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特許7648848ジルコニア質メディア、ベアリングボール及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ジルコニア質メディア、ベアリングボール及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 17/20 20060101AFI20250311BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
B02C17/20
C04B35/488 500
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024517927
(86)(22)【出願日】2023-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2023013825
(87)【国際公開番号】W WO2023210268
(87)【国際公開日】2023-11-02
【審査請求日】2024-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2022071299
(32)【優先日】2022-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230629
【氏名又は名称】株式会社ニッカトー
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古藤 野枝
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和香奈
(72)【発明者】
【氏名】大西 宏司
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-205586(JP,A)
【文献】特開2000-239063(JP,A)
【文献】特開平6-183833(JP,A)
【文献】特開2017-56429(JP,A)
【文献】特開2002-1144(JP,A)
【文献】特開平9-188562(JP,A)
【文献】特開平6-15191(JP,A)
【文献】特開2003-314556(JP,A)
【文献】特開2013-148127(JP,A)
【文献】特開2001-163666(JP,A)
【文献】特開平10-85619(JP,A)
【文献】特開2014-92259(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0223755(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C17/20
C04B35/488
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体からなり、Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内であり、
(b)Alの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内であり、
(c)正方晶系ジルコニアを90体積%以上含有し、
(d)相対密度が95%以上であり、
(e)平均結晶粒径が0.25μm以上0.50μm以下の範囲内であり、
(f)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の最低値がPmin(N)>600×D2.0(Dはメディア直径の平均値)であり、
(g)圧壊荷重値のワイブル係数が10以上であり、
(h)走査型電子顕微鏡を用いて確認したSEM画像において確認できるメディアの最大径をメディア直径とし、200個のメディアのメディア直径の平均値と標準偏差から導き出されるメディア直径の変動係数が6%未満であり、
前記(a)から(h)の要件を満たす、ジルコニア質メディア。
【請求項2】
(j)ISO 14577に準拠して、1個のメディアを硬化型埋込樹脂に埋め込み、前記硬化型埋込樹脂を硬化させ、メディアの直径の40%から50%まで研削し断面を鏡面研磨した後、超微小押し込み硬さ試験機を用いて研磨したメディアの断面の硬度を等間隔で10か所測定し、10個のメディアについて測定した微小押し込み硬さの平均値と標準偏差から導き出される微小押し込み硬さの変動係数が5%以下である、請求項1に記載のジルコニア質メディア。
【請求項3】
(k)SiOが0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲内で含まれる、請求項1又は2に記載のジルコニア質メディア。
【請求項4】
(n)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave(N)に対する圧壊荷重値の最低値Pmin(N)の圧壊荷重比A(Pmin(N)/Pave(N))が0.8以上である、請求項1又は2に記載のジルコニア質メディア。
【請求項5】
(o)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Paveに対するクロスヘッドスピード0.1mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave0.1(N)の圧壊荷重比B(Pave0.1(N)/Pave(N))が0.95以上である、請求項1又は2に記載のジルコニア質メディア。
【請求項6】
(a)ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体からなり、Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内であり、
(b)Alの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内であり、
(c)正方晶系ジルコニアを90体積%以上含有し、
(d)相対密度が95%以上であり、
(e)平均結晶粒径が0.25μm以上0.50μm以下の範囲内であり、
(f)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の最低値がPmin(N)>600×D2.0(Dはメディア直径の平均値)であり、
(g)圧壊荷重値のワイブル係数が10以上であり、
(h)走査型電子顕微鏡を用いて確認したSEM画像において確認できるメディアの最大径をメディア直径とし、200個のメディアのメディア直径の平均値と標準偏差から導き出されるメディア直径の変動係数が6%未満であり、
(x)破壊靭性が5.0MPa・m1/2を超え、
(y)曲げ強さが1100MPaを超えて、曲げ強さのワイブル係数が7を超える、ジルコニアベアリングボール。
【請求項7】
(p)Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内になるようにジルコニウム原料とイットリウム原料を混合し、加水分解し、得られたジルコニウムとイットリウムの水和物を600℃以上1200℃以下の範囲で仮焼して得られた合成粉体と、
(q)全体量に対してAlの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内となるようにAl粉体とを混合して、混合粉体とし、
(r)前記混合粉体を湿式で粉砕及び/又は分散した混合粉体スラリーを乾燥した粉体のBET法で測定した比表面積が5m/g以上10m/g以下の範囲内となり、
(s)前記混合粉体スラリーをレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の平均粒子径が0.3μm以上0.6μm以下の範囲内となるように湿式で、粉砕及び/又は分散し、
(t)前記混合粉体スラリーを乾燥させた粉体の1質量部と成形用溶媒の100質量部とを混合して得られた凝集粉体平均粒子径測定用のスラリー中の凝集した粉体のレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内となるように、乾燥し、整粒して得られた成形用粉体を準備し、
(u)前記成形用粉体を造粒成形し、成形体を得て、
(v)前記成形体を1250℃以上1600℃以下の範囲内で焼成し、ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体を得ることを含み、前記焼結体からなるジルコニア質メディアの製造方法。
【請求項8】
前記混合粉体に、(w)全体量に対してSiOの含有量が0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲内となるようにSiO原料を含有する、請求項7に記載のジルコニア質メディアの製造方法。
【請求項9】
(p)Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内になるようにジルコニウム原料とイットリウム原料を混合し、加水分解し、得られたジルコニウムとイットリウムの水和物を600℃以上1200℃以下の範囲で仮焼して得られた合成粉体と、
(q)全体量に対してAlの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内となるようにAl粉体とを混合して、混合粉体とし、
(r)前記混合粉体を湿式で粉砕及び/又は分散した混合粉体スラリーを乾燥した粉体のBET法で測定した比表面積が5m/g以上10m/g以下の範囲内となり、
(s)前記混合粉体スラリーをレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の平均粒子径が0.3μm以上0.6μm以下の範囲内となるように湿式で、粉砕及び/又は分散し、
(t)前記混合粉体スラリーを乾燥させた粉体の1質量部と成形用溶媒の100質量部とを混合して得られた凝集粉体平均粒子径測定用のスラリー中の凝集した粉体のレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内となるように、乾燥し、整粒して得られた成形用粉体を準備し、
(u)前記成形用粉体を造粒成形し、成形体を得て、
(v)前記成形体を1250℃以上1600℃以下の範囲内で焼成し、ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体を得ることを含み、前記焼結体からなるジルコニアベアリングボールの製造方法。
【請求項10】
前記混合粉体に、(w)全体量に対してSiOの含有量が0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲内となるようにSiO原料を含有する、請求項9に記載のジルコニアベアリングボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア質メディア、ベアリングボール及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミックス積層コンデンサ等の電子部品材料は、小型化や高性能化が進んでいる。原料として使用される無機粉体の製造には、微粉化、高分散化、及び、高純度化が重要視されている。このような粉体の微粉化工程には、より微小な無機焼結体からなるメディアを媒体としたビーズミルによる粉砕、分散処理が行われる。ミル内で、微小メディアは、高効率な粉砕及び分散処理を行うために、高速撹拌することで処理を行っている。そのため、使用するメディアに与えられる負荷が大きく、耐衝撃性や耐摩耗性に優れたY強化ジルコニア質微小メディアが用いられている。
微小メディアは、大きさが小さいため、ミル内に多量に投入する必要がある。投入したメディアの中に僅かに低強度のメディアが存在すると、ミル内での高速回転により、メディアに高負荷がかかり、メディアの破損の原因となりやすい。メディアの破損により破片が発生すると、その破片が粉砕されて被処理粉体中に異物となって混入する虞がある。また、粉砕・分散条件によってはミル内のスラリー温度が高くなり、メディアの強度劣化や耐摩耗性低下による異物の混入などが起こる場合がある。
【0003】
特許文献1には、溶液中に顔料を分散させる方法において、平均粒径40~192μm、密度5.9g/cm以上、真球度1.07以下のジルコニア焼成ビーズを用いることが開示されている。
しかしながら、ビーズミルで粉体の粉砕及び分散処理を行うとき、平均粒径、密度、真球度のバラツキを抑制するだけでは、メディアの強度やメディア内部に存在する欠陥への応力集中による割れや欠けの発生を抑制することはできない。つまり、特許文献1には、ビーズの強度のバラツキについては言及されておらず、平均粒径、密度、真球度のバラツキを抑制しても強度のバラツキは抑制されない。
【0004】
特許文献2には、粉砕・分散用メディアに用いる、化学組成と微小構造を制御して耐摩耗性を得るZrO-Y系ジルコニア質焼結体が開示されている。特許文献2に記載のZrO-Y系ジルコニア質焼結体は、硬い粉体の粉砕・分散において耐摩耗性に優れていることが開示されている。
しかしながら、ZrO-Y系ジルコニア質焼結体の化学組成を調整しても、微小メディア全体の特性のバラツキを抑制することは記載されていない。高負荷がかかる微小メディアとして使用した場合に、微小メディア全体が所定の強度を満たしていないと、僅かに強度の低い微小メディアへの応力集中により、割れや欠けが発生する虞がある。
【0005】
特許文献3には、焼結前の成形球体の造粒方法の違いにより、焼結後の球体内の中心付近と表面付近とで平均結晶粒子径の大きさが異なる場合があることが記載されている。球体の平均結晶粒子径が表面付近よりも中心付近の方が大きくなると、初期の段階で摩耗が著しく進行し、不純物の混入量が激増することが記載されている。球体の平均結晶粒子径が表面付近よりも中心付近の方が小さくなると、内部空隙が多くなってその空隙が破壊の起点になるので強度が大きく低下することが記載されている。そのため、個々の球体内部の中心付近と表面付近とで平均結晶粒子径の均一性を、焼結前の成形球体の成形に使用するZrO粉末の比表面積及び平均二次粒子径を特定の範囲に調整し、さらにY、Al、Fe、Tiの含有量等の化学組成を特定の範囲にすることによって調整することが開示されている。
しかしながら、球体内部と表面付近の平均結晶粒子径の均一性が調整されていても、微小メディア全体の強度のバラツキが抑制されていないと、被処理粉体を粉砕・分散する際に僅かに強度の低い微小メディアへの応力集中により、割れや欠けが発生する虞がある。
【0006】
特許文献4には、YとZrOのモル比、Alの含有量、SiOとTiOの含有量の合計、平均結晶粒径を制御することで、100℃程度か、100℃以下の温水又は高湿度雰囲気中において、長期間安定して優れた耐摩耗性と耐久性を示すジルコニア質焼結体が開示されている。
しかしながら、ZrO-Y系ジルコニア質焼結体の化学組成を調整しても微小メディア全体の特性のバラツキを抑制することは記載されていない。高負荷がかかる微小メディアとして使用した場合に、微小メディア全体が所定の強度を満たしていない場合には、特許文献2と同様に、僅かに強度の低い微小メディアへの応力集中により、割れや欠けが発生する虞があり、耐久性の低下に繋がる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-155577号公報
【文献】特開2014-205586号公報
【文献】特開2004-315246号公報
【文献】特開2004-307339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、メディア形状のバラツキや機械的特性のバラツキを抑制し、耐摩耗性及び耐久性を向上したジルコニア質メディア、ベアリングボール及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明の第一態様は、(a)ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体からなり、Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内であり、
(b)Alの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内であり、
(c)正方晶系ジルコニアを90体積%以上含有し、
(d)相対密度が95%以上であり、
(e)平均結晶粒径が0.25μm以上0.50μm以下の範囲内であり、
(f)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の最低値がPmin(N)>600×D2.0(Dはメディア直径の平均値)であり、
(g)圧壊荷重値のワイブル係数が10以上であり、
(h)走査型電子顕微鏡を用いて確認したSEM画像において確認できるメディアの最大径をメディア直径とし、200個のメディアのメディア直径の平均値と標準偏差から導き出されるメディア直径の変動係数が6%未満であり、
前記(a)から(h)の要件を満たす、ジルコニア質メディアである
【0010】
本件発明の第二態様は、(a)ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体からなり、Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内であり、
(b)Alの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内であり、
(c)正方晶系ジルコニアを90体積%以上含有し、
(d)相対密度が95%以上であり、
(e)平均結晶粒径が0.25μm以上0.50μm以下の範囲内であり、
(f)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の最低値がPmin(N)>600×D2.0(Dはメディア直径の平均値)であり、
(g)圧壊荷重値のワイブル係数が10以上であり、
(h)走査型電子顕微鏡を用いて確認したSEM画像において確認できるメディアの最大径をメディア直径とし、200個のメディアのメディア直径の平均値と標準偏差から導き出されるメディア直径の変動係数が6%未満であり、
(x)破壊靭性が5.0MPa・m1/2を超え、
(y)曲げ強さが1100MPaを超えて、曲げ強さのワイブル係数が7を超える、ジルコニアベアリングボールである。
【0011】
本発明の第三態様は、(p)Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内になるようにジルコニウム原料とイットリウム原料を混合し、加水分解し、得られたジルコニウムとイットリウムの水和物を600℃以上1200℃以下の範囲で仮焼して得られた合成粉体と、
(q)全体量に対してAlの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内となるようにAl粉体とを混合して、混合粉体とし、
(r)前記混合粉体を湿式で粉砕及び/又は分散した混合粉体スラリーを乾燥した粉体のBET法で測定した比表面積が5m/g以上10m/g以下の範囲内となり、
(s)前記混合粉体スラリーをレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の平均粒子径が0.3μm以上0.6μm以下の範囲内となるように湿式で、粉砕及び/又は分散し、
(t)前記混合粉体スラリーを乾燥させた粉体の1質量部と成形用溶媒の100質量部とを混合して得られた凝集粉体平均粒子径測定用のスラリー中の凝集した粉体のレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内となるように、乾燥し、整粒して得られた成形用粉体を準備し、
(u)前記成形用粉体を造粒成形し、成形体を得て、
(v)前記成形体を1250℃以上1600℃以下の範囲内で焼成し、ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体を得ることを含み、前記焼結体からなるジルコニア質メディアの製造方法である。
【0012】
本発明の第四態様は、(p)Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内になるようにジルコニウム原料とイットリウム原料を混合し、加水分解し、得られたジルコニウムとイットリウムの水和物を600℃以上1200℃以下の範囲で仮焼して得られた合成粉体と、
(q)全体量に対してAlの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内となるようにAl粉体とを混合して、混合粉体とし、
(r)前記混合粉体を湿式で粉砕及び/又は分散した混合粉体スラリーを乾燥した粉体のBET法で測定した比表面積が5m/g以上10m/g以下の範囲内となり、
(s)前記混合粉体スラリーをレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の平均粒子径が0.3μm以上0.6μm以下の範囲内となるように湿式で、粉砕及び/又は分散し、
(t)前記混合粉体スラリーを乾燥させた粉体の1質量部と成形用溶媒の100質量部とを混合して得られた凝集粉体平均粒子径測定用のスラリー中の凝集した粉体のレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内となるように、乾燥し、整粒して得られた成形用粉体を準備し、
(u)前記成形用粉体を造粒成形し、成形体を得て、
(v)前記成形体を1250℃以上1600℃以下の範囲内で焼成し、ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体を得ることを含み、前記焼結体からなるジルコニアベアリングボールの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、耐摩耗性及び耐久性を向上したジルコニア質メディア、ジルコニアベアリングボール及びそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1に係るメディアの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
図2図2は、比較例7に係るメディアの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
図3A図3Aは、粉砕及び/又は分散処理に使用する前の比較例8に係るメディアの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
図3B図3Bは、粉砕及び/又は分散処理に使用した後の比較例8に係るメディアの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
図4図4は、ベアリングの一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明は次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本件発明のジルコニア質メディアは、以下の(a)から(h)の要件を満たし、以下の(k)の要件を満たすことが好ましく、以下の(j)、(n)又は(o)の要件を満たしてもよい。
【0017】
本件発明のジルコニアベアリングボールは、以下の(a)から(h)の要件を満たし、さらに以下の(x)及び(y)の要件を満たし、以下の(k)の要件を満たすことが好ましく、以下の(j)、(n)又は(o)の要件を満たしてもよい。
【0018】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(a)ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体からなり、Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内であり、(b)Alの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内であり、(c)正方晶系ジルコニアを90体積%以上含有し、(d)相対密度が95%以上であり、(e)平均結晶粒径が0.25μm以上0.50μm以下の範囲内であり、(f)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の最低値がPmin(N)>600×D2.0(Dはメディア直径の平均値)であり、(g)圧壊荷重値のワイブル係数が10以上であり、(h)走査型電子顕微鏡を用いて確認したSEM画像において確認できるメディアの最大径をメディア直径とし、200個のメディアのメディア直径の平均値と標準偏差から導き出されるメディア直径の変動係数が6%未満である。本件明細書において、ジルコニアベアリングボールの場合は、「メディア」を「ベアリングボール」に置き換えてもよい。
【0019】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体からなり、焼結体の化学組成、結晶相、相対密度、平均結晶粒径、圧壊荷重値の最低値、圧壊荷重値のワイブル係数、メディア直径の変動係数が、特定の範囲であることによって、メディアの形状のバラツキや、メディアの耐摩耗性や圧壊荷重値等の機械的物性のバラツキを抑制することができる。ジルコニア質メディアは、高速回転を行うビーズミル内で多量のメディアを使用する微小メディアとして使用した場合でも、メディアの割れや欠けの発生がなく、耐久性及び耐摩耗性を向上することができる。ジルコニア質メディアの割れや欠けが抑制されるので、被処理粉体の高純度を維持して、被処理粉体を粉砕・分散することができる。ジルコニアベアリングボールの場合は、ベアリングボールの割れや欠けが抑制されるので、後述する規定値を満たすベアリングボールを提供できる。
【0020】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(a)ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体からなり、Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内であり、2.6/97.4以上3.1/96.9以下の範囲内でもよい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールのY/ZrOモル比が前記範囲内であると、単斜晶系ジルコニアが少なく、正方晶系ジルコニアの結晶構造の安定性が良好である。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、Y/ZrOモル比が前記範囲内であると、割れや欠けを抑制でき、耐摩耗性及び耐久性を向上することができる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールのY/ZrOモル比が2.5/97.5未満であると、単斜晶系ジルコニアの含有量が多くなり、正方晶系ジルコニアの安定性が低くなる。また、ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールのY/ZrOモル比が2.5/97.5未満であると、応力により微細なクラックが発生し、割れや欠けの原因となり、耐摩耗性又は耐久性が低下する。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールのY/ZrOモル比が3.2/96.8を超えると、正方晶系ジルコニアの量が減少し、機械的強度が低下する。機械的強度が低下すると、メディアは、高負荷がかかるビーズミル内で割れや欠けが発生し、耐摩耗性が低下する。機械的強度が低下すると、ジルコニアベアリングボールの耐摩耗性及び耐久性が低下する。ZrO原料は、通常HfOを少量含有しているので、ZrOとHfOの合計量をZrOの量とする。ZrO粉体は、TiO、FeO、MgO、NaO、及びKOからなる群から選択される少なくとも1種を含有している場合もある。ZrO粉体に含有されるZrO以外の成分の含有量はZrOの全体量に対して0.3質量%以下でもよい。
【0021】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(b)Alの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内である。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(b)Alの含有量が前記範囲内であると、ZrOの焼結性が向上する。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(b)Alの含有量が前記範囲内であると、AlがZrOの結晶粒界に偏析やAlの結晶粒子としても存在するため、ZrOの結晶粒界が強化され、耐衝撃性等の機械的特性が向上する。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールのAlの含有量が0.1質量%未満であると、Alを添加することによる焼結性の向上及び機械的特性の向上の効果が得られない。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールのAlの含有量が30.0質量%を超えると、Alの含有量が増えすぎて逆に焼結性及び機械的特性が低下する。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールのAlの含有量は、0.2質量%以上25質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0022】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(k)SiOの含有量が0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲内で含まれることが好ましい。ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体は、40℃以上の温水で使用すると、水により結晶粒界が浸食されやすく耐摩耗性が大幅に低下する場合がある。ジルコニア質メディア中又はジルコニアベアリングボール中にSiOが含まれていると、40℃以上の温水中でメディアを使用した場合であっても、耐摩耗性を維持することができる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、SiOの含有量が0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲内で含まれていると、40℃以上の温水中でメディアを使用した場合であっても、メディアを構成する焼結体中のZrOの結晶粒界への水の浸食を抑制し、耐摩耗性を維持することができる。ジルコニア質メディア中又はジルコニアベアリングボール中のSiOの含有量が1.0質量%を超えていると、ZrOの結晶粒界にSiO相が形成されて強度が低下する場合がある。ジルコニア質メディア中又はジルコニアベアリングボール中のSiOの含有量が0.3質量%以上0.9質量%以下の範囲内でもよく、0.4質量%以上0.7質量%以下の範囲内でもよい。40℃以上の温水で使用しない場合等の、劣化が起きない条件下で使用する場合には、ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、SiOの含有量が0.2質量%未満でもよい。
【0023】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(c)正方晶系ジルコニアを90体積%以上含有し、95体積%以上含有することが好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールが、正方晶系ジルコニアを90体積%以上含有していると、耐摩耗性、耐久性、さらに衝撃抵抗性等の機械的強度を向上することができる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、正方晶系ジルコニアを100体積%含有してもよい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの正方晶系ジルコニアの含有量が90体積%未満であると、単斜晶系ジルコニアが多く含まれる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールに含まれる単斜晶系ジルコニアの周辺に微細なクラックが発生し、耐摩耗性、耐久性、さらに衝撃抵抗性等の機械的強度が低下する。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの単斜晶系ジルコニアの含有量は5体積%まで許容でき、5体積%以下であることが好ましい。また、ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールが立方晶系ジルコニアを多く含有していると、応力誘起相変態の効果が減少することで靭性が低下し、高負荷がかかるビーズミル内の使用で微小なクラックが発生し易くなる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの立方晶系ジルコニアの含有量は5体積%まで許容でき、5体積%以下であることが好ましい。
【0024】
焼結体のジルコニア結晶相中の単斜晶系ジルコニア(M)の存在の有無及び含有量、正方晶系ジルコニア(T)の含有量、並びに立方晶系ジルコニア(C)の存在の有無及び含有量は、X線回折法により求めることができる。
メディアを硬化型埋込樹脂に直径が10mm以上の円の面積以上となるように配置し、硬化型埋込樹脂を硬化する。硬化した硬化型埋込樹脂に埋め込まれたメディアの断面における直径の約3分の1まで研削する。研削面を、4~8μmのダイヤモンド砥粒、更に3μm以下のダイヤモンド砥粒にて深さ5μm以上ラッピングし、最後に1μm以下のダイヤモンド砥粒にてポリッシングを行って、JIS B0601:2001に準拠した面粗さRzが0.050μm未満(面粗さRz<0.05μm)になるように鏡面研磨し、X線回折法により回折角が27度から34度の範囲で測定する。測定により得られた結果から下記式(1)から単斜晶系ジルコニア(M)含有量(体積%)を求めることができる。本明細書において硬化型埋込樹脂は、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又はエポキシ樹脂を用いることができる。
【0025】
【数1】
【0026】
立方晶系ジルコニア(C)の存在の有無及び含有量(体積%)は、単斜晶系ジルコニア(M)含有量と同様にして、X線回折により回折角が70度から77度の範囲で測定し、得られた結果から下記式(2)から求めることができる。
さらに上記の結果に基づいて、正方晶系ジルコニア(T)含有量を下記式(3)から求めることができる。
【0027】
【数2】
【0028】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(d)相対密度が95%以上であり、97%以上であることがより好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(d)相対密度が95%以上であると、ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの相対密度が高くなる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの相対密度は、100%でもよく、99.9%以下でもよい。相対密度が高いジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、焼結体の内部に含まれる気孔(ポア)が少なくなり、割れや欠けを抑制することができる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(d)相対密度が95%未満であると、焼結体の内部に気孔(ポア)が多く含まれる。気孔が多く含まれるジルコニア質メディアは、高負荷がかかるビーズミル内で割れや欠けが発生する要因となり、耐摩耗性及び耐久性が低下する。気孔が多く含まれるジルコニアベアリングボールは、耐摩耗性及び耐久性が低下する。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの相対密度は、下記式(4)から求めることができる。みかけ密度は、JIS R1620に定められる気体置換法により測定する。理論密度は、Yが固溶したZrOの理論密度(6.1g/cm)と、Alの理論密度(3.98g/m)に基づき、焼結体のYが固溶したZrOとAlの組成比により算出することができる。
【0029】
【数3】
【0030】
平均結晶粒径
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(e)平均結晶粒径が0.25μm以上0.50μm以下の範囲内である。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(e)平均結晶粒径は、0.26μm以上0.48μm以下の範囲でもよく、0.3μm以上0.45μm以下の範囲内でもよい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(e)平均結晶粒径が0.25μm未満であると、靭性が低下し、高負荷がかかるミル内でチッピングや割れが発生しやくなり、被処理粉体の高純度を保つことが難しくなる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(e)平均結晶粒径が0.5μmを超えると、耐摩耗性及び耐久性が低下する。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの耐摩耗性は、ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールを構成する焼結体の表面近傍の結晶の微細構造に左右される。そのため、ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの平均結晶粒径は、メディアの表面から中心部方向にメディア直径の10%以内を測定することが好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの平均結晶粒径は次ぎのように測定することができる。
メディアを構成する焼結体を硬化型埋込樹脂に埋め込み、硬化型埋込樹脂を硬化する。硬化した硬化型埋込樹脂に埋め込まれた焼結体の表面から中心方向に向けてメディア直径の10%未満となるように研削し、研削面を結晶相の測定を行った測定面と同様の方法でJIS B0601:2001に準拠した面粗さRz<0.05μmに鏡面研磨する。次いで熱エッチング又は化学エッチングを施した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で1視野に結晶粒が100個以上観察できる倍率で観察し、インターセプト法により平均結晶粒径を求めることができる。具体的には、対象となる結晶粒が見える面に長さLの直線を引き、この直線が横切った結晶粒の個数を求める。直線の端がその内部にある結晶粒は、1/2個と数える。平均結晶粒径は、下記式(5)から求めることができる。長さLの直線を2から5引いて、平均結晶粒径を求めることが好ましい。
【0031】
【数4】
【0032】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(f)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の最低値がPmin(N)>600×D2.0(Dはメディア直径の平均値)である。圧壊荷重値の最低値Pminがメディア直径の平均値Dの2.0乗と600の積を超えた数値(Pmin(N)>600×D2.0)を満たさない場合には、高負荷がかかるミル内で割れや欠けが発生しやすくなる要因となる。圧壊荷重値の最低値Pminがメディア直径の平均Dの2.0乗と600の積以下の数値(Pmin(N)≦600×D2.0)の場合は、圧壊荷重値の低い低強度のメディアが混在していることを表す。圧壊荷重値の低い低強度のメディアが混在していると、高負荷がかかるミル内で、圧壊荷重値の低いメディアが衝撃により割れや欠けが発生する確率が高くなる。ジルコニア質メディアに割れや欠けが発生すると、被処理粉体の高純度を保つことが難しくなる。メディア直径の平均値Dは、走査型電子顕微鏡を用いて観察した一個のメディアの画像から測定した最大径をメディア直径とし、200個のメディアのメディア直径の平均値とした。
圧壊荷重値は、材料試験機を用いて2枚のダイヤモンド焼結体又は窒化ホウ素(BN)焼結体にメディア1個を挟み、クロスヘッドスピード(板間の距離を縮める速度)0.5mm/分でメディアに荷重を加え、破壊したときの荷重値をいう。50個のメディアの圧壊荷重値を測定し、その中で最も低い圧壊荷重値を最低値Pmin(N)とする。
【0033】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(g)圧壊荷重値のワイブル係数が10以上であり、12以上が好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(g)圧壊荷重値のワイブル係数が10以上であれば、強度のバラツキが小さく、耐摩耗性及び耐久性を向上することができる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの圧壊荷重値のワイブル係数が10未満であると、強度のバラツキが大きくなり、高負荷がかかるミル内で強度の低いメディアに割れや欠けが発生し、耐摩耗性及び耐久性が低下する。圧壊荷重値のワイブル係数は25以下でもよい。
本明細書において、ワイブル係数は、50個のメディアの圧壊荷重値又は曲げ強さをワイブルプロットしたときのワイブル係数である。ワイブル係数は、次のように求めることができる。各準位i(i=1~n)の圧壊荷重値又は曲げ強さσに対して、平均ランク法を用いて下記式(6)から累積破壊確率を求める。下記式(6)において、曲げ強さのワイブル係数を求める場合は、圧壊荷重値を曲げ強さに置き換えて求める。圧壊荷重値又は曲げ強さの準位iに従って、σi及びFiの組を立てて、Y軸lnln(1-F)―1、X軸lnσをプロットする。このワイブルプロット(lnln(1-F)-1-lnσ)のデータ点に最小二乗法を適用して、線形回帰直線を求め、その傾きをワイブル係数mとして求める。
【0034】
【数5】
【0035】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(h)走査型電子顕微鏡を用いて確認したSEM画像において確認できるメディアの最大径をメディア直径とし、200個のメディアのメディア直径の平均値と標準偏差から導き出されるメディア直径の変動係数が6%未満であることが好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールのメディア直径の変動係数は、5.9%以下であることが好ましく、5.8%以下でもよく、4%以下であることがより好ましい。メディア直径の変動係数は、0%であることが好ましく、0.1%以上でもよい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(h)メディア直径の変動係数が6%未満であると、メディアのサイズのバラツキが小さく、ビーズミル内でのメディアの粉砕特性が均等になり、被処理粉体を均等に粉砕及び分散することができる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの(h)メディア直径の変動係数が6%以上であると、サイズの大きいメディアと小さいメディアが混在し、各サイズのメディアの動きがビーズミル内で異なり、メディアの粉砕及び分散特性にバラツキが生じ、被処理粉体の粒度分布のバラツキに繋がり、粉砕・分散処理において、再現性に劣る。さらにサイズの小さいメディアは、圧壊荷重値も小さくなるため、メディアの割れや欠けの原因となる。また、サイズの小さいメディアから先に摩耗されるため、メディアのサイズによって偏って摩耗が促進され、耐摩耗性の低下、及び耐久性の低下に繋がるので、好ましくない。メディア直径の変動係数は、下記式(7)から求めることができる。
【0036】
【数6】
【0037】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、前述の(a)から(h)の要件を満たし、さらに前述の(k)の要件を含むことが好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、前述の(a)から(h)の要件、を満たし、さらに、以下の(j)、(k)、(n)及び(o)の要件のうち、少なくとも1つを満たすことが好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、前述の(a)から(h)及び(k)の要件を満たし、さらに以下の(j)、(n)及び(o)の要件のうち、少なくとも1つを満たすことが好ましい。
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(j)ISO 14577に準拠して、1個のメディアを硬化型埋込樹脂中に埋め込み、硬化型埋込樹脂を硬化させ、メディアの直径の40%から50%まで研削し、研削面を結晶相の測定を行った測定面と同様の方法で、JIS B0601:2001に準拠した面粗さRz<0.05μmになるように鏡面研磨した後、超微小押し込み硬さ試験機を用いて研磨したメディアの断面の微小押し込み硬さを等間隔で10か所測定し、10個のメディアについて測定した微小押し込み硬さの平均値と標準偏差から導き出される微小押し込み硬さの変動係数が5%以下である、ことが好ましい。
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(k)SiOの含有量が0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲内である、ことが好ましい。
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(n)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave(N)に対する圧壊荷重値の最低値Pmin(N)の圧壊荷重比A(Pmin(N)/Pave(N))が0.8以上である、ことが好ましい。
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(o)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave(N)に対するクロスヘッドスピード0.1mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave0.1(N)の圧壊荷重比B(Pave0.1(N)/Pave(N))が0.95以上である、ことが好ましい。
【0038】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(j)ISO 14577に準拠して、1個のメディアを硬化型埋込樹脂中に埋め込み、硬化型埋込樹脂を硬化させ、メディアの直径の40%から50%まで研削し断面を前述の方法によりJIS B0601:2001に準拠した面粗さRz<0.05μmになるように鏡面研磨した後、超微小押し込み硬さ試験機を用いて研磨したメディアの断面の微小押し込み硬さを等間隔で10か所測定し、10個のメディアについて測定した微小押し込み硬さの平均値と標準偏差から微小押し込み硬さの変動係数を導き出すことができる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(j)微小押し込み硬さの変動係数が5%以下であることが好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、微小押し込み硬さの変動係数が、4.8%以下であることがより好ましく、4.5%以下でもよく、4.0%以下でもよく、3.5%以下でもよく、0%が好ましいが、0.1%以上でもよく、0.2%以上でもよく、0.5%以上でもよい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールを形成するための、成形用粉体を造粒した成形体の密度が不均一であると、その後の焼成工程において、1つの焼結体中で収縮量の違いが発生するため、組織の不均一性が大きくなる。組織の不均一性が大きい成形体を焼成した焼結体は、超微小押し込み硬さも不均一になる。組織が不均一であると残留応力も大きくなるため、衝撃に対する抵抗性が低下し、高負荷がかかるビーズミル内の使用で割れや欠けが発生する原因となる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、微小押し込み硬さの変動係数が5%以下であれば、メディアを構成する焼結体内の組織が均一であり、割れや欠けを抑制することができる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの微小押し込み硬さの変動係数が5%を超えると、メディアを構成する焼結体の組織が不均一となる。焼結体の組織が不均一なジルコニア質メディアは、高負荷がかかるビーズミル内でメディア同士の衝突による割れや欠けが発生しやすくなり、耐摩耗性が低下する。焼結体の組織が不均一なジルコニアベアリングボールは、例えば軸受けにおいて、高負荷がかかると割れや欠けが発生しやすくなり、耐摩耗性及び耐久性が低下する。メディア径の分布がシャープな真球形状であっても、メディア内部の微小押し込み硬さにバラツキがあると、耐衝撃性、耐摩耗性及び耐久性の低下に繋がる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの微小押し込み硬さは、試験荷重50mN、荷重印加速度5mN/秒、試験荷重保持時間1秒、除荷速度5mN/秒で測定することができる。超微小押し込み硬さ試験機で測定したメディアの微小押し込み硬さの変動係数は、下記式(8)から求めることができる。
【0039】
【数7】
【0040】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(m)メディア直径が0.5mm以下であることが好ましい。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、メディア直径が0.2mm以下であることがより好ましい。メディア直径は、0.01mm以上でもよく、0.015mm以上でもよい。メディア直径測定方法は、走査型電子顕微鏡を用いて確認した画像による測定方法と同様である。ジルコニア質メディアのメディア直径が0.5mm以下であれば、微粉体の粉砕・分散処理を行うメディアとして使用できる。微粉体の粉砕・分散処理は、メディアも微小である必要がある。ナノ粉体と呼ばれているような1nmから100nmのサイズの微粉体を粉砕・分散処理するためには、メディア直径が0.5mm以下を用いることが望ましく、0.2mm以下の微小メディアを用いることがより望ましい。メディアのサイズが被処理粉体のサイズに対して大きすぎると、被処理粉体を微小なサイズまで粉砕・分散処理することができない、また、メディアのサイズが被処理粉体のサイズに対して大きすぎると、メディアの質量も大きくなるため、被処理粉体の粉体表面にダメージを与え、粉体表面が活性化して再凝集が起こりやすくなる。ジルコニアベアリングボールの(m)メディア直径が小さいと、小型の軸受けにも用いることができる。
【0041】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(n)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave(N)に対する圧壊荷重値の最低値Pmin(N)の圧壊荷重比A(Pmin(N)/Pave(N))が0.8以上であることが好ましく、0.81以上でもよい。圧壊荷重比Aは1以下である。
圧壊荷重値は、メディアを構成する焼結体の結晶の粒界強度、内部欠陥のサイズや数に影響を受ける。そのため、メディアは、メディアの径分布の均一性を示す変動係数のみならず、圧壊荷重比Aが0.8以上であれば、個々のメディアが均一な強度を有しているといえる。ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールが、圧壊荷重比Aが0.8以上であれば、耐衝撃性、耐摩耗性及び耐久性を維持する均一な強度を有しているといえる。
圧壊荷重値の平均値は、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)の測定と同様に、圧壊荷重値を測定し、50個のメディアの圧壊荷重値の平均値をPave(N)とする。圧壊荷重比Aは、下記式(9)から求めることができる。
【0042】
【数8】
【0043】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールは、(o)クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Paveに対するクロスヘッドスピード0.1mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave0.1(N)の圧壊荷重比B(Pave0.1(N)/Pave(N))が0.950以上であることが好ましく、0.955以上であることがより好ましく、0.960以上であることがさらに好ましく、0.965以上であることがよりさらに好ましい。圧壊荷重値の平均値Paveと、圧壊荷重値の平均値Pave0.1が同等の値(Pave0.1(N)/Pave(N)=1)に近いほど、ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの内部欠陥が少ないことを表す。
圧壊荷重値は、負荷速度が遅い方が、メディア内の不均一性や欠陥等の強度の低い組織に応力集中しやすくなり、圧壊荷重値が低下する傾向がある。クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave(N)に対するクロスヘッドスピード0.1mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave0.1(N)の圧壊荷重比Bが0.95以上であれば、メディア内がより均一な強度を有していること表し、耐衝撃性、耐摩耗性及び耐久性に優れていることを表す。
クロスヘッドスピード0.1mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave0.1(N)は、50個のメディアの圧壊荷重値の平均値をPave0.1(N)とする。圧壊荷重比Bは、下記式(10)から求めることができる。
【0044】
【数9】
【0045】
ジルコニアベアリングボールは、(x)破壊靭性が5.0MPa・m1/2以上であり、5.2MPa・m1/2以上であることが好ましく、5.4MPa・m1/2以上であることがより好ましく、5.5MPa・m1/2以上であることがさらに好ましく、5.6MPa・m1/2以上であることが特に好ましく、8.0MPa・m1/2以下でもよく、7.0MPa・m1/2以下でもよく、6.5MPa・m1/2以下でもよい。ジルコニアベアリングボールは、(x)破壊靭性が7.0MPa・m1/2以下でもよく、6.8MPa・m1/2以下でもよい。ジルコニアベアリングボールの(x)破壊靭性が5.0MPa・m1/2以上であれば、例えばASTM International(旧American Society for Testing and Materials、米国試験材料協会)のF2094で規定されている窒化ケイ素(Si)ベアリングボールの材料クラスIIIの破壊靭性を満たすことができ、ASTM Internationalの規格値を満たすベアリングボールとして使用することができる。また、JIS R1669で規定されている転がり軸受球用窒化ケイ素(Si)材の等級3の破壊靭性を満たすことができ、JIS R1669の規格値を満たすベアリングボールとして使用することができる。ジルコニアベアリングボールの破壊靭性は、JIS R1669に準拠して、測定することができる。
【0046】
ジルコニアベアリングボールの破壊靭性は、SENB法を用い、ジルコニアベアリングボールを形成するための成形用粉体をプレス成形したテスト用の成形体をメディアと同様の条件で焼成し、#140のダイヤモンドホイールで3mm×4mm×45mm(縦×横×厚さ)の寸法に切削加工したテストピースを用いることができる。このテストピースを、スパン30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で3点曲げにより評価することができる。ノッチは、ノッチ先端の曲率半径が10μm、深さ1.5mmとなるようにテストピースの引っ張り面の中央に加工して測定することができる。破壊靭性KICは、下記式(11)及び(12)から求めることができる。
【0047】
【数10】
【0048】
ジルコニアベアリングボールは、(y)曲げ強さが1100MPaを超えて、曲げ強さのワイブル係数が7を超えており、曲げ強さが1110MPa以上でもよく、1120MPa以上でもよく、1150MPa以上でもよく、1600MPa以下でもよく、1500MPa以下でもよく、1450MPa以下でもよい。曲げ強さのワイブル係数は7.1以上もよく、7.5以上でもよく、8以上でもよく、30以下でもよく、25以下でもよい。ジルコニアベアリングボールは、(y)曲げ強さが1100MPaを超えて、曲げ強さのワイブル係数が7を超えていれば、例えばASTM InternationalのF2094で規定されている窒化ケイ素(Si)ベアリングボールの材料クラスIIIの曲げ強さを満たすことができ、曲げ強さのワイブル係数を満たすことができ、ASTM Internationalの規格値を満たすベアリングボールとして使用することができる。また、JIS R1669で規定されている転がり軸受球用窒化ケイ素(Si)材の等級3の曲げ強さ及び曲げ強さのワイブル係数を満たすことができ、JIS R1669の規格値を満たすベアリングボールとして使用することができる。ジルコニアベアリングボールの曲げ強さは、JIS R1669に準拠して、スパン30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で、3点曲げ強さの測定を10サンプルに対して行い、10サンプルの測定値の算術平均値を、(y)曲げ強さと測定することができる。また、曲げ強さのワイブル係数は、前述の式(6)において、圧壊荷重値を曲げ強さと置き換えて求めることができる。
【0049】
図4は、ジルコニアベアリングボールを用いるベアリングの一例を示す概略斜視図である。ベアリング1は、内輪2と、外輪3との間に、図示されていない保持器にベアリングボール4が保持されている。ベアリングは、風力発電機、飛行機、自動車、自転車、電車、冷蔵庫、エアコン、掃除機、コピー機、洗濯機、マッサージチェア、カメラ、電動ドライバー、パーソナルコンピューター、自動改札機、歩く歩道、エレベーター、コンベア等、そのほか、コンピューター断層撮影装置(CT)、核磁気共鳴画像装置(MRI)、歯科用ハンドピース等の医療機器にも用いられている。自動車では、例えばホイール、サスペンション、ステアリング等にベアリングが用いられている。自転車では、例えば変速機、ホイール等にベアリングが用いられている。自動改札機では、例えば切符等を送るローラー部分等にベアリングが用いられている。歯科用ハンドピースでは、例えば高速回転するドリルにベアリングが用いられている。
【0050】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの製造方法
本件発明のジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの製造方法は、(p)Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内になるようにジルコニウム原料とイットリウム原料を混合し、加水分解し、得られたジルコニウムとイットリウムの水和物を600℃以上1200℃以下の範囲で仮焼して得られた合成粉体と、
(q)全体量に対してAlの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内となるようにAl粉体とを混合して、混合粉体とし、
(r)前記混合粉体を湿式で粉砕及び/又は分散した混合粉体スラリーを乾燥した粉体のBET法で測定した比表面積が5m/g以上10m/g以下の範囲内となり、
(s)前記混合粉体スラリーをレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の平均粒子径が0.3μm以上0.6μm以下の範囲内となるように湿式で、粉砕及び/又は分散し、
(t)前記混合粉体スラリーを乾燥させた粉体の1質量部と成形用溶媒の100質量部とを混合して得られた凝集粉体平均粒子径測定用のスラリー中の凝集した粉体のレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内となるように、乾燥し、整粒して得られた成形用粉体を準備し、
(u)前記成形用粉体を造粒成形し、成形体を得て、
(v)前記成形体を1250℃以上1600℃以下の範囲内で焼成し、ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体を得ることを含む。
【0051】
(p)Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内になるようにジルコニウム原料とイットリウム原料を混合し、加水分解し、得られたジルコニウムとイットリウムの水和物を600℃以上1200℃以下の範囲内で仮焼して合成粉体を得る。合成粉体のY/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内であると、単斜晶系ジルコニアが少なく、95体積%以上の正方晶系ジルコニアを含むZrO-Y系ジルコニア質の焼結体を得ることができる。合成粉体のY/ZrOモル比が前述の範囲内であると、得られる焼結体に含まれる正方晶系ジルコニアの安定が良好であり、焼結体の割れや欠けが抑制でき、耐摩耗性及び耐久性を向上した焼結体を得ることができる。
【0052】
ジルコニウム原料とイットリウム原料を、Y/ZrOモル比が2.5/97.5以上3.2/96.8以下の範囲内となるように混合し、水を加えて水溶液とし、この水溶液を100℃の温度で加熱還流により加水分解した後、得られたジルコニウムとイットリウムの水和物を、脱水、乾燥して、600℃以上1200℃以下の範囲内で仮焼して合成粉体を得る。仮焼温度は、800℃以上1000℃以下の範囲内でもよい。仮焼温度が600℃以上1200℃以下の範囲内であれば、合成粉体中の組成が均一となり、焼成時に組成が均一であり、強度が均一な焼結体を得やすくなる。仮焼の時間は、30分以上2時間以内であり、1時間以内でもよい。仮焼は、大気雰囲気(酸素20体積%)、標準気圧(0.101MPa)で行うことが好ましい。
【0053】
合成粉体を作製するために、ジルコニウム原料として、ジルコニウム化合物を用いる。ジルコニウム化合物は、オキシ塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム等が使用できる。ジルコニウム化合物は、純度が99.9質量%以上であることが好ましい。ジルコニウム原料として用いるジルコニウム化合物の不純物量が多いと、得られる焼結体の結晶粒界に不純物の相が生成されやすい。焼結体に高負荷がかかると不純物の相に応力が集中し、焼結体からなるジルコニア質メディアの割れや欠けの原因となるため好ましくない。本明細書において、ジルコニウム化合物の純度は、各化合物のカタログに記載された値を参照にすることができる。
【0054】
ZrOに固溶させるYは、イットリウム原料として、イットリウム化合物を用いる。イットリウム化合物は、硝酸イットリウム、酸化イットリウム等が使用できる。イットリウム化合物は、純度が99.9質量%以上であることが好ましい。イットリウム化合物の不純物量が多いと、前述のとおり、得られる焼結体の結晶粒界に不純物の相が生成されやすいため、好ましくない。
【0055】
(q)全体量に対するAlの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内となるようにAl粉体を合成粉体と混合して混合粉体を得る。混合粉体にAl粉体が含まれると、混合粉体から作製した成形用粉体を用いて作製した成形体の焼結性が向上する。また、AlがZrOの結晶粒界への偏析やAlの結晶粒子としても存在するため、ZrOの結晶粒界が強化され、耐衝撃性等の機械的特性が向上した焼結体を得ることができる。
【0056】
Al粉体は、酸化アルミニウムの純度が99.9質量%以上であり、レーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の平均粒子径が0.1μm以上0.3μm以下の範囲内であることが好ましい。Al粉体中の不純物量が多いと、前述のとおり、得られる焼結体の結晶粒界に不純物の相が生成されやすい。また、Al粉体の平均粒子径が0.1μm以上0.3μm以下の範囲内であれば、合成粉体とAl粉体を含む混合粉体中に前記(q)の要件を満たす量のAl粉体が均一に分散される。得られた焼結体中でAlがZrOの結晶粒界に偏析し、また、Alの結晶粒子としても存在し、ZrOの結晶粒界が強化され、耐衝撃性等の機械的特性が向上した焼結体を得ることができる。Al粉体が0.3μmを超えるとZrO結晶粒子に対するAl結晶粒子のサイズが大きくなり過ぎるため、焼結体組織を均一とすることができない。また、Al粉体が0.1μmを下回ると凝集し易くなり均一な分散ができない。
【0057】
混合粉体は、(w)全体量に対してSiOが0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲内となるようにSiO原料を含有することが好ましく、0.3質量%以上0.9質量%以下の範囲内で含有してもよく、0.5質量%以上0.7質量%以下の範囲内で含有してもよい。混合粉体中にSiO原料が(w)全体量に対してSiOが0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲内となるように含有していると、40℃以上の温水中でメディアを使用した場合であっても、メディアを構成する焼結体中のZrOの結晶粒界への水の浸食を抑制し、耐摩耗性を維持することができる。
【0058】
SiO原料は、ヒュームドシリカ等のSiO粉体、又はエチルシリケート、コロイダルシリカ等のシリカゾル、をSiO源として用いることができる。
【0059】
湿式で粉砕及び/又は分散した混合粉体スラリーを乾燥させた成形用粉体が、(r)BET法で測定した比表面積が5m/g以上10m/g以下の範囲内となり、(s)混合粉体スラリーのレーザー回折法により測定した平均粒子径が0.3μm以上0.6μm以下の範囲内となるように、粉砕及び/又は分散する。得られた混合粉体スラリーを下記に示す凝集粉体粒子径となるように乾燥、整粒して、成形用粉体を得る。比表面積及び平均粒形を上記範囲内として成形用粉体を用いる。造粒成形した成形体を焼成する際に、成形体の内部が均一に焼結し、均一な強度を有する焼結体を得ることができる。混合粉体の比表面積が10m/gを超えるか、混合粉体の平均粒子径が0.3μm未満であると、造粒成形した成形体を焼成する際に、焼結性が過剰に大きくなり、内部が不均一に焼結し、強度の低い部分を有する焼結体となる。強度の低い部分を有する焼結体は、弱い箇所に応力が集中しやすくなり、割れや欠けが発生し、耐摩耗性及び耐久性が低下する。混合粉体の比表面積が5m/g未満か、混合粉体の平均粒子径が0.6μmを超えると、焼結性が低下し、欠陥が残存しやすく、焼結体の強度が低下し、割れや欠けが発生し、耐摩耗性及び耐久性が低下する。
【0060】
混合粉体は、BET法で測定した比表面積が5.2m/g以上9.5m/g以下の範囲内となるように湿式で、粉砕及び/又は分散してもよい。また、混合粉体は、レーザー回折法で測定した平均粒子径が、0.32μm以上0.59μm以下の範囲内となるように湿式で、粉砕及び/又は分散してもよく、0.35μm以上0.50μm以下の範囲内となるように湿式で、粉砕及び/又は分散してもよい。
【0061】
(t)前記混合粉体スラリーを乾燥させた粉体1質量部と成形用溶媒の100質量部とを混合して得られた凝集粉体平均粒子径測定用のスラリー中の凝集した粉体のレーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して測定した体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内となるように、乾燥し、整粒して得られた成形用粉体を準備する。凝集した粉体の凝集粉体平均粒子径は、1.2μm以上4.9μm以下の範囲内としてもよく、1.5μm以上4.0μm以下の範囲内としてもよい。
本発明者等は、混合粉体の比表面積及び平均粒子径のみならず、混合粉体スラリーを乾燥させた凝集した粉体の状態も、成形性及び焼結性に大きく影響することを新たに見出した。
混合粉体スラリーを乾燥させた凝集した粉体の状態は、成形用粉体を造粒成形するときの成形用溶媒との濡れ性に大きく影響する。混合粉体スラリーを乾燥させた凝集した粉体の凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内となるように湿式での粉砕、分散条件及び適した界面活性剤の添加、乾燥、整粒の条件を調整して成形用粉体を準備すれば、成形用粉体を造粒成形する時の濡れ性が好適であり、造粒成形する時に組織や成形体密度の均一な成形体とすることができる。得られた成形体は、均一に焼成することができ、得られる焼結体の密度を均一にすることができる。混合粉体を湿式で粉砕、分散するときに添加する界面活性剤は、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩等を用いることができる。界面活性剤は、必要に応じて混合粉体スラリーに含まれる混合粉体の100質量%に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲で使用することができる。得られた成形体は、均一に焼成されることによって、焼成による収縮差を無くすことができる。
本明細書において、凝集した粉体は、二次粒子が更に弱く凝集した状態の粉体をいう。スラリー中であっても、凝集した粉体は凝集状態を維持している。
凝集した粉体は、試験管に凝集した粉体の1質量部と、成形用溶媒の100質量部の割合で混合して凝集粉体平均粒子径を測定できる。具体的には、試験管に凝集した粉体を0.1gと、成形用溶媒を10g、入れて、3秒間、上下に振り交ぜて混合し、スポイトで吸い取り、スポイトで吸い取ったスラリーを分析用容器に入れ、分析用容器内のスラリーにレーザー光を照射して、スラリー中の凝集した粉体の凝集粉体平均粒子径を測定することができる。成形用溶媒は、後述する成形用粉体を造粒成形し、成形体とするときの成形用溶媒と同様のものを用いる必要がある。凝集した粉体の凝集粉体平均粒子径が1.2μm以上4.9μm以下の範囲内であれば、成形用粉体とすることができる。
【0062】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの製造方法において、(u)得られた成形用粉体を造粒成形し、成形体を得ることを含む。成形用粉体に成形用溶媒を添加して造粒成形し、成形体を得る。成形時に用いる成形用溶媒は、水、アルコール類、パラフィン系炭化水素、及びこれらの混合物が挙げられる。水は、例えばイオン交換水が挙げられる。アルコール類としては、例えば、炭素数1から4の直鎖又は分岐差のアルキル基を有するアルコールが挙げられる。成形体は、焼成後にメディア直径が0.5mm以下となるように造粒成形して成形体とすることが好ましい。
【0063】
ジルコニア質メディア又はジルコニアベアリングボールの製造方法は、(v)得られた成形体を1250℃以上1600℃以下の範囲内で焼成し、ZrO-Y系ジルコニア質の焼結体を得ることを含む。焼成温度は、1300℃以上1550℃以下の範囲内がより好ましい。焼成温度が1250℃以上1600℃以下の範囲内であると、均一に焼成することができ、強度の高い焼結体を得ることができる。ジルコニア質メディアの製造方法で得られた焼結体からなるメディアは、前記(a)から(h)の要件を満たすことができる。焼成温度が1250℃未満であると、焼結が不十分となり、欠陥となる気孔が残存して強度が低下し、得られる焼結体の耐摩耗性が低下する。焼成温度が1600℃を超えると、結晶粒径が過剰に大きくなる場合があり、また、立方晶系ジルコニアの含有量が大きくなり、靭性が低下し、耐摩耗性が低下する。成形体の焼成は、ガス炉等を用いて、大気雰囲気(酸素20体積%)、標準気圧(0.101MPa)で焼成することが好ましい。
【0064】
得られた焼結体は、バレル研磨装置を用いて、JIS B0601:2001に準拠した面粗さRz(表面粗さの粗さ曲線の最大高さ)が0.3μm以下(Rz≦0.3μm)になるまで焼結体の表面を研磨することが好ましい。得られた焼結体の表面をバレル研磨装置で研磨することによって、表面の凹凸が無くなり、耐摩耗性を向上することができる。得られた焼結体をメディアとすることができる。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例1から8、比較例1から11
純度が99.9質量%(カタログ値)のオキシ塩化ジルコニウムと、純度が99.9質量%(カタログ値)の硝酸イットリウムを、酸化物換算のY/ZrOモル比が表2に示す値となるように水に入れて混合し、水溶液を得た。次いで、水溶液を100℃の加熱還流下で加水分解し、イットリウムを含むジルコニウム水和物の沈殿物を得た。イットリウムを含むジルコニウム水和物を脱水し、100℃で24時間乾燥して、イットリウムを含むジルコニウム水和物を得た。イットリウムを含むジルコニウム水和物を、表1に示す仮焼温度に達してから1時間、大気雰囲気、標準気圧のガス炉で仮焼し、合成粉体を得た(前記(p)の処理)。
得られた合成粉体を、水に湿式分散し全体量に対して表2に示す含有量となるように、純度が99.9質量%(カタログ値)のAl粉体と、必要に応じてSiO源となる純度が99.9質量%(カタログ値)のヒュームドシリカもしくはシリカゾルを含有させ、混合粉体を得た(前記(q)及び(w)の処理)。
得られた混合粉体を、水を媒体として、湿式で粉砕及び/又は分散し、後述するBET法で測定した比表面積が表1に示す数値となり、後述するレーザー回折法で測定した平均粒子径が表1に示す数値となる、混合粉体スラリーを得た。(前記(r)及び(s)の処理)
混合粉体スラリーを乾燥させて、乾燥させた粉体の1質量部と成形用溶媒の100質量部を混合して得られた凝集粉体平均粒子径測定用のスラリー中の凝集した粉体の後述するレーザー回折法で測定した凝集粉体平均粒子径が表1に示す数値となるように、乾燥し、整粒して、成形用粉体を得た。整粒は、篩により分級することにより行った(前記(t)の処理)。
【0067】
実施例及び比較例の各成形用粉体に成形用溶媒として水を添加して造粒して、成形体を形成し、実施例及び比較例の各成形体を得た(前記(u)の処理)。
【0068】
実施例及び比較例の各成形体を、表1に示す焼成温度に達してから1時間、大気雰囲気、標準気圧のガス炉で焼成し、実施例及び比較例の焼結体を得た。この焼結体を、バレル研磨装置を用いて、JIS B0601:2001に準拠した面粗さRz(表面粗さの粗さ曲線の最大高さ)が0.3μm以下(Rz≦0.3μm)なるまで表面を研磨し、研磨した焼結体を粉砕・分散用のメディアとした(前記(v)の処理)。表面粗さの粗さ曲線は、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて測定した。
【0069】
実施例及び比較例の各混合粉体について、以下のように、比表面積、平均粒子径を測定した。また、以下のように、成形用粉体の凝集粉体平均粒子径を求めた。これらの結果を、各成形体の仮焼温度及び焼成温度とともに、表1に記載した。
【0070】
混合粉体スラリーの比表面積
混合粉体スラリーの比表面積は、比表面積測定装置(Tristar II、株式会社島津製作所製)を用いて、BET法により測定した。
【0071】
混合粉体スラリーの平均粒子径
混合粉体の平均粒子径は、レーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して、粒子径分布測定装置(MT3000、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の混合粉体の平均粒子径を測定した。
【0072】
成形用粉体の凝集粉体平均粒子径
混合粉体スラリーを乾燥させた粉体の1質量部と、成形用溶媒としてイオン交換水の100質量部とを混合して得られ凝集粉体平均粒子径測定用のスラリーとし、このスラリー中の凝集した粉体について、レーザー回折法によりJIS Z8825に準拠して、粒子径分布測定装置(MT3000、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、体積基準の粒度分布における累積頻度が50%の凝集した粉体の凝集粉体平均粒子径を測定した。
【0073】
実施例及び比較例の各メディアについて、以下の各評価を行い、結果を表2から5に記載した。各評価について、以下に記載されていない条件は、前述に記載の各評価の条件を参照することができる。
【0074】
メディア直径の平均値、メディア直径の変動係数
実施例及び比較例の各メディアについて、走査型電子顕微鏡(SEM)(SU3500、株式会社日立ハイテク製)を用いて、メディア200個の画像を撮影した。撮影した画像を、画像解析ソフト(Image-Pro Plus、株式会社日本ローパー製)を用いて、メディアの最大径を、メディア直径とし、200個のメディアのメディア直径の粒度分布を作成した。200個のメディアのメディア直径の平均値と、標準偏差を求め、前記式(7)に基づき、メディア直径の変動係数を求めた。
【0075】
メディアの結晶相の含有割合(体積%)
実施例及び比較例の各メディアについて、焼結体からなるメディアを硬化型埋込樹脂に直径が10mm以上の円の面積以上となるように配置した。硬化型埋込樹脂(エポキシ樹脂)を硬化し、硬化型埋込樹脂に埋め込まれた焼結体からなるメディアの断面における直径の約3分の1まで研削し、前述の方法により研削面の面粗さをJIS B0601:2001に準拠した面粗さRz<0.05μmになるように鏡面研磨した。X線回折法により回折角が27度から34度の範囲と70度から77度の範囲で測定した。得られた結果から前記式(1)から(3)に基づき、単斜晶系ジルコニア(M)含有量(体積%)、正方晶系ジルコニア(T)含有量(体積%)、立方晶系ジルコニア(C)含有量(体積%)を求めた。
X線回折の条件は、X線源:CuKα、出力:40kV/40mA、入射側発散スリット:1/2°、入射側ソーラースリット:4.1°、受光側発散スリット:5.2mm、受光側ソーラースリット:OPEN、スキャンスピード:0.5°/分、走査軸2θ/θ、を用いた。
【0076】
相対密度
実施例及び比較例の各メディアについて、JIS R1620に定められる気体置換に基づきみかけ密度を測定した。さらにY/ZrOモル比と、Al含有量から、各メディアの理論密度を算出し、前記式(4)に基づき、相対密度(%)を求めた。理論密度は、Yが固溶したZrOの理論密度(6.1g/cm)と、Alの理論密度(3.98g/m)と、に基づき、焼結体のYが固溶したZrOとAlの組成比により算出した。
【0077】
平均結晶粒径
実施例及び比較例の各メディアについて、メディアを硬化型埋込樹脂(エポキシ樹脂)に埋め込み、硬化型埋込樹脂を硬化した。硬化型埋込樹脂に埋め込まれたメディアの表面から中心方向に向けて100μm未満となるように研削し、研削面を前述の方法により鏡面まで研磨し、次いで熱エッチング又は化学エッチングを施した。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)(SU3500、株式会社日立ハイテク製)で1視野に結晶粒が100個以上観察できる倍率で観察し、インターセプト法により平均結晶粒径を求めた。具体的には、対象となる結晶粒が見える面に長さLの直線を10本引き、この直線が横切った結晶粒の個数を求め、直線の端がその内部にある結晶粒は、1/2個と数え、前記式(5)に基づき、平均結晶粒径を求めた。
【0078】
圧壊荷重値の最低値Pmin(N)、600×D2.0
実施例及び比較例の各メディアについて、万能材料試験機(5965、インストロン社製)を用い、加圧板に窒化ホウ素(BN)焼結体を用いて、1個のメディアを2枚の加圧板の間に挟んでクロスヘッドスピード0.5mm/分で荷重を加え、破壊した時の圧力を圧壊荷重値として測定した。50個のメディアの圧壊荷重値の平均値Pave(N)と、50個のメディアの圧壊荷重値の最低値をPmin(N)とした。また、メディア直径の平均値(D)から600とD2.0の積を求め、規定値(600×D2.0)とした。
【0079】
圧壊荷重値のワイブル係数
実施例及び比較例の各メディアについて、圧壊荷重値の最低値の測定と同様にして、50個のメディアの圧壊荷重値をワイブルプロットし、各準位i(i=1~n)の圧壊荷重値σに対して、平均ランク法を用いて前記式(6)から累積破壊確率を求めた。圧壊荷重値の準位iに従って、σi及びFiの組を立てて、Y軸lnln(1-F)―1、X軸lnσをプロットした。このワイブルプロット(lnln(1-F)-1-lnσ)のデータ点に最小二乗法を適用して、線形回帰直線を求め、その傾きをワイブル係数として求めた。
【0080】
圧壊荷重比A
実施例及び比較例の各メディアについて、圧壊荷重値の最低値の測定と同様にして、50個のメディアのクロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave(N)に対する圧壊荷重値の最低値Pmin(N)の圧壊荷重比A(Pmin(N)/Pave(N))を、前記式(9)に基づき、求めた。
【0081】
圧壊荷重比B
実施例及び比較例の各メディアについて、圧壊荷重値の最低値の測定と同様にして、50個のメディアのクロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Paveに対するクロスヘッドスピード0.1mm/分で測定した圧壊荷重値の平均値Pave0.1(N)の圧壊荷重比B(Pave0.1(N)/Pave(N))を、前記式(10)に基づき、求めた。
【0082】
超微小押し込み硬さ試験機で測定した硬度の変動係数
実施例及び比較例の各メディアについて、1個のメディアを硬化型埋込樹脂(エポキシ樹脂)中に埋め込み、硬化型埋込樹脂を硬化させた。メディアの直径の40%から50%まで研削し断面を前述の方法によりJIS B0601:2001に準拠した面粗さRz<0.05μmになるように鏡面研磨した。その後、超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a、株式会社エリオニクス製)を用いて、バーコビッチ型圧子を用い、荷重50mN、荷重印加速度5mN/秒、試験荷重保持時間1秒、除荷速度5mN/秒で、メディアの断面の直径方向に等間隔で10か所の微小埋め込み硬さ(N/mm)を測定した。10個のメディアについて測定した微小埋め込み硬さの平均値と標準偏差から前記式(8)に基づき、超微小押し込み硬さの変動係数を求めた。
【0083】
曲げ強さ及び曲げ強さのワイブル係数
加工用サンプルの作製
実施例及び比較例の各成形用粉体を、株式会社神戸製鋼所製のSr.CIP-Mを用いて、1000kgf/cmで冷間等方圧加圧(CIP、Cold isostatic press)成形し、その後メディアと同様の条件で焼成し、加工用サンプルを作製した。加工用サンプルを#140のダイヤモンドホイールで縦3mm×横4mm×厚さ45mmの大きさに研削加工し、テストピースを作製した。
曲げ強さ及び曲げ強さのワイブル係数
JIS R1601に準拠して、スパン30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で、3点曲げ強さの測定をテストピースの10サンプルについて行い、その算術平均値を曲げ強さとした。また、曲げ強さから前述の
実施例及び比較例の各メディアについて、前述の式(6)に基づき、曲げ強さのワイブル係数を求めた。
【0084】
破壊靭性
SENB法により、曲げ強さを測定したテストピースと同様のテストピースを用いて、スパン30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で、3点曲げにより評価した。ノッチは、ノッチ先端の曲率半径が10μm、深さ1.5mmで、テストピースの引っ張り面の中央に加工した。破壊靭性は、前述の式(11)及び(12)に基づき、破壊靭性(KIC)を求めた。
【0085】
分散処理
実施例及び比較例のメディアを用いて、デュアルアペックスミル(DAM-015、株式会社広島メタル&マシナリー製)を用いて、ミル部材ベッセルはZTA(アルミナジルコニア複合材料)、ローターはUHMV(ポリエチレン製)を使用し、メディア充填量をミル容積の60容積%とし、ローター周速8m/sとし、以下の条件で被処理粉体の分散処理を行った。第1試験用スラリーの温度は40℃以下の温度、又は、40℃を超える温度で行った。実施例8については、第1試験用スラリーの温度が40℃以下の温度と40℃を超える温度と両方の温度で行った。
被処理粉体:酸化チタン(透過型電顕微鏡(TEM)の画像から測定した一次粒子径35nm(カタログ値)、BET法で測定した比表面積37m/g(カタログ値))
第1試験用スラリー濃度:10質量%
第1試験用スラリー流量:160mL/分
分散時間:3時間
【0086】
炭酸カルシウム(CaCO)の粉砕・分散処理
実施例2及び7のメディアと、比較例6及び8のメディアを用いて、デュアルアペックスミル(DAM-015、株式会社広島メタル&マシナリー製)を用いて、ミル部材ベッセルはZTA(アルミナジルコニア複合材料)、ローターはUHMV(ポリエチレン製)を使用し、メディア充填量をミル容積の60容積%とし、ローター周速8m/sとし、以下の条件で被処理粉体を水に混合して第2試験用スラリーとし、分散処理を行った。分散処理の温度は、表5に記載した。
被処理粉体:炭酸カルシウム(レーザー回折粒度分布測定法よる平均粒子径2.1μm(カタログ値)、BET法で測定した比表面積10m/g(カタログ値))
第2試験用スラリー濃度:10質量%
第2試験用スラリー流量:160mL/分
分散時間:3時間
【0087】
摩耗率
分散処理を行った後、メディア摩耗粉として第1試験用スラリー又は第2試験用スラリーに含まれるZrO量(質量ppm/時間)を、分散処理後の被処理粉体(酸化チタン粉体及び炭酸カルシウム粉体)から高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)により、ICP発光分析装置(ICPS-8100、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。分散処理後の被処理粉体(酸化チタン)中のZrO量を測定した摩耗率(質量ppm/時間)を表4に記載した。また、分散処理後の被処理粉体(炭酸カルシウム粉体)中のZrO量を測定した摩耗率(質量ppm/時間)を表5に記載した。摩耗率は、下記式(13)により算出した。
【0088】
【数11】
【0089】
メディアの割れの有無
分散処理前のメディアと、分散処理後のメディアについて、使用したメディア全体の10%のメディアを取り出し、デジタルマイクロスコープ(VHX-6000、株式会社キーエンス製)を用いて、200倍率の画像を目視で観察した。被処理粉体(酸化チタン粉体)を分散処理した後のメディアの割れの有無を表4に記載し、被処理粉体(炭酸カルシウム粉体)を分散処理した後のメディアの割れの有無を表5に記載した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
実施例1から8のメディアは、前述の要件(a)から(h)、(j)、(k)、(n)及び(o)の要件を全て満たし、製造方法においても、前記(p)から(w)の処理を満たしていた。また、実施例1から8のメディアは、前述の要件(x)及び(y)の要件を満たし、例えばASTM InternationalのF2094で規定されている窒化ケイ素(Si)ベアリングボールの材料クラスIII又はJIS R1669で規定されている転がり軸受け窒化ケイ素(Si)材の等級3に要求される破壊靭性、曲げ強さ及び曲げ強さのワイブル係数を満たしていた。実施例1から5及び実施例8のメディアは、40℃以下の温度の媒体(水)を用いた被処理粉体を含む第1試験用スラリーの粉砕・分散処理に用いた場合に、摩耗率が100質量ppm/時間未満であり、耐摩耗性が優れていた。また、実施例6及び7のメディアは、40℃を超える温度の媒体(水)を用いた1次粒子径の小さい被処理粉体(酸化チタン粉体)を含む第1試験用スラリーの粉砕・分散処理に用いた場合に摩耗率が101質量ppm/時間以下であり、温水で使用した場合であっても耐摩耗性が優れていた。実施例1から7のメディアは、粉砕・分散処理後も割れや欠けがなく、耐久性に優れていた。
【0096】
実施例2及び7のメディアは、平均粒子径が1μm以上10μmの被処理粉体(炭酸カルシウム)を含む第2試験用スラリーの粉砕・分散処理に用いた場合にも、摩耗率は1.5質量ppm/時間以下であり、耐摩耗性に優れていた。この結果から、前述の要件(a)から(h)を満たし、好ましくは要件(j)、(k)、(n)及び(o)の要件を満たす、メディアは、医薬用粉体として用いられる炭酸カルシウムの粉砕・分散処理においても、耐摩耗性に優れ、割れや欠けがなく、被処理粉体の純度を維持して高純度を保った状態で、被処理粉体を粉砕・分散処理することができることが確認できた。図1は、実施例1のメディアの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。実施例1のメディアは、真球に近い形であり、耐摩耗性に優れている。
【0097】
比較例1のメディアは、Y/ZrOモル比が2.5/97.5未満であり、正方晶系ジルコニアの含有量が90体積%未満であり、前記(a)及び(c)の要件を満たしていない。また、比較例1のメディアは、破壊靭性が4.2MPa・m1/2であり、曲げ強さが770MPaであり、前記(x)及び(y)の一部の要件を満たしていない。比較例1のメディアは、製造方法においても、前記(p)の処理を満たしていない。比較例1のメディアは、単斜晶系ジルコニアの含有量が11体積%と多くなり、機械的特性が低く、耐摩耗性が低下する。比較例1のメディアは、圧壊荷重比Bも、前記(o)の要件を満たしていない。
【0098】
比較例2及び3のメディアは、Alの含有量が0.1質量%以上30.0質量%以下の範囲内ではなく、前記(b)の要件を満たしていない。比較例2のメディアは、Alが含まれていないため、焼結性の向上が得られず、相対密度が95%未満であり前記(d)の要件を満たしていない。機械的特性が向上していないことから、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)>600×D2.0(前記(f)の要件)を満たしていない。比較例2のメディアは、圧壊荷重値のワイブル係数も10未満となり、前記(g)の要件を満たしていない。比較例2のメディアは、曲げ強さが700MPaであり、前記要件(y)の一部を満たしていない。比較例2のメディアは、強度の低いメディアも混在するため、強度の低いメディアに応力が集中し、割れや欠けが発生しやすく、耐摩耗性及び耐久性が低くなる。比較例3のメディアは、相対密度が95%未満であり、前記(d)の要件を満たしておらず、多くの内部欠陥が残存した。比較例3のメディアは、機械的特性が向上していないことから、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)>600×D2.0(前記(f)の要件)を満たしておらず、耐摩耗性及び耐久性が低下する。比較例3のメディアは、超微小押し込み硬さ試験機を用い測定した微小押し込み硬さの変動係数も5%を超えて大きくなる。比較例3のメディアは、破壊靭性が4.8MPa・m1/2であり、曲げ強さが690MPaであり、前記要件(x)及び(y)の一部の要件を満たしていない。比較例3のメディアは、粉砕・分散処理において、40℃の温水が使用されると、耐摩耗性がさらに低下する。
【0099】
比較例4及び5のメディアは、混合粉体の比表面積が5m/g以上10m/g以下の範囲内となる前記(r)の処理を満たしていない。また、比較例4及び5のメディアは、合成粉体を得るときの仮焼温度が600℃以上1200℃以下の範囲内ではなく、前記(p)の処理を満たしていない。比較例4のメディアは、混合粉体の比表面積が大きく微細な粉体となっていることから、焼結性が不均一となり、圧壊荷重値のワイブル係数が10未満であり、前記要件(g)を満たしていない。強度の低いメディアは、メディア内部の強度の低い部分に応力が集中し、耐摩耗性及び耐久性が低下する。
比較例4のメディアは、超微小押し込み硬さ試験機を用い測定した硬度の変動係数も5%を超えて大きくなり、圧壊荷重比Aも0.8未満となり、前記(j)及び(n)の要件を満たしていない。
比較例5のメディアは、比表面積が小さく焼結性が低くなるため、焼結体の内部に欠陥が残存し、相対密度が95%未満であり、前記(d)の要件を満たしていない。比較例5のメディアは、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)>600×D2.0(前記(f)の要件)を満たしていない。比較例5のメディアは、曲げ強さが750MPaであり、曲げ強さのワイブル係数が5.6であり、前記(y)の要件を満たしていない。
比較例4及び5のメディアは、粉砕・分散処理において、40℃を超える温水が使用されると、耐摩耗性がさらに低下する。
【0100】
比較例6及び7のメディアは、混合粉体スラリーを乾燥させた凝集した粉体の凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内となるようにする、前記(t)の処理を満たしていない。比較例6のメディアは、混合粉体の平均粒子径が0.3μm未満であり、前記(s)の処理を満たしていない。比較例7のメディアは、SiOの含有量が1.0質量%を超えており、前記(k)又は(w)の要件を満たしていない。比較例6及び7のメディアは、凝集粉体平均粒子径が1μm以上5μm以下の範囲内ではないので、成形性が良くなく、メディア直径の変動係数が6%以上であり、前記(h)の要件を満たしておらず、メディア直径の粒径分布がバラついており、強度の低いメディアに応力が集中し、割れや欠けが発生し、耐摩耗性及び耐久性が低下する。
比較例6のメディアは、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)>600×D2.0(前記(f)の要件)、を満たしておらず、圧壊荷重値のワイブル係数及び圧壊荷重比Aも、前記(g)及び(n)の要件を満たしていない。比較例6のメディアは、曲げ強さが1080MPaであり、前記(y)の一部の要件を満たしていない。
比較例7のメディアは、SiOの含有量が1.0質量%を超えており、ZrOの結晶粒界にSiO相からなる第2相が形成され、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)>600×D2.0(前記(f)の要件)、を満たしておらず、圧壊荷重比A及び圧壊荷重比Bも、前記(n)及び(o)の要件を満たしていない。比較例7のメディアは、曲げ強さのワイブル係数が6.2であり、前記(y)の一部の要件を満たしていない。
比較例7のメディアは、成形体の内部が不均一であるため、不均一に焼成収縮が進み、図2に示すような異形焼結体が存在することが確認された。図2は、比較例7のメディアの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。このような異形焼結体を含むメディアは分散処理を行う際に不均一な負荷がかかり、割れや欠けが発生しやすく、耐摩耗性及び耐久性が低くなり、使用後のメディアには、割れや欠けが確認された。
【0101】
比較例8のメディアは、Y/ZrOモル比が3.2/96.8を超えており、前記(a)の要件を満たしていない。比較例8のメディアは、立方晶系ジルコニア(C)の含有量が6体積%と多くなり、靭性の低下につながり、強度の低いメディアに割れや欠けが発生しやすく、耐摩耗性及び耐久性が低下する。比較例8のメディアは、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)>600×D2.0(前記(f)の要件)、を満たしておらず、圧壊荷重比A及び圧壊荷重比Bも、前記(n)及び(o)の要件を満たしていない。比較例8のメディアは、曲げ強さが980MPaであり、前記(y)の一部の要件を満たしていない。
比較例8のメディアは、強度の低い部分が存在し、図3Aに示すようなヒビ割れが入った焼結体が存在することが確認された。図3Aは、粉砕及び/又は分散処理に使用する前の比較例8のメディアの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。このようなヒビ割れが入った焼結体を含むメディアは分散処理を行う際に不均一な負荷がかかり、分散処理に使用した後は、図3Bに示すような焼結体が割れた破片が確認された。図3Bは、粉砕及び/又は分散処理に使用する後の比較例8のメディアの走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【0102】
比較例9及び10のメディアは、焼成温度が1250℃以上1600℃以下の範囲外であり、前記(v)の処理を満たしていない。
比較例9のメディアは、焼成温度が1600℃を超えており、結晶粒径が過剰に大きくなって、平均結晶粒径が0.5μmを超えており、前記(e)の要件を満たしていない。比較例9のメディアは、正方晶系ジルコニアの含有量が90体積%未満であり、前記(c)の要件を満たしていない。比較例9のメディアは、立方晶系ジルコニア(C)の含有量が11体積%と多くなり、靭性の低下につながり、強度の低いメディアに割れや欠けが発生しやすく、耐摩耗性及び耐久性が低下する。比較例9のメディアは、超微小押し込み硬さの変動係数も5%を超えて大きくなり、圧壊荷重比Bも0.95未満となり、前記(j)及び(o)の要件を満たしていない。比較例9のメディアは、曲げ強さが910MPaであり、前記(y)の一部の要件を満たしていない。
比較例10のメディアは、焼成温度が1250℃未満であり、前記(v)の処理を満たしていない。比較例10のメディアは、焼結が不純分となり、欠陥が残存して強度が低下し、耐摩耗性及び耐久性が低下する。比較例10のメディアは、相対密度が90%以下であり、平均結晶粒径が0.25μm未満であり、圧壊荷重値のワイブル係数も10未満であり、前記(d)、(e)及び(g)の要件を満たしていない。比較例10のメディアは、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)>600×D2.0(前記(f)の要件)、を満たしていない。比較例10のメディアは、破壊靭性が4.9MPa・m1/2であり、曲げ強さが720MPaであり、前記(x)及び(y)の一部の要件を満たしていない。
【0103】
比較例11のメディアは、圧壊荷重値の最低値Pmin(N)>600×D2.0(前記(f)の要件)、を満たしていない。圧壊荷重比A及び圧壊荷重比Bも、前記(n)及び(o)の要件を満たしていない。比較例11のメディアは、SiOの含有量が1.0質量%を超えており、前記(k)の要件を満たしていない。比較例11のメディアは、破壊靭性が4.8MPa・m1/2であり、曲げ強さが1030MPaであり、前記(x)及び(y)の一部の要件を満たしていない。比較例11のメディアは、SiOの含有量が1.0質量%を超えているため、ZrOの結晶粒界にSiO相からなる第2相が形成され、割れや欠けが発生し、耐摩耗性及び耐久性が低下する。比較例11のメディアは、粉砕・分散処理において、40℃を超える温水が使用されると、耐摩耗性がさらに低下する。
【0104】
比較例12のメディアは、混合粉体の比表面積が10m/gを超えているため、前記(r)の処理を満たしていない。比較例12のメディアは、焼結性が高すぎるため、組織が均一に焼結せず、超微小押し込み硬さの変動係数が5%を超え、前記(j)の要件を満たしていない。また、比較例12のメディアは、圧壊荷重比Aが前記(n)の要件を満たしていない。比較例12のメディアは圧壊荷重のワイブル係数が前記(g)の要件を満たしていない。比較例12のメディアは、曲げ強さのワイブル係数が5.8であり、前記(y)の一部の要件を満たしていない。比較例12のメディアは、メディアの強度が均一でないことから強度の低いメディアに応力が集中し耐摩耗性が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示に係るジルコニア質メディアは、高速回転を行うビーズミル内での高負荷がかかる使用においても、割れや欠けを抑制し、耐摩耗性及び耐久性に優れ、被処理粉体の高純度を維持することができる。本開示に係るジルコニア質メディアは、焼結特性にバラツキがなく、機械的特性が高いことから、電子部品材料に用いる粉体に限らず、高純度を維持する必要のある医薬用粉体の粉砕・分散処理用のメディアとしても十分利用できる。また、機械的特性が高く形状のバラツキが少なく、例えばASTM InternationalのF2094で規定されている窒化ケイ素(Si)ベアリングボールの材料クラスIII又はJIS R1669で規定されている転がり軸受け窒化ケイ素(Si)材の等級3に要求される破壊靭性、曲げ強さ及び曲げ強さのワイブル係数を満たしていることからベアリングボールとして十分利用できる。ジルコニアベアリングボールを備えたベアリングは、風力発電機、飛行機、自動車、自転車、電車、冷蔵庫、エアコン、掃除機、コピー機、洗濯機、マッサージチェア、カメラ、電動ドライバー、パーソナルコンピューター、自動改札機、歩く歩道、エレベーター、コンベア等、そのほか、コンピューター断層撮影装置(CT)、核磁気共鳴画像装置(MRI)、歯科用ハンドピース等の医療機器に用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
1:ベアリング、2:内輪、3:外輪、4:ベアリングボール。
図1
図2
図3A
図3B
図4