(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】モード依存損失測定装置およびモード依存損失測定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 11/02 20060101AFI20250311BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
G01M11/02 J
G01M11/02 N
G02B6/02 481
(21)【出願番号】P 2021502158
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006927
(87)【国際公開番号】W WO2020171187
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019030210
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、総務省、「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発」に関する研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健美
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄揮
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-124228(JP,A)
【文献】特開2014-206517(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152507(WO,A1)
【文献】特開2019-015584(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149910(WO,A1)
【文献】Journal of Lightwave Technology,2018年09月15日,Vol.36 (15) ,pp.3815~3823
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00- G01M 11/02
G01J 1/00- G01J 1/02
G01J 1/42- G01J 1/46
G02B 6/00- G02B 6/02
H04B 3/46- H04B 3/493
H04B 10/07- H04B 10/079
H04B 17/00- H04B 17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、前記複数のコアを包囲する共通クラッドと、を有する結合型マルチコア光ファイバからなる被測定光ファイバのモード依存損失を測定するモード依存損失測定装置であって、
ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、前記複数のコアを包囲するクラッドと、を有する結合型マルチコア光ファイバからなる励振用光ファイバの入力端と光学的に結合された光源であって、前記励振用光ファイバの前記入力端に光を入力させる光源と、
前記被測定光ファイバの出力端と光学的に結合された受光器であって、前記励振用光ファイバの出力端と前記被測定光ファイバの入力端とが互いに光学的に結合された状態で前記励振用光ファイバの前記入力端に前記光源からの前記光が入力されている期間中、前記被測定光ファイバの前記出力端上に位置する複数のコア端面からの出力光のパワーの和を検出する受光器と、
前記励振用光ファイバのモード結合状態を変化させるモード結合状態変化手段と、
前記励振用光ファイバの前記モード結合状態が変化している期間中に前記受光器により検出された光パワーの変動を解析し、前記検出された光パワーの変動から、前記被測定光ファイバの前記モード依存損失を求める解析部と、
を備えるモード依存損失測定装置。
【請求項2】
前記モード結合状態変化手段は、外乱の付与により前記励振用光ファイバの前記モード結合状態を変化させる外乱付与部を含む、
請求項1に記載のモード依存損失測定装置。
【請求項3】
前記モード結合状態変化手段は、前記光源が出力する前記光の波長を変化させる波長変化部を含む、
請求項1に記載のモード依存損失測定装置。
【請求項4】
前記モード結合状態変化手段は、前記励振用光ファイバにおける前記複数のコアを伝搬する光の位相のうちの1つ以上の位相を変化させる位相変調手段を含む、
請求項1に記載のモード依存損失測定装置。
【請求項5】
前記モード結合状態変化手段は、外乱の付与により前記励振用光ファイバの前記モード結合状態を変化させる第1要素、前記光源が出力する前記光の波長を変化させる第2要素、および、前記励振用光ファイバにおける前記複数のコアを伝搬する光の位相うちの1つ以上の位相を変化させる第3要素のうち少なくとも2つの要素を含み、
前記解析部は、前記検出された光パワーの変動を解析するため、前記モード結合状態変化手段に含まれる要素のうち少なくとも1つの要素の動作に起因したモード結合状態の変化と同期した周波数に基づいて、検出された前記光パワーの変動の周波数成分を選択的に抽出する、
請求項1に記載のモード依存損失測定装置。
【請求項6】
励振用光ファイバは、前記被測定光ファイバである前記結合型マルチコア光ファイバの一部からなる、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のモード依存損失測定装置。
【請求項7】
ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、前記複数のコアを包囲する共通クラッドと、を有する結合型マルチコア光ファイバからなる被測定光ファイバのモード依存損失を測定するモード依存損失測定方法であって、
ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、前記複数のコアを包囲する共通クラッドとを有する結合型マルチコア光ファイバからなる励振用光ファイバの入力端と光学的に結合された光源からの光を、前記励振用光ファイバの前記入力端に入力させる光入力工程と、
前記励振用光ファイバの出力端と前記被測定光ファイバの入力端とが互いに光学的に結合された状態で前記励振用光ファイバの前記入力端に前記光源からの前記光が入力されている期間中、前記被測定光ファイバの前記出力端と光学的に結合された受光器により、前記被測定光ファイバの前記出力端上に位置する複数のコア端面からの出力光のパワーの和を検出する光検出工程と、
前記励振用光ファイバのモード結合状態を変化させるモード結合状態変化工程と、
前記励振用光ファイバの前記モード結合状態が変化している期間中に前記受光器により検出された光パワーの変動を解析し、前記検出された光パワーの変動から、前記被測定光ファイバのモード依存損失を求める解析工程と、
を備えるモード依存損失測定方法。
【請求項8】
前記モード結合状態変化工程は、外乱の付与により前記励振用光ファイバの前記モード結合状態を変化させる外乱付与工程を含む、
請求項7に記載のモード依存損失測定方法。
【請求項9】
前記モード結合状態変化工程は、前記光源が出力する前記光の波長を変化させる波長変化工程を含む、
請求項7に記載のモード依存損失測定方法。
【請求項10】
前記モード結合状態変化工程は、前記励振用光ファイバの前記複数のコアを伝搬する光の位相うちの1つ以上の位相を変化させる位相変調工程を含む、
請求項7記載のモード依存損失測定方法。
【請求項11】
前記モード結合状態変化工程は、外乱の付与により前記励振用光ファイバの前記モード結合状態を変化させる第1サブ工程、前記光源が出力する前記光の波長を変化させる第2サブ工程、および、前記励振用光ファイバにおける前記複数のコアを伝搬する光の位相うちの1つ以上の位相を変化させる第3サブ工程のうち少なくとも2つのサブ工程を含み、
前記解析工程は、前記検出された光パワーの変動を解析するため、前記モード結合状態変化工程に含まれるサブ工程のうち少なくとも1つのサブ工程の動作に起因したモード結合状態の変化と同期した周波数に基づいて、前記検出された光パワーの変動の周波数成分を選択的に抽出する、
請求項7に記載のモード依存損失測定方法。
【請求項12】
励振用光ファイバは、前記被測定光ファイバである前記結合型マルチコア光ファイバの一部からなる、
請求項7から請求項11のいずれか一項に記載のモード依存損失測定方法。
【請求項13】
前記被測定光ファイバの長さは、前記励振用光ファイバの長さの10倍以上である、
請求項7から請求項12のいずれか一項に記載のモード依存損失測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モード依存損失測定装置およびモード依存損失測定方法に関するものである。
本願は、2019年2月22日に出願された日本特許出願第2019-030210号による優先権を主張するものであり、その内容に依拠すると共に、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
共通のクラッドにより包囲された複数のコアを有するマルチコア光ファイバ(Multi-core optical fiber:以下、「MCF」と記す)は、情報伝送量の空間密度を高めることができる。そのため、MCFは、地中管路および海底ケーブル等の通信路の限られた断面積を効率よく利用できる伝送媒体として期待されている。MCFの中でも、複数のコアの間で導波モードが結合する結合型マルチコア光ファイバ(Coupled multi-core optical fiber:以下、「CMCF」と記す)は、隣り合う二つのコアの間の距離が短いので、一本の光ファイバ中により多くのコアを有することができる。したがって、CMCFは、情報伝送量の空間密度を更に高めることができ、生産性が高い。
【0003】
CMCFの入力端において複数のコアのうちのいずれか一つのコアに入力された光は、導波する間にモード結合により複数のコアに分散して導波するようになる。そのため、いずれか一つのコアに入力された光は、出力端において複数のコアから出力される。CMCFの出力端において複数のコアそれぞれから出力される光信号をデジタルコヒーレント受信し、この受信された信号に対して多入力多出力(Multi-Input Multi-Output:以下、「MIMO」と記す)処理を行なうことで、元の入射信号に相当する出射信号を復元することができる。
【0004】
しかしながら、MIMO処理の有効性は、CMCFの伝搬モード間の損失差(対数スケールにおける差)であるモード依存損失(Mode-dependent loss:以下、「MDL」と記す)が大きくなるほど低下し、信号の復元が困難となる。したがって、CMCFを用いた伝送路を構築する際には、伝送路を構成するCMCFのMDLを測定し、伝送路全体でのMDLを低く管理することが必要である。
【0005】
特許文献1には、CMCFのMDLを測定する装置および方法が開示されている。この装置および方法では、N個の空間モードを有するCMCFの入力端において第kの空間モードに光が入力され、そのCMCFの出力端において第mの空間モードから出力される光のパワーが測定され、入力光パワーに対する出力光パワーのリニアスケールでの比として透過率T(k,m)が求められる。kおよびmそれぞれを1以上N以下の範囲の各値に設定して透過率T(k,m)を求めることで、透過率T(k,m)を第k行第m列の要素とするN行N列の行列が求められる。そして、この行列が持つN個の固有値または特異値の最大値と最小値との比として、リニアスケールにおけるMDLが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本開示に係るモード依存損失測定装置は、被測定光ファイバのモード依存損失を測定する装置であって、該被測定光ファイバとして、ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、複数のコアを包囲する共通クラッドと、を有するCMCF(結合型マルチコア光ファイバ)が適用される。当該モード依存損失測定装置は、その一態様として、光源と、受光器と、モード結合状態変化手段と、解析部と、を備える。光源は、励振用光ファイバの入力端と光学的に結合され、該励振用光ファイバの入力端に光を入力させる。励振用光ファイバには、ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、複数のコアを包囲するクラッドと、を有するCMCF(結合型マルチコア光ファイバ)が適用される。受光器は、被測定光ファイバの出力端と光学的に結合される。また、受光器は、励振用光ファイバの出力端と被測定光ファイバの入力端とが互いに光学的に結合された状態で該励振用光ファイバの入力端に光源からの光が入力されている期間中、被測定光ファイバの出力端上に位置する複数のコア端面からの出力光のパワーの和を検出する。モード結合状態変化手段は、励振用光ファイバのモード結合状態を変化させる。解析部は、励振用光ファイバのモード結合状態が変化している期間中に受光器により検出された光パワーの変動を解析する。さらに、解析部は、検出された光パワーの変動から得られる、励振用光ファイバの入力端から受光器までの挿入損失(以下、単に「挿入損失」と記す)の変動の大きさに基づいて、被測定光ファイバの前記モード依存損失を求める。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、CMCFの構造の例を示す図である。
【
図2】
図2は、CMCFにおけるモード結合を説明するための図である。
【
図3】
図3は、第一実施形態のモード依存損失測定装置30の構成を、励振用光ファイバおよび被測定光ファイバと合わせて示す図である。
【
図4】
図4は、第一実施形態のモード依存損失測定方法のフローチャートである。
【
図5】
図5は、第二実施形態のモード依存損失測定装置35の構成を、励振用光ファイバおよび被測定光ファイバと合わせて示す図である。
【
図6】
図6は、第三実施形態のモード依存損失測定装置37の構成を、励振用光ファイバおよび被測定光ファイバと合わせて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0010】
(1) 本開示に係るモード依存損失測定装置は、被測定光ファイバのモード依存損失を測定する装置であって、該被測定光ファイバとして、ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、複数のコアを包囲する共通クラッドと、を有するCMCF(結合型マルチコア光ファイバ)が適用される。当該モード依存損失測定装置は、その一態様として、光源と、受光器と、モード結合状態変化手段と、解析部と、を備える。光源は、励振用光ファイバの入力端と光学的に結合され、該励振用光ファイバの入力端に光を入力させる。励振用光ファイバには、ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、複数のコアを包囲するクラッドと、を有するCMCF(結合型マルチコア光ファイバ)が適用される。受光器は、被測定光ファイバの出力端と光学的に結合される。また、受光器は、励振用光ファイバの出力端と被測定光ファイバの入力端とが互いに光学的に結合された状態で該励振用光ファイバの入力端に光源からの光が入力されている期間中、被測定光ファイバの出力端上に位置する複数のコア端面からの出力光のパワーの和を検出する。モード結合状態変化手段は、励振用光ファイバのモード結合状態を変化させる。解析部は、励振用光ファイバのモード結合状態が変化している期間中に受光器により検出された光パワーの変動を解析する。さらに、解析部は、検出された光パワーの変動から、被測定光ファイバの前記モード依存損失を求める。なお、励振用光ファイバおよび被測定光ファイバを構成するCMCFは、それぞれが個別に用意されてもよく、また、被測定光ファイバを構成するCMCFの一部が励振用光ファイバに適用されてもよい。
【0011】
なお、励振用光ファイバの入力端から受光器までの挿入損失の変動値を利用して被測定光ファイバのMDLを測定する場合、被測定光ファイバの長さに対して励振用光ファイバの長さを十分短く設定しておく必要がある。具体的に、励振用光ファイバの長さに対する被測定光ファイバの長さの比は、例えば10以上、好ましくは、100以上であるのが好ましい。本開示において「CMCF(結合型マルチコア光ファイバ)」とは、一端において1つのコアに入射されて他端まで伝搬した光パワーが、他端における2つ以上のコアから出射し、どのコアから出射するパワーも他端から出射する全パワーの67%を超えない光ファイバである。
【0012】
(2) 本開示の一態様として、モード結合状態変化手段は、外乱の付与により励振用光ファイバの前記モード結合状態を変化させる外乱付与部を含んでもよい。本開示の一態様として、モード結合状態変化手段は、光源が出力する光の波長を変化させる波長変化部を含んでもよい。さらに、モード結合状態変化手段は、励振用光ファイバにおける複数のコアを伝搬する光の位相のうちの1つ以上の位相を変化させる位相変調手段を含んでもよい。
【0013】
(3) 本開示の一態様として、モード結合状態変化手段は、第1要素、第2要素、および第3要素のうち少なくとも2つの要素を含んでもよい。なお、第1要素は、外乱の付与により励振用光ファイバのモード結合状態を変化させる外乱付与部に相当する。第2要素は、光源が出力する光の波長を変化させる波長変化部に相当する。第3要素は、励振用光ファイバにおける複数のコアを伝搬する光の位相のうちの1つ以上の位相を変化させる位相変調手段に相当する。このような構成において、解析部は、検出された光パワーの変動を解析するため、モード結合状態変化手段に含まれる要素のうち少なくとも1つの要素の動作に起因したモード結合状態の変化と同期した周波数に基づいて、検出された光パワーの変動の周波数成分を選択的に抽出する。
【0014】
(4) 本開示に係るモード依存損失測定方法は、ファイバ軸に沿って延在する複数のコアと、複数のコアを包囲する共通クラッドと、を有するCMCFからなる被測定光ファイバのモード依存損失を測定する。当該モード依存損失測定方法は、その一態様として、光入力工程と、光検出工程と、モード結合状態変化工程と、解析工程と、を備える。光入力工程では、上述の構造を備えたCMCFからなる励振用光ファイバの入力端と光学的に結合された光源からの光が、該励振用光ファイバの入力端に入力される。光検出工程では、励振用光ファイバの出力端と被測定光ファイバの入力端とが互いに光学的に結合された状態で励振用光ファイバの入力端に光源からの光が入力されている期間中、被測定光ファイバの出力端と光学的に結合された受光器が、被測定光ファイバの出力端上に位置する複数のコア端面からの出力光のパワーの和を検出する。モード結合状態変化工程では、励振用光ファイバのモード結合状態を変化させられる。解析工程では、励振用光ファイバのモード結合状態が変化している期間中に受光器により検出された光パワーの変動が解析される。さらに、検出された光パワーの変動から、被測定光ファイバのモード依存損失が求められる。なお、励振用光ファイバおよび被測定光ファイバを構成するCMCFは、それぞれが個別に用意されてもよく、また、被測定光ファイバを構成するCMCFの一部が励振用光ファイバに適用されてもよい。
【0015】
(5) 本開示の一態様として、モード結合状態変化工程は、外乱の付与により励振用光ファイバのモード結合状態を変化させる外乱付与工程を含んでもよい。本開示の一態様として、モード結合状態変化工程は、光源が出力する光の波長を変化させる波長変化工程を含んでもよい。さらに、本開示の一態様として、モード結合状態変化工程は、励振用光ファイバの複数のコアを伝搬する光の位相うちの1つ以上の位相を変化させる位相変調工程を含んでもよい。
【0016】
(6) 本開示の一態様として、モード結合状態変化工程は、第1サブ工程、第2サブ工程、および第3サブ工程のうち少なくとも2つのサブ工程を含んでもよい。なお、第1サブ工程は、外乱の付与により励振用光ファイバのモード結合状態を変化させる外乱付与工程に相当する。第2サブ工程は、光源が出力する光の波長を変化させる波長変化工程に相当する。第3サブ工程は、励振用光ファイバにおける複数のコアを伝搬する光の位相のうちの1つ以上の位相を変化させる位相変調工程に相当する。このような構成において、解析工程では、検出された光パワーの変動を解析するため、モード結合状態変化工程に含まれるサブ工程のうち少なくとも1つのサブ工程の動作に起因したモード結合状態の変化と同期した周波数に基づいて、検出された光パワーの変動の周波数成分が選択的に抽出される。
【0017】
(7) 本開示の一態様として、被測定光ファイバの長さは、励振用光ファイバの長さの10倍以上であるのが好ましい。また、本開示の一態様として、励振用光ファイバの一端は、分岐器(ファンアウトデバイス)に光学的に結合されてもよい。なお、分岐器は、励振用光ファイバにおける複数のコアを複数の単一コア光ファイバにそれぞれ光学的に結合させるための光学部品である。このような構成によっても、単一コア光ファイバを介して光源と励振用光ファイバが光学的に結合される。
【0018】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0019】
なお、上記特許文献1に開示された装置および方法では、空間モード毎に透過率を測定する必要があることから、モードを分岐するときのMDLが誤差要因となる課題があった。また、空間モード数Nの2乗(N2)に比例して測定数が増大するので、測定装置のコストが高いという課題もあった。本開示によれば、モード分岐に伴うMDLによる誤差を抑制して安価にCMCFのMDLを測定することが可能になる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係るモード依存損失測定装置およびモード依存損失測定方法の具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
図1は、CMCF(結合型マルチコア光ファイバ)の構造の例を示す図である。
図1は、CMCF1の横断面および縦断面を示す。CMCF1は、ファイバ軸(長手方向に沿って延びたCMCF1の中心軸に相当)に沿って延在する複数(
図1では4本)のコア10と、これら複数のコア10を包囲する共通クラッド11とを備える。各コア10の屈折率は、共通クラッド11の屈折率より高い。これにより、CMCF1は光の導波モードを有する。各コア10および共通クラッド11は、典型的にはシリカガラスからなり、Ge、F、Cl、Pなどの添加物が添加されることで屈折率が調整されている。共通クラッド11は、樹脂(不図示)により被覆されることで外傷から保護される。
【0021】
各コア10の導波モードは、隣り合う他のコア10の導波モードとの間で有意に結合する(有意に大きなモード結合が生じさせる)。例えばモード結合係数は、0.1[1/m]以上である。そのような有意に大きなモード結合を実現するため、各コア10は、実質的に同じ組成を有し、実質的に等しい伝搬定数を有していることが好ましい。各コア10は、実質的に等しい伝搬定数を有するために、隣り合う他のコア10との間でスーパーモードを生じない程度に広い間隔で配置されることが好ましい。
図2は、CMCFにおけるモード結合を説明する図である。
図2は、CMCF1の縦断面に加えて、CMCF1の入力端1a(図中、破線で示された領域)における複数のコア10の光パワー分布21、および、CMCF1の出力端1b(図中、破線で示された領域)における複数のコア10の光パワー分布22、を示す。光パワー分布21、22は、光パワーの大小を濃淡により示されている。CMCF1の入力端1aに位置する複数のコア10のうちのいずれか1つのコア10に光が入力されると、そのコア10を導波する光は、伝搬中に生じるモード結合20により他のコア10に結合する。その結果、入力端1aにおける光パワー分布21はいずれか1つのコア10に局在していたのに対して、出力端1bにおける光パワー分布22は複数のコア10に分散することになる。
【0022】
CMCFにおいてモード結合が生じる位置および頻度は、CMCFの構造だけでなく、CMCFの曲がり、CMCFの捻れ、および、CMCFの温度または歪みに起因した屈折率変動に依存する。したがって、CMCFにおいてモード結合が生じる位置および頻度はランダムに変動する。また、或るコアから他のコアへ結合する光パワーの比率もランダムに変動する。CMCFの単位長さ当たりにモード結合が生じる頻度の逆数の期待値は、モード結合長と呼ばれる。典型的なCMCFでは、モード結合長は10m以下である。したがって、100m以上の長さを有するCMCFでは、伝搬中にモード結合が十分に大きな回数累積的に生じることから、モード結合を生じる複数のコアからそれぞれ出力される光のパワーは略等しくなる。
【0023】
モード結合の作用はモード間での光パワーの交換であるから、MDLが無ければ、ランダムにモード結合が生じても光パワーの和は保存される。すなわち、MDLが無ければ、出力端1bにおいて全てのコア10から出力される光のパワーの和は変動しない。しかしながら、MDLがある場合、モード結合の位置または頻度がランダムに変化することにより、出力端1bにおいて全てのコア10から出力される光のパワーの和もランダムに変動する。本発明者らは、モード結合のランダムな変動を十分に生じさせ、そのときのCMCFの損失の変動を測定することでCMCFのMDLを測定できることを見出した。
図3は、第一実施形態のモード依存損失測定装置(MDL測定装置)30の構成を、励振用光ファイバおよび被測定光ファイバと合わせて示す図である。MDL測定装置30は、光源31、受光器32、モード結合状態変化手段としての外乱付与部33、および解析部34を備える。光源31から受光器32へ向けて順に結合用光ファイバ2、励振用光ファイバ3および被測定光ファイバ4が配置されている。結合用光ファイバ2は設けられなくてもよい。
【0024】
光源31は、結合用光ファイバ2の入力端2aと光学的に結合されており、出力光を入力端2aにおいて結合用光ファイバ2のコアに入力させる。結合用光ファイバ2は、単一コアの光ファイバであってよい。
【0025】
励振用光ファイバ3はCMCFである。励振用光ファイバ3の入力端3aは、結合用光ファイバ2の出力端2bと光学的に結合されている。出力端2bにおいて結合用光ファイバ2のコアから出力された光は、入力端3aにおいて励振用光ファイバ3の1または2以上のコアに入力される。
【0026】
被測定光ファイバ4は、MDL測定装置30によりMDLを測定する対象としてのCMCFである。被測定光ファイバ4の入力端4aは、励振用光ファイバ3の出力端3bと光学的に結合されている。出力端3bにおいて励振用光ファイバ3のコアから出力された光は、入力端4aにおいて被測定光ファイバ4のコアに入力される。
【0027】
励振用光ファイバ3および被測定光ファイバ4は、一連長のCMCFの入力端側部分とこの入力端側部分に続く部分であってもよい。励振用光ファイバ3および被測定光ファイバ4は、横断面におけるコアの配置および屈折率プロファイルの点で互いに同一であってもよいし、これらのうちいずれかの点で互いに異なっていてもよい。出力端3bにおいて励振用光ファイバ3のいずれかの1または2以上のコアから出力された光が、入力端4aにおいて被測定光ファイバ4のいずれかの1または2以上のコアへ入力されればよい。
【0028】
受光器32は、被測定光ファイバ4の出力端4bと光学的に結合されており、出力端4b上に位置する、被測定光ファイバ4の全てのコアから出力される光のパワーを検出する。
【0029】
光源31から出力された光は、結合用光ファイバ2を伝搬した後、入力端3aにおいて励振用光ファイバ3のコアに入力される。このとき、結合用光ファイバ2は所定の直径で曲げられた区間を有し、それにより入力端2aで励振された高次モードが減衰されることが望ましい。結果、結合用光ファイバ2の高次モードが励振用光ファイバ3に結合されることに因る挿入損失の不安定性を抑制され得る。
【0030】
結合用光ファイバ2の出力端2bから励振用光ファイバ3の入力端3aへ結合されるときの光パワー分布に対し、励振用光ファイバ3の出力端3bから被測定光ファイバ4の入力端4aへ結合されるときの光パワー分布は、励振用光ファイバ3におけるモード結合に依存して異なったものとなる。また、励振用光ファイバ3の出力端3bから被測定光ファイバ4の入力端4aへ結合されるときの光パワー分布に対し、被測定光ファイバ4の出力端4bから出力されるときの光パワー分布は、被測定光ファイバ4におけるモード結合に依存して異なったものとなる。
【0031】
被測定光ファイバ4の出力端4b上に位置する全てのコア端面から出力される光は受光器32により受光され、この受光器32により、その光パワーの和が検出される。
【0032】
励振用光ファイバ3におけるモード結合状態は外乱により変動する。モード結合状態を変化させるために励振用光ファイバ3に付与される外乱は、温度、歪み、曲がりおよび捻れ等である。この外乱は、自然に付与されるものであってもよいし、外乱付与部33により意図的に付与されるものであってもよい。外乱付与部33は、例えば「ヒーター」や「圧電素子」である。
【0033】
励振用光ファイバ3におけるモード結合状態が変動することにより、励振用光ファイバ3の出力端3bから被測定光ファイバ4の入力端4aへ結合されるときの光パワー分布がランダム変動する。そして、被測定光ファイバ4がMDLを有する場合、受光器32により検出される光パワーもランダムに変動する。
【0034】
解析部34は、一例としてCPUと解析プログラムが記憶されたメモリとを含む。解析部34は、外乱付与により励振用光ファイバ3におけるモード結合状態が変化している期間中に受光器32により検出された光パワーの変動を解析し、その光パワー変動から得られる挿入損失(励振用光ファイバ3の入力端から受光器32までの損失)の変動の大きさに基づいて被測定光ファイバ4のMDLを求める。具体的には次のとおりである。
【0035】
受光器32は、光パワーPを例えば一定時間間隔で繰り返し検出することで、それぞれの検出値P1,P2,・・・,PM(Mは、2以上の整数)を得る。解析部34は、各検出値Pm(mは、1以上M以下の整数)と入力光パワーP0との比をとることで挿入損失Am(=Pm/P0)を求める。さらに、解析部34は、挿入損失A1,A2,・・・,AMのうちの最大値Amaxおよび最小値Amin を特定し、これら最大値と最小値との比(Amax/Amin)を被測定光ファイバ4のMDLとして求める。なお、入力光パワーP0が一定であれば(光源31の出力パワーや結合用光ファイバ2の損失の変動が小さい場合)、解析部34は、検出値P1,P2,・・・,PMのうちの最大値Pmaxおよび最小値Pmin を求め、これら最大値と最小値との比(Pmax/Pmin)を被測定光ファイバ4のMDLとして求めることができる。
【0036】
ここで得られるMDLは、正確には、被測定光ファイバ4のみのMDLでなく、被測定光ファイバ4および励振用光ファイバ3それぞれのMDLの合成である。したがって、被測定光ファイバ4のMDLを得るためには、被測定光ファイバ4の長さL4を励振用光ファイバ3の長さL3より十分大きくすることが必要である。具体的には、L4/L3は、好ましくは10以上であり、より好ましくは100以上である。
【0037】
励振用光ファイバ3では十分なモード結合を生じさせて全ての結合したコアにパワーを分散させることが必要である。そのために、励振用光ファイバ3の長さL3は、励振用光ファイバ3のモード結合長の10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましい。モード結合長は通常は10m以下であることから、励振用光ファイバ3の長さL3は、好ましくは100m以上であり、より好ましくは1km以上である。また、被測定光ファイバ4の長さL4は、好ましくは1km以上であり、より好ましくは100km以上である。
【0038】
励振用光ファイバ3のモード結合長は事前には不明であることが多い。そのような場合には、MDL測定の前または後で、励振用光ファイバ3から出力される光のモード分布をカメラなどで撮影することや、励振用光ファイバのコアそれぞれを選択的に受光器に光学的に結合して検出される光パワーの平均値または平均値とバラツキ幅の比を測定することにより、コアそれぞれから略等しい比率で光パワーが出力されることを確認することが望ましい。このとき、コアそれぞれから出力される光パワーが等しくない場合は、励振用光ファイバ3を長くしたり、励振用光ファイバ3に加える外乱の強さを増したりすることが望ましい。
図4は、第一実施形態のモード依存損失測定方法(MDL測定方法)のフローチャートである。
【0039】
ステップS1では、被測定光ファイバに加えて励振用光ファイバおよび結合用光ファイバが準備され、これらが接続される。結合用光ファイバは接続されなくてもよい。励振用光ファイバを被測定光ファイバに接続してもよく、被測定光ファイバの入力端側部分が励振用光ファイバとして利用されてもよい。
【0040】
ステップS2では、光源から出力された所定波長および所定パワーを有する光が、結合用光ファイバを介して励振用光ファイバに入力される。励振用光ファイバ内を伝搬した後に出力された光は、被測定光ファイバに結合される。すなわち、励振用光ファイバからの出力光は、被測定光ファイバ内を伝搬した後に出力端から出力される。このとき、励振用光ファイバに対して外乱が付与される。
【0041】
ステップS3では、被測定光ファイバから出力される光のパワーの和Pmが受光器により測定される。ステップS4では、入力光パワーP0と出力光パワーPmとから挿入損失Amが求められる。挿入損失は、時間関数として求められ、ステップS5では、測定開始時点から当該時点までの挿入損失Amの変動の系列の最大値Amaxおよび最小値Amin から比(Amax/Amin)を求めることにより、MDLが得られる。
【0042】
ステップS6では、当該時点までのMDL計算値の系列から、MDL計算値の収束が判定される。多くの場合、有効数字3桁の精度で収束すれば十分である。収束が未だ実現していない場合には、ステップS7で光の波長または励振用光ファイバへの外乱を変化させ、ステップS3以降が繰り返される。収束が実現した場合にはMDLの測定値が確定する。光の波長および励振用光ファイバのパワー分布は閉じた集合であるので、有限の時間内で収束に到達することが可能である。
【0043】
図5は、第二実施形態のモード依存損失測定装置(MDL測定装置)35の構成を、励振用光ファイバおよび被測定光ファイバと合わせて示す図である。MDL測定装置35は、光源31、受光器32、モード結合状態変化手段としての波長変化部36、および解析部34を備える。光源31から受光器32へ向けて順に結合用光ファイバ2、励振用光ファイバ3および被測定光ファイバ4が配置されている。光源31、受光器32、解析部34の機能および動作は、第一実施形態と同じである。
【0044】
励振用光ファイバ3のモード結合状態は伝搬する光の波長により変動する。
図4のステップS2でモード結合状態を変化させるために、波長変化部36により光源31の駆動条件を変えすることで、光源31から出力される光の波長は変化し得る。
【0045】
第一実施形態および第二実施形態では、空間モード毎に透過率を測定する必要はないので、モードを分岐するときのMDLが誤差要因となる問題を解消することができる。また、測定装置の構成が簡易である。したがって、モード分岐に伴うMDLによる誤差を抑制して安価にCMCFのMDLを測定することができる。
【0046】
図6は、第三実施形態のモード依存損失測定装置(MDL測定装置)37の構成を、励振用光ファイバおよび被測定光ファイバと合わせて示す図である。MDL測定装置37は、光源31、受光器32、モード結合状態変化手段としての光位相変化部39a、39b(位相変調手段)、および解析部34を備える。光源31から受光器32へ向けて順に光分岐器38、光位相変化部39a、39b、マルチコアファンアウト器40、励振用光ファイバ3および被測定光ファイバ4が配置されている。光源31、受光器32、解析部34の機能および動作は、第一実施形態と同じである。
【0047】
光源31から出力された光は、光分岐器38により2つ以上の複数の光路に分岐された後、2つの光位相変化部39a、39bにおいて光位相が変化され、その後マルチコアファンアウト器40により複数の光路が励振用光ファイバ3の複数のコアに各々結合される。 励振用光ファイバ3におけるモード結合状態はその複数のコアを伝搬する光の位相差により変動する。したがって、光位相変化部39aおよび39bで2つの光の位相を変えることが、
図4のステップS2でモード結合状態を変化させることに相当する(位相変調工程)。
【0048】
光位相変化部39a、39bでは、所定の周波数の周期的な位相変化を与え、受光器32では、前記の所定の周波数で変化する光パワーを検出することが好ましい。また、2つの光位相変化部39aと39bで、所定の異なる周波数の周期的な位相変化を与え、受光器32で、前記の2つの所定の周波数の差の周波数で変化する光パワーを検出することがさらに好ましい。これらの周波数選択的な検出により、例えば光源のパワー変動などのモード依存損失以外の原因による光パワー変化による誤差や、位相変化部で寄生的に発生する光パワー変化による誤差と、モード依存損失に起因する光パワー変化を周波数で区別し、誤差を抑制することができる。
【0049】
第一、第二、および第三の実施形態はモード結合状態変化手段が異なるが、モード結合状態変化手段は、これら実施形態のモード結合状態変化手段のうちから複数を組み合わせて用いられてもよい。またその際、上述のように所定の周波数で少なくとも1つのモード結合状態を周期的に変化させ、その所定の周波数、または2つの所定の周波数の差の周波数で変化する光パワーを検出してもよく、それにより誤差を抑制することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…CMCF(結合型マルチコア光ファイバ)、2…結合用光ファイバ、3…励振用光ファイバ、4…被測定光ファイバ、10…コア、11…共通クラッド、30、35、37…モード依存損失測定装置(MDL測定装置)、31…光源、32…受光器、33…外乱付与部、34…解析部、36…波長変化部、38…光分岐器、39a、39b…光位相変化部、40…マルチコアファンアウト器。