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特許7647921分離膜、その製造方法、ろ過方法及び膜ろ過装置
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  • 特許-分離膜、その製造方法、ろ過方法及び膜ろ過装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】分離膜、その製造方法、ろ過方法及び膜ろ過装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/34 20060101AFI20250311BHJP
   B01D 61/08 20060101ALI20250311BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20250311BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20250311BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20250311BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
B01D71/34
B01D61/08
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
C08J9/28 101
C08J9/28 CEW
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023559835
(86)(22)【出願日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2023034606
(87)【国際公開番号】W WO2024070989
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022157515
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022188062
(32)【優先日】2022-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慧
(72)【発明者】
【氏名】西口 芳機
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/241514(WO,A1)
【文献】特開2011-189266(JP,A)
【文献】特開昭58-091731(JP,A)
【文献】特開2004-202438(JP,A)
【文献】特開2006-231274(JP,A)
【文献】国際公開第2021/020571(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 27/00
B01D 29/00
B01D 61/00-58
B01D 63/00-16
B01D 67/00
B01D 69/0-14
B01D 71/06-82
C02F 1/44
C08J 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを含む多孔質樹脂層を有し、
前記多孔質樹脂層において、表面孔径が0.01μm以上、0.05μm未満の孔数Aと、表面孔径が0.05μm以上の孔数Bが、2.0≦A/B≦15.0の関係であり、
前記Aは200個/μm 以上であり、
前記多孔質樹脂層において、表面開孔率が10%以上であり、
前記多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域で短径10μm以上のマクロボイドが存在する、分離膜。
【請求項2】
前記Aと前記Bが、A/B≧2.5の関係である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記Bが100個/μm未満である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項4】
前記多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γm,-の値が、40mJ/m以上である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項5】
前記多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γm,-の値が、45mJ/m以上である、請求項4に記載の分離膜。
【請求項6】
前記多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域で前記マクロボイドが占める空隙率が15%以上である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項7】
前記多孔質樹脂層において、表面孔径が0.01μm以上、0.05μm未満の孔の表面開孔率Cと、表面孔径が0.05μm以上の孔の表面開孔率Dが、C/D≧0.6の関係である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項8】
前記Cと前記Dが、C/D≧0.8の関係である、請求項7に記載の分離膜。
【請求項9】
前記Dが8%未満である、請求項8に記載の分離膜。
【請求項10】
前記多孔質樹脂層と、支持体と、を備えている、請求項1に記載の分離膜。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の分離膜を用いた液体のろ過方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の分離膜を用いた膜ろ過装置。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法であって、
(i)ポリフッ化ビニリデン系樹脂と、親水性樹脂と、第一の非溶媒と、開孔剤と、溶媒とを用い、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂と親水性樹脂を溶解させポリマー溶液を得る、ポリマー溶液調整工程と、(ii)前記ポリマー溶液を、第二の非溶媒を含む凝固浴中で凝固させて、多孔質樹脂層を形成する多孔質樹脂層形成工程とを備える、分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜、その製造方法、ろ過方法及び膜ろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、精密ろ過膜や限外ろ過膜等の分離膜は、浄水又は排水処理等の水処理分野、血液浄化等の医療分野、食品工業分野等、様々な分野で利用されている。
【0003】
上述のように多様に用いられる分離膜は、分離対象物質の堆積、付着、閉塞等(ファウリング)による透水性の低下がおこると、運転の安定性に支障をきたすことがある。この場合、曝気洗浄の曝気量を多くしたり薬品洗浄頻度を多くしたりする必要があり、運転コストの増大につながるため、高透水性で低ファウリングの分離膜が求められている。また、浄水処理では透過水の殺菌や膜のバイオファウリング防止の目的で、次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を膜モジュール部分に添加したり、酸、アルカリ、塩素、界面活性剤などで膜そのものを洗浄したりする。このため、分離膜には化学的耐久性(耐薬品性)が求められる。さらに、水道水製造では、家畜の糞尿などに由来するクリプトスポリジウムなどの、塩素に対して耐性のある病原性微生物が、浄水場で処理しきれず、処理水に混入する事故が1990年代から顕在化している。このような事故を防ぐため、分離膜には、原水が処理水に混入しないよう十分な分離特性と高い物理的耐久性が要求されている。
【0004】
また、精密ろ過膜や限外ろ過膜等の分離膜の処理水は、逆浸透膜又はナノろ過膜で処理することで工業用水または飲用水等として利用されることがある。この時、精密ろ過膜や限外ろ過膜等の分離膜の処理水は、バイオポリマー濃度が高く、逆浸透膜又はナノろ過膜の被処理水として用いた場合、バイオポリマーの付着によるファウリングが発生し、運転の安定性に支障をきたすことがある。
【0005】
優れた耐薬品性を示す分離膜としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むポリマーを含む分離膜が知られている。例えば特許文献1には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むポリマーからなる分離膜の孔径分布を制御して、低ファウリング性及び分離性を向上させる技術が開示されている。また特許文献2においては、分離膜が含むポリフッ化ビニリデン系樹脂として長鎖分岐フルオロポリマーを選択することで、分離膜の孔径を拡大して透水性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特許第5310658号公報
【文献】日本国特表2016-510688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、低ファウリング性とともに透水性の向上を図ることを目的とした、従来のポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むポリマーからなる分離膜では、トレードオフの関係にある双方の性能を十分には両立させることができず、そのどちらか一方が犠牲となることが問題視されてきた。また、分離性と透水性もトレードオフの関係となり、そのどちらか一方が犠牲となることが問題視されてきた。
そこで本発明は、低ファウリング性と分離性と透水性とに優れ、かつ、高い耐薬品性を有する、分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次の(1)~(13)に関する。
(1) ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを含む多孔質樹脂層を有し、
前記多孔質樹脂層において、表面孔径が0.01μm以上、0.05μm未満の孔数Aと、表面孔径が0.05μm以上の孔数Bが、2.0≦A/B≦15.0の関係であり、
前記多孔質樹脂層において、表面開孔率が10%以上であり、
前記多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域で短径10μm以上のマクロボイドが存在する、分離膜。
(2) 前記Aと前記Bが、A/B≧2.5の関係である、前記(1)に記載の分離膜。
(3) 前記Bが100個/μm未満である、前記(1)又は(2)に記載の分離膜。
(4) 前記多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γm,-の値が、40mJ/m以上である、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の分離膜。
(5) 前記多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γm,-の値が、45mJ/m以上である、前記(4)に記載の分離膜。
(6)前記多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域で前記マクロボイドが占める空隙率が15%以上である、前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の分離膜。
(7) 前記多孔質樹脂層において、表面孔径が0.01μm以上、0.05μm未満の孔の表面開孔率Cと、表面孔径が0.05μm以上の孔の表面開孔率Dが、C/D≧0.6の関係である、前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の分離膜。
(8) 前記Cと前記Dが、C/D≧0.8の関係である、前記(7)に記載の分離膜。
(9) 前記Dが8%未満である、前記(8)に記載の分離膜。
(10) 前記多孔質樹脂層と、支持体と、を備えている、前記(1)~(9)のいずれか一項に記載の分離膜。
(11) 前記(1)~(10)のいずれか一項に記載の分離膜を用いた液体のろ過方法。
(12) 前記(1)~(10)のいずれか一項に記載の分離膜を用いた膜ろ過装置。
(13) 前記(1)~(10)のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法であって、
(i)ポリフッ化ビニリデン系樹脂と、親水性樹脂と、第一の非溶媒と、開孔剤と、溶媒とを用い、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂と親水性樹脂を溶解させポリマー溶液を得る、ポリマー溶液調整工程と、(ii)前記ポリマー溶液を、第二の非溶媒を含む凝固浴中で凝固させて、多孔質樹脂層を形成する多孔質樹脂層形成工程とを備える、分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを含むことによる高い耐薬品性を確保しつつ、低ファウリング性と分離性と透水性とに優れた分離膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、「三次元網目構造」を例示する、分離膜の拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。本明細書において、質量基準の割合(百分率、部など)は、重量基準の割合(百分率、部など)と同じである。
【0012】
(分離膜)
本発明の分離膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマー(以下、「特定ポリマー」と称することがある。)からなる多孔質樹脂層を有することを必要とする。
【0013】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデン単独重合体又はフッ化ビニリデン共重合体をいう。ここでフッ化ビニリデン共重合体とは、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーをいい、典型的には、フッ化ビニリデンモノマーと、それ以外のフッ素系モノマー等との共重合体である。そのようなフッ素系モノマーとしては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン又は三フッ化塩化エチレンが挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体は、本発明の効果を損なわない程度に、上記フッ素系モノマー以外のエチレン等が共重合されていても構わない。
【0014】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、大きすぎると分離膜の透水性が低下し、小さすぎると分離膜の低ファウリング性が低下するため、5万~100万が好ましい。分離膜が、薬液洗浄に晒される水処理用途に供される場合、重量平均分子量は10万以上が好ましく、15万以上がより好ましい。また、重量平均分子量は90万以下が好ましく、80万以下がより好ましい。
なお、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定できる。
【0015】
本発明において、「ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする」とは、多孔質樹脂層を構成するポリマーに占めるポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合が、50質量%以上であることをいう。上記割合は、高い耐薬品性を確保するため、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0016】
本発明の分離膜は、優れた低ファウリング性及び分離性を発現させるため、少なくとも一方の表層を多孔質樹脂層で構成し、かかる多孔質樹脂層において、表面孔径が0.01μm以上、0.05μm未満の孔数Aと、表面孔径が0.05μm以上の孔数Bが、A/B≧2.0の関係であることを必要とする。すなわち、多孔質樹脂層の一方の表面においては、径の大きい孔と径の小さい孔とが一定の割合で混在していることを意味する。A/Bの値は、2.5以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。なお、ここでいう表面孔径とは、分離膜の表面となる面における孔径をいう。
【0017】
一方、本発明の分離膜は、優れた透水性を発現させるため、A/B≦15.0の関係であることを必要とする。A/Bの値は、12.0以下であることがより好ましく、10.0以下であることがさらに好ましく、8.0以下であることが最も好ましい。
【0018】
そして、バイオポリマーの除去率を高くするために、前記Bは100個/μm未満であることが好ましく、90個/μm未満であることがより好ましい。
【0019】
また、優れた低ファウリング性を発現するために、前記Aは200個/μm以上であることが好ましく、300個/μm以上であることがより好ましい。
【0020】
本発明の分離膜は、優れた低ファウリング性及び透水性を発現するため、表面開孔率が10%以上であることを必要とする。表面開孔率が高いことで、各孔で分離する対象物質が分散され、ファウリングが起こりにくくなる。表面開孔率は12%以上であることが好ましい。また、表面開孔率の上限は特に限定されないが、例えば30%以下であることが実際的である。
【0021】
多孔質樹脂層の表面孔径及び表面開孔率は以下のように測定される。
多孔質樹脂層の表面を1万倍の倍率で走査型電子顕微鏡(以下、SEM)を用いて観察し、各孔の面積から、孔が円であったと仮定したときの直径を孔径としてそれぞれ算出し、各孔の孔径とすることができる。各孔の面積の和を測定した視野の面積で除した値を表面開孔率とすることができる。
【0022】
本発明の分離膜は、透過水が多孔質樹脂層内を流れるときの流動抵抗を低減し、高い透水性を発現させるため、分離膜の表層を構成する多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが存在することを必要とする。ここで本発明におけるマクロボイドとは、多孔質樹脂層に存在する、短径が10μm以上の大きな空隙のことであり、以下において単に「マクロボイド」という場合はこのような空隙のことをいう。また、短径は、多孔質樹脂層表面と平行方向に測定される孔径である。
【0023】
本発明において、高い透水性を発現するため、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でかかるマクロボイドが占める空隙率は、15%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。また、多孔質樹脂層の強度の観点から、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でかかるマクロボイドが占める空隙率は、80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でかかるマクロボイドが占める空隙率は、例えば15~80%である。
【0024】
本発明の分離膜は、多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γm,-の値が、40mJ/m以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の分離膜は、例えば河川水をはじめとする自然水、凝集剤、活性汚泥や発酵汚泥など含有する水を原液として処理するのに好適である。これらの被処理液はいずれも多種多様な成分を含有し、また、活性汚泥や発酵汚泥の場合は糖、蛋白を含有するが、分離膜のファウリングを構成する成分として膜面に付着し細孔を閉塞する成分が存在する。本発明者らの鋭意検討により、上述の関係を満足するような膜、すなわち多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γm,-を大きくすることで、分離膜とファウリング成分の付着力を低減し、ファウリング生成を抑制することができ、長期安定運転が可能になることがわかった。
【0026】
多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γm,-の値は、45mJ/m以上であることがより好ましい。
【0027】
上記のγm,-の値は、接触角計で測定される、水中での多孔質樹脂層表面と空気との静的接触角、エチレングリコール中での多孔質樹脂層表面と空気との静的接触角、水中での多孔質樹脂層表面とジヨードメタンとの静的接触角に基づき、算出することができる。
【0028】
本発明の分離膜は、優れた低ファウリング性を発現するために、多孔質樹脂層において、表面の水接触角が45°以下であることが好ましい。多孔質樹脂層の表面の水接触角を45°以下にするには、多孔質樹脂層を構成するポリマーに親水性樹脂を含むことが挙げられる。多孔質樹脂層の表面の水接触角は、40°以下であることがより好ましい。
【0029】
ここで「親水性樹脂」とは、水との親和性が高く、水に溶解する樹脂、又は、水に対する接触角がポリフッ化ビニリデン系樹脂よりも小さい樹脂をいう。親水性樹脂としては、例えば、セルロースアセテート若しくはセルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド若しくはポリメタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合体、あるいは、それら重合体の共重合体が挙げられる。多孔質樹脂層を構成するポリマー全体に占める親水性樹脂の割合は、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0030】
本発明の分離膜は、優れた低ファウリング性及び分離性を発現させるため、多孔質樹脂層において、表面孔径が0.01μm以上、0.05μm未満の孔の表面開孔率Cと、表面孔径が0.05μm以上の孔の表面開孔率Dが、C/D≧0.6の関係であることが好ましく、C/D≧0.8の関係であることがより好ましい。また、優れた透水性を発現させるため、C/D≦5.0の関係であることが好ましい。C/Dの値は、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。C/Dは、例えば0.6≦C/D≦5.0の関係を満たす。
【0031】
そして、バイオポリマーの除去率を高くするために、前記Dは、8%未満であることが好ましく、7%未満であることがより好ましい。
【0032】
また、優れた低ファウリング性を発現するために、前記Cは、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
【0033】
本発明の分離膜は、透過水が多孔質樹脂層内を流れるときの流動抵抗を低減するために、多孔質樹脂層に短径50μm以上のマクロボイドが存在することが好ましい。一方、多孔質樹脂層の強度の観点から、マクロボイドの大きさは、短径300μm以下にとどめるのが好ましい。なお短径は、上述のとおり、多孔質樹脂層表面と平行方向に測定される孔径である。
【0034】
透過水が多孔質樹脂層内を流れるときの流動抵抗を低減するために、多孔質樹脂層表面の平均孔径に対する、多孔質樹脂層に存在するマクロボイドの短径の比率は、700以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。
【0035】
ここで、多孔質樹脂層に存在するマクロボイドの大きさは、多孔質樹脂層の表面に対し垂直な方向の断面をSEMで観察することによって求めることができる。
【0036】
マクロボイドが占める空隙率は、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、蛍光物質で染色した多孔質樹脂層を、多孔質樹脂層表面とレーザー光の軸方向が垂直になるように設置し、表面と平行な面として200μm×200μmの範囲を、表面から40μmまでの領域を0.2μm毎に観察し、得られた画像を繋ぎ合わせた三次元画像から、多孔質樹脂層の表面に垂直方向の断面画像を抽出して求めることができる。
【0037】
本発明において多孔質樹脂層は、特定ポリマー同士の絡み合いによる表層のポリマー密度の均質化によって、さらに分離性を高めるため、三次元網目構造を有することが好ましい。ここで「三次元網目構造」とは、図1に示すように、多孔質樹脂層を構成するポリマーが、三次元的に、網目状に広がっている構造をいう。三次元網目構造は、網目を形成するポリマーに仕切られた、細孔及びボイドを有する。
【0038】
本発明の分離膜は、上記のような多孔質樹脂層と、他の層と、を備えることが好ましい。
上記の他の層は、多孔質樹脂層と重なり層状を形成することが可能な構成要素であれば特に限定はされない。上記の他の層は、支持体であることが好ましい。ここで「支持体」とは、多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与えるものである。支持体の材質としては、有機材料、無機材料等、特に限定はされないが、軽量化しやすい点から、有機繊維が好ましい。材質は、さらに好ましくは、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維からなる織布や不織布のようなものである。なかでも、材質は、密度の制御が比較的容易であり、製造も容易で安価な不織布が好ましい。
【0039】
支持体の厚みは、薄すぎると分離膜としての強度を保ちにくくなり、また、極端に厚いと透水性が低下しがちになるので、50μm~1mmの範囲にあるのが好ましい。支持体の厚みは、最も好ましくは、70~500μmの範囲である。
【0040】
本発明において、多孔質樹脂層の厚みは、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。また、多孔質樹脂層の厚みは500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。多孔質樹脂層の厚みは、例えば50~500μmである。多孔質樹脂層が薄すぎると支持体が露出し、汚れ成分が支持体に付着してろ過圧が上昇したり、洗浄してもろ過性能が十分に回復しなかったりする場合がある。また、多孔質樹脂層が厚すぎると透水量が低下することがある。
【0041】
多孔質樹脂層を形成している樹脂の一部は、支持体の少なくとも表層部に入り込み、その少なくとも表層部において支持体との複合層を形成していることが好ましい。支持体に樹脂が入り込むことで、いわゆるアンカー効果によって多孔質樹脂層が支持体に堅固に定着され、多孔質樹脂層が支持体から剥がれるのを防止できるようになる。
【0042】
本発明の分離膜は、運転圧力を低くできる点やファウリングの進行を抑制できる点から、25℃、5kPaにおける純水透水性が、0.15m/m/hr以上であることが好ましく、0.5m/m/hr以上であることがより好ましい。
【0043】
(分離膜の製造方法)
上述した本発明の分離膜は、典型的には、以下において説明するような方法によって製造することができる。
【0044】
本発明の分離膜は、例えば、次の(i)及び(ii)の工程を含む方法により製造できる。
(i)ポリフッ化ビニリデン系樹脂と、親水性樹脂と、第一の非溶媒と開孔剤と溶媒を用い、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂と親水性樹脂を溶解させポリマー溶液を得る、ポリマー溶液調整工程。
(ii)前記ポリマー溶液を、第二の非溶媒を含む凝固浴中で凝固させて、多孔質樹脂層を形成する多孔質樹脂層形成工程。
【0045】
また、本発明の分離膜において、他の層が支持体である場合の製造方法としては、例えば、上記(i)及び(ii)の工程を含み、(ii)多孔質樹脂層形成工程において、支持体の少なくとも一方の表面に多孔質樹脂層を形成する方法が挙げられる。
【0046】
すなわち、まず、前述した支持体の表面に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂と親水性樹脂と第一の非溶媒と開孔剤と溶媒とを含む原液(ポリマー溶液)の被膜を形成するとともに、その原液を支持体に含浸させる。しかる後、該支持体を、第二の非溶媒を含む凝固浴に浸漬して樹脂を凝固させるとともに支持体の表面に多孔質樹脂層を形成する。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、15~120℃の範囲内で選定することが好ましい。
【0047】
支持体の密度は、0.7g/cm以下が好ましく、より好ましくは0.6g/cm以下である。支持体の密度がこの範囲であれば、多孔質樹脂層を形成する樹脂を受け入れ、支持体と樹脂との適度な複合層を形成するのに適している。しかしながら、極端に低密度になると分離膜としての強度が低下しがちになるので、支持体の密度は0.3g/cm以上であるのが好ましい。支持体の密度は、例えば0.3g/cm以上0.7g/cm以下である。ここでいう密度とは、見かけ密度であり、支持体の面積、厚さと重量から求めることができる。
【0048】
非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。上記(i)の工程における第一の非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。上記(i)の工程における第一の非溶媒としては、水や、メタノール、エタノールなどのアルコール類を用いることができる。表面開孔率を10%以上にして、優れた透水性を発現させるために、親水性樹脂を用いた場合、多価アルコールを用いることが好ましい。特に、多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γm,-の値を40mJ/m以上にして、A/Bの値を2.0以上にして、優れた低ファウリング性及び分離性を発現させるために、グリセリンが含まれていることが好ましい。
【0049】
開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであるのが好ましい。例えば、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、界面活性剤等を用いることができる。開孔剤は、任意に選択することができるが、PEGを主成分とする重合体、又は界面活性剤が好ましい。中でも、開孔剤としては、重量平均分子量が10,000以上、50,000以下のPEGを主成分とする重合体、又はポリオキシアルキレン構造、脂肪酸エステル構造及び水酸基を有する界面活性剤を用いることが特に好ましい。これらを開孔剤として用いることで、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域で、マクロボイドの占める空隙率が15%以上になりやすくなる。なお、ここで「主成分とする」とは、開孔剤成分のうち当該成分を50重量%以上含むことをいう。
【0050】
ポリオキシアルキレン構造、脂肪酸エステル構造及び水酸基を有する界面活性剤としては、例えば、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween20)、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween60)、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween80)等が挙げられる。
【0051】
溶媒は、樹脂を溶解するものである。溶媒は、樹脂および開孔剤に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促す。溶媒としては、NMP、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。なかでも、樹脂の溶解性の高いNMP、DMAc、DMF、DMSOを好ましく用いることができる。
【0052】
上記(ii)の工程における第二の非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔やマクロボイドの大きさを制御するように作用する。第二の非溶媒としては、水や、メタノール、エタノールなどのアルコール類を用いることができる。中でも、第二の非溶媒は、廃水処理の容易さや価格の点から水が好ましい。第二の非溶媒は、これらを含む混合物であってもよい。
【0053】
ポリマー溶液調整工程においては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂と、親水性樹脂と、第一の非溶媒と、開孔剤と、溶媒とを用い、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂と親水性樹脂を溶解させたポリマー溶液(原液)を得ることが好ましい。原液において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は5~30重量%、親水性樹脂は0.1~5重量%、開孔剤は0.1~15重量%、溶媒は40~94.4重量%、第一の非溶媒は0.5~20重量%の範囲内にあるのが好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂が極端に少ないと分離膜(多孔質樹脂層)の強度が低くなり、多すぎると透水性が低下することがある。原液中のポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、より好ましくは8~20重量%の範囲内である。親水性樹脂は、少なすぎると多孔質樹脂層の表面の水接触角が増大し、多すぎると表面開孔率が低下することがある。原液中の親水性樹脂の含有量は、より好ましくは0.2~2重量%の範囲である。また、開孔剤は、少なすぎると透水性が低下し、多すぎると分離膜(多孔質樹脂層)の強度が低下したりすることがある。また、極端に多いと多孔質樹脂層中に残存して使用中に溶出し、透過水の水質が悪化したり、透水性が変動したりすることがある。原液中の開孔剤含有量の、より好ましい範囲は、0.5~10重量%である。さらに、溶媒は、少なすぎると原液がゲル化しやすくなり、多すぎると分離膜(多孔質樹脂層)の強度が低下することがある。原液中の溶媒含有量は、より好ましくは、60~90重量%の範囲である。そして、原液中の第一の非溶媒の割合が多すぎると原液のゲル化が起こりやすくなるため、原液において、第一の非溶媒は0.5~20重量%の範囲内にあるのが好ましい。より好ましくは、0.5~15重量%の範囲である。
【0054】
多孔質樹脂層形成工程において、上述のポリマー溶液(原液)を、第二の非溶媒を含む凝固浴中で凝固させて、多孔質樹脂層を形成することが好ましい。凝固浴は、第二の非溶媒、又は第二の非溶媒と溶媒とを含む混合液を用いることができる。凝固浴において、第二の非溶媒は、少なくとも80重量%とするのが好ましい。少なすぎると樹脂の凝固速度が遅くなり、表面の孔径が大きくなったり、マクロボイドが生成されにくくなったりする。より好ましくは85~100重量%の範囲である。なお、凝固浴の温度は、あまり高いと凝固速度が速すぎるようになり、逆に、あまり低いと凝固速度が遅すぎるようになるので、通常、15~80℃の範囲内で選定することが好ましい。より好ましい温度範囲は、20~60℃である。
【0055】
上記他の層が支持体である分離膜を形成する場合は、多孔質樹脂層形成工程において、支持体の少なくとも一方の表面に多孔質樹脂層を形成することが好ましい。支持体への原液の被膜の形成は、支持体に原液を塗布することによったり、支持体を原液に浸漬することによったりすることができる。原液を塗布する場合には、支持体の片面に塗布しても構わないし、両面に塗布しても構わない。このとき、原液の組成にもよるが、密度が0.7g/cm以下である支持体を使用していると、支持体に対する原液の適度な含浸が行われるため好ましい。
【0056】
多孔質樹脂層形成工程の後、溶媒や開孔剤を除去するための洗浄工程を設けることが好ましい。洗浄の方法は溶媒や開孔剤の種類に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば60~100℃の熱水に1~10分間浸漬する方法が挙げられる。
【0057】
製造される分離膜の形状は、多孔質樹脂層形成工程におけるポリマー溶液の凝固の態様により制御することができる。平膜状の分離膜を製造する場合には、例えば、不織布、金属酸化物又は金属等からなるフィルム状の支持体に、ポリマー溶液を塗布したものを凝固浴に浸漬させることができる。
【0058】
中空糸膜状の分離膜を製造する場合には、二重管口金の外周部からポリマー溶液を、中心部から芯液を、同時に第二の非溶媒の入った凝固浴に吐出することができる。芯液としては、ポリマー溶液調製工程における良溶媒等を用いることが好ましい。またポリマー、金属酸化物又は金属等からなる中空糸状の支持体の表面に、分離膜を形成しても構わない。ポリマーからなる中空糸状の支持体の表面に分離膜を形成する方法としては、例えば、三重管口金を用いて、中空糸状の支持体の原料となる溶液と、ポリマー溶液とを同時に吐出する方法、又は、予め製膜した中空糸状の支持体の外表面にポリマー溶液を塗布したものを、凝固浴中の第二の非溶媒を通過させる方法が挙げられる。
【0059】
本発明の分離膜は、限外ろ過膜、精密ろ過膜のいずれにも適用することができる。また、本発明の分離膜に対する被処理水は、特に限定されるものではないが、比較的大きな粒子の懸濁物を含有する、下水や廃水を生物処理する活性汚泥の分離において好適に用いられる。
【0060】
本発明の分離膜の処理水は、逆浸透膜又はナノろ過膜の被処理水として好適に用いられる。本発明の分離膜は分離性が高いため、本発明の分離膜の処理水は、バイオポリマー濃度が低く、逆浸透膜又はナノろ過膜の被処理水として用いた場合、バイオポリマーの付着によるファウリングを抑制できる。
【0061】
上述のようにして得られた本発明の分離膜を用いた膜ろ過装置により、液体のろ過をすることができる。膜ろ過装置としては、例えば、上部にろ過水取出口を有する支持枠の両面にプラスチックネットを介して分離膜を貼り付けたエレメントを、複数枚平行に配置し、底部に散気装置を有する被処理水槽に収容し、ブロア、吸引ポンプ、を備えものが考えられるが、これらに限定されない。
【0062】
液体のろ過方法としては、例えば、比較的大きな粒子の懸濁物を含有する、下水や廃水を生物処理する活性汚泥などの原液を、上記膜ろ過装置を用いて、原液中に含まれる懸濁物などの除去を行うことができるが、これらに限定されない。
【実施例
【0063】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0064】
(i)多孔質樹脂層の表面孔径と孔数及び表面開孔率
分離膜における、多孔質樹脂層の表面について、SEM(株式会社日立ハイテク製;S-5500)を用いて、下記の観察条件で観察し、観察視野内の各孔の面積をそれぞれ測定した。各孔の面積から、孔が円であったと仮定したときの直径を孔径としてそれぞれ算出した。各孔の面積の和を観察視野の面積で除し、表面開孔率を算出した。孔径0.01μm以上、0.05μm未満の孔数を観察視野の面積で除し、単位面積当たりの孔径0.01μm以上、0.05μm未満の孔数Aを算出し、孔径0.05μm以上の孔数を観察視野の面積で除し、単位面積当たりの孔径0.05μm以上の孔数Bを算出した。また、孔径0.01μm以上、0.05μm未満の孔が占める面積を観察視野の面積で除し、孔径0.01μm以上、0.05μm未満の孔の表面開孔率Cを算出し、孔径0.05μm以上の孔が占める面積を観察視野の面積で除し、孔径0.05μm以上の孔の表面開孔率Dを算出した。
加速電圧 :5kV
観察倍率 :3万倍
観察視野 :4.233μm×3.175μm
画像処理ソフト :ImageJ(Wayne Rasband,National Institutes of Health)
なお、任意の10視野について測定を行い、各視野について孔数A及び孔数B、表面開孔率C及び表面開孔率Dを算出し、各平均値を孔数A及び孔数B、表面開孔率C及び表面開孔率Dとした。
【0065】
(ii)水接触角
分離膜を3cm四方に切り、25質量%のエタノール水溶液に一晩浸漬後、水中に2時間以上浸漬置換し、サンプルを作製した。三態系サンプル台(協和界面科学株式会社製)に、多孔質樹脂層の表面が下となるように、サンプルを三態系マグネット(協和界面科学株式会社製)で固定し、蒸留水を入れた三態系セル(協和界面科学株式会社製)に入れ、多孔質樹脂層の表面に気泡を発生させ、接触角計(協和界面科学株式会社製;DropMaster DM500)で、25℃の雰囲気下で、静的接触角を測定し、この値を180°から除した値を水接触角とした。
【0066】
(iii)多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分
分離膜を3cm四方に切り、25質量%のエタノール水溶液に一晩浸漬後、水中に2時間以上浸漬置換し、サンプルを作製した。三態系サンプル台(協和界面科学株式会社製)に、多孔質樹脂層の表面が下となるように、サンプルを三態系マグネット(協和界面科学株式会社製)で固定し、蒸留水又はエチレングリコールを入れた三態系セル(協和界面科学株式会社製)に入れ、多孔質樹脂層の表面に気泡を発生させ、接触角計(協和界面科学株式会社製;DropMaster DM500)で、25℃の雰囲気下で、静的接触角を測定した。また、三態系サンプル台に、多孔質樹脂層の表面が上となるように、サンプルを三態系マグネットで固定し、蒸留水を入れた三態系セルに入れ、多孔質樹脂層の表面にジヨードメタンを滴下し、接触角計を用いて、25℃の雰囲気下で、静的接触角を測定した。得られた接触角から、水、エチレングリコール、ジヨードメタンの多孔質樹脂層表面に対する静的接触角θを求め、下記式1にそれぞれ代入し、4つの式からなる連立方程式をγLW、γ、γについて解き、多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのルイス塩基成分γを求めた。
(γm,LWγl,LW1/2+(γm,+γl,-1/2+(γm,-γl,+1/2
=(1+cosθ)[γl,LW+2(γl,+γl,-1/2]/2 ・・・(式1)
【0067】
ここで、γm,LW、γm,+、γm,-は、それぞれ、多孔質樹脂層の表面自由エネルギーのファンデルワールス成分、ルイス酸成分、ルイス塩基成分を、また、γl,LW、γl,+、γl,-は、それぞれ、各液体の表面自由エネルギーのファンデルワールス成分、ルイス酸成分、ルイス塩基成分を表す。ここで用いた各液体の表面自由エネルギーは、Oss(“Fundamentals of Adhesion”,L.H.Lee(Ed.),p153,Plenum ess,New York(1991))によって提案された表1の値を用いた。
【0068】
(iv)多孔質樹脂層のマクロボイドの短径
分離膜を凍結超薄切片法にて断面測定用サンプルを作成し、SEM(株式会社日立ハイテク製;S-5500)を用いて、下記の観察条件で観察されるマクロボイドの大きさからマクロボイドの短径を算出した。
加速電圧 :5kV
観察倍率 :500倍
観察領域 :256μm×192μm
なお、任意の10視野について測定を行い、観察されたマクロボイドの短径を測定し、平均値を多孔質樹脂層のマクロボイドの短径とした。
【0069】
(v)多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率
分離膜を、蛍光物質(3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-ビス(4-スルホブチル)インドカルボシアニンナトリウム)で染色し、共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製;FV3000)を用いて、多孔質樹脂層表面とレーザー光の軸方向が垂直になるように設置し、表面と平行な面として200μm×200μmの範囲を、表面から40μmまでの領域を0.2μm毎に観察した。得られた画像を繋ぎ合わせた三次元画像から、多孔質樹脂層の表面に垂直方向の断面画像を抽出し、表面から15μmまでの面積S1を算出した。観察された断面画像を樹脂からなる構造部と細孔部とで二値化処理し、多孔質樹脂層の表面から15μm以内を占めるマクロボイドの面積S2を算出した。下記式2から空隙率(%)を算出した。
(空隙率)=S2/S1×100 ・・・(式2)
なお、任意の5枚の画像を測定し、その平均値を空隙率とした。
【0070】
(vi)分離膜の純水透水性
分離膜を直径50mmの円形に切り出し、円筒型のろ過ホルダー(アドバンテック東洋株式会社製、ウルトラホルダーUHP-43K)にセットし、蒸留水を25℃で、圧力5kPaで5分間予備透過させた後、続けて透過させて透過水を3分間採取し、単位時間(h)及び単位膜面積(m)当たりの数値に換算して算出した。
【0071】
(vii)分離膜の閉塞ろ過抵抗
分離膜を直径50mmの円形に切り出し、エタノールに一晩浸漬後、水中に2時間以上浸漬置換し、円筒型のろ過ホルダー(アドバンテック東洋株式会社製、ウルトラホルダーUHP-43K)にセットした。ろ過ホルダーに濃度が7,000mg/Lの活性汚泥(50g)を入れ、攪拌速度を450rpmに調節し、評価温度25℃、膜面1平方メートル当たり、1日の透水量(立方メートル)に換算した膜透過流束を3.0m/m/日で、2分間ろ過し、ろ過中の最初の5秒間の透過水量から算出される汚泥ろ過抵抗をResAxとした。xは2分間の活性汚泥のろ過を繰り返した回数を表し、1回目のろ過においてx=1である。ここでろ過抵抗は下記式5から求めた。
Res=P×t×S/(μ×L) ・・・(式5)
Res : ろ過抵抗
P : 評価圧力
t : ろ過時間
S : 膜面積
μ : 粘度
L : ろ過水量
【0072】
ろ過停止後、攪拌速度を450rpmで1分間撹拌した。分離膜をろ過ホルダーにセットしたままろ過ホルダー内の残存活性汚泥溶液を取り出し、ろ過ホルダー内を蒸留水で満たし、攪拌速度を450rpmで1分間撹拌した。
【0073】
2分間の活性汚泥のろ過と膜洗浄を繰り返し、ResA1~ResA5を測定した。ResAn+1-ResAnをnの値が1から4まで求め、その平均値を閉塞ろ過抵抗上昇度とした。なお、閉塞ろ過抵抗上昇度は、それぞれ値が小さいほど分離膜が低ファウリング性に優れると評価できる。また、表2~表3においては、かかる閉塞ろ過抵抗上昇度を、「閉塞ろ過抵抗」として記載している。
【0074】
(viii)分離膜のバイオポリマー除去性
分離膜を直径50mmの円形に切り出し、25質量%のエタノール水溶液に一晩浸漬後、水中に2時間以上浸漬置換し、円筒型のろ過ホルダー(アドバンテック東洋株式会社製、ウルトラホルダーUHP-43K)にセットした。ろ過ホルダーに濃度が7,000mg/Lの活性汚泥(50g)を入れ、攪拌速度を450rpmに調節し、評価温度25℃、評価圧力5kPaで、20gをろ過し、活性汚泥とろ過水に含まれるバイオポリマー濃度を、サイズ排除液体クロマトグラフィー(DOC-Labor社製、LC-OCD Model 8)を用いて測定し、下記式6からバイオポリマー除去率を求めた。
Rej=100×(1-CP/CF) ・・・(式6)
Rej : バイオポリマー除去率
CF : 原水中のバイオポリマー濃度
CP : ろ過水中のバイオポリマー濃度
【0075】
(ix)逆浸透膜の製造方法
ポリエステル不織布(通気度0.5~1cc/cm/sec)上にポリスルホンの15.7重量%DMF溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜(厚さ210~215μm)を作製した。得られた微多孔性支持膜を20cm四方に切り取り、金属製の枠に固定し、多官能アミン水溶液としてm-フェニレンジアミンの1.8重量%水溶液中に2分間浸漬した。該支持膜を上記水溶液から垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。その後、トリメシン酸クロリド0.065重量%を含む25℃のn-デカン溶液25mlを、支持膜の表面が完全に濡れるように枠内に注ぎ込み、n-デカン溶液と支持膜の最初の接触から1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りし、その後、80℃の熱水で2分間洗浄した。さらに洗浄後の膜を35℃、pH3の0.3重量%亜硝酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬させた後、0.1重量%の亜硫酸ナトリウム水溶液に2分間浸漬し、逆浸透膜を得た。
【0076】
(x)逆浸透膜の透水量保持率
分離膜を直径50mmの円形に切り出し、25質量%のエタノール水溶液に一晩浸漬後、水中に2時間以上浸漬置換し、円筒型のろ過ホルダー(アドバンテック東洋株式会社製、ウルトラホルダーUHP-43K)にセットした。ろ過ホルダーに濃度が7,000mg/Lの活性汚泥(50g)を入れ、攪拌速度を450rpmに調節し、評価温度25℃、評価圧力5kPaで、25gをろ過した。この操作を2回行い、合計50gのろ過水を得た。
また、前記(viii)項で得られた逆浸透膜を直径50mmの円形に切り出し、純水に一晩浸漬後、円筒型のろ過ホルダー(アドバンテック東洋株式会社製、ウルトラホルダーUHP-43K)にセットした。そして、ろ過ホルダーに前記分離膜のろ過水(50g)を入れ、評価温度25℃、評価圧力0.4MPaで、5gをろ過し、ろ過中の最初の1分間の透過水量Lと、最後の5分間の透過水量Lを測定し、透水量保持率L/(5×L)を求めた。
【0077】
(実施例1)
ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」)(重量平均分子量60万)、セルロースアセテート(以下、「CA」)に、溶媒としてDMF、開孔剤としてPEG(重量平均分子量20,000)、第一の非溶媒としてグリセリンを加えて100℃の温度下で十分に攪拌し、次に示す組成比のポリマー溶液を調製した。
PVDF :11重量%
CA :0.4重量%
DMF :73重量%
PEG :9重量%
グリセリン :6.6重量%
【0078】
次いで、密度0.6g/cmのポリエステル繊維製不織布を支持体として、その表面に、調製したポリマー溶液を塗布した。塗布後、直ちに20℃の純水中に5分間浸漬して多孔質樹脂層を形成した。さらに90℃の熱水に2分間浸漬して溶媒であるDMFおよび開孔剤であるPEGを洗い流して、多孔質樹脂層が三次元網目構造を有する分離膜を形成した。
【0079】
得られた分離膜を評価した結果を、表2に示す。多孔質樹脂層における表面孔径が0.01μm以上、0.05μm未満の孔数Aの値は299個/μm、表面孔径が0.05μm以上の孔数Bの値は81個/μm、A/Bの値は3.7、表面開孔率は12.6%、水接触角は39.2°、γm,-の値は50mJ/m、多孔質樹脂層における表面孔径が0.01μm以上、0.05μm未満の孔の表面開孔率Cの値は5.8%、表面孔径が0.05μm以上の孔の表面開孔率Dの値は6.7%、C/Dの値は0.9、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率は37.3%であり、透水性能の指標である純水透水性と、低ファウリング性能の指標である閉塞ろ過抵抗上昇度と、除去性能の指標であるバイオポリマー除去率とは、いずれも優れた値を示した。
【0080】
(実施例2)
ポリマー溶液の組成を次に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、多孔質樹脂層が三次元網目構造を有する分離膜を形成した。
PVDF :12重量%
CA :0.4重量%
DMF :72重量%
PEG :9重量%
グリセリン :6.6重量%
【0081】
得られた分離膜を評価した結果を、表2に示す。Aの値は333個/μm、Bの値は74個/μm、A/Bの値は4.5、表面開孔率は12.2%、水接触角は42.6°、γm,-の値は53mJ/m、Cの値は6.4%、Dの値は5.8%、C/Dの値は1.1、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率は24.9%であり、純水透水性と閉塞ろ過抵抗上昇度とバイオポリマー除去率は、いずれも優れた値を示した。
【0082】
(実施例3)
ポリマー溶液の組成を次に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、多孔質樹脂層が三次元網目構造を有する分離膜を形成した。なお、EGは、エチレングリコールを表す。
PVDF :11重量%
CA :0.4重量%
DMF :70重量%
PEG :9重量%
グリセリン :6.6重量%
EG :3重量%
【0083】
得られた分離膜を評価した結果を、表2に示す。Aの値は363個/μm、Bの値は85個/μm、A/Bの値は4.3、表面開孔率は13.1%、水接触角は42.5°、γm,-の値は58mJ/m、Cの値は7.3%、Dの値は6.6%、C/Dの値は1.1、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率は32.8%であり、純水透水性と閉塞ろ過抵抗上昇度とバイオポリマー除去率は、いずれも優れた値を示した。
【0084】
(実施例4)
ポリマー溶液の組成を次に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、多孔質樹脂層が三次元網目構造を有する分離膜を形成した。
PVDF :12重量%
CA :0.4重量%
DMF :69重量%
PEG :9重量%
グリセリン :6.6重量%
EG :3重量%
【0085】
得られた分離膜を評価した結果を、表2に示す。Aの値は384個/μm、Bの値は57個/μm、A/Bの値は6.7、表面開孔率は10.4%、水接触角は40.8°、γm,-の値は56mJ/m、Cの値は6.5%、Dの値は3.9%、C/Dの値は1.7、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率は27.5%であり、純水透水性と閉塞ろ過抵抗上昇度とバイオポリマー除去率は、いずれも優れた値を示した。
【0086】
(比較例1)
ポリマー溶液の組成を次に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、多孔質樹脂層が三次元網目構造を有する分離膜を形成した。
PVDF :11重量%
DMF :73.4重量%
PEG :9重量%
グリセリン :6.6重量%
【0087】
得られた分離膜を評価した結果を、表3に示す。Aの値は111個/μm、Bの値は97個/μm、A/Bの値は1.1、表面開孔率は14.9%、水接触角は53.5°、γm,-の値は27mJ/m、Cの値は2.4%、Dの値は12.4%、C/Dの値は0.2、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率は29.1%であり、バイオポリマー除去率は、実施例の結果と比較して劣るものであった。
【0088】
(比較例2)
ポリマー溶液の組成を次に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、多孔質樹脂層が三次元網目構造を有する分離膜を形成した。
PVDF :11重量%
CA :0.4重量%
DMF :79.6重量%
PEG :9重量%
【0089】
得られた分離膜を評価した結果を、表3に示す。Aの値は59個/μm、Bの値は81個/μm、A/Bの値は0.7、表面開孔率は15.7%、水接触角は42.4°、γm,-の値は56mJ/m、Cの値は1.3%、Dの値は14.4%、C/Dの値は0.1、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率は17.8%であり、バイオポリマー除去率は、実施例の結果と比較して劣るものであった。
【0090】
(比較例3)
ポリマー溶液の組成を次に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、多孔質樹脂層が三次元網目構造を有する分離膜を形成した。
PVDF :11重量%
DMF :73.4重量%
PEG :9重量%
O :6.6重量%
【0091】
得られた分離膜を評価した結果を、表3に示す。Aの値は40個/μm、Bの値は67個/μm、A/Bの値は0.6、表面開孔率は14.3%、水接触角は50.7°、γm,-の値は32mJ/m、Cの値は0.9%、Dの値は13.4%、C/Dの値は0.1、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率は17.4%であり、閉塞ろ過抵抗上昇度とバイオポリマー除去率は、実施例の結果と比較して劣るものであった。
【0092】
(比較例4)
ポリマー溶液の組成を次に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、多孔質樹脂層が三次元網目構造を有する分離膜を形成した。
PVDF :11重量%
CA :0.4重量%
DMF :82重量%
O :6.6重量%
【0093】
得られた分離膜を評価した結果を、表3に示す。Aの値は122個/μm、Bの値は54個/μm、A/Bの値は2.3、表面開孔率は7.9%、水接触角は43.7°、γm,-の値は46mJ/m、Cの値は2.9%、Dの値は5.0%、C/Dの値は0.6、多孔質樹脂層の表面から15μm以内の領域でマクロボイドが占める空隙率は21.2%であり、閉塞ろ過抵抗上昇度は、実施例の結果と比較して劣るものであった。
【0094】
(逆浸透膜の透水量保持率)
実施例1及び比較例1に記載の分離膜のろ過水を用いて、逆浸透膜の透水量保持率を評価した。
【0095】
実施例1の分離膜のろ過水を用いた場合、逆浸透膜の透水量保持率は、0.60であり、比較例1の分離膜のろ過水を用いた場合、逆浸透膜の透水量保持率は、0.31であり、実施例1の分離膜のろ過水を用いた方が、逆浸透膜の透水量保持率は優れた値を示した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2022年9月30日付で出願された日本特許出願(特願2022-157515)及び2022年11月25日付で出願された日本特許出願(特願2022-188062)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明にかかる分離膜は、高い耐薬品性を確保しつつ、低ファウリング性と分離性と透水性とに優れるため、浄水又は排水処理等の水処理分野、血液浄化等の医療分野、食品工業分野等、様々な分野での利用に好適である。
図1