(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】保持器、および、保持器付き針状ころ
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20250311BHJP
F16C 19/46 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/46
(21)【出願番号】P 2021052140
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一柳 彰汰
(72)【発明者】
【氏名】風間 貞経
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-068677(JP,A)
【文献】特開2011-214702(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0229067(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の環状部と、軸方向に延びて前記一対の環状部を連結する複数の柱部と、周方向に隣り合う前記柱部の間に形成され、針状ころが収容されるポケットとを備えた保持器であって、
前記針状ころは、軸方向両端面を構成する一対の平坦面と、前記平坦面に交差し、半径をr1とする円弧状に面取りされた角部とを有しており、
前記ポケットの4つの隅部に、前記ポケットの軸方向範囲内で設けられ、半径を前記r1よりも大きいr2とする円弧状のぬすみ部と、
前記ポケットに面する前記環状部の内側面に設けられ、前記針状ころの前記平坦面に接する凸部とを備え、
前記環状部の内側面を基準とした前記凸部の突出
高さは、
前記半径r2から前記半径r1を差し引いた半径差が大きい程、高くなるように設計されている、保持器。
【請求項2】
前記凸部は、球状に形成されている、請求項1に記載の保持器。
【請求項3】
前記凸部は、前記針状ころの前記平坦面の中心部に接するように設けられている、請求項1または2に記載の保持器。
【請求項4】
前記ポケットに面する前記柱部の第1ポケット面および第2ポケット面の各々には、内径側ころ止め部および外径側ころ止め部が設けられており、
前記第1ポケット面の前記外径側ころ止め部の軸方向位置と、前記第2ポケット面の前記外径側ころ止め部の軸方向位置とが、互いに異なっている、請求項1~3のいずれかに記載の保持器。
【請求項5】
前記第1ポケット面の前記外径側ころ止め部は、軸方向中央部に設けられた一つの突起により構成され、前記第2ポケット面の前記外径側ころ止め部は、軸方向両端部にそれぞれ設けられた二つの突起により構成されている、請求項4に記載の保持器。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の保持器と、
前記保持器の前記ポケットに収容された前記針状ころとを備えた、保持器付き針状ころ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器および保持器付き針状ころに関し、特に、遊星減速機構の遊星歯車に使用される保持器および保持器付き針状ころに関する。
【背景技術】
【0002】
保持器ところとの摺接面の潤滑性を向上させるために、保持器のポケット内での通油性を向上させる技術が従来から提案されている。たとえば特開2004-144244号公報(特許文献1)では、ポケットの円周方向内壁面に、その内周から外周に至る凹溝を軸方向に沿って所定間隔で形成し、かつ、ポケットの軸方向内壁面に、ころの端面の中心部と接触する突部を形成した保持器が開示されている。
【0003】
また、特開2011-214702号公報(特許文献2)では、ポケットの周方向一側面のころ案内面部の軸方向位置と、他側面のころ案内面部の軸方向位置とを互いに異ならせた保持器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-144244号公報
【文献】特開2011-214702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、損失トルクを低減するために、潤滑油の低粘度や少量化が進み、軸受にとっては益々厳しい使用環境になっており、良好な潤滑性をもった軸受が必要である。また、遊星減速機構に使用される遊星歯車用の軸受(プラネタリー軸受)の場合、自転しながら公転するため、保持器に遠心力がかかる。そのため、特に保持器の強度が必要である。
【0006】
遊星歯車に用いられる針状ころ軸受の保持器のポケット形状を、たとえば特許文献2に開示されたような形状(隅部にぬすみ部がない形状)とすると、ポケットの隅部に最大応力が発生することが解析により判明した。そのため、遊星歯車に適用するためには、ポケット隅部への応力緩和が必要である。
【0007】
特許文献1では、潤滑性向上のためにポケットの隅部に凹溝が形成されているが、凹溝はポケットの軸方向範囲を超えて形成されている。この場合、凹溝の部分は保持器の環状部の幅が狭くなるため、環状部の強度不足が懸念される。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、遊星歯車に最適な保持器および保持器付き針状ころを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面に従う保持器は、一対の環状部と、軸方向に延びて一対の環状部を連結する複数の柱部と、周方向に隣り合う柱部の間に形成され、針状ころが収容されるポケットとを備えている。針状ころは、軸方向両端面を構成する一対の平坦面と、平坦面に交差し、半径をr1とする円弧状に面取りされた角部とを有している。保持器は、ポケットの4つの隅部に、ポケットの軸方向範囲内で設けられ、半径をr1よりも大きいr2とする円弧状のぬすみ部と、ポケットに面する環状部の内側面に設けられ、針状ころの平坦面に接する凸部とを備えており、凸部の突出寸法は、半径r1と半径r2との差に応じて定められている。
【0010】
好ましくは、凸部は、球状に形成されている。これにより、針状ころの平坦面との接触面積が少なくなる(点接触する)ので、針状ころの回転を円滑化できる。
【0011】
また、凸部は、針状ころの平坦面の中心部に接するように設けられていることが望ましい。これにより、針状ころの平坦面と凸部との摩擦による発熱を抑制することができる。
【0012】
ポケットに面する柱部の第1ポケット面および第2ポケット面の各々には、内径側ころ止め部および外径側ころ止め部が設けられている。第1ポケット面の外径側ころ止め部の軸方向位置と、第2ポケット面の外径側ころ止め部の軸方向位置とが、互いに異なっていることが望ましい。これにより、外径側ころ止め部による油膜切れを抑制することができる。
【0013】
一つの実施形態として、第1ポケット面の外径側ころ止め部は、軸方向中央部に設けられた一つの突起により構成され、第2ポケット面の外径側ころ止め部は、軸方向両端部にそれぞれ設けられた二つの突起により構成されている。
【0014】
本発明の他の局面に従う保持器付き針状ころは、上記した保持器と、保持器のポケットに収容された針状ころとを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環状部の強度を確保した状態でポケットの隅部への応力集中を抑制できる。したがって、本発明によれば、遊星歯車に最適な保持器および保持器付き針状ころを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る保持器付き針状ころが用いられる遊星減速機構を模式的に示す図であって、(A)は遊星減速機構の概略図であり、(B)は遊星歯車の断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る保持器を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る保持器を示す側面図である。
【
図4】
図3のIV-IV方向から見た保持器の部分断面図である。
【
図5】
図3のV-V方向から見た保持器の部分断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る保持器におけるポケットの軸方向端部を拡大して示した図である。
【
図7】(A)および(B)は、ぬすみ部と凸部との関係を模式的に示す図である。
【
図8】凸部がない場合の保持器におけるポケットの軸方向端部を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
(遊星減速機構の概要)
はじめに、
図1(A),(B)を参照して、本実施の形態に係る保持器付き針状ころ1が用いられる遊星減速機構100の概要について説明する。
図1(A)を参照して、遊星減速機構100は、内歯を有し外周を取り囲む内歯歯車(リングギヤ)101と、外歯を有し内歯歯車101の中心に配置される太陽歯車(サンギヤ)102と、外歯を有し内歯歯車101と太陽歯車102の間に配置される複数の遊星歯車(ピニオンギア)103とを備える。
【0019】
各遊星歯車103は、1個の内歯歯車101および1個の太陽歯車102と噛合する。各遊星歯車103の中心孔にはシャフト状のピニオン軸105が通される。中心孔の孔壁面は、遊星歯車103の内周面を構成する。遊星歯車103の内周面とピニオン軸105の外周面で区画される環状空間には、保持器付き針状ころ1が配置される。
【0020】
図1(B)を特に参照して、各ピニオン軸105の端部は、共通するキャリア104にワッシャ106を介して固定される。これにより複数の遊星歯車103は、1個のキャリア104に支持される。また各遊星歯車103は、保持器付き針状ころ1によって回転自在に支持される。
【0021】
例えば内歯歯車101が回転を停止したまま太陽歯車102が
図1(A)に矢で示すように時計回りに回転する場合、各遊星歯車103は反時計回りに自転するとともに、太陽歯車102の外周を時計回りに公転し、キャリアが時計回りに回転する。
【0022】
遊星減速機構100は、例えば、多段化が進む自動車の自動変速機などに用いられる。遊星減速機構100における遊星歯車103を公転および自転可能に支持するために、保持器付き針状ころ1が使用されている。
【0023】
保持器付き針状ころ1は、ピニオン軸105の外周面を内側軌道面とし、遊星歯車103の内周面を外側軌道面としている。保持器付き針状ころ1は、たとえばピニオン軸105に設けられた潤滑油路を介して径方向内側から径方向外側に向かって供給される潤滑油により潤滑される。
【0024】
(保持器付き針状ころの構成)
図1(B)に示されるように、保持器付き針状ころ1は、複数の針状ころ2と、複数の針状ころ2を回転自在に保持する保持器3とを備えている。針状ころ2の材料は典型的には高炭素クロム軸受鋼である。保持器3は樹脂製であり、特に、強度向上の観点から、ポリアミド9T樹脂および繊維状充填材を含有した材料で形成されていることが望ましい。
【0025】
本実施の形態における針状ころ2の端面形状は平面である。つまり、針状ころ2は、軸方向両端に位置する一対の平坦面21を有している。このような針状ころ2は、端面形状が丸面(球面形状)の針状ころよりもストレート部(軸部)を長くできる(有効長さが長い)ため、接触面圧が低くなり、遊星歯車103に適している。
【0026】
保持器3の構成例については、
図2および
図3をさらに参照して説明する。
図2および
図3はそれぞれ、本実施の形態に係る保持器3を示す斜視図および側面図である。なお、以下の説明では、保持器3の中心軸線C1に沿った方向を「軸方向」、中心軸線C1と直交する方向を「径方向」、中心軸線C1周りの円周方向を「周方向」という。
【0027】
保持器3は、針状ころ2を保持する複数のポケット40を有する。保持器3は、ケージ型であって、ポケット40の軸方向両端に位置する一対の環状部30と、一対の環状部30を互いに連結する複数の柱部31とを有する。柱部31は、保持器3の軸方向に沿って延び、その両端部32,32で一対の環状部30と結合する。柱部31は一定の厚みで軸方向に沿って直線状に延びている。柱部31を径方向に沿って切断した場合の柱部31の断面形状は、内径側よりも外径側のほうが大きい台形形状である。
【0028】
ポケット40は、周方向に隣り合う柱部31,31間に区画されている。具体的には、ポケット40は、隣り合う柱部31,31にそれぞれ形成されて周方向に対向するポケット面33a,33bと、1対の環状部30にそれぞれ形成されて軸方向に対向する内側端面34a,34bと、ポケット面33a,33bと内側端面34a,34bとの交差部に位置する4つの隅部35とによって囲まれている。保持器3の外径側からみてポケット40の形状は略長方形であるが、後述するように、4つの隅部35にはぬすみ部61が設けられている。
【0029】
各ポケット面33a,33bは、柱部31の一方の端部32から他方の端部32まで延び、針状ころ2の転動面(ストレート部の外周面)と向き合う。各内側端面34a,34bは、針状ころ2の両端面である平坦面21(
図1(B))と向き合う。対向する内側端面34a,34bの間隔L1は針状ころ2の全長よりも大きく、対向するポケット面33a,33bの間隔L2は針状ころ2の直径よりも大きい。なお、間隔L1は、ポケット40の軸方向長さ(長手方向の間隔)に相当し、間隔L2は、ポケット40の短手方向(保持器3の周方向)の間隔に相当する。
【0030】
(ころ止め部の構成および配置例)
保持器3のポケット面33a,33bには、針状ころ2の径方向移動を規制するころ止め部51~54が設けられている。ころ止め部51~54の具体的な構成および配置例については、
図4および
図5をさらに参照して説明する。
図4は、
図3のIV-IV方向から見た保持器3の部分断面図であり、一方のポケット面33aを示す。
図5は、
図3のV-V方向から見た保持器3の部分断面図であり、他方のポケット面33bを示す。
【0031】
図4に示されるように、一方のポケット面(以下「第1ポケット面」という)33aの内径側および外径側に、ころ止め部51,52がそれぞれ設けられている。内径側のころ止め部51は、保持器3の軸方向中心線C2を中心として左右対称に配置された2つの突起51a,51bにより構成されている。突起51a,51bは、第1ポケット面33aの軸方向両端部にそれぞれ配置されている。外径側のころ止め部52は、軸方向中心線C2上に配置された1つの突起52aにより構成されている。
【0032】
内径側の突起51a,51bと外径側の突起52aとは、軸方向位置が重ならないように配置されている。内径側のころ止め部51の軸方向長さ、すなわち、2つの突起51a,51bの軸方向寸法L11を足し合わせた長さ(寸法L11×2)は、ポケット40の軸方向長さL1の25%以上40%以下であることが望ましい。また、外径側のころ止め部52の軸方向長さ、すなわち、突起52aの軸方向寸法L12は、ポケット40の軸方向長さL1の20%以上30%以下であることが望ましい。
【0033】
図5に示されるように、他方のポケット面(以下「第2ポケット面」という)33bの内径側および外径側に、ころ止め部53,54がそれぞれ設けられている。内径側のころ止め部53は、軸方向中心線C2を中心として左右対称に配置された2つの突起53a,53bにより構成されている。突起53a,53bは、第2ポケット面33bの軸方向両端部にそれぞれ配置されている。外径側のころ止め部54もまた、軸方向中心線C2を中心として左右対称に配置された2つの突起54a,54bにより構成されている。突起54a,54bも同様に、第2ポケット面33bの軸方向両端部にそれぞれ配置されている。
【0034】
軸方向位置に関し、内径側の突起53a,53bと外径側の突起54a,54bとが互いに重なるように配置されている。内径側の各突起53a,53bの軸方向寸法L21は、外径側の各突起54a,54bの軸方向寸法L22よりも小さくてもよいが、ころ止め部53,54としての軸方向長さは、上記と同様であることが望ましい。つまり、内径側のころ止め部53の軸方向長さ、すなわち、2つの突起53a,53bの軸方向寸法L21を足し合わせた長さ(寸法L21×2)は、ポケット40の軸方向長さL1の25%以上40%以下であることが望ましく、外径側のころ止め部54の軸方向長さ、すなわち、2つの突起54a,54bの軸方向寸法L22を足し合わせた長さ(寸法L22×2)は、ポケット40の軸方向長さL1の20%以上30%以下であることが望ましい。
【0035】
なお、上記の数値範囲から分かるように、保持器付きころ1においては、内径側のころ止め部51,53の軸方向長さの方が、外径側のころ止め部52,54の軸方向長さよりも長くてもよい。これにより、針状ころ2の内径側への脱落をより確実に防止できる。
【0036】
図4および
図5を比較して分かるように、第1ポケット面33aの内径側の突起51a,51bと、第2ポケット面33bの内径側の突起53a,53bとは、互いに対面するように配置されている。つまり、突起51a,51bの軸方向位置と突起53a,53bの軸方向位置とが完全に重なっている。
【0037】
これに対し、第1ポケット面33aの外径側の突起52aと、第2ポケット面33bの外径側の突起54a,54bとは、互いに対面していない。つまり、第1ポケット面33aの外径側のころ止め部52(突起52a)の軸方向位置と、第2ポケット面33bの外径側のころ止め部54(突起54a,54b)の軸方向位置とが、重なることなく互いに異なっている。
【0038】
なお、本実施の形態では、内径側のころ止め部51,53の構成を同一の構成としたが、このような例に限定されず、内径側においても外径側と同様に、ころ止め部51,53が有する突起の個数を異ならせたり、突起の軸方向位置を互いに異ならせたりしてもよい。
【0039】
また、外径側のころ止め部52,54が有する突起の個数が異なっていること(一方が1個、他方が2個)としたが、互いの軸方向位置が異なっていれば、同じ個数であってもよいし、その個数は限定されない。
【0040】
(ポケットの端部形状)
図2に示されるように、本実施の形態に係る保持器3には、ポケット40の4つの隅部35に比較的大きいぬすみ部61が設けられている。また、ポケット40の内側端面34a,34bには、凸部62が設けられている。
【0041】
図6は、保持器3のポケット40の軸方向端部を拡大して示した図である。
図6では、ポケット40に収容された状態の針状ころ2の軸方向端部が図示されている。
【0042】
本実施の形態の針状ころ2は、軸方向両端面を構成する一対の平坦面21と、平坦面21に交差し、円弧状に面取りされた角部22とを有している。角部22の面取りRは、たとえば0.1~0.3mmであり、一例として0.2mmである。角部22の面取りR(円弧の半径)を以下「半径r1」と記す。角部22の円弧の中心は、平坦面21およびストレート部の外周面20から均等の位置である。
【0043】
ぬすみ部61は、半径をr2とする円弧状に形成されている。ぬすみ部61により、柱部31の端部32が厚み方向に沿って同一形状で切り欠かれている。ぬすみ部61の半径r2は、針状ころ2の面取りR(半径r1)よりも大きい。ぬすみ部61は、ポケット40の軸方向範囲(
図3に示した軸方向長さL1の範囲)内において設けられている。つまり、環状部30側に食み出すことなく設けられている。そのため、環状部30のうちポケット40に隣接する部分の幅は、規定寸法W以上となっている。
【0044】
ここで、
図8を参照して、ポケット40の内側端面34b(および34a)に凸部62が設けられていない場合、ハッチングで模式的に示すように、針状ころ2の角部22がぬすみ部61に干渉する。これに対し、本実施の形態では、ポケット40の内側端面34b(および34a)に凸部62が設けられているため、針状ころ2の角部22がぬすみ部61に干渉しない。言い換えると、針状ころ2の角部22がぬすみ部61に干渉しないように、凸部62が設けられている。
【0045】
凸部62は、内側端面34bの中心部に設けられている。凸部62は、内側端面34bからポケット40の軸方向中心(中心線C2側)に向かって球状に突出している。この場合、径方向外側から見て、ポケット40の周方向中心線C3上に、凸部62の先端部(球の頂点部)が位置する。これにより、凸部62の先端部が、針状ころ2の平坦面21の中心部に接する。針状ころ2の平坦面21の中心部は外周部よりも周速が小さいので、針状ころ2の平坦面21と凸部62との摩擦による発熱を抑えることができる。
【0046】
凸部62の突出高さHは、ぬすみ部61の大きさに応じて定められている。つまり、針状ころ2の角部22の面取りR(半径r1)とぬすみ部61の円弧半径r2との差(以下、「半径差」という)に応じて定められている。
【0047】
半径差(r2-r1)と凸部62の突出高さHとの関係を以下の表1に示す。なお、本実施の形態における突出高さHは、ポケット40の内側端面34b(34a)から凸部62の先端(球の頂点)までの軸方向寸法を表わす。
【0048】
【0049】
表1では、半径差が0の場合を比較例として記載している。この場合、ぬすみ部61の半径r2が針状ころ2の角部22の面取りRと等しい形態であり、
図8に示したような干渉は生じない。そのため、設計的には成立するものの、隅部35への応力集中の緩和という観点からすれば、望ましくない。
【0050】
本実施の形態では、表1の実施例1~4に示すように、半径差が0よりも大きくなるように、すなわちr2>r1となるように定められている。実施例1の半径差は、針状ころ2の面取りRの1/2に相当し、実施例2の半径差は、針状ころ2の面取りRと等しい。実施例3の半径差は、針状ころ2の面取りRの3/2に相当し、実施例4の半径差は、針状ころ2の面取りRの2倍である。
【0051】
凸部62の突出高さHは、半径差が大きい程、高くなるように設計される。
図7(A)には、実施例1の場合のぬすみ部61aと凸部62bとの関係が模式的に示され、
図7(B)には、実施例4の場合のぬすみ部61aと凸部62bとの関係が模式的に示されている。
【0052】
実施例1~4に示されるように、半径差は0.1~0.4mmで使用されることが想定される。半径差を針状ころ2の面取りRとの関係で表すと、半径差はたとえば針状ころ2の面取りRの1/2~2倍の範囲内であってもよい。なお、凸部62の形状は図示したような球状であり、凸部62の先端部は丸面であることが望ましいものの、凸部62の先端部は平坦面であってもよい。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態の保持器3は、ポケット40の4つの隅部35に設けられたぬすみ部61と、環状部30の内側面である内側端面34a,34bに設けられた凸部62とを備えている。そのため、針状ころ2と環状部30との間に径方向に貫通する隙間(潤滑油の流路)を確保できるので、ポケット40内の通油性を向上させることができる。
【0054】
また、ポケット40の第1および第2ポケット面33a,33bの外径側のころ止め部52,54が、互いに対面しないように、軸方向位置をずらして設けられ、本実施の形態では、第1ポケット面3aの外径側のころ止め部52が、軸方向中央部に設けられている。したがって、外径側のころ止め部52においては、ピーリングが発生しやすい針状ころ2のストレート部と角部22の面取りR(r1)とのつなぎ目周辺における油膜切れを抑制することができ、針状ころ2の外周面の潤滑性能を向上させることができる。
【0055】
また、ぬすみ部61の円弧半径r2を針状ころ2の角部22の面取りRよりも大きくし、かつ、針状ころ2の角部22とポケット40の隅部35とが干渉しないように(隙間が生じるように)、半径差に応じて凸部62の突出寸法が定められている。したがって、使用状態においてポケット40の隅部35への応力集中を緩和することができる。
【0056】
さらに、ぬすみ部61は、ポケットの軸方向範囲内で(のみ)設けられているため、保持器3の環状部30の強度を確保することができる。したがって、本実施の形態の保持器付きころ1は、自転しながら公転する遊星歯車103に好適である。
【0057】
なお、本実施の形態の保持器付き針状ころ1を、保持器3の中心孔に挿通されて針状ころ2の内側軌道面を構成する軸(
図1のピニオン軸105)とともに、遊星歯車103用の針状ころ軸受として提供することもできる。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 保持器付き針状ころ、2 針状ころ、3 保持器、21 平坦面、22 角部、30 環状部、31 柱部、33a,33b ポケット面、34a,34b 内側端面、35 隅部、40 ポケット、51,52,53,54 ころ止め部、51a,51b,52a,53a,53b,54a,54b 突起、61,61a,61b ぬすみ部、62,62a,62b 凸部、100 遊星減速機構、101 内歯歯車、102 太陽歯車、103 遊星歯車、105 ピニオン軸、r1,r2 半径。