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  • 特許-ポリアミド樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20250311BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20250311BHJP
   C08L 23/26 20250101ALI20250311BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/00
C08L23/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021553652
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040426
(87)【国際公開番号】W WO2021085472
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2019197098
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】廣木 鉄郎
(72)【発明者】
【氏名】安井 哲也
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-204675(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117072(WO,A1)
【文献】特開2007-204674(JP,A)
【文献】特開2013-249363(JP,A)
【文献】特開2012-092290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂組成物100質量%中に、ポリアミド樹脂(A)を73~85質量%、オレフィン系アイオノマー(B)を5~20質量%及び耐衝撃材(C)を5~20質量%を含み、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量%中に、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)を40質量%以上含み、
前記脂肪族共重合ポリアミド(A-1)が、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸共重合体(ポリアミド6/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアゼライン酸共重合体(ポリアミド6/69)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸共重合体(ポリアミド6/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノウンデカン酸共重合体(ポリアミド6/611)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノドデカン酸共重合体(ポリアミド6/612)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ポリアミド6/11)、カプロラクタム/ラウロラクタム共重合体(ポリアミド6/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ラウロラクタム共重合体(ポリアミド6/66/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸共重合体(ポリアミド6/66/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノドデカンジカルボン酸共重合体(ポリアミド6/66/612)からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記耐衝撃材(C)が、カルボン酸及び/又はその誘導体並びに/又は不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された(エチレン及び/又はプロピレン)/α-オレフィン系共重合体、並びに、カルボン酸及び/又はその誘導体並びに/又は不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性されていてもよい(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル)系共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、
ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、耐熱剤(D)を0.1~3質量%含む請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)100質量%中の脂肪族ホモポリアミド(A-3)が60質量%未満である請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族共重合ポリアミド(A-1)が、ポリアミド6/66及びポリアミド6/66/12からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記オレフィン系アイオノマー(B)が、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を金属又は金属イオンによって中和したものである請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂肪族共重合ポリアミド(A-1)のJIS K 6920に準拠して測定した相対粘度が3.0以上である請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記オレフィン系アイオノマー(B)のJIS K7210(1999年)に準拠して190℃、2.16kgの荷重で測定したMFRが2g/10分以下である請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記耐衝撃材(C)のASTM D1238に準拠して190℃、2.16kgの荷重で測定したMFRが2g/10分以下である請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物のブロー成形品。
【請求項10】
タンク、チューブ、ホース及びフィルムからなる群から選択される形状の高圧ガスと接触する成形品である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、優れた機械的特性、耐熱性、耐薬品性を有することから、エンジニアリングプラスチックスとして様々な用途で展開され、様々な成形方法によって使用されている。そのなかで、ブロー成形によるブロー成形品としての利用も進んでいる。今後急速に拡大が見込まれるFCV(燃料電池自動車)においては、燃料を入れるための大型のブロー成形品が求められている。
【0003】
ポリアミド樹脂にポリフェニレンスルフィド樹脂、エチレン系アイオノマー樹脂及びオレフィン系エラストマー樹脂を加えたポリアミド樹脂組成物が、ブロー成形性と低温靱性及びバリア性に優れることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、6-66共重合ナイロン及び変性ポリオレフィンからなるポリアミド樹脂組成物が、柔軟性、ガスバリア性、及びブロー成形性に優れることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-204675号公報
【文献】特開平11-245927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オレフィン系エラストマー樹脂等の耐衝撃材をポリアミド樹脂に配合すると、ドローダウン性及び低温靭性が向上することは知られているが、その一方で、ブロー成形品の金型転写性、焼け、内表面凹凸、寸法安定性及び耐ブリスター性は劣るという問題があった。
【0006】
これらの特許文献1及び2では、ブロー成形性の寸法安定性として、成形品の肉厚が全体として偏りがないことを確認している。ブロー成形品においては、特に溶着部の肉厚が薄くなる傾向があり、耐ブリスター性や極低温での機械特性が求められる高圧ガスタンクなどにブロー成形品を使用した場合、この溶着部に亀裂が入ったり、脆弱であることが問題となっている。したがって、ブロー成形品は、全体として肉厚に偏りがないことに加え、溶着部の肉厚が他の箇所に比較して薄くならないことが求められている。
【0007】
したがって、本発明は、ブロー成形品における低温靭性と、ブロー成形性(ドローダウン性、ブロー成形品の金型転写性、焼けの抑制、内表面凹凸の抑制及び寸法安定性)と、耐ブリスター性とを並立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、たとえば、以下の[1]~[7]である。
[1]ポリアミド樹脂組成物100質量%中に、ポリアミド樹脂(A)を60~85質量%、オレフィン系アイオノマー(B)を5~20質量%及び耐衝撃材(C)を5~20質量%を含み、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量%中に、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)を20質量%以上含むポリアミド樹脂組成物。
[2]さらに、耐熱剤(D)を 0.1~3質量%含む[1]のポリアミド樹脂組成物。
[3]前記ポリアミド樹脂(A)100質量%中の脂肪族ホモポリアミド(A-3)が75質量%未満である[1]又は[2]のポリアミド樹脂組成物。
[4]前記脂肪族共重合ポリアミド(A-1)が、ポリアミド6/66及びポリアミド6/66/12からなる群から選択される少なくとも1種を含む[1]~[3]のいずれかのポリアミド樹脂組成物。
[5]前記脂肪族共重合ポリアミド(A-1)のJIS K 6920に準拠して測定した相対粘度が3.0以上である[1]~[4]のいずれかのポリアミド樹脂組成物。
[6]前記オレフィン系アイオノマー(B)のJIS K7210(1999年)に準拠して190℃、2.16kgの荷重で測定したMFRが2g/10分以下である[1]~[5]のいずれかのポリアミド樹脂組成物。
[7]前記耐衝撃材(C)のASTM D1238に準拠して190℃、2.16kgの荷重で測定したMFRが2g/10分以下である[1]~[6]のいずれかのポリアミド樹脂組成物。
[8][1]~[7]のいずれかのポリアミド樹脂組成物のブロー成形品。
[9]タンク、チューブ、ホース及びフィルムからなる群から選択される形状の高圧ガスと接触する成形品である、[1]~[7]のいずれかのポリアミド樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ブロー成形性(ドローダウン性、ブロー成形品の金型転写性、焼けの抑制、表面凹凸の抑制及び寸法安定性)と、低温靭性と、耐ブリスター性とを並立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1はブロー成形品である円筒状3リットルボトルを示すものであり、図1(a)は全体の縦断面図、図1(b)は底部の上面図、図1(c)は底部における溶着部とその近傍の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中に、ポリアミド樹脂(A)を60~85質量%、オレフィン系アイオノマー(B)を5~20質量%及び耐衝撃材(C)を5~20質量%を含み、前記ポリアミド樹脂(A)100質量%中に、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)を20質量%以上含むポリアミド樹脂組成物に関する。
【0012】
(A)ポリアミド樹脂
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)を含む。
ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂(A)は、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)をポリアミド樹脂(A)100質量%中に、20質量%以上含み、好ましくは40質量%以上含み、より好ましくは60質量%以上含み、さらに好ましくは80質量%以上含み、最も好ましくは、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)のみを含む。脂肪族共重合ポリアミド(A-1)を上記範囲で含むことにより、成形温度を下げることができ、ブロー成形品の焼け抑制及び寸法安定性が優れる。
ポリアミド樹脂(A)は、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)以外に、芳香族共重合ポリアミド(A-2)、脂肪族ホモポリアミド(A-3)及び芳香族ホモポリアミド(A-4)から成る群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。これらの中でも、脂肪族ホモポリアミドが好ましい。
【0013】
(A-1)脂肪族共重合ポリアミド
脂肪族共重合ポリアミド(A-1)は、2種以上の脂肪族の構成単位からなるポリアミド樹脂である。脂肪族共重合ポリアミド(A-1)は、ジアミンとジカルボン酸との組合せ、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群から選択されるモノマーの共重合体である。ここで、ジアミンとジカルボン酸の組み合わせは、1種類のジアミンと1種類のジカルボン酸の組合せで1種類のモノマーとみなす。
【0014】
ジアミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ペプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカンジアミン、テトラデカンジアミン、ペンタデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン、ヘプタデカンジアミン、オクタデカンジアミン、ノナデカンジアミン、エイコサンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、2,2,4/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3-/1,4-シクロヘキシルジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3-/1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、5-アミノ-2,2,4-トリメチル-1-シクロペンタンメチルアミン、5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキサンメチルアミン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、ビス(アミノエチル)ピペラジン、ノルボルナンジメチレンアミン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。これらの中でも重合生産性の観点から、脂肪族ジアミンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、直鎖状脂肪族ジアミンからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、ヘキサメチレンジアミンが更に好ましい。これらのジアミンは1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0015】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、トリデカンジオン酸、テトラデカンジオン酸、ペンタデカンジオン酸、ヘキサデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸は1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0016】
ラクタムとしては、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、ウンデカンラクタム、ドデカンラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン、ラウロラクタム等が挙げられる。これらの中でも重合生産の観点から、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ドデカンラクタム及びラウロラクタムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
これらのラクタムは1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
また、アミノカルボン酸としては6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸が挙げられる。これらの中でも重合生産の観点から、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、及び12-アミノドデカン酸からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
これらのアミノカルボン酸は1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0017】
脂肪族共重合ポリアミド(A-1)として具体的には、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸共重合体(ポリアミド6/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアゼライン酸共重合体(ポリアミド6/69)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸共重合体(ポリアミド6/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノウンデカン酸共重合体(ポリアミド6/611)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノドデカン酸共重合体(ポリアミド6/612)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ポリアミド6/11)、カプロラクタム/ラウロラクタム共重合体(ポリアミド6/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ラウロラクタム共重合体(ポリアミド6/66/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸共重合体(ポリアミド6/66/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノドデカンジカルボン酸共重合体(ポリアミド6/66/612)等の脂肪族共重合ポリアミドが挙げられる。脂肪族共重合ポリアミド(A-1)は1種単独で用いても、2種以上を組合せた混合物として用いてもよい。
【0018】
これらの中でも、融点が低いものが好ましい。融点が低いと、成形温度を下げることができるため、焼けの抑制、内面凹凸の抑制が可能であるとともに、ドローダウン性が良好になる。融点は、示差走査熱量計(DSC)でISO11357-3に準じて、窒素雰囲気下で、20℃/分で昇温して測定した値が240℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0019】
これらの中でも、生産性の観点から、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12及びポリアミド6/66/12からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ポリアミド6/66及びポリアミド6/66/12からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、ポリアミド6/66が特に好ましい。
【0020】
また、焼けの抑制及びドローダウン性の観点から、ポリアミド6を含む共重合体は、ポリアミド6の割合が、60~95%であることが好ましい。
これらの脂肪族共重合ポリアミド(A-1)は、各々単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。2種以上の混合物として用いる場合は、その中の1種としてポリアミド6/66を用いると、ブロー成形性及び耐ブリスター性の点から、好ましい。
【0021】
脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の製造装置としては、バッチ式反応釜、一槽式ないし多槽式の連続反応装置、管状連続反応装置、一軸型混練押出機、二軸型混練押出機等の混練反応押出機等、公知のポリアミド製造装置が挙げられる。重合方法としては溶融重合、溶液重合や固相重合等の公知の方法を用い、常圧、減圧、加圧操作を繰り返して重合することができる。これらの重合方法は単独で、あるいは適宜、組合せて用いることができる。
【0022】
脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の相対粘度は、成形加工性の観点から、JIS K 6920に準拠し、脂肪族共重合ポリアミド1gを96%濃硫酸100mlに溶解させ、25℃で測定した相対粘度が3.0以上であることが好ましく、 3.5以上5.0以下がより好ましい。
【0023】
脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の末端アミノ基濃度は、フェノールとメタノールの混合溶媒に溶解させ、中和滴定で求められる。脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の末端アミノ基濃度は、30μmol/g以上であることが好ましく、30μmol/g以上50μmol/g以下がより好ましい。末端アミノ基濃度が前記範囲にあると、後述するオレフィン系アイオノマー(B)との相溶性が良好となるため、ドローダウン性、寸法安定性及び耐ブリスター性の点から好ましい。
【0024】
(A-2)芳香族共重合ポリアミド
芳香族ポリアミドとは、芳香族系モノマー成分を少なくとも1成分含む芳香族ポリアミド樹脂であり、例えば、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミン、または芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを原料とし、これらの重縮合によって得られるポリアミド樹脂である。芳香族共重合ポリアミド(A-2)は、上記芳香族ポリアミド樹脂の中で、2種以上の構成単位からなるポリアミド樹脂である。ここで、ジアミンとジカルボン酸の組み合わせは、1種類のジアミンと1種類のジカルボン酸の組合せで1種類のモノマーとみなす。
【0025】
原料の脂肪族ジアミン及び脂肪族ジカルボン酸としては、前記の脂肪族共重合ポリアミドの説明で例示したものと同様のものが挙げられ、脂環式ジアミン及び脂環式ジカルボン酸として例示したものも含まれる。
芳香族ジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸としては、ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等が挙げられる。
これらの芳香族ジアミン及び芳香族ジカルボン酸は1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
また、芳香族共重合ポリアミド樹脂は、ラクタム、アミノカルボン酸由来の構成単位を含んでいてもよく、ラクタム、アミノカルボン酸としては、前記の脂肪族共重合ポリアミド樹脂の原料として例示したものと同様のものが挙げられる。
これらのラクタム、アミノカルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
芳香族共重合ポリアミド(A-2)の具体的な例としては、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6I/6)、ポリドデカミド/ポリヘキサメチレンテレフタラミドコポリマー(ポリアミド12/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ポリアミド6T/M5T)などが挙げられる。芳香族共重合ポリアミド(A-2)は1種単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中でも、ポリアミド6T/6Iが好ましい。
【0027】
芳香族共重合ポリアミド(A-2)の製造装置、重合方法としては、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の項で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0028】
本発明における芳香族共重合ポリアミド(A-2)の重合度には特に制限はないが、JIS K 6920に従って98% 硫酸中濃度1%、(A-2)芳香族共重合ポリアミドの樹脂温度25℃で測定した相対粘度が、1.5~4.0であることが好ましく、1.8~3.0であることがより好ましい。
【0029】
芳香族共重合ポリアミド(A-2)の末端アミノ基濃度は、フェノールとメタノールの混合溶媒に溶解させ、中和滴定で求められる。芳香族共重合ポリアミド(A-2)の末端アミノ基濃度は、2.00×10-5eq/g以上6.00×10-5eq/g以下が好ましい。
【0030】
芳香族共重合ポリアミド(A-2)がポリアミド樹脂(A)に含まれる場合、ポリアミド樹脂(A)100質量%に含まれる芳香族共重合ポリアミド(A-2)の含有量は、機械物性と成形性の観点から1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0031】
(A-3)脂肪族ホモポリアミド
脂肪族ホモポリアミド(A-3)は、1種類の脂肪族の構成単位からなるポリアミド樹脂である。脂肪族ホモポリアミド(A-3)は、1種類のラクタム及び当該ラクタムの加水分解物であるアミノカルボン酸の少なくとも一方からなるものであってもよく、1種類のジアミンと1種類のジカルボン酸との組合せからなるものであってもよい。ここで、ジアミンとジカルボン酸の組み合わせは、1種類のジアミンと1種類のジカルボン酸の組合せで1種類のモノマーとみなす。
【0032】
ラクタムとしては、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の原料として例示したものと同様のものがε挙げられる。これらの中でも重合生産の観点から、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ドデカンラクタム及びラウロラクタムからなる群から選択される1種が好ましい。
また、アミノカルボン酸としては脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の原料として例示したものと同様のものが挙げられる。これらの中でも重合生産の観点から、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、及び12-アミノドデカン酸からなる群から選択される1種が好ましい。
【0033】
ジアミンとしては、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の原料として例示したものと同様のものが挙げられる。これらの中でも重合生産性の観点から、脂肪族ジアミンが好ましく、ヘキサメチレンジアミンがより好ましい。
【0034】
ジカルボン酸としては、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の原料として例示したものと同様のものが挙げられる。これらの中でも脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸、セバシン酸及びドデカンジオン酸からなる群から選択される1種がより好ましく、セバシン酸又はドデカンジオン酸が更に好ましい。
【0035】
脂肪族ホモポリアミド(A-3)として具体的には、ポリカプロラクタム(ポリアミド6)、ポリエナントラクタム(ポリアミド7)、ポリウンデカンラクタム(ポリアミド11)、ポリラウロラクタム(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンドデカミド(ポリアミド412)、ポリペンタメチレンアゼラミド(ポリアミド59)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリペンタメチレンドデカミド(ポリアミド512)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ポリアミド69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリノナメチレンアジパミド(ポリアミド96)、ポリノナメチレンアゼラミド(ポリアミド99)、ポリノナメチレンセバカミド(ポリアミド910)、ポリノナメチレンドデカミド(ポリアミド912)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンアゼラミド(ポリアミド109)、ポリデカメチレンデカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリドデカメチレンアジパミド(ポリアミド126)、ポリドデカメチレンアゼラミド(ポリアミド129)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1210)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)、ポリアミド122等が挙げられる。脂肪族ホモポリアミド(A-3)は1種単独で用いても、2種以上を組合せた混合物として用いてもよい。
【0036】
中でも脂肪族ホモポリアミド(A-3)は、重合生産性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610及びポリアミド612からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610及びポリアミド612ら選択される少なくとも1種がより好ましく、ポリアミド6が更に好ましい。
【0037】
脂肪族ホモポリアミド(A-3)の製造装置、重合方法としては、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の項で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0038】
脂肪族ホモポリアミド(A-3)の相対粘度は、JIS K 6920に準拠し、脂肪族ホモポリアミド1gを96%濃硫酸100mlに溶解させ、25℃で測定される。脂肪族ホモポリアミドの相対粘度は、2.7以上であることが好ましく、2.7以上5.0以下であることがより好ましい。更に本発明の効果を向上させる観点から、2.7以上4.5未満がさらに好ましい。2.7以上であると、ポリアミド組成物の溶融粘度が低すぎることがないため、特にブロー成形時のパリソン形状保持が良好であり、5.0以下であるとポリアミド組成物の溶融粘度が高すぎることがなく、ブロー成形時、溶融樹脂の均一な肉厚が得られる。
【0039】
脂肪族ホモポリアミド(A-3)の末端アミノ基濃度は、フェノールとメタノールの混合溶媒に溶解させ、中和滴定で求められる。脂肪族ホモポリアミド(A-3)の末端アミノ基濃度は、30μmol/g以上であることが好ましく、30μmol/g以上50μmol/g以下がより好ましい。
【0040】
ポリアミド樹脂(A)100質量%に含まれる脂肪族ホモポリアミド(A-3)の含有量は、機械物性やブロー成形性の観点から、75質量%未満が好ましく、70質量%未満が更に好ましく、60質量%未満が特に好ましく、脂肪族ホモポリアミド(A-3)がポリアミド樹脂(A)に含まれる場合は、0.1質量%以上が好ましい。
【0041】
(A-4)芳香族ホモポリアミド
芳香族ホモポリアミド(A-4)とは、芳香族系モノマー成分由来の1種類の構成単位からなる芳香族ポリアミド樹脂であり、例えば、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミン、または芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを原料とし、これらの重縮合によって得られるポリアミド樹脂である。ここで、ジアミンとジカルボン酸の組み合わせは、1種類のジアミンと1種類のジカルボン酸の組合せで1種類のモノマーとみなす。
【0042】
原料の脂肪族ジアミン及び脂肪族ジカルボン酸としては、前記の脂肪族ポリアミドと同様のものが挙げられ、脂環式ジアミン及び脂環式ジカルボン酸として例示したものも含まれる。
芳香族ジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸としては、ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等が挙げられる。
【0043】
芳香族ホモポリアミド(A-4)の具体的な例としては、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T) 、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)などが挙げられる。芳香族ホモポリアミド(A-4)は1種単独で用いても、2種以上を組合せた混合物として用いてもよい。
【0044】
芳香族ホモポリアミド(A-4)の製造装置、重合方法としては、脂肪族共重合ポリアミド(A-1)の項で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0045】
本発明における(A-4)芳香族ホモポリアミド樹脂の重合度には特に制限はないが、JIS K 6920に従って98% 硫酸中濃度1%、(A-4)芳香族ホモポリアミドの樹脂温度25℃で測定した相対粘度が、1.5~4.0であることが好ましく、1.8~3.0であることがより好ましい。
【0046】
芳香族ホモポリアミド(A-4)がポリアミド樹脂(A)に含まれる場合、ポリアミド樹脂(A)100質量%に含まれる芳香族ホモポリアミド(A-4)の含有量は、機械物性と成形性の観点から1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0047】
ポリアミド樹脂(A)は、JIS K-6920に準拠し、ポリアミド樹脂1gを96%濃硫酸100mlに溶解させ、25℃で測定される相対粘度が2.7以上であり、2.7以上5.0以下であることが好ましい。更に本発明の効果を向上させる観点から、2.7以上4.5未満がより好ましい。2.7以上では、ポリアミド組成物の溶融粘度が低すぎることがないため、特にブロー成形時のパリソン形状保持が良好である。また5.0以下では、ポリアミド組成物の溶融粘度が高すぎることなく、ブロー成形時、溶融樹脂の均一な肉厚が得られる。
【0048】
ポリアミド樹脂(A)が、相対粘度が異なる2種以上のポリアミド樹脂(例えば、少なくとも1種の脂肪族ホモポリアミド(A-3)と少なくとも1種の脂肪族共重合ポリアミド(A-1))を含む場合、ポリアミド樹脂(A)における相対粘度は、上記内容で測定されるのが好ましいが、それぞれのポリアミド樹脂の相対粘度とその混合比が判明している場合、それぞれの相対粘度にその混合比を乗じた値を合計して算出される平均値を、ポリアミド樹脂(A)の相対粘度としてもよい。
【0049】
耐衝撃材(C)との反応性から、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基濃度は、フェノールとメタノールの混合溶媒に溶解させ中和滴定で求められる末端アミノ基濃度として、30μmol/g以上の範囲が好ましく、30μmol/g以上110μmol/g以下の範囲がより好ましく、30μmol/g以上70μmol/g以下の範囲がさらに好ましい。30μmol/g以上であれば、耐衝撃材(C)との反応性が良く、溶融粘度や耐衝撃性を十分に得ることができる。また110μmol/g以下では、溶融粘度が高すぎず、成形加工性が良好である。
【0050】
ポリアミド樹脂(A)が、末端アミノ基濃度の異なる2種以上のポリアミド樹脂(例えば、少なくとも1種の脂肪族ホモポリアミド(A-3)と少なくとも1種の脂肪族共重合ポリアミド(A-1))を含む場合、ポリアミド樹脂(A)における末端アミノ基濃度は、上記中和摘定で測定されるのが好ましいが、それぞれのポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度とその混合比が判明している場合、それぞれの末端アミノ基濃度にその混合比を乗じた値を合計して算出される平均値を、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基濃度としてもよい。
【0051】
ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、60~85質量%含まれ、好ましくは70~85質量%含まれ、より好ましくは73~80質量%含まれる。ポリアミド樹脂(A)の含有割合が上記範囲にあると機械物性や耐熱性が良好であり、また低温物性及びブロー成形性が良好である。
【0052】
(B)オレフィン系アイオノマー
ポリアミド樹脂組成物は、オレフィン系アイオノマー(B)を含む。オレフィン系アイオノマーとは、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を金属又は金属イオンによって中和したものをいう。オレフィン系アイオノマー(B)を配合すると、ブロー成形時のパリソン特性が大幅に向上する反面、溶融粘度は大きな上昇を伴わないので生産性が向上する。
オレフィン系アイオノマー(B)の樹脂としては、(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル)系共重合体が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル)系共重合体は、エチレン及び/又はプロピレンとα,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル単量体とを共重合した重合体である。α,β-不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸エステル単量体としては、これらα,β-不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いてもよい。アイオノマーに用いられる金属及び金属イオンとしてはNa、K、Cu、Mg、Ca、Ba、Zn、Cd、Al、Fe、Co及びNi並びにそれらのイオンなどが挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いてもよいが、少なくともZn(本明細書では「亜鉛」ともいう)を含むことが好ましい。これらの中でも、エチレンーメタクリル酸共重合体のアイオノマーが好ましい。オレフィン系アイオノマーの市販品としては、三井・ダウ・ポリケミカル株式会社製のハイミラン(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0053】
オレフィン系アイオノマー(B)は、示差走査熱量計(DSC)でISO11357-3に準じて、窒素雰囲気下で、20℃/分で昇温して測定した融点が、75~100℃であることが好ましく、80~95℃であることがより好ましい。
また、オレフィン系アイオノマー(B)は、JIS K7112で測定した密度が、940~980kg/mであることが好ましく、950~970kg/mであることがより好ましい。
さらに、オレフィン系アイオノマー(B)に含まれる金属イオンは少なくとも亜鉛が含まれることが好ましく、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法ICP-AES測定による亜鉛元素の配合量は3%以上がより好ましい。
融点、密度及び亜鉛量が上記範囲にあると、ポリアミドとの相溶性やブロー成形時のスウェル拡大抑止による肉厚安定性の観点から好ましい。
【0054】
オレフィン系アイオノマー(B)のJIS K7210(1999年)に準拠して190℃、2.16kgの荷重で測定したMFRが2g/10分以下であることが好ましく、1g/10分以下であることがより好ましい。オレフィン系アイオノマー(B)のMFRが前記範囲にあると、ドローダウン性及び寸法安定性の点から好ましい。
【0055】
オレフィン系アイオノマー(B)は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、5~20質量%含まれ、好ましくは、8~17質量%含まれ、より好ましくは、10~15質量%含まれる。オレフィン系アイオノマー(B)の含有割合が上記範囲にあると、低温特性、ブロー成形におけるパリソン特性が良好になる。
【0056】
(C)耐衝撃材
ポリアミド樹脂組成物は、耐衝撃材(C)を含む。耐衝撃材としてはゴム状重合体が挙げられる。耐衝撃材は、ASTM D-790に準拠して測定した曲げ弾性率が500MPa以下であることが好ましい。なお、耐衝撃材(C)には、オレフィン系アイオノマー(B)は含まれない。
【0057】
耐衝撃材(C)として具体的には、(エチレン及び/又はプロピレン)/α-オレフィン系共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル)系共重合体等を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。耐衝撃材(C)として好ましくは、エチレン/α-オレフィン系共重合体が挙げられる。
【0058】
(エチレン及び/又はプロピレン)/α-オレフィン系共重合体は、エチレン及び/又はプロピレンと炭素数3以上又は4以上のα-オレフィンとを共重合した重合体である。
炭素数3以上のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0059】
また共重合体は、非共役ジエン等のポリエンを共重合したものであってもよい。非共役ジエンとしては、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,5-オクタジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペンル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,5-ノルボルナジエン等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0060】
(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル)系共重合体は、エチレン及び/又はプロピレンとα,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル単量体とを共重合した重合体である。α,β-不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸エステル単量体としては、これらα,β-不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0061】
また、耐衝撃材(C)は、ポリアミド樹脂(A)に対して親和性を有する官能基をその分子中に含むことが好ましい。(エチレン及び/又はプロピレン)/α-オレフィン系共重合体は、カルボン酸及び/又はその誘導体、並びに/又は不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性されることにより、ポリアミド樹脂(A)に対して親和性を有する官能基をその分子中に含むことができる。(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル)系共重合体は、カルボキシル基及び/又はカルボン酸エステル基を有するため、ポリアミド樹脂(A)に対して親和性を有する官能基をその分子中に含むが、更にカルボン酸及び/又はその誘導体、並びに/又は不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性されていてもよい。
【0062】
ポリアミド樹脂(A)に対して親和性を有する官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩、カルボン酸イミド基、カルボン酸アミド基、エポキシ基等が挙げられる。
【0063】
これらの官能基を含む化合物の例として、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、エンドビシクロ-[2.2.1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸及びこれらカルボン酸の金属塩、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ-[2.2.1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸無水物、マレイミド、N-エチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いることができる。これらの中では無水マレイン酸が好ましい。
【0064】
樹脂に、これらの官能基を導入する方法としては、(i)樹脂の重合時、官能基を有する共重合可能な単量体を共重合する方法、(ii)重合開始剤、連鎖移動剤等により、樹脂の分子鎖または分子末端に官能基を導入する方法、(iii)官能基とグラフト化が可能な官能基とを有する化合物(グラフト化合物)を樹脂にグラフトさせる方法等が挙げられる。これらの導入方法は、単独で、あるいは適宜、組合せて用いることができる。
【0065】
これらの中でも、耐衝撃材(C)として用いられる(エチレン及び/又はプロピレン)/α-オレフィン系共重合体は、不飽和カルボン酸又はその酸無水物等により酸変性された重合体であることが好ましく、(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又はα,β-不飽和カルボン酸エステル)系共重合体は、あらかじめ有する官能基に加えて、さらに不飽和カルボン酸又はその酸無水物等により酸変性された重合体であることが好ましい。
耐衝撃材(C)に酸無水物基が含まれる場合、耐衝撃材(C)における酸無水物基の含有量は、25μmol/g超過100μmol/g未満が好ましく、35μmol/g以上95μmol/g未満がより好ましく、40μmol/g以上90μmol/g以下がさらに好ましい。含有量が25μmol/g超過では高い溶融粘度の組成物を得ることができ、ブロー成形において目標の肉厚寸法を得ることができる。また含有量が100μmol/g未満であると溶融粘度が高すぎず、押出機に負荷を抑えて良好に成形加工できる。耐衝撃材(C)が有する酸無水物基の含有量は、トルエン、エタノールを用いて調製した試料溶液を用いて、フェノールフタレインを指示薬とし、0.1規定のKOHエタノール溶液による中和滴定で測定される。
【0066】
耐衝撃材(C)として、酸無水物基の含有量が異なる2種以上の耐衝撃材を用いる場合、耐衝撃材(C)における酸無水物基の含有量は、トルエン、エタノールを用いて調製した試料溶液を用いて、フェノールフタレインを指示薬とし、0.1規定のKOHエタノール溶液による中和滴定で測定されるのが好ましいが、それぞれの耐衝撃材の酸無水物基の含有量とその混合比が判明している場合、それぞれの酸無水物基の含有量にその混合比を乗じた値を合計して算出される平均値を、耐衝撃材(C)の酸無水物量としてもよい。
【0067】
耐衝撃材(C)は、ASTM D1238に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが2g/10分以下であることが好ましく、前記範囲であるとブロー成形時にパリソンの形状が不安定になることが抑制され、成形体の厚みがより均一になる傾向がある。また、パリソンのドローダウンが大きくなりすぎず、良好なブロー成形性が得られる傾向がある。
【0068】
耐衝撃材(C)は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、5~20質量%含まれ、好ましくは5~15質量%含まれる。耐衝撃材(C)の含有割合が上記範囲にあると焼け抑制、低温物性及びブロー成形品の肉厚均一性が良好である。
【0069】
ポリアミド樹脂組成物は、オレフィン系アイオノマー(B)及び耐衝撃材(C)の両方を含むことで、焼けの抑制と耐ブリスター性が両立されているとともに、寸法安定性に優れる。
【0070】
(D)耐熱剤
ポリアミド樹脂組成物は、耐熱剤(D)を含むことが好ましい。耐熱剤は、ポリアミド樹脂の耐熱性を向上できるものが使用でき、有機系、無機系の耐熱剤をその目的に応じて使用できる。
【0071】
ポリアミド樹脂組成物は、熱溶着特性と耐熱特性の観点から、耐熱剤として有機系酸化防止剤の少なくとも1種を含むことがより好ましい。有機系酸化防止剤を含むことで、ブロー成形時においてインターバルタイムが長くなった場合でも通常の熱老化性、物性、溶融粘度等を維持しながら、熱溶着性をより向上させることができる。これは例えば、有機系酸化防止剤の添加によって、耐衝撃剤の熱劣化によるゲル化が抑制され、それにより造核作用が抑制されるためと考えられる。
【0072】
(有機系耐熱剤)
有機系酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等を挙げることができる。
【0073】
フェノール系酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく挙げられる。本明細書において、ヒンダードフェノールとは、フェノールの水酸基のオルト位(以下、「o位」ともいう)に置換基を有する化合物をいう。o位の置換基としては、特に限定されないが、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン等が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等のアルキル基が好ましく、嵩高いi-プロピル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基がより好ましく、t-ブチル基が最も好ましい。また、o位は、フェノールの水酸基に対する2つのo位がいずれも置換基を有することが好ましい。
o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールは、具体的には、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナムアミド、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオナート、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオナート]、3,9-ビス[2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、を挙げることができる。これらは1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの耐熱剤の市販品としては、「Irganox(登録商標) 1010」(BASF社)、「Sumilizer(登録商標) GA-80」(住友化学社)が挙げられる。
【0074】
リン系酸化防止剤としてはヒンダードフェノールの亜リン酸エステル化合物、ヒンダードフェノールの次亜リン酸エステル化合物が好ましく、o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールの亜リン酸エステル化合物、o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールの次亜リン酸エステル化合物がより好ましく、o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールの亜リン酸エステル化合物がさらに好ましい。o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールの亜リン酸エステル化合物は、具体的には、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエルスリトールジフォスファイト、を挙げることができる。o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールの次亜リン酸エステル化合物は、具体的には、p,p,p’,p’-テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)-4,4’-ビフェニルジホスフィンを主成分とするビフェニル、三塩化リン及び2,4-ジ-t-ブチルフェノールの反応生成物、を挙げることができる。これらの耐熱剤の市販品としては、「Irgafos(登録商標) 168」(BASF社)、「Hostanox(登録商標) P-EPQ(登録商標)」(クラリアントケミカルズ社)が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
イオウ系酸化防止剤としては、ジステアリル-3,3-チオジプロピオナート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオナート)、ジドデシル(3,3’-チオジプロピオナート)、を挙げることができる。これらは、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これら有機系酸化防止剤は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0075】
(無機系耐熱剤)
耐熱剤の無機系耐熱剤の種類としては、銅化合物やハロゲン化カリウムであり、銅化合物としては、ヨウ化第一銅、臭化第一銅、臭化第二銅、酢酸銅等が挙げられる。耐熱性と金属腐食の抑制の観点からヨウ化第一銅が好ましい。ハロゲン化カリウムは、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム等が挙げられる。耐熱性と金属腐食の抑制の観点からヨウ化カリウム及び/又は臭化カリウムが好ましい。これらは、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0076】
更に、メラミン、ベングアナミン、ジメチロール尿素又はシアヌール酸などの含窒素化合物を併用するとより効果的である。
ポリアミド樹脂組成物は、熱溶着性の観点から、少なくとも1種のフェノール系酸化防止剤を含有することが好ましく、少なくとも1種のフェノール系酸化防止剤と少なくとも1種のリン系酸化防止剤とを含有することがより好ましく、o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールと、o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールの亜リン酸エステル化合物又はo位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールの次亜リン酸エステル化合物とを含むことがさらに好ましく、o位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノール及びo位にt-ブチル基を有するヒンダードフェノールの亜リン酸エステル化合物を含むことが特に好ましい。
【0077】
耐熱剤(D)は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、 好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.5~2質量%含まれる。耐熱剤(D)の含有割合が上記範囲にあると、成形品外観の焼け、内表面の肉厚不均一性、成形品全体の黄変を抑制でき、外観を良好にすることができる。
【0078】
(E)添加剤
ポリアミド樹脂組成物は目的等に応じて、任意成分として、染料、顔料、繊維状補強物、粒子状補強物、可塑剤、酸化防止剤((D)成分を除く)、発泡剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤等の機能性付与剤等を適宜含有していてもよい。本発明の効果向上の為、ポリアミド樹脂組成物は、酸化防止剤を含有するのが好ましい。
任意の添加剤(E)は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.05~0.5質量%含まれる。
【0079】
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、オレフィン系アイオノマー(B)及び耐衝撃材(C)以外の樹脂を含んでいてもよい。ポリアミド樹脂(A)、オレフィン系アイオノマー(B)及び耐衝撃材(C)以外の樹脂は、焼けの抑制の観点から、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、2質量%以下が好ましく、0.1質量%未満がより好ましく、含まないことがさらに好ましい。
【0080】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
ポリアミド樹脂組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば次の方法を適用することができる。
ポリアミド樹脂(A)と、オレフィン系アイオノマー(B)と、耐衝撃材(C)と、任意の耐熱剤(D)と、その他任意成分との混合には、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機が用いられる。例えば、2軸押出機を使用して、全ての原材料を配合後、溶融混練する方法、一部の原材料を配合後、溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
【0081】
[ポリアミド樹脂組成物の用途]
ポリアミド樹脂組成物は、溶融粘度が低いにもかかわらず、パリソン保持能力を有し、成形時に滞留した場合でも成形体の表面外観に優れることから、ブロー成形によるブロー成形品の製造に好適に用いることができる。さらには、押出成形による押出成形品、射出成形による射出成形品、回転成形による回転成形品の製造に好適に用いることができる。
【0082】
ポリアミド樹脂組成物からブロー成形によりブロー成形品を製造する方法については特に制限されず、公知の方法を利用することができる。一般的には、通常のブロー成形機を用いパリソンを形成した後、ブロー成形を実施すればよい。パリソン形成時の好ましい樹脂温度は、ポリアミド樹脂組成物の融点より10℃から70℃高い温度範囲で行うことが好ましい。
【0083】
ポリアミド樹脂組成物からブロー成形して得られるブロー成形品は、厚さの偏りが抑制され、寸法安定性に優れる。
ポリアミド樹脂組成物からなるブロー成形品は、図1に示すように、肩部1、R部2、胴部3、溶着部近傍4、溶着部5の5か所のそれぞれの厚さの標準偏差が1.00以下であることが好ましく、0.90以下がより好ましく、0.80以下がさらに好ましい。
【0084】
特に、ポリアミド樹脂組成物からブロー成形して得られるブロー成形品は、溶着部の肉厚が薄くなることも抑制される。
ポリアミド樹脂組成物からなるブロー成形品は、溶着部5の厚さを、肩部1、R部2、胴部3、溶着部近傍4及び溶着部5の5か所の平均の厚さで除した値(溶着部の厚さ/平均の厚さ)が0.50以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましく、0.60以上であることがさらに好ましい。
【0085】
ポリアミド樹脂組成物から押出成形により押出成形品を製造する方法については特に制限されず、公知の方法を利用することができる。
また、ポリエチレンなどのポリオレフィンや他の熱可塑性樹脂と共押出した後、ブロー成形を行い、多層構造体を得ることも可能である。その場合ポリアミド樹脂組成物層とポリオレフィンなどの他の熱可塑性樹脂層の間に接着層を設けることも可能である。多層構造体の場合、本発明のポリアミド樹脂組成物は外層、内層のいずれにも使用し得る。
【0086】
ポリアミド樹脂組成物から射出成形による射出成形品を製造する方法については特に制限されず、公知の方法を利用することができる。例えばISO294-1に準拠した方法が参酌される。
【0087】
ポリアミド樹脂組成物から回転成形による回転成形品を製造する方法については特に制限されず、公知の方法を利用することができる。例えば国際公開公報2019/054109に記載の方法が参酌される。
【0088】
ブロー成形によるブロー成形品、押出成形による押出成形品、射出成形による射出成形品及び回転成形による回転成形品としては、特に限定されないが、スポイラー、エアインテークダクト、インテークマニホールド、レゾネーター、燃料タンク、ガスタンク、作動油タンク、燃料フィラーチューブ、燃料デリバリーパイプ、その他各種ホース・チューブ・タンク類などの自動車部品、電動工具ハウジング、パイプ類などの機械部品を始め、電気・電子部品、家庭・事務用品、建材関係部品、家具用部品など各種用途が好適に挙げられる。これらの中でも、本発明のポリアミド樹脂組成物の成形品は大型成形品にも対応可能なブロー成形性に優れ、耐衝撃性にも優れることから、大型タンク、特に高圧ガスタンクにより好適に用いることができる。
【0089】
また、ポリアミド樹脂組成物は、ガスバリア性に優れるため、高圧ガスと接触する成形品、たとえば、高圧ガスに接するタンク、チューブ、ホース、フィルム等に好適に用いられる。前記ガスの種類としては、特に制限されず、水素、窒素、酸素、ヘリウム、メタン、ブタン、プロパン等が挙げられ、極性の小さいガスが好ましく、水素、窒素、メタンが特に好ましい。
【実施例
【0090】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において使用した樹脂及び成形品の物性評価方法を以下に示す。
【0091】
(ブロー成形性)
(1)~(5)でブロー成形性を評価した。
株式会社プラコー製のブロー成形機DA-50型アキュームヘッド付きを用いてブロー成形性を確認した。測定条件は、シリンダー温度240℃、スクリュー回転数40rpm、ダイ口径50mm、円筒状3リットルボトル金型、金型温度60℃にて成形品を取得した。得られた成形品を(2)~(5)の評価に用いた。また、この条件で(1)の評価を行なった。
【0092】
(1)ドローダウン性
厚み一定でパリソンを1m射出し、2秒後の垂下がり量を測定し、ドローダウン性を評価した。垂下がり量が少ないほど、ドローダウン性に優れる。具体的には、垂れ下がり量が15cm以下であると、ドローダウン性に優れる。
【0093】
(2)内面焼け
目視による判定で、ブロー成形品の内表面焼けを以下の基準で判断した。下記基準において2又は3のものを合格とした。
3:成形品全体的にほぼ焼けは見られず、表面に光沢がある。
2:肉厚部に焼けは見られるものの表面に光沢あり。
1:成形品に焼けが見られ、表面に光沢がない。
【0094】
(3)内表面凹凸
肉厚均一性の確認のため、内表面凹凸を目視で判定し、以下の基準で評価した。凹凸が抑えられているほど、肉厚均一性が良い。
〇:外表面と同等な表面状態で、大きな凹凸がなく均一である。
×:外表面と異なり大きな凹凸が確認される。
【0095】
(4)外面金型転写性
目視による判定で、ブロー成形品の外表面の金型の転写性を以下の基準で判断した。
○:金型の転写性が良好である。
×:金型の転写性が不良である。
【0096】
(5)寸法安定性
ブロー成形品の肉厚について、図1に示すように、肩部1、R部2、胴部3、溶着部近傍4及び溶着部5の5か所のそれぞれの厚さをノギスで測定するとともに、それらの標準偏差を求めた。標準偏差が1.00以下であれば、成形品における部位間で肉厚の隔たりが少なく、寸法安定性が良好である。
また、測定値に基づき、溶着部5の厚さを、肩部1、R部2、胴部3、溶着部近傍4及び溶着部5の5か所の平均の厚さで除した値(溶着部の厚さ/平均の厚さ)を求めた。この値が小さいと溶着部が全体よりも薄いことになる。したがってこの値が0.50以上であれば、溶着部のみが際立って薄いことが抑制されている。
【0097】
(6)低温靭性
ISO294-1に従って住友重機械工業株式会社の射出成形機SE100D-C160Sを用いて試験片を作成した。取得した試験片を用いて機械物性のデータ取得に使用した。
(6-1)-60℃における引張破壊呼びひずみ
ISO527-2/1A/50に準じて、インストロン製引張試験機型式5567を使用して-60℃で測定した。-60℃における引張破壊呼びひずみの値が20%以上であれば、低温靭性が良好である。
(6-2)-40℃におけるシャルピー衝撃強さ
ISO179-1/1eAに準じて、安田精機製シャルピー衝撃試験機No.258-PCを用いて、-40℃において、Aノッチ入り厚み4mmの試験片を用いてエッジワイズ衝撃試験を行った。(n=10)-40℃におけるシャルピー衝撃強さが20kJ/m以上であれば、低温靭性が良好である。
【0098】
(7)耐ブリスター性
ISO294-1に従って住友重機械工業株式会社の射出成形機SE100D-C160Sを用いて試験片を作成した。取得した試験片を用いて機械物性のデータ取得に使用した。
オートクレーブ中に85℃の高圧水素ガスを30分かけて2MPaから87.5MPaとなるように封入し、試験片を入れ、10分保持後、脱圧速度0.5分で2MPaまで減圧し、このサイクルを4回繰り返した後、取り出しを行った。試験片に水膨れ状の外観異常有無を目視判定した。
○:試験片表面に水膨れ(ブリスター)なし
×:試験片表面に水膨れ(ブリスター)発生
【0099】
(8)総合評価
前記(1)~(7)の物性評価を、以下の基準で総合評価した。
〇:ドローダウン性につき、2秒後の垂れ下がり量が15cm以下、
内面焼けにつき、前記基準による評価が2又は3、
内表面凹凸につき、前記基準による評価が〇、
外面金型転写性につき、前記基準による評価が〇、
寸法安定性につき、標準偏差が1.00以下でかつ溶着部の厚さ/平均の厚さが0.5以上、
-60℃における引張破壊呼びひずみの値が20%以上、
-40℃におけるシャルピー衝撃強さが20kJ/m以上、
耐ブリスター性につき、前記基準による評価が〇、
の全てを満たす。
×:ドローダウン性につき、2秒後の垂れ下がり量が15cm以下、
内面焼けにつき、前記基準による評価が2又は3、
内表面凹凸につき、前記基準による評価が〇、
外面金型転写性につき、前記基準による評価が〇、
寸法安定性につき、標準偏差が1.00以下でかつ溶着部の厚さ/平均の厚さが0. 5以上、
-60℃における引張破壊呼びひずみの値が20%以上、
-40℃におけるシャルピー衝撃強さが20kJ/m以上、
耐ブリスター性につき、前記基準による評価が〇、
のいずれか1以上を満たさない。
【0100】
[実施例1~9、比較例1~5]
表1に記載した各成分を二軸混練機TEX44HCT、シリンダー径44mm L/D35で、シリンダー温度250℃、スクリュー回転160rpm、吐出量50kg/hrsにて溶融混練し、目的とするポリアミド樹脂組成物ペレットを作製した。
なお、表中の組成の単位は質量%であり、樹脂組成物全体を100質量%とする。
得られたペレットを上記物性評価に用いられる成形品及び試験片に使用した。得られた結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
実施例から、本願発明のポリアミド樹脂組成物は、低温靭性と、ブロー成形品の金型転写性、焼けの抑制、表面凹凸の抑制、ドローダウン性及び寸法安定性といったブロー成形性と、耐ブリスター性とを両立していることがわかる。
実施例と比較例1及び4とを比較すると、脂肪族共重合ポリアミドの量がポリアミド中20質量%未満であると、寸法安定性が劣り、さらに金型転写性が劣る場合があり、寸法安定性の中でも、特に溶着部の厚さが薄いことがわかる。
実施例と比較例2とを比較すると、ポリアミド樹脂組成物が、耐衝撃材を含まず、アイオノマーを20質量%超含むと、寸法安定性及び耐ブリスター性が劣る。
実施例と比較例3とを比較すると、ポリアミド樹脂組成物が、アイオノマーを含まず、耐衝撃材を20質量%超含むと、成形品の内面の焼けが抑制されないとともに、寸法安定性が劣る。
実施例と比較例5とを比較すると、ポリアミド樹脂組成物が、耐衝撃材及びアイオノマーを含まないと、ブロー成形自体が不可能となり、低温靭性も劣る。
【0103】
表中の略号は、以下の通りである。
(ポリアミド樹脂)
PA6:ポリアミド6、相対粘度:4.08
PA6/66 (1):ポリアミド6/66、相対粘度:4.05、PA6 80mol%、PA66 20mol%
PA6/66 (2):ポリアミド6/66、相対粘度:4.05、PA6 85mol%、PA66 15mol%
PA6/66/12:ポリアミド6/66/12、相対粘度:4.05、PA6 80mol%、PA66 10mol%、PA12 10mol%
なお、上記ポリアミド樹脂の相対粘度は、JIS K 6920に準拠し、ポリアミド樹脂1gを96%濃硫酸100mlに溶解させ、25℃で測定した値である。
【0104】
(オレフィン系アイオノマー)
Zn-EM Ionomer:密度960kg/m、融点88℃、JIS K7210(1999年)に準拠して190℃、2.16kgの荷重で測定したMFR0.9g/10分、亜鉛含有量3.4質量%、エチレン-メタクリル酸共重合体、金属イオン:亜鉛、製品名「ハイミラン(登録商標)1706」三井・ダウ・ポリケミカル株式会社製
【0105】
(耐衝撃材)
MAH-EBR:無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体、製品名「タフマー(登録商標)MH5020」三井化学株式会社製、ASTM D1238に準拠して190℃、2.16kgの荷重で測定したMFR:0.6g/10分
【0106】
(耐熱剤)
フェノール系1:フェノール系酸化防止剤(3,9-ビス[2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン)、製品名「Sumilizer(登録商標) GA-80」住友化学社製
フェノール系2:フェノール系酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])、製品名「Irganox(登録商標) 1010」BASF社製
リン系1:リン系酸化防止剤( p,p,p’,p’-テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)-4,4’(又は3’,4)-ビフェニルジホスフィンを主成分とするビフェニル、三塩化リン及び2,4-ジ-t-ブチルフェノールの反応生成物 )、製品名「Hostanox(登録商標) P-EPQ(登録商標)」クラリアントケミカルズ社製
リン系2:リン系酸化防止剤(トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト)、製品名「Irgafos(登録商標) 168」BASF社製
【符号の説明】
【0107】
1 肩部
2 R部
3 胴部
4 溶着部近傍
5 溶着部
図1