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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】熱電変換素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/17 20230101AFI20250311BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20250311BHJP
   H10N 10/852 20230101ALI20250311BHJP
   H10N 10/857 20230101ALI20250311BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/01
H10N10/852
H10N10/857
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018159285
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2020035818
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】武藤 豪志
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐馬
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】緑川 隆
【審判官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-135337(JP,A)
【文献】特開2014-007376(JP,A)
【文献】特開2017-041540(JP,A)
【文献】特開2002-353523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/00-10/857
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する基板と、離間した開口部を複数有するパターン層と、前記離間した開口部内のすべてに存在するP型熱電素子層及びN型熱電素子層と、を含む熱電変換素子であって、
前記基板が、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、又はポリアミドイミドフィルムであり、
前記パターン層が樹脂を含む層であり、前記パターン層の厚さが10~300μmであり、前記P型熱電素子層及びN型熱電素子層が熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物からなる、熱電変換素子。
【請求項2】
前記パターン層を構成する樹脂が、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアラミドフィルム、又はポリアミドイミド樹脂である、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記熱電半導体材料が、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料である、請求項1又は2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記熱電半導体組成物が、さらに、耐熱性樹脂、並びにイオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記耐熱性樹脂が、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又はエポキシ樹脂である、請求項に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記開口部の形状が、不定形状、多面体状、円錐台状、楕円錐台状、円柱状、及び楕円柱状からなる群より選択される1種以上の形状である、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項7】
電極を有する基板と、離間した開口部を複数有するパターン層と、前記離間した開口部内のすべてにP型熱電素子層及びN型熱電素子層と、を含む熱電変換素子において、
前記基板が、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、又はポリアミドイミドフィルムであり、
前記パターン層が樹脂を含む層であり、前記パターン層の厚さが10~300μmであり、前記P型熱電素子層及びN型熱電素子層が熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物からなる、熱電変換素子の製造方法であって、
前記電極上に離間した開口部を有するパターン層を形成する工程、
前記離間した開口部内のすべてにP型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及びN型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物をそれぞれ充填する工程、
前記離間した開口部内のすべてに充填された、前記P型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及び前記N型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物を乾燥し、P型熱電素子層及びN型熱電素子層を得る工程、並びに
得られたP型熱電素子層及びN型熱電素子層をアニール処理する工程を含む、
熱電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エネルギーの有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やペルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換モジュールにより、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接相互変換するようにした装置がある。
この中で、前記熱電変換素子として、いわゆるπ型の熱電変換素子の使用が知られている。π型は、通常、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、例えば、―方の電極の上にP型熱電素子を、他方の電極の上にN型熱電素子を、同じく互いに離間して設け、両方の熱電素子の上面を対向する基板の電極に接続することで構成されている。
【0003】
近年、熱電変換素子の屈曲性向上、薄型化、高集積化を含む熱電性能の向上等の要求がある。特許文献1では、熱電変換素子に用いる基板として、ポリイミド等の樹脂基板が耐熱性及び屈曲性の観点から使用されている。また、熱電素子層としては、薄膜化による薄型化の観点も含め、液状又はペースト状の低粘度の熱電半導体組成物を用い、スクリーン印刷法等により直接熱電素子層のパターンを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/104615号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、熱電半導体材料、耐熱性樹脂等からなる低粘度の熱電半導体組成物を、スクリーン印刷法等で電極上に熱電素子を直接パターン層として形成する方法では、得られた熱電素子層の形状制御性が十分ではなく、電極界面において熱電素子層の端部に滲みが発生したり、また、熱電素子層の形状が崩れたり等、所望の形状に制御することができず、例えば、前述したπ型熱電変換素子を構成する場合には、得られた熱電素子層の上面と対向基板上の電極面とで、十分な電気的及び物理的接合性が得られない場合がある。この場合、熱抵抗等が増大する等、熱電素子層が本来有する熱電性能を十分引き出すことができなくなり、所定の発電性能又は冷却性能等を得るために、P型熱電素子層-N型熱電素子層の対の数を増加させる必要がある。さらに、熱電変換素子の高集積化に際しては、複数の各P型熱電素子層-N型熱電素子層対の抵抗値のばらつきが大きくなったり、隣接する熱電素子層同士が接触してしまう場合がある。
【0006】
本発明は、上記を鑑み、形状制御性が優れた熱電素子層を有する高集積化が可能な熱電変換素子及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、基板の電極上に離間した開口部を複数有するパターン層において、パターン層を樹脂を含む層とし、前記開口部に熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物からなるP型熱電素子層及びN型熱電素子層を備える構成とすることにより、形状制御性が優れた熱電素子層を有する高集積化が可能な熱電変換素子、及びその製造方法を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(8)を提供するものである。
(1)電極を有する基板と、離間した開口部を複数有するパターン層と、前記離間した開口部内に存在するP型熱電素子層及びN型熱電素子層と、を含む熱電変換素子であって、前記パターン層が樹脂を含む層であり、前記P型熱電素子層及びN型熱電素子層が熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物からなる、熱電変換素子。
(2)前記パターン層を構成する樹脂が、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアラミドフィルム、又はポリアミドイミド樹脂である、上記(1)に記載の熱電変換素子。
(3)前記基板が、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、又はポリアミドイミドフィルムである、上記(1)に記載の熱電変換素子。
(4)前記熱電半導体材料が、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の熱電変換素子。
(5)前記熱電半導体組成物が、さらに、耐熱性樹脂、並びにイオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の熱電変換素子。
(6)前記耐熱性樹脂が、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又はエポキシ樹脂である、上記(5)に記載の熱電変換素子。
(7)前記開口部の形状が、不定形状、多面体状、円錐台状、楕円錐台状、円柱状、及び楕円柱状からなる群より選択される1種以上の形状である、上記(1)に記載の熱電変換素子。
(8)電極を有する基板と、離間した開口部を複数有するパターン層と、前記離間した開口部内にP型熱電素子層及びN型熱電素子層と、を含む熱電変換素子において、前記パターン層が樹脂を含む層であり、前記P型熱電素子層及びN型熱電素子層が熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物からなる、熱電変換素子の製造方法であって、前記電極上に離間した開口部を有するパターン層を形成する工程、前記離間した開口部にP型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及びN型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物をそれぞれ充填する工程、前記離間した開口部に充填された、前記P型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及び前記N型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物を乾燥し、P型熱電素子層及びN型熱電素子層を得る工程、並びに得られたP型熱電素子層及びN型熱電素子層をアニール処理する工程を含む、熱電変換素子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、形状制御性が優れた熱電素子層を有する高集積化が可能な熱電変換素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の熱電変換素子(π型熱電変換素子)の一例を説明するための断面構成図である。
図2】本発明の熱電変換素子を構成するパターン層の一例を説明するための平面図である。
図3】本発明の熱電変換素子の製造方法に従った工程の一例を工程順に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱電変換素子]
本発明の熱電変換素子は、電極を有する基板と、離間した開口部を複数有するパターン層と、前記離間した開口部内に存在するP型熱電素子層及びN型熱電素子層と、を含む熱電変換素子であって、前記パターン層が樹脂を含む層であり、前記P型熱電素子層及びN型熱電素子層が熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物からなることを特徴としている。
本発明の熱電変換素子は、樹脂を含む層からなるパターン層の離間した開口部に、P型熱電素子層及びN型熱電素子層を備えることにより、P型熱電素子層及びN型熱電素子層のいずれの形状も、パターン層の開口部の形状がそのまま反映されるため、得られる両熱電素子層の形状制御性が優れたものになる。このため、熱電変換素子を構成する電極面との接合性等が向上し、熱抵抗等の増大による熱電性能の低下が抑制され、熱電素子層が本来有する熱電性能が発現される。結果的に、所定の熱電性能を得るための熱電素子層の数を減少させることができ、製造コストの削減に繋がる。同時に、冷却にあっては低消費電力化に、また発電にあっては、高出力化に繋がる。さらに、π型の熱電変換素子の集積化に際しては、複数の各P型熱電素子層-N型熱電素子層対の抵抗値のばらつきが小さくなり、隣接する熱電素子層同士が接触してしまうこともないことから、高集積化が可能となる。
なお、本明細書において、「開口部」は、後述するように、パターン層全体の領域の内側の領域に複数離間して設けられ、各開口(基板の電極上のパターン層を上面側から見た場合)の平面形状をパターン層の厚さ(深さ)方向に、電極面まで延在し、例えば、開口の平面形状が、長方形である場合、パターン層の形成又は加工方法等により調整できるが、開口部の形状は、通常、略直方体状となる。また、同様に、例えば、開口の平面形状が、円である場合、開口部の形状は、通常、略円柱状となる。
【0011】
図1は、本発明の熱電変換素子(π型熱電変換素子)の一例を説明するための断面構成図である。熱電変換素子1は、基板2aの電極3a上に樹脂を含む層からなるパターン層4の開口5sの開口部5に備えたN型熱電素子層6a及びP型熱電素子層6bを有し、さらに、N型熱電素子層6a及びP型熱電素子層6bの上面に、基板2b上に電極3bを有する対向電極基板を備える。
【0012】
<パターン層>
本発明の熱電変換素子は、基板の電極上にパターン層を含み、該パターン層は樹脂を含み、かつ所定の離間した開口部を有する。
【0013】
図2は、本発明の熱電変換素子を構成するパターン層の一例を説明するための平面図である(電極部、断面図は図示せず)。パターン層4は、樹脂を含む層からなる所定の離間した、開口5sを有する開口部5を含む。
パターン層内に含まれる前記開口及び開口部の配置、個数及び寸法は、開口部間の距離等含め、特に制限されず、熱電素子層の形状及び配置に応じて適宜調整される。
前記開口部の形状は、特に制限されず、所望の形状を用いることができる。好ましくは、不定形状、多面体状、円錐台状、楕円錐台状、円柱状、及び楕円柱状からなる群より選択される1種以上の形状である。多面体状としては、立方体状、直方体状、角錐台状の形状が挙げられる。形成又は加工が容易であることから、立方体状、直方体状、角錐台状及び円柱状がより好ましい。この中で、電極形状、熱電素子層の形状、熱電性能の観点から、直方体状、立方体状であることがさらに好ましい。
図2においては、開口5sは正方形であり、開口部5は略立方体状(図示せず)であり、合計4×4個の開口及び開口部を有する。
【0014】
パターン層に含まれる樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアラミドフィルム、エポキシ樹脂、又はポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。
この中で、耐熱性(特に、形状安定性)及び加工性の観点から、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアラミドフィルム、又はポリアミドイミド樹脂が好ましい。さらに好ましくは、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂である。
【0015】
また、パターン層が簡便に形成しやすい観点から、上記樹脂が主成分となる感光性樹脂組成物を用いることができる。感光性樹脂組成物を用いることにより、後述する簡便なプロセスで、離間した開口部を有するパターン層が得られる。
市販の感光性樹脂組成物として、感光性ポリイミド(旭化成社製、AM-270;アルカリ現像ポジ型)、感光性ポリイミド(旭化成社製、I-8100;溶剤現像ネガ型)等が挙げられる。
【0016】
パターン層には、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、着色剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、フィラー、紫外線吸収剤、耐候安定剤、防錆剤、消泡材、濡れ性調整剤等が挙げられる。
【0017】
パターン層の厚さは、熱電素子層の厚さにより適宜調整される。好ましくは100nm~1000μm、より好ましくは1~600μm、さらに好ましくは10~400μm、特に好ましくは、10~300μmである。
【0018】
パターン層の形成方法としては、樹脂として感光性樹脂組成物を用いる場合では、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の方法を用いることができる。
具体的には、基板の電極上に、ポジ型又はネガ型の感光性樹脂組成物を塗布し、所定の開口のパターンを有するフォトマスクを準備し、露光、現像により、感光性樹脂のパターン層を形成する。ポジ型の場合は、露光部を、例えば、アルカリ等により現像し溶解除去する。また、ネガ型の場合は、未露光部を、例えば、溶剤等により現像し溶解除去する。以上のように、基板の電極上にパターン層を加工する方法等が挙げられる。なお、ポジ型の場合は露光部が溶解するため、現像後の断面形状は曲面を有し、基板の電極面に対する側面の傾斜角度が基板の電極面から離れるにしたがい連続的に小さくなる形状を得ることができる。ネガ型の場合は、ポジ型とは逆に未露光部が現像時に溶解するため、現像後の断面形状が矩形、または、台形に近い形状を得ることができる。これらポジ型、ネガ型の選択は、所望の開口部の形状に合わせて選択することができる。
また、樹脂として、感光性を有しない樹脂組成物を用いる場合でも、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の方法を用いることができる。具体的には、基板の電極上に、前記樹脂を塗布し、さらに、フォトレジスト等を塗布し、所定の開口のパターンを有するフォトマスクを準備し、露光、現像により、フォトレジストでパターンを形成し、その後、ウェットエッチング又は酸素プラズマ、反応性イオン等によるドライエッチング等により前記樹脂を溶解又は除去させ、その後、残ったフォトレジストを剥離することで、基板の電極にパターン層を加工する方法等が挙げられる。
前記樹脂の形成方法としては、基板の電極上にディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティング法が挙げられる。
【0019】
開口部を有するパターン層の他の形成方法としては、レーザー加工法で樹脂を含む層をパターン加工する方法が挙げられる。
具体的には、基板の電極上に、前記樹脂を含む層を塗布し、得られた樹脂を含む層にレーザーを照射して、所定のパターンを直接形成する。パターンを形成するレーザーは固体レーザー、ガスレーザーおよび半導体レーザー等を用いることができる。高出力でランニングコストが低い固体レーザーは好ましく用いることができる。固体レーザーとしては、YAGやYVO結晶からなるレーザーを好ましく用いることができ、NdをドープしたYAG結晶からなるレーザーの第三光調波である354nm光のレーザーやNdをドープしたYVO結晶からなるレーザーの第三光調波である355nm光のレーザーが好ましく用いられる。
レーザーは、連続発振でもパルス発振でも用いることができるが、樹脂を含む層が加熱されると熱ダメージによる樹脂を含む層の分解や炭化不良が発生することがある。樹脂を含む層に熱ダメージを与えないためには、パルス発振レーザーが好ましい。パルス幅はより短い方が樹脂を含む層に与える熱ダメージが少ないので好ましく、ナノ秒からピコ秒のパルス幅であるレーザーが好ましい。
【0020】
(基板)
本発明の熱電変換素子において、基板として、熱電素子層の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさない樹脂フィルムを用いる。なかでも、屈曲性に優れ、熱電半導体組成物からなる熱電素子層(薄膜)をアニール処理した場合でも、基板が熱変形することなく、熱電素子層の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、又はポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0021】
前記樹脂フィルムの厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、10~100μmがさらに好ましい。
また、上記樹脂フィルムは、熱重量分析で測定される5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm・℃-1~50ppm・℃-1であり、0.1ppm・℃-1~30ppm・℃-1であることがより好ましい。
【0022】
(電極)
本発明に用いる熱電変換素子の電極の金属材料としては、銅、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン又はこれらのいずれかの金属を含む合金等が挙げられる。
前記電極の層の厚さは、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。電極の層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり、電極として十分な強度が得られる。
【0023】
電極の形成は、前述した金属材料を用いて行う。
電極を形成する方法としては、樹脂フィルム上にパターンが形成されていない電極を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極の材料に応じて適宜選択される。
本発明に用いる電極には、熱電性能を維持する観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められるため、めっき法や真空成膜法で成膜した電極を用いることが好ましい。高い導電性、高い熱伝導性を容易に実現できることから、真空蒸着法、スパッタリング法等の真空成膜法、および電解めっき法、無電解めっき法が好ましい。形成パターンの寸法、寸法精度の要求にもよるが、メタルマスク等のハードマスクを介し、容易にパターンを形成することもできる。
【0024】
<熱電素子層>
本発明の熱電変換素子を構成する熱電素子層(以下、「熱電素子層の薄膜」ということがある。)、すなわち、P型熱電素子層及びN型熱電素子層は、この順にP型熱電半導体材料、N型熱電半導体材料をそれぞれ含む熱電半導体組成物からなる。好ましくは、熱電半導体材料(以下、「熱電半導体微粒子」ということがある。)、耐熱性樹脂、並びにイオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含む熱電半導体組成物からなる。
【0025】
(熱電半導体材料)
本発明に用いる熱電半導体材料、すなわち、P型熱電素子層、N型熱電素子層に含まれる熱電半導体材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、ZnSb2、ZnSb等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;BiSe等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi、CrSi、MnSi1.73、MgSi等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
これらの中で、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料が好ましい。
【0026】
さらに、熱電性能の観点から、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることがより好ましい。
前記P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiTeSb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、BiTe3-YSeで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:BiTe)であり、より好ましくは0<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
【0027】
熱電半導体組成物に用いる熱電半導体微粒子は、前述した熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕したものである。
【0028】
熱電半導体微粒子の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体微粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0029】
熱電半導体微粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体微粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0030】
また、熱電半導体微粒子は、事前に熱処理されたものであることが好ましい(ここでいう「熱処理」とは本発明でいうアニール処理工程で行う「アニール処理」とは異なる)。熱処理を行うことにより、熱電半導体微粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体微粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数又はペルチェ係数が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。熱処理は、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体微粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体微粒子に依存するが、通常、微粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0031】
(耐熱性樹脂)
本発明に用いる熱電半導体組成物には、熱電素子層を形成後、熱電半導体材料を高温度でアニール処理を行う観点から、耐熱性樹脂が好ましく用いられる。熱電半導体材料(熱電半導体微粒子)間のバインダーとして働き、熱電変換モジュールの屈曲性を高めることができるとともに、塗布等による薄膜の形成が容易になる。該耐熱性樹脂は、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体微粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂が好ましい。
前記耐熱性樹脂は、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体微粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。熱電変換素子の基板として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0032】
前記耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、屈曲性を維持することができる。
【0033】
また、前記耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電素子層の屈曲性を維持することができる。
【0034】
前記耐熱性樹脂の前記熱電半導体組成物中の配合量は、0.1~40質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは、1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。前記耐熱性樹脂の配合量が、上記範囲内であると、熱電半導体材料のバインダーとし機能し、薄膜の形成がしやすくなり、しかも高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0035】
(イオン液体)
本発明で用いるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50~500℃の温度領域のいずれかの温度領域において、液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電素子層の電気伝導率を均一にすることができる。
【0036】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウムのアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、CHCOO、CFCOO、CHSO 、CFSO 、(FSO、(CFSO、(CFSO、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、F(HF)n、(CN)、CSO 、(CSO、CCOO、(CFSO)(CFCO)N等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0037】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。イオン液体のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0038】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージド等が挙げられる。この中で、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージドが好ましい。
【0039】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0040】
上記のイオン液体は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記の範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0041】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0042】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0043】
前記イオン液体の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。前記イオン液体の配合量が、上記の範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0044】
(無機イオン性化合物)
本発明で用いる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は室温において固体であり、400~900℃の温度領域のいずれかの温度に融点を有し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0045】
カチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs及びFr等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0046】
アニオンとしては、例えば、F、Cl、Br、I、OH、CN、NO3-、NO2-、ClO、ClO2-、ClO3-、ClO4-、CrO 2-、HSO 、SCN、BF 、PF 等が挙げられる。
【0047】
無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、OH、CN等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0048】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0049】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、KCO等が挙げられる。この中で、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、NaCO等が挙げられる。この中で、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO等が挙げられる。この中で、LiF、LiOHが好ましい。
【0050】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0051】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0052】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる熱電素子層の薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0053】
前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。前記無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、前記熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0054】
(その他の添加剤)
本発明で用いる熱電半導体組成物には、上記以外の成分以外に、必要に応じて、さらに分散剤、造膜助剤、光安定剤、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、樹脂安定剤、充てん剤、顔料、導電性フィラー、導電性高分子、硬化剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
(熱電半導体組成物の調製方法)
本発明で用いる熱電半導体組成物の調製方法は、特に制限はなく、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等の公知の方法により、前記熱電半導体微粒子、前記耐熱性樹脂、並びに前記イオン液体及び/又は無機イオン性化合物、必要に応じて前記その他の添加剤、さらに溶媒を加えて、混合分散させ、当該熱電半導体組成物を調製すればよい。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アルコール、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン、エチルセロソルブ等の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。熱電半導体組成物の固形分濃度としては、該組成物が塗工に適した粘度であればよく、特に制限はない。
【0056】
前記熱電半導体組成物からなる熱電素子層の薄膜は、本発明に用いたパターン層の開口部に、前記熱電半導体組成物を充填、及び乾燥することで形成することができる。このように、熱電素子層を形成することで、パターン層の開口部の形状が反映された形状制御性が優れた熱電素子層が得られる。
【0057】
<アニール処理>
前記熱電半導体組成物を充填、及び乾燥することにより形成した熱電素子層、すなわち、P型熱電素子層及びN型熱電素子層は、さらに、アニール処理を行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、熱電素子層中の熱電半導体微粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。
【0058】
アニール処理は、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いる耐熱性樹脂、イオン液体、無機イオン性化合物、また、基板、パターン層として用いた樹脂を含む層等の耐熱温度等に依存するが、アニール処理の温度は、通常100~600℃で、数分~数十時間、好ましくは150~550℃で、数分~数十時間、より好ましくは200~500℃で、数分~数十時間行う。
【0059】
前記熱電半導体組成物からなる熱電素子層の薄膜の厚さは、特に制限はないが、熱電性能と皮膜強度の点から、好ましくは100nm~1000μm、より好ましくは1~600μm、さらに好ましくは10~400μm、特に好ましくは、10~300μmである。
【0060】
本発明の熱電変換素子は、熱電素子層の形状制御性が優れ、電極部との接合性が向上する観点から、前述したπ型の熱電変換素子に適用することが好ましい。π型の熱電変換素子の構成は、例えば、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、―方の電極の上にP型熱電素子層を、他方の電極の上にN型熱電素子層を、同じく互いに離間して設け、両方の熱電素子層の上面を対向する基板上の電極に電気的に直列接続することで構成される。高い熱電性能を効率良く得る観点から、対向する基板の電極を介したP型熱電素子層及びN型熱電素子層を複数組、電気的に直列接続して用いることが好ましい。
【0061】
[熱電変換素子の製造方法]
本発明の熱電変換素子の製造方法は、電極を有する基板と、離間した開口部を複数有するパターン層と、前記離間した開口部内にP型熱電素子層及びN型熱電素子層と、を含む熱電変換素子において、前記パターン層が樹脂を含む層であり、前記P型熱電素子層及びN型熱電素子層が熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物からなる、熱電変換素子の製造方法であって、前記電極上に離間した開口部を有するパターン層を形成する工程、前記離間した開口部にP型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及びN型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物をそれぞれ充填する工程、前記離間した開口部に充填された、前記P型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及び前記N型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物を乾燥し、P型熱電素子層及びN型熱電素子層を得る工程、並びに得られたP型熱電素子層及びN型熱電素子層をアニール処理する工程を含むことを特徴とする。
以下、本発明の熱電変換素子の製造方法について、図を用いて説明する。
【0062】
図3は、本発明の熱電変換素子の製造方法に従った工程の一例を工程順に示す説明図
であり、(a)は基板上に電極を形成した後の断面図であり、(b)は電極上に樹脂を含む層を形成した後の断面図であり、(c)は樹脂を含む層に開口部を形成した後のパターン層の平面図(電極部は図示せず)であり、(c’)は(c)においてA-A’間で切断した時のパターン層の断面図であり、(d)はパターン層の開口部に熱電素子層を充填した後の断面図であり、(e)は(d)で得られた熱電素子層の上面と、これに対向する基板上の電極とを対向させ接合する態様を示す断面図である。これにより、熱電変換素子を得ることができる。
【0063】
<パターン層形成工程>
パターン層形成工程は、基板の電極上に樹脂を含む層からなるパターン層を形成する工程である。例えば、図3(b)においては、(a)で準備した基板12aの電極13a上に、樹脂を含む層14’を塗布し、(c)及び(c’)の離間した開口15s、開口部15を有するパターン層14を形成する工程である。
【0064】
パターン層を形成する方法としては、特に制限されないが、パターン精度の観点から、前述したように、樹脂を含む層として、感光性樹脂組成物を用いる場合は、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の方法を用いることができ、フォトマスク等を用い簡便にパターン層を得ることができる。また、樹脂を含む層として、感光性を有さない樹脂組成物を用いる場合も同様に、前述したように、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の方法を用いることができる。さらに、前述したように、レーザー加工法で樹脂を含む層を直接パターン加工する方法を用いることができる。
【0065】
<熱電素子層形成工程>
熱電素子層形成工程は、熱電半導体組成物充填工程及び熱電半導体組成物乾燥工程を含む。
【0066】
(熱電半導体組成物充填工程)
熱電半導体組成物充填工程は、パターン層形成工程で得られたパターン層の離間した開口部の内部にP型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及びN型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物をそれぞれ充填する工程であり、例えば、図3(d)においては、(c)、(c’)で準備した樹脂を含む層14’からなるパターン層14の開口15sを有する開口部15の内部に、P型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及びN型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物をそれぞれ充填する工程である。
熱電半導体組成物を、パターン層の開口部の内部に充填する方法としては、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、スピンコート法、ダイコート法、スプレーコート法、バーコート法、ドクターブレード法、ディスペンス法等の公知の方法が挙げられる。充填精度、製造効率の観点から、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、ディスペンス法を用いることが好ましい。
【0067】
(熱電半導体組成物乾燥工程)
熱電半導体組成物乾燥工程は、前記離間した開口部に充填された、前記P型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及び前記N型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物を乾燥し、P型熱電素子層及びN型熱電素子層を得る工程である。例えば、図3(d)においては、(c)、(c’)で得られた開口部15に充填されたP型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及びN型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物を乾燥し、P型熱電素子層16b、N型熱電素子層16aを形成する工程である。
乾燥方法としては、前述したように、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分であり、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
【0068】
〈アニール処理工程〉
本発明においては、P型熱電素子層及びN型熱電素子層をアニール処理する工程を含む。
アニール処理工程は、熱電半導体組成物乾燥工程において得られたP型熱電素子層及びN型熱電素子層を、熱処理する工程である。前述したように、アニール処理を行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、熱電素子層の薄膜中の熱電半導体微粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。また、アニール処理の条件は、前述したとおりである。
【0069】
(π型熱電変換素子製造工程)
π型熱電変換素子製造工程は、アニール処理工程で得られたP型熱電素子層及びN型熱電素子層を含む基板の熱電素子層側と対向基板上の電極とを対向させ、貼り合わせ、熱電変換素子とする工程である。例えば、図3(e)においては、N型熱電素子層16a及びP型熱電素子層16bの上面側と基板12b上の電極13bとを対向させ、接合材層(図示せず)等を介し、貼り合せることにより接合する工程である。この工程により、π型熱電変換素子が製造できる。
対向基板及び電極としては、前述した基板及び電極と同様のものを用いることができる。
前記接合材層に用いる接合材料としては、ハンダ材料、導電性接着剤、焼結接合剤等が挙げられ、それぞれ、ハンダ層、導電性接着剤層、焼結接合層として、電極上に形成されることが好ましい。
【0070】
本発明の熱電変換素子の製造方法によれば、簡便な方法で熱電素子層の形状制御性を向上させることができる。これにより、熱電変換素子の高集積化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の熱電変換素子及びその製造方法によれば、形状制御性が優れた熱電素子層を有する高集積化が可能な熱電変換素子を簡便な製造方法で得ることができる。また、同時に、複数の各P型熱電素子層-N型熱電素子層対の抵抗値のばらつきを小さくできることから、製造において歩留まりの向上が期待できる。
さらに、本発明の熱電変換素子は、屈曲性を有するとともに、薄型化(小型、軽量)が実現できる。
上記の熱電変換素子は熱電変換モジュールとすることにより、工場や廃棄物燃焼炉、セメント燃焼炉等の各種燃焼炉からの排熱、自動車の燃焼ガス排熱及び電子機器の排熱を電気に変換する発電用途に適用することが考えられる。冷却用途としては、エレクトロニクス機器の分野において、例えば、スマートフォン、各種コンピューター等に用いられるCPU(Central Processing Unit)、また、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)、CCD(Charge Coupled Device)等のイメージセンサー、さらに、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、その他の受光素子等の各種センサーの温度制御等に適用することが考えられる。
【符号の説明】
【0072】
1:熱電変換素子
2a,2b:基板
3a,3b:電極
4:パターン層
5:開口部
5s:開口
6a:N型熱電素子層
6b:P型熱電素子層
12a,12b:基板
13a,13b:電極
14:パターン層
14’:樹脂を含む層
15:開口部
15s:開口
16a:N型熱電素子層
16b:P型熱電素子層
図1
図2
図3