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<図1>
  • 特許-劣化検知装置および劣化検知システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】劣化検知装置および劣化検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20250311BHJP
   G01N 21/3563 20140101ALI20250311BHJP
   G01N 25/72 20060101ALI20250311BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20250311BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20250311BHJP
【FI】
G01N21/88 J
G01N21/3563
G01N25/72 K
G01N21/359
G01N21/3581
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024193795
(22)【出願日】2024-11-05
【審査請求日】2024-11-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(72)【発明者】
【氏名】馬場 好孝
(72)【発明者】
【氏名】西田 蓉子
(72)【発明者】
【氏名】河越 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】阪上 隆英
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕樹
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-048558(JP,A)
【文献】特開2022-053927(JP,A)
【文献】特開2024-118359(JP,A)
【文献】特開平06-331560(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110243839(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 25/72
G06T 1/00 - G06T 19/20
G06V 10/00 - G06V 40/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の波長領域の赤外線を透過するフィルタと、
検査対象の表面に形成された塗膜から反射または放射された中赤外線のうち、前記フィルタを透過した中赤外線から赤外線画像を撮影する撮影部と、
前記塗膜に照射された周期的な変動を含む赤外線を参照信号として取得し、前記撮影部により撮影された赤外線画像の時系列データから当該参照信号に基づいて反射成分を抽出し、前記塗膜の劣化状態を検知する処理を行う処理部と、
を備える劣化検知装置。
【請求項2】
前記参照信号を発する照明と、
前記照明から発され、前記塗膜から反射された前記参照信号を取得する近赤外カメラと、をさらに備え、
前記処理部は前記近赤外カメラが取得した前記参照信号に基づいて前記塗膜の劣化状態を検知する処理を行う、
請求項1に記載の劣化検知装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記撮影部により撮影された赤外線画像の時系列データから放射成分を抽出し、前記塗膜の物理的な劣化による温度差を検知する処理を行う、請求項1に記載の劣化検知装置。
【請求項4】
特定の波長領域の赤外線を透過するフィルタと、
検査対象の表面に形成された塗膜から反射または放射された中赤外線のうち、前記フィルタを透過した中赤外線から赤外線画像を撮影する撮影部と、
前記塗膜に照射された周期的な変動を含む赤外線を参照信号として取得し、前記撮影部により撮影された赤外線画像の時系列データから当該参照信号に基づいて反射成分を抽出し、前記塗膜の劣化状態を検知する処理を行う処理部と、
を備える劣化検知システム。
【請求項5】
前記参照信号を発する照明と、
前記照明から発され、前記塗膜から反射された前記参照信号を取得する近赤外カメラと、をさらに備え、
前記処理部は前記近赤外カメラが取得した前記参照信号に基づいて前記塗膜の劣化状態を検知する処理を行う、
請求項4に記載の劣化検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化検知装置および劣化検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、母材に塗布され最も外側に位置する第1層とその直下に位置する第2層とを有する塗膜において、第1層と第2層の分光特性を利用して第1層の消耗を検出する塗膜劣化検出方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-120549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば屋外設備の表面には、耐候性の向上等を目的として樹脂塗料等による塗膜が形成される。塗膜は風雨や日射等による負荷を受けて劣化し、性能が低下するため塗料の塗り直し等の補修を施す必要がある。しかしながら、従来の劣化検知方法では塗膜の劣化に関し詳細な情報を得ることは困難であるため、補修の要否の適切な判断ができず、維持管理費が高コスト化する恐れがある。
本発明は、塗膜の劣化に関してより詳細な情報を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、特定の波長領域の赤外線を透過するフィルタと、検査対象の表面に形成された塗膜から反射または放射された中赤外線のうち、前記フィルタを透過した中赤外線から赤外線画像を撮影する撮影部と、前記塗膜に照射された周期的な変動を含む赤外線を参照信号として取得し、前記撮影部により撮影された赤外線画像の時系列データから当該参照信号に基づいて反射成分を抽出し、前記塗膜の劣化状態を検知する処理を行う処理部と、を備える劣化検知装置である。
請求項2に記載の発明は、前記参照信号を発する照明と、前記照明から発され、前記塗膜から反射された前記参照信号を取得する近赤外カメラと、をさらに備え、前記処理部は前記近赤外カメラが取得した前記参照信号に基づいて前記塗膜の劣化状態を検知する処理を行う、請求項1に記載の劣化検知装置である。
請求項に記載の発明は、前記処理部は、前記撮影部により撮影された赤外線画像の時系列データから放射成分を抽出し、前記塗膜の物理的な劣化による温度差を検知する処理を行う、請求項1に記載の劣化検知装置である。
請求項に記載の発明は、特定の波長領域の赤外線を透過するフィルタと、検査対象の表面に形成された塗膜から反射または放射された中赤外線のうち、前記フィルタを透過した中赤外線から赤外線画像を撮影する撮影部と、前記塗膜に照射された周期的な変動を含む赤外線を参照信号として取得し、前記撮影部により撮影された赤外線画像の時系列データから当該参照信号に基づいて反射成分を抽出し、前記塗膜の劣化状態を検知する処理を行う処理部と、を備える劣化検知システムである。
請求項5に記載の発明は、前記参照信号を発する照明と、前記照明から発され、前記塗膜から反射された前記参照信号を取得する近赤外カメラと、をさらに備え、前記処理部は前記近赤外カメラが取得した前記参照信号に基づいて前記塗膜の劣化状態を検知する処理を行う、請求項4に記載の劣化検知システムである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、塗膜の劣化に関してより詳細な情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施の形態に係る劣化検知システムの構成例を示す図である。
図2】サーバとして用いられるコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図3】サーバの機能構成例を示す図である。
図4】塗膜の劣化と吸光度との関係の例を示す図である。
図5】ポリウレタン塗膜の劣化と吸光度との関係を示す図である。
図6】wide-band filterを用いた場合のポリウレタン塗膜の劣化の検知結果を示す図であり、(a)は紫外線照射期間と反射分離ロックイン値との関係を、(b)は赤外吸収積分値と反射分離ロックイン値との関係を示す。
図7】narrow-band filterを用いた場合のポリウレタン塗膜の劣化の検知結果を示す図であり、(a)は紫外線照射期間と反射分離ロックイン値との関係を、(b)は赤外吸収積分値と反射分離ロックイン値との関係を示す。
図8】サーバにて行われる劣化検知処理の流れの例を示す図である。
図9】赤外線画像および判定結果の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<劣化検知システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る劣化検知システム1の構成例を示す図である。劣化検知システム1は、検査対象である被写体200の表面に形成された塗膜の劣化状態を検知する。
劣化検知システム1は、中赤外カメラ10と、フィルタ30と、アクティブ照明40と、近赤外カメラ50と、サーバ80と、ユーザ端末90とを備える。中赤外カメラ10、アクティブ照明40、近赤外カメラ50は、ネットワーク70を介してサーバ80およびユーザ端末90と接続される。
【0009】
中赤外カメラ10は、中赤外領域の光を感受して検査対象である被写体200を撮影し、赤外線画像を生成する。中赤外領域の光とは、一般的には2.5~5.0μmの波長領域の光である。本実施の形態においては中赤外カメラ10にはフィルタ30が取り付けられており、フィルタ30を透過した光から赤外線画像が生成される。
中赤外領域においては、被写体200表面からの反射赤外線に加えて、被写体200の温度に応じて放射される赤外線も中赤外カメラ10に入射される。
【0010】
中赤外カメラ10は、被写体200が反射および放射する赤外線のエネルギー量を輝度に変換して赤外線画像を生成する。生成される赤外線画像は、被写体200が反射および放射する赤外線のエネルギー量の情報を含んでいる。
なお、本実施の形態に係る赤外線画像は、静止画として撮影された画像であっても、動画として撮影されたうちの1フレームにあたる画像であってもよい。
中赤外カメラは、撮影部の一例である。
【0011】
フィルタ30は、特定の波長領域の赤外線を選択的に透過させる。フィルタ30は、例えば中赤外カメラ10のレンズ部分に取り付けられる。中赤外カメラ10はフィルタ30を透過した特定の波長領域の赤外線から赤外線画像を生成する。
フィルタ30は、被写体200の表面に形成された塗膜の種類に応じて選択される。フィルタ30は、塗膜の劣化により吸光度が変化する波長領域の赤外線を透過する特性を有するものが選択される。フィルタの選択について、詳しくは後述する。
【0012】
アクティブ照明40は、周期的な変動を含む参照信号を発する。アクティブ照明40としては、例えばハロゲンランプを用いたビデオランプが使用される。アクティブ照明40の照射時間は、例えばソリッドステートリレーを含む装置を用いて制御され、照度が周期的に変動する。例えばアクティブ照明40の点滅周期は、点灯時間1.0秒、消灯時間1.5秒を繰り返すように設定される。
【0013】
近赤外カメラ50は、近赤外領域の光を感受する。近赤外領域の光とは、0.7~2.5μmの波長領域の光である。近赤外領域においては、物体から放射される赤外線は微小である。そのため、近赤外カメラ50には被写体200から反射された赤外線が入射される。
近赤外カメラ50は、アクティブ照明40から発され、被写体200で反射された参照信号を取得する。
【0014】
ネットワーク70は、中赤外カメラ10、アクティブ照明40、近赤外カメラ50、サーバ80、ユーザ端末90の間の通信を担う情報通信ネットワークである。ネットワーク70は、データの送受信が可能であれば、その種類は特に限定されず、例えばインターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等として良い。データ通信に用いられる通信回線は、有線であっても無線であっても良い。また、複数のネットワークや通信回線を介して各装置を接続する構成としても良い。
【0015】
サーバ80は、中赤外カメラ10および近赤外カメラ50から撮影された時系列データを取得する。そして、取得した時系列データに基づいて多波長ロックイン処理を行い、検査対象である塗膜の劣化を検知する。
多波長ロックイン処理とは、異なる感度波長の赤外線カメラで計測した時系列データを参照信号としたロックイン処理である。検知する劣化に合わせた様々な波長帯の参照信号を用いた多波長ロックイン処理が行われる。
【0016】
ロックイン処理とはランダムノイズを含む変動データに対して、変動に関する参照信号との積算処理を行うことで、ランダムノイズを軽減した変動成分を取り出す処理である。
例えば検査対象に赤外線照明を照射することで強制的な赤外線エネルギーを与える場合、外乱光の影響を受ける環境においても塗膜劣化を評価することができる。しかし、計測領域内において外乱光の影響がある箇所とない箇所がある場合、赤外線照明を計測領域全体に照射するのみでは採光条件の違いの影響を打ち消すことはできない。
【0017】
赤外線照明を繰り返し照射した場合、外乱光の影響がある箇所とない箇所とに関わらず、照明されている範囲において同程度の赤外線強度の変動が生じる。赤外線計測視野内の一部領域から赤外線照明の点滅の周期の波形を取り出すことで、赤外線照明の影響による赤外線強度変動のみを検出することができる。
本実施の形態においては、被写体200に対しアクティブ照明40から周期的な変動を含む参照信号が照射される。サーバ80は近赤外カメラ50から参照信号を取得しロックイン処理を行うことで、中赤外カメラ10で計測された反射成分と放射成分とを含む赤外線の時系列データから反射成分を抽出することができる。
【0018】
なお、中赤外カメラ10で計測された赤外線の時系列データから放射成分を抽出する場合には、遠赤外領域の光を感受する遠赤外カメラを用いてロックイン処理を行う。ここで用いる遠赤外領域の光とは、例えば8.0~1000μmの波長領域の光であり、遠赤外カメラは例えば8.0~20μmの波長領域の光を感受する。サーバ80は、遠赤外カメラが計測した時系列データを参照信号としてロックイン処理を行い中赤外カメラ10で計測された赤外線の時系列データから放射成分を抽出する。
【0019】
化学結合状態の変化等の化学的な劣化について検知する場合、サーバ80は中赤外カメラ10で計測された赤外線の時系列データから反射成分を抽出する。サーバ80は化学結合状態の変化を検知する。
塗膜の浮きや割れ、塗膜下の錆び等の物理的な劣化について検知する場合には、サーバ80は中赤外カメラ10で計測された赤外線の時系列データから放射成分を抽出する。サーバ80は物理的な変化による温度差を検知する。
反射成分と放射成分の両方を捉えた計測データから反射成分または放射成分を分離抽出することで、劣化の状態をより詳細に検知することができる。
【0020】
サーバ80は、多波長の時系列データを使用しロックイン処理を行うことで、中赤外カメラ10の時系列データからアクティブ照明40の影響による赤外線強度変動の反射成分と放射成分とを分離して抽出する。そして中波長赤外域において塗装の劣化度合いを定量的に評価する。また、サーバ80は、劣化検知の結果をユーザ端末90に出力する。
サーバ80は、処理部の一例である。サーバ80の機能構成について、詳細は後述する。
【0021】
ユーザ端末90は、劣化検知システム1を使用するユーザが操作する端末である。ユーザ端末90はサーバ80から劣化検知の結果を取得し、ユーザ端末90の画面に表示する。ユーザ端末90の画面は表示部の一例である。ユーザ端末90は、中赤外カメラ10、アクティブ照明40、近赤外カメラ50の動作に関する指示を行う機能を備えてもよい。
【0022】
図2は、サーバ80として用いられるコンピュータ800のハードウェア構成例を示す図である。
コンピュータ800は、CPU(Central Processing Unit)801と、RAM(Random Access Memory)802と、ROM(Read Only Memory)803とを備える。RAM802はCPU801がプログラムを実行する際に作業エリアとして使用される揮発性メモリである。ROM803はCPU801により実行されるプログラムおよびその他のデータを記憶する不揮発性メモリである。CPU801は、RAM802を作業エリアに使用し、ROM803から読み出したプログラムを実行する。
【0023】
また、コンピュータ800は、ネットワークを介した通信を行うためのネットワークIF(interface)804と、ユーザ端末90に表示出力を行うための表示機構805とを備える。
CPU801は、OS(基本ソフトウェア)やアプリケーションソフトウェア(応用ソフトウェア)等の各種ソフトウェアの実行を通じて測定装置1の機能の制御を行うプロセッサである。本実施の形態の場合、各処理は任意のコンピュータで実行される。
【0024】
任意のコンピュータは、ハードウェアとしてのプロセッサ、ソフトウェアとしてのプログラム、又はそれらの組み合わせとして実現してもよい。任意のコンピュータは、汎用コンピュータ、特定の用途向けコンピュータ、ワークステーション、又は、各処理を実行可能なその他のシステムでもよい。
プロセッサは、プログラムとの協働により各種の処理を実行するよう構成される。プロセッサは、本実施の形態における各部(Unit)、又は、各手段(Means)として機能しうる。プロセッサによる処理の実行順序は、本実施の形態で説明する順序に限定されず、必要に応じて変更が可能である。
【0025】
プロセッサは、1又は複数のハードウェアによる構成が可能である。プロセッサを構成するハードウェアの種類は、特定の種類に限定されない。例えば、プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイス、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるための専用回路、GPU(Graphic Processing Unit)、またはNPU(Neural Processing Unit)等のハードウェアによって構成され得る。
【0026】
プロセッサは、同じ種類の複数のハードウェアの組み合わせに限らず、異なる種類の複数のハードウェアの組み合わせによる構成も可能である。
複数のハードウェアが、あるプロセッサの1又は複数の処理を実行するように構成される場合、複数のハードウェアは互いに物理的に離れた装置内に存在していてもよく、同じ装置内に存在してもよい。ハードウェアは、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)等により構成される。
【0027】
いずれの実施の形態においても、プロセッサによる各処理の実行順序は、各実施の形態で説明する順序に限定されず、必要に応じて変更が可能である。
プログラムは、ファームウェアの他、マイクロコード等のソフトウェアでもよい。プログラムは、例えばプログラムモジュール群でもよい。プログラムモジュール群を構成する各機能は、各機能を実行するように構成されたプロセッサにより実現してもよい。
各実施の形態におけるプログラムは、1又は複数の非一時的なコンピュータ可読媒体(例えば半導体メモリ、磁気又は光学式の記憶媒体、その他のストレージ)に保存されたプログラムコードや複数のコードセグメントでもよい。
【0028】
プログラムは、互いに物理的に離れた装置に存在する複数の非一時的なコンピュータ可読媒体に分割して保存されていてもよい。プログラムコードや複数のコードセグメントは、手順、関数、サブプログラム、ルーチン、サブルーチン、モジュール、ソフトウェアパッケージ、クラス、命令、データ構造、プログラムステートメントの任意の組み合わせで表し得る。プログラムコードや複数のコードセグメントは、情報、データ、引数、パラメータ、又はメモリの内容を送受信することで他のコードセグメント又はハードウェア回路と接続されてもよい。
【0029】
<サーバの機能構成>
図3は、サーバ80の機能構成例を示す図である。
サーバ80は、プロセッサであるCPU801が実行する機能として、赤外画像取得部81と、参照信号取得部82と、ロックイン処理部83と、劣化度算出部84と、判定部85と、出力部86とを備える。
【0030】
赤外画像取得部81は、中赤外カメラ10から時系列データとして被写体200を撮影した中赤外画像の時系列データを取得する。中赤外画像は例えば動画として撮影されたうちの1フレームにあたる画像である。赤外画像取得部81が取得する時系列データは、アクティブ照明40の影響による赤外線強度変動の反射成分と放射成分とを含む。
参照信号取得部82は、近赤外カメラ50から時系列データとして参照信号を取得する。参照信号取得部82が取得する参照信号とは、アクティブ照明40から発され、被写体200で反射された参照信号である。
【0031】
ロックイン処理部83は、赤外画像取得部81および参照信号取得部82が取得した時系列データに基づいて多波長ロックイン処理を行う。ロックイン処理部83は、近赤外カメラ50から取得した参照信号を用いてロックイン処理を行い、中赤外カメラ10の時系列データからアクティブ照明40の影響による赤外線強度変動の反射成分を分離して抽出する。
劣化度算出部84は、反射成分が抽出された赤外線画像から塗膜の劣化度を算出する。劣化度は劣化の度合いを予め定められた基準に基づいて数値化したものである。劣化度算出部84は例えば赤外線画像のエネルギー値に基づいて劣化度を算出する。劣化度算出部84は例えばエネルギー値が予め定められた値以上である部分の面積を劣化度として算出する。
【0032】
判定部85は算出された劣化度に基づいて補修の適否を判定する。判定部85は例えば劣化度が予め定められた閾値を超えている場合に補修が必要であると判定する。
出力部86は反射成分が抽出された赤外線画像をユーザ端末90に出力する。赤外線画像は被写体200の劣化度合いに応じて輝度の異なる二次元分布である。出力部86は赤外線画像と共に判定部85による補修の適否の判定結果を出力してもよい。
【0033】
なお、サーバ80の機能は、中赤外カメラ10により実行されてもよい。中赤外カメラ10は、図2に示すハードウェア構成からなるCPUを備え、図3に示す機能を実行してもよい。また、他の方法により外乱光による影響を取り除く構成としてもよい。
フィルタ30を備えた中赤外カメラ10は、劣化検知装置の一例である。劣化検知装置はアクティブ照明40と近赤外カメラ50とを含む装置であってもよく、サーバ80を備えた中赤外カメラ10を含んでもよい。また中赤外カメラ10と近赤外カメラ50とは別個の装置として構成され、近赤外カメラ50による測定後に中赤外カメラ10による測定が行われる構成としてもよい。
【0034】
<フィルタの選択>
フィルタ30は、被写体200の表面に形成された塗膜の種類に応じて選択される。本実施形態において、検査対象である被写体200は例えば液化天然ガス(LNG)基地の設備や鋼道路橋等の外壁である。これら被写体200は対候性向上のためポリウレタン樹脂等の塗膜が表面に形成される。樹脂塗料等による塗膜は紫外線にさらされることで膜厚減耗が生じる。また、紫外線照射面にラジカル反応を主体とした化学的な構造変化が生じる。化学的な構造変化により、塗膜表面の分子が増加または減少し、これにより特定の波長領域において吸光度が変化する。
フィルタ30は、塗膜の劣化により吸光度が変化する波長領域の赤外線を透過するものが選択される。
【0035】
図4は、塗膜の劣化と吸光度との関係の例を示す図である。図4において、横軸は波長(μm)を、縦軸は吸光度を示す。図4に示す吸収特性はフーリエ変換赤外分光法により取得した。
図4は、ある塗膜の、(1)新品、(2)中程度の劣化品、(3)塗り替えを要する劣化品について、各波長における吸光度を測定した結果を示す。図4に示す例においては波長領域X1~X2μmにおいて、塗膜の劣化に応じて吸光度が大きく変化している。より詳しくは、新品は吸光度が大きく、劣化が進むにつれて吸光度は小さくなっている。このような塗膜について劣化を検査する場合、フィルタ30として波長領域X1~X2μmの光を透過するものが選択される。
【0036】
波長領域X1~X2μmの光を透過するフィルタ30を用いて中赤外カメラ10で塗膜を撮影すると、劣化の度合いに応じてエネルギー量が異なる中赤外画像が撮影される。これにより新品に近い劣化の小さい部分はエネルギー量が小さく、劣化の大きい部分はエネルギー量が大きいエネルギー分布を示す画像データが取得できる。エネルギー量は輝度に変換されるため、劣化の小さい部分は暗く、劣化の大きい部分は明るく表示される。画像データ上のエネルギー分布から、塗膜の劣化状態の二次元分布を検知することができる。
【0037】
紫外線劣化を二次元的に検知する手法について、例えば塗膜にポリウレタン塗料を用いた場合の例を用いて図5乃至図7を用いて説明する。紫外線による構造変化のような化学的な劣化については、近赤外カメラ50から参照信号を取得しロックイン処理を行うことで反射成分を分離して劣化を検知する。
【0038】
図5はポリウレタン塗膜の劣化と吸光度との関係を示す図である。図5において、横軸は波長(μm)を、縦軸は吸光度を示す。図5に示す吸収特性はフーリエ変換赤外分光法により取得した。
図5はポリウレタン塗膜に対し紫外線を非照射の場合、および1か月、3か月、6か月、9か月の期間紫外線を照射した場合の吸光度を示す。図5に示すように、ポリウレタン塗膜は、3.4μmの波長において紫外線照射期間が長いほど紫外線劣化による赤外吸収が小さくなる。そのため、ポリウレタン塗膜の劣化を検知する場合には3.4μmの波長を透過領域に含むフィルタ30を用いる。以下では、中心波長3390nm、半値幅344nmのwide-band filterと、中心波長3420nm、半値幅74nmのフィルタのnarrow-band filterとを用いた場合について示す。
【0039】
図6はwide-band filterを用いた場合のポリウレタン塗膜の劣化の検知結果を示す図である。図6(a)は紫外線照射期間と反射分離ロックイン値との関係を、図6(b)は赤外吸収積分値と反射分離ロックイン値との関係を示す。反射分離ロックイン値とは、近赤外カメラ50から参照信号を取得しロックイン処理を行うことで塗膜が反射および放射する赤外線から分離した反射成分のエネルギー値である。図6(a)において横軸は期間(月)を示す。
【0040】
図6(a)はポリウレタン塗膜に対し紫外線を非照射の場合、および1か月、3か月、6か月、9か月の期間紫外線を照射した場合の反射分離ロックイン値を示す。図6(a)に示すように、照射期間が長くなるにつれて反射分離ロックイン値は大きくなる傾向が得られた。中赤外カメラ10とwide-band filterとを組み合わせることで、紫外線照射期間が9か月以内の初期劣化についても検出することができる。
【0041】
図6(b)は図5に示す赤外吸収スペクトルにおいて、wide-band filterの透過波長域の赤外吸収を積分した値と反射分離ロックイン値の関係を示す。図6(b)に示すように、赤外吸収の積分値が大きいほど反射分離ロックイン値が小さくなる傾向が得られた。wide-band filterの透過波長域においては、赤外吸収スペクトルと反射分離ロックイン値の傾向が一致した。
【0042】
図7はnarrow-band filterを用いた場合のポリウレタン塗膜の劣化の検知結果を示す図である。図7(a)は紫外線照射期間と反射分離ロックイン値との関係を、図7(b)は赤外吸収積分値と反射分離ロックイン値との関係を示す。図7(a)において横軸は期間(月)を示す。
【0043】
図7(a)はポリウレタン塗膜に対し紫外線を非照射の場合、および1か月、3か月、6か月、9か月の期間紫外線を照射した場合の反射分離ロックイン値を示す。図6(a)に示す場合と同様に、照射期間が長くなるにつれて反射分離ロックイン値は大きくなる傾向が得られた。中赤外カメラ10とnarrow-band filterとを組み合わせることで、紫外線照射期間が9か月以内の初期劣化についても検出することができる。
【0044】
図7(b)は図5に示す赤外吸収スペクトルにおいて、narrow-band filterの透過波長域の赤外吸収を積分した値と反射分離ロックイン値の関係を示す。図7(b)に示すように、赤外吸収の積分値が大きいほど反射分離ロックイン値が小さくなる傾向が得られた。wide-band filterの透過波長域と同様に、narrow-band filterの透過波長域においても、赤外吸収スペクトルと反射分離ロックイン値の傾向が一致した。
【0045】
図6および図7に示す結果から、多波長ロックイン処理により、紫外線劣化による赤外吸収の変化を反射分離ロックイン値によって定量的に評価することができる。
wide-band filterとnarrow-band filterとを比較すると、narrow-band filterの方が透過波長域が狭い。図6(b)と図7(b)とを比較すると、紫外線照射期間が6か月以内の初期劣化について、narrow-band filterを用いた場合により高精度に検出することができる。つまり紫外線照射による赤外吸収の差が大きい波長域に絞って計測を行うことにより、劣化箇所を高効率に検出することができる。一方でnarrow-band filterを用いた場合、中赤外カメラ10が捉えるエネルギー量は小さくなる。
【0046】
<劣化検知処理>
紫外線の照射による化学的な劣化を検知する場合の劣化検知処理の流れについて説明する。劣化検知システム1を用いて検査対象である被写体200の表面に形成された塗膜の劣化状態を検知する場合、まずアクティブ照明40から被写体200に参照信号が照射される。被写体200で反射された参照信号は近赤外カメラ50で取得され、また反射および放射された中赤外線が中赤外カメラ10で撮影される。
サーバ80は、中赤外カメラ10から撮影された中赤外画像を取得する。また、近赤外カメラ50から参照信号を取得する。そして、取得した中赤外画像と参照信号とに基づいてロックイン処理を行い、対象塗膜の劣化を検知する。
【0047】
サーバ80にて行われる処理の流れについて、図8を用いて説明する。
図8はサーバ80にて行われる劣化検知処理の流れの例を示す図である。
図8において、まず、赤外画像取得部81が中赤外カメラ10から撮影された赤外線画像を取得する(ステップ1001)。そして、参照信号取得部82が、近赤外カメラ50から参照信号を取得する(ステップ1002)。
【0048】
次に、ロックイン処理部83がロックイン処理により反射成分を抽出する(ステップ1003)。中赤外カメラ10から取得した時系列データは、アクティブ照明40の影響による赤外線強度変動を含む。ロックイン処理部83は近赤外カメラ50から取得した参照信号を用いてロックイン処理を行うことにより、赤外線強度変動の反射成分を分離して抽出する。
【0049】
次に、劣化度算出部84が、反射成分が抽出された赤外線画像から劣化度を算出する(ステップ1004)。劣化度算出部84は例えば赤外線画像のエネルギー値に基づいて劣化度を算出する。そして判定部85が劣化度と予め定められた閾値との比較から補修の適否を判定する(ステップ1005)。判定部85は例えば劣化度が予め定められた閾値を超えている場合に補修が必要であると判定する。
そして、出力部86が赤外線画像および判定結果を出力する(ステップ1006)。出力された赤外線画像および判定結果はユーザ端末90の画面に表示される。
【0050】
ユーザ端末90における赤外線画像および判定結果の表示例について、図9を用いて説明する。
図9は、赤外線画像および判定結果の表示例を示す図である。図9においては、被写体200が矩形状である場合について示す。なお、図9においては簡略化のために被写体200を補修が必要な領域と補修が不要な領域との2つに分けて表示する。
【0051】
赤外線画像において、劣化の大きい部分は明るく、劣化の小さい部分は暗く表示される。図9に示す例では、劣化が大きく補修が必要な領域は白く、劣化が小さく補修が不要な部分は網掛けで示す。
また、図9に示す例では赤外線画像とともに、撮影日「yyyy/mm/dd」と判定結果「劣化部分の面積が○○を超えています 塗膜の補修が必要です」とが表示される。なお、これら表示は一例であり、他のテキストや画像等の表示、音声等による通知を行っても良い。また補修の適否の判定は劣化部分の面積によるものに限定されず、得られた赤外線画像と予め定められた基準とに基づいて補修の適否が判定される。
【符号の説明】
【0052】
1…劣化検知システム、10…中赤外カメラ、30…フィルタ、40…アクティブ照明、50…近赤外カメラ、70…ネットワーク、80…サーバ、200…被写体
【要約】
【課題】塗膜の劣化に関してより詳細な情報を得る。
【解決手段】劣化検知装置は、特定の波長領域の赤外線を透過するフィルタと、検査対象の表面に形成された塗膜から反射または放射された中赤外線のうち、フィルタを透過した中赤外線から赤外線画像を撮影する撮影部と、を備え、撮影部により撮影された赤外線画像に基づいて、塗膜の劣化状態を二次元分布として検知する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9