(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】切羽近傍性状計測装置
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
E21D9/093 E
(21)【出願番号】P 2024004158
(22)【出願日】2024-01-15
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000207780
【氏名又は名称】大豊建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高広
(72)【発明者】
【氏名】俵 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】平形 和広
(72)【発明者】
【氏名】小林 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】大久保 健治
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宣
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-207492(JP,A)
【文献】特開2002-004259(JP,A)
【文献】特開2021-107656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00~9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘進機で使用される切羽近傍性状計測装置であって、
前記トンネル掘進機内に格納されて切羽近傍位置まで到達する探査治具と、
前記探査治具を前記トンネル掘進機内と切羽近傍位置の間で進退移動させる進退手段と、
前記探査治具の変位量を検知する変位センサ、切羽近傍の土圧を計測する圧力計、及び/又は、切羽近傍の間隙水圧を計測する水圧計と、を
備え、
前記探査治具は、前記トンネル掘進機の隔壁からチャンバー内に突出する固定撹拌翼内又は格納箱内に格納されており、前記固定撹拌翼又は格納箱の先端から切羽まで到達するように構成されており、
前記進退手段は、シリンダ部とロッド部から構成され、前記固定撹拌翼内又は前記格納箱内に格納されており、前記ロッド部は、前記探査治具として兼用されて前記固定撹拌翼又は前記格納箱の先端から切羽まで到達するように構成されている、切羽近傍性状計測装置。
【請求項2】
トンネル掘進機で使用される切羽近傍性状計測装置であって、
前記トンネル掘進機内に格納されて切羽近傍位置まで到達する探査治具と、
前記探査治具を前記トンネル掘進機内と切羽近傍位置の間で進退移動させる進退手段と、
前記探査治具の変位量を検知する変位センサ、切羽近傍の土圧を計測する圧力計、及び/又は、切羽近傍の間隙水圧を計測する水圧計と、を
備え、
前記進退手段は、シリンダ部とロッド部から構成されるとともに、
前記シリンダ部を前記トンネル掘進機の隔壁からチャンバー内に進退移動させる機内側進退手段をさらに備える、切羽近傍性状計測装置。
【請求項3】
トンネル掘進機で使用される切羽近傍性状計測装置であって、
前記トンネル掘進機内に格納されて切羽近傍位置まで到達する探査治具と、
前記探査治具を前記トンネル掘進機内と切羽近傍位置の間で進退移動させる進退手段と、
前記探査治具の変位量を検知する変位センサ、切羽近傍の土圧を計測する圧力計、及び/又は、切羽近傍の間隙水圧を計測する水圧計と、を
備え、
前記探査治具は、前記トンネル掘進機のカッタヘッド面板部、及び/又は、中間ビームに格納されており、切羽まで到達するように構成されている、切羽近傍性状計測装置。
【請求項4】
カッタスポークは、後方側に移動撹拌翼又は格納箱を有し、前記探査治具又は前記進退手段の少なくとも一部分は、前記移動撹拌翼内又は前記格納箱内に格納されている、
請求項3に記載された、切羽近傍性状計測装置。
【請求項5】
前記探査治具の先端が、カッタビットになっている、
請求項3に記載された、切羽近傍性状計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機、トンネルボーリングマシン等を含むトンネル掘進機において機内から、切羽近傍の変位、切羽近傍の土圧、切羽近傍の間隙水圧、チャンバー内の圧力、及び/又は、チャンバー内の間隙水圧、を含む切羽近傍性状を計測するための切羽近傍性状計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シールド工事においては、地上からのボーリング孔を利用した傾斜計等でシールドマシン前方や周辺の地盤変形を計測している。この場合、地上の環境条件により道路規制が発生したり、土被りの問題から任意の箇所での計測が行えなかったりする場合が多く発生している。本発明は、任意の位置において切羽近傍(例えば前方)の変位、土圧、及び/又は、間隙水圧を含む、切羽近傍性状を直接計測する装置に関するものである。
【0003】
ここにおいて、本発明で言う「切羽近傍」とはシールド機カッタヘッドと接する切羽面、切羽前方(1D程度)、及び、シールド外周の外側(1D程度)の範囲を意味するものとするが(D:掘削外径)、特に、切羽及び切羽前方(1D程度)の性状を計測できることが好ましい。
【0004】
例えば、トンネル掘進機のうち土圧式シールドにおいて、適正なチャンバー内の圧力管理が行われていれば、切羽が大きく変位することはなく、結果的に周辺地盤の変位を抑制できる。従来の土圧式シールドにおけるチャンバー内泥土圧の管理手法には、以下に示す1)の手法と2)の手法がある。
【0005】
1)事前の土質調査により推定される対象地盤の土質定数(φ、C、γ等)、地下水位や上載荷重から土圧の算定式を用いて、主働土圧、受働土圧や静止土圧などを算定し、その数値を基に、チャンバー内泥土圧の上限値と下限値を設定して管理する方法(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
2)シールドの停止時に測定される停止時チャンバー内泥土圧を基に、管理土圧を設定する方法(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-233372号公報
【文献】「シールドトンネル工事の安全・安心な施工に関するガイドライン」シールドトンネル施工技術検討会、令和3年12月、P.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
手法1)の課題:
事前の土質調査は通常ボーリングにより実施されるが、その頻度は路線延長に対して200m間隔程度で行われることが多い。したがって、その間で土質条件等が変化する場合などには、適正な管理圧力を算定できないことがある。また、土圧の算定式自体が理論的なものであることから、必ずしも実際の地盤の土圧を正確に算定できているとは限らない。
【0009】
また、シールド掘進路線は、地上が道路設備等に計画されることがほとんどであり、地上からのボーリングや計測手段を実現させる作業を行うためには、道路規制が伴うことから、密な頻度で切羽近傍地盤の変状計測作業を行うことができない。また、都心部における計画深さは大深度となるほか、地上との中間部に供用中のトンネル構造物やライフラインが存在することが多く、物理的に実施できないこともある。
【0010】
さらに、ボーリングによる計測手段でシールドマシン前面の変位計測を行う場合は、シールドマシンが測定位置に到達する前に測定機を回収する必要があるため、掘進を一時中断する必要がある。また、ボーリング孔が水路となって泥水の奮発等の弊害が発生するおそれもある。
【0011】
手法2)の課題:
シールドの停止時に測定される停止時泥土圧は、シールド自体が動くことがなく、カッタに面板がない場合には切羽に作用する土圧を比較的正確に反映していると考えられるが、これらの条件が維持されない場合などには、停止時土圧が地盤の静止土圧もしくは主働土圧を表しているとは限らない。
【0012】
上記のようなチャンバー内の圧力管理手法では、地盤の条件等が変化するような場合などには適正な管理圧力を設定できない可能性がある。
【0013】
そこで、本発明は、地上からの切羽近傍変位計測手段ではなく、切羽近傍性状をシールドマシン機内、又は、トンネルボーリングマシン機内を含むトンネル掘進機内から直接計測することで、地上や中間部の条件に関わらず任意の位置で、また、作業の中断や弊害を発生させることなく、掘進機周辺(特に前面)における地盤性状を計測できる、切羽近傍性状計測装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明の切羽近傍性状計測装置は、トンネル掘進機において使用される切羽近傍性状計測装置であって、前記トンネル掘進機内に格納されて切羽近傍まで到達する探査治具と、前記探査治具を前記トンネル掘進機と切羽近傍の間で進退移動させる進退手段と、前記探査治具の変位量を検知する変位センサ、切羽近傍の土圧を計測する圧力計、及び/又は、切羽近傍の間隙水圧を計測する水圧計と、を備えている。ここにおいて、「トンネル掘進機内」とは、隔壁より後方側(坑口側)を含む領域であることはもちろんであるが、他にも、カッタスポーク、カッタ後方や隔壁前方に設置する格納箱、カッタ面板、撹拌翼の内部をも含む領域である。
【0015】
また、本発明の管理土圧の設定システムは、トンネル掘進機における管理土圧の設定システムであって、チャンバー内の泥土圧を計測する圧力計と、前記チャンバー内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段と、上述した切羽近傍性状計測装置と、計測された泥土圧と計測された切羽変位に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部と、を備えている。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明の切羽近傍性状計測装置は、トンネル掘進機内に格納されて切羽近傍まで到達する探査治具と、探査治具を掘進機と切羽近傍の間で進退移動させる進退手段と、探査治具の変位量を検知する変位センサ、切羽近傍の土圧を計測する土圧計、及び/又は、切羽近傍の間隙水圧を計測する水圧計と、を備えている。したがって、任意の測定位置で、切羽近傍の性状を実測値に基づいて正確に検出できる。
【0017】
また、本発明のトンネル掘進機における管理土圧の設定システムは、チャンバー内の泥土圧を計測する圧力計と、チャンバー内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段と、上述した切羽近傍性状計測装置と、計測された泥土圧と計測された切羽近傍の変位に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部と、を備えている。したがって、仮定や推定による管理圧力の設定ではなく、切羽近傍変位を直接計測することで管理圧力の妥当性を確認できる、トンネル掘進機における管理土圧の設定システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】シールド掘進機の内部構造を説明する断面図である。
【
図2】実施例1の切羽近傍性状計測装置の格納時の構成について説明する断面図である。
【
図3】実施例1の切羽近傍性状計測装置の切羽到達時の構成について説明する断面図である。
【
図4】探査治具の先端形状のバリエーションについて説明する説明図である。
【
図5】第1、第2変形例の切羽近傍性状計測装置の構成について説明する断面図である。
【
図6】第3変形例の切羽近傍性状計測装置の格納時の構成について説明する断面図である。
【
図7】第3変形例の切羽近傍性状計測装置の構成の説明図である。(a)は途中の構成であり、(b)は切羽到達時の構成である。
【
図8】第4変形例の切羽近傍性状計測装置の構成の説明図である。
【
図9】第5変形例の切羽近傍性状計測装置の構成の説明図である。
【
図10】管理土圧の設定システムの手順について説明するフローチャートである。
【
図11】減圧試験による泥土圧-水平変位の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、以下では、トンネル掘進機として土圧式シールド1を例として説明するが、他の形式のトンネル掘進機、例えば泥水シールド、泥土圧シールド、気泡シールド、泥漿シールド、泥濃シールド、トンネルボーリングマシンであっても本発明を適用できる。
【実施例】
【0020】
(シールド掘進機の構成)
図1は、本発明の実施例を示す縦断側面図である。本実施例のトンネル掘進機としての土圧式シールド1は、
図1に示すように、スキンプレート(シールド本体筒)2と、隔壁3と、カッタヘッド5と、カッタ回転軸10と、カッタ駆動部12と、チャンバー16と、排土装置17と、シールド推進ジャッキ18と、作泥土材供給配管21と、圧力計22と、水圧計23と、操作室内部等に配置された解析部41及び設定部42を含む制御部40を備えている。
【0021】
カッタヘッド5は、カッタスポーク51と、カッタスポーク51の前面に設けられた複数のカッタビット52、・・・と、カッタスポーク51の前面中央部に設けられたフィッシュテールビット53と、カッタスポーク51の背面に設けられた複数の撹拌翼54、・・・とを有している。カッタヘッド5はカッタ回転軸10に一体に取り付けられている。
【0022】
カッタ回転軸10は、隔壁3に設けられた軸受11と、後述のギアボックス13の後部に設けられた軸受とに回転自在に支持されている。カッタ回転軸10はカッタ駆動部12に連結されている。カッタ駆動部12は、隔壁3の背面側に設置されたギアボックス13と、ギアボックス13に接続された回転駆動源14と、回転駆動源14の出力軸とカッタ回転軸10の間に介在する減速歯車(ギアボックス13内に配置;図示省略)とを有している。
【0023】
チャンバー16は、スキンプレート2のフード部2aと、隔壁3と、切羽Fに囲まれた空間にて形成されている。排土装置17としては、例えばスクリューコンベアが用いられる。排土装置17における泥土取り込み口は、チャンバー16に臨むように開口・設置されている。そして、本実施例では、排土装置17は、泥土圧変化手段としての機能も備えている。
【0024】
さらに、スキンプレート2のテール部2bには、セグメント90を組み立てるためのエレクター15が設置されている。さらに、シールド推進ジャッキ18は、スキンプレート2の内部において、円周方向に所要の間隔をおいて複数基設置されている。この他、スキンプレート2の後端部には、テールシール19が設けられている。
【0025】
(切羽近傍性状計測装置6の構成)
そして、本実施例のシールド掘進機としての土圧式シールド1は、切羽及び/又は切羽近傍の変位を計測する切羽近傍性状計測装置6をさらに備えている。ここでは、
図2、
図3を用いて、機内から切羽近傍の性状を計測する機内計測式の切羽近傍性状計測装置6について説明する。ここにおいて、切羽近傍の性状とは、切羽近傍の変位、切羽近傍の土圧、又は、切羽近傍の間隙水圧の3つの性状のうちの少なくともいずれか1つを指すものとし、2つ以上の性状を計測するものであってもよい。
【0026】
本実施例の切羽近傍性状計測装置6は、
図2に示すように、隔壁3と固定撹拌翼55を貫通して先端610が切羽近傍FAまで到達、当接又は貫入する十分な長さを有する棒状の探査治具61と、この探査治具61を把持/開放することで進退手段としてのジャッキ62、62の伸縮に伴って探査治具61を移動/開放させる油圧チャック63と、探査治具61の末端にこれと一体に取り付けられる検知部64と、検知部64のスライド移動をサポートするガイド65と、検知部64との距離を計測することで探査治具61の変位量を計測する変位センサ66と、探査治具61の止水装置67と、止水用のバルブ68、68Aと、から構成されている。ここにおいて本実施例の切羽近傍性状計測装置6は、切羽近傍の性状として、切羽近傍の「変位」を計測する場合について説明する。
【0027】
つまり、本実施例では、探査治具61は、隔壁3からチャンバー16内に突出する固定撹拌翼55に出没自在(進退自在;出入自在)に格納されている。すなわち、固定撹拌翼55には、断面中央に軸線方向に沿って孔(探査治具61の棒状の本体部613が挿入される)が貫通形成されている。このようにして、探査治具61(の先端610)は、固定撹拌翼55の先端から、切羽近傍FAまで移動・到達し、当接又は貫入するようになっている。なお、本実施例では固定攪拌翼を利用して探査治具を切羽近傍まで移動・到達し当接又は貫入すると表現しているが、同様の形状(例えば、専用の格納箱55Aを別途用意)であれば固定攪拌翼の用途を満たさなくてもよい。
【0028】
探査治具61は、棒状の本体部613と、本体部の先端に形成された先端610と、から構成されている。本体部の末端は、油圧チャック63によって把持されている。先端610の形状は、
図4(a)~(f)を用いて後述するように、突出形成された円錐部611aでもよいし、拡径されたつば部612と、つば部612の中央に円錐部611a等を組み合わせた形状としてもよい。
【0029】
したがって、油圧チャック63で探査治具61を把持した状態では、ジャッキ62、62が伸びると探査治具61は後退し、ジャッキ62が縮むと探査治具61は前進するようになっている。そして、油圧チャック63を開放した状態では、探査治具61は自由な状態となる。したがって、開放状態(探査治具61は自由に移動できる)では、探査治具61の先端610が切羽近傍FAと当接又は貫入していれば、切羽近傍FAの変位に合わせて探査治具61が(トンネル縦断方向に)移動する。後述するように、本発明では、チャンバー16内の泥土圧を減圧することによって切羽近傍FAが微小にせり出すため、探査治具61はトンネル縦断方向で坑口方向に移動することになる。
【0030】
(操作手順)
次に、
図2と
図3を用いて、本実施例の減圧試験における、探査治具61と、進退手段としてのジャッキ62と、変位センサ66と、を備える切羽近傍性状計測装置6の操作手順について説明する。
1.シールド掘進時、探査治具61は固定撹拌翼55位置まで縮めた状態となっている(
図2)。すなわち、ジャッキ62が延ばされることで、探査治具61は、固定撹拌翼55の先端に収容されている。
2.シールド停止後、油圧チャック63で探査治具61を把持して先端610が切羽F面又は切羽近傍FAに当接又は貫入する位置までスライドさせる(
図3参照)。このときジャッキ62は縮められる。
3.探査治具61の先端610を切羽F又は切羽近傍FAに当接又は貫入させた後に、油圧チャック63を開放する。これにより、探査治具61がトンネル縦断方向(前後方向)に拘束されずに自由に移動可能となる。
4.排土手段(排土装置17)を微速で稼働させ、チャンバー16内の泥土圧を少しずつ減圧する。
5.減圧に伴って、切羽F又は切羽近傍FAが変位するとその変位により探査治具61がシールド内に向かって押される。
6.探査治具61には、シールド内に計測装置(検知部64、変位センサ66)が取り付けられている。変位量は、検知部64を通して変位センサ66で計測される。
7.変位センサ66から計測値がPCへ送られる。同時に隔壁3に設けた圧力計22によりチャンバー16内泥土圧が計測される。
8.上記の手順によりチャンバー16内泥土圧と切羽F又は切羽近傍FAの変位量の関係を求める。
9.切羽近傍変位における遷移領域(降伏点を含む)の全部もしくは一部が明らかになった時点で、減圧試験を停止する。
10.そして、例えば、排土手段(排土装置17)を逆転し泥土を戻してチャンバー16内泥土圧を初期の状態まで増圧する。
11.油圧チャック63で探査治具61を再び把持して、ジャッキ62操作により引き戻し、探査治具61を固定撹拌翼55位置まで縮める(
図2参照)。このときジャッキ62は伸ばされる。
【0031】
(探査治具の先端のバリエーション)
ここで、
図4(a)~(f)を用いて、探査治具61の先端610の様々な態様について説明する。なお、探査治具61の先端610は、以下で説明する実施例や変形例に限定されるものではない。
【0032】
まず、
図4(a)に示すように、実施例の探査治具61の先端610は、先端から突出した円錐部611aで構成される。
【0033】
次に、
図4(b)に示すように、実施例の探査治具61の先端610は、つば部612と、先端から突出した円錐部611aと、から構成される。このようにつば部612があることで、先端610が地山と一体に(手前側に;坑口側に)移動しやすくなる。
【0034】
次に、
図4(c)に示すように、変形例の先端610は、つば部612と、先端に円錐形状の「返し」を有する1本(細径)の矢印部611bと、から構成される。このように返しがあることで、地山に刺さった先端610が地山と一体になって抜けにくくなる。
【0035】
次に、
図4(d)に示すように、別の変形例の先端610は、つば部612と、先端に円錐形状の返しを有する複数(ここでは2本;細径)の矢印部611b、611bと、から構成される。このように複数の矢印部611b、・・・があることで、地山に刺さった先端610がいっそう抜けにくくなる。
【0036】
次に、
図4(e)に示すように、別の変形例の先端610は、つば部612と、先端にドリル形状を有するドリル部611cと、から構成される。このようにドリル部611cがあることで、地山に刺さった先端610が地山と一体になって抜けにくくなる。なお、ドリル部611cは、軸線回りに自由に回転できるようになっていることが好ましい。
【0037】
次に、
図4(f)に示すように、別の変形例の先端610は、つば部(612)がなく、先端に円錐形状の返しを有する1本(細径)の矢印部611bのみから構成される。このように、つば部がないことで、チャンバー16内を通りやすくなる。
【0038】
(第1変形例:切羽近傍性状計測装置6Aの構成)
次に、
図5を用いて、第1変形例の切羽近傍性状計測装置6Aの構成について説明する。
図5の上部に示すように、本変形例の切羽近傍性状計測装置6Aは、進退手段としてのジャッキ62のシリンダ部62aとロッド部62bとが、固定撹拌翼55内に格納されている。すなわち、実施例では、ジャッキ62が隔壁3の後方(機内側)にとりつく構成であったが、本変形例では、ジャッキ62が隔壁3を貫通しており、固定撹拌翼55内、又は、格納箱55A内に収まるようになっている。本変形例の切羽近傍性状計測装置6Aは、切羽近傍の性状として、切羽近傍の「変位」を計測する場合について説明する。
【0039】
そして、ジャッキ62のロッド部62bが探査治具61となっており、固定撹拌翼55、又は、格納箱55Aの先端から突出して切羽近傍FAまで到達・当接又は貫入するようになっている。変位計測手法は、具体的に言うと、探査治具61(62b)の断面中心には、軸線方向に沿って貫通孔が設けられており、変位センサ66のロッドが挿入されている。そして、探査治具61が前後に摺動すると、探査治具61に取付けてある検知部64と変位センサ66のロッドの相対変位量を計測できるようになっている。
【0040】
この場合の計測手順は以下の通りとなる。
1)シールド掘進中は、探査治具61であるロッド部62bは、固定撹拌翼55中、又は、格納箱55A中に収納されている。
2)シールド停止時に、ジャッキ62を操作することで、探査治具61(すなわちロッド部62b)を前方に伸ばし先端を切羽近傍FAに当接又は貫入させる。
3)探査治具61を切羽近傍FAに確実に当接又は貫入させてからジャッキ62の油圧をフリーにして、探査治具61が、自由に動く状態とする。
4)この状態とすれば、切羽近傍FAが変位すると、探査治具61が押し戻され検知部64と変位センサ66によって変位量を測定できる。
本変形例では、探査治具61を摺動させるジャッキ62のシリンダ部62aが隔壁を貫通して固定撹拌翼55内、又は、格納箱55A内に配置されているため、実施例と比べて隔壁3後方への突出量をさらに短くできる。
【0041】
(第2変形例:切羽近傍性状計測装置6Bの構成)
次に、
図5を用いて、第2変形例の切羽近傍性状計測装置6Bの構成について説明する。
図5の中央部に示すように、本変形例の切羽近傍性状計測装置6Bは、進退手段としてのジャッキ62のシリンダ部62aとロッド部62bとが、カッタスポーク51内に格納されている。すなわち、実施例では、ジャッキ62が隔壁3の後方(機内側)にとりつく構成であったが、本変形例では、ジャッキ62がカッタスポーク51内に収まるようになっている。本変形例の切羽近傍性状計測装置6Bは、切羽の性状として、切羽の「変位」を計測する場合について説明する。
【0042】
さらに言うと、本変形例では、切羽近傍性状計測装置6Bの長さが、カッタスポーク51の奥行よりも長くなる場合には、切羽近傍性状計測装置6Bの後部は(移動)撹拌翼54の内部に配置させてもよい。この時、装置を配置できる大きさを有していれば(例えば格納箱54Aを利用)、(移動)攪拌翼の用途を満たさなくてもよい。そして、ジャッキ62のロッド部62bが探査治具61となっており、カッタスポーク51の切羽側の表面から突出して切羽近傍FAまで到達・当接又は貫入するようになっている。
【0043】
変位計測手法は、第1変形例と同様に、探査治具61(62b)の断面中心には、軸線方向に沿って貫通孔が設けられており、変位センサ66のロッドが挿入されている。なお、カッタビット52を先端610とする場合には、カッタスポーク51の切羽側に貫通孔が設けられている。そして、探査治具61が前後に摺動すると、探査治具61に取付けてある検知部64と変位センサ66のロッドの相対変位量を計測できるようになっている。この際、ジャッキ62を駆動するための作動油用ラインや変位センサ66からの信号線は、カッタ回転軸10を通じて隔壁3後方のシールド機内まで通じている。なお、計測手順は、第1変形例の切羽近傍性状計測装置6Aと同様であるから説明を省略する。
【0044】
(第3変形例:切羽近傍性状計測装置6Cの構成)
次に、
図6を用いて、第3変形例の切羽近傍性状計測装置6Cの構成について説明する。
図6に示すように、本変形例の切羽近傍性状計測装置6Cは、進退手段かつ探査治具としてのジャッキ62(シリンダ部62aとロッド部62b)が、機内側から隔壁3を通じてチャンバー16内に進退移動するようになっている。すなわち、実施例では、ジャッキ62が隔壁3の後方(機内側)にとりつく構成であったが、本変形例では、ジャッキ62(兼用探査治具61)自体が機内側進退手段としての第2ジャッキ69、69によって進退移動するようにされている。本変形例の切羽近傍性状計測装置6Cは、切羽の性状として、切羽の「変位」を計測する場合について説明する。
【0045】
つまり、本変形例では、第1変形例で説明した固定撹拌翼55内、又は、格納箱55A内のジャッキ62をスライド構造としている。具体的には、ジャッキ62は、ブラケット70を介して機内側進退手段としての第2ジャッキ69、69に保持されており、第2ジャッキ69、69は、隔壁3の背面側に反力をとるように取り付けられている。したがって、第2ジャッキ69を伸ばすことでジャッキ62は機内側に移動し、第2ジャッキ69を縮めるとジャッキ62は切羽F側に移動する。そして、第2ジャッキ69を縮めてジャッキ62が切羽F側にある状態で、ジャッキ62を伸ばしてロッド部62bが切羽近傍FAに当接又は貫入するようになる。
【0046】
変位計測手法は、第1、第2変形例と同様に、探査治具61(62b)の断面中心には、軸線方向に沿って貫通孔が設けられており、変位センサ66のロッドが挿入されている。そして、探査治具61が前後に摺動すると、探査治具61に取付けてある検知部64と変位センサ66のロッドの相対変位量を計測できるようになっている。
【0047】
この場合の計測手順は、以下の通りとなる。
1)シールド掘進中は、探査治具61であるロッド部62bは、隔壁3の機内側に収納されている(
図6参照)。
2)シールド停止時に、第2ジャッキ69を縮めることで、ジャッキ62を前方に移動させる(
図7(a)参照)。
3)その後、ジャッキ62を伸ばして、ロッド部62bすなわち探査治具61を切羽近傍まで到達・当接又は貫入させる(
図7(b)参照)。
4)探査治具61を切羽Fに確実に当接ないしは貫入させてからジャッキ62の油圧をフリーにして、探査治具61が、自由に動く状態とする。
5)この状態とすれば、切羽近傍FAが変位すると、探査治具61が押し戻され検知部64と変位センサ66によって変位量を測定できる。
【0048】
このように必要ストロークを2段階に分解することで、切羽近傍性状計測装置6Cの機内への突出量を抑えた構造となる。掘進中は、
図6の状態となるため、チャンバー16内に固定撹拌翼(55)が突出していない構造となる。この構造であれば、掘削地盤中に大きい礫がある場合の礫噛み込みによる切羽近傍性状計測装置6Cの変形・損傷を防止できる。
【0049】
(第4変形例:切羽近傍性状計測装置6Dの構成)
次に、
図8を用いて、第4変形例の切羽近傍性状計測装置6Dの構成について説明する。
図8に示すように、本変形例の切羽近傍性状計測装置6Dは、進退手段としてのジャッキ62のシリンダ部62aとロッド部62bとが、カッタスポーク51及び撹拌翼54内に格納されている。なお、カッタスポーク51のサイズが十分に大きければ、切羽近傍性状計測装置6Dを、攪拌翼(54)を利用せずにカッタスポーク51内に格納することも可能である。また、後方に突出させるとしても、必ずしも攪拌翼(54)の機能を持たせる必要はない。例えば、装置を格納できる十分な大きさの格納箱54Aを新たに設けてもよい。すなわち、実施例では、ジャッキ62が隔壁3の後方(機内側)にとりつく構成であったが、本変形例では、第2変形例と同様に、ジャッキ62がカッタスポーク51内及び撹拌翼54内、又は、格納箱54A内に収まるようになっている。本変形例の切羽近傍性状計測装置6Dは、切羽近傍の性状として、切羽近傍の「土圧」を計測する場合について説明する。
【0050】
より詳細に言うと、本変形例では、切羽近傍性状計測装置6Dの長さが、カッタスポーク51の奥行よりも長くなるため、切羽近傍性状計測装置6Dの後部は(移動)撹拌翼54の内部に配置させるようになっている。そして、ジャッキ62のロッド部62bが探査治具61と一体になっており、探査治具61の切羽側に設置されたカッタビット52が切羽近傍FAまで到達・当接又は貫入するようになっている。
【0051】
本変形例においては、ロッド部62bの先端610が、カッタビット52と一体になっている。この場合、計測実施時以外、例えば掘削作業中においては、その他のカッタビット52よりも後方側に引っ込めておくことで、カッタビット52の摩耗や計測器の破損を防ぐことが可能となる。さらに、カッタスポーク51は回転するため、円周上の任意位置での測定が可能となることから、測定位置の幅を広げることができる。
【0052】
さらに、本実施例の切羽近傍性状計測装置6Dでは、ロッド部62bの先端610がカッタビット52になっている。したがって、掘進停止前に探査治具61を切羽近傍FAの位置まで伸長させて掘進するように構成すれば、貫入が難しい硬質な地盤においても、探査治具61を切羽に確実に当接させることが可能となる。
【0053】
加えて、切羽近傍性状計測装置6Dは、実施例と同様の変位センサ66に加えて、切羽近傍FAの土圧を計測するための土圧計22Aも有している。そして、この変形例では、土圧計22Aは、カッタビット52の略中央に設けた凹部に埋設されるようになっている。前述したように、カッタビット52は、ジャッキ62と一体の探査治具61の切羽側(先端側)に取り付けられるため、ジャッキ62の作動によって進退移動可能となっている。
【0054】
なお、この変形例では、カッタビット52に土圧計22Aを設置する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、土圧計22Aではなく水圧計23Aを設置して間隙水圧を計測してもよい。これらの計測機器は、実施例で説明したように、カッタビット52中央位置に配置しなくてもよいし、カッタビット52側面やカッタスポーク51に配置してもよい。その場合、同じ深度位置に取り付けることが、より好ましい。
【0055】
(第5変形例:切羽近傍性状計測装置6Eの構成)
次に、
図9を用いて、第5変形例の切羽近傍性状計測装置6Eの構成について説明する。
図9に示すように、本変形例の切羽近傍性状計測装置6Eは、第4変形例同様に進退手段としてのジャッキ62のシリンダ部62aとロッド部62bとが、カッタスポーク51及び(移動)撹拌翼54内、又は、格納箱54A内に格納されている。なお、カッタスポーク51のサイズが十分に大きければ、攪拌翼等を利用せずにカッタスポーク51内に格納することも可能である。また、格納が必要となる場合でも、必ずしも攪拌翼の機能を持たせる必要はなく、装置を格納する大きさがあればよい。すなわち、実施例では、ジャッキ62が隔壁3の後方(機内側)にとりつく構成であったが、本変形例では、第2・4変形例と同様に、ジャッキ62がカッタスポーク51及び(移動)撹拌翼54内、又は、格納箱54A内に収まるようになっている。本変形例の切羽近傍性状計測装置6Eは、切羽近傍の性状として、切羽近傍の「土圧」、及び、「チャンバー内の圧力」を計測する場合について説明する。
【0056】
より詳細に言うと、本変形例では、切羽近傍性状計測装置6Eの長さが、カッタスポーク51の奥行よりも長くなるため、切羽近傍性状計測装置6Eの後部は、(移動)撹拌翼54、又は、格納箱54Aの内部に配置される。そして、ジャッキ62のロッド部62bが探査治具61と一体になっており、探査治具61の切羽側に設置されたカッタビット52が切羽近傍FAまで到達し、当接又は貫入するようになっている。
【0057】
本変形例においては、ビット52先端と後続部分が同一の断面形状となっている。これにより、切羽近傍への貫入がより容易となる他、切羽近傍性状装置6Eを回収・格納する際の、機内(カッタスポーク)への土砂の誤取込みを防止することができる(
図9参照)。また、第4変形例と同様に、掘進停止前に探査治具61を切羽近傍FAの位置まで伸長させて掘進するように構成すれば、貫入が難しい硬質な地盤においても、探査治具61を切羽に確実に当接させることが可能となる。
【0058】
そして、本変形例においては、ロッド部62bの先端610が、カッタビット52と一体になっている。この場合、計測時以外-例えば掘削作業中-においては、その他のカッタビット52よりも後方側に引っ込めておくことで、カッタビット52の摩耗や計測器の破損を防ぐことが可能となる。さらに、カッタスポーク51は回転するため、円周上の任意位置での測定が可能となることから、測定位置の幅を広げることができる。
【0059】
加えて、切羽近傍性状計測装置6Eは、実施例と同様の変位センサ66に加えて、切羽近傍FAの土圧を計測するための土圧計22Aも有している。そして、この変形例では、土圧計22Aは、カッタビット52の略中央に設けた凹部に埋設されるようになっている他、ビット側部(先端位置より後方)に1つ以上備えている。前述したように、カッタビット52は、ジャッキ62と一体の探査治具61の切羽側(先端側)に取り付けられるため、ジャッキ62の作動によって進退移動可能となっている。
【0060】
本変形例では、切羽近傍にカッタビット52に貫入させることで、切羽近傍の土圧、およびチャンバー内の圧力(泥土圧)をそれぞれ計測することが可能となる。
【0061】
なお、本変形例では、カッタビット52に土圧計22Aを設置する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、第4変形例同様に、土圧計22Aではなく水圧計23Aを設置して間隙水圧を計測してもよい。これによって、切羽近傍における間隙水圧およびチャンバー内の間隙水圧を測定することが可能となる。
【0062】
(管理土圧の設定システムの構成)
この他、土圧式シールド1は、制御部40をさらに備えている(
図1参照)。制御部40は、例えば、メモリ、CPU、SSDなどを有する汎用のパーソナルコンピュータである。制御部40では、土圧式シールド1の管理土圧が設定されて掘進を制御する。すなわち、掘進中は、シールド推進ジャッキ18によって土圧式シールド1を前進させつつ、泥土圧変化手段としての排土装置17(スクリューコンベア)によって泥土を排出することで泥土圧を変化させ、同時に圧力計22によって泥土圧を計測している。さらに、水圧計23によって、水圧が計測されている。なお、後述する解析部41及び設定部42の機能は、土圧式シールド1の掘進を制御する制御部40とは別個の制御部(演算装置;パーソナルコンピュータ)で実行することももちろん可能である。この意味で、制御部は「演算部」と称することもできる。
【0063】
そして、本実施例の制御部40は、計測された泥土圧、計測された切羽近傍の変位(例えば水平変位)、計測された間隙水圧等の切羽近傍の性状に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部41としての機能と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部42としての機能と、をさらに有している。なお、制御部40には、通信ケーブル43を介して、圧力計22(22A)からの土圧値、水圧計23(23A)からの間隙水圧値、及び、変位センサ66からの入力値(変位)が入力される他、キーボードやマウスといった入力手段が接続されている。さらに、制御部40には、出力手段としてモニタや別の掘進管理用のPCなどが接続されている。解析部41と設定部42の機能については、次に説明する制御フローにおいて説明する。
【0064】
そして、上述した圧力計22と、水圧計23と、泥土圧変化手段としての排土装置17と、切羽近傍性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)と、解析部41及び設定部42を含む制御部40と、によって、本発明の管理土圧の設定システムSが構成されている。
【0065】
(作用)
次に、
図10~
図11を用いて、本実施例の管理土圧の設定システムSのフローについて説明する。
図10に示すように、管理土圧の設定システムSのフローは、以下のステップS1~S14を実行することによって実現される。
【0066】
・初期値の処理(ステップS1)
はじめに、ボーリング試験等によって設定されている初期算定土圧に基づいて(ステップS1)、管理土圧の初期値を設定する(ステップS2)。そして、この管理土圧の初期値にしたがって、シールドを掘進していく(ステップS3)。つまり、シールドが掘進を開始して初期の段階(減圧試験実施前)では、事前土質調査による土質定数から算出した理論土圧を基に管理土圧を設定する。または、3D-FEMモデルに事前土質調査による地盤の力学定数を与え、土圧と地盤の変位関係から管理土圧を設定する。
【0067】
・減圧試験(ステップS4~S8)
次に、シールド掘進機が停止して後退させない状態で、チャンバー内泥土圧を減圧する(ステップS4)。すなわち、セグメント90の組立時などの掘進停止時において、スクリューコンベアを微速で回転させることでチャンバー16内の泥土を徐々に排出し減圧していく。減圧中には圧力計22により泥土圧を計測する。同時に、水圧計23(23A)によって水圧を計測する。さらに、減圧中には切羽近傍性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)によって切羽近傍FAの変位を直接に計測する(ステップS5)。計測された泥土圧と切羽近傍の変位(例えば水平変位)に基づいて、変形特性を把握する(ステップS6)。すなわち、泥土圧-切羽変位をグラフ上にプロットし変形特性を求める(
図10参照)。変形特性が把握されれば、逆解析によって(ステップS7)、地盤の力学定数が解析される(ステップS8)。
【0068】
・3D-FEMモデル解析(ステップS9~S12)
そして、減圧試験によって解析された地盤の力学定数を用いて、3D-FEM解析が実行される(ステップS9)。そして、この3D-FEMモデル解析によって、周辺地盤・隣接構造物への影響が予測される(ステップS10)。
【0069】
すなわち、減圧試験によって対象地盤の変形特性が明らかになれば、ボーリング調査などから想定されている地盤構成や測定されている水圧などの原位置の境界条件に基づく地盤モデルに対する逆解析によって(ステップS7)、地盤の力学定数が計算される(ステップS8)。このように計算された地盤の力学定数を用いて、3D-FEM解析が実行される(ステップS9)。
【0070】
解析の結果、地表面沈下量などが許容変位量以下となるか等の判断によって、有害影響の有無が判定される(ステップS11)。そして、有害であれば(ステップS11の「有」)、管理土圧が変更されて(ステップS12)、解析をやり直す(ステップS9~S11)。一方、無害であれば(ステップS11の「無」)、ステップS2に戻って次の位置・時刻において、管理土圧の設定システムSが実行される。
【0071】
ここにおいて、力学定数とは、例えば、ヤング率、ポアソン比、内部摩擦角、粘着力などである。この現場挙動に基づいて得られた地盤特性によるFEMモデルを採用してシミュレーションを行うことにより、合理的な挙動シミュレーションが可能となる。以上のような現場挙動に基づく合理的なシミュレーションにより、地表面沈下や隣接構造物への影響などが事前に、かつ、より正確に予測可能となり、周辺への影響を最小とする、あるいは地盤変位等の規制値に対応した管理土圧を設定することができる。
【0072】
・解析と設定(ステップS13~S14)
他方で、地盤の変形特性が把握されれば、
図11に示すような、泥土圧-変位グラフから、降伏点土圧が解析によって求められる(ステップS13)。すなわち、制御部40の解析部41は、急激に勾配が大きくなる点を求め、この点を降伏点とみなし、主働土圧を求める。例えば、最小二乗法で弾性領域の複数のプロットから近似直線を求め、塑性領域の複数のプロットから近似直線を求め、これらの交点を降伏点とすることができる。あるいは、移動平均から大きく外れたプロットが連続して出現したことをもって遷移領域に入ったことを推定することができる。そして、近隣に建物が存在している等の理由によって、3D-FEMモデル解析が必要な場合には(ステップS14の「要」)、3D-FEM解析によって、周辺地盤・隣接構造物への影響が予測される(ステップS10)。3D-FEMモデル解析が不要な場合には(ステップS14の「不要」)、主働土圧に基づいて管理土圧が再設定される(ステップS2)。具体的には、掘進時におけるチャンバー16内の管理土圧は、主働土圧プラス水圧を下回らないようにすることが必要となるので、求めた主働土圧+水圧に例えばプラスα(0~20kN/m
2)を加えた値を管理土圧の下限値とする。他方、管理土圧の上限値は、主働土圧(降伏点土圧)から逆算されたC、φを用いて理論的に計算してもよいし、上記下限値に施工変動幅を更に考慮した値としてもよい。他方、3D-FEMモデル解析が必要な場合には(ステップS14の「要」)、3D―FEMモデル解析が実行される(ステップS9)。
【0073】
このようにして、観測されているデジタル数値(観測値)とモデル地盤によって解析から求められるデジタル数値(解析値)を照合させて、モデル修正を常に行いながらシールド切羽進行に伴う地盤の変化に整合するモデル地盤の構築が実現されるようになっている(いわゆる「デジタルツイン」)。
【0074】
(効果)
次に、本実施例の切羽近傍性状計測装置6、6A、6B、6C、6D、6Eの奏する効果を列挙しながら説明する。
【0075】
(1)上述してきたように、本実施例の切羽近傍性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)は、トンネル掘進機のうちシールド掘進機としての土圧式シールド1で使用される切羽近傍性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)であって、シールド掘進機内に格納されて切羽近傍FAまで到達し、切羽近傍に当接又は貫入する探査治具61と、探査治具61をシールド掘進機と切羽近傍FAの間で進退移動させる進退手段としてのジャッキ62と、探査治具61の変位量を検知する変位センサ66と、を備えている。したがって、任意の測定位置で、切羽近傍の性状を実測値に基づいて正確に検出できる。
【0076】
すなわち、探査治具61の先端は、切羽近傍FAまで到達して切羽近傍FAと当接又は貫入しているため、探査治具61によって切羽近傍の変位を直接かつ正確に反映することができる。この場合、隔壁3から切羽F(すなわちカッタビット52先端)までの距離はあらかじめわかっているため、探査治具61を切羽近傍FAに正確に押し当てる又は貫入させることができる。
【0077】
(2)さらに、切羽近傍性状計測装置6、6Aは、探査治具61が、トンネル掘進機の隔壁3からチャンバー16内に突出する固定撹拌翼55内に格納されており、固定撹拌翼55の先端から切羽近傍FAまで到達するように構成されていることが好ましい。この固定撹拌翼55は、隔壁3から切羽F側に向かってチャンバー16内に突出しているため、その分だけ探査治具61の切羽近傍FAまでのストロークを短くすることができる。
【0078】
このため、探査治具61によって、より正確に切羽近傍FAの変位を測定できる。つまり、隔壁3の表面から切羽近傍FAまでの距離よりも、固定撹拌翼55の先端から切羽近傍FAまでの距離の方が短いため、探査治具61がチャンバー16内で進退移動する際の距離を短縮できる。さらに、必要ストロークが小さくなることで、探査治具61を前後に摺動させるためのジャッキ62等の装置が小さくなる。シールドの隔壁3後方内部は狭隘であるため、装置の縮小化は有利となる。
【0079】
(3)さらに、切羽近傍性状計測装置6Aは、進退手段としてのジャッキ62が、シリンダ部62aとロッド62b部から構成され、固定撹拌翼55内に格納されており、ロッド部62bは、探査治具61として兼用されて固定撹拌翼55の先端から切羽近傍FAまで到達するように構成されていることが好ましい。このように構成することで、シールド機内において坑口側に向かって突出する進退手段(すなわちジャッキ62)の長さを、いっそう短くすることができる。つまり、固定撹拌翼55のチャンバー16内への突出長さの分だけ、シールド機内のジャッキ62の突出量を減らすことができる。
【0080】
(4)さらに、切羽近傍性状計測装置6Cは、進退手段としてのジャッキ62が、シリンダ部62aとロッド部62bから構成されるとともに、シリンダ部62aをトンネル掘進機の隔壁3からチャンバー16内に進退移動させる機内側進退手段としての第2ジャッキ69をさらに備えていることが好ましい。このように、ジャッキ62を固定撹拌翼55内に格納するのではなく、ジャッキ62自体を前後にスライド移動可能に構成することで、チャンバー16内の障害物を減らすことができる。すなわち、必要ストロークを2段に分割することで機内への突出量を抑えることができる。掘進中は、チャンバー16内に固定撹拌翼が出ていない構造となり、掘削地盤中に大きい礫などがある場合の礫噛み込みによる切羽近傍性状計測装置6Cの変形・損傷を防止できる。
【0081】
・加えて、切羽近傍性状計測装置6B、6D、6Eは、探査治具61が、トンネル掘進機のカッタスポーク51内に格納されており、カッタスポーク51から切羽近傍FAまで到達するように構成されていることが好ましい。このように、カッタスポーク51に探査治具61及びジャッキ62を設置することで、切羽近傍FAまでの必要ストロークを極めて短くできるので、切羽近傍性状計測装置6自体が非常に短くなる。そのため、探査治具61及びジャッキ62をカッタスポーク51内部に配置することができる。このように、計測装置がカッタスポーク51内に収容されていれば、シールド機内の狭い場所に切羽近傍性状計測装置6を配置できる。また、カッタヘッド5を回転させることによって、切羽近傍性状計測装置6を移動できるため、シールド中心から一定半径円上の任意の点での計測が可能となる。
【0082】
(5)さらに、図示しないが、探査治具(61)は、トンネル掘進機のカッタヘッド面板部、中間ビーム、及び/又は、連結材に格納されており、切羽まで到達するように構成されることも好ましい。このように、切羽の近くに探査治具61を設置することで、切羽近傍FAまでの必要ストロークを極めて短くできるので、切羽近傍性状計測装置の長さも非常に短くなる。そのため、探査治具61を機内に収容することができる。
【0083】
(6)また、カッタスポーク51は、後方側に(移動)撹拌翼54、又は、格納箱54Aを有し、探査治具61又はジャッキ62の少なくとも一部分は、(移動)撹拌翼54又は、格納箱54A内に格納されていることが好ましい。切羽近傍性状計測装置6がカッタスポーク51の奥行よりも大きくなる場合には、カッタスポーク51後方に配置されている(移動)撹拌翼54又は格納箱54Aを利用して内部に配置することもできる。この時、ジャッキ62を駆動するための作動油用ラインや変位センサ66からの信号線はセンターシャフト(カッタ回転軸10)を通じて隔壁3後方のシールド機内に通じている。
【0084】
本変形例では、切羽近傍性状計測装置6がカッタスポーク51内に収容されるためシールド機内の狭隘な場所に計測装置を配置する必要がない。また、カッタヘッド5を回転することで計測装置を移動できるので、シールド中心からの一定半径円上の任意点での計測が可能となる。
【0085】
・さらに、切羽近傍性状計測装置6D、6Eは、探査治具61に、切羽近傍FAの土圧を計測する圧力計22A又は切羽近傍FAの間隙水圧を計測する水圧計23Aをさらに有するため、変位に加えて土圧や間隙水圧を計測することによって、切羽(地山)周辺の性状をより詳細・正確に分析できるようになる。
【0086】
また、切羽近傍性状計測装置6Eは、探査治具61が先端から後方まで同一の断面形状をしているため、小さな負荷で切羽近傍FAへ貫入させ易く、進退構造の選択の幅を拡げることができる。また、探査治具格納時の土砂の誤取込みを防止することができる。そして、探査治具61の先端略中央部、および側部に測定装置が有ることから、切羽近傍およびチャンバー内部の切羽性状を同時に測定することが可能となる。
【0087】
(7)さらに、探査治具61の先端が、カッタビット52になっているため、掘進停止前に探査治具61を切羽近傍FAの位置まで伸長させて掘進するように構成すれば、貫入が難しい硬質な地盤においても、探査治具61を切羽に確実に当接させることが可能となる。
【0088】
(8)また、トンネル掘進機としての土圧式シールド1のチャンバー16内の圧力を計測するチャンバー内圧力計22A、及び/又は、チャンバー16内の間隙水圧を計測するチャンバー内水圧計23Aをさらに備えることで、変位に加えて圧力や間隙水圧を計測することによって、チャンバー16内の性状をより詳細・正確に分析できるようになる。
【0089】
(9)そして、本実施例の管理土圧の設定システムSは、トンネル掘進機としての土圧式シールド1における管理土圧の設定システムSであって、チャンバー16内の泥土圧を計測する圧力計22と、チャンバー16内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段としての排土装置17と、切羽近傍FAの変位を計測する切羽近傍性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)と、計測された泥土圧と計測された切羽近傍FAの変位と計測された切羽近傍FAの間隙水圧とに基づいて地盤の変形特性を解析する解析部41と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部42と、を備えている。このような構成であるため、管理土圧の設定システムSであれば、仮定や推定による管理土圧の設定ではなく、チャンバー内の泥土圧と切羽近傍の変位の関係を直接計測することで管理土圧を設定できる。
【0090】
(10)また、トンネル掘進機の停止時に、泥土圧変化手段としての排土装置17によって泥土を若干排出することによりチャンバー16内の泥土圧が減圧されることで、解析部41によって地盤の変形から主働土圧が求められるようになっている。したがって、シールド掘進機の掘進停止時-例えばセグメント組立時-にチャンバー16内を微小に減圧して切羽近傍FAをチャンバー16側に僅かに変位させて、泥土圧と切羽近傍変位量の関係グラフにおける遷移領域から降伏点を解析することで主働土圧を直接求めることができる。
【0091】
(11)加えて、解析部41は、解析された地盤の変形特性に基づいて、地盤の力学定数を逆解析によって推定し、推定された地盤の力学定数を用いてFEMモデルを更新するとともに、更新されたFEMモデルを用いて、周辺の地盤及び/又は構造物への影響を予測するようになっている。このため、完全なリアルタイムではないものの、リアルタイム更新に近い、従来よりも大幅に細かい間隔でFEMモデルを更新することで、地盤の特性を実際の特性に大きく近づけることができる。このため、FEMモデルによる予測・影響評価をきわめて高い精度で実現できる。
【0092】
以上、図面を参照して、本発明の実施例や変形例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例や変形例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0093】
例えば、実施例や変形例では、所定の位置に切羽近傍性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)を設置するものとして説明したが、これに限定されるものではない。例えば、実施例、第1、第3変形例は、図示したように、隔壁3のシールド中心とフード部の中間でもよいし、よりフード部に近接した位置とすることもできる。また、第2変形例は、図示のようにカッタスポーク51の中間位置でもよいし、シールド中心付近やカッタスポーク51先端付近でもよい。また、カッタスポーク51の最外周に外向きにつけてもよい。さらに、カッタヘッド面板部や中間ビーム連結材に設置してもよい。
【0094】
さらに、図示を省略するが、切羽近傍性状計測装置は、カッタヘッド面板部、中間ビーム、及び/又は、連結材などのカッタヘッド構成部材内に設置してもよい。この場合、カッタヘッド面板部、中間ビーム、連結材などはカッタヘッドの一部を構成している。
【0095】
また、実施例では、切羽近傍性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)を用いた管理土圧の設定システムSについて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、切羽近傍性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)を用いた、切羽の緩みを探索するシステムに利用することも可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 :土圧式シールド(トンネル掘進機)
2 :スキンプレート
2a :フード部
2b :テール部
3 :隔壁
5 :カッタヘッド
6 :切羽近傍性状計測装置(実施例)
6A-6E :切羽近傍性状計測装置(変形例)
10 :カッタ回転軸
11 :軸受
12 :カッタ駆動部
13 :ギアボックス
14 :回転駆動源
15 :エレクター
16 :チャンバー
17 :排土装置
18 :シールド推進ジャッキ
19 :テールシール
21 :作泥土材供給配管
22、22A:圧力計
23、23A:水圧計
40 :制御部
41 :解析部
42 :設定部
43 :通信ケーブル
51 :カッタスポーク
52 :カッタビット
53 :フィッシュテールビット
54 :(移動)撹拌翼
54A :格納箱
55 :固定撹拌翼
55A :格納箱
61 :探査治具
610 :先端
611a :円錐部
611b :矢印部
611c :ドリル部
612 :つば部
613 :本体部
62 :ジャッキ
62a :シリンダ部
62b :ロッド部
63 :油圧チャック
64 :検知部
65 :ガイド
66 :変位センサ
67 :止水装置
68 :バルブ(ボールバルブ)
68A :バルブ(ボールバルブ)
68B :切離し装置(油圧チャック)
69 :第2ジャッキ(機内側進退手段)
70 :ブラケット
90 :セグメント
S :管理土圧の設定システム
F :切羽
FA :切羽近傍
【要約】
【課題】地上等からのボーリングを伴わずに実施できるシールド掘進機、又は、トンネルボーリングマシンにおける切羽近傍性状計測装置を提供する。
【解決手段】切羽近傍性状計測装置6は、シールド掘進機としての土圧式シールド1で使用される切羽性状計測装置6(6A、6B、6C、6D、6E)であって、シールド掘進機内、又は、トンネルボーリングマシン機内に格納されて切羽近傍FAまで到達する探査治具61と、探査治具61をシールド掘進機、又は、トンネルボーリングマシンと切羽近傍FAの間で進退移動させる進退手段としてのジャッキ62と、探査治具61の変位量を検知する変位センサ66と、を備えている。このうち探査治具61は、シールド掘進機の隔壁3からチャンバー16内に突出する固定撹拌翼内55に格納されている。
【選択図】
図1