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特許7648061根管治療システム及び根管内電極ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】根管治療システム及び根管内電極ユニット
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/40 20170101AFI20250311BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20250311BHJP
   A61N 1/04 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
A61C5/40
A61C19/04 B
A61N1/04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023182338
(22)【出願日】2023-10-24
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000141598
【氏名又は名称】株式会社吉田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】591065697
【氏名又は名称】藤栄電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】横瀬 敏志
(72)【発明者】
【氏名】大塚 正博
(72)【発明者】
【氏名】山中 通三
(72)【発明者】
【氏名】川原 恒夫
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0039226(US,A1)
【文献】特開2021-176543(JP,A)
【文献】特開2022-84241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/40
A61C 19/04
A61N 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の歯牙の根管内に配置される根管内電極と、
前記被験者の身体に配置される対向電極と、
前記被験者の口腔外に配置され、前記根管内電極及び前記対向電極に根尖位置検知信号を電力として供給する電力供給部と、
前記根管内電極及び前記対向電極に前記根尖位置検知信号が付与された状態で、前記根管の先端部である根尖の位置を検知する根尖位置検知部と、
を備える根管治療システムであって、
前記根管内電極に配置される触媒部を備え、
前記触媒部は、前記根管内に注入された注入液内で前記電力によって触媒作用を起こすことによって、当該注入液内にフリーラジカルを発生させる
ことを特徴とする根管治療システム。
【請求項2】
前記電力供給部は、
前記根尖位置検知信号を発生する根尖位置検知信号発生部と、
前記触媒部に触媒作用を起こさせるための前記電力としての直流電力を発生する直流電力発生部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の根管治療システム。
【請求項3】
前記電力供給部は、前記根尖位置検知信号を発生する根尖位置検知信号発生部を備え、
前記根尖位置検知信号発生部は、前記根尖位置検知信号と、前記触媒部に触媒作用を起こさせるための前記電力としての直流信号と、を切り替えて前記根管内電極及び前記対向電極に供給可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の根管治療システム。
【請求項4】
前記根尖位置検知部は、前記根管内電極及び前記対向電極に前記根尖位置検知信号が付与された状態で、前記根管から延びる側枝の位置を検知する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の根管治療システム。
【請求項5】
前記電力供給部は、前記電力の単位時間あたりの供給量及び/又は供給時間を変更可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の根管治療システム。
【請求項6】
前記触媒部は、酸化チタンによって形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の根管治療システム。
【請求項7】
前記注入液は、水、酸素水、オキシドール又はpH4.5~8.9の中性水溶液である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の根管治療システム。
【請求項8】
前記触媒部は、前記根管内電極の先端部を被覆するように配置されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の根管治療システム。
【請求項9】
前記触媒部は、触媒物質を含有する溶液内に前記根管内電極を浸すディップコーティング法によって形成されている
ことを特徴とする請求項8に記載の根管治療システム。
【請求項10】
前記歯牙の咬合側端部に配置されるストッパを備え、
前記根管内電極は、前記ストッパに対して前記根管の軸方向に移動可能かつ固定可能に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の根管治療システム。
【請求項11】
前記根管内及び前記口腔外に架設され、前記注入液が通過可能な注入液通路部を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の根管治療システム。
【請求項12】
前記注入液通路部を介して前記注入液を前記根管内に注入する、及び、前記注入液を前記根管内から吸引する注入吸引部を備える
ことを特徴とする請求項11に記載の根管治療システム。
【請求項13】
前記根管内電極は、可撓性を有する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の根管治療システム。
【請求項14】
前記根管内電極の外周面には、刃部が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の根管治療システム。
【請求項15】
前記根管内電極の外周面には、刃部が形成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の根管治療システム。
【請求項16】
前記根管内電極及び前記対向電極と前記電力供給部とは、互いに分離可能である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の根管治療システム。
【請求項17】
被験者の歯牙の根管内に配置可能な根管内電極と、
前記根管内電極に配置されており、励起エネルギーとしての電力が付与されることによって触媒作用を起こし、前記根管内に注入された注入液内にフリーラジカルを発生可能な触媒部と、
を備え、
前記根管内電極は、可撓性を有する
ことを特徴とする根管内電極ユニット。
【請求項18】
前記根管内電極の外周面には、刃部が形成されている
ことを特徴とする請求項17に記載の根管内電極ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の歯牙の根管を治療する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
根尖病変は、歯牙の根管内に入った細菌が増殖して根管の先端部である根尖に移動することによって根尖に生じる炎症性の病気であり、放置すると抜歯の必要性が発生する。根管を治療する際には、根管の先端部である根尖の位置を検知し(特許文献1参照)、その後、水酸化カルシウム系の根管充填材を根管内に数日から数週間の間充填(仮充填)することによって根管充填材の強アルカリ性を用いて殺菌することが行われている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-64354号公報
【文献】特開2003-286176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の治療法では、殺菌に長い期間を要するとともに、殺菌後に切削等の機械的な手法で根管充填材を除去する必要があった。複雑な形状を呈する根管(及び側枝)から根管充填材を除去するのは、特許文献2に記載の技術のように溶媒を用いて根管充填材を軟化させても、困難かつ時間を要する作業である。また、根管充填材の充填及び除去には、根尖の位置を検知する装置とは別の装置が必要であった。
【0005】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、装置数を低減するとともに、短期間かつ簡便に根管を治療することが可能な根管治療システム及び当該根管治療システムに用いられる根管内電極ユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決するために、本発明の根管治療システムは、被験者の歯牙の根管内に配置される根管内電極と、前記被験者の身体に配置される対向電極と、前記被験者の口腔外に配置され、前記根管内電極及び前記対向電極に根尖位置検知信号を電力として供給する電力供給部と、前記根管内電極及び前記対向電極に前記根尖位置検知信号が付与された状態で、前記根管の先端部である根尖の位置を検知する根尖位置検知部と、を備える根管治療システムであって、前記根管内電極に配置される触媒部を備え、前記触媒部は、前記根管内に注入された注入液内で前記電力によって触媒作用を起こすことによって、当該注入液内にフリーラジカルを発生させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、装置数を低減するとともに、短期間かつ簡便に根管を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一の実施形態に係る根管治療システムを模式的に示す図である。
図2】フリーラジカルの発生を模式的に示す図である。
図3図1の根管内電極、ストッパ及び注入液通路部を模式的に示す図であり、(a)は図1のIIIa断面図、(b)は(a)のIIIb断面図である。
図4】(a)~(c)は、触媒部の製造方法を説明するための模式図である。
図5】(a)は根尖位置検知信号を模式的に示すグラフ、(b)は直流信号を模式的に示すグラフ、(c)は、根尖位置検知信号及び直流信号の切替例を模式的に示すグラフである。
図6】本発明の第二の実施形態に係る根管治療システムを模式的に示す図である。
図7】本発明の第三の実施形態に係る根管治療システムを模式的に示す図であり、根管内電極、触媒部、ストッパ及び注入吸引部を模式的に示す図である。
図8】本発明の第四の実施形態に係る根管治療システムを模式的に示す図であり、(a)は根管内電極、ストッパ及び注入液通路部を模式的に示す図、(b)は(a)のVIIIa線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図面において方向を示す表現は、各図面の対応関係を示すものである。
【0010】
<第一の実施形態:電力による励起エネルギー付与>
図1に示すように、本発明の第一の実施形態に係る根管治療システム1Aは、被験者の被検査歯としての歯牙2の根管2a、及び、根管2aから歯根膜腔3に延びる側枝2bを治療するための装置である。根管治療システム1Aは、根管2a及び側枝2b内に注入された注入液IS内にフリーラジカルを発生させることによって、当該フリーラジカルによる殺菌作用、抗菌作用、浄化作用で根管2a及び側枝2bを治療する。
【0011】
<注入液>
注入液ISは、例えば、水、又は、フリーラジカルの元となる化合物(酸素(O)、過酸化水素(H)等)を含有する水溶液(酸素水、オキシドール等)である。ここで、オキシドールは、過酸化水素を2.5~3.5w/v%の濃度で含有する水溶液である。また、注入液ISは、pH4.5~8.9の中性水溶液であってもよい。かかる注入液ISは、励起エネルギーが付与されることによってフリーラジカルを発生することができるとともに、励起エネルギーが付与されていない状態では安全性を確保することができる。注入液ISは、中性処理等を行わずに一般廃棄物として廃棄可能な溶液であることが望ましい。
【0012】
根管治療システム1Aは、励起エネルギー供給装置10Aと、伝達部20Aと、励起エネルギー付与部30Aと、触媒部40と、ストッパ50Aと、注入吸引部60Aと、注入液通路部70A(図3参照)と、を備える。
【0013】
<励起エネルギー供給装置>
励起エネルギー供給装置10Aは、触媒部40に触媒作用を起こさせるための励起エネルギーを、伝達部20Aを介して励起エネルギー付与部30Aへ供給する。本実施形態において、励起エネルギー供給装置10Aは、励起エネルギーとしての電力を発生し、発生された電力を励起エネルギー付与部30Aへ供給する。
【0014】
励起エネルギー供給装置10Aは、電力供給部11Aと、制御部12Aと、操作部13と、表示部14と、音出力部15と、を備える。
【0015】
≪電力供給部≫
電力供給部11Aは、制御部12Aからの制御信号に基づいて、励起エネルギーとしての電力を発生し、発生された電力を、伝達部20Aを介して根管内電極31A及び対向電極32へ通電する。電力供給部11Aによって供給される電力は、直流電力(直流信号。正負のどちらでも可)であってもよく、根尖位置検知信号等の交流電力(交流信号。正弦波、矩形波等)であってもよい。本実施形態において、電力供給部11Aは、直流電力発生部11aと、根尖位置検知信号発生部11bと、スイッチ部11cと、を備える。
【0016】
≪直流電力発生部≫
直流電力発生部11aは、制御部12Aからの制御信号に基づいて、励起エネルギーとしての直流電力(直流信号。図5(a)参照)を発生し、発生された直流電力を、伝達部20Aを介して根管内電極31A及び対向電極32へ通電する。
【0017】
≪根尖位置検知信号発生部≫
根尖位置検知信号発生部11bは、制御部12Aからの制御信号に基づいて、根管2aの先端部(底部)である根尖2a1の位置を検知するための根尖位置検知信号(図5(b)参照)を発生し、発生された根尖位置検知信号を、伝達部20Aを介して根管内電極31Aへ通電する。根尖位置検知信号発生部11bは、根尖位置検知信号として、周波数の異なる2つの信号を発生する。根尖位置検知信号発生部11bは、マルチプレクサを有しており、周波数の異なる2つの信号を例えば100msecごとに交互に有する1つの信号として出力することができる。
【0018】
なお、根尖位置検知信号発生部11bによって発生された根尖位置検知信号は、直流電力に代わる励起エネルギーとして根管内電極31A及び対向電極32へ通電されてもよい。
【0019】
≪スイッチ部≫
スイッチ部11cは、並列に配置された直流電力発生部11a及び根尖位置検知信号発生部11bと伝達部20Aとの間に介設されており、制御部12Aからの制御信号に基づいて、直流電力発生部11a及び根尖位置検知信号発生部11bの一方を伝達部20Aと接続し、直流電力発生部11a及び根尖位置検知信号発生部11bの他方を伝達部20Aから切断する。
【0020】
スイッチ部11cが根尖位置検知信号発生部11b側を接続して直流電力発生部11a側を切断した状態では、根尖位置検知信号発生部11bは、根尖位置検知信号を発生する(図7(b)の根尖位置検知信号を参照)。なお、図7(b)には、2つの根尖位置検知信号のうちの1つが描かれている。根尖位置検知信号は、矩形波であってもよく、正弦波であってもよい。根尖位置検知信号が矩形波である場合には、励起エネルギー供給装置10Aは、正弦波の場合と比較して電力量を大きくすることができるので、触媒部40に対して励起エネルギーを効率よく供給することができる。
【0021】
スイッチ部11cが根尖位置検知信号発生部11b側を切断して直流電力発生部11a側を接続した状態では、直流電力発生部11aは、直流電力を発生する(図7(a)の直流信号を参照)。直流電力は、正負どちらの信号であってもよい。すなわち、後記する根管内電極31A及び対向電極32のうち、一方が陽極となり、他方が陰極となる。
【0022】
≪制御部≫
制御部12Aは、CPU(Central Process Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力回路等によって構成されている。制御部12Aは、電力供給部11Aへ制御信号を出力することによって、電力供給部11A(直流電力発生部11a、根尖位置検知信号発生部11b及びスイッチ部11c)を制御する。制御部12Aは、機能部として、電力供給量設定部12aと、電力供給時間設定部12bと、根尖位置検知部12cと、を備える。
【0023】
≪電力供給量設定部≫
電力供給量設定部12aは、術者(歯科医師、歯科衛生士、歯科助手等)による操作部13の操作結果に基づいて、電流及び/又は電圧を変更することによって、励起エネルギーとしての電力(本実施形態では、直流電力)の単位時間あたりの供給量(すなわち、電力の大きさ)を設定する。すなわち、電力供給量設定部12aは、励起エネルギーとしての電力の単位時間あたりの供給量を変更することができる。
【0024】
≪電力供給時間設定部≫
電力供給時間設定部12bは、術者による操作部13の操作結果に基づいて、励起エネルギーとしての電力(本実施形態では、直流電力)の供給時間を設定する。すなわち、電力供給時間設定部12bは、励起エネルギーとしての電力の供給時間を変更することができる。
【0025】
制御部12Aは、設定された(又はデフォルト値の)電力の単位時間あたりの供給量及び/又は供給時間に基づいた電力を、根管内電極31A及び対向電極32へ供給する。
【0026】
≪根尖位置検知部≫
根尖位置検知部12cは、注入液ISが注入された根管2a内に根管内電極31Aが挿入されるとともに、根管内電極31A及び対向電極32の間に周波数の異なる2つの根尖位置検知信号が印加された状態で根管内電極31A及び対向電極32を含む回路において2つの根尖位置検知信号に対応する各インピーダンスを測定し、測定された各インピーダンスに基づいて、根尖2a1の位置を検知する。ここで、術者は、根管内電極31Aを注入液ISが注入された根管2a内に進入させる。根尖位置検知部12cは、各インピーダンスが予め設定された所定値に達した場合に、根管内電極31Aの先端部が根尖2a1に位置することを検知することができる。
【0027】
また、根尖位置検知部12cは、測定された各インピーダンスに基づいて、側枝2bの位置を検知する。ここで、術者は、根管内電極31Aを注入液ISが注入された根管2a内に進入させる。根尖位置検知部16aは、各インピーダンスが所定の変化を生じた場合に、根管内電極31Aの先端部が側枝2bの連結部位に位置することを検知することができる。
【0028】
また、根尖位置検知部12cは、測定された各インピーダンスに基づいて、根管2a内における根管内電極31Aの先端部の位置を検知する。ここで、根尖位置検知部16aは、根尖2a1の位置及び/又は側枝2bの位置を検知するために根管内電極31Aを根管2a内に進入させた際の各インピーダンスの値を記憶している。根尖位置検知部16aは、予め記憶された各インピーダンスと、今回の根管内電極31Aの進入時に測定された各インピーダンスと、に基づいて、根管内電極31Aの先端部が根管2a内のどの位置にあるかを検知することができる。
【0029】
根尖位置検知部12cは、弱い電流である周波数の異なる2つの根尖位置検知信号を根管内電極31A及び対向電極32に印加し、印加された2つの根尖位置検知信号に対応して測定された各インピーダンスの比及び/又は差を検知する。根尖位置検知部16aは、各インピーダンスの比及び差を検知することによって、根管2a内における根管内電極31Aの先端部の位置(根尖2a1の位置、側枝2bの位置)を、根管2aの乾燥、湿潤等といった外部要因に関係なく正確に検知することができる。
【0030】
≪電力供給時間設定部≫
電力供給時間設定部12bは、術者による操作部13の操作結果に基づいて、励起エネルギーとしての電力の供給時間を設定する。すなわち、電力供給時間設定部12bは、励起エネルギーとしての電力の供給時間を変更することができる。
【0031】
≪操作部≫
操作部13は、ボタン、キーボード、タッチパネル等によって構成されており、術者による当該操作部13の操作結果に応じた信号を制御部12へ出力する。
【0032】
≪表示部≫
表示部14は、モニタ、タッチパネル等によって構成されており、制御部12からの制御信号に基づいて、根管内電極31Aの先端部の位置、根尖2a1の位置(すなわち、根管2aの長さである根管長)、側枝2bの位置(根管2aとの連結部位)等を表示する。
【0033】
≪音出力部≫
音出力部15は、スピーカ等によって構成されており、制御部12からの制御信号に基づいて、根管内電極31Aの先端部の位置、根尖2a1の位置(すなわち、根管2aの長さである根管長)、側枝2bの位置(根管2aとの連結部位)等を音(警告音等)又は音声によって術者へ通知する。
【0034】
かかる励起エネルギー供給装置10Aとしては、根尖位置検知信号を発生して根尖の位置を検知することが可能な既存の根尖位置検知装置を利用することができる。この場合には、既存の根尖位置検知装置は、根尖位置検知信号をそのまま励起エネルギー用の電力として供給したり、根尖位置検知信号に代えて直流信号(直流電力)を励起エネルギー用の電力として供給したりすることができる。
【0035】
<伝達部>
伝達部20Aは、励起エネルギー供給装置10Aから供給された励起エネルギーを励起エネルギー付与部30Aへ伝達する。本実施形態において、伝達部20Aは、励起エネルギーとしての電力を通電する電線であり、励起エネルギー供給装置10Aから励起エネルギー付与部30Aに電力を通電する直列回路を構成する。
【0036】
<励起エネルギー付与部>
励起エネルギー付与部30Aは、被験者の口腔内に配置され、励起エネルギー供給装置10Aから伝達部20Aを介して供給された励起エネルギーを、触媒部40に付与する。本実施形態において、励起エネルギー付与部30Aは、根管内電極31Aと、対向電極32と、を備える。
【0037】
≪根管内電極≫
根管内電極31Aは、被験者の歯牙2の根管2a内に挿入される細長い略棒状を呈する電極である。根管内電極31Aは、導電性材料(例えば、ステンレススチール、ニッケルチタン、タングステン等といった導電性金属)によって形成されている。根管内電極31Aは、先端部の直径が0.1mm~2mm、好ましくは0.2mmに形成されており、曲がった根管2aにも対応可能な可撓性(柔軟性)を有する。
【0038】
根管内電極31Aの外周面には、刃部31aが形成されていてもよい。刃部31aは、根管2aの内周面を切削可能な螺旋形状を呈する刃であり、ファイル、及び/又はリーマとしての機能を有する。刃部31aは、根管内電極31Aの外周面において、後記する触媒部40が配置されていない部位に形成されていてもよく、触媒部40が配置されている部位に形成されていてもよく、これらの部位の両方にわたって形成されていてもよい。
【0039】
ファイルとしての刃部31aは、螺旋状に形成されているとともに根管内電極31Aの先端部に切れ刃を有する。かかる刃部31aは、根管2a内で軸方向に往復させて掻き上げることによって、壊死した歯組織を掻き出して除去したり、根管2aを拡大したり、根管形成したりするのに用いられる。ファイルとしての刃部31aの螺旋の捩じれは、リーマとしての刃部31aの螺旋の捩じれよりもきつく形成されている。
【0040】
リーマとしての刃部31aは、螺旋状に形成されているとともに根管内電極31Aの先端部に切れ刃を有していない。かかる刃部31aは、捩じる操作によって根管2aの内壁を切削して歯の神経を取り除いたり、根管形成したりするのに用いられる。
【0041】
かかる根管内電極31Aは、後記する触媒部40とともに根管内電極ユニットU1を構成する。すなわち、根管内電極ユニットU1は、根管内電極31Aと、根管内電極31Aに配置される触媒部40と、を備える。
【0042】
≪対向電極≫
対向電極32は、被験者の身体(例えば、歯肉4)に取り付けられる板状を呈する電極である。対向電極32は、導電性材料(例えば、ステンレススチール、ニッケルチタン、タングステン等といった導電性金属)によって形成されている。対向電極32は、歯肉4に貼り付けられる対極板、歯肉4に掛けられる口角クリップ等の電気接続用端子、被験者の人体に取り付けられるワニクリップ、被験者によって把持される電極、口角に配置される導電性金属製の排唾管等であってもよい。すなわち、対向電極32の形状は、板状に限定されず、棒状、球状等であってもよい。また、対向電極32の取付位置は、口腔内表面である歯肉4に限定されず、口唇、口腔内表面、手、皮膚等、被験者の身体の一部であればよい。
【0043】
ここで、触媒部40が配置された根管内電極31A及び対向電極32は、伝達部20Aに対して着脱(交換)可能に構成されている。または、伝達部20Aは、励起エネルギー供給装置10Aに対して着脱(交換)可能に構成されている。
【0044】
<触媒部>
触媒部40は、根管内電極31Aの外周面(より好ましくは、先端部の外周面)に配置されている。触媒部40は、根管2a内に注入された注入液IS内に配置されており、励起エネルギー供給装置10Aから供給された励起エネルギーによって触媒作用を起こし、注入液IS内にフリーラジカルを発生させる。本実施形態において、触媒部40は、励起エネルギーとしての電力によって、フリーラジカルを発生させる。触媒部40の材料としては、n型半導体である金属酸化物半導体(光活性を有するアナターゼ型又はルチル型の酸化チタン(TiO、すなわち、二酸化チタン)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)等)、金属硫化物(硫化亜鉛(ZnS)等)等が挙げられる。これらの物質は、光が照射されることによって触媒作用を起こす光触媒であり、光以外にも電力又は振動によって励起エネルギーが付与された場合にも触媒作用を起こす。
【0045】
図2に示すように、触媒部40としての酸化チタンに励起エネルギーが付与されて酸化チタンに吸収されると、価電子帯の電子が当該励起エネルギーによってバンドギャップを超えて伝導帯へ移動し、励起電子(e)となる。すなわち、酸化チタン内部の伝導帯において電子(e)が発生するとともに、価電子帯において正孔(h)が発生する。伝導帯において発生した電子が注入液IS内に含有される酸素と反応すること(還元作用)によって、フリーラジカルとしてのスーパーオキシド(O )が発生する。
+O→O
また、価電子帯において発生した正孔が注入液ISである水と反応すること(酸化作用)によって、フリーラジカルとしてのヒドロキシラジカル(OH)が発生する。
+HO→OH+H
かかるフリーラジカルとしてのスーパーオキシド及びヒドロキシラジカルは、有機物質を分解することによって殺菌作用、抗菌作用、浄化作用を奏し、根管2a及び側枝2b内の菌等を死滅させる。
【0046】
酸化チタンにおいて、結晶系がルチル型である場合には、励起エネルギーは3.0eVであり、結晶系がアナターゼ型である場合には、励起エネルギーは3.2eVである。したがって、根管治療システム1Aは、かかる大きさ以上の励起エネルギーを酸化チタンによって形成された触媒部40に付与することによって、注入液IS内にフリーラジカルを発生させることができる。励起エネルギーは、電力以外にも光、振動として触媒部40に付与されることも可能である。
【0047】
酸化チタンは、化学的に安定しており、かつ、資源的にも豊富である。また、酸化チタンは、生体に対し為害作用がないことから、白色顔料としての化粧品、カテーテル等の医療機器にも利用されている。また、酸化チタンは、歯科領域においても、抗菌作用を利用した義歯の洗浄剤、歯の漂白剤等として利用されている。
【0048】
また、酸化チタンは、前記した事項に加えて、水中で自己溶解現象を起こさないバンドギャップを有しているため、耐久性及び実用性の点からも触媒部40の材料として好適である。ここで、自己溶解現象は、バンドギャップが小さい(3.0eV未満)材料に対して水中で励起エネルギーを付与した場合に、伝導帯で発生した正孔が自身を酸化することによって金属イオンが水中に溶け出す現象である。
【0049】
かかる触媒部40は、ディップコーティング法によって形成されている。図4(a)に示すように、触媒物質(例えば、ルチル型の酸化チタン)41を含有する溶液Sa内に、根管内電極31Aの先端部を第一の所定速度(例えば、10mm/sec)で浸漬させる(第一工程)。続いて、根管内電極31Aの先端部を溶液Sa内に所定時間(例えば、10sec)保持する(第二工程)。続いて、図4(b)に示すように、根管内電極31Aの先端部を第二の所定速度(例えば、10mm/sec)で溶液Saから引き上げる(第三工程)。続いて、図4(c)に示すように、引き上げられた根管内電極31Aの先端部を乾燥させる(第四工程)。続いて、第一工程~第四工程を第一の所定回数(例えば、5回)繰り返す。続いて、根管内電極31の先端部を加熱する(例えば、200℃で10分間)(第五工程)。続いて、第一工程~第四工程の繰り返し及び第五工程を第二の所定回数(例えば、2回)繰り返す。
【0050】
触媒部40を形成する触媒物質41の膜厚は、根管内電極31Aの溶液Saからの引き上げに関する第二の所定速度が速いほど厚くなり、第二の所定速度が遅いほど薄くなる。
【0051】
<ストッパ>
図1に示すように、ストッパ50Aは、歯牙2の咬合側端部(咬合面の先端部。上歯の下端部、下歯の上端部)に配置されており、根管2a内に挿入される根管内電極31Aを、所望の挿入量で固定する板状の部材である。ストッパ50Aは、例えばラバー素材等によって形成されている。ストッパ50Aの孔部51には、根管内電極31Aが当該根管内電極31Aの軸方向に移動(摺動)可能に圧入されている。
【0052】
ストッパ50Aは、歯牙2の咬合側端部に当接することによって、根管2aの長さである根管長を測定する基準位置となる。すなわち、術者は、根尖位置検知部16aによって根管内電極31Aの先端部が根尖2a1に位置することが検知された状態でストッパ50Aを歯牙2の咬合側端部に当接させる。続いて、術者は、かかる状態の根管内電極31A及びストッパ50Aを被験者の口腔外に取り出し、ストッパ50Aから根管内電極31Aの先端部までの距離を測定することによって、根管長を測定することができる。また、術者は、同様の手法によって、側枝2bの位置(歯牙2の咬合側端部から側枝2bの連結部位までの距離)を測定することができる。
【0053】
<注入吸引部>
注入吸引部60Aは、注入液ISを被験者の歯牙2の根管2a(及び側枝2b)に注入したり、根管2a(及び側枝2b)から吸引したりする。注入吸引部60Aは、注入液ISが貯留される貯留部61と、注入液ISを貯留部61から押し出したり貯留部61に吸引したりするためのピストン部62と、貯留部61を覆うように配置されており術者によって把持可能な把持部63と、を備える。
【0054】
<注入液通路部>
図3に示すように、注入液通路部70Aは、被験者の根管2a内及び口腔外に架設され、貯留部61と根管2aとを注入液ISが通過可能に連通する通路部である。本実施形態において、注入液通路部70Aは、根管内電極31を軸方向に貫通する貫通孔である。
【0055】
<動作例>
始めに、術者(歯科医師、歯科衛生士、歯科助手等)は、対向電極32を歯肉4に取り付けるとともに、根管内電極31Aを根管2aに挿入し、注入吸引部61Aを操作することによって、根管2a及び側枝2b内に注入液ISを注入する。続いて、術者は、操作部13を操作することによって、スイッチ部11cを根尖位置検知信号発生部11b側に接続させる(図5(c)の時刻tよりも前を参照)。根尖位置検知部12cは、根尖位置検知信号に基づいて根尖2a1の位置を検知するとともに側枝2bの位置を検知する。かかる動作では、触媒部40が配置されていない根管内電極31Aが用いられてもよい。また、注入液ISは、根尖2a1及び側枝2bの位置が検知された後に根管2a及び側枝2bに注入されてもよい。すなわち、根尖2a1及び側枝2bの位置は、根管2a及び側枝2bに注入液ISが注入されていない状態でも検知可能である。なお、根管2a及び側枝2bに注入液ISが注入された状態で根尖2a1及び/又は側枝2bの位置が検知される場合には、フリーラジカル発生による根管2a1及び側枝2bの治療も同時に実行される。
【0056】
より詳細には、根尖2a1の位置を検知する場合には、術者は、操作部13を操作することによって、根尖位置検知信号発生部11bに根尖位置検知信号を発生させる。かかる状態において、術者は、指先を使って、根管内電極31Aを根管2aの開口部から根尖2a1の方向に向かってゆっくりと移動させる。根管内電極31Aは、被検査歯としての歯牙2の咬合側端部である測定基準点gに当接するように配置されたストッパ50Aに対して移動し、移動が中止された場合には、ストッパ50Aに対して固定される。根尖位置検知部12cは、根管内電極31Aが根尖2a1に近付くと、表示部14におけるメータ表示及び音出力部15における警告音の発生によって、術者に通知(警告)する。術者は、ストッパ50が配置された測定基準点gから根管内電極31Aの先端部までの寸法L(すなわち、根管長)を計測することができる。
【0057】
また、側枝2bの位置を検知する場合には、術者は、操作部13を操作することによって、根尖位置検知信号発生部11bに根尖位置検知信号(ここでは、側枝位置検知信号)を発生させる。かかる状態において、術者は、指先を使って、根管内電極31Aを根管2aの開口部から根尖2a1の方向に向かってゆっくりと移動させる。根管内電極31Aは、被検査歯としての歯牙2の咬合側端部である測定基準点gに当接するように配置されたストッパ50Aに対して移動し、移動が中止された場合には、ストッパ50Aに対して固定される。根尖位置検知部12cは、根管内電極31Aが側枝2bに近付くと、表示部14におけるメータ表示及び音出力部15における警告音の発生によって、術者に通知(警告)する。術者は、ストッパ50が配置された測定基準点gから根管内電極31Aの先端部までの寸法L(すなわち、側枝2bの位置長)を計測することができる。
【0058】
術者は、根尖2a1及び側枝2bが検知された際の測定基準点gから根管内電極31Aの先端部までの寸法Lを計測して記録しておくことによって、根管内電極31Aを根管2aから引き抜いた後においても、根管内電極31Aの先端部の位置を根尖2a1及び側枝2bの位置に設定することができる。
【0059】
続いて、術者は、操作部13を操作することによって、直流電力の供給量及び供給時間を入力するとともに、スイッチ部11cを直流電力発生部11a側に接続させる(図5(c)の時刻tよりも後を参照)。電力供給量設定部12aは、入力された値に基づいて電力(本実施形態では、直流電力)の単位時間あたりの供給量を設定し、電力供給時間設定部12bは、入力された値に基づいて電力の供給時間を設定する。制御部12Aは、設定された直流電力の単位時間あたりの供給量及び供給時間に基づいて、直流電力発生部11aに直流電力を発生させる。
【0060】
ここで、術者は、根尖位置検知部12cによる根管内電極31Aの先端部の位置の検知結果に基づいて、当該先端部を所望の位置(例えば、側枝2bの位置)に配置することができる。
【0061】
触媒部40は、かかる直流電力によって触媒作用を起こし、注入液IS内にフリーラジカルを発生させる。フリーラジカルは、触媒部40近傍において集中的に発生するとともに、注入液ISの全体にわたって発生する。発生されたフリーラジカルは、殺菌効果を奏することによって、根管2a及び側枝2b内の菌、ウイルス等を死滅させ、根管2a及び側枝2bを治療する。
【0062】
次に、術者は、注入吸引部61Aを操作することによって、根管2a及び側枝2b内から注入液ISを吸引する。続いて、術者は、根管内電極31Aを根管2aから引き抜くとともに、対向電極32を歯肉4から取り外す。
【0063】
続いて、術者は、使用された根管内電極31A及び対向電極32を伝達部20A(及び注入吸引部60A)から取り外すとともに、吸引されて注入吸引部61A内に貯留された注入液ISを廃棄(一般廃棄物として廃棄)する。なお、他の患者の根管治療を行う場合には、術者は、根管内電極31A及び対向電極32を新しいものと交換するとともに、新しい注入液ISを注入吸引部61Aに充填する。
【0064】
なお、触媒部40は、根尖位置検知信号によって触媒作用を起こし、注入液IS内にフリーラジカルを発生させることも可能である。この場合には、直流電力発生部11a及びスイッチ部11cは、省略可能である。すなわち、根管内電極31Aが検知された根尖2a1又は側枝2bの位置にストッパ50Aで保持された状態で、根尖位置検知信号発生部11bが根尖位置検知信号を根管内電極31A及び対向電極32へ供給することによって、触媒部40がフリーラジカルを発生させる。また、電力供給量設定部12a及び/又は電力供給時間設定部12bは、術者による操作部13の操作結果に基づいて、電力としての根尖位置検知信号の単位時間あたりの供給量及び/又は供給時間を設定することができる。
【0065】
したがって、根管治療システム1Aは、根尖2a1の位置を検知する機能及び根管2a内にフリーラジカルを発生させる機能を有することによって、根管2aの治療に必要な装置(システム)数を低減することができる。
【0066】
本発明の第一の実施形態に係る根管治療システム1Aは、被験者の歯牙2の根管2a内に配置される根管内電極31Aと、前記被験者の身体に配置される対向電極32と、前記被験者の口腔外に配置され、前記根管内電極31A及び前記対向電極32に根尖位置検知信号を電力として供給する電力供給部11Aと、前記根管内電極31A及び前記対向電極32に前記根尖位置検知信号が付与された状態で、前記根管2aの先端部である根尖2a1の位置を検知する根尖位置検知部12cと、を備える根管治療システム1Aであって、前記根管内電極31Aに配置される触媒部40を備え、前記触媒部40は、前記根管2a1内に注入された注入液IS内で前記電力によって触媒作用を起こすことによって、当該注入液IS内にフリーラジカルを発生させる。
したがって、根管治療システム1Aは、根尖2a1の位置を検知する機能及び根管2aを殺菌する機能を有することによって、根管2aの治療に必要な装置(システム)数を低減することができる。また、根管治療システム1Aは、励起エネルギーとしての電力によって根管2a内でフリーラジカルを継続的に発生させ、短期間かつ簡便な手法で根管2aを好適に治療することができる。また、根管治療システム1Aは、根管2aの狭窄部である根尖2a1に近い位置に根管内電極31Aを配置してフリーラジカルを発生させることを可能とし、根尖病変の発症を好適に低減することができる。また、根管治療システム1Aは、既存の根尖位置検知システムの根管内電極に触媒部を配置することによって、根管2aを好適に治療することができる。また、根管治療システム1Aは、根尖2a1の位置の検知(根管長の測定)及び根管2aの治療(根尖2a1の殺菌)を同時に実行することができる。
【0067】
根管治療システム1Aにおいて、前記電力供給部11Aは、前記根尖位置検知信号を発生する根尖位置検知信号発生部11bと、前記触媒部40に触媒作用を起こさせるための前記電力としての直流電力を発生する直流電力発生部11aと、を備える。
したがって、根管治療システム1Aは、根尖位置検知信号を用いて根尖2a1の位置を好適に検知するとともに、直流信号によって根尖位置検知信号よりも大きな電力で効率良くフリーラジカルを発生させ、根管2aを好適に治療することができる。
【0068】
根管治療システム1Aにおいて、前記根尖位置検知部12cは、前記根管内電極31A及び前記対向電極32に前記根尖位置検知信号が付与された状態で、前記根管2aから延びる側枝2bの位置を検知する。
したがって、根管治療システム1Aは、側枝2bの位置に応じて根管内電極31Aを配置し、根管2a及び側枝2bを好適に治療することを支援することができる。また、根管治療システム1Aは、側枝2bの開口部に近い位置に根管内電極31Aを配置してフリーラジカルを発生させることを可能とし、側枝病変の発症を好適に低減することができる。
【0069】
根管治療システム1Aにおいて、前記電力供給部11Aは、前記電力の単位時間あたりの供給量及び/又は供給時間を変更可能に構成されている。
したがって、根管治療システム1Aは、例えば術者(歯科医師、歯科衛生士、歯科助手等)の診断結果に応じてフリーラジカルを定量的に発生させ、症状に応じたフリーラジカルの発生の制御を容易化し、根管2aの好適な治療を実現することができる。
【0070】
根管治療システム1Aにおいて、前記触媒部40は、酸化チタンによって形成されている。
したがって、根管治療システム1Aは、触媒作用によってフリーラジカルを好適に発生させることができる。
【0071】
根管治療システム1Aにおいて、前記注入液ISは、水、酸素水、オキシドール又はpH4.5~8.9の中性水溶液である。
したがって、根管治療システム1Aは、励起エネルギーの付与時にはフリーラジカルによる殺菌作用、抗菌作用、浄化作用を発揮するとともに、励起エネルギーの付与をやめることによって無害な元の注入液ISに戻すことができ、安全な廃棄を実現することができる。
【0072】
根管治療システム1Aにおいて、前記触媒部40は、前記励起エネルギー付与部30Aの先端部を被覆するように配置されている。
したがって、根管治療システム1Aは、フリーラジカルを励起エネルギー付与部30Aの先端部に集中的に発生させ、例えば励起エネルギー付与部30Aの先端部の位置を側枝2bの位置に合わせることによって、根管2a及び側枝2bを好適に治療することができる。
【0073】
根管治療システム1Aにおいて、前記触媒部40は、触媒物質41を含有する溶液Sa内に前記励起エネルギー付与部30Aの先端部を浸すディップコーティング法によって形成されている。
したがって、根管治療システム1Aは、簡易な製造方法で所望の厚みを有する触媒部40を実現し、根管2aの好適な治療を実現することができる。
【0074】
根管治療システム1Aは、前記歯牙2の咬合側端部に配置されるストッパ50Aを備え、前記励起エネルギー付与部30Aは、前記ストッパ50Aに対して前記根管2aの軸方向に移動可能かつ固定可能に取り付けられている。
したがって、根管治療システム1Aは、根管2a内において励起エネルギー付与部30Aを好適に位置決めすることができるとともに、ストッパ50Aから励起エネルギー付与部30Aまでの距離に基づいて、根尖2a1の位置(根管長)及び側枝2bの位置を検知することができる。
【0075】
根管治療システム1Aは、前記根管2a内及び前記口腔外に架設され、前記注入液ISが通過可能な注入液通路部70Aを備える。
したがって、根管治療システム1Aは、根管2aに対する注入液ISの移動を容易化することができる。
【0076】
根管治療システム1Aは、前記注入液通路部70Aを介して前記注入液ISを前記根管2a内に注入する、及び、前記注入液ISを前記根管2a内から吸引する注入吸引部60Aを備える。
したがって、根管治療システム1Aは、根管2aに対する注入液ISの注入及び吸引を好適に実現することができる。
【0077】
根管治療システム1Aにおいて、前記根管内電極31Aは、可撓性を有する。
したがって、根管治療システム1Aは、根管内電極31Aの根管2a内に対する好適な挿入を実現することができる。
【0078】
根管治療システム1Aにおいて、前記根管内電極31Aの外周面には、刃部31aが形成されている。
したがって、根管治療システム1Aは、根尖2a1の位置の検知及び根管2a内の殺菌に加えて根管2aの拡大機能を実現することができる。
【0079】
根管治療システム1Aにおいて、前記根管内電極31A及び前記対向電極32と前記電力供給部11Aとは、互いに分離可能である。
したがって、根管治療システム1Aは、被験者ごとに根管内電極31A及び前記対向電極32を交換することを可能とし、根管2aの好適な治療を実現することができる、
【0080】
また、本発明の第一の実施形態に係る根管内電極ユニットU1は、被験者の歯牙2の根管2a内に配置可能な根管内電極31Aと、前記根管内電極31Aに配置されており、励起エネルギーとしての電力が付与されることによって触媒作用を起こし、前記根管2a内に注入された注入液IS内にフリーラジカルを発生可能な触媒部40と、を備え、前記根管内電極31Aは、可撓性を有する。
したがって、根管内電極ユニットU1は、根管2a内に対する好適な挿入を実現することができ、根管2a内の殺菌、抗菌、浄化を実現することができる。
【0081】
根管内電極ユニットU1において、前記根管内電極31Aの外周面には刃部31aが形成されている。
したがって、根管内電極ユニットU1は、根管2a内に対する好適な挿入を実現することができ、根管2a内の殺菌、抗菌、浄化に加えて根管2aの拡大機能を実現することができる。
【0082】
<第二の実施形態:直流電力発生部及び根尖位置検知信号発生部の変形例>
続いて、本発明の第二の実施形態に係る根管治療システムについて、第一の実施形態に係る根管治療システム1Aとの相違点を中心に説明する。図6に示すように、本発明の第二の実施形態に係る根管治療システム1Bは、励起エネルギー供給装置10Aに代えて、励起エネルギー供給装置10Bを備える。励起エネルギー供給装置10Bは、電力供給部11Aに代えて、電力供給部11Bを備える。電力供給部11Bは、直流電力発生部11aを有しておらず、根尖位置検知信号発生部11bが直流電力発生部11aとしても機能する。
【0083】
本実施形態において、根尖位置検知信号発生部11bは、当該根尖位置検知信号発生部11bに対して並列に配置されたスイッチ部11cが切断状態である場合には、根尖位置検知信号を発生し(図5(c)の時刻tよりも前を参照)、スイッチ部11cが接続状態である場合には、直流信号(正負いずれでも可)を発生する(図5(c)の時刻tよりも後を参照)。
【0084】
本発明の第二の実施形態に係る根管治療システム1Bにおいて、前記電力供給部11Bは、前記根尖位置検知信号を発生する根尖位置検知信号発生部11bを備え、前記根尖位置検知信号発生部11bは、前記根尖位置検知信号と、前記触媒部40に触媒作用を起こさせるための前記電力としての直流信号と、を切り替えて前記根管内電極31A及び前記対向電極32に供給可能に構成されている。
したがって、根管治療システム1Bは、一つの信号発生部に根尖位置検知信号及び直流信号を発生させることによって、直流信号によって根尖位置検知信号よりも大きな電力で効率良くフリーラジカルを発生させることができるとともに、部品点数を低減することができる。
【0085】
<第三の実施形態:注入吸引部の変形例>
続いて、本発明の第三の実施形態に係る根管治療システムについて、第一の実施形態に係る根管治療システム1Aとの相違点を中心に説明する。図7に示すように、本発明の第三の実施形態に係る根管治療システム1Cは、注入吸引部60Aに代えて、注入吸引部60Cを備える。
【0086】
<注入吸引部>
注入吸引部60Cは、貯留部61及びピストン部62に代えて、注入液ISが貯留されるスポイト部64を備える。
【0087】
スポイト部64は、ユーザが当該スポイト部64の把持を強めると注入液ISを注入液通路部70Aへ吐出し、ユーザが当該スポイト部64の把持を弱めると注入液ISを注入液通路部70Aから当該スポイト部64内に吸引する。
【0088】
本発明の第三の実施形態に係る根管治療システム1Cは、簡易な操作で注入液ISの注入及び吸引を実現することができる。
【0089】
<第四の実施形態:注入液通路部の変形例>
続いて、本発明の第四の実施形態に係る根管治療システムについて、第一の実施形態に係る根管治療システム1Aとの相違点を中心に説明する。図8に示すように、本発明の第四の実施形態に係る根管治療システム1Dは、根管内電極31A及びストッパ50Aに代えて、根管内電極31D、ストッパ50D及び注入液通路部70Dを備える。根管内電極31D及び触媒部40は、根管内電極ユニットU2を構成する。
【0090】
<根管内電極>
根管内電極31Dは、注入液ISの通路としての貫通孔及び刃部31aを有していない。
【0091】
<ストッパ>
ストッパ50Dには、注入液通路部70Dが圧入される孔部52が形成されている。
【0092】
<注入液通路部>
注入液通路部70Dは、根管内電極31Dに沿うように配置されており、注入液ISが通過可能なチューブである。
【0093】
本発明の第四の実施形態に係る根管治療システム1Dは、根管内電極31Dの形状を簡略化して低コスト化することができる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、注入液吸引部60A,60C及び注入液通路部70A,70Dは、根管内電極31Aとは別体の注射器、スポイト等を用いて具現化されており、かかる注射器、スポイト等によって根管治療の前後に注入液ISを注入したり吸引したりする構成であってもよい。また、根尖位置検知信号発生部11bは、周波数の異なる3つ以上の根尖位置検知信号を発生する構成であってもよい。この場合には、根尖位置検知部12cは、3つ以上の根尖位置検知信号のうち、インピーダンスの比及び又は差が最も大きくなる2つの根尖位置検知信号を選択し、選択された2つの根尖位置検知信号に基づいて根尖2a1(及び側枝2b)の位置を検知することによって、位置の検知精度を向上することができる。
【符号の説明】
【0095】
1A,1B,1C,1D 根管治療システム
2 歯牙(被検査歯)
2a 根管
2a1 根尖
2b 側枝
10A,10B 励起エネルギー供給装置
11A 電力供給部
11a 直流電力発生部
11b 根尖位置検知信号発生部
12c 根尖位置検知部
20A 伝達部(電線)
30A 励起エネルギー付与部
31A 根管内電極
32 対向電極
40 触媒部
41 触媒物質
50A ストッパ
60A 注入吸引部
70A 注入液通路部
【要約】
【課題】 装置数を低減するとともに短期間かつ簡便に根管を治療することが可能な根管治療システムを提供する。
【解決手段】 根管治療システム1Aは、被験者の歯牙2の根管2a内に配置される根管内電極31Aと、被験者の身体に配置される対向電極32と、被験者の口腔外に配置され、根管内電極31A及び対向電極32に根尖位置検知信号を電力として供給する電力供給部11Aと、根管内電極31A及び対向電極32に根尖位置検知信号が付与された状態で、根管2aの先端部である根尖2a1の位置を検知する根尖位置検知部12cと、を備えるシステムであって、根管内電極31Aに配置される触媒部40を備え、触媒部40は、根管2a内に注入された注入液IS内で電力によって触媒作用を起こすことによって、注入液IS内にフリーラジカルを発生させる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8