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特許7647585ポリオレフィン多層微多孔膜およびその製造方法ならびに積層多層微多孔膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ポリオレフィン多層微多孔膜およびその製造方法ならびに積層多層微多孔膜
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/32 20060101AFI20250311BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20250311BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20250311BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20250311BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20250311BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20250311BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20250311BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20250311BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20250311BHJP
【FI】
B32B5/32
B32B27/32 E
C08J9/26 102
C08J9/26 CES
H01M50/409
H01M50/417
H01M50/449
H01M50/457
H01M50/403 B
H01M50/489
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021569092
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2021039792
(87)【国際公開番号】W WO2022092189
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2024-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2020181078
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 高志
(72)【発明者】
【氏名】金田 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 陽介
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/194667(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/192861(WO,A1)
【文献】特開2013-126765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00- 44/60、 67/20
B29C 55/12
H01M 50/403、50/417、50/419
H01M 50/449、50/457、50/489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンおよびポリエチレンを含む第1の層と、ポリエチレンからなる第2の層を含むポリオレフィン多層微多孔膜であって、下記(I)、(II)の要件を満たす、ポリオレフィン多層微多孔膜。
(I)顕微ラマン分光法により得られる、ポリエチレンに対するポリプロピレンのラマン強度比が0.018以上0.040以下である領域を有し、該領域が相互につながったネットワーク構造が前記ポリオレフィン多層微多孔膜の表面の面積の68%以上を占め、かつ、PP/PEのラマン強度比の変動係数が8%以上30%以下である。
(II)前記ポリオレフィン多層微多孔膜の単位目付当りの突刺強度(N・m/g)を最大孔径(μm)で除した値が13以上30以下である。
【請求項2】
顕微ラマン分光法により得られるポリプロピレンのラマンバンドの半値幅が7.20cm-1以下である、請求項1に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項3】
膜厚が6μm以下である、請求項1または2に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項4】
電池用セパレータとして用いる、請求項1~3のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜の少なくとも一方の表面に多孔層を積層してなる、積層多層微多孔膜。
【請求項6】
電池用セパレータとして用いる、請求項5に記載の積層多層微多孔膜。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する方法であって、以下の工程(1)~(6)を含む、ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法。
(1)ポリプロピレンおよびポリエチレンを含む第1のポリオレフィン樹脂組成物と成膜用溶剤とを溶融混練し、第1のポリオレフィン溶液を調製する工程、
(2)ポリエチレンを含む第2のポリオレフィン樹脂組成物と成膜用溶剤とを溶融混練し、第2のポリオレフィン溶液を調製する工程、
(3)前記第1及び第2のポリオレフィン溶液を共押出し、冷却してゲル状多層シートを形成する工程、
(4)前記ゲル状多層シートを107℃以上112℃以下で延伸する第1の延伸工程、
(5)前記延伸後のゲル状多層シートから成膜用溶剤を除去し、乾燥する工程、
(6)前記乾燥後の多層シートを95℃以上130℃以下で幅方向に1.55倍以上で延伸する第2の延伸工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン多層微多孔膜およびその製造方法に関する。より詳しくは、薄膜化しても高い機械強度とメルトダウン特性を有する、電池セパレータなどに好適に使用できるポリオレフィン多層微多孔膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、ろ過膜、電池用セパレータや電解コンデンサー用のセパレータなどの種々の分野に用いられる。特に、電池用セパレータとしては耐薬品性、機械強度に優れ、シャットダウン特性を有するポリオレフィン微多孔膜が用いられている。さらにリチウムイオン電池用セパレータには、安全性の観点からより高いメルトダウン特性、機械強度が求められている。
【0003】
特許文献1には、ポリエチレンからなる微多孔質層とポリプロピレンを含む微多孔質層からなるポリオレフィン多層微多孔膜が高温時の異物耐性に優れることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ポリプロピレンとポリエチレンからなる単層膜について、耐酸化性に効果的なポリプロピレンの濃度と分布について開示されている。
【0005】
特許文献3には、ホモポリプロピレンと共重合ポリプロピレンをブレンドすることにより、ポリエチレンとポリプロピレンの相溶性を高めることで、耐熱性に優れるポリオレフィン微多孔膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2020/149294号
【文献】国際公開第2013/099607号
【文献】特開2010-235654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3では今後さらに要求される6μm以下の薄膜でのメルトダウン特性と機械強度を両立することはできない。近年、リチウムイオン電池のさらなる高容量化をはかるため、微多孔膜には薄膜化が求められるとともに、機械強度、高温下で電池の安全性を維持するメルトダウン特性への要求も高くなってきている。薄膜にすることで微多孔膜を構成する樹脂の目付量が低減され、これによりメルトダウン特性と機械的強度を維持することが難しくなる。また、強度を維持するために空孔率を下げると透気抵抗度が上昇することから、6μm以下の薄膜においては、電池用セパレータとして求められる耐熱性と強度、透気抵抗度のバランスが不十分であった。
【0008】
そこで本願発明は、薄膜化したとしても機械強度とメルトダウン特性に優れ、良好な透気抵抗度を有するポリオレフィン多層微多孔膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、一定のポリプロピレン濃度を有する領域をミクロンサイズで、分散配置させることによって、少量のポリプロピレンで薄い微多孔膜であっても、電池用セパレータとして十分な機械強度と透気抵抗度を有し、かつ良好なメルトダウン特性を発現できることを見出し本発明に想到した。
【0010】
すなわち本発明は、ポリプロピレンおよびポリエチレンを含む第1の層と、ポリエチレンからなる第2の層を含むポリオレフィン多層微多孔膜であって、下記(I)、(II)の要件を満たす、ポリオレフィン多層微多孔膜である。
(I)顕微ラマン分光法により得られる、ポリエチレンに対するポリプロピレンのラマン強度比が0.018以上0.040以下である領域を有し、該領域が相互につながったネットワーク構造が前記ポリオレフィン多層微多孔膜の表面の面積の68%以上を占め、かつ、PP/PEのラマン強度比の変動係数が8%以上30%以下である。
(II)前記ポリオレフィン多層微多孔膜の単位目付当りの突刺強度(N・m/g)を最大孔径(μm)で除した値が13以上30以下である。
【0011】
また本発明は、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の少なくとも一方の表面に多孔層を積層してなる、積層多層微多孔膜である。
【0012】
また本発明は、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する方法であって、以下の工程(1)~(6)を含む、ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法である。
(1)ポリプロピレンおよびポリエチレンを含む第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練し、第1のポリオレフィン溶液を調製する工程、
(2)ポリエチレンを含む第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練し、第2のポリオレフィン溶液を調製する工程、
(3)前記第1及び第2のポリオレフィン溶液を共押出し、冷却してゲル状多層シートを形成する工程、
(4)前記ゲル状多層シートを107℃以上112℃以下で延伸する第1の延伸工程、
(5)前記延伸後のゲル状多層シートから成膜用溶剤を除去し、乾燥する工程、
(6)前記乾燥後の多層シートを95℃以上130℃以下でTDに1.55倍以上で延伸する第2の延伸工程。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、薄膜化したとしても機械強度とメルトダウン特性に優れ、良好な透気抵抗度を有するポリオレフィン多層微多孔膜を提供することができる。特に、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、高容量化電池へのセパレータとしての使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1における、PP/PEのラマン強度比の2次元分布図である。
図2図2は、実施例1における、PP/PEのラマン強度比のヒストグラムである。
図3図3は、実施例2における、PP/PEのラマン強度比の2次元分布図である。
図4図4は、比較例1における、PP/PEのラマン強度比の2次元分布図である。
図5図5は、比較例2における、PP/PEのラマン強度比の2次元分布図である。
【符号の説明】
【0015】
a PP/PEのラマン強度比が0.018以上0.040以下の領域
b PP/PEのラマン強度比が0.040超の領域
c PP/PEのラマン強度比が0.018未満の領域
1~11:座標番号
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリプロピレンとポリエチレンを含む第1の層と、ポリエチレンからなる第2の層を含む。
【0017】
(ポリプロピレン)
前記第1の層に含まれるポリプロピレンとしては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィン及び/又はジオレフィンとの共重合体(プロピレン共重合体)、あるいはこれらの混合物を用いることができる。中でも、機械強度及び貫通孔径の微小化、高融点化等の観点から、プロピレンの単独重合体を用いることが好ましい。
【0018】
前記第1の層に含まれるポリプロピレンの重量平均分子量Mwは1×10以上3×10未満であることが好ましい。
【0019】
第1の層中のポリプロピレンの含有率は、8質量%以上であることが好ましい。ポリプロピレンの含有率が8質量%以上、より好ましくは10質量%以上であることで、多層微多孔膜としての耐熱性を効果的に向上させることができる。また、第1の層中のポリプロピレンの含有率は、50質量%以下が好ましい。ポリプロピレンの含有率が50質量%以下、より好ましくは35質量%以下であることで、微多孔膜の最大孔径の小孔径化を抑え、透気抵抗度の増大を抑えることができる。ポリプロピレンの含有率を上記範囲内とすることにより、溶融混錬する工程で、ポリプロピレンがポリエチレン中に分散配置することが容易になり、後述するプロセス条件で微多孔膜化した際に、PP/PEのラマン強度比の変動係数を後述する範囲内に調整することできる。
【0020】
第一の層中のポリプロピレンの含有率は、ポリオレフィン多層微多孔膜の断面をAFM-IRで測定して求めることができる。
【0021】
ポリオレフィン多層微多孔膜中のポリプロピレンの含有率は3.0質量%以上であることが、メルトダウン温度を高くすることができる点で好ましい。また、ポリオレフィン多層微多孔膜中のポリプロピレンの含有率は8.0質量%未満であることが、機械的強度を向上させ、透気抵抗度を下げる点からは好ましい。
【0022】
多層微多孔膜中のポリプロピレンの含有率を上記好ましい範囲とし、後述するプロセス条件で製膜を実施することで、PP/PEラマン強度比が0.018以上0.040以下である領域を有し、該領域が相互につながったネットワーク構造の、ポリオレフィン多層微多孔膜の表面の面積に占める率を後述する範囲内に調整しやすい。
【0023】
(ポリエチレン)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜におけるポリエチレンとしては、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有するエチレン・α-オレフィン共重合体を用いることができる。
【0024】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜におけるポリエチレンは、密度が0.920g/m以上0.970g/m以下である高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。高密度ポリエチレンを含有させることで、シャットダウン温度の低温化が可能となり、多層微多孔膜の強度、最大孔径を効果的に本発明の範囲内とすることができる。
【0025】
高密度ポリエチレンの重量平均分子量Mwは、1×10以上1×10未満であることが好ましい。
【0026】
また、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、重量平均分子量Mwが1×10以上の超高分子量ポリエチレンを含むことが好ましい。超高分子量ポリエチレンを含むことで、ポリオレフィン多層微多孔膜の高強度化や、最大孔径の小孔径化、後述するような突刺強度を効果的に達成することができる。
【0027】
(その他の樹脂成分)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、その他の樹脂成分を含んでいてもよい。その他の樹脂成分としては例えば、耐熱性樹脂が好ましい。
【0028】
(積層構成)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜には、第1及び第2の層以外の他の層を設けて、三層以上にすることもできる。
【0029】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の層構成としては、第1の層/第2の層/第1の層または第2の層/第1の層/第2の層の順に積層した三層構成が好ましい。
【0030】
(ネットワーク構造)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、顕微ラマン分光法により得られるポリエチレンに対するポリプロピレン(PP/PE)のラマン強度比が0.018以上0.040以下である領域を有する。PP/PEのラマン強度比が0.018以上、好ましくは0.019以上であることで、高温での樹脂の溶融、開孔によるメルトダウンを効果的に防ぐことができる。また、PP/PEのラマン強度比が0.040以下、好ましくは0.038以下であることで、機械的強度の低下や透気抵抗度の上昇を効果的に抑えることができる。
【0031】
PP/PEのラマン強度比は、顕微レーザーラマン分光光度計(RS-5100、日本分光社製)を用いて、波長532nm、スポット径4μmのレーザーをポリオレフィン微多孔膜の表面に照射し、ラマンシフト810cm-1のピーク強度I(810)と1130cm-1のピーク強度I(1130)から求める。I(810)はポリプロピレン、I(1130)はポリエチレンの存在を示し、PP/PEのラマン強度比は次式を用いて求められる。
PP/PEのラマン強度比=I(810)/I(1130) …(式)。
【0032】
上記「領域」の分画としては、微多孔膜の縦横に7μm間隔で11点ずつ、計121点を測定点としてとる。そして1点の測定範囲はレーザーのスポットが中心となる縦横7μm×7μmの領域とする。
【0033】
以下、上記の分画において上記のPP/PEのラマン強度比を満足する領域を「特定領域」と呼ぶ。
【0034】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記特定領域が相互につながったネットワーク構造を有している。ここで、「相互につながった」とは、前述のような分画において1つの特定領域に着目したとき、これを囲む8つの領域のうちの少なくとも1つについても特定領域となっていることをいう。また、「ネットワーク構造」とは、16個以上の特定領域がまとまって相互につながった構造をいう。
【0035】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記ネットワーク構造が全体の68%以上である。前記ネットワーク構造が全体の68%以上、好ましくは74%以上であり、より好ましくは80%以上であることで、メルトダウン特性が良好でかつ機械強度と透気抵抗度を両立した微多孔膜を得ることができる。
【0036】
前記ネットワーク構造が全体の68%以上であることを前述の「領域」の分画に照らして見ると、全121領域に対して83領域以上が、前記ネットワーク構造の形成に寄与している。
【0037】
図1には、比較的PPの含有量が多いポリオレフィン多層微多孔膜(実施例1)の測定結果として、縦(MD)横(TD)に7μm間隔で11点ずつの領域が、PP/PEのラマン強度比に応じて示されている。符号aはPP/PEのラマン強度比が0.018以上0.040以下の領域、符号bはPP/PEのラマン強度比が0.040超の領域を表す。ポリプロピレン比率の高い領域を前記ネットワーク構造で取り囲んで孤立させることによりその影響を局所的なものとし、電池用セパレータとして十分な機械強度と低い透気抵抗度を得ることが容易になる。
【0038】
図1の例のPP/PEのラマン強度の分布を図2のヒストグラムに示す。
【0039】
図3には、比較的PPの含有量が少ないポリオレフィン多層微多孔膜(実施例2)の測定結果として、縦(MD)横(TD)に7μm間隔で11点ずつの領域が、PP/PEのラマン強度比に応じて示されている。符号aはPP/PEのラマン強度比が0.018以上0.040以下の領域、符号cはPP/PEのラマン強度比が0.018未満の領域を表す。ポリプロピレン比率の低い領域を前記ネットワーク構造で取り囲んで孤立させることによりその影響を局所的なものとし、ポリエチレンが溶融するような高温下においても、周囲のポリプロピレンの含有率が高い領域が溶融部分を保持して開孔、メルトダウンを防ぎ、シャットダウン状態を維持することができる。
【0040】
このように本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記ネットワーク構造を有することで、膜厚が薄くても良好なメルトダウン特性、機械強度、低透気抵抗度を有することができる。
【0041】
PP/PEのラマン強度比及びその割合は、多層微多孔膜中のポリプロピレンの含有率、後述する製膜条件を適宜調整することで調整できる。
【0042】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、PP/PEのラマン強度比の変動係数が8%以上30%以下である。PP/PEのラマン強度比の変動係数が30%以下、好ましくは25%以下であることで、ポリプロピレン分布の不均一化を抑え、耐熱性や透気抵抗度のばらつきを抑えることができる。また、PP/PEのラマン強度比の変動係数が8%以上、好ましくは10%以上であることで、ポリプロピレンが過剰に均一に分散されず、十分な耐熱性を得るのに必要なポリプロピレン量を抑え、機械強度の低下を抑えることができる。
【0043】
PP/PEのラマン強度比の変動係数は、121点のPP/PEのラマン強度比から標準偏差を求め、それをラマン強度比の平均値で除して求める。
【0044】
PP/PEのラマン強度比の変動係数は、多層微多孔膜中のポリプロピレンの含有率、後述する製膜条件を適宜調整することで調整できる。
【0045】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、顕微ラマン分光法により得られるポリプロピレンのラマンバンドの半値幅が7.20cm-1以下であることが好ましい。ポリプロピレンの結晶性はラマン分光法により400cm-1付近に認められるラマンバンドの半値幅から評価でき、その半値幅が7.20cm-1以下、より好ましくは7.15cm-1以下であることで、第1の層に含まれるポリプロピレンの融点が向上し、薄膜であっても耐熱性の高い微多孔膜を得ることが可能となる。
【0046】
(機械的強度と細孔構造)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、単位目付当りの突刺強度(N・m/g)を最大孔径(μm)で除した値が13以上30以下である。電池にした際に求められる機械強度と透気抵抗度を両立し、電池用セパレータとして求められる特性を達成するには、ポリオレフィン多層微多孔膜の単位目付当りの突刺強度(N・m/g)を最大孔径(μm)で除した値を13以上30以下とする必要があり、より好ましくは15以上25以下である。
【0047】
単位目付当りの突刺強度は、好ましくは0.60N・m/g以上である。単位目付当りの突刺強度を0.60N・m/g以上、より好ましくは0.68N・m/g以上とすることにより、電池組立時の異物耐性が薄膜セパレータでも良好となり、電池の歩留まりに優れる。また、単位目付当りの突刺強度は1.20N・m/g以下が好ましい。単位目付当りの突刺強度が1.20N・m/g以下、より好ましくは1.10N・m/g以下であることで、高温下での熱収縮を抑え、メルトダウン特性の低下を抑えることができる。
【0048】
最大孔径は0.020μm以上0.060μm以下が好ましい。最大孔径を0.020μm以下、より好ましくは0.025μm以上とすることで、透気抵抗度の増大を抑え、電池セパレータとして用いた場合、イオン抵抗の増加による電池の出力特性の低下を抑えることができる。また、最大孔径を0.060μm以下、より好ましくは0.055μm以下とすることで、耐電圧の低下を抑え、電池の歩留まりの低下を抑えることができる。
【0049】
上記の機械強度と最大孔径は、後述する樹脂成分やプロセスで制御することができる。
【0050】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、空孔率が20%以上50%以下であることが好ましい。空孔率が20%以上であることで、透気抵抗度を抑え、電池セパレータとして用いた場合にもイオン抵抗を低く抑えることができる。また、空孔率が50%以下であることで、機械的強度を効果的に維持することができる。
【0051】
(膜厚)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、膜厚が6μm以下であることが好ましい。膜厚が6μm以下であることで、電池をより高容量・高出力なものとすることができる。
【0052】
(積層多層微多孔膜)
本発明の積層多層微多孔膜は、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の少なくとも一方の表面に多孔層を積層してなる。多孔層を積層してなることで、耐熱性や電極との接着性に優れた電池用セパレータとすることができる。
【0053】
多孔層としては例えば、無機粒子と樹脂バインダとを含むものを挙げることができる。
【0054】
(用途)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜および本発明の積層多層微多孔膜は、電池用セパレータとして好適に用いることができる。
【0055】
(ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は、下記の工程(1)~(6)を含む。
(1)ポリプロピレンおよびポリエチレンを含む第1のポリオレフィン樹脂組成物と成膜用溶剤とを溶融混練し、第1のポリオレフィン溶液を調製する工程、
(2)ポリエチレンを含む第2のポリオレフィン樹脂組成物と成膜用溶剤とを溶融混練し、第2のポリオレフィン溶液を調製する工程、
(3)前記第1及び第2のポリオレフィン溶液を共押出し、冷却してゲル状多層シートを形成する工程、
(4)前記ゲル状多層シートを107℃以上112℃以下で延伸する第1の延伸工程、
(5)前記延伸後のゲル状多層シートから成膜用溶剤を除去し、乾燥する工程、
(6)前記乾燥後の多層シートを95℃以上130℃以下で幅方向に1.55倍以上で延伸する第2の延伸工程。
工程(2)、工程(4)、工程(6)において、各層の樹脂濃度や延伸温度、延伸倍率を後述する範囲で実施する事によって、薄い膜厚でも、破膜せずに製膜することが可能になり、高い機械強度とメルトダウン耐性を達成しかつ、良好な透気抵抗度を有する多層微多孔膜となる。
【0056】
以下、各工程についてそれぞれ説明する。
【0057】
(1)、(2)第1及び第2のポリオレフィン溶液の調製工程
前記第1の層に含まれるポリプロピレンとポリエチレンからなるポリオレフィン樹脂及び前記第2の層に含まれるポリエチレンからなるポリオレフィン樹脂に、それぞれ適当な成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、第1及び第2のポリオレフィン溶液をそれぞれ調製する。溶融混練方法として、例えば日本国特許第2132327号および日本国特許第3347835号の明細書に記載の二軸押出機を用いる方法を利用することができる。
【0058】
また、ポリプロプレンのネットワーク構造を形成する観点から、第1のポリオレフィン樹脂の可塑剤の添加比率は70質量%以上90質量%以下とすることが好ましい。可塑剤の添加比率を上記範囲内とすることで、可塑剤中のポリプロピレンがポリエチレン中に分散配置した状態となり、後の工程で延伸した際、ポリプロピレンが一定の濃度でネットワーク状につながった構造を形成することが可能となる。
【0059】
(3)ゲル状シートの形成工程
第1及び第2のポリオレフィン溶液をそれぞれ押出機から1つのダイに送給し、そこで両溶液を層状に組合せ、シート状に押し出す。得られた積層押出し成形体を冷却することによりゲル状多層シートを形成する。ゲル状シートの形成方法として、例えば日本国特許第2132327号公報および日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。
【0060】
(4)第1の延伸工程
次に、得られたゲル状多層シートを二軸方向に延伸する。同時二軸延伸、逐次延伸、及び多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。ゲル状多層シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状多層シートは、加熱後、所定の倍率で延伸すればよく、強度の観点から、延伸面倍率は25倍以上が好ましい。
【0061】
第1の延伸工程は、107℃以上112℃以下の温度範囲でゲル状多層シートを延伸し膜物性を調整することができる。延伸温度が107℃未満であるとゲル状多層シートにかかる延伸応力が過大になるため、破膜に至りやすくなり、生産性が低下する可能性がある。また、延伸温度が112℃を超えるとゲル状多層シートにかかる延伸応力が過小になり、突刺強度など、薄膜としたときに必要な機械強度が得られない。
【0062】
また、このような延伸条件とすることで第1の層に含まれるポリプロピレンの結晶性が向上する。第1の層に含まれるポリプロピレンの融点が高まり、薄膜であっても耐熱性の高い微多孔膜を得ることが可能となる。
【0063】
(5)成膜用溶剤の除去、乾燥
洗浄溶媒を用いて、成膜用溶剤の除去(洗浄)を行う。第1及び第2のポリオレフィン相は成膜用溶剤相と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔質の膜が得られる。
【0064】
成膜用溶剤を除去した多層微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。
【0065】
(6)第2の延伸工程
乾燥後の多層微多孔膜を、少なくとも幅方向に延伸することが好ましい。
【0066】
多層微多孔膜の延伸は、加熱しながら上記(4)と同様にテンター法等により行うことができる。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸及び逐次延伸のいずれでもよい。
【0067】
本工程における延伸温度は、95℃以上130℃以下が好ましい。上記範囲内で再延伸すると、フィルムが十分に保温された状態で延伸されるため、延伸時において破膜しにくく、機械的強度に優れた多層微多孔膜をえることができる。
【0068】
本工程における多層微多孔膜の延伸の一軸方向への延伸倍率は、1.55倍以上2.4倍以下とするのが好ましい。二軸延伸の場合、面積延伸倍率は、1.4倍以上4.0倍以下が好適であり、MD及びTDに各々1.2倍以上2.0倍以下とし、MDとTDでの延伸倍率が互いに同じでも異なってもよい。
【0069】
また、このような延伸条件とすることで、単位目付当りの突刺強度が電池用セパレータとして十分高くなると共に、ポリプロピレンの結晶性が更に向上する。
【0070】
また、乾燥後の多層微多孔膜は、熱処理を行うことができる。熱処理とは、膜の寸法が変わらないように保持しながら加熱する熱処理または、加熱中に膜をMDやTDに収縮させる熱処理である。
【0071】
工程(2)、工程(4)、工程(6)において、各層の樹脂濃度や延伸温度、延伸倍率を上述した範囲で実施する事によって、ポリエチレンのラメラ間に開裂が起こり、ポリエチレン相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。ゲル状シート内に分散しているポリプロピレンもまた、ポリエチレンと共に延伸、微細化し、ネットワーク状の構造が多層微多孔膜の全面に形成され、顕微ラマン分光法により求められるPP/PEのラマン強度比と、その変動係数を請求項に記載したネットワーク構造を得ることができる。
【0072】
以上のような製膜条件とすることで電池用セパレータとして求められる機械強度を有し、小孔径でかつ出力特性に優れた、薄膜で高耐熱な多層微多孔膜を得ることが可能となる。
【実施例
【0073】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明の実施態様は、これらの実施例の態様にのみ限定されるものではない。
【0074】
実施例で用いた評価方法、分析方法は、以下のとおりである。
【0075】
[評価方法、分析方法]
(1)膜厚(μm)
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜から切り出した試料(95mm×95mm)の中心と中心からMDに±30mm、TDに±30mmの計5箇所で膜厚を測定し、膜厚の平均値を求めた。測定には超硬球面測定子φ10.5(パーツNo120060)を備えた測定力約0.15Nの接触厚み計(株式会社ミツトヨ製“ライトマチック”)を用いた。
【0076】
(2)空孔率(%)
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜から切り出した試料(95mm×95mm)の体積(cm)と質量(g)を測定し得られた結果から次式を用いて空孔率(%)を計算した。微多孔膜を構成する樹脂の密度としては0.99g/cmを用いた。
空孔率=(1-試料質量/(0.99×試料体積))×100 …(式)。
【0077】
(3)透気抵抗度(sec/100cm
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜について、JIS P8117:2009に準拠して、透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)を用いてで透気抵抗度(sec/100cm)を測定した。
【0078】
(4)最大孔径(μm)
パームポロメーター(PMI社製、CFP-1500A)を用いて、Dry-up、Wet-upの順で圧力をかけ、最大孔径を測定した。Wet-upには表面張力が既知の液体としてパーフルオロポリエーテル(表面張力15.9dyne/cm、PMI社製Galwick(商品名))で十分に浸した微多孔膜に圧力をかけ、空気が貫通し始める圧力から換算される孔径を最大孔径とした。
【0079】
(5)突刺強度(N)
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜から切り出した試料(95mm×95mm)の中心について先端が球面(曲率半径R:0.5mm)の直径1mmの針で、2mm/秒の速度で突刺したときの最大荷重を突刺強度とした。
【0080】
(6)シャットダウン温度、メルトダウン温度
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜を30℃の雰囲気中にさらして、5℃/分で昇温し、その間に膜の透気抵抗度を測定した。微多孔膜の透気抵抗度が最初に1×10sec/100cmを超える時の温度を、微多孔膜のシャットダウン温度と定義した。また、シャットダウン後も過熱を継続し、再び透気抵抗度が1×10sec/100cm未満となる温度を求め、メルトダウン温度(℃)とした。微多孔膜の透気抵抗度は、透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)を用いてJIS P8117:2009に従って測定した。
【0081】
(7)重量平均分子量(Mw)
UHMWPE及びHDPEのMwは以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:WatersCorporation製GPC-150C
・カラム:昭和電工株式会社製ShodexUT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o-ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0ml/分
・試料濃度:0.1wt%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:WatersCorporation製ディファレンシャルリフラクトメーター(RI検出器)
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
【0082】
(8)溶解熱、融点
融解熱ΔHは、JISK7122に準じて以下の手順で測定した。
すなわち、試料を走査型示差熱量計(PerkinElmer,Inc.製、DSC-System7型)のサンプルホルダー内に静置し、窒素雰囲気中で190℃で10分間熱処理し、10℃/分で40℃まで冷却し、40℃に2分間保持し、10℃/分の速度で190℃まで加熱した。昇温過程で得られたDSC曲線(溶融曲線)上の85℃における点と175℃における点とを通る直線をベースラインとして引き、ベースラインとDSC曲線とで囲まれる部分の面積から熱量(単位:J)を算出し、これを試料の重量(単位:g)で割ることにより、融解熱ΔH(単位:J/g)を求めた。
また、同様にして融解熱ΔHと吸熱融解曲線における極小値の温度を融点として測定した。
【0083】
(9)ポリプロピレン分布(PP/PEのラマン強度比)、ネットワーク構造分率、ラマン強度比の変動係数
ポリオレフィン微多孔膜から切り出した95mm×95mmの試料片を用いた。
【0084】
顕微レーザーラマン分光光度計(RS-5100、日本分光社製)を用いて、波長532nm、スポット径4μmのレーザーを前記試料片の表面に照射した。
【0085】
前記試料片の中心を中心として縦横に7μm間隔で11点ずつ、計121点を測定点として測定した。そして1点の測定範囲はレーザーのスポットが中心となるように、縦横7μm×7μmの領域とした。測定範囲は、縦横77μm×77μmの範囲となる。ポリプロピレンのラマンシフトが810cm-1、ポリエチレンのラマンシフトが1130cm-1とし、810cm-1のピーク強度I(810)と、1130cm-1のピーク強度I(1130)から、各測定点のポリプロピレンとポリエチレンのピーク強度比(PP/PEのラマン強度比)を、次式を用いて求めた。
PP/PEのラマン強度比=I(810)/I(1130)
PP/PEのラマン強度比が0.018以上0.040以下である領域(特定領域)、0.018未満の領域、0.040超の領域を、77μm×77μmの測定範囲における位置に対応させてマッピングした。そして、1つの特定領域に着目したとき、これを囲む8つの領域のうちの少なくとも1つについても特定領域となっている関係を「ネットワーク構造」とし、このネットワーク構造を形成している特定領域の数を数え、全領域数121点に対する分率として、ネットワーク構造分率(%)を算出した。
【0086】
また、121点のPP/PEのラマン強度比の平均値と標準偏差から、ポリオレフィン微多孔膜のPP/PEのラマン強度比の変動係数(標準偏差/平均値)を求めた。
【0087】
(10)ポリプロピレンに帰属するラマンバンドの半値幅(PP半値幅)
ポリオレフィン微多孔膜から切り出した95mm×95mmの試料片を用いた。
【0088】
顕微レーザーラマン分光光度計(ivVia、RENISHAW製)を用いて、波長532nm、スポット径2μmのレーザーを前記試料片の表面に照射して測定した。
【0089】
ポリプロピレンの結晶性は400cm-1付近に認められるラマンバンドの半値幅から評価した。前記試料片の中心および中心からMDに±30mmの位置の3点を測定し、3点のラマンバンドの半値幅の平均値を求め、PP半値幅とした。
【0090】
(11)機械的強度
上記(5)で測定した突刺強度から単位目付当りの突刺強度を算出し、0.6N・m/g以上を良好、0.6N・m/g未満を不良として評価した。
【0091】
(12)出力特性
電池セパレータとして用いた場合、イオン抵抗を低下させることで電池の出力特性が向上する。微多孔膜の透気抵抗度が150sec/100cm未満を良好、150sec/100cm以上を不良として評価した。
【0092】
(13)高温形状保持特性
電池が異常発熱し、シャットダウン機能発現後にも絶縁状態を維持し慣性発熱に耐えうるため、膜の耐熱性が高いことが好ましく、具体的には微多孔膜のメルトダウン温度が高いことが好ましい。そこで、微多孔膜の高温形状保持特性であるメルトダウン温度について、165℃以上を良好、165℃未満を不良として評価した。
【0093】
[実施例1]
(第1のポリオレフィン溶液の調製)
Mwが2.0×10のポリプロピレン(PP、融点162℃)20質量部及びMwが5.6×10の高密度ポリエチレン(HDPE、密度0.955g/cm、融点135℃)80質量部からなる第1のポリオレフィン樹脂100質量部に、酸化防止剤テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、樹脂混合物を調製した。得られた樹脂混合物25質量部を二軸押出機(1)に投入し、二軸押出機(1)のサイドフィーダーから成膜溶剤として流動パラフィン(35cSt(40℃))75質量部を供給し、溶融混練して、第1のポリオレフィン溶液を調製した。
【0094】
(第2のポリオレフィン溶液の調製)
Mwが2.0×10の超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)40質量部及びMwが5.6×10のHDPE(密度0.955g/cm)60質量部からなる第2のポリオレフィン樹脂100質量部に、酸化防止剤テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、樹脂混合物を調製した。得られた樹脂混合物28.5質量部を、上記二軸押出機(1)と別の二軸押出機(2)に投入し、二軸押出機(2)のサイドフィーダーから成膜溶剤として流動パラフィン(35cSt(40℃))71.5質量部を供給し溶融混練して、第2のポリオレフィン溶液を調製した。
【0095】
(押出)
第一及び第2のポリオレフィン溶液を、各二軸押出機から三層用Tダイに供給し、第1のポリオレフィン溶液/第2のポリオレフィン溶液/第1のポリオレフィン溶液の層比が12.5/75/12.5となるように押し出した。押出し成形体を、冷却ロールで引き取りながら冷却し、ゲル状三層シートを形成した。
【0096】
(第1の延伸)
ゲル状三層シートを、テンター延伸機により110℃でMD及びTDともに5倍に同時二軸延伸(第1の延伸)した。
【0097】
(成膜溶剤の除去、乾燥)
第1の延伸を施したゲル状三層シートを洗浄槽で塩化メチレン浴中に浸漬し、流動パラフィンを除去し、室温で風乾して乾燥膜を得た。
【0098】
(第2の延伸)
前記乾燥膜を、バッチ式延伸機を用いて、128℃でTDに1.59倍に延伸した(第2の延伸)。
【0099】
(熱処理)
第2の延伸を施した三層シートに、128℃でTDに0.85倍の緩和処理を施した。
【0100】
作製したポリオレフィン多層微多孔膜の各成分の配合割合、製造条件、評価結果等を表1に示す。また、実施例1における、PP/PEのラマン強度比の示す2次元分布図を図1に示す。また、実施例1における、PP/PEのラマン強度比のヒストグラムを図2に示す。
【0101】
[実施例2,3]
実施例2,3では、表1に記載した条件以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン多層微多孔膜を作製した。
【0102】
実施例2における、PP/PEのラマン強度比の2次元分布図を図3に示す。
【0103】
[実施例4]
第一及び第2のポリオレフィン溶液の調整におけるHDPEとしてMwが8.0×10のもの、UHMwPEとしてMwが1.5×10のものを用いた。その他、表1に記載した条件以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン多層微多孔膜を作製した。
【0104】
[実施例5]
表1に記載した条件以外は実施例4と同様にして、ポリオレフィン多層微多孔膜を作製した。
【0105】
[比較例1~4]
比較例1~4では、表2に記載した条件以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン多層微多孔膜を作製した。また、比較例1における、PP/PEのラマン強度比の示す2次元分布図を図4に示す。また、比較例2における、PP/PEのラマン強度比の示す2次元分布図を図5に示す。
【0106】
[比較例5]
表2に記載した条件以外は実施例4と同様にして、ポリオレフィン多層微多孔膜を作製した。
【0107】
作製したポリオレフィン三層微多孔膜の各成分の配合割合、製造条件、評価結果等を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】

図1
図2
図3
図4
図5