(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ヒト不死化ミエロイド系細胞を使用したin vitroにおける物質の安全性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20250311BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250311BHJP
C12N 5/0784 20100101ALN20250311BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20250311BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/53 P
G01N33/50 Z
C12N5/0784
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2021558456
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2020043272
(87)【国際公開番号】W WO2021100828
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2019208711
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517364949
【氏名又は名称】マイキャン・テクノロジーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226862
【氏名又は名称】島津ダイアグノスティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 和雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 淳
(72)【発明者】
【氏名】田中 善孝
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-521690(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043651(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188033(WO,A1)
【文献】特表2013-523171(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0093004(US,A1)
【文献】DE AVILA, Renato Ivan et al.,Evaluation of in vitro testing strategies for hazard assessment of the skin sensitization potential of “real-life” mixtures: The case of henna-based hair-colouring products containing p-phenylenediamine,Contact Dermatitis,2019年,Vol.81,pp.194-209
【文献】NUKADA, Yuko et al.,Production of IL-8 in THP-1 cells following contct allergen stimulation via mitogen-activated protein kinase activation or tumor necrosis factor-α production,The Journal of Toxicological Sciences,2008年,Vol.33, No.2,pp.175-185
【文献】STOPPELKAMP, Sandra et al.,Speeding up pyrogenicity testing: Identification of suitable cell components and readout parameters for an accelerated monocyte activation test (MAT),Drug Testing and Analysis,2017年,Vol.9,pp.260-273
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12N 5/0784
C12N 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血または多能性幹細胞由来のヒトミエロイド系細胞に、
(A)cMYC遺伝子、並びに
(B)BMI1遺伝子、EZH2遺伝子、MDM2遺伝子、MDM4遺伝子、及びHIF1A遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子
を導入してなるヒト不死化ミエロイド系細胞を
、被験物質の存在下で培養することにより得られた培養液中のIL-6及び/又はIL-8の産生量を測定することを含む、前記被験物質の皮膚感作性及び/又は発熱性を評価する方法。
【請求項2】
前記ヒト不死化ミエロイド系細胞が、ヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト不死化ミエロイド系細胞の培養時における、前記被験物質の濃度が、0μg/mLより大きく1000μg/mL以下の間で少なくとも3種類の濃度を含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養の時間が、3時間から48時間までの間で少なくとも1種類選択される、請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記産生量が、免疫学的測定法により測定される、請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫学的測定法は、ELISAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記産生量が陰性対照の産生量に対して1.5倍以上であった場合に、前記被験物質は皮膚感作性及び/又は発熱性を有すると判定することをさらに含む、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
末梢血または多能性幹細胞由来のヒトミエロイド系細胞に、
(A)cMYC遺伝子、並びに
(B)BMI1遺伝子、EZH2遺伝子、MDM2遺伝子、MDM4遺伝子、及びHIF1A遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子
を導入してなるヒト不死化ミエロイド系細胞を
、サンプルの存在下で培養することにより得られた培養液中のIL-6及び/又はIL-8の産生量を測定することを含む、前記サンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質を検出する方法。
【請求項9】
前記ヒト不死化ミエロイド系細胞は、ヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒト不死化ミエロイド系細胞の培養時における、前記サンプルの濃度は、少なくとも3種類の濃度を含む、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記培養の時間が、3時間から48時間までの間で少なくとも1種類選択される、請求項8から請求項10のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記産生量は、免疫学的測定法により測定される、請求項8から請求項11のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記免疫学的測定法は、ELISAである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記産生量が陰性対照の産生量に対して増加した場合に、前記サンプル中には前記皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質が含まれると判定することをさらに含む、請求項8から請求項13のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質は、リポ多糖(LPS)及び/又はStaphylococcus aureus Cowan 1(SAC)である、請求項8から請求項14のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
末梢血または多能性幹細胞由来のヒトミエロイド系細胞に、
(A)cMYC遺伝子、並びに
(B)BMI1遺伝子、EZH2遺伝子、MDM2遺伝子、MDM4遺伝子、及びHIF1A遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子
を導入してなるヒト不死化ミエロイド系細胞を
、サンプルの存在下で培養することにより得られた培養液中のサイトカインの産生量を測定することを含む、前記サンプルの免疫細胞の機能に与える作用を評価する方法。
【請求項17】
前記ヒト不死化ミエロイド系細胞は、ヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記サイトカインが、IL-1a、IL-1b、IL-1ra、IL-2、IL-2Ra、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12(p70)、IL-12(p40)、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17A、IL-18、CTACK、Eotaxin、FGF basic、G-CSF、GM-CSF、GRO-α、HGF、IFN-α2、IFN-γ、IP-10、LIF、MCP-1(MCAF)、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、MIP-1α、MIP-1β、β-NGF、PDGF-BB、RANTES、SCF、SCGF-β、SDF-1a、TNF-α、TNF-β、TRAIL、及びVEGF-Aからなる群から選択される、請求項16又は請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記免疫細胞の機能に与える作用が、免疫細胞からのサイトカイン産生量を増加させる作用、免疫細胞からのサイトカイン産生量を減少させる作用、免疫細胞による炎症誘導作用、免疫細胞による炎症抑制誘発作用、免疫細胞による免疫活性化誘導作用、免疫細胞による免疫抑制誘導作用、免疫細胞による肥満細胞の刺激作用、免疫細胞によるIgE産生の増強作用、免疫細胞によるIgE産生抑制作用、免疫細胞によるIgA産生の増強作用、免疫細胞によるリンパ球の増殖及び活性化作用、免疫細胞による好酸球の産生増加作用、免疫細胞による白血球の遊走促進作用、免疫細胞によるアポトーシスの誘導作用、免疫細胞によるアポトーシス抑制作用、免疫細胞によるウイルス抵抗性の増加作用、免疫細胞による細胞増殖促進作用、免疫細胞による血管新生誘導作用、免疫細胞による創傷治癒作用、免疫細胞による造血細胞増殖促進作用、免疫細胞による前駆細胞の分化作用、及び免疫細胞による細胞分化阻害作用から選択される機能である、請求項16から請求項18のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記培養の時間が、3~48時間である、請求項16から請求項19のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記サンプルの存在下で前記ヒト不死化ミエロイド系細胞を培養することにより得られた前記培養液中の前記サイトカインの前記産生量が陰性対照の存在下で前記ヒト不死化ミエロイド系細胞を培養することにより得られた培養液中のサイトカインの産生量に対して2倍以上であった場合に、前記サンプルは機能性を有すると判定することをさらに含む、請求項16から請求項20のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記サンプルが機能性飲料である、請求項16から請求項21のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
末梢血または多能性幹細胞由来のヒト単球に、
(A)cMYC遺伝子、並びに
(B)BMI1遺伝子、EZH2遺伝子、MDM2遺伝子、MDM4遺伝子、及びHIF1A遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子
を導入してなるヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞を含む、請求項1から請求項22のうちのいずれか1項に記載の方法に使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2019年11月19日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2019-208711号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2019-208711号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ヒト不死化ミエロイド系細胞を使用したin vitroにおける物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価方法、サンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質検出法、並びにサンプルの免疫細胞の機能に与える作用の評価方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトなどが飲食又は塗布する製品や物質を提供する際、事前にその製品に含まれる物質が、安全であり、アレルギー反応などを起こさないかどうかを認識しておく必要がある。
【0004】
その試験方法として、例えば、アレルギー等を誘発する物質であるかを評価する方法として、当該物質をマウスやモルモットなどの実験動物に投与又は塗布などし、当該実験動物における皮膚における炎症反応などを観察する方法が行われている。また、食品や化粧品などがウイルスや菌などに汚染されているか否かを確認する試験として、ウサギを使用した発熱性試験がある。しかしながら、動物愛護などの観点から、使用する動物に対する苦痛の軽減、及び使用する動物数の削減の傾向が顕著となってきており、代替法への移行が求められている。
【0005】
これまでに、皮膚感作性の評価法として、実験動物を使用したGuinea Pig Maximization Test(GPMT)、Adjuvant and Patch Test(A&P)、Buehler Test(BT)、Local Lymph Node Assay(LLNA)などが確立されている。
【0006】
例えば、GPMT、A&P、BT試験においては、モルモットを実験動物として使用し、物質を溶解した試験液を何度か皮下投与もしくは閉塞貼付により感作させた後、再度試験液を閉塞貼付し、当該試験液を除去後、皮膚反応を観察し、紅班及び浮腫をスコア化して皮膚感作性の有無を評価する。
【0007】
また、LLNA試験においては、マウスを実験動物として使用し、マウスの耳介に試験液を何度か塗布した後、放射線標識物質(例えば、3H-チミジン)を静脈内投与し、耳介のリンパ節における標識物質の取り込み量を測定することで、リンパ球の増殖が活性化しているかを指標として、皮膚感作性の有無を評価する。
【0008】
また、前述のように、発熱性試験の評価法としては、ウサギを使用した試験が確立されている。あらかじめ温度センサーを用いて、直腸温度を測定しておいた後、ウサギの耳介静脈などに試験液を投与し、数時間後の体温上昇を測定し、上昇度を基準に基づき判定し発熱性物質が含まれているかを評価する。
【0009】
近年、欧州を中心に動物愛護の3R(実験動物から他の評価法に置き換える(Replacement)、使用する数を削減する(Reduction)、動物への苦痛を減らす(Refinement))が推奨されており、さらに2009年から欧州において化粧品及びその原料については動物実験が完全に禁止され、動物実験を実施した製品は販売できない法律が制定されている。そのため、近年、動物実験に変わる評価方法が開発、報告されている。
【0010】
例えば、皮膚感作性は原因となる物質が皮膚に接触、浸透することで起きる反応である。そのメカニズムは、1)物質が皮膚に接触し、2)物質が経皮吸収され、3)タンパク質と結合し樹状細胞に貪食され、4)貪食した樹状細胞が活性化し、所属リンパ節に遊走し、5)所属リンパ節でT細胞が樹状細胞から抗原提示を受け、活性化し増殖する、というものである。これらの工程が起きると、免疫誘導が起き、再度同じ物質が接触すると、増殖したT細胞から炎症性サイトカインが放出され、アレルギー性炎症反応(紅班や浮腫)が惹起される。
【0011】
このメカニズムをふまえ、in vitroの評価での代替試験が開発されている。例えば、Direct Peptide Reactivity Assay(DPRA)は、タンパク質と物質との結合のしやすさの有無を、液体クロマトグラフィーを用いて測定する方法である。また、human Cell Line Activation Test(h-CLAT)は、樹状細胞が活性化する工程において、THP-1細胞を使用して、活性化マーカーの発現有無をフローサイトメーターで測定する方法である。これらは、動物を使用しない方法である。
【0012】
h-CLATは、2016年に経済協力開発機構(OECD)のガイドラインに収載された皮膚感作性試験代替法である。株式会社資生堂などにより、皮膚において抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞のCD86又はCD54、MHC ClassIIの細胞表面タンパク量が、皮膚感作性物質により増加していることが見出され、本現象を活用した代替法開発が行われた。しかし、ランゲルハンス細胞は表皮中しか存在しないこと、また、ランゲルハンス細胞様を示す樹状細胞も安定的な供給が難しいことから、ヒト単核球細胞(THP-1)を使用した代替法h-CLATが確立された。
【0013】
h-CLATは、実験動物代替法として、例えばLLNA評価と比較し、評価に動物(マウス)を使用しない点、試験期間が短期である点などから、有用性は高い。しかしながらin vitro評価法としては、構築された他の方法、例えばDPRAに比べて、操作が煩雑であり、制約が多い。例えば、THP-1細胞の準備や予備試験による添加濃度の把握が事前に必要であるし、表面マーカーの測定にはフローサイトメーターが使用される。さらに、陽性対照及び媒体対照の継続測定の必要性や再現性(約80%)が高くないといった課題が存在する(非特許文献1)。
【0014】
また、THP-1細胞には、単球から分化することで活性化してくる酸化還元酵素シトクロームP450が十分に備わっておらず、物質が酸化・還元をすることで皮膚感作性を示すような場合は検出できないという課題が存在する(非特許文献2)。
【0015】
そこでh-CLATと比較して、簡便にかつ安定的にin vitroでの物質の皮膚感作性を評価できる方法が求められた。
【0016】
また、発熱性試験においても、実験動物代替法が開発されている。哺乳類ではないカブトガニの血液を使用することで、グラム陰性菌に関する汚染を判定することが可能とした方法、及びヒト急性単球白血病由来のMono-Mac-6細胞やヒト末梢血を利用し、菌などで汚染された可能性のある検体で刺激することで、IL-6などのサイトカインの産生が起こることを利用した測定方法が開発されている。
【0017】
しかしながら、カブトガニの血液ではグラム陰性菌しか検出できない。また、Mono-Mac-6ではヒト血液よりも感度が低い。さらに、ヒト末梢血ではヒトの状態をin vitroで評価できるものの、献血等で得られた血液を利用するために安定的に提供することが難しく個人差が生じることがある。
【0018】
そこで、ヒトの樹状細胞に近い組織・細胞を用い、安定的かつ大量に供給できる皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質検出のための方法が求められた。
【0019】
また、免疫細胞の機能は、放出するサイトカインによって発揮されるところ、これまで薬剤や食品等の免疫細胞への直接の作用を試験可能な系は存在しなかった。
【0020】
例えば、食品素材免疫細胞の機能に与える作用の評価としては、ヒト末梢血で行う方法があるが、献血等で得られた血液を利用するために安定的に提供することが難しく個人差が生じることがある。
【0021】
そこで、簡便にかつ安定的に供給できるin vitroでの機能性を評価できる方法が求められた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【文献】皮膚感作性試験評価報告書 JaCVAM皮膚感作性試験資料編纂委員会
【文献】Takao Ashikagaら,ATLA 38,275-284,2010
【発明の概要】
【0023】
即ち、本発明は、in vitroでの物質の皮膚感作性及び/又は発熱性評価方法、サンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質検出方法、並びにサンプルの免疫細胞の機能に与える作用の評価方法であって、より安定性、再現性、経済性、及び操作容易性を有する方法を見出すことを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、in vitroでの皮膚感作性及び/又は発熱性評価、皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質検出、及び免疫細胞の機能に与える作用の評価において適した動物実験代替細胞を提供する方法を模索すべく、種々の方法で調製した単球及び樹状細胞を使用し検討を行った。その結果、ヒト臍帯血由来、ES細胞、iPS細胞由来又は骨髄細胞もしくは末梢血由来のCD14陽性細胞に遺伝子を導入して得られた増殖可能なヒト単球、及び、当該単球を分化誘導することにより得られる貪食能を有する細胞(例えば、樹状細胞)を使用することで、皮膚感作性及び/又は発熱性評価、皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質検出、並びに免疫細胞の機能に与える作用の評価ができることを見出し、本発明を完成させた。特に、これらの細胞を使用することで、1)細胞を安定的に提供することが可能であり、2)細胞の状態(継代数、分化状態)を均一にして提供することが可能であり、3)より生体に近い反応が検出可能である。皮膚感作性及び/又は発熱性評価、並びに免疫細胞の機能に与える作用の評価においては、物質を添加することによりサイトカイン(IL-6、IL-8など)が産生することに着目し、本発明者らは皮膚感作性及び/又は発熱性試験、並びに免疫細胞の機能に与える作用の評価の新規方法を提供するに至った。
【0025】
さらに、本発明は、ヒト臍帯血由来、ES細胞、iPS細胞由来又は骨髄細胞もしくは末梢血由来のCD14陽性細胞を不死化して使用することにより、これらの課題を解決するものである。すなわち、CD14陽性細胞を不死化する方法を採用することにより、安定的にミエロイド系細胞のみの集団を容易に得ることが可能である。そのため、従来の細胞と比較して、より生体に近いミエロイド系細胞を安定的に提供することが可能となり、安全性評価に適した細胞であると考えられる。よって、本発明は不死化ミエロイド系細胞を用いた、皮膚感作性及び/又は発熱性評価や皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質検出等の安全性評価を提供するものである。また、本発明は、不死化ミエロイド系細胞を用いた、サンプルの免疫細胞の機能に与える作用の評価を提供するものである。
【0026】
具体的には、本発明は以下の発明に関する。
(1)被験物質の存在下で、ヒト不死化ミエロイド系細胞を培養することにより得られた培養液中のIL-6及び/又はIL-8の産生量を測定することを含む、前記被験物質の皮膚感作性及び/又は発熱性を評価する方法。
(2)前記ヒト不死化ミエロイド系細胞が、ヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞である、(1)に記載の方法。
(3)前記ヒト不死化ミエロイド系細胞の培養時における、前記被験物質の濃度が、0μg/mLより大きく1000μg/mL以下の間で少なくとも3種類の濃度を含む、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記培養の時間が、3時間から48時間までの間で少なくとも1種類選択される、(1)から(3)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(5)前記産生量が、免疫学的測定法により測定される、(1)から(4)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(6)前記免疫学的測定法は、ELISAである、(5)に記載の方法。
(7)前記産生量が陰性対照の産生量に対して1.5倍以上であった場合に、前記被験物質は皮膚感作性及び/又は発熱性を有すると判定することをさらに含む、(1)から(6)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(8)サンプルの存在下で、ヒト不死化ミエロイド系細胞を培養することにより得られた培養液中のIL-6及び/又はIL-8の産生量を測定することを含む、前記サンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質を検出する方法。
(9)前記ヒト不死化ミエロイド系細胞は、ヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞である、(8)に記載の方法。
(10)前記ヒト不死化ミエロイド系細胞の培養時における、前記サンプルの濃度は、少なくとも3種類の濃度を含む、(8)又は(9)に記載の方法。
(11)前記培養の時間が、3時間から48時間までの間で少なくとも1種類選択される、(8)から(10)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(12)前記産生量は、免疫学的測定法により測定される、(8)から(11)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(13)前記免疫学的測定法は、ELISAである、(12)に記載の方法。
(14)前記産生量が陰性対照の産生量に対して増加した場合に、前記サンプル中には皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質が含まれると判定することをさらに含む、(8)から(13)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(15)前記皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質は、リポ多糖(LPS)及び/又はStaphylococcus aureus Cowan 1(SAC)である、(8)から(14)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(16)サンプルの存在下で、ヒト不死化ミエロイド系細胞を培養することにより得られた培養液中のサイトカインの産生量を測定することを含む、前記サンプルの免疫細胞の機能に与える作用を評価する方法。
(17)前記ヒト不死化ミエロイド系細胞は、ヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞である、(16)に記載の方法。
(18)前記サイトカインが、IL-1a、IL-1b、IL-1ra、IL-2、IL-2Ra、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12(p70)、IL-12(p40)、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17A、IL-18、CTACK、Eotaxin、FGF basic、G-CSF、GM-CSF、GRO-α、HGF、IFN-α2、IFN-γ、IP-10、LIF、MCP-1(MCAF)、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、MIP-1α、MIP-1β、β-NGF、PDGF-BB、RANTES、SCF、SCGF-β、SDF-1a、TNF-α、TNF-β、TRAIL、及びVEGF-Aからなる群から選択される、(16)又は(17)に記載の方法。
(19)前記免疫細胞の機能に与える作用が、免疫細胞からのサイトカイン産生量を増加させる作用、免疫細胞からのサイトカイン産生量を減少させる作用、免疫細胞による炎症誘導作用、免疫細胞による炎症抑制誘発作用、免疫細胞による免疫活性化誘導作用、免疫細胞による免疫抑制誘導作用、免疫細胞による肥満細胞の刺激作用、免疫細胞によるIgE産生の増強作用、免疫細胞によるIgE産生抑制作用、免疫細胞によるIgA産生の増強作用、免疫細胞によるリンパ球の増殖及び活性化作用、免疫細胞による好酸球の産生増加作用、免疫細胞による白血球の遊走促進作用、免疫細胞によるアポトーシスの誘導作用、免疫細胞によるアポトーシス抑制作用、免疫細胞によるウイルス抵抗性の増加作用、免疫細胞による細胞増殖促進作用、免疫細胞による血管新生誘導作用、免疫細胞による創傷治癒作用、免疫細胞による造血細胞増殖促進作用、免疫細胞による前駆細胞の分化作用、及び免疫細胞による細胞分化阻害作用から選択される機能である、(16)から(18)うちのいずれか1項に記載の方法。
(20)前記培養の時間が、3~48時間である、(16)から(19)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(21)前記サンプルの存在下で前記ヒト不死化ミエロイド系細胞を培養することにより得られた前記培養液中の前記サイトカインの前記産生量が陰性対照の存在下で前記ヒト不死化ミエロイド系細胞を培養することにより得られた培養液中のサイトカインの産生量に対して2倍以上であった場合に、前記サンプルは機能性を有すると判定することをさらに含む、(16)から(20)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(22)前記サンプルが機能性飲料である、(16)から(21)のうちのいずれか1項に記載の方法。
(23)ヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞を含む、(16)から(22)のうちのいずれか1項に記載の方法に使用するためのキット。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、物質の皮膚感作性及び発熱性の検出などに関する安全性試験の研究・評価が可能となる。例えば、ヒト献血由来の血球材料では安定的に評価が難しく、研究することが難しかった安全性研究・評価に対しても、本発明を使用することで精密な・感度のより良い評価が可能となり、安全性研究・評価を行うことが可能となる。また、本発明の方法により、誤差の少ない薬剤の安全性評価が可能となる。さらに、本発明の方法は、上記の特徴により、安全性評価のスクリーニング方法としても用いることができる。また、本発明の方法は、上記の特徴により、サンプルの免疫細胞の機能に与える作用の評価方法及び免疫細胞の機能に与える作用を有する物質のスクリーニング方法としても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】各被験物質の皮膚感作性及び/又は発熱性評価の結果と従来の皮膚感作性評価法の結果とを示した図である。
【
図2】
図2A及び
図2Bは、各濃度のLPSの存在下で、iPS-ML2を6時間及び24時間培養することにより得られた培養上清中のIL-6及びIL-8の産生量をELISAによって測定したグラフである。グラフの縦軸は、ELISAの測定値を示し、グラフの横軸は、LPSの濃度を示す。
図2C及び
図2Dは、各濃度のSACの存在下で、iPS-ML2を6時間及び24時間培養することにより得られた培養上清中のIL-6及びIL-8の産生量をELISAによって測定したグラフである。グラフの縦軸は、ELISAの測定値を示し、グラフの横軸は、SACの希釈倍率を示す。
【
図3】各濃度の機能性飲料の存在下で、iPS-ML2を24時間培養することにより得られた培養上清中のIL-6産生量をELISAによって測定し、各機能性飲料の存在下での培養後の細胞上清の測定値を陰性対照の測定値で除した値である産生量比(Stim. Index)として表したグラフである。グラフの縦軸は、産生量比を示し、グラフの横軸は、機能性飲料の濃度(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<用語の定義>
本明細書において、「皮膚感作性」とは、遅延性過敏反応の一つであり、物質による過剰な免疫反応により皮膚に炎症が起こる現象をいう。
【0030】
本明細書において、「物質」とは、単原子分子又は、化合物などであってもよい。
【0031】
本明細書において、「発熱性物質」とは、体内に取り込まれることによって、体温の上昇を引き起こす物質をいい、例えばエンドトキシン、ペプチドグリカン、グラム陽性菌の外毒素、ウイルス、病原性細菌、病原性真菌、リポ多糖(LPS)、Staphylococcus aureus Cowan 1(SAC)等が挙げられる。このような体温上昇は、当該物質を接種したサンプルの免疫応答により引き起こされるものであってもよい。
【0032】
本明細書において、「ミエロイド系細胞」は、CD11b分子又はCD33分子を発現する細胞として定義され、その由来は特に限定されるものではないが、例えば、多能性幹細胞に由来するミエロイド系細胞、又は生体(例えば、末梢血)から採取されたミエロイド系細胞がある。具体的には、ミエロイド系細胞としては、単球、樹状細胞、マクロファージ等が挙げられる。
【0033】
本明細書において、「被験物質」とは、皮膚感作性及び/又は発熱性を評価しようとする物質であれば、特に限定されるものではない。
【0034】
本明細書において、「サンプル」とは、ヒト又は動物由来の体液(例えば、血液、涙、唾液、又は尿)又は組織、植物及びその抽出液、果実・野菜など食物及びその抽出液、加工食品及び飲料などの食品、石鹸、シャンプー、リンス及びトリートメント、洗剤、染料、繊維、布、化粧品、医薬品、化合物、混合物(例えば、食品、食品抽出物、植物抽出物)、大気中の微量物質、排ガス、廃液、産業廃棄物、細胞培養液、培養細胞、細胞培養用培地、細胞培養用添加物、細胞保存液、保健機能食品、サプリメント等が挙げられる。
【0035】
本明細書において、「保健機能食品」とは、健康の維持又は向上を目的として食される、加工食品及び飲料などの食品群であり、特定保健用食品、栄養機能食品、及び機能性表示食品を含む。本明細書において、「機能性」とは、健康の維持・向上(例えば、生体調節、免疫力の向上、疾病の予防等)に有効な性質をいう。本明細書において、「機能性飲料」とは、機能性を有する成分(例えば、乳酸菌)を含む飲料をいう。
【0036】
本明細書において、「約」とは、±10%の範囲を示す。
【0037】
<不死化単球の調製方法>
本発明において、原料となる単球は、末梢血から採取する方法、多能性幹細胞から分化誘導させる方法、繊維芽細胞などの他の体細胞から分化誘導させる方法などにより得ることができる。
【0038】
単球を末梢血から採取する場合、ヒトの末梢血中のCD14分子を発現する細胞を分離・調製する方法は公知である。例えば、ヒト末梢血を等量の生理的食塩水、リン酸緩衝生理的食塩水、あるいは、ハンクス緩衝溶液などで穏やかに希釈する。希釈した血液を、遠心管中のフィコール(登録商標)(GE ヘルスケア社)上に静かに積層し、15~30℃、500~1000×Gで20分間遠心分離する。黄色がかった血漿と透明のフィコールとの中間の白い帯状の層をリンパ球・単球から成る末梢血単核細胞(PBMC)画分として回収する。回収された末梢血単核細胞画分は必要に応じて更に洗浄して用いてもよい。回収されたPBMC画分から更にCD14分子を発現する細胞を回収することにより、単球を得ることができる。例えば、抗CD14抗体が結合している固相とPBMCとを接触させて当該固相に単球を結合させ、非結合の細胞を洗浄して除去することにより、分離回収することができる。例えば、このような固相として磁気ビーズを用いる方法などが知られている(Dynabeads(登録商標)CD14(Thermo Fisher Scientific Inc.)など)。また、末梢血からPBMCを分離することなく、末梢血を直接抗CD14抗体が結合している固相と接触させることにより単球を得ることもできる。
【0039】
単球を多能性細胞から分化させて得る場合、多能性細胞からから単球を誘導する方法は公知である。本明細書において、「多能性幹細胞」とは、多能性及び自己複製能を有する細胞を意味する。本明細書において、「多能性」とは、多分化能と同義であり、分化により複数の系統の細胞に分化可能な細胞の状態を意味する。本明細書における多能性は、生体を構成する全ての種類の細胞に分化可能な状態(分化全能性(totipotency))、胚体外組織を除く全ての種類の細胞に分化可能な状態(分化万能性(pluripotency))、一部の細胞系列に属する細胞に分化可能な状態(分化多能性(multipotency))、及び1種類の細胞に分化可能な状態(分化単能性(unipotency))を含む。よって、本明細書における「多能性幹細胞」は、幹細胞、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(「ntES細胞」)、生殖幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、及び人工多能性幹(iPS)細胞、及び造血幹細胞を含む。ある細胞が多能性幹細胞であるかどうかは、たとえば、被験細胞が体外培養系において胚様体(embryoid body)を形成する場合、又は、分化誘導条件下で培養(分化処理)した後に所望の細胞に分化する場合、当該細胞は多能性幹細胞であると判定することができる。多能性幹細胞の取得方法は公知であり、例えば、iPS細胞は体細胞に3種類以上の初期化遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Esrrb、Glis1、E-cadherin、shp53、UTX及びH1fooなど)を導入することにより得られることが報告されている。
【0040】
多能性幹細胞から単球への分化誘導は、例えば、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)とインターロイキン3(IL-3)(Fernadndo O. Martinezら,Experimental Hematology(2008);36:1167-1175参照)、あるいは、IFN-γ又はPMA(Annabelle Grolleauら,J Immunol 1999; 162:3491-3497)を多能性幹細胞に接触させることにより行うことができる。分化誘導された単球は必要に応じて前述の方法によりCD14を発現する細胞のみ回収して精製してもよい。
【0041】
繊維芽細胞などの他の体細胞から単球を分化誘導させる方法としては、Takahiro Suzukiら,“Reconstruction of Monocyte Transcriptional Regulatory Network Accompanies Monocytic Functions in Human Fibroblasts.”PLoS One(2012)doi:10.1371/journal.pone.0033474に記載の方法が挙げられる。
【0042】
得られた単球は、BMI1遺伝子、EZH2遺伝子、MDM2遺伝子、MDM4遺伝子、HIF1A遺伝子、BCL2遺伝子、及びLYL1遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、cMYC遺伝子とを導入することにより、単球の機能を維持しながら増殖能を付加することができる。好ましくは、BMI1遺伝子、EZH2遺伝子、MDM2遺伝子、MDM4遺伝子、及びHIF1A遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、cMYC遺伝子との組み合わせか、あるいは、BMI1遺伝子とBCL2遺伝子若しくはLYL1遺伝子とcMYC遺伝子との組み合わせである。単球へのこれらの遺伝子の導入は、WO2012/043651及び特開2017-131136号の記載を参酌して行うことができる。例えば、これらの遺伝子を搭載したレンチウイルスベクターを単球に感染させることにより、導入することができる。
【0043】
<樹状細胞の調製方法>
不死化単球からの樹状細胞の誘導は、既報(Francoise Chapuisら,Eur J Immunol.(1997)27(2):431-41.;Marc Dauerら,J Immunol(2003)170(8):4069-4076.;Figdor CGら,Nat Med.(2004)10(5):475-80;Helmut Jonuleitら,Eur J Immunol.(1997)27(12):3135-42)に従い、例えば、200IU/mlのGM-CSF及び200IU/mlのIL-4の存在下で単球を培養することにより行うことができる。
【0044】
<不死化単球又は樹状細胞を用いた物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価>
不死化単球又は樹状細胞を用いた物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価は、以下に示すステップにより行われる。
【0045】
1つ目のステップとして、評価用細胞の準備を行う。評価に用いる細胞としては、前述した不死化単球又は樹状細胞が用いられる。評価を行う際及び/又は評価前後の培養に使用する培地としては、例えばIMDM溶液、RPMI溶液、α-MEM溶液、MEM培地、DMEM溶液が挙げられる。また、添加物として、ヒト又はウシ血漿タンパク質画分、ウシ胎児血清やヒト血清、グルコース、D-マンニトールなどの糖類、アミノ酸、アデニンなどの核酸塩基、リン酸水素ナトリウム、Α-トコフェロール、リノール酸、コレステロール、亜セレン酸ナトリウム、ヒトホロトランスフェリン、ヒトインスリン、エタノールアミン、2-メルカプトエタノール、G-CSF、GM-CSF、炭酸水素ナトリウム、メチルセルロース等が含まれていてもよい。また、必要に応じて、ゲンタマイシン、アンピシリン、ペニシリン、ストレプロマイシンなどの抗生剤;無機塩類;HEPES、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤などの緩衝剤を加えてもよい。具体的な例としては、非必須アミノ酸を添加したα-MEM(10%ウシ胎児血清)培地、α-MEMに2又は5%HPL(Human platelet lysate、ヒト血小板由来サプリメント)を添加した培養液、あるいは、ヒポキサンチン、HEPES(SIGMA社)を含むRPMI1640培地(SIGMA社)に、10%ウシ胎児血清、炭酸水素ナトリウム、100unit/mLペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシンを添加した培地を使用して行うことができる。
【0046】
不死化単球又は樹状細胞を前述の培地に播種し、所定の回数細胞の経代を行う。継代の回数としては、例えば、1回であってもよいし、2回、3回、4回、又は5回以上であってもよい。そして、継代後の細胞を所定の回数(例えば、2回、3回、又は4回以上)洗浄し、評価を行う際に使用される培地を用いて、所定の濃度に調製したものを用いて評価が行われる。なお、細胞の濃度は、後述する免疫学的測定法のプロトコールに従い、設定することができる。
【0047】
2つ目のステップとして、被験物質の存在下で、前述の不死化単球又は樹状細胞を培養する。被験物質は、溶解液により溶解され、評価に用いられる。被験物質を溶解する溶解液としては、エタノール、DMSO、水、PBSなどが用いられてもよい。また、被験物質は、予め定められた最終濃度で細胞と接触するように希釈されて、評価に用いられる。予め定められた最終濃度とは、0μg/mLより大きく1000μg/mL以下の間で1種類以上、好ましくは少なくとも3種類の濃度が調製される。なお、調整される濃度は、3種類であってもよいし、4種類であってもよいし、5種類であってもよいし、6種類以上であってもよい。被験物質の希釈は、前述した培地を用いて行ってもよい。
【0048】
不死化単球又は樹状細胞の培養時間としては、1種類の時間が設定されてもよいし、2種類の時間が設定されてもよい。また、3種類以上の時間が設定されてもよい。例えば、培養時間は、3~48時間、好ましくは6~24時間の間で選択された任意の時間が設定されてもよい。また、培養時の温度は、約37℃であってもよく、培養時の二酸化炭素濃度は、約5%であってもよい。
【0049】
3つ目のステップとして、培養後の不死化単球又は樹状細胞の培養液中のIL-6及び/又はIL-8を測定する。なお、培養液としては、例えば培養上清が挙げられる。当該測定は、公知の免疫学的測定法を用いて行うことができる。免疫学的測定法は、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)、イムノクロマトグラフィー、ラジオイムノアッセイ、又はウェスタンブロットであってもよい。また、これらの免疫学的測定は、市販のキットを用いて行われてもよい。
【0050】
被験物質が皮膚感作性及び/又は発熱性を有するか否かは、測定されたIL-6及び/又はIL-8の産生量をもとに判定する。具体的には、被験物質の存在下で任意の時間培養することにより得られた不死化単球又は樹状細胞の培養液中において、IL-6及び/又はIL-8の産生量が陰性対照と比較して増加した場合に、当該被験物質は皮膚感作性及び/又は発熱性を有すると判定される。例えば、当該増加は、陰性対照に対する一定の増加率を閾値としてもよく、当該増加率を超える産生量であった場合に、被験物質が皮膚感作性及び/又は発熱性を有すると判定してもよい。このような増加率としては、1.2~2.0倍の間の値、例えば1.5倍とすることができる。また、複数の濃度の被験物質を用いて評価を行った場合には、調製された複数の濃度のうち少なくとも1種類の濃度の被験物質の存在下で培養することにより得られた当該細胞の培養液中におけるIL-6及び/又はIL-8の産生量が、陰性対照と比較して増加した場合に、当該被験物質は皮膚感作性及び/又は発熱性を有すると判定される。また、被験物質の存在下における培養時間が複数設定されて評価を行った場合には、設定された複数の培養時間のうち少なくとも1種類の時間において、任意の濃度の被験物質の存在下で培養することにより得られた当該細胞の培養液中におけるIL-6及び/又はIL-8の産生量が陰性対照と比較して増加した場合に、当該被験物質は皮膚感作性及び/又は発熱性を有すると判定される。
【0051】
なお、陰性対照としては、被験物質を溶解するための溶解液が用いられてもよいし、不死化単球又は樹状細胞を培養するために用いた培地等が用いられてもよい。
【0052】
<不死化単球又は樹状細胞を用いたサンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質の検出>
不死化単球又は樹状細胞を用いたサンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質の検出は、サンプルの存在下で、不死化単球又は樹状細胞を培養することにより得られた培養液中のIL-6及び/又はIL-8の産生量を測定することにより行う。
【0053】
なお、サンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質の検出方法については、基本的な方法は、前述の<不死化単球及び樹状細胞を用いた物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価>と同じであるため、本項では、相違点のみ詳述する。
【0054】
皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質(例えば、LPS及び/又はSAC)は、溶解液により溶解され、評価に用いられる。このような溶解液としては、エタノール、DMSO、水、PBSなどが用いられてもよい。また、皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質は、予め定められた最終濃度で細胞と接触するように希釈されて、評価に用いられる。
【0055】
予め定められた最終濃度とは、例えば、LPSの場合は、0.0001pg/mLより大きく1000000pg/mL以下の間で、SACの場合は、希釈倍率101倍~1010倍の間で、1種類以上、好ましくは少なくとも3種類の濃度が調製される。なお、調整される濃度は、3種類であってもよいし、4種類であってもよいし、5種類であってもよいし、6種類以上であってもよい。皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質の希釈は、<不死化単球及び樹状細胞を用いた物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価>の項で記載した培地を用いて行ってもよい。なお、このような皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質は、サンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質の検出において、陽性対照として用いられてもよい。
【0056】
評価に用いられるサンプルは、任意の希釈倍率で希釈してもよい。任意の希釈倍率は、1.2倍~100倍の間で1種類選択されてもよい。なお、選択される希釈倍率は、2種類であってもよいし、3種類であってもよいし、4種類以上であってもよい。サンプルの希釈は、水、生理的食塩水、不死化単球又は樹状細胞の培養に用いられた培地等が用いられてもよい。
【0057】
サンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質の検出は、測定されたIL-6及び/又はIL-8の産生量に基づいて判定する。具体的には、サンプルの存在下で任意の時間培養した不死化単球又は樹状細胞の培養液中において、IL-6及び/又はIL-8の産生量が陰性対照と比較して増加した場合に、当該サンプル中には皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質が含まれると判定される。また、サンプルの存在下での培養時間が複数設定されて評価を行った場合には、設定された複数の培養時間のうち少なくとも1種類の時間において、当該細胞の培養液中におけるIL-6及び/又はIL-8の産生量が陰性対照と比較して増加した場合に、当該サンプル中には皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質が含まれると判定される。
【0058】
また、複数の希釈倍率でサンプルを希釈して評価を行った場合には、複数の希釈倍率で希釈したサンプルのうち少なくとも1種類の希釈倍率のサンプルの存在下で培養することにより得られた当該細胞の培養液中におけるIL-6及び/又はIL-8の産生量が、陰性対照と比較して増加した場合に、当該サンプル中には皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質が含まれると判定される。
【0059】
なお、陰性対照としては、皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質を溶解するための溶解液や生理的食塩水、不死化単球又は樹状細胞の培養に用いられた培地等が用いられてもよい。
【0060】
<不死化単球又は樹状細胞を用いたサンプルの免疫細胞の機能に与える機能の評価>
不死化単球細胞又は樹状細胞が産生する種々のサイトカインを測定することにより、免疫細胞の機能を測定することができる。よって、本発明は、このような不死化単球細胞又は樹状細胞が産生する種々のサイトカインの測定を利用することにより、サンプルが有する免疫細胞の機能に与える作用を評価することができる。不死化単球細胞又は樹状細胞が産生するサイトカインとしては、インターロイキン、ケモカイン、腫瘍壊死因子スーパーファミリー、インターフェロン、増殖因子、造血因子、コロニー刺激因子等が挙げられる。
【0061】
インターロイキンとしては、IL-1α、IL-1β、IL-1Ra、IL-2、IL-2Ra、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12(p70)、IL-12(p40)、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17A、IL-18等が挙げられる。
【0062】
これらのインターロイキンのうち、例えば、IL-1α、IL-1β、IL-1Ra、IL-6、IL-8、IL-12、IL-17A及びIL-18は、炎症性サイトカインとして知られており、皮膚の炎症や体温上昇に関与する。一方で、IL-4及びIL-10は、抗炎症性サイトカインとして知られている。よって、一例において免疫細胞の機能は、皮膚の炎症や体温上昇等の炎症誘導作用、又は炎症抑制誘発作用であってもよい。
【0063】
また、インターロイキンは、健康に関わる種々の生理活性を有することが知られている。IL-4及びIL-13は、IgE産生の誘導することが知られており、IL-9は、肥満細胞増殖を刺激することが知られている。一方、IL-12は、IgEの産生抑制作用を有することが知られている。よって、一例において免疫細胞の機能は、肥満細胞の刺激作用、IgE産生の増強作用、又はIgE産生抑制作用であってもよい。
【0064】
また、IL-5及びIL-6は、IgAの産生を増強させることが知られている(Jpn J.Lactic Acid Bact, 2007, 18(2), 54-57)。よって、一例において免疫細胞の機能は、IgA産生の増強作用であってもよい。
【0065】
IL-2、IL-2Raは、T細胞、B細胞、及びナチュラルキラー(NK)細胞の増殖及び活性化作用が知られている。また、IL-7は、B細胞、T細胞、NK細胞の生存、分化等に関与することが知られている。また、IL-15は、T細胞及びB細胞の増殖及び活性化作用が知られている。よって、一例において免疫細胞の機能は、リンパ球(すなわち、T細胞、B細胞、及びNK細胞)の増殖及び活性化作用であってもよい。
【0066】
IL-5は、好酸球の産生を増加させる作用を有することが知られている。よって、一例において免疫細胞の機能は、好酸球の産生増加作用であってもよい。
【0067】
IL-17Aは、炎症性サイトカインの産生を誘導し、IL-18は、IL-2と共同してインターフェロンγの産生を誘導し、IL-18単独ではIL-4の産生を誘導することが知られている。よって、一例において免疫細胞の機能は、サイトカインの産生増加作用であってもよい。
【0068】
ケモカインとしては、IL-8、CTACK、Eotaxin、GRO-α、IP-10、MCP-1、MCP-3、MIG、MIP-1α、MIP-1β、RANTES、SDF-1α等が挙げられる。これらのケモカインは、血管内から炎症組織内への白血球の遊走をもたらす。
【0069】
例えば、IL-8は、好中球の活性化等を介して、感染症の防御的効果(病原菌排除効果)を有することが考えられている(The Japanese Journal of Antibiotics, 2013, 66-6, 305-310)。また、CTACKは、皮膚特異的なケモカインであり、好酸球の産生増加に関与することが知られている。Eotaxinは、強力な好酸球遊走活性を有することが知られている。GRO-αは、細胞分裂機能や好中球活性化物質であることが知られている。IP-10は、単球やマクロファージ等に対する遊走を引き起こすことが知られている。MCP-1(MCAF)、MCP-3は、単球及びマクロファージの遊走を引き起こすことが知られている。MIGは、T細胞、及び一部のマクロファージなどを炎症部位へ遊走させることが知られている。MIP-1αは、単球及び好塩基球の遊走を引き起こすことが知られている。MIP-1βは、単球及び好酸球の遊走を引き起こすことが知られている。RANTESは、単球、好酸球、及び好塩基球の遊走を引き起こすことが知られている。SDF-1αは、リンパ球の強力な走化性因子であり、リンパ球を新しく形成した血管へ補充し、生体の血管新生に関与することが知られている。
【0070】
なお、前述のインターロイキンのうち、IL-16についても、CD4陽性T細胞を遊走させる作用を有することが知られている。
【0071】
よって、一例において免疫細胞の機能は、白血球(すなわち、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ)の遊走促進作用、又は感染症の防御作用であってもよい。
【0072】
腫瘍壊死因子スーパーファミリーとしては、Tumor Necrosis Factor(TNF)-α、TNF-β、TNF related apoptosis-inducing ligand(TRAIL)が挙げられる。TNF-αやTNF-βは、細胞接着分子の発現、アポトーシスの誘導、炎症メディエーター(IL-1、IL-6、及びプロスタグランジンE2等)の亢進を行うことにより感染防御や抗腫瘍作用に関与することが知られている。また、TRAILは、癌細胞にアポトーシスを誘導することが知られている。
【0073】
よって、一例において免疫細胞の機能は、アポトーシスの誘導作用であってもよい。
【0074】
インターフェロンとしては、IFN-α(1,2,4,5,6,7,8,10,13,14,16,17,21)、IFN-β、及びIFN-γ等が挙げられる。インターフェロンは、ウイルス複製を抑制することで、細胞のウイルス抵抗性を上昇させることが知られている。
【0075】
よって、一例において免疫細胞の機能は、ウイルス抵抗性の増加作用であってもよい。
【0076】
増殖因子としては、塩基性線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor basic:FGF basic)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor:HGF)、神経成長因子(Nerve Growth Factor:NGF)、血小板由来増殖因子(Platelet Derived Growth Factor:PDGF)、造血幹細胞増殖因子(Stem Cell Growth Factor:SCGF)α,β、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)A-E、上皮増殖因子(Epidermal Growth Factor;EGF)等が挙げられる。
【0077】
FGF basicは、細胞分裂促進の他、血管新生や創傷の治癒においても重要な役割を果たすことが知られている。HGFは、細胞分裂促進、血管新生や組織の修復等において重要な役割を果たすことが知られている。NGFは、神経軸策の伸長及び神経伝達物質の合成促進作用、神経細胞の維持作用、細胞損傷時の修復作用等が知られている。PDGFは、主に間葉系細胞の遊走及び増殖などの調節に関与し、血管新生や創傷の治癒にも関与することが知られている。SCGFα,βは、主に造血細胞の増殖に関与することが知られている。VEGF A-Eは、血管内皮細胞の増殖、血管新生等に関与することが知られている。EGFは、上皮細胞の増殖、創傷の治癒にも関与することが知られている。
【0078】
よって、一例において免疫細胞の機能は、細胞増殖促進作用、血管新生誘導作用、又は創傷治癒作用であってもよい。
【0079】
造血因子としては、幹細胞因子(Stem Cell Factor:SCF)等が挙げられる。SCFは、c-kit受容体を介したシグナル伝達によって機能する造血成長因子であり、造血細胞の生存、増殖、及び分化のために重要な因子であることが知られている。
【0080】
なお、前述のインターロイキンのうち、IL-3についても、未熟血球の増殖を支持する造血因子としての作用を有することが知られている。
【0081】
よって、一例において免疫細胞の機能は、造血細胞増殖促進作用であってもよい。
【0082】
コロニー刺激因子としては、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte colony-stimulating Factor:G-CSF)、顆粒球単球コロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor:GM-CSF)、単球コロニー刺激因子(Macrophage colony-stimulating Factor:M-CSF)等が挙げられる。GM-CSFは、顆粒球・マクロファージ前駆細胞に作用して顆粒球前駆細胞とマクロファージ前駆細胞とに分化させ、G-CSFは、顆粒球前駆細胞に作用して好中球に分化させ、M-CSFは、マクロファージ前駆細胞に作用してマクロファージに分化させ、種々の生理作用を示すことが知られている(日内会誌 1996, 85, 844-849)。
【0083】
よって、一例において免疫細胞の機能は、前駆細胞の分化作用であってもよい。
【0084】
また、その他のサイトカインとして、白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor:LIF)は、細胞の分化を阻害して、細胞の成長に影響を与えるIL-6ファミリーのサイトカインである。よって、一例において免疫細胞の機能は、細胞分化阻害作用であってもよい。
【0085】
また、マクロファージ遊走阻止因子(Macrophage Migration Inhibitory Factor:MIF)は、TNF-αやIL-1βなどのサイトカインを誘導してアレルギーなどの炎症症状を悪化させる一方で、がん抑制遺伝子p53の発現誘導を制御する作用を有し、p53により誘導されるアポトーシスを抑制する作用が知られている(Carcinogenesis. 2009, 30, 1597-605)。よって、一例において免疫細胞の機能は、p53の発現誘導を制御する作用、又はアポトーシス抑制作用であってもよい。
【0086】
なお、免疫細胞の機能は、上述したものに限定されることなく、例えば、免疫細胞からのサイトカイン産生量を減少させる作用、免疫細胞による免疫活性化誘導作用、又は免疫細胞による免疫抑制誘導作用等であってもよい。
【0087】
本発明の評価方法は、サンプルの存在下で、不死化単球細胞又は樹状細胞を培養することにより得られた培養液中のサイトカインの産生量を測定することにより行うことができる。本方法においては、サイトカインの産生量を指標として、免疫細胞の機能に与える作用の評価を行うことができる。以下に、具体的な評価方法について詳述する。
【0088】
なお、サンプルの免疫細胞の機能に与える作用の評価については、前述の<不死化単球及び樹状細胞を用いた物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価>に準じて行うことができる。
【0089】
本発明の評価方法において、産生量が測定されるサイトカインとしては、好ましくは、IL-6、IL-8、IL-12(p40)、MIP-1α、MIP-1β、GRO-α、TNF-α、MCP-1(MCAF)、IFN-γ、及びG-CSFである。
【0090】
サンプルは、溶解液、懸濁液若しくは希釈液により溶解、懸濁若しくは希釈して又はそのまま、評価に用いることができる。このような溶解液としては、例えば、有機溶媒(エタノール、DMSOなど)、水、培地(<不死化単球及び樹状細胞を用いた物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価>の項で記載した培地など)、緩衝液(PBSなど)が用いられてもよい。なお、サンプルとして市販の製品(例えば、機能性飲料又は医薬品)が用いられてもよい。
【0091】
また、サンプルは、予め定められた最終濃度又は希釈倍率で細胞と接触するように溶解又は希釈されて、評価に用いられてもよい。最終濃度としては、0%より大きく50%以下の間で1種類以上、好ましくは少なくとも3種類の濃度が調製されてもよい。なお、最終濃度又は希釈倍率の種類は、3種類であってもよいし、4種類であってもよいし、5種類であってもよいし、6種類以上であってもよい。
【0092】
培養後の不死化単球又は樹状細胞の培養液中のサイトカインの産生量を測定する。なお、測定される培養液としては、一般的には培養上清が使用されるが、必要に応じて細胞破砕液を用いてもよい。当該測定は、公知の免疫学的測定法を用いて行うことができる。免疫学的測定法は、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)、イムノクロマトグラフィー、ラジオイムノアッセイ、又はウェスタンブロット、マルチプレックスアッセイであってもよい。また、これらの免疫学的測定は、市販のキットを用いて行われてもよい。
【0093】
サンプルが免疫細胞の機能に与える作用を有するか否かは、測定されたサイトカインの産生量をもとに判定する。具体的には、サンプルの存在下で任意の時間培養することにより得られた不死化単球又は樹状細胞の培養液中において、サイトカインの産生量が陰性対照と比較して増加した場合に、当該サンプルは免疫細胞の機能に与える作用を有すると判定される。なお、この場合に、例えば、当該増加は、陰性対照に対する一定の増加率を閾値としてもよく、当該増加率を超える産生量であった場合に、サンプルが機能性を有すると判定してもよい。このような増加率としては、1.2倍以上であってもよく、具体的には、2倍であってもよく、3倍であってもよく、5倍であってもよく、10倍以上であってもよい。
【0094】
また、複数の濃度のサンプルを用いて評価を行った場合には、調製された複数の濃度のうち少なくとも1種類の濃度のサンプルの存在下で培養することにより得られた当該細胞の培養液中におけるサイトカインの産生量が、陰性対照と比較して増加した場合に、当該サンプルは免疫細胞の機能に与える作用を有すると判定してもよい。また、サンプルの存在下における培養時間が複数設定されて評価を行った場合には、設定された複数の培養時間のうち少なくとも1種類の時間において、任意の濃度のサンプルの存在下で培養することにより得られた当該細胞の培養液中におけるサイトカインの産生量が陰性対照と比較して増加した場合に、当該サンプルは免疫細胞の機能に与える作用を有すると判定してもよい。
【0095】
なお、陰性対照としては、例えば、不死化単球又は樹状細胞を培養するために用いた培地等が用いられてもよい。
【0096】
<評価キット>
本発明は、ヒト不死化単球又は該ヒト不死化単球から調製された樹状細胞を含む、物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価、サンプル中の発熱性物質の検出、及び/又は免疫細胞の機能に与える作用の評価を行うためのキットに関する。当該キットは、前述の単球又は樹状細胞の他、パッケージ、説明書を含んでいてもよい、また、培養用培地、培養添加物、実験器具、抗IL-6抗体及び/又は抗IL-8抗体、任意の抗サイトカイン抗体、並びに任意の標準物質を含んでいてもよい。なお、培養用培地としては、<不死化単球又は樹状細胞を用いた物質の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価>の項で記載した培地を使用することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0098】
(実施例1)ヒト末梢血由来不死化単球の作製及び樹状細胞の作製
(ヒト末梢血由来不死化単球の作製)
ヒト末梢血由来不死化単球は、既報(WO2012/043651及び特開2017-131136)を参考に作製した。詳しくは、ヒト末梢血よりCD14陽性画分を取り出し、ヒト不死化単球作製に関し報告されている遺伝子(c-MYC、BMI1並びにBCL-2)を既報に従い、導入し作製した。不死化単球株は、20%FBS(Cytiva Inc., Cat♯:SH30088.03)、50ng/mL M-CSF(Peprotech Inc.,Cat♯:AF―300―25)、及び50ng/mL GM-CSF(Peprotech Inc.,Cat♯:300―03)を含有するα-MEM培地中で培養し、培養開始から3~5週間後に、増殖性細胞として獲得し、市販の細胞保存液、例えば無血清細胞保存液バンバンカー(GCLTEC Inc.,Cat♯:CS―02―001)を用い液体窒素下で保存した。
【0099】
(調製した細胞の確認)
調製した細胞の表面マーカーの測定、及び、ギムザ染色などによる形態観察などを行った。表面マーカーの測定は、CD11抗体、CD14抗体(いずれもBiolegend社)を用いて、Sysmex社のフローサイトメーターCyFlowspaceを使用して行った。測定により、CD11及びCD14の発現が確認できたことから調製した細胞が単球様マーカーを発現していることを確認した。また染色については、市販の染色液(Sigma社)を用いて、公知の染色法に基づきギムザ染色もしくはメイギムザ染色をし、高倍顕微鏡(400~1000倍)にて測定した。
【0100】
(不死化単球からの樹状細胞の調製)
保存した不死化単球株を、α-MEM培地(20%FBS、50ng/mL M-CSF、及び50ng/mL GM-CSF含有)中、37℃、5%CO2インキュベータ内で培養し、3日に一度培地交換を行うことで維持し調製した。樹状細胞は、不死化単球を、50ng/mL M-CSF、50ng/mL GM-CSF、及び100ng/mL IL-4の存在下で3日間培養して樹状細胞へと分化させることにより調製した。
【0101】
(実施例2)(ヒト人工多能性幹細胞由来不死化単球の作製)
ヒト人工多能性幹(iPS)細胞由来不死化単球は、既報(WO2012/043651、特開2017-131136及び特開2018-171005)を参考に作製した。詳しくは、未分化なiPS細胞(京都大学iPS細胞研究所より分与)を、ラミニン511(iMatrix―511―E8、(株)ニッピ、Cat♯:892―012)をあらかじめ基底膜としてコートした直径10cmのディッシュ(AGCテクノグラス(株),Cat♯:1012―100)又は6wellプレート(Corning Inc.,Cat♯:3516)上に播種し、α-MEM培地(富士フィルム和光純薬(株),Cat♯:137―17215)に,FBS(Cytiva Inc., Cat♯:SH30088.03)を20%添加した培養液(以下、α-MEM培地(20%FBS含有)と表記)を用いて分化誘導培養を開始した。以降、3日に1度、α-MEM培地(20%FBS含有)を交換しつつ培養を継続した。分化誘導開始から14~21日後、TrypLETM Select(1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)含有)(GIBCO Inc.,Cat♯:A12859―01)及び0.5mM EDTA/PBS(ナカライテスク(株), Cat♯:13567-84)を等量混合し、調製された溶液(最終濃度0.75mM EDTA)を使用して細胞を処置(37℃、60分)して解離させて回収し、ピペッティング操作により細胞浮遊液を作製した。続いて、直径10cmのディッシュ1枚又は6wellプレートの1wellから回収した細胞浮遊液を10mLのD-MEM培地(富士フィルム和光純薬(株)、Cat♯:044―29765)(10%FBS(Cytiva Inc., Cat♯:SH30088.03)含有)に懸濁し、フィーダー細胞なし、ラミニンコートなしの直径10cmのディッシュ2枚又は1枚に播種し、37℃,5%CO2インキュベータ内で静置した。およそ16時間後、ディッシュに付着しなかった細胞を回収し、100マイクロメートルのメッシュ(BD Falcon社製 セルストレイナー)を通過させることにより、凝集細胞塊を除いた細胞浮遊液を得た。
【0102】
前述で得た凝集細胞塊を除いた細胞浮遊液を、α-MEM培地(20%FBS、100ng/mL M-CSF(Peprotech Inc.,Cat♯:AF―300―25)、及び100ng/mL GM-CSF(Peprotech Inc.,Cat♯:300―03)含有)に播種し、T25フラスコ((株)CellSeed,HydroCell,Cat♯:CSF025、もしくはThermo Fisher Scientific Inc.,Cat♯:169900)で培養を行った。その後、3~9日程度経過すると、浮遊性あるいは弱付着性の細胞が出現し、徐々に細胞数が増加していくのが観察された。この浮遊細胞(iPS-MC)を回収し、フローサイトメーターを用い白血球マーカー分子であるCD45、及び、ミエロイド系細胞マーカーであるCD11bあるいはCD33の発現を確認した(非図示)。
【0103】
前述で得た浮遊細胞(iPS-MC)にHuman immunodeficiency virus 1型(HIV-I)増殖力等欠損株であり、タンパク質発現用プロモーターがEF1aである第3世代レンチウイルスベクター(SignaGen Inc.)を用いて、マウス不死化造血幹細胞作製に関して報告されている遺伝子(Myc、Myb、Hob8、TLX1、E2A-pbx1、MLL、Ljx2、RARA、Hoxa9、Notch1、v-raf/v-myc、MYST3-NCOA2、Evi1、HOXB6、HOXB4、β-catenin、Id1)もしくは、ヒト不死化単球作製に関して報告されている遺伝子(c-MYC及びBMI1、EZH2、MDM2、MDM4、HIFIAから少なくとも1つ)を導入し、ヒト人工多能性幹細胞由来不死化単球を作製した。この不死化単球株は、24ウェルプレートにおける、20%FBS、50ng又は50~100ng/mL M-CSF、及び50ng又は50~100ng/mL GM-CSFを含有するα-MEM培地中で培養し、培養開始から3~5週間後に、増殖性細胞として獲得した。また、ヒト人工多能性幹細胞由来不死化単球細胞は、市販の細胞保存液、例えば無血清細胞保存液バンバンカー(GCLTEC Inc.,Cat♯:CS―02―001)を用い液体窒素下で保存した。
【0104】
(実施例3)M-CSF及びGM-CSFを発現するヒト人工多能性幹細胞由来不死化単球の作製
M-CSF及びGM-CSFを発現するヒト人工多能性幹細胞由来不死化単球は既報(特開2018-171005)を参考に作製した。詳しくは、実施例2で得たヒト人工多能性幹細胞由来不死化単球に、Human immunodeficiency virus 1型(HIV-I)増殖力等欠損株であり、タンパク質発現用プロモーターがEF1aである第3世代レンチウイルスベクター(SignaGen Inc.)を用いて、ヒトM-CSF遺伝子とヒトGM-CSF遺伝子の発現ベクターを同時に導入した。遺伝子導入3日後より、ヒトM-CSF及びGM-CSFをいずれも含まないα-MEM(20%FBS含有)培地中で培養し、培養開始から3~5週間後に、増殖性細胞として獲得し、市販の細胞保存液を用い液体窒素下で保存した。以後、実施例3で調製したヒト不死化単球をiPS-ML2と記載する。
【0105】
(実施例4)不死化単球株を用いた物質の皮膚感作性及び/又は発熱性評価試験
皮膚感作性及び/又は発熱性評価試験は以下の手順に沿って行った。試験には、iPS-ML2を用いた。iPS-ML2は、冷凍保存されていたものを室温で溶解させ、洗浄後、10mLの培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))入りのT-25(Thermo Fisher Scientific Inc)フラスコに播種し、その後3回以上継代を行ったものを試験に供した。
1.T-25フラスコから浮遊しているiPS-ML2を15mLチューブに移した。その後、室温、300×Gで5分間遠心分離を行い、上清を捨てた。
2.iPS-ML2のペレットに10mLのPBS(富士フィルム和光純薬(株))を加え、室温、300×Gで5分間遠心分離を行い、上清を捨てた。この操作をもう1回繰り返した。
3.洗浄後のiPS-ML2を培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))に懸濁させた。
4.トリパンブルーを用い、細胞数をカウントした。
5.96-well flat plate(Coring)に各wellあたり1×104個/100μLの細胞数となるように、iPS-ML2を播種した。
6.被験物質として、以下の表1に示す化合物を溶解液で溶解し、この溶解液を濃度が400μg/mLになるように培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))で調製した。
7.400μg/mLの被験物質を培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))で2倍希釈し、計11濃度を調製した。
8.各濃度の被験物質を項目5で準備したplateの各wellあたり100μL添加した。これにより、被験物質の濃度は2倍希釈され、物質の最高の最終濃度は200μg/mLとした。
9.iPS-ML2の培養開始6時間後に各wellから、培養上清を回収した。回収した上清はELISAに用いるまで-80℃で保存した。
10.回収した培養上清中の各サイトカイン量を、IL-6 ELISA KIT(BIOLEGEND、 ELISA MAXTM DELUXE SETHUMAN IL-6)及びIL-8 ELISA KIT(BIOLEGEND、 ELISA MAXTM DELUXE SET HUMAN IL-8)のプロトコールに従い、プレートリーダー(TECAN、インフィニット200PRO M nano)を用いて測定した。
【0106】
【表1】
(結果)
試験の結果、N7については、iPS-ML2に添加6時間後において、IL-6及びIL-8の産生がみられなかった。
【0107】
一方、P1、P3、P4は、iPS-ML2に対する添加6時間後において、被験物質を入れていない培地のみの陰性対照に対して1.5倍以上のIL-6及びIL-8の産生がみられた。また、P2、P5、P6は、iPS-ML2に対する添加6時間後において、被験物質を入れていない培地のみの陰性対照に対して1.5倍以上のIL-8の産生がみられた。
図1において、被験物質を入れていない培地のみの陰性対照に対して産生量が1.5倍以上であったものについては皮膚感作性及び/又は発熱性あり(P)、1.5倍より下回った場合は皮膚感作性及び/又は発熱性なし(N)と記載した。
【0108】
本評価の結果と従来の評価方法(LLNA、h-CLAT)における各被験物質の結果とを比較した(
図1参照)。LLNAでの評価結果(LLNA potency)は、ATLA 38、 275-284、 2010から引用した。皮膚感作性を有しない場合は、Non-sensitiserと表記され、弱い皮膚感作性を有する場合は、weakと表記され、皮膚感作性の強さが大きくなるに従い、moderate、strong、extremeと表記されている。h-CLATの結果(h-CLAT CD86及びCD54)は、ATLA 38、 275-284、 2010から引用し、陰性対照に対し150%以上(CD86)あるいは200%以上(CD54)の発現上昇の場合は陽性(P)、それを下回る場合は陰性(N)とした。この場合、CD86及びCD54のいずれか一方が陽性であれば皮膚感作性があるとされた。
【0109】
P1~P6については、LLNAにおいて、皮膚感作性を有することが確認されており、h-CLATについても、P1~P6を添加した細胞においてCD86及び/又はCD54の発現量の増加がみられている。したがって、本評価は、h-CLATにおける結果と相関した結果が得られた。
【0110】
よって、本実施例に記載の方法により作製したiPS-ML2に対して、各被験物質を添加し、6時間培養することにより得られた培養上清中のIL-6及び/又はIL-8の産生量を測定することで、当該被験物質の皮膚感作性及び/又は発熱性を評価することができると考えられる。
【0111】
なお、同様の皮膚感作性及び/又は発熱性の評価を異なる細胞ロットにおいて実施したところ、各ロット間で皮膚感作性及び/又は発熱性の結果に差は見られなかった。すなわち、本評価法は、再現性が高いことが確認されている。
【0112】
また、本評価は、ELISAで測定できることから、従来の方法(例えば、h-CLAT)よりも簡便な方法で測定できる。そのため、例えば、本評価は、従来の方法により試験を行う前のスクリーニング試験としても使用できるものであると考えられる。
【0113】
(実施例5)不死化ヒト単球を用いたサンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質検出試験
サンプル中の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質検出試験は以下の手順に沿って行った。試験には、iPS-ML2を用いた。iPS-ML2は、冷凍保存されていたものを室温で溶解させ、洗浄後、10mLの培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))入りのT-25フラスコ(Thermo Fisher Scientific Inc)に播種し、その後3回以上継代を行ったものを試験に供した。
1.T-25フラスコから浮遊しているiPS-ML2を15mLチューブに移した。その後、室温、300×Gで5分間遠心分離を行い、上清を捨てた。
2.iPS-ML2のペレットに10mLのPBS(富士フィルム和光純薬(株))を加え、室温、300×Gで5分間遠心分離を行い、上清を捨てた。この操作をもう1回繰り返した。
3.洗浄後のiPS-ML2を培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))に懸濁させた。
4.トリパンブルーを用い、細胞数をカウントした。
5.96-well flat plate(Coring)に各wellあたり1×104個/100μLの細胞数となるように、iPS-ML2を播種した。
6.皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質を含むサンプルとして、LPS及びSACを溶解液で溶解・懸濁した。LPSの場合は、この溶解液を濃度が2000000pg/mLになるように培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))で調製した。SACの場合は、培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))で5倍希釈した。
7.2000000pg/mLのLPS及び5倍希釈したSACを培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))で10倍希釈し、計10濃度を調製した。
8.各濃度の皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質を含むサンプルを項目5で準備したplateの各wellあたり100μL添加した。これにより、皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質の濃度は2倍希釈され、LPSの最高の最終濃度は、1000000pg/mLとなり、SACの最小の希釈倍率は10倍とした。
9.iPS-ML2の培養開始6時間後及び24時間後に各wellから、培養上清を回収する。回収した上清はELISAに用いるまで-80℃で保存した。
10.回収した培養上清中の各サイトカイン量を、IL-6 ELISA KIT(BIOLEGEND、 ELISA MAXTM DELUXE SETHUMAN IL-6)及びIL-8 ELISA KIT(BIOLEGEND、 ELISA MAXTM DELUXE SET HUMAN IL-8)のプロトコールに従い、プレートリーダー(TECAN、インフィニット200PRO M nano)を用いて測定した。
【0114】
(結果)
iPS-ML2に対して、各濃度のLPS又はSACを添加し、6時間及び24時間培養した後のiPS-ML2の培養上清中のIL-6及びIL-8の産生量を
図2に示す。
【0115】
LPSについては、培養6時間後、24時間後ともに、培地のみの陰性対照に対して、濃度依存的に培養上清中のIL-6及びIL-8の産生量が増加した(
図2A及び
図2B参照)。なお、陰性対照は、
図2A及び
図2Bにおいて、グラフの縦軸上に丸の点(培養6時間後の陰性対照)及び四角の点(培養24時間後の陰性対照)として示されている。
【0116】
SACについては、培養6時間後、24時間後ともに希釈倍率が低くなるほど、すなわち濃度が高くなるほど、培地のみの陰性対照に対して、IL-6及びIL-8の産生量が増加した(
図2C及び
図2D参照)。上述のLPSの場合と同様に、陰性対照は、
図2C及び
図2Dにおいて、グラフの右端に丸の点(培養6時間後の陰性対照)及び四角の点(培養24時間後の陰性対照)として示されている。
【0117】
よって、本実施例に記載の方法により作製したiPS-ML2に対して、皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質が含まれたサンプルを添加し、6時間及び/又は24時間培養することにより得られた培養上清中のIL-6及び/又はIL-8の産生量を測定することで、皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質を検出することができると考えられる。
【0118】
なお、本検出法による皮膚感作性物質及び/又は発熱性物質の検出は、従来の試験(例えば、PBMC試験)の検出限界と比較して、同程度あるいはそれ以上の検出性能が認められた。また、同様の検出試験を異なる細胞ロットにおいて実施した場合、各ロット間結果に差は見られなかった。すなわち、本検出法は、再現性が高いことが示されている。
【0119】
(実施例6)不死化単球株を用いた機能性飲料によるサイトカイン産生評価試験
機能性飲料による不死化単球株からのサイトカイン産生を評価した。試験には、実施例3で作成したiPS-ML2を用いた。また、被験サンプルとしては、以下の機能性飲料を使用した。
【0120】
【表2】
具体的な試験は以下の手順に沿って行った。
1.冷凍されたiPS-ML2を室温で解凍し、ペレットに10mLのPBS(富士フィルム和光純薬(株))を加え、室温、300×Gで5分間遠心分離を行い、上清を捨てた。この操作をもう1回繰り返した。
2.洗浄後のiPS-ML2を10mLの培地10%FBS(Cytiva Inc., Cat♯:SH30088.03)、又はα-MEM(Gibco BRL)に2又は5%HPL(Human platelet lysate、ヒト血小板由来サプリメント(AdvantaCell社、Cat♯:HPCHXCGL50))を添加した培養液に懸濁させた。
3.トリパンブルーを用い、細胞数をカウントした。
4.96-well flat plate(Corning)に各wellあたり1×10
4個/100μLの細胞数となるように、iPS-ML2を播種した。
5.サンプルとして、表2に示す市販の各種機能性飲料を培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))で2倍希釈し、原液(100%)から0.05%までの計11濃度を調製した。
6.各濃度の各種機能性飲料を項目5で準備したplateの各wellあたり100μL添加した。これにより、各種機能性飲料の濃度は2倍希釈され、最大の最終濃度は50%となり、最小の最終濃度は0.025%とした。
7.iPS-ML2を37℃、5%CO
2インキュベータで培養し、培養開始24時間後に各wellから、培養上清を回収する。回収した上清はELISAに用いるまで-80℃で保存した。
8.回収した培養上清中の各サイトカイン量を、IL-6 ELISA KIT(BIOLEGEND、 ELISA MAX
TM DELUXE SETHUMAN IL-6、Cat♯:430504)のプロトコールに従い、プレートリーダー(TECAN、インフィニット200PRO M nano)を用いて測定した。
9.IL-6の産生量は産生量比(Stimulation Index)として表示し、産生量比(Stimulation Index)は以下の式で算出した。なお、陰性対照として、培地を用いた。
【0121】
Stimulation Index=(各種機能性飲料を添加した細胞上清のIL-6産生量測定値)/(陰性対照のIL-6産生量測定値)
(結果)
iPS-ML2に対して、各濃度の各種機能性飲料を添加し、24時間培養した後のiPS-ML2の培養上清中のIL-6の産生量比を
図3に示す。グラフの横軸はサンプルの濃度(%)を、縦軸は陰性対照の産生量(=1)に対する産生量比を示す。なお、陰性対照は、
図3において、グラフの縦軸上に四角の点として示されている。
【0122】
例えば、サンプルとしてiMUSE(登録商標)を使用した場合、6.25%の濃度で添加した際、17倍程度のIL-6産生量比となった。この結果より、各種サンプル間において、IL-6の最大産生量に差があること、サンプルの希釈濃度によりIL-6の産生量が変化することが判明した。また、サンプル濃度が高い条件下、例えばサンプルの最終濃度が50%付近では多くの群において、浸透圧の変化に伴い、十分な評価結果が観測できないことも判明した。
【0123】
よって本実施例より、作製したiPS-ML2細胞を用いて、免疫細胞によるIL-6などサイトカイン産生量の測定やそれを指標とした炎症惹起の程度やスクリーニング評価が可能であることが示された。
【0124】
(実施例7)不死化単球株を用いた機能性飲料による産生サイトカインの網羅的評価試験
サンプルによる産生サイトカインの網羅的評価試験は以下の手順に沿って行った。試験には、iPS-ML2を用いた。iPS-ML2は、冷凍保存されていたものを室温で溶解させ、洗浄後、10mLの培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))入りのT-25フラスコ(Thermo Fisher Scientific Inc)に播種し、その後3回以上継代を行ったものを試験に供した。
1.T-25フラスコから浮遊しているiPS-ML2を15mLチューブに移す。その後、室温、300×Gで5分間遠心分離を行い、上清を捨てた。
2.iPS-ML2のペレットに10mLのPBS(富士フィルム和光純薬(株))を加え、室温、300×Gで5分間遠心分離を行い、上清を捨てる。この操作をもう1回繰り返した。
3.洗浄後のiPS-ML2を10mLの培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))、又はα-MEM(Gibco BRL)に2又は5%HPL(Human platelet lysate、ヒト血小板由来サプリメント(AdvantaCell社、Cat♯:HPCHXCGL50))を添加した培養液に懸濁させた。
4.トリパンブルーを用い、細胞数をカウントした。
5.96-well flat plate(Corning)に各wellあたり1×104個/100μLの細胞数となるように、iPS-ML2を播種した。
6.機能性飲料(iMUSE(登録商標))を最終濃度10%となるように、培地(10%FCS含有α-MEM(GIBCO))で希釈することで調製し、項目5で準備したplateの1wellあたり100μL添加した。
7.iPS-ML2を37℃、5%CO2インキュベータで培養し、培養開始6時間及び24時間後に各wellから、培養上清を回収した。回収した上清はELISAに用いるまで-80℃で保存した。
8.回収した培養上清中の各サイトカイン量を、Bio-Plex ProTM ヒトサイトカインスクリーニング48-Plexパネル(Bio-RAD社、Cat♯:12007283)のプロトコールに従い、測定機器(製品名:Bio-Plex 200、Bio-RAD社)を用いて測定した。
9.各サイトカインの産生量は産生量比(Stimulation Index)として表示し、産生量比は以下の式で算出する。陰性対照として、培地を用いた。
【0125】
Stimulation Index=(iMUSE(登録商標)を添加した細胞上清のサイトカインの産生量測定値)/(陰性対照のサイトカインの産生量測定値)
(結果)
iMUSE(登録商標)添加による、サイトカイン産生量の比較を表3に示す。表3において、+は、産生量比が2.5~5倍、++は、産生量比が5~10倍、+++は、産生量比が10倍以上であることを示す。
【0126】
【表3】
例えばIL-8の場合、24時間後の産生量は10倍以上であった(+++)。この結果、実施例6で示したIL-6以外にIL-8などのサイトカインも産生することが判明した。
【0127】
よって、作製したiPS-ML2細胞を使用することにより、免疫細胞による様々なサイトカイン産生を評価できること、及び当該サイトカイン評価を利用して種々の物質のサイトカイン産性能評価を行うことが可能であることが示された。