(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/39 20060101AFI20250311BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20250311BHJP
【FI】
G01N21/39
G01N21/3504
(21)【出願番号】P 2021196053
(22)【出願日】2021-12-02
【審査請求日】2024-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】猿谷 敏之
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-192246(JP,A)
【文献】特開平05-079976(JP,A)
【文献】特開2011-117869(JP,A)
【文献】特開2011-117868(JP,A)
【文献】特開2012-233900(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014098(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0170638(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0185035(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変調幅を設定する設定部と、
前記設定部によって設定された波長変調幅を有するとともに変調周波数fで変調された変調光を対象物に照射し、前記対象物を透過した後の前記変調光の1f成分及び2f成分を測定する光源測定系と、
前記光源測定系によって測定された1f成分及び2f成分に基づいて、前記対象物の濃度を算出する算出部と、
を備え、
前記設定部は、与えられた濃度上限値以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅を設定する、
測定装置。
【請求項2】
前記設定部による前記設定は、前記対象物の吸収スペクトルの半値全幅の2.2倍よりも大きい波長変調幅を設定することを含む、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
濃度上限値と、その濃度上限値以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅とを対応付けて記述する対応表を記憶する記憶部をさらに備え、
前記設定部は、前記記憶部に記憶された前記対応表を参照することによって、前記波長変調幅を設定する、
請求項1又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記対応表は、濃度上限値と、その濃度上限値以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する最小の波長変調幅とを対応付けて記述する、
請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
波長変調幅を設定することと、
設定した波長変調幅を有するとともに変調周波数fで変調された変調光を対象物に照射し、前記対象物を透過した後の前記変調光の1f成分及び2f成分を測定することと、
測定した1f成分及び2f成分に基づいて、前記対象物の濃度を算出することと、
を含み、
前記設定することでは、与えられた濃度上限値以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅を設定する、
測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1は、レーザ光を用いたガス濃度測定において得られる信号強度を最大化するために、波長変調幅をガスの吸収スペクトルの半値全幅の2.2倍(変調電流振幅を半値半幅の2.2倍)に設定する手法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波長変調幅を半値全幅の2.2倍に設定するだけでは、ガスの濃度が高い場合にその濃度を適切に測定できないことがある。本発明は、高濃度測定を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一側面に係る測定装置は、波長変調幅を設定する設定部と、設定部によって設定された波長変調幅を有するとともに変調周波数fで変調された変調光を対象物に照射し、対象物を透過した後の変調光の1f成分及び2f成分を測定する光源測定系と、光源測定系によって測定された1f成分及び2f成分に基づいて、対象物の濃度を算出する算出部と、を備え、設定部は、与えられた濃度上限値以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅を設定する。
【0006】
一側面に係る測定方法は、波長変調幅を設定することと、設定した波長変調幅を有するとともに変調周波数fで変調された変調光を対象物に照射し、対象物を透過した後の変調光の1f成分及び2f成分を測定することと、測定した1f成分及び2f成分に基づいて、対象物の濃度を算出することと、を含み、設定することでは、与えられた濃度上限値以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅を設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高濃度測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る測定装置100の概略構成の例を示す図である。
【
図6】測定装置100の製造方法の例を示すフローチャートである。
【
図7】測定装置100を用いた測定方法の例を示すフローチャートである。
【
図8】変形例に係る測定装置100の概略構成の例を示す図である。
【
図9】別の変形例に係る測定装置100の概略構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ実施形態について説明する。同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0010】
図1は、実施形態に係る測定装置100の概略構成の例を示す図である。測定装置100は、波長変調分光法(WMS:Wavelength Modulation Spectroscopy)を用いて、対象物の濃度を測定する。「測定」は、「検出」、「検知」等を含む意味に解されてよい。例示される対象物は、ガスGである。ガス濃度の例は、カラム濃度である。カラム濃度は、ガスGを透過した光路長とガス濃度との積で与えられる値であり、単位はppm・mである。以後、「濃度」は、矛盾の無い範囲において、「カラム濃度」に適宜読み替えられてよい。
【0011】
測定装置100は、設定部1と、光源測定系2と、算出部3と、記憶部4とを含む。記憶部4に記憶される情報として、後述の対応表41が例示される。
【0012】
設定部1は、波長変調幅ΔλLを含むパラメータを設定する。詳細は後述する。
【0013】
光源測定系2は、光源系及び測定系の総称である。光源系は、設定部1によって設定されたパラメータによって特徴づけられる変調光MLを生成し、ガスGに照射する。測定系は、ガスGを透過した後の変調光MLを測定する。
【0014】
光源系の構成要素として、光源測定系2は、FG21、レーザドライバ22、レーザ23及び投光光学系24を含む。FG21、レーザドライバ22及びレーザ23によって生成、出力された変調光MLが、投光光学系24を介してガスGに照射される。
【0015】
FG21は、ファンクションジェネレータであり、設定部1によって設定されたパラメータに応じた入力信号Sinを生成する。レーザドライバ22は、FG21からの入力信号Sinによって制御され、レーザ23を駆動する。この例では、レーザドライバ22は、レーザ23を駆動するための駆動電流Idを生成する。レーザ23は、レーザドライバ22からの駆動電流Idに応じて(すなわち設定されたパラメータに応じて)動作し、変調光MLを出力する。投光光学系24は、レーザ23からの変調光MLを、ガスGに導く。投光光学系14は、例えばレンズ、ミラー等の光学素子を含んで構成される。
【0016】
パラメータについて説明する。パラメータは、レーザ23の動作を規定する。レーザ23が出力する変調光MLは、パラメータによって特徴づけられる。パラメータの例は、変調光MLの中心波長λc、変調周波数f及び波長変調幅ΔλLである。なお、温度、圧力等もパラメータとなり得るが、理解を容易にするためそれらは一定であるものとする。
【0017】
中心波長λcは、レーザ13の駆動電流Idの直流成分の値(DC値)によって与えられる。中心波長λcは、ガスGの吸収波長に設定される。ガスGの吸収スペクトルがローレンツ型であると仮定した場合、例えば吸収スペクトルの中心波長が、中心波長λcとして設定される。
【0018】
変調周波数fは、変調光MLの変調周波数であり、レーザ23の駆動電流Idの交流成分の周波数によって与えられる。変調光MLは、変調周波数fの正弦波(一定の周波数と振幅)で波長変調された光であり、変調周波数fと同じ周波数の成分を含む。この成分の大きさを、「1f成分」と称する。
【0019】
波長変調幅ΔλLは、変調光MLの波長変調幅であり、レーザ23の駆動電流Idの交流成分によって与えられる。とくに説明がある場合を除き、波長変調幅ΔλLは、半値全幅ΔλGによって規格化された値(=ΔλL/ΔλG)で表されるものとする。半値全幅ΔλGは、ガスGの吸収スペクトルの半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)である。
【0020】
投光光学系24からの変調光MLは、ガスGを透過(通過)し、散乱体Sに到達する。ガスGを透過した後の変調光MLを、透過光TLと称し図示する。散乱体Sは、透過光TLを受光光学系25に向けて反射させる。散乱体Sの例は、壁、地面等である。反射鏡が用いられてもよい。散乱体Sで反射した透過光TLは、再びガスGを通過し、後述の受光光学系25に到達する。なお、
図1では、便宜上、透過光TLの散乱体Sでの入射位置及び反射位置が異なるように描かれているが、入射位置及び反射位置は同じであってよい。
【0021】
透過光TLは、変調周波数fの2倍の周波数の成分も含む。この成分の大きさを、「2f成分」と称する。2f成分は、ガスGの濃度に比例する。
【0022】
測定系の構成要素として、光源測定系2は、受光光学系25と、変換部26と、ロックインアンプ27とを含む。受光光学系25を介して取り出された透過光TLが、変換部26によって電気信号に変換される。1f成分及び2f成分が、ロックインアンプ27によって検出され、測定される。
【0023】
受光光学系25は、透過光TLを、変換部26に導く。受光光学系25は、例えばレンズ、ミラー等の光学素子を含んで構成される。
【0024】
変換部26は、透過光TLを、電気信号に変換する。例えば、変換部26はフォトダイオード(PD:Photo Diode)、周辺回路等を含んで構成される。透過光TLは、フォトダイオードによって光電流に変換され、周辺回路によって電圧信号に変換される。この信号を、測定信号Smと称し図示する。
【0025】
ロックインアンプ27は、1f成分及び2f成分を検出する。ロックインアンプ27は、位相敏感検波器であり、FG21からの参照信号Srefと、変換部26からの測定信号Smとに基づいて、1f成分に対応する電気信号及び2f成分に対応する電気信号を出力する。参照信号Srefは、変調周波数fと同じ周波数の正弦波信号である。ロックインアンプ27の動作原理は公知であるので、詳細な説明は省略する。1f成分及び2f成分の両方を検出する単一のロックインアンプが用いられてもよいし、1f成分を検出するロックインアンプ及び2f成分を検出するロックインアンプの2つのロックインアンプが用いられてもよい。
【0026】
算出部3は、ロックインアンプ27によって検出された1f成分及び2f成分に基づいて、ガスGの濃度を算出する。算出部3は、2f成分を1f成分で除算した値2f/1fを算出する。
【0027】
2f成分を1f成分で除算するのは、透過光TLの強度に依存することなくガスGの濃度に比例する値を得るためである。2f成分は、先に述べたようにガスGの濃度に比例するものの、透過光TLの強度に応じて変動もする。透過光TLの強度は、投光光学系24や受光光学系25から散乱体Sまでの距離、散乱体Sの表面の状態等によってさまざまに変化する。1f成分も、2f成分と同様に、透過光TLの強度に応じて変動する。2f成分を1f成分で除算することにより、透過光TLの強度の影響が取り除かれる(キャンセルされる)。
【0028】
算出部3は、ガスGの濃度に比例する値2f/1fに基づいて、ガスGの濃度を算出する。値2f/1fを濃度に変換するためのアルゴリズム、テーブルデータ等が用いられてよい。
【0029】
例えば以上のようにして、ガスGの濃度が測定される。なお、測定装置100の上記の構成は一例に過ぎず、WMSによる濃度測定が可能なあらゆる構成が採用されてよい。
【0030】
波長変調幅ΔλLの設定について述べる。波長変調幅ΔλLを半値全幅ΔλGの2.2倍に設定することで、信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)を最大化できることが知られている。従って、従来は、波長変調幅ΔλL=2.2ΔλGに設定していた。
【0031】
上記のように2f成分を1f成分で除算するという手法は、1f成分の濃度依存性が無いことを前提としている。しかしながら、実際には、ガスGの濃度が高くなると、1f成分が濃度に依存性し始める。ガスGの濃度が高くなるにつれて、1f成分の濃度依存性が顕在化する。これは、ガスGの吸収スペクトルが、完全なローレンツ型ではなく、非対称であることに起因すると考えられる。1f成分の濃度依存性が顕在化するにつれて、2f/1fが濃度に比例しなくなり、ガスGの濃度を適切に測定できなくなる。開示される技術は、適切な波長変調幅ΔλLを設定することにより、その問題に対処する。
【0032】
先に述べたように、波長変調幅ΔλLは、設定部1によって設定される。設定部1による波長変調幅ΔλLの設定は、2.2ΔλGよりも大きい波長変調幅ΔλLを設定することを含む。波長変調幅ΔλLを大きくすることで、この後で説明するように、1f成分の濃度依存性が抑制され、高濃度測定が可能になる。広い濃度測定範囲、すなわち広ダイナミックレンジ(DR:Dynamic Range)が得られる。
図2~
図4を参照して説明する。
【0033】
図2~
図4は、実験結果の例を示す図である。実験に用いたガスは、メタン(CH4)ガスである。濃度が500ppm・m、2500ppm・m、5000ppm・m、12500ppm・m及び25000ppm・mの5種類のガスセルを用いた。中心波長λcは、1653.73nmに設定した。波長変調幅ΔλLは、2.2ΔλG、3.3ΔλG、4.4ΔλG及び6.4ΔλGの4通りに設定した。
【0034】
図2には、1f成分の濃度依存性の例が示される。グラフの横軸は濃度を示し、グラフの縦軸は1f成分を示す。グラフ中のプロットは1f成分の測定値を示し、グラフ線は各プロットを結ぶ。
【0035】
低濃度では、いずれの波長変調幅ΔλLにおいても、グラフ線はほぼフラットであり、1f成分の濃度依存性が抑制される(濃度依存性がほとんど無い)。高濃度では、グラフ線がフラットでなくなる。例えば、波長変調幅ΔλL=2.2ΔλGの場合には、濃度=104ppm・p付近において極小値が現れ、濃度依存性が顕在化する。波長変調幅ΔλL=3.3ΔλGの場合には、もう少し高い濃度に極小値が存在すると考えられる。波長変調幅ΔλLが小さくなる(2.2ΔλGに近づく)につれて、極小値が低濃度側にシフトし、その影響により、1f成分の濃度依存性が顕在化すると考えられる。反対に、波長変調幅ΔλLを大きくすることで、極小値を高濃度側にシフトさせ、1f成分の濃度依存性を抑制できることが分かる。
【0036】
図3には、2f成分の濃度依存性の例が示される。グラフの横軸は濃度を示し、グラフの縦軸は2f成分を示す。グラフ中のプロットは、2f成分の測定値を示し、グラフ線は各プロットを結ぶ。これまでも説明したように、2f成分は濃度に比例し、このことは、いずれの波長変調幅ΔλLについても同様である。
【0037】
図4には、2f/1fの濃度依存性の例が示される。グラフの横軸は濃度を示し、グラフの縦軸は2f/1fを示す。グラフ中のプロットは、2f/1fの算出値を示し、グラフ線は各プロットを結ぶ。1f成分の濃度依存性が抑制されたところでは、2f/1fは、2f成分と同様に、濃度に比例する。1f成分の濃度依存性が顕在化しているところでは、比例関係が失われる。理解されるように、波長変調幅ΔλLが2.2ΔλGに近づくにつれて、比例関係が失われ易くなる。反対に、波長変調幅ΔλLを大きくすることで、比例関係を維持し易くなる。
【0038】
上記の知見に基づけば、波長変調幅ΔλLを2.2ΔλGよりも大きい値に設定することで、波長変調幅ΔλL=2.2ΔλGの場合よりも、高濃度における1f成分の濃度依存性を抑制することができる。1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅ΔλLを選択することで、高濃度測定が可能になる。
【0039】
一方で、波長変調幅ΔλLを2.2ΔλGよりも大きい値に設定すると、SNRが最適値からは外れる。波長変調幅ΔλLが2.2ΔλGから離れるにつれて、SNRが低下する。SNRの観点からは、波長変調幅ΔλLは、なるべく小さい値に設定することが望ましい。
【0040】
本実施形態では、設定部1は、与えられた濃度上限値CULに基づいて、波長変調幅ΔλLを設定する。濃度上限値CULは、測定対象のガスGの濃度の上限値であり、例えばユーザ操作によって設定部1に入力される既知の値である。設定部1は、与えられた濃度上限値CUL以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅ΔλLを設定する。
【0041】
一実施形態において、設定部1は、記憶部4が記憶する対応表41を参照して、波長変調幅ΔλLを設定する。
図5を参照して説明する。
【0042】
図5は、対応表41の例を示す図である。対応表41は、濃度上限値C
ULと、波長変調幅ΔλLとを対応付けて記述する。対応表41中の波長変調幅ΔλLは、その濃度上限値C
UL以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅ΔλLである。対応表41が記述する波長変調幅ΔλLは、1f成分の濃度依存性を抑制可能な最小の波長変調幅ΔλLであってよい。「最小の波長変調幅ΔλL」は、事前実験や実際の測定において設定可能な有限の数の波長変調幅ΔλL(すなわち離散値)のうちの、最小の波長変調幅ΔλLであってよい。
【0043】
図5に示される例では、5000以下の濃度上限値C
ULには、2.2ΔλGの波長変調幅ΔλLが対応付けられる。5001以上9000以下の濃度上限値C
ULには、3.3ΔλGの波長変調幅ΔλLが対応付けられる。9001以上12000以下の濃度上限値C
ULには、4.4ΔλGの波長変調幅ΔλLが対応付けられる。12001~20000以下の濃度上限値C
ULには、6.4ΔλGの波長変調幅ΔλLが対応付けられる。
【0044】
対応表41は、測定対象ごとに準備された複数の対応表41であってもよい。例えば測定対象となり得るさまざまなガスGの吸収スペクトルごとの対応表41が準備され、記憶部4に記憶されてよい。
【0045】
設定部1は、記憶部4に記憶された対応表41を参照することによって、波長変調幅ΔλLを設定する。例えば、与えられた濃度上限値CULが5000以下の場合、設定部1は、波長変調幅ΔλLを2.2ΔλGに設定する。与えられた濃度上限値CULが5001以上9000以下の場合、設定部1は、波長変調幅ΔλLを3.3ΔλGに設定する。与えられた濃度上限値CULが9001以上12000以下の場合、設定部1は、波長変調幅ΔλLを4.4ΔλGに設定する。与えられた濃度上限値CULが12001以上20000以下の場合、設定部1は、波長変調幅ΔλLを6.4ΔλGに設定する。当然のことながら、対応表41が波長変調幅ΔλLを細かく規定するほど、より細かな波長変調幅ΔλLの設定が可能になる。
【0046】
設定部1によって設定された波長変調幅ΔλLを含むパラメータに応じた入力信号Sinが、FG21によって生成される。先に説明したように、パラメータによって特徴づけられた変調光MLがガスGに照射され、透過光TL中の1f成分及び2f成分に基づいて、ガスGの濃度が測定される。波長変調幅ΔλLが1f成分の濃度依存性を抑制するように設定されているので、高濃度であっても、その濃度を適切に測定することができる。
【0047】
最小の波長変調幅ΔλLが設定される場合には、SNRの低下が最小化される。高濃度ガス測定では2f成分も大きくなることも踏まえれば、SNRの低下の影響は限定的である。なお、先に説明した
図3に示されるように、波長変調幅ΔλLを大きくした場合の2f成分の減少量も限定的である。
【0048】
図6は、測定装置100の準備(製造方法)の例を示すフローチャートである。以下では、各工程が測定装置100のユーザによって行われる場合を例に挙げて説明する。
【0049】
ステップS1において、測定対象のガスGの吸収スペクトルが調査される。例えばメタンガスの場合には、メタンガスの吸収スペクトルが調査される。
【0050】
ステップS2において、適切な吸収ピークが選定され、中心波長λcが決定される。例えばメタンガスの場合には、中心波長λc=1653.73nmに決定される。
【0051】
ステップS3において、対応表41が準備され、記憶部4に格納される。先に説明したように、対応表41は、濃度上限値C
ULと、波長変調幅ΔλLとを対応付けて記述する。例えばメタンガスの場合には、先に説明した
図2及び
図4に示されるような実験結果に基づいて、先に説明した
図5に示されるような対応表41が準備され、記憶部4に記憶される。
【0052】
例えば以上のようにして、対応表41が記憶された記憶部4を備える測定装置100が準備される(製造される)。
【0053】
図7は、測定装置を用いた測定方法の例を示すフローチャートである。これまでと重複する内容については、説明を適宜省略する。
【0054】
ステップS11において、濃度上限値CULが決定される。例えば測定装置100のユーザが、濃度上限値CULを決定し、濃度上限値CULを入力する。濃度上限値CULが、測定装置100の設定部1に与えられる。中心波長λcや変調周波数f等の他のパラメータも与えられてよい。
【0055】
ステップS12において、波長変調幅ΔλLが設定される。測定装置100の設定部1は、与えられた濃度上限値CULと、記憶部4に記憶された対応表41とに基づいて、波長変調幅ΔλLを設定する。中心波長λcや変調周波数f等の他のパラメータも設定されてよい。
【0056】
ステップS13において、変調光MLが照射され、1f成分及び2f成分が測定される。測定装置100の光源測定系2は、設定されたパラメータによって特徴づけられた変調光MLを生成し、ガスGに照射する。また、光源測定系2は、ガスGを透過した変調光ML(すなわち透過光TL)の1f成分及び2f成分を測定する。
【0057】
ステップS14において、濃度が算出される。測定装置100の算出部3は、測定された1f成分及び2f成分に基づいて、ガスGの濃度を算出する。
【0058】
例えば以上のようにして、ガスGの濃度が測定される。
【0059】
開示される技術は、上記の実施形態に限定されない。いくつかの変形例について述べる。
【0060】
図8は、変形例に係る測定装置100の概略構成の例を示す図である。この例では、測定装置100の光源測定系2は、FG21及びレーザドライバ22(
図1)に代えて、変調機能付レーザドライバ28を含む。変調機能付レーザドライバ28は、FG21及びレーザドライバ22の機能を兼ね備える。
【0061】
図9は、別の変形例に係る測定装置100の概略構成の例を示す図である。この例では、測定装置100は、オープンパス型の測定装置である。投光光学系24及び受光光学系25は、ガスGを挟んで互いに反対側に配置される。他の構成要素は、投光光学系24及び受光光学系25の配置に合わせて適宜配置される。散乱体S(
図1)が無くてもガスGの濃度を測定することができる。
【0062】
上記実施形態では、ガスGとしてメタンガスを例に挙げて説明した。ただし、ガスGは、メタンガス以外のガスであってもよい。
【0063】
以上で説明した技術は、例えば次のように特定される。開示される技術の1つは、測定装置100である。
図1等を参照して説明したように、測定装置100は、設定部1と、光源測定系2と、算出部3と、を備える。設定部1は、波長変調幅ΔλLを設定する。光源測定系2は、設定部1によって設定された波長変調幅ΔλLを有するとともに変調周波数fで変調された変調光MLを対象物(例えばガスG)に照射し、対象物を透過した後の変調光ML(透過光TL)の1f成分及び2f成分を測定する。算出部3は、光源測定系2によって測定された1f成分及び2f成分に基づいて、対象物の濃度(例えばカラム濃度)を算出する。設定部1は、与えられた濃度上限値C
UL以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅ΔλLを設定する。
【0064】
上記の測定装置100によれば、与えられた濃度上限値CUL以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅ΔλLが設定される。1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅ΔλLを用いることで、対象物の濃度が高濃度であっても、その濃度を適切に測定することができる。
【0065】
図1及び
図5等を参照して説明したように、設定部1による設定は、対象物の吸収スペクトルの半値全幅ΔλGの2.2倍よりも大きい波長変調幅ΔλLを設定することを含んでよい。波長変調幅ΔλL=2.2ΔλGに設定する場合よりも、1f成分の濃度依存性を抑制することができる。その分、高濃度測定が可能になる。
【0066】
図1及び
図5等を参照して説明したように、測定装置100は、濃度上限値C
ULと、その濃度上限値C
UL以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅とを対応付けて記述する対応表41を記憶する記憶部4をさらに備え、設定部1は、記憶部4に記憶された対応表41を参照することによって、波長変調幅ΔλLを設定してよい。例えばこのようにして、与えられた濃度上限値C
UL以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅ΔλLを設定することができる。
【0067】
図5等を参照して説明したように、対応表41は、濃度上限値C
ULと、その濃度上限値C
UL以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する最小の波長変調幅ΔλLとを対応付けて記述してよい。これにより、SNRの低下を最小化することができる。
【0068】
図7等を参照して説明した測定方法も、開示される技術の1つである。測定方法は、波長変調幅ΔλLを設定すること(ステップS12)と、設定した波長変調幅ΔλLを有するとともに変調周波数fで変調された変調光MLを対象物(例えばガスG)に照射し、対象物を透過した後の変調光ML(透過光TL)の1f成分及び2f成分を測定すること(ステップS13)と、測定した1f成分及び2f成分に基づいて、対象物の濃度を算出すること(ステップS14)と、を含み、設定することでは、与えられた濃度上限値C
UL以下の濃度において1f成分の濃度依存性を抑制する波長変調幅ΔλLを設定する(ステップS12)。このような測定方法によっても、これまで説明したように、高濃度測定が可能になる。
【符号の説明】
【0069】
1 設定部
2 光源測定系
21 FG
22 レーザドライバ
23 レーザ
24 投光光学系
25 受光光学系
26 変換部
27 ロックインアンプ
28 変調機能付レーザドライバ
3 算出部
4 記憶部
41 対応表
100 測定装置
G ガス(対象物)
S 散乱体