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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】高ホウ素鋳鋼材料及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250311BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20250311BHJP
   C21C 7/06 20060101ALI20250311BHJP
   B22D 1/00 20060101ALI20250311BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21C7/06
B22D1/00 W
C21D6/00 101H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022552260
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(86)【国際出願番号】 CN2020124995
(87)【国際公開番号】W WO2021169358
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】202010132886.0
(32)【優先日】2020-02-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512000569
【氏名又は名称】華南理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ウェイピン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ジーチェン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ビン
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,クゥアンリ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シン
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103498107(CN,A)
【文献】特表平10-500735(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0204866(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109351916(CN,A)
【文献】特表2005-524776(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111218540(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101619410(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103498108(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21C 7/06
B22D 1/00
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高ホウ素鋳鋼材料であって、質量百分率で、0.1~1.0wt.%のCと、1.0~6.5wt.%のB、7.5~25.0wt.%のCrと、0.5~12.5wt.%のMoと、0.5~3.5wt.%のSiと、0.5~8.5wt.%のAlと、0.2~1.2wt.%のMnと、0.05wt.%未満のSと、0.05wt.%未満のPと、残量のFeとからなり
前記高ホウ素鋳鋼材料におけるホウ化物組織は、網状に分布するFe2B相、棒状若しくは網状に分布するCrリッチホウ化物相、又は網状若しくは不規則なブロック状に分布するMoリッチホウ化物相を含むことを特徴とする、高ホウ素鋳鋼材料。
【請求項2】
高ホウ素鋳鋼材料であって、質量百分率で、0.1~0.8wt.%のCと、1.0~5.0wt.%のBと、10.0~25.0wt.%のCrと、0.5~10.0wt.%のMoと、0.5~3.5wt.%のSiと、0.5~8.5wt.%のAlと、0.2~1.2wt.%のMnと、0.05wt.%未満のSと、0.05wt.%未満のPと、残量のFeとからなることを特徴とする、請求項1に記載の高ホウ素鋳鋼材料。
【請求項3】
工業用純鉄又は低炭素鋼廃棄物、クロム鉄及びフェロモリブデンを混合し、加熱して溶融し、次に、アルミニウム棒及びアルミニウムチタンホウ素を加えて脱酸素し、溶鋼を得る工程(1)と、
工程(1)の前記溶鋼を1580~1620℃まで加熱し、次に変性剤を加え、アルミニウム棒を加えて脱酸素し、二次脱酸素溶鋼を得る工程(2)と、
工程(2)の前記二次脱酸素溶鋼を鋳型内に注入し、冷却凝固し、鋳物を得る工程(3)と、
工程(3)の前記鋳物を加熱してアニーリング処理し、炉で冷却し、次にそれを加熱して油焼入れ処理し、焼戻し処理し、室温まで空気冷却し、前記高ホウ素鋳鋼材料を得る工程(4)とを含むことを特徴とする、請求項1~2のいずれか一項に記載の高ホウ素鋳鋼材料の製造方法。
【請求項4】
工程(2)の前記変性剤は、希土類シリコン鉄合金と、アルミニウムチタンホウ素合金とを含み、前記希土類シリコン鉄合金の質量は、溶鋼の質量の0.3~0.5wt.%であり、前記アルミニウムチタンホウ素合金の質量は、溶鋼の質量の0.3~0.4wt.%であることを特徴とする、請求項3に記載の高ホウ素鋳鋼材料の製造方法。
【請求項5】
工程(3)において、二次脱酸素溶鋼の注入温度は、1450~1500℃であることを特徴とする、請求項3に記載の高ホウ素鋳鋼材料の製造方法。
【請求項6】
工程(4)の前記アニーリング処理の温度は、850~900℃であり、前記アニーリング処理の時間は、1~2時間であることを特徴とする、請求項3に記載の高ホウ素鋳鋼材料の製造方法。
【請求項7】
工程(4)の前記油焼入れ処理の温度は、900~1200℃であり、油焼入れ処理の時間は、1~4時間であることを特徴とする、請求項3に記載の高ホウ素鋳鋼材料の製造方法。
【請求項8】
前記油焼入れ処理の温度は、950~1050℃であり、油焼入れ処理の時間は、1~2時間であり、油冷却の温度は、50~80℃であることを特徴とする、請求項7に記載の高ホウ素鋳鋼材料の製造方法。
【請求項9】
工程(4)の前記焼戻し処理の温度は、350~550℃であり、焼戻し処理の時間は、1~4時間であることを特徴とする、請求項3に記載の高ホウ素鋳鋼材料の製造方法。
【請求項10】
焼戻し処理の温度は、350~400℃であり、焼戻し処理の時間は、1~2時間であることを特徴とする、請求項9に記載の高ホウ素鋳鋼材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食及び摩耗耐性の金属材料の技術分野に属し、具体的には、高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム及びその合金の製錬、成形並びに溶融アルミニウムめっき加工過程において、使用した坩堝、金型、液体充填ホッパー、ノズル、クランプ、ガス抜きロータなど、高温溶融アルミニウムと接触する部分は、腐食、摩耗、更に故障などの問題があり、材料の耐用年数を短縮し、溶融アルミニウムを汚染する。アルミニウム溶湯での部品の腐食過程は主に、以下の2つの部分で構成され、一方で、溶融アルミニウムと接触する部品の表面は、溶融アルミニウムの作用で、連続的に溶解及び拡散し、部品の表面に腐食生成物の金属間化合物層が形成され、その一方で、動作条件下、部品はまた、熱応力、相変態応力、又は溶融アルミニウムの洗浄作用などを受ける可能性があり、これらの外部条件の作用で、部品の表面に形成された金属間化合物の剥離を引き起こしやすく、腐食反応を促進する。従って、アルミニウム及びその製品の生産過程において、このような被加工材料に対してより高い要件が課せられ、良好な高温溶融アルミニウムの腐食耐性を有する必要があるだけでなく、良好な熱疲労、熱衝撃、及び摩耗耐性も有する必要がある。
【0003】
現在、国内外で報告された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える材料は主に、2つのカテゴリに集中し、1つは、モノリシック材料を調製することであり、もう1つは、耐熱鋼に対して、ホウ化、窒化、セラミックス溶射などの表面処理を行うことである。中国特許出願CN104593620Aは、高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える溶融アルミニウムのガス抜きロータ及びその回復方法を開示し、該発明は、高強耐熱鋼マトリックスにNiAl、NiCrAl又はNiCr塗布層を溶射することにより、該部品の耐用年数を伸ばす。塗布層によって材料の腐食及び摩耗耐性を向上させるが、調製プロセスが複雑であり、塗布層とマトリックスとの界面には欠陥があり、結合強度が低いという問題を有し、溶融アルミニウムの浸食及び摩耗作用で塗布層が破砕又は剥れ上がると、溶融アルミニウムは、マトリックスと直接接触し、腐食による材料の無効化を加速する。中国特許出願CN104073706Aは、高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える鉄基複合材料の調製方法を開示し、金属/セラミックスの両方の利点を総合に考慮し、ニッケル含有セラミックスプリフォームを用いて鉄基複合材料の高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性を向上させ、該方法は、金属とセラミックスとの界面の結合強度が低く、調製プロセスが複雑であり、セラミックス前駆体が周期的な腐食及び摩耗の状態で剥れ上がり、無効化するという問題がある。また、不融性合金は、良好な高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性を有するが、該系の材料は、調製しにくく、加工及び成形が困難であり、コストが高いため、その適用性を制限する。
【発明の概要】
【0004】
上記問題に対して、本発明の目的は、高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料及びその調製方法を提供することである。本発明は、Cr、Mo、B及びAlの含有量を調整し、マトリックス相を固溶強化して安定化させ、外形及び寸法が異なり、安定性が高く、耐食性に優れたホウ化物相を形成することで相乗的増強し、更に一定の強靭性を有し、高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性に優れた高ホウ素鋳鋼を調製する。
【0005】
本発明の目的は、以下の技術的解決手段のうちの少なくとも1つによって実現される。
【0006】
本発明によって提供される高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料は、質量百分率で、0.1~1.0wt.%のCと、1.0~6.5wt.%のB、7.5~25.0wt.%のCrと、0.5~12.5wt.%のMoと、0.5~3.5wt.%のSiと、0.5~8.5wt.%のAlと、0.2~1.2wt.%のMnと、0.05wt.%未満のSと、0.05wt.%未満のPと、残量のFeとを含む。
【0007】
更に、前記高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料は、質量百分率で、0.1~0.8wt.%のCと、1.0~5.0wt.%のBと、10.0~25.0wt.%のCrと、0.5~10.0wt.%のMoと、0.5~3.5wt.%のSiと、0.5~8.5wt.%のAlと、0.2~1.2wt.%のMnと、0.05wt.%未満のSと、0.05wt.%未満のPと、残量のFeとを含む。
【0008】
本発明によって提供される前記高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料の製造方法は、
工業用純鉄又は低炭素鋼廃棄物、クロム鉄及びフェロモリブデンを混合し、加熱して溶融し、次に、アルミニウム棒及びアルミニウムチタンホウ素を加えて脱酸素し、溶鋼を得る工程(1)と、
工程(1)の前記溶鋼を1580~1620℃まで加熱し、成分が合格するように調整した後、変性剤を加え、アルミニウム棒(Alの添加量が0.2~0.3wt.%)を加えて脱酸素し、炉から取り出し、二次脱酸素溶鋼を得る工程(2)と、
工程(2)の前記二次脱酸素溶鋼を鋳型内に注入し、冷却凝固し、鋳物を得る工程(3)と、
工程(3)の前記鋳物を加熱してアニーリング処理し、炉で冷却し、次にそれを加熱して油焼入れ処理し、焼戻し処理し、室温まで空気冷却し、前記高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料を得る工程(4)とを含む。
【0009】
更に、工程(2)の前記変性剤は、希土類シリコン鉄合金と、アルミニウムチタンホウ素合金とを含み、前記希土類シリコン鉄合金の質量は、溶鋼の質量の0.3~0.5wt.%であり、前記アルミニウムチタンホウ素合金の質量は、溶鋼の質量の0.3~0.4wt.%である。
【0010】
更に、工程(3)において、二次脱酸素溶鋼の注入温度は、1450~1500℃である。
【0011】
更に、工程(4)の前記アニーリング処理の温度は、850~900℃であり、前記アニーリング処理の時間は、1~2時間である。
【0012】
更に、工程(4)の前記油焼入れ処理の温度は、900~1200℃であり、油焼入れ処理の時間は、1~4時間である。
【0013】
好ましくは、前記油焼入れ処理の温度は、950~1050℃であり、油焼入れ処理の時間は、1~2時間であり、油冷却の温度は、50~80℃である。
【0014】
更に、工程(4)の前記焼戻し処理の温度は、350~550℃であり、焼戻し処理の時間は、1~4時間である。
【0015】
好ましくは、前記焼戻し処理の温度は、350~400℃であり、焼戻し処理の時間は、1~2時間である。
【0016】
本発明の原理は以下のとおりである。網状のホウ化物Fe2B相の高い化学安定性、高い硬度、高い耐摩耗性、高い耐食性などの特性に基づいて、鋳鋼組織にホウ化物相を導入し、B、Cr及びMoの含有量を調整することにより、棒状、不規則ブロック状、及び樹枝状のホウ化物組織の特定の分布を持つ高ホウ素鋼を得て、それは、優れた高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性を有し、一定の量の希土類シリコン鉄合金及びアルミニウムチタンホウ素合金の変性剤を加え、更に結晶粒子を微細化し、組織の靭性を向上させ、一定の量のAlを鋼マトリックス内に加えて固溶し、マトリックスの安定性を向上させる。
【発明の効果】
【0017】
従来技術に比べ、本発明は以下の利点及び有益な効果を有する。
【0018】
(1)本発明によって調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料は、B、Cr及びMoの含有量を調整することにより、棒状、不規則ブロック状、及び樹枝状のホウ化物組織の特定の分布を持つ高ホウ素鋼を得て、それは、優れた高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性を有し、
(2)本発明によって調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料は、1000℃のリングブロック型溶融アルミニウムの腐食及び摩耗機器試験(該試験が特許出願第ZL 201010526678.5号で説明された方法を参照する)を経て、10Nの負荷、75mm・s-1回転数、750℃の溶融アルミニウムで30分間腐食及び摩耗した後、その高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性は、業界で一般的に使用される金型材料のH13鋼よりも2.0~9.0倍高くなり、同時に、該材料の耐衝撃強靭性が2.5~8.0J/cm2に達し、
(3)本発明は、調製プロセスがシンプルで、コストが低く、工業化生産に適し、次に、部材の耐用年数を効果的に伸ばし、そのため、生産効率を高め、技術的、経済的、社会的な利益に優れた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料の微小組織図である。
図2】実施例1で調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料が高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗を経た後の巨視的外形図である。
図3】実施例3で調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料の微小組織図である。
図4】実施例3で調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料が高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗を経た後の巨視的外形図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例を参照しながら、本発明の具体的な実施を更に説明するが、本発明の実施及び保護は、それらに限定されるものではない。指摘すべきものとして、以下では具体的に詳細に説明されない過程はいずれも、当業者が従来技術を参照してそれらを実施又は理解できるものである。使用された試薬又は器具に製造元が記載されない場合は、市場で購入できる通常の製品と見なされる。
【0021】
以下の実施例によって提供される高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料の高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性及び耐衝撃強靭性の試験方法は、特許文献ZL 201010526678.5で説明された方法を参照する。具体的な試験条件は、10Nの負荷、75mm・s-1の回転数、750℃の溶融アルミニウムで30分間腐食及び摩耗することである。
【0022】
(実施例1)
本実施例に記載の高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料及びその調製方法は、具体的に、
A3鋼廃棄物、クロム鉄、ホウ素鉄、フェロモリブデン及びマンガン鉄を混合し、加熱して溶融し、鋼の成分(wt.%)が0.5のC、1.0のB、7.5のCr、0.5のMo、1.0のSi、0.5のAl、0.2のMn、0.05未満のS、0.05未満のP、残量のFeであるように調整する工程(1)と、
鋼湯を1580℃まで加熱し、成分が合格するように調整した後、それぞれ0.3wt.%の希土類シリコン鉄合金及び0.3wt.%のアルミニウムチタンホウ素合金を変性剤として加え、最後に、0.2wt.%のAlを加えて脱酸素した後、炉から取り出す工程(2)と、
鋼湯を鋳型内に注入し、1480℃の注入温度で、冷却凝固し、鋳物を得る工程(3)と、
鋳物を850℃でアニーリング処理し、1時間保温し、炉で冷却し、次に鋳物を900℃まで加熱し、2時間保温し、油焼入れ処理し、最後に、鋳物を350℃で焼戻し処理し、1時間保温し、室温まで空気冷却し、前記高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料を得る工程(4)とを含む。
【0023】
本実施例によって調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料組織は、図1に示され、ここで、Crリッチホウ化物は、棒状及び網状を呈するが、Moリッチホウ化物相は主に、網状で分布する。該材料は、性能に優れ、その硬度が36.8HRCに達し、耐衝撃強靭性が8.0J/cm2に達し、その高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性(質量損失が0.79gである)は、H13鋼(質量損失が2.04gである)よりも2.0倍高くなっている。また、腐食及び摩耗した後の該材料の表面(図2に示される)から分かるように、内部のホウ化物は、マトリックスにしっかりと埋め込まれ、マトリックスとよく結合される。該材料が高温溶融アルミニウム内に腐食及び摩耗する場合、安定性に優れた、良好な腐食及び摩耗耐性を有するホウ化物は、溶融アルミニウムがマトリックスへの腐食を阻止し、主な負荷相として、腐食によって生成された金属間化合物層が剥れ上がることを阻止し、更に溶融アルミニウムの腐食を軽減することができる。
【0024】
(実施例2)
本実施例に記載の高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料及びその調製方法は、具体的に、
工業用純鉄、クロム鉄、ホウ素鉄、フェロモリブデン及びマンガン鉄を混合し、加熱して溶融し、成分(wt.%)が0.3のC、2.5のB、12.0のCr、2.5のMo、3.5のSi、1.0のAl、1.0のMn、0.05未満のS、0.05未満のP、残量のFeであるように調整する工程(1)と、
鋼湯を1580℃まで加熱し、成分が合格するように調整した後、それぞれ0.3wt.%の希土類シリコン鉄合金及び0.3wt.%のアルミニウムチタンホウ素合金を変性剤として加え、最後に、0.2wt.%のAlを加えて脱酸素した後、炉から取り出す工程(2)と、
鋼湯を鋳型内に注入し、1480℃の注入温度で、冷却凝固し、鋳物を得る工程(3)と、
鋳物を850℃でアニーリング処理し、1時間保温し、炉で冷却し、次に鋳物を900℃まで加熱し、2時間保温し、油焼入れ処理し、最後に、鋳物を400℃で焼戻し処理し、1時間保温し、室温まで空気冷却する工程(4)とを含む。
【0025】
本実施例によって調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料組織において、Crリッチホウ化物は、棒状及び網状を呈するが、Moリッチホウ化物相は主に、不規則ブロック状で分布する。該材料は、性能に優れ、その硬度が58.6HRCに達し、耐衝撃強靭性が2.5J/cm2に達し、その高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性は、H13鋼よりも4.4倍高くなっている。該材料が高温溶融アルミニウム内に腐食及び摩耗する場合、安定性に優れた、良好な腐食及び摩耗耐性を有する棒状のホウ化物及び不規則ブロック状のホウ化物は、溶融アルミニウムがマトリックスへの腐食を阻止し、主な負荷相として、腐食によって生成された金属間化合物層が剥れ上がることを阻止し、更に溶融アルミニウムの腐食を軽減することができる。
【0026】
(実施例3)
本実施例に記載の高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料及びその調製方法は、具体的に、
工業用純鉄、クロム鉄、ホウ素鉄、フェロモリブデン及びマンガン鉄を混合し、加熱して溶融し、成分(wt.%)が0.8のC、4.2のB、18.5のCr、8.5のMo、0.5のSi、4.0のAl、1.2のMn、0.05未満のS、0.05未満のP、残量のFeであるように調整する工程(1)と、
鋼湯を1580℃まで加熱し、成分が合格するように調整した後、それぞれ0.3wt.%の希土類シリコン鉄合金及び0.3wt.%のアルミニウムチタンホウ素合金を変性剤として加え、最後に、0.2wt.%のAlを加えて脱酸素した後、炉から取り出す工程(2)と、
鋼湯を鋳型内に注入し、1480℃の注入温度で、冷却凝固し、鋳物を得る工程(3)と、
鋳物を850℃でアニーリング処理し、1時間保温し、炉で冷却し、次に鋳物を1000℃まで加熱し、1時間保温し、油焼入れ処理し、最後に、鋳物を400℃で焼戻し処理し、1時間保温し、室温まで空気冷却する工程(4)とを含む。
【0027】
本実施例によって調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料組織は図3に示され、明らかに、Crリッチホウ化物は主に、棒状で分布するが、Moリッチホウ化物相は主に、不規則ブロック状で分布する。該材料は、性能に優れ、その硬度が61.0HRCに達し、耐衝撃強靭性が2.5J/cm2に達する。また、高温溶融アルミニウムで腐食及び摩耗した後の該材料の表面(図4に示される)は、明らかな腐食孔がなく、その高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性は、H13鋼よりも9.0倍高くなり、性能に優れた。
【0028】
(実施例4)
本実施例に記載の高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料及びその調製方法は、具体的に、
A3鋼廃棄物、クロム鉄、ホウ素鉄、フェロモリブデン及びマンガン鉄を混合し、加熱して溶融し、成分(wt.%)が0.2のC、3.5のB、25.0のCr、6.5のMo、2.0のSi、8.5のAl、0.6のMn、0.05未満のS、0.05未満のP、残量のFeであるように調整する工程(1)と、
鋼湯を1580℃まで加熱し、成分が合格するように調整した後、それぞれ0.3wt.%の希土類シリコン鉄合金及び0.3wt.%のアルミニウムチタンホウ素合金を変性剤として加え、最後に、0.2wt.%のAlを加えて脱酸素した後、炉から取り出す工程(2)と、
鋼湯を鋳型内に注入し、1480℃の注入温度で、冷却凝固し、鋳物を得る工程(3)と、
鋳物を850℃でアニーリング処理し、1時間保温し、炉で冷却し、次に鋳物を900℃まで加熱し、2時間保温し、油焼入れ処理し、最後に、鋳物を350℃で焼戻し処理し、1時間保温し、室温まで空気冷却する工程(4)とを含む。
【0029】
本実施例によって調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料組織は主に、マルテンサイトマトリックス、棒状のCrリッチホウ化物、及び不規則ブロック状で分布するMoリッチホウ化物相で構成される。該材料は、その硬度が60.0HRCに達し、耐衝撃強靭性が2.5J/cm2に達し、その高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性が、H13鋼よりも8.5倍高くなり、その性能に優れた。
【0030】
(実施例5)
本実施例に記載の高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料及びその調製方法は、具体的に、
工業用純鉄、クロム鉄、ホウ素鉄、フェロモリブデン及びマンガン鉄を混合し、加熱して溶融し、成分(wt.%)が1.0のC、6.5のB、21.5のCr、12.5のMo、1.5のSi、3.5のAl、0.4のMn、0.05未満のS、0.05未満のP、残量のFeであるように調整する工程(1)と、
鋼湯を1580℃まで加熱し、成分が合格するように調整した後、それぞれ0.3wt.%の希土類シリコン鉄合金及び0.3wt.%のアルミニウムチタンホウ素合金を変性剤として加え、最後に、0.2wt.%のAlを加えて脱酸素した後、炉から取り出す工程(2)と、
鋼湯を鋳型内に注入し、1480℃の注入温度で、冷却凝固し、鋳物を得る工程(3)と、
鋳物を850℃でアニーリング処理し、1時間保温し、炉で冷却し、次に鋳物を900℃まで加熱し、2時間保温し、油焼入れ処理し、最後に、鋳物を350℃で焼戻し処理し、1時間保温し、室温まで空気冷却する工程(4)とを含む。
【0031】
本実施例によって調製された高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗に耐える高ホウ素鋳鋼材料組織は主に、棒状で分布するCrリッチホウ化物、及び不規則ブロック状で分布するMoリッチホウ化物相で構成される。該材料は、性能に優れ、その硬度が60.0HRCに達し、耐衝撃強靭性が4.5J/cm2に達し、その高温溶融アルミニウムの腐食及び摩耗耐性は、H13鋼よりも3.0倍高くなっている。
【0032】
以上の実施例は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明を限定するものではなく、本発明の精神から逸脱することなく当業者によってなされた変更、置換、修正などは、本発明の保護範囲内にあるものとする。
図1
図2
図3
図4