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  • 特許-ポリアミド46マルチフィラメント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ポリアミド46マルチフィラメント
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
D01F6/60 351A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021518977
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009132
(87)【国際公開番号】W WO2021182429
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2020043988
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上條 太治
(72)【発明者】
【氏名】重野 久雄
(72)【発明者】
【氏名】南井 一志
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-076914(JP,A)
【文献】特開2009-243030(JP,A)
【文献】特開2010-100988(JP,A)
【文献】特開昭59-088942(JP,A)
【文献】特開平02-210018(JP,A)
【文献】特公昭50-007169(JP,B1)
【文献】特開2014-037642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00- 6/96,
9/00- 9/04
D01D 1/00-13/02
D02J 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全質量から添加剤を除いた質量のうち98質量%以上がポリアミド46樹脂からなり、総繊度が300~2300dtex、強度7.0~9.0cN/dtex、伸度18~30%、120℃における熱収縮率が0.5~2.0%、120℃で24時間熱処理した後、室温環境下で10回引張を行った後の伸び率(E‘10)が2.5%未満、該熱処理繊維を室温環境下にて1回引張を行った後の伸び率(E‘1)と10回引張を行った後の伸び率(E‘10)の差(E‘10-E‘1)が0.60%未満であることを特徴とするポリアミド46マルチフィラメント。
【請求項2】
室温環境下にて1回引張を行った後の伸び率(E1)と室温環境下にて10回引張を行った後の伸び率(E10)の差(E10-E1)が0.70%未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド46マルチフィラメント。
【請求項3】
硫酸相対粘度が3.0~5.0であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド46マルチフィラメント。
【請求項4】
ポリアミド46の溶融を真空下で行って溶融紡糸し、紡糸された未延伸糸を多段延伸して製造されるポリアミド46マルチフィラメントの製造方法であって、該多段延伸は少なくとも1段目の延伸および最終延伸からなり、該最終延伸では延伸倍率が1.00~1.10で、異なる温度設定のローラー間で延伸することを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド46マルチフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド46マルチフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリアミドを用いて製造したマルチフィラメントは他素材からなるマルチフィラメントと比べ、高強度かつ高伸度といった優れた特性を具備している高強度ポリアミドマルチフィラメントである。
【0003】
高強度ポリアミドマルチフィラメントの用途の一つとして、産業用のベルトコードが挙げられる。特にポリアミド66はポリアミドの中でも高融点、高強度でありながら、安価であるためにベルトコード用として多用されている。そのポリアミド66に対し、ポリアミド46はさらに高融点であり高い耐熱性を具備していることから熱寸法安定性に優れるため、ベルトコードに適した素材であり、紡糸、延伸条件を改善することで強度を向上させる技術(特許文献1)が開示されている。もしくは熱寸法安定性を高める技術(特許文献2、3)も開示され、ベルトコードとしてのポリアミド46の特性をさらに高度なものとする発明はこれまでに存在する。しかし、これまでにポリアミド46マルチフィラメントにおいて強度や熱寸法安定性を高める技術は幾らか報告されているが、ストレッチ性を向上させる技術についてはほとんど開示されておらず、さらには熱寸法安定性を有しながらもストレッチ性を向上させる、すなわち熱寸法安定性とストレッチ性を両立する技術についてはこれまでに全く開示がされていない。
【0004】
ストレッチ性はベルトコードの他に、例えば縫い糸についても有用な特性であり、特に高温下でのストレッチ性を発揮できれば、各用途での適用範囲が拡大される。ポリアミドマルチフィラメントにストレッチ性を付与する手法として、例えば、鞘糸に半延伸糸のポリアミドマルチフィラメントを使用し、芯糸のポリアミドマルチフィラメントとタスラン加工する方法が開示されている(特許文献4)。しかしながら、このような従来のストレッチ性発現技術では、強度を損なう原糸設計となってしまい、高強度が必要とされる産業用途への適用が困難である。
【0005】
すなわち、従来の技術では、高強度、高い熱寸法安定性および優れたストレッチ性をすべて備えたポリアミド46マルチフィラメントは提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59-88910号公報
【文献】特開昭59-76914号公報
【文献】特開平1-168914号公報
【文献】特開2002-249943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の問題点を解決しようとするものであり、高強度、高い熱寸法安定性および優れたストレッチ性をすべて備えたポリアミド46マルチフィラメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のポリアミドモノフィラメントは以下の構成を有する。
【0009】
すなわち、強度6.0~9.0cN/dtex、伸度15~30%、120℃で24時間熱処理した後、室温環境下で10回引張を行った後の伸び率(E‘10)が2.5%未満、該熱処理繊維を室温環境下にて1回引張を行った後の伸び率(E‘1)と10回引張を行った後の伸び率(E’10)の差(E‘10-E’1)が0.60%未満であることを特徴とするポリアミド46マルチフィラメントである。
【0010】
なお、室温環境下にて1回引張を行った後の伸び率(E1)と室温環境下にて10回引張を行った後の伸び率(E10)の差(E10-E1)が0.70%未満であること、120℃における熱収縮率が0.5~2.0%、硫酸相対粘度が3.0~5.0、総繊度が300dtex~2300dtexであることがいずれも好ましい条件である。
【0011】
また、本発明のポリアミド46マルチフィラメントは、ポリアミド46を溶融紡糸し、紡糸された未延伸糸を多段延伸し、多段延伸は少なくとも1段目の延伸および最終延伸からなり、該最終延伸では延伸倍率が1.00~1.10で延伸することにより製造される。さらには、ポリアミド46マルチフィラメントは溶融紡糸する際に、溶融が真空下で行われることにより製造される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、以下に説明する通り、高強度であり、高い熱寸法安定性と優れたストレッチ性を共に有しているポリアミド46マルチフィラメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のポリアミド46マルチフィラメントの製造工程(溶融工程は省略)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明のポリアミド46マルチフィラメントついて説明する。
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明のポリアミド46マルチフィラメントはポリアミド樹脂からなる。ポリアミド樹脂としては主成分がポリアミド46であるポリアミド樹脂が好ましい。なかでも、全質量から後述する添加剤を除いた質量の内、98質量%以上がポリアミド46からなるポリアミド樹脂を用いることがより好ましく、さらに好ましくはポリアミド46のみで構成されていることである。ポリアミド46と他のポリアミドを共重合して使用することも可能であり、共重合に使用するポリアミドにはポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612を用いることができる。また、ポリアミド46と他のポリアミドとの混合物であってもよい。融点の高いポリアミド46を主成分として使用することで、耐熱性の高いマルチフィラメントを製造できる。
【0016】
ポリアミド樹脂には、従来知られた無機及び有機銅塩や銅金属単体などの銅化合物、アミン化合物、メルカプト化合物、リン系化合物、ヒンダードフェノール化合物等の耐熱剤を250~7000ppm、好ましくは500~5000ppm添加することが好ましい。これらは単体でも、複数の併用であってもかまわない。これら耐熱剤が250ppm未満ではポリマの熱劣化の抑制が限定的となり、高温下でフィラメントの強伸度が低下してしまう。一方、7000ppmを超える耐熱剤を加えると繊維としての強伸度を損なってしまう傾向にある。
【0017】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントの原料となるポリアミド46の硫酸相対粘度は、3.0~5.0が好ましく、より好ましくは3.5~5.0である。上記範囲を超える硫酸相対粘度であれば曵糸性の悪化に寄与し、延伸時の糸切れ及び毛羽発生を多発させてしまう傾向にある。また、3.5未満の硫酸相対粘度であれば、ポリアミドの分子鎖が短いため、前記用途に必要なストレッチ性並びに熱寸法安定性が発現できない。硫酸相対粘度は、実施例の欄に記載された方法で測定した値をいう。
【0018】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントは、繊度が300~2300dtexであることが好ましく、より好ましくは400~1700dtexである。繊度が200dtex未満では、繊度が細過ぎるため溶融紡糸後のマルチフィラメントの熱延伸の際に毛羽が発生する可能性が高くなる。また、繊度が2300dtexを超える場合には、例えば縫い糸としての使用が難しくなるばかりか、紡糸時の均一冷却性が悪化することにより原糸品質が低下してしまい、ベルト強力、耐久性が低下してしまう場合がある。
【0019】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントの単繊維の本数は30~350本であることが好ましく、さらに好ましくは50~250本である。この本数範囲より本数が少ないと単繊維繊度が太くなり、溶融紡糸時の冷却効率が低くなってしまうとともに、マルチフィラメントの柔軟性が失われてしまう傾向にある。また、該本数範囲より本数が多いことで単繊維繊度が細くなり、毛羽が生成し易い状況となる傾向にある。
【0020】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントの強度は、6.0~9.0cN/dtexであることが必須であり、より好ましくは7.0~9.0cN/dtexである。この強度範囲は数多くの製品に使用するにあたってポリアミドマルチフィラメントに要求される特性でもあり、熱寸法安定性とストレッチ性を両立したポリアミド46マルチフィラメントを得るために必須な範囲であることを究明したものである。なお、強度は実施例の欄に記載した方法で測定した値をいう。
【0021】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントの伸度(破断伸度)は、15~30%であることが必須であり、より好ましくは18~30%である。かかる範囲であればベルトに負荷がかかる際に伸縮によって衝撃を吸収可能となり、ベルトとしての耐久性を維持することができる。なお、伸度は実施例の欄に記載した方法で測定した値をいう。
【0022】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントの単繊維の断面形状は特に限定されるものではない。丸形断面をはじめとし、偏平、多角、Y型、X型等の異形、中空等、多様な形状の断面を採用することができる。複数の断面形状の混繊であってもかまわない。
【0023】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントは、室温環境下にて1回引張を行った後の伸び率(E1)と室温環境下にて10回引張を行った後の伸び率(E10)との差(E10-E1)が0.70%未満であることが好ましい。より好ましくは0.60%未満である。この範囲を越えてしまうとベルトコードとして使用するにはヒステリシスロスが大きくなり、使用時間が長くなるたびにベルトの張力が低下するため、中長期の使用に適さない製品となってしまう場合がある。繰り返し引張試験並びに伸び率の算出方法は実施例の欄にて記載する。
【0024】
120℃で24時間処理した後の繊維を室温環境下で10回引張を行った後の伸び率(E‘10)が2.5%未満であることが必須であり、より好ましくは2.0%未満である。さらに、該熱処理繊維を室温環境下にて1回引張を行った後の伸び率(E‘1)と10回引張を行った後の伸び率(E‘10)との差(E‘10-E‘1)が0.60%未満であることが必須であり、より好ましくは0.50%未満である。ベルトの使用時はかかる負荷や摩擦、使用環境によってベルトひいてはコードの温度が高温となる。よってこれらの伸び率の差が高く超えてしまうと、室温から高温の温度範囲において使用経過に伴うベルトの張力低下が発生してしまう。120℃での24時間処理、繰り返し引張試験並びに伸び率の算出方法は実施例の欄にて記載する。
【0025】
また、本発明のポリアミド46マルチフィラメントの120℃における熱収縮率は0.5~2.0%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5~1.7%である。この熱収縮率を下回ると、ベルト駆動時の摩擦による温度上昇に対して張力が発生しないため、マルチフィラメントがストレッチ性を失ってしまう場合がある。また、該熱収縮範囲を越えると熱寸法安定性を損なってしまう場合がある。
【0026】
以下に、本発明のポリアミド46マルチフィラメントの製造方法の一態様について説明する。
【0027】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントは溶融紡糸によって製造することが好ましく、上記のとおり、溶融紡糸に用いるナイロン46樹脂の硫酸相対粘度は3.0~5.0が好ましく、より好ましくは3.5~5.0である。かかる範囲であれば、高強度のナイロン46マルチフィラメントを曵糸性が良好な状態で安定して得ることができる。
【0028】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントの製造方法の一態様の概略を図1に示す(溶融工程は図示省略している)。
【0029】
上記のポリアミド46樹脂をエクストルーダー型紡糸機で溶融・混錬し紡出するが、溶融は真空環境下で行われることが好ましい。真空環境下としては、エクストルーダーの樹脂供給口における圧力は5kPa未満であることが好ましく、さらに好ましくは3kPa未満である。ポリアミド46は溶融時に増粘し、高分子量体を生成する他の脂肪族ポリアミドと異なり、溶融時に分解し低分子量体を生成する性質を有している。分解機構は熱分解と酸化分解、加水分解に大別でき、真空下で溶融することで水や空気中の酸素を排除し、分解機構が熱分解のみに制限されるため、樹脂の分解を抑制することが可能となる。溶融時の分解抑制によりマルチフィラメントを構成する樹脂の分子量を高く維持することができ、高結晶化したポリアミド46マルチフィラメントの形成、ひいてはストレッチ性並びに熱寸法安定性を両立した製品を製造することができる。
【0030】
紡糸温度はポリマの融点より10~50℃高温に設定し、複数の、好ましくは30~350の、より好ましくは50~250の孔を有する口金1から溶融紡糸するが、紡糸口金の直下から5~300cmの範囲を加熱筒2で囲み、溶融紡出された糸条を融点に対し-30~+30℃の高温雰囲気中に通過させることが好ましい。通過させる高温雰囲気は、より好ましくは融点-15~+15℃である。紡出糸条を直ちに冷却せず、上記加熱筒で囲まれた高温雰囲気中を通して徐冷することにより、溶融紡糸されたポリアミド46分子の配向が緩和され、単繊維間の分子配向均一性を高めることができるため、ポリアミド46フィラメントの高強度化が可能となる。一方、高温雰囲気中を通過させることなく直ちに冷却すると、未延伸糸の配向が高まり、かつ単繊維間の配向度バラツキが大きくなる。かかる未延伸糸を熱延伸すると、結果として高強度ポリアミド46マルチフィラメントが得られない可能性がある。
【0031】
上記工程を通過した未延伸糸条には、クロスフロー冷却装置3により10~80℃、好ましくは10~50℃の風を吹きつけて冷却固化する。冷却風が10℃未満の場合には、大型の冷却装置が必要となるため好ましくない。また、冷却風が80℃を超える場合には、風量が要され、単繊維揺れが大きくなるため、単繊維同士の衝突等が発生し、製糸性悪化の原因となる。
【0032】
冷却固化された未延伸糸は、その後に多段延伸、特に2もしくは3段延伸することが好ましい。3段延伸の場合について具体的に図1に例示すると、まず、冷却、固化された未延伸糸には給油装置4で油剤を付与し、引取ローラ(1FR)6によって引き取る。引取ローラは通常、非加熱である。その後給糸ローラ(2FR)7、第1延伸ローラ(1DR)8、第2延伸ローラ(2DR)9、第3延伸ローラ(3DR)10、および弛緩ローラ(RR)11といった順序で糸条を捲回して熱処理及び延伸処理を行い、ワインダー12に巻き取る。2FRの表面は鏡面、1DR、2DR、3DR、RRの表面は梨地とすることが好ましい。
【0033】
2FRと1DRの間において1段目の延伸を行い、2FRの温度(ローラの表面温度)は30~50℃、1DRの温度を100~225℃とする。2段目の延伸は1DRと2DRの間で行われ、2DRの温度(ローラの表面温度)は150~230℃とする。3段目の延伸は2DRと3DRの間で行われ、3DRの温度(ローラの表面温度)は180~240℃とする。
【0034】
ここで、本発明のポリアミド46マルチフィラメントの製造においては、3段目の延伸工程、すなわち最終延伸工程の延伸倍率が1.00~1.10であることが重要であり、延伸倍率が1.00~1.05であることがさらに好ましい。該条件での延伸を行うことで、結晶化度を高めるだけでなく、非結晶部の配向性を維持できる。よって、高強度、熱寸法安定性、高いストレッチ性を発揮するマルチフィラメントを提供することができる。延伸倍率が上記範囲より大きい場合、分子鎖非結晶部の配向性が高くなるため、熱寸法安定性が悪化してしまい、毛羽の発生が顕著になる場合は強度が損なわれる傾向にある。延伸倍率が1.00倍より低い場合は張力が低下するため、糸揺れが大きく、製糸が困難となる場合がある。
【0035】
このようにして本発明のポリアミド46マルチフィラメントを得ることができる。
【実施例
【0036】
[硫酸相対粘度]
試料1gを98%硫酸100mlに溶解し、オストワルド粘度計を使用し、25℃で測定した。測定回数2回の平均値を用いた。
【0037】
[マルチフィラメントの繊度]
JIS L1090(1999)により測定した。
【0038】
[繊維の強度、伸度]
JIS L1013(1999)の方法で測定した引張強さ及び伸び率を、強度及び伸度とした。オリエンテック社製テンシロン引張り試験機を用い、試長250mm、引張速度300mm/minの条件で測定した。各サンプルについて測定を3回行い、その平均値を求めた。
【0039】
[室温環境下繰り返し引張試験後伸び率]
25℃環境下にて試長250mmの繊維をオリエンテック社製テンシロン引張り試験機のチャックにて挟み、2.0cN/dtexの荷重となるまで300mm/分の速度で引っ張った後、元のチャック間隔まで300mm/分の速度で戻す動作を指定回数繰り返した。該繰り返し引張試験にて指定回数の戻る動作にて0.1cN/dtexの荷重が示す時の伸度を繰り返し引張試験後伸び率とした。すなわち、1回引っ張って、元のチャック間隔まで戻す際に0.1cN/dtexの荷重を示した時の伸度がE1、さらに9回引っ張り、戻す動作を繰り返し、最後に元のチャック間隔まで戻す際に0.1cN/dtexの荷重を示した時の伸度がE10である。
【0040】
[120℃・24時間処理]
25℃環境下にて試長250mmの繊維をエー・アンド・デイ社製テンシロン引張り試験機RTG-1250のチャックに挟み、エー・アンド・デイ社製高低温環境槽TLF-3R/F/G-Sをセットし、120℃・24時間処理を行う。
【0041】
[120℃・24時間処理後の室温環境下繰り返し引張試験後伸び率]
高低温環境槽から糸を取り出し、25℃環境下にて試長250mmの繊維をエー・アンド・デイ社製テンシロン引張り試験機RTG-1250にて[室温環境下繰り返し引張試験後伸び率]と同様に繰り返し引張、伸び率の算出を行う。
【0042】
[120℃熱収縮率]
試長250mmの繊維をLENZING INSTRUMENT社製TST2を使用して120℃で2分間処理したときの処理前後の繊維収縮率({(処理前の長さ-処理後の長さ)/処理前の長さ}×100(%))を測定した。
【0043】
[製糸性]
ポリアミド46を溶融紡糸し、紡糸された未延伸糸を多段延伸し、少なくとも1段目の延伸工程および最終延伸工程により延伸する工程において、下記実施例、比較例の通り製造を行った際の製糸切れ、毛羽量を下記の通り評価した。製糸切れとは、製造中に糸が切れ、製造できなくなった状態である。
A:1時間における製糸切れが0.1回未満であり、1万mにおける毛羽が1個未満である。
B:1時間における製糸切れが0.1回以上もしくは1万mにおける毛羽が1個以上である。
C:製糸切れが頻発し、原糸採取が不可能である。
【0044】
(実施例1)
(ポリアミド46マルチフィラメントの製造方法)
図1に示される製造工程を使用した。
【0045】
硫酸相対粘度3.9の、ポリアミド46樹脂(「Stanyl」(登録商標)、融点292℃)を、エクストルーダー型紡糸機を用いて真空下、305℃で溶融した。溶融ポリマはギヤポンプにて総繊度が940dtexとなるように計量した後、紡糸パック中で20μの金属不織布フィルターで濾過し、136ホール丸孔の口金から紡出した。口金面より3cm下には加熱筒長15cmの加熱筒を設置し、筒内雰囲気温度が300℃となるように加熱して、紡出糸条が300℃の雰囲気下を通過するようにした。筒内雰囲気温度とは、加熱筒長の中央部で、内壁から1cm離れた部分の空気温度のことである。
【0046】
加熱筒の直下には一方向から風を吹き付けるユニフロー型チムニーを取付け、加熱筒通過後の糸条に20℃の冷風を35m/分の速度で吹き付け冷却固化した後、給油装置にて糸条に油剤を付与した。
【0047】
油剤を付与された未延伸糸条を表面速度600m/分の速度で回転する1FRに捲回して引取った後、総合延伸倍率4.70倍で延伸を行った。引取り糸条は一旦巻き取ることなく連続して引取りローラと2FRとの間で5%のストレッチをかけた後、引き続いて回転速度比3.27倍で1段目の延伸、次いで回転速度比1.30倍で2段目の延伸を行い、最後に回転速度比1.05倍で3段目の最終延伸行い、2600m/分の速度で巻き取った。1FR、2FRのローラ表面は鏡面仕上げであり、1DR、2DR、3DR、RRは梨地仕上げとし、また各ローラ温度は、1FRは非加熱、2FRは80℃、1DRは175℃、2DRは180℃、3DRは230℃とし、RRは150℃とした。かかる溶融紡糸、延伸によりナイロン46マルチフィラメントを得た(表1)。
【0048】
得られた繊維物性を評価して表2に示した。
【0049】
(実施例2)
ナイロン46マルチフィラメントの紡糸時に3段目延伸倍率(最終延伸倍率)を1.00倍としたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0050】
(実施例3)
溶融紡糸時に溶融ポリマをギヤポンプにて繊度が1400dtexとなるように計量し、口金に204ホール丸孔のものを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0051】
(実施例4)
溶融紡糸時に溶融ポリマをギヤポンプにて繊度が470dtexとなるように計量し、口金に72ホール丸孔のものを用いており、総合延伸倍率4.20倍で延伸を行ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0052】
(実施例5)
2段延伸を行い、最終延伸倍率を1.08倍とすること以外は実施例1と同様に行った。
【0053】
(比較例1)
最終延伸倍率を1.25倍とすること以外は実施例1と同様に行った。
【0054】
(比較例2)
最終延伸倍率を0.90倍とすること以外は実施例1と同様に行った。
【0055】
(比較例3)
エクストルーダー型紡糸機での溶融紡糸を常圧下で実施したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0056】
(比較例4)
溶融紡糸時に溶融ポリマをギヤポンプにて繊度が235dtexとなるように計量したこと以外は実施例4と同様に行った。
【0057】
(比較例5)
硫酸相対粘度3.7のポリアミド66ポリマを、エクストルーダー型紡糸機を用いて真空下、280℃で溶融紡糸したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0058】
(比較例6)
硫酸相対粘度3.7のポリアミド6ポリマを、エクストルーダー型紡糸機を用いて真空下、260℃で溶融紡糸したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
これら、実施例1~5および比較例1~6での製造条件について表1に、得られたポリアミド46マルチフィラメントの物性を評価した結果を表2に示した。
【0062】
表2より明らかなように、本発明のポリアミド46マルチフィラメントは高強度であり、かつ熱寸法安定性が高く、優位なストレッチ性を発揮している。
【0063】
一方、従来技術である比較例5、6のマルチフィラメントは高強度であるものの、ストレッチ性が低く、ベルトコードや縫い糸にした際に張力を維持することが不可能である。
【0064】
また、比較例3のように、常圧下で溶融を行うことでポリマが分解してしまい、高強度のマルチフィラメントを得ることができず、その上結晶化度が低いためストレッチ性が不利となる。
【0065】
さらに、比較例1のように、高強度のポリアミド46マルチフィラメントを製造する際には最終延伸工程での延伸倍率が1.1を超えると、結晶化を発現せず、熱寸法安定性もしくはストレッチ性が悪化してしまう。一方、比較例2では最終延伸工程での延伸倍率が1.0に満たないため、糸切れが頻発し、原糸採取が困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のポリアミド46マルチフィラメントは、強度が高いため耐久力が高いばかりか、さらに高耐熱であり、熱寸法安定性が高く、ストレッチ性にも優れていることから、ベルトコードとして使用した場合にそのベルトはオートテンショナーを必要とせず、ベルト駆動部全体としてのコストを低減することができる。また、ポリアミド46マルチフィラメントの高強度ながらストレッチ性が高いという優位点を生かし、スポーツ用途などの衣料用縫い糸として使用することも可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1:紡糸口金
2:加熱筒
3:クロスフロー冷却装置
4:給油装置
5:糸条
6:引取りローラ(1FR)
7:給糸ローラ(2FR)
8:第1延伸ローラ(1DR)
9:第2延伸ローラ(2DR)
10:第3延伸ローラ(3DR)
11:弛緩ローラ(RR)
12:ワインダー
図1