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特許7648357可撓性および/または折畳み可能な物品ならびに可撓性および/または折畳み可能な物品の手配方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】可撓性および/または折畳み可能な物品ならびに可撓性および/または折畳み可能な物品の手配方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020157794
(22)【出願日】2020-09-18
(62)【分割の表示】P 2018164427の分割
【原出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020200238
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-05-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】10 2017 120 320.6
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】10 2018 110 500.2
(32)【優先日】2018-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マークス ハイス-シュケ
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ヨッツ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァネッサ ヒラー
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】小野 久子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/037589(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/051514(WO,A1)
【文献】特表2012-500177(JP,A)
【文献】特開2017-075078(JP,A)
【文献】特表2016-508954(JP,A)
【文献】特表2016-539067(JP,A)
【文献】国際公開第2017/123573(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/094683(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/007014(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C21/00
C03C1/00-14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学強化処理されたホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、またはアルミノホウケイ酸ガラスから成る物品であって、
前記ガラス中のLi O+Na Oの割合は、5重量%超であり、
マルテンス硬さは、少なくとも1000MPaであり、
前記物品は、破壊じん性KIcと、圧縮応力CSと、押込み深さ特性値xと、物品厚さdと、を有し、
前記物品について、
【数1】
が満たされており、
ここで、
【数2】
である場合、
【数3】
であり、
【数4】
である場合、B=0であり、
【数5】
である場合、B=0であり、かつ
m=1メートルであり、
は、少なくとも2μmであり、かつ
UePは、少なくとも800MPaであり、CSは、少なくとも800MPaであり、かつ
前記物品は、前記物品と、付加的に、化学強化処理されたガラスから成る少なくとも1つの他の物品と、を含む物品のセットに含まれており、マルテンス硬さは、少なくとも1000MPaであり、
前記他の物品は、破壊じん性KIcと、圧縮応力CSと、押込み深さ特性値xと、物品厚さdと、を有し、
前記他の物品について、
【数6】
が満たされており、
ここで、
【数7】
である場合、
【数8】
であり、
【数9】
である場合、B=0であり、
【数10】
である場合、B=0であり、かつ
m=1メートルであり、
は、少なくとも2μmであり、かつ
UePは、少なくとも800MPaであり、CSは、少なくとも800MPaである、物品。
【請求項2】
は、少なくとも6μmである、
請求項記載の物品。
【請求項3】
は、少なくともd/15である、
請求項1または2記載の物品。
【請求項4】
前記ガラスの弾性率は、40GPa~200GPaの範囲内である、
請求項1からまでのいずれか1項記載の物品。
【請求項5】
前記破壊じん性KIcは、0.4MPa・√mより大きい、
請求項1からまでのいずれか1項記載の物品。
【請求項6】
前記押込み深さ特性値xは、最大50μmである、
請求項1からまでのいずれか1項記載の物品。
【請求項7】
前記物品厚さは、5μm~500μmの範囲内である、
請求項1からまでのいずれか1項記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性および/または折畳み可能な物品と、その使用と、可撓性および/または折畳み可能な物品の手配方法と、に関する。物品は透明な脆性材料から、とりわけガラス、ガラスセラミック、セラミックまたは結晶等から成る。かかる物品はとりわけ、ディスプレイカバーとして、とりわけディスプレイの保護カバーとして、例えばスマートフォンまたはタブレットまたはTV機器等において使用される。かかる物品は、例えばOLEDまたはLED等の電子部品用の基板としても使用することができる。
【背景技術】
【0002】
脆性材料は、特定の荷重限界までしか曲げることができない。この荷重限界は、実に多くの種々の材料パラメータおよび強度パラメータに依存する。現在の物品は、所望の曲げ半径に関する顧客の要求を未だ達成できていない。
【0003】
可撓性のディスプレイに生じる荷重事例は、3つのグループに分けることができる。
1)曲げによる引張荷重
2)例えばディスプレイへの物の落下または製品の落下等により生じる衝撃荷重
3)例えば硬質の物等の引っ掻きによる荷重
【0004】
従来技術では、容認できる荷重特性を有する物品は存在していなかった。この荷重特性は、例えば弾性率、ポアソン比、破壊じん性、圧縮応力、押込み深さ特性値、物品厚さ、硬度、密度および未臨界亀裂成長時の特性等の、実に多くの種々の材料パラメータおよび強度パラメータに依存する。これら種々のパラメータが荷重特性に及ぼす影響は複雑である。その上、これらのパラメータ間にも多様な相互作用が生じる。全てのパラメータを最適化することは、これまでは成功しなかった。また、これまでは、かかる多くのパラメータのうち、荷重特性を改善するために特に関連するパラメータを特定することにも成功していない。その上、特に関連するパラメータだけでなく、特に関連するパラメータを関係付けてその関係から荷重特性を推定できる、これらのパラメータ間に存在する関係を見出すことも望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、曲げによる荷重を受けたときの平均寿命が長くなった物品と、かかる物品の手配方法と、を実現することである。「平均寿命が長くなった」とは、その物品が従来技術の物品よりも長期間にわたって、本願にて挙げた荷重に耐えられることを意味する。かかる改善された曲げ性により、割らずにより小さい半径を達成することができる。よって「平均寿命が長くなった」とは、その物品が従来技術と比較して、割れる前により小さい半径に曲がることができることも意味する。本発明の課題は、不具合確率が同じである場合に本発明の物品の方がより高い荷重(より小さい曲げ半径)を達成することができる物品、または逆に、所与の荷重(曲げ半径)の場合に本発明の物品の方が不具合確率が低くなる物品と、かかる物品の製造方法と、を実現することである。本発明の課題はまた、衝撃荷重および/または引っ掻き荷重を受けたときの平均寿命が長くなった物品と、かかる物品の手配方法と、を実現することである。さらに、本発明の課題はとりわけ、曲げによる荷重および/または衝撃荷重および/または引っ掻き荷重を受けたときの物品の平均寿命が長くなった物品と、その手配方法と、を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明によって解決される。
【0007】
一実施形態では本発明は、曲げ特性が改善された、透明な脆性材料から成る物品の手配方法に関する。
【0008】
一実施形態では本発明は、透明な脆性材料から成る物品を手配するための方法であって、
a)物品のセットの個々の物品の以下のパラメータ
i.破壊じん性KIc
ii.圧縮応力CS
iii.押込み深さ特性値x
iv.物品厚さd
を求めるステップと、
b)前記セットのうち、以下の数式
【数1】
を満たす物品を選択するステップと
を有し、
ここで、
【数2】
である場合、
【数3】
であり、
【数4】
である場合、B=0であり、
【数5】
である場合、B=0であり、
m=1メートルであり、
>0μmであり、
UeP>250MPaである、
方法に関する。
【0009】
この数式を使用する際には、長さxおよびdを単位メートルで、応力CSおよびUePを単位MPaで、破壊じん性KIcを単位MPa・√mで使用する。数395、0.843および2.37はそれぞれ無単位である。上記数式において、引張応力は正で、圧縮応力は負で使用すべきである。よって、圧縮応力であるCSは負の数である。
【0010】
個々の物品の上記パラメータ破壊じん性KIc、圧縮応力CS、押込み深さ特性値xおよび物品厚さdの測定は、どの個々の物品においても必ず直接行わなければならないものではない。個々の物品のパラメータの測定は、例えば1つまたは複数の参照物品を用いて間接的に行うこともできる。本発明では、個々の物品のパラメータを推定できる参照物品に基づいてパラメータを測定することにより、個々の物品の本発明のパラメータを求めることができる。例えば、同一ロットの各物品間でパラメータに差がない、または有意でない限りにおいて、1つの製造ロットの中で1つまたは複数のパラメータの測定は、選択された物品自体では直接行わずに、同一ロットのうち1つまたは複数の参照物品において行うことができる。ここで「有意でない差」とは、有利には、同一ロットにおける最大値と最小値との差が最大20%であること、さらに有利には最大15%であること、さらに有利には最大10%であること、さらに有利には最大5%であること、さらに有利には最大2%であること、さらに有利には最大1%であることをいう。
【0011】
特に有利には、1つまたは複数の参照物品を用いて各物品の破壊じん性KIcを求める。このパラメータに関しては、各物品間の差が特に小さいので、破壊じん性KIcはかかる間接測定に特に適している。
【0012】
一実施形態では本発明は、曲げ特性が改善された、透明な脆性材料から成る物品に関する。
【0013】
一実施形態では本発明は、透明な脆性材料から成る物品であって、当該物品は、破壊じん性KIcと、圧縮応力CSと、押込み深さ特性値xと、物品厚さdと
を有し、当該物品については、以下の数式
【数6】
が満たされており、
ここで、
【数7】
である場合、
【数8】
であり、
【数9】
である場合、B=0であり、
【数10】
である場合、B=0であり、
m=1メートルであり、
>0μmであり、
UeP>250MPaである、
物品に関する。
【0014】
本発明には、上記特性を有するn個の物品のセットも含まれる。物品数nは有利には、少なくとも2,3,4,5,10,20,50であるか、または少なくとも100にもなる。かかる「物品のセット」は、当該複数の物品が空間的にまとまっており、規定通りに選択されており、他の使用のために手配されたものであることによって特徴付けられる。「物品のセット」は有利には、上記の特性を有しない物品を含まず、上記の特性を有する物品のみを含む。とりわけ、「物品のセット」との文言は有利には、上記の特性を有しないので本発明のセットに属しない他の物品が存在する場合には、セットに属する物品が当該他の物品から空間的に分離されていることも意味する。とりわけ、物品のセットに属する物品は、有利には同一の製造ロットに由来するものである。
【0015】
本発明における透明な材料とは、有利には、2mmの厚さの場合に当該材料が示す、380~800nmのスペクトルのうち50nm幅の領域、特に有利には250nm幅の領域の電磁波の純透過率が、25%超、さらに有利には60%超、さらに有利には80%超、さらに有利には90%超、特に有利には95%超である材料である。
【0016】
本発明における脆性材料とは有利には、0.1μm-1/2超の脆性S、さらに有利には0.2μm-1/2超、さらに有利には0.5μm-1/2超、さらに有利には0.8μm-1/2超、さらに有利には1μm-1/2超、さらに有利には1.5μm-1/2超、さらに有利には2μm-1/2超の脆性Sを有する材料である。有利には脆性Sは、最大20μm-1/2、さらに有利には最大18μm-1/2、さらに有利には最大15μm-1/2、さらに有利には最大12μm-1/2、さらに有利には最大10μm-1/2、さらに有利には最大9μm-1/2、さらに有利には最大8μm-1/2である。有利には脆性Sは、0.1μm-1/2~20μm-1/2の範囲内、さらに有利には0.2μm-1/2~18μm-1/2の範囲内、さらに有利には0.5μm-1/2~15μm-1/2の範囲内、さらに有利には0.8μm-1/2~12μm-1/2の範囲内、さらに有利には1μm-1/2~10μm-1/2の範囲内、さらに有利には1.5μm-1/2~9μm-1/2の範囲内、さらに有利には2μm-1/2~8μm-1/2の範囲内である。ここで脆性Sとは、ヴィッカース硬さHと破壊じん性KIcとの比
S=H/KIc
をいう。
【0017】
この比は、Lawn, B. R.; Marshall D. B.;; ≪Hardness, Toughness, and Brittleness: An Indentation Analysis≫; Journal of the American Ceramic Society (1979)”中の解説では、脆性を表す尺度として使用されている。当業者には、かかる脆性をどのようにして実験により測定するかは知られている。有利には脆性は、“Sehgal, J.; Ito, S.;≪Brittleness of glass≫; Journal of Non-Crystalline Solids (1999)”中の解説に従って測定される。
【0018】
透明な脆性材料は有利には、ガラス、ガラスセラミック、セラミックおよび結晶から成る群から選択される。有利な結晶は、サファイヤ、ダイヤモンド、コランダム、ルビー、トパーズ、石英および正長石から成る群から選択されたものである。サファイヤが、特に有利な結晶である。特に有利なのは、透明な脆性材料がガラスまたはガラスセラミックであることであり、さらに特に有利なのはガラスであることである。特に有利には、透明な脆性材料はホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、またはアルミノホウケイ酸ガラスである。有利には、本発明の材料中のLiO+NaOの割合、とりわけ本発明のガラス中のLiO+NaOの割合は、1重量%超、さらに有利には3重量%超、さらに有利には5重量%超である。特に有利な実施形態では、本発明の材料、特に本発明のガラスはNaOを含有するが、LiO,RbOおよびCsOを含有しない。本願明細書において、材料とりわけガラスが「ある成分を含有しない」、または「特定の成分を含まない」という場合、これは、当該成分が材料中またはガラス中に不純物として存在してもよい場合がある、という意味である。つまり、当該成分は有意な量で添加または含有されない、ということである。有意でない量とは、本発明では1000ppm未満、有利には500ppm未満の量であり、大抵有利なのは100ppm未満の量である。
【0019】
他に保護メカニズムを用いずに脆性材料を曲げると、凸側に引張応力が生じ、閾値を超えるとこの引張応力が破壊を引き起こす。本願では、上記の関係式の耐久性パラメータUePが250MPaを上回るように、パラメータ破壊じん性KIc、圧縮応力CS、押込み深さ特性値xおよび物品厚さdを選択すると、特に可撓性および/または折畳み可能な物品が得られることが発見された。UePは引張応力の次元を有し、単位MPaで表される。つまり驚くべきことに、パラメータ破壊じん性KIc、圧縮応力CS、押込み深さ特性値xおよび物品厚さdと、耐久性パラメータUePとの間に上述の関係式が成り立ち、かつUePが250MPaを上回る場合、透明な脆性材料から成る物品は曲げ荷重下で特に長寿命であることが発見された。有利には、UePは少なくとも300MPa、さらに有利には少なくとも350MPa、さらに有利には少なくとも400MPa、さらに有利には少なくとも450MPa、非常に特に有利には少なくとも500MPa、さらに有利には少なくとも600MPa、さらに有利には少なくとも700MPa、さらに有利には少なくとも800MPaである。有利には、UePは最大1,000,000MPa、さらに有利には最大100,000MPa、さらに有利には最大20,000MPa、さらに有利には最大10,000MPa、さらに有利には最大7,500MPa、さらに有利には最大5,000MPa、さらに有利には最大4,000MPa、さらに有利には最大3,000MPa、さらに有利には最大2,000MPaである。有利には、UePは250MPa超かつ1,000,000MPa以下、さらに有利には300MPa~100,000MPa、さらに有利には350MPa~20,000MPa、さらに有利には400MPa~10,000MPa、さらに有利には450MPa~7,500MPa、さらに有利には500MPa~5,000MPa、さらに有利には600MPa~4,000MPa、さらに有利には700MPa~3,000MPa、さらに有利には800MPa~2,000MPaの範囲内である。
【0020】
本発明の物品は有利には、(曲げ)軸まわりに可撓性および/または折畳み可能である。有利には、曲げ軸は物品の長手軸に対して垂直に配置されている。本発明の物品は有利には(曲げ)軸まわりに可撓性および/または折畳み可能であり、(曲げ)軸は有利には物品の長手軸に対して垂直に配置されており、物品は100,000回の曲げ過程および/または折畳み過程に割れずに耐える。本発明の物品は有利には(曲げ)軸まわりに可撓性および/または折畳み可能であり、(曲げ)軸は有利には物品の長手軸に対して垂直に配置されており、物品は200,000回の曲げ過程および/または折畳み過程に割れずに耐える。1回の曲げ過程および/または折畳み過程は、曲がっていない状態から曲げ半径を最大20mm、最大10mm、最大5mm、または最大2mmとして曲がった状態に物品を曲げ、かつ/または折畳むことであり得る。物品の長手軸に対して垂直に配置された曲げ軸が特に有利となるのは、当該物品がディスプレイカバーとして、とりわけディスプレイの保護カバーとして、例えばスマートフォン等において使用される場合である。この曲げ軸は有利には、曲げることおよび/または折畳むことによって物品が実質的に2等分になるように配置される。かかる軸まわりに曲げるかつ/または折畳むことによって、例えばスマートフォン、または他の有利には可搬性の電子機器、例えば電子ブック等を、開閉することができる。
【0021】
当業者には、上述の有利な破壊じん性KIc、圧縮応力CS、押込み深さ特性値xおよび物品厚さdを有する物品をどのようにして得ることができるかは知られている。しかし、上述のパラメータと耐久性パラメータUePとの間に上述の関係式が成り立ち、かつUePが250MPaを上回るように当該パラメータを選択すると、優れた荷重特性を有する物品が得られることは、当業者には従来知られていなかった。よって、本発明は上述の関係式の開示によって、当業者が、優れた特性を有する本発明の物品を得ることを可能にするものである。
【0022】
本発明では「破壊じん性」KIcとは、引張応力下での破壊じん性(モードI)をいう。この破壊じん性は単位MPa・√mで表され、有利には、ASTM規格C1421-15(第9頁以降)に記載されている「予亀裂導入法」により測定される。破壊じん性KIcは有利には、1つまたは複数の参照物品を用いて求められる。有利には、破壊じん性KIcを測定するために使用される物品は強化処理されておらず、とりわけ化学強化処理されていない。有利には、KIcは0.4MPa・√mより大きい。さらに有利には、KIcは少なくとも0.45MPa・√m、さらに有利には少なくとも0.5MPa・√m、さらに有利には少なくとも0.6MPa・√m、さらに有利には少なくとも0.7MPa・√m、さらに有利には少なくとも0.8MPa・√mである。有利には、KIcは最大100MPa・√m、さらに有利には最大75MPa・√m、さらに有利には最大50MPa・√m、さらに有利には最大10MPa・√m、さらに有利には最大8MPa・√m、さらに有利には最大5MPa・√mである。有利にはKIcは、0.4MPa・√m超かつ100MPa・√m以下の範囲内、さらに有利には0.45MPa・√m~75MPa・√mの範囲内、さらに有利には0.5MPa・√m~50MPa・√mの範囲内、さらに有利には0.6MPa・√m~10MPa・√mの範囲内、さらに有利には0.7MPa・√m~8MPa・√mの範囲内、さらに有利には0.8MPa・√m~5MPa・√mの範囲内である。
【0023】
曲げたときの寿命をさらに延ばすためには、物品に生じる応力分布を変化させることもできる。有利には物品は強化処理されており、とりわけ熱強化処理および/または化学強化処理されており、特に有利には化学強化処理されている。例えば、物品とりわけガラス物品を、元素交換によって化学強化処理することができる。その際には通常は、物品中の小さいアルカリイオンが、より大きなアルカリイオンと交換される。ここで典型的なのは、より小さいナトリウムがカリウムと置換されることである。しかし本発明では、非常に小さいリチウムがナトリウムまたはカリウムと置換されることもある。本発明では、アルカリイオンを銀イオンと置換することも可能である。さらに、アルカリイオンと同一の原理でアルカリ土類イオンを互いに交換することもできる。有利にはこのイオン交換は、溶融塩から成る槽中で物品表面と塩槽との間で行われる。かかる槽は「強化処理槽」とも称される。交換を行う際には、純粋な溶融塩、例えば溶融したKNO等を使用することができる。また、塩類混合物または塩類と他の成分との混合物を使用することもできる。物品内部において規定通りに調整された圧縮付勢プロファイルを生じさせると、曲げられた物品の信頼性をさらに向上させることができる。これは、多段階で化学交換プロセスを行うことにより達成することができる。また、イオン注入によっても、所望の圧縮付勢プロファイルを生じさせることができる。
【0024】
小さいイオンを大きいイオンと交換することにより、その交換ゾーンにおいて圧縮応力が生じ、交換プロセスが1回である場合、この圧縮応力はガラスの表面から中央に向かって相補誤差関数に従って下降していく。その最大圧縮応力はガラス表面の直ぐ下方に生じ、以下「CS」(compressive stress)という。CSは応力であり、単位MPaで表される。有利には、CSは折原製作所の測定機器FSM‐60LEを用いて測定される。
【0025】
有利には、CSは200MPaより大きい。さらに有利には、CSは少なくとも400MPaであり、さらに有利には少なくとも600MPaであり、さらに有利には少なくとも800MPaである。有利には、CSは最大20000MPaであり、さらに有利には最大10000MPaであり、さらに有利には最大5000MPaであり、さらに有利には最大3000MPaである。有利にはCSは、200MPa超かつ20000MPa以下の範囲内、さらに有利には400MPa~10000MPaの範囲内、さらに有利には600MPa~5000MPaの範囲内、さらに有利には800MPa~の3000MPaの範囲内である。ここで掲げた値は、CSの絶対値を示している。本発明の数式では、CSは上記にて説明したように、負の数として使用しなければならない。
【0026】
1段階の元素交換を行った場合の付勢プロファイルの形状は、上記のように相補誤差関数に従ったものとなる。拡散係数Dはイオン種ごとに異なり、また、温度および材料が異なる場合も異なってくる。拡散係数Dは単位m/sで測定される。拡散係数Dと強化処理時間tとによって、押込み深さ特性値x
【数11】
によって計算することができる。強化処理時間tとは、物品が強化処理槽中にある時間である。この時間は自動的に求めることができ、または手動の時間計測により求めることができる。拡散係数Dは本発明では、多数の異なる手法を用いて求めることができる。有利には拡散係数は、規定の強化処理温度と時間とによる交換されたイオンの深さプロファイルを用いて計算される。この深さプロファイルは、例えばEDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて測定することができる。これに代えて、ToF‐SIMS法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いることもできる。ToF‐SIMS法では、イオンビームを用いて衝撃を与えて物品表面から材料を放出させ、このようにして生成されたイオンの組成を測定する。このように衝撃を与えて材料を放出させることにより、物品の奥深くまで「掘り下げて」、イオンプロファイルの変化を検出することができる。当業者に知られている適した手法は他にもある。
【0027】
「交換されたイオン」とは本発明では、化学強化処理の交換プロセスによって、交換ゾーンにおける当該イオンの濃度の方が基礎材料における濃度より増加したイオンをいう。交換されたイオンの濃度は、物品の表面から内部に向かって下降していく。上記の数式
【数12】
に依存せずに、例えばToF‐SIMSまたはEDXを用いて求められたイオン深さプロファイルから、交換されたイオン(有利にはKイオン)のイオン濃度が表面と基礎材料との間の濃度差の15.73%まで下降する深さとして、押込み深さ特性値xを求めることもできる。というのも化学強化処理後は、交換されたイオンの濃度は相補誤差関数に従って表面の濃度からバルク中の濃度まで下降していくからである。
【数13】
【0028】
つまり、x=xの場合には
c(xc) = erfc(1)≒15.73%
が成り立つ。
【0029】
つまり、深さx=xの場合に、基礎割合を超える割合は、表面における最大割合の約15.73%となる。
【0030】
したがって押込み深さ特性値xは、
cion (xc)=cion (bulk)+0.1573・(cion (surface)-cion (bulk))
が成立する深さである。
【0031】
同式中、cion(bulk)は基礎材料中の交換されたイオンの濃度を示しており、cion(surface)は物品の表面の交換されたイオンの濃度を示しており、cion(x)は深さxにおける交換されたイオンの濃度を示している。
【0032】
本発明の物品の表面は、強化処理後にさらに変化および/または除去することができる(例えばエッチングおよび/または研磨等によって)。パラメータ破壊じん性KIcと圧縮応力CSと押込み深さ特性値xと物品厚さdと耐久性パラメータUePとの間の本発明の関係式は、物品とりわけガラスの表面を強化処理後にさらに変化および/または除去した場合(例えばエッチングおよび/または研磨等によって)においても成立する。かかる場合には、同式中において以下の値が使用される。
・破壊じん性KIcは、上記のように求められる。
・物品厚さdは、表面処理後の厚さである。
・圧縮応力CSは、表面処理後の表面における圧縮応力の値である。
・表面を強化処理後にさらに変化させ、特に交換がなされた表面の一部を(例えばエッチングおよび/または研磨等によって)除去すると、例えば交換されたイオンの濃度が特に高い表面部分が除去されることにより、表面における交換されたイオンの濃度も変化する。したがって押込み深さ特性値xは、下記および上記にて説明した数式に従い、
cion (xc)=cion (bulk)+0.1573・(cion (surface)-cion (bulk))
が成立する深さとして求められる。
同式中、cion(bulk)は基礎材料中の交換されたイオンの濃度を示しており、cion(surface)は表面処理後の表面の交換されたイオンの濃度を示しており、cion(x)は深さxにおける交換されたイオンの濃度を示している。
【0033】
押込み深さ特性値xの単位は長さの単位である。有利には、xは少なくとも2μm、さらに有利には少なくとも3μm、さらに有利には少なくとも0.843・4μm、さらに有利には少なくとも4μm、さらに有利には少なくとも6μm、さらに有利には少なくとも8μm、さらに有利には少なくとも10μmである。有利にはxは、最大50μm、さらに有利には最大30μm、さらに有利には最大27μm、さらに有利には最大25μm、さらに有利には最大24μm、さらに有利には最大22μm、さらに有利には最大20μmである。有利にはxは、2μm~50μmの範囲内、さらに有利には3μm~30μmの範囲内、さらに有利には0.843・4μm~27μmの範囲内、さらに有利には4μm~25μmの範囲内、さらに有利には6μm~24μmの範囲内、さらに有利には8μm~22μmの範囲内、さらに有利には10μm~20μmの範囲内である。
【0034】
が物品厚さdとの比較においてある程度を超えないことが有利であることが判明している。有利にはxは、最大d/2、さらに有利には最大d/3、さらに有利には最大d/3.5、さらに有利には最大d/4、さらに有利には最大d/5、さらに有利には最大d/6、さらに有利には最大d/7である。また、有利にはxは、少なくともd/40、さらに有利には少なくともd/30、さらに有利には少なくともd/27、さらに有利には少なくともd/25、さらに有利には少なくともd/20、さらに有利には少なくともd/15、さらに有利には少なくともd/10である。有利にはxは、d/40~d/2の範囲内、さらに有利にはd/30~d/3の範囲内、さらに有利にはd/27~d/3.5の範囲内、さらに有利にはd/25~d/4の範囲内、さらに有利にはd/20~d/5の範囲内、さらに有利にはd/15~d/6の範囲内、さらに有利にはd/10~d/7の範囲内である。
【0035】
有利には、xは少なくとも2μmかつ少なくともd/40、さらに有利には少なくとも3μmかつ少なくともd/30、さらに有利には少なくとも0.843・4μmかつ少なくともd/27、さらに有利には少なくとも4μmかつ少なくともd/25、さらに有利には少なくとも6μmかつ少なくともd/20、さらに有利には少なくとも8μmかつ少なくともd/15、さらに有利には少なくとも10μmかつ少なくともd/10である。有利には、xは最大50μmかつ最大d/2、さらに有利には最大30μmかつ最大d/3、さらに有利には最大27μmかつ最大d/3.5、さらに有利には最大25μmかつ最大d/4、さらに有利には最大24μmかつ最大d/5、さらに有利には最大22μmかつ最大d/6、さらに有利には最大20μmかつ最大d/7である。
【0036】
所与の曲げ半径の場合の引張応力の絶対的な大きさは、物品厚さdと共にほぼ線形に変化する。物品厚さが大きくなるほど、曲げ応力が大きくなる。「曲げ応力」とは、曲げられた物品の凸側の引張応力をいう。物品の厚さは、開発者ないしは設計者によって自由に選択することができる。物品の厚さは単位メートル[m]で測定される。有利には、物品厚さdは最大500μmであり、さらに有利には最大450μmであり、さらに有利には最大400μmであり、さらに有利には最大300μmである。有利には、物品厚さdは少なくとも5μmであり、さらに有利には少なくとも20μmであり、さらに有利には少なくとも50μmであり、さらに有利には少なくとも100μmである。有利には物品厚さdは、5μm~500μmの範囲内、さらに有利には20μm~450μmの範囲内、さらに有利には50μm~400μmの範囲内、さらに有利には100μm~300μmの範囲内である。有利には、物品厚さdは厚さゲージを用いて測定される。また、重量、基面および密度を介して、計算により物品厚さを求めることもできる。他の適した手法も可能である。
【0037】
さらに、物品の凸側の引張応力は1次近似で透明な脆性材料の弾性率に直接比例することが判明している。よって、曲げられる物品の寿命については、材料の弾性率があまり高くない方が有利である。有利には、弾性率は最大200GPaであり、さらに有利には最大150GPaであり、さらに有利には最大120GPaであり、さらに有利には最大100GPaである。有利には、弾性率は少なくとも40GPaであり、さらに有利には少なくとも50GPaであり、さらに有利には少なくとも60GPaであり、さらに有利には少なくとも70GPaである。有利には弾性率は、40GPa~200GPaの範囲内、さらに有利には50GPa~150GPaの範囲内、さらに有利には60GPa~120GPaの範囲内、さらに有利には70GPa~100GPaの範囲内である。弾性率は有利には、当該材料中における音速を介して求められる。音速を介して弾性率を求めることは通常であり、当業者に知られている。
【0038】
引張応力を物品内から外に移動させる場合にも、曲げられる製品の寿命を延ばすことができる。これは、本発明ではとりわけ、物品の少なくとも片面に、とりわけ引張応力がかかる面に、他の材料を設けることによって達成することができる。よって本発明は、本発明の物品と、当該物品の少なくとも片面に設けられた他の材料とを備えた複合材にも関する。他の材料を物品エッジと物品エッジの付近とに設けることで足りる。物品面全体に他の材料を施す必要はない。「物品エッジの付近」とは有利には、最近傍の物品エッジからの距離が最短距離で有利には少なくとも10・d、かつ有利には最大50・d、さらに有利には最大20・dである、物品の面の領域をいう。ここで「d」は物品厚さを示す。
【0039】
有利には、他の材料は10GPa超の弾性率を有する。有利には、他の材料の弾性率は少なくとも20GPaであり、さらに有利には少なくとも50GPaであり、さらに有利には少なくとも75GPaであり、さらに有利には少なくとも100GPaである。有利には、他の材料の弾性率は最大1000GPaであり、さらに有利には最大800GPaであり、さらに有利には最大700GPaであり、さらに有利には最大650GPaである。有利には他の材料の弾性率は、10GPa超かつ1000GPa以下の範囲内、さらに有利には20GPa~800GPaの範囲内、さらに有利には50GPa~700GPaの範囲内、さらに有利には100GPa~の650GPaの範囲内である。
【0040】
物品の弾性率EArtikelとの比較において、他の材料の弾性率は有利には、EArtikel/10~10・EArtikelの範囲内、さらに有利にはEArtikel/5~5・EArtikelの範囲内、さらに有利にはEArtikel/2~2・EArtikelの範囲内である。
【0041】
有利には他の材料の脆性Sは、20μm-1/2未満、さらに有利には10μm-1/2未満、さらに有利には5μm-1/2未満、さらに有利には2μm-1/2未満、さらに有利には1μm-1/2未満、さらに有利には0.5μm-1/2未満、さらに有利には0.25μm-1/2未満、さらに有利には0.1μm-1/2未満、さらに有利には0.05μm-1/2未満、さらに有利には0.005μm-1/2未満である。有利には、他の材料の厚さは0.2・d~5・dの範囲内、さらに有利には0.5・d~2・dの範囲内である。ここで、dは物品の厚さである。有利には、他の材料の厚さは少なくとも10μm、さらに有利には少なくとも50μm、さらに有利には少なくとも100μm、さらに有利には少なくとも200μm、さらに有利には少なくとも500μmである。有利には他の材料は、プラスチック、とりわけポリマープラスチックと、金属性材料、とりわけ金属とから成る群から選択される。特に有利なプラスチックは、ポリエチレン(PE)である。有利には、他の材料は金属性材料であり、非常に特に有利には鋼である。
【0042】
上記のように、引張応力は物品内から他の材料へ移動される。よって、他の材料が比較的高い膨張限界を有すると有利である。有利には、他の材料とりわけ金属性材料の0.2%膨張限界は、少なくとも50N/mm、さらに有利には少なくとも75N/mm、さらに有利には少なくとも100N/mm、さらに有利には少なくとも150N/mmである。0.2%膨張限界は、除荷後、試料の開始長さを基準とする残留膨張がちょうど0.2%となる(1軸の)機械的応力である。0.2%膨張限界は、公称応力‐総膨張グラフから一義的に求めることができる。
【0043】
また、他の材料が比較的高い引張強度を有する場合も有利である。有利には、他の材料とりわけポリマープラスチックの引張強度は、少なくとも50N/mm、さらに有利には少なくとも60N/mm、さらに有利には少なくとも70N/mm、さらに有利には少なくとも80N/mmである。引張強度は有利には、EN ISO 6892-1,ISO 6892,ASTM E 8,ASTM E 21,DIN 50154,ISO 527,ASTM D 638の規格に従って測定される。
【0044】
驚くべきことにさらに、物品内の幾何学的現象が、物品エッジにおいて圧縮付勢を低下させる原因となることが発見された。かかる不利な現象は、エッジ丸み付け加工によって低減することができる。驚くべきことに、物品厚さdと強化処理深さ特性値xと丸み付け半径OVRとが、以下の関係
d/3>OVR>x/5
にあることが有利であることが判明している。
【0045】
よって有利には、丸み付け半径OVRはd/3未満かつx/5超である。丸み付け半径OVRは、当該物品板材の横割れにおいて測定される。ここでOVRは、横割れの際に横割れのエッジに当てはめることができる最大可能な円の半径に相当する。このエッジは、元の板材のエッジにおける横断面である。有利には個々の物品のOVRの測定は、当該個々の物品のOVRを推定できる1つまたは複数の参照物品を用いて間接的に行われる。例えば、同一ロットの各物品間でパラメータに差がない、または有意でない限りにおいて、1つの製造ロットの中で測定は、選択された物品自体では直接行わず、同一ロットのうち1つまたは複数の参照物品において行うことができる。ここで「有意でない差」とは、有利には、同一ロットにおける最大値と最小値との差が最大20%であること、さらに有利には最大15%であること、さらに有利には最大10%であること、さらに有利には最大5%であること、さらに有利には最大2%であること、さらに有利には最大1%であることをいう。
【0046】
一実施形態では本発明は、丸み付け半径OVRを求め、OVRがd/3未満かつx/5超である物品を選択して、透明な脆性材料から成る物品の手配方法に関する。一実施形態では本発明は、丸み付け半径OVRがd/3未満かつx/5超である、透明な脆性材料から成る物品に関する。一実施形態では本発明は、透明な脆性材料から成る物品と、当該物品の少なくとも片面に設けられた他の材料とを備えた複合材であって、丸み付け半径OVRがd/3未満かつx/5超である複合材に関する。
【0047】
エッチングを行うためには、材料の除去に適した環境を使用する。その際には有利には、例えば種々の濃度のHF等のフッ酸含有液体、とりわけ酸性フッ化アンモニウムを使用する。これは他の液体と混合して、とりわけ他の酸と混合して使用することができる。濃度およびエッチング時間は、所望の除去に応じて適宜調整することができる。本発明では、アルカリ液中でエッチングすることもできる。アルカリ液を用いてエッチングを行う場合、HFを用いたエッチングと比較してエッチング時間が長くなる。有利なアルカリ液は苛性カリ(KOH)または苛性ソーダ(NaOH)である。本発明ではプラズマエッチングを使用することもできる。
【0048】
曲げられる物品の寿命に圧縮付勢プロファイルが及ぼす効果は、当該ガラスにおいて強度測定を行うことにより証明することができる。こうするためには、MatthewsonおよびKurkjianによる刊行物(J. Am. Ceram. Soc., 69 [11]、第815~821頁、1986年)に従って強度を測定する2点曲げ測定を行った。有利には個々の物品の強度の測定は、当該個々の物品の強度を推定できる1つまたは複数の参照物品を用いて間接的に行われる。例えば、同一ロットの各物品間でパラメータに差がない、または有意でない限りにおいて、1つの製造ロットの中で、選択された物品自体では直接測定を行わず、同一ロットのうち1つまたは複数の参照物品において行うことができる。ここで「有意でない差」とは、有利には、同一ロットにおける最大値と最小値との差が最大20%であること、さらに有利には最大15%であること、さらに有利には最大10%であること、さらに有利には最大5%であること、さらに有利には最大2%であること、さらに有利には最大1%であることをいう。
【0049】
測定値列の平均値(MW)と、測定値列の標準偏差(STABW)と、1つの測定値列に含まれる試料の数Nと、強度パラメータOFPとの間に、
【数14】
によって計算される特殊な関係が成立する場合、曲げたときの物品の耐破壊性が特に高いことが判明している。
【0050】
OFPは有利には少なくとも2、さらに有利には4より大きい。さらに有利には、OFPは少なくとも5であり、さらに有利には少なくとも10であり、さらに有利には少なくとも20である。有利には、OFPは最大100であり、さらに有利には最大80であり、さらに有利には最大70であり、さらに有利には最大60である。有利にはOFPは、4超かつ100以下の範囲内、さらに有利には5~80の範囲内、さらに有利には10~70の範囲内、さらに有利には20~60の範囲内である。
【0051】
一実施形態では本発明は、強度パラメータOFPを上述の数式に従って求め、OFPが4より大きい物品を選択して、透明な脆性材料から成る物品の手配方法に関する。一実施形態では本発明は、強度パラメータOFPが4より大きい、透明な脆性材料から成る物品に関する。一実施形態では本発明は、透明な脆性材料から成る物品と、当該物品の少なくとも片面に設けられた他の材料とを備えた複合材であって、強度パラメータOFPが4より大きい複合材に関する。さらに有利には、OFPは少なくとも5であり、さらに有利には少なくとも10であり、さらに有利には少なくとも20である。有利には、OFPは最大100であり、さらに有利には最大80であり、さらに有利には最大70であり、さらに有利には最大60である。有利にはOFPは、4超かつ100以下の範囲内、さらに有利には5~80の範囲内、さらに有利には10~70の範囲内、さらに有利には20~60の範囲内である。
【0052】
脆弱材料では、未臨界亀裂成長が生じ得る。この未臨界亀裂成長では、臨界以下の荷重の場合であっても(すなわち、直接破壊を生じない荷重事例であっても)マイクロ欠陥が成長して臨界領域にまで「成長」し、遅延した破壊を生じ得る。典型的には、亀裂成長速度は相対的な応力拡大係数vの関数として表され、数式
v=v(K/KIc
に従う指数関数的な関係が分かる。
【0053】
驚くべきことに、長い平均寿命を達成するためには、引張応力が不変である場合、材料パラメータであり「n値」とも称される指数nよりも、空気中湿度の影響の方が格段に重要であることが確認されている。とりわけ、空気中相対湿度が20%rH~70%rHの間の範囲内で変動する場合に上記式中の前置係数vが大きく変動する物品が、曲げられる物品としての使用に適していることが発見された。有利には、空気中相対湿度が20%rH~70%rHの間の範囲内で変動する場合、前置係数vは15超のファクタ、さらに有利には20超、さらに有利には25超、さらに有利には30超、さらに有利には50超のファクタだけ変動する。
【0054】
一実施形態では本発明は、空気中相対湿度が20%rH~70%rHの間の範囲内で変動する場合に前置係数vが15超のファクタ、さらに有利には20超、さらに有利には25超、さらに有利には30超、さらに有利には50超のファクタだけ変動する物品を選択して、透明な脆性材料から成る物品の手配方法に関する。一実施形態では本発明は、空気中相対湿度が20%rH~70%rHの間の範囲内で変動する場合に前置係数vが15超のファクタ、さらに有利には20超、さらに有利には25超、さらに有利には30超、さらに有利には50超のファクタだけ変動する、透明な脆性材料から成る物品に関する。一実施形態では本発明は、透明な脆性材料から成る物品と、当該物品の少なくとも片面に設けられた他の材料とを備えた複合材であって、空気中相対湿度が20%rH~70%rHの間の範囲内で変動する場合に前置係数vが15超のファクタ、さらに有利には20超、さらに有利には25超、さらに有利には30超、さらに有利には50超のファクタだけ変動する複合材に関する。
【0055】
衝撃荷重の場合には、衝撃の中心における圧縮荷重とその縁部における引張荷重とから成る、非常に局所的な応力過上昇が生じる。物品は通常のように、衝突物のエネルギーEとインパルスpとの両成分を吸収しなければならない。エネルギーは
【数15】
によって捉えられるのに対し、インパルスは
【数16】
によって捉えなければならない。ここで、xは物品の反りを示しており、mは物品の最大反り、すなわち、エネルギーを捕捉する距離を示している。tは時間を示しており、tKontaktは物品と衝突物との接触時間を示している。F(x)は、xの反りの場合に衝突物に加わる力を示している。F(t)は、時点tにおいて衝突物に加わる力を示している。場合によっては、衝突物が弾性反発する際に2重インパルスが伝達されることもある。同式から分かるように、両成分共に接触中の反りが非常に重要となる。ここで、複数の物品の同一剛性の同一構造を考察すると、信頼性には種々の材料パラメータが重要になる。
【0056】
亀裂開始荷重(英語:crack-initiation-load)は、物体が侵入するときの物品の亀裂形成に対する抵抗能力を表すものである。亀裂開始荷重は基本的に、衝撃荷重時に生じる場合に該当する。よって、比較的高い亀裂開始荷重が有利である。空気中相対湿度が50%である場合、物品の亀裂開始荷重は有利には少なくとも1.5Nであり、さらに有利には少なくとも3Nであり、さらに有利には少なくとも5Nであり、さらに有利には少なくとも10Nである。有利には、空気中相対湿度が50%である場合の亀裂開始荷重は最大200N、さらに有利には最大150N、さらに有利には最大75N、さらに有利には最大65N、さらに有利には最大55N、さらに有利には最大45N、さらに有利には最大30Nである。有利には亀裂開始荷重は、1.5N~200Nの範囲内、さらに有利には3N~150Nの範囲内、さらに有利には5N~75Nの範囲内、さらに有利には10N~の30Nの範囲内である。亀裂開始荷重は有利には、SehgalおよびItoにより執筆されているように(J. Am. Ceram. Soc., 81 [9]、第2485~2488頁、1998年)ヴィッカース圧子(英語:Vickers indenter)を用いて求められる。
【0057】
衝撃荷重の際に重要となるもう1つの点は、臨界圧縮率である。これは、材料が亀裂傾向になる前に耐えられる限界圧縮応力である。この量は膨張に相当し、無単位である。有利には、物品の臨界圧縮率は少なくとも8%、さらに有利には少なくとも10%である。この臨界圧縮率は、円柱圧縮法によって求めることができる。有利には、両シリンダを介して試験対象の物品試料に圧力を加えることができるように、試験対象の物品試料を2つのシリンダの端面間に置く。圧縮力を加えるためには、例えば型式INSTRON 6025等のユニバーサル試験機を用いることができる。
【0058】
衝撃荷重に対する強度にとっても、弾性率Eおよび破壊じん性KIcが重要である。打撃具の所与の幾何的形状の場合、物品の最大圧縮負荷は、
【数17】
に比例する。よって、高い耐破壊性KIcかつ小さい弾性率が有利である。有利には、KIcは0.4MPa・√mより大きい。さらに有利には、KIcは少なくとも0.45MPa・√m、さらに有利には少なくとも0.5MPa・√m、さらに有利には少なくとも0.6MPa・√m、さらに有利には少なくとも0.7MPa・√m、さらに有利には少なくとも0.8MPa・√mである。有利には、弾性率は最大200GPaであり、さらに有利には最大150GPaであり、さらに有利には最大120GPaであり、さらに有利には最大100GPaである。
【0059】
引っ掻きの際には、ガラス表面上において硬質の材料を移動させ、または押し込む。かかる引っ掻きによって、チッピング(英語:Chippings)と塑性変形とにより生じる美しくない引っ掻き傷が形成され、また、場合によっては亀裂が形成されて、物品の奥深くまで達してここで物品の破壊を引き起こし得ることもある。引っ掻きに対抗できる態様は複数存在する。
【0060】
透明な脆性材料が硬質であると有利である。驚くべきことに、重要なのはヴィッカース硬さではなくマルテンス硬さであることが発見された。(例えばガラスの)ヴィッカース硬さは、例えば脆性を測定する際の一般的な硬さパラメータとして知られている。ヴィッカース硬さの場合は、角錐形のダイヤモンドをガラスに押し込んで、除荷後に残った押込み跡を幾何学的に測定する。この測定結果から硬さが求められる。よって、この硬さは材料の塑性変形を表す尺度である。それに対してマルテンス硬さを測定する場合は、所与の載置力の場合における押込み深さないしは接触面積を測定する。よってこの硬さは、材料の弾性変形についての情報を示すものである。驚くべきことに、マルテンス硬さの方が、ガラスの抵抗能力を表す良好な尺度となることが発見された。その理由は、マルテンス硬さを測定する場合、圧子下での応力比が物品への荷重時の応力比とより格段に類似するからである。つまり、物品とりわけガラスの破壊は、(特に衝撃荷重の場合)荷重中に生じる、ということである。
【0061】
有利には、材料のマルテンス硬さは少なくとも1000MPaであり、さらに有利には少なくとも1200MPaであり、さらに有利には少なくとも1500MPaであり、さらに有利には少なくとも2000MPaである。有利には、マルテンス硬さは最大30000MPaであり、さらに有利には最大25000MPaであり、さらに有利には最大20000MPaであり、さらに有利には最大16000MPaである。有利には、マルテンス硬さはDIN EN ISO 14577に従って測定される。
【0062】
さらに、CSが比較的大きいと有利であることも発見された。これによって、奥深くに達する亀裂を回避することができる。有利には、CSは200MPaより大きい。さらに有利には、CSは少なくとも400MPaであり、さらに有利には少なくとも600MPaであり、さらに有利には少なくとも800MPaである。
【0063】
また、押込み深さ特性値xが大きいと有利である。というのも、幾らか深い亀裂が生じても、いわゆる「中心引張(center-tension)」への亀裂を回避することができ、これによって、幾らか深い亀裂が生じても板材の割れを引き起こすことがないからである。有利には、xは少なくとも2μm、さらに有利には少なくとも3μm、さらに有利には少なくとも4μm、さらに有利には少なくとも6μm、さらに有利には少なくとも8μm、さらに有利には少なくとも10μmである。
【0064】
本発明はまた、ディスプレイカバーとしての、とりわけスマートフォン、タブレットおよび/またはTV機器用のディスプレイカバーとしての、本発明の物品または複合材の使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】d=100μm、KIc=0.7MPa・√mおよびCS=-960MPaである一例のガラスに基づいて測定された曲げ半径(ワイブル統計による特性値)と計算されたUeP値(2次y軸)との間の関係を示す図である。2つの参照値は、強化処理されていないガラスの曲げ半径ないしはUeP値を示している。
図2】d=100μm、KIc=0.7MPa・√mおよびCS=-440MPaである他の一例のガラスに基づいて測定された曲げ半径(ワイブル統計による特性値)と計算されたUeP値(2次y軸)との間の関係を示す図である。2つの参照値は、強化処理されていないガラスの曲げ半径ないしはUeP値を示している。
図3】UeP値を曲げ半径に依存して示す図である。UeP値が200MPa未満と小さい2つのデータ点は、強化処理されていないガラスの参照値である。
図4】UeP値を破壊応力に依存して示す図である。UeP値が200MPa未満と小さい2つのデータ点は、強化処理されていないガラスの参照値である。
図5】それぞれ圧縮応力CSが異なる3つのガラスのUeP値をxに依存して示す図である。
図6】それぞれ厚さdが異なる4つのガラスのUeP値をxに依存して示す図である。
図7】それぞれ厚さdが異なる4つのガラスのUeP値をxに依存して示す図である。
図8】それぞれ破壊じん性KIcが異なる3つのガラスのUeP値をxに依存して示す図である。
図9】それぞれ破壊じん性KIcが異なる3つのガラスのUeP値をxに依存して示す図である。
【実施例
【0066】
1.
複数の異なる製造ロットからの複数の物品を調達する。個々の物品の破壊じん性KIc、圧縮応力CS、押込み深さ特性値xおよび物品厚さdを測定する。個々の物品の上述のパラメータの測定は、製造ロットごとに、各ロットを代表するそれぞれ10個の参照物品に基づいて行われる。パラメータの測定に基づいて、以下の数式
【数18】
を満たす物品を選択する。同式中、
【数19】
である場合、
【数20】
であり、
【数21】
である場合、B=0であり、
【数22】
である場合、B=0であり、
m=1メートルであり、
>0μmであり、
UeP>250MPaである。
【0067】
ここで選択されないのはとりわけ、UePが250MPaを上回らない物品である。選択された物品は他の物品から分離され、本発明の物品セットにまとめられる。
【0068】
2.
驚くべきことに、ガラスのUePが高くなると、ガラスが破壊する前に曲げられる曲げ半径は小さくなることが発見された。
【0069】
図1では、一例のガラスに基づいて測定された曲げ半径(ワイブル統計による特性値)と計算されたUeP値(2次y軸)との間の関係が分かる。2つの参照値は、強化処理されていないガラスの曲げ半径ないしはUeP値を示している。曲げ半径が最小である場合にUeP値が最大になることが分かる。このことは、UeP値が高いと、小さい曲げ半径を達成できることを意味する。測定は、2点曲げ法により行った。(MatthewsonおよびKurkjian(J. Am. Ceram. Soc., 69 [11]、第815~821頁、1986年)も参照のこと)。2点曲げ法における曲げ半径として、同図では、ガラスが破壊したときの平板間距離の半分を規定した。
【0070】
図2は、-440MPaのみの付勢をかけた他のガラスについての同等のグラフである(グラフ中央を参照のこと)。達成可能な曲げ半径は、CS=-960MPaであるガラスより明らかに大きく、UeP曲線は明らかに低くなっていることが分かる。したがって、より大きな付勢をかけると、より小さい曲げ半径を達成することができる。これらの測定は、独国特許出願公開第102014110855号明細書(DE 10 2014 110 855 A1)に記載されているステップローラを用いて行われた。同図中の曲げ半径は、ガラスが破壊するときのローラの半径である。
【0071】
両ガラスのデータをグラフに示すと、曲げ半径の関数としてのUePを示す、図3に示されたグラフと、破壊応力の関数としてのUePを示す、図4に示されたグラフと、の2つのグラフが得られる(応力が大きくなるほど曲げ半径は小さくなる)。UeP値が高いと、小さい曲げ半径を達成できることが分かる。UeP値が高くなることは、破壊応力が高くなることに繋がる。UeP値が200MPa未満と小さい2つのデータ点は参照値であり、強化処理できないガラスないしは非常に小さいCS値しか有しないガラスを代表するものでもある。
【0072】
図5図9は、耐久性パラメータを他のパラメータの関数として示すグラフである。x軸は常にxである。2つの他のパラメータは固定され、第3のパラメータは曲線にわたって変動している。どのパラメータをどの値で固定しているかは、各図のタイトルに示されている。
【0073】
図5では、付勢CSが大きくなると耐久性パラメータUePが増大することが分かる。図6および図7では、物品厚さが大きくなるとUeP値が高くなるという相関関係にあることが分かる。図8および図9からは、破壊じん性KIcが大きくなるとUeP値が高くなるという相関関係にあることが明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9