(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2021574671
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001883
(87)【国際公開番号】W WO2021153379
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2020014960
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020112868
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 洋平
(72)【発明者】
【氏名】三田寺 淳
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112632(JP,A)
【文献】国際公開第2017/191822(WO,A1)
【文献】特開2015-108092(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129329(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/216151(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025955(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/097142(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位Aと、ジアミンに由来する構成単位Bとを含むポリイミド樹脂であって、
構成単位Aが下記式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)を含み、
構成単位Bが下記式(b1)で表される化合物に由来する構成単位(B1)を含
み、
構成単位Aが、更に構成単位(A2)を含み、構成単位(A2)が、下記式(a21)で表される化合物に由来する構成単位(A21)、下記式(a22)で表される化合物に由来する構成単位(A22)、及び下記式(a23)で表される化合物に由来する構成単位(A23)からなる群より選ばれる少なくとも1つである、ポリイミド樹脂。
【化1】
【化2】
【請求項2】
構成単位Bが、更に構成単位(B2)を含み、構成単位(B2)が、下記式(b21)で表される化合物に由来する構成単位(B21)、下記式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項
1に記載のポリイミド樹脂。
【化3】
【請求項3】
構成単位Bが、更に構成単位(B2)を含み、構成単位(B2)が、下記式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)を含む、請求項1
又は2に記載のポリイミド樹脂。
【化4】
【請求項4】
構成単位Aが、更に構成単位(A2)を含み、構成単位(A2)が、下記式(a22)で表される化合物に由来する構成単位(A22)を含む、請求項1~
3のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂。
【化5】
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂が有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂を含む、ポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項
5に記載のポリイミドワニスをフィルム状に塗布又は成形した後、有機溶媒を除去する、ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、優れた機械的特性を有することから、電気・電子部品等分野において様々な利用が検討されている。例えば、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置に用いられるガラス基板を、デバイスの軽量化やフレキシブル化を目的として、プラスチック基板へ代替することが望まれており、当該プラスチック材料として適するポリイミド樹脂の研究も進められている。このような用途には、高い透明性も要求される。
【0003】
たとえば、特許文献1には、高い透明性、折り曲げ耐性、高耐熱性、低い線熱膨張係数を目的として、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸類を原料とする繰り返し単位を含み、50~400℃の線熱膨張係数が100ppm/K以下であるポリイミドとその前駆体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置としてポリイミドフィルム基板を用いた場合、特にその基板上にポリシリコン膜を形成する工程において、基板には耐熱性が求められる。また、近年、デバイスの薄型化・フレキシブル化を実現するために、ポリイミドフィルムにも強靭性の指標のひとつである伸びが要求されている。しかし、耐熱性の優れたフィルムは硬く、伸びが劣るものとなっていた。
更にディスプレイ用途には、前記の透明性はもちろんのこと、無色性もより重要になっている。以上のように、耐熱性と伸びを両立し、更に無色透明性にも優れるポリイミドフィルムが得られるポリイミド樹脂が求められていた。
本発明の課題は、耐熱性と伸びを両立し、更に無色透明性にも優れるポリイミド樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の構成単位の組み合わせを含むポリイミド樹脂が上記課題を解決できることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の[1]~[8]に関する。
[1]テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位Aと、ジアミンに由来する構成単位Bとを含むポリイミド樹脂であって、構成単位Aが下記式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)を含み、構成単位Bが下記式(b1)で表される化合物に由来する構成単位(B1)を含む、ポリイミド樹脂。
【0008】
【0009】
[2]構成単位Aが、更に構成単位(A2)を含み、構成単位(A2)が、下記式(a21)で表される化合物に由来する構成単位(A21)、下記式(a22)で表される化合物に由来する構成単位(A22)、及び下記式(a23)で表される化合物に由来する構成単位(A23)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、上記[1]に記載のポリイミド樹脂。
【0010】
【0011】
[3]構成単位Bが、更に構成単位(B2)を含み、構成単位(B2)が、下記式(b21)で表される化合物に由来する構成単位(B21)、下記式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、上記[1]又は[2]に記載のポリイミド樹脂。
【0012】
【化3】
[4]構成単位Bが、更に構成単位(B2)を含み、構成単位(B2)が、下記式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂。
【化4】
[5]構成単位Aが、更に構成単位(A2)を含み、構成単位(A2)が、下記式(a22)で表される化合物に由来する構成単位(A22)を含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂。
【化5】
【0013】
[6]上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂が有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
[7]上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂を含む、ポリイミドフィルム。
[8]上記[6]に記載のポリイミドワニスをフィルム状に塗布又は成形した後、有機溶媒を除去する、ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリイミド樹脂は、耐熱性と伸びを両立し、更に無色透明性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ポリイミド樹脂]
本発明のポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位Aと、ジアミンに由来する構成単位Bとを含むポリイミド樹脂であって、構成単位Aが下記式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)を含み、構成単位Bが下記式(b1)で表される化合物に由来する構成単位(B1)を含む、ポリイミド樹脂である。
【0016】
【0017】
本発明のポリイミド樹脂が、前記構成単位(A1)と(B1)を含むことによって、耐熱性と伸びを両立でき、更に無色透明性にも優れる理由は定かではないが、ノルボルナン骨格やエーテル結合等による分子鎖の剛直性とランダム性に起因する複合効果であるためと考えられる。
【0018】
<構成単位A>
構成単位Aは、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位であり、式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)を含む。構成単位(A1)によって、耐熱性、伸び、無色透明性が向上するが、なかでも耐熱性と無色透明性が向上する。
【0019】
式(a1)で表される化合物は、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物である。
【0020】
構成単位Aは、構成単位(A1)以外の構成単位を含んでもよい。
構成単位Aは、構成単位(A1)に加えて、更に構成単位(A2)を含むことが好ましい。構成単位(A2)は、下記式(a2)で表される化合物に由来する構成単位である。構成単位(A2)によって、特に伸びが向上し、更に強度等の機械的特性も向上する。
【0021】
【0022】
式(a2)中において、Lは単結合又は二価の連結基である。前記二価の連結基は、好ましくは置換又は無置換のアルキレン基であり、より好ましくは-CR1R2-(ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換アルキル基であるか、あるいは、R1及びR2は互いに結合して環を形成する。)である。
Lは、単結合、下記式(L1)で表される基及び下記式(L2)で表される基からなる群より選ばれる1つであることが好ましい。なお下記式(L1)及び下記式(L2)において、*は芳香族環との結合部位を示す。
【0023】
【0024】
構成単位(A2)は、下記式(a21)で表される化合物に由来する構成単位(A21)、下記式(a22)で表される化合物に由来する構成単位(A22)、及び下記式(a23)で表される化合物に由来する構成単位(A23)からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、下記式(a21)で表される化合物に由来する構成単位(A21)、及び下記式(a22)で表される化合物に由来する構成単位(A22)からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、伸びを向上させる観点から、下記式(a21)で表される化合物に由来する構成単位(A21)であることがより好ましく、耐熱性の観点から、下記式(a22)で表される化合物に由来する構成単位(A22)であることがより好ましい。
すなわち、構成単位Aは、更に構成単位(A2)を含み、構成単位(A2)が、下記式(a21)で表される化合物に由来する構成単位(A21)を含むことがより好ましく、構成単位Aは、更に構成単位(A2)を含み、構成単位(A2)が、下記式(a22)で表される化合物に由来する構成単位(A22)を含むことがより好ましい。
【0025】
【0026】
式(a21)で表される化合物は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)であり、その具体例としては、下記式(a21s)で表される3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、下記式(a21a)で表される2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、下記式(a21i)で表される2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i-BPDA)が挙げられる。
【0027】
【0028】
式(a22)で表される化合物は、9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物である。
式(a23)で表される化合物は、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物である。
【0029】
構成単位A中における構成単位(A1)の含有比率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは55モル%以上であり、更に好ましくは60モル%以上であり、より更に好ましくは80モル%以上であり、より更に好ましくは90モル%以上であり、より更に好ましくは95モル%以上である。構成単位(A1)の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Aは構成単位(A1)のみからなっていてもよい。構成単位A中に構成単位(A1)を前記の含有比率で含むことによって、特に無色透明性と耐熱性に優れる。
【0030】
構成単位Aが構成単位(A2)を含む場合、構成単位A中における構成単位(A2)の比率は、好ましくは5~50モル%であり、より好ましくは10~40モル%であり、更に好ましくは15~35モル%である。
構成単位Aが構成単位(A2)を含む場合、構成単位(A1)と構成単位(A2)のモル比[(A1)/(A2)]は、好ましくは50/50~95/5であり、より好ましくは60/40~90/10であり、更に好ましくは65/35~85/15である。構成単位A中に構成単位(A2)を前記の含有比率で含むことによって、特に伸びや強度等の機械的特性に優れる。
【0031】
構成単位Aは、構成単位(A1)及び(A2)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を形成するテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物(ただし、式(a2)で表される化合物を除く);1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物及び1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物(ただし、式(a1)で表される化合物を除く);並びに1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環を1つ以上含むテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂環式テトラカルボン酸二無水物とは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環も脂環も含まないテトラカルボン酸二無水物を意味する。
構成単位Aに任意に含まれる構成単位(A1)以外の構成単位は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0032】
<構成単位B>
構成単位Bは、ジアミンに由来する構成単位であり、式(b1)で表される化合物に由来する構成単位(B1)を含む。構成単位(B1)によって、耐熱性、伸び、無色透明性が向上するが、なかでも伸びが向上し、更に無色性も向上する。
【0033】
式(b1)で表される化合物は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(6FODA)である。
【0034】
構成単位Bは、構成単位(B1)以外の構成単位を含んでもよい。
構成単位Bは、構成単位(B1)に加えて、更に構成単位(B2)を含むことが好ましい。構成単位(B2)は、下記式(b21)で表される化合物に由来する構成単位(B21)、下記式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。構成単位(B2)によって、特に耐熱性が向上し、更に弾性率も向上する。
構成単位(B2)は、透明性、熱に対する寸法安定性、及び弾性率を向上させる観点から、式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)であることが好ましい。すなわち、構成単位Bが、更に構成単位(B2)を含み、構成単位(B2)が、下記式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)を含むことが好ましい。
また、構成単位(B2)は、式(b21)で表される化合物に由来する構成単位(B21)であることも好ましく、構成単位(B21)によって、特に耐熱性、弾性率が向上する。
【0035】
【0036】
式(b21)で表される化合物は、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンである。
式(b22)で表される化合物は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンである。
【0037】
構成単位B中における構成単位(B1)の含有比率は、好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは20モル%以上であり、更に好ましくは30モル%以上であり、より更に好ましくは50モル%以上であり、より更に好ましくは60モル%以上であり、より更に好ましくは80モル%以上である。構成単位(B1)の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Bは構成単位(B1)のみからなっていてもよい。構成単位B中に構成単位(B1)を前記の含有比率で含むことによって、特に伸びが向上し、更に無色性も向上する。
【0038】
構成単位Bが構成単位(B2)を含む場合、構成単位B中における構成単位(B2)の比率は、好ましくは1~90モル%であり、より好ましくは1~80モル%であり、更に好ましくは2~70モル%であり、より更に好ましくは3~50モル%であり、より更に好ましくは4~40モル%であり、より更に好ましくは5~20モル%である。
構成単位Bが構成単位(B2)を含む場合、特に無色性と伸び、透明性の観点から、構成単位(B1)と構成単位(B2)のモル比[(B1)/(B2)]は、好ましくは10/90~99/1であり、より好ましくは20/80~99/1であり、更に好ましくは30/70~98/2であり、より更に好ましくは50/50~97/3であり、より更に好ましくは60/40~96/4であり、より更に好ましくは80/20~95/5である。
また、弾性率等の機械的特性、耐熱性、及び熱に対する寸法安定性等の熱的特性を向上させる観点からは、構成単位(B1)と構成単位(B2)のモル比[(B1)/(B2)]は、好ましくは10/90~60/40であり、より好ましくは10/90~50/50であり、更に好ましくは10/90~40/60であり、より更に好ましくは10/90~30/70であり、より更に好ましくは10/90~20/80であり、より更に好ましくは10/90~15/85である。
【0039】
構成単位Bが構成単位(B2)を含み、構成単位(B2)が構成単位(B22)を含む場合、特に無色性と伸び、透明性の観点から、構成単位(B1)と構成単位(B22)のモル比[(B1)/(B22)]は、好ましくは10/90~99/1であり、より好ましくは20/80~99/1であり、更に好ましくは30/70~98/2であり、より更に好ましくは50/50~97/3であり、より更に好ましくは60/40~96/4であり、より更に好ましくは80/20~95/5である。
また、弾性率等の機械的特性、耐熱性、及び熱に対する寸法安定性等の熱的特性を向上させる観点からは、構成単位(B1)と構成単位(B22)のモル比[(B1)/(B22)]は、好ましくは10/90~60/40であり、より好ましくは10/90~50/50であり、更に好ましくは10/90~40/60であり、より更に好ましくは10/90~30/70であり、より更に好ましくは10/90~20/80であり、より更に好ましくは10/90~15/85である。
【0040】
構成単位Bは構成単位(B1)及び(B2)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を形成するジアミンとしては、特に限定されないが、1,4-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、1-(4-アミノフェニル)-2,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-1H-インデン-5-アミン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、及び2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミン(ただし、式(b1)で表される化合物、式(b21)で表される化合物及び式(b22)で表される化合物を除く);1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジアミン;並びにエチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族ジアミンとは芳香環を1つ以上含むジアミンを意味し、脂環式ジアミンとは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないジアミンを意味し、脂肪族ジアミンとは芳香環も脂環も含まないジアミンを意味する。
構成単位Bに任意に含まれる構成単位(B1)以外の構成単位は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0041】
<ポリイミド樹脂の特性>
本発明のポリイミド樹脂の数平均分子量は、得られるポリイミドフィルムの機械的強度の観点から、好ましくは5,000~200,000である。なお、ポリイミド樹脂の数平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。
【0042】
本発明のポリイミド樹脂は、耐熱性と伸びを両立し、更に無色透明性にも優れるものであり、以下のような物性値を有することができる。
【0043】
本発明のポリイミド樹脂は、厚さ10μmのポリイミドフィルムとした際に全光線透過率が、好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上であり、更に好ましくは90%以上であり、より更に好ましくは91%以上である。
【0044】
本発明のポリイミド樹脂は、厚さ10μmのポリイミドフィルムとした際にイエローインデックス(YI)が、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3.0以下であり、更に好ましくは2.0以下である。
【0045】
本発明のポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは350℃以上であり、より好ましくは380℃以上であり、更に好ましくは400℃以上であり、より更に好ましくは430℃以上である。
なお、本発明における全光線透過率、イエローインデックス(YI)及びガラス転移温度(Tg)は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0046】
[ポリイミド樹脂の製造方法]
本発明のポリイミド樹脂は、上述の構成単位(A1)を与える化合物を含有するテトラカルボン酸成分と、上述の構成単位(B1)を与える化合物を含むジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。
【0047】
構成単位(A1)を与える化合物としては、式(a1)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を形成できる範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a1)で表される化合物に対応するテトラカルボン酸(即ち、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸)、及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A1)を与える化合物としては、式(a1)で表される化合物(即ち、テトラカルボン酸二無水物)が好ましい。
【0048】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A1)を与える化合物以外の化合物を含んでもよい。テトラカルボン酸成分は、構成単位(A1)を与える化合物に加えて、更に構成単位(A2)を与える化合物を含むことが好ましい。
構成単位(A2)を与える化合物としては、式(a2)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を形成できる範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a2)で表される化合物に対応するテトラカルボン酸及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A2)を与える化合物としては、式(a2)で表される化合物(即ち、テトラカルボン酸二無水物)が好ましい。
構成単位(A2)を与える化合物は、式(a21)で表される構成単位(A21)を与える化合物、式(a22)で表される構成単位(A22)を与える化合物、及び式(a23)で表される構成単位(A23)を与える化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、構成単位(A21)を与える化合物、及び構成単位(A22)を与える化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、伸びを向上させる観点から、構成単位(A21)を与える化合物であることがより好ましく、耐熱性の観点から、構成単位(A22)を与える化合物であることがより好ましい。
【0049】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A1)を与える化合物を、好ましくは50モル%以上含み、より好ましくは55モル%以上含み、更に好ましくは60モル%以上含み、より更に好ましくは80モル%以上含み、より更に好ましくは90モル%以上含み、より更に好ましくは95モル%以上含む。構成単位(A1)を与える化合物の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。テトラカルボン酸成分は構成単位(A1)を与える化合物のみからなっていてもよい。
【0050】
テトラカルボン酸成分が構成単位(A2)を与える化合物を含む場合、テトラカルボン酸成分は、構成単位(A2)を与える化合物を、好ましくは5~50モル%含み、より好ましくは10~40モル%含み、更に好ましくは15~35モル%含む。
テトラカルボン酸成分が構成単位(A2)を与える化合物を含む場合、構成単位(A1)を与える化合物と構成単位(A2)を与える化合物のモル比[(A1)/(A2)]は、好ましくは50/50~95/5であり、より好ましくは60/40~90/10であり、更に好ましくは65/35~85/15である。
【0051】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A1)を与える化合物及び構成単位(A2)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物、並びにそれらの誘導体(テトラカルボン酸、テトラカルボン酸のアルキルエステル等)が挙げられる。
テトラカルボン酸成分に任意に含まれる化合物(即ち、構成単位(A1)を与える化合物以外の化合物)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0052】
構成単位(B1)を与える化合物としては、式(b1)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を形成できる範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(b1)で表される化合物に対応するジイソシアネートが挙げられる。構成単位(B1)を与える化合物としては、式(b1)で表される化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0053】
ジアミン成分は、構成単位(B1)を与える化合物以外の化合物を含んでもよい。ジアミン成分は、構成単位(B1)を与える化合物に加えて、更に構成単位(B2)を与える化合物を含むことが好ましい。
構成単位(B2)を与える化合物は、透明性、熱に対する寸法安定性、及び弾性率を向上させる観点から、式(b22)で表される構成単位(B22)を与える化合物であることが好ましく、耐熱性、及び弾性率を向上させる観点から、構成単位(B2)は、式(b21)で表される構成単位(B21)を与える化合物であることが好ましい。
構成単位(B2)を与える化合物としては、式(b21)で表される化合物及び式(b22)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を形成できる範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(b21)で表される化合物に対応するジイソシアネート及び式(b22)で表される化合物に対応するジイソシアネートが挙げられる。構成単位(B2)を与える化合物としては、式(b21)で表される化合物及び式(b22)で表される化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0054】
ジアミン成分は、構成単位(B1)を与える化合物を、好ましくは10モル%以上含み、より好ましくは20モル%以上含み、更に好ましくは30モル%以上含み、より更に好ましくは50モル%以上含み、より更に好ましくは60モル%以上含み、より更に好ましくは80モル%以上含む。構成単位(B1)を与える化合物の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。ジアミン成分は構成単位(B1)を与える化合物のみからなっていてもよい。
【0055】
ジアミン成分が構成単位(B2)を与える化合物を含む場合、ジアミン成分は、構成単位(B2)を与える化合物を、好ましくは1~90モル%含み、より好ましくは1~80モル%含み、更に好ましくは2~70モル%含み、より更に好ましくは3~50モル%含み、より更に好ましくは4~40モル%含み、より更に好ましくは5~20モル%含む。
ジアミン成分が構成単位(B2)を与える化合物を含む場合、特に無色性と伸び、透明性の観点から、構成単位(B1)を与える化合物と構成単位(B2)を与える化合物のモル比[(B1)/(B2)]は、好ましくは10/90~99/1であり、より好ましくは20/80~99/1であり、更に好ましくは30/70~98/2であり、より更に好ましくは50/50~97/3であり、より更に好ましくは60/40~96/4であり、より更に好ましくは80/20~95/5である。
また、弾性率等の機械的特性、耐熱性、及び熱に対する寸法安定性等の熱的特性を向上させる観点からは、構成単位(B1)を与える化合物と構成単位(B2)を与える化合物のモル比[(B1)/(B2)]は、好ましくは10/90~60/40であり、より好ましくは10/90~50/50であり、更に好ましくは10/90~40/60であり、より更に好ましくは10/90~30/70であり、より更に好ましくは10/90~20/80であり、より更に好ましくは10/90~15/85である。
【0056】
ジアミン成分が構成単位(B2)を与える化合物を含み、構成単位(B2)を与える化合物が構成単位(B22)を与える化合物を含む場合、特に無色性と伸び、透明性の観点から、構成単位(B1)を与える化合物と構成単位(B22)を与える化合物のモル比[(B1)/(B22)]は、好ましくは10/90~99/1であり、より好ましくは20/80~99/1であり、更に好ましくは30/70~98/2であり、より更に好ましくは50/50~97/3であり、より更に好ましくは60/40~96/4であり、より更に好ましくは80/20~95/5である。
また、弾性率等の機械的特性、耐熱性、及び熱に対する寸法安定性等の熱的特性を向上させる観点からは、構成単位(B1)を与える化合物と構成単位(B22)を与える化合物のモル比[(B1)/(B22)]は、好ましくは10/90~60/40であり、より好ましくは10/90~50/50であり、更に好ましくは10/90~40/60であり、より更に好ましくは10/90~30/70であり、より更に好ましくは10/90~20/80であり、より更に好ましくは10/90~15/85である。
【0057】
ジアミン成分は構成単位(B1)を与える化合物及び構成単位(B2)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、及び脂肪族ジアミン、並びにそれらの誘導体(ジイソシアネート等)が挙げられる。
ジアミン成分に任意に含まれる化合物(即ち、構成単位(B1)を与える化合物以外の化合物)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0058】
本発明において、ポリイミド樹脂の製造に用いるテトラカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0059】
また、本発明において、ポリイミド樹脂の製造には、前述のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分の他に、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤としてはモノアミン類あるいはジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、テトラカルボン酸成分1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、特に0.001~0.06モルが好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、3-エチルベンジルアミン、アニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン等が推奨される。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好適に使用できる。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が推奨される。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好適に使用できる。
【0060】
前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させる方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
具体的な反応方法としては、(1)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、0~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(2)ジアミン成分及び反応溶剤を反応器に仕込んで溶解させた後、テトラカルボン酸成分を仕込み、必要に応じて0~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(3)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、直ちに昇温してイミド化反応を行う方法等が挙げられる。
【0061】
ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤は、イミド化反応を阻害せず、生成するポリイミドを溶解できるものであればよい。例えば、非プロトン性溶剤、フェノール系溶剤、エーテル系溶剤、カーボネート系溶剤等が挙げられる。
【0062】
非プロトン性溶剤の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶剤、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶剤、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含リン系アミド系溶剤、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ピコリン、ピリジン等のアミン系溶剤、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶剤等が挙げられる。
【0063】
フェノール系溶剤の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
エーテル系溶剤の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2-(2-メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
また、カーボネート系溶剤の具体的な例としては、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
上記反応溶剤の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶剤が好ましい。また、上記の反応溶剤は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0064】
イミド化反応では、ディーンスターク装置などを用いて、製造時に生成する水を除去しながら反応を行うことが好ましい。このような操作を行うことで、重合度及びイミド化率をより上昇させることができる。
【0065】
上記のイミド化反応においては、公知のイミド化触媒を用いることができる。イミド化触媒としては、塩基触媒又は酸触媒が挙げられる。
塩基触媒としては、ピリジン、キノリン、イソキノリン、α-ピコリン、β-ピコリン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、イミダゾール、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の有機塩基触媒、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基触媒が挙げられる。
また、酸触媒としては、クロトン酸、アクリル酸、トランス-3-ヘキセノイック酸、桂皮酸、安息香酸、メチル安息香酸、オキシ安息香酸、テレフタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。上記のイミド化触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、取り扱い性の観点から、塩基触媒を用いることが好ましく、有機塩基触媒を用いることがより好ましく、トリエチルアミンを用いることが更に好ましく、トリエチルアミンとトリエチレンジアミンを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0066】
イミド化反応の温度は、反応率及びゲル化等の抑制の観点から、好ましくは120~250℃、より好ましくは160~200℃である。また、反応時間は、生成水の留出開始後、好ましくは0.5~10時間である。
【0067】
[ポリイミドワニス]
本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂が有機溶媒に溶解してなるものである。即ち、本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂及び有機溶媒を含み、当該ポリイミド樹脂は当該有機溶媒に溶解している。
有機溶媒はポリイミド樹脂が溶解するものであればよく、特に限定されないが、ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤として上述した化合物を、単独又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
本発明のポリイミド樹脂は溶媒溶解性を有しているため、室温で安定な高濃度のワニスとすることができる。本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂を3~40質量%含むことが好ましく、5~30質量%含むことがより好ましい。ポリイミドワニスの粘度は0.1~200Pa・sが好ましく、0.5~150Pa・sがより好ましい。
また、本発明のポリイミドワニスは、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
本発明のポリイミドワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0068】
[ポリイミドフィルム及びポリイミドフィルムの製造方法]
本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミド樹脂を含む。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、耐熱性と伸びのいずれもが良好であり、更に無色透明性にも優れる。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法(作製方法)には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のポリイミドワニスをフィルム状に塗布又は成形した後、有機溶媒を除去する方法等が挙げられ、目的とする厚さの平滑なフィルムを得る観点から、本発明のポリイミドワニスをフィルム状に塗布又は成形した後、有機溶媒を除去する方法が好ましい。
【0069】
本発明のポリイミドフィルムは、耐熱性と伸びのいずれもが良好であり、更に無色透明性にも優れるものであるため、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ、半導体部品、光学部材等の各種部材用のフィルムとして好適に用いられる。本発明のポリイミドフィルムは、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置の基板として、特に好適に用いられる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
実施例及び比較例で得たワニスの固形分濃度及びポリイミドフィルムの各物性は以下に示す方法によって測定した。結果は表1に示す。
【0071】
(1)固形分濃度
ワニスの固形分濃度の測定は、アズワン株式会社製の小型電気炉「MMF-1」で試料を320℃×120minで加熱し、加熱前後の試料の質量差から算出した。
(2)フィルム厚さ
フィルム厚さは、株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定した。
(3)全光線透過率、イエローインデックス(YI)
測定はJIS K7361-1準拠し、日本電色工業株式会社製の色彩・濁度同時測定器「COH400」を用いて行った。
(4)ヘイズ(Haze)
測定はJIS K7361-1に準拠し、日本電色工業株式会社製の色彩・濁度同時測定器「COH7700」を用いて行った。
(5)ガラス転移温度(Tg)
株式会社日立ハイテクサイエンス製の熱機械的分析装置「TMA/SS6100」を用いて、引張モードで試料サイズ2mm×20mm、荷重0.1N、昇温速度10℃/minの条件でTg以上まで昇温して残留応力を取り除き、その後同条件で50℃から500℃までTMA測定を行い、Tgを求めた。
(6)線熱膨張係数(CTE)
株式会社日立ハイテクサイエンス製の熱機械的分析装置「TMA/SS6100」を用いて、引張モードで試料サイズ2mm×20mm、荷重0.1N、昇温速度10℃/minの条件でTMA測定を行い、100~350℃のCTEを求めた。
(7)1%重量減少温度(Td1%)
株式会社日立ハイテクサイエンス製の示差熱熱重量同時測定装置「TG/DTA6200」を用いた。試料を昇温速度10℃/minで40~550℃まで昇温し、300℃における重量と比較して、重量が1%減少した時の温度を1%重量減少温度とした。重量減少温度は数値が大きいほど優れる。
(8)弾性率及び強度
弾性率及び強度は、JIS K7127に準拠した引張弾性率及び引張強度であり、東洋精機株式会社製の引張試験機「ストログラフVG-1E」を用いて測定した。
(9)伸び
伸びは、JIS K7127に準拠した引張試験(伸び率の測定)によって行った。試験片は幅10mm、厚さ10~60μmのものを用いた。
【0072】
実施例及び比較例にて使用したテトラカルボン酸成分及びジアミン成分、並びにその略号等は下記の通りである。
<テトラカルボン酸成分>
CpODA:ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物(JXエネルギー株式会社製;式(a1)で表される化合物)
s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(式(a21s)で表される化合物)
BPAF::9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物(JFEケミカル株式会社製;式(a22)で表される化合物)
TAHQ:p-フェニレンビス(トリメリテート)二無水物(マナック株式会社製)
<ジアミン成分>
6FODA:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ChinaTech (Tianjin) Chemical Co., Ltd.製、式(b1)で表される化合物)
BAFL:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製;式(b21)で表される化合物)
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(和歌山精化工業株式会社製;式(b22)で表される化合物)
【0073】
実施例及び比較例において使用した、溶媒及びイミド化触媒の略号等は下記の通りである。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン(三菱ケミカル株式会社製)
GBL:γ―ブチロラクトン(三菱ケミカル株式会社製)
TEDA:トリエチレンジアミン
TEA:トリエチルアミン
【0074】
<実施例1>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた500mLの5つ口丸底フラスコに、6FODAを33.624g(0.100モル)とGBLを86.474g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、CpODAを38.438g(0.100モル)と、GBLを21.619gとを一括で添加した後、イミド化触媒とTEAを0.506g、TEDAを0.056g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、固形分濃度15質量%となるようにGBLを279.836g添加して、反応系内温度を100℃まで冷却した後、更に約1時間撹拌して均一化して、ポリイミドワニスを得た。
続いてガラス板上へ、得られたポリイミドワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、窒素雰囲気下、熱風乾燥機中400℃で30分加熱し(昇温速度5℃/min)、溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。
【0075】
<実施例2>
CpODAの量を38.438g(0.100モル)から30.750g(0.080モル)に変更し、s-BPDAを5.884g(0.020モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度15質量%のポリイミドワニスを得た。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。
【0076】
<実施例3>
6FODAの量を33.624g(0.100モル)から3.362g(0.010モル)に変更し、TFMBを28.822g(0.090モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度15質量%のポリイミドワニスを得た。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。
【0077】
<実施例4>
6FODAの量を33.624g(0.100モル)から6.725g(0.020モル)に変更し、TFMBを25.619g(0.080モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度15質量%のポリイミドワニスを得た。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。
【0078】
<実施例5>
6FODAの量を33.624g(0.100モル)から16.812g(0.050モル)に変更し、TFMBを16.012g(0.050モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度15質量%のポリイミドワニスを得た。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。
【0079】
<実施例6>
6FODAの量を33.624g(0.100モル)から20.174g(0.060モル)に変更してBAFLを13.938g(0.040モル)追加し、CpODAの量を38.438g(0.100モル)から23.063g(0.060モル)に変更してs-BPDAを11.769g(0.040モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度15質量%のポリイミドワニスを得た。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。
【0080】
<実施例7>
6FODAの量を33.624g(0.100モル)から18.493g(0.055モル)に変更してBAFLを15.680g(0.045モル)追加し、CpODAの量を38.438g(0.100モル)から34.594g(0.090モル)に変更してBPAFを4.584g(0.010モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度15質量%のポリイミドワニスを得た。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。
【0081】
<比較例1>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた500mLの5つ口丸底フラスコに、TFMBを32.024g(0.100モル)とGBLを84.554g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、CpODAを38.438g(0.100モル)と、GBLを21.139gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてTEAを0.506g、TEDAを0.056g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、固形分濃度15質量%となるようにGBLを273.169g添加して、反応系内温度を100℃まで冷却した後、更に約1時間撹拌して均一化し、濁った(曇り(ヘイズ)のある)ポリイミドワニスを得た。24時間後、ゲル化してワニスの流動性はなくなっており、製膜は困難であり、フィルムは得られなかった。
【0082】
<比較例2>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた500mLの5つ口丸底フラスコに、6FODAを33.624g(0.100モル)と、NMPを201.747gとを投入し、系内温度50℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、s-BPDAを29.422g(0.100モル)と、NMPを50.437gとを一括で投入し、マントルヒーターで50℃に保持したまま5時間撹拌した。
その後、NMPを105.077g添加し均一化した後、室温に戻し固形分濃度15質量%のポリアミド酸ワニスを得た。
続いてガラス板上へ、得られたポリアミド酸ワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、窒素雰囲気下、熱風乾燥機中400℃で30分加熱し(昇温速度5℃/min)、溶媒を蒸発させ、さらに熱イミド化させポリイミドフィルムを得た。
【0083】
<比較例3>
CpODA 38.438g(0.100モル)をTAHQ 45.833g(0.100モル)に変更した以外は、比較例2と同様の方法によりポリアミド酸ワニスを作製し、固形分濃度15質量%のポリアミド酸ワニスを得た。
得られたポリアミド酸ワニスを用いて、比較例2と同様の方法によりポリイミドフィルムを得た。
【0084】
【0085】
表1に示すように、実施例のポリイミドフィルムは、耐熱性と伸びのいずれもが良好であり、更に無色透明性にも優れていることがわかる。