(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】薄いアルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板およびそのめっき方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20250311BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250311BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20250311BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20250311BHJP
C21D 1/18 20060101ALN20250311BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20250311BHJP
【FI】
C23C2/12
C22C38/00 301T
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/46 J
C21D1/18 C
C21D9/00 A
C21D9/46 P
(21)【出願番号】P 2022575401
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 CN2020102906
(87)【国際公開番号】W WO2021248635
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】202010509706.6
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519400759
【氏名又は名称】育材堂(▲蘇▼州)材料科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】IRONOVATION MATERIALS TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】B‐1203, NO. 388 RUOSHUI ROAD, SUZHOU, JIANGSU, 215000, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】易 ▲紅▼▲亮▼
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲シュー▼
(72)【発明者】
【氏名】熊 小川
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/160106(WO,A1)
【文献】特開2014-118628(JP,A)
【文献】国際公開第96/026301(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
C22C 38/00,38/58
C21D 9/00-9/50
C21D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットスタンプ用アルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板であって、基材鋼板と、該基材鋼板の少なくとも片面に施された前記アルミニウム合金めっきとを含み、
前記基材鋼板が重量で次の成分、すなわち、0.05%から0.45%のCと、0.5%から10%のMnと、0%から0.01%のBと、0%から0.4%のNb+Ti+Vと、0.01%から2%のSiと、0.01%から2%のAlと、0.01%から5%のCr+Ni+Mo+Cuであって0%から2%のCr、0%から2%のNi、0%から2%のMo、かつ0%から2%のCuと、Feおよび不可避不純物元素からなる残部と、を含み、
前記アルミニウム合金めっきのめっき厚みが5μmから14μmであり、
前記アルミニウム合金めっきが、基材鋼に隣接するFeAlSi抑制層と、該FeAlSi抑制層の外側のAl合金層と、を含み、
前記FeAlSi抑制層の厚みが前記めっき厚みの60%以下であり、前記FeAlSi抑制層の厚みが1.5μmから6μmであり、
前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の界面から前記基材鋼の内部へ2μm以内では、カーケンダルボイドの直径が2.5μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの数が、35μm当たり15個を超えない、めっき鋼板。
【請求項2】
前記基材鋼板が重量で次の成分、すなわち、0.09%から0.39%のCと、0.6%から3.5%のMnと、0%から0.004%のBと、0%から0.4%のNb+Ti+Vと、0.01%から2%のSiと、0.01%から2%のAlと、0.01%から5%のCr+Mo+Ni+Cuであって0%から2%のCr、0%から2%のNi、0%から2%のMo、かつ0%から2%のCuと、Feおよび不可避不純物元素からなる残部と、を含む、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項3】
前記基材鋼板が重量で次の成分、すなわち、0.18%から0.39%のCと、0.6%から3.5%のMnと、0%から0.004%のBと、0.05%から0.25%のNb+Ti+Vと、0.01%から2%のSiと、0.01%から2%のAlと、0.01%から5%のCr+Mo+Ni+Cuであって0%から2%のCr、0%から2%のNi、0%から2%のMo、かつ0%から2%のCuと、Feおよび不可避不純物元素からなる残部と、を含む、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項4】
前記アルミニウム合金めっきのめっき厚みが6μmから13μmであり、前記FeAlSi抑制層の厚みが前記めっき厚みの50%以下であり、前記FeAlSi抑制層の厚みが1.5μmから5μmである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項5】
前記アルミニウム合金めっきのめっき厚みが7μmから12μmであり、前記FeAlSi抑制層の厚みが前記めっき厚みの40%以下であり、前記FeAlSi抑制層の厚みが2.45μmから3.95μmである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項6】
前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の前記界面から前記基材鋼の前記内部へ2μm以内では、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの数が、35μm当たり13個を超えない、請求項1~5の何れか一項に記載のめっき鋼板。
【請求項7】
前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の前記界面から前記基材鋼の前記内部へ2μm以内では、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの数が、35μm当たり10個を超えない、請求項1~5の何れか一項に記載のめっき鋼板。
【請求項8】
前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の前記界面から前記基材鋼の前記内部へ2μm以内では、前記カーケンダルボイドの直径が2.0μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.0μm以下のカーケンダルボイドの数が、35μm当たり10個を超えない、請求項1~5の何れか一項に記載のめっき鋼板。
【請求項9】
前記基材鋼板の厚みが0.5mmから3.0mmである、請求項1~5の何れか一項に記載のめっき鋼板。
【請求項10】
ホットスタンプ用基材鋼板の少なくとも片面に薄いアルミニウム合金めっきを施すためのめっき方法であって、
a)めっきする前に前記基材鋼板に前処理を施すステップと、
b)前記前処理が施された基材鋼板を加熱した後、該基材鋼板を610℃から650℃の範囲内の所定の温度まで冷却するステップと、
c)ステップb)で前記所定の温度まで冷却された前記基材鋼板を、加熱されためっき溶液に2秒間から7秒間浸漬して溶融めっきするステップであって、前記めっき溶液の組成が、重量で、9
.2%から12%のSiと、AlまたはAl合金および不可避不純物からなる残部と、を含み、該ステップの過程で、前記めっき溶液の温度が前記所定の温度よりも高く、630℃から670℃で保持される、ステップと、
d)前記基材鋼板が前記めっき溶液から出された後、前記基材鋼板の前記少なくとも片面上で前記めっき溶液が固まる前に、エアナイフパージによって前記少なくとも片面上の過剰なめっき溶液を除去して、前記少なくとも片面上の
前記薄いアルミニウム合金めっき
の厚みを
5μmから14μmに制御するステップと、
e)前記基材鋼板を室温まで冷却して、
前記薄いアルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板を得るステップと、を含み、
前記基材鋼板が重量で次の成分、すなわち、0.05%から0.45%のCと、0.5%から10%のMnと、0%から0.01%のBと、0%から0.4%のNb+Ti+Vと、0.01%から2%のSiと、0.01%から2%のAlと、0.01%から5%のCr+Ni+Mo+Cuであって0%から2%のCr、0%から2%のNi、0%から2%のMo、かつ0%から2%のCuと、Feおよび不可避不純物元素からなる残部と、を含む、方法。
【請求項11】
前記所定の温度が620℃から639℃の範囲内であり、前記めっき溶液の温度が前記所定の温度よりも5℃から20℃高い、請求項1
0に記載の方法。
【請求項12】
前記所定の温度が625℃から635℃の範囲内であり、前記めっき溶液の温度が前記所定の温度よりも7℃から15℃高い、請求項1
0に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄いアルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板およびそのめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーおよび環境保護、衝突予防規則、および乗員のパッシブセーフティなどにおける要求がますます厳しくなるにつれて、自動車部品の設計および製造にホットスタンプ工程が適用されることが多くなっている。アルミニウム‐シリコンめっきプレートによって形成されたホットスタンプ部品の強度および靭性を改善させるために、特許文献1(中国特許出願公開第108588612号明細書)は、薄いめっきを有するプレートを使用してホットスタンプ部品を得ることを提案しており、ホットスタンプ前のめっき鋼板の初期めっき厚みは3μmから19μmである。しかしながら、薄いめっきを有するプレートの生産では、生産時に、前記めっき厚みの大きなばらつき、不安定な生産、および局所的な無めっきなどの問題が生じやすいことが見出されている。
【0003】
また、ホットスタンプ時は、前記めっき鋼板のブランクがまず880℃から960℃まで加熱され保持され、そのため基材鋼中のFeと初期めっきの中のAlが拡散し合って前記めっき側にFe-Al金属間化合物を形成し、前記基材と前記Fe-Al金属間化合物層との間に高Al含有量の相互拡散層を形成する。前記Fe-Al金属間化合物を形成する前記めっきの中へのFeの拡散速度は前記基材の中へのAlの拡散速度よりもはるかに速いため、前記拡散が続けば、大量のFeが前記めっきの中に拡散し、前記相互拡散層中の空孔が時間内に充填されることができず、カーケンダルボイドを形成する。これらのカーケンダルボイドが存在する箇所は電気抵抗が高く、そのため溶接工程時に火花の飛散が起きやすく、溶接性能の低下につながる。特許文献1は、薄い初期めっきの使用により、ホットスタンプ時の相互拡散をある程度抑制することができることを見出した。したがって、厚い初期めっきと比べると、前記薄い初期めっきは、ホットスタンプ時のカーケンダルボイドの形成および成長をある程度抑制し、ホットスタンプ部品の抵抗スポット溶接性能の改善がもたらされることが期待できる。
【0004】
しかしながら、本出願の発明者は、薄い初期めっきを用いても、前記抵抗スポット溶接性能には依然としてさらなる改善が必要であることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】中国特許出願公開第108588612号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、先行技術に存在する上記問題を考慮してなされている。本発明の一つの目的は、ホットスタンプ用の薄いアルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板であって、無めっきを解消することができ、前記めっき鋼板によって得られたホットスタンプ部品が優れた抵抗スポット溶接性能を有することを可能にするめっき鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の前記めっき鋼板の少なくとも片面の前記アルミニウム合金めっきのめっき厚みは5μmから14μmであり、前記アルミニウム合金めっきは、基材鋼に隣接するFeAlSi抑制層と、該FeAlSi抑制層の外側のAl合金層とを含み、前記FeAlSi抑制層の厚みは前記めっき厚みの60%以下であり、1.5μmから6.0μmである。前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の界面から前記基材鋼の内部へ2μm以内では、カーケンダルボイドの直径が2.5μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの数が、35μm当たり15個を超えず、好ましくは35μm当たり10個を超えず、より好ましくは35μm当たり5個を超えない。
【0008】
前記FeAlSi抑制層の厚みを減らすことにより、無めっき状況が解消され、前記めっき厚みのばらつきが低減し、生産安定性が改善する。また、上記界面付近の前記基材鋼中のカーケンダルボイドが少なくなりかつ小さくなるので、ホットスタンプ時の大きなサイズのボイドの形成をさらに抑制しやすくなり、それにより、後に形成されるホットスタンプ部品の抵抗スポット溶接性能が改善する。
【0009】
好ましくは、少なくとも片面の前記アルミニウム合金めっきの前記めっき厚みは6μmから13μmであり、前記FeAlSi抑制層の前記厚みは、前記めっき厚みの50%以下であり、1.5μmから5.0μmである。前記界面から前記基材鋼の前記内部へ2μm以内では、前記カーケンダルボイドの前記直径は2.5μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの前記数は、35μm当たり13個を超えず、さらに好ましくは、前記カーケンダルボイドの前記直径は2.0μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.0μm以下のカーケンダルボイドの数は、35μm当たり15個を超えず、好ましくは35μm当たり10個を超えず、より好ましくは35μm当たり5個を超えない。
【0010】
好ましくは、少なくとも片面上の前記アルミニウム合金めっきの前記めっき厚みは7μmから12μmであり、前記FeAlSi抑制層の前記厚みは前記めっき厚みの40%以下であり、2.45μmから3.95μmである。前記界面から前記基材鋼の前記内部へ2μm以内では、前記カーケンダルボイドの前記直径は2.5μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの前記数は、35μm当たり13個を超えず、さらに好ましくは、前記カーケンダルボイドの前記直径は2.0μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.0μm以下のカーケンダルボイドの数は、35μm当たり15個を超えず、好ましくは35μm当たり10個を超えず、より好ましくは35μm当たり5個を超えない。
【0011】
カーケンダルボイドが小さくて少ないほど、後に形成されるホットスタンプ部品の抵抗スポット溶接性能がさらに改善する。
【0012】
別段の記載のない限り、ここにおける前記めっき厚み、前記FeAlSi抑制層の前記厚み、および前記Al合金層の前記厚みはそれぞれ、少なくとも三つの対応する測定値の平均である。
【0013】
前記鋼板の焼入れ性に関するホットスタンプ工程の要求、すなわち、ホットスタンプ部品にマルテンサイト中心の微細構造を形成し、強度が900MPaから2200MPaに達することを満足するために、前記基材鋼板は重量で次の成分、すなわち、0.05%から0.45%のCと、0.5%から10%のMnと、0%から0.01%のBと、0%から0.4%のNb+Ti+Vと、0.01%から2%のSiと、0.01%から2%のAlと、0.01%から5%のCr+Ni+Mo+Cuであって0%から2%のCr、0%から2%のNi、0%から2%のMo、かつ0%から2%のCuと、Feおよび不可避不純物元素からなる残部と、を含む。
【0014】
好ましくは、前記基材鋼板は重量で次の成分、すなわち、0.09%から0.39%のCと、0.6%から3.5%のMnと、0%から0.004%のBと、0%から0.4%のNb+Ti+Vと、0.01%から2%のSiと、0.01%から2%のAlと、0.01%から5%のCr+Mo+Ni+Cuであって0%から2%のCr、0%から2%のNi、0%から2%のMo、かつ0%から2%のCuと、Feおよび不可避不純物元素からなる残部と、を含む。
【0015】
より好ましくは、マルテンサイト中心の微細構造を有し、強度が1400MPaから2100MPaに達するホットスタンプ部品を得るために、前記基材鋼板は重量で次の成分、すなわち、0.18%から0.39%のCと、0.6%から3.5%のMnと、0%から0.004%のBと、0.05%から0.3%のNb+Ti+Vと、0.01%から2%のSiと、0.01%から2%のAlと、0.01%から5%のCr+Mo+Ni+Cuであって0%から2%のCr、0%から2%のNi、0%から2%のMo、かつ0%から2%のCuと、Feおよび不可避不純物元素からなる残部と、を含む。
【0016】
好ましくは、前記基材鋼板の厚みは0.5mmから3.0mmである。
【0017】
本発明の別の目的は、ホットスタンプ用基材鋼板に薄いアルミニウム合金めっきを施すめっき方法であって、無めっきを解消することができ、前記めっき鋼板によって得られたホットスタンプ部品が優れた抵抗スポット溶接性能を有することを可能にするめっき方法を提供することである。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の前記めっき方法では、めっき溶液の組成が重量で9%から12%のSiおよび4%以下のFeを含み、残部がAlおよび不可避不純物からなる。
【0019】
好ましくは、前記めっき溶液中のSi含有量は重量で9.2%から11.2%である。
【0020】
本発明に係る前記めっき方法は、
a)めっき前に基材鋼板に前処理を施すステップと、
b)前記前処理が施された基材鋼板を加熱後、該基材鋼板を、610℃から650℃、好ましくは620℃から645℃、より好ましくは625℃から639℃、さらに好ましくは625℃から635℃の範囲内の所定の温度まで冷却するステップと、
c)ステップb)で前記所定の温度まで冷却された前記基材鋼板を、加熱しためっき溶液に2秒間から7秒間浸漬して溶融めっきするステップであって、前記めっき溶液の温度が前記所定の温度よりも高く、630℃から670℃、好ましくは640℃から660℃で保持される、ステップと、
d)前記基材鋼板が前記めっき溶液から出された後、少なくとも片面の前記めっき溶液が固まる前に、エアナイフパージによって前記少なくとも片面の過剰なめっき溶液を除去して、前記少なくとも片面のめっき厚みを制御するステップと、
e)前記鋼板を室温まで冷却して、薄いアルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板を得るステップと、を含む。
【0021】
上記めっき方法は、連続的な溶融めっき工程で行うことができる。前記基材鋼板に前処理を施すステップは、例えば、脱脂、水洗、除錆、温水洗浄、補助めっき、乾燥などを含む。上記鋼板に対する溶融アルミニウムめっきの過程で、前記基材鋼板の前記加熱は、誘導加熱、加熱炉およびその他の方法によって行うことができる。好ましくは、前記めっき溶液の前記温度は、前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定の温度(すなわち、ポットに入る前記鋼板の温度)よりも5℃から20℃、より好ましくは7℃から15℃高い。ステップe)では、前記鋼板の冷却速度が、好ましくは5℃/s以上である。また、当業者であれば、任意の範囲または上記範囲内の任意の値を本発明に適用可能であることが分かる。例えば、上記所定の温度は、610℃から650℃の範囲内の任意の範囲から取ることができ、または610℃から650℃の範囲内の任意の特定の値、610℃から620℃,635℃から650℃および635℃から645℃などの任意の範囲、または612℃,614℃,616℃,618℃,620℃,622℃,624℃,626℃,628℃,630℃,632℃,634℃,636℃,638℃,640℃,642℃,644℃,646℃,648℃などの任意の値とすることができる。
【0022】
本発明の前記めっき方法によって得られた前記めっき鋼板は、5μmから14μm、好ましくは6μmから13μm、より好ましくは7μmから12μmのめっき厚みを有し、前記めっきにおけるFeAlSi抑制層の厚みは、前記めっき厚みの60%以下でありかつ1.5μmから6μmの範囲内、好ましくは前記めっき厚みの50%以下でありかつ1.5μmから5.0μmの範囲内、より好ましくは前記めっき厚みの40%以下でありかつ2.45μmから3.95μmの範囲内であり、前記FeAlSi抑制層と基材鋼との間の界面から前記基材鋼の内側へ2μm以内では、カーケンダルボイドの直径が2.5μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの数が、35μm当たり15個を超えず、好ましくは35μm当たり13個を超えず、より好ましくは35μm当たり5個を超えず、さらに好ましくは、前記カーケンダルボイドの前記直径が2.0μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.0μm以下のカーケンダルボイドの数が、35μm当たり15個を超えず、好ましくは35μm当たり10個を超えず、より好ましくは35μm当たり5個を超えない。
【0023】
本発明の前記方法では、アルミニウムポット内の前記めっき溶液の前記温度および前記アルミニウムポットに入る前記鋼板の前記温度が低下され、前記めっき溶液中のSi含有量が増大され、前記めっき溶液中の前記鋼板の滞留時間が短縮される。これらの要因の相乗効果により、前記基材中のFeと前記めっきの中のAlとの間の相互拡散が抑制され、一方では、前記得られためっきが、無めっきが解消された安定しためっき厚みを有し、他方では、前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の前記界面付近の前記基材鋼中のカーケンダルボイドの形成が抑制され、ボイドが少なくなりかつ直径も小さくなる結果となり、それにより、前記めっき鋼板によって形成された前記ホットスタンプ部品の前記抵抗スポット溶接性能が改善されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態5に係るめっき鋼板の局所的なめっき形態のSEM写真図である。
【
図2】比較例4に係るめっき鋼板の局所的なめっき形態のSEM写真図である。
【
図3】比較例4に係る前記めっき鋼板の典型的な無めっき欠陥の写真図である。
【
図4】ホットスタンプ後の実施形態5および比較例4の試料めっき鋼板の局所的なめっき形態の金属顕微鏡写真図である。
【
図5】ホットスタンプ後の実施形態5および比較例4の前記試料めっき鋼板のスポット溶接性能試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
例示的実施形態を参照して本発明を下記により詳細に説明する。下記の実施形態または実験データは本発明を例示的に解説することを意図している。当業者には、本発明がこれらの実施形態または実験データに限定されないことは明らかであろう。
【0026】
本発明は、ホットスタンプ用めっき鋼板およびそのめっき方法を提供する。
【0027】
溶融アルミニウムめっき工程では、基材鋼の表面内のFeとめっき溶液中のAl、Siとの間で合金化反応が生じ、前記基材鋼の表面にFeSiAl金属間化合物合金層、すなわち、FeAlSi抑制層が形成されることになる。前記基材鋼の表面の前記FeAlSi抑制層の形成により、FeとAlの相互拡散が大幅に減少する。前記FeAlSi抑制層の外側にはAl合金層があり、その厚みはエアナイフパージによって調整することができる。薄いめっきを有する薄板を生産するとき、決められためっき厚みの場合、前記めっきにおける前記Al合金層が薄過ぎると、連続生産時の前記鋼板の不安定なめっき厚みおよび局所的な無めっき現象の頻発などの問題につながることになるので、前記Al合金層はあまり薄くすべきではない。したがって、十分な厚みの前記Al合金層を確保するためには、めっき時に前記鋼板の表面に薄いFeAlSi抑制層を得る必要がある。
【0028】
また、先行技術では、ホットスタンプの加熱工程と比べると、前記めっき溶液に入る前の前記鋼板の温度は700℃以下であり、溶融めっき時間がほんの数秒であり、したがって、一般的には、前記溶融めっき工程における合金化元素の拡散は緩やかで、カーケンダル効果が生じることはないと考えられている。しかしながら、徹底的に調査したところ、本発明の発明者らは、前記溶融めっき工程において鋼基材の外側は液体アルミニウムなので、したがってやはりFe原子が前記液体アルミニウム中のAlおよびSiと素早く反応して金属間化合物(FeAlSi抑制層)を形成する可能性があることを見出した。カーケンダル効果は、本質的には、前記外側へのFeの拡散速度が鉄基材の中へのAlの拡散速度よりもはるかに速いことが原因であり、溶融めっきによって形成された前記めっきにおける数マイクロメートルのFeAlSi抑制層の存在は、前記溶融めっき工程において前記外側へのFe拡散現象が確かに存在すること、すなわち、カーケンダルボイドが形成される可能性があることを十分に示唆している。広範囲に及ぶ顕微鏡観察を通して、本発明者らは、前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の界面から前記基材鋼の内部へ2μm以内に多数のカーケンダルボイドが確かに存在し、それらのサイズがホットスタンプ後の前記ボイドのサイズよりもはるかに小さいので気付きにくいことを見出した。本発明は、前記FeAlSi抑制層が厚いほど多くのFeが前記外側に拡散しており、カーケンダルボイドが形成されやすくなることを見出している。したがって、前記FeAlSi抑制層の厚みを減少させることにより、前記外側への前記基材鋼中のFe元素の拡散を低減することができ、それによってカーケンダルボイドの形成を低減することができる。
【0029】
一方、本発明は、後続のホットスタンプ工程では、前記溶融めっき工程で形成された前記カーケンダル効果ボイドがかなり急成長しやすく、スポット溶接時の前記めっきの抵抗を大幅に増大させ、溶接時に火花の飛散を生じ、前記ホットスタンプ部品の前記抵抗スポット溶接性能に深刻な影響を及ぼしやすいことを見出している。したがって、最終部品の抵抗スポット溶接性能を確保するために、本発明は、前記溶融めっきの条件を制御することによってカーケンダルボイドの形成を抑制するという目的を達成したい。
【0030】
したがって、本発明の前記方法は、薄いFeAlSi抑制層を得て、FeAlSi抑制層と基材鋼との間の界面付近の前記基材鋼中でのカーケンダルボイドの形成を抑制して、めっき厚みの安定性を改善し、無めっき状況を解消し、後に前記めっき鋼板をホットスタンプすることによって形成された部品の抵抗スポット溶接性能を改善することを目指す。
【0031】
本発明で使用されるめっき溶液は、重量で、9%から12%のSi、4%以下のFe、AlまたはAl合金および不可避不純物からなる残部を含む。
【0032】
好ましくは、前記めっき溶液中のSi含有量は、重量で9.2%から11.2%である。
【0033】
本発明に係るホットスタンプ用めっき鋼板のための前記めっき方法は、
a)めっき前に基材鋼板に前処理を施すステップと、
b)前記前処理が施された基材鋼板を加熱後、該基材鋼板を、610℃から650℃、好ましくは620℃から645℃、より好ましくは625℃から639℃、さらに好ましくは625℃から635℃の範囲内の所定の温度まで冷却するステップと、
c)ステップb)で前記所定の温度まで冷却された前記基材鋼板を、加熱されためっき溶液に2秒間から7秒間浸漬して溶融めっきするステップであって、該浸漬時は、前記めっき溶液の温度が前記所定の温度よりも高く、630℃から670℃、好ましくは640℃から660℃で保持される、ステップと、
d)前記基材鋼板が前記めっき溶液から出された後、少なくとも片面の前記めっき溶液が固まる前に、エアナイフパージによって前記少なくとも片面の過剰なめっき溶液を除去して、前記少なくとも片面のめっき厚みを制御するステップと、
e)前記鋼板を室温まで冷却して、薄いアルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板を得るステップと、を含む。
【0034】
上記方法において、前記基材鋼板に前処理を施すステップは、例えば脱脂,水洗,除錆,温水洗浄,補助めっき,乾燥などを含む。ステップc)では、好ましくは、前記めっき溶液の前記温度は、前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定の温度よりも5℃から20℃、より好ましくは7℃から20℃高い。ステップe)では、前記鋼板の冷却速度は、好ましくは5℃/s以上である。
【0035】
本発明の前記方法では、Si含有量の高いめっき溶液が選択される。前記めっき溶液中の前記Si含有量が増えるほど前記めっき溶液の融点が低くなり、前記めっき溶液の前記温度を下げやすくなり、それによりAl原子とFe原子の相互拡散が抑制されて、厚みが減少した前記FeAlSi抑制層が得られ、溶融めっき時および後に前記めっき鋼板をホットスタンプする時の前記基材鋼板の表面付近のカーケンダルボイドの形成および成長が緩やかになる。したがって、前記Si含有量は9%以上である。しかしながら、Si含有量が高過ぎると、前記めっき鋼板をホットスタンプした後の前記鋼板の前記めっきにおける前記合金化層の抵抗率が増大し、前記めっき鋼板によって形成されたホットスタンプ部品の溶接性能が低下することになるので、前記Si含有量はあまり高くすべきではない。したがって、前記Si含有量は12%を超えることはできない。好ましくは、本発明での前記Si含有量は9.2%から11.2%である。
【0036】
次に、本発明は、前記めっき溶液の前記温度および前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定の温度(すなわち、ポットに入る前記鋼板の温度)を下げて、カーケンダルボイドの形成を抑制することを提案する。上記のように、前記FeSiAl抑制層の形成時、前記基材鋼中のFe原子が前記めっき溶液中に拡散してFeSiAl金属間化合物を形成する一方、Al原子が前記Fe基材中に拡散する。前記基材中のFe原子およびAl原子の拡散は空孔機構に基づいて発生する、すなわち、拡散は金属原子の位置と空孔の位置を交換することによって達成される。前記基材に入るAl原子の速度が、前記基材から出て拡散するFe原子の数を補償するのに十分ではないとき、空孔の凝集によって前記基材中にボイドが形成されることになる。したがって、前記FeAlSi抑制層の前記厚みおよび成長速度を抑制することにより、カーケンダル効果ボイドの形成を事実上抑制することができる。温度が拡散速度に大きな影響を及ぼすことは周知なので、前記めっき溶液の前記温度および前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定温度を下げることにより、カーケンダルボイドの形成を抑制することができる。一方では、前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定の温度を下げることが考えられる。Fe原子とAl原子の前記拡散速度の差は高温で増大し、より多数の大きなサイズのカーケンダルボイドが形成される結果となる。実験データから、前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定の温度が655℃よりも高かったとき、より多数の大きなサイズのカーケンダルボイドが上記界面付近の前記基材鋼中に観察できるほど形成されたことが分かる。しかしながら、溶融めっき時、前記鋼板のめっき性を確保し、前記表面上の無めっきなどの問題を防止するためには、前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定の温度はあまり低くすべきではない。実験データから、前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定の温度が610℃よりも低かったとき、深刻な無めっきが発生したことが分かる。したがって、本発明によれば、前記めっき溶液に入る前記鋼板の前記所定の温度は、610℃から650℃、好ましくは620℃から645℃、より好ましくは620℃から639℃、さらに好ましくは625℃から635℃になるように設計される。他方では、前記めっき溶液の前記温度を下げることにより、薄い抑制層を形成するようなFe原子とAl原子とSi原子との間の合金化反応の抑制がもたらされると考えられる。しかしながら、それに対応して、前記めっき溶液の流動性および均一性を確保するためには、前記めっき溶液の前記温度はあまり低くすべきではない。したがって、前記めっき溶液の前記温度は前記所定の温度よりも高く、630℃から670℃、好ましくは640℃から660℃になるように設計される。
【0037】
さらに、本発明は、前記めっき溶液中の前記鋼板の滞留時間を短縮することを提案する。まず、滞留時間が長過ぎると、FeとAlの連続的な相互拡散が促進され、前記FeAlSi抑制層が厚くなり、カーケンダルボイドが形成される結果となる。次に、生産ラインは長さに限界があり、前記滞留時間が長過ぎると、前記生産ラインの稼働速度を落とさなければならず、生産効率が影響を受け、コストが増大する。したがって、前記めっき溶液中の前記鋼板の前記滞留時間は2秒から7秒に制御する必要がある。
【0038】
最後に、前記Al合金層の前記厚みは、薄いアルミニウム合金めっきを有する鋼板を得るように、エアナイフの高強度パージを保持することによって制御される。したがって、前記基材鋼板が前記めっき溶液から出された後、少なくとも片面の前記めっき溶液が固まる前に、前記少なくとも片面の前記めっき厚みを制御するために、前記少なくとも片面の過剰なめっき溶液がエアナイフパージによって除去される。その後、前記鋼板は、好ましくは5℃/s以上の冷却速度で室温まで冷却されて、薄いアルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板が得られる。
【0039】
また、好ましくは、前記めっき性を確保するための前記めっき溶液の比較的高い温度と、前記界面での低反応速度を確保するためおよびカーケンダルボイドの形成を低減するための前記めっき溶液に入る前記鋼板の低い所定の温度と、を両立させる。本発明は、特に、上記所定の温度が前記めっき溶液の前記温度よりも低いという条件でめっきが行われることを指摘する。好ましくは、前記所定の温度が前記めっき溶液の前記温度を5℃以上下回ることにより、前記めっき性が確保されつつ、前記界面での前記反応速度が緩やかになってカーケンダルボイドの減少がもたらされる。一方、前記鋼板の前記温度と前記めっき溶液の前記温度の差が大き過ぎると、前記めっき溶液の前記温度が不安定になるので、前記温度差は、本発明では20℃を超えないように設計される。好ましくは、前記温度差は7℃から15℃である。
【0040】
本発明の上記方法により、ホットスタンプ用の薄いアルミニウム合金めっきを有するめっき鋼板が得られる。前記めっき鋼板の厚みは0.5mmから3.0mmである。前記鋼板のいずれかの表面では、前記アルミニウム合金めっきのめっき厚みが5μmから14μm、好ましくは6μmから13μm、より好ましくは7μmから12μmである。
【0041】
上記アルミニウム合金めっきは、
基材鋼に隣接するFeAlSi抑制層であって、該FeAlSi抑制層の厚みが前記めっき厚みの60%以下で1.5μmから6μmであり、好ましくは前記めっき厚みの50%以下で1.5μmから5μmであり、より好ましくは前記めっき厚みの40%以下で2.45μmから3.95μmであり、前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の界面から前記基材鋼の内部へ2μm以内では、カーケンダルボイドの直径が2.5μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの数が35μm当たり15個を超えず、好ましくは35μm当たり13個を超えず、より好ましくは35μm当たり5個を超えず、さらに好ましくは、前記カーケンダルボイドの前記直径が2.0μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.0μm以下のカーケンダルボイドの数が35μm当たり13個を超えず、好ましくは35μm当たり10個を超えず、より好ましくは35μm当たり5個を超えない、FeAlSi抑制層と、
前記FeAlSi抑制層の外側のAl合金層と、を含む独自のめっき構造を有する。
【0042】
前記FeAlSi抑制層は、前記鋼板を前記めっき溶液に浸漬したときの前記めっき溶液中のAl原子およびSi原子と前記鋼板の前記表面内のFe原子との間の前記反応によって形成されたFeSiAl合金の化合物層であり、主な組成はFe2SiAl7から構成され、Si元素とAl元素の合計に対するSi元素の質量比は0.12よりも高く、前記めっき溶液中の前記Si含有量よりも高い。前記Al合金層の厚みはエアナイフによって調整されて、異なる厚みの前記アルミニウム-ケイ素めっきが得られる。
【0043】
前記鋼板の焼入れ性に関する前記ホットスタンプ工程の要求、すなわち、ホットスタンプ部品にマルテンサイト中心の微細構造を形成し、900MPaから2200MPaの強度に到達するということを満足するために、前記基材鋼板は重量で次の成分、すなわち、0.05%から0.45%のCと、0.5%から10%のMnと、0%から0.01%のBと、0%から0.4%のNb+Ti+Vと、0.01%から2%のSiと、0.01%から2%のAlと、0.01%から5%のCr+Ni+Mo+Cuであって0%から2%のCr、0%から2%のNi、0%から2%のMo、かつ0%から2%のCuと、不可避不純物元素と、を含む。
【0044】
本発明の前記めっき鋼板では、前記FeAlSi抑制層と前記基材鋼との間の前記界面付近の前記基材鋼には前記カーケンダルボイドが少量存在し、直径が小さいことで、ホットスタンプ時の前記ホットスタンプ部品の前記めっきにおける大きなサイズのボイドの形成の低減が支援され、それにより、前記部品が良好な抵抗スポット溶接性能を有することが保証される。前記めっき厚みが設定されるとき、薄いFeAlSi抑制層とはAl合金層が厚くなることを意味し、これはエアナイフ制御にとって有益で、前記めっき厚みの安定性が改善し、無めっき現象の発生が防止される。
【0045】
一例として、試験した基材鋼板は表1に示す組成を有し、その対応する製造工程は次の通りである。
【0046】
a)製鋼:表1の前記組成に従って真空誘導炉、電気炉、または転炉によって溶融し、連続鋳造技術を用いて鋳造ビレットを生産する、または薄スラブの連続鋳造および圧延工程を直接使用する。
b)熱間圧延:前記ビレットを1120℃から1280℃まで加熱して熱間圧延し、該熱間圧延の総圧延率を50%以上とし、最終圧延を800℃以上の温度で行って熱間圧延鋼板を得て、該鋼板を700℃以下の温度で丸めて熱間圧延鋼帯を形成し、該熱間圧延帯を酸洗して、前記熱間圧延工程時に生じた酸化物スケールを除去する。
c)冷間圧延:前記酸洗した熱間圧延帯を冷間圧延し、該冷間圧延の圧延率を30%から70%として、1.4mmの冷間圧延鋼帯を得る。
【0047】
【0048】
前記得られた基材鋼板を表2に提示しためっき工程に従ってめっきする。目標めっき厚みは8μmから12μmであり、めっき溶液は、重量で、9%から12%のSiと、4%以下のFeと、AlまたはAl合金および不可避不純物からなる残部と、を含む。表2の前記めっき工程では、前記めっき溶液の温度、前記めっき溶液に入る前記鋼板の所定の温度(すなわち、ポットに入る前記鋼板の温度)、前記めっき溶液と前記鋼板の温度差、溶融めっき時間、および前記めっき溶液中のSi含有量などの、溶融めっきの工程パラメータの影響が包括的に考慮されている。
【0049】
【0050】
上記めっき工程による処理の後、前記鋼帯の表面品質のマクロ検査を行って、該表面の無めっき状況を検出する。なお、ここでいう前記表面の前記無めっき状況とは、前記基材鋼板の露出および前記FeAlSi抑制層の露出のあらゆる状況を含む。一方、前記めっき厚みおよび該めっき厚み内の前記FeAlSi抑制層の厚みは次のように決定する。前記鋼帯の1/6、1/3、1/2、2/3、および5/6の五つの位置を選び、前記FeAlSi抑制層の厚みおよび前記めっき厚みを走査電子顕微鏡(SEM)で測定し、前記五つの位置の測定結果の平均値を偏差とともに求める。
【0051】
前記カーケンダルボイドの数の決定方法:前記SEMの視野内で、前記基材鋼の前記表面に沿って、長さ35μmの範囲内のカーケンダルボイドをカウントし、それらの直径を測定する。カーケンダルボイドの直径の決定方法:同視野内で、前記ボイドの最長直径および最短直径を測定し、該二つの直径の合計の半分を前記ボイドの直径として使用する。
【0052】
前記めっき構造、巨視的表面、および前記カーケンダルボイドの前記数についての統計結果を表3に示す。
【0053】
【0054】
実施形態1から8を参照すると、前記目標めっき厚みを8μmから12μmとしたとき、本発明の前記方法に従って得られた前記FeAlSi抑制層の前記厚みは約2.9μmから約4.1μmになるように制御して、前記Al合金層の前記厚みが約5.1μmから約8μmになるように制御し、前記FeAlSi抑制層が前記めっき厚みの約29%から約45%を占めるようにした。この場合、前記鋼板の前記めっき厚みは薄いが、前記FeAlSi抑制層が比較的薄いので、前記Al合金層の前記厚みをやはりエアナイフパージによって調整して、前記生産工程における前記目標めっき厚みの制御を容易に達成することができ、無めっき現象がなく最終的なめっきの厚みのばらつきが小さくなる。また、前記基材鋼と前記めっきとの間の前記界面付近の前記カーケンダルボイドの前記最大直径は2μm以下で、前記カーケンダルボイドの前記数は概して35μm当たり13個を超えることがなく、ホットスタンプ後の前記めっき鋼板の前記抵抗スポット溶接性能を改善しやすくなる。例えば、実施形態5と実施形態8の前記データの比較から、前記めっき溶液の前記温度と前記ポットに入る前記鋼板の前記温度の差は実施形態5では7℃で、該差は実施形態8では5℃だったことが分かる。実施形態8のカーケンダルボイドの前記数は35μm当たり8個、実施形態5のカーケンダルボイドの前記数は35μm当たり5個だった。適切な温度差によりカーケンダルボイドの形成のさらなる低減がもたらされることが分かる。
【0055】
図1は、本発明の実施形態5に係る前記めっき鋼板の局所的なめっき形態のSEM写真である。前記めっき厚みは約9.0μmで、前記FeAlSi抑制層の前記厚みが約3.2μm、前記カーケンダルボイドの前記直径が2.5μm以下、直径が0.5μmから2.5μmの範囲内のカーケンダルボイドの前記数が35μm当たり約5個だった。
【0056】
図2は、比較例4に係る前記めっき鋼板の局所的なめっき形態のSEM写真である。前記めっき厚みは約8.6μmで、前記FeAlSi抑制層の前記厚みが約6.7μm、直径が0.5μmから2.5μmの範囲内のカーケンダルボイドの前記数が35μm当たり約29個だった。
【0057】
実施形態5および比較例4に関する前記めっき工程の前記パラメータは、前記ポットに入る前記鋼板の前記温度のみが異なり、比較例4は、前記ポットに入る前記鋼板の温度が著しく高かった。したがって、比較例4の方がカーケンダルボイドが多くFeAlSi抑制層が厚かったのは、前記ポットに入る前記鋼板の前記高い温度が誘因となっている。前記ポットに入る前記鋼板の前記温度が高いことは望ましくないことが分かる。
【0058】
図3は、比較例4に係る前記めっき鋼板の典型的な無めっき欠陥の写真である。数か所で深刻な無めっきが発生していることがはっきりと分かる。これは、実施形態5と比べると、比較例4における前記ポットに入る前記鋼板の前記高い温度により、前記発生したFeAlSi抑制層が厚くなり、それに応じて前記Al合金層が薄くなったように、前記拡散が加速されるからである。その結果、エアナイフパージに関する要求が高くなり、制御における困難が増大し、それにより無めっきに至る。
【0059】
各比較例は異なる無めっきの程度を示し、大きなサイズのカーケンダルボイドを大量に有する。これは、比較例1では前記アルミニウムめっき溶液中の前記Si含有量が低過ぎること、比較例2では前記アルミニウムめっき溶液での前記鋼板の前記滞留時間が長過ぎること、比較例4では前記ポットに入る前記鋼板の前記温度が高過ぎること、比較例6では前記めっき溶液の前記温度が高過ぎることが原因である。上記四つの状況は全て、最終的に得られるFeAlSi抑制層の厚みが厚くなり、6.6μmから7.5μmに達することにつながる。その結果、前記Al合金層の厚みが薄く、前記厚みの測定結果が位置により大きく異なり、厚み均一性に乏しく、最終的なめっき厚みが明らかにばらつき、局所的に無めっきが存在する結果となり、前記鋼板の生産安定性に影響を及ぼす。また、上記四つの場合において、前記基材鋼と前記FeAlSi抑制層との間の前記界面付近の前記基材鋼において直径が0.5μmから2.5μmのカーケンダルボイドの前記数は多く、35μm当たり17個から29個に達する。これらの大きなカーケンダルボイドにより、後に得られる前記ホットスタンプ部品の前記抵抗スポット溶接性能が弱まる。したがって、低いSi含有量、長い滞留時間、前記ポットに入る前記鋼板の高い温度、および前記めっき溶液の高い温度は全て、拡散を促進し、より多くかつより大きなカーケンダルボイドが形成される結果となる。したがって、前記四つの要因を全て同時に制御して、これらの相乗効果の下でカーケンダルボイドの形成を抑制する必要がある。
【0060】
また、比較例3では、前記ポットに入る前記鋼板の前記低い温度により、前記鋼板の表面温度がAl‐Si合金の凝固点に近い。その結果、前記鋼板はめっき性が乏しく、多くの箇所に無めっき問題が生じることにつながる。大きな偏差も、前記得られたFeAlSi抑制層の前記厚みおよび前記めっき厚みにかなりむらがあることを示唆している。比較例5では、前記めっき溶液の前記温度が低過ぎるので、前記めっき溶液の流動性および均一性が乏しい。これもまた、めっき品質の乏しさ、めっき厚みのむら(偏差が大きい)、および局所的に存在する無めっき現象につながる。
【0061】
以上のことと表2および表3に示す前記データとを考慮すると、前記めっき溶液中の前記Si含有量、前記ポットに入る前記鋼板の前記温度、前記めっき溶液の前記温度、および前記溶融めっき時間は全て、前記めっきの前記厚み均一性、無めっき、およびカーケンダルボイドの形成に著しく影響することが分かる。所定の範囲を超える条件はいずれも、めっき厚みのむら、無めっき、またはより多くのカーケンダルボイドの形成および成長という結果を招き、製品の性能を弱めることになる。本発明で選ばれた前記めっき溶液中の前記Si含有量の前記範囲、前記ポットに入る前記鋼板の前記温度の前記範囲、前記めっき溶液の前記温度の前記範囲、および前記溶融めっき時間の前記範囲の相乗効果により、無めっき状況が解消されるだけでなく、大きなサイズのカーケンダルボイドの数も減り、前記めっき鋼板の歩留まりが改善する。
【0062】
したがって、後に形成されるホットスタンプ部品の抵抗スポット溶接性能も、前記めっき溶液中の前記Si含有量、前記ポットに入る前記鋼板の前記温度、前記めっき溶液の前記温度、および前記溶融めっき時間の相乗効果の影響を受ける。下記は、一例として実施形態5と比較例4のみを用いた、ホットスタンプ部品の抵抗スポット溶接性能に対する前記めっき工程の効果の解説である。実施形態5および比較例4において、薄いめっきを有する前記薄板に対して擬似的なホットスタンプを行った。前記加熱工程は実験室のチューブ炉で行った。前記加熱温度は930℃で、そのまま240秒間保持した。次に、前記加熱された試料板を取り出し、ホットスタンプ擬似装置に投入し、8秒から10秒以内で100℃以下まで冷却した。前記得られたホットスタンプ試料板のめっき形態を観察し、結果を
図4に示す。
【0063】
図4から分かるように、同じホットスタンプ条件下では、実施形態5における最終的なめっき厚みは約20μm、前記相互拡散層の厚みは約8.55μmだったが、比較例4における最終的なめっき厚みは約16.42μm、前記相互拡散層の厚みは約9.83μmだった。また、比較例4における前記カーケンダルボイドは実質的に線状に分布した。これは表3の前記データに対応し、実施形態5および比較例4において直径が0.5μmから2.5μmの初期カーケンダルボイドの前記数は、それぞれ、35μm当たり5個および35μm当たり29個、実施形態5における前記最大直径は0.65μm、比較例4における前記初期ボイドの前記最大直径は1.71μmだった。比較例4の方が元々大きなサイズのカーケンダルボイドが多かったので、比較例4における前記ボイドは、同じホットスタンプ工程を受けた後に明らかにより深刻になっている。
【0064】
前記得られたホットスタンプパネルに対して抵抗スポット溶接実験を行った。溶接方法および評価基準はAWS D8.9M:2012規格を参照する。単一パルス溶接を選択した。溶接パラメータは次の通りである。電極キャップ端面の直径7mm、電極圧力5.5kN、電極予圧時間400ms、通電時間360ms、通電後保持時間200ms。
図5は、ホットスタンプ後の二つのめっき鋼板のスポット溶接評価結果を示す。
図5から分かるように、実施形態5における前記ホットスタンプ試料板をスポット溶接するための溶接可能電流範囲は1.2kA、スパッタが発生した最小溶接電流は7.8kAだった。一方、比較例4における前記ホットスタンプ試料板をスポット溶接するための溶接可能電流範囲は0.8kA、スパッタが発生した最小溶接電流は7.4kAだった。明らかに、比較例4における前記ホットスタンプ試料板の前記溶接可能電流範囲の方が狭く、スパッタが発生する電流が小さくなる。前記実験結果から、比較例4における前記多量のカーケンダルボイドは前記めっきの接触抵抗を増大させ、スポット溶接時に溶接電流が小さくても火花の飛散が容易に発生することになり、前記鋼板の溶接可能電流範囲を減少させる結果となることが分かる。一方、本発明に従って得られたカーケンダルボイドがより少なくかつより小さな前記めっき鋼板(実施形態5)は、前記ホットスタンプ部品の前記抵抗スポット溶接性能を改善している。
【0065】
まとめると、本発明の前記めっき鋼板の前記アルミニウム合金めっきのめっき厚みは5μmから14μmであり、前記FeAlSi抑制層の厚みは1.5μmから6μmで、前記めっき厚みの60%以下である。前記FeAlSi抑制層と基材鋼との間の界面から前記基材鋼の内部へ2μm以内では、カーケンダルボイドの直径が2.5μm以下であり、直径が0.5μm以上かつ2.5μm以下のカーケンダルボイドの数が、35μm当たり15個を超えない。上記めっき特徴を有するアルミニウム合金めっき鋼板は、優れた抵抗スポット溶接性能を有するホットスタンプ部品になることができる。本発明に記載の前記めっき鋼板を生産するための前記めっき方法により、前記めっき厚みの均一性が確保され、表面上での無めっきの発生が回避され、同時に大きなサイズのカーケンダルボイドの形成が抑制され、前記ホットスタンプ部品の良好な抵抗スポット溶接性能が確保される。
【0066】
上記実施形態および実験データは、本発明を例示的に解説することを意図している。当業者には、本発明はこれらの実施形態に限定されず、本発明の保護範囲から逸脱することなく様々な変更が可能であることは明らかであろう。