(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】難燃性ポリアミド樹脂組成物及びそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20250311BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20250311BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20250311BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20250311BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20250311BHJP
C08L 77/02 20060101ALI20250311BHJP
H01R 13/533 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K5/3492
C08K5/09
C08K5/524
C08K5/13
C08L77/02
H01R13/533 A
(21)【出願番号】P 2021543701
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2020031721
(87)【国際公開番号】W WO2021044880
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019159572
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信宏
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-018179(JP,A)
【文献】特開2003-301104(JP,A)
【文献】特開2018-035221(JP,A)
【文献】特開平11-026060(JP,A)
【文献】特表2019-530758(JP,A)
【文献】特開2017-082203(JP,A)
【文献】特開2008-030289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/06
C08K 5/3492
C08K 5/09
C08K 5/524
C08K 5/13
C08L 77/02
H01R 13/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)97.5~
94.5質量部及びメラミンシアヌレート(B)2.5~
5.5質量部の割合で含有し、前記ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド66樹脂(A-1)50~80質量部、ポリアミド6樹脂(A-2)15~45質量部の割合であり、かつ前記成分(A)及び(B)の合計100質量部に対して、リン系酸化防止剤(C)を0.01~1質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)を0.01~1質量部、及び脂肪酸金属塩系潤滑剤(E)を
0.1~
0.8質量部の割合で含有
し、
前記リン系酸化防止剤(C)が、ペンタエリスリトールジホスファイト骨格を有する化合物であることを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸金属塩系潤滑剤(E)が、炭素数22~30の脂肪族カルボン酸の金属塩である請求項1に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1
または2のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物からなる、ヒンジ部を有する成形品。
【請求項4】
前記ヒンジ部を有する成形品が、フェライトコアカバー、結束バンド、電気配線保護部材のいずれかである請求項
3に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非ハロゲン系の難燃性ポリアミド樹脂組成物に関する。詳しくは高い難燃性と良好な靱性を有し、かつ耐熱変色性に優れた非ハロゲン系の難燃性ポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的特性、電気特性、耐薬品性などに優れることを利用して、電気・電子部品、自動車部品などの各種分野で使用されている。これらの分野において、非強化系でかつ非ハロゲン系難燃剤による難燃性付与が要求される場合、難燃剤としてメラミンシアヌレートが用いられている(例えば、特許文献1、2)。
しかしながら、メラミンシアヌレートは、ポリアミド樹脂に対する分散性が悪くポリアミド樹脂の機械的特性が低下する、配合量が多くなるとブリードする、熱分解によりメラミンとシアヌル酸とに分解し昇華しやすく、昇華したメラミン及びシアヌル酸の影響で成形加工時に成形品表面にシルバーが発生したり金型表面を汚染しやすい、などの欠点を有している。
【0003】
近年、電気・電子部品、自動車部品などに対する各種の要求レベルが高くなり、ヒンジ部などの薄肉部を有する部品において、難燃性はUL94の厚み0.4mmでV-0のレベルが要求されるともに、難燃剤のブリードがなく、耐熱変色性、成形性、さらには部品のスナップフィット性など、より高いレベルが望まれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭58-25379号公報
【文献】特公昭58-35541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒンジ部などの薄肉部を有する成形部品に好適で、UL94の厚み0.4mmでV-0レベルの難燃性を有するとともに、難燃剤のブリードがなく、耐熱変色性、成形性、部品のスナップフィット性などに優れる難燃性ポリアミド樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決する為に鋭意研究をした結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の構成を有するものである。
[1] ポリアミド樹脂(A)97.5~94質量部及びメラミンシアヌレート(B)2.5~6質量部の割合で含有し、前記ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド66樹脂(A-1)50~80質量部、ポリアミド6樹脂(A-2)15~45質量部の割合であり、かつ前記成分(A)及び(B)の合計100質量部に対して、リン系酸化防止剤(C)を0.01~1質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)を0.01~1質量部、及び脂肪酸金属塩系潤滑剤(E)を0.05~1質量部の割合で含有することを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[2] 前記リン系酸化防止剤(C)が、ペンタエリスリトールジホスファイト骨格を有する化合物である[1]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[3] 前記脂肪酸金属塩系潤滑剤(E)が、炭素数22~30の脂肪族カルボン酸の金属塩である[1]または[2]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物からなる、ヒンジ部を有する成形品。
[5] 前記ヒンジ部を有する成形品が、フェライトコアカバー、結束バンド、電気配線保護部材のいずれかである[4]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、耐熱変色性、成形性に優れるのみならず、成形品は適度の弾力性を有し、高い破断強さを有するため、スナップフィット性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を具体的に説明する。
[ポリアミド樹脂(A)]
本発明におけるポリアミド樹脂(A)としては、主鎖中にアミド結合(-NHCO-)を有する重合体であれば特に限定されない。ポリアミド樹脂(A)は、結晶性であることが好ましく、例えばポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリメタキシリレンアジパミド(PAMXD6)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸重合体(PA6T)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸およびアジピン酸重合体(PA6T/66)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸およびεカプロラクタム共重合体(PA6T/6)、トリメチルヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸重合体(PATMD-T)、メタキシリレンジアミンとアジピン酸およびイソフタル酸共重合体(PAMXD6/MXDI)、トリヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸およびε-カプロラクタム共重合体(PATMDT/6)、ジアミノジシクロヘキシレンメタンとイソフタル酸およびラウリルラクタム共重合体等の結晶性ポリアミド樹脂、もしくはこれらのブレンド物等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0010】
ポリアミド樹脂(A)の配合量(含有量)は、ポリアミド樹脂(A)及びメラミンシアヌレート(B)の合計100質量部としたとき、97.5~94質量部である。ポリアミド樹脂(A)の配合量がこの範囲にあることで、難燃剤のブリード抑制、かつ高い難燃性の保持を組成物に与えることができる。ポリアミド樹脂(A)の配合量(含有量)は、97~94.5質量部が好ましく、97~95質量部がより好ましい。本発明の難燃ポリアミド樹脂組成物においては、各成分の配合量がそのまま含有量となる。
【0011】
成形性、溶融流動性、難燃性に優れるなどの点で、本発明におけるポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド66樹脂(A-1)とポリアミド6樹脂(A-2)との混合物が好ましい態様である。
【0012】
本発明におけるポリアミド66樹脂(A-1)としては、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンを原料とし、これらの重縮合によって得られるポリアミド66樹脂が挙げられる。ポリアミド66樹脂(A-1)の相対粘度は、JIS K6810に従って、98%硫酸中濃度1%、温度25℃で測定した値で、好ましくは2.2~3.5である。相対粘度が2.2未満であると機械的性質が低下しやすく、3.5を越えると溶融流動性が不足しやすい。ポリアミド66樹脂(A-1)の相対粘度は、より好ましくは2.3~3.0である。
【0013】
ポリアミド66樹脂(A-1)の末端アミノ基濃度は、特に限定されないが、50~90eq/tonであることが好ましく、60~80eq/tonであることが、耐熱変色性の点でより好ましい。
【0014】
ポリアミド66樹脂(A-1)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)及びメラミンシアヌレート(B)の合計100質量部としたとき、50~80質量部であることが好ましい。ポリアミド66樹脂(A-1)の配合量が80質量部を越えるとヒンジ性(スナップフィット性)が低下し、50質量部未満であると成形加工性が低下しやすい。ポリアミド66樹脂(A-1)の配合量は、スナップフィット性と成形加工性のバランスの点より、75~55質量部がより好ましい。
【0015】
本発明におけるポリアミド6樹脂(A-2)としては、ε-カプロラクタムを原料とし、重縮合によって得られるポリアミド6樹脂である。ポリアミド6樹脂(A-2)の相対粘度は、JIS K6810に従って、98%硫酸中濃度1%、温度25℃で測定した値で、好ましくは2.0~4.5である。相対粘度が2.0未満であると機械的性質が低下しやすく、4.5を越えると難燃性を損ないやすい。ポリアミド6樹脂(A-2)の相対粘度は、より好ましくは2.2~3.5である。
【0016】
ポリアミド6樹脂(A-2)の末端アミノ基濃度は、特に限定されないが、50~90eq/tonであることが好ましく、60~80eq/tonであることが、耐熱変色性の点でより好ましい。
【0017】
ポリアミド6樹脂(A-2)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)及びメラミンシアヌレート(B)の合計100質量部としたとき、15~45質量部であることが好ましい。ポリアミド6樹脂(A-2)の配合量が15質量部未満であるとヒンジ性(スナップフィット性)が低下しやすく、45質量部を越えると成形加工性が低下しやすい。ポリアミド6樹脂(A-2)の配合量は、スナップフィット性と成形加工性のバランスの点より、20~40質量部がより好ましい。
【0018】
成形品の外観を向上させるために、非晶性ポリアミド樹脂(A-3)を配合することもできる。
非晶性ポリアミド樹脂としては、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルメタン(CA)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、メタキシリレンジアミン(MXD)、トリメチルヘキサメチレンジアミン(TMD)、イソフォロンジアミン(IA)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン(PACP)、ヘキサメチレンジアミン等のジアミンと、テルフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等のジカルボン酸およびカプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム類から重縮合して得られる重合体または共重合体もしくはブレンド物等を例示することができる。
【0019】
[メラミンシアヌレート(B)]
本発明におけるメラミンシアヌレート(B)としては、シアヌル酸とメラミンとの等モル反応物が好ましく挙げられる。また、メラミンシアヌレート中のアミノ基又は水酸基の一部が、他の置換基で置換されていても良い。メラミンシアヌレートは、例えば、シアヌル酸の水溶液とメラミンの水溶液とを混合し、90~100℃の撹拌下で反応させて、生成した沈殿をろ過することによって得ることができる。得られた固体はそのままでも使用できるが、必要に応じて粉砕して使用することが好ましい。粒子径として特に制限はないが、難燃性と靱性の観点から、好ましくは平均粒子径が0.5~20μmであり、より好ましくは1~15μmである。
【0020】
メラミンシアヌレート(B)の配合量(含有量)は、ポリアミド樹脂(A)及びメラミンシアヌレート(B)の合計100質量部としたとき、2.5~6質量部である。難燃性の観点から2.5質量部以上であり、靱性の観点から6質量部以下である。より好ましくは3~5.5質量部であり、さらに好ましくは3~5質量部である。本発明では、靱性はスナップフィット性に関連する特性である。
【0021】
[リン系酸化防止剤(C)]
本発明におけるリン系酸化防止剤(C)としては、無機化合物でも有機化合物でもよく、特に制限はない。好ましいリン系化合物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン、などの無機リン酸塩、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルアルキルホスファイト、フェニルジアルキルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジイソデシルオキシペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリス(tert-ブチルフェニル))ペンタエリスリトールジホスファイト、トリステアリルソルビトールトリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、6-イソオクチルオキシ-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチル-12H-ジベンゾ[d,g]-1,3,2-ジオキサホスホシン、6-フルオロ-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチル-12-メチル-ジベンゾ[d,g]-1,3,2-ジオキサホスホシン、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)メチルホスファイト及びビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイトなどが挙げられ、耐熱変色性を高めるために配合される。
【0022】
リン系酸化防止剤(C)としては、ホスファイト化合物が好ましい。ホスファイト化合物のなかでも、ペンタエリスリトールジホスファイト骨格を有する化合物が好ましい。具体的には、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP-36」、分子量633)、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP-24G」、分子量604)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP-8」、分子量733)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP-4C」、分子量633)などのペンタエリスリトールジホスファイト骨格を有し、分子量が600~800程度のものが、難燃性を低下させることなく、離型性をより向上させることができ、かつスナップフィット性にも好適な点で特に好ましい。
【0023】
リン系酸化防止剤(C)の配合量(含有量)は、ポリアミド樹脂(A)及びメラミンシアヌレート(B)の合計100質量部としたとき、0.01~1質量部である。リン系酸化防止剤(C)の配合量がこの範囲にあることで、押出加工時の変色を抑制し、かつリン由来のラジカルによる二次的な酸化劣化を誘発することを防ぐことができる。リン系酸化防止剤(C)の配合量は、0.1~0.5質量部が好ましい。
【0024】
[ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)]
本発明におけるヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)としては、N,N’-ヘキサメチレン-ビス-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド、ビス(3,3-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチルフェニル)ブタン酸)グリコールエステル、2,1’-チオエチルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート「SONGNOX2450」、分子量633)などが挙げられ、これらの二つ以上の混合物も用いることができる。
【0025】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の配合量(含有量)は、ポリアミド樹脂(A)及びメラミンシアヌレート(B)の合計100質量部としたとき、0.01~1質量部である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の配合量がこの範囲にあることで、ポリアミド組成物の配位結合に応じた適切な処方量で経時的な酸化劣化を防止することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の配合量は、0.1~0.5質量部が好ましい。
【0026】
[脂肪酸金属塩系潤滑剤(E)]
本発明における脂肪酸金属塩系潤滑剤(E)としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、及びモンタン酸等の炭素数12~40の脂肪酸の金属塩が挙げられる。中でも炭素数22~30の脂肪族カルボン酸の金属塩が好ましく、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩が離形性の点でより好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム塩などが挙げられる。
【0027】
脂肪酸金属塩系潤滑剤(E)の配合量(含有量)は、ポリアミド樹脂(A)及びメラミンシアヌレート(B)の合計100質量部としたとき、0.05~1質量部である。0.05質量部未満であると離形性が低下し、1質量部を超えると難燃性が低下する虞がある。脂肪酸金属塩系潤滑剤(E)の配合量は、0.1~0.8質量部が好ましい。
【0028】
[その他の成分]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の他に、他の成分、例えば顔料、染料等の着色剤や、熱安定剤、耐候性改良剤、核剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤等の添加剤、他の樹脂ポリマー等を添加することができる。本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物には、上述した(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)成分の合計で、80質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることが更に好ましい。
【0029】
本発明の難燃ポリアミド樹脂組成物を用いて得られる好適な成形部品としては、ヒンジ部を有する成形品であり、具体的には、電気・電子部品、自動車部品などの分野で用いられるコネクター、コイルボビン、ブレーカー、電磁開閉器、ホルダー、プラグ、ソケット、スイッチ、ケース、カバーなどの薄肉のヒンジ部を有する成形部品であり、より具体的には、フェライトコアカバー、結束バンド、電気配線保護部材など、耐熱変色性、スナップフィット性が求められる部品である。
【0030】
本発明の難燃ポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、混練装置として一般の単軸押出機や二軸押出機、加圧ニーダー等が使用できるが、本発明においては二軸押出機が特に好ましい。一実施様態としては、前記(A)、(B)、(C)、(D)、(E)および用途によっては顔料等を混合し、二軸押出機に投入する。二軸押出機によって均一に混練することにより強靭性と難燃性に優れたポリアミド系樹脂組成物を製造することができる。二軸押出機の混練温度は220~300℃で混練時間は2~15分程度が好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0032】
各成分は下記のものを用いた。
ポリアミド樹脂(A);
A1:ポリアミド66(RV=2.8) Vydyne 21FSR(Ascend社製)、融点265℃
A2:ポリアミド6(RV=2.6) ZISAMIDE TP4208(集盛社製)、融点225℃
【0033】
メラミンシアヌレート(B);
B:MC6000(日産化学株式会社製)
【0034】
リン系酸化防止剤(C);
C1:アデカスタブPEP-36(ADEKA株式会社製)
C2:アデカスタブ3010(トリイソデシルホスファイト)(ADEKA株式会社製)
【0035】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D);
D:SONGNOX2450(ソンウォンインターナショナルジャパン社製)
【0036】
脂肪酸金属塩系潤滑剤(E);
E1:モンタン酸カルシウム CS-8-CP(日東化成工業株式会社製)
その他の離型剤;
E2:脂肪族エステル リコルブ WE-40(クラリアントジャパン株式会社製)
【0037】
[実施例1~6(実施例6は参考例である)、比較例1~4]
評価サンプルの製造は、表1に示したポリアミド樹脂組成物の配合割合に各原料を計量し、タンブラーで混合した後、二軸押出機に投入した。二軸押出機の設定温度は250℃~300℃、混錬時間は5~10分とした。得られたペレットは、射出成形機で各種の評価サンプルを成形した。射出成形機のシリンダー温度は、250℃~290℃、金型温度は80℃とした。
【0038】
各種の評価方法は以下の通りである。評価結果を表1示した。
1.ポリアミド樹脂の相対粘度[RV](98%硫酸溶液法)
ウベローデ粘度管を用い、25℃において98質量%硫酸溶液で、ポリアミド樹脂濃度1g/dlで測定した。
2.ポリアミド樹脂の融点
示差走査熱量計 セイコーインスツルメンツ株式会社 EXSTAR 6000を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、吸熱ピーク温度を求めた。
3.スナップフィット性(引張強度、引張伸度):ISO527に準じて測定した。
4.燃焼性:UL94、垂直燃焼試験に準じて測定した。V-0が、最も難燃性が高いことを表す。
5.ブリード性:厚み2mmの100mm×100mmの成形品を温度80℃、95%RHに設定した恒温恒湿槽に96時間静置を少なくとも2回以上繰り返し、その後室温に戻して表面に析出物が存在するか、実体顕微鏡にて目視で確認した。
6.熱変色性:温度120℃、オーブン内放置時間8hr後のペレットと処理前ペレットとの色差(ΔE)を算出した。
7.成形性:離型力測定装置を取り付けた金型を用いて上記成形温度条件で成形を行い、31ショット目から35ショットまでの離型力を測定して離型抵抗値を求めた。
【0039】
【0040】
実施例1~6は、いずれも引張伸度が20%以上であり、ポリアミド樹脂(A)が本来有する靭性を保持している。加えて、引張強度も大きく損なっていないため良好なスナップフィット性が得られることが期待される。0.4mmの厚みにおける難燃性においても、実施例1~6はV-0評価を実現している。熱変色性においても、実施例1~6は120℃、8hr後のΔEは20以下であり、熱環境下での変色が抑制されていることがわかる。成形性においても、成形品の離型時の抵抗値が1MPa以下であり、連続成形をしても離型中に成形品が変形したり、癒着する可能性が極めて少ない組成物となっている。また、ペンタエリスリトールジホスファイト骨格を有するリン系酸化防止剤を用いた実施例1~5と、そうでないリン系酸化防止剤を用いた実施例6を対比すると、前者ではスナップフィット性、熱変色性、成形性(離型性)がより優れていることが分かる。
【0041】
一方、比較例1~4は部分的には特性を満たすものの、比較例1は成形品の離型時の抵抗値が5MPaであり、連続成形中に成形品が離型せずに残存する可能性があり好ましくない。比較例2は120℃、8hr後のΔEが26となっており、熱環境下におかれた際の変色が大きく、外観部品として好ましくない。比較例3は0.4mmの厚みにおける難燃性がV-2評価となっており、十分な難燃性を保持しているとは言い難い。最後に比較例4は引張伸度が17%となっており、スナップフィット性の不足からの脆性的な破壊を抑制できておらず、好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、ヒンジ部を有する成形品に好適で、得られた成形品は、スナップフィト性に優れるため、スナップフィット性に優れることが望まれる電気・電子部品、自動車部品などに好適に用いることができる。