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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】加工支援装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 5/36 20060101AFI20250311BHJP
   B23B 5/00 20060101ALI20250311BHJP
   B23C 3/04 20060101ALI20250311BHJP
   G05B 19/4097 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
B23B5/36
B23B5/00 Z
B23C3/04
G05B19/4097 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023543549
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021031135
(87)【国際公開番号】W WO2023026394
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三好 高史
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188660(JP,A)
【文献】特開2015-131372(JP,A)
【文献】特開2019-188558(JP,A)
【文献】特開平09-085579(JP,A)
【文献】特開平04-164557(JP,A)
【文献】特開平05-282021(JP,A)
【文献】実開平01-178604(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 5/36
B23B 5/00
B23C 3/04
G05B 19/406、19/4097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークと工具とを一定比率で回転させることで前記ワークをポリゴン形状に切削する工作機械の加工処理に関する各種のデータを算出する加工支援装置であって、該加工支援装置は、
前記切削により形成される前記ワークのポリゴン面数に関する情報を受け付けるポリゴン面数入力受付部と、前記工具に取り付けられている刃数に関する情報の入力を受け付ける刃数入力受付部とを含み、前記加工処理に関する情報の入力を受け付ける入力受付部と、
前記工具及び前記ワークの軸回転速度を予め設定しておく速度範囲設定部と、
前記ポリゴン面数及び前記刃数に基づいて前記ポリゴン面数に対する前記工具の回転速度比を算出する回転速度比算出部と、前記設定された前記工具及び前記ワークの軸回転速度の範囲内において前記回転速度比に基づく前記工具及び前記ワークの軸回転速度又はその候補を算出する回転速度算出部とを含む算出部と、
該算出部による算出結果を、該加工支援装置に接続された表示部に出力して表示させる表示出力部と、
を備え
前記速度範囲設定部には、前記工具及び前記ワークの軸回転速度の範囲として、ワークの材質又は工具の型式に応じた推奨切削速度が登録され、
前記回転速度算出部を含む前記算出部は、前記推奨切削速度に基づいて実行した前記工具及び前記ワークの軸回転速度又はその候補に関する算出結果を前記表示出力部に供給することを特徴とする加工支援装置。
【請求項2】
ワークと工具とを一定比率で回転させることで前記ワークをポリゴン形状に切削する工作機械の加工処理に関する各種のデータを算出する加工支援装置であって、該加工支援装置は、
前記切削により形成される前記ワークのポリゴン面数に関する情報を受け付けるポリゴン面数入力受付部と、前記工具に取り付けられている刃数に関する情報の入力を受け付ける刃数入力受付部とを含み、前記加工処理に関する情報の入力を受け付ける入力受付部と、
前記工具及び前記ワークの軸回転速度を予め設定しておく速度範囲設定部と、
前記ポリゴン面数及び前記刃数に基づいて前記ポリゴン面数に対する前記工具の回転速度比を算出する回転速度比算出部と、前記設定された前記工具及び前記ワークの軸回転速度の範囲内において前記回転速度比に基づく前記工具及び前記ワークの軸回転速度又はその候補を算出する回転速度算出部とを含む算出部と、
該算出部による算出結果を、該加工支援装置に接続された表示部に出力して表示させる表示出力部と、
を備え、
前記入力受付部はさらに、前記工具の半径に関する情報の入力を受け付ける工具半径入力受付部を含み、
前記算出部はさらに、前記ポリゴン面数、前記工具の半径及び前記回転速度比に基づいて、前記ワークをポリゴン形状に切削した場合に前記ワークに生じる寸法誤差を算出する寸法誤差算出部を含む、
ことを特徴とする加工支援装置。
【請求項3】
前記寸法誤差算出部は、前記寸法誤差を低減すべきとする命令の入力を前記入力受付部で受け付けた場合又は該加工支援装置が前記寸法誤差を低減すべきと判断した場合には、前記工具の中心と前記ワークの中心の間の距離に関する設定条件を変動させて寸法誤差を算出し直す、
請求項2に記載の加工支援装置。
【請求項4】
前記算出部はさらに、前記刃数及び前記回転速度比に基づいて、ポリゴン形状に加工されるワークの各面の形状を判定する面形状判定部を含む、
請求項1ないし3のいずれかに記載の加工支援装置。
【請求項5】
前記算出部はさらに、前記ポリゴン面数、前記刃数及び前記回転速度比に基づいて、前記ワークをポリゴン加工する場合に前記ワークの所定の表面を切削する前記工具の刃が前記工具の回転ごとに入れ替わるか否かを判定する入替判定部を含む、
請求項1ないし4のいずれかに記載の加工支援装置。
【請求項6】
前記入力受付部はさらに、ポリゴン加工中における前記ワークの指定角度に関する入力を受け付ける角度入力受付部を含み、
前記算出部はさらに、前記ポリゴン面数、前記刃数及び前記回転速度比に基づいて、前記ワークの指定角度を実現する前記工具の位相を算出する位相算出部を含む、
請求項1ないし5のいずれかに記載の加工支援装置。
【請求項7】
前記算出部は、所望のポリゴン加工に使用可能な工具の候補が複数形式ある場合には、前記工具の候補毎に前記ポリゴン加工に関する1以上の算出処理又は判定処理を実行し、
前記表示出力部は、前記工具の候補毎に、前記算出部による算出結果又は判定結果を前記表示部に出力して表示させる、
請求項1ないし6のいずれかに記載の加工支援装置。
【請求項8】
前記表示出力部は、前記工具の候補を、前記算出部による算出結果又は判定結果に基づく任意の加工条件に従って並び替えて前記表示部に表示させる並替部を含む、
請求項7に記載の加工支援装置。
【請求項9】
前記表示出力部は、前記工具の候補を、前記算出部によって導出された任意の算出又は判定結果を用いてさらに選別し、該選別された工具の候補のみを前記表示部に表示させる選別部を含む、
請求項7又は8に記載の加工支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工支援装置、より具体的にはワークに対するポリゴン加工を支援する加工支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工具とワークとを一定の比率で回転させることにより、ワークをポリゴン形状に切削加工するポリゴン加工が存在する。ポリゴン加工において、工具刃先はワークに対して楕円軌道を描く。工作機械のオペレータがワークと工具の回転比又は工具の本数を変更すると、楕円軌道の位相や個数が変化し、ワークを四角形や六角形などのポリゴン形状に加工できる。
【0003】
ポリゴン加工は、工作機械の制御装置に加工プログラムを読み込ませ、読み込んだ加工プログラムを制御装置が実行することで実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-43126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、所望のポリゴン形状を得るための加工プログラムは、オペレータ自身が各条件を試行錯誤して設定する必要があった。設定すべき条件は、ワークの基準位置、ポリゴン内接円の直径、ワーク及び工具の回転比、ワークの位相角度等多岐に及び、オペレータにとってプログラム作成の負担が大きいものであった。
【0006】
さらに、ポリゴン加工の際に目標とする寸法との寸法誤差が生じてしまう場合、オペレータは誤差の調整のための計算を別途しなければならない。また、所望のポリゴン形状が手持ちの工具や工作機械で加工できる形状であるのか否かは事前にはわからず、オペレータは加工可能性の有無を確認する作業が必要となる。加えて、工作装置に取付け可能なポリゴン加工用工具(以下、回転工具)を複数型式保有している場合には、最適なポリゴン加工条件を得るにはどの工具を用いるのがよいのか、オペレータにとっては工具の選定が困難である。
【0007】
そこで、工作機械のオペレータによるポリゴン加工の加工プログラム作成を支援する機能を有する加工支援装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ワークと工具とを一定比率で回転させることでワークをポリゴン形状に切削する工作機械の加工処理に関する各種のデータを算出する加工支援装置であって、加工支援装置は、切削により形成されるワークのポリゴン面数に関する情報を受け付けるポリゴン面数入力受付部と工具に取り付けられている刃数に関する情報の入力を受け付ける刃数入力受付部とを含み加工処理に関する情報の入力を受け付ける入力受付部と、工具及びワークの軸回転速度を予め設定しておく速度範囲設定部と、ポリゴン面数及び刃数に基づいてポリゴン面数に対する工具の回転速度比を算出する回転速度比算出部と設定された工具及びワークの軸回転速度の範囲内において回転速度比に基づく工具及びワークの軸回転速度又はその候補を算出する回転速度算出部とを含む算出部と、算出部による算出結果を加工支援装置に接続された表示部に出力して表示させる表示出力部とを備え、速度範囲設定部には、工具及びワークの軸回転速度の範囲として、ワークの材質又は工具の型式に応じた推奨切削速度が登録され、回転速度算出部を含む算出部は、推奨切削速度に基づいて実行した工具及びワークの軸回転速度又はその候補に関する算出結果を表示出力部に供給する。
本発明の別の一態様は、ワークと工具とを一定比率で回転させることでワークをポリゴン形状に切削する工作機械の加工処理に関する各種のデータを算出する加工支援装置であって、加工支援装置は、切削により形成されるワークのポリゴン面数に関する情報を受け付けるポリゴン面数入力受付部と工具に取り付けられている刃数に関する情報の入力を受け付ける刃数入力受付部とを含み加工処理に関する情報の入力を受け付ける入力受付部と、工具及びワークの軸回転速度を予め設定しておく速度範囲設定部と、ポリゴン面数及び刃数に基づいてポリゴン面数に対する工具の回転速度比を算出する回転速度比算出部と、設定された工具及びワークの軸回転速度の範囲内において回転速度比に基づく工具及びワークの軸回転速度又はその候補を算出する回転速度算出部とを含む算出部と、算出部による算出結果を加工支援装置に接続された表示部に出力して表示させる表示出力部と、を備え、入力受付部はさらに、工具の半径に関する情報の入力を受け付ける工具半径入力受付部を含み、算出部はさらに、ポリゴン面数、工具の半径及び回転速度比に基づいて、ワークをポリゴン形状に切削した場合にワークに生じる寸法誤差を算出する寸法誤差算出部を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、オペレータによるポリゴン加工プログラム作成の負担を軽減することができ、さらに、オペレータは所望のポリゴン形状が手持ちの工具や機械で加工することができるか否かを事前に確認することができるという特有の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示における加工支援装置のハードウェア構成図である。
図2】本開示における加工支援装置の一例を示すブロック図である。
図3】本開示における加工支援装置を搭載している数値制御装置の一例を示すブロック図である。
図4A】ポリゴン加工条件の違いに応じて生じるワーク表面の形状の違いを示す図である。
図4B】ポリゴン加工条件の違いに応じて生じるワーク表面の形状の違いを示す図である。
図5】本開示における加工支援装置の別の例を示すブロック図である。
図6】寸法誤差の算出方法の一例を示す図である。
図7A】寸法誤差の調整前後におけるワーク加工状態を示す図である。
図7B】寸法誤差の調整前後におけるワーク加工状態を示す図である。
図8】本開示における加工支援装置が備える算出部の変形例を示すブロック図である。
図9A】ポリゴン加工中において、ワークのある面を切削する工具に入替りがある場合の例を示す図である。
図9B】ポリゴン加工中において、ワークのある面を切削する工具に入替りがある場合の例を示す図である。
図10】本開示における加工支援装置のさらに別の例の要部を示すブロック図である。
図11A】回転工具の刃数及び回転速度比と回転工具の位相との関係性を示す図である。
図11B】回転工具の刃数及び回転速度比と回転工具の位相との関係性を示す図である。
図11C】回転工具の刃数及び回転速度比と回転工具の位相との関係性を示す図である。
図11D】回転工具の刃数及び回転速度比と回転工具の位相との関係性を示す図である。
図12A】回転工具の刃数及び回転速度比と回転工具の位相との関係性を示す別の図である。
図12B】回転工具の刃数及び回転速度比と回転工具の位相との関係性を示す別の図である。
図12C】回転工具の刃数及び回転速度比と回転工具の位相との関係性を示す別の図である。
図12D】回転工具の刃数及び回転速度比と回転工具の位相との関係性を示す別の図である。
図13】本開示における加工支援装置のまたさらに別の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、ワークに対するポリゴン加工の支援機能を備えた加工支援装置100の一例を示す。本願で述べる加工支援装置100とは、ワークと工具とを一定比率で回転させることでワークをポリゴン形状に切削する工作機械の加工処理に関する各種のデータを算出可能な装置である。なお、加工支援装置100は、工作機械200によるワークの加工に際して工具の移動量や移動速度などの数値を制御する用に供する数値制御装置101に実装され、数値制御装置101の一部分を構成しているものと理解しても構わない(図3及び後述する同図を参酌しての説明も併せて参照)。
【0012】
加工支援装置100は、図1に示すように、加工支援装置100を全体的に制御するCPU(中央処理装置)111、プログラムやデータを記録するROM(リード・オンリー・メモリ)112、一時的にデータを展開することが可能なRAM(ランダム・アクセス・メモリ)113を備える。加工支援装置100はさらに、同装置内における信号やデータ等を伝達する伝送路となるバス120を有し、CPU111、ROM112及びRAM113はバス120を介して相互に接続されている。CPU111はバス120を介してROM112に記録されたシステムプログラムを読み出し、システムプログラムに従って加工支援装置100の全体を制御する。
【0013】
加工支援装置100はさらに、不揮発性メモリ114を備え、不揮発性メモリ114もまた、バス120を介して他の内部構成部品と接続されている。不揮発性メモリ114は、例えば、図示しないバッテリでバックアップされるなどして、加工支援装置100の電源がオフされても記憶状態が保持される。
【0014】
不揮発性メモリ114には、加工支援装置100内の各構成部品から、及び、加工支援装置100と接続されている別の機器から取得された様々な情報が記憶される。加工支援装置100内の構成部品から取得され不揮発性メモリ114に記憶される情報の例としては、設定パラメータやセンサ情報などの各種データが挙げられる。また、加工支援装置100と接続されている別の機器から取得され不揮発性メモリ114に記憶される情報の例としては、インタフェース115を介して外部機器72から読み込まれたプログラム、オペレータによる入力部30の操作によりインタフェース119を介して加工支援装置100内に入力されたユーザ操作、工作機械200から取得された設定パラメータやセンサ情報などの各種データが挙げられる。
【0015】
インタフェース115は、加工支援装置100とアダプタ等の外部機器72を接続する用に供する。外部機器72からは、プログラムや各種パラメータ等の情報が加工支援装置100内へと読み込まれる。また、加工支援装置100内で編集したプログラムや各種パラメータ等の情報は、外部機器72を介して外部記憶手段に記憶させることができる。
【0016】
加工支援装置100はさらに、PLC116(プログラマブル・ロジック・コントローラ)及びI/Oユニット117を備える。PLC116は、加工支援装置100に内蔵されたシーケンス・プログラムで工作機械200やロボット、該工作機械200や該ロボットに取り付けられたセンサ等のような装置との間でI/Oユニット117を介して信号の入出力を行い制御する。
【0017】
加工支援装置100は、インタフェース118を介して表示部70と接続されている。このような接続により、表示部70には、工作機械200の操作画面や工作機械200の運転状態を示す表示画面などが表示される。
【0018】
入力部30は、MDI(マニュアル・データ・インプット)や操作盤、タッチパネル等から構成され、オペレータによる操作入力をCPU111に送信する。
【0019】
加工支援装置100は、工作機械200の各軸を制御するサーボアンプ140と接続されている。サーボアンプ140は、工作機械200のサーボモータ150と接続され、CPU111からの軸の移動指令量を受けてサーボモータ150を駆動する。サーボモータ150は位置・速度検出器を内蔵し、この位置・速度検出器からの位置・速度フィードバック信号をサーボアンプ140にフィードバックし、位置・速度のフィードバック制御を行う。サーボモータ150には、工具軸が取り付けられている。工具本体にはポリゴン加工を行うための工具T、言わば刃が取り付けられている。
【0020】
加工支援装置100はさらに、工作機械200にてワークWを取付可能な主軸164を制御するスピンドルアンプ161と接続されている。スピンドルアンプ161は、工作機械200のスピンドルモータ162と接続され、工作機械200の主軸164への主軸回転指令を受け、スピンドルモータ162を駆動する。工作機械200において、スピンドルモータ162の動力はギアを介して主軸164に伝達され、主軸164は指令された回転速度で回転する。
【0021】
主軸164にはポジションコーダ163が結合され、ポジションコーダ163はさらに、加工支援装置100のスピンドルアンプ161と接続されている。かかる接続構成により、ポジションコーダ163が主軸164の回転に同期して帰還パルスをスピンドルアンプ161へ出力し、その帰還パルスはバス120を介してCPU111によって読み取られる。
【0022】
ワークのポリゴン加工時、主軸164にはワークWが取り付けられている。主軸164と工具軸の軸方向は平行であり、主軸164と工具軸は所定の回転比で回転する。主軸164と工具軸が同時に回転すると、工具軸に取り付けられた工具Tがワーク表面を切削し、ワーク表面に多角形が形成される。
【0023】
図2は、ワークに対するポリゴン加工の支援機能を備えた加工支援装置100のブロック図である。このブロック図内の機能は、CPU111がROM112などの記憶装置に記録されたプログラムを実行することによって実現される。図2のブロック図で示す加工支援装置100の機能的構成例は、本願発明が採る基本的な態様となり得る。
【0024】
加工支援装置100は、加工支援装置100と接続されている入力部30から受け取った、ワークのポリゴン加工処理に関する情報の入力の受付処理を実行する入力受付部10を備える。入力部30から入力受付部10への情報の伝送は、例えばオペレータによる入力部の操作によって行われる。
【0025】
入力受付部10は、切削により形成されるワークの加工形状すなわちポリゴン面数に関する情報を受け付けるポリゴン面数入力受付部12を含んでいる。本態様における入力受付部10はさらに、ポリゴン加工に使用する工具に取り付けられた刃の数量に関する情報を受け付ける刃数入力受付部14を含んでいる。
【0026】
また、入力受付部10は、工作機械200に設けられた各種センサから得られた検出結果に関する情報の入力も受付け可能となるよう構成されているとより好ましい。
【0027】
加工支援装置100はさらに、ワークに対するポリゴン加工の支援に関する各種のデータを算出する算出部40を備える。算出部40は、入力受付部10と機能的に接続され、入力受付部10で入力を受け付けた情報を必要に応じてデータ算出に用いることができる。算出部40は、ポリゴン加工時における加工対象ワークのポリゴン面数に対する回転工具の回転速度比を算出する回転速度比算出部42を有する。
【0028】
算出部40によるデータ算出機能は、図1で示すCPU111などの装置内制御要素、ROM112、RAM113及び不揮発性メモリ114などの記憶要素、又は、装置内制御要素及び装置内記憶要素の両方によって実現される。例えば、上述した回転速度比の算出は、加工すべきワークに対する所望のポリゴン面数及び加工時に使用する回転工具の刃数をオペレータが入力し、かかる入力情報に基づいてCPU111による演算によって算出してもよい。又は、回転速度比の算出は、所望のポリゴン面数についてはオペレータが入力する一方で、使用する回転工具の刃数については加工支援装置100と接続された工作機械200から供給を受け、このようにして得られた入力情報に基づいてCPU111が演算してもよい。
【0029】
あるいは、適切な回転速度比を導き出すために、入力部30から入力されたポリゴン面数を実現するための回転工具の刃数及び回転速度比の組合せをROM112に予め記憶させておいても構わない。この場合には、加工支援装置100が所望のポリゴン面数及び刃数に関する情報を取得した場合、回転速度比算出部42は、ROM112に記憶された回転工具の刃数及び回転速度比の組合せに基づいて対応する回転速度比を選択することとなる。
【0030】
なお、回転速度比算出部42は、適切な回転速度比の算出が不能である旨、すなわち入力されたポリゴン面数及び刃数の条件ではポリゴン加工が不能である旨の判定をすることもできる。したがって、回転速度比算出部42は、回転速度比を算出できた場合には所望のポリゴン加工が可能であると、回転速度比を算出できなかった場合には所望のポリゴン加工が不可能であると判定する、いわばポリゴン加工可否の判定部としても働くこととなる。
【0031】
ここで、ポリゴン面数に対する工具回転速度の比の算出方法の一例を述べる。表1に示すように、加工後ワークのポリゴン面数すなわち加工後ワークの形状となる多角形の角数は、回転速度比と回転工具に取り付けられた刃の数との積によって算出することができる。すなわち、回転速度比は、ポリゴン形状/刃数の商によって算出することができる。
【0032】
【表1】
【0033】
加工支援装置100は、回転速度比、刃数及びポリゴン形状の組合せを予め計算しておいて、ROM112等のハードウェアに記憶しておいても構わない。この場合、オペレータが入力部30を介して所望のポリゴン面数及び使用予定の回転工具の刃数を入力すると、ROM112等の記憶装置を構成要素の一部としている回転速度比算出部42は、記憶されている計算結果に基づいて入力値に対応する回転速度比を選択して、選択した回転速度比を回転速度の算出比として以後の処理を実行する。
【0034】
あるいは、加工支援装置100は、ポリゴン面数及び刃数が入力される都度、入力データに基づく演算をすることによって回転速度比を算出しても構わない。
【0035】
加工支援装置100は、回転工具及びワークが採り得る軸回転速度の数値範囲を予め設定し、設定した範囲を記録しておく速度範囲設定部44を備えている。回転速度範囲の設定は、オペレータの入力に基づくものでも、回転工具軸及びワーク回転軸を備える工作機械200側からの情報供給に基づくものでも構わない。回転工具軸及びワーク回転軸が採り得る回転速度範囲として設定された数値範囲は、速度範囲設定部44に登録される。回転速度範囲は例えば、工作機械200の構造的又は機能的な制約によって定められる。また、設定する回転速度範囲として、ワークの材質や工具の型式に応じた推奨切削速度又はその範囲を予め速度範囲設定部44に登録しておいてもよい。ここでいう工具の型式とは例えば、工具に取り付けられる刃の数量、工具の回転半径、その他工具の構造に関するあらゆる情報が含まれ得る。
【0036】
算出部40は、回転速度比算出部42によって算出された回転速度比に基づいて、速度範囲設定部44に登録された回転工具軸及びワーク回転軸の設定速度範囲内で回転工具軸及びワーク回転軸の軸回転速度を算出する回転速度算出部46を有する。
【0037】
なお、ポリゴン加工時における回転工具軸及びワーク回転軸の回転速度として採り得る各数値の候補を、回転速度算出部46が複数算出可能な場合もある。この場合に回転速度算出部46は、複数の候補の中から最適な回転速度を選択して各軸の回転速度として決定してもよい。あるいは、回転速度算出部46は、算出した候補のすべてを回転速度の候補データとして次に述べる表示出力部52に提供してもよい。
【0038】
なお、前述したとおり、加工支援装置100は図3に示すように、数値制御装置101の構成要素の一部として数値制御装置101に搭載され得る。数値制御装置101は、工作機械200と接続され、工作機械200に対して所定の動作の実行を指令する指令信号を生成し、生成した指令信号を工作機械200、特にサーボモータ150やスピンドルモータ162に出力する指令出力部54を備える。加工支援装置100の表示出力部52及び数値制御装置101の指令出力部54を、数値制御装置101に含まれる広義の出力部50として捉えることも可能である。出力部50は、加工支援装置100を含む数値制御装置101と接続された表示部70や工作機械200等の装置を適切に動作させるべく、接続装置に対する制御信号の生成及び生成信号の出力に関する制御処理を行うものと捉えることができる。
【0039】
指令出力部54から指令信号を受け取った工作機械200は、信号に含まれる指令に従って動作することとなる。指令出力部54は、オペレータが表示部70の表示内容を参酌して、入力部30を介してポリゴン加工の調整に関する指示を入力した場合、工作機械200の動作を調整する調整指令信号を生成し、かかる調整指令信号の情報内容に基づいて工作機械200の動作を調整することができる。
【0040】
広義の出力部50は加工支援装置100の算出部40と接続され、回転速度比算出部42によって算出された回転速度比や、回転速度算出部46によって算出された回転速度に関する算出データを算出部40から受け取ることができる。
【0041】
前述のとおり、加工支援装置100は、特に、算出部40から受け取った回転速度比や回転速度に関する算出結果に基づいて、表示部70の表示動作を制御する表示制御信号を生成し、生成した信号を表示部70に出力する表示出力部52を含む。このような接続構成関係によって、表示部70が有する表示画面上には、オペレータが入力した条件下でのポリゴン加工の可否、ワークと回転工具間の回転速度比、回転速度比に沿ったワーク及び回転工具それぞれの回転速度などの算出結果が表示される。オペレータは表示部70の表示画面を見て、ワークに対して工作機械200が行うポリゴン加工処理の確認ができ、必要に応じて入力部30を介して所望の調整をすることができる。
【0042】
表示出力部52は、回転速度算出部46から回転工具軸及びワーク回転軸の回転速度の候補として複数のデータを受け取った場合には、受け取った複数の候補データのすべて又は一部を表示部70に表示させることができる。この場合において、オペレータは、表示部70の表示画面に表示された複数の候補データの中から最適と判断した軸回転速度を選択し、入力部30の操作を介してポリゴン加工に対する所望の調整をすることができる。
【0043】
なお、速度範囲設定部44に推奨切削速度が登録されている場合には、回転速度算出部46は、推奨切削速度を満たすことを条件に軸回転速度を算出してもよい。あるいは、回転速度算出部46は、推奨切削速度を満たす軸回転速度のみならず推奨切削速度ではないが設定回転速度範囲内にある軸回転速度も含めて候補データとして算出してもよい。この場合、回転速度算出部46は、候補データのそれぞれについて推奨切削速度を具備するか否かに関する情報を付加して表示出力部52に供給することが好ましい。表示出力部52は、回転速度算出部46から受け取った回転速度の候補データのそれぞれについて、推奨切削速度であるか否かの情報表示と併せて表示部70に出力させてもよい。
【0044】
ここまで述べてきたような構成を含む加工支援装置100を用いることによって、オペレータは、ポリゴン加工プログラムをミスなく作成することが可能となり作成時における負担が軽減され得る。さらに、オペレータは、本装置の支援を得て、所望のポリゴン形状が手持ちの工具や機械で加工することができるか否かを事前に確認可能となる。
【0045】
ところで、ワークと回転工具を一定の比率で回転させることでワークをポリゴン形状に切削加工するとき、加工条件に応じて、ワークの各面が膨らんで形成される場合と、凹んで形成される場合がある。そのため、加工支援装置100の算出部40には、所定の条件下でポリゴン加工されるワークの各表面が膨らむか、あるいは凹むかの面形状を判定する面形状判定部48を含めておくことが好ましい。
【0046】
ポリゴン加工によるワーク各面の形状が凹凸いずれの形状を有するかの判定方法の一例を挙げると、ワークと回転工具間の回転速度比及び回転工具の刃数に応じて決定される。例えば、回転工具に取り付けられた刃数が3枚であるならば、
‐ 回転速度比<刃数のとき、ワーク表面は凸形状
‐ 回転速度比≧刃数のとき、ワーク表面は凹形状
となる。他方、回転工具に取り付けられた刃数が2枚であるならば、
‐ 回転速度比≦刃数のとき、ワーク表面は凸形状
‐ 回転速度比>刃数のとき、ワーク表面は凹形状
となる。
【0047】
図4は、ワークと回転工具間の回転速度比、回転工具の刃数、及びワーク表面の形状の対応関係の一例を示したものである。図4A図4Bともに、ポリゴン加工によって形成されるワークWの形状は六角形であることに変わりはない。しかしながら、ワークW23に対する工具回転速度の比が2であり工具の刃数が3枚(各刃の軌道:T、T及びT)である図4Aの加工の場合は、六角形状の各面はわずかに膨らみを有しているのに対して、ワークW32に対する工具回転速度の比が3であり工具の刃数が2枚(各刃の軌道:T及びT)である図4Bの加工の場合は、六角形状の各面はわずかに窪んでいる。
【0048】
面形状判定部48は、刃数入力受付部14を介するなどして得られた刃数に関する情報、及び回転速度比算出部42によって算出された回転速度比に基づいて、ポリゴン加工によって形成されるワーク各面の形状は凸形状に膨らむことになるか、あるいは凹形状に窪むことになるかを判定することができる。
【0049】
続いて、図5図7を参照しながら、本発明の別の実施態様について述べる。本態様は、ポリゴン加工において目標とするワークの寸法と実際に形成されるワークの寸法との差、いわば寸法誤差を算出することができるものである。
【0050】
本実施態様の機能的構成は、図2で示した加工支援装置100の態様と概ね同様であるが、入力受付部10及び算出部40では本態様に特有の構成が採られている。以下において、本態様の機能的構成を示すブロック図である図5を参照しながら本態様を具体的に説明する。しかしながら、本態様の装置が有する構成要素のうち図2で示す先の態様とも共通する構成要素については、冗長な表現又は重複した説明になることを避けるべく、図示及び説明をあえて省略しているものもある。
【0051】
図5で示すように、本実施態様に係る加工支援装置100が備える入力受付部10は、ポリゴン面数入力受付部12及び刃数入力受付部14に加えて、ワークに対するポリゴン加工に使用する回転工具の半径(r)に関する情報の入力を受け付ける工具半径入力受付部16を含む。入力受付部10はさらに、ポリゴン加工の対象となるワークの目標寸法に関する情報の入力を受け付ける目標寸法入力受付部18を含む。加工支援装置100は、入力された回転工具の半径(r)やワークの目標寸法を寸法誤差の算出に用いることができる。
【0052】
なお、ワークの目標寸法として、ポリゴン加工後のワークWの外形形状となる多角形の内接円の半径(r)を設定することができる。また、入力の段階ではワークWの外形形状となる多角形の内接円の直径の入力を受け付け、算出部40による算出処理によって内接円の半径rを取得しても構わない。
【0053】
本実施態様に係る加工支援装置100が備える算出部40は、予め定めておいた算出手法に基づいてワークの寸法誤差を算出する寸法誤差算出部49を含む。算出手法は例えば、予めROM112などの記憶装置に算出式を記憶しておくことができる。
【0054】
寸法誤差は、入力受付部10で受け付けた目標寸法とする内接円半径r、回転工具の半径r及びポリゴン面数n(図6の場合は六角形なのでn=6)に関する数値データ、並びに回転速度比算出部42で算出した回転速度比(sr)を用いて算出することができる。寸法誤差の算出式は、例えば
-(D×sin(-θ)+r×sin((sr-1)×θ)) …(1)
ここで、
D:回転工具の中心(O)とポリゴン加工されたワークの中心(O)間の距離
θ:360/n
という式を用いて算出することができる。
【0055】
この式において、(D×sin(-θ)+r×sin((sr-1)×θ))の計算結果は、図6を参照して説明すると、ワークの中心O、内接円半径rと接するワーク表面の一端部A、及び直角の頂点となるBを頂点とする直角三角形における角θの対辺rw2の長さに相当する。
【0056】
もちろん、寸法誤差の算出手法は上述の算出式(1)に限られることはなく、他の公知の算出手法又はそれを改良した算出手法によって寸法誤差を導出しても構わない。
【0057】
寸法誤差算出部49は表示出力部52と接続され、寸法誤差算出部49による寸法誤差の算出結果は表示出力部52に供給される。表示出力部52は、寸法誤差の算出結果を表示部70に表示させるための出力制御を実行する。
【0058】
本実施態様ではさらに、寸法誤差算出部49によって算出された寸法誤差を低減する調整が必要な場合に誤差の調整を支援可能な構成要素を加工支援装置100に設けておくことが好ましい。図5では、本実施態様のより好適な例に設けられる構成要素も図示しているため、以下において同図を参照しながらより好適な態様についての詳細な説明をする。
【0059】
入力受付部10は、オペレータによる入力部30の操作を介して寸法誤差の調整命令を受け付ける調整入力受付部62を含んでいることが好ましい。上述のとおり、寸法誤差算出部49により算出された寸法誤差の算出値は表示部70に表示される。そのため、オペレータは表示部70に表示された算出値を確認して確認した値が寸法誤差としては過大であると判断した場合には、加工条件を調整しての寸法誤差の再算出及び再算出した寸法誤差のさらなる出力を、入力部30の操作によって加工支援装置100に要求することができる。調整入力受付部62は、入力部30を介して寸法誤差の調整命令を受け付けた場合には、寸法誤差算出部49に加工条件を調整して寸法誤差の再算出を要求する調整命令信号を送信する。
【0060】
加工支援装置100は、調整入力受付部62とともに、あるいは調整入力受付部62に代えて、ポリゴン加工に際してどの程度の寸法誤差までを許容するかを設定する許容誤差設定部64を含んでいてもよい。許容誤差設定部64は、例えば、算出部40の構成要素としてのCPU111、ROM112などのハードウェアを用いて実現することができる。
【0061】
許容寸法誤差の設定は、オペレータによる事前入力に基づくものでも構わない。あるいは、許容寸法誤差の設定は、ポリゴン加工に使用する回転工具、形成しようとするポリゴン形状、ワークや工具の回転速度などに関する情報を工作機械200から得て、取得した情報に基づいて許容誤差設定部64が設定値を算出してもよい。
【0062】
算出部40は、好ましくは、許容誤差設定部64と接続されているとともに、寸法誤差算出部49とも相互通信可能に接続され、寸法誤差算出部49で算出した寸法誤差の数値を許容誤差設定部64に登録されている許容寸法誤差の設定値と比較する誤差比較部66を含んでいる。比較の結果、寸法誤差算出部49により算出された寸法誤差は許容寸法誤差を超えていると誤差比較部66が判定した場合には、寸法誤差を低減すべきとしてその判定結果を寸法誤差算出部49に通知する。
【0063】
調整入力受付部62から調整命令信号を受信した場合、又は、誤差比較部66から算出寸法誤差が許容寸法誤差を超えている旨の判定結果の通知信号を受信した場合には、寸法誤差算出部49は、寸法誤差の算出に用いるポリゴン加工条件を変更して寸法誤差を算出し直す。寸法誤差の再算出値導出のために変更するポリゴン加工条件は、例えば、回転工具の中心(O)とポリゴン加工されたワークの中心(O)間の距離D、又は、回転工具の回転速度である。
【0064】
寸法誤差算出部49は、調整後の寸法誤差を算出し直した後に、算出した調整後の寸法誤差に関する情報を表示出力部52に供給する。調整後の寸法誤差及びこれに関連する情報は、表示出力部52が処理する表示部70に対する出力制御によって表示部70に表示される。オペレータは、表示部70に表示された調整後の寸法誤差などを確認することができるので、表示結果を踏まえてポリゴン加工の実行開始の命令を入力してもよいし、加工支援装置100に対して寸法誤差のさらなる調整要求を入力してもよい。
【0065】
表示部70に表示される寸法誤差の調整前後におけるワークのポリゴン加工状態の例を図7に示す。同図において、図7Aは寸法誤差の調整前における工具の切削軌道(T、T、T)及び形成されるワークWのポリゴン形状を示す図、図7Bは調整後における工具の切削軌道(T、T、T)及び形成されるワークWadjのポリゴン形状を示す図である。
【0066】
図7の例で表示されるポリゴン加工は、回転速度比を1に設定して回転工具の刃数が3である場合の加工である。すなわち、図7Aで示すように、かかるポリゴン加工では各面が膨らみを有する三角形状のワークWが形成されることとなる。
【0067】
寸法誤差算出部49は、回転工具の中心(O)とポリゴン加工されたワークの中心(O)間の距離Dが変動したという設定条件にて、例えば上記の算出式(1)を用いて寸法誤差を算出し直す、すなわち寸法誤差を調整することができる。調整後の寸法誤差に関する情報もまた、表示出力部52を経て図7Bで示すように表示部70に表示される。図7A図7Bの表示画面の対比から明らかなように、寸法誤差を低減調整すべく距離Dを変動させた条件下での加工後ワークの表面形状は、調整前の形状と比較して極力平坦に、言い換えれば凹凸を可能な限り有さないように加工されることとなる。
【0068】
オペレータが加工支援装置100の支援を得て距離Dなどの最適な加工条件を決定した場合には、入力部30の操作を介して、当該加工条件でポリゴン加工を実行すべき命令を加工支援装置100に入力することができる。入力を受けた加工支援装置100は、決定した加工条件に関する情報を指令出力部54に出力して、指令出力部54の制御下における工作機械200を用いてのワークに対するポリゴン加工に反映されることとなる。
【0069】
次に、図8図9を参照しながら、本発明のさらに別の実施態様について述べる。以下に述べる態様の加工支援装置100によれば、ポリゴン加工中における回転工具に関する様々な判定又は算出を実行することができる。
【0070】
図8では、本態様に係る加工支援装置100における算出部40の構成の一例を示している。本態様例の場合、入力受付部10や出力部50の構成については図2に示す態様例と同様で構わないため、改めての図示や説明は省略する。
【0071】
ワークに対するポリゴン加工を実行する際、複数の刃を備える回転工具の対ポリゴン回転速度比が整数倍(2、3など)である場合には、多角形状に加工されるワークの各面はいずれも、1つの面ごとに単一の工具で切削される。しかしながら、複数の刃を備える回転工具の回転速度比が整数倍ではない場合(1.5、2.5など)には、面によっては複数の工具で切削される可能性がある。1つの面を複数の工具、より具体的には、摩耗度が異なる等して工具長等の条件が必ずしも一致しない複数の工具で切削することは、より精度の高い切削を図る観点からは避けるべきことである。図8で示す算出部40を有する加工支援装置100は、ワークの各面を切削する工具が、ある面の切削について回転毎に入れ替わるか否かを判定することができる。
【0072】
本例における算出部40は、回転速度比算出部42のほか、ワークの各面を切削する工具が、ある面の切削について回転毎に入れ替わるか否かを判定する入替判定部82を有する。算出部40が入力受付部10から回転工具の刃数及び加工すべきポリゴン面数に関するデータを受け取り、回転速度比算出部42によって回転速度比を算出した後、算出部40内の入替判定部82は、回転速度比算出部42によって算出された回転速度比を含む情報を受け取る。
【0073】
入替判定部82は、受け取った回転速度比に基づいて、ワークの各面を切削する工具の刃が、ある面の切削について回転毎に入れ替わるか否かを判定する。工具入替り有無の具体的な判定方法の一例をあげると、回転速度比算出部42によって算出された、ポリゴンに対する工具の回転速度比が整数であれば、入替判定部82は、ワークの各面はいずれも工具に取り付けられている刃のうち単一の刃で切削されるものと判定する。他方、回転速度比が整数でない場合には、入替判定部82は、ある面の切削について回転毎に切削刃が入れ替わることを判定する。
【0074】
算出部40は、入替判定部82がポリゴン加工中におけるワークのある面の切削について工具の刃の入替りがあると判定した場合には、表示出力部52に判定結果を送信する。刃の入替りがあるという判定結果を受信した表示出力部52は、当該判定結果を表示部70に表示させる処理、いわば判定結果をオペレータに通知する処理を実行する。
【0075】
入替判定部82による判定結果の表示部70への表示例を図9に示す。図9Aは、回転工具に取り付けられている刃数が2であり、ポリゴンに対する工具回転速度の比が1.5である場合、すなわち三角形状のワークを形成する場合の表示例である。図9Bは、回転工具に取り付けられている刃数が2であり、ポリゴンに対する工具回転速度の比が2.5である場合、すなわち五角形状のワークを形成する場合の表示例である。
【0076】
第1の刃による切削軌跡をT、第2の刃による切削軌跡をTとすると、図9Aで示すワークW9A図9Bで示すワークW9Bのいずれも、第1及び第2の刃の両方で切削される面(Wsf)が生じることが表示部70の表示画面から確認できる。
【0077】
表示部70を介して判定結果に関する通知を受けたオペレータは、必要に応じて、切削刃の入れ替わりがなくても済むように切削条件の変更(例えば、使用工具の変更又はワーク若しくは工具の回転速度の変更)をすることができる。
【0078】
そして図10では、本態様に係る加工支援装置100における入力受付部10及び算出部40の構成の一例を示している。なお、図10で具体的に示す構成要素の他にも、入力受付部10及び算出部40は図2で示す構成要素などを含み得るため、本実施態様の機能的構成は、図2で示した加工支援装置100の態様と概ね同様であるが、入力受付部10及び算出部40ではその一部に、本態様に特有の構成が採られている。以下において、本態様の機能的構成を示すブロック図である図10を参照しながら本態様を具体的に説明する。しかしながら、本態様の装置が有する構成要素のうち先の態様とも共通する構成要素については、冗長な表現又は重複した説明になることを避けるべく、図示及び説明をあえて省略しているものもある。
【0079】
ところで、ワークに対するポリゴン加工を実行する際、回転工具の刃数又はポリゴンに対する回転速度比が異なる場合には、回転工具の位相が同一であってもそれぞれの条件に応じてワークの回転角度は異なってくる。このことを、図11及び図12を参照しながら説明する。図11は、回転工具に取り付けられた刃の数が2つであり、なおかつポリゴンに対する工具回転速度の比が3であるときのワークの角度を、回転工具の位相別に示したものである。他方、図12は、回転工具に取り付けられた刃の数が3つであり、なおかつポリゴンに対する工具回転速度の比が2であるときのワークの角度を、回転工具の位相別に示したものである。
【0080】
図11Aないし図11Dは、回転工具の刃数が2、回転速度比が3の場合における位相0度、90度、180度及び270度の時点でのワークの回転角度の状態を示している。一連の図によれば、回転工具の位相が90度変化するごとにポリゴン加工中のワークは30度ずつ回転し、その結果、ワークが初期状態から90度回転するのは、回転工具の位相が270度変化したときになる。
【0081】
図12Aないし図12Dは、回転工具の刃数が3、回転速度比が2の場合における位相0度、90度、180度及び270度の時点でのワークの回転角度の状態を示している。一連の図によれば、回転工具の位相が90度変化するごとにポリゴン加工中のワークは45度ずつ回転し、その結果、ワークが初期状態から90度回転するのは、回転工具の位相が180度変化したときになる。
【0082】
このような、回転工具の刃数や回転速度比の違いに起因する工具の同一位相下におけるワークの回転角度の違いは、特に、ポリゴン加工前の円柱体状のワークが中心線に対して非対称な形状を採る場合、例えば、加工前円柱体状のワーク表面から1つの突起部が延伸している場合に非常に重要な意義を有する。図10で示す構成例は、このようなワークをポリゴン加工するときに特に有利となるものである。
【0083】
本例における入力受付部10は、オペレータによる入力部30の入力操作に応じてワークの回転角度に関する指定に関する入力を受け付ける角度入力受付部84を含む。また、本例における算出部40は、回転速度比算出部42に加えて、ポリゴン面数入力受付部12で入力を受け付けたポリゴン面数、刃数入力受付部14で入力を受け付けた回転工具の刃数及び回転速度比算出部42によって算出された回転速度比に基づいて、オペレータが指定したワークの回転角度を実現する回転工具の位相を算出する位相算出部86を含む。
【0084】
位相算出部86によって算出された、入力されたワークの指定角度に対応する位相に関する情報は、表示出力部52に送信され、最終的には例えば図11又は図12で示しているような表示形式で表示部70に表示される。
【0085】
続いて、図13を参照しながら、本発明のまたさらに別の実施態様について述べる。以下に述べる態様の加工支援装置100によれば、ポリゴン加工に使用可能な回転工具の候補が複数ある場合に、オペレータは表示部70を介してそれぞれの工具を使用したときの適・不適に関する加工支援情報を取得することができる。
【0086】
本態様に係る加工支援装置100の入力受付部10は、上述した各種の入力受付部12、14、16、18、62、84に加えて、ポリゴン加工時の使用候補となる複数型式の回転工具について、それらの刃数、回転半径などに関する情報の入力を受け付ける工具情報入力受付部88を含めることができる。工具情報入力受付部88は、上述した刃数入力受付部14及び工具半径入力受付部16を含んで構成されているとみなすこともできる。
【0087】
加工支援装置100は、工具情報入力受付部88に加えて、又は工具情報入力受付部88に代えて、ポリゴン加工時の使用候補となる複数型式の回転工具について、それらの刃数、回転半径などに関する情報を予め記録しておく工具情報記録部90を備えていてもよい。
【0088】
算出部40は、必要に応じて工具情報入力受付部88及び工具情報記録部90のうち少なくとも一方から取得した情報を用いて、ポリゴン加工時の使用候補となる回転工具のそれぞれについて、各種の算出処理又は判定処理を実行し、その結果をデータとして取得することができる。このときに算出部が実行可能な算出処理又は判定処理の例としては、回転速度比算出部42による加工可否の判定及び加工可能な場合には回転速度比の算出、回転速度算出部46による回転速度の算出、面形状判定部48によるポリゴン加工されるワークの表面形状の判定、寸法誤差算出部49による寸法誤差の算出、入替判定部82による刃の入れ替わりの有無に関する判定、及び位相算出部86によるワークの指定角度に対応する位相の算出のうち1つ以上が挙げられる。
【0089】
算出部40は、ポリゴン加工時の使用候補となる回転工具のそれぞれに対応する算出又は判定事項に関する結果のデータを、表示出力部52に送信する。
【0090】
これらの情報を受信した表示出力部52は、当該算出又は判定結果を回転工具の候補毎に表示部70に表示させる処理を実行する。その結果、表示部70では、複数の回転工具候補ごとに、ポリゴン加工可否の判定、回転速度比、工具及びワークの回転速度、ワークの表面形状並びに寸法誤差など、算出部40による算出又は判定の結果が表示される。これによって、加工支援装置100はオペレータによる最適な使用工具の選択を支援することができる。
【0091】
表示出力部52は、算出部40がポリゴン加工に使用することが可能であると判断した回転工具の候補を、算出部40による算出又は判定結果に基づく任意の加工条件に従って並び替えた上で表示部70に表示させるよう出力処理を実行する並替部92を含んでいることが好ましい。さらに、表示出力部52は、算出部40がポリゴン加工に使用することが可能であると判断した回転工具の候補のうち、任意の加工条件を満たす1又は複数の回転工具のみを選別(フィルタリング)して表示部70に表示させるよう出力処理を実行する選別部94を含んでいることが好ましい。
【0092】
回転工具の候補の並べ替え及び選別は、算出部40によって導き出された任意の算出結果又は判定結果、すなわち、加工可否の判定結果、回転速度から算出した加工時間、寸法誤差などの各種算出情報を用いて実行することができる。
【0093】
本態様によれば、複数の回転工具を保有しているオペレータは、表示部70に表示された複数の回転工具の候補から、最適な加工条件を実現する回転工具を事前に知ることができる。例えば、オペレータが最も重視する加工条件が加工時間である場合には、算出部40によって算出された回転速度が最も大きく、加工時間が最短となる回転工具を選択することができる。
【0094】
以上、ここまで本発明のいくつかの態様を述べてきたが、本発明を実施する具体的手法は上述の態様に制限されるものではない。本発明の実施が可能である限りにおいて適宜に設計や動作手順等の変更をなし得る。例えば、本発明に用いられる構成要素の機能発揮を補助する用に供する構成要素については、適宜に付加及び省略することも可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 入力受付部
12 ポリゴン面数入力受付部
14 刃数入力受付部
16 工具半径入力受付部
40 算出部
42 回転速度比算出部
44 速度範囲設定部
46 回転速度算出部
48 面形状判定部
49 寸法誤差算出部
52 表示出力部
82 入替判定部
84 角度入力受付部
86 位相算出部
92 並替部
94 選別部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図12D
図13