(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】光学ユニット、光学装置、及び画像表示システム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/13 20060101AFI20250311BHJP
G02B 25/00 20060101ALI20250311BHJP
G02B 13/18 20060101ALN20250311BHJP
【FI】
A61B3/13
G02B25/00
G02B13/18
(21)【出願番号】P 2023074887
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2020558737の分割
【原出願日】2018-12-05
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水田 正宏
(72)【発明者】
【氏名】左高 良一
(72)【発明者】
【氏名】川崎 智裕
【審査官】渡▲辺▼ 純也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-087173(JP,A)
【文献】特開2006-284877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 ~ 3/18
G02B 25/00
G02B 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表示画像が設定される位置に光の入射側の焦点を有し、焦点面からの光を平行光として射出する光学系と、
前記光学系を収容する収容部と、を備え、
前記表示画像を目視可能な目視可能領域は、前記光学系に含まれるレンズの有効径と、最大画角の主光線と前記光学系の光軸との成す角度とに基づいて導出され、
前記光学系における最大画角の主光線と前記光学系の光軸との成す角度をωとした場合、
15度≦ω≦50度
で示される条件式を満たすように前記目視可能領域を形成し、
前記表示画像を目視可能な目視可能領域をIBとした場合、
185000≧IB≧7570mm
3
で示される条件式を満たし、
前記光学系は、第1レンズと第2レンズとを有し、前記第1レンズのうち前記光学系に光が入射される最初の面である第1面を光の入射側に凸面を向けた第1屈折面で形成し、かつ前記第2レンズのうち前記光が射出される最後の面である第2面を光の射出側に凸面を向けた第2屈折面で形成し、
前記第1屈折面の端部から、前記第2屈折面の端部までの距離をd1とし、前記表示画像の位置から前記第2屈折面の端部までの距離をd2とした場合、
1>d1/d2>0.5
で示される条件式を満たすように構成し、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションの少なくとも1つの軸外光の収差を補正する
光学ユニット。
【請求項2】
前記光学系は、前記光の射出側の位置に瞳を形成する
請求項1に記載の光学ユニット。
【請求項3】
前記目視可能領域は、前記光学系に含まれるレンズの有効径と、最大画角の主光線と前記光学系の光軸との成す角度とに基づいて導出される
請求項1又は請求項2に記載の光学ユニット。
【請求項4】
前記光学系における最大画角の主光線と前記光学系の光軸との成す角度をωとした場合、
ω≦50度
で示される条件式を満たすように前記目視可能領域を形成する
請求項3に記載の光学ユニット。
【請求項5】
前記光学系は、前記表示画像の光が入射される前記第1レンズの有効径をφとし、前記表示画像の距離をDとし、前記表示画像の位置から前記第1レンズまでの距離をd3とし、前記表示画像の位置から前記光学系の入射瞳の位置までの距離をPinとするとき、
1/2<D・(1-d3/Pin)/φ<1
で示される条件式を満たすように構成した
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の光学ユニット。
【請求項6】
前記光学系の焦点距離をf、最大画角の主光線と前記光学系の光軸との成す角度をω、前記表示画像の距離をD
、とするとき、
f≦(D/2)/sinω
で示される条件式を満たすように焦点距離を25mm以上で、かつ100mm以下に形成した請求項1から請求項5の何れか1項に記載の光学ユニット。
【請求項7】
前記光学系は、1つのダブレットレンズを含む
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の光学ユニット。
【請求項8】
前記対象物の表示画像を表示する表示装置を着脱可能に形成した取付部を備える
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の光学ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学ユニット、光学装置、及び画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科における眼の診断及び眼への外科的処置を目的として対象者の眼(以下、被検眼という。)の観察を可能とする眼科装置が各種実現されている。眼科装置の一例として、被検眼に対して顕微鏡を自在に移動可能に構成し、観察者による被検眼の観察における自由度を向上させた手術用顕微鏡が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の第1の態様は、
対象物の表示画像が設定される位置に光の入射側の焦点を有し、焦点面からの光を平行光として射出する光学系と、
前記光学系を収容する収容部と、を備え、
前記表示画像を目視可能な目視可能領域をIBとした場合、
IB≧7570mm3
で示される条件式を満たすように構成した光学ユニットである。
【0005】
本開示の第2の態様は、
対象物の表示画像が設定される位置に光の入射側の焦点を有し、焦点面からの光を平行光として射出する光学系を備え、
前記光学系は、第1レンズと第2レンズとを含むレンズ群を備え、
前記入射側に配置された前記第1レンズの端部から前記光の射出側に配置された前記第2レンズの端部までの距離をd1とし、前記表示画像が設定される位置から前記光の射出側の前記第2レンズの端部までの距離をd2とした場合、
d1/d2>0.5
で示される条件式を満たすように構成した光学ユニットである。
【0006】
本開示の第3の態様は、
対象物の表示画像が設定される位置に光の入射側の焦点を有し、焦点面からの光を平行光として射出する光学系を備え、
前記光学系は、第1レンズと第2レンズとを含むレンズ群を備え、
前記光学系は、前記表示画像の光による最大画角の主光線が入射される前記第1レンズの有効径の1/2より大きい径の位置を通過するように構成した光学ユニットである。
【0007】
本開示の第4の態様は、
複数の前記光学ユニット
を備える光学装置である。
【0008】
本開示の第5の態様は、
対象物の表示画像として左眼用表示画像が設定される位置に光の入射側の焦点を有し、焦点面からの光を平行光として射出し、前記左眼用表示画像を目視可能な左眼用目視可能領域を形成する左側光学系と、
前記左眼用表示画像と異なる右眼用表示画像が設定される位置に光の入射側の焦点を有し、焦点面からの光を平行光として射出し、前記右眼用表示画像を目視可能な右眼用目視可能領域を形成する右側光学系と、
前記左側光学系及び前記右側光学系を収容する収容部と、
を備え、
前記左側光学系及び前記右側光学系の少なくとも一方の光学系において、光の入射側のレンズ面の端部から射出側のレンズ面の端部までの距離をd1とし、前記表示画像の位置から前記光の射出側のレンズ面の端部までの距離をd2とした場合、
d1/d2>0.5
で示される条件式を満たすように構成する
光学装置である。
【0009】
本開示の第6の態様は、
前記光学装置と、
前記対象物を撮影する撮影部と、
前記撮影部が配置されるアーム部と、
を備える画像表示システムである。
【0010】
本開示の第7の態様は、
対象物を撮影する撮影部と、
各々前記光学装置である複数の光学装置と、
前記複数の光学装置の各々を独立して移動可能に設置する設置部と、
を備える画像表示システムである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る眼科システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る画像表示装置の構成の一例を示すイメージ図である。
【
図3】実施形態に係る眼科システムの光学ユニットにおける観察者側のレンズと、観察者の眼との関係の一例を示すイメージ図である。
【
図4】実施形態に係る眼科システムの光学ユニットにおけるレンズと、半画角に依存するアイボックス領域の関係の一例を示すイメージ図である。
【
図5】実施形態に係る眼科システムで観察者が表示部を両眼視した場合の表示部と光学ユニットとの関係を示す模式図である。
【
図9A】実施形態に係る光学ユニットの構成の模式図である。
【
図10】光学ユニットのレンズ例1を示すイメージ図である。
【
図11】光学ユニットのレンズ例2を示すイメージ図である。
【
図12】光学ユニットのレンズ例3を示すイメージ図である。
【
図13】光学ユニットのレンズ例4を示すイメージ図である。
【
図14】光学ユニットのレンズ例5を示すイメージ図である。
【
図15】光学ユニットのレンズ例6を示すイメージ図である。
【
図16】光学ユニットのレンズ例7を示すイメージ図である。
【
図17】光学ユニットのレンズ例8を示すイメージ図である。
【
図18】光学ユニットのレンズ例9を示すイメージ図である。
【
図19】実施形態に係る眼科システムに含まれる表示装置における射出瞳の一例を示すイメージ図である。
【
図20】光学ユニットの構成の一例を示すイメージ図である。
【
図21】実施形態に係る抑制部材の一例を示すイメージ図である。
【
図22】実施形態に係る抑制部材の他例を示すイメージ図である。
【
図23】実施形態に係る眼科システムにおける画像表示装置の変形例を示す概念図である。
【
図24】実施形態に係る眼科システムの一例を示すイメージ図である。
【
図25】実施形態に係る眼科システムの一例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示の技術を実施するための実施形態の一例を説明する。
本開示は、画像を表示する装置であれば適用可能であり、また、画像を表示する装置を備えたシステム(例えば、画像表示システム)にも適用可能である。本実施形態では、以下の説明を簡単にするため、眼科における眼の診断(又は検査)及び眼への外科的処置(例えば、眼科手術)を目的として患者等の眼(被検眼)及び被検眼周辺を医師等の観察者が観察する眼科システムに本開示を適用した場合を説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張され、実際の比率とは異なる場合がある。なお、本実施形態では、患者等の眼が対象物の一例である。
【0013】
本開示に係る画像表示システムは、眼科装置に適用した眼科システムに限定されるものではない。すなわち、眼科用に被検眼及び被検眼周辺を撮影する撮影装置による撮影画像を表示する画像表示装置に限定されず、眼科用に限定されない対象物を撮影して、撮影した画像を表示する画像表示装置(例えば、検査又は手術に用いる医療用画像表示装置)、及び画像表示システムに適用可能である。例えば、医学の分野で言えば、医学の何れかの分科(例えば、脳神経外科)に用いられる画像表示装置及び画像表示システムにも適用可能である。そして、本開示に係る画像表示システムは、医学の何れかの分科に用いられる画像表示装置及び画像表示システムにも限定されるものでもなく、画像を表示することが可能な画像表示装置及び画像表示システムへの適用が可能であることは言うまでもない。なお、本明細書では、「眼科」とは、眼に対処する医学の分科をいう。
【0014】
また、本開示に係る画像表示システムで用いる画像(表示画像)は、静止画像であってもよく、また動画像であってもよい。また、本開示に係る画像表示システムで用いる画像は、撮影画像に限定されるものでない。すなわち、撮影装置により撮影した画像を撮影画像として用いることは本開示の一例である。例えば、予め準備した画像を表示する画像表示装置及び画像表示システムに対しても本開示は適用可能である。
【0015】
なお、本開示に係る画像表示システムの一例として説明する眼科システムの適用例としては、患者等の被検眼及び被検眼周辺を医師等の観察者が観察しながら施術する際に用いる手術用画像表示システム(例えば、眼科手術用顕微鏡を含むシステム)が挙げられる。この眼科手術用顕微鏡の適用も、本開示に係る画像表示システムの一例であり、医学の分野で言えば、医学の何れかの分科に用いられる手術用顕微鏡にも適用可能である。そして、本開示に係る画像表示システムは、医学の分野に用いられる手術用顕微鏡にも限定されるものでもなく、対象物を観察するための顕微鏡を含む他の光学装置への適用が可能であることは言うまでもない。
【0016】
図1に、本開示の実施形態に係る眼科システム10の構成の一例を示す。
図1に示すように、眼科システム10は、対象物OBとしての被検眼及び被検眼周辺を撮影する撮影部20と、撮影部20で撮影した撮影画像を観察者OP用に表示する画像表示装置40と、を含む。画像表示装置40は、撮影部20で撮影した撮影画像を表示する液晶又は有機ELディスプレイ等の表示部30と、表示部30で表示された撮影画像を観察者OP用に提供する光学ユニット42とを含む。なお、本実施形態における画像表示装置40は、表示部30と光学ユニット42とを備える光学装置の一例である。
【0017】
画像表示装置40は光学ユニット42に対してディスプレイ等の表示部30が着脱可能に取り付けられる。また、光学ユニット42の光の入射側に一部分に取付機構42Pを備え、取付機構42Pは、表示部を、光学ユニット42に、着脱するための取付部の一例である。光学ユニット42に表示部30が取り付けられることにより画像表示装置40が形成される。本実施形態に係る眼科システム10は、撮影部20と、表示部30を備えた画像表示装置40とが独立して形成されており、撮影部20と、画像表示装置40とは別々に移動可能になっている。
【0018】
本実施形態に係る眼科システム10は、観察者OP(例えば、医師、助手、研究者など)が対象物OBである眼(被検眼)及び被検眼周辺を観察者OPの両眼にて目視(両眼視)する場合を一例として説明する。なお、両眼視の一例に立体視が挙げられる。立体視による眼科システム10は、観察者OPの右眼用に表示する画像の右側光路と、左眼用に表示する画像の左側光路とを独立して形成する。例えば、右側光路と左側光路とは、観察者OPの左右眼及び観察者OPの眼幅方向に対応させて、所定の一方向に沿って離間して配置される。そして、観察者OPから見た場合において、右側光路は右側に配置され、左側光路は左側に配置される。なお、以下の説明では、右眼用と左眼用とを区別して説明する場合には、右眼用の構成要素にR、左眼用の構成要素にLの符号を付し、区別不要の場合には、R、Lの符号を省略する。また、以下の説明では、眼科システム10が水平面に設置された場合に観察者OPの眼幅方向を「Y方向」、水平面に対する垂直方向を「X方向」とし、X方向及びY方向と直交し、対象物OBの画像を観察者OPが目視する際の光が観察者OPに向かう方向を「Z方向」とする。
【0019】
撮影部20は、顕微鏡22、カメラ24、及びカメラコントローラ26を備える。顕微鏡22は、対象物OBである被検眼及び被検眼周辺を観察者OP等に観察させるための光学系を備える。カメラ24は、対象物OBである被検眼及び被検眼周辺の顕微鏡22による像を映像信号に変換する電子機器である。カメラコントローラ26は、映像信号をディスプレイ信号に変換する電子機器である。カメラコントローラ26は、表示部30に接続されており、ディスプレイ信号を表示部30へ出力する。これにより、表示部30にはカメラ24で撮影された画像が撮影画像(表示画像)Imとして形成される。
【0020】
本実施形態では、観察者OPの右眼用に表示する画像及び左眼用に表示する画像の各々を得るために、撮影部20は、右眼用の撮影部20Rと、左眼用の撮影部20Lとを備える。詳細には、右眼用の顕微鏡22R及び左眼用の顕微鏡22Lと、右眼用のカメラ24R及び左眼用のカメラ24Lとを備える。コントローラ26は、右眼用のコントローラ26Rと左眼用のコントローラ26Lとを独立して構成してもよく、単体のコントローラ26で構成してもよい。単体のコントローラ26を用いる場合は、右眼用のカメラ24R及び左眼用のカメラ24Lからの映像信号の各々を画像処理して、画像処理後の右眼用のディスプレイ信号及び左眼用のディスプレイ信号を、後述する右眼用の表示部30R及び左眼用の表示部30Lへ出力するようにすればよい。なお、顕微鏡22は、2つの顕微鏡(22R、22L)を備えることなく、単体の顕微鏡によって立体視用の視差画像(立体画像)を形成する構成にしてもよい。また、立体画像を表示しない場合、顕微鏡22は、対象物OBの2次元画像を表示可能である。本実施形態における撮影部20は、右眼用及び左眼用の各々に同じ構成であるため、個別の説明は省略する。
【0021】
本実施形態に係る眼科システム10における信号授受(例えば、画像データの送受信)は、無線通信でもよく有線通信でもよい。例えば、カメラ24、カメラコントローラ26、及び表示部30の間における通信は、有線通信でもよく、無線通信でもよい。なお、表示部30は、右眼用及び左眼用の各々に同じ構成であるため、個別の説明は省略する。観察者OPは、顕微鏡22を操作して対象物OBである被検眼及び被検眼周辺の観察位置を設定する。
【0022】
画像表示装置40に含まれる光学ユニット42は、本開示の光学ユニットの一例であり、撮影画像Imから入射された光を少なくとも屈折させて射出する対物レンズとして機能する光学系である(詳細は後述)。なお、光学ユニット42は、本開示の光学系の一例であり、対象物の撮影画像(表示画像)Imが設定される位置に光の入射側の焦点を有し、その焦点面(この場合、撮影画像Im、又は撮影画像Imが配置される面)からの光を平行光として射出する。この光学ユニット42は、少なくとも1つのダブレットレンズを含むことができる。画像表示装置40は、図示を省略した台座に取り付けられており、撮影部20から独立して形成され、かつ観察者OPに対して非接触に形成される。画像表示装置40が観察者OPに対して非接触に形成されることによって、画像表示装置40への観察者OPの接触により生じる観察者OPの違和感が抑制される。
【0023】
本実施形態に係る眼科システム10は、撮影部20と、画像表示装置40とが独立して別体で形成され、各々が別々に移動可能になっている。従って、観察者OPが対象物OB(例えば被検眼及び被検眼周辺)を画像表示装置40で目視しながら観察位置変更のために撮影部20を移動した場合であっても、画像表示装置40(例えば、表示部30)は移動しないので、観察者OPは頭部を移動することなく撮影画像Imを目視可能である。このことは、撮影部20に眼科手術用顕微鏡を適用した場合等に有効に作用する。例えば、術野を移動しながら施術する場合に、医者等の観察者OPは、目視する位置を変更することなく、術野を視認しつつ施術に集中できる。また、撮影部20と、画像表示装置40とを独立形成可能とすることで、撮影部20は対象物OBを撮影できればよく、撮影部自体の形状の自由度が増加される。
【0024】
なお、本実施形態に係る眼科システム10は、観察者OPから画像表示装置40を不自然な姿勢による目視を抑制することが可能になる。例えば、観察者OPの身長に拘らず、最適な位置で観察することが可能になる。
また、本実施形態に係る眼科システム10は、対象物OB(例えば被検眼及び被検眼周辺)を、術者と助手との複数の観察者OPが目視する場合に有効に機能する。すなわち、本実施形態に係る眼科システム10として、少なくとも画像表示装置40を複数備え、撮影部20と、複数の画像表示装置40の各々とが独立して別体で形成され、各々別々の観察者OPが各々の画像表示装置40で、対象物OBの同じ撮影画像または各々の撮影画像を目視する場合に有効に機能する。例えば、術者及び助手は、椅子等に座った状態(座位状態)で対象物OBの同じ部位を目視すると考えられるが、対象物OBを目視する部位の特定及び移動は術者が主体となる。ところが、眼科システム10が一体で形成される場合、術者が目視する部位の特定又は移動させる際に顕微鏡等を移動させると、術者の移動に伴って助手も移動する必要がある。例えば、対象物OBの観察中に術者が顕微鏡等を、X方向(対象物OBから離間する方向)に移動させると、予期しない移動により助手は接眼部分に押し当てられるように接触してしまう場合があった。一方、本実施形態に係る眼科システム10は、撮影部20と画像表示装置40とが独立かつ別体で形成されると共に、各々独立移動可能であるため、眼科システム10における予期しない移動を気にすることなく、術者は施術に、助手は観察に専念できる。
【0025】
図24に、本実施形態に係る画像表示装置を備えた眼科システムの構成の一例を示す。
図24に示す例では、眼科システム10として、撮影部20で撮影された対象物OB(例えば被検眼及び被検眼周辺)の表示画像を、座位状態において施術しつつ目視する観察者OP(ここでは、第1ユーザとして術者OP1という。)に対して、ディスプレイである3D表示装置30-1に表示する。3D表示装置30-1は、視差を有して撮影部20で撮影された対象物OBの右眼用の画像(右眼用表示画像)と左眼用の画像(左眼用表示画像)とを用いて、術者OP1へ立体像を提示する表示画像を表示するものである。なお、本開示は、立体表示に限定されるものではなく、撮影部20で撮影された対象物OBの2次元画像をそのまま表示してもよい。また、術者OP1が目視する表示画像と同じ表示画像を、座位状態において目視する他の観察者OP(ここでは、第2ユーザとして助手OP2という。)に対して、画像表示装置40に取り付けられた表示部30に表示する。
【0026】
撮影部20は、ベース部28に取り付けられたアーム部29Aに配置されており、術者OP1の操作により自在に移動可能になっている。3D表示装置30-1は、術者OP1の前方(
図24のY方向)に、位置調整可能に設置される。また、画像表示装置40は、助手OP2の頭部の移動に伴って移動可能にベース部28に取り付けられた設置部29Bに設置されており、助手OP2の操作により上下左右前後の各々の方向に自在に移動可能になっている。これにより、撮影部20と画像表示装置40とは、独立して移動可能である。アーム部29Aは本開示のアーム部の一例であり、設置部29Bは本開示の設置部の一例であり、ベース部28はアーム部29A及び設置部29Bを取り付けるベース部分の一例である。
図24に示す例では、ベース部28にアーム部29A及び設置部29Bを取り付けた一例を示すが、アーム部29A及び設置部29Bは、各々地面等の接地面から独立するように構成してもよい。
【0027】
図24に示す例では、ベース部28には、3D表示装置30-1と異なるディスプレイ30-2、30-3が配置される。ディスプレイ30-2、30-3には、術者OP1が目視する表示画像と同じ表示画像を表示することが可能である。例えば、ディスプレイ30-2には術者OP1へ立体像を提示するための表示画像を2次元画像(例えば、右眼用の画像又は左眼用の画像)に変換して表示したり、3D表示装置30-1に表示される画像の一部を拡大表示したりすることが可能である。また、ディスプレイ30-3には、助手OP2用に立体像を提示するための表示画像を表示することが可能である。また、ディスプレイ30-3には、その他の観察者OP(ここでは、第3ユーザとして見学者OP3という。)に対して、術者OP1又は助手OP2へ提示する表示画像を表示することが可能である。
【0028】
このように構成した眼科システム10は、撮影部20と画像表示装置40とが独立かつ別体で形成されると共に、各々独立移動可能であるため、術者は施術に、助手は観察に専念できる。
【0029】
なお、3D表示装置30-1は、ベース部28を介して設置してもよい。また、
図24に示す例では、術者OP1に3D表示装置30-1により表示画像を表示し、助手OP2に画像表示装置40により表示画像を表示したが、その逆でもよい。
【0030】
また、術者OP1及び助手OP2の位置は、
図24に示す位置に限定しない。例えば対象物OBとして、患者が仰向けの状態における患者の頭部の側面部位から施術する場合(耳側切開)、術者OP1が
図24に示す助手OP2の位置に、助手OP2が
図24に示す術者OP1の位置になるようにしてもよい。この場合、術者OP1は、術者OP1の前方(
図24のZ方向と逆方向)に位置調整される3D表示装置30-1を目視したり、ディスプレイ30-3を目視したりすればよい。一方、助手OP2に画像表示する画像表示装置40は、助手OP2の操作により自在に移動可能であるため、助手OP2が
図24に示す術者OP1の位置で画像を目視可能に助手OP2が画像表示装置40を移動すればよい。
【0031】
さらに、眼科システム10で画像を目視する観察者OPは、術者OP1及び助手OP2の2名に限定されない。例えば、3人以上であってもよい。例えば、術者OP1が一人で、助手OP2が2人の3人で施術する場合を考える。この場合、例えば、術者OP1が
図24に示す術者OP1の位置で施術し、2人の助手OP2が術者OP1の両脇の位置で補助することが考えられる。この場合、術者OP1は、正面モニタである3D表示装置30-1を目視しながら施術し、
図24に示す位置の助手OP2はディスプレイ30-3を目視又は画像表示装置40を目視し、
図24に示す位置の助手OP2と反対側の位置の助手は画像表示装置40を目視すればよい。
【0032】
図25に、本実施形態に係る画像表示装置を備えた眼科システムの構成の他例を示す。
図25に示す例では、眼科システム10として、複数の画像表示装置40-1、40-2を備えている。画像表示装置40-1は、術者OP1に対して表示画像を表示し、画像表示装置40-2は、助手OP2に対して表示画像を表示する。撮影部20は、ベース部28に取り付けられたアーム部29Aに配置されており、術者OP1の操作により自在に移動可能になっている。
図25に示す例では、術者OP1及び助手OP2の各々に、画像表示装置40-1、40-2が配置される。画像表示装置40-1は、術者OP1の頭部の移動に伴って移動可能にベース部28に取り付けられた設置部29Cに設置されており、術者OP1の操作により上下左右前後の各々の方向に自在に移動可能になっている。また、画像表示装置40-2は、助手OP2の頭部の移動に伴って移動可能にベース部28に取り付けられた設置部29Bに設置されており、助手OP2の操作により上下左右前後の各々の方向に自在に移動可能になっている。これにより、撮影部20と画像表示装置40-1、40-2とは、独立して移動可能である。さらに、画像表示装置40-1、40-2の各々は、独立して移動可能である。このように、撮影部20と画像表示装置40(この場合、画像表示装置40-1、40-2)の各々とが独立かつ別体で形成されると共に、各々独立移動可能であるため、術者は施術に、助手は観察に専念できる。
図25に示す例では、ベース部28にアーム部29A、設置部29B及び設置部29Cを取り付けた一例を示すが、アーム部29A、設置部29B及び設置部29Cは、各々地面等の接地面から独立するように構成してもよい。
【0033】
図2に、画像表示装置40の構成の一例を示す。なお、
図2では、画像表示装置40を上面図で示し、観察者OPの右眼用及び左眼用に独立した光学ユニット42を配置した場合の一例を示している。光学ユニット42は、右側光学系の一例である右眼用の光学ユニット42Rと、左側光学系の一例である左眼用の光学ユニット42Lとを備える。右眼用の光学ユニット42Rと、左眼用の光学ユニット42Lとは、観察者OPの両眼の眼幅方向(例、
図2のY方向)に対応する方向に沿ってそれぞれ配置される。なお、右眼用の光学ユニット42Rと、左眼用の光学ユニット42Lとは、観察者OPが視差をつけたい視差方向に対応する方向に沿ってそれぞれ配置されてもよい。例えば、右眼用の光学ユニット42Rと左眼用の光学ユニット42Lとは、観察者OPの左右眼及び観察者OPの眼幅方向に対応させて、所定の一方向に沿って離間して配置される。そして、観察者OPから見た場合において、右眼用の光学ユニット42Rは右側に配置され、左眼用の光学ユニット42Lは左側に配置される。また、右眼用の光学ユニット42Rは、右眼用の表示部30Rを、右眼用の光学ユニット42Rに、取付部の一例としての右側の取付機構42PRを右眼用の光学ユニット42Rの光の入射側に備え、左眼用の光学ユニット42Lは、左眼用の表示部30Lを、左眼用の光学ユニット42Lに、取付部の一例としての左側の取付機構42PLを左眼用の光学ユニット42Lの光の入射側に備えている。
【0034】
図2に示すように、画像表示装置40は、右側撮影部の一例である右眼用の撮影部20Rによる画像(右側表示画像の一例である右眼用表示画像)を、撮影画像ImRとして表示部30Rに形成し、右眼用の光学ユニット42Rを介して観察者OPの右眼用に提供する。また、左側撮影部の一例である左眼用の撮影部20Lによる画像(左側表示画像の一例である左眼用表示画像)を、撮影画像ImLとして表示部30Lに形成し、左眼用の光学ユニット42Lを介して観察者OPの左眼用に提供する。これらの右眼用の光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42Lは、光学ユニット42の光路以外から入射する外部の光(例、ノイズ光)を遮光する収容ケース41に収容される。また、収容ケース41は、右眼用の光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42Lを収容して固定する収容部の一例であり、右眼用の光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42Lを、各々の光軸が互いに平行になるように固定することができる。収容ケース41は、右眼用の光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42Lの各々を独立して収容する第1の収容ケースと、第1の収容ケースを収容する第2の収容ケースとから構成してもよい。
【0035】
また、画像表示装置40の右眼用の光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42Lは、瞳を有する。すなわち、光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42Lは、光の射出側に瞳を形成する。瞳には、入射瞳と射出瞳とがあり、画像表示装置40は、右側光学系の右眼用の入射瞳InpRと、左側光学系の左眼用の入射瞳InpLとを、光学系の外の光路における画像表示装置40の光の射出側、すなわち、観察者OPの前方に形成する。なお、以下の説明では、右眼用の入射瞳InpRと、左眼用の入射瞳InpLとについて、左右を区別して説明する必要がない場合には、総称して「入射瞳Inp」という(
図9A、
図9B参照)。また、画像表示装置40は、右眼用の射出瞳ExpRと、左眼用の射出瞳ExpLとを、光学系の外の光路における画像表示装置40の光の射出側、すなわち、観察者OPの前方に形成する。なお、以下の説明では、右眼用の射出瞳ExpRと、左眼用の射出瞳ExpLとについて、左右を区別して説明する必要がない場合には、総称して「射出瞳Exp」という(
図9A、
図9B参照)。
【0036】
本実施形態に係る眼科システム10は、視差に対応して相違する右眼用の撮影画像ImR及び左眼用の撮影画像ImLの各々を空間(例えば、後述する目視可能領域)に表示させ、観察者OPが右眼及び左眼で目視することで、対象物OBを立体像として視認させることができる。
【0037】
ここで、撮影部20から独立して形成され、かつ観察者OPに対して非接触に形成された画像表示装置40は、観察者OPから離間するに従って、画像表示装置40への観察者OPの接触により生じる観察者OPの違和感を抑制可能である。ところが、一般的に、画像表示装置40と観察者OPとは離間するに従って、観察者OPの目視可能な撮影画像Imが小さくなる。すなわち、所謂アイポイントとして知られている光学ユニット42から射出される光の全画角を網羅して目視可能な範囲内では、撮影画像Imを目視可能である。一方、観察者OPの目視位置がアイポイントから外れると、光学ユニット42から射出される光の少なくとも一部の画角の光が観察者OPに到達しない。この場合、該少なくとも一部の画角の光が遮られた状態が生じるために、観察者OPが対象物OBの全体像を見えなくなる。従って、アイポイントを大きくすることによって、画像表示装置40への観察者OPの接触により生じる観察者OPの違和感の抑制向上又は画像の見え方が変わらない観察領域の拡大に寄与できる。そこで、本実施形態では、アイポイントを大きくすることが可能な光学ユニット42を提供する。
【0038】
なお、光学ユニット42から射出される光は、光学ユニット42の光軸を軸とする回転対称の光束である。従って、アイポイントである光学ユニット42から射出される光の全画角を網羅して目視可能な範囲は、光学ユニット42の光軸を軸とする略円錐形状の領域である。本実施形態では、光学ユニット42から射出される光の全画角を網羅して目視可能な範囲である、光学ユニット42の光軸を軸とする略円錐形状の領域を、アイボックス領域という。例えば、アイボックス領域は、光学ユニット42の光の射出側(又は観察者OPの前方)に形成され、所定の空間において画像を目視可能な位置群で形成される目視可能領域である。また、アイボックス領域は、空間に観察者OPの眼を配置した時にその領域内であれば、表示画像(この場合、撮影画像Im)の見え方が変わらない領域を含む。光学ユニット42が後述のアフォーカル光学系で構成されている場合、表示画像の見え方とは、画像の大きさが一例である。さらに、アイボックス領域は、空間に眼を配置した時にその領域内であれば、観察範囲が変わらない領域を含む。
【0039】
表示画像を観察者OPが目視可能な目視可能領域であるアイボックス領域は、光学ユニット42に含まれるレンズ系と、最大画角の主光線と光学ユニット42の光軸とのなす角度に基づいて導出可能である。なお、最大画角の主光線とは、表示画像の最大物高から発せられる主光線であり、照射見込角度の主光線でもある。
【0040】
図3に、光学ユニット42のレンズ群のうち観察者側に配置されたレンズLeと、観察者OPの眼との関係を示す。
図3に示すように、半画角(最大画角の主光線と光軸との成す角度)である角度をω(以下、画角という場合がある。)、アイレリーフをER、アイポイント径をφ
EP、とする場合、アイボックスの領域である表示画像を観察者OPが目視可能な目視可能領域(以下、アイボックス領域という。)IBは、次の式で表すことができる。
IB={(φ
EP/2)/tanω+ER}・{(φ
EP/2)+ER・tanω}
2・π・(1/3)
【0041】
半画角ωは、光学ユニット42のレンズ群において観察者OPの眼に最も近い光学ユニット42のレンズLe(例えば、光学ユニット42の光の射出側の最外面に位置するレンズ)から観察者OPの眼に到達する光線と、光軸CLとの成す角度である。また、アイレリーフERは、レンズLeの頂点から想定している観察者OPの眼の頂点(アイポイント)までの距離である。また、アイポイント径φEPは、アイレリーフERの位置において観察者OPが眼を一方向(例えば上下)に移動させた場合にレンズLeから射出される全ての角度の光線が観察者OPの眼に到達する領域の長さである。
【0042】
また、観察者OPの眼に最も近い光学ユニット42のレンズLeの有効径をφLSとする場合、アイボックス領域IBは次の式でも表すことができる。
IB=(π/3)・(φLS/2)2・{(φLS/2)/tanω}
【0043】
ここで、光学ユニット42のレンズ群のうち観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSと、光学ユニット42から射出される光の半画角ωとに依存するアイボックス領域IBについて説明する。
【0044】
図4に、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSと、光学ユニット42から射出される光の半画角ωとに依存するアイボックス領域IB、の関係の一例を示す。
図4では、画角ωとして、光学ユニット42の光軸CLと光学ユニット42から射出される光との成す角を示す半画角(ω)を用いている。
【0045】
図4に示すように、例えば、10000mm
3以上のアイボックス領域IBを得るためには、
図4に示す曲線Cv1を境界として、10000mm
3以上のアイボックス領域IBとなる有効径φ
LSと半画角ωとの関係(
図4に示す例では、曲線Cv1を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれる関係)になる光学ユニット42を形成すればよい。一方、
図4に示す例で、曲線Cv1を境界として図中の左側領域を示すエリアAR-Xに含まれる関係の光学ユニット42では、10000mm
3以上のアイボックス領域IBを得ることが困難である。また、例えば、20000mm
3 以上のアイボックス領域IBを得るためには、
図4に示す曲線Cv3を境界として、20000mm
3 以上のアイボックス領域IBとなる有効径φ
LSと半画角ωとの関係(
図4に示す例では、曲線Cv3を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれる関係)になる光学ユニット42を形成すればよい。同様に、30000mm
3 以上のアイボックス領域IBを得るためには、
図4に示す曲線Cv4を境界として、30000mm
3 以上のアイボックス領域IBとなる有効径φ
LSと半画角ωとの関係(
図4に示す例では、曲線Cv4を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれる関係)になる光学ユニット42を形成すればよく、40000mm
3 以上のアイボックス領域IBを得るためには、
図4に示す曲線Cv5を境界として、40000mm
3 以上のアイボックス領域IBとなる有効径φ
LSと半画角ωとの関係(
図4に示す例では、曲線Cv5を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれる関係)になる光学ユニット42を形成すればよい。
【0046】
次に、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSと、光学ユニット42から射出される光の半画角ωとの各々について検討する。
【0047】
本実施形態に係る眼科システム10では、観察者OPが対象物OBを両眼視するので、左眼用の光学ユニット42Lの光軸と右眼用の光学ユニット42Rの光軸との距離は、観察者OPの瞳孔間距離である両眼の眼幅(Pupil Distance)PDに対応する。人間の眼幅PDは、統計的に、41mmから73mmの範囲で分布する。従って、眼幅PDは中心値である57mmを考え、瞳孔径を標準的な2mmとすると、アイポイント径φEPを18mmとすれば、略全ての眼幅PDを網羅可能である。また、眼球径を標準的な24mmとし、回旋30度の範囲においても目視可能とすると、アイポイント径φEPを30mmとすれば、略全ての観察者OPの眼に光が入射される。また、観察者OPのまつ毛が眼側のレンズに接触することを考慮すると、アイレリーフERは、15mm以上であることが好ましい。そして、標準的な顕微鏡の接眼レンズの半画角は、20度である。以上のことから、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSは、41mmを最小値とすることが好ましい。
【0048】
なお、情報識別能力は低いが、主観的な空間座標系に影響を及ぼす領域を視野として想定した場合、例えば、没入感を生み出す視野を想定した場合は、半画角を±50度以下とすることが好ましい。半画角を±50度以下とすることは、主観的な空間座標系に影響を及ぼす領域として知られる誘導視野を網羅できる。また、眼球・頭部運動で無理なく注視でき、効果的な情報受容ができる領域として知られる安定注視野を想定した場合は、半画角を±45度以下とすることが好ましい。さらに、眼球運動だけで瞬時に情報受容できる領域として知られる有効視野を想定した場合は、半画角で±15度を少なくとも含むようにすればよい。さらにまた、視力等の視機能が優れている中心視領域として知られる弁別視野を想定した場合は、半画角で±2.5度を少なくとも含むようにすればよい。
【0049】
従って、上述のように誘導視野を想定した場合は、半画角ωを±50度以下とすることが好ましい。
すなわち、アイボックス領域IBは、
ω≦50度
で示される条件を満たすように光学ユニット42を構成することが好ましい。
【0050】
この場合、観察者OPの眼側のレンズの有効径φ
LSが41mmで、かつ半画角ωが50度である光学ユニット42により射出される光により形成されるアイボックス領域IBは、上記の式に、φ
LS=41、ω=50を代入すると、約7570mm
3 (例えば、
図4の交点ST)になる。これによって、アイボックス領域IBが、7570mm
3 以上になるように光学ユニット42を構成すれば、略全ての観察者OPが、誘導視野によって、表示画像(例えば、撮影画像)を目視可能で、かつ光学ユニット42に観察者OPが接触することなく、画像表示装置40を形成することができる。例えば、
図4に示すように、7570mm
3以上のアイボックス領域IBを得るためには、
図4に示す曲線Cv2を境界として、7570mm
3以上のアイボックス領域IBとなる有効径φ
LSと半画角ωとの関係(
図4に示す例では、曲線Cv2を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれる関係)になる光学ユニット42を形成すればよい。
【0051】
以上のことにより、本実施形態における光学ユニット42は、次の設計条件を用いて形成することが好ましい。
第1の設計条件は、アイボックス領域IBが、
IB≧7570mm3
で示される第1の条件式を満たすように光学ユニット42(光学ユニット42R及び光学ユニット42L)を構成することである。
【0052】
また、例えば、大人の眼幅PDを想定すると、上記の第1設計条件における観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSは、53.5mm以上とすることが可能であり、第1の条件式における7570mm3 は、16800mm3 と置き換えることが可能である。
すなわち、アイボックス領域IBは、
IB≧16800mm3
で示される拡張された第1の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することも可能である。
【0053】
また、上述のように安定注視野を想定した場合は、半画角を±45度以下とすることが好ましい。この場合、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSが41mmで、かつ半画角ωが45度である光学ユニット42により射出される光により形成されるアイボックス領域IBは、上記の式に、φLS=41、ω=45を代入すると、約9000mm3 になる。これによって、アイボックス領域IBが、9000mm3 以上になるように光学ユニット42を構成すれば、略全ての観察者OPが、安定注視野によって、表示画像(例えば、撮影画像)を目視可能で、かつ光学ユニット42に観察者OPが接触することなく、画像表示装置40を形成することができる。
【0054】
以上のことにより、本実施形態における光学ユニット42は、安定注視野を想定した場合、次の設計条件を用いて形成することが好ましい。
第1の設計条件は、アイボックス領域IBが、
IB≧9000mm3
で示される第1の条件式を満たすように光学ユニット42(光学ユニット42R及び光学ユニット42L)を構成すればよい。
【0055】
また、例えば、安定注視野及び大人の眼幅PDを想定した場合、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSは、53.5mm以上とすることが可能であり、第1の条件式における9000mm3 は、20000mm3 と置き換えることが可能である。
すなわち、アイボックス領域IBは、
IB≧20000mm3
で示される拡張された第1の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することも可能である。
【0056】
ところで、一般的な顕微鏡の半画角ωは20度以上であり、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSを41mmとした場合、光学ユニット42により射出される光により形成されるアイボックス領域IBは、上記の式に、φLS=41、ω=20を代入すると、約24800mm3 になる。これによって、アイボックス領域IBが、24800mm3 以上になるように光学ユニット42を構成すれば、一般的な顕微鏡の視野と同等の視野を確保しつつ、略全ての観察者OPが、表示画像(例えば、撮影画像)を目視可能で、かつ光学ユニット42に観察者OPが接触することなく、画像表示装置40を形成することができる。また、更に、大人の眼幅PDを想定して、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSを53.5mmとした場合、上記の式により、アイボックス領域IBは、55000mm3 になる。
【0057】
従って、アイボックス領域IBは、
IB≧24800mm3
で示されるさらに拡張された第1の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することも可能である。
また、好ましくは、アイボックス領域IBは、
IB≧55000mm3 で示される拡張された第1の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することも可能である。
【0058】
ここで、上記の半画角(この場合、ω=20)は変えずに、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSについて、眼球の回旋の有無を考慮して検討する。眼球の回旋は、眼球運動による眼球の移動範囲を含む。
回旋を±15度の範囲において目視可能とした場合、有効径φLSは、35.2mmとなり、アイボックス領域IBは、15700mm3 となる。このように、回旋±15度を想定した場合、観察者OPの頭部の自由度を考慮すると、アイボックス領域IBは、15700mm3 以上が好ましい。
従って、アイボックス領域IBは、
IB≧15700mm3
で示される拡張された第1の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することも可能である。
なお、回旋を±20度の範囲において目視可能とした場合、有効径φLSは、37.2mmとなり、アイボックス領域IBは、18500mm3 となる。また、回旋を±30度の範囲において目視可能とした場合、有効径φLSは、41mmとなり、アイボックス領域IBは、24800mm3 となる。従って、アイボックス領域IBが15700mm3 以上である条件に含まれることになる。
【0059】
ところで、観察者OPが観察する顕微鏡等の光学機器では、視野角が11度以上であり、標準的な眼幅PDを想定すると、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSは、65mm程度の大きさまでを許容することが好ましい。この場合、アイボックス領域IBは、185000mm3 程度までの大きさを許容することで、本開示の画像表示装置40の機能は達成可能であると考える。
すなわち、アイボックス領域IBは、
IB≦185000mm3
で示される上限値を示す条件式を満たすように光学ユニット42を構成することが好ましい。
【0060】
ところで、統計的に平均的な眼幅PDは65mmである。これにより、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSは、65mmを最大値とすることが好ましい。
第2の設計条件は、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSが、
φLS≦65mm
で示される第2の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することである。
【0061】
また、上述のように、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSが41mmを最小値とすることが好ましい。
第3の設計条件は、観察者OPの眼側のレンズの有効径φLSが、
φLS≧41mm
で示される第3の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することである。
【0062】
なお、眼幅PD又はレンズの有効径φ
LSが大きい場合、アイボックス領域IBは、大きい領域に形成されることが好ましい。この場合、10000mm
3 以上のアイボックス領域IBを得るためには、例えば、
図4に示す曲線Cv1を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれるように、有効径φ
LSと半画角ωとの関係に光学ユニット42を形成すればよい。また、20000mm
3 以上のアイボックス領域IBを得るためには、
図4に示す曲線Cv3を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれるように、有効径φ
LSと半画角ωとの関係になる光学ユニット42を形成すればよい。さらに、30000mm
3 以上のアイボックス領域IBを得るためには、
図4に示す曲線Cv4を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれるように、有効径φ
LSと半画角ωとの関係になる光学ユニット42を形成すればよく、40000mm
3 以上のアイボックス領域IBを得るためには、
図4に示す曲線Cv5を境界として図中の右側領域を示すエリアAR-Yに含まれるように、有効径φ
LSと半画角ωとの関係になる光学ユニット42を形成すればよい。
【0063】
目視可能領域であるアイボックス領域IBは、光学ユニット42(右眼用の光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42L)に含まれるレンズの有効径と、最大画角の主光線と光学ユニット42(右眼用の光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42L)の各々の光軸との成す角度とに基づいて導出することができる。この場合、目視可能領域であるアイボックス領域IBは、半画角ωを50度以下(ω≦50)の条件を満たすように形成することが好ましい。
【0064】
図5に、観察者OPが表示部30を両眼視した場合における表示部30と光学ユニット42との関係を模式的に示す。なお、左右各々の眼の光路に対する関係は同様のため、
図5では、右側光路の一例である右眼eyeRの光路に対する関係について符号を付して説明し、左側光路の一例である左眼eyeLの光路に対する関係の説明を省略する。
【0065】
観察者OPの瞳孔間距離である眼幅PDが標準的に60mmから70mmであることを考慮すると、対象物を両眼視する場合における左右各々の眼の光路に対応する表示部30の内接円MDの最大径は60mmから70mmである。ここで、軸外光には、軸上光には存在しない非対称な収差が存在することが知られている。しかしながら、例えば、軸上光と軸外光とが重なっている領域にレンズを配置した場合、配置したレンズで軸外光に特有の収差を補正することは困難である。従って、本実施形態の
図5に示すように、軸上光(例えば、軸上光の主光線)と軸外光(例えば、軸外光の主光線)とが重ならずに、軸上光と軸外光との光線間隔が広い領域に光学ユニット42のレンズ(例えば、後述の
図9Aに示すレンズLf)を配置することによって、収差を補正することができる。また、
図5に示すように、軸上光JIと軸外光JEとは、光学ユニット42のレンズ面から表示部30に近づくにつれ分離する。これらの事項を考慮し、アイボックス領域の大型化を検討する各種実験を行った結果、光学ユニット42のうち眼に最も近い側のレンズ面(例えば、後述の
図9Aに示すレンズLeの眼側のレンズ面)から表示部30に最も近い側のレンズ面(例えば、後述の
図9Aに示すレンズLfの表示部30側のレンズ面)の端部までの距離d1の2倍の距離を、眼に最も近い側のレンズ面から表示部30までの距離d2を超えた距離にすることで、光学ユニット42は、アイボックス領域を大型化した場合でも軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションの少なくとも1つについて軸上光の収差を悪化させずに収差補正が可能であるという知見を得た。
【0066】
そこで、第4の設計条件は、
上記の通り、空間(例えば、アイボックス領域)に配置される観察者OPの眼に最も近いレンズ面から表示部30に最も近いレンズ面の端部までの距離をd1、観察者OPの眼に最も近いレンズ面から表示部30までの距離をd2とした場合、
d1/d2>0.5
で示される第4の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することである。なお、ここでは、アイレリーフを20mmとした場合を想定している。
【0067】
従って、第4の設計条件による第4の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することで、光学ユニット42により形成されるアイボックス領域を大型化した場合でも、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションについて、軸上光の収差を悪化させずに収差補正が可能である。
【0068】
本実施形態に係る画像表示装置は、対象物の表示画像として左眼用表示画像が設定される位置に光の入射側の焦点を有し、焦点面からの光を平行光として射出し、前記左眼用表示画像を目視可能な左眼用目視可能領域を形成する左側光学系としての左眼用の光学ユニット42Lと、
前記左眼用表示画像と異なる右眼用表示画像が設定される位置に光の入射側の焦点を有し、焦点面からの光を平行光として射出し、前記右眼用表示画像を目視可能な右眼用目視可能領域を形成する右側光学系としての右眼用の光学ユニット42Rと、
前記左側光学系及び前記右側光学系を収容する収容部としての収容ケース41と、
を備え、
前記左側光学系及び前記右側光学系の少なくとも一方の光学系において、光の入射側のレンズ面の端部から射出側のレンズ面の端部までの距離をd1とし、前記表示画像の位置から前記光の射出側のレンズ面の端部までの距離をd2とした場合、
d1/d2>0.5
で示される条件式を満たすように構成することが可能である。
【0069】
なお、距離d1は、距離d2を超えると本開示の画像表示装置40を構成することが困難になるため、第4の条件式における(d1/d2)の値の上限値は「1」である。よって、
1>d1/d2>0.5
で示される第4の条件式に上限値を規定した条件式を満たすように光学ユニット42を構成することが好ましい。
【0070】
ここで、上記の距離d1、d2の起点であるレンズ面の端部は、レンズ面の形状に依存して変化する。本実施形態では、レンズ面の端部は、光軸に直交する平面で、かつレンズ面の頂点のみが接触する平面の位置とする。例えば、光学ユニット42のうち表示部30に最も近い側のレンズ面の端部とは、光学ユニット42の光軸方向で表示部30側に最もせり出している部分をいう。
【0071】
図6から
図8に、各種形状のレンズ面の端部を示す。
図6は、凸面を有するレンズLf1のレンズ面の端部を示し、
図7は、凹面を有するレンズLf2のレンズ面の端部を示し、
図8は、非球面を有するレンズLf3のレンズ面の端部を示す。
図6に示すように、凸面の場合は、光軸とレンズ面が交わる位置と一致する部分であり、
図7に示すように、凹面の場合は、レンズの縁部分である。
図8に示すように、非球面の場合は、光軸方向で表示部30側に最も突出している部分である。
【0072】
ところで、立体視等のように観察者OPが撮影画像Imを両眼にて目視する場合、観察者OPの両眼の眼幅PDに対応して、左右の画像を分離して表示することが好ましい。このため、光学ユニット42R、42L各々のレンズ径は、眼幅PD以下にすることが好ましい。例えば、眼幅PDが65mmである観察者を標準とした場合、光学ユニット42R、42L各々のレンズ径を65mm以下にすることが好ましい。
このため、光学ユニット42は、次に示す第5の設計条件及び第6の設計条件を用いて形成することが好ましい。
【0073】
第5の設計条件は、
光学ユニット42の焦点距離をf、表示部30により表示される撮影画像Imの距離(例えば、画像表示領域の、内接円の径、外接円の径、辺及び対角線等の長さを示す距離、又は大きさ)をD、光学ユニット42による光軸からの光の照射見込角度をθとするとき、
f≦(D/2)/sinθ
で示される第5の条件式を満たすように焦点距離を100mm以下に光学ユニット42を形成することである。
【0074】
撮影画像Imの距離Dは、表示される撮影画像Im上で撮影画像Imの中心を通る直線のうち最も短い直線の長さ以上の距離を設定することが好ましい。この場合、撮影画像Imの距離Dは、表示部30の画像表示領域の長さ又は大きさであり、その画像表示領域において領域(又は画像)の中心を通る直線の長さ以上の距離を含む。例えば、撮影画像Imが円形状である場合には直径を距離Dとする。また、撮影画像Imが楕円形状である場合には短径を距離Dとする。なお、撮影画像Imの中心は、光軸でもよく、観察者が目視する視軸でもよいし、撮影画像Im内の何れの位置でもよい。
【0075】
第5の設計条件を用いることで、表示部30に表示される撮影画像Imの大きさの制約と、光学ユニット42による光軸からの光の照射見込角度の制約とを考慮して、光学ユニット42を形成することができる。例えば、撮影画像Imの距離を両眼視による眼幅PDで規定する予め定めた65mm以下を用いるものとし、照射見込角度θを倍率10xで視野数18の標準的な接眼レンズと同等以上とする場合、焦点距離fは100mm以下となる。また、照射見込角度θは、半画角ωに対応する。
【0076】
また、第6の設計条件は、
光学ユニット42の焦点距離をf、表示部30に表示される撮影画像Imを構成する画素の大きさ(ピクセルサイズ)をS、眼の分解能をRとするとき、
f≧S/tanR
で示される第6の条件式を満たすように焦点距離を25mm以上に光学ユニット42を形成することである。
【0077】
第6の設計条件を用いることで、表示部30による撮影画像Imを構成する画素の大きさの制約と、眼の分解能の制約とを考慮して、光学ユニット42を形成することができる。すなわち、眼の分解能により撮影画像Imを構成する画素の大きさが知覚される、撮影画像Imの画質低下を抑制することができる。例えば、表示部30による撮影画像Imを構成する画素の大きさ(ピクセルサイズ)Sが15μm以上で、眼の分解能Rが2分以下の場合、焦点距離fは25mm以上となる。
【0078】
これらの第5の設計条件及び第6の設計条件から、眼幅PDが65mmである観察者OPに対して、ピクセルサイズSが15μm以上の表示部30により撮影画像Imを形成する場合、光学ユニット42の焦点距離fは、25mm以上で100mm以下とすることが好ましい。画像表示装置40は、光学ユニット42の焦点距離fを、25mm以上で100mm以下とすることによって、半画角を維持しつつ、個々のピクセルの目視判別による画像のざらつき感を抑制して画質を向上することが可能になる。
【0079】
上述の通り、軸上光JIと軸外光JEと(
図5参照)が重なっている領域にレンズを配置した場合、配置したレンズで軸外光JEに特有の収差を補正することは困難である。このため、光の入射側のレンズ面において、軸上光JI(例えば、軸上光の主光線)と軸外光JE(例えば、軸外光の主光線)とが可能な限り重ならずに、軸上光JIの主光線と軸外光JEの主光線との光線間隔がより分離していることが望ましい。すなわち、光の入射側のレンズ面(例えば、
図9Aに示すレンズLfの表示部30側のレンズ面)において、焦点面である撮影画像Im、又は撮影画像Imが配置される面からの光のうち軸上光の主光線と軸外光の主光線とが重ならないように光線間隔を有するように光学ユニット42を構成することが好ましい。
【0080】
本実施形態における光学ユニット42では、主光線が最も分離されるレンズ面は、表示部30に最も近いレンズ面であり、そのレンズ面(例えば、後述する
図9AのレンズLfの表示部30側のレンズ面)において、軸上光JIの主光線(以下、中心画角の主光線という。)と、撮影画像Imを表示可能な領域の最外部で最大の画角となる軸外光JEの主光線(以下、最大画角の主光線という。)とはそれぞれ分離している。そして、光学ユニット42は、最大画角の主光線が、光学ユニット42の表示部30に最も近いレンズ面を透過する際に、その主光線が透過するレンズの有効径において、光軸(例えば、光軸CL)からレンズの有効径までの距離の半分の長さよりも長く、かつ光軸から離れた位置でその主光線がレンズ面を通過するように構成している。例えば、レンズの有効径において、レンズの有効径の半分の長さを直径とする同心円領域よりも外側を、最大画角の主光線が通過するようにすることである。これは、表示部30に最も近いレンズ面で軸上光JIと軸外光JEとのそれぞれの主光線が分離されることで各々に最適な屈折を与える球面または非球面を定義できるからである。
【0081】
その結果、アイボックス領域を大型化した場合でも軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションを軸上光の収差を悪化させずに収差補正が可能であるという知見を得た。なお、第4の設計条件を満たすよう光学ユニット42を構成することで、アイボックス領域を大型化した場合でも軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションを軸上光の収差を悪化させずに収差補正が可能であるが、光学系のレンズの有効径において、レンズの有効径の半分の長さを直径とする同心円領域よりも外側の領域を、最大画角の主光線が通過するようにすることで、より詳細な収差補正を可能とすることができる。
【0082】
そこで、第7の設計条件は、
最大画角の主光線が、光学ユニット42の表示部30に最も近いレンズ面を透過する際に、レンズの有効径において、レンズの有効径の半分の長さを直径とする同心円領域よりも外側の領域(例えば、光軸から離れた領域)を通過することである。すなわち、光学ユニット42は、撮影画像(表示画像)Imの光による最大画角の主光線が入射されるレンズ(例えば、
図9Aに示すレンズLf)の有効径の1/2より大きい径の位置を通過するように構成することが好ましい。
すなわち、第7の設計条件は、
表示部30により表示される撮影画像Imの距離(例えば、画像表示領域の、内接円の径、外接円の径、辺及び対角線等の長さを示す距離、又は大きさ)をD、光学ユニット42の表示部30に最も近いレンズの有効径をφ
LF、表示部30と光学ユニット42の表示部30に最も近いレンズとの距離をd3、表示部30と入射瞳Inpとの距離をP
INとする場合、条件値Qが
1/2<Q<1
Q=[D・{1-(d3/P
IN)}]/φ
LF
で示される第7の条件式を満たすように光学ユニット42を構成することである。
【0083】
図9Aに、光学ユニット42の構成を模式的に示す。
図9Bに瞳周辺の拡大図を示す。なお、
図9Aでは、入射瞳Inpと射出瞳Expとが接近するため、射出瞳Expの記載を省略した。なお、
図9Bでは、入射瞳Inpと射出瞳Expとの位置関係を誇張して示している。入射瞳Inpは、撮影画像Imからの光による各画角の主光線を直進させた場合に主光線が交差する位置になる。例えば、
図9Bに示すように、光学ユニット42に入射される最大画角の主光線が直進したと想定する光線(
図9Bに点線で示す光線)と中心画角の主光線が直進したと想定する光線(
図9Bに一点鎖線で示す光線)との交差する位置が入射瞳Inpの位置になる。一方、射出瞳Expの位置は、像面に至る各画角の主光線を逆進させた場合に主光線が交差する位置、すなわち屈折した主光線(
図9Bに二点鎖線で示す光線)が交差する位置になる。
【0084】
図9Aに示すように、最大画角の主光線は、
(D/2)/P
IN
で示される傾きで、光学ユニット42へ入射される。
このとき、光学ユニット42の表示部30に最も近いレンズLfのレンズ面における光軸からの高さhは次の式で表される。
h=(D/2)-{(D/2)/P
IN}・d3
=(D/2)・{1-(d3/P
IN)}
従って、条件値Qは、次の式で表すことができ、光学ユニット42の表示部30に最も近いレンズの有効径φ
LF、と、そのレンズを最大画角の主光線が通過する位置を示す高さhとの関係から光学ユニット42を定めることができる。
Q=h・(2/φ
LF)
【0085】
図9Aに示す例では、光学ユニット42のうち、レンズLfの表示部30側のレンズ面が、本開示の撮影画像Imの光が入射される第1面を光の入射側に凸面を向けた第1屈折面の一例である。また、光学ユニット42のうち、レンズLeの観察者OP側のレンズ面が、本開示の光が射出される第2面を光の射出側に凸面を向けた第2屈折面の一例である。そして、レンズLfの表示部30側のレンズ面は、光学ユニット42に光が入射される最初の面の一例であり、レンズLeの観察者OP側のレンズ面は、光学ユニット42から光が射出される最後の面の一例である。さらに、レンズLfは本開示の第1レンズの一例であり、レンズLeは本開示の第2レンズの一例であり、レンズLfとレンズLeを含む光学ユニット42は、本開示のレンズ群の一例である。
【0086】
次に、光学ユニット42の具体的なレンズ例を用いて上記設計条件を検証する。
【0087】
まず、大きいアイボックス領域IBを形成しつつ、軸外収差を補正可能な光学ユニット42は、単一レンズでは困難であると考えられる。この軸外収差の補正が困難であった単一レンズによる光学ユニット42を説明する。
【0088】
<レンズ例1>
図10に、レンズ例1として、1群1枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。以下、光学ユニット42R及び光学ユニット42Lは、同様の構成であるため、個別の説明を省略する。
図10に示すように、光学ユニット42は、撮影画像Imから順に、面番号P1、P2の光学面を備えた単一レンズで形成されている。光学面は、光学面を境界とした一方側の媒質の屈折率と他方側の媒質の屈折率とが相違する場合には屈折面となる。なお、
図10に示す例では、光学ユニット42を、撮影画像Imから表示部30に最も近いレンズ面の端部までの距離d0だけ69.7mm離間して配置した場合を示している。
【0089】
次の表1に、レンズ例1の光学ユニット42の諸元の値を示す。
表1において、面番号mは
図10に示す光学面の面番号に対応する。また、曲率半径rは各光学面の曲率半径を示し、面間隔dは各光学面から次の光学面までの光軸上の距離を示し、屈折率ndはd線に対する屈折率を示し、分散νdはアッベ数を示している。表1に示す諸元では、曲率半径r、及び面間隔dの単位として「mm」を採用したが、光学ユニット42は比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されることはなく、他の単位を用いることもできる。
【0090】
【0091】
なお、表1は、光軸CLを軸とした球面形状の光学面の一例であり、光学面が球面形状に限定されるものではなく、非球面形状であってもよい。以下に説明する他のレンズ例についても同様である。また、レンズ例1におけるレンズの有効径は24.83であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を31.66とした場合を想定している。
【0092】
光学ユニット42は、撮影画像Imからの光を平行光として射出する、アフォーカル光学系である対物レンズとして機能する。すなわち、光学ユニット42は、焦点距離fを有しており、光の入射側の焦点に表示部30による対象物の撮影画像Imが位置するように設定されて、光学ユニット42に対して表示部30が取り付けられる。このように、光学ユニット(上記のレンズを有する光学系)42は、対象物の撮影画像(表示画像)Imが設定される位置に光の入射側の焦点を有し、その焦点面(この場合、撮影画像Im、又は撮影画像Imが配置される面)からの光を平行光として射出する。
【0093】
図10に示すように、光学ユニット42は、表示部30側の焦点距離fの焦点位置に表示部30による対象物の撮影画像Im(表示画像)が位置するように設定されてアフォーカルの光学系とされ、光学ユニット42から観察者OPへ向けて射出される光は平行光となる。この光学ユニット42から射出された平行光は、観察者OPの眼に到達し、観察者OPの網膜上に結像し、撮影画像Imが観察者OPに知覚される。
【0094】
図10に示すレンズ例1の光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.19であり、第7の条件式による値(=Q)が、0.323である。レンズ例1の光学ユニット42は、第4の設計条件を満たしておらず、光学ユニット42により形成されるアイボックス領域を大型化可能であるものの、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が困難であった。すなわち、軸外光の収差補正を行うことによって、軸上光の収差が悪化した。
【0095】
また、レンズ例1の光学ユニット42は、第7の設計条件を満たしておらず、光学ユニット42における表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角の主光線と最大画角の主光線とのそれぞれの分離が不十分である。このため、中心画角と最大画角の各々について適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが困難であった。従って、光学ユニット42を単一レンズにより構成することで、アイボックス領域を大型化可能であるが、補正困難な収差が残存するので、観察者OPが目視する画像の画質劣化が生じると考えられる。
【0096】
<レンズ例2>
次に、単一レンズによって、大きいアイボックス領域IBを形成しつつ、収差補正を試みた光学ユニット42を説明する。
図11に、レンズ例1とは諸元の異なる1群1枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。
図11に示す光学ユニット42は、撮影画像Imから表示部30に最も近いレンズ面の端部までの距離d0を73.76mm離間して配置した場合を示している。
【0097】
次の表2に、レンズ例2の光学ユニット42の諸元の値を示す。
表2において、面番号mは
図3に示す光学面の面番号に対応する。また、曲率半径rは各光学面の曲率半径を示し、面間隔dは各光学面から次の光学面までの光軸上の距離を示し、屈折率ndはd線に対する屈折率を示し、分散νdはアッベ数を示している。表2に示す諸元では、曲率半径r、及び面間隔dの単位として「mm」を採用したが、光学ユニット42は比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されることはなく、他の単位を用いることもできる。また、レンズ例2におけるレンズの有効径は29.02であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を30.99とした場合を想定している。
【0098】
【0099】
レンズ例2の光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.455であり、第7の条件式による値(=Q)が、0.553である。レンズ例2の光学ユニット42は、第7の設計条件を満たしている。従って、表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角と最大画角の各々について適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能である。しかし、レンズ例2の光学ユニット42は、第4の設計条件を満たしていない。従って、光学ユニット42により形成されるアイボックス領域を大型化可能であるものの、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が困難であり、軸外光の収差補正を行うことによって、軸上光の収差が悪化する。
【0100】
このように、光学ユニット42を単一レンズで構成すると、光学ユニット42により形成されるアイボックス領域を大型化可能であるものの、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が困難である場合がある。しかし、第7の設計条件を満たすことで、画質向上を期待できる収差補正が可能と考えられる。すなわち、レンズ例2では、アイボックス領域を大型化が可能であり、各種収差の補正が困難な状況を生じるものの、中心画角と最大画角の各々について適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能であることから、第7の設計条件を満たさないレンズに比較して、観察者OPが目視する画像の画質向上を期待できる。
【0101】
<レンズ例3>
図12に、レンズ例3として、1群2枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。
図12に示す光学ユニット42は、撮影画像Imから順に、面番号P1、P2、P3の光学面を備えた1群2枚のレンズで形成されている。なお、
図12に示す例では、光学ユニット42を、撮影画像Imから距離d0として69.7mm離間して配置した場合を示している。
【0102】
次の表3に、レンズ例3による光学ユニット42の諸元の値を示す。なお、レンズ例3におけるレンズの有効径は31.20であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を31.19とした場合を想定している。
【0103】
【0104】
レンズ例3による光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.53であり、第7の条件式による値(=Q)が、0.643である。レンズ例3の光学ユニット42は、第4の設計条件を満たしており、光学ユニット42により形成されるアイボックス領域を大型化可能であって、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が可能である。
【0105】
また、レンズ例3による光学ユニット42は、第7の設計条件も満たしており、光学ユニット42における表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角と最大画角の主光線それぞれ分離できる。このため、中心画角と最大画角の各々について適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能であった。従って、レンズ例3では、アイボックス領域を大型化が可能であり、各種収差の補正も可能であるので、観察者OPが目視する画像の画質向上を期待できる。
【0106】
なお、1群2枚のレンズ構成で光学ユニット42を形成した場合、第2面を硝材で満たすので、コスト面及び重量面で好ましくなく、2群以上の構成が好ましい。
【0107】
<レンズ例4>
図13に、レンズ例4として、2群3枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。
図13に示す光学ユニット42は、撮影画像Imから順に、面番号P1、P2、P3、P4、P5の光学面を備えた2群3枚のレンズで形成されている。なお、
図13に示す例では、光学ユニット42を、撮影画像Imから距離d0として62.8mm離間して配置した場合を示している。
【0108】
次の表4に、レンズ例4による光学ユニット42の諸元の値を示す。なお、レンズ例4におけるレンズの有効径は33.45であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を31.26とした場合を想定している。
【0109】
【0110】
レンズ例4による光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.60であり、第7の条件式による値(=Q)が、0.737である。レンズ例4の光学ユニット42は、第4の設計条件を満たしており、光学ユニット42により形成されるアイボックス領域を大型化可能であって、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が可能である。また、レンズ例4による光学ユニット42は、第7の設計条件も満たしており、光学ユニット42における表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角と最大画角の主光線それぞれ分離できる。このため、中心画角と最大画角の各々について適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能であった。
従って、レンズ例4では、アイボックス領域を大型化が可能であり、各種収差の補正も可能であるので、観察者OPが目視する画像の画質向上を期待できる。
【0111】
<レンズ例5>
図14に、レンズ例5として、3群3枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。
図14に示す光学ユニット42は、撮影画像Imから順に、面番号P1、P2、P3、P4、P5、P6の光学面を備えた3群3枚のレンズで形成されている。なお、
図14に示す例では、光学ユニット42を、撮影画像Imから距離d0として43.8mm離間して配置した場合を示している。
【0112】
次の表5に、レンズ例5による光学ユニット42の諸元の値を示す。なお、レンズ例5におけるレンズの有効径は32.16であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を31.59とした場合を想定している。
【0113】
【0114】
レンズ例5による光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.69であり、第4の設計条件を満たしている。また、第7の条件式による値(=Q)が、0.816であり、第7の設計条件も満たしている。従って、レンズ例5の光学ユニット42は、アイボックス領域を大型化可能であって、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が可能である。また、表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角と最大画角の主光線それぞれ分離でき、中心画角と最大画角の各々について独立して適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能である。
従って、レンズ例5では、アイボックス領域を大型化が可能であり、各種収差の補正も可能であるので、観察者OPが目視する画像の画質向上を期待できる。
【0115】
<レンズ例6>
図15に、レンズ例6として、3群4枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。
図15に示す光学ユニット42は、撮影画像Imから順に、面番号P1、P2、P3、P4、P5、P6、P7の光学面を備えた3群4枚のレンズで形成されている。なお、
図15に示す例では、光学ユニット42を、撮影画像Imから距離d0として19.5mm離間して配置した場合を示している。
【0116】
次の表6に、レンズ例6による光学ユニット42の諸元の値を示す。なお、レンズ例6におけるレンズの有効径は28.38であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を31.80とした場合を想定している。
【0117】
【0118】
レンズ例6による光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.85であり、第4の設計条件を満たしている。また、第7の条件式による値(=Q)が、0.80であり、第7の設計条件も満たしている。従って、レンズ例6の光学ユニット42は、アイボックス領域を大型化可能であって、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が可能である。また、表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角と最大画角の主光線それぞれ分離でき、中心画角と最大画角の各々について独立して適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能である。
従って、レンズ例6では、アイボックス領域を大型化が可能であり、各種収差の補正も可能であるので、観察者OPが目視する画像の画質向上を期待できる。
【0119】
<レンズ例7>
図16に、レンズ例7として、レンズ例4とは諸元の異なる2群3枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。
図16に示す光学ユニット42は、撮影画像Imから順に、面番号P1、P2、P3、P4、P5の光学面を備えた2群3枚のレンズで形成されている。なお、
図16に示す例では、光学ユニット42を、撮影画像Imから距離d0として10.0mm離間して配置した場合を示している。
【0120】
次の表7に、レンズ例7による光学ユニット42の諸元の値を示す。なお、レンズ例7におけるレンズの有効径は29.46であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を30.47とした場合を想定している。
【0121】
【0122】
レンズ例7による光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.97であり、第4の設計条件を満たしている。また、第7の条件式による値(=Q)が、0.911であり、第7の設計条件も満たしている。従って、レンズ例7の光学ユニット42は、アイボックス領域を大型化可能であって、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が可能である。また、表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角と最大画角の主光線それぞれ分離でき、中心画角と最大画角の各々について独立して適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能である。
従って、レンズ例7では、アイボックス領域を大型化が可能であり、各種収差の補正も可能であるので、観察者OPが目視する画像の画質向上を期待できる。
【0123】
<レンズ例8>
図17に、レンズ例8として、レンズ例5とは諸元の異なる3群3枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。
図17に示す光学ユニット42は、撮影画像Imから順に、面番号P1、P2、P3、P4、P5、P6の光学面を備えた3群3枚のレンズで形成されている。なお、
図17に示す例では、光学ユニット42を、撮影画像Imから距離d0として8.3mm離間して配置した場合を示している。
【0124】
次の表8に、レンズ例8による光学ユニット42の諸元の値を示す。なお、レンズ例8におけるレンズの有効径は29.27であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を29.41とした場合を想定している。
【0125】
【0126】
レンズ例8による光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.99であり、第4の設計条件を満たしている。また、第7の条件式による値(=Q)が、0.919であり、第7の設計条件も満たしている。従って、レンズ例8の光学ユニット42は、アイボックス領域を大型化可能であって、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が可能である。また、表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角と最大画角の主光線それぞれ分離でき、中心画角と最大画角との各々について独立して適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能である。
従って、レンズ例8では、アイボックス領域を大型化が可能であり、各種収差の補正も可能であるので、観察者OPが目視する画像の画質向上を期待できる。
【0127】
<レンズ例9>
図18に、レンズ例9として、レンズ例5及びレンズ例8とは諸元の異なる3群3枚のレンズによる光学ユニット42の構成の一例及び光路の一例を示す。
図18に示す光学ユニット42は、撮影画像Imから順に、面番号P1、P2、P3、P4、P5、P6の光学面を備えた3群3枚のレンズで形成されている。なお、
図18に示す例では、光学ユニット42を、撮影画像Imから距離d0として63.8mm離間して配置した場合を示している。
【0128】
次の表9に、レンズ例9による光学ユニット42の諸元の値を示す。なお、レンズ例9におけるレンズの有効径は27.38であり、撮影画像Imの距離(画像表示領域の距離、又は大きさ)を31.94とした場合を想定している。
【0129】
【0130】
レンズ例9の光学ユニット42は、第4の条件式による値(=d1/d2)が、0.48であり、第7の条件式による値(=Q)が、0.572である。レンズ例9の光学ユニット42は、第7の設計条件を満たしている。従って、表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角と最大画角との各々について適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能である。しかし、レンズ例9の光学ユニット42は、第4の設計条件を満たしていない。従って、光学ユニット42により形成されるアイボックス領域を大型化可能であるものの、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が困難であり、軸外光の収差補正を行うことによって、軸上光の収差が悪化する。
従って、レンズ例9では、アイボックス領域を大型化が可能であり、各種収差の補正が困難な状況を生じるものの、中心画角と最大画角の各々について適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能であることから、第7の設計条件を満たさないレンズに比較して、観察者OPが目視する画像の画質向上を期待できる。
【0131】
以上説明したように、上記設計条件を満たすように光学ユニット42を構成することで、光学ユニット42は、アイボックス領域を大型化可能であって、軸外光のコマ収差、倍率色収差、及びディストーションによる収差補正が可能である。また、表示部30に最も近いレンズ面において、中心画角の主光線と最大画角の主光線とを分離でき、中心画角と最大画角の各々について独立して適切な屈折を与える球面または非球面を定義することが可能である。
【0132】
本実施形態では、光学ユニット42は、光の射出側に射出瞳Expが位置するように構成される。これにより、光学ユニット42の光の射出側、すなわち観察者OPの目視側に広いアイボックス領域IBが形成され、観察者OPの頭部位置設定の自由度を向上させることができる。
【0133】
図19に、本実施形態に係る画像表示装置40における射出瞳Expの一例を示す。
図19に示すように、画像表示装置40における射出瞳Expは、右眼用の射出瞳ExpRと、左眼用の射出瞳ExpLとが形成される。
【0134】
また、本実施形態では、光学ユニット42における光の射出側に射出瞳Expが位置するように形成される。これにより、光学ユニット42の射出瞳を光学ユニット42のレンズ径に対応する大きさに形成することが可能となり、右眼用の射出瞳ExpR、及び左眼用の射出瞳ExpLの直径の最大値は、光学ユニット42のレンズ径に対応する大きさまで拡張することができる。これら右眼用の射出瞳ExpR、及び左眼用の射出瞳ExpLの各々の射出瞳内に観察者OPの各々の眼を位置するようにすれば、観察者OPの右眼用の撮影画像ImR、及び左眼用の撮影画像ImLの各々を観察者OPは視認することができる。従って、本実施形態の眼科システム10では、従来の両眼視の顕微鏡に装備されている眼幅PDを調整する機構は不要である。
【0135】
ところで、右眼用の射出瞳ExpR、及び左眼用の射出瞳ExpLの大きさ、すなわち直径は、光学ユニット42のレンズ径によって制限される。一方では、射出瞳Expの大きさを、より大きくして観察者OPが視認可能な範囲を拡張することが要求される場合がある。この場合、光学ユニット42のレンズ径を眼幅PDより大きくして、光学ユニット42の一部が重複するようにすればよい。
【0136】
すなわち、右眼用の光学ユニット各々42Rと左眼用の光学ユニット42Lを備えて画像表示装置40を構成する場合、右眼用の光学ユニット各々42Rと左眼用の光学ユニット42Lの各々の直径は、撮影画像(表示画像)Imを観察する観察者OPの眼幅PDに対応する距離以下の直径に形成することが好ましい。
画像表示装置40を、観察者OPの眼幅PDに対応する距離の直径を超えて、右眼用の光学ユニット各々42R及び左眼用の光学ユニット42Lの少なくとも一方を構成する場合、右眼用の光学ユニット各々42Rと左眼用の光学ユニット42Lとが重なり合う重複部分が生じる。この場合には、右眼用の光学ユニット各々42Rと左眼用の光学ユニット42Lとが重複しないように、重複部分について右眼用の光学ユニット各々42R及び左眼用の光学ユニット42Lの少なくとも一方の光学ユニットの一部を削除(例えば、所謂Dカット)すればよい。
【0137】
図20に、レンズ径を眼幅PDより大きくした光学ユニット42の構成の一例を示す。
光学ユニット42のレンズ径を眼幅PDより大きくした場合、右眼用の光学ユニット42Rと左眼用の光学ユニット42Lとが干渉するため、右眼用の光学ユニット42Rと左眼用の光学ユニット42Lとの少なくとも一方の光学ユニット42を、干渉する部分を削って形成すればよい。
図20に示す例では、右眼用の光学ユニット42Rと左眼用の光学ユニット42Lとから均等に光学ユニット42の一部を削り出して形成した場合を示している。このようにすることで、右眼用の光学ユニット42Rの光軸と左眼用の光学ユニット42Lの光軸との間隔を、予め設定された眼幅PDを維持した状態で、眼幅PDに対応する直径で光学ユニット42を形成した場合に比べて、大きい射出瞳Expを形成することができる。
【0138】
ところで、光学ユニット42の射出側の外部に、広いアイボックス領域IBを形成することで、観察者OPの頭部位置設定の自由度は向上されるが、観察者OPの眼に外乱光が進入する虞が生じる。これを解消するには、外乱光として観察者OPの眼に至る光路に、外乱光を抑制する抑制部材を設けて外乱光の進入を抑制すればよい。
【0139】
図21に、観察者OPの眼に進入する外乱光を抑制する抑制部材の一例を示す。
図21に示すように、本実施形態に係る画像表示装置40は、右眼用の光学ユニット42Rと左眼用の光学ユニット42Lとを収容する収容ケース41を備えている。収容ケース41は、少なくとも右眼用の光学ユニット42Rと左眼用の光学ユニット42Lとを覆い、右眼用の光学ユニット42Rと左眼用の光学ユニット42Lとへの外乱光を遮光する機能を有している。また、収容ケース41は、右眼用の光学ユニット42R及び左眼用の光学ユニット42Lの各々の光の射出側に、開口部41Hを有している。この開口部41Hは、射出瞳Expに至る光路を遮光しないように形成される。
【0140】
収容ケース41には、開口部41Hの光の射出側、すなわち、観察者OP側に、抑制部材として遮光板43Aが取り付けられている。遮光板43Aは、外乱光を抑制する機能を有すればよく、外乱光を遮光する板などの光学部材、またはNDフィルタなど光の透過を減衰する光学部材を用いることができる。なお、
図21に示す例では、上方及び左右の三方向に遮光板43Aを取り付けた一例を示しているが、外乱光として主要な少なくとも1つの方向の光を抑制する部位に設けてもよく、上下左右を覆うように設けてもよい。遮光板43Aは、本開示の光抑制部の一例である。
【0141】
図22に、観察者OPの眼に進入する外乱光を抑制する抑制部材の他例を示す。
図22に示す例では、収容ケース41に、右眼用の抑制部材43BRと左眼用の抑制部材43BLとが取り付けられている。抑制部材43BR、43BLの各々は、観察者OPの頭部の接触時に違和感を抑制するゴムなどの弾性部材により形成されている。これにより、観察者OPは、頭部を抑制部材43BR、43BLの各々に接触させることで、外乱光を抑制することができる。なお、
図22に示す例では、
図21に示す開口部41Hより小さい径の開口部41Haが抑制部材43BR、43BLの各々に設けられた一例が示されている。開口部41Haの大きさは、観察者OPが頭部を抑制部材43BR、43BLに接触した場合のアイレリーフを想定して、予め定めた形状にしたものである。なお、開口部41Haの大きさは、
図22に示した大きさに限定されないことは勿論である。抑制部材43BR、43BLは、本開示の光抑制部の一例である。
【0142】
・変形例
なお、本実施形態では、眼科装置に適用したシステム(眼科システム)を本開示に係る画像表示装置の一例として説明したが、本開示に係る画像表示装置は、立体視を可能とする他の眼科装置にも適用可能である。例えば、本開示は、アイボックス領域IBを、より大きくして空中像を提示する、すなわちリレーされた射出瞳を提供する他の眼科装置にも適用可能である。このアイボックス領域IBを大きくした画像表示装置を変形例として説明する。
【0143】
図23に、アイボックス領域IBをより大きくした変形例の画像表示装置40Aの構成の一例を示す。
図23に示すように、変形例は、上述した画像表示装置40に、瞳をリレーするリレー部44が取り付けられる。変形例の画像表示装置40Aは、観察対象者の被検眼及び被検眼周辺を撮影部20で撮影し、撮影した撮影画像を上述した画像表示装置40により提示し、リレー部44によって観察者OPに提供する。
【0144】
リレー部44は、筐体46及び光学部材48を含む。筐体46には、光学ユニット42を含む上述した画像表示装置40が取り付けられており、筐体46の内部に光学ユニット42を射出された光が入射される。また、筐体46の内部で光学ユニット42の光の射出側には、光学部材48が光学ユニット42の射出光軸と交差する方向(観察者OPに向う方向)に光を反射するように取り付けられている。リレー部44は、光学ユニット42を射出した光を光学ユニット42の射出光軸と交差する方向に反射し、かつ光学ユニット42の射出瞳Expと共役関係にある位置を反射側に形成する。すなわち、リレー部44は、光学ユニット42の射出瞳Expを観察者OPに向う方向である反射側に再形成することで、射出瞳をリレーする。
【0145】
上述した画像表示装置40が取り付けられたリレー部44の筐体46は、図示を省略した台座に取り付けられており、撮影部20から独立して形成され、かつ観察者OPに対して非接触に形成される。変形例の画像表示装置40Aが観察者OPに対して非接触に形成されることによって、変形例の画像表示装置40Aへの観察者OPの接触により生じる観察者OPの違和感が抑制される。
【0146】
変形例で示される光学部材48の一例には、複数の反射面による複数回の反射によって、等倍の像を結像する光学結像素子を用いることができる。例えば、光学結像素子は、反射面が複数積層され、一方の積層端面から入射された光が反射面で反射されて他方の積層端面から出射される反射部材を複数備える。そして、複数の反射部材が、1つの反射部材の反射面と他の反射部材の反射面とが交差した向きとなり、かつ1つの反射部材の積層端面から出射された光が他の反射部材の積層端面に入射するように配置される。
【0147】
すなわち、光学部材48の一例である光学結像素子に入射された入射光は、第1反射面で反射され、その反射光が第2反射面で反射されて、光学結像素子から出射される。一方、光学結像素子では、第1反射面及び第2反射面が、互いの反射面が交差(直交)した向きに配置される。このように、第1反射面、及び第2反射面が平面視して直交させて配置されている場合、光学結像素子への入射光と光学結像素子から出射光は、光学結像素子を平面視した状態において平行になる。このため、光学結像素子の入射側の物点である複数の光点の各々は、光学結像素子の出射側に集束されて像点として結像される。従って、リレー部44は、光学ユニット42の射出瞳Expと共役関係にある位置に、射出瞳Expを再形成する。
【0148】
なお、光学部材48の一例である光学結像素子は、再帰素子、さらに詳細には再帰透過素子と扱うことができる。再帰反射は、直交する複数の反射面で、素子へ入射された光の方向と逆方向に光を反射する。一方、光学結像素子は、入射光を、入射面とは反対側の面へ透過させ、その際、方向を変えて射出させる性質を有し、光束が光学結像素子の法線に直交する平面を基準として面対称に折り返される。このことは、光学結像素子が空間を折り返す際に、光学結像素子の垂直方向に関しては光束の進行方向を変えない、再帰的に作用させることに対応するので、再帰透過素子と考えることができる。
【0149】
光学結像素子の他例には、交差する複数の反射面を単位光学系とし、その単位光学系を前記複数の反射面と交差する平面方向に複数配列した光制御パネルが挙げられる。制御パネルは所定の平面に略垂直な2つの鏡面を相互に略直交させた構成の単位光学系、例えば、2面コーナーリフレクタを複数並べて形成される。
【0150】
また、本実施形態では、眼科装置に適用したシステムを本開示に係る画像表示装置の一例として説明したが、本開示に係る画像表示装置は、眼科装置に適用した眼科システムに限定されるものではない。すなわち、本開示は、画像を表示する装置であれば本開示に係る画像表示装置は適用可能であり、また、画像を表示する装置を備えたシステムであれば本開示に係る画像表示システムは適用可能である。次に、本開示が適用可能な画像表示装置、及び画像表示装置を備えた画像表示システムの応用例を例示する。
【0151】
・応用例
応用例には、双眼鏡及び潜望鏡等の光学機器によって遠方の対象物を観察する観察システムの表示装置への適用が挙げられる。この遠方の対象物を観察する観察システムに、本開示に係る画像表示装置を適用することで、観察者OPは、画像表示装置40に非接触の状態で遠方の対象物を観察でき、接触により生じる観察者OPの違和感が抑制される。また、光学ユニット42により目視する画像の見かけの大きさは変化しないので、観察者OPの頭部がアイボックス領域内で移動可能になる。従って、双眼鏡及び潜望鏡等の光学機器に観察者OPの頭部を接触する姿勢に比べて、観察者OPの姿勢に大きな許容度が生じる。
また、本実施形態では、眼科装置に適用したシステムを本開示に係る画像表示装置の一例として説明したが、本開示に係る画像表示装置は、複数の観察者の各々が対象物を目視を可能とする場合にも適用可能である。例えば、該システムは、本開示に係る画像表示装置を複数備え、複数の画像表示装置の各々に同一画像を表示させるようにしてもよいし、一部の画像表示装置に画像処理した画像を表示させるようにしてもよい。
【0152】
なお、本開示に関する実施形態を説明したが、本開示の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。本開示の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願及び技術規格は、個々の文献、特許出願及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0153】
10 眼科システム
20 撮影部
22 顕微鏡
24 カメラ
26 カメラコントローラ
30 表示部
40 画像表示装置
42 光学ユニット
IB アイボックス領域
Im 撮影画像
OB 対象物
OP 観察者