御装置40は、作業者がマガジン情報の編集を終了すると、記憶装置34のマガジン情報を更新する。
【0044】
図6を参照し、第二実施形態の工具交換処理を説明する。数値制御装置40のCPU31は、NCプログラムを1ブロック毎に解釈し工具交換指令を生成すると、ROM32に記憶したプログラムを読み出して実行することにより、工具交換処理を実行する。CPU31は、マガジン情報の更新の有無を判断する(S21)。マガジン情報に更新がある場合(S21:YES)、CPU31は、工具マガジン20が保持する工具4の配置に変更があるものとして、駆動回路45に指示し、マガジンモータ55を駆動して工具マガジン20の旋回を開始する(S22)。CPU31はエンコーダ情報に基づき、工具マガジン20の旋回角度が1ピッチ分に達するまで待機する(S23:NO)。
【0045】
工具マガジン20が1ピッチ分旋回した場合(S23:YES)、CPU31は駆動回路45から、マガジンモータ55のエンコーダ情報としてのトルクモニタ値を取得する(S24)。取得したトルクモニタ値は、マガジンモータ55が工具マガジン20を旋回させる為にかかる負荷、即ち旋回トルクTtである。CPU31は、グリップ検出部66の検出結果に基づいて工具交換位置にあるグリップアーム25を特定し、取得した旋回トルクTtと、特定したグリップアーム25のグリップ番号とを対応付けてマガジン情報を更新し、記憶装置34に記憶する(S25)。
【0046】
CPU31はエンコーダ情報に基づき、工具マガジン20の旋回角度が旋回を開始してから半周分に達したか否かを判断し(S26)、達していない場合(S26:NO)、処理をS23に移行する。CPU31はS23~S26の処理を繰り返し、工具マガジン20が1ピッチ分旋回する毎に旋回トルクTtを取得し、取得時に工具交換位置にあるグリップアーム25のグリップ番号に対応付けて、記憶装置34のマガジン情報を更新する。
【0047】
工具マガジン20の旋回角度が半周分に達した場合(S26:YES)、CPU31は、グリップ番号と旋回トルクTtとの対応付けがなされなかった半周分のグリップ番号に対応する旋回トルクTtを演算により求める。CPU31はマガジン情報を更新し、記憶装置34に記憶する(S27)。
【0048】
工具マガジン20は円形状である。故に図7に示すように、重心Gの位置が回転中心部22から少しでもずれた場合、旋回トルクTtを縦軸とし、旋回角度を横軸としたグラフはSinカーブを描く。Sin波の振幅は、重心Gにかかる重力成分を表し、Sin波の位相は、回転中心部22に対する重心Gの位置を表す。故にCPU31は、工具マガジン20の半周分の旋回トルクTtが得られれば、Sin波の形状を演算によって推定し、残りの半周分の旋回トルクTtを求めることができる。Sin波を推定する演算の詳細は公知なので省略する。
【0049】
図6に示すように、CPU31はマガジン情報に基づき、負荷変動を算出する。負荷変動は、旋回トルクTtの最大値から、旋回トルクTtの最小値を減算した値である。負荷変動は、上記のSin波の振幅、即ち重心Gにかかる重力成分の大きさを表す。CPU31は、算出した負荷変動を、記憶装置34に記憶する(S28)。
【0050】
CPU31は、現在、工具交換位置にあるグリップアーム25と、対象工具4Aを保持するグリップアーム25のピッチ差を求め、工具マガジン20の旋回角度を算出してRAM33に記憶する(S31)。ROM32は予め1ピッチ分の旋回角度を記憶している。CPU31は、記憶装置34に記憶する負荷変動が、予め設定した第二値以上であるか否か判断する(S32)。第二値は、アンバランストルクによって減速機56の歯面が弾性変形する場合における旋回トルクの負荷変動の値を予め測定した規定値である。負荷変動が第二値未満の場合(S32:NO)、減速機56の歯面は弾性変形するものの位置決め精度に影響するものではない。故に工具マガジン20は旋回し過ぎず、対象工具4Aを工具交換位置に配置できる。CPU31は駆動回路41に指示し、Z軸モータ51を駆動して主軸ヘッド7を工具交換位置に移動する(S35)。CPU31は駆動回路45に指示し、マガジンモータ55を駆動して工具マガジン20の旋回を開始する(S36)。駆動回路45はフィードバック制御により、マガジンモータ55の駆動軸を、旋回角度に対応する回転量分、正確に駆動する。CPU31はマガジンモータ55の駆動軸の回転量が旋回角度に対応する回転量に達したら、駆動回路45に指示し、マガジンモータ55の駆動を停止して工具マガジン20の旋回を停止する(S37)。CPU31は駆動回路41に指示し、Z軸モータ51を駆動して主軸ヘッド7を下降する。把持機構は対象工具4Aを把持し、主軸9に対象工具4Aを装着する(S38)。主軸ヘッド7は更に下降して所定位置で停止し、工具交換動作は終了する。
【0051】
一方、旋回トルクTtの負荷変動が第二値以上の場合(S32:YES)、減速機56の歯面は弾性変形する可能性がある。マガジンモータ55の駆動軸が旋回角度相当の回転量を正確に駆動しても、減速機56の弾性変形によって、工具マガジン20は旋回し過ぎ、対象工具4Aを工具交換位置からずれて配置する。CPU31は、旋回トルクTtに基づき、工具交換位置の位置と対象工具4Aを保持するグリップアーム25の位置とのずれを補正する為の補正角度θを算出してRAM33に記憶する(S33)。補正角度θは、以下の式で算出する。
θ=Σ{k・(Tt(i)-Ta)}
なお、係数kは減速機56と工具マガジン20の剛性を表す固定値であり、単位は[rad/N・m]である。係数kは予めROM32又は記憶装置34に記憶する。iはグリップ番号を表し、整数値である。iには、現在、工具交換位置にあるグリップアーム25のグリップ番号から、対象工具4Aを保持するグリップアーム25のグリップ番号まで、工具交換動作時に工具交換位置を通過する全てのグリップ番号を代入する。平均旋回トルクTaは、工具4を保持しない状態の工具マガジン20を旋回した場合に取得した旋回トルクTtの平均値である。平均旋回トルクTaは、予め測定し、ROM32又は記憶装置34に記憶する。工具マガジン20の重心Gは、工具4を保持しない状態において回転中心部22にある。該状態においても、マガジンモータ55が工具マガジン20を旋回する時、減速機56の粘性抵抗等に起因する旋回トルクが発生する。故にCPU31は、補正角度θの演算において、ピッチ毎の旋回トルクTtの平均値である平均旋回トルクTaをパラメータとして用い、アンバランストルクに因る対象工具4Aの位置ずれを補正する。
【0052】
CPU31は駆動回路41に指示し、Z軸モータ51を駆動して主軸ヘッド7をATC原点に移動する(S35)。CPU31は駆動回路45に指示し、マガジンモータ55を駆動して工具マガジン20の旋回を開始する(S36)。駆動回路45はフィードバック制御により、マガジンモータ55の駆動軸を、旋回角度に対応する回転量分、正確に駆動する。CPU31はマガジンモータ55の駆動軸の回転量が旋回角度に対応する回転量に達したら、更に駆動回路45に指示し、マガジンモータ55の駆動軸の回転量を補正する。駆動回路45はフィードバック制御により、マガジンモータ55の駆動軸を、補正角度θに対応する回転量分、正確に駆動する。CPU31はマガジンモータ55の駆動軸の回転量が補正角度θに対応する回転量に達したら、駆動回路45に指示し、マガジンモータ55の駆動を停止して工具マガジン20の旋回を停止する(S37)。CPU31は駆動回路41に指示し、Z軸モータ51を駆動して主軸ヘッド7を下降する。把持機構は対象工具4Aを把持し、主軸9に対象工具4Aを装着する(S38)。主軸ヘッド7は更に下降して所定位置で停止し、工具交換動作は終了する。
【0053】
なお、作業者による工具4の取り替え等がなされずマガジン情報の更新がない状態で工具交換処理を実行する場合(S21:NO)、CPU31は処理をS31へ移行し、S32の判断では、記憶装置34に記憶する負荷変動の値を用いて判断する。
【0054】
以上説明したように、工作機械1は、予め工具マガジン20を旋回し、工具マガジン20のグリップアーム25に対応するグリップ番号と旋回トルクTtとをマガジン情報として記憶する。交換対象の対象工具4Aを移動する時の補正量の補正角度θをマガジン情報として記憶するピッチ毎の旋回トルクTtに基づいて求めることで、工具マガジン20の旋回を精度よく行うことができる。
【0055】
旋回トルクTtの最大値と最小値の差分である負荷変動が第二値未満の場合、工具マガジン20の位置補正を行わずとも十分に工具交換動作の精度を確保できる可能性があるので、工作機械1は、補正のための処理を省くことができる。
【0056】
上記第二実施形態の説明にて、S24の処理を実行するCPU31は本発明のトルク検出部の一例である。S33の処理を実行するCPU31は本発明の取得部の一例である。S36,S37の処理を実行するCPU31は本発明の制御部の一例である。S23の処理を実行するCPU31は本発明の位置検出部の一例である。マガジン情報を記憶する記憶装置34は本発明の記憶部の一例である。
【0057】
本発明は種々の変更が可能である。工具マガジン20は保持可能な工具4の本数を、一例として28本としたが、本数は適宜変更可能であり、例えば24本でもよい。工作機械1は減速機56を備えない構成であってもよい。補正角度θは計算式で求めたが、補正角度θに応じたトルク値を予め測定して作成したテーブルを用いて求めてもよい。第一実施形態のS6で、CPU31は保持トルクThが第一値以上か否か判断したが、該判断は行わなくてもよい。第二実施形態で、CPU31はグリップ番号と旋回トルクTtとの対応付けを工具マガジン20の旋回の半周分に対して行ったが、全周分に対して行ってもよい。第二実施形態のS32で、CPU31は旋回トルクTtの負荷変動が第二値以上か否か判断したが、該判断は行わなくてもよい。第二実施形態のS24でCPU31は工具マガジン20の旋回においてピッチ毎に旋回トルクTtを取得したが、複数ピッチ毎、例えば3ピッチ毎に旋回トルクTtを取得してもよい。或いは、CPU31は、工具マガジン20が所定角度分旋回する毎、例えば1/8π旋回する毎に、旋回トルクTtを取得してもよい。第二実施形態のS36、S37で、CPU31は工具マガジン20を旋回角度分、旋回した後、補正角度θ分、旋回して補正を行ったが、予め、旋回角度を補正角度θで補正しておき、S36、S37では、補正後の旋回角度分、工具マガジン20を旋回してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 工作機械
4 工具
9 主軸
10 作業台
20 工具マガジン
31 CPU
34 記憶装置
55 マガジンモータ
56 減速機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7