IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7647575フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置
<>
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図1
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図2
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図3
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図4
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図5
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図6
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図7
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図8
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図9
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図10
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図11
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図12
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図13
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図14
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図15
  • -フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/245 20210101AFI20250311BHJP
   C25B 11/043 20210101ALI20250311BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20250311BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20250311BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
C25B1/245
C25B11/043
C25B9/00 F
C25B9/00 Z
C25B15/023
C25B15/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021567254
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046388
(87)【国際公開番号】W WO2021131816
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2019238477
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【弁理士】
【氏名又は名称】尾林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168701
【弁理士】
【氏名又は名称】豆塚 浩二
(74)【代理人】
【識別番号】100109715
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】三神 克己
(72)【発明者】
【氏名】福地 陽介
(72)【発明者】
【氏名】楠元 希
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-225922(JP,A)
【文献】特表2013-507629(JP,A)
【文献】特開平02-263988(JP,A)
【文献】特開2011-038145(JP,A)
【文献】特許第5919824(JP,B2)
【文献】特開2019-056135(JP,A)
【文献】特開2004-353019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造するフッ素ガスの製造方法であって、
電解槽内で前記電気分解を行う電解工程と、
前記電解液を前記電解槽内に装填し前記電気分解を開始してからの積算の通電量を測定する通電量測定工程と、
前記電解液の電気分解時に前記電解槽の内部で生じた流体を前記電解槽の内部から外部へ流路を介して送る送気工程と、
を備え、
前記送気工程においては、前記通電量測定工程で測定された前記通電量に応じて前記流体を流す流路を切り替え、前記通電量測定工程で測定された前記通電量が、予め設定された基準値以上である場合は、前記電解槽の内部から第1の外部へ前記流体を送る第1流路に前記流体を送り、前記予め設定された基準値よりも小さい場合は、前記電解槽の内部から第2の外部へ前記流体を送る第2流路に前記流体を送るようになっており、
前記予め設定された基準値は、前記電解液1000L当たり40kAh以上の範囲内の数値であるフッ素ガスの製造方法。
【請求項2】
前記金属フッ化物は、カリウム、セシウム、ルビジウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種の金属のフッ化物である請求項1に記載のフッ素ガスの製造方法。
【請求項3】
前記電気分解において使用する陽極が、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボン、グラファイト、及びグラッシーカーボンから選ばれる少なくとも1種の炭素材料で形成された炭素質電極である請求項1又は請求項2に記載のフッ素ガスの製造方法。
【請求項4】
前記電解槽は、前記電気分解において使用する陽極又は陰極で発生した気泡が前記電解液中を鉛直方向に上昇し、前記電解液の液面に到達可能な構造を有する請求項1~3のいずれか一項に記載のフッ素ガスの製造方法。
【請求項5】
フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造するフッ素ガス製造装置であって、
前記電解液を収容し前記電気分解が行われる電解槽と、
前記電解液を前記電解槽内に装填し前記電気分解を開始してからの積算の通電量を測定する通電量測定部と、
前記電解液の電気分解時に前記電解槽の内部で生じた流体を前記電解槽の内部から外部へ送る流路と、
を備え、
前記流路は、前記電解槽の内部から第1の外部へ前記流体を送る第1流路と、前記電解槽の内部から第2の外部へ前記流体を送る第2流路と、を有するとともに、前記通電量測定部で測定された前記通電量に応じて前記流体を流す流路を前記第1流路又は前記第2流路に切り替える流路切り替え部を有しており、
前記流路切り替え部は、前記通電量測定部で測定された前記通電量が、予め設定された基準値以上である場合は、前記電解槽の内部から前記第1流路に前記流体を送り、前記予め設定された基準値よりも小さい場合は、前記電解槽の内部から前記第2流路に前記流体を送るようになっており、
前記予め設定された基準値は、前記電解液1000L当たり40kAh以上の範囲内の数値であるフッ素ガス製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ガスは、フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解することによって合成(電解合成)することができる。電解液の電気分解によってフッ素ガスとともにミスト(例えば電解液のミスト)も発生するため、電解槽から送り出されたフッ素ガスにはミストが同伴する。フッ素ガスに同伴したミストは粉体となり、フッ素ガスの送気に使用される配管やバルブを閉塞させるおそれがある。そのため、フッ素ガスを製造する運転を中断又は停止せざるを得ない場合があり、電解法によるフッ素ガスの製造における連続運転の支障になっていた。
ミストによる配管やバルブの閉塞を抑制するために、特許文献1には、ミストを同伴するフッ素ガス又は当該ガスが通過する配管を、電解液の融点以上に加熱する技術が開示されている。また、特許文献2には、ミストを粗取りする空間であるガス拡散部と、ミストを吸着させるための充填材を収容する充填材収容部と、を有するガス生成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許公報 第5584904号
【文献】日本国特許公報 第5919824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ミストによる配管やバルブの閉塞をより効果的に抑制することができる技術が望まれていた。
本発明は、ミストによる配管やバルブの閉塞を抑制することができるフッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の一態様は以下の[1]~[5]の通りである。
[1] フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造するフッ素ガスの製造方法であって、
電解槽内で前記電気分解を行う電解工程と、
前記電解液を前記電解槽内に装填し前記電気分解を開始してからの積算の通電量を測定する通電量測定工程と、
前記電解液の電気分解時に前記電解槽の内部で生じた流体を前記電解槽の内部から外部へ流路を介して送る送気工程と、
を備え、
前記送気工程においては、前記通電量測定工程で測定された前記通電量に応じて前記流体を流す流路を切り替え、前記通電量測定工程で測定された前記通電量が、予め設定された基準値以上である場合は、前記電解槽の内部から第1の外部へ前記流体を送る第1流路に前記流体を送り、前記予め設定された基準値よりも小さい場合は、前記電解槽の内部から第2の外部へ前記流体を送る第2流路に前記流体を送るようになっており、
前記予め設定された基準値は、前記電解液1000L当たり40kAh以上の範囲内の数値であるフッ素ガスの製造方法。
【0006】
[2] 前記金属フッ化物は、カリウム、セシウム、ルビジウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種の金属のフッ化物である[1]に記載のフッ素ガスの製造方法。
[3] 前記電気分解において使用する陽極が、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボン、グラファイト、及びグラッシーカーボンから選ばれる少なくとも1種の炭素材料で形成された炭素質電極である[1]又は[2]に記載のフッ素ガスの製造方法。
[4] 前記電解槽は、前記電気分解において使用する陽極又は陰極で発生した気泡が前記電解液中を鉛直方向に上昇し、前記電解液の液面に到達可能な構造を有する[1]~[3]のいずれか一項に記載のフッ素ガスの製造方法。
【0007】
[5] フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造するフッ素ガス製造装置であって、
前記電解液を収容し前記電気分解が行われる電解槽と、
前記電解液を前記電解槽内に装填し前記電気分解を開始してからの積算の通電量を測定する通電量測定部と、
前記電解液の電気分解時に前記電解槽の内部で生じた流体を前記電解槽の内部から外部へ送る流路と、
を備え、
前記流路は、前記電解槽の内部から第1の外部へ前記流体を送る第1流路と、前記電解槽の内部から第2の外部へ前記流体を送る第2流路と、を有するとともに、前記通電量測定部で測定された前記通電量に応じて前記流体を流す流路を前記第1流路又は前記第2流路に切り替える流路切り替え部を有しており、
前記流路切り替え部は、前記通電量測定部で測定された前記通電量が、予め設定された基準値以上である場合は、前記電解槽の内部から前記第1流路に前記流体を送り、前記予め設定された基準値よりも小さい場合は、前記電解槽の内部から前記第2流路に前記流体を送るようになっており、
前記予め設定された基準値は、前記電解液1000L当たり40kAh以上の範囲内の数値であるフッ素ガス製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造する際に、ミストによる配管やバルブの閉塞を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るフッ素ガス製造装置において平均粒子径測定部として使用される光散乱検出器の一例を説明する模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るフッ素ガス製造装置の一例を説明する概略図である。
図3図2のフッ素ガス製造装置においてミスト除去部として使用されるミスト除去装置の一例を説明する模式図である。
図4図2のフッ素ガス製造装置の第1変形例を説明する概略図である。
図5図2のフッ素ガス製造装置の第2変形例を説明する概略図である。
図6図2のフッ素ガス製造装置の第3変形例を説明する概略図である。
図7図2のフッ素ガス製造装置の第4変形例を説明する概略図である。
図8図2のフッ素ガス製造装置の第5変形例を説明する概略図である。
図9図2のフッ素ガス製造装置の第6変形例を説明する概略図である。
図10図2のフッ素ガス製造装置の第7変形例を説明する概略図である。
図11図2のフッ素ガス製造装置の第8変形例を説明する概略図である。
図12図2のフッ素ガス製造装置の第9変形例を説明する概略図である。
図13図2のフッ素ガス製造装置の第10変形例を説明する概略図である。
図14】参考例1において、陽極で発生した流体に含まれるミストの粒子径分布を示すグラフである。
図15】参考例1において、ミストの平均粒子径と陽極で発生したミストの量との相関性を示すグラフである。
図16】参考例1において、ミストの平均粒子径と通電量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0011】
本発明者らは、フッ素ガスの電解合成において配管やバルブの閉塞を引き起こすミストについて鋭意検討を行った。本発明における「ミスト」とは、電解液の電気分解によって電解槽でフッ素ガスとともに発生する液体の微粒子や固体の微粒子のことである。具体的には、電解液の微粒子、電解液の微粒子が相変化した固体の微粒子、及び、電解槽を構成する部材(電解槽を形成する金属、電解槽用のパッキン、炭素電極など)とフッ素ガスが反応して生じた固体の微粒子のことである。
【0012】
本発明者らは、電解液の電気分解時に電解槽の内部で生じた流体に含まれるミストの平均粒子径を測定し、ミストの平均粒子径が経時的に変化していることを確認した。また、鋭意検討の結果、ミストの平均粒子径と電気分解における積算の通電量とに相関性があることを見出し、さらに、ミストの平均粒子径と流体を送る配管やバルブの閉塞の起こりやすさとの間に相関性があることを見出した。そして、電気分解における積算の通電量に応じて、電解槽の内部で生じた流体を送るための流路を工夫することによって、配管やバルブの閉塞を抑制することができ、フッ素ガスを製造する運転の中断や停止の頻度を低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の一実施形態について、以下に説明する。
【0013】
本実施形態のフッ素ガスの製造方法は、フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造するフッ素ガスの製造方法であって、電解槽内で電気分解を行う電解工程と、電解液を電解槽内に装填し電気分解を開始してからの積算の通電量を測定する通電量測定工程と、電解液の電気分解時に電解槽の内部で生じた流体を電解槽の内部から外部へ流路を介して送る送気工程と、を備える。
【0014】
送気工程においては、通電量測定工程で測定された通電量に応じて、流体を流す流路を切り替えるようになっている。すなわち、通電量測定工程で測定された通電量が、予め設定された基準値以上である場合は、電解槽の内部から第1の外部へ流体を送る第1流路に流体を送り、予め設定された基準値よりも小さい場合は、電解槽の内部から第2の外部へ流体を送る第2流路に流体を送るようになっている。そして、予め設定された基準値は、電解液1000L当たり40kAh以上の範囲内の数値とされている。
【0015】
また、本実施形態のフッ素ガス製造装置は、フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造するフッ素ガス製造装置であって、電解液を収容し電気分解が行われる電解槽と、電解液を電解槽内に装填し電気分解を開始してからの積算の通電量を測定する通電量測定部と、電解液の電気分解時に電解槽の内部で生じた流体を電解槽の内部から外部へ送る流路と、を備えている。
【0016】
上記流路は、電解槽の内部から第1の外部へ流体を送る第1流路と、電解槽の内部から第2の外部へ流体を送る第2流路と、を有している。また、この流路は、通電量測定部で測定された通電量に応じて、流体を流す流路を第1流路又は第2流路に切り替える流路切り替え部を有している。
流路切り替え部は、通電量測定部で測定された通電量が、予め設定された基準値以上である場合は、電解槽の内部から第1流路に流体を送り、予め設定された基準値よりも小さい場合は、電解槽の内部から第2流路に流体を送るようになっている。そして、予め設定された基準値は、電解液1000L当たり40kAh以上の範囲内の数値とされている。
【0017】
本実施形態のフッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置においては、電解液を電解槽内に装填し電気分解を開始してからの積算の通電量(以下、単に「通電量」又は「積算の通電量」と記すこともある。)に応じて、流体を流す流路を第1流路又は第2流路に切り替えるので、結果として、ミストの平均粒子径に応じて流路を第1流路又は第2流路に切り替えていることとなり、ミストによる流路の閉塞が生じにくい。そのため、本実施形態のフッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置は、フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造する際に、ミストによる配管やバルブの閉塞を抑制することができる。よって、フッ素ガスを製造する運転の中断や停止の頻度を低減することができ、連続運転を行うことが容易である。そのため、フッ素ガスを経済的に製造することができる。
【0018】
なお、本実施形態のフッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置においては、「電解液を電解槽内に装填し電気分解を開始してからの積算の通電量」とは、「電気分解に供されたことのない新しい電解液のみを電解槽内に装填して電気分解を開始した場合の、電気分解の開始時からの積算の通電量」を意味する。また、第1流路と第2流路は別の流路であるが、第1の外部と第2の外部は別の箇所でもよいし、同一の箇所でもよい。
【0019】
ここで、本実施形態のフッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置の一例を示す。第1流路は、電解槽の内部から、流体からミストを除去するミスト除去部を経由して、流体からフッ素ガスを選別して取り出すフッ素ガス選別部へ流体を送る流路である。第2流路は、ミスト除去部を経由せずに電解槽の内部からフッ素ガス選別部へ流体を送る流路である。すなわち、通電量が、予め設定された基準値以上である場合は、第1流路に備えられたミスト除去部に流体が送られ、予め設定された基準値よりも小さい場合は、流体はミスト除去部に送られないようになっている。本例においては、フッ素ガス選別部が第1の外部及び第2の外部に相当し、第1の外部と第2の外部が同一の箇所となっているが、第1の外部と第2の外部は別の箇所であってもよい。
【0020】
そして、第2流路は、ミストによる第2流路の閉塞を抑制する閉塞抑制機構を有している。閉塞抑制機構は、ミストによる第2流路の閉塞を抑制することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、下記のようなものが挙げられる。すなわち、大径な配管、傾斜した配管、回転スクリュー、気流発生装置を例示することができ、これらは組み合わせて用いてもよい。
詳述すると、第2流路の少なくとも一部を、第1流路よりも大径な配管で構成することにより、ミストによる第2流路の閉塞を抑制することができる。また、第2流路の少なくとも一部を、水平方向に対して傾斜し、且つ、上流側から下流側に向かって下降する方向に延びる配管で構成することにより、ミストによる第2流路の閉塞を抑制することができる。
【0021】
さらに、第2流路の内部に堆積したミストを上流側又は下流側に送る回転スクリューを、第2流路の内部に設置することにより、ミストによる第2流路の閉塞を抑制することができる。さらに、第2流路内を流れる流体の流速を上昇させるための気流を流す気流発生装置を、第2流路に設けることにより、ミストによる第2流路の閉塞を抑制することができる。なお、第1流路に備えられたミスト除去部とは別のミスト除去部を、閉塞抑制機構として第2流路に設けてもよい。
【0022】
第1流路は、ミスト除去部によって流体からミストが除去されるためミストによる閉塞が生じにくく、第2流路は、閉塞抑制機構が設けられているためミストによる閉塞が生じにくい。そのため、本実施形態のフッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置は、フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを製造する際に、ミストによる配管やバルブの閉塞を抑制することができる。なお、ミスト除去部や閉塞抑制機構が備えられていなくても、流体を流す流路を別の流路(第1流路又は第2流路)に切り替えることのみによって、ミストによる配管やバルブの閉塞を抑制する効果は奏されるが、ミスト除去部や閉塞抑制機構が備えられている方が、上記効果が優れている。
【0023】
以下に、本実施形態のフッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置について、さらに詳細に説明する。
〔電解槽〕
電解槽の態様に特に制限はなく、フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液を電気分解してフッ素ガスを発生させることができるならば、どのような電解槽でも使用可能である。
通常、電解槽の内部は、隔壁等の仕切り部材によって、陽極が配された陽極室と陰極が配された陰極室とに区画されており、陽極で発生するフッ素ガスと陰極で発生する水素ガスが混合しないようになっている。
【0024】
陽極としては、例えば、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボン、グラファイト、グラッシーカーボン、不定形炭素などの炭素材料で形成された炭素質電極を用いることができる。また、陽極としては、上記炭素材料の他に、例えば、ニッケル、モネル(商標)などの金属で形成された金属電極も用いることができる。陰極としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、モネル(商標)などの金属で形成された金属電極を用いることができる。
【0025】
電解液はフッ化水素及び金属フッ化物を含有し、この金属フッ化物の種類は特に限定されるものではないが、カリウム、セシウム、ルビジウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種の金属のフッ化物であることが好ましい。電解液にセシウム又はルビジウムが含有されていると、電解液の比重が大きくなるため、電気分解時のミストの発生量が抑制される。
【0026】
電解液としては、例えば、フッ化水素(HF)とフッ化カリウム(KF)の混合溶融塩を用いることができる。フッ化水素とフッ化カリウムの混合溶融塩中のフッ化水素とフッ化カリウムのモル比は、例えば、フッ化水素:フッ化カリウム=1.5~2.5:1とすることができる。フッ化水素:フッ化カリウム=2:1の場合のKF・2HFが代表的な電解液であり、この混合溶融塩の融点は約72℃である。この電解液は腐食性を有するため、電解槽の内面など電解液の接する部位は、鉄、ニッケル、モネル(商標)などの金属で形成することが好ましい。
【0027】
電解液の電気分解時には、陽極と陰極に直流電流が印加され、フッ素ガスを含有する気体が陽極で発生し、水素ガスを含有する気体が陰極で発生する。また、電解液のフッ化水素に蒸気圧があるため、陽極及び陰極で発生する気体には、それぞれフッ化水素が同伴される。さらに、電解液の電気分解によるフッ素ガスの製造においては、電気分解によって発生する気体には、電解液のミストが含有される。よって、電解槽の気相部分は、電気分解によって発生する気体とフッ化水素と電解液のミストからなる。したがって、電解槽の内部から外部へ送り出されるものは、電気分解によって発生する気体とフッ化水素と電解液のミストからなり、本発明においては、これを「流体」と称する。
【0028】
なお、電解の進行によって電解液中のフッ化水素が消費されるため、フッ化水素を連続的又は断続的に電解槽に供給して補給するための配管を、電解槽に接続してもよい。フッ化水素の供給は、電解槽の陰極室側に供給してもよいし、陽極室側に供給してもよい。
電解液の電気分解時にミストが発生する主な理由は、以下のとおりである。電気分解時の電解液の温度は、例えば80~100℃に調整されている。KF・2HFの融点は71.7℃であるため、上記温度に調整されている場合には電解液は液体状態である。電解槽の両電極で発生する気体の気泡は、電解液中を上昇し、電解液の液面ではじける。このとき、電解液の一部が気相中に放出される。
【0029】
気相の温度は電解液の融点よりも低いため、この放出された電解液は、極微小な粉体のような状態に相変化する。この粉体は、フッ化カリウムとフッ化水素の混合物KF・nHFと考えられる。この粉体は、他に発生した気体の流れに乗ってミストとなり、電解槽で発生する流体を形成する。こうしたミストは、粘着性を有するなどの理由により、フィルターの設置等の通常の対策では効果的に除去することが難しい。
【0030】
また、発生量としては少量であるが、陽極である炭素質電極と電気分解で発生したフッ素ガスとの反応によって、有機化合物の微粉末がミストとして発生する場合もある。詳述すると、炭素質電極への電流の給電部分は、接触抵抗が発生することが多く、ジュール熱によって電解液の温度よりも高い温度になる場合がある。そのため、炭素質電極を形成する炭素とフッ素ガスとが反応することによって、煤状の有機化合物CFxがミストとして発生する場合がある。
【0031】
なお、電解槽は、電気分解において使用する陽極又は陰極で発生した気泡が電解液中を鉛直方向に上昇し、電解液の液面に到達可能な構造を有することが好ましい。気泡が電解液中を鉛直方向に上昇しにくく、鉛直方向に対して傾斜した方向に上昇する構造を有していると、複数の気泡が集合して大きな気泡が生成しやすくなる。その結果、大きな気泡が電解液の液面に到達してはじけることとなるため、ミストの発生量が多くなりやすい。気泡が電解液中を鉛直方向に上昇すれば電解液の液面に到達可能な構造を有していると、小さな気泡が電解液の液面に到達してはじけることとなるため、ミストの発生量が少なくなりやすい。
【0032】
〔平均粒子径測定部〕
本実施形態のフッ素ガス製造装置は、流体に含まれるミストの平均粒子径を測定する平均粒子径測定部を備えていてもよいが、この平均粒子径測定部は、光散乱方式で平均粒子径を測定する光散乱検出器で構成されていてもよい。光散乱検出器は、フッ素ガス製造装置を連続運転しながら、流路を流れる流体中のミストの平均粒子径を測定することができるため、平均粒子径測定部として好ましい。
【0033】
光散乱検出器の一例を、図1を参照しながら説明する。図1の光散乱検出器は、本実施形態のフッ素ガス製造装置(例えば、後述する図2及び図4~13のフッ素ガス製造装置)において平均粒子径測定部として使用可能な光散乱検出器である。すなわち、フッ化水素及び金属フッ化物を含有する電解液をフッ素ガス製造装置の電解槽の内部で電気分解してフッ素ガスを製造する際に、電解槽の内部で発生した流体に含まれるミストの平均粒子径を測定する光散乱検出器である。
光散乱検出器をフッ素ガス製造装置に接続し、流体を電解槽の内部から光散乱検出器に送ってミストの平均粒子径を測定してもよいし、光散乱検出器とフッ素ガス製造装置を接続せずに、電解槽の内部から流体を取り出し光散乱検出器に導入してミストの平均粒子径を測定してもよい。
【0034】
図1の光散乱検出器は、流体Fを収容する試料室1と、光散乱測定用光Lを試料室1中の流体Fに照射する光源2と、光散乱測定用光Lが流体F中のミストMにより散乱して生じた散乱光Sを検知する散乱光検知部3と、試料室1に設置されて流体Fと接触し光散乱測定用光Lが透過する透明窓4Aと、試料室1に設置されて流体Fと接触し散乱光Sが透過する透明窓4Bと、を備えている。透明窓4A、4Bは、ダイヤモンド、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化カリウム(KF)、フッ化銀(AgF)、フッ化バリウム(BaF2)、及び臭化カリウム(KBr)から選ばれる少なくとも1種で形成されている。
【0035】
光源2から発せられた光散乱測定用光L(例えばレーザー光)は、収束レンズ6及び試料室1の透明窓4Aを透過して試料室1内に入り、試料室1に収容された流体Fに照射される。この時、流体F中にミストMのような光を反射する物質が存在すると、光散乱測定用光Lが反射して散乱する。光散乱測定用光LがミストMにより散乱して生じた散乱光Sの一部は、試料室1の透明窓4Bを透過して試料室1から外部に取り出され、集光レンズ7及び絞り8を介して散乱光検知部3に入る。この時、散乱光Sから得られる情報により、ミストMの平均粒子径を知ることができる。なお、ここで得られる平均粒子径は、個数平均粒子径である。散乱光検知部3としては、例えば、PALAS社製のエアロゾルスペクトルロメーターwelas(登録商標) digital 2000を用いることができる。
【0036】
透明窓4A、4Bは流体Fに接触するが、流体Fには反応性の高いフッ素ガスが含有されているので、フッ素ガスに腐食されにくい材質で透明窓4A、4Bを形成する必要がある。透明窓4A、4Bを形成する材質としては、ダイヤモンド、フッ化カルシウム、フッ化カリウム、フッ化銀、フッ化バリウム、及び臭化カリウムから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。透明窓4A、4Bが上記の材質で形成されていれば、流体Fと接触することによる劣化を抑制することができる。
【0037】
また、上記の材質からなる被膜を石英等のガラスの表面にコーティングしたものを、透明窓4A、4Bとして使用することもできる。流体Fと接触する部分が上記の材質からなる被膜でコーティングされているので、流体Fと接触することによる劣化をコストを抑えつつ抑制することができる。透明窓4A、4Bは、流体Fと接触する面を上記の材質で形成し、それ以外の部分を石英等の通常のガラスで形成した積層体でもよい。
光散乱検出器のうち透明窓4A、4B以外の部分の材質は、フッ素ガスに対して耐食性を有する材質であれば特に限定されるものではないが、例えば、銅-ニッケル合金であるモネル(商標)、ハステロイ(商標)、ステンレス鋼等の金属材料を使用することが好ましい。
【0038】
〔ミストの平均粒子径と通電量〕
本発明者らは、電解液の電解によるフッ素ガスの製造の際に発生するミストの平均粒子径を、光散乱検出器を用いて測定した。その結果の一例を説明する。フッ素ガス製造装置の陽極を新しい陽極に交換したり、電解槽内に新しい電解液を充填したりした後に電解を開始し、電解開始直後から一定期間に陽極で発生する流体中のミストの平均粒子径を測定した。その結果、ミストの平均粒子径は0.5~2.0μmであった。その後、電解を継続し十分な時間が経過すると電解が安定し始めるが、この安定電解時の流体中のミストの平均粒子径は、約0.2μmであった。
このように、電解開始直後から安定電解時に至るまでの間に、比較的大きな粒子径のミストが発生する。電解開始直後の大きなミストを含有する流体が、配管やバルブ内を流れる場合に、ミストが配管やバルブの内面に吸着して配管やバルブの閉塞が起こりやすくなる。
【0039】
これに対して、安定電解時には、発生するミストの粒子径は比較的小さい。このような小さいミストは、流体中で沈降や堆積などを起こしにくいので、配管やバルブを安定的に流れていくことができる。このため、安定電解時には、ミストと電極で発生したガスとからなる流体は、配管やバルブの閉塞を引き起こす可能性が比較的低い。なお、電解開始直後から安定電解時に至るまでの時間は、通常は25時間以上200時間以下である。また、電解開始直後から安定電解時に至るまでに、電解液1000L当たり概ね40kAh以上の通電が必要である。
【0040】
また、本発明者らは、ミストの平均粒子径と通電量との間には、密接な関係があることを見出した。通常、電気分解に供されたことのない新しい電解液のみを電解槽内に装填して電気分解を開始した場合には、電解開始時(すなわち、電気分解の開始時からの積算の通電量が小さい時)のミストの平均粒子径は0.4μmよりも大きい。その後、電解を継続するにつれて(すなわち、電気分解の開始時からの積算の通電量が増加するにつれて)ミストの平均粒子径は小さくなり、通電量が電解液1000L当たり例えば60kAhを超えると0.4μm以下になる。
【0041】
このように、ミストの平均粒子径と通電量とには相関性があるので、電気分解時にミストの平均粒子径の代わりに通電量を測定し、その測定結果を流路の切り替えに利用することができる。すなわち、電気分解の開始時から積算の通電量を常時測定しておき、電気分解中の所定のタイミングで通電量の測定結果を利用すれば、その測定結果に応じて、上記所定のタイミングで電気分解により生じた流体を流す流路を適切に切り替えることができる。
【0042】
本発明者らは、こうした知見に基づき、電気分解時の通電量に応じて流体を流す流路を切り替えることができる構造を有する上記フッ素ガスの製造方法及びフッ素ガス製造装置を発明した。本実施形態のフッ素ガス製造装置は第1流路と第2流路を有しており、流路切り替え部(例えば切り替えバルブ)を用いて、2つの流路の中から流体の搬送に使用する流路を選択するようになっていてもよい。
【0043】
あるいは、本実施形態のフッ素ガス製造装置は、2つの流路と、電解槽の移動及び付け替えを行う移動付け替え機構とを有していて、2つの流路の中から流体の搬送に使用する流路を選択し、その流路の近傍に電解槽を移動させて接続することにより、流路を切り替えるようになっていてもよい。
上記のように第1流路と第2流路を有しているので、一方の流路を遮断してクリーニングしている間でも、他方の流路を開いてフッ素ガス製造装置を継続して運転することができる。
【0044】
本発明者らの検討では、電解開始直後から安定電解時に至るまでの間は、平均粒子径が比較的大きいミストが発生するので、この時には、閉塞抑制機構を有する第2流路に流体を送ってもよい。時間が経過し、安定電解時に至ると、平均粒子径が比較的小さいミストが発生するので、この時には、ミスト除去部を有する第1流路に流体を送るように流路を切り替えてもよい。
このような流路の切り替えは、測定された電気分解時の通電量に応じて行うが、予め設定された基準値に基づいて流路の切り替えを行う。陽極で発生するミストの平均粒子径についての適切な基準値は、装置ごとに異なるが、例えば0.1μm以上1.0μm以下、好ましくは0.2μm以上0.8μm以下、さらに好ましくは0.4μmである。
【0045】
よって、ミストの平均粒子径と通電量との相関性から、通電量についての適切な基準値の下限は、電解液1000L当たり40kAh以上、好ましくは50kAh以上である。なお、上記基準値の上限は、好ましくは100kAh以下、さらに好ましくは80kAh以下である。通電量の最も適切な基準値は60kAhである。通電量が基準値よりも小さい場合には、第2流路に流体を送り、基準値以上である場合には、第1流路に流体を送ることができる。
【0046】
通電量は電流値と時間の積であるので、電気分解時の積算の通電量は、例えば電流計と計時装置と計算装置を用いて測定することができる。すなわち、電気分解のために電極に供給した電流を電流計によって測定するとともに、電気分解を開始してからの総電解時間を時計等の計時装置によって測定し、これら数値をコンピュータ等の計算装置によって掛け合わせれば、電気分解時の積算の通電量を得ることができる。また、電気分解時の積算の通電量は、クーロンメーターによっても測定することができる。
なお、陰極で発生する流体(主成分は水素ガス)中には、例えば、単位体積(1リットル)当たり20~50μg(ミストの比重は1.0g/mLであると仮定して算出した)の粉体が含まれており、この粉体の平均粒子径は約0.1μmで、±0.05μmの分布を持っている。
【0047】
陰極で発生する流体においては、発生する粉体の粒子径分布に、通電量による大きな差は認められなかった。陰極で発生する流体に含有されるミストは、陽極で発生する流体に含有されるミストよりも平均粒子径が小さいので、陽極で発生する流体に含有されるミストに比べると、配管やバルブの閉塞を生じさせにくい。よって、陰極で発生する流体に含有されるミストは、適当な除去方法を用いて流体から除去すればよい。
【0048】
本実施形態のフッ素ガス製造装置の一例を、図2を参照しながら詳細に説明する。図2のフッ素ガス製造装置は、電解槽を2基備えている例であるが、電解槽は1基であってもよいし、3基以上であってもよく、例えば10~15基であってもよい。
図2に示すフッ素ガス製造装置は、内部に電解液10を収容し電気分解が行われる電解槽11、11と、電解槽11の内部に配されて電解液10に浸漬される陽極13と、電解槽11の内部に配されて電解液10に浸漬されるとともに陽極13に対向して配された陰極15と、を備えている。
【0049】
電解槽11の内部は、電解槽11の内部の天井面から鉛直方向下方に延び且つその下端が電解液10に浸漬している隔壁17によって、陽極室22と陰極室24に区画されている。そして、陽極室22内に陽極13が配され、陰極室24内に陰極15が配されている。ただし、電解液10の液面上の空間は、隔壁17によって陽極室22内の空間と陰極室24内の空間に分離されており、電解液10のうち隔壁17の下端よりも上方側の部分については隔壁17によって分離されているが、電解液10のうち隔壁17の下端よりも下方側の部分については隔壁17によって直接的には分離されておらず連続している。
【0050】
また、図2に示すフッ素ガス製造装置は、電解液10の電気分解時に電解槽11の内部で発生した流体に含まれるミストの平均粒子径を測定する第1平均粒子径測定部31と、流体からミストを除去する第1ミスト除去部32と、流体からフッ素ガスを選別して取り出すフッ素ガス選別部(図示せず)と、流体を電解槽11の内部からフッ素ガス選別部へ送る流路と、を備えている。
【0051】
さらに、図2に示すフッ素ガス製造装置は、電気分解のために陽極13及び陰極15に供給した電流を測定する電流計(図示せず)と、電気分解を開始してからの総電解時間を測定する計時装置(図示せず)と、電流計で測定した電流値と計時装置で測定した総電解時間とを掛け合わせて電気分解時の積算の通電量を算出する計算装置(図示せず)と、を備えている。これら電流計と計時装置と計算装置によって、本発明の構成要件である通電量測定部が構成される。
【0052】
さらに、上記の流路は、第1ミスト除去部32を経由して電解槽11の内部からフッ素ガス選別部へ流体を送る第1流路と、第1ミスト除去部32を経由せずに電解槽11の内部からフッ素ガス選別部へ流体を送る第2流路と、を有している。また、この流路は、上記通電量測定部で測定された通電量に応じて、流体を流す流路を第1流路又は第2流路に切り替える流路切り替え部を有している。すなわち、電解槽11から延びる流路の途中に流路切り替え部が設けられており、流路切り替え部によって流体を流す流路を変更できるようになっている。
【0053】
この流路切り替え部は、上記通電量測定部で測定された通電量が、予め設定された基準値以上である場合は、電解槽11の内部から第1流路に流体を送り、予め設定された基準値よりも小さい場合は、電解槽11の内部から第2流路に流体を送るようになっている。そして、第2流路は、第2流路のミストによる閉塞を抑制する閉塞抑制機構を有している。
【0054】
すなわち、上記通電量測定部で測定された通電量が基準値以上である場合は、電解槽11とフッ素ガス選別部を連結し且つ第1ミスト除去部32が設けられた第1流路に流体が送られ、上記通電量測定部で測定された通電量が基準値よりも小さい場合は、電解槽11とフッ素ガス選別部を連結し且つ閉塞抑制機構が設けられた第2流路に流体が送られるようになっている。
【0055】
第1ミスト除去部32としては、例えば平均粒子径0.4μm以下のミストを流体から除去することができるミスト除去装置を用いる。ミスト除去装置の種類、すなわち、ミストを除去する方式については特に限定されるものではないが、ミストの平均粒子径が小さいので、例えば、電気集塵装置、ベンチュリースクラバー、フィルターをミスト除去装置として用いることができる。
【0056】
上記のミスト除去装置の中でも、図3に示すミスト除去装置を用いることが好ましい。図3に示すミスト除去装置は、液体のフッ化水素を循環液として用いるスクラバー式のミスト除去装置である。図3に示すミスト除去装置は、平均粒子径0.4μm以下のミストを流体から効率よく除去することができる。また、液体のフッ化水素を循環液として用いるが、フッ素ガス中のフッ化水素の濃度を下げるために循環液を冷却することが好ましいので、冷却温度の制御によってフッ素ガス中のフッ化水素の濃度を調整することができる。
【0057】
図2に示すフッ素ガス製造装置について、さらに詳細に説明する。電解槽11の陽極室22で発生する流体(以下、「陽極ガス」と記すこともある)を外部に送る第1配管41が、電解槽11と第4配管44とを連通しており、2つの電解槽11、11から送り出された陽極ガスが第1配管41によって第4配管44に送られて混合されるようになっている。なお、陽極ガスの主成分はフッ素ガスであり、副成分はミスト、フッ化水素、四フッ化炭素、酸素ガス、水である。
【0058】
第4配管44は第1ミスト除去部32に接続されており、陽極ガスが第4配管44によって第1ミスト除去部32に送られるので、陽極ガス中のミスト及びフッ化水素が第1ミスト除去部32によって陽極ガスから除去されるようになっている。ミスト及びフッ化水素が除去された陽極ガスは、第1ミスト除去部32に接続された第6配管46によって、第1ミスト除去部32から図示しないフッ素ガス選別部へ送り出されるようになっている。そして、フッ素ガス選別部によって、陽極ガスからフッ素ガスが選別されて取り出されるようになっている。
【0059】
なお、第1ミスト除去部32には第8配管48が接続されており、循環液である液体のフッ化水素が第8配管48によって第1ミスト除去部32に供給されるようになっている。さらに、第1ミスト除去部32には第9配管49が接続されている。第9配管49は第3配管43を介して電解槽11、11に接続されており、第1ミスト除去部32でミストの除去に使用されてミストを含有する循環液(液体のフッ化水素)が、第1ミスト除去部32から電解槽11、11に戻されるようになっている。
【0060】
電解槽11の陰極室24についても陽極室22と同様である。すなわち、電解槽11の陰極室24で発生する流体(以下、「陰極ガス」と記すこともある)を外部に送る第2配管42が、電解槽11と第5配管45とを連通しており、2つの電解槽11、11から送り出された陰極ガスが第2配管42によって第5配管45に送られて混合されるようになっている。なお、陰極ガスの主成分は水素ガスであり、副成分はミスト、フッ化水素、水である。
【0061】
陰極ガスは、細かいミストと5~10体積%のフッ化水素を含有するため、そのまま大気に排出することは好ましくない。そのため、第5配管45は第2ミスト除去部33に接続されており、陰極ガスが第5配管45によって第2ミスト除去部33に送られ、陰極ガス中のミスト及びフッ化水素が第2ミスト除去部33によって陰極ガスから除去されるようになっている。ミスト及びフッ化水素が除去された陰極ガスは、第2ミスト除去部33に接続された第7配管47によって、第2ミスト除去部33から大気に排出されるようになっている。第2ミスト除去部33の種類、すなわち、ミストを除去する方式については特に限定されるものではないが、アルカリ水溶液を循環液として用いるスクラバー式のミスト除去装置を用いることができる。
【0062】
第1配管41、第2配管42、第4配管44、第5配管45の管径や設置方向(配管が延びる方向を意味し、例えば鉛直方向、水平方向である)は特に限定されるものではないが、第1配管41及び第2配管42は、電解槽11から鉛直方向に沿って延びるように設置し、第1配管41及び第2配管42を流れる流体の流速が標準状態で30cm/sec以下になるような管径とすることが好ましい。そうすれば、流体に含有されるミストが自重で落下した場合でも、ミストが電解槽11内に沈降するため、粉体による第1配管41及び第2配管42の内部の閉塞が生じにくい。
また、第4配管44及び第5配管45は、水平方向に沿って延びるように設置し、第4配管44及び第5配管45を流れる流体の流速が第1配管41及び第2配管42の場合の1倍~10倍程度速くなるような管径とすることが好ましい。
【0063】
さらに、陽極ガスを電解槽11の外部に送るための第2バイパス配管52が、第1配管41とは別に設けられている。すなわち、第2バイパス配管52が、電解槽11と第1バイパス配管51とを連通しており、2つの電解槽11、11から送り出された陽極ガスが第2バイパス配管52によって第1バイパス配管51に送られて混合されるようになっている。さらに、第1バイパス配管51によって、陽極ガスが図示しないフッ素ガス選別部へ送り出されるようになっている。そして、フッ素ガス選別部によって、陽極ガスからフッ素ガスが選別されて取り出されるようになっている。なお、第1バイパス配管51に接続されたフッ素ガス選別部と、第6配管46に接続されたフッ素ガス選別部は、同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0064】
第2バイパス配管52の管径や設置方向は特に限定されるものではないが、第2バイパス配管52は電解槽11から鉛直方向に沿って延びるように設置し、第2バイパス配管52を流れる流体の流速が標準状態で30cm/sec以下になるような管径とすることが好ましい。
【0065】
また、第1バイパス配管51は、水平方向に沿って延びるように設置する。そして、第1バイパス配管51は、第4配管44よりも大径な管径の配管とされていて、第1バイパス配管51の管径は、粉体の堆積による第1バイパス配管51の閉塞が生じにくいような大きさとなっている。第1バイパス配管51が第4配管44よりも大径な管径の配管であることにより、閉塞抑制機構が構成されている。
第1バイパス配管51の管径は、第4配管44の1.0倍超過3.2倍以下が好ましく、1.05倍以上1.5倍以下がさらに好ましい。つまり、第1バイパス配管51の流路断面積は、第4配管44の10倍以下が好ましい。
【0066】
以上の説明から分かるように、第1配管41及び第4配管44によって上記の第1流路が構成され、第1バイパス配管51及び第2バイパス配管52によって上記の第2流路が構成される。そして、第2流路を構成する第1バイパス配管51に、閉塞抑制機構が設けられている。
【0067】
次に、流路切り替え部について説明する。第1配管41には、それぞれ第1配管弁61が設置されている。そして、第1配管弁61を開状態又は閉状態に切り替えることにより、電解槽11から第1ミスト除去部32への陽極ガスの送気の可否を制御できるようになっている。また、第2バイパス配管52には、それぞれバイパス弁62が設置されている。そして、バイパス弁62を開状態又は閉状態に切り替えることにより、電解槽11から第1バイパス配管51への陽極ガスの送気の可否を制御できるようになっている。
【0068】
さらに、電解槽11と第1ミスト除去部32との間、詳述すると、第4配管44の中間部であり且つ第1配管41との連結部よりも下流側に、第1平均粒子径測定部31が設置されている。そして、第1平均粒子径測定部31により、第4配管44を流れる陽極ガスに含有されるミストの平均粒子径が測定されるようになっている。また、ミストの平均粒子径を測定した後の陽極ガスに含有されるフッ素ガスと窒素ガスを分析することにより、フッ素ガスの製造における電流効率を測定することができる。
【0069】
なお、第1バイパス配管51の中間部で且つ第2バイパス配管52との連結部よりも下流側にも、同様の第2平均粒子径測定部34が設置されており、第2平均粒子径測定部34により、第1バイパス配管51を流れる陽極ガスに含有されるミストの平均粒子径が測定されるようになっている。ただし、図2に示すフッ素ガス製造装置は、第1平均粒子径測定部31及び第2平均粒子径測定部34を備えていなくてもよい。
【0070】
さらに、図2に示すフッ素ガス製造装置は、前述したように通電量測定部を備えている。通電量測定部の設置箇所は特に限定されるものではなく、例えば電解槽11に設置されていてもよいが、電気分解のために陽極13及び陰極15に供給した電流と電気分解を開始してからの総電解時間を測定し、電気分解時の積算の通電量を算出することができるならば、フッ素ガス製造装置のいずれの箇所に設置されていても差し支えない。また、通電量測定部を構成する電流計、計時装置、及び計算装置は、一体となっていてもよいし、それぞれ別体であっていてもよい。
【0071】
通電量測定部によって電気分解時の積算の通電量を測定し、その測定結果が、予め設定された基準値よりも小さい場合は、バイパス弁62を開状態として、陽極ガスを電解槽11から第1バイパス配管51へ送るとともに、第1配管弁61を閉状態として、陽極ガスが第4配管44及び第1ミスト除去部32へ送られないようにする。すなわち、陽極ガスを第2流路に送る。
【0072】
一方、測定結果が、予め設定された基準値以上である場合は、第1配管弁61を開状態として、陽極ガスを第4配管44及び第1ミスト除去部32へ送るとともに、バイパス弁62を閉状態として、電解槽11から第1バイパス配管51へ陽極ガスが送られないようにする。すなわち、陽極ガスを第1流路に送る。
以上の説明から分かるように、第1配管弁61及びバイパス弁62によって上記の流路切り替え部が構成される。
上記のようにして、電気分解時の積算の通電量に応じて流路を切り替えながらフッ素ガス製造装置の運転を行うことにより、ミストによる配管やバルブの閉塞を抑制しつつ円滑に連続運転を行うことができる。よって、図2に示すフッ素ガス製造装置によれば、フッ素ガスを経済的に製造することができる。
【0073】
例えば、ミスト除去部として、フィルターを設置した配管を複数用意して、適宜切り替えながら、フィルターを交換しながら、電解を実施しても構わない。
さらには、フィルターの交換を頻繁に行うべき期間と、フィルターの交換を頻繁に行う必要がない期間とを、電気分解時の積算の通電量の測定に基づいて判断するとよい。そして、上記判断に基づいて、流体を流す配管の切り替え頻度を適切に調整すれば、フッ素ガス製造装置の運転を効率良く継続して行うことができる。
【0074】
次に、図2に示すフッ素ガス製造装置の変形例について説明する。
〔第1変形例〕
第1変形例について、図4を参照しながら説明する。図2に示すフッ素ガス製造装置においては、第2バイパス配管52は電解槽11と第1バイパス配管51を連結しているのに対して、図4に示す第1変形例のフッ素ガス製造装置においては、第2バイパス配管52は第1配管41と第1バイパス配管51を連結している。第1変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は図2のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0075】
〔第2変形例〕
第2変形例について、図5を参照しながら説明する。図5に示す第2変形例のフッ素ガス製造装置は、電解槽11を1基備えている例である。第1平均粒子径測定部31は、第4配管44ではなく第1配管41に設けられており、且つ、第1配管弁61の上流側に設けられている。また、第2バイパス配管52は有しておらず、第1バイパス配管51は、第2バイパス配管52を介さずに電解槽11に直接的に接続されている。
【0076】
そして、第1バイパス配管51は、第4配管44に比べて大径であるので、閉塞抑制機構として機能する。さらに、例えば第1バイパス配管51の下流側末端にミスト溜まり用の空間を設置することにより、閉塞抑制の効果をさらに増大させることができる。このミスト溜まり用の空間としては、例えば、第1バイパス配管51の下流側末端部分を設置方向中央部分よりも大きな管径(設置方向中央部分の例えば4倍以上の管径)に形成してなる空間や、第1バイパス配管51の下流側末端部分を容器のような形状に形成してなる空間が挙げられ、ミスト溜まり用の空間によって第1バイパス配管51の閉塞を抑制することができる。これは、流路断面積が大きいことによる閉塞防止の効果と、ガス流動の線速度の低下によるミストの重力落下を利用した閉塞防止の効果を狙ったものである。
さらに、バイパス弁62は、第1バイパス配管51と図示しないフッ素ガス選別部とを接続する第3バイパス配管53に設けられている。第2変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は図2のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0077】
〔第3変形例〕
第3変形例について、図6を参照しながら説明する。第3変形例のフッ素ガス製造装置においては、第1平均粒子径測定部31が電解槽11に設けられており、電解槽11の内部の陽極ガスが第1平均粒子径測定部31に直接的に導入されて、ミストの平均粒子径の測定が行われるようになっている。第3変形例のフッ素ガス製造装置は、第2平均粒子径測定部34は有していない。第3変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は第2変形例のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0078】
〔第4変形例〕
第4変形例について、図7を参照しながら説明する。第4変形例のフッ素ガス製造装置は、図5に示す第2変形例に対して閉塞抑制機構が異なる例である。第2変形例のフッ素ガス製造装置においては、第1バイパス配管51は、水平方向に沿って延びるように設置されていたが、第4変形例のフッ素ガス製造装置においては、第1バイパス配管51は、水平方向に対して傾斜し、且つ、上流側から下流側に向かって下降する方向に延びている。この傾斜により、粉体が第1バイパス配管51の内部に堆積することが抑制される。この傾斜が大きいほど、粉体の堆積を抑制する作用が大きい。
【0079】
第1バイパス配管51の傾斜角度は、水平面からの俯角が90度より小さい範囲で30度以上が好ましく、40度以上60度以下がより好ましい。もし第1バイパス配管51の閉塞が起こりそうなときには、傾斜した第1バイパス配管51をハンマリングすれば、第1バイパス配管51の内部の堆積物が移動しやすくなるので、閉塞を回避することができる。
第4変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は第2変形例のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0080】
〔第5変形例〕
第5変形例について、図8を参照しながら説明する。第5変形例のフッ素ガス製造装置は、図6に示す第3変形例に対して閉塞抑制機構が異なる例である。第3変形例のフッ素ガス製造装置においては、第1バイパス配管51は、水平方向に沿って延びるように設置されていたが、第5変形例のフッ素ガス製造装置においては、第1バイパス配管51は、水平方向に対して傾斜し、且つ、上流側から下流側に向かって下降する方向に延びている。この傾斜により、粉体が第1バイパス配管51の内部に堆積することが抑制される。第1バイパス配管51の好ましい傾斜角度は、上記第4変形例の場合と同様である。第5変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は第3変形例のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0081】
〔第6変形例〕
第6変形例について、図9を参照しながら説明する。第6変形例のフッ素ガス製造装置は、図5に示す第2変形例に対して電解槽11の構造が異なる例である。電解槽11は、1つの陽極13と2つの陰極15、15とを有しており、且つ、1つの陽極13を囲む筒状の隔壁17によって1つの陽極室22と1つの陰極室24に区画されている。陽極室22は、電解槽11の上面よりも上方まで延びて形成されており、第1バイパス配管51は電解槽11の陽極室22の上端部分に接続されている。第6変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は第2変形例のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0082】
〔第7変形例〕
第7変形例について、図10を参照しながら説明する。第7変形例のフッ素ガス製造装置は、図9に示す第6変形例に対して第1バイパス配管51の構造が異なる例である。すなわち、第7変形例のフッ素ガス製造装置においては、第1バイパス配管51は、第4変形例及び第5変形例と同様に、水平方向に対して傾斜し、且つ、上流側から下流側に向かって下降する方向に延びている。第1バイパス配管51の好ましい傾斜角度は、上記第4変形例の場合と同様である。第7変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は第6変形例のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0083】
〔第8変形例〕
第8変形例について、図11を参照しながら説明する。第8変形例のフッ素ガス製造装置は、図5に示す第2変形例に対して閉塞抑制機構が異なる例である。第8変形例のフッ素ガス製造装置においては、閉塞抑制機構を構成する回転スクリュー71が第1バイパス配管51の内部に設置されている。この回転スクリュー71は、その回転軸を第1バイパス配管51の長手方向に対して平行にして設置されている。
【0084】
そして、モーター72によって回転スクリュー71を回転させることにより、第1バイパス配管51の内部に堆積したミストを上流側又は下流側に送ることができるようになっている。これにより、粉体が第1バイパス配管51の内部に堆積することが抑制される。第8変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は第2変形例のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0085】
〔第9変形例〕
第9変形例について、図12を参照しながら説明する。第9変形例のフッ素ガス製造装置は、図5に示す第2変形例に対して閉塞抑制機構が異なる例である。第9変形例のフッ素ガス製造装置においては、閉塞抑制機構を構成する気流発生装置73が第1バイパス配管51に設置されている。気流発生装置73が、第1バイパス配管51の上流側から下流側に向かって気流(例えば窒素ガスの気流)を送り込み、第1バイパス配管51内を流れる陽極ガスの流速を上昇させる。これにより、粉体が第1バイパス配管51の内部に堆積することが抑制される。
【0086】
このときの第1バイパス配管51内を流れる陽極ガスの好ましい流速は、1m/sec以上10m/sec以下である。流速を10m/secよりも大きくすることも可能であるが、その場合は第1バイパス配管51内での配管抵抗による圧力損失が大きくなり、電解槽11の陽極室22内の圧力が高くなる。陽極室22内の圧力と陰極室24内の圧力はほぼ同程度であることが好ましいが、陽極室22内の圧力と陰極室24内の圧力との差が大きくなり過ぎると、陽極ガスが隔壁17を超えて陰極室24に流れ込み、フッ素ガスと水素ガスの反応が起こり、フッ素ガスの発生に支障をきたす場合がある。
第9変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は第2変形例のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【0087】
〔第10変形例〕
第10変形例について、図13を参照しながら説明する。第10変形例のフッ素ガス製造装置においては、第1平均粒子径測定部31が電解槽11に設けられており、電解槽11の内部の陽極ガスが第1平均粒子径測定部31に直接的に導入されて、ミストの平均粒子径の測定が行われるようになっている。第10変形例のフッ素ガス製造装置は、第2平均粒子径測定部34は有していない。第10変形例のフッ素ガス製造装置の構成は、上記の点以外は図12に示す第9変形例のフッ素ガス製造装置とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略する。
【実施例
【0088】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をより具体的に説明する。
〔参考例1〕
電解液を電気分解して、フッ素ガスを製造した。電解液としては、フッ化水素434kgとフッ化カリウム630kgとの混合溶融塩(560L)を用いた。陽極としてSGLカーボン社製のアモルファスカーボン電極(横30cm、縦45cm、厚さ7cm)を使用し、16枚の陽極を電解槽に設置した。また、陰極としてモネル(商標)製のパンチングプレートを使用し、電解槽に設置した。1枚の陽極に2枚の陰極が対向しており、1枚の陽極のうち陰極に対向している部分の合計の面積は1736cm2である。
【0089】
電解温度は85~95℃に制御した。まず、電解液温度を85℃とし、電流密度0.036A/cm2で1000Aの直流電流を印加し、電解を開始した。この時の電解液中の水分濃度は1.0質量%であった。なお、水分濃度は、カールフィッシャー分析法によって測定したものである。
上記の条件での電解を開始し、電解開始直後から積算の通電量が10kAhとなるまでの間は、陽極室内の陽極の近傍において小さな破裂音が観測された。この破裂音は、発生したフッ素ガスと電解液中の水分とが反応したために発生したものと考えられる。
【0090】
この状態において陽極で発生した流体を、電解槽の陽極室から外部に送り出されたところで採取して、流体に含有されるミストを分析した。その結果、陽極で発生した流体1Lあたり5.0~9.0mg(ミストの比重は1.0g/mLであると仮定して算出した。以下も同様である。)の粉体が含有されており、この粉体の平均粒子径は1.0~2.0μmであった。この粉体を光学顕微鏡で観察したところ、球の内部をくり抜いたような形状をした粉体が主に観察された。また、この時のフッ素ガス生成の電流効率は0~15%であった。
【0091】
さらに、積算の通電量が30kAhとなるまで電気分解を継続すると、陽極室の内部で破裂音が発生する頻度が低減してきた。この時の電解液中の水分濃度は0.7質量%であった。また、この状態において陽極で発生した流体を、電解槽の陽極室から外部に送り出されたところで採取して、流体に含有されるミストを分析した。その結果、陽極で発生した流体1Lあたり0.4~1.0mgのミストが含有されており、このミストの平均粒子径は0.5~0.7μmであった。さらに、この時のフッ素ガス生成の電流効率は15~55%であった。電解開始からここまでの電解の段階を、「段階(1)」とする。
【0092】
さらに、段階(1)に引き続き電解液の電解を継続した。すると、フッ化水素が消費されて電解液のレベルが低下するので、フッ化水素タンクから電解槽にフッ化水素を適宜補給した。補給されるフッ化水素中の水分濃度は、500質量ppm以下である。
さらに、電解を継続して、積算の通電量が60kAhを超えると、陽極で発生した流体に含有されるミストの平均粒子径が0.36μm(すなわち0.4μm以下)となった。この時点では、陽極室の内部で破裂音が全く発生しなくなった。また、この時の電解液中の水分濃度は0.2質量%(すなわち0.3質量%以下)であった。さらに、この時のフッ素ガス生成の電流効率は65%であった。段階(1)の終了時点からここまでの電解の段階を、「段階(2)」とする。
【0093】
さらに、電流を3500Aに増加し電流密度を0.126A/cm2に増加して、段階(2)に引き続き電解液の電解を継続した。この状態において陽極で発生した流体を、電解槽の陽極室から外部に送り出されたところで採取して、流体に含有されるミストを分析した。その結果、陽極で発生した流体1Lあたり0.03~0.06mgの粉体が含有されており、この粉体の平均粒子径は約0.2μm(0.15~0.25μm)で、粒子径は約0.1~0.5μmの分布を持っていた。図14に、この粉体の粒子径分布の測定結果を示す。さらに、この時のフッ素ガス生成の電流効率は94%であった。段階(2)の終了時点からここまでの電解の段階を、「安定段階」とする。
【0094】
上記のようにして行った参考例1の電気分解の内容を、表1にまとめて示す。表1には、電流、電解経過時間、通電量、電解液中の水分濃度、陽極で発生した流体(表1では「陽極ガス」と記してある)1L中に含有されるミストの質量、ミストの平均粒子径、電流効率とともに、陽極で発生した流体(フッ素ガス、酸素ガス、ミストを含有する)の量、陽極で発生したミストの量、破裂音の強さ、及び、陰極で生成した流体中の水分濃度(表1では「陰極ガス中の水分濃度」と記してある)も示してある。
【0095】
また、ミストの平均粒子径と陽極で発生したミストの量との関係を示すグラフを、図15に示す。図15のグラフから、ミストの平均粒子径と陽極で発生するミストの量との間には相関性があることが分かる。ミストの発生量が多いほど配管やバルブの閉塞が起こりやすく、また、平均粒子径が0.4μmよりも大きいミストが発生する場合は、ミストの発生量が増加し、さらには重力の作用によって沈着するので、図15のグラフに示す関係が、ミストの平均粒子径と配管やバルブの閉塞の起こりやすさとの相関性を表していると言える。
さらに、ミストの平均粒子径と積算の通電量との関係を示すグラフを、図16に示す。ミストの平均粒子径が大きいほど配管やバルブの閉塞が起こりやすいので、図16のグラフに示す関係が、積算の通電量と配管やバルブの閉塞の起こりやすさとの相関性を表していると言える。
【0096】
【表1】
【0097】
〔実施例1〕
参考例1と同様の電解を、図2に示すフッ素ガス製造装置を用いて行った。段階(1)の電解においては、陽極で発生した流体を、第2バイパス配管、バイパス弁、第1バイパス配管を経由させて流通させた。段階(1)の電解が終了した後に一旦電解を停止して、フッ素ガス製造装置の内部の点検を行った。その結果、第1バイパス配管内にはミストが堆積していたものの、配管の径を太くしてあるため配管の閉塞は起こらなかった。
【0098】
ミストの平均粒子径が基準値の0.4μm以下(積算の通電量は基準値の60kAh)である段階(2)の電解となったため、陽極で発生した流体を、第1配管、第1配管弁、第4配管、第1ミスト除去部を経由させて流通させた。第1配管、第1配管弁、第4配管にミストの堆積や閉塞は起こらず、陽極で発生した流体は第1ミスト除去部に供給されたため、第1ミスト除去部においてミストは除去された。第1ミスト除去部は、液体のフッ化水素を噴霧してミスト等の微粒子を除去するスクラバー式の除去部であり、ミストの除去率は98%以上であった。
【0099】
〔比較例1〕
段階(1)の電解において、陽極で発生した流体を、第1配管、第1配管弁、第4配管、第1ミスト除去部を経由させて流通させた点以外は、実施例1と同様に電解を行った。
段階(1)の電解中、電解槽の陽極側及び陰極側に取り付けた圧力計のうち陽極側の圧力計の計測値が徐々に高くなり、陰極側の圧力との差圧が90mmH2Oになったため、電解を停止した。停止の理由は以下のとおりである。電解槽内の隔壁のうち電解液に浸漬した部分の鉛直方向長さ(浸漬深さ)が5cmであったため、陽極側の圧力が陰極側の圧力よりも約100mmH2O高くなると、陽極側の電解液の液面が隔壁の下端よりも低くなる。その結果、フッ素ガスが隔壁を乗り越えて陰極側の水素ガスと混合し、フッ素ガスと水素ガスの急激な反応を起こすようになるので、非常に危険である。
【0100】
系内を窒素ガス等でパージした後に、第1配管、第1配管弁、第4配管の内部を点検したところ、第1配管は鉛直方向に延びる配管であるので閉塞はなかった。第1配管弁に少量の粉の付着があり、第1配管弁の下流側の配管、すなわち第4配管への入口部分が粉で閉塞していた。第4配管にも粉の堆積はあったが、配管を閉塞させるほどの量ではなかった。
【符号の説明】
【0101】
1・・・試料室
2・・・光源
3・・・散乱光検知部
4A、4B・・・透明窓
10・・・電解液
11・・・電解槽
13・・・陽極
15・・・陰極
22・・・陽極室
24・・・陰極室
31・・・第1平均粒子径測定部
32・・・第1ミスト除去部
33・・・第2ミスト除去部
34・・・第2平均粒子径測定部
41・・・第1配管
42・・・第2配管
43・・・第3配管
44・・・第4配管
45・・・第5配管
46・・・第6配管
47・・・第7配管
48・・・第8配管
49・・・第9配管
51・・・第1バイパス配管
52・・・第2バイパス配管
61・・・第1配管弁
62・・・バイパス弁
F・・・流体
L・・・光散乱測定用光
M・・・ミスト
S・・・散乱光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16