(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】固体電解質層、およびそれを用いた全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20250311BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250311BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20250311BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0585
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2021556116
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042034
(87)【国際公開番号】W WO2021095757
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2019204386
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 知子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 長
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓子
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-311708(JP,A)
【文献】特開2001-126740(JP,A)
【文献】特開2007-227362(JP,A)
【文献】特開2018-166020(JP,A)
【文献】特開2014-192041(JP,A)
【文献】特開2016-207540(JP,A)
【文献】特開2012-209218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05 - H01M10/0587
H01M 10/36 - 10/39
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質と、炭素とを有する固体電解質層であって、
前記固体電解質層の断面における、前記炭素の区画法による分散度(CV値)が0より大きく
0.1以下であ
り、
前記固体電解質層における、前記炭素の含有量が0.01~0.8体積%であり、
固体電解質層。
【請求項2】
アルゴンレーザーラマンスペクトルにおいて、1580cm
-1近傍に存在する黒鉛構造に由来するGバンドピークの強度をIG、1350cm
-1近傍に存在する黒鉛構造の乱れに由来するDバンドピークの強度をIDとし、これらの比を黒鉛化度(IG/ID)とした際に、前記炭素のIG/ID値が、0.0以上4.0以下である、請求項
1に記載の固体電解質層。
【請求項3】
前記
固体電解質層に含まれる炭素粒子の平均粒径は、0.01μm以上1μm以下である、請求項1
又は2に記載の固体電解質層。
【請求項4】
前記
固体電解質層に含まれる炭素粒子は、ダイヤモンドまたは不定形炭素粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体電解質層。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の固体電解質層を有する、全固体電池。
【請求項6】
正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間にある固体電解質層と、前記正極層及び前記負極層のそれぞれに並んでその外周に配置するマージン層と、を備える全固体電池であって、
前記マージン層は、固体電解質と、炭素と、を有し、
前記マージン層の断面における前記炭素の区画法による分散度(CV値)が0より大きく1未満である、請求項
5に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層、およびそれを用いた全固体電池に関する。
本願は、2019年11月12日に、日本に出願された特願2019-204386号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対しては、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。現在、汎用的に使用されているリチウムイオン二次電池は、イオンを移動させるための媒体として有機溶媒等の電解質(電解液)が従来から使用されている。しかし、従来の構成のリチウムイオン二次電池では、有機溶媒等の可燃性物質を含む電解液を用いられており、電解液が漏出しないように注意する必要がある。そのため、より安全性の高いリチウムイオン二次電池が求められている。
【0003】
そこで、リチウムイオン二次電池の安全性を高めるための一つの対策として、電解液に代えて、固体電解質を電解質として用いることが提案されている。さらに、電解質として固体電解質を用いるとともに、その他の構成要素もすべて固体で構成されている全固体電池の開発が進められている。
【0004】
しかしながら、リチウムイオン二次電池の構成要素がすべて固体で一体化している場合、充放電時に正極層、電解質層、負極層の各層が異なる比率で膨張/収縮すると、隣接する層に引張/圧縮応力がかかり、クラックが生じやすい。内部クラックは抵抗を増大させ、充放電に寄与できないデッドエリアを増大させるため、電池容量の低下につながる。
【0005】
特許文献1には、配向焼結体で構成される厚さ30μm以上の配向正極板を備える、全固体リチウム電池が記載されている。特許文献1では、クラック発生などによる電気的な短絡や抵抗増加を防止するために、配向焼結体は層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が配向正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向させている。
【0006】
特許文献2には、リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質膜の厚みの標準偏差が5.0μm以下である、固体電解質膜を有する全固体型リチウムイオン電池が記載されている。特許文献2では、クラックを抑制し、電池特性に優れる全固体型リチウムイオン電池を作製するために、固体電解質膜の厚みの均一性を制御すると記載されている。
【0007】
特許文献3には、全固体電池の樹脂の除去を促進させるために、固体電解質層の未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませて未焼成体を焼成する方法が記載されている。一般的な全固体電池の製造方法として、活物質と固体電解質とを、それぞれ、バインダーおよび可塑剤を含む溶液中に分散させて、スラリーを作製し、これらのスラリーを成形して得られた活物質グリーンシートと固体電解質グリーンシートとを積層し、バインダーおよび可塑剤を熱分解させて除去した後、焼成することによって、全固体電池の積層体を得る方法がある。特許文献3では、焼成によって得られた全固体電池の積層体においては、バインダーおよび可塑剤等の樹脂が十分に除去されていない場合に、樹脂の残留物としての炭素または炭化物から電子伝導性が生じ、固体電解質層を経由して正極層と負極層との間で内部短絡を引き起こす恐れがある、とされている。これを防止するために、特許文献3では、少なくとも固体電解質層の未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませて未焼成体を焼成している。
【0008】
特許文献3に記載されているように、従来、全固体電池を構成する固体電解質層内の炭素または炭化物は、極力少ない方が内部短絡を防止するために好ましいとされている。しかしながら、内部短絡するには導電パスが形成されていることが条件であり、単に残留炭素が存在しているというだけでは必ずしも内部短絡するとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2018/025594号
【文献】特開2017-157362号公報
【文献】特開2015-60737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1のように正極を配向させて膨張率を低下させたとしても、充放電により膨張収縮するのは正極だけにとどまらず、リチウムイオンを授受/放出する負極も大きく膨張収縮すると考えられる。正極及び負極の膨張収縮は、正極及び負極に挟まれた電解質層に応力を与える。応力が強くはたらくと、全固体電池にはクラックが発生および進行する。クラックはイオン電導を妨げるため、抵抗が増大し、電池容量が低下する。そのため、特許文献1に記載された発明では、サイクル特性が劣化してしまう。また、特許文献2のように膨張収縮を均一にしたとしても、正極および負極が膨張/収縮し、隣接する固体電解質層に引張/圧縮応力がかかることには変わりがない。従って、特許文献1~2に記載されている技術では、全固体電池の内部クラックの発生を十分に抑制することは困難であると推測される。そのため、特許文献2に記載された発明でも、サイクル特性は劣化してしまう。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、サイクル特性に優れた固体電解質層、およびそれを用いた全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様に係る全固体電池の固体電解質層は、固体電解質と、炭素とを有する層であって、固体電解質層の断面における、炭素の区画法による分散度(CV値)が0より大きく1未満である固体電解質層である。
【0013】
さらに、上記態様に係る固体電解質層における、炭素の含有量は、0.01~1.8体積%であってもよい。
【0014】
さらに、上記態様に係る固体電解質層における、炭素を、アルゴンレーザーラマンスペクトルにて測定したとき、1580cm-1近傍に存在する黒鉛構造に由来するGバンドピークの強度をIG、1350cm-1近傍に存在する黒鉛構造の乱れに由来するDバンドピークの強度をIDとし、これらの比を黒鉛化度(IG/ID)とした際に、IG/ID値が0.0以上4.0以下であってもよい。
【0015】
さらに、上記態様に係る固体電解質層における前記炭素粒子の平均粒径は、0.01μm以上1μm以下であってもよい。
【0016】
さらに、上記態様に係る固体電解質層における前記炭素粒子は、ダイヤモンドまたは不定形炭素粒子であってもよい。
【0017】
本発明の第二の態様に係る全固体電池は、上記態様に係る固体電解質層を有する。
【0018】
上記態様に係る全固体電池は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間にある固体電解質層と、前記正極層及び前記負極層のそれぞれに並んでその外周に配置するマージン層と、を備える全固体電池であって、前記マージン層は、固体電解質と、炭素と、を有し、前記マージン層の断面における前記炭素の区画法による分散度(CV値)が0より大きく1未満であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、サイクル特性に優れる固体電解質層、およびそれを用いた全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る全固体電池の構成を表すイメージ断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る固体電解質層における、固体電解質と炭素のイメージ図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る固体電解質層のSEM画像(反射電子像)である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る固体電解質層のSEM画像(反射電子像)を二値化した画像である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る固体電解質層の二値化した画像の一部を、正方形に9分割した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の固体電解質層、およびそれを用いた全固体電池について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、図面に記載の各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0022】
まず方向について定義する。後述する正極層3及び負極層4が積層されている方向をz方向とする。また後述する正極層3及び負極層4が広がる面内方向のうち一方向をx方向として、x方向と直交する方向をy方向とする。
【0023】
(全固体電池)
まず初めに、本実施形態に係る全固体電池について説明する。
【0024】
図1に要部を拡大して示すように、全固体電池1は、積層体20と積層体20の積層方向両側に位置する外層(カバー層)6を有する。積層体20は、固体電解質層2を介して、正極層3と負極層4とが交互に積層されている。正極層3は、第1電極層の一例であり、負極層4は、第2電極層の一例である。第1電極層と第2電極層は、いずれか一方が正極として機能し、他方が負極として機能する。正極層3は、正極活物質層3aと正極集電体層3bとを有する。負極層4は、負極活物質層4aと負極集電体層4bとを有する。正極層3および負極層4の各々同一平面上には、マージン層5が形成されている。積層体20は、6面体であり、積層方向に対して平行な面として形成された2つの端面(第1端面21、第2端面22)および2つの側面(第1側面、第2側面)と、積層方向と直交する面として形成された上面25及び下面26を有する。第1端面21には正極集電体層31が露出し、第2端面22には負極集電体層42が露出している。第1側面は、上面25を上にして第1端面21側から見て右側の側面であり、第2側面は、上面25を上にして第1端面21側から見て左側の側面である。また、第1端面21および第2端面22は対向し、第1側面および第2側面は対向している。
【0025】
正極集電体層3bに電気的に接続する正極外部電極7が積層体20の第1端面21側を覆うように付設されている。なお、この電気的な接続は、正極外部電極7が、積層体20の第1端面21、に露出した正極30の正極集電体層31と接続することによってなされている。
【0026】
負極集電体層4bに電気的に接続する負極外部電極8が積層体20の第2端面22側を覆うように付設されている。なお、この電気的な接続は、負極外部電極70が、積層体20の第2端面22、に露出した負極40の負極集電体層41と接続することによってなされている。
【0027】
なお、以降の明細書中の説明として、正極活物質および負極活物質のいずれか一方または両方を総称として活物質と呼び、正極活物質層3aおよび負極活物質層4aのいずれか一方または両方を総称して活物質層と呼び、正極集電体層3bおよび負極集電体層4bのいずれか一方または両方を総称して集電体層と呼び、正極層3および負極層4のいずれか一方または両方を総称して電極層と呼び、第1端面21および第2端面22を総称して端面と呼び、第1側面および第2側面を総称して側面と呼び、正極外部電極7および負極外部電極8を総称して外部電極と呼ぶことがある。
【0028】
本実施形態の全固体電池1のマージン層5は、固体電解質層2と正極層3との段差、ならびに固体電解質層2と負極層4との段差を解消するために、その段差が大きい場合に設けることが好ましい。マージン層5は、正極層3および負極層4の同一平面状に設けられることが好ましい。マージン層5は、後述する固体電解質層2が含む固体電解質と同じであっても異なっていてもよい。マージン層5の存在により、固体電解質層2と正極層3ならびに負極層4との段差が解消されるため、固体電解質層2と電極層との緻密性が高くなり、全固体電池の焼成による層間剥離(デラミネーション)や反りが生じにくくなる。固体電解質層2の主面において、正極層3ならびに負極層4以外の領域に、正極層3または負極層4と略同等の高さで(すなわち、正極層3および負極層4のそれぞれに並んでその外周に配置するように)形成される。
【0029】
(固体電解質層)
本実施形態に係る固体電解質層2は固体電解質と、炭素とを有し、固体電解質層の断面における、炭素の区画法による分散度(CV値)が0より大きく1未満である。
【0030】
係る構成によれば、後述する粒子分散強化によって固体電解質層2は層全体として強度が優れている。そのため、充放電反応に伴う正極活物質および負極活物質の体積膨張収縮の応力が加わっても、固体電解質層にはクラックが発生し難い。この結果、優れたサイクル特性が得られる。
【0031】
また、炭素は機械的強度に優れている他、豊富に存在する元素で比較的安価であること、炭素単体ではほぼ無害であることも、固体電解質層への添加剤として優れている点である。
【0032】
一方で、一般的に炭素は電気伝導度が高いため、炭素が連続的に存在すると内部短絡が発生しやすくなる。しかしながら、固体電解質層2は、炭素の区画法による分散度が1未満であり、炭素間の繋がりは少ないため導電パスとはならず、内部短絡は抑制される。
【0033】
本実施形態の固体電解質層2は、
図2に示すように、複数の固体電解質粒子11と複数の固体電解質粒子11の間に分散された炭素粒子12を有している。なお、
図2は、固体電解質層2の内部構造の一例を示す模式図である。
【0034】
固体電解質層2では、複数の固体電解質粒子11の粒子間に、炭素粒子12を含有することで、粒子分散強化によって固体電解質層2全体の破壊靭性などの機械的強度が向上する。これは、炭素粒子12の機械的強度が優れているためである。これにより、放電反応に伴う正極活物質および負極活物質の体積膨張収縮の応力が加わっても、固体電解質層2にはクラックが発生し難くなる。その結果、これを用いた全固体電池1において優れたサイクル特性が得られる。
【0035】
炭素粒子12は、その黒鉛化度によって固体電解質層2の機械的強度向上の効果が異なる。炭素粒子12は、それ自体の強度が高い方が、クラックの進展をピン止めする効果が高い。炭素粒子12としてダイヤモンドもしくは不定形炭素粒子を用いた場合、それ自体の強度が高いため、固体電解質層2全体の強度が向上する。従って、全固体電池1は優れたサイクル特性が得られる。
【0036】
炭素粒子12の平均粒径は、0.01~1μmであることが好ましい。0.01μm未満の炭素粉は分散が困難で凝集体となりやすく、また、1μmを超える炭素粒子12は固体電解質の粉に対して大きすぎるが、炭素粒子12の平均粒径を0.01~1μmとすることで均一に分散させやすく、固体電解質層2の機械的強度が向上し、結果、サイクル特性が向上する。
【0037】
本実施形態の固体電解質層2は、粒径が0.01~1μmである炭素粒子12の分散度を区画法で求めたときのCV値が1.0未満であることが好ましい。
【0038】
本実施形態では、炭素粒子12が偏りなく存在することの指標として、CV値を用いている。すなわち、CV値が低い方が、炭素粒子12が偏りなく存在するため、固体電解質層2全体の強度向上効果が高まり、サイクル特性が向上する。さらに、CV値が低い場合、炭素粒子12が連続して存在する確率が低く、短絡不良を抑制することができる。
【0039】
一方、CV値が高く、すなわち炭素粒子12が偏って存在している場合、炭素粒子12が連続して存在する確率が高く、短絡不良を起こす可能性が高まる。一方で、炭素粒子12が存在していない領域も多くなり、固体電解質層全体の強度をあまり向上できない。
【0040】
ここで、固体電解質層2を示す走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像の例を
図3に示す。また、
図3の画像を画像解析ソフトにて二値化した画像を
図4に示す。また、
図4に示す画像を正方形に切り取り、さらに切り取った正方形を正方形に9等分したイメージを
図5に示す。
【0041】
本実施形態では、固体電解質層2と正極活物質層3a及び負極活物質層4aとの界面を含む断面を切り出した後に研磨し、その研磨面について走査型電子顕微鏡(SEM)により
図3に示すようなSEM画像を得る。また、SEM画像に限らず、透過型電子顕微鏡(TEM)によりTEM画像を得てもよい。尚、
図3は、説明の便宜上、炭素が特に多い部分を拡大して示しているが、本実施形態に係る固体電解質層2はこの例に限定されるものではない。
【0042】
図3に示すSEM画像において、固体電解質粒子11の相(主相)は「明色」、炭素粒子12の相(副相)は「暗色」として識別される。
【0043】
本実施形態では、画像解析ソフトを用いて、粒径が0.01~1μmである炭素粒子12の分散度を区画法により求める。
【0044】
具体的には、先ず、上述したSEM画像を画像処理によりニ値化する。SEM画像の二値化処理については、SEM画像から、モード法により濃度ヒストグラムを作成する。濃度ヒストグラムのうち、主相と副相との境界に当たる谷の濃度値を閾値とし、閾値を挟んで主相となる領域を「明部」とし、閾値を挟んで副相となる領域を「暗部」としてニ値化する。
【0045】
なお、濃度ヒストグラムでは、多くの場合、1つの谷を挟んで2つ山が生じる双峰性のヒストグラムが得られるが、2つ以上の谷が生じる場合もある。この場合、主相と副相との境界に当たる谷を選んで、その谷の濃度値を閾値とすればよい。
【0046】
次に、SEM画像を二値化処理した画像を
図4に示す。
図4に示す画像を均等に複数の領域に区画した後、各領域に存在する粒径が0.01μm以上である炭素粒子12の個数をカウントする。
【0047】
本実施形態では、
図5に示すように画像を9つの正方領域に区画する。以下、9つの正方領域をそれぞれ領域R1~R9と称する。
図5中に示す領域R1~R9に存在する粒径が0.01μm以上である炭素粒子12の個数をカウントした。その結果を下記表1に示す。
【0048】
【0049】
次に、領域R1~R9においてカウントされた炭素粒子12の個数の平均値及び標準偏差値を求め、CV値(=標準偏差値÷平均値)を算出する。その結果、表1に示すように、平均値が11.1、標準偏差値が4.5、CV値(=標準偏差値÷平均値)が0.4となった。
【0050】
本実施形態の固体電解質層2では、上述したCV値が1.0以下となることで、粒子分散強化によって固体電解質層2の強度が向上する。これにより、充放電の膨張収縮応力による固体電解質層2の破壊を防ぎ、全固体電池1のサイクル特性を向上させることが可能である。
【0051】
一方、上述したCV値が下記表2に示すように1.0以上になるとき、例えば下記表2に示すような分布のとき、固体電解質粒子11の間に分散された炭素粒子12が偏析することになり、固体電解質層2全体の強度を向上させる効果が不十分となる。この場合、充放電における固体電解質層2と正極活物質層3a及び負極活物質層4aと界面付近での破壊を防ぐことは困難である。すなわち、上述したCV値が1.0以上であると全固体電池のサイクル特性は向上できない。また、偏析した炭素粒子12は導電パスを形成しやすくなる。この場合、初回から短絡不良となる。本実施形態の固体電解質層2は、粒径が1μm以上の炭素粒子を含まないことが好ましい。
【0052】
【0053】
さらに、固体電解質層2における、炭素の含有量は0.01~1.8体積%であることが好ましい。炭素の含有量(体積%)は、例えば、炭素の比重を利用した体積換算で求められる。具体的には、比重による炭素量(体積%)の体積換算は、{(固体電解質層中の炭素の量(重量%)/炭素の比重(g/cm3)}/〔{(固体電解質層中の炭素の量(重量%)/炭素の比重(g/cm3)}+{(固体電解質層中の固体電解質の量(重量%)/固体電解質の比重(g/cm3)}〕により求められる。固体電解質層2中の炭素の量(重量%)は、例えば電子プローブマイクロアナライザー(EPMA(WDS=波長分散型分光法))を用いる方法や、固体電解質層の部分を分離収集して炭素・硫黄分析装置(LECOジャパン合同会社製、CS-844(と同様の原理の装置))を用いる方法により測定できる。
【0054】
尚、全固体電池における固体電解質層の炭素量を炭素・硫黄分析装置により分析する場合、全固体電池の積層焼成品から固体電解質層のみ分離収集するには、非常に多くの全固体電池サンプルと労力を必要とする。そこで、モデルサンプルとして固体電解質のみを積層したものを準備して同時焼成し、炭素量の分析を代用してもよい。
【0055】
炭素粒子12の含有量が0.01体積%以上であると、強度向上の高い効果を得られる。また炭素粒子12の含有量が1.8体積%以下にすることで焼成をしやすくでき、高い初期特性が得られる。
【0056】
また、固体電解質層2における、前炭素粒子12の含有量は0.02~0.8体積%であることがより好ましい。
【0057】
さらに、固体電解質層2における、炭素粒子12を、アルゴンレーザーラマンスペクトルにて測定したとき、1580cm-1近傍に存在する黒鉛構造に由来するGバンドピークの強度をIG、1350cm-1近傍に存在する黒鉛構造の乱れに由来するDバンドピークの強度をIDとし、これらの比を黒鉛化度(IG/ID)とした際に、IG/ID値が0.0以上4.0以下であることが好ましい。ここで本実施形態においては、IG/ID値の好ましい範囲には0.0も含まれる。
【0058】
炭素材料のラマンスペクトルは、一般に1580cm-1近傍に表れるGバンドピークと、1350cm-1近傍に表れるDバンドピークという二つの特徴的なピークを有する。Gバンドピークは、グラファイト構造における炭素原子の六角格子内振動に起因するピークであり、Dバンドピークはアモルファスカーボン等のダングリングボンドを有する炭素原子に起因するピークである。炭素材料の結晶性が高まるとGバンドピークの強度が強まり、結晶性が下がる(非結晶化する)とDバンドピークの強度が強まる。
【0059】
IG/ID値が0.0である炭素材料はダイヤモンド結晶であり、0.0を超え4.0以下である炭素材料は不定形炭素であるため、炭素自体の機械的強度が高い。そのため、これらの炭素を含有させることで固体電解質層の強度を高める効果が高い。
【0060】
本実施形態において、固体電解質層2に含まれる炭素粒子12のラマンスペクトルの測定は、以下のようにして行う。
【0061】
まず、全固体電池1をエポキシ樹脂等の樹脂に包埋した状態で、固体電解質層2の積層方向に対して概ね垂直になるように研磨し、固体電解質層2の断面を露出させる。次いで、断面を観察して、直径1μm内に炭素粒子12が多く存在する部分を選択し、ビーム径1μm程度のアルゴンレーザーを用い、ラマン分光分析を行う。
【0062】
ラマン分光は、例えば日本分光社製NRS-7100を使用して行うことができる。各炭素粒子12のGバンドピークの強度(IG)とDバンドピークの強度(ID)の強度を測定し、これらの比を黒鉛化度(IG/ID)とする。
【0063】
本実施形態の固体電解質層2は、固体電解質を含む。固体電解質としては、例えばリン酸チタンアルミニウムリチウムLi1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦0.6)、リン酸ゲルマニウムリチウムLi1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦0.6)、Li3+x1Six1P1-x1O4(0.4≦x1≦0.6)、Li3.4V0.4Ge0.6O4、Li2OV2O5-SiO2、Li2O-P2O5-B2O3、Li3xLa2/3-xTiO3、Li14Zn(GeO4)4、Li7La3Zr2O12、LiZr(PO4)3よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。固体電解質層2は、これらの中でも、リン酸チタンアルミニウムリチウム、リン酸ゲルマニウムリチウム等のリン酸塩を含むことが好ましい。固体電解質粒子11の形状は、特に問わない。固体電解質粒子11の形状は、例えば、球状、楕円体状、針状、板状、鱗片状、チューブ状、ワイヤ状、ロッド状、不定形である。固体電解質粒子11の粒径は、例えば、0.05μm以上50μm以下であり、0.1μm以上10μm以下であってもよい。固体電解質粒子の粒径は、粒度分布測定により得られる測定値(D50)により求める。D50は、粒度分布測定で得られた分布曲線における積算値が50%である粒子の直径である。粒子の粒度分布は、例えばレーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)を用いた粒度分布測定装置により測定される。
また、本実施形態の固体電解質層2として機能することが可能な範囲であれば、固体電解質粒子11の一部の元素を置換、または組成比を変更してもよい。
【0064】
更に、本実施形態の固体電解質層2は複数種の固体電解質を混合して用いてもよい。
【0065】
(正極活物質および負極活物質)
前述した通り本実施形態の全固体電池の正極活物質層3aおよび負極活物質層4aの一方または両方は、例えばリン酸バナジウムリチウム、ピロリン酸バナジウムリチウム等を含む。リン酸バナジウムリチウムとしては、例えばLiVOPO4、Li4(VO)(PO4)2、Li9V3(P2O7)3(PO4)2、およびLixV2(PO4)3(2.9≦x≦3.5)等が含まれる。ピロリン酸バナジウムリチウムとしては、例えばLi2VOP2O7、およびLi2VP2O7等が含まれる。正極活物質層3aおよび負極活物質層4aは、上述した組成物のいずれか一つまたは複数を含むことが好ましく、特に、Li3V2(PO4)3を含むことが好ましい。さらに、正極活物質層3aおよび負極活物質層4aが含むLi3V2(PO4)3は、比較的リチウムがリッチである方が好ましく、LixV2(PO4)3(3.0<x≦3.4)であればより好ましい。
【0066】
また、正極活物質層3aおよび負極活物質層4a中の材料は全く同じ材料であることが好ましい。係る構成によれば無極性の全固体電池となるため、回路基板に取り付ける際にも方向を指定する必要がなく実装性を格段に向上することができる点でも有利である。
【0067】
正極活物質層3aおよび負極活物質層4aは、リン酸バナジウムリチウムおよびピロリン酸バナジウムリチウム以外の正極活物質および負極活物質を含んでいてもよい。例えば、導電助剤や結着材などを含んでいてもよく、遷移金属酸化物、又は遷移金属複合酸化物を含んでいるのが好ましい。具体的には、遷移金属複合酸化物は、リチウムマンガン複合酸化物Li2Mnx3Ma1-x3O3(0.8≦x3≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、および、一般式:LiNix4Coy4Mnz4O2(x4+y4+z4=1、0≦x4≦1、0≦y4≦1、0≦z4≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMbPO4(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素)、Li過剰系固溶体正極Li2MnO3-LiMcO2(Mc=Mn、Co、Ni)、チタン酸リチウム(TiO2、Li4Ti5O12)、LiaNix5Coy5Alz5O2(0.9<a<1.3、0.9<x5+y5+z5<1.1)で表される複合金属酸化物のいずれかであることが好ましい。またこれら材料の含有量は、正極活物質層3aまたは負極活物質層4a中において、リン酸バナジウムリチウム100質量部に対し、1質量部から20質量部の範囲であることが好ましい。
【0068】
ここで、正極活物質層3aまたは負極活物質層4aを構成する活物質には明確な区別がなく、正極活物質層中の化合物と負極活物質層中の化合物の2種類の化合物の電位を比較して、より貴な電位を示す化合物を正極活物質として用い、より卑な電位を示す化合物を負極活物質として用いることができる。また、リチウムイオン放出とリチウムイオン吸蔵を同時に併せ持つ化合物であれば、正極活物質層3aおよび負極活物質層4aに同一の化合物を用いてもよい。
【0069】
(正極集電体および負極集電体)
本実施形態の全固体電池の正極集電体層3bおよび負極集電体層4bを構成する材料は、導電率が大きい材料を用いるのが好ましく、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケルなどを用いるのが好ましい。特に、銅は固体電解質層2に用いる固体電解質と反応し難く、さらに全固体電池1の内部抵抗の低減効果があるためより好ましい。正極集電体層3bおよび負極集電体層4bを構成する材料は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0070】
また、本実施形態の全固体電池1の正極集電体層3bおよび負極集電体層4bは、それぞれ正極活物質および負極活物質を含むことが好ましい。
【0071】
正極集電体層3bおよび負極集電体層4bが、それぞれ正極活物質および負極活物質を含むことにより、正極集電体層3bと正極活物質層3aおよび負極集電体層4bと負極活物質層4aとの密着性が向上する。
【0072】
本実施形態の正極集電体層3bおよび負極集電体層4bにおける正極活物質および負極活物質の比率は、集電体として機能する限り特に限定はされないが、正極集電体と正極活物質、または負極集電体と負極活物質が、体積比率で90/10から70/30の範囲であることが好ましい。
【0073】
(マージン層)
本実施形態のマージン層5は、固体電解質層2と正極層3との段差、ならびに固体電解質層2と負極層4との段差を解消するために設けることが好ましいこのようなマージン層5の存在により、固体電解質層2と正極層3ならびに負極層4との段差が解消される。そのため、全固体電池1の積層時の密着性が向上し、さらに焼成時の収縮応力が緩和され、層間剥離(デラミネーション)や反りが生じにくくなる。
【0074】
マージン層5を構成する材料は、固体電解質層2と同じ材料であっても、異なる材料であってもよく、固体電解質層2と同じ材料を含むことが好ましい。例えば、本実施形態の固体電解質層2が、固体電解質としてリン酸チタンアルミニウムリチウムを含むとき、マージン層5もリン酸チタンアルミニウムリチウムを含むことが好ましい。また、固体電解質層2に合わせ、複数種の固体電解質材料を含んでいてもよい。その際は、固体電解質層2における構成と同様であることが好ましい。
【0075】
本実施形態のマージン層5は、本実施形態の固体電解質層2と同じ固体電解質及び炭素を有することが好ましく、更にマージン層5の断面における炭素の分散度(CV値)が固体電解質層2と同等であることが好ましい。すなわち、マージン層5と固体電解質層2との組成が同一で炭素の分散度(CV値)が同等であることが好ましい。マージン層5と固体電解質層2の組成が同一で分散度が同等であるとき、焼成時の収縮応力を緩和する効果は高まり、焼成による層間剥離(デラミネーション)や反りが生じにくくなる。マージン層5の断面における炭素の分散度(CV値)は、固体電解質層2の断面における炭素の分散度(CV値)と同様の方法で求められる。
【0076】
(全固体電池の製造方法)
本実施形態の固体電解質層2を用いた全固体電池1は、次のような手順で製造することができる。固体電解質および炭素、正極活物質、正極集電体、負極活物質、負極集電体、マージン層用の固体電解質および炭素、の各材料をペースト化する。
【0077】
固体電解質および炭素のペースト化の方法は、特に限定されないが、まず、固体電解質粉と炭素を粉体同士で予め高分散化させておき、次いで前記高分散化処理済の粉体にビヒクルを混合してペーストを得ることが好ましい。ここで、粉体同士の高分散化には、圧縮・せん断・衝撃の力が粉体粒子に作用するような装置を用いてもよい。
【0078】
一般的な混合・分散は、対流・せん断・拡散の3つの作用によるが、カーボンブラック等のナノ粒子を原料にする場合には、強い凝集力に打ち勝つ粉砕機のような機能(衝撃、圧縮、摩砕など)を持つ装置により、混合・分散させることが好ましい。
【0079】
上記装置は、カーボンブラック等の炭素材料と固体電解質を効率的に分散させることが出来る装置であれば特に限定されず、ホソカワミクロン(株)製のメカノフュージョン、ノビルタ、(株)徳寿工作所製シータ・コンポーザ、奈良機械製作所製ハイブリタイザー、(株)ケイ・シー・ケイ製DMMメカノケミカル装置、株式会社栗本鐵工所製高速遊星ボールミルなどを用いてもよい。装置により適切な条件を選定することが好ましい。
例えば、ホソカワミクロン(株)製のノビルタは、圧縮・せん断・衝撃の3つの力をバランスよく粒子に作用させることで、ナノ粒子であるカーボンブラック粉末を効率的に分散し、母材である固体電解質粉と複合化することができる。粒子を複合化した場合、その後のビヒクル混合等の工程においても高い分散状態を維持することができる。
【0080】
次いで、高分散化処理済の粉体にビヒクルを混合してペースト化する。ビヒクルとは、液相における媒質の総称であり、溶媒、バインダー等が含まれる。グリーンシートまたは印刷層を成形するためのペーストに含まれるバインダーは特に限定されないが、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂などを用いることができ、これらの樹脂のうち少なくとも1種を含む。
【0081】
また、ペーストには可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤の種類は特に限定されないが、フタル酸ジブチル、フタル酸ベンジルブチル等のフタル酸エステル類を使用してもよい。
【0082】
係る方法により、固体電解質層用ペースト、正極活物質層用ペースト、正極集電体層用ペースト、負極活物質層用ペースト、負極集電体層用ペースト、マージン層用ペーストを作製する。
【0083】
上記で作製した固体電解質層用ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)などの基材上に所望の厚みで塗布し、必要に応じ乾燥させ、固体電解質層用グリーンシートを作製する。固体電解質層用グリーンシートの作製方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等の公知の方法を採用することができる。次いで固体電解質層用グリーンシートの上に、正極活物質層、正極集電体層、正極活物質層を順にスクリーン印刷で印刷積層し、正極層を形成する。さらに、固体電解質層用グリーンシートと正極層との段差を埋めるために、正極層以外の領域にマージン層をスクリーン印刷で形成し、正極層ユニットを作製する。
【0084】
次いで、固体電解質層用グリーンシートの上に、負極活物質層、負極集電体層、負極活物質層を順にスクリーン印刷で印刷積層して負極層を形成し、負極層以外の領域にマージン層をスクリーン印刷で形成して段差を埋め、負極層ユニットを作製する。
【0085】
そして正極層ユニットと負極層ユニットを交互にそれぞれの一端が一致しないようにオフセットを行い積層し、さらに必要に応じて、前記積層体の両主面に、外層(カバー層)6を設けることができる。外層6を積層することで、全固体電池の素子が複数含まれた積層基板が作製される。なお、外層6は固体電解質層2と同じ固体電解質および炭素を用いることができ、固体電解質層用グリーンシートを用いることができる。同一のグリーンシートを用いた場合、焼成過程での収縮挙動が内層の固体電解質層2とほぼ同一となり、焼成時の収縮応力差による欠陥が生じにくくなる。
【0086】
本実施形態にかかる製造方法は、並列型の全固体電池を作製するものであるが、直列型の全固体電池の製造方法は、正極層の一端と負極層の一端とが一致するように、つまりオフセットを行わないで積層すればよい。
【0087】
さらに作製した積層基板を一括して金型プレス、温水等方圧プレス(WIP)、冷水等方圧プレス(CIP)、静水圧プレスなどで加圧し、密着性を高めることができる。加圧は加熱しながら行う方が好ましく、例えば40~95℃で実施することができる。
【0088】
作製した積層基板は、ダイシング装置等を用いて、未焼成の全固体電池の積層体に切断することができる。
【0089】
次いで、未焼成の積層体を脱バイおよび焼成する。例えば、窒素雰囲気下で500℃~750℃に加熱し脱バインダーを行う。脱バインダー時間は、例えば1~20時間とする。その後、窒素雰囲気下で600℃~1000℃に加熱し焼成を行うことによって焼成後の積層体を得ることができる。焼成時間は、例えば、0.1~3時間とする。
【0090】
焼成後の積層体は、アルミナ(Al2O3)などの研磨材と共に、円筒型の容器に入れて、バレル研磨を行ってもよい。これにより、積層体全体の角の面取りを行うことができる。また、その他の研磨方法として、サンドブラストにより研磨してもよい。この研磨方法では、積層体の特定の部分のみを削ることができるため好ましい。
【0091】
さらに焼成後の積層体から効率的に電流を引き出すため、外部電極7,8を設けることができる。外部電極7,8は、積層体20の一側面に延出する正極層3の一端と、積層体20の一側面に延出する負極層4の一端にそれぞれ接続されている。したがって、積層体20の一側面を挟持するように一対の外部電極7,8が形成される。外部電極7,8の形成方法としては、スパッタリング法、スクリーン印刷法、またはディップコート法などが挙げられる。スクリーン印刷法、ディップコート法では、金属粉末、樹脂、溶剤を含む外部電極用ペーストを作製し、これを外部電極7,8として形成させる。次いで、溶剤を飛ばすための焼き付け工程、ならびに外部電極7,8の表面に保護用及び実装用のめっき処理を行う。一方、スパッタリング法では、外部電極7,8に保護層や実装用の層を形成することができるため、焼き付け工程、メッキ処理工程が不要となる。
以上のような工程を経ることによって、全固体電池1を製造することが可能である。
【0092】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等はほんの一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0093】
以下、前記の実施形態に基づいて、さらに実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、ペーストの作製における材料の仕込み量の「部」表示は、断りのない限り「質量部」を意味する。
【0094】
(実施例1)
(正極活物質および負極活物質の作製)
正極活物質および負極活物質として、以下の方法で作製したLi3V2(PO4)3を用いた。その作製方法としては、Li2CO3とV2O5とNH4H2PO4とを出発材料とし、ボールミルで16時間湿式混合を行い、脱水乾燥した後に得られた粉体を850℃で2時間、窒素水素混合ガス中で仮焼した。仮焼品をボールミルで湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して正極活物質粉末および負極活物質粉末を得た。この作製した粉体の組成がLi3V2(PO4)3であることは、ICP発光分光分析及びX線回折装置(XRD)を使用して確認した。
【0095】
(正極活物質層用ペーストおよび負極活物質層用ペーストの作製)
正極活物質層用ペーストおよび負極活物質層用ペーストは、ともにLi3V2(PO4)3の粉末100部に、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール150部とを加えて、混合・分散し、正極活物質層用ペーストおよび負極活物質層用ペーストを作製した。
【0096】
(固体電解質層用ペーストの作製)
固体電解質として、以下の方法で作製したLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を用いた。その作製方法とは、Li2CO3とAl2O3とTiO2とNH4H2PO4を出発材料として、ボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥し、次いで得られた粉末を800℃で2時間、大気中で仮焼した。仮焼後、ボールミルで16時間湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して固体電解質の粉末を得た。作製した粉体がLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3の結晶相であることは、ICP及びX線回折装置(XRD)を使用して確認した。
【0097】
次いで、この固体電解質粉末100部に対してカーボンブラック粉1000ppm相当量(およそ0.1部)のメカニカル分散(機械による分散)を行った。分散装置はホソカワミクロン(株)製ノビルタNOB-130を使用し、ローターの回転数と処理時間により分散状態を調整した。ローターの回転数は最高6000rpmまで可能であるが、SEMで観察して最も分散状態の良い条件を探し、3000rpmで15分間の処理を行った。
【0098】
次に、メカニカル分散処理を施した、固体電解質粉末100部およびカーボンブラック粉1000ppm相当量の粉体に対し、溶媒としてエタノール100部、トルエン50部を加え、ポリビニルブチラール系バインダー16部、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)4.8部を投入し、二次分散としてボールミルで16時間湿式混合し、固体電解質層用ペーストを作製した。
【0099】
固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3の比重は2.93、カーボンブラックの比重は1.8である。全粉体中の炭素の存在比率を体積換算で求めると、炭素の含有量は0.16体積%となる。ここで、比重による炭素量(体積%)の体積換算は、{(固体電解質層中の炭素の量(重量%)/炭素の比重(g/cm3)}/〔{(固体電解質層中の炭素の量(重量%)/炭素の比重(g/cm3)}+{(固体電解質層中の固体電解質の量(重量%)/固体電解質の比重(g/cm3)}〕により行った。固体電解質層中の炭素量(重量%)は、後述するEPMAを用いる方法により求めた。固体電解質層中の固体電解質量(重量%)は、100%から固体電解質層中の炭素量(重量%)を差し引いたものである。
【0100】
(固体電解質層用シートの作製)
固体電解質層用ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシートを成形し、厚さ15μmの固体電解質層用シートを得た。
【0101】
(正極集電体層用ペーストおよび負極集電体層用ペーストの作製)
正極集電体および負極集電体として、CuとLi3V2(PO4)3とを体積比率で80/20となるように混合した後、バインダーとしてエチルセルロース10部と、溶媒としてジヒドロターピネオール50部を加えて混合・分散し、正極集電体層用ペーストおよび負極集電体層用ペーストを作製した。
【0102】
(マージン層用ペーストの作製)
マージン層用ペーストの粉体は、固体電解質層用の粉体と同様に、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3の粉末100部に対してカーボンブラック粉1000ppm相当量(およそ0.1部)をメカニカル分散処理を施した後、溶媒としてジヒドロターピネオール150部とバインダーとしてエチルセルロース15部を追加して混合・分散し、マージン層用ペーストを作製した。
【0103】
(外部電極ペーストの作製)
銀粉末とエポキシ樹脂、溶剤とを混合および分散させて、熱硬化型の外部電極ペーストを作製した。
【0104】
これらのペーストを用いて、以下のようにして全固体電池を作製した。
【0105】
(正極層ユニットの作製)
作製した固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極活物質層(第一正極活物質層と呼ぶ)を形成し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上にスクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極集電体層を形成し、80℃で10分間乾燥した。さらにその上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極活物質層(第二正極活物質層と呼ぶ)を再度形成し、80℃で10分間乾燥することで、固体電解質層用シートに正極層を作製した。次いで、正極層の一端の外周に、スクリーン印刷を用いて前記正極層と略同一平面の高さのマージン層9を形成し、80℃で10分間乾燥した。次いで、PETフィルムを剥離することで、正極層ユニットのシートを得た。
【0106】
(負極層ユニットの作製)
作製した固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極活物質層(第一負極活物質層と呼ぶ)を形成し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上にスクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極集電体層を形成し、80℃で10分間乾燥した。さらにその上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極活物質層(第二負極活物質層と呼ぶ)を再度形成し、80℃で10分間乾燥することで、固体電解質層用シートに負極層を作製した。次いで、負極層の一端の外周に、スクリーン印刷を用いて負極層と略同一平面の高さのマージン層9を形成し、80℃で10分間乾燥した。次いで、PETフィルムを剥離することで、負極層ユニットのシートを得た。
【0107】
(積層体の作製)
正極層ユニットと負極層ユニットを交互にそれぞれの一端が一致しないようにオフセットしながら複数積層し、積層基板を作製した。さらに積層基板の両主面に、外層として、炭素を含む固体電解質層シートと同じシートを複数枚積層し、500μmの外層を設けた。この積層基板を温水等方圧プレス(WIP)80℃、1tonでプレスした後、切断して未焼成の積層体を作製した。
【0108】
(積層体の焼成)
切断済みの積層体を脱バイ・焼成することで、焼成体を得た。前記脱バイは、窒素雰囲気下で昇温速度50℃/時間で500℃まで昇温して、その温度で2時間保持した。続いて、前記焼成は、窒素雰囲気下で昇温速度200℃/時間で800℃まで昇温して、その温度で2時間保持し、自然冷却後に取り出した。
【0109】
(外部電極形成工程)
前記焼成後の積層体の端面に外部電極ペーストを塗布し、150℃、30分の熱硬化を行い、一対の外部電極を形成した。こうして、チップ形状の全固体電池が完成した。
【0110】
本実施例によって作製された全固体電池において、固体電解質層に含まれる炭素の量は以下のようにして測定することができる。
【0111】
まず、全固体電池をエポキシ樹脂等の樹脂に包埋した状態で研磨し、固体電解質層の断面を露出させる。このとき、極力広い面積で測定が出来るよう、積層方向に対して垂直ではなく、水平に近い斜めに研磨することが好ましい。次いで、EPMA(WDS=波長分散型分光法)により炭素の濃度を測定する。測定条件は、加速電圧10kV,測定電流500nA,ピーク測定時間80秒,バックグラウンド測定時間20秒、スポット径は最小とする。装置内部のハイドロカーボン汚染による測定誤差の影響を除くため、液体窒素トラップを使用して測定することが望ましい。
【0112】
また、上記同様、全固体電池をエポキシ樹脂等の樹脂に包埋した状態で、固体電解質層の積層方向に対して概ね垂直になるように研磨し、固体電解質層の断面を露出させる。そして、露出させた固体電解質層断面のSEM画像を取得し、上述した画像処理および計算方法により分散度(CV値)を算出する。
【0113】
(実施例2~5)
実施例2~5に係る全固体電池は、固体電解質層用ペーストの作製におけるメカニカル分散の条件を変更した以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0114】
(比較例1)
比較例1に係る全固体電池は、固体電解質層用ペーストにカーボンブラックを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。なお、メカニカル分散の応力等による影響を排除するため、固体電解質粉単独で実施例1と同条件の処理を行った。
【0115】
(比較例2)
比較例2に係る全固体電池は、固体電解質層用ペーストの作製におけるメカニカル分散の条件をローター回転数6000rpmにした以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。メカニカル分散後の粉体をSEM観察すると、回転数を過剰に上げた場合、固体電解質粉同士が融着してカーボンとの分散状態が悪化することが確認された。
【0116】
実施例1~5及び比較例1、2におけるメカニカル分散の条件を表3に示す。
【0117】
【0118】
(実施例6~15)
実施例6~15に係る全固体電池は、カーボンブラック粉の添加量を30~15,000ppm相当量にした以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。全粉体中の炭素の存在比率を体積換算で求めると、炭素の含有量は0.00~1.8体積%となる。
【0119】
(実施例16)
比較例1と同様に、固体電解質層用ペーストにカーボンブラックを添加しないで、全固体電池の積層体を作製した。そして、脱バイは、窒素雰囲気下で昇温速度50℃/時間で350℃まで昇温して、その温度で2時間保持した。続いて、焼成は、窒素雰囲気下で昇温速度200℃/時間で800℃まで昇温して、その温度で2時間保持し、自然冷却後に取り出した。その後の工程は実施例1と同様にして、全固体電池を作製した。
【0120】
(実施例17-21)
固体電解質をLi3.6Si0,6P0.4O4に変え、カーボンブラック粉の添加量を30~15,000ppm相当量にした以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。Li3.6Si0,6P0.4O4の比重は2.40(g/cm3)であり、全粉体中の炭素の存在比率を体積換算で求めると、炭素の含有量は0.00~2.0体積%となる。
【0121】
(実施例22)
固体電解質をLiZr2(PO4)3に変えた以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。LiZr2(PO4)3の比重は3.17(g/cm3)であり、全粉体中の炭素の存在比率を体積換算で求めると、炭素の含有量は0.18体積%となる。
【0122】
(実施例23)
固体電解質をLi0.34La0.51TiO3に変えた以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。Li0.34La0.51TiO3の比重は5.00(g/cm3)であり、全粉体中の炭素の存在比率を体積換算で求めると、炭素の含有量は0.28体積%となる。
【0123】
(実施例24-28)
固体電解質をLi7La3Zr2O12に変え、カーボンブラック粉の添加量を30~10,000ppm相当量にした以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。Li7La3Zr2O12の比重は5.11(g/cm3)であり、全粉体中の炭素の存在比率を体積換算で求めると、炭素の含有量は0.01~2.8体積%となる。
【0124】
(実施例29~34)
実施例29~34に係る全固体電池は、固体電解質層用ペーストの作製において添加する炭素の種類を変えた以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。すなわち、実施例29~34においては、カーボンブラックを添加せず、その他の炭素を添加した。炭素の比重は、ダイヤモンドは3.52(g/cm3)、鱗片状黒鉛は2.23(g/cm3)、アセチレンブラックおよびファーネスブラックは実施例1と同じ1.8(g/cm3)、土状黒鉛および球状黒鉛は鱗片状黒鉛と同じ2.2(g/cm3)で体積換算すると、炭素の含有量は0.08~0.16体積%となる。
【0125】
(電池評価)
本実施例ならびに比較例で作製した全固体電池は、下記の電池特性について評価することができる。
【0126】
[設計容量の算出]
予め設計容量を求めておく。設計容量を求めるには、まず、固体電解質の粉体を、例えば直径12mmの金型でプレスして厚み1.5mm程度の成形体とし、この成形体を脱バイ焼成して円盤状の焼成体を得る。脱バイ焼成の条件は、チップ形状の全固体電池と同じ電池特性を引き出すために、雰囲気、温度等、同一の条件とする。この円盤状焼成体の厚みを測定した後、円盤の両面に、例えば直径7mmで外部電極ペーストを塗布し熱硬化させる。そして、この円盤状固体電解質の充放電特性を測定し、単位体積当たりの放電容量を求める。この単位体積あたりの放電容量から、チップ形状にした時の放電容量値を算出し「設計容量」とする。なお、単位体積あたりの放電容量が得られれば、本測定の形状や外部電極の形態は特に限定されない。
【0127】
[初回充放電試験]
本実施例ならびに比較例で作製した全固体電池は、例えば以下に示す充放電条件によって評価することができる。充放電電流の表記は、以降C(シー)レート表記を使う。CレートはnC(μA)と表記され(nは数値)、公称容量(μAh)を1/n(h)で充放電できる電流を意味する。例えば1Cとは、1hで公称容量を充電できる充放電電流であり、2Cであれば、0.5hで公称容量を充電できる充放電電流を意味する。例えば、公称容量100μAhの全固体電池の場合、0.1Cの電流は10μA(計算式100μA×0.1=10μA)である。同様に0.2Cの電流は20μA、1Cの電流は100μAである。
【0128】
求めた設計容量を公称容量とみなし、0.2Cレートの定電流で1.8Vの電池電圧になるまで定電流充電(CC充電)を行い、その後、0.2Cレートの定電流で0Vの電池電圧になるまで放電(CC放電)させ、初回の放電容量を測定した。そして、前期設計容量に対する百分率を下記式(1)にて求めた。
初回放電容量率(%)=(初回放電容量÷設計容量)×100・・・(1)
【0129】
[充放電サイクル試験]
充放電サイクル試験条件は、25℃の環境下において、0.2Cレートの定電流で1.8Vの電池電圧になるまで定電流充電(CC充電)を行い、その後、0.2Cレートの定電流で0Vの電池電圧になるまで放電させた(CC放電)。前記の充電と放電を1サイクルとし、これを100サイクルまで繰り返した後の放電容量維持率を充放電サイクル特性として評価した。なお、本実施形態における充放電サイクル特性は、以下の計算式によって算出した。
100サイクル後の放電容量率(%)=(100サイクル後の放電容量÷初回放電容量)×100・・・(2)
【0130】
(結果)
表4に実施例1~5ならびに比較例1~2に係る固体電解質層の材料比重、炭素量(重量ppm)、炭素比重、炭素量(体積%)、炭素分散度、およびこれを用いた全固体電池の初回内部短絡発生率、設計容量に対する初回放電容量率、設計容量に対する100サイクル後の放電容量率の結果を示す。ここで、固体電解質層炭素量(重量ppm)は、EPMAを用いて測定した実際量を表に示す。10000重量ppmは、1重量%である。固体電解質層炭素量(vol%)ついては、表には配合重量(ppm)と、配合重量と比重から計算された体積%で記載する。すなわち、固体電解質層炭素量(vol%)は、比重による体積換算で求めた。
【0131】
【0132】
実施例1~5に係る全固体電池では、初回内部短絡の発生率が低く保たれていると同時に、初回放電容量率は90%以上と高く、100サイクル後の放電容量率も75%以上を保ち、優れていることが確認された。これは、分散性良く炭素が存在することによって、内部短絡を抑制しながら、固体電解質層の強度を高める効果が発揮されているためである。
【0133】
炭素を含まない比較例1では、初回内部短絡は発生しなかったものの、初回および100サイクル後の放電容量率が大きく低下した。比較例1の全固体電池を、100サイクル後にエポキシ樹脂に包埋して研磨し、固体電解質層の断面を観察したところ、クラックが観察された。充放電に伴う膨張収縮応力に耐えられずにクラックが発生し、その結果容量が低下したためである。
【0134】
一方、同量の炭素量でも分散度の悪い比較例2では、初回の内部短絡の発生率が高かった。局所的に多く存在する炭素が、導電パスを形成しているものと推察される。また、100サイクル後の放電容量率は低下傾向にある。炭素が偏って存在するために、炭素が少ない部分で固体電解質層の強度を高める効果が十分に発揮されなかったためである。
【0135】
表5及び表6に実施例6~28に係る固体電解質層の、固体電解質材料の比重、炭素量、炭素分散度、およびこれを用いた全固体電池の初回充放電後の内部短絡発生率、設計容量に対する初回放電容量率、設計容量に対する100サイクル後の放電容量率の結果を示す。
【0136】
【0137】
【0138】
実施例6~15は、添加するカーボンブラック粉の量を変え、その他の条件は実施例1と同条件で作製している。実施例6は炭素量30ppm、換算体積0.00体積%で、初回放電容量が79%となっている。実施例6と比較し、実施例1では炭素の量が十分に多く、固体電解質層の強度が向上する効果を高く得られている。
【0139】
一方、実施例14、15、21では、炭素量が11000ppm、換算体積1.8%を超えている。しかしながら、比較例2と比べて炭素分散度をよくすることで、内部短絡の発生率を抑制する効果を得られる。実施例1~13、16~20、22~27では、炭素量が11000ppm、換算体積1.8%以下であり、内部短絡の発生率が10%以下になっている。炭素の量を少なくすることで、分散度を保つと同時に、導電パスを形成しづらくできるものと考えられる。また、炭素の量を少なくすることで、焼結密度が上がりやすくなり、初回放電容量率の向上をもたらしている。
【0140】
実施例16は、カーボン粉は添加せず、脱バイ温度を下げて故意にバインダーが残るように作製した全固体電池である。その炭素量は分析値で1200ppm、不定形炭素と推測されるため比重は1.8で計算して換算体積0.20体積%、炭素分散度は0.13であり、実施例1に近いものが得られた。初回放電、100サイクル後ともに良好な特性であり、炭素は添加したものでも、バインダー由来の残留物でもよいことがわかる。
【0141】
実施例17~28は、固体電解質の種類を変え、更に、実施例6~15同様に、添加するカーボンブラック粉の量を変え、実施例1と同条件で作製している。これらの実施例においても比較例と比べ高い効果が得られる。実施例17~21は実施例6~15よりも比重の低い固体電解質であるため、同じ重量の炭素を添加した場合、相対的に炭素の体積比率は低い方にシフトする。同じ12000ppm重量添加で、実施例14では炭素は1.9体積%に達して焼成不足に依る初期内部短絡が>10%であるのに対し、実施例20では1.6体積%に留まり、初期内部短絡は<10%の低いレベルを保っている。すなわち、炭素の効果は重量比ではなく体積比で発揮されていることがわかる。
【0142】
実施例24~28は、固体電解質の種類を変え、更に、実施例6~15同様に、添加するカーボンブラック粉の量を変え、実施例1と同条件で作製している。これらの実施例においても比較例と比べ高い効果が得られる。実施例24~28は実施例6~15よりも比重の高い固体電解質であるため、同じ重量の炭素を添加した場合、相対的に炭素の体積比率は高い方にシフトする。同じ10000ppm重量添加で、実施例12では炭素は1.6体積%であり、初期短絡は<10%で少なく、100サイクル後に80%の容量を保っている。実施例28では炭素は2.8体積%に達して焼成不足に陥り、初期内部短絡が>10%であり、100サイクル後の容量は71%となる。これらの指標は、比較例と比べ、高い効果が確認できる。ここでも、炭素の効果は重量比ではなく体積比で発揮されていることがわかる。
【0143】
実施例6~28から、固体電解質層において、炭素は体積換算で0.01~1.8%で存在していることが好ましい。
【0144】
表7に、実施例29~34に係る固体電解質層のラマン分光法による炭素のIG/ID(黒鉛化度)、炭素量、炭素分散度、およびこれを用いた全固体電池の設計容量に対する初回充放電後の放電容量率、設計容量に対する100サイクル後の放電容量率の結果を示す。
【0145】
【0146】
実施例29~34では、製法や形状の異なる様々な炭素粉を添加して全固体電池を作製した。実施例29~34であっても、比較例と比べて高い効果が得られる。これらの実施例に対して、固体電解質層の断面をラマン分光法によって分析して炭素の黒鉛化度(IG/ID値)と特性の関係を見出した。その結果、黒鉛化度が0~4.0と低い、ダイヤモンドもしくは不定形炭素では、初回放電、100サイクル後ともに特性が特に優れていることが確認された。これらの炭素は炭素自体の機械的強度が高いため、含有させることで固体電解質層の強度を高める効果が高いと思料される。一方、実施例32、33など黒鉛化度が4を超える炭素は黒鉛結晶性となり、固体電解質層の強度を高める効果は実施例29~31と比べると低い。
【0147】
以上、本発明を詳細に説明したが、前記実施形態および実施例は例示にすぎない。本発明は、特許請求に記載された要旨の範囲内で上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0148】
1・・・全固体電池
2・・・固体電解質層
3・・・正極層
3a・・・正極活物質層
3b・・・正極集電体層
4・・・負極層
4a・・・負極活物質層
4b・・・負極集電体層
5・・・マージン層
6・・・外層
7・・・正極外部電極(外部電極)
8・・・負極外部電極(外部電極)