(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 64/16 20060101AFI20250311BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
C08G64/16
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2021537232
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2020028657
(87)【国際公開番号】W WO2021024832
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2019143038
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019205131
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】下川 敬輔
(72)【発明者】
【氏名】原田 英文
(72)【発明者】
【氏名】磯部 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】田口 惇悟
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/131366(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0003653(KR,A)
【文献】米国特許第03484411(US,A)
【文献】米国特許第03321440(US,A)
【文献】特開2014-051538(JP,A)
【文献】特開2018-199746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00 - 64/42
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位(I)を有する、ポリカーボネート樹脂。
【化1】
〔上記式中
、
L
1
が、下記一般式(i-1)、(i-2)又は(i-4)のいずれかで表される二価の連結基であり、
L
2
が、下記一般式(ii-1)、(ii-2)又は(ii-4)のいずれかで表される二価の連結基である。〕
【化2】
〔上記式中、*は結合位置を示す。R
1
及びR
2
は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキレン基、環形成炭素数3~20のシクロアルキレン基、環形成炭素数6~20のアリーレン基であって、これらの基の1つ以上の水素原子は、さらに置換基によって置換されていてもよく、2つの当該置換基が互いに結合して環構造を形成してもよい。p11、q11、p21、及びq21は、それぞれ独立に、1~10の整数である。〕
【請求項2】
さらに、下記一般式(2)で表される構成単位(II)を有する、請求項
1に記載のポリカーボネート樹脂。
【化3】
〔上記式中、R
a及びR
bは、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキレン基であり、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基又は環形成炭素数6~12のアリール基である。x1及びx2は、それぞれ独立に、0~10の整数であり、n1及びn2は、それぞれ独立に、0~4の整数である。L
Aは、単結合又は下記式(a)~(g)のいずれかで表される連結基である。〕
【化4】
〔上記式中、*は結合位置を示す。R
c及びR
dは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基である。R
e及びR
fは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基である。mは1~10の整数である。〕
【請求項3】
構成単位(I)と構成単位(II)との含有量比〔(I)/(II)〕が、モル比で、0.01/99.99~99.99/0.01である、請求項
2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が、10,000~70,000である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)が、100~160℃である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂を含む、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂組成物に対して行った、UL94規格に基づく燃焼性試験の評価がV-2以上である、請求項
6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項
6又は
7に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【請求項9】
下記一般式(1)で表される構成単位(I)を有する、ポリカーボネート樹脂を製造する方法であって、エステル交換反応を行う工程を有する、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化5】
〔上記式中、L
1
及びL
2
は、それぞれ独立に、アルキレン基、オキシアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、オキシアリーレン基、及びこれらの2種以上を組み合わせてなる基から選ばれる二価の連結基であって、当該連結基の1つ以上の水素原子は、さらに置換基によって置換されていてもよく、2つの当該置換基が互いに結合して環構造を形成してもよい。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂、当該樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物、当該樹脂組成物を成形してなる成形体、及び、ポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械物性、及び電気的特性等の特性に優れた樹脂であり、例えば、自動車材料、電気電子機器材料、家庭用各種電気機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等に幅広く利用されている。特に、難燃化されたポリカーボネート樹脂は、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部材として好適に使用されている。
【0003】
成形体に難燃性を付与する手段としては、従来、ポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物に、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を配合することでなされてきた。
しかしながら、塩素や臭素を有するハロゲン系難燃剤を含むポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定性の低下や、成形加工時における成形機のスクリューや成形金型の腐食を招くといった弊害が生じることがあった。また、リン系難燃剤を含むポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の特徴の一つである高い透明性を阻害したり、耐衝撃性、耐熱性の低下を招いたりするため、その用途が制限されることがあった。
加えて、ハロゲン系難燃剤及びリン系難燃剤を用いた成形体は、製品の廃棄、回収時に、環境汚染を惹起する可能性があるため、近年ではこれらの難燃剤を使用することなく難燃化することが望まれている。
【0004】
このような要求に対して、例えば、特許文献1には、難燃性及び耐熱性に優れたポリカーボネート樹脂組成物として、特定の末端構造を有し、粘度平均分子量が所定の範囲に調整したポリカーボネート樹脂と、安定剤を含むポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、成形体材料の難燃性への要求は高く、特許文献1に記載されたポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性について更なる改良の余地がある。
そのため、より難燃性に優れた新規なポリカーボネート樹脂が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定の構成単位を有するポリカーボネート樹脂を提供し、より具体的には、下記[1]~[11]の態様に係るポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂組成物、成形体、及びポリカーボネート樹脂の製造方法を提供する。
【0008】
[1]下記一般式(1)で表される構成単位(I)を有する、ポリカーボネート樹脂。
【化1】
〔上記式中、L
1及びL
2は、それぞれ独立に、アルキレン基、オキシアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、オキシアリーレン基、及びこれらの2種以上を組み合わせてなる基から選ばれる二価の連結基であって、当該連結基の1つ以上の水素原子は、さらに置換基によって置換されていてもよく、2つの当該置換基が互いに結合して環構造を形成してもよい。〕
【0009】
[2]L
1が、下記一般式(i)で表される二価の連結基であり、L
2が、下記一般式(ii)で表される二価の連結基である、上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂。
【化2】
〔上記式中、*は結合位置を示す。R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキレン基、環形成炭素数3~20のシクロアルキレン基、環形成炭素数6~20のアリーレン基であって、これらの基の1つ以上の水素原子は、さらに置換基によって置換されていてもよく、2つの当該置換基が互いに結合して環構造を形成してもよい。
p1、q1、p2、q2は、それぞれ独立に、0~10の整数であり、r1及びr2は、それぞれ独立に、0又は1である。ただし、p1+q1は1以上の整数であり、p2+q2は1以上の整数である。〕
【0010】
[3]L
1が、下記一般式(i-1)~(i-4)のいずれかで表される二価の連結基であり、L
2が、下記一般式(ii-1)~(ii-4)のいずれかで表される二価の連結基である、上記[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂。
【化3】
〔上記式中、*は結合位置を示す。R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキレン基、環形成炭素数3~20のシクロアルキレン基、環形成炭素数6~20のアリーレン基であって、これらの基の1つ以上の水素原子は、さらに置換基によって置換されていてもよく、2つの当該置換基が互いに結合して環構造を形成してもよい。p11、q11、p21、及びq21は、それぞれ独立に、1~10の整数である。〕
【0011】
[4]さらに、下記一般式(2)で表される構成単位(II)を有する、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂。
【化4】
〔上記式中、R
a及びR
bは、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキレン基であり、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基又は環形成炭素数6~12のアリール基である。x1及びx2は、それぞれ独立に、0~10の整数であり、n1及びn2は、それぞれ独立に、0~4の整数である。L
Aは、単結合又は下記式(a)~(g)のいずれかで表される連結基である。〕
【化5】
〔上記式中、*は結合位置を示す。R
c及びR
dは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基である。R
e及びR
fは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基である。mは1~10の整数である。〕
【0012】
[5]構成単位(I)と構成単位(II)との含有量比〔(I)/(II)〕が、モル比で、0.01/99.99~99.99/0.01である、上記[4]に記載のポリカーボネート樹脂。
[6]前記ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が、10,000~70,000である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂。
[7]前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)が、100~160℃である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂。
[8]上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂を含む、ポリカーボネート樹脂組成物。
[9]前記ポリカーボネート樹脂組成物に対して行った、UL94規格に基づく燃焼性試験の評価がV-2以上である、上記[8]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[10]上記[8]又は[9]に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる、成形体。
[11]上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂を製造する方法であって、エステル交換反応を行う工程を有する、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の好適な一態様のポリカーボネート樹脂は、より優れた難燃性を有し、より好適な一態様としては、有炎燃焼時間が短い成形体の形成材料となり得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔ポリカーボネート樹脂〕
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記一般式(1)で表される構成単位(I)を有する。
【化6】
【0015】
本発明のポリカーボネート樹脂は、上記一般式(1)で表されるように、主鎖に三重結合を含む構成単位(I)を有する構造に起因し、難燃性がより向上し得、特に、有炎燃焼時間の短縮という格別の効果を奏するものと考えられる。
なお、ポリカーボネート樹脂に関する以下の態様は、特に断りが無い限り、難燃性の向上、特に有炎燃焼時間の短縮との効果向上の観点から好ましい態様について記載している。
【0016】
前記一般式(I)中、L1及びL2は、それぞれ独立に、アルキレン基、オキシアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、オキシアリーレン基、及びこれらの2種以上を組み合わせてなる基から選ばれる二価の連結基であって、当該連結基の1つ以上の水素原子は、さらに置換基によって置換されていてもよく、2つの当該置換基が互いに結合して環構造を形成してもよい。
なお、以下のそれぞれの連結基として好適な炭素数の規定において、当該連結基が任意に有してもよい置換基の炭素数は含まれない。
【0017】
前記アルキレン基としては、例えば、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2CH2-)、エチリデン基(-CH(CH3)-)、トリメチレン基(-CH2CH2CH2-)、プロピレン基(-CH(CH3)CH2-)、プロピリデン基(-CHCH2(CH3)-)、イソプロピリデン基(-C(CH3)2-)、テトラメチレン基(-CH2CH2CH2CH2-)、1-メチルトリメチレン基(-CH(CH3)CH2CH2-)、2-メチルトリメチレン基(-CH2CH(CH3)CH2-)、ブチレン基(-C(CH3)2CH2-)、及び-(CH2)n-(nは1以上の整数であり、好ましくは1~20の整数)で表される基等が挙げられる。
当該アルキレン基は、直鎖アルキレン基であってもよく、分岐鎖アルキレン基であってもよい。
また、当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~5、より更に好ましくは1~3、特に好ましくは2である。
【0018】
前記オキシアルキレン基は、上述アルキレン基の連結部分の一方の末端に酸素原子が結合した基が挙げられ、炭素数の好適範囲も上記のとおりである。
【0019】
前記シクロアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、ノルボルニレン基、アダマンチレン基、デカヒドロナフタレニレン基等が挙げられる。
当該シクロアルキレン基の環形成炭素数は、好ましくは3~20、より好ましくは5~15、更に好ましくは5~10である。
【0020】
前記アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基等が挙げられる。
当該アリーレン基の環形成炭素数は、好ましくは6~20、より好ましくは6~18、更に好ましくは6~12、より更に好ましくは6~10、特に好ましくは6である。
【0021】
前記オキシアリーレン基としては、上述のアリーレン基の連結部分の一方の末端に酸素原子が結合した基が挙げられ、環形成炭素数の好適範囲も同様である。
【0022】
ここで、これらの連結基の1つ以上の水素原子は、さらに置換基によって置換されていてもよい。
当該置換基としては、例えば、炭素数1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~5、更に好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~5、更に好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~5、更に好ましくは1~3)のチオアルキル基、環形成炭素数3~20(好ましくは5~15、より好ましくは5~10)のシクロアルキル基、炭素数1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~5、更に好ましくは1~3)のアルキル基を有するジアルキルアミノ基、アミノ基、環形成原子数6~20(好ましくは6~18、より好ましくは6~12、更に好ましくは6~10、より更に好ましくは6)のアリール基、環形成原子数3~20(好ましくは5~16)のヘテロアリール基、ヒドロキシ基、シアノ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
なお、これらの置換基は、さらに別の上述の置換基で置換されていてもよい。
【0023】
これらの中でも、前記連結基に置換し得る置換基としては、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記ジアリールアミノ基、前記アミノ基、前記アリール基、前記ヘテロアリール、及び前記ヒドロキシ基から選ばれる置換基が好ましく、前記アルキル基及び前記アリール基から選ばれる置換基がより好ましく、前記アルキル基であることが更に好ましい。
【0024】
また、本発明の一態様において、2つの前記置換基が互いに結合して環構造を形成してもよい。当該環構造は、互いに結合する2つの置換基のうちの1つに、N(窒素原子)、O(酸素原子)、S(硫黄原子)等のヘテロ原子が含まれている場合には、複素環となり得る。
そのような環構造を形成した前記連結基としては、例えば、下記一般式(p-1)~(p-3)で表される二価の基が挙げられる。
【化7】
【0025】
上記式(p-1)~(p-3)中、*は結合位置を示し、nは1以上の整数であり、1~10の整数であることが好ましい。
L’は、それぞれ独立に、単結合又は二価の連結基であり、当該連結基としては、例えば、アルキレン基、オキシアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、及びオキシアリーレン基等が挙げられ、具体的なこれらの連結基は、上述のL1及びL2として選択し得るものと同じものが挙げられる。
ただし、L’は、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~5(好ましくは1~3、より好ましくは1~2、更に好ましくは1)のアルキレン基、又は環形成炭素数6~10(好ましくは6)のアリーレン基であることが好ましい。
【0026】
また、前記一般式(1)中のL1及びL2は、これらの2種以上を組み合わせてなる基、つまり、アルキレン基、オキシアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、及びオキシアリーレン基から選ばれる2種以上を組み合わせからなる二価の連結基であってもよい。
そのような態様としては、L1が、下記一般式(i)で表される二価の連結基であり、L2が、下記一般式(ii)で表される二価の連結基であることが好ましい。
【0027】
【0028】
上記式(i)及び(ii)中、*は結合位置を示す。
R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキレン基、環形成炭素数3~20のシクロアルキレン基、環形成炭素数6~20のアリーレン基であって、これらの基の1つ以上の水素原子は、さらに置換基によって置換されていてもよく、2つの当該置換基が互いに結合して環構造を形成してもよい。
【0029】
R1及びR2として選択し得る、前記アルキレン基、前記シクロアルキレン基、及び前記アリーレン基としては、上述のL1及びL2として選択し得る、前記アルキレン基、前記シクロアルキレン基、及び前記アリーレン基と同じであり、炭素数の好適範囲も同様である。
また、これらの基が有してもよい置換基についても、上述の置換基と同じであり、好適な態様も同じである。
【0030】
本発明の一態様において、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキレン基又は置換基を有してもよい環形成炭素数6~20のアリーレン基であることが好ましく、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキレン基であることがより好ましく、置換基を有さない炭素数1~20のアルキレン基であることが更に好ましい。
前記アルキレン基及び前記アリーレン基の炭素数の好適範囲、並びに、前記アルキレン基及び前記アリーレン基が有してもよい置換基としては、上述のとおりである。
【0031】
また、上記式(i)及び(ii)中、p1、q1、p2、q2は、それぞれ独立に、0~10の整数であり、r1及びr2は、それぞれ独立に、0又は1である。
なお、p1+q1は、それぞれ独立に、1以上の整数であるが、好ましくは1~10の整数、より好ましくは1~5の整数、更に好ましくは1~3の整数、より更に好ましくは1である。
また、p2+q2は、それぞれ独立に、1以上の整数であるが、好ましくは1~10の整数、より好ましくは1~5の整数、更に好ましくは1~3の整数、より更に好ましくは1である。
【0032】
本発明の一態様において、L1及びL2は、同種の連結基であってもよく、異種の連結基であってもよい。ここで、例えば、L1がメチレン基であり、L2がエチレン基である場合は双方とも「アルキレン基」であるため「同種の連結基」となる。「同種の連結基」の組み合わせとしては、L1及びL2が共にアルキレン基、L1及びL2が共にオキシアルキレン基、L1及びL2が共にシクロアルキレン基、L1及びL2が共にアリーレン基、もしくは、L1及びL2が共にオキシアルキレン基である場合が挙げられる。
一方で、例えば、L1がメチレン基(アルキレン基)であり、L2がフェニレン基(アリーレン基)である場合は、「異種の連結基」となる。
【0033】
本発明のより好適な一態様として、L1が、下記一般式(i-1)~(i-4)のいずれかで表される二価の連結基であり、L2が、下記一般式(ii-1)~(ii-4)のいずれかで表される二価の連結基であることがより好ましい。
【0034】
【0035】
上記式(i-1)~(i-4)及び(ii-1)~(ii-4)中、*は結合位置を示す。
R1及びR2は、前記一般式(i)及び(ii)の定義と同じであり、好適な態様も同様である。
p11、q11、p21、及びq21は、それぞれ独立に、1~10の整数であるが、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数、更に好ましくは1又は2、より更に好ましくは1である。
【0036】
なお、本発明の一態様において、L1が上記一般式(i-1)で表される二価の連結基であり、L2が上記一般式(ii-1)で表される二価の連結基であってもよく、
L1が上記一般式(i-2)で表される二価の連結基であり、L2が上記一般式(ii-2)で表される二価の連結基であってもよく、
L1が上記一般式(i-3)で表される二価の連結基であり、L2が上記一般式(ii-3)で表される二価の連結基であってもよく、もしくは、
L1が上記一般式(i-4)で表される二価の連結基であり、L2が上記一般式(ii-4)で表される二価の連結基であってもよい。
【0037】
また、本発明の一態様において、L1が上記一般式(i-1)又は(i-3)で表される二価の連結基であり、L2が上記一般式(ii-1)又は(ii-3)で表される二価の連結基であることがより好ましく、L1が上記一般式(i-1)で表される二価の連結基であり、L2が上記一般式(ii-1)で表される二価の連結基であるか、もしくは、L1が上記一般式(i-3)で表される二価の連結基であり、L2が上記一般式(ii-3)で表される二価の連結基であることが更に好ましく、L1が上記一般式(i-1)で表される二価の連結基であり、L2が上記一般式(ii-1)で表される二価の連結基であることがより更に好ましい。
【0038】
また、本発明のポリカーボネート樹脂が、さらに、下記一般式(2)で表される構成単位(II)を有することが好ましい。
【化10】
【0039】
上記式(2)中、Ra及びRbは、それぞれ独立に、炭素数1~8(好ましくは1~5、より好ましくは2~3、更に好ましくは2)のアルキレン基である。
当該アルキレン基としては、前記一般式(1)中のL1及びL2として選択し得る、炭素数1~8のアルキレン基と同じものが挙げられる。
【0040】
なお、x1及びx2は、それぞれ独立に、0~10の整数であり、好ましくは0~5の整数、より好ましくは0~2の整数、更に好ましくは0である。
【0041】
また、上記式(2)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~8(好ましくは1~5、より好ましくは1~3、更に好ましくは1)のアルキル基又は環形成炭素数6~12(好ましくは6~10、より好ましくは6)のアリール基である。
当該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。なお、当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
また、当該アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0042】
なお、n1及びn2は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、好ましくは0~2、より好ましくは0~1、更に好ましくは0である。
【0043】
上記式(2)中、L
Aは、単結合又は下記式(a)~(g)のいずれかで表される連結基である。
【化11】
【0044】
上記式(a)~(g)中、*は結合位置を示す。
また、式(a)中のRc及びRdは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8(好ましくは1~5、より好ましくは1~3、更に好ましくは1)のアルキル基、又は炭素数6~12(好ましくは6~10、より好ましくは6)のアリール基である。
当該アルキル基及び当該アリール基としては、上記式(2)中のRとして選択し得るアルキル基又はアリール基と同じものが挙げられる。
【0045】
式(b)~(d)中のRe及びRfは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)のアルキレン基である。
当該アルキレン基としては、前記一般式(1)中のL1及びL2として選択し得る、炭素数1~4のアルキレン基と同じものが挙げられる。
【0046】
式(c)中のmは、1~10の整数であり、好ましくは1~5、より好ましくは1~3、更に好ましくは1である。
【0047】
なお、本発明の一態様において、前記一般式(2)中のLAは、上記式(a)~(d)のいずれかで表される連結基であることが好ましい。
【0048】
特に、前記一般式(2)中のx1及びx2が0である場合、LAは、上記式(a)、式(c)又は式(d)で表される連結基であることが好ましく、上記式(a)で表される連結基であることがより好ましく、上記式(a)で表される連結基であって、Rc及びRdがメチル基である連結基であることが更に好ましい。
【0049】
また、前記一般式(2)中のx1及びx2が0ではない場合、LAは、上記式(b)で表される連結基であることが好ましい。
【0050】
本発明の一態様のポリカーボネート樹脂において、構成単位(I)の含有量は、当該ポリカーボネート樹脂の構成単位の全量(100モル%)に対して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは1.0モル%以上、より更に好ましくは2.0モル%以上、特に好ましくは2.5モル%以上であり、また、好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下、より更に好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下である。
【0051】
本発明の一態様のポリカーボネート樹脂において、構成単位(II)の含有量は、当該ポリカーボネート樹脂の構成単位の全量(100モル%)に対して、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であり、また、好ましくは99.99モル%以下、より好ましくは99.9モル%以下、更に好ましくは99.0モル%以下、より更に好ましくは98.0モル%以下、特に好ましくは97.5モル%以下である。
【0052】
なお、本発明の一態様のポリカーボネート樹脂において、構成単位(I)及び構成単位(II)以外の他の構成単位を有していてもよい。
ただし、構成単位(I)及び構成単位(II)の合計含有量は、当該ポリカーボネート樹脂の構成単位の全量(100モル%)に対して、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、より更に好ましくは95~100モル%、特に好ましくは100モル%である。
【0053】
本発明の一態様のポリカーボネート樹脂において、構成単位(I)と構成単位(II)との含有量比〔(I)/(II)〕は、モル比で、好ましくは0.01/99.99~99.99/0.01、より好ましくは0.05/99.95~50/50、更に好ましくは0.1/99.9~20/80、更に好ましくは0.2/99.8~10/90、より更に好ましくは0.3/99.7~7.5/92.5、特に好ましくは0.5/99.5~5.0/95.0である。
【0054】
本発明の一態様のポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、好ましくは10,000~70,000、より好ましくは15,000~60,000、更に好ましくは18,000~50,000、より更に好ましくは20,000~40,000である。
【0055】
また、本発明の一態様のポリカーボネート樹脂の分子量分布(Mw/Mn)としては、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3.0以下、より更に好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.1以下である。
【0056】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
また、分子量分布は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比〔Mw/Mn〕を意味する。
【0057】
本発明の一態様のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは100~160℃、より好ましくは110~150℃、更に好ましくは115~145℃、より更に好ましくは120~140℃である。
なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、示差熱走査熱量計(DSC)を用いて測定した値であって、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0058】
本発明の一態様のポリカーボネート樹脂において、質量の減少量に応じた熱分解温度としては、以下の範囲であることが好ましい。
・質量1%減少する際の熱分解温度:好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、更に好ましくは300℃以上、より更に好ましくは320℃以上。
・質量3%減少する際の熱分解温度:好ましくは230℃以上、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは330℃以上、より更に好ましくは350℃以上。
・質量5%減少する際の熱分解温度:好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上、更に好ましくは350℃以上、より更に好ましくは380℃以上。
・質量10%減少する際の熱分解温度:好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは400℃以上、より更に好ましくは420℃以上。
なお、本明細書において、熱分解温度は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/TDA)を用いて測定した値であって、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0059】
〔ポリカーボネート樹脂の製造方法〕
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法としては、特に制限は無いが、エステル交換反応を行う工程を有する方法であることが好ましい。本工程では、原料モノマーであるジオール成分と炭酸ジエステルとのエステル交換反応を行うことで、上述のポリカーボネート樹脂を得る。
原料モノマーであるジオール成分としては、少なくとも下記一般式(1a)で表される化合物(Ia)を含むが、さらに下記一般式(2a)で表される化合物(IIa)を含むことが好ましい。
【0060】
【0061】
上記一般式(1a)中、L1及びL2は、前記一般式(1)における定義と同じであり、好適な態様も上述のとおりである。
また、上記一般式(2a)中、Ra、Rb、R、x1、x2、n1、n2、及びLAは、前記一般式(2)における定義と同じであり、好適な態様も上述のとおりである。
化合物(Ia)は、構成単位(I)の構造の一部となり、また、化合物(IIa)は、構成単位(II)の構造の一部となる。
【0062】
なお、本発明の一態様において、原料モノマーのジオール成分として、上記化合物(Ia)及び(IIa)以外の他のジオール化合物を用いてもよい。
ただし、化合物(Ia)及び構成単位(IIa)の合計含有量は、原料モノマーのジオール成分の全量(100モル%)に対して、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、より更に好ましくは95~100モル%、特に好ましくは100モル%である。
【0063】
また、本発明の一態様において、化合物(Ia)と化合物(IIa)との配合量比〔(Ia)/(IIa)〕は、モル比で、好ましくは0.01/99.99~99.99/0.01、より好ましくは0.05/99.95~50/50、更に好ましくは0.1/99.9~20/80、更に好ましくは0.2/99.8~10/90、より更に好ましくは0.3/99.7~7.5/92.5、特に好ましくは0.5/99.5~5.0/95.0である。
【0064】
炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、反応性及び純度の観点から、ジフェニルカーボネートが好ましい。
これらの炭酸ジエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
炭酸ジエステルの配合量は、ジオール成分1モルに対して、好ましくは1.01~1.30モル、より好ましくは1.01~1.20モル、更に好ましくは1.01~1.10モルである。
【0066】
エステル交換反応においては、エステル交換触媒を用いることが好ましい。
エステル交換触媒としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属の有機酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物、水素化物及びアルコキシド等や、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)、酢酸ジルコニウム、チタンテトラブトキサイド等が挙げられる。
これらのエステル交換触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
エステル交換触媒の使用量は、ジオール成分1モルに対して、好ましくは1×10-9~1×10-3モル、より好ましくは1×10-7~1×10-4モルである。
【0068】
具体的なエステル交換反応の反応条件としては、反応温度120~260℃(好ましくは180~260℃)で、反応時間0.1~5時間(好ましくは0.5~3時間)にて反応させることが好ましい。
次いで、反応系の減圧度を上げながら、反応温度を高めてジオール化合物と、他のモノマーとの反応を行い、最終的には1mmHg以下の減圧下、200~350℃の温度で0.05~2時間重縮合反応を行うことが好ましい。
このような反応は、連続式で行ってもよく、バッチ式で行ってもよい。
上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型撹拌翼、マックスブレンド撹拌翼、ヘリカルリボン型撹拌翼等を装備した縦型であってもよく、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。
【0069】
本発明の一態様のポリカーボネート樹脂の製造方法では、熱安定性及び加水分解安定性を保持させる観点から、重合反応終了後に、触媒を除去又は失活させてもよい。
【0070】
また、触媒失活後、樹脂中の低沸点化合物を除去するために、0.1~1mmHgの圧力で、200~350℃の温度にて脱揮除去する工程を設けてもよい。この工程において、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた撹拌翼を備えた横型装置、又は薄膜蒸発器が好適に用いられる。
【0071】
このようにして得られた樹脂は、異物含有量が極力少ないことが望まれるため、溶融原料の濾過、触媒液の濾過を行ってもよい。濾過で使用するフィルターのメッシュは、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0072】
本工程で得られたポリカーボネート樹脂は、フレーク状とし、ポリカーボネート樹脂組成物に調整してもよい。
また、必要に応じて、ポリカーボネート樹脂を周知の方法に基づき単離した後、例えば、周知のストランド方式のコールドカット法(一度溶融させたポリカーボネート樹脂組成物をストランド状に成形、冷却後、所定の形状に切断してペレット化する方法)、空気中ホットカット方式のホットカット法(一度溶融させたポリカーボネート樹脂組成物を、空気中で水に触れぬうちにペレット状に切断する方法)、水中ホットカット方式のホットカット法(一度溶融させたポリカーボネート樹脂組成物を、水中で切断し、同時に冷却してペレット化する方法)によって、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットとしてもよい。
なお、得られたポリカーボネート樹脂組成物のペレットは、必要に応じて、熱風乾燥炉、真空乾燥炉、脱湿乾燥炉を用いた乾燥といった方法に基づき乾燥させることが好ましい。
【0073】
このようにして得られたポリカーボネート樹脂には、製造時に副生成物として生じ得るフェノール系化合物や、反応せずに残存したジオール成分又は炭酸ジエステルが不純物として存在している場合がある。
不純物であるフェノール系化合物や炭酸ジエステルは、成形体としたときの強度低下や、臭気発生の原因ともなり得るため、これらの含有量は極力少ない程好ましい。
【0074】
残存するフェノール系化合物の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量%に対して、好ましくは3000質量ppm以下、より好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下、更に好ましくは800質量ppm以下、より更に好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは300質量ppm以下である。
残存するジオール成分の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量%に対して、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、更に好ましくは100質量ppm以下、より更に好ましくは10質量ppm以下である。
残存する炭酸ジエステルの含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量%に対して、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、更に好ましくは100質量ppm以下、より更に好ましくは10質量ppm以下である。
【0075】
フェノール系化合物、ジオール成分及び炭酸ジエステルの含有量は、検出されないほど低減してもよいが、生産性の観点から、効果を損なわない範囲で、わずかに含有していてもよい。また、わずかな量であれば、樹脂溶融時に可塑性を良好とすることもできる。
【0076】
残存するフェノール系化合物、ジオール成分又は炭酸ジエステルのそれぞれの含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量%に対して、例えば、0.01質量ppm以上、0.1質量ppm以上、又は1質量ppm以上であってもよい。
【0077】
なお、ポリカーボネート樹脂中のフェノール系化合物、ジオール成分及び炭酸ジエステルの含有量は、重縮合の条件や装置の設定を適宜調整することで、上記範囲となるように調節することは可能である。また、重縮合後の押出工程の条件によっても調節可能である。
【0078】
〔ポリカーボネート樹脂組成物〕
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)は、上述の本発明の一態様のポリカーボネート樹脂を含む。
本発明の一態様の樹脂組成物において、上述の本発明の一態様である前記ポリカーボネート樹脂の含有量は、当該樹脂組成物の全量(100質量%)に対して、通常30~100質量%、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%である。
【0079】
なお、本発明の一態様のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。
このような他の樹脂としては、例えば、本発明のポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート-スチレン共重合体(MS樹脂)等のスチレン系樹脂;メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)等のコア/シェル型のエラストマー、ポリエステル系エラストマー等のエラストマー;環状シクロオレフィン樹脂(COP樹脂)、環状シクロオレフィン(COP)共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂(PA樹脂);ポリイミド樹脂(PI樹脂);ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂);ポリウレタン樹脂(PU樹脂);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂);ポリスルホン樹脂(PSU樹脂);ポリメタクリレート樹脂(PMMA樹脂);ポリカプロラクトン;等が挙げられる。
これらの他の樹脂は、単独で含有してもよく、2種以上を併用して含有してもよい。
【0080】
前記本発明のポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例としては、以下の芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等。
これらの中ではビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に市場流通性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0081】
本発明の一態様の樹脂組成物において、本発明のポリカーボネート樹脂を主成分とした樹脂組成物とする場合、当該樹脂組成物に含まれる本発明のポリカーボネート樹脂の全量100質量部に対する、他の樹脂の含有量は、0~100質量部、0~50質量部、0~20質量部、0~10質量部、0~5質量部、又は、0~1質量部としてもよい。
一方で、他の樹脂を主成分とした樹脂組成物とする場合、当該樹脂組成物に含まれる他の樹脂の全量100質量部に対する、本発明のポリカーボネート樹脂の含有量は、0.01~100質量部、0.05~70質量部、0.10~50質量部、0.30~40質量部、0.50~30質量部、0.70~20質量部、又は、1.0~10質量部としてもよい。
【0082】
本発明の一態様の樹脂組成物は、本発明のポリカーボネート樹脂(α)と共に、他の樹脂として、前記一般式(2)で表される構成単位(II)を有するポリカーボネート樹脂(β)を含有してもよい。
当該樹脂組成物における、ポリカーボネート樹脂(α)とポリカーボネート樹脂(β)との含有量比〔(α)/(β)〕は、質量比で、好ましくは0.01/99.99~99.99/0.01、より好ましくは0.05/99.95~50/50、更に好ましくは0.1/99.9~20/80、更に好ましくは0.2/99.8~10/90、より更に好ましくは0.3/99.7~7.5/92.5、特に好ましくは0.5/99.5~5.0/95.0である。
【0083】
また、本発明の一態様の樹脂組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、各種添加剤を含有してもよい。
そのような各種添加剤としては、用途に応じて適宜選択されるが、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等を含有することが好ましく、また、必要に応じて、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を含有してもよい。
【0084】
<熱安定剤>
本発明の一態様で用いる熱安定剤としては、例えば、フェノール系熱安定化剤、リン系熱安定化剤、硫黄系熱安定剤等が挙げられ、具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸等のリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウム等の酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛等、第1族又は第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等を挙げることができる。
【0085】
また、分子中の少なくとも1つのエステルがフェノール及び/又は炭素数1~25のアルキル基を少なくとも1つ有するフェノールでエステル化された亜リン酸エステル化合物(a)、亜リン酸(b)、及びテトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスホナイト(c)の群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。
亜リン酸エステル化合物(a)としては、例えば、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(オクチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0086】
有機ホスファイト化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、アデカ社製(商品名、以下同じ)「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
【0087】
リン酸エステルとして、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0088】
これらの熱安定剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様の樹脂組成物において、熱安定剤の含有量は、当該樹脂組成物中に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001~1質量部、より好ましくは0.01~0.7質量部、更に好ましくは0.03~0.5質量部である。
【0089】
<酸化防止剤>
本発明の一態様で用いる酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、及びポリフェノール系酸化防止剤等が挙げられ、具体的には、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオナミド)]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-t-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、BASF社製(登録商標、以下同じ)「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、アデカ社製(登録商標、以下同じ)「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0090】
これらの酸化防止剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様の樹脂組成物において、酸化防止剤の含有量は、当該樹脂組成物中に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001~1質量部、より好ましくは0.01~0.5質量部である。
【0091】
<難燃剤>
本発明の一態様で用いる難燃剤としては、有機金属塩系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等が挙げられ、具体的には、特開2016-183422号公報の段落〔0085〕~〔0093〕に記載の難燃剤(難燃剤組成物)が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
これらの中でも、本発明の一態様で用いる難燃剤は、有機スルホン酸金属塩を含むことが好ましい。
難燃剤として用いる有機スルホン酸金属塩としては、脂肪族スルホン酸金属塩及び芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられ、金属塩としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好ましい。
金属塩を構成するアルカリ金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。また、金属塩を構成するアルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、ストロンチウム等が挙げられる。
これらの中でも、燃焼時の炭化層形成を効果的に促進し、高い透明性も維持し得る成形体の成形材料とする観点から、本発明の一態様で用いる有機スルホン酸金属塩を構成する好ましい金属としては、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれるアルカリ金属が好ましく、ナトリウム又はカリウムであることがより好ましい。
【0092】
脂肪族スルホン酸塩としては、フルオロアルカン-スルホン酸金属塩が好ましく、パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩がより好ましく、具体的には、パーフルオロブタン-スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン-スルホン酸カリウム、パーフルオロエタン-スルホン酸ナトリウム、パーフルオロエタン-スルホン酸カリウム等が挙げられる。
フルオロアルキルスルホン酸金属塩の炭素数としては、高い透明性を維持し得る成形体の成形材料とする観点から、好ましくは1~8、より好ましくは2~4である。
【0093】
芳香族スルホン酸金属塩としては、芳香族スルホン酸アルカリ金属塩が好ましく、具体的には、3,4-ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5-トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸のカリウム塩、4,4’-ジブロモジフェニル-スルホン-3-スルホン酸のナトリウム塩、4,4’-ジブロモフェニル-スルホン-3-スルホン酸のカリウム塩、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸のジカリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩、p-トルエンスルホン酸カリウム塩、p-スチレンスルホン酸カリウム塩等が挙げられる。
【0094】
有機スルホン酸金属塩は、特に、透明性を向上させた成形体の成形材料とする観点から、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸のカリウム塩、p-トルエンスルホン酸カリウム塩、p-スチレンスルホン酸カリウム塩、又はドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩が好ましく、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸のカリウム塩がより好ましい。
【0095】
これらの難燃剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様の樹脂組成物において、難燃剤の含有量は、当該樹脂組成物中に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.005~0.2質量部、より好ましくは0.01~0.15質量部、更に好ましくは0.03~0.12質量部である。
なお、本発明の一態様の樹脂組成物が難燃剤を含む場合、有機スルホン酸金属塩以外の他の難燃剤の含有量は、有機スルホン酸金属塩100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.01質量部以下、更に好ましくは0.001質量部以下である。
【0096】
また、本発明の一態様の樹脂組成物は、難燃剤を実質的に含まない態様とすることもできる。当該態様における難燃剤の含有量は、当該樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.005質量部未満、より好ましくは0.001質量部未満、更に好ましくは0.0001質量部未満である。
【0097】
<難燃助剤>
本発明の一態様で用いる難燃助剤としては、例えば、シリコーン化合物等が挙げられ、樹脂組成物中での分散性を良好とし、透明性及び難燃性を向上させ得る成形体の成形材料とする観点から、分子中にフェニル基を有するシリコーン化合物が好ましい。
シリコーン化合物の重量平均分子量(Mw)としては、好ましくは450~5000、より好ましくは750~4000、更に好ましくは1000~3000、より更に好ましくは1500~2500である。
重量平均分子量が450以上であれば、生産性を良好とすると共に、難燃性をより向上させ得る。また、重量平均分子量が5000以下であれば、樹脂組成物中での分散性の低下を効果的に抑制し、難燃性や機械物性を良好に維持することができる。
【0098】
これらの難燃助剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様の樹脂組成物において、難燃助剤の含有量は、当該樹脂組成物中に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~7.5質量部、より好ましくは0.2~5質量部である。
【0099】
<紫外線吸収剤>
本発明の一態様で用いる紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤や、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物、サリチル酸フェニル系化合物等の有機紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの中でも、紫外線吸収剤としては、有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール系化合物又はベンゾフェノン系化合物がより好ましい。
【0100】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]、[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステル、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルメチル)フェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(t-ブチル)フェノール、2,4-ジ-t-ブチル-6-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラブチル)フェノール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラブチル)フェノール]、[メチル-3-[3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート-ポリエチレングリコール]縮合物等を挙げられる。
これらの中でも、ベンゾトリアゾール系化合物としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、又は2,2’-メチレン-ビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール2-イル)フェノール]が好ましい。
【0101】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2,4-ジヒドロキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシロキシ-ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-ベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシ-ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0102】
サリチル酸フェニル系化合物としては、例えば、フェニルサリシレート、4-t-ブチル-フェニルサリシレート等が挙げられる。
トリアジン系化合物としては、例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール等が挙げられる。
ヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート等が挙げられる。
【0103】
これらの紫外線吸収剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様の樹脂組成物において、紫外線吸収剤の含有量は、当該樹脂組成物中に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.1~1質量部である。
【0104】
<離型剤>
本発明の一態様で用いる離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのカルボン酸エステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン化合物等が挙げられる。
【0105】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価又は3価のカルボン酸が挙げられ、1価又は2価の炭素数6~36の飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸が好ましく、1価の炭素数6~36の脂肪族飽和カルボン酸がより好ましい。
なお、当該脂肪族カルボン酸には、脂環式カルボン酸も含まれる。
具体的な脂肪族カルボン酸としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0106】
前記カルボン酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸としては、上記と同じものが挙げられ、アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールが挙げられ、炭素数1~30の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数1~30の1価又は多価の脂肪族飽和アルコールがより好ましい。
なお、脂肪族飽和アルコールには、脂環式飽和アルコールも含まれる。また、当該アルコールの少なくとも1つの水素は、フッ素原子やアリール基等の置換基によって置換されていてもよい。
具体的なアルコールとしては、例えば、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
前記カルボン酸エステルは、不純物として、脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
具体的な前記カルボン酸エステルとしては、例えば、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0107】
前記脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。
なお、脂肪族炭化水素化合物には、脂環式炭化水素も含まれる。
また、これらの脂肪族炭化水素化合物は、部分酸化されていてもよい。
これらの中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス又はポリエチレンワックスがより好ましい。
【0108】
ポリシロキサン化合物としては、ポリシロキサン系シリコーンオイルが好ましく、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0109】
これらの離型剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様の樹脂組成物において、離型剤の含有量は、当該樹脂組成物中に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001~2質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。
【0110】
<着色剤>
本発明の一態様で用いる着色剤としては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料等が挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青等の珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青等のフェロシアン系顔料等が挙げられる。
有機顔料又は有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料(以下、染料又は顔料のことを「染顔料」ともいう);ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;キノリン系、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等が挙げられる。
これらの中でも、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系染顔料、キノリン系染顔料、アンスラキノン系染顔料、及びフタロシアニン系染顔料から選ばれる1種以上が好ましい。
また、本発明の一態様で用いる着色剤は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の観点から、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂等によってマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
【0111】
これらの着色剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様の樹脂組成物において、着色剤の含有量は、当該樹脂組成物中に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部、更に好ましくは0.1~2質量部である。
【0112】
<ポリカーボネート樹脂組成物の物性>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、より優れた難燃性を有し、より好適な一態様としては、有炎燃焼時間が短い成形体の形成材料となり得る。
具体的には、前記ポリカーボネート樹脂組成物に対して行った、UL94規格に基づく燃焼性試験の評価が、好ましくはV-2以上、より好ましくはV-1以上、更に好ましくはV-0である。
なお、本明細書における、UL94規格に基づく燃焼性試験は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定された値を意味する。
【0113】
また、本発明の一態様のポリカーボネート樹脂組成物について、後述の実施例に記載の方法に準拠して測定された有炎燃焼時間としては、好ましくは20秒以下、より好ましくは16秒以下、更に好ましくは13秒以下、より更に好ましくは10秒以下、特に好ましくは0秒である。
【0114】
<成形品>
本発明の成形体は、上述の本発明の一態様のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるものである。
本発明の一態様の成形体において、形状、模様、色彩、寸法等は、その成形体の用途に応じて適宜選択することができる。
本発明の一態様の成形体としては、例えば、電気電子機器、OA(Office Automation)機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品、各種家庭用電気製品等の部品、電気器具のハウジング、容器、カバー、収納部、ケース、照明器具のカバーやケース等とすることができる。
電気電子機器としては、例えば、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、テレビジョン受像機、液晶表示装置やプラズマ表示装置等のディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳や携帯情報末端(PDA)、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、各種音楽プレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等が挙げられる。
また、成形品として、電飾看板、液晶バックライト、照明ディスプレイ、交通標識、サインボード、スクリーン、反射板やメーター部品等の自動車部品、玩具、装飾品等も挙げられる。
【0115】
本発明一態様の成形体を製造する方法は、特に限定されず、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用することができ、例えば、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等の成形法を採用することができる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることもできる。
【実施例】
【0116】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
【0117】
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)
GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用い、下記の測定条件にて、分子量既知(分子量分布=1)の標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、製品名「PStQuick MP-M」)を用いて検量線を作成した。測定した標準ポリスチレンから各ピークの溶出時間と分子量値をプロットし、3次式による近似を行い、較正曲線を得た。
[測定条件]
・装置:東ソー株式会社製、製品名「HLC-8320GPC」
・カラム:ガードカラム(TSKguardcolumn SuperMPHZ-M)×1本、分析カラム(TSKgel SuperMultiporeHZ-M)×3本
・溶媒;クロロホルム(HPLCグレード)
・注入量;10μL
・試料濃度;0.2w/v%
・溶媒流速;0.35ml/min
・測定温度;40℃
・検出器;RI
そして、得られた較正曲線を基に、下記式から、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)をポリスチレン換算値として求め、また、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
[計算式]
Mw=Σ(Wi×Mi)/Σ(Wi)
Mn=Σ(Ni×Mi)/Σ(Ni)
分子量分布=Mw/Mn
(上記式中、iは、分子量Mを分割した際のi番目の分割点、Wiはi番目の重量、Niはi番目の分子数、Miはi番目の分子量を表す。また、分子量Mは、較正曲線の同溶出時間でのポリスチレン換算での分子量を表す。)
【0118】
(2)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(DSC)(製品名「DSC-7000」、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定した。
測定サンプルは、7~12mgの試験片を、AIオートサンプラ用試料容器(RDCアルミパン、直径6.8mm、高さ2.5mmの円柱容器)に製秤し、試料容器の上部をAIオートサンプラ用カバーによってシールして調製した。
測定は、窒素雰囲気下(窒素流量:50ml/min)で行い、参照セルには標準物質としてサファイア10.0mgを用いた。そして、30℃に調整した測定サンプルを、10℃/minで220℃まで昇温した後、10℃/minで冷却して30℃まで降温した。その後、再び10℃/minで270℃まで昇温して測定した。
【0119】
(3)熱分解温度の測定方法
示差熱熱重量同時測定装置(TG/TDA)(製品名「TGDTA7300」、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定した。
測定サンプルは、2mgの試験片を、白金パン(Ptオープン型試料容器、直径5.2mm、高さ2.5mmの円柱容器)に製秤して調製した。
測定は、窒素雰囲気下(窒素流量:250ml/min)で行い、参照セルには基準物質として、α-アルミナ0.00519gを用いた。そして、30℃に調整した測定サンプルを、10℃/minで550℃まで昇温して測定した。
【0120】
(4)構成単位の含有割合
なお、表1におけるそれぞれのポリカーボネート樹脂中の各原料モノマーに由来する構成単位の含有量比は、下記の1H-NMR測定条件に基づき、各原料モノマーに帰属する1Hの存在比を測定することで算出した。
(1H-NMR測定条件)
・装置:日本電子株式会社製、JNM-ECA500(500MHz)
・測定モード:1H-NMR
・溶媒:CDCl3(重クロロホルム)
・内部標準物質:テトラメチルシラン
【0121】
また、実施例で用いた原料化合物の構造を略称と共に以下に示す。
【化13】
【0122】
実施例1
原料モノマーとして、2BD-2EO(1.44g、8.27mmol)、BPA(68.56g、300.32mmol)及びDPC(68.09g、317.85mmol)と、触媒として、炭酸セシウム(CsCO3、2BD-2EOとBPAの合計1molに対して1×10-6mol)を300mLの四つ口フラスコに精秤し、常温及び真空下で1時間減圧乾燥を行った。その後、窒素により3回置換し、反応器内を窒素雰囲気下とした。
前記四つ口フラスコに、撹拌機及び留出装置を取り付け、窒素雰囲気の圧力101.3kPaの下、195℃まで加熱した。加熱後に原料モノマーの完全溶解を確認した後、反応器内の圧力を27kPaまで減圧し80分間撹拌を行った。
そして、昇温速度30℃/hで200℃まで昇温し、200℃で20分間保持して反応を進行させた後、反応器内の圧力を24kPaまで減圧し10分間撹拌を行った。
次いで、昇温速度60℃/hで210℃まで昇温し、反応器内の圧力を20kPaまで減圧し、10分間撹拌を行った。
また、昇温速度60℃/hで220℃まで昇温し、反応器内の圧力を14Paまで減圧し、10分間撹拌を行った後、さらに圧力を7kPaまで減圧し、10分間撹拌を行った。
そして、昇温速度60℃/hで230℃まで昇温し、反応器内の圧力を1kPa以下まで減圧し、110分間撹拌を行い、反応を終了させた。
反応終了後、反応器内に窒素を導入して常圧に戻して、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂-1)を得た。
【0123】
実施例2
原料モノマーとして、2BD(1.42g、16.50mmol)、BPA(68.56g、300.32mmol)及びDPC(69.93g、326.44mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂-2)を得た。
【0124】
比較例1
原料モノマーとして、PAE-NAP(0.71g、2.90mmol)、BPA(68.56g、300.32mmol)及びDPC(68.09g、317.85mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂-3)を得た。
【0125】
比較例2
市販のBPAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、誠意品名「ユーピロンH-4000」)を、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂-4)とした。
【0126】
得られたポリカーボネート樹脂(PC樹脂-1)~(PC樹脂-4)について、上記の測定方法に基づき、各物性値を測定すると共に、以下の難燃性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
<難燃性試験>
上記で得られたポリカーボネート樹脂(PC樹脂-1)~(PC樹脂-4)をそれぞれ射出成形機(住友重機械工業社製、製品名「SE50DUZ」)にて、シリンダー温度300℃、金型温度120℃の条件で縦12.5mm×横125mm×厚さ2mmの試験片を、射出成形により作製した。なお、実施例1及び比較例2のPC樹脂-1及びPC樹脂-4については、上記と同様の条件にて、縦12.5mm×横125mm×厚さ1mmの試験片を別途射出成形により作製した。これらの試験片は、それぞれ5本ずつ作製した。
そして、厚さ2mmの試験片、及び、厚さ1mmの試験片(実施例1、比較例2のみ)に対して、アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)に準拠した方法に基づき、難燃性の評価を行った。具体的には、作製した試験片を5本用いて、難燃性が高い順に「V-0」、「V-1」、「V-2」及び「不適合(NG)」のいずれかに分類した。また、5本の試験片のうち最も燃焼していたものの燃焼時間である有炎燃焼時間(単位:秒)も併せて測定した。
【0127】
【0128】
表1より、実施例1~2で得たPC樹脂-1、2は、優れた難燃性を有し、特に有炎燃焼時間が短い結果となった。一方で、比較例1で得たPC樹脂-3は、UL94に基づく燃焼性試験は良好であるものの、有炎燃焼時間が長く、難燃性に改善の余地がある。また、比較例2のPC樹脂-4は、難燃性が劣る結果となった。
【0129】
実施例3
(1)ポリマーB(Homo-2BD-2EO PC)の合成
原料モノマーとして、2BD-2EO(63.00g、361.7mmol)、DPC(79.80g、372.50mmol)、及び触媒として、酢酸亜鉛(Zn(Oac)2、2BD-2EOの1molに対し3×10-6mol)を300mLの四つ口フラスコに精秤し、常温・真空下で1時間減圧乾燥を行った。その後、窒素により3回置換し、反応系を窒素雰囲気下とした。
反応器を窒素雰囲気101.3kPaの下、攪拌機および留出装置付きの300mL反応器に入れ、185℃に加熱した。加熱開始10分後に原料の完全溶解を確認し、その後減圧度を27kPaに調整した。その後、同条件で140分間攪拌を行った。その後、減圧度を24kPaに調整し、60分間攪拌を行った。その後、減圧度を20kPaに調整し、20分間攪拌を行った。その後、減圧度を14Paに調整し、10分間攪拌を行った。その後、減圧度を7kPaに調整し、30分間攪拌を行った。その後、減圧度を1kPa以下に調整し、さらに110分間攪拌を行った。反応終了後、反応器内に窒素を導入して常圧に戻し、生成したポリカーボネート樹脂であるポリマーB(Homo-2BD-2EO PC)を得た。得られたポリマーBのMwは16600、Mnは5500であった。
(2)ポリカーボネート樹脂組成物の調製
樹脂混合装置であるラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所、型式:4M150)を用いて、ミキサー部を280℃に昇温し、ミキサーを30rpmで回転させた。次いで、ミキサー内に、ポリマーAとして、ビスフェノールAを原料に用いたポリカーボネート樹脂である三菱エンジニアリングプラスチックス製、ユーピロンH4000(Mw及びMnは表1に記載のとおり)を44.29g、及び、ポリマーBとして、上記(1)で得たHomo-2BD-2EO PCを0.70g投入して、120秒攪拌混合し、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。
(3)ポリカーボネート樹脂組成物の物性値の測定
得られたポリカーボネート樹脂について、上記の測定方法に基づき、各物性値を測定したところ、表2に示すとおりであった。また、上述の難燃性試験の条件と同様にして、縦12.5mm×横125mm×厚さ2mmの試験片を射出成形により作製して、当該試験片を用いて、上記と同じ手順で難燃性試験(UL94)を行った。その結果、V-0であり、有炎燃焼時間は5秒であった。
【0130】