(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/48 20060101AFI20250311BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250311BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
A61K36/48
A61P43/00 111
A61P17/00
(21)【出願番号】P 2020164284
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-06-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 浩子
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】Animals,2020年03月10日,Vol.10, 463 (13 pages),<doi:10.3390/ani10030463>
【文献】Vascular Pharmacology,2006年,Vol.44, pp.519-525,<doi:10.1016/j.vph.2006.03.012>
【文献】PLOS ONE,2014年,Volume 9, Issue 3, e92128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵ハニーブッシュ抽出物を有効成分として含有する
皮膚細胞ミトコンドリア膜の過酸化脂質
量減少剤であって、
前記発酵ハニーブッシュ抽出物が、40~60%(v/v)のエタノール又は40~60
%(v/v)の1,3-ブチレングリコール抽出物である過酸化脂質量減少剤。
【請求項2】
ミトコンドリア膜の過酸化脂質形成
量の減少を目的とする
請求項1記載の発酵ハニーブッシュ抽出物含有組成物の使用(ただし、人間を治療する用途を除く)。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、発酵ハニーブッシュ抽出物のミトコンドリア機能改善に関する発明である。
【0002】
ミトコンドリアは真核生物における細胞小器官の1つであり、細胞活動に必要なエネルギー源であるATPを産生するという重要な働きを持つ。一方で、このエネルギー代謝の過程である電子伝達系では、消費する酸素の1~5%から電子が漏れ出ることにより活性酸素の1種であるスーパーオキシドが発生する。そのため、ミトコンドリアは細胞にとってエネルギー産生の場所であると同時に、活性酸素の発生場所である。
【0003】
ミトコンドリア内で生じた活性酸素の一部はシグナル伝達等で利用されるため必要であるが、過剰に生じた場合、ミトコンドリアのDNAやタンパクに障害を与えることが知られている。また、ミトコンドリアは脂質2重膜を持つ器官であることから、膜に存在する脂質は活性酸素の良好な標的であり、容易に過酸化脂質が形成される。ミトコンドリア膜に存在する脂質は膜の構造維持やシグナル伝達に関与しており、活性酸素障害により膜のホメオスタシスが崩壊することで、ミトコンドリアにおける脂質代謝や炎症、アポトーシスの誘導といった重要な機能が損なわれる(非特許文献1)。また、機能が低下したミトコンドリアはさらに多くの活性酸素を生みだし、機能障害における負のスパイラルを引き起こす。そのため、ミトコンドリア膜における過酸化脂質の形成を抑制することが、ミトコンドリアの機能維持、回復に有効であると言える。
【0004】
ミトコンドリアの機能は加齢により低下するため生理的老化の一因と考えられているが、一方で組織におけるミトコンドリア機能低下が顕著になった場合は病気の原因になる。例えば、脳の中枢神経細胞においてミトコンドリアの機能低下が生じると記憶力や認知機能の低下といった症状が現れる。アルツハイマー病ではアミロイドβがミトコンドリア機能を阻害し、活性酸素が増加することにより細胞のアポトーシスが引き起こされることが原因と考えられている。またパーキンソン病、神経変性ALSは異常なミトコンドリアを除去するマイトファジー機能が低下することが病気の発症の一因であることが報告されている(非特許文献2)。一方、明らかな病気ではないものの、筋力低下、易疲労性、貧血、便秘といった体の不調も、ミトコンドリアの機能低下による症状として知られている。
【0005】
そのため、ミトコンドリアの機能を維持、回復させることは、生理的老化やミトコンドリアの機能低下に起因した病気の予防、改善のために重要である。前述のとおりミトコンドリアの機能低下は活性酸素傷害によるところが大きいため、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化効果(活性酸素消去能)の高い化合物を使用する方法が予防、改善方法として想定される。
【0006】
しかしながら抗酸化効果が高い化合物は、酸化されやすいためミトコンドリアに到達する前に消費されてしまう可能性や、化合物の極性によりミトコンドリアへの集積性が低い可能性がある。そのため抗酸化効果から、ミトコンドリアに対する作用を予測するのは困難であると考えられる。一方、抗酸化効果がなくても、例えばミトコンドリア自体が持つ抗酸化システムを活性化させる化合物は、ミトコンドリア機能改善成分として選択できる。
【0007】
過去の技術ではミトコンドリア機能改善成分として、細胞間で生じるミトコンドリアトランスファーを促進させるキハダエキスやオウレンエキスが(特許文献1)、ミトコンドリア動態を制御し、老化による心臓病などを予防、改善することができるMITOL発現促進剤として塩化ベルベリン(特許文献2)が開示されている。しかしながら、ミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制効果を有する成分は知られていない。
【0008】
ハニーブッシュ(Honey Bush)はマメ科シクロピア属(Cyclopia)の常緑低木で、南アフリカの南西部と南東部という限られた地域に生息する植物であり、20程度の種が知られている。近年の研究ではハニーブッシュにはイソフラボン、フラボン、桂皮酸、クメスタン、キサントンなどが含まれていることが明らかにされている(非特許文献3)。
【0009】
ハニーブッシュ由来の抽出物については抗糖尿作用(特許文献3)や、酵素であるセラミダーゼ阻害作用(特許文献4)、シワ改善作用(特許文献5)が報告されている。
一方、非特許文献4では3種類(C.Subternata, C.genistoides, C.longifolia)の未発酵ハニーブッシュを水、40%エタノール、70%エタノールで抽出したところ、3種類全ての水抽出物および、特定の種(C.genistoides)の70%エタノール抽出物に神経芽細胞腫に対するATP産生促進効果およびミトコンドリア膜電位改善効果が報告されている。本結果では水抽出物に有用性が見出されている一方で、40%エタノール抽出物やほとんどの70%抽出物では効果が低いことが示唆されている。なお、未発酵ハニーブッシュは発酵ハニーブッシュよりフェノール類の含有量が多く、抗酸化効果が高いという理由から、実験では未発酵のハニーブッシュを選択したと述べている。このような背景から、発酵ハニーブッシュ抽出物におけるミトコンドリア機能改善効果は期待されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2018-123130号公報
【文献】特開2019-178070号公報
【文献】特表2010-520914号公報
【文献】特開2017-124984号公報
【文献】KR1020130010250
【非特許文献】
【0011】
【文献】O.S.Ademowo, H.K.I.Dias, D.G.A.Burton, H.R.Griffiths, Biogerontology, 2017 Dec;18(6):859-879 Lipid (per) oxidation in mitochondria: an emerging target in the ageing process ?
【文献】柳 茂、実験医学増刊Vol.37-No12 2019, ミトコンドリアと疾患、老化
【文献】E.Joubert, M.E.Joubert, C.Bester, D.de Beer, J.H.De Lange, South African Journal of Botany, 2011 Oct;77(4):887-907 Honeybush (Cyclopia spp.): From local cottage industry to global markets - The catalytic and supporting role of research
【文献】Anastasia Agapouda, Veronika Butterweck, Matthias Hamburger, Dalene de Beer, Elizabeth Joubert, Anne Eckert, oxdative medicine and cellular longevity, 2020 Aug 7 honeybush Extracts (Cyclopia spp.) Rescue Mitochondrial Functions and Bioenergetics against Oxidative Injury
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、老化や病気の原因となるミトコンドリア機能障害に対する予防、改善効果を有する剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者が検討した結果、化合物そのものの抗酸化効果(活性酸素消去能)と、ミトコンドリア機能障害の指標となるミトコンドリア膜の過酸化脂質の形成抑制効果は一致しないことを確認した。そのため、本課題を解決するためには、ミトコンドリア膜の過酸化脂質の形成抑制効果が高いものを選択する必要がある。
【0014】
このような状況下、発明者が鋭意検討した結果、発酵ハニーブッシュ抽出物にミトコンドリア膜の過酸化脂質形成を抑制する優れた効果を見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
〔1〕発酵ハニーブッシュ抽出物を有効成分として含有するミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制剤
〔2〕発酵ハニーブッシュ抽出物を有効成分とするミトコンドリア機能改善剤
〔3〕前記発酵ハニーブッシュ抽出物が、30~70%(v/v)のエタノール又は30~70%(v/v)の1,3-ブチレングリコール抽出物である〔1〕又は〔2〕記載の剤
〔4〕ミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制及び/又はミトコンドリア機能改善を目的とする発酵ハニーブッシュ抽出物含有組成物の使用
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のミトコンドリア機能改善剤は、ミトコンドリア膜における過酸化脂質形成を抑制する。過酸化脂質形成はミトコンドリア膜のホメオスタシスを崩壊させ、ミトコンドリア機能障害を引き起こす原因となるため、本発明の発酵ハニーブッシュ抽出物を有効成分として含む剤はミトコンドリア機能障害によって引き起こされる老化や病気を予防、改善することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】各被験物質の活性酸素消去能(DPPHラジカル捕捉能)の評価
【
図2】各被験物質によるミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制効果の評価
【
図3】異なる抽出溶媒の発酵ハニーブッシュ抽出物によるミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制効果の評価
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は発酵ハニーブッシュ抽出物を有効成分とするミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制剤、ミトコンドリア機能改善剤である。
【0018】
本発明で用いるハニーブッシュ(Cyclopia属)は南アフリカで生息する常緑樹である。ハニーブッシュと呼ばれる植物には20数種が含まれており、代表的なものにCyclopia intermedia、 Cyclopia genistoides、Cyclopia subternata等が存在するが、本発明ではどの種のハニーブッシュを用いても良い。ハニーブッシュは主にお茶として親しまれており、加工の際、発酵を経たものである。ここで言う発酵とは、茶葉自体の酵素の働きによる「酸化」工程のことを指し、微生物による発酵ではない(本来の意味での発酵は、微生物を介するものであるが、お茶の場合は慣例的に酸化工程のことを発酵と呼ぶ)。本発明では、酸化工程を経ていない新鮮なもの(未醗酵)ではなく、酸化工程(発酵)を経たハニーブッシュを用いる。具体的には、ハニーブッシュ茶として一般に市場で流通しているものを用いることができる。
そのため、本願の発酵ハニーブッシュは、ハニーブッシュ(未発酵)や人為的に乳酸菌などの菌を添加して発酵させたもの(微生物発酵)ではなく、これらとは区別される。
以下、実施例において単に「ハニーブッシュ」と記載している場合は、発酵ハニーブッシュをさす。
【0019】
本発明で用いるハニーブッシュ抽出物の抽出部位は花、茎、葉の1部でも良いし、全草でも良い。抽出溶媒としては、特に限定はされないが例えば、水;メタノール、エタノール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の液状多価アルコール;及びこれらの混合溶媒を用いることができる。就中、水とエタノール(以下EtOH)もしくは1,3-ブチレングリコール(以下BG)の混合溶媒が特に好適である。
【0020】
混合溶媒を用いる場合、水とEtOHもしくはBGの比率は何でも良いが、とりわけ水に対して、EtOHもしくはBGの比率が好ましくは30~70%(v/v)、更に好ましくは40~60%(v/v)付近である。
【0021】
抽出方法は、乾燥植物1質量部に対して1~100質量部の抽出溶媒を用い、5~70℃の、好ましくは10~60℃の温度で、数時間~7日間、特に数時間~2日間抽出するのが好ましい。抽出後は、ろ過を行い、そのままの状態でも利用できるが、必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色などの精製処理を行うことも出来る。更には、凍結乾燥等をして粉末の状態で用いることも出来る。
【0022】
本発明の剤は、ミトコンドリア機能改善を目的として、機能性食品、化粧料、医薬部外品、医薬品に配合できる。配合される化粧品の種類は、化粧水、美容液、乳液、美容クリーム、日焼け止め、育毛や白髪改善化粧料などが挙げられるが、皮膚に適用されるものであれば任意の化粧料に配合することができる。また健康や美容目的のサプリメントや医薬品として、経口薬剤に配合することが出来る。本発明の剤は、その効果を損なわない範囲で、化粧品や医薬品等に用いられる任意配合成分を、必要に応じて適宜配合することができる。前記任意配合成分としては、例えば、油分、界面活性剤、粉末、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、pH調整剤、中和剤などが挙げられる。
【0023】
本発明の剤は、抽出物のまま或いは粉末の状態で、そのまま用いることも出来るが、一般的な基剤に混合して用いることも出来る。基剤に混合して用いる場合には、原則的にはミトコンドリア機能改善効果を有する成分を有効量存在すればよいことになるが、乾燥残分質量換算で、ミトコンドリア機能改善剤中の発酵ハニーブッシュ抽出物は0.0001~1.0%(w/w)の濃度範囲とすることが望ましく、特に0.001~0.1%(w/w)の範囲が最適である。
【0024】
以下、本願発明の実施例について具体的に説明するが、本願発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、特記しない限り配合量は体積パーセント濃度(v/v)で示す。
【0025】
実施例1:活性酸素消去能の確認
被験物質そのもの自体が持つ抗酸化効果すなわち活性酸素消去能と、ミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制効果の関係性を確認するため、一般的に物質自体の活性酸素消去能を測定する方法として良く用いられるDPPHラジカル捕捉能評価(人工的に作られたラジカルであるDPPH(2,2,-Diphenyl-l-picrylhydrazyl)に対する捕捉能を指標とした方法)を実施した。
【0026】
<被験物質の調製>
ハニーブッシュは、ハニーブッシュ茶として市販されているCyclopia Intermedia種の乾燥物(全草)を用いた。
乾燥原体1に対して抽出溶媒20の割合の質量比で混合した。抽出溶媒は50%BGを使用し、60℃、5時間の条件で抽出作業を行った。抽出後、溶液中から原体を取り除き、5μmのフィルターでろ過した後、さらに除菌目的のため0.2μmのフィルターでろ過した。本操作によって固形分約1%(w/w、10000ppm)のハニーブッシュ抽出物を得た。これを100倍希釈し、被験物質とした(固形分100ppm)。また、比較例として抗酸化能が高いことが良く知られているアスコルビン酸(25ppm、精製水で溶解)および没食子酸(25ppm、EtOHで溶解)を調製した。
<DPPH溶液の調製>
DPPH溶液は、以下に示す各成分を、(A):(B):(C)=1:4:3容量の割合で混合し調製した。
(A)ES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)5.52gを水100mlに溶かし、1N-NaOHでPH6.1に調製した。
(B)DPPH(1,1-ジフェニルー2-ピクリルヒドラジル)15.7mgをエタノール100mlに溶解した。
(C)精製水
<Trolox溶液の調製>
Trolox25mgをDMSO(ジメチルスルホキシド)10mlに溶解し、10mM溶液を作成した。
<DPPH試験>
被験物質10μlを96well plateの1well中に加え、次いでDPPH溶液190μlを迅速に加え混合した。30分後、各wellの吸光度を540nmで測定した。試験溶液のTrolox当量は、0.156mM、0.313mM、0.625mM、1.25mM、2.5mM、5.0mMのTrolox溶液10μlをとり、DPPH溶液190μlを加え混合し、30分後の540nmの吸光度を測定し、Trolox濃度と540nmの吸光度値の検量線を作成し、算出した。結果を
図1に示した。
【0027】
図1より、ハニーブッシュ抽出物(固形分100ppm)の活性酸素消去能は、アスコルビン酸25ppmと同程度であった。また没食子酸25ppmに関しては、ハニーブッシュ抽出物に比べ著しく高かった。
【0028】
実施例2:ミトコンドリア膜における過酸化脂質形成抑制効果の確認
<被験物質の調製>
ハニーブッシュは、ハニーブッシュ茶として市販されているCyclopia Intermedia種およびCyclopia Subternata種の乾燥物(全草)を用いた。乾燥原体1に対して抽出溶媒20の割合の質量比で混合した。抽出溶媒は50%BGを使用し、60℃、5時間の条件で抽出作業を行った。抽出後、溶液中から原体を取り除き、5μmのフィルターでろ過した後、さらに除菌目的のため0.2μmのフィルターでろ過した。本操作によって固形分約1%(w/w、10000ppm)のハニーブッシュ抽出物を得た。また、比較例として固形分0.25%(w/w、2500ppm)になるようにアスコルビン酸(精製水で溶解)および没食子酸(EtOHで溶解)を調製し、0.2μmのフィルターでろ過した。
【0029】
<細胞の培養およびミトコンドリア膜の過酸化脂質の染色>
正常成人皮膚由来の真皮線維芽細胞を1.5×104cell/mlになるように、D-MEM培地(10%のFBSを含む)に懸濁し、96 well black plate(CELLSTAR, グライナー社)に200μlずつ播種し、CO2インキュベーター内(37℃、5% CO2)で培養した。24時間培養後 1%のFBSを加えたD-MEM培地に交換し、被験物質を培地の1%になるように添加した。コントロールとして、各被験物質の溶媒を培地の1%添加した。72時間培養後 、PBS(-)で2回洗浄し、HBSS(+)に1000倍希釈したMitoPeDPP(ミトコンドリア膜脂溶性過酸化物検出試薬、同仁化学研究所)およびHoechst33342(核染色試薬、同仁化学研究所)による染色を20分間CO2インキュベーター内で行った。その後、PBS(-)で細胞を3回洗浄し、HBSS (+)に置換して蛍光顕微鏡(キーエンスBZ-700)にて撮影した(20倍対物レンズを使用、緑:ミトコンドリア膜の過酸化脂質、青:核)
【0030】
<画像解析>
得られた緑の画像については、ImageJ(NIH)にて一定の閾値を設定し2値化することでミトコンドリア膜の過酸化脂質の蛍光強度を算出した。また、同様の方法で、青の画像に含まれる核の個数を算出した後、取得画像中の蛍光強度を核個数で割ることによって、1細胞あたりの蛍光強度、すなわち1細胞あたりのミトコンドリア膜の過酸化脂質量を計算した。被験物質の抽出溶媒で処置した細胞のミトコンドリア膜の過酸化脂質量(コントロール)、および被験物質処置した細胞のミトコンドリア膜の過酸化脂質量を数1に代入して計算することにより、ミトコンドリア膜の過酸化脂質量を算出した。なお、この算出式において、ミトコンドリア膜の過酸化脂質量が1未満であり、より値が小さいほど過酸化脂質形成抑制能の高い物質であると判定することができる。値が0~0.5である物質は高いミトコンドリア膜の過酸化脂質抑制効果を持つと判断することができる。
【0031】
【0032】
図2にミトコンドリア膜の過酸化脂質量の測定結果を示した。
コントロール(被験物質の溶媒を添加した細胞)に比べて、ハニーブッシュ抽出物(Intermedia種、Subternata種)を培地に添加した細胞では(終濃度が固形分100ppm)、ミトコンドリア膜の過酸化脂質量が0.2程度まで減少していた。この結果よりハニーブッシュ抽出物に高いミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制効果を確認した。一方、比較例として使用したアスコルビン酸(25ppm)および没食子酸(25ppm)はハニーブッシュ抽出物に比べてミトコンドリア膜の過酸化脂質抑制効果は低かった。実施例1ではアスコルビン酸(25ppmと)とハニーブッシュ抽出物(100ppm)の活性酸素消去能は同程度であり、没食子酸(25ppm)は著しく高いことが確認されていた。これらの結果を合わせて考えると、物質そのものが持つ活性酸素消去能からミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制効果を予測することは困難であることが示された。
【0033】
実施例3:異なる抽出溶媒のハニーブッシュ抽出物によるミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制効果の確認
<被験物質の調製>
ハニーブッシュは、ハニーブッシュ茶として市販されているCyclopia Intermedia種の乾燥物(全草)を用いた。
乾燥原体1に対して抽出溶媒20の割合の質量比で混合した。抽出溶媒は水、20%EtOH、40%EtOH、60%EtOH、80%EtOH、100%EtOHを使用し、水、20%EtOH、40%EtOH、60%EtOH、80%EtOHは60℃、5時間の条件で抽出作業を行い、100%EtOHは常温で2日間抽出作業を行った。抽出後、溶液中から原体を取り除き、5μmのフィルターでろ過した後、さらに除菌目的のため0.2μmのフィルターでろ過した。なお、細胞の培養は〔0029〕と基本的に同様であるが、被験物質は培地の0.5%になるように添加した。ミトコンドリア膜の過酸化脂質の染色および画像解析は前述と同様の方法で行った。
【0034】
図3にミトコンドリア膜の過酸化脂質量の測定結果を示した。
図3より、どの抽出溶媒でもミトコンドリア膜の過酸化脂質形成抑制効果が確認されたが、とりわけ40~60%EtOH抽出物において高い効果が確認された。
【産業の利用可能性】
【0035】
ミトコンドリア膜における過酸化脂質の形成はミトコンドリア膜のホメオスタシスを崩壊させ、ミトコンドリアの機能障害を引き起こす原因となる。ミトコンドリア機能障害は明らかな病気ではなくても身体の不調等にも関与していることが知られており、本発明の発酵ハニーブッシュ抽出物を有効成分として含む経口および外用剤はミトコンドリア機能障害改善剤として使用することができる。