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<図1>
  • -燃料電池の湿度管理方法および装置 図1
  • -燃料電池の湿度管理方法および装置 図2
  • -燃料電池の湿度管理方法および装置 図3
  • -燃料電池の湿度管理方法および装置 図4
  • -燃料電池の湿度管理方法および装置 図5
  • -燃料電池の湿度管理方法および装置 図6
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  • -燃料電池の湿度管理方法および装置 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】燃料電池の湿度管理方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04119 20160101AFI20250311BHJP
   H01M 8/04492 20160101ALI20250311BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20250311BHJP
   H01M 8/04828 20160101ALI20250311BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20250311BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20250311BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20250311BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20250311BHJP
   H01M 8/04291 20160101ALI20250311BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20250311BHJP
   B60L 58/40 20190101ALI20250311BHJP
【FI】
H01M8/04119
H01M8/04492
H01M8/04537
H01M8/04828
H01M8/0432
H01M8/00 Z
H01M8/04302
H01M8/04858
H01M8/04291
B60L58/30
B60L58/40
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021187481
(22)【出願日】2021-11-18
(65)【公開番号】P2023074538
(43)【公開日】2023-05-30
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】竹井 力
(72)【発明者】
【氏名】水下 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】山浦 潔
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/033790(WO,A1)
【文献】特開2012-084264(JP,A)
【文献】特開2017-224576(JP,A)
【文献】特開2008-305700(JP,A)
【文献】国際公開第2013/038453(WO,A1)
【文献】特開2020-050041(JP,A)
【文献】特開2020-089022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 58/40
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の湿度管理装置であって、
前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する電流値と前記燃料電池の内部湿度とを対応づけた内部湿度マップを予め格納した記憶部と、
前記燃料電池の稼働開始時の負荷に必要な発電出力に対応した制御電圧に対する実測電流を入力し、前記内部湿度マップを参照して前記実測電流に対応する内部湿度を算出する湿度演算部と、
前記算出された内部湿度を用いて前記燃料電池の内部湿度を制御する湿度制御部と、
を備えたことを特徴とする燃料電池の湿度管理装置。
【請求項2】
前記内部湿度マップは、前記燃料電池の作動温度をパラメータとして、前記電流値と、
前記制御電圧および前記電流値から算出された抵抗値に対応する内部湿度と、を対応付けたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の湿度管理装置。
【請求項3】
前記燃料電池がバッテリを充電するためのレンジエクステンダ用燃料電池であり、
前記バッテリの充電状態(SOC)が所定値を下回ったときに前記燃料電池を稼働させる制御部を更に備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池の湿度管理装置。
【請求項4】
燃料電池の湿度管理装置であって、
前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する電流値と前記燃料電池の内部湿度とを対応づけた内部湿度マップを予め格納した記憶部と、
前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する実測電流を入力し、前記内部湿度マップを参照して前記実測電流に対応する内部湿度を算出する湿度演算部と、
前記算出された内部湿度を用いて前記燃料電池の内部湿度を制御する湿度制御部と、
を備え、
前記内部湿度マップにおいて複数の制御電圧を設定し、それぞれの制御電圧が前記燃料電池の発電効率および発電出力に関する異なった発電態様に対応し、
バッテリの充電状態が高いほど高い発電効率に対応する制御電圧に、前記バッテリの充電状態が低いほど高い発電出力に対応する制御電圧に、それぞれ設定される、
ことを特徴とする燃料電池の湿度管理装置。
【請求項5】
前記内部湿度マップは、前記燃料電池の作動温度をパラメータとして、前記電流値と、
前記制御電圧および前記電流値から算出された抵抗値に対応する内部湿度と、を対応付けたことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池の湿度管理装置。
【請求項6】
前記燃料電池がバッテリを充電するためのレンジエクステンダ用燃料電池であり、
前記バッテリの充電状態(SOC)が所定値を下回ったときに前記燃料電池を稼働させる制御部を更に備えたことを特徴とする請求項4または5に記載の燃料電池の湿度管理装置。
【請求項7】
管理ユニットによる燃料電池の湿度管理方法であって、
前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する電流値と前記燃料電池の内部湿度とを対応づけた内部湿度マップが記憶部に予め格納され、
前記管理ユニットが、前記燃料電池の稼働開始時の負荷に必要な発電出力に対応した制御電圧に対する実測電流を入力し、前記内部湿度マップを参照して前記実測電流に対応する内部湿度を算出し、前記算出された内部湿度を用いて前記燃料電池の内部湿度を制御する、
ことを特徴とする燃料電池の湿度管理方法。
【請求項8】
前記内部湿度マップは、前記燃料電池の作動温度をパラメータとして、前記電流値と、
前記制御電圧および前記電流値から算出された抵抗値に対応する内部湿度と、を対応付けたことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池の湿度管理方法。
【請求項9】
前記燃料電池がバッテリを充電するためのレンジエクステンダ用燃料電池であり、
前記管理ユニットが、前記バッテリの充電状態(SOC)が所定値を下回ったときに前記燃料電池を稼働させることを特徴とする請求項7または8に記載の燃料電池の湿度管理方法。
【請求項10】
管理ユニットによる燃料電池の湿度管理方法であって、
前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する電流値と前記燃料電池の内部湿度とを対応づけた内部湿度マップが記憶部に予め格納され、
前記管理ユニットが、前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する実測電流を入力し、前記内部湿度マップを参照して前記実測電流に対応する内部湿度を算出し、前記算出された内部湿度を用いて前記燃料電池の内部湿度を制御し、
前記内部湿度マップにおいて複数の制御電圧を設定し、それぞれの制御電圧が前記燃料電池の発電効率および発電出力に関する異なった発電態様に対応し、
前記管理ユニットが、バッテリの充電状態が高いほど高い発電効率に対応する制御電圧に、前記バッテリの充電状態が低いほど高い発電出力に対応する制御電圧に、それぞれ設定する、
ことを特徴とする燃料電池の湿度管理方法。
【請求項11】
前記内部湿度マップは、前記燃料電池の作動温度をパラメータとして、前記電流値と、
前記制御電圧および前記電流値から算出された抵抗値に対応する内部湿度と、を対応付けたことを特徴とする請求項10に記載の燃料電池の湿度管理方法。
【請求項12】
前記燃料電池がバッテリを充電するためのレンジエクステンダ用燃料電池であり、
前記管理ユニットが、前記バッテリの充電状態(SOC)が所定値を下回ったときに前記燃料電池を稼働させることを特徴とする請求項10または11に記載の燃料電池の湿度管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池の湿度管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家庭用の電源として有望視されている固体高分子形燃料電池では、電解質膜を常時適切な湿度範囲に維持することが必要であり、特に乾燥状態では急激な電圧低下が発生し、発電効率や電池の寿命に影響を与えることが知られている。このような電解質膜の湿度を適切に維持するために種々の湿度管理技術が提案されている。
【0003】
たとえば特許文献1に開示された燃料電池システムでは、燃料電池の入口および出口ガス配管に湿度センサを設け、それらの検出湿度、燃料電池作動温度および発電電流から内部湿度を推定している。また、特許文献2に開示された燃料電池用湿度計測装置では、湿度センサを設けた特殊な基材を各セルの電極と電解質膜との間に挿入することでセル毎の電解質膜の湿度を高精度に計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-058294号公報
【文献】特開2014-225406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1では、入口/出口湿度、作動温度、電流等の複数の測定値から燃料電池の内部湿度を推定しているために、複雑な制御設計が必要となり、さらに直接的に内部湿度を測定していないので精度の向上が困難である。また、特許文献2では、燃料電池の各セル内に湿度センサを設けた基材を挿入するために、構造が複雑化しスタック本体の体積が増大して実用性の観点から難点がある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は燃料電池の構造を複雑化することなく高精度の湿度管理を実現できる燃料電池の湿度管理方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明の一実施の形態によれば、燃料電池の湿度管理装置であって、前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する電流値と前記燃料電池の内部湿度とを対応づけた内部湿度マップを予め格納した記憶部と、前記燃料電池の稼働開始時の負荷に必要な発電出力に対応した制御電圧に対する実測電流を入力し、前記内部湿度マップを参照して前記実測電流に対応する内部湿度を算出する湿度演算部と、前記算出された内部湿度を用いて前記燃料電池の内部湿度を制御する湿度制御部と、を備えたことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記内部湿度マップは、前記燃料電池の作動温度をパラメータとして、前記電流値と、前記制御電圧および前記電流値から算出された抵抗値に対応する内部湿度と、を対応付けたことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記燃料電池がバッテリを充電するためのレンジエクステンダ用燃料電池であり、前記バッテリの充電状態(SOC)が所定値を下回ったときに前記燃料電池を稼働させる制御部を更に備えたことを特徴とする。
前記目的を達成するため本発明の一実施の形態によれば、燃料電池の湿度管理装置であって、前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する電流値と前記燃料電池の内部湿度とを対応づけた内部湿度マップを予め格納した記憶部と、前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する実測電流を入力し、前記内部湿度マップを参照して前記実測電流に対応する内部湿度を算出する湿度演算部と、前記算出された内部湿度を用いて前記燃料電池の内部湿度を制御する湿度制御部と、を備え、前記内部湿度マップにおいて複数の制御電圧を設定し、それぞれの制御電圧が前記燃料電池の発電効率および発電出力に関する異なった発電態様に対応し、バッテリの充電状態が高いほど高い発電効率に対応する制御電圧に、前記バッテリの充電状態が低いほど高い発電出力に対応する制御電圧に、それぞれ設定される、ことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記内部湿度マップは、前記燃料電池の作動温度をパラメータとして、前記電流値と、前記制御電圧および前記電流値から算出された抵抗値に対応する内部湿度と、を対応付けたことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記燃料電池がバッテリを充電するためのレンジエクステンダ用燃料電池であり、前記バッテリの充電状態(SOC)が所定値を下回ったときに前記燃料電池を稼働させる制御部を更に備えたことを特徴とする。
前記目的を達成するため本発明の一実施の形態によれば、管理ユニットによる燃料電池の湿度管理方法であって、前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する電流値と前記燃料電池の内部湿度とを対応づけた内部湿度マップが記憶部に予め格納され、前記管理ユニットが、前記燃料電池の稼働開始時の負荷に必要な発電出力に対応した制御電圧に対する実測電流を入力し、前記内部湿度マップを参照して前記実測電流に対応する内部湿度を算出し、前記算出された内部湿度を用いて前記燃料電池の内部湿度を制御する、ことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記内部湿度マップは、前記燃料電池の作動温度をパラメータとして、前記電流値と、前記制御電圧および前記電流値から算出された抵抗値に対応する内部湿度と、を対応付けたことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記燃料電池がバッテリを充電するためのレンジエクステンダ用燃料電池であり、前記管理ユニットが、前記バッテリの充電状態(SOC)が所定値を下回ったときに前記燃料電池を稼働させることを特徴とする。
前記目的を達成するため本発明の一実施の形態によれば、管理ユニットによる燃料電池の湿度管理方法であって、前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する電流値と前記燃料電池の内部湿度とを対応づけた内部湿度マップが記憶部に予め格納され、前記管理ユニットが、前記燃料電池の稼働開始時の制御電圧に対する実測電流を入力し、前記内部湿度マップを参照して前記実測電流に対応する内部湿度を算出し、前記算出された内部湿度を用いて前記燃料電池の内部湿度を制御し、前記内部湿度マップにおいて複数の制御電圧を設定し、それぞれの制御電圧が前記燃料電池の発電効率および発電出力に関する異なった発電態様に対応し、前記管理ユニットが、バッテリの充電状態が高いほど高い発電効率に対応する制御電圧に、前記バッテリの充電状態が低いほど高い発電出力に対応する制御電圧に、それぞれ設定する、ことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記内部湿度マップは、前記燃料電池の作動温度をパラメータとして、前記電流値と、前記制御電圧および前記電流値から算出された抵抗値に対応する内部湿度と、を対応付けたことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記燃料電池がバッテリを充電するためのレンジエクステンダ用燃料電池であり、前記管理ユニットが、前記バッテリの充電状態(SOC)が所定値を下回ったときに前記燃料電池を稼働させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施の形態によれば、燃料電池の稼働開始時の負荷に必要な発電出力に対応した制御電圧に対する実測電流から内部湿度マップを参照して内部湿度を算出し湿度管理を行うので、燃料電池内部湿度を簡便かつ精度良く管理することができ、燃料電池の構造を複雑化することなく高精度の湿度管理が可能となる。
【0009】
また、稼働開始時の負荷に必要な発電出力に対応した制御電圧に対する実測電流から燃料電池の抵抗を算出できるので、一般的な交流インピーダンス測定による抵抗算出方法のように発電電流の一部を消費する必要がなく水素燃費を向上させることができる。さらに電圧制御を採用することで、低湿度環境における過大な電流制御による転極を回避でき、燃料電池の品質保証を高めることができる。
【0010】
また、燃料電池内部が乾燥状態に晒される可能性が高くなるレンジエクステンダ用燃料電池に適用することで、燃料電池の内部湿度を高感度で高精度に把握することができ、システムの信頼性を向上させることができる。
【0011】
また、バッテリの充電状態に応じて発電効率および発電出力が異なる制御電圧に設定することで、燃料電池をバッテリの充電量に適した発電態様に設定できる。たとえば、バッテリが高い充電状態にあれば高効率発電に設定することでバッテリの材料劣化を抑制することができる。また、低い充電状態にあれば高出力発電に設定することで充電時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による燃料電池の管理装置の概略的構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態による管理装置に用いられる内部湿度マップの一例を示す図である。
図3】本実施形態による管理装置における燃料電池の電流に対する効率および電圧の変化の一例を示すグラフである。
図4】本実施形態による管理装置における燃料電池稼働時のセル電流(A)、電圧(B)および抵抗値(C)の変化の一例を示すグラフである。
図5】本実施形態による管理装置における燃料電池の電流-抵抗特性を示すグラフである。
図6】本実施形態による管理装置の動作を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施例による管理装置を搭載した燃料電池車両の概略的構成を示すブロック図である。
図8図7に示す管理装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に記載する機能および構成ならびに各種数値は本発明の構成および動作を説明するための一例であり、本発明をこれらに限定するものではない。
【0014】
本実施形態の制御対象である燃料電池は複数のセルが積層されたスタック構成を有し、水素ガスおよび空気(酸素)を供給することで発生した電力を負荷へ供給することができる。燃料電池の発電電圧は個々のセル電圧の総和である。以下、1つのセルの開回路状態でのOCV(Open Circuit Voltage)を基準とし、稼働時のセル電圧および電流の変化から相対湿度を算出し湿度制御を行う方法を説明する。
【0015】
図1に例示するように、燃料電池100は複数セルが積層された構成を有し、管理ユニット200に本実施形態による湿度管理装置が含まれる。燃料電池100は管理ユニット200の制御の下で起電力を負荷101へ供給する。ここでは管理ユニット200が燃料電池100を任意の制御電圧Vx(<OCV)で発電するように制御する。本実施形態では、電圧検出器102、電流検出器103および温度検出器104が燃料電池100の出力電圧、出力電流および作動温度をそれぞれ実測する。管理ユニット200は、以下に述べるように、実測された電圧、電流および温度を用いて加湿器105を制御し、燃料電池100の内部湿度を管理する。なお図1では燃料電池100のガス供給/排出系、冷却系などは省略されている。
【0016】
管理ユニット200は湿度演算部201、内部湿度マップ202および湿度制御部203の他に、図示されていないが負荷101等の制御を行う機能も有する。本実施形態による管理ユニット200はCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ上でコンピュータプログラムを実行することにより湿度演算部201および湿度制御部203の機能を実現可能である。ただし内部湿度マップ202は管理ユニット200内の記憶部あるいは外部の記憶部に格納されても良い。なお、図1ではコンピュータプログラムを格納する記憶装置を省略している。
【0017】
湿度演算部201は、電流検出器103から燃料電池100の電流Iを、温度検出器104から燃料電池100の作動温度Tをそれぞれ入力する。湿度演算部201は、後述するように制御電圧Vxとこれらの検出値IおよびTとに基づいて内部湿度マップ202を参照し現在の燃料電池100の湿度RHcを算出する。湿度制御部203は現在の湿度RHcと目標湿度RHtとを入力し、湿度RHcが目標湿度RHtに近づくように加湿器105を制御する。加湿器105は、管理ユニット200の制御に従って、たとえば燃料電池100に供給される空気の湿度を調整することで燃料電池100の湿度を変化させる。
【0018】
図2に例示するように、内部湿度マップ202には、燃料電池100の作動温度Tをパラメータ(T、T・・・T)として、稼働時の検出電流Iおよび制御電圧Vの組合せと抵抗R(Ω)/相対湿度(%RH)との対応が予め設定されている。抵抗RはV/Iにより計算されるが、電気抵抗変化形湿度計と同様の原理で抵抗Rの値により燃料電池の内部湿度を決定することができる。
【0019】
図2の例では制御電圧Vが3段階(0.6V、0.7V,0.8V)に、検出電流Iが4つの電流範囲(10mA未満、50mA未満、100mA未満、100mA以上)にそれぞれ設定されているが、これは一例であり任意の段階に設定可能である。
【0020】
図2の例において、作動温度Tで燃料電池100が高出力発電(ここでは制御電圧V=0.6V)に設定された場合、稼働時の検出電流Iが10mA未満の第1範囲内にあれば抵抗Rおよび相対湿度a(%RH)、Iが10mA以上50mA未満の第2範囲内にあれば抵抗Rおよび相対湿度b(%RH)、Iが50mA以上1000mA未満の第3範囲内にあれば抵抗Rおよび相対湿度c(%RH)、Iが100mA以上の第4範囲内にあれば抵抗Rおよび相対湿度d(%RH)というように抵抗/湿度を決定できる。
【0021】
燃料電池100が高効率発電(ここでは制御電圧V=0.8V)に設定された場合、稼働時の検出電流Iが10mA未満の第1範囲内にあれば抵抗Rおよび相対湿度i(%RH)、Iが10mA以上50mA未満の第2範囲内にあれば抵抗R10および相対湿度j(%RH)・・・というように抵抗/湿度を決定できる。同様に、燃料電池100が通常発電(ここでは制御電圧V=0.7V)に設定された場合も内部湿度マップ202を参照することで稼働時の検出電流Iにより抵抗/湿度を決定できる。
【0022】
図2の例では内部湿度マップ202の制御電圧Vが高効率発電(V=0.8V)、通常発電(V=0.7V)および高出力発電(V=0.6V)の3段階に区分されているが、これは燃料電池セルの効率/出力が電流/電圧によって以下のように変化するからである。
【0023】
図3に例示するように、燃料電池のセル電圧Vは電流Iが増加するに従って低下する(電圧曲線C)。また燃料電池の効率は電流Iに従って効率曲線Cのように変化し、ピーク値を有する。したがって高効率発電が必要であれば、セル電圧Vを効率曲線Cのピーク領域(ここでは制御電圧V=0.8V)に設定し、高出力発電が必要であれば、効率が比較的低下しない領域で電流Iが大きくなるセル電圧V(ここでは制御電圧V=0.6V)に設定し、通常発電でよければ、その間にあるセル電圧V(ここでは制御電圧V=0.7V)に設定する。
【0024】
また図2の内部湿度マップ202における検出電流Iおよび制御電圧Vと、それらから計算される抵抗Rについては以下の通りである。
【0025】
図4(A)および図4(B)に示すように、燃料電池100の各セルは開回路状態で電流I=0、電圧V=OCVである。この状態から時点t0で燃料電池100が稼働し、電流が流れ始めたとする。時点t0直後の電流Iと内部抵抗によるIRドロップによりセル電圧はOCVから制御電圧Vまで低下する。時点t0の稼働開始時にセル電流Iが上昇する電流値がIであり、その時に制御されるセル電圧がVである。上述したように、この電流値Iが内部湿度マップ202のどのレベルにあるかによって抵抗R/相対湿度を決定することができる。
【0026】
図4(C)に示すように、燃料電池セルの抵抗RはV/Iにより計算されるから、時点t0でセル電圧Vが制御電圧Vに設定され、セル電流IがIまで上昇すると、抵抗RはV/Iにより計算される。それに対応する相対湿度は内部湿度マップ202を参照することで決定される。したがって稼働開始時t0で電流Iの上昇速度および上昇幅、すなわち抵抗Rの低下速度および低下幅Δが大きいほど感度が高く高精度の湿度演算が可能となる。燃料電池の特性として、このような応答速度および応答幅が大きいことが望ましい。
【0027】
図4(C)に実線と破線の曲線で示すように、本実施形態で使用される燃料電池100は電極にセラミックス触媒を採用することで、カーボン触媒を採用したものと比べて稼働開始時の抵抗Rの応答速度および低下幅Δを大きくすることができる。カーボン触媒の場合は、生成水が燃料電池材料に含水して抵抗が低下するまで時間を要するために応答速度が遅くなる。これに対してセラミックス触媒を用いた燃料電池では半導体原理を応用しているために応答速度が速くなり、特に相対湿度が低い状態で抵抗の低下速度および低下幅Δが大きくなる。これにより特に乾燥状態において高感度で高精度の湿度演算が可能となる。セラミックス触媒の場合の電流-抵抗特性を図5に示す。
【0028】
図5において、相対湿度が20%RH、50%RH、100%RHと上昇するに従って、それぞれの抵抗低下幅Δ(20%RH)、Δ(50%RH)、Δ(100%RH)は減少する。したがって乾燥状態になるほど抵抗の低下速度および低下幅Δが大きくなり、高感度で高精度の抵抗/湿度の演算が可能となる。
【0029】
管理ユニット200は、上述した内部湿度マップ202を参照しながら燃料電池100を次のように制御する。内部湿度マップ202には図2に例示する対応データが格納されているものとする。
【0030】
図6において、管理ユニット200は燃料電池100を稼働するか否かを判定する(ステップ301)。たとえば負荷101に電力を供給する必要が発生した時に稼働判定が行われる。燃料電池100を稼働しない場合(ステップ301のNO)、以下の処理は実行されない。稼働する場合(ステップ301のYES)、管理ユニット200は負荷101に必要な発電出力に対応した制御電圧Vで燃料電池100を発電させ、その発電直後の電圧降下時に生じた電流Iと温度Tを入力する(ステップ302)。
【0031】
管理ユニット200の湿度演算部201は、稼働直後の制御電圧V、電流Iおよび温度Tを用いて内部湿度マップ202を参照し、現在の燃料電池100の相対湿度RHcを算出する(ステップ303)。上述したように、図2に例示する内部湿度マップ202を用いれば、たとえば検出温度Tで制御電圧V=0.6Vの場合、稼働直後の検出電流Iが10mA未満の第1範囲内にあれば相対湿度a(%RH)、10mA以上50mA未満の第2範囲内にあれば相対湿度b(%RH)・・・というように相対湿度が決定できる。
【0032】
管理ユニット200の湿度制御部203は算出された相対湿度RHcと目標湿度RHtとを入力し、湿度RHcが目標湿度RHtに近づくように加湿器105を制御する(ステップ304)。目標湿度RHtは燃料電池100から負荷101へ供給されるべき目標電力に対応した相対湿度である。管理ユニット200は、燃料電池100の必要出力とそれに適した相対湿度範囲との対応マップを予め保持している。
【0033】
上述したように本実施形態によれば、燃料電池を所定の制御電圧Vで稼働させたとき、その稼働直後の検出電流Iから抵抗Rを算出し、内部湿度マップ202を参照して相対湿度を求めることができる。すなわち燃料電池発電時における電圧制御IRドロップから得られた検出電流から抵抗値および湿度演算することで、燃料電池内部湿度を簡便かつ精度良く管理することができる。したがって燃料電池の構造を複雑化することなく高精度の湿度管理が可能となる。
【0034】
また、稼働直後の検出電流Iから抵抗Rを算出できるので、一般的な交流インピーダンス測定による抵抗算出方法のように発電電流の一部を消費する必要がなく水素燃費を向上させることができる。さらに電圧制御を採用することで、低湿度環境における過大な電流制御による転極を回避でき、燃料電池の品質保証を高めることができる。
【0035】
また、セラミックス触媒は燃料電池内部の湿度が低下するに従って抵抗が増加する固有特性を有し、これによりカーボン触媒に比べて応答性、特に低湿度環境での応答性を高めることができる。本実施形態ではセラミックス触媒を採用した燃料電池100を用い、この固有特性を利用して内部湿度マップ202を設定する。したがって、カーボン触媒を採用したものより精度のよい内部湿度マップを定義することが可能となる。
【0036】
上述した実施形態において、燃料電池100の負荷101は駆動モータのような動力源でもよいし駆動モータに電力を供給するバッテリであってもよい。ただし、本実施形態による湿度管理はバッテリの充電に特化したレンジエクステンダ用燃料電池に適用することが望ましい。なぜならばレンジエクステンダ用燃料電池の場合、ユーザの使用環境によっては燃料電池の稼働頻度が少なくなるため、燃料電池内部が乾燥状態、すなわち低湿度状態に晒される可能性が高くなる。したがって、特にレンジエクステンダ用燃料電池の場合、燃料電池の内部湿度を把握することがシステムの信頼性向上に極めて重要となるからである。またレンジエクステンダ用燃料電池は充電に特化しているため、要求駆動出力に依存せず本実施形態による湿度制御が可能となることも利点である。
【0037】
以下、本発明の一実施例による湿度管理装置を燃料電池自動車のレンジエクステンダ用燃料電池に適用した場合について詳細に説明する。なお、図1と同様の機能を有する部材には同一参照番号を付して説明は簡略化する。
【0038】
図7に例示するように、燃料電池100が搭載された燃料電池自動車では、燃料電池100からの電力をDC-DCコンバータ401を通して駆動用バッテリ402へ供給することができ、駆動用バッテリ402からの電力をDC-DCコンバータ401およびインバータ403を通してモータ404へ供給してモータ404を駆動することができる。
【0039】
本実施例によれば、駆動用バッテリ402を充電する場合、あるいは駆動用バッテリ402からモータ404に供給する電力が不足する場合(モータ404の出力が不足する場合)に燃料電池100が稼働される。上述したように、燃料電池100が稼働すると、必要な発電態様(高出力、通常あるいは高効率)に対応した制御電圧Vで発電し駆動用バッテリ40が充電される。その稼働直後の電流Iと作動温度Tとがそれぞれ電流検出器103および温度検出器104により検出され、これらの検出値を用いて管理ユニット200が上述した湿度管理を行う。
【0040】
水素タンク501は水素(燃料ガス)を供給可能な供給源であり、元弁502および減圧弁503により燃料電池100への水素供給/停止および水素供給量の調整が可能である。空気圧縮機504は燃料電池100へ空気(酸化ガス)を供給可能な供給源であるが、走行時には自然吸気も可能である。空気圧縮機504は、たとえば大気から導入される無加湿の空気を圧縮し、加湿器105を通して燃料電池100へ供給する。既に述べたように、加湿器105による空気の加湿は管理ユニット200により制御される。
【0041】
水素再循環ポンプ505は燃料電池100から排出された水素を再循環させ、ラジエータ506は燃料電池100の放熱に利用される。
【0042】
管理ユニット200は燃料電池自動車のECU(Electronic Control Unit)に実装され、燃料電池100が制御電圧Vで稼働を開始すると、稼働直後の電流Iと作動温度Tとを用いて相対湿度を算出し、算出された現在の湿度が目標湿度となるように加湿器105を制御する。その他、管理ユニット200はモータ404の出力および駆動用バッテリ402の充電状態SOC(State Of Charge)を入力し、上述した湿度制御を実行し、またDC-DCコンバータ401、インバータ403、モータ404、元弁502、減圧弁503、空気圧縮機504、水素再循環ポンプ505およびラジエータ506を制御する。
【0043】
以下、上述した燃料電池自動車のレンジエクステンダ用燃料電池を一例として、本実施例による管理ユニット200の湿度管理方法について詳細に説明する。
【0044】
図8を参照すると、管理ユニット200は、モータ404に要求される駆動力に必要な出力がバッテリ最大出力より大きいか否かを判断し(ステップ601)、要求出力がバッテリ最大出力以下であれば(ステップ601のNO)、駆動用バッテリ402の現在のSOCが所定SOCより大きいか否かを判断する(ステップ602)。現在のSOCが所定SOCより大きい場合(ステップ602のYES)、現在の駆動用バッテリ402で要求出力に十分対応できるために燃料電池100は稼働しない。所定SOCは燃料電池稼働の要否を判断する閾値であり、ここでは一例として所定SOCを90%として説明する。
【0045】
現在のSOCが所定SOC以下(ステップ602のNO)あるいは要求出力がバッテリ最大出力より大きい場合(ステップ601のYES)、管理ユニット200は、要求出力とバッテリ最大出力との差あるいは現在のSOCの値に応じて燃料電池発電出力を制御することができる(ステップ603~606)。たとえば上記所定SOC(ここでは90%)より低い複数の閾値SOCを用意し、これらの閾値SOCと現在のSOCとを比較することで現在のSOCに応じた発電制御を行うことができる。
【0046】
本実施例では、上述した実施形態の内部湿度マップ202の発電態様と整合するように、上記所定SOC(ここでは90%)より低い2つの異なる閾値SOCを用意する。以下、一例として第1の閾値SOCを80%、第2の閾値SOCを30%として説明する。
【0047】
駆動用バッテリ402のSOCが第1の閾値SOC(80%)以上であれば、管理ユニット200は駆動用バッテリ402が高SOC状態であると判定し、駆動用バッテリ402の材料劣化を抑制するために制御電圧V=0.8Vの高効率発電に設定する(ステップ604)。
【0048】
駆動用バッテリ402のSOCが第1の閾値SOC(80%)未満かつ第2の閾値SOC(30%)以上であれば、管理ユニット200は駆動用バッテリ402が標準SOC状態であると判定し、比較的高い効率となる制御電圧V=0.7Vの通常発電に設定する(ステップ605)。
【0049】
駆動用バッテリ402のSOCが第2の閾値SOC(30%)未満であれば、管理ユニット200は駆動用バッテリ402が低SOC状態であると判定し、充電時間を短縮するために制御電圧V=0.6Vの高出力発電に設定する(ステップ606)。
【0050】
以上のように制御電圧Vが設定され発電が開始すると、管理ユニット200は電流検出器103から電流Iの実測値を入力し(ステップ607)、さらに温度検出器104から作動温度Tの実測値を入力する(ステップ608)。管理ユニット200は、制御電圧Vで実測された稼働直後の電流Iおよび作動温度Tを用いて内部湿度マップ202を参照し、上述したように抵抗R/相対湿度RHcを算出する(ステップ609)。
【0051】
続いて管理ユニット200は、燃料電池100の必要出力とそれに対応した相対湿度範囲との対応マップを参照し、算出された現在の相対湿度RHcの対応値が燃料電池発電出力未満か否かを判断する(ステップ610)。燃料電池発電出力未満であれば(ステップ610のYES)、管理ユニット200は加湿器105を制御して相対湿度が目標値RHtとなるように加湿を行う(ステップ611)。現在の相対湿度RHcの対応値が燃料電池発電出力以上であれば(ステップ610のNO)、加湿は実行されない。
【0052】
上述したように本実施例による湿度管理は、燃料電池内部が乾燥状態に晒される可能性が高くなるレンジエクステンダ用燃料電池に適用されるので、燃料電池の内部湿度を高感度で高精度に把握してシステムの信頼性をより向上させることができる。
【0053】
また、本実施例によれば、燃料電池を所定の制御電圧Vで稼働させたとき、その稼働直後の検出電流Iから抵抗Rを算出し、内部湿度マップ202を参照して相対湿度を求めることができる。したがって燃料電池の電圧および電流を実測することで燃料電池の内部抵抗を求めることができ、燃料電池の構造を複雑化することなく高精度の湿度管理が可能となる。
【0054】
さらに燃料電池100にセラミックス触媒を採用することで、カーボン触媒に比べて応答性、特に低湿度環境での応答性を高めることができ、より精度のよい内部湿度マップ202を定義することが可能となる。また電圧制御を採用することで、低湿度環境における過大な電流制御による転極を回避でき燃料電池の品質保証を向上可能である。
【符号の説明】
【0055】
100 燃料電池
101 負荷
102 電圧検出器
103 電流検出器
104 温度検出器
105 加湿器
200 管理ユニット
201 湿度演算部
202 内部湿度マップ
203 湿度制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8