IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横河電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガス分析システム及びガス分析方法 図1
  • 特許-ガス分析システム及びガス分析方法 図2
  • 特許-ガス分析システム及びガス分析方法 図3
  • 特許-ガス分析システム及びガス分析方法 図4
  • 特許-ガス分析システム及びガス分析方法 図5
  • 特許-ガス分析システム及びガス分析方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ガス分析システム及びガス分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/39 20060101AFI20250311BHJP
   G01N 21/3504 20140101ALI20250311BHJP
【FI】
G01N21/39
G01N21/3504
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021200140
(22)【出願日】2021-12-09
(65)【公開番号】P2023085855
(43)【公開日】2023-06-21
【審査請求日】2024-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄真
(72)【発明者】
【氏名】猿谷 敏之
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-132737(JP,A)
【文献】特開平10-267839(JP,A)
【文献】特開昭60-253953(JP,A)
【文献】特開平06-148072(JP,A)
【文献】特開2013-134239(JP,A)
【文献】特開2007-193034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0223158(US,A1)
【文献】米国特許第06351309(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0085288(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1変調周波数で波長変調されたレーザ光を射出する発光素子と、
前記発光素子から射出されたレーザ光を、第2変調周波数で強度変調する光変調部と、
測定対象ガスを介したレーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力される受光信号に含まれる前記第1変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分と、前記第2変調周波数と同じ周波数を有する成分である第2成分とを検出する検出部と、
前記第1成分及び前記第2成分に基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める演算部と、
を備えるガス分析システム。
【請求項2】
前記第2変調周波数は、前記第1変調周波数の整数倍の周波数に設定されている、請求項1記載のガス分析システム。
【請求項3】
前記検出部は、前記第1変調周波数と同じ周波数を有する第1参照信号を用いて、前記受光信号に含まれる前記第1成分と前記第2成分とを検出するロックインアンプを備える、請求項2記載のガス分析システム。
【請求項4】
前記検出部は、前記第1変調周波数と同じ周波数を有する第1参照信号を用いて、前記受光信号に含まれる前記第1成分を検出する第1ロックインアンプと、
前記第2変調周波数と同じ周波数を有する第2参照信号を用いて、前記受光信号に含まれる前記第2成分を検出する第2ロックインアンプと、
を備える請求項1記載のガス分析システム。
【請求項5】
前記検出部は、前記受光信号に対し、前記第1変調周波数と同じ周波数を有する第1参照信号を用いた同期検波処理、又は、高速フーリエ変換処理を行って前記第1成分及び前記第2成分を検出する信号処理部を備える、請求項1記載のガス分析システム。
【請求項6】
前記演算部は、前記第1成分を前記第2成分で除して得られる値に基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める、請求項1記載のガス分析システム。
【請求項7】
前記光変調部は、前記発光素子から射出されたレーザ光を、供給される電流に応じて増幅する光増幅器と、
前記第2変調周波数で変調した電流を前記光増幅器に供給して前記光増幅器を駆動する駆動部と、
を備える請求項1から請求項6の何れか一項に記載のガス分析システム。
【請求項8】
第1変調周波数で波長変調されたレーザ光を射出する第1ステップと、
前記レーザ光を、第2変調周波数で強度変調する第2ステップと、
測定対象ガスを介した前記レーザ光を受光して受光信号を得る第3ステップと、
前記受光信号に含まれる前記第1変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分と、前記第2変調周波数と同じ周波数を有する成分である第2成分とを検出する第4ステップと、
前記第1成分及び前記第2成分に基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める第5ステップと、
を有するガス分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析システム及びガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象ガスを分析するガス分析システムの1つに、測定対象ガスに照射した光の吸光度に基づいて、測定対象ガスの濃度を測定するものがある。このようなガス分析システムでは、測定精度(感度)を高めるために、波長変調分光法(WMS:Wavelength Modulation Spectroscopy)が用いられることがある。波長変調分光法は、変調周波数fで変調(波長変調)されたレーザ光を測定対象ガスに照射し、測定対象ガスを透過したレーザ光を検出して得られる2倍波成分(2f成分)に基づいて測定対象ガスの濃度を測定する手法である。
【0003】
波長変調分光法では、検出される変調周波数fの成分(1f成分)に対する2f成分の比を求めて受光光量の規格化を行った上で、測定対象ガスの濃度の測定が行われることが多い。これは、測定対象ガス以外の要因によるレーザ光の受光光量の変動の影響を低減するためである。尚、波長変調分光法は、2f検波法と言われることもある。以下の特許文献1には、波長変調分光法を用いてガス濃度の測定を行う従来のガス分析システムの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/014097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、測定対象ガスの吸収スペクトルが理想的なものであれば、その形状は吸収の中心周波数(中心波長)に対して対称になることから、1f成分の振幅は、受光信号の平均パワーにのみ依存し、測定対象ガスの濃度には依存しない。しかしながら、測定対象ガスの吸収スペクトルは、実際には、中心周波数(中心波長)に対して非対称な形状になるため、1f成分の振幅は、測定対象ガスの濃度に依存してしまい、測定対象ガスの濃度の測定精度が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、測定対象ガスの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、高い精度で測定対象ガスの濃度を測定することができるガス分析システム及びガス分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によるガス分析システム(1~3)は、第1変調周波数(fL)で波長変調されたレーザ光を射出する発光素子(13)と、前記発光素子から射出されたレーザ光を、第2変調周波数(fB)で強度変調する光変調部(14、15)と、測定対象ガスを介したレーザ光を受光する受光素子(17)と、前記受光素子から出力される受光信号に含まれる前記第1変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分と、前記第2変調周波数と同じ周波数を有する成分である第2成分とを検出する検出部(19a、19b、23)と、前記第1成分及び前記第2成分に基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める演算部(21)と、を備える。
【0008】
また、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記第2変調周波数が、前記第1変調周波数の整数倍の周波数に設定されている。
【0009】
ここで、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記検出部が、前記第1変調周波数と同じ周波数を有する第1参照信号を用いて、前記受光信号に含まれる前記第1成分と前記第2成分とを検出するロックインアンプ(19a)を備える。
【0010】
或いは、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記検出部が、前記第1変調周波数と同じ周波数を有する第1参照信号を用いて、前記受光信号に含まれる前記第1成分を検出する第1ロックインアンプ(19a)と、前記第2変調周波数と同じ周波数を有する第2参照信号を用いて、前記受光信号に含まれる前記第2成分を検出する第2ロックインアンプ(19b)と、を備える。
【0011】
或いは、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記検出部が、前記受光信号に対し、前記第1変調周波数と同じ周波数を有する第1参照信号を用いた同期検波処理、又は、高速フーリエ変換処理を行って前記第1成分及び前記第2成分を検出する信号処理部(23)を備える。
【0012】
また、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記演算部が、前記第1成分を前記第2成分で除して得られる値に基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める。
【0013】
また、本発明の一態様によるガス分析システムは、前記光変調部が、前記発光素子から射出されたレーザ光を、供給される電流に応じて増幅する光増幅器(15)と、前記第2変調周波数で変調した電流を前記光増幅器に供給して前記光増幅器を駆動する駆動部(14)と、を備える。
【0014】
本発明の一態様によるガス分析方法は、第1変調周波数(fL)で波長変調されたレーザ光を射出する第1ステップ(S11)と、前記レーザ光を、第2変調周波数(fB)で強度変調する第2ステップ(S12)と、測定対象ガスを介した前記レーザ光を受光して受光信号を得る第3ステップ(S13)と、前記受光信号に含まれる前記第1変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分と、前記第2変調周波数と同じ周波数を有する成分である第2成分とを検出する第4ステップ(S14)と、前記第1成分及び前記第2成分に基づいて前記測定対象ガスの濃度を求める第5ステップ(S15)と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定対象ガスの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、高い精度で測定対象ガスの濃度を測定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態によるガス分析システムの要部構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態によるガス分析方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の第2実施形態によるガス分析システムの要部構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第3実施形態によるガス分析システムの要部構成を示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態によって得られる測定結果の濃度依存性のシミュレーション結果を示す図である。
図6】従来法によって得られる測定結果の濃度依存性の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態によるガス分析システム及びガス分析方法について詳細に説明する。以下では、まず本実施形態の概要について説明し、その後に各実施形態の詳細について説明する。
【0018】
〔概要〕
本発明の実施形態は、測定対象ガスの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、高い精度で測定対象ガスの濃度を測定することができるようにするものである。つまり、測定対象ガスを透過したレーザ光を検出して得られる成分のうち、レーザ光の変調周波数fと同じ周波数の成分(1f成分)が、測定対象ガスの濃度に依存する場合であっても、高い精度で測定対象ガスの濃度を測定することができるようにするものである。
【0019】
波長変調分光法において、変調(波長変調)されたレーザ光を測定対象ガスに照射し、測定対象ガスを介したレーザ光を受光素子で受光して得られる受光信号P(t)は以下の(1)式で表される。
【0020】
【数1】
【0021】
上記(1)式において、P0は受光信号の平均パワーである。また、ηLはレーザ光の強度変調度であり、ωLはレーザ光の変調周波数であり、tは時間である。尚、ωLは角周波数[rad/s]である。変調周波数[Hz]をfLとすると、ωL=2πfLなる関係がある。レーザ光の変調(波長変調)は、レーザダイオードに注入する電流を変化させて行っているため、レーザ光は、波長変調のみならず強度変調されることになる。また、α(ν)は周波数νにおける吸光度であり、Cは測定対象ガスのガス濃度であり、Lは光路長(測定対象ガスが存在している部分の光路長)である。
【0022】
ここで、2α(ν)CL≪1,ηL≪1とすると、上記(1)式は、以下の(2)式に変形できる。
【0023】
【数2】
【0024】
いま、測定対象ガスの吸収スペクトル(α(ν))が理想的なローレンツ型であるとすると、上記(2)式は、以下の(3)式で表される。
【0025】
【数3】
【0026】
上記(3)式おいて、α0は吸収のピークの大きさを示す吸収係数である。また、xは、νLmをレーザ光の発振周波数の変調振幅とし、δνを吸収スペクトルの半値全幅とすると、x=νLm/δνで示されるものである。
【0027】
上記(3)式をフーリエ級数展開すると、角周波数ωLの成分(1f成分)の振幅は以下の(4)で表され、角周波数2ωLの成分(2f成分)の振幅は以下の(5)で表される。
【0028】
【数4】
【数5】
【0029】
ここで、上記(5)式中のkは、上述したxを用いて、以下の(6)式で表される。
【0030】
【数6】
【0031】
測定対象ガスの濃度は、上記(5)式で表される角周波数2ωLの成分(2f成分)の振幅を用いて求められる。ここで、角周波数2ωLの成分の振幅が最大になるのは、上記(6)式で表されるkが最大のときである。kは、x=νLm/δν≒2.2のときに最大(k=0.343)となる。つまり、レーザ光の発振周波数の変調振幅νLmが、吸収スペクトルの半値全幅δνのおよそ2.2倍であるときに、角周波数2ωLの成分の振幅が最大になる。
【0032】
ここで、上記の条件(レーザ光の発振周波数の変調振幅νLmが、吸収スペクトルの半値全幅δνのおよそ2.2倍)は、信号対雑音比(SN比:Signal-Noise ratio)が最も良好な状態で、測定対象ガスの濃度の測定を行うことができる条件であるということができる。言い換えると、上記の条件が、測定対象ガスに照射するレーザ光の最適な掃引条件(変調条件)であるということができる。従来のガス分析システムでは、通常、上記の条件が満たされるように、レーザ光の発振周波数の変調振幅νLmが設定されている。
【0033】
以下の(7)式に示す通り、上記(5)式で表される角周波数2ωLの成分(2f成分)の振幅P2と、上記(4)式で表される角周波数ωLの成分(1f成分)の振幅P1との比を求めることで、受光信号の平均パワーP0に依らない濃度の信号を得ることができる。
【0034】
【数7】
【0035】
ここで、測定対象ガスの吸収スペクトルが理想的なもの(例えば、ローレンツ型の吸収スペクトル)であれば、その形状は吸収の中心周波数(中心波長)に対して対称になる。このため、上記(4)式で表される角周波数ωLの成分(1f成分)の振幅P1は、受光信号の平均パワーにのみ依存し、測定対象ガスの濃度には依存しない。しかしながら、測定対象ガスの吸収スペクトルは、実際には、中心周波数(中心波長)に対して非対称な形状になる。すると、上記(4)式で表される角周波数ωLの成分(1f成分)の振幅P1は、測定対象ガスの濃度に依存してしまい、測定対象ガスの濃度の測定精度が悪化する。
【0036】
上記(2)式中のα(ν)について、レーザ光の中心周波数νL0のまわりでフーリエ級数展開すると、以下の(8)式のように整理することができる。
【0037】
【数8】
【0038】
但し、νLは、角周波数ωLで時間変化するレーザ光の波長であり、νL=νL0+νLmsinωLtとした。上記(8)式から、濃度に関する信号は、レーザ光の変調周波数ωLの整数倍で現れることが分かる。上記(7)式中のP1は、角周波数ωLの成分(1f成分)の振幅であるため、上記(8)式右辺第2項からレーザ光の戻り光量と濃度とに依存した信号の和になることが分かる。
【0039】
図6は、従来法によって得られる測定結果の濃度依存性の実験結果を示す図である。図6(a),(b)に示すグラフは横軸に濃度を取り、縦軸に信号強度をとってある。図6(a)は、(P2/P1)の値、及び(P2/P0)の値の濃度依存性を示す図であり、図6(b)は、(P1/P0)の値の濃度依存性を示す図である。
【0040】
図6(a)を参照すると、(P2/P0)の値は、測定対象ガスの濃度にほぼ比例して増加するが、(P2/P1)の値は、測定対象ガスの濃度が高濃度になると、測定対象ガスの濃度に比例しなくなる。また、図6(a)を参照すると、(P1/P0)の値も、測定対象ガスの濃度が高濃度になると、測定対象ガスの濃度に比例しなくなる。
【0041】
本出願の発明者は、以上の通り、測定対象ガスの吸収スペクトルが、中心周波数(中心波長)に対して非対称な形状である場合に、角周波数ωLの成分(1f成分)の振幅が濃度に依存したものになって、測定対象ガスの濃度の測定精度が悪化することを見出した。このような測定精度の悪化を防止するには、レーザ光の戻り光量(受光信号の平均パワーP0)を別の方法で求める必要がある。
【0042】
ここで、レーザ光の戻り光量を求める方法としては、以下の2つの方法が考えられる。
・濃度信号と戻り光量とを時間的に分離して測定する方法
・レーザダイオードの変調条件を変える方法
しかしながら、前者の方法は、環境変化(例えば、降雨)によるレーザ光の時間変化の影響を排除することができないため、結果として測定精度が悪化することが考えられる。また、後者の方法は、前述したレーザ光の最適な掃引条件(変調条件)を変えてしまうことになるから望ましくない。
【0043】
本発明の実施形態は、まず、第1変調周波数で波長変調されたレーザ光を、第2変調周波数で強度変調する。次に、測定対象ガスを介したレーザ光を受光し、受光信号に含まれる第1変調周波数のn倍(nは2以上の整数)の周波数を有する成分である第1成分と、前記第2変調周波数と同じ周波数を有する成分である第2成分とを検出する。そして、第1成分及び第2成分に基づいて測定対象ガスの濃度を求める。第1成分は、測定対象ガスの濃度に依存する成分である一方、第2成分は、測定対象ガスの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、測定対象ガスの濃度には依存しない。これにより、測定対象ガスの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、高い精度で測定対象ガスの濃度を測定することができる。
【0044】
〔第1実施形態〕
〈ガス分析システム〉
図1は、本発明の第1実施形態によるガス分析システムの要部構成を示すブロック図である。図1に示す通り、本実施形態のガス分析システム1は、ガス分析装置10及び信号処理装置20を備えており、波長変調分光法を用いて測定対象ガスGSの濃度を測定する。
【0045】
具体的に、本実施形態のガス分析システム1は、変調周波数fL(第1変調周波数)で変調(波長変調)され、変調周波数fB(第2変調周波数)で強度変調されたレーザ光を測定対象ガスGSに照射する。そして、測定対象ガスGSを介したレーザ光を受光して得られる受光信号に含まれる2倍波成分(2fL成分:第1成分)及び変調周波数fBと同じ周波数の成分(fB成分:第2成分)に基づいて測定対象ガスGSの濃度を測定する。尚、本実施形態において、変調周波数fBは、変調周波数fLの整数倍とは異なる周波数に設定されている。
【0046】
ガス分析装置10は、信号発生器11、レーザ駆動回路12、半導体レーザ13(発光素子)、増幅器駆動回路14(光変調部、駆動部)、光増幅器15(光変調部)、レンズ16a,16b、光検出器17(受光素子)、アンプ18、ロックインアンプ19a(検出部、第1ロックインアンプ)、及びロックインアンプ19b(検出部、第2ロックインアンプ)を備える。このようなガス分析装置10は、測定対象ガスGSに照射するレーザ光の射出、測定対象ガスGSを介したレーザ光の受光、受光信号に含まれる成分(2fL成分、fB成分)の検出等を行う。
【0047】
信号発生器11は、信号処理装置20の制御の下で、レーザ駆動回路12及び増幅器駆動回路14を制御するための制御信号と、ロックインアンプ19a,19bで用いられる参照信号とを出力する。信号発生器11からレーザ駆動回路12に出力される制御信号、及び信号発生器11からロックインアンプ19aに出力される参照信号は、変調周波数fLを有する信号であって、互いに同期している信号である。信号発生器11から増幅器駆動回路14に出力される制御信号、及び信号発生器11からロックインアンプ19bに出力される参照信号は、変調周波数fBを有する信号であって、互いに同期している信号である。この信号発生器11としては、例えば、任意波形発生器やファンクションジェネレータ等を用いることができる。
【0048】
レーザ駆動回路12は、信号発生器11から出力される制御信号に基づいて、半導体レーザ13を駆動するための駆動信号を出力する。レーザ駆動回路12から出力される駆動信号は、例えば、一定の大きさ(振幅)を有する直流電流に対し、変調周波数fLの交流電流が重畳された信号である。尚、変調周波数fLの交流電流は、例えば、正弦波状のものであっても、正弦波状以外のものであっても良い。
【0049】
半導体レーザ13は、レーザ駆動回路12から出力される駆動信号によって駆動され、測定対象ガスGSに照射するレーザ光を射出する。半導体レーザ13から射出されるレーザ光は、例えば、変調の中心波長が測定対象ガスGSの吸収スペクトルの中心波長とされ、波長変調幅(変調周波数fL)が測定対象ガスGSの吸収スペクトルの半値全幅のおよそ2.2倍とされたレーザ光である。尚、半導体レーザ13として、例えば、QCL(Quantum Cascade Laser:量子カスケードレーザ)、又はICL(Interband Cascade Laser:インターバンドカスケードレーザ)を用いることができる。
【0050】
増幅器駆動回路14は、信号発生器11から出力される制御信号に基づいて、光増幅器15を駆動するための駆動信号を出力する。増幅器駆動回路14から出力される駆動信号は、例えば、一定の大きさ(振幅)を有する直流電流に対し、変調周波数fBの交流電流が重畳された信号である。尚、変調周波数fBの交流電流は、例えば、正弦波状のものであっても、正弦波状以外のものであっても良い。
【0051】
光増幅器15は、増幅器駆動回路14から供給される電流に応じて、半導体レーザ13から射出されたレーザ光を増幅する。増幅器駆動回路14から供給される電流は、大きさが一定の周期(変調周波数fBの逆数で得られる周期)で変わる。このため、光増幅器15から射出されるレーザ光は、変調周波数fBで強度変調されたものとなる。この光増幅器15としては、例えば、光ファイバ増幅器(OFA:Optical Fiber Amplifier)又は半導体光増幅器 (SOA: Semiconductor Optical Amplifiers) 等を用いることができる。
【0052】
レンズ16aは、光増幅器15から射出されるレーザ光を、平行光に変換する。このようなレンズ16aとしては、コリメートレンズを用いることができる。尚、光増幅器15から射出されたレーザ光を平行光に変換できるのであれば、レンズ16aに代えて、他の光学素子(例えば、放物面鏡)を用いることもできる。
【0053】
レンズ16aでコリメートされたレーザ光は、測定対象ガスGSに照射される。測定対象ガスGSに照射されたレーザ光のうち、測定対象ガスGSを透過したレーザ光は、壁等の散乱体SMで反射された後に、測定対象ガスGSを再び透過してレンズ16bに入射する。尚、ガス分析装置10と散乱体SMとの間の距離は、任意の距離で良いが、例えば、100[m]程度以下に設定される。
【0054】
レンズ16bは、測定対象ガスGSを介したレーザ光を光検出器17に集光する。このようなレンズ16bとしては、集光レンズを用いることができる。尚、測定対象ガスGSを介したレーザ光を光検出器17に集光できるのであれば、レンズ16bに代えて、他の光学素子(例えば、放物面鏡)を用いることもできる。光検出器17は、レンズ16bで集光されたレーザ光を電気信号に変換し、受光信号として出力する。この光検出器17として、例えば、PD(PhotoDiode)を用いることができる。
【0055】
アンプ18は、光検出器17から出力される受光信号を増幅する。アンプ18の増幅率は、例えば、光検出器17に入射するレーザ光の強度に応じて、適切な増幅率に設定される。光検出器17がPDである場合には、アンプ18として、光検出器17から受光信号として出力される光電流を電圧に変換するIV変換回路を用いることができる。
【0056】
ロックインアンプ19a,19bは、信号発生器11から出力される参照信号を用いて、位相敏感検波(PSD:Phase Sensitive Detection)を行って、アンプ18で増幅された受光信号から特定の周波数成分を検出する。具体的に、ロックインアンプ19aは、信号発生器11から出力される参照信号(第1参照信号)を用いて、アンプ18で増幅された受光信号に含まれる2fL成分(第1成分)を検出する。ロックインアンプ19aは、信号発生器11から出力される参照信号(第2参照信号)を用いて、アンプ18で増幅された受光信号に含まれるfB成分(第2成分)を検出する。
【0057】
信号処理装置20は、演算部21及び出力部22を備えており、ガス分析装置10の動作を制御し、ガス分析装置10の検出結果(ロックインアンプ19a,19bの検出結果等)を用いて測定対象ガスGSの濃度を測定する。信号処理装置20は、例えば、パーソナルコンピュータ等のコンピュータによって実現される。
【0058】
演算部21は、ガス分析装置10の検出結果(ロックインアンプ19a,19bの検出結果)を用いて、測定対象ガスGSの濃度を求める。具体的に、演算部21は、ロックインアンプ19aで検出された2fL成分に対する、ロックインアンプ19bで検出されたfB成分の比に基づいて、測定対象ガスGSの濃度を測定する。ここで、上記の比に基づいて測定対象ガスGSの濃度を測定するのは、測定対象ガス以外の要因によるレーザ光の受光光量の変動の影響を低減するためである。
【0059】
出力部22は、演算部21の演算結果を外部に出力する。例えば、出力部22は、演算部21で測定された測定対象ガスGSの濃度を示す情報を出力する。尚、出力部22は、測定対象ガスGSの濃度を示す情報以外に、2fL成分を示す情報、fB成分を示す情報、その他の各種情報を出力しても良い。出力部22は、これらの情報を示す信号を外部に出力するものであっても良く、これらの情報を表示することで外部に出力するものであっても良い。
【0060】
信号処理装置20に設けられる演算部21及び出力部22は、これらの機能を実現するためのプログラムが、コンピュータに設けられたCPU(中央処理装置)で実行されることによって実現される。つまり、信号処理装置20に設けられる演算部21及び出力部22は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。尚、信号処理装置20は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0061】
ここで、本実施形態のガス分析システム1において、測定対象ガスGSを介したレーザ光を光検出器17で受光して得られる受光信号P(t)は以下の(9)式で表される。
【0062】
【数9】
【0063】
上記(9)式において、ηBは光増幅器15による強度変調度である。また、ωL=2πfLであり、ωB=2πfBである。光増幅器15から射出されるレーザ光に含まれる変調周波数ωBと同じ周波数の成分の信号振幅をPBとすると、信号振幅PBは、以下の(10)式で表される。
【0064】
【数10】
【0065】
上記(10)式から、光増幅器15の駆動電流(増幅器駆動回路14から供給される電流)によって、光増幅器15による強度変調度ηBを変化させることで、信号振幅PBを制御できることが分かる。
【0066】
信号処理装置20の演算部21は、以下の(11)式に示す通り、2fL成分の振幅P2とfB成分の振幅PBとの比を求めることで、受光信号の平均パワーP0に依らない濃度の信号を得ている。
【0067】
【数11】
【0068】
測定対象ガスGSの吸収スペクトルが、中心周波数(中心波長)に対して非対称な形状であっても、fB成分の振幅は、測定対象ガスGSの濃度に依存しない。このため、本実施形態では、測定対象ガスGSの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、高い精度で測定対象ガスGSの濃度を測定することができる。
【0069】
〈ガス分析方法〉
図2は、本発明の第1実施形態によるガス分析方法を示すフローチャートである。図2に示すフローチャートの処理は、例えば、ユーザが、ガス分析システム1に対して、測定開始の指示を行うことにより開始される。尚、図2に示すフローチャートの処理は、予め規定された時間間隔をもって繰り返し行われても良い。
【0070】
測定対象ガスGSの測定が開始されると、まず、信号処理装置20によってガス分析装置10の信号発生器11が制御される。これにより、信号発生器11からレーザ駆動回路12に対し、変調周波数fLを有する制御信号が出力されるとともに、信号発生器11からロックインアンプ19aに対し、変調周波数fLを有する参照信号が出力される。尚、信号発生器11から出力される変調周波数fLを有する制御信号と参照信号とは同期している。
【0071】
また、信号発生器11から増幅器駆動回路14に対し、変調周波数fBを有する制御信号が出力されるとともに、信号発生器11からロックインアンプ19bに対し、変調周波数fBを有する参照信号が出力される。尚、信号発生器11から出力される変調周波数fBを有する制御信号と参照信号とは同期している。
【0072】
信号発生器11からの制御信号がレーザ駆動回路12に入力されると、レーザ駆動回路12からは、半導体レーザ13を駆動するための駆動信号が出力される。また、信号発生器11からの制御信号が増幅器駆動回路14に入力されると、増幅器駆動回路14からは、光増幅器15を駆動するための駆動信号が出力される。
【0073】
レーザ駆動回路12からの駆動信号が半導体レーザ13に供給されると、半導体レーザ13からは変調周波数fLで波長変調されたレーザ光が射出される(ステップS11:第1ステップ)。半導体レーザ13から射出されたレーザ光が、光増幅器15に入射すると、増幅器駆動回路14から光増幅器15に供給される駆動電流によって、レーザ光は、変調周波数fBで強度変調される(ステップS12:第2ステップ)。
【0074】
光増幅器15から射出されたレーザ光(変調周波数fBで強度変調されたレーザ光)は、レンズ16aによって平行光に変換された後、測定対象ガスGSに照射される。測定対象ガスGSに照射されたレーザ光のうち、測定対象ガスGSを透過したレーザ光は、壁等の散乱体SMで反射された後に、測定対象ガスGSを再び透過してレンズ16bに入射する。
【0075】
レーザ光は、レンズ16bによって集光された後に、光検出器17によって電気信号に変換される。光検出器17によって変換された電気信号は、受光信号として光検出器17から出力される(ステップS13:第3ステップ)。光検出器17から出力された受光信号は、アンプ18によって一定の増幅率で増幅された後に、ロックインアンプ19a,19bにそれぞれ入力される。
【0076】
ロックインアンプ19aでは、信号発生器11から出力される参照信号(変調周波数fLを有する参照信号)を用いて、アンプ18で増幅された受光信号に含まれる2fL成分(第1成分)が検出される。ロックインアンプ19bでは、信号発生器11から出力される参照信号(変調周波数fBを有する参照信号)を用いて、アンプ18で増幅された受光信号に含まれるfB成分(第2成分)が検出される(ステップS14:第4ステップ)。
【0077】
ロックインアンプ19aで検出された2fL成分(第1成分)及びロックインアンプ19bで検出されたfB成分(第2成分)は、信号処理装置20に出力される。そして、信号処理装置20の演算部21にて、測定対象ガスGSの濃度が算出される。具体的には、前述した(11)式に示す通り、ロックインアンプ19aで検出された2fL成分(第1成分)の振幅P2と、ロックインアンプ19bで検出されたfB成分(第2成分)の振幅PBとの比を求める演算が行われる。これにより、測定対象ガスGSの濃度が算出される(ステップS15:第5ステップ)。
【0078】
以上の通り、本実施形態では、まず、変調周波数fLで波長変調されたレーザ光を、変調周波数fLで強度変調した後に、測定対象ガスGSに照射する。次に、測定対象ガスGSを介したレーザ光を受光し、受光信号に含まれる2fLの成分とfBの成分とを検出する。そして、2fLの成分及びfBの成分に基づいて測定対象ガスGSの濃度を求めるようにしている。2fLの成分は、測定対象ガスGSの濃度に依存する成分である一方、fBの成分は、測定対象ガスGSの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、測定対象ガスGSの濃度には依存しない。これにより、測定対象ガスGSの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、高い精度で測定対象ガスGSの濃度を測定することができる。
【0079】
また、本実施形態では、濃度信号とレーザ光の戻り光量(受光信号の平均パワーP0)とを同時に測定しているため、環境変化(例えば、降雨)によるレーザ光の時間変化の影響を排除することができる。また、本実施形態では、レーザ光の最適な掃引条件(変調条件)を変えていないことから、信号対雑音比が最も良好な状態で測定対象ガスGSの濃度の測定を行うことができ、これにより広いダイナミックレンジを実現することができる。
【0080】
〔第2実施形態〕
〈ガス分析システム〉
図3は、本発明の第2実施形態によるガス分析システムの要部構成を示すブロック図である。尚、図3においては、図1に示す構成と同じ構成については、同一の符号を付してある。本実形態のガス分析システム2は、図1に示すガス分析システム1のガス分析装置10をガス分析装置10Aに替えた構成である。
【0081】
ガス分析装置10Aは、図1に示すガス分析装置10が備えるロックインアンプ19bを省略し、変調周波数fBを変調周波数fLの整数倍にしたものである。つまり、ガス分析装置10Aでは、信号発生器11から増幅器駆動回路14に出力される制御信号の周波数が、信号発生器11からレーザ駆動回路12に出力される制御信号及び信号発生器11からロックインアンプ19aに出力される参照信号の周波数の整数倍に設定されている。このようなガス分析装置10Aを備えるガス分析システム2は、ロックインアンプ19bを省略することで、コスト低減を図ったものである。
【0082】
本実施形態において、ロックインアンプ19aは、信号発生器11から出力される参照信号(変調周波数fLを有する参照信号)を用いて、アンプ18で増幅された受光信号に含まれる2fL成分(第1成分)とfB成分(第2成分)とを検出する。ここで、変調周波数fBは、変調周波数fLの整数倍に設定されているため、アンプ18で増幅された受光信号に含まれる2fL成分(第1成分)とfB成分(第2成分)とを検出することが可能である。
【0083】
〈ガス分析方法〉
本実施形態のガス分析システム2は、第1実施形態のガス分析システム1とは、ロックインアンプ19bが省略されているだけであり、基本的には、第1実施形態と同様のガス分析方法により、測定対象ガスGSのガス濃度の測定が行われる。このため、ガス分析方法の詳細な説明については省略する。
【0084】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、まず、変調周波数fLで波長変調されたレーザ光を、変調周波数fLで強度変調した後に、測定対象ガスGSに照射する。次に、測定対象ガスGSを介したレーザ光を受光し、受光信号に含まれる2fLの成分とfBの成分とを検出する。そして、2fLの成分及びfBの成分に基づいて測定対象ガスGSの濃度を求めるようにしている。これにより、測定対象ガスGSの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、高い精度で測定対象ガスGSの濃度を測定することができる。
【0085】
また、本実施形態においても、環境変化(例えば、降雨)によるレーザ光の時間変化の影響を排除することができる。加えて、信号対雑音比が最も良好な状態で、測定対象ガスGSの濃度の測定を行うことができ、これにより広いダイナミックレンジを実現することができる。
【0086】
〔第3実施形態〕
〈ガス分析システム〉
図4は、本発明の第3実施形態によるガス分析システムの要部構成を示すブロック図である。尚、図4においては、図1に示す構成と同じ構成については、同一の符号を付してある。本実形態のガス分析システム3は、図1に示すガス分析システム1のガス分析装置10をガス分析装置10Bに替え、信号処理装置20を信号処理装置20Aに替えた構成である。
【0087】
ガス分析装置10Bは、図1に示すガス分析装置10が備えるロックインアンプ19a,19bを省略したものである。尚、変調周波数fBは、第2実施形態と同様に、変調周波数fLの整数倍であっても良く、変調周波数fLの整数倍で無くても良い。信号処理装置20Aは、図1に示す信号処理装置20に、信号処理部23(検出部)を追加した構成である。このようなガス分析装置10B及び信号処理装置20Aを備えるガス分析システム3は、ロックインアンプ19b,19bを省略することで、更なるコスト低減を図ったものである。
【0088】
本実施形態において、ガス分析装置10Bが備える信号発生器11から出力される参照信号(変調周波数fLを有する参照信号)が信号処理装置20Aに入力されている。また、ガス分析装置10Bが備えるアンプ18から出力される信号も、信号処理装置20Aに入力されている。
【0089】
信号処理装置20Aの信号処理部23は、ガス分析装置10Bの信号発生器11から出力される参照信号(変調周波数fLを有する参照信号)を用いた同期検波処理を行って、アンプ18から出力される信号に含まれる2fLの成分とfBの成分とを検出する。尚、信号処理装置20Aの信号処理部23は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)の処理を行って、アンプ18から出力される信号に含まれる2fLの成分とfBの成分とを検出するものであっても良い。
【0090】
ここで、信号処理部23は、信号処理部23の機能を実現するためのプログラムが、コンピュータに設けられたCPUで実行されることによって実現される。つまり、信号処理部23は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。尚、信号処理装置20Aは、FPGA、LSI、ASIC等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0091】
〈ガス分析方法〉
本実施形態のガス分析システム3は、第1実施形態のガス分析システム1とは、ロックインアンプ19a,19bが省略されているだけであり、基本的には、第1実施形態と同様のガス分析方法により、測定対象ガスGSのガス濃度の測定が行われる。このため、ガス分析方法の詳細な説明については省略する。
【0092】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、まず、変調周波数fLで波長変調されたレーザ光を、変調周波数fLで強度変調した後に、測定対象ガスGSに照射する。次に、測定対象ガスGSを介したレーザ光を受光し、受光信号に含まれる2fLの成分とfBの成分とを検出する。そして、2fLの成分及びfBの成分に基づいて測定対象ガスGSの濃度を求めるようにしている。これにより、測定対象ガスGSの吸収スペクトルの形状が非対称であっても、高い精度で測定対象ガスGSの濃度を測定することができる。
【0093】
また、本実施形態においても、環境変化(例えば、降雨)によるレーザ光の時間変化の影響を排除することができる。加えて、信号対雑音比が最も良好な状態で、測定対象ガスGSの濃度の測定を行うことができ、これにより広いダイナミックレンジを実現することができる。
【0094】
〔シミュレーション結果〕
図5は、本発明の実施形態によって得られる測定結果の濃度依存性のシミュレーション結果を示す図である。図5(a)~(c)に示すグラフは横軸に濃度を取り、縦軸に信号強度をとってある。
【0095】
図5(a)は、fL=1.0[kHz]、fB=1.25[kHz]であるときのシミュレーション結果である。つまり、図5(a)に示すシミュレーション結果は、ωB≠mωL(mは整数)を満たすときのものであり、第1実施形態よるガス分析システム1及びガス分析方法の測定結果を模擬したものである。
【0096】
図5(b)は、fL=1.0[kHz]、fB=11[kHz]であるときのシミュレーション結果である。つまり、図5(b)に示すシミュレーション結果は、ωB=mωL(mは整数)を満たすときのもの(m=11のときのもの)であり、第2実施形態よるガス分析システム2及びガス分析方法の測定結果を模擬したものである。
【0097】
図5(c)は、fL=1.0[kHz]、fB=0.5[kHz]であるときのシミュレーション結果である。つまり、図5(c)に示すシミュレーション結果は、ωB=(n/m)ωL(m,nは整数)を満たすときのもの(m=2,n=1のときのもの)である。このシミュレーション結果も、第2実施形態よるガス分析システム2及びガス分析方法の測定結果を模擬したものである。
【0098】
図5(a)~(c)において、実線で示すグラフは、本実施形態によって求められる(P2/PB)の濃度依存性を示すグラフである。つまり、前述した(11)式で表される2fL成分の振幅P2とfB成分の振幅PBとの比の濃度依存性を示すグラフである。これに対し、破線で示すグラフは、従来において求められていた(P2/P1)の濃度依存性を示すグラフである。つまり、前述した(7)式で表される2fL成分の振幅P2とfL成分の振幅P1との比の濃度依存性を示すグラフである。
【0099】
図5(a)~(c)を参照すると、(P2/P1)の値は、測定対象ガスGSの濃度が低濃度であれば、測定対象ガスGSの濃度にほぼ比例して増加する。しかしながら、測定対象ガスGSの濃度が高濃度になると(概ね、6×104[ppm・m]程度を越えると)、(P2/P1)の値は、測定対象ガスGSの濃度が高くなるにつれて減少する。これに対し、(P2/PB)の値は、測定対象ガスGSの濃度が低濃度であっても高濃度であっても、測定対象ガスGSの濃度にほぼ比例して増加している。これにより、本実施形態では、従来に比べて濃度依存性が改善されていることを確認できた。
【0100】
以上、本発明の実施形態によるガス分析システム及びガス分析方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、レーザ光の変調周波数fLの2倍波成分(2fL成分)に基づいて測定対象ガスGSの濃度を測定する場合について説明した。しかしながら、レーザ光の変調周波数fLのn倍波成分(nは3以上の整数)に基づいて測定対象ガスGSの濃度を測定しても良い。
【0101】
また、上記実施形態では、増幅器駆動回路14から光増幅器15に供給される駆動電流によって、レーザ光を強度変調する例について説明した。しかしながら、レーザ光に対する強度変調は、レーザ光に対する波長変調とは独立に制御できれば良く、上記の増幅器駆動回路14から光増幅器15に供給される駆動電流を制御する方法に制限されることはない。例えば、光チョッパーを用いて、レーザ光を物理的に断続的に遮断することでレーザ光の強度変調を行っても良い。
【符号の説明】
【0102】
1~3 ガス分析システム
13 半導体レーザ
14 増幅器駆動回路
15 光増幅器
17 光検出器
19a ロックインアンプ
19b ロックインアンプ
21 演算部
23 信号処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6