(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ポリアミド複合断面繊維、ポリアミドマルチフィラメント及びポリアミド複合断面仮撚加工糸
(51)【国際特許分類】
D01F 8/12 20060101AFI20250311BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
D01F8/12 Z
D02G1/02 Z
(21)【出願番号】P 2024508585
(86)(22)【出願日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2024001468
(87)【国際公開番号】W WO2024157895
(87)【国際公開日】2024-08-02
【審査請求日】2024-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2023010788
(32)【優先日】2023-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 雄大
(72)【発明者】
【氏名】岸田 泰輔
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/191090(WO,A1)
【文献】特開2001-279520(JP,A)
【文献】国際公開第2022/018960(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/151220(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/153459(WO,A1)
【文献】特開昭46-37767(JP,A)
【文献】特開平5-214694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 - 8/18
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A~C項を満足する、2種のポリアミドからなるポリアミド複合断面繊維。
A.前記ポリアミド複合断面繊維の繊維断面の複合形態がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型である。
B.前記2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.20以上である。
C.低配向側のポリアミドの配向パラメーターが1.50~3.00の範囲である。
【請求項2】
前記低配向側のポリアミドの結晶化度が10.0~40.0%の範囲である、請求項1に記載のポリアミド複合断面繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアミド複合断面繊維からなる、伸縮伸長率が1.0%以上であるポリアミドマルチフィラメント。
【請求項4】
下記D~G項を満足する、2種のポリアミドからなるポリアミド複合断面仮撚加工糸。
D.前記ポリアミド複合断面仮撚加工糸の繊維断面の複合形態がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型である。
E.前記ポリアミド複合断面仮撚加工糸の伸縮伸長率が30.0%以上である。
F.前記2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.05以上である。
G.低配向側のポリアミドの結晶化度が10.0~40.0%の範囲である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛にした際のソフトストレッチ性に優れた捲縮性を有するポリアミド複合断面繊維に関するものであり、また、耐磨耗性に関しても大きく改良された捲縮性を有するポリアミド複合断面繊維を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカプロアミドやポリヘキサメチレンアジパミドに代表されるポリアミド繊維は、力学特性や寸法安定性に優れるため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等幅広く利用されている。
【0003】
この中でも、特にポリアミド繊維に捲縮性を付与した仮撚加工糸等はストレッチ性を有する織編物用途に好適に用いられるが、ポリアミド単独繊維に仮撚加工等を施したものでは、良好なストレッチ性を有する織編物を得ることは困難であり、従来から組成が互いに異なる2種のポリアミドを繊維横断面においてサイドバイサイドで貼合したり、偏心芯鞘型に複合させたりしたポリアミド複合断面繊維とすることで、ポリアミド繊維に捲縮性を付与し、ストレッチ性を有する織編物を得る方法が提案されている。
【0004】
例えば、組成が互いに異なる2種の結晶性ポリアミドを偏心芯鞘型に複合させ、かつ吸水率と熱収縮応力を規定したポリアミド複合断面繊維(特許文献1)や、粘度が互いに異なる2種のポリアミドをサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に複合させ、かつCF値を規定したポリアミド複合断面繊維(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2021/020354号
【文献】日本国特開2018-3190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の組成が互いに異なる2種の結晶性ポリアミドを偏心芯鞘型に複合させたポリアミド複合断面繊維は、耐磨耗性に必要な繊維の配向特性が適切に制御されていないため、布帛にした際の耐磨耗性が劣位となる等の課題がある。特に、ポリアミド単独繊維と比較すると、同じ結晶性ポリアミドとはいえ、組成が異なるポリアミドを単純に貼り合わせただけであるので剥離等がどうしても発生しやすく、耐磨耗性を著しく低下させる一因となっていた。
【0007】
特許文献2に記載の粘度が互いに異なる2種のポリアミドをサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に複合させたポリアミド複合断面繊維も特許文献1に記載のポリアミド複合断面繊維と同じく耐磨耗性が劣位となる等の課題がある。確かに、粘度が異なるだけで組成が同じポリアミドの貼り合わせにおいては耐磨耗性が良化する可能性はあるものの、それはあくまでポリアミド複合断面繊維においての話であり、ポリアミド単独繊維と比較すると耐磨耗性はどうしても劣位であった。
【0008】
本発明は、耐磨耗性に必要な繊維の配向特性を適切に制御することで、従来技術では困難であった耐磨耗性と捲縮性の両者に優れたポリアミド複合断面繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を達成するために以下の構成を採用する。
(1)下記A~C項を満足する、2種のポリアミドからなるポリアミド複合断面繊維。
A.前記ポリアミド複合断面繊維の繊維断面の複合形態がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型である。
B.前記2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.20以上である。
C.低配向側のポリアミドの配向パラメーターが1.50~3.00の範囲である。
(2)前記低配向側のポリアミドの結晶化度が10.0~40.0%の範囲である、前記(1)に記載のポリアミド複合断面繊維。
(3)前記(1)または(2)に記載のポリアミド複合断面繊維からなる、伸縮伸長率が1.0%以上であるポリアミドマルチフィラメント。
(4)下記D~G項を満足する、2種のポリアミドからなるポリアミド複合断面仮撚加工糸。
D.前記ポリアミド複合断面仮撚加工糸の繊維断面の複合形態がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型である。
E.前記ポリアミド複合断面仮撚加工糸の伸縮伸長率が30.0%以上である。
F.前記2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.05以上である。
G.低配向側のポリアミドの結晶化度が10.0~40.0%の範囲である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維の配向特性を適切に制御することで、耐磨耗性と捲縮性の両者に優れたポリアミド複合断面繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明のポリアミド複合断面繊維の断面の一例を示すもので、(A)~(C)はサイドバイサイド型の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のポリアミド複合断面繊維の断面の一例を示すもので、偏心芯鞘型の概略図である。
【
図3】
図3は、本発明のポリアミド複合断面繊維の断面の一例における、偏心芯鞘型の偏心度合いを説明する概略図である。
【
図4】
図4は、本発明のポリアミド複合断面繊維の製造方法の一例における、吐出される糸条の複合界面と糸条冷却風の向きを説明するもので、(A)は本発明の一例を示す概略図であり、(B)は日本国特許第3769434号公報(日本国特開2000-328349号)に記載の製造方法の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の実施形態(以下、「本実施形態」とも称する。)のポリアミド複合断面繊維は2種のポリアミドからなる。耐磨耗性の観点から、2種ともポリアミドとして複合界面の親和性を高くして界面剥離を抑制することが重要である。
本実施形態におけるポリアミドとは、いわゆる炭化水素が主鎖にアミド結合を介して連結された重合体である。ポリアミドを例示すると、ポリカプロアミド、ポリウンデカンアミド、ポリドデカンアミド、ポリテトラメチレンアジパミド、ポリペンタメチレンアジパミド、ポリペンタメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカンアミド、ポリヘキサメチレントリデカンアミド、及び、それらを主成分とする共重合体が挙げられる。ここで、主成分とは、共重合体100質量部において、50質量部以上であることを意味する。
【0014】
上記2種のポリアミドは、配向度差、すなわち配向パラメーターの差があれば限定されるものではない。上記2種のポリアミドは、同じ組成であっても異なる組成であっても良いが、所望の捲縮性を得るためには、異なる組成のポリアミドが好ましく、例えば、アミノカプロン酸単位で構成されるポリアミド、例えばポリカプロアミド等と、ジカルボン酸とジアミン単位で構成されるポリアミド、例えばポリヘキサメチレンセバカミド等が挙げられる。同じ組成のポリアミドで複合断面繊維を構成する場合は、所望の捲縮性能を得るべく、両者の重合度に差をつける等すれば良い。
【0015】
繊維断面の複合形態を例示すると、サイドバイサイド型、偏心芯鞘型、2重芯鞘型、海島型、多層積層型等が挙げられるが、所望の捲縮性を得る観点から、本実施形態のポリアミド複合断面繊維は、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型のいずれかである。本実施形態のポリアミド複合断面繊維の複合形態におけるサイドバイサイド型は
図1に示すような複合形態をいい、偏心芯鞘型は
図2に示すような複合形態をいう。上記2種のポリアミドがポリアミド(A)及びポリアミド(B)であるとき、サイドバイサイド型に関しては、ポリアミド(A)1とポリアミド(B)2の複合界面(貼合面)が
図1の(A)に示すように直線であっても、
図1の(B)及び
図1の(C)に示すように湾曲していてもよい。また、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型のいずれにおいても、複合比率は2種のポリアミドの成分比率が断面の面積比で2:1~1:2の範囲であることが好ましい。偏心芯鞘型に関しては、芯成分のポリアミド(A)3及び鞘成分のポリアミド(B)4により構成される
図2のような偏心芯鞘型の偏心度合いについては、
図3に示すような複合断面繊維の中心6と芯成分の中心5との線分をL、線分Lを延長して複合断面繊維外周との両交点間の線分をMとしたとき、L/Mが1/8~1/2の範囲にあることが好ましい。
【0016】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維は、配向特性を適切に制御することが耐磨耗性の観点から極めて重要となる。特許文献1や特許文献2に記載のポリアミド複合断面繊維は、この制御を適切に行っていないため、捲縮性能は良好であっても耐磨耗性には劣るものとなっていた。繊維の配向特性に関しては様々な測定方法があるが、本実施形態のポリアミド複合断面繊維における配向特性は、レーザーラマン分光法で測定及び規格化された配向パラメーターを指し、その要旨を以下に記載する。
【0017】
ポリアミドの1640cm-1付近のラマンバンドは、C=Oの伸縮振動モードに帰属され、その伸縮振動方向は分子鎖に対して垂直なモードであり、分子鎖方向と垂直方向に分極率変化を示す。ラマン散乱は、分子鎖の伸縮振動方向と入射光の偏光方向が一致する場合に強く得られることから、C=Oの伸縮振動モードのラマン散乱強度I1640は配向度と相関して変化する。つまり、垂直偏光でのラマン散乱強度と平行偏光でのラマン散乱強度との比をとることで、配向度評価のパラメーターとなる。また、配向に対する異方性が小さいC-H変角バンド(1450cm-1付近)でのラマン散乱強度I1450を垂直偏光、平行偏光それぞれで基準にすることで、各偏光条件(垂直/平行)のラマン散乱強度を配向パラメーターとして規格化することができる。この配向パラメーターは、繊維軸方向への配向度が高いほど大きな値を示し、無配向(均一配向)の場合は1.0となる(最小値)。以下にその式を示す。
配向パラメーター=(I1640/I1450)垂直偏光/(I1640/I1450)平行偏光
【0018】
上記式は、以下の定義を満たす。
垂直条件:繊維長手方向と偏光方向とが直行
平行条件:繊維長手方向と偏光方向とが平行
I1640垂直:垂直条件時の1640cm-1のラマンバンドの強度
I1450垂直:垂直条件時の1450cm-1のラマンバンドの強度
I1640平行:平行条件時の1640cm-1のラマンバンドの強度
I1450平行:平行条件時の1450cm-1のラマンバンドの強度
【0019】
配向パラメーターは実施例で詳細を説明する。
【0020】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維は、2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.20以上であり、好ましくは0.30以上である。かかる範囲とすることで、該繊維の捲縮性能が良好となり、ソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得ることができる。2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.20未満である場合、または、後述する本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸において、2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.05未満である場合、該繊維の捲縮性が発現せず、ソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得ることができない。2種のポリアミドの配向パラメーターの差は、本実施形態の効果を損なわない限りにおいては高い方が良いが、安定したポリアミド複合断面繊維の製造過程を鑑みた場合、2.00以下が好ましい。2種のポリアミドの配向パラメーターの差が2.00を超えると、巻取パッケージフォームの不良や毛羽等が発生する可能性がある。
【0021】
ここで、2種のポリアミドの配向パラメーターの差の絶対値は、以下の式により算出できる。
配向パラメーターの差の絶対値=(高配向側ポリアミドの配向パラメーター)-(低配向側ポリアミドの配向パラメーター)
【0022】
本明細書において、高配向側ポリアミドとは、上記2種のポリアミドのうち、配向パラメーターの値が高いほうのポリアミドのことであり、低配向側ポリアミドとは、上記2種のポリアミドのうち、配向パラメーターの値が低いほうのポリアミドのことである。
【0023】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維は、低配向側ポリアミドの配向パラメーターが1.50~3.00の範囲である。かかる範囲とすることで、該繊維の耐磨耗性が良好となり、従来技術では困難であった、耐磨耗性が大幅に改善されたソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得ることができる。低配向側ポリアミドの配向パラメーターが1.50未満の場合、該繊維の強伸度が著しく低下するため、従来技術と同じく、例え捲縮性能には優れていても、耐磨耗性には劣位な布帛や繊維製品しか得ることができない。低配向側ポリアミドの配向パラメーターが、3.00を超える場合、該繊維が剛直になってしまうため、やはり捲縮性能には優れていても、耐磨耗性には劣位な布帛や繊維製品しか得ることができない。
【0024】
このように、本実施形態のポリアミド複合断面繊維は、単純に2種のポリアミドを複合させるだけではなく、ポリアミド複合断面繊維の配向特性に着目し、2種のポリアミドの配向パラメーターを適切に制御することによってはじめて耐磨耗性と捲縮性能の両者に優れたポリアミド複合断面繊維を得ることが可能となる。2種のポリアミドの配向パラメーターの制御については、紡糸ドラフト、延伸倍率を適正化することが重要であり、詳細は後述する。
【0025】
繊維の結晶化度に関しては様々な測定方法があるが、本実施形態のポリアミド複合断面繊維における結晶化度は、レーザーラマン分光法およびX線回折法にて得られた検量データより、ラマンバンド半値幅を換算して得られる結晶化度を指し、その要旨を以下に記載する。
【0026】
ポリアミドの1640cm-1付近のラマンバンドはC=Oの伸縮振動モードに帰属され、結晶性の解析にも用いられている。結晶化度が増大すると分子配列が均一となるため、分子の振動数のピーク位置が均一化する。結果的にバンド幅がシャープとなることから、バンド幅を解析することで、結晶性に関するパラメーターとなる。ここでは、当該ポリアミド種において、1640cm-1付近の非偏光でのラマンバンドのバンド半値幅とX線回折法で得られた非晶を示すブロードなピークと結晶を示すシャープなピークのピーク面積比より結晶化度を算出し、バンド幅と結晶化度の検量データを作成した。これにより、局所測定が可能なレーザーラマン分光法を用いて、本実施形態のポリアミド複合断面繊維における各成分の結晶化度を算出することができる。結晶化度は実施例で詳細を説明する。
【0027】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維は、低配向側のポリアミドの結晶化度が10.0~40.0%の範囲であることが好ましく、更に好ましくは20.0~35.0%の範囲である。低配向側のポリアミドの結晶化度が10.0%以上であると、ポリアミド複合断面繊維の結晶構造が安定化するため、長期保管後でも安定した高次加工、例えば仮撚、製織、製編、染色等が可能となる。低配向側のポリアミドの結晶化度が40.0%以下であると、捲縮性能を維持しつつ更に耐磨耗性を向上させることが可能となる。
【0028】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維からなるポリアミドマルチフィラメントにおける好ましい伸縮伸長率は1.0%以上である。
本実施形態のポリアミド複合断面繊維からなるポリアミドマルチフィラメントは、1工程法、2工程法等で得られるいわゆる延伸糸や、Partially Oriented Yarn(POY:半延伸糸)がある。伸縮伸長率はそれぞれで好ましい範囲が異なり、延伸糸の好ましい伸縮伸長率は20.0~100.0%、POYの好ましい伸縮伸長率は1.00~100.0%である。捲縮性能を維持しソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得るのに好ましい伸縮伸長率が20.0%以上であるので、そのまま製織等の製品加工に投入する延伸糸は20.0%以上の伸縮伸長率を有することが好ましい。POYに関しては、仮撚加工に投入する際は20.0%以上の伸縮伸長率は不要であるが、1.0%以上の伸縮伸長率があると、仮撚加工した際に延伸糸よりも更に高い30.0%以上の伸縮伸長率を発現しやすくなる。1.0%以上の伸縮伸長率を有するPOYは、例えば、伸縮伸長する程度のコイル捲縮を有するものである。伸縮伸長率は、本実施形態の効果を損なわない限りにおいては高い方が良いが、安定したポリアミド複合断面繊維の製造過程を鑑みた場合、100.0%以下が好ましい。伸縮伸長率が100.0%を超えると、巻取パッケージフォームの不良や毛羽等が発生する可能性がある。
【0029】
本実施形態のポリアミドマルチフィラメントの伸縮伸長率は、JIS L 1013(C法)(2010年度版)で測定する値である。
【0030】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維の単糸繊度は、本実施形態の効果を損なわない範囲において特に限定されないが、単糸繊度が1.0~6.0dtexの範囲であればインナー、アウター等に好適に用いることができる。また、ポリアミドマルチフィラメントの総繊度は、衣料用途を考慮すると、20.0~200.0dtexの範囲であることが好ましい。
【0031】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維は、本実施形態の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を含んでいても良い。この添加剤の例示として、酸化チタンやカーボンブラック等の顔料、マンガン化合物等の耐光剤、ヒンダードフェノールやリン化合物等の酸化防止剤、耐熱剤、難燃剤、導電性付与剤、繊維状強化剤等が挙げられる。
【0032】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維の横断面等の断面形状は、複合形態がサイドバイサイド型、または、偏心芯鞘型であれば、本実施形態の効果を損なわない範囲において適宜選択しても良い。
図2に示すような偏心芯鞘型の場合、芯成分のポリアミド(A)3が低配向側ポリアミドで鞘成分のポリアミド(B)4が高配向側ポリアミドであってもよく、芯成分のポリアミド(A)3が高配向側ポリアミドで鞘成分のポリアミド(B)4が低配向側ポリアミドであってもよいが、好ましくは、芯成分のポリアミド(A)3が高配向側ポリアミドで鞘成分のポリアミド(B)4が低配向側ポリアミドである。例示すると、真円、楕円、三葉、四葉、十字、中空、扁平断面等が挙げられるが、真円とすることが溶融紡糸性、紡糸容易性の観点から好ましい。
【0033】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維からなるポリアミドマルチフィラメントには、前記の通り、延伸糸、POY:半延伸糸があるが、これらを更に仮撚加工することで、耐磨耗性と捲縮性の両者を更に大きく向上させることが可能となる。仮撚加工には、POYを投入するのが加工容易性の観点から好ましいが、延伸糸も仮撚加工に投入し更に伸縮伸長率を向上させることもできる。
【0034】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維の繊維断面の複合形態がサイドバイサイド型の場合には、これを仮撚加工して得られるポリアミド複合断面仮撚加工糸の繊維断面の複合形態もサイドバイサイド型となり、本実施形態のポリアミド複合断面繊維の繊維断面の複合形態が偏心芯鞘型の場合には、これを仮撚加工して得られるポリアミド複合断面仮撚加工糸の繊維断面の複合形態も偏心芯鞘型となる。
【0035】
また、本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸においては、2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.05以上となり、好ましくは0.09以上となる。2種のポリアミドの配向パラメーターの差が絶対値で0.05未満である場合は捲縮が乏しく、ソフトストレッチ性を得ることができない。つまり、2種のポリアミド(高配向側ポリアミドと低配向側ポリアミド)が、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型のいずれかで複合断面繊維からなるポリアミド複合断面仮撚加工糸となる。
【0036】
本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸に係る配向パラメーターの算出方法及び配向パラメーターの差の絶対値の算出方法は、本実施形態のポリアミド複合断面繊維に係る配向パラメーターの算出方法及び配向パラメーターの差の絶対値の算出方法と同じである。
【0037】
本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸は、伸縮伸長率が30.0%以上であり、好ましくは50.0%以上である。捲縮性能を維持しソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得るのに好ましい伸縮伸長率は20.0%以上であるが、究極的なソフトストレッチ性を得るためには、本実施形態のポリアミド複合断面繊維からなるポリアミドマルチフィラメントを仮撚加工して伸縮伸長率を30.0%以上とすることが重要となる。本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸は、前駆体であるポリアミド複合断面繊維の配向特性が適切に制御されており、それを仮撚加工することによって、より伸縮伸長率が高い仮撚加工糸を得ることが可能となる。本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸の伸縮伸長率の測定方法は、本実施形態のポリアミドマルチフィラメントの伸縮伸長率の測定方法と同じである。
【0038】
本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸は、低配向側のポリアミドの結晶化度が10.0~40.0%の範囲であり、好ましくは20.0~35.0%の範囲である。低配向側のポリアミドの結晶化度が10.0%以上であると、該仮撚加工糸の結晶構造が安定化するため、長期保管後でも安定した高次加工、例えば、製織、製編、染色等が可能となる。低配向側のポリアミドの結晶化度が40.0%以下であると、捲縮性能を維持しつつ更に耐磨耗性を向上させることが可能となる。本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸に係る低配向側のポリアミドの結晶化度の測定方法は、本実施形態のポリアミド複合断面繊維の低配向側のポリアミドの結晶化度の測定方法と同じである。
【0039】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維やポリアミド複合断面仮撚加工糸は、公知の方法に従い製織、製編可能である。また、織編物の組織は限定されるものではない。織物の場合、その組織は、使用される用途によって平組織、綾組織、朱子組織やそれらの変化組織、混合組織のいずれであっても構わないが、織物の地合いがしっかりしたふくらみ感のある織物とするには、拘束点の多い平組織、平組織と石目、ナナコ組識を組み合わせたリップストップ組識が好ましい。編物の場合、その組織は、使用される用途によって丸編地の天竺組織、インターロック組織、経編地のハーフ組織、サテン組織、ジャカード組織やそれらの変化組織、混合組織のいずれであっても構わないが、編地が薄くて安定性が有り、かつ、伸長率にも優れる点からシングルトリコット編地のハーフ組織地などが好ましい。
【0040】
本実施形態の織編物の用途は限定されるものでないが、衣料用途が好ましく、更に好ましくは、ダウンジャケット、ウインドブレイカー、ゴルフウエアー、レインウエアーなどに代表されるスポーツ、カジュアルウエアーや婦人紳士衣料である。
【0041】
以下、本実施形態のポリアミド複合断面繊維およびそれからなるポリアミドマルチフィラメントの製造方法について説明する。
【0042】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維に用いる2種のポリアミドは、同じ組成であっても異なる組成であっても良いが、所望の捲縮性を得るためには、異なる組成のポリアミドからなることが好ましく、例えば、ポリカプロアミドとポリヘキサメチレンセバカミドは好ましい組み合わせのひとつである。同じ組成のポリアミドで複合断面繊維を構成する場合は、両者の重合度に差をつける等すれば良いが、例えば、片方にのみ酸化チタンを混合する等で組成差を生じさせた場合はこの限りではない。特許文献1や特許文献2に記載のポリアミド複合断面繊維は、好ましい2種のポリアミドの重合度差や溶融粘度差を規定しているが、これらはさして重要ではない。2種のポリアミドの重合度や溶融粘度が全く同じでも、後工程で配向挙動や結晶構造に差が生じるポリアミドの組み合わせであれば良く、後述の紡糸ドラフト、延伸倍率を適切に制御する方がより重要である。
【0043】
製造工程の溶融部について説明する。2種のポリアミドを溶融するに際し、プレッシャーメルター法あるいはエクストルーダー法が挙げられるが、特に限定されるものではない。溶融温度は、ポリアミド樹脂の融点を考慮して適宜決定して良いが、融点より20~60℃高い温度で2種のポリアミドを別々に溶融することが好ましい。
紡糸温度についても溶融温度と同様に、ポリアミド樹脂の融点を考慮して適宜決定して良い。なお、ここでいう紡糸温度とは、ポリマー配管、計量ポンプ、紡糸口金等を保温しているいわゆる保温温度(スピンブロック温度)である。
【0044】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維およびそれからなるポリアミドマルチフィラメントの製造方法については、紡糸ドラフト、延伸倍率を適切に制御することが重要である。これらを制御する観点から直接紡糸延伸法が優れており、以下に直接紡糸延伸法での製造方法について例示する。
【0045】
図4に示すように、別々に溶融された2種のポリアミドは、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型を形成する複合紡糸口金9にそれぞれ計量・供給される。ここで2種のポリアミドは合流し、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型のポリアミド複合断面繊維として口金吐出孔10より吐出される。サイドバイサイド型で複合界面が直線の場合、
図4の(A)に示されるように、複合界面11が、チムニー7等の糸条冷却装置による後述の糸条冷却風8の向きに対して平行となるように2種のポリアミドを配置して、糸条、すなわちポリアミド複合断面繊維を吐出させることが好ましい。サイドバイサイド型で複合界面が曲線の場合は、複合界面の2点の端部を結んだ直線が糸条冷却風の向きに対して平行となるように、偏心芯鞘型の場合は、芯成分のポリアミドの長手方向が糸条冷却風の向きに対して平行となるように、2種のポリアミドを配置して糸条を吐出させることが好ましい。2種のポリマーの配置については、例えば、日本国特許第3769434号公報(日本国特開2000-328349号)等に記載されている通り、
図4の(B)に示されるように、高収縮性(高配向側)ポリマー14を糸条冷却風8の風上側に配置し、低収縮性(低配向側)ポリマー15を糸条冷却風8の風下側に配置することが捲縮性能発現の観点からは一般的であるが、この方法では、低収縮性ポリマー15がなかなか冷却されないため、高収縮性ポリマー14にのみ紡糸応力が集中して、紡糸糸切れが発生することがある等、紡糸操業性の観点から好ましくない場合がある。ここで、上記高収縮性(高配向側)ポリマー14は本実施形態の高配向側に相当し、上記低収縮性(低配向側)ポリマー15は本実施形態の低配向側に相当するものである。
本実施形態では、後述の紡糸ドラフト、延伸倍率を適切に制御することにより捲縮性能や耐磨耗性の向上を実現しており、この系においては、
図4の(A)に示されるように、複合界面11が糸条冷却風8の向きに対して平行となるように2種のポリアミドを配置して吐出させ、2種のポリアミドを均等に冷却する方が紡糸操業性の観点から好ましい。
【0046】
吐出された糸条は、該糸条より出てくる気体状の低重合物成分を吸引除去された後(MO吸引)、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹きあてることにより糸条を室温まで冷却し、給油装置で給油するとともに集束し、流体処理装置で交絡する。必要に応じて、再度、給油装置で給油するとともに集束し、引取ローラーで適切な紡糸ドラフトを受け、延伸ローラーを通過し、その際は引取ローラーと延伸ローラーの周速度の比に従って適切に延伸する。延伸後の繊維は、延伸糸またはPOY:半延伸糸問わず熱セットすることが極力好ましく、以後、巻取装置で巻き取られる。
【0047】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維およびそれからなるポリアミドマルチフィラメントの製造方法について、紡糸ドラフトは好ましくは100~300の範囲であり、より好ましくは150~250の範囲である、なお、ここでいう「紡糸ドラフト」とは、引取ローラー周速度を口金吐出線速度で除した値である。また、ここでいう「口金吐出線速度」とは、口金吐出孔1孔あたりの吐出質量を溶融ポリマー密度で除した吐出容量(体積)を算出し、この値を口金吐出孔断面積で除した値である。紡糸ドラフトをかかる範囲とすることで、本実施形態における2種のポリアミドの配向特性を適切に制御することができるので、耐磨耗性と捲縮性能の両者に優れたポリアミド複合断面繊維が可能となり、ソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得ることができる。紡糸ドラフトが100未満である場合、2種のポリアミドの配向パラメーターの差がでないため、該繊維の捲縮性が発現せず、ソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得ることができない傾向がある。紡糸ドラフトが300を超える場合、低配向側のポリアミドの配向パラメーターが高くなるため、該繊維が剛直になり、従来技術と同じく、例え捲縮性能には優れていても、耐磨耗性には劣位な布帛や繊維製品しか得ることができない傾向がある。
【0048】
延伸倍率については、好ましくは1.05~2.40倍の範囲であり、より好ましくは1.07~2.00倍の範囲である。なお、ここでいう「延伸倍率」とは、延伸ローラー周速度を引取ローラー周速度で除した値である。延伸倍率をかかる範囲とすることで、本実施形態における2種のポリアミドの配向特性を適切に制御することができるので、耐磨耗性と捲縮性能の両者に優れたポリアミド複合断面繊維が可能となり、ソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得ることができる。延伸倍率が1.05倍未満である場合、配向が進まず、配向パラメーターが小さくなるため、該繊維の捲縮性が発現せず、ソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得ることができない傾向がある。また、低配向側のポリアミドの配向パラメーターも小さくなるため、該繊維の強伸度が低下し、布帛や繊維製品にした際の実用耐久性が大きく低下する傾向がある。延伸倍率が2.40倍を超える場合、低配向側のポリアミドの配向パラメーターが高くなるため、該繊維が剛直になり、従来技術と同じく、例え捲縮性能には優れていても、耐磨耗性には劣位な布帛や繊維製品しか得ることができない傾向がある。
【0049】
熱セットについては、延伸糸、POY:半延伸糸問わず、熱セットすることが好ましい。熱セット温度は、100~200℃の範囲が好ましく、更に好ましくは130~190℃の範囲である。熱セット温度が100℃以上であると、前記の紡糸ドラフトや延伸倍率を適切に制御して得られた配向パラメーターが緩和されず、その結果として、2種のポリアミドの配向パラメーターの差を維持でき、該繊維の捲縮性が発現し、ソフトストレッチ性に富んだ布帛や繊維製品を得ることができる。また、低配向側のポリアミドの結晶化度も高くなるため、結晶構造が安定し、長期保管後でも安定した高次(仮撚、製織、製編、染色等)加工が可能となる。熱セット温度が200℃以下であると、低配向側のポリアミドの配向パラメーターが低くなるため、該繊維の柔性を維持でき、ソフトストレッチ性と耐磨耗性の両者に優れた布帛や繊維製品を得ることができる。
【0050】
本実施形態のポリアミド複合断面繊維からなるポリアミドマルチフィラメントには、前記の通り、延伸糸、POY:半延伸糸、があるが、POYについても前記の通り熱セットすることが好ましい。通常、ポリアミドPOYは熱セットしないことが多い。これは、POYの段階で熱セットすると繊維の結晶化が進行して、撚りの変形を受ける非晶歪み部分が減少するためであり、これで得られる仮撚加工糸の捲縮性能は低いものとなる。しかし、本実施形態における2種のポリアミドにおいては、配向パラメーターの制御の方がより重要であり、配向パラメーターを適切に制御すべく、POYについても熱セットすることが好ましい。
【0051】
熱セット方法については、直接紡糸延伸法で例示すると、延伸後に糸条と加熱体を接触させて施すものである。延伸ローラー内部に加熱ヒーターを具備し、延伸ローラーに把持(接触)された糸条を熱セットする方法を好ましく用いる。
【0052】
巻取速度については、本実施形態における2種のポリアミドの配向パラメーターや結晶化度、伸縮伸長率といった各種パラメーターが所望の範囲となり、かつ、安定した製造が可能となる範囲で適宜設定すれば良いが、3000~5000m/分の範囲が好ましい。
本実施形態のポリアミド複合断面仮撚加工糸については、従来公知の仮撚加工の手法により得ることができ、好ましくは、延伸摩擦仮撚加工装置にて仮撚加工が施される。
【0053】
例示すると以下の通りである。例えば、延伸摩擦仮撚加工装置に供給された本実施形態の仮撚加工用ポリアミド糸は、所望の糸道ガイドや流体処理装置を介して供給ローラーへと送られる。その後、加熱された仮撚ヒーター、冷却板および延伸摩擦仮撚を行う施撚体を通して延伸ローラーに導かれ、仮撚加工糸として巻き取られる。延伸摩擦仮撚としては、延伸摩擦仮撚加工装置の供給ローラー以前に熱ピンやホットプレートによる延伸を加えられた後に摩擦仮撚加工を行ってもよいし、供給ローラーと延伸ローラーの間で延伸されながら摩擦仮撚加工を行ってもよい。
【0054】
施撚体としてもピンタイプやフリクションタイプ、ベルトニップタイプなど限定されるものではない。捲縮を強めたいときにはピンタイプを用いることが好ましいし、加工速度を上げて生産コストを下げたいときにはフリクションタイプ、ベルトニップタイプを用いることが好ましい。
【0055】
加熱方式としても高温接触型ヒーターや高温非接触型のヒーターなどが挙げられ、限定されないが、高温接触型ヒーターでしっかりと糸条に熱を掛けて、繊維内の分子を再配列させて歪みを緩和することが、高い捲縮性能が得られるために必要である。そのため、高温接触型ヒーターの方が好ましく、その加工温度、すなわち接触式熱板のヒーター設定温度は、170~200℃が好ましい。
【0056】
冷却方法として、冷却板を用いる方法や、空冷、水冷による方法などが挙げられ、限定されない。冷却板を用いる方法、空冷、水冷による方法においては、水冷による方法が最も冷却効率がよいが糸のダメージが大きく、空冷による方法が最も冷却効率が悪いが糸のダメージが小さい。なお、水冷による方法は、工程が複雑で、生産性に劣る傾向がある。効率と糸のダメージを考慮すると、冷却板を用いることが好ましい。
【0057】
加撚張力T1に対する解撚張力T2の比(T2/T1)は0.7~1.0であることが好ましい。T2/T1が1.0以下、すなわち解撚張力T2が小さい場合には、毛羽の発生、つまり単糸切れを抑制できるため、施撚体後の糸切れが少なくなり、安定した延伸摩擦仮撚加工が可能となり、得られた仮撚加工糸も品位に優れたものとなる。T2/T1を0.7以上にすることで、解撚不良を抑制できるため、高い捲縮が得られる。ここで、加撚張力とは施撚体より上流の撚りが加わる部分の張力であり、解撚張力とは施撚体より下流の撚りがほどける部分での張力である。加撚張力および解撚張力は、テンションメーターにより測定できる。
【0058】
糸条走行速度である延伸ローラーの速度Yに対する施撚体の表面速度Dの比(D/Y比)が1.0~2.0であることが好ましい。D/Y比を1.0以上にすることで、加撚張力T1と解撚張力T2のバランスが良く、毛羽、糸切れの無い延伸摩擦仮撚加工を行うことができる。また、D/Y比を2.0以下にすることで、施撚体の表面摩耗が抑制され、数十時間に及ぶ連続運転においても糸長手方向の品質が安定する他、毛羽や糸切れのない延伸摩擦仮撚加工が実現される。
【実施例】
【0059】
次に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における特性値の測定法等は次の通りである。
【0060】
A.配向パラメーター
ラマン分光法により測定し、Jobin Yvon/愛宕物産社製 T-64000を使用し、測定モード:顕微ラマン、対物レンズ:×100、ビーム径:1μm、光源:Ar+レーザー/514.5nm、レーザーパワー:100mW、回折格子:Single 600、1800gr/mm、スリット:100μm、検出器:Jobin Yvon社製CCD 1024×256の条件にて測定を行った。
【0061】
測定試料はマルチフィラメントから単糸1本を取り出し、単糸の捲縮に合わせてカールする状態で固定した。カールする内側を高配向側ポリアミド、外側を低配向側ポリアミドとし、各成分に対して垂直に偏光を照射することで分析した。照射した偏光は繊維長手方向と一致する平行偏光(||)、直交する垂直偏光(⊥)であり、ポリアミドのC=Oの伸縮振動モードに帰属される1640cm-1付近のラマンバンド、C-Hの変角バンドに帰属される1450cm-1付近のラマンバンドを各成分、各偏光で読み取り、以下の式で算出する。なお測定はマルチフィラメントから無作為に採取した単糸5本に対し、各単糸の各成分(高配向側ポリアミド、低配向側ポリアミド)に対してそれぞれ3回測定した平均値を用いて算出した。
配向パラメーター=(I1640/I1450)垂直偏光/(I1640/I1450)平行偏光
配向パラメーターの差の絶対値=(高配向側ポリアミドの配向パラメーター)-(低配向側ポリアミドの配向パラメーター) 。
【0062】
B.結晶化度
ラマン分光法により測定し、Jobin Yvon/愛宕物産社製 T-64000を使用し、測定モード:顕微ラマン、対物レンズ:×100、ビーム径:1μm、光源:Ar+レーザー/514.5nm、レーザーパワー:100mW、スリット:100μm、検出器:Jobin Yvon社製CCD 1024×256の条件にて測定を行った。
測定試料はマルチフィラメントから単糸1本を取り出し、単糸の捲縮に合わせてカールする状態で固定した。カールする外側を低配向側とし、カールする外側の成分に対して垂直に光を照射することで分析した。ポリアミドのC=Oの伸縮振動モードに帰属される1640cm-1付近のラマンバンドの半値幅を読み取り、低配向側ポリアミドの結晶化度に変換した。半値幅から結晶化度への変換は、事前に結晶化度の異なるポリアミドの単独糸を用意し、上記の半値幅と、XRDを測定することで検量線を作成し、変換した。なお測定はマルチフィラメントから無作為に採取した単糸5本に対し、各単糸の低配向側ポリアミド成分に対して3回測定した平均値を用いて算出した。
【0063】
C.伸縮伸長率
JIS L 1013(C法)(2010年度版)に準じて、伸縮伸長率を測定した。ただし、熱処理方法は、90℃の温度の温水中に荷重を掛けず20分間処理した。
【0064】
D.総繊度、単糸繊度
周長1mの検尺機に糸条試料をセットし、250回転させて、ループ状カセを作成し、熱風乾燥機にて乾燥(105±2℃×60分)後、秤量天秤にてカセ質量を量り、公定水分率分を乗じた値から総繊度を算出した。なお、公定水分率は一律4.5%とした。単糸繊度は算出して得られた総繊度をフィラメント数で除した値とした。
【0065】
E.98%硫酸相対粘度
試料0.25gを濃度98質量%の硫酸100mlに対して1gになるように溶解し、オストワルド型粘度計を用いて25℃での流下時間T1を測定した。引き続き、濃度98質量%の硫酸のみの流下時間T2を測定した。T2に対するT1の比、すなわちT1/T2を98%硫酸相対粘度とした。
【0066】
F.布帛ストレッチ
JIS L 1096(A法)(定速伸長法:2010年度版)に準じて、インストロン社製引張試験機を用い、経方向と緯方向に幅50mm×300mmの試料を、つかみ間隔200mmで引張速度200mm/分、14.7Nまで伸長したときの伸長率を測定した。測定結果を下記の通り階層分けし、合格は◎、○とした。
◎:25.0%以上
○:15.0%以上25.0%未満
△:10. 0%以上15.0%未満
×:10.0%未満 。
【0067】
G.布帛耐磨耗性(マーチンデール法)
JIS L 1096(A法)(摩擦強さ:2010年度版)E法に準じて、耐磨耗性を測定した。測定結果を下記の通り階層分けし、合格は◎、○とした。
◎:5級
○:4級以上~5級未満
△:3級以上~4級未満
×:3級未満 。
【0068】
実施例1~4、6、7、比較例3~5
芯成分のポリアミド(A)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:3.25、チップ水分率100ppm)を290℃で、鞘成分のポリアミド(B)としてポリヘキサメチレンセバカミド(98%硫酸相対粘度:2.70、チップ水分率1500ppm)を270℃で、それぞれプレッシャーメルターで溶融して、偏心芯鞘用複合紡糸口金(24孔×2群、丸孔)を用いて吐出した。本明細書において、ポリカプロアミドをN6、ポリヘキサメチレンセバカミドをN610とも称する。
【0069】
なお、ポリアミド(A)とポリアミド(B)の面積比(ポリアミドA/ポリアミドB)と、複合断面繊維全体での中心と芯部の中心との線分をL、線分Lを延長した直線と複合断面繊維外周との両交点間の線分をMとしたときのL/Mと、紡糸ドラフトは表1に示す通りである。
【0070】
また、糸条冷却風の向きと複合界面の向きが平行となるようにポリアミド(A)とポリアミド(B)を配置して吐出した。吐出した糸条をMO吸引し、ユニフローチムニーによって冷却風(風速30m/分、風温20℃)を吹きあてて糸条を室温まで冷却固化した。冷却固化した糸条を給油装置により含水油剤を給油した後、流体処理装置で交絡を付与し、再度、給油装置により含水油剤を給油した。
【0071】
延伸について、引取ローラー周速度、延伸ローラー周速度、延伸倍率は表1に示す通りであり、熱セットについては、延伸ローラー内部に加熱ヒーターを具備し、延伸ローラーに接触させることによって行い、延伸ローラー表面温度(熱セット温度)は表1に示す通りである。延伸、熱セット後、巻取機にて巻き取り、66dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維からなるマルチフィラメントを得た。
【0072】
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側のポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側のポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表1に示す。
【0073】
得られたマルチフィラメントについて、フリクションタイプの延伸摩擦仮撚加工装置にて、加工温度(接触式熱板ヒーター設定温度)160℃、延伸倍率1.25、D/Y比1.95、T2/T1=0.81にて延伸同時仮撚り加工を行い、約56dtex24フィラメントの仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸について、配向パラメーター差、低配向側のポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度を測定した。これらの結果を表1に示す。
なお、仮撚加工糸の複合形態は、その仮撚加工糸の製造に用いたポリアミド複合断面繊維の複合形態と同じであった。
【0074】
得られた仮撚加工糸で、タテ密度を116本/2.54cm、ヨコ密度を84本/2.54cmの平組織を用いたゾッキ織物を作製し、液流によって精練と染色加工行い、布帛の乾熱セットは適宜調整した。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
実施例5
延伸後の熱セットをしない以外の、ポリマー構成、温度、複合形態については、実施例1と同様にし、それ以外の条件は表2記載のようにして、溶融紡糸し、66dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を得た。得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表2に示す。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、実施例1と同様の仮撚加工を行い、約56dtex24フィラメントの仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸について、配向パラメーター差、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度を測定した。これらの結果を表2に示す。
得られた仮撚加工糸から実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0077】
比較例1
ポリヘキサメチレンアジパミド(98%硫酸相対粘度:2.63、チップ水分率1100ppm)を290℃で、プレッシャーメルターで溶融して、紡糸口金(24孔×2群、丸孔)を用いて吐出する、延伸後の熱セットをしない以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約66dtex24フィラメントのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を得た。本明細書において、ポリヘキサメチレンアジパミドをN66とも称する。
得られたポリヘキサメチレンアジパミド繊維について、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表2に示す。
得られたポリヘキサメチレンアジパミド繊維について、加工温度を195℃とする以外は、実施例1と同様の仮撚加工を行い、約56dtex24フィラメントの仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸について、伸縮伸長率、総繊度を測定した。これらの結果を表2に示す。
得られた仮撚加工糸から実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0078】
比較例2
芯成分のポリアミド(A)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:3.25、チップ水分率100ppm)を290℃で、鞘成分のポリアミド(B)としてポリヘキサメチレンセバカミド(98%硫酸相対粘度:2.70、チップ水分率1500ppm)を270℃で、それぞれプレッシャーメルターで溶融して、二重芯鞘(同心円)用複合紡糸口金(24孔×2群、丸孔)を用いて吐出する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約66dtex24フィラメントのポリアミド二重芯鞘(同心円)断面繊維を得た。
得られたポリアミド二重芯鞘(同心円)断面繊維について、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド二重芯鞘(同心円)断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表2に示す。
得られたポリアミド二重芯鞘(同心円)断面繊維について、実施例1と同様の仮撚加工を行い、約56dtex24フィラメントの仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸について、伸縮伸長率、総繊度を測定した。これらの結果を表2に示す。
得られた仮撚加工糸から実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0079】
実施例8
糸条冷却風の向きと複合界面の向きが垂直となるようにポリアミド(A)とポリアミド(B)を配置(冷却風の風上側がポリアミド(A)、風下側がポリアミド(B))する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約66dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を得た。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表2に示す。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、実施例1と同様の仮撚加工を行い、約56dtex24フィラメントの仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸について、配向パラメーター差、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度を測定した。これらの結果を表2に示す。
得られた仮撚加工糸から実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0080】
実施例9
芯成分のポリアミド(A)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:3.25、チップ水分率100ppm)を290℃で、鞘成分のポリアミド(B)としてポリヘキサメチレンアジパミド(98%硫酸相対粘度:2.63、チップ水分率1100ppm)を290℃で、それぞれプレッシャーメルターで溶融する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約66dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を得た。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表1に示す。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、実施例1と同様の仮撚加工を行い、約56dtex24フィラメントの仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸について、配向パラメーター差、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度を測定した。これらの結果を表2に示す。
得られた仮撚加工糸から実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0081】
実施例10
芯成分のポリアミド(A)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:3.25、チップ水分率100ppm)を290℃で、鞘成分のポリアミド(B)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:2.10、チップ水分率100ppm)を270℃で、それぞれプレッシャーメルターで溶融する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約66dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を得た。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表2に示す。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、実施例1と同様の仮撚加工を行い、約56dtex24フィラメントの仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸について、配向パラメーター差、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度を測定した。これらの結果を表2に示す。
得られた仮撚加工糸から実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0082】
【0083】
実施例11~15、比較例6~8
ポリアミド(A)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:2.63、チップ水分率100ppm)を275℃で、ポリアミド(B)としてポリヘキサメチレンセバカミド(98%硫酸相対粘度:2.70、チップ水分率1500ppm)を260℃で、それぞれプレッシャーメルターで溶融して、サイドバイサイド用複合紡糸口金(24孔×2群、丸孔)を用いて吐出するなど、表3に記載の溶融紡糸工程とした以外は実施例1と同様に溶融紡糸し、約63dtex24フィラメントのポリアミドサイドバイサイド型断面繊維を得た。
得られたポリアミドサイドバイサイド型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミドサイドバイサイド型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表3に示す。
得られたポリアミドサイドバイサイド型断面繊維について、得られたマルチフィラメントについて、ピンタイプの延伸摩擦仮撚加工装置にて、加工温度(接触式熱板ヒーター設定温度)190℃、延伸倍率1.20、D/Y比1.95、T2/T1=0.81にて延伸同時仮撚り加工を行い、約56dtex24フィラメントの仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸について、配向パラメーター差、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度を測定した。これらの結果を表3に示す。
得られた仮撚加工糸から実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表3に示す。
【0084】
【0085】
実施例16~21、比較例9~11
実施例1と同様に溶融紡糸し、表4に記載の溶融紡糸工程で約56dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を得た。得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表4に示す。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を仮撚加工せず、生糸のまま実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0086】
【0087】
実施例22
糸条冷却風の向きと複合界面の向きが垂直となるようにポリアミド(A)とポリアミド(B)を配置(冷却風の風上側がポリアミド(A)、風下側がポリアミド(B))する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約56dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を得た。得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表5に示す。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を仮撚加工せず、生糸のまま実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0088】
実施例23
芯成分のポリアミド(A)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:3.25、チップ水分率100ppm)を290℃で、鞘成分のポリアミド(B)としてポリヘキサメチレンアジパミド(98%硫酸相対粘度:2.63、チップ水分率1100ppm)を270℃で、それぞれプレッシャーメルターで溶融する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約66dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を得た。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表5に示す。
【0089】
実施例24
芯成分のポリアミド(A)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:3.25、チップ水分率100ppm)を290℃で、鞘成分のポリアミド(B)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:2.10、チップ水分率100ppm)を270℃で、それぞれプレッシャーメルターで溶融する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約66dtex24フィラメントのポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を得た。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表5に示す。
得られたポリアミド偏心芯鞘型断面繊維を仮撚加工せず、生糸のまま実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0090】
実施例25~28、比較例12~14
ポリアミド(A)としてポリカプロアミド(98%硫酸相対粘度:2.63、チップ水分率100ppm)を275℃で、ポリアミド(B)としてポリヘキサメチレンセバカミド(98%硫酸相対粘度:2.70、チップ水分率1500ppm)を260℃で、それぞれプレッシャーメルターで溶融して、サイドバイサイド用複合紡糸口金(24孔×2群、丸孔)を用いて吐出するなど、表6に記載の条件とした以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約56dtex24フィラメントのポリアミドサイドバイサイド型断面繊維を得た。
得られたポリアミドサイドバイサイド型断面繊維について、低・高配向側ポリアミドの配向パラメーター、配向パラメーターの差(絶対値)、低配向側ポリアミドの結晶化度、伸縮伸長率、総繊度、単糸繊度を測定した。また、ポリアミドサイドバイサイド型断面繊維を1トン製造した際の糸切れ回数もカウントした。これらの結果を表6に示す。
得られたポリアミドサイドバイサイド型断面繊維を仮撚加工せず、生糸のまま実施例1と同様の高次加工を行い布帛を得た。得られた布帛について、布帛ストレッチ、布帛耐磨耗性(マーチンデール法)を測定した。これらの結果を表6に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
表1~6の結果から明らかなように、本実施形態のポリアミド複合断面繊維は、従来のポリアミド複合断面繊維と比較して、耐磨耗性と捲縮性の両者に優れるという観点で、極めて顕著な効果を奏するものと言える。
【0094】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2023年1月27日付けで出願された日本特許出願(特願2023-010788)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【符号の説明】
【0095】
1:ポリアミド(A)
2:ポリアミド(B)
3:芯成分のポリアミド(A)
4:鞘成分のポリアミド(B)
5:芯成分の中心
6:複合断面繊維の中心
7:チムニー
8:糸条冷却風
9:複合紡糸口金
10:口金吐出孔
11:複合界面
12:ポリアミド(A)
13:ポリアミド(B)
14:高収縮性(高配向側)ポリマー
15:低収縮性(低配向側)ポリマー