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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】香料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20250311BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20250311BHJP
【FI】
C11B9/00 H
C11B9/00 Z
A23L27/00 C
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021567463
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047795
(87)【国際公開番号】W WO2021132200
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019231953
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】奥山 真衣
(72)【発明者】
【氏名】辻 史忠
(72)【発明者】
【氏名】林 和寛
(72)【発明者】
【氏名】若林 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】笠原 美紀
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-91958(JP,A)
【文献】特開2015-140345(JP,A)
【文献】特開平1-206959(JP,A)
【文献】特開平3-167129(JP,A)
【文献】特開2011-182756(JP,A)
【文献】特開2001-271089(JP,A)
【文献】特開昭58-164683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0075010(US,A1)
【文献】Meat-like Flavor Generated from Thermal Interactions of Glucose and Alliin or Deoxyalliin, JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY,1994, vol. 42, no. 4,pages 1005 - 1009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/00
A23L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I)で表される化合物:
【化1】
〔式中、
Rは、C1-6アルキル基又はC2-6アルケニル基を示し;
Xは、-S-又は-S(=O)-を示す。〕、
(B)構成単糖の重合度が2以上である糖、並びに
(C)アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、メチオニン及びセリンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩
を含有する組成物(以下、香気前駆組成物という)を加熱することを含む、香料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(I)のRが、メチル基、n-プロピル基、1-プロペニル基又は2-プロペニル基である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記(B)が、二糖及び多糖からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記(C)が、アルギニン、グルタミン酸及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記香気前駆組成物における水の含有量が、香気前駆組成物に対して15重量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記香気前駆組成物が、油を実質的に含有しない、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記香気前駆組成物の形態が、粉粒体状である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記香気前駆組成物の加熱温度が、105~225℃である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記香気前駆組成物を加熱して得られた溶融物を、冷却して固化させることを更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記香気前駆組成物が、グリセリン脂肪酸エステル、セルロース及びタルクからなる群より選択される少なくとも一つを更に含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記香料組成物が、アリウム属植物香の付与用である、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
アリウム属植物香が、ローストされたアリウム属植物香又は新鮮なアリウム属植物香である、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
前記アリウム属植物が、ニンニク、タマネギ、ネギ及びニラからなる群より選択される、請求項11又は12記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の製造方法で得られる香料組成物を添加することを含む、食品の製造方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の製造方法で得られる香料組成物を食品に添加することを含む、アリウム属植物香の付与方法。
【請求項16】
(A)下記一般式(I)で表される化合物:
【化2】
〔式中、
Rは、C1-6アルキル基又はC2-6アルケニル基を示し;
Xは、-S-又は-S(=O)-を示す。〕、
(B)構成単糖の重合度が2以上である糖、並びに
(C)アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、メチオニン及びセリンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩
を含有する組成物の溶融固化物を含む、香料組成物。
【請求項17】
請求項16記載の香料組成物を含有する食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料組成物の製造方法に関する。詳細には、本発明は、アリウム属植物香を食品に付与するために好適に用いられる香料組成物の製造方法に関する。また、本発明は、当該香料組成物等を用いる、食品の製造方法及びアリウム属植物香の付与方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ニンニクやネギ等のアリウム属植物には、S-アリルシステインスルホキシド(一般に、アリイン(Alliin)とも称される)が含有されている。アリインは細胞質に存在し、アリウム属植物を包丁でカットすること等によって細胞組織が壊れると、細胞中の液胞に存在するアリナーゼと接触して分解される。分解されたアリインは、アリシン(Allicin)を経て、含硫化合物(例えば、スルフィド類、チオフェン類等)に変換され、当該含硫化合物が、アリウム属植物に特徴的な香気成分となる(非特許文献1)。
【0003】
ニンニクやネギ等のアリウム属植物は、各種調味料や加工食品の風味品質を左右し得、これらの重要な原料の一つとして用いられ得るものであるが、アリウム属植物を安定して、かつ安価に調達することには、少なからず課題があった(例えば、価格高騰等)。そこで、アリウム属植物の代替素材として、S-アリルシステインスルホキシド及びその類縁化合物を香気成分前駆体とした素材開発が行われている。
【0004】
S-アリルシステインスルホキシド等を香気成分に変換する方法としては、従来、アリナーゼ等の酵素を利用する方法(例えば、非特許文献1等)の他、S-アリルシステインスルホキシド等を加熱して香気成分に変換する方法等が報告されている(非特許文献2~6)。
【0005】
一方、S-アリルシステインスルホキシド等から生成した香気成分(スルフィド類、チオフェン類等の含硫化合物)は、生成後短時間で揮発して香気が感じられなくなる。そのため当該香気成分を香料として利用するには、S-アリルシステインスルホキシド等を香気成分に変換することに加え、生成した香気成分が香料に保持されるための加工処理(例えば、香料のコーティング処理等)を、別途行う必要があった。
【0006】
また香料は、低温から高温まで種々の環境下で使用できるよう、広い温度域で安定した物性を有することが要求される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Peter Rose et al.,Nat. Prod. Rep.,vol.22,Issue 3,2005,pp.351-368
【文献】Roman Kubec et al.,J. Agric. Food Chem.,vol.45,No.9,1997,pp.3580-3585
【文献】Tung-Hsi Yu et al.,J. Agric. Food Chem.,vol.42,No.1,1994,pp.146-153
【文献】Tung-Hsi Yu et al.,J. Agric. Food Chem.,vol.42,No.4,1994,pp.1005-1009
【文献】Tung-Hsi Yu et al.,Food Chemistry,vol.51,Issue 3,1994,pp.281-286
【文献】Chi-Tang Ho et al.,Developments in Food Science,vol.37,Part A,1995,pp.909-918
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、アリウム属植物香を食品に付与し得、かつ、広い温度域で安定した物性を有する香料組成物を、簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意検討した結果、S-アリルシステインスルホキシド又はその類縁化合物を基質として使用し、特定の糖並びにアミノ酸又はその塩と共に加熱することによって、アリウム属植物香を効率的に発現させ得ることを見出した。また、当該糖は、その加熱時には溶融して反応場となって、S-アリルシステインスルホキシド又はその類縁化合物の香気成分への変換反応が進行し、当該反応終了後は、常温に放置する等して固化させるという簡便な操作で、生成した香気成分を閉じこめて保持し得ることも見出された。更に、このようにして得られた溶融固化物は、広い温度域で安定した物性を有することも見出された。本発明者らは、これらの知見に基づき更に研究を重ねることによって、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1](A)下記一般式(I)で表される化合物:
【0011】
【化1】
【0012】
〔式中、
Rは、C1-6アルキル基又はC2-6アルケニル基を示し;
Xは、-S-又は-S(=O)-を示す。〕、
(B)構成単糖の重合度が2以上である糖、並びに
(C)アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、メチオニン及びセリンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩
を含有する組成物(以下、香気前駆組成物という)を加熱することを含む、香料組成物の製造方法。
[2]前記一般式(I)のRが、メチル基、n-プロピル基、1-プロペニル基又は2-プロペニル基である、[1]記載の製造方法。
[3]前記(A)が、S-アリルシステイン、S-メチルシステイン、S-プロピルシステイン、S-(1-プロペニル)-システイン、S-アリルシステインスルホキシド、S-メチルシステインスルホキシド、S-プロピルシステインスルホキシド及びS-(1-プロペニル)-システインスルホキシドからなる群より選択される少なくとも一つである、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]前記(B)が、二糖及び多糖からなる群より選択される少なくとも一つである、[1]~[3]のいずれか一つに記載の製造方法。
[5]前記(B)が、スクロースである、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6]前記(C)が、アルギニン、グルタミン酸及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩を含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載の製造方法。
[7]前記香気前駆組成物が含有する(A)の量が、香気前駆組成物に対して、0.8~25重量%である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の製造方法。
[8]前記香気前駆組成物が含有する(B)の量が、香気前駆組成物に対して、40~98重量%である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法。
[9]前記香気前駆組成物が含有する(C)の量が、香気前駆組成物に対して、0.5~45重量%である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の製造方法。
[10]前記香気前駆組成物が含有する(A)の量と(B)の量の重量比が、(A):(B)=1:1.5~98である、[1]~[9]のいずれか一つに記載の製造方法。
[11]前記香気前駆組成物が含有する(A)の量と(C)の量の重量比が、(A):(C)=1:0.3~9である、[1]~[10]のいずれか一つに記載の製造方法。
[12]前記香気前駆組成物における水の含有量が、香気前駆組成物に対して15重量%以下である、[1]~[11]のいずれか一つに記載の製造方法。
[13]前記香気前駆組成物が、油を実質的に含有しない、[1]~[12]のいずれか一つに記載の製造方法。
[14]前記香気前駆組成物の形態が、粉粒体状である、[1]~[13]のいずれか一つに記載の製造方法。
[15]前記香気前駆組成物の加熱温度が、105~225℃である、[1]~[14]のいずれか一つに記載の製造方法。
[16]前記香気前駆組成物を加熱して得られた溶融物を、冷却して固化させることを更に含む、[1]~[15]のいずれか一つに記載の製造方法。
[17]前記香気前駆組成物が、グリセリン脂肪酸エステル、セルロース及びタルクからなる群より選択される少なくとも一つを更に含有する、[1]~[16]のいずれか一つに記載の製造方法。
[18]前記香料組成物が、アリウム属植物香の付与用である、[1]~[17]のいずれか一つに記載の製造方法。
[19]アリウム属植物香が、ローストされたアリウム属植物香又は新鮮なアリウム属植物香である、[18]記載の製造方法。
[20]前記アリウム属植物が、ニンニク、タマネギ、ネギ及びニラからなる群より選択される、[18]又は[19]記載の製造方法。
[21][1]~[20]のいずれか一つに記載の製造方法で得られる香料組成物を添加することを含む、食品の製造方法。
[22][1]~[20]のいずれか一つに記載の製造方法で得られる香料組成物を食品に添加することを含む、アリウム属植物香の付与方法。
[23](A)下記一般式(I)で表される化合物:
【0013】
【化2】
【0014】
〔式中、
Rは、C1-6アルキル基又はC2-6アルケニル基を示し;
Xは、-S-又は-S(=O)-を示す。〕、
(B)構成単糖の重合度が2以上である糖、並びに
(C)アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、メチオニン及びセリンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩
を含有する組成物(以下、香気前駆組成物という)の溶融固化物を含む、香料組成物。
[24]前記一般式(I)のRが、メチル基、n-プロピル基、1-プロペニル基又は2-プロペニル基である、[23]記載の香料組成物。
[25]前記(A)が、S-アリルシステイン、S-メチルシステイン、S-プロピルシステイン、S-(1-プロペニル)-システイン、S-アリルシステインスルホキシド、S-メチルシステインスルホキシド、S-プロピルシステインスルホキシド及びS-(1-プロペニル)-システインスルホキシドからなる群より選択される少なくとも一つである、[23]又は[24]記載の香料組成物。
[26]前記(B)が、二糖及び多糖からなる群より選択される少なくとも一つである、[23]~[25]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[27]前記(B)が、スクロースである、[23]~[26]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[28]前記(C)が、アルギニン、グルタミン酸及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩を含む、[23]~[27]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[29]前記香気前駆組成物が含有する(A)の量が、香気前駆組成物に対して、0.8~25重量%である、[23]~[28]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[30]前記香気前駆組成物が含有する(B)の量が、香気前駆組成物に対して、40~98重量%である、[23]~[29]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[31]前記香気前駆組成物が含有する(C)の量が、香気前駆組成物に対して、0.5~45重量%である、[23]~[30]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[32]前記香気前駆組成物が含有する(A)の量と(B)の量の重量比が、(A):(B)=1:1.5~98である、[23]~[31]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[33]前記香気前駆組成物が含有する(A)の量と(C)の量の重量比が、(A):(C)=1:0.3~9である、[23]~[32]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[34]前記香気前駆組成物における水の含有量が、香気前駆組成物に対して15重量%以下である、[23]~[33]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[35]前記香気前駆組成物が、油を実質的に含有しない、[23]~[34]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[36]前記香気前駆組成物の形態が、粉粒体状である、[23]~[35]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[37]前記香気前駆組成物が、グリセリン脂肪酸エステル、セルロース及びタルクからなる群より選択される少なくとも一つを更に含有する、[23]~[36]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[38]アリウム属植物香の付与用である、[23]~[37]のいずれか一つに記載の香料組成物。
[39]アリウム属植物香が、ローストされたアリウム属植物香又は新鮮なアリウム属植物香である、[38]記載の香料組成物。
[40]前記アリウム属植物が、ニンニク、タマネギ、ネギ及びニラからなる群より選択される、[38]又は[39]記載の香料組成物。
[41][23]~[40]のいずれか一つに記載の香料組成物を含有する食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アリウム属植物香を食品に付与し得、かつ、広い温度域で安定した物性を有する香料組成物を、簡便に製造できる方法を提供できる。
また本発明によれば、アリウム属植物香を食品に付与し得、かつ、広い温度域で安定した物性を有する香料組成物、並びに、当該香料組成物を利用した食品の製造方法及びアリウム属植物香の付与方法も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の香料組成物の製造方法(本明細書中、「本発明の製造方法」と称する場合がある)は、(A)下記一般式(I)で表される化合物(本明細書中、「化合物(I)」と称する場合がある):
【0017】
【化3】
【0018】
〔式中、
Rは、C1-6アルキル基又はC2-6アルケニル基を示し;
Xは、-S-又は-S(=O)-を示す。〕(本明細書中、単に「(A)」と称する場合がある)、(B)構成単糖の重合度が2以上である糖(本明細書中、単に「(B)」と称する場合がある)、並びに(C)アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、メチオニン及びセリンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩(本明細書中、単に「(C)」と称する場合がある)を含有する組成物を加熱することを、特徴の一つとする。
本明細書中、(A)、(B)及び(C)を含有する組成物を、便宜上「香気前駆組成物」と称する場合がある。香気前駆組成物は、後述するように加熱されて溶融し、その後、冷却されて固化し得るが、本明細書における「香気前駆組成物」という用語は、加熱されて溶融状態となったものや、その後に冷却されて固化したものは含まないものを意味し、すなわち香気前駆組成物は、溶融させるための加熱に供されていないものである。
【0019】
[(A)化合物(I)]
本発明において(A)として用いられる化合物(I)は、下記一般式(I)で表される。
【0020】
【化4】
【0021】
〔式中、
Rは、C1-6アルキル基又はC2-6アルケニル基を示し;
Xは、-S-又は-S(=O)-を示す。〕
【0022】
以下、一般式(I)の各基について説明する。
【0023】
一般式(I)におけるRは、C1-6アルキル基又はC2-6アルケニル基を示す。
【0024】
Rの「C1-6アルキル基」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1~6のアルキルを意味し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等が挙げられる。中でも、C1-4アルキル基が好ましく、直鎖のC1-4アルキル基がより好ましく、直鎖のC1-3アルキル基が更に好ましく、メチル基、n-プロピル基が特に好ましい。
【0025】
Rの「C2-6アルケニル基」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数2~6のアルケニルを意味し、例えば、エテニル基(ビニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、2-メチル-1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、4-メチル-3-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基等が挙げられる。中でも、C2-4アルケニル基が好ましく、直鎖のC2-4アルケニル基がより好ましく、直鎖のC2-3アルケニル基が更に好ましく、1-プロペニル基、2-プロペニル基が特に好ましい。
【0026】
一般式(I)におけるRは、好ましくは、C1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基であり、より好ましくは、直鎖のC1-4アルキル基又は直鎖のC2-4アルケニル基であり、更に好ましくは、直鎖のC1-3アルキル基又は直鎖のC2-3アルケニル基であり、特に好ましくは、メチル基、n-プロピル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基である。
【0027】
一般式(I)におけるXは、-S-又は-S(=O)-を示す。
【0028】
好適な化合物(I)としては、例えば、下記の化合物(IA)~(ID)等が挙げられる。
[化合物(IA)]
Rが、C1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基であり;Xが、-S-又は-S(=O)-である、化合物(I)。
[化合物(IB)]
Rが、直鎖のC1-4アルキル基又は直鎖のC2-4アルケニル基であり;Xが、-S-又は-S(=O)-である、化合物(I)。
[化合物(IC)]
Rが、直鎖のC1-3アルキル基又は直鎖のC2-3アルケニル基であり;Xが、-S-又は-S(=O)-である、化合物(I)。
[化合物(ID)]
Rが、メチル基、n-プロピル基、1-プロペニル基又は2-プロペニル基であり;Xが、-S-又は-S(=O)-である、化合物(I)。
【0029】
好適な化合物(I)の具体例としては、下記式で表される化合物等が挙げられる。
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
【化8】
【0034】
【化9】
【0035】
【化10】
【0036】
【化11】
【0037】
【化12】
【0038】
中でも、S-アリルシステインスルホキシド(ALCSO)、S-アリルシステイン(ALC)、S-プロピルシステインスルホキシド(PCSO)、S-(1-プロペニル)-システインスルホキシド(PeCSO)、S-メチルシステインスルホキシド(MCSO)が好ましく、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、ALCSO、ALC、PCSO、PeCSOがより好ましい。
【0039】
上記の化合物(I)は、一種を単独で用いてよく、又は二種以上を併用してもよい。
【0040】
化合物(I)の製造方法は特に限定されず、自体公知の方法又はこれに準じる方法により製造し得る。例えば、化学合成、酵素反応、抽出法、又はこれらの方法の組み合わせ等により製造し得る。具体的には、Xが-S-である化合物(I)は、例えば、シスタチオニンβ-シンターゼを利用して、対応するチオール化合物(R-SH(式中、Rは、前記と同義である))とL-セリンとを反応させることにより製造できる。またXが-S(=O)-である化合物(I)は、例えば、オキシダーゼを利用して、対応するシステイン誘導体を酸化することにより製造できる。
【0041】
香気前駆組成物が含有する(A)の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香(例、新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム植物香等)を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは0.8重量%以上であり、より好ましくは2重量%以上であり、特に好ましくは4重量%以上である。また、香気前駆組成物が含有する(A)の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香(例、新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム植物香等)を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは25重量%以下であり、より好ましくは22重量%以下であり、特に好ましくは17重量%以下である。
一態様として、香気前駆組成物が含有する(A)の量は、本発明の香料組成物が新鮮なアリウム属植物香を特に効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、8重量%以上であってよい。
他の一態様として、香気前駆組成物が含有する(A)の量は、本発明の香料組成物がローストされたアリウム属植物香を特に効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、7重量%以下であってよい。
本発明において、香気前駆組成物が含有する「(A)の量」は、(A)として二種以上の化合物(I)が併用される場合、用いられる化合物(I)の総量を意味する。
【0042】
[(B)構成単糖の重合度が2以上である糖]
本発明において(B)として用いられる「構成単糖の重合度が2以上である糖」とは、2分子以上の単糖がグリコシド結合を形成している糖をいい、糖の「構成単糖の重合度」とは、糖1分子を構成する単糖の数を意味する。
【0043】
本発明において(B)として用いられる糖を構成する単糖(構成単糖)の種類は特に制限されないが、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース等が挙げられる。本発明において(B)として用いられる糖の構成単糖は、少なくともグルコースを含むことが好ましい。
【0044】
(B)(すなわち、構成単糖の重合度が2以上である糖)の具体例としては、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等の二糖(構成単糖の重合度:2);マルトトリオース、ラフィノース等の三糖(構成単糖の重合度:3);ニストース、ニゲロテトラオース、スタキオース等の四糖(構成単糖の重合度:4);デキストリン等の多糖(構成単糖の重合度:5以上)等が挙げられ、本発明の香料組成物の香気強度及び物性の観点から、好ましくは、二糖、多糖であり、特に好ましくは、スクロースである。これらの糖は、一種を単独で用いてよく、又は二種以上を併用してもよい。
【0045】
(B)(すなわち、構成単糖の重合度が2以上である糖)の製造方法は特に限定されず、自体公知の方法又はこれに準じる方法により製造し得る。本発明において用いられる(B)は、市販品であってもよい。
【0046】
香気前駆組成物が含有する(B)の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香(例、新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム植物香等)を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは40重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上であり、特に好ましくは65重量%以上である。また、香気前駆組成物が含有する(B)の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香(例、新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム植物香等)を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは98重量%以下であり、より好ましくは93重量%以下であり、特に好ましくは88重量%以下である。
一態様として、香気前駆組成物が含有する(B)の量は、新鮮なアリウム属植物香を特に効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、75重量%以下であってよい。
他の一態様として、香気前駆組成物が含有する(B)の量は、ローストされたアリウム属植物香を特に効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、80重量%以上であってよい。
本発明において、香気前駆組成物が含有する「(B)の量」は、(B)として二種以上の糖類が併用される場合、用いられる糖類の総量を意味する。
【0047】
香気前駆組成物が含有する(A)の量と(B)の量の重量比は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香(例、新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム植物香等)を効果的に付与し得ることから、好ましくは(A):(B)=1:1.5~98である。
一態様として、香気前駆組成物が含有する(A)の量と(B)の量の重量比は、本発明の香料組成物が新鮮なアリウム属植物香を特に効果的に付与し得ることから、好ましくは(A):(B)=1:1.8~40であり、より好ましくは(A):(B)=1:1.8~20であり、更に好ましくは(A):(B)=1:1.8~8であり、特に好ましくは(A):(B)=1:3~8である。
他の一態様として、香気前駆組成物が含有する(A)の量と(B)の量の重量比は、本発明の香料組成物がローストされたアリウム属植物香を特に効果的に付与し得ることから、好ましくは(A):(B)=1:1.8~98であり、より好ましくは(A):(B)=1:3~98であり、さらに好ましくは(A):(B)=1:15~98であり、特に好ましくは(A):(B)=1:15~40であり、最も好ましくは(A):(B)=1:15~35である。
【0048】
[(C)アミノ酸又はその塩]
本発明において(C)として用いられ得るアミノ酸の種類は、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、メチオニン及びセリンであり、好ましくは、アルギニン、グルタミン酸及びメチオニンである。これらのアミノ酸は、L-体、D-体、DL-体のいずれも使用可能であるが、好ましくは、L-体、DL-体であり、さらに好ましくは、L-体である。
【0049】
本発明において(C)として用いられるアミノ酸の形態は特に制限されないが、遊離又は塩であることが好ましい。ここで「遊離形態」のアミノ酸とは、他のアミノ酸と結合してタンパク質やペプチド等を形成せず、遊離の状態で存在しているアミノ酸をいう。
【0050】
アミノ酸の塩は、食品上許容され得るものであれば特に制限されないが、例えば、無機酸(例、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸等)との塩;有機酸(例、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、モノメチル硫酸等)との塩;無機塩基(例、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、アンモニア等)との塩;有機塩基(例、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)との塩等が挙げられる。またアミノ酸の塩は、水和物(含水塩)であってもよく、かかる水和物としては、例えば1~6水和物等が挙げられる。
【0051】
上記のアミノ酸又はその塩は、一種を単独で用いてよく、又は二種以上を併用してもよい。
【0052】
(C)(すなわち、アミノ酸又はその塩)は、アルギニン、グルタミン酸及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つ又はその塩を含むことが好ましく、アルギニン、グルタミン酸塩(例、グルタミン酸ナトリウム等)及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つを含むことがより好ましく、アルギニン及びグルタミン酸塩(例、グルタミン酸ナトリウム等)からなる群より選択される少なくとも一つを含むことが特に好ましい。
【0053】
(C)(すなわち、アミノ酸又はその塩)の製造方法は特に限定されず、自体公知の方法又はこれに準じる方法により製造し得る。本発明において(C)は、例えば、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、或いは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法によって得られるもの等のいずれも使用してよい。
【0054】
香気前駆組成物が含有する(C)の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上であり、特に好ましくは3重量%以上である。また、香気前駆組成物が含有する(C)の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは45重量%以下であり、より好ましくは35重量%以下であり、更に好ましくは25重量%以下であり、特に好ましくは15重量%以下である。
本発明において、香気前駆組成物が含有する「(C)の量」は、(C)として二種以上のアミノ酸又はその塩が併用される場合、用いられるアミノ酸又はその塩の総量を意味する。
本発明においてアミノ酸又はその塩の量は、遊離形態のアミノ酸に換算した量を用いる。
【0055】
(C)がアルギニン又はその塩を含む場合、香気前駆組成物が含有するアルギニン又はその塩の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは0.8重量%以上であり、特に好ましくは2.5重量%以上である。また、この場合、香気前駆組成物が含有するアルギニン又はその塩の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは22重量%以下であり、より好ましくは17重量%以下であり、更に好ましくは12重量%以下であり、特に好ましくは7重量%以下である。
【0056】
(C)がグルタミン酸又はその塩を含む場合、香気前駆組成物が含有するグルタミン酸又はその塩の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは0.8重量%以上であり、特に好ましくは2.5重量%以上である。また、この場合、香気前駆組成物が含有するグルタミン酸又はその塩の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは22重量%以下であり、より好ましくは17重量%以下であり、更に好ましくは12重量%以下であり、特に好ましくは7重量%以下である。
【0057】
(C)がメチオニン又はその塩を含む場合、香気前駆組成物が含有するメチオニン又はその塩の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的かつ異風味なく付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは0.3重量%以上である。また、この場合、香気前駆組成物が含有するメチオニン又はその塩の量は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは7重量%以下であり、より好ましくは0.7重量%以下である。
【0058】
香気前駆組成物が含有する(A)の量と(C)の量の重量比は、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的に付与し得ることから、好ましくは(A):(C)=1:0.3~9であり、より好ましくは(A):(C)=1:0.3~5であり、本発明の香料組成物がアリウム属植物香を効果的かつ異風味なく付与し得ることから、特に好ましくは(A):(C)=1:0.3~3である。
【0059】
好適な香気前駆組成物としては、例えば、下記(i)~(iv)の香気前駆組成物等が挙げられる。
(i)(A)として、化合物(I)(好ましくは、S-アリルシステイン、S-メチルシステイン、S-プロピルシステイン、S-(1-プロペニル)-システイン、S-アリルシステインスルホキシド、S-メチルシステインスルホキシド、S-プロピルシステインスルホキシド及びS-(1-プロペニル)-システインスルホキシドからなる群より選択される少なくとも一つ)を含有し;(B)として、二糖(好ましくは、スクロース)及び多糖(好ましくは、デキストリン)からなる群より選択される少なくとも一つを含有し;(C)として、アルギニン、グルタミン酸及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又はその塩(好ましくは、アルギニン、グルタミン酸塩及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つ)を含有する、香気前駆組成物。
(ii)(A)として、化合物(I)(好ましくは、S-アリルシステイン、S-メチルシステイン、S-プロピルシステイン、S-(1-プロペニル)-システイン、S-アリルシステインスルホキシド、S-メチルシステインスルホキシド、S-プロピルシステインスルホキシド及びS-(1-プロペニル)-システインスルホキシドからなる群より選択される少なくとも一つ)を含有し;(B)として、スクロース及びデキストリンからなる群より選択される少なくとも一つ(好ましくは、スクロース)を含有し;(C)として、アルギニン、グルタミン酸塩(好ましくは、グルタミン酸ナトリウム)及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つを含有する、香気前駆組成物。
(iii)(A)として、S-アリルシステイン、S-メチルシステイン、S-プロピルシステイン、S-(1-プロペニル)-システイン、S-アリルシステインスルホキシド、S-メチルシステインスルホキシド、S-プロピルシステインスルホキシド及びS-(1-プロペニル)-システインスルホキシド(好ましくは、S-アリルシステインスルホキシド、S-アリルシステイン、S-プロピルシステインスルホキシド、S-(1-プロペニル)-システインスルホキシド及びS-メチルシステインスルホキシド)からなる群より選択される少なくとも一つを含有し;(B)として、スクロース及びデキストリンからなる群より選択される少なくとも一つ(好ましくは、スクロース)を含有し;(C)として、アルギニン、グルタミン酸塩(好ましくは、グルタミン酸ナトリウム)及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つを含有する、香気前駆組成物。
(iv)(A)として、S-アリルシステインスルホキシド、S-アリルシステイン、S-プロピルシステインスルホキシド、S-(1-プロペニル)-システインスルホキシド及びS-メチルシステインスルホキシド(好ましくは、S-アリルシステインスルホキシド、S-アリルシステイン、S-プロピルシステインスルホキシド及びS-(1-プロペニル)-システインスルホキシド)からなる群より選択される少なくとも一つを含有し;(B)として、スクロース及びデキストリンからなる群より選択される少なくとも一つ(好ましくは、スクロース)を含有し;(C)として、アルギニン、グルタミン酸塩(好ましくは、グルタミン酸ナトリウム)及びメチオニンからなる群より選択される少なくとも一つを含有する、香気前駆組成物。
【0060】
香気前駆組成物は、(A)、(B)及び(C)のみからなるものであってよいが、(A)、(B)及び(C)に加えて、その他の成分を含有してもよい。香気前駆組成物が(A)、(B)及び(C)に加えて含有し得る成分は、本発明の目的を損なわないものであれば特に制限されないが、例えば、水、(C)以外のアミノ酸又はその塩、有機酸、無機塩、ビタミン、香料、酸化防止剤、賦形剤、固結防止剤、野菜パウダー、野菜エキス等が挙げられる。
【0061】
香気前駆組成物に含有され得る水は、香料の製造に通常用いられ得るものであれば特に制限されず、例えば、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水、精製水、水道水等が挙げられる。
【0062】
香気前駆組成物が、(A)、(B)及び(C)に加えて、水を含有する場合、水の含有量は、本発明の香料組成物が加熱に時間をかけずに好適な外観となり得ることから、香気前駆組成物に対して、好ましくは15重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0063】
香気前駆組成物に含有され得る固結防止剤は特に制限されないが、本発明の香料組成物において顕著な固結防止効果を奏し得ることから、好ましくは、グリセリン脂肪酸エステル、セルロース、タルクであり、より好ましくは、グリセリン脂肪酸エステルである。グリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は特に限定されるものではなく、例えば、炭素原子数8~24の飽和又は不飽和の脂肪酸であってよい。グリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、ラウリン酸グリセリル、ミリスチン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ベヘニン酸グリセリル等が挙げられる。固結防止剤は、一種を単独で用いてよく、又は二種以上を併用してもよい。固結防止剤の形態は特に制限されないが、例えば、粉末状、細粒状、顆粒状のもの(例、粉末セルロース、タルカムパウダー等)等が好適に用いられ得る。
【0064】
香気前駆組成物が、(A)、(B)及び(C)に加えて、固結防止剤(好ましくは、グリセリン脂肪酸エステル、セルロース及びタルクからなる群より選択される少なくとも一つの固結防止剤)を含有する場合、香気前駆組成物が含有する固結防止剤の量は、香気前駆組成物に対して、通常0.7重量%以上であり、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは、1.5重量%以上である。また、この場合、香気前駆組成物が含有する固結防止剤の量は、香気前駆組成物に対して、通常7重量%以下であり、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは、3.5重量%以下である。
【0065】
香気前駆組成物は、油を実質的に含有しないことが好ましい。具体的には、香気前駆組成物は、キャノーラ油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ゴマ油、アマニ油、ヒマワリ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、コメ油、パーム油、パーム核油、糠油、荏油、グレープシード油等の植物油;豚脂(ラード)、牛脂、鶏油、羊脂、馬脂、魚油、鯨油、バター等の動物油等を実質的に含有しないことが好ましい。香気前駆組成物は、油を実質的に含有しないことにより、本発明の香料組成物が好適な物性となり得る。尚、常温で流動性を有しない油を、一般に「脂肪」と称する場合があるが、ここでいう油は、脂肪も包含する概念である。
本発明において、香気前駆組成物が「油を実質的に含有しない」とは、(1)油を全く含有しない場合か、又は(2)油を本発明の香料組成物の物性に影響しない量(例えば、香気前駆組成物に対して、1重量%以下)で含有する場合のいずれかであることを意味する。
【0066】
香気前駆組成物の形態は特に制限されないが、常温(25℃)において、固形状であることが好ましく、(A)、(B)及び(C)が均一に混合した状態となりやすいことから、粉粒体状であることがより好ましい。ここで「粉粒体状」とは、粉末状、細粒状、顆粒状、又はそれらが組み合わさった状態をいう。
【0067】
香気前駆組成物の調製方法は特に制限されず、香気前駆組成物は、例えば、(A)、(B)及び(C)、並びに、必要に応じてその他の成分を配合し、自体公知の方法又はこれに準じる方法で適宜、粉砕(微粉化)、撹拌しながら、混合すること等によって調製し得る。
【0068】
香気前駆組成物の加熱方法は、(B)(すなわち、構成単糖の重合度が2以上である糖)が溶融し得れば特に制限されず、例えば、オーブン、電子レンジ、ホットプレート、鉄板、フライパン等の慣用の装置、機器を用いて行い得る。
【0069】
香気前駆組成物の加熱温度は、香気前駆組成物が含有する(A)の種類、目的とするアリウム属植物香、加熱時間等に応じて適宜調整し得るが、好ましくは105℃以上であり、より好ましくは115℃以上である。また当該加熱温度は、好ましくは225℃以下であり、より好ましくは210℃以下であり、特に好ましくは185℃以下である。
【0070】
一態様として、香気前駆組成物の加熱温度は、135~175℃であってよい。当該温度範囲で、香気前駆組成物を加熱することによって、新鮮なアリウム属植物香(例えば、新鮮なニンニク香等)を効果的に付与し得る香料組成物を得ることができる。
また、他の一態様として、香気前駆組成物の加熱温度は、135~225℃であってよい。当該温度範囲で、香気前駆組成物を加熱することによって、ローストされたアリウム属植物香(例えば、ローストされたニンニク香)を効果的に付与し得る香料組成物を得ることができる。
【0071】
香気前駆組成物の加熱時間は、加熱に供する香気前駆組成物の量、香気前駆組成物が含有する(A)の種類、目的とするアリウム属植物香、加熱温度等に応じて適宜調整すればよく、特に制限されないが、通常30秒間~150分間であり、好ましくは1~120分間であり、より好ましくは3~60分間である。
【0072】
本発明の製造方法は、香気前駆組成物を加熱して得られた溶融物を、冷却して固化させることを含み得る。当該溶融物を冷却する方法は、本発明の目的を損なわず、溶融物を固化させ得る方法であれば特に制限されないが、例えば、室温に放置しておくこと等により、溶融物を簡便に固化させ得る。あるいは、溶融物を所定の温度に設定した冷蔵庫に保管すれば、より短時間で固化させ得る。
【0073】
香気前駆組成物の溶融物を冷却して得られた固化物(本明細書中、「溶融固化物」と称する場合がある)は、そのまま香料組成物(本発明の香料組成物)として用いられ得る。あるいは、本発明の製造方法は、得られた溶融固化物を、香料の製造において慣用の処理工程に供することを含んでもよい。例えば、本発明の製造方法は、溶融固化物を粉砕することや、香料分野において慣用の基剤(澱粉、デキストリン、シクロデキストリン、糖類、蛋白質、塩類等)等を用いて、溶融固化物を所望の剤形に製剤化すること等を含み得る。
【0074】
本発明の製造方法によって得られる香料組成物(本明細書中、「本発明の香料組成物」と称する場合がある)は、例えば、湯に溶解すること等によってアリウム属植物香を発現し得るため、本発明の香料組成物は、アリウム属植物香を食品に付与するために好適に用いられる。したがって、本発明の製造方法によって得られる香料組成物は、好ましくは、アリウム属植物香の付与用である。本発明において「香料」とは、香り、風味、味等を食品に付与するために用いられる食品添加物をいう。本発明において「食品」は、経口で摂取し得るものを広く包含する概念であり、飲料や調味料等も包含される。また「アリウム属植物香付与用香料組成物」には、アリウム属植物香付与剤が包含される。
【0075】
本発明において「アリウム属植物香」とは、アリウム属植物(例、ニンニク、タマネギ、ネギ、ニラ等のアリウム属野菜等)が、生の状態で又は調理(例、加熱調理等)されることによって発現する特徴的な香気をいう。アリウム属植物香は、アリウム属植物の種類によって、例えば、ニンニク香、タマネギ香、ネギ香、ニラ香等に分類され得る。
【0076】
アリウム属植物香の具体例としては、新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム植物香等が挙げられる。
「新鮮なアリウム属植物香」とは、アリウム属植物が加熱調理されることなく、生の状態で発現する特徴的な香気をいい、アリウム属植物の一種であるニンニクを例に挙げて、より詳細に説明すると、「新鮮なニンニク香」とは、みじん切りした生のニンニクに特徴的な鼻に刺さるような刺激的な香気をいう。
「ローストされたアリウム植物香」とは、アリウム属植物がローストされることによって発現する特徴的な香ばしい香気をいい、アリウム属植物の一種であるニンニクを例に挙げて、より詳細に説明すると、「ローストされたニンニク香」とは、焦がしニンニク様の香ばしい香気をいう。
【0077】
アリウム属植物香(例、新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム植物香等)の有無や程度は、専門パネルによる官能評価(例えば、後述の実施例に示される官能評価等)によって評価できる。
【0078】
本発明において、アリウム属植物香等の「付与」とは、例えば、アリウム属植物香を有していない食品に、アリウム属植物香を新たに付与すること等を意味し、またアリウム属植物香等の「付与」には、アリウム属植物香を有している食品に、アリウム属植物香を更に付与すること、すなわちアリウム属植物香を増強することも含まれる。
【0079】
本発明の香料組成物を添加し得る食品は特に制限されないが、アリウム属植物香が付与されることを所望されるものが好ましく、例えば、野菜炒め、チャーハン、焼きそば、回鍋肉、麻婆豆腐、青椒肉絲、干焼蝦仁、肉野菜炒め、ナシゴレン、焼きビーフン、炒り卵、きんぴらごぼう、カレールウ、肉炒め、中華丼等の炒め物;蒸し野菜等の蒸し物;焼き魚、焼き鳥、ステーキ、焼肉、すき焼き、ハンバーグ、焼き野菜、焼きおにぎり、米菓、各種焼き菓子(例、クッキー等)、ピザ生地、パン等の焼き物;から揚げ、フライ、素揚げ、てんぷら等の各種揚げ物及びそのバッターやパン粉;ドレッシング(例、和風ドレッシング、クリーミードレッシング、シーザードレッシング、フレンチドレッシング、タルタルソース、マヨネーズ等);ソース(例、ステーキソース、生姜焼きのたれ、ピザソース、カラメルソース、みたらし団子のたれ、焼肉のたれ、デミグラスソース、パスタソース等);コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、ミネストローネスープ、コーンスープ、トマトスープ、ガーリックスープ等のスープ;天然系調味料、風味調味料等の調味料;紅茶、中国茶、緑茶、麦茶、ハーブティー等の飲料;及びこれらの加工品(例、電子レンジ調理用食品、インスタント食品、冷凍食品、乾燥食品等)等が挙げられる。
また本明細書において「天然系調味料」とは、天然物を原料として、抽出、分解、加熱、発酵等の手法によって製造される調味料をいい、その具体例としては、鶏肉エキス、牛肉エキス、豚肉エキス、羊肉エキス等の各種畜肉エキス類;鶏がらエキス、牛骨エキス、豚骨エキス等の各種がらエキス類;鰹エキス、鯖エキス、ぐちエキス、帆立エキス、蟹エキス、蝦エキス、煮干エキス、干し貝柱エキス等の各種魚介エキス類;鰹節エキス、鯖節エキス、宗田節エキス等の各種節エキス類;オニオンエキス、白菜エキス、セロリエキス等の各種野菜エキス類;昆布エキス等の各種海藻エキス類;ガーリックエキス、唐辛子エキス、胡椒エキス、カカオエキス等の各種香辛料エキス類;酵母エキス類;各種タンパク加水分解物;醤油、魚醤、蝦醤、味噌等の各種発酵調味料等やその混合物、加工品等が挙げられる。
また本明細書において「風味調味料」とは、食品に風味原料の香気、風味、味を付与するために用いられる調味料をいい、例えば、天然系調味料に砂糖類、食塩等を加えること等によって製造できる。風味調味料の具体例としては、鶏風味調味料、牛風味調味料、豚風味調味料等の各種畜肉風味調味料;鰹風味調味料、煮干風味調味料、干し貝柱風味調味料、甲殻類風味調味料等の各種魚介風味調味料;各種香辛野菜風味調味料;昆布風味調味料等が挙げられる。
【0080】
本発明の香料組成物を添加し得る食品は、喫食に適した態様で提供(販売、流通等)されるものであってよく、又は喫食に適した態様になるための所定の処理や調理を必要とする態様で提供(販売、流通等)されるものであってもよい。例えば、本発明の組成物を添加し得る食品は、喫食に適した態様となるために水等で希釈することを必要とする濃縮物等として提供されてよい。
【0081】
本発明の製造方法によって得られる香料組成物は、上述する通り、アリウム属植物香を食品に付与するために好適に用いられ得ることから、本発明によれば、本発明の製造方法によって得られる香料組成物を食品に添加することを含む、アリウム属植物香の付与方法も提供される。
また本発明の製造方法によって得られる香料組成物は、上述する通り、食品添加して用いられ得ることから、本発明によれば、本発明の製造方法によって得られる香料組成物を添加することを含む、食品の製造方法も提供される。
これらの方法をまとめて、本明細書中「本発明の方法」と称する場合がある。
【0082】
本発明に方法において、本発明の香料組成物を食品に添加する方法及び条件は特に限定されず、食品の種類等に応じて適宜設定できる。本発明の香料組成物は、例えば、湯に溶解すること等によって、アリウム属植物香を発現し得るため、本発明の香料組成物を湯等に溶解し、得られた水溶液を食品に添加し得る。本発明の香料組成物を食品に添加する時期は特に限定されず、いかなる時点で添加してもよいが、例えば、食品の製造中、食品の完成後(例、食品の喫食直前、食品の喫食中等)等が挙げられる。食品を製造する前の食品原料に本発明の香料組成物を添加してもよい。
【0083】
本発明の香料組成物の食品への添加量は、食品の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、通常、食品に対して1重量%以下である。
【0084】
本発明の方法によれば、アリウム属植物香が付与された食品を得ることができる。
【0085】
本発明の香料組成物は、上述する通り、香気前駆組成物の溶融物を冷却して得られた固化物(溶融固化物)を、そのまま又は香料の製造において慣用の処理工程に供して、香料組成物としたものであり、したがって本発明の香料組成物は、香気前駆組成物の溶融固化物を含む、香料組成物とも言い得る。
【0086】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
尚、以下の実施例において用いられた原料のうち、水以外の原料は、特に断りのない限り、いずれも食品素材、食品添加物として市販されている製品を用いた。水は、水道水を浄水器に通したものを用いた。
【実施例
【0087】
[試験例1]
<評価サンプルの作製>
(試験区1-1)
(1)S-アリルシステインスルホキシド、フルクトース、アルギニン及びグルタミン酸ナトリウムを、下表1に示す割合で配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、175℃(=170℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を175℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が175℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)3分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。尚、3分間の加熱中、温度調節つまみは175℃にセットしたままとした。
(6)得られた固化物を袋に移して手で粉砕し、これを後述の外観及び官能評価の評価サンプルとして用いた(本明細書中、試験区1-1等において作製したサンプルを、「試験区1-1のサンプル」等と称する)。
【0088】
(試験区1-2)
フルクトースに代えて、グルコースを用いたこと以外は、試験区1-1と同様の手順で、試験区1-2のサンプルを作製した。
【0089】
(試験区1-3)
フルクトースに代えて、キシロースを用いたこと以外は、試験区1-1と同様の手順で、試験区1-3のサンプルを作製した。
【0090】
(試験区1-4)
フルクトースに代えて、リボースを用いたこと以外は、試験区1-1と同様の手順で、試験区1-4のサンプルを作製した。
【0091】
(試験区1-5)
フルクトースに代えて、グルコース及びキシロースを用いたこと以外は、試験区1-1と同様の手順で、試験区1-5のサンプルを作製した。
【0092】
(試験区1-6)
フルクトースに代えて、マルトースを用いたこと以外は、試験区1-1と同様の手順で、試験区1-6のサンプルを作製した。
【0093】
(試験区1-7)
フルクトースに代えて、デキストリン(松谷化学工業株式会社製、商品名「パインデックス#6」)を用いたこと以外は、試験区1-1と同様の手順で、試験区1-7のサンプルを作製した。
【0094】
(試験区1-8)
フルクトースに代えて、スクロースを用いたこと以外は、試験区1-1と同様の手順で、試験区1-8のサンプルを作製した。
【0095】
【表1】
【0096】
<評価>
(外観の評価)
試験区1-1~1-8の各サンプルの常温(25℃)における外観、固さについて、3名の専門パネルがコメントした。
また試験区1-1~1-8の各サンプルを、温度44℃、湿度78%RHの条件下で5分間保管した後の外観、固さについて、3名の専門パネルがコメントした。
(香気の官能評価)
試験区1-1~1-8の各サンプルの0.5重量%水溶液(65℃)を調製し、新鮮なニンニク香及びローストされたニンニク香のそれぞれについて、3名の専門パネルが評点付けを実施した。評点付けは、新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香が「全く感じられない」場合を0点とし、「強く感じられる」場合を5点とする基準に基づき、0.5点刻みで、合議法により行った。ここで「新鮮なニンニク香」とは、みじん切りした生のニンニクに特徴的な鼻に刺さるような刺激的な香気をいい、「ローストされたニンニク香」とは、焦がしニンニク様の香ばしい香気をいう。
また新鮮なニンニク香及びローストされたニンニク香に該当しない香気が感じられたサンプルは、当該香気(その他の香気)についてコメントした。
【0097】
結果を下表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示される結果から、単糖(フルクトース、グルコース、キシロース、リボース)を用いて作製された試験区1-1~1-5のサンプルは、常温及び44℃あるいは44℃の条件下においてラバー状になり、物性に問題があることが確認された。
一方、二糖(マルトース、スクロース)又は多糖(デキストリン)を用いて作製された試験区1-6~1-8のサンプルは、いずれも常温及び44℃の条件下において固体であり、安定した物性を有していることが確認された。
また、試験区1-6~1-8のサンプルは、いずれもアリウム属植物香(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)を発現し、中でもスクロースを用いて作製された試験区1-8のサンプルが、ローストされたニンニク香を最も発現した。
【0100】
[試験例2]
<評価サンプルの作製>
(試験区2-1)
(1)S-アリルシステインスルホキシド、スクロース及びアルギニンを、下表3に示す割合で配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、175℃(=170℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を175℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が175℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)3分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。尚、3分間の加熱中、温度調節つまみは175℃にセットしたままとした。
(6)得られた固化物を袋に移して手で粉砕し、これを後述の官能評価の評価サンプルとして用いた。
【0101】
(試験区2-2)
アルギニンに代えて、グルタミン酸ナトリウムを用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-2のサンプルを作製した。
【0102】
(試験区2-3)
アルギニンに代えて、システイン塩酸塩を用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-3のサンプルを作製した。
【0103】
(試験区2-4)
アルギニンに代えて、DL-アラニンを用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-4のサンプルを作製した。
【0104】
(試験区2-5)
アルギニンに代えて、グリシンを用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-5のサンプルを作製した。
【0105】
(試験区2-6)
アルギニンに代えて、アスパラギン酸ナトリウムを用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-6のサンプルを作製した。
【0106】
(試験区2-7)
アルギニンに代えて、セリンを用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-7のサンプルを作製した。
【0107】
(試験区2-8)
アルギニンに代えて、ロイシンを用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-8のサンプルを作製した。
【0108】
(試験区2-9)
アルギニンに代えて、プロリンを用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-9のサンプルを作製した。
【0109】
(試験区2-10)
アルギニンに加えて、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、セリン、ロイシン、プロリン及びアルギニンを更に用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-10のサンプルを作製した。
【0110】
(試験区2-11)
アルギニンに加えて、グルタミン酸ナトリウムを更に用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-11のサンプルを作製した。
【0111】
(試験区2-12)
アルギニンに代えて、メチオニンを用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-12のサンプルを作製した。
【0112】
(試験区2-13)
アルギニンに加えて、グルタミン酸ナトリウム及びメチオニンを更に用いたこと以外は、試験区2-1と同様の手順で、試験区2-13のサンプルを作製した。
【0113】
下表3及び表4において、上記の各アミノ酸及びその塩を、以下の通り、略記した。
アルギニン:Arg
グルタミン酸ナトリウム:MSG
システイン塩酸塩:Cys-HCl
DL-アラニン:Ala(D,L-)
グリシン:Gly
アスパラギン酸ナトリウム:Asp-Na
セリン:Ser
ロイシン:Leu
プロリン:Pro
メチオニン:Met
【0114】
【表3】
【0115】
<評価>
(香気の官能評価)
試験区2-1~2-13の各サンプルの0.5重量%水溶液(65℃)を調製し、新鮮なニンニク香及びローストされたニンニク香のそれぞれについて、3名の専門パネルが評点付けを実施した。評点付けは、試験例1の香気の官能評価と同様に行った。
また新鮮なニンニク香及びローストされたニンニク香に該当しない香気が感じられたサンプルは、当該香気(その他の香気)についてコメントした。
【0116】
結果を下表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
表4に示される結果から明らかなように、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、メチオニン及びセリンからなる群より選択される少なくとも一つを用いて作製された試験区2-1、試験区2-2、試験区2-4~2-7及び試験区2-10~2-13のサンプルは、いずれもアリウム属植物香(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)を発現した。中でもアルギニン及びグルタミン酸ナトリウムを用いて作製された試験区2-11のサンプル、並びにメチオニン、アルギニン及びグルタミン酸ナトリウムを用いて作製された試験区2-13のサンプルが、ローストされたニンニク香を最も発現した。少量のメチオニンを用いて作製された試験区2-13のサンプルでは、厚み(具体的には、舌で感じる味やレトロネーザル香由来の重厚感)の向上もみられた。
【0119】
[試験例3]
<評価サンプルの作製>
(試験区3-1~3-10)
(1)S-アリルシステインスルホキシド、スクロース、アルギニン及びグルタミン酸ナトリウムを、下表5に示す割合で配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1.05g(=固形分1g+水分0.05g)を、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、175℃(=170℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を175℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が175℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)3分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置して、試験区3-1~3-10のサンプルをそれぞれ得た。尚、3分間の加熱中、温度調節つまみは175℃にセットしたままとした。
【0120】
【表5】
【0121】
<評価>
(香気の官能評価)
試験区3-1~3-10の各サンプルの0.5重量%水溶液(65℃)を調製し、新鮮なニンニク香及びローストされたニンニク香のそれぞれについて、3名の専門パネルが評点付けを実施した。評点付けは、試験例1の香気の官能評価と同様に行った。
また新鮮なニンニク香及びローストされたニンニク香に該当しない香気が感じられたサンプルは、当該香気(その他の香気)についてコメントした。
【0122】
結果を下表6に示す。
【0123】
【表6】
【0124】
表6に示される結果から明らかなように、S-アリルシステインスルホキシドと、アルギニン及びグルタミン酸ナトリウムとの重量比を変化させずに、S-アリルシステインスルホキシドとスクロースとの重量比を変化させたサンプル(試験区3-1~3-5)では、いずれもアリウム属植物香(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)を発現した。また、これらのサンプルは、アリウム属植物香の質に変化がみられた。
S-アリルシステインスルホキシドと、アルギニン及びグルタミン酸ナトリウムとの重量比を変化させたサンプル(試験区3-6~3-10)では、S-アリルシステインスルホキシドに対するアルギニン及びグルタミン酸ナトリウムの量が多くなると、異風味(ボイル肉臭、ジャーキー臭)が発生し、アリウム属植物香(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)を感じにくくなる傾向がみられた。
【0125】
[試験例4]
<評価サンプルの作製1>
(1)S-アリルシステインスルホキシド(5重量%)、スクロース(85重量%)、アルギニン(5重量%)及びグルタミン酸ナトリウム(5重量%)を配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、125~205℃(=120~200℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を125~205℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が125~205℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)1~30分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。尚、1~30分間の加熱中、温度調節つまみは125~205℃にセットしたままとした。
(6)得られた固化物を袋に移して手で粉砕し、これを後述の官能評価の評価サンプルとして用いた。
<評価サンプルの作製2>
(1)S-アリルシステインスルホキシド(5重量%)、スクロース(85重量%)、アルギニン(5重量%)及びグルタミン酸ナトリウム(5重量%)を配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包んだ。
(3)家庭用のウォーターオーブン(シャープ株式会社製、商品名:ヘルシオ、形名:AX-XP200-W)を、120~220℃に設定して予熱した。
(4)予熱が完了した後、上記(2)のクッキングシートで包まれた混合物をウォーターオーブンの上段に並べ、加熱を開始した。
(5)3~120分間加熱した後、溶融した混合物をウォーターオーブンから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。
(6)得られた固化物を袋に移して手で粉砕し、これを後述の官能評価の評価サンプルとして用いた。
【0126】
<評価>
(香気の官能評価)
各サンプルの0.5重量%水溶液(65℃)を調製し、その香気(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)について3名の専門パネルが下記の基準に基づき評点付けを実施した。
[評価基準]
+++:香気が非常に強く感じられる
++ :香気が強く感じられる
+ :香気が少し感じられる
± :香気がほとんど感じられない
【0127】
上記<評価サンプルの作製1>において得られた各サンプルの評価結果を表7に、上記<評価サンプルの作製2>において得られた各サンプルの評価結果を表8に、それぞれ示す(左側が新鮮なニンニク香の評価であり、右側がローストされたニンニク香の評価である)。
【0128】
【表7】
【0129】
【表8】
【0130】
表7、8に示される結果から明らかなように、香気前駆組成物の加熱を、120~220℃のいずれの温度で行った場合も、アリウム属植物香(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)が発現した。また、ホットプレートを用いて加熱を行った場合及びオーブンを用いて加熱行った場合のいずれも、アリウム属植物香(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)が発現し得ることも確認された。
【0131】
[試験例5]
<評価サンプルの作製>
(試験区5-1~5-8)
(1)S-アリルシステインスルホキシド、スクロース、アルギニン、グルタミン酸ナトリウム、並びに、パーム核油(融点:25~30℃)又はラード(融点:40℃程度)を、下表9に示す割合で配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、175℃(=170℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を175℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が175℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)3分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置して、試験区5-1~5-8のサンプルをそれぞれ得た。尚、3分間の加熱中、温度調節つまみは175℃にセットしたままとした。
【0132】
【表9】
【0133】
試験区5-1~5-8のサンプルのいずれにおいても、油(パーム核油又はラード)が糖、アミノ酸又はその塩と分離し、これらのサンプルは物性に問題があった。
【0134】
[試験例6]
<評価サンプルの作製>
(試験区6-1)
(1)S-アリルシステインスルホキシド、スクロース、アルギニン、グルタミン酸ナトリウム及び水を、下表10に示す割合で配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1.05g(=固形分1g+水分0.05g)を、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、175℃(=170℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を175℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が175℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)3分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、5分間(溶融した混合物が室温(25℃)に戻るまでの時間)、室温(25℃)に放置して、試験区6-1のサンプルを得た。尚、3分間の加熱中、温度調節つまみは175℃にセットしたままとした。
【0135】
(試験区6-2)
前記(1)で得られた混合物の使用量を「1.05g(=固形分1g+水分0.05g)」から「1.1g(=固形分1g+水分0.1g)」に変更したこと以外は、試験区6-1と同様の手順で、試験区6-2のサンプルを作製した。
【0136】
(試験区6-3)
前記(1)で得られた混合物の使用量を「1.05g(=固形分1g+水分0.05g)」から「1.15g(=固形分1g+水分0.15g)」に変更したこと以外は、試験区6-1と同様の手順で、試験区6-3のサンプルを作製した。
【0137】
(試験区6-4)
前記(1)で得られた混合物の使用量を「1.05g(=固形分1g+水分0.05g)」から「1.2g(=固形分1g+水分0.2g)」に変更したこと以外は、試験区6-1と同様の手順で、試験区6-4のサンプルを作製した。
【0138】
(試験区6-5)
前記(1)で得られた混合物の使用量を「1.05g(=固形分1g+水分0.05g)」から「1.15g(=固形分1g+水分0.15g)」に変更し、ホットプレートによる加熱時間を「3分間」から「6分間」に変更したこと以外は、試験区6-1と同様の手順で、試験区6-5のサンプルを作製した。
【0139】
(試験区6-6)
前記(1)で得られた混合物の使用量を「1.05g(=固形分1g+水分0.05g)」から「1.2g(=固形分1g+水分0.2g)」に変更し、ホットプレートによる加熱時間を「3分間」から「6分間」に変更したこと以外は、試験区6-1と同様の手順で、試験区6-6のサンプルを作製した。
【0140】
【表10】
【0141】
<評価>
(外観の評価)
試験区6-1~6-6の各サンプルの常温(25℃)における外観、固さについて、3名の専門パネルがコメントした。
【0142】
結果を下表11に示す。
【0143】
【表11】
【0144】
表11に示される結果から、S-アリルシステインスルホキシド等に水を添加しても、加熱時間を調整し水を蒸発させることによって、固体のサンプルを得られることが確認されたが、水の添加量が多くなると、加熱時間を延長する必要があるため、水の添加量は少ないことが好ましい。
【0145】
[試験例7]
<評価サンプルの作製>
(試験区7-1)
(1)S-アリルシステインスルホキシド(5重量%)、スクロース(85重量%)、アルギニン(5重量%)及びグルタミン酸ナトリウム(5重量%)を配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、175℃(=170℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を175℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が175℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)3分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。尚、3分間の加熱中、温度調節つまみは175℃にセットしたままとした。
(6)得られた固化物を袋に移して手で粉砕し、これを後述の官能評価の評価サンプルとして用いた(当該サンプルを、以下において「試験区7-1のサンプル」と称する)。
【0146】
<官能評価>
(1)粉末状の市販の風味調味料(タイ味の素社製、商品名:RosDee(登録商標)Pork)1.5gに、試験区7-1のサンプルを2.23重量%の濃度で添加した後、更に100mLのお湯(65℃)を加えて、よく混ぜ、スープを作製した。
当該スープのオルソネーザル香(食品を口に含まずに鼻だけで感じられる香気)及びレトロネーザル香(食品を口に含んだときに感じる、口腔から鼻腔にぬける香気)において、ローストされたニンニク香が増強されているかを、3名の専門パネルで確認した。
(2)市販の冷凍チャーハン(株式会社セブン&アイ・ホールディングス製、商品名:セブンプレミアム やみつき濃厚な味わいチャーハン)50gに、試験区7-1のサンプルを0.6重量%の濃度で添加した後、電子レンジにて500Wで2分間加熱し、チャーハンを作製した。
当該チャーハンのオルソネーザル香及びレトロネーザル香において、ローストされたニンニク香が増強されているかを、2名の専門パネルで確認した。
【0147】
<結果>
上記スープのオルソネーザル香及びレトロネーザル香のいずれにおいても、ローストされたニンニク香が増強されたことが確認された。
また上記チャーハンのオルソネーザル香及びレトロネーザル香のいずれにおいても、ローストされたニンニク香が増強されたことが確認された。
【0148】
<評価サンプルの作製>
(試験区7-2)
(1)S-アリルシステインスルホキシド(5重量%)、スクロース(85重量%)、アルギニン(5重量%)及びグルタミン酸ナトリウム(5重量%)を配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、125℃(=120℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を125℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が125℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)20分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。尚、20分間の加熱中、温度調節つまみは125℃にセットしたままとした。
(6)得られた固化物を袋に移して手で粉砕し、これを後述の官能評価の評価サンプルとして用いた(当該サンプルを、以下において「試験区7-2のサンプル」と称する)。
【0149】
<官能評価>
(1)粉末状の市販の風味調味料(タイ味の素社製、商品名:RosDee(登録商標)Pork)1.5gに、試験区7-2のサンプルを2.23重量%の濃度で添加した後、更に100mLのお湯(65℃)を加えて、よく混ぜ、スープを作製した。
当該スープのオルソネーザル香及びレトロネーザル香において、新鮮なニンニク香が増強されているかを、3名の専門パネルで確認した。
(2)市販の冷凍チャーハン(株式会社セブン&アイ・ホールディングス製、商品名:セブンプレミアム やみつき濃厚な味わいチャーハン)50gに、試験区7-2のサンプルを0.6重量%の濃度で添加した後、電子レンジにて500Wで2分間加熱し、チャーハンを作製した。
当該チャーハンのオルソネーザル香及びレトロネーザル香において、新鮮なニンニク香が増強されているかを、2名の専門パネルで確認した。
【0150】
<結果>
上記スープのオルソネーザル香及びレトロネーザル香のいずれにおいても、新鮮なニンニク香が増強されたことが確認された。
また上記チャーハンのオルソネーザル香及びレトロネーザル香のいずれにおいても、新鮮なニンニク香が増強されたことが確認された。
【0151】
[試験例8]
<評価サンプルの作製>
(試験区8-1)
(1)S-アリルシステインスルホキシド(5重量%)、スクロース(85重量%)、アルギニン(5重量%)及びグルタミン酸ナトリウム(5重量%)を配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包み、更にクッキングシートの上からアルミホイルで包んだ。
(3)家庭用の折りたたみ式ホットプレート(クイジナート(Cuisinart)社製、商品名:Griddler、形名:GR-4NJ)を、175℃(=170℃(試験温度)+5℃)になるよう予熱した。具体的には、ホットプレートのSelectorダイヤルを「Hot Plate」にセットし、Hot Plateダイヤル(温度調節つまみ)を175℃にセットして、予熱を行った。プレートは、上下とも平型にセットした。プレート温度は、温度計を用いて測定した。
(4)ホットプレートの温度が175℃に達した直後に、上記(2)のクッキングシート及びアルミホイルで包まれた混合物をプレート上に並べ、その上下がプレートで挟まれるようホットプレートを閉じて、加熱を開始した。加熱時間は、ホットプレートを閉じた時点から計測開始し、すなわちホットプレートを閉じた時点を、加熱時間:0(分)とした。
(5)3分間加熱した後、溶融した混合物をホットプレートから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。尚、3分間の加熱中、温度調節つまみは175℃にセットしたままとした。
(6)得られた固化物を袋に移して手で粉砕し、これを後述の官能評価の評価サンプルとして用いた。
【0152】
(試験区8-2)
S-アリルシステインスルホキシドに代えて、S-アリルシステインを用いたこと以外は、試験区8-1と同様の手順で、試験区8-2のサンプルを作製した。
【0153】
(試験区8-3)
S-アリルシステインスルホキシドに代えて、S-プロピルシステインスルホキシドを用いたこと以外は、試験区8-1と同様の手順で、試験区8-3のサンプルを作製した。
【0154】
(試験区8-4)
S-アリルシステインスルホキシドに代えて、S-(1-プロペニル)-システインスルホキシドを用いたこと以外は、試験区8-1と同様の手順で、試験区8-4のサンプルを作製した。
【0155】
(試験区8-5)
S-アリルシステインスルホキシドに代えて、S-メチルシステインスルホキシドを用いたこと以外は、試験区8-1と同様の手順で、試験区8-5のサンプルを作製した。
【0156】
<評価>
(香気の官能評価)
試験区8-1~8-5の各サンプルの0.5重量%水溶液(65℃)を調製し、新鮮なアリウム属植物香及びローストされたアリウム属植物香のそれぞれについて、3名の専門パネルが評点付けを実施した。評点付けは、新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム属植物香が「全く感じられない」場合を0点とし、「強く感じられる」場合を5点とする基準に基づき、0.5点刻みで、合議法により行った。ここで「新鮮なアリウム属植物香」とは、アリウム属植物(ニンニク、タマネギ、ネギ)が加熱調理されることなく、生の状態で発現する特徴的な香気(鼻に刺さるような刺激的な香気)をいい、「ローストされたアリウム属植物香」とは、アリウム属植物(ニンニク、タマネギ、ネギ)がローストされることによって発現する特徴的な香ばしい香気をいう。
また新鮮なアリウム属植物香及びローストされたアリウム属植物香に該当しない香気が感じられたサンプルは、当該香気(その他の香気)についてコメントした。
【0157】
結果を下表12に示す。
【0158】
【表12】
【0159】
表12に示される結果から明らかなように、S-アリルシステインスルホキシド(ALCSO)、S-アリルシステイン(ALC)、S-プロピルシステインスルホキシド(PCSO)、S-(1-プロペニル)-システインスルホキシド(PeCSO)又はS-メチルシステインスルホキシド(MCSO)を用いて作製された試験区8-1~8-5のサンプルは、いずれもアリウム属植物香(新鮮なアリウム属植物香、ローストされたアリウム属植物香)を発現した。
【0160】
[試験例9]
<香料組成物の作製>
(1)S-アリルシステインスルホキシド(4.76重量%)、スクロース(80.95重量%)、アルギニン(4.76重量%)及びグルタミン酸ナトリウム(4.76重量%)を配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した後、水(4.76重量%)を添加し、水が満遍なく広がるよう更に混合した。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包んだ。
(3)家庭用のウォーターオーブン(シャープ株式会社製、商品名:ヘルシオ、形名:AX-XP200-W)を、160℃に設定して予熱した。
(4)予熱が完了した後、上記(2)のクッキングシートで包まれた混合物をウォーターオーブンの上段に並べ、加熱を開始した。
(5)10分間加熱した後、溶融した混合物をウォーターオーブンから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。
(6)得られた固化物を袋に移して手で粉砕し、香料組成物を作製した。
【0161】
<評価サンプルの作製>
(試験区9-1)
作製直後の香料組成物を水に溶解させて、0.5重量%水溶液(30℃)を調製し、当該水溶液を30℃で30分間保管して、試験区9-1のサンプルを得た。
【0162】
(試験区9-2)
水溶液の保管時間を「30分間」から「1時間」に変更したこと以外は、試験区9-1と同様の手順で、試験区9-2のサンプルを得た。
【0163】
(試験区9-3)
水溶液の保管時間を「30分間」から「2時間」に変更したこと以外は、試験区9-1と同様の手順で、試験区9-3のサンプルを得た。
【0164】
(試験区9-4)
作製直後の香料組成物1gを固体の状態でアルミパウチに密封し、37℃で1週間保管した後、水に溶解させ、0.5重量%水溶液(30℃)を調製し、試験区9-4のサンプルを得た。
【0165】
(試験区9-5)
アルミパウチの保管時間を「1週間」から「1か月間」に変更したこと以外は、試験区9-4と同様の手順で、試験区9-5のサンプルを得た。
【0166】
<評価>
(香気強度の官能評価)
試験区9-1~9-5のサンプルの各ニンニク香(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)の強度について、2名の専門パネルが評点付けを実施した。評点付けは、作製直後の香料組成物を水に溶解させて調製した0.5重量%水溶液(30℃)及び0.25重量%水溶液(30℃)のニンニク香(新鮮なニンニク香、ローストされたニンニク香)の強度を、それぞれ5点及び3点とする基準に基づき、0.5点刻みで、合議法により行った。
【0167】
結果を下表13に示す。
【0168】
【表13】
【0169】
表13に示される結果から明らかなように、香料組成物を水溶液の状態で保管すると、短時間でニンニク香の強度が低下し、特に新鮮なニンニク香について、著しい低下がみられた(試験区9-1~9-3のサンプル)。
一方、香料組成物を固体の状態で保管した試験区9-4及び9-5のサンプルでは、ニンニク香の強度の顕著な低下はみられず、異風味(アリウム属植物香以外の香気)を発生することもなかった。
これらの結果から、香気前駆組成物を加熱して得られた溶融物を固化させることによって、アリウム属植物香(例、ニンニク香等)の保存性が向上することが確認された。
【0170】
[試験例10]
<試験サンプルの作製>
(1)S-アリルシステインスルホキシド、スクロース、アルギニン、グルタミン酸ナトリウム及び下表16に示す固結防止剤を、下表14に示す割合で配合し、乳鉢で擂り潰しながら混合した。表14におけるXは、固結防止剤の配合割合を示し、その具体的な数値は表16に示される。
(2)得られた混合物1gを、縦横三つ折りにしたクッキングシートにのせ、満遍なく広げた状態で包んだ。
(3)家庭用のウォーターオーブン(シャープ株式会社製、商品名:ヘルシオ、形名:AX-XP200-W)を、140℃に設定して予熱した。
(4)予熱が完了した後、上記(2)のクッキングシートで包まれた混合物をウォーターオーブンの上段に並べ、加熱を開始した。
(5)10分間加熱した後、溶融した混合物をウォーターオーブンから取り出し、固化するまで室温(25℃)に放置した。
(6)得られた固化物を乳鉢で粉砕して粉状にし、これを後述の加速劣化試験の試験サンプルとして用いた。
【0171】
【表14】
【0172】
<加速劣化試験>
加速劣化試験を、下記の通り実施し、各サンプルの固結状態を評価した。
(1)粉状の試験サンプル(500mg)を、吸湿しないように粉砕後なるべく早く(粉砕後60秒以内)50mLバイアルに移し、蓋をして密封した。
(2)試験サンプルを封入したバイアルの蓋を、表16に示す条件下(温度、湿度)で開封し、表16に示す所定の時間が経過した後、蓋を閉じた。ここで表16に示される開封時間(5分、60分、120分)は、バイアルの蓋を開封してから、蓋を閉じるまでの時間であり、蓋を開封した時点を、開封時間:0(分)とした。
(3)バイアル内の試験サンプルの状態を観察し、下表15に示す基準に基づき評点付けを行った。
【0173】
【表15】
【0174】
結果を下表16に示す。
【0175】
【表16】
【0176】
表16に示される結果から明らかなように、グリセリン脂肪酸エステル、セルロース又はタルクが配合された試験サンプルは固結が抑えられ、中でもグリセリン脂肪酸エステルが配合された試験サンプルは顕著に固結が抑えられていた。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明によれば、アリウム属植物香を食品に付与し得、かつ、広い温度域で安定した物性を有する香料組成物を、簡便に製造できる方法を提供できる。
また本発明によれば、アリウム属植物香を食品に付与し得、かつ、広い温度域で安定した物性を有する香料組成物、並びに、当該香料組成物を利用した食品の製造方法及びアリウム属植物香の付与方法も提供できる。
【0178】
本出願は、日本で出願された特願2019-231953(出願日:2019年12月23日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。