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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20250312BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
G01N3/32 H
G01N3/00 T
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021146020
(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公開番号】P2022048999
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2024-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2020154369
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】高山 篤史
(72)【発明者】
【氏名】牧野 泰三
(72)【発明者】
【氏名】藤川 拓海
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-058859(JP,A)
【文献】特開2010-216883(JP,A)
【文献】特開昭63-229339(JP,A)
【文献】米国特許第04299120(US,A)
【文献】韓国登録特許第10-2002498(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/32
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疲労き裂進展試験において試験片に複数回負荷された試験力および前記試験片の所定部位の変位に関する数値を含む試験情報のうち、前記試験片に対して任意の回数目の前記試験力が負荷されたときの前記試験力と前記変位に関する数値との第1関係を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記第1関係に基づいて、前記試験片のき裂が開口している期間内の前記試験力の第1範囲における前記変位に関する数値の変化から前記試験片の基準コンプライアンスを算出する第1算出部と、
前記取得部が取得した前記第1関係に基づいて、前記試験片に対して任意の回数目の前記試験力が負荷されたときの最大試験力および最小試験力の間から前記試験力の複数の第2範囲を抽出し、抽出した前記複数の第2範囲それぞれについて、前記変位に関する数値の変化から部分コンプライアンスを算出する第2算出部と、
前記第2算出部が算出した複数の前記部分コンプライアンスそれぞれについて、前記第1算出部が算出した前記基準コンプライアンスに対するずれの割合を示すずれ値を算出する第3算出部と、
前記第3算出部が前記部分コンプライアンスごとに算出した前記ずれ値と前記試験力との第2関係を生成し、前記第2関係において、前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力を、または前記第2関係において、前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力を、き裂の開口点に対応する開口試験力と判定する開口点判定部と、を備える、開口点の評価装置。
【請求項2】
前記第1算出部は、前記疲労き裂進展試験における応力比に応じて前記第1範囲を決定し、
前記第2算出部は、前記応力比に応じて前記複数の第2範囲を決定する、請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記開口点判定部は、前記取得部が取得した前記第1関係に基づいて、前記第1範囲よりも広くかつ最小値が前記第1範囲の最小値よりも小さい前記試験力の第3範囲における前記変位に関する数値の変化から比較コンプライアンスを算出し、前記比較コンプライアンスが前記基準コンプライアンスよりも大きい場合、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力または前記第2関係において前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力ではなく、前記最小試験力を前記開口試験力と判定する、請求項1または2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記開口点判定部は、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力を前記最大試験力で除算して得られる値が予め設定されたしきい値を超える場合、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力または前記第2関係において前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力ではなく、前記最小試験力を前記開口試験力と判定する、請求項1から3のいずれかに記載の評価装置。
【請求項5】
前記第1関係は、除荷時における前記試験力と前記変位に関する数値との関係を示す、請求項1から4のいずれかに記載の評価装置。
【請求項6】
前記試験片は、CT試験片であり、前記所定部位の変位に関する数値は、き裂開口変位または前記試験片の背面のひずみである、請求項1から5のいずれかに記載の評価装置。
【請求項7】
前記第2算出部は、前記試験力の大小関係において隣り合う前記第2範囲の一部が重複するように、前記複数の第2範囲を抽出する、請求項1から6のいずれかに記載の評価装置。
【請求項8】
前記予め設定された割合は、疲労き裂進展試験の試験条件に応じて設定されている、請求項1から7のいずれかに記載の評価装置。
【請求項9】
前記開口点判定部によって判定された開口試験力に基づいて、有効応力拡大係数範囲を算出する第4算出部をさらに備える、請求項1から8のいずれかに記載の評価装置。
【請求項10】
疲労き裂進展試験における試験片のき裂の開口点をコンピュータによって評価する方法であって、
(a)疲労き裂進展試験において試験片に複数回負荷された試験力および前記試験片の所定部位の変位に関する数値を含む試験情報のうち、前記試験片に対して任意の回数目の前記試験力が負荷されたときの前記試験力と前記変位に関する数値との第1関係を取得するステップと、
(b)前記(a)のステップで取得した前記第1関係に基づいて、前記試験片のき裂が開口している期間内の前記試験力の第1範囲における前記変位に関する数値の変化から前記試験片の基準コンプライアンスを算出するステップと、
(c)前記(a)のステップで取得した前記第1関係に基づいて、前記試験片に対して任意の回数目の前記試験力が負荷されたときの最大試験力および最小試験力の間から前記試験力の複数の第2範囲を抽出し、抽出した前記複数の第2範囲それぞれについて、前記変位に関する数値の変化から部分コンプライアンスを算出するステップと、
(d)前記(c)のステップで算出した複数の前記部分コンプライアンスそれぞれについて、前記(b)のステップで算出した前記基準コンプライアンスに対するずれの割合を示すずれ値を算出するステップと、
(e)前記(d)のステップで前記部分コンプライアンスごとに算出した前記ずれ値と前記試験力との第2関係を生成し、前記第2関係において、前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力を、または前記第2関係において、前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力を、き裂の開口点に対応する開口試験力と判定するステップと、
を備える、開口点の評価方法。
【請求項11】
前記(b)のステップでは、前記疲労き裂進展試験における応力比に応じて前記第1範囲を決定し、
前記(c)のステップでは、前記応力比に応じて前記複数の第2範囲を決定する、請求項10に記載の評価方法。
【請求項12】
前記(e)のステップでは、前記(a)のステップで取得した前記第1関係に基づいて、前記第1範囲よりも広くかつ最小値が前記第1範囲の最小値よりも小さい前記試験力の第3範囲における前記変位に関する数値の変化から比較コンプライアンスを算出し、前記比較コンプライアンスが前記基準コンプライアンスよりも大きい場合、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力または前記第2関係において前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力ではなく、前記最小試験力を前記開口試験力と判定する、請求項10または11に記載の評価方法。
【請求項13】
前記(e)のステップでは、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力を前記最大試験力で除算して得られる値が予め設定されたしきい値を超える場合、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力または前記第2関係において前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力ではなく、前記最小試験力を前記開口試験力と判定する、請求項10から12のいずれかに記載の評価方法。
【請求項14】
前記第1関係は、除荷時における前記試験力と前記変位に関する数値との関係を示す、請求項10から13のいずれかに記載の評価方法。
【請求項15】
前記試験片は、CT試験片であり、前記所定部位の変位に関する数値は、き裂開口変位または前記試験片の背面のひずみである、請求項10から14のいずれかに記載の評価方法。
【請求項16】
前記(c)のステップでは、前記試験力の大小関係において隣り合う前記第2範囲の一部が重複するように、前記複数の第2範囲を抽出する、請求項10から15のいずれかに記載の評価方法。
【請求項17】
前記予め設定された割合は、疲労き裂進展試験の試験条件に応じて設定されている、請求項10から16のいずれかに記載の評価方法。
【請求項18】
(f)前記(e)のステップで判定された開口試験力に基づいて、有効応力拡大係数範囲を算出するステップをさらに備える、請求項10から17のいずれかに記載の評価方法。
【請求項19】
請求項10から18のいずれかに記載の評価方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労き裂進展試験における開口点を評価するための装置、方法、およびそれらを実現するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
材料の疲労き裂進展特性は、製品の性能を評価するための重要な指標である。材料の疲労き裂進展特性は、疲労き裂進展試験を行うことによって得られる応力拡大係数範囲とき裂進展長さとの関係によって評価することができる。
【0003】
疲労き裂進展試験においてき裂長さを測定する方法としては、例えば、コンプライアンス法が利用されている(例えば、特許文献1参照)。コンプライアンス法では、試験力の変化量に対するき裂開口変位の変化量の割合(コンプライアンス)を用いて、き裂長さが間接的に測定される。具体的には、コンプライアンスは、例えば、き裂開口変位の変化量を試験力の変化量で除することによって算出することができる。また、例えば、き裂開口変位と試験力との関係を示す曲線を線形近似することによってコンプライアンスを算出してもよい。このようにして試験データに基づいて算出されたコンプライアンスを、コンプライアンスとき裂長さとの関係を示した所定の式に代入することによって、き裂長さが算出される。このようにして算出されたき裂長さを用いて、応力拡大係数範囲とき裂進展長さとの関係を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-250866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、疲労き裂進展試験において、試験片のき裂先端は、除荷時に閉口し、負荷時に開口するが、除荷時および負荷時の途中段階に注目すると、試験片に引張力が作用していても、き裂先端が閉口している期間が存在する。この点に関して、試験片に作用する試験力が特定の大きさに到達すると、負荷途中ではき裂先端が開口し始め、除荷途中ではき裂先端が閉口し始めることが知られている。このき裂先端が開口し始めるタイミングおよび閉口し始めるタイミングは、開口点と呼ばれている。
【0006】
材料の疲労き裂進展特性は、一般に、試験力の変動範囲に対応した応力拡大係数範囲で整理されるが、実際には開口点以上の応力拡大係数が有効である。この開口点以上の応力拡大係数の変動範囲は有効応力拡大係数範囲と呼ばれ、疲労き裂進展特性の評価指標として用いられている。疲労き裂進展試験において測定された疲労き裂進展特性が、き裂開閉口によるものなのか、有効応力拡大係数範囲によるものなのかを分離して考えることは、材料の疲労き裂進展特性向上を実現するために有用である。
【0007】
また、応力拡大係数範囲で整理された疲労き裂進展特性は、疲労き裂進展試験の応力比によって異なる。このため、応力拡大係数範囲で整理された疲労き裂進展特性を実部品のき裂進展挙動の予測に用いるためには、使用条件に応じた複数の応力比で試験を行い、応力比ごとに、疲労き裂進展特性を評価する必要がある。一方、種々の応力比における疲労き裂進展特性を有効応力拡大係数範囲で整理すると、その疲労き裂進展特性(すなわち、き裂進展速度と有効応力拡大係数範囲との関係)は、応力比に関わらず同様の特性を示すことが知られている。この点を考慮すると、有効応力拡大係数範囲で整理された疲労き裂進展特性を求めることができれば、その疲労き裂進展特性に基づいて、種々の応力比における応力拡大係数による疲労き裂進展特性を見積もることが可能になるといえる。疲労き裂進展試験は多くの労力と時間を要するが、特定の応力比で試験を行い、その試験結果に基づいて他の応力比における疲労き裂の進展挙動を予測することができれば、試験に要する労力と時間を大幅に削減することができる。
【0008】
以上のことから、疲労き裂進展試験において、き裂の開口点を評価することは重要である。
【0009】
そこで、本発明は、疲労き裂進展試験の試験情報に基づいてき裂の開口点を評価することができる、評価装置、評価方法およびプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、金属からなる試験片について疲労き裂進展試験を実施し、除荷弾性コンプライアンス法を用いてき裂の開口点を評価することを試みた。以下、本発明者らが実施した試験について説明する。
【0011】
まず、本発明者らは、図1に示す試験片100を用意し、疲労き裂進展試験を実施した。試験片100は、引張疲労試験片として利用される公知のCT(Compact Tention)試験片であり、切欠き100aを有している。切欠き100aは、試験片100に対して板厚方向に直交する引張方向に力を付与することによって、板厚方向と引張方向とに交差する進展方向にき裂100bが進展するように形成された、き裂発生用の切欠きである。切欠き100aは、試験片100において、上記引張方向における中央部に形成されている。
【0012】
なお、試験片100は、0.2%耐力が83MPa、引張強さが223MPa、伸びが64%、絞りが95%の純鉄を用いて作製した。試験片100の厚さ(B)は8mm、幅(W)は50mmとした。
【0013】
疲労き裂進展試験では、試験片100に対して、応力比Rを-1として、長さ1mm狙いの予き裂を導入した後、応力比Rを0.05、0.5および0.7に設定して、応力拡大係数漸減試験(荷重漸減試験)を実施した。なお、当該試験では、図1に示す引張方向に荷重を繰り返し負荷した。また、当該試験では、図示しないクリップゲージを用いて、切欠き100aの幅の変位(き裂開口変位)を測定した。
【0014】
本発明者らは、上記の疲労き裂進展試験によって得られたデータから、図2に示すように、疲労き裂進展速度(da/dN)と応力拡大係数範囲(ΔK)との関係を示すグラフを作成した。図2に示す関係から、応力拡大係数範囲ΔKの下限界値(下限界応力拡大係数範囲ΔKth)は、応力比R=0.05では8.1MPa√mであり、応力比R=0.5では5.8MPa√mであり、応力比R=0.7では3.9MPa√mであった。
【0015】
次に、本発明者らは、ASTM E647-13aに従い、開口点を評価した。以下、具体的に説明する。
【0016】
図3は、応力比Rを0.05に設定した疲労き裂進展試験における除荷時の試験力とき裂開口変位との関係を示す図である。なお、図3には、疲労き裂進展試験における負荷の繰り返し数が8.70×10回のとき(き裂が停留したと判断し、試験を終了したとき)の、除荷時の試験力とき裂開口変位との関係が示されている。
【0017】
図3を参照して、まず、本発明者らは、除荷時のき裂開口変位と試験力との関係において、き裂が開口していると考えられる範囲Aのコンプライアンス(以下、基準コンプライアンスCと記載する。)を算出した。なお、範囲Aは、最大試験力Pmaxと最小試験力Pminとの差を試験力範囲ΔPとして、(0.7ΔP+Pmin)~(0.95ΔP+Pmin)の試験力の範囲とした。また、コンプライアンスとは、試験力の変化量に対するき裂開口変位の変化量の割合を意味する。したがって、基準コンプライアンスCは、範囲Aにおける試験力の変化量に対するき裂開口変位の変化量の割合を意味する。コンプライアンスは、例えば、き裂開口変位と試験力との関係を示す曲線を線形近似することによって算出される。
【0018】
次に、最大試験力Pmaxと最小試験力Pminとの間から複数の試験力の範囲ai(i=1~n)を抽出した。なお、各範囲aiの大きさは、互いに等しい。図3に示す例では、試験力が高い側から順に20個の範囲a、a、a、・・・a20を抽出している。より具体的には、図3に示す例では、各範囲aiの大きさをΔPとした場合、試験力の大小関係において隣り合う範囲ai同士が0.5ΔP重複するように、複数の試験力の範囲aiを抽出している。
【0019】
次に、抽出した複数の範囲aiについてそれぞれ、コンプライアンスCi(i=1~n)(以下、部分コンプライアンスCと記載する。)を算出した。
【0020】
次に、各部分コンプライアンスCについて、基準コンプライアンスCに対するずれの割合を示すずれ値Coffset,i(i=1~n)を算出した。具体的には、下記式(1)に基づいて、ずれ値Coffset,iを算出した。
offset,i=(C-C)/C ・・・ (1)
【0021】
図4に、試験力とずれ値Coffsetとの関係線を示す。なお、図4に示す関係線を作成する際には、まず、一方の軸をずれ値Coffsetとし、他方の軸を試験力Pとする座標上に、各部分コンプライアンスCに対応するずれ値Coffset,iおよび試験力Pi(範囲aiの中間値。i=1~n)を示す点をプロットする。そして、試験力の大小関係において隣り合う点(Coffset,iおよび試験力を示す点)を直線で結ぶ。これにより、試験力とずれ値Coffsetとの関係線が得られる。なお、範囲aiの中間値とは、範囲aiにおける試験力の最大値および最小値の平均値である。
【0022】
ASTM E647-13aに従えば、試験力とずれ値Coffsetとの関係線において、ずれ値Coffsetが1%、2%または4%となるときの試験力が、開口点における試験力と判定される。そこで、本発明者らは、まず、図4に示す関係線において、ずれ値Coffsetが2%となるときの試験力を、開口点における試験力POP(以下、開口試験力POPと記載する。)とした。そして、開口試験力POPに基づいて算出される応力拡大係数を応力拡大係数KOPとし、最大試験力Pmaxに基づいて算出される応力拡大係数を応力拡大係数Kmaxとし、下記式(2)に基づいて、有効応力拡大係数範囲ΔKeffを算出した。
ΔKeff=Kmax-KOP ・・・ (2)
【0023】
なお、図3および図4は、繰り返し数が8.70×10回のときの試験データであるが、本発明者らは、他の繰り返し数のときの試験データについても同様に、有効応力拡大係数範囲ΔKeffを算出した。そして、本発明者らは、図5に示すように、疲労き裂進展速度(da/dN)と有効応力拡大係数範囲(ΔKeff)との関係を示すグラフを作成した。なお、図5には、比較のために、応力比Rが0.05および0.7のときの疲労き裂進展速度(da/dN)と応力拡大係数範囲(ΔK)との関係(図2に示したデータ)を示している。
【0024】
図5に示すように、上記の方法によって算出した有効応力拡大係数範囲ΔKeffは、応力比Rが0.7のときの応力拡大係数範囲ΔKよりもかなり小さいことがわかる。図示は省略するが、ずれ値Coffsetが4%となるときの試験力を開口点における試験力として、同様の方法によって有効応力拡大係数範囲ΔKeffを算出した際にも同様の傾向が見られた。
【0025】
ここで、一般に、き裂が完全開口状態となる高応力比の試験では、最小試験力Pminと開口試験力POPとが一致する。このため、高応力比(例えば、R=0.7)の試験で算出された応力拡大係数範囲ΔKの下限界値(下限界応力拡大係数範囲ΔKth)は、応力比が0.05の試験における有効応力拡大係数範囲ΔKeffの下限界値(下限界応力拡大係数範囲ΔKeff,th)に近い値になると考えられる。しかしながら、図5に示したように、上記の方法によって算出した応力比が0.05の試験における有効応力拡大係数範囲ΔKeffは、応力比が0.7のときの応力拡大係数範囲ΔKよりもかなり小さい値になった。このことから、上記の方法では、開口点を適切に評価できていないおそれがあると考えられる。
【0026】
そこで、本発明者らは、上記の方法によって算出した有効応力拡大係数範囲ΔKeffと、応力比が0.7のときの応力拡大係数範囲ΔKとの間に大きな差が生じた理由について詳細な検討を行った。この検討において、本発明者らは、疲労き裂進展試験における繰り返し数の違いがき裂開口変位に与える影響に注目した。以下、具体的に説明する。
【0027】
図6は、疲労き裂進展試験における負荷の繰り返し数が9.16×10回のときの除荷時のデータから作成した試験力とずれ値Coffsetとの関係線を示す図である。図4に示す関係線(繰り返し数が8.70×10回のときのデータ)と図6に示す関係線とを比較すると、ずれ値Coffsetの最大値に大きな差があることが分かる。図示は省略するが、疲労き裂進展試験における負荷の繰り返し数が1.46×10回のときの除荷時のデータから作成した試験力とずれ値Coffsetとの関係線においても、ずれ値Coffsetの最大値は、図4に示す関係線のずれ値Coffsetの最大値よりも大幅に小さかった。このように、本発明者らの検討により、疲労き裂進展試験における負荷の繰り返し数によって、ずれ値Coffsetの発生状況に差が生じることが分かった。
【0028】
本発明者らは、上記のようなずれ値Coffsetの発生状況の違いが、開口点を適切に評価できない要因ではないかと考えた。具体的には、本発明者らは、疲労き裂進展試験における負荷の繰り返し数によってずれ値Coffsetの発生状況に差が生じているのにも関わらず、この差を考慮せずに同じ基準で開口点を判定(ずれ値Coffsetが1%、2%または4%となるときの試験力を開口試験力と判定)しても、開口点を適切に評価できないのではないかと考えた。
【0029】
そこで、本発明者らは、ずれ値Coffsetの発生状況に応じた基準で開口点を判定することを試みた。具体的には、試験力とずれ値Coffsetとの関係線において、ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値(今回の検討では、ずれ値の最大値の1/3のずれ値)となるときの試験力を開口試験力と判定した(第1の判定基準)。そして、本発明者らは、応力比が0.05の試験における有効応力拡大係数範囲ΔKeffを、上記の判定基準で判定した開口試験力に基づいて算出した。その結果、応力比が0.05の試験における有効応力拡大係数範囲ΔKeffの下限界値ΔKeff,thは、応力比が0.7の試験で算出された応力拡大係数範囲ΔKの下限界値ΔKthと同等の値になった。
【0030】
また、本発明者らは、試験力とずれ値Coffsetとの関係において、ずれ値Coffset,i(i=1~n)の中央値に対応する試験力を開口試験力と判定して(第2の判定基準)、応力比が0.05の試験における有効応力拡大係数範囲ΔKeffを算出した。この場合も、応力比が0.05の試験における有効応力拡大係数範囲ΔKeffの下限界値ΔKeff,thは、応力比が0.7の試験で算出された応力拡大係数範囲ΔKの下限界値ΔKthと同等の値になった。
【0031】
以上の結果から、ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの試験力(第1の判定基準)、またはずれ値Coffset,i(i=1~n)の中央値に対応する試験力(第2の判定基準)を開口試験力と判定することによって、ずれ値Coffsetの発生状況の差異に関わらず、開口点を適切に評価できることが分かった。
【0032】
なお、ずれ値の最大値に対する開口試験力となるときのずれ値の「割合」については、金属材料の種類(例えば、合金成分等に応じて分類された種類)ごとに予め実験により求めることができる。例えば、複数種の金属材料について任意の応力比(例えば、応力比R=0.05またはR=0.5)および高応力比(例えば、応力比R=0.7)で疲労き裂進展試験を行い、金属材料ごとに、上記任意の応力比の試験で得られる有効応力拡大係数範囲ΔKeffが、これと対応するき裂進展速度における高応力比の試験で得られる応力拡大係数範囲ΔKに略等しくなるような「ずれ値の割合」を求めておけばよい。なお、高応力比の疲労き裂進展試験は、き裂が停留するまで長期間継続させる必要はなく、「ずれ値の割合」が求められる程度の限定された範囲で実施すればよい。
【0033】
開口試験力を判定するに際しては、第1の判定基準および第2の判定基準のいずれの判定基準を用いてもよい。なお、複数種の金属材料について任意の応力比(例えば、応力比R=0.05またはR=0.5)および高応力比(例えば、応力比R=0.7)で疲労き裂進展試験を行い、金属材料ごとに、上記任意の応力比の試験で得られる有効応力拡大係数範囲ΔKeffが、これと対応するき裂進展速度における高応力比の試験で得られる応力拡大係数範囲ΔKにより近くなる判定基準が、第1および第2の判定基準のうちのどちらであるのかを求めておくことが好ましい。
【0034】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の評価装置、評価方法およびプログラムを要旨とする。
【0035】
(1)疲労き裂進展試験において試験片に複数回負荷された試験力および前記試験片の所定部位の変位に関する数値を含む試験情報のうち、前記試験片に対して任意の回数目の前記試験力が負荷されたときの前記試験力と前記変位に関する数値との第1関係を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記第1関係に基づいて、前記試験片のき裂が開口している期間内の前記試験力の第1範囲における前記変位に関する数値の変化から前記試験片の基準コンプライアンスを算出する第1算出部と、
前記取得部が取得した前記第1関係に基づいて、前記試験片に対して任意の回数目の前記試験力が負荷されたときの最大試験力および最小試験力の間から前記試験力の複数の第2範囲を抽出し、抽出した前記複数の第2範囲それぞれについて、前記変位に関する数値の変化から部分コンプライアンスを算出する第2算出部と、
前記第2算出部が算出した複数の前記部分コンプライアンスそれぞれについて、前記第1算出部が算出した前記基準コンプライアンスに対するずれの割合を示すずれ値を算出する第3算出部と、
前記第3算出部が前記部分コンプライアンスごとに算出した前記ずれ値と前記試験力との第2関係を生成し、前記第2関係において、前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力を、または前記第2関係において、前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力を、き裂の開口点に対応する開口試験力と判定する開口点判定部と、を備える、開口点の評価装置。
【0036】
(2)前記第1算出部は、前記疲労き裂進展試験における応力比に応じて前記第1範囲を決定し、
前記第2算出部は、前記応力比に応じて前記複数の第2範囲を決定する、上記(1)に記載の評価装置。
【0037】
(3)前記開口点判定部は、前記取得部が取得した前記第1関係に基づいて、前記第1範囲よりも広くかつ最小値が前記第1範囲の最小値よりも小さい前記試験力の第3範囲における前記変位に関する数値の変化から比較コンプライアンスを算出し、前記比較コンプライアンスが前記基準コンプライアンスよりも大きい場合、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力または前記第2関係において前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力ではなく、前記最小試験力を前記開口試験力と判定する、上記(1)または(2)に記載の評価装置。
【0038】
(4)前記開口点判定部は、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力を前記最大試験力で除算して得られる値が予め設定されたしきい値を超える場合、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力または前記第2関係において前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力ではなく、前記最小試験力を前記開口試験力と判定する、上記(1)から(3)のいずれかに記載の評価装置。
【0039】
(5)前記第1関係は、除荷時における前記試験力と前記変位に関する数値との関係を示す、上記(1)から(4)のいずれかに記載の評価装置。
【0040】
(6)前記試験片は、CT試験片であり、前記所定部位の変位に関する数値は、き裂開口変位または前記試験片の背面のひずみである、上記(1)から(5)のいずれかに記載の評価装置。
【0041】
(7)前記第2算出部は、前記試験力の大小関係において隣り合う前記第2範囲の一部が重複するように、前記複数の第2範囲を抽出する、上記(1)から(6)のいずれかに記載の評価装置。
【0042】
(8)前記予め設定された割合は、疲労き裂進展試験の試験条件に応じて設定されている、上記(1)から(7)のいずれかに記載の評価装置。
【0043】
(9)前記開口点判定部によって判定された開口試験力に基づいて、有効応力拡大係数範囲を算出する第4算出部をさらに備える、上記(1)から(8)のいずれかに記載の評価装置。
【0044】
(10)疲労き裂進展試験における試験片のき裂の開口点をコンピュータによって評価する方法であって、
(a)疲労き裂進展試験において試験片に複数回負荷された試験力および前記試験片の所定部位の変位に関する数値を含む試験情報のうち、前記試験片に対して任意の回数目の前記試験力が負荷されたときの前記試験力と前記変位に関する数値との第1関係を取得するステップと、
(b)前記(a)のステップで取得した前記第1関係に基づいて、前記試験片のき裂が開口している期間内の前記試験力の第1範囲における前記変位に関する数値の変化から前記試験片の基準コンプライアンスを算出するステップと、
(c)前記(a)のステップで取得した前記第1関係に基づいて、前記試験片に対して任意の回数目の前記試験力が負荷されたときの最大試験力および最小試験力の間から前記試験力の複数の第2範囲を抽出し、抽出した前記複数の第2範囲それぞれについて、前記変位に関する数値の変化から部分コンプライアンスを算出するステップと、
(d)前記(c)のステップで算出した複数の前記部分コンプライアンスそれぞれについて、前記(b)のステップで算出した前記基準コンプライアンスに対するずれの割合を示すずれ値を算出するステップと、
(e)前記(d)のステップで前記部分コンプライアンスごとに算出した前記ずれ値と前記試験力との第2関係を生成し、前記第2関係において、前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力を、または前記第2関係において、前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力を、き裂の開口点に対応する開口試験力と判定するステップと、
を備える、開口点の評価方法。
【0045】
(11)前記(b)のステップでは、前記疲労き裂進展試験における応力比に応じて前記第1範囲を決定し、
前記(c)のステップでは、前記応力比に応じて前記複数の第2範囲を決定する、上記(10)に記載の評価方法。
【0046】
(12)前記(e)のステップでは、前記(a)のステップで取得した前記第1関係に基づいて、前記第1範囲よりも広くかつ最小値が前記第1範囲の最小値よりも小さい前記試験力の第3範囲における前記変位に関する数値の変化から比較コンプライアンスを算出し、前記比較コンプライアンスが前記基準コンプライアンスよりも大きい場合、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力または前記第2関係において前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力ではなく、前記最小試験力を前記開口試験力と判定する、上記(10)または(11)に記載の評価方法。
【0047】
(13)前記(e)のステップでは、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力を前記最大試験力で除算して得られる値が予め設定されたしきい値を超える場合、前記第2関係において前記ずれ値の最大値に対して予め設定された割合のずれ値となるときの前記試験力または前記第2関係において前記ずれ値の中央値に対応する前記試験力ではなく、前記最小試験力を前記開口試験力と判定する、上記(10)から(12)のいずれかに記載の評価方法。
【0048】
(14)前記第1関係は、除荷時における前記試験力と前記変位に関する数値との関係を示す、上記(10)から(13)のいずれかに記載の評価方法。
【0049】
(15)前記試験片は、CT試験片であり、前記所定部位の変位に関する数値は、き裂開口変位または前記試験片の背面のひずみである、上記(10)から(14)のいずれかに記載の評価方法。
【0050】
(16)前記(c)のステップでは、前記試験力の大小関係において隣り合う前記第2範囲の一部が重複するように、前記複数の第2範囲を抽出する、上記(10)から(15)のいずれかに記載の評価方法。
【0051】
(17)前記予め設定された割合は、疲労き裂進展試験の試験条件に応じて設定されている、上記(10)から(16)のいずれかに記載の評価方法。
【0052】
(18)(f)前記(e)のステップで判定された開口試験力に基づいて、有効応力拡大係数範囲を算出するステップをさらに備える、上記(10)から(17)のいずれかに記載の評価方法。
【0053】
(19)上記(10)から(18)のいずれかに記載の評価方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、疲労き裂進展試験の試験情報に基づいてき裂の開口点を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1は、疲労き裂進展試験において用いられる試験片を示す図である。
図2図2は、疲労き裂進展速度と応力拡大係数範囲との関係を示すグラフである。
図3図3は、除荷時の試験力とき裂開口変位との関係を示す図である。
図4図4は、試験力とずれ値(部分コンプライアンスの基準コンプライアンスからのずれ)との関係線を示す図である。
図5図5は、疲労き裂進展速度と有効応力拡大係数範囲(ΔKeff)との関係を示すグラフである。
図6図6は、試験力とずれ値(部分コンプライアンスの基準コンプライアンスからのずれ)との関係線を示す図である。
図7図7は、本発明の実施の形態に係る評価装置の概略構成を示すブロック図である。
図8図8は、第2関係の一例を示す図である。
図9図9は、本発明の一実施形態に係る評価装置の構成を具体的に示すブロック図である。
図10図10は、本実施形態に係る評価装置の動作を示すフロー図である。
図11図11は、本発明の一実施形態に係る評価装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
[装置構成]
図7は、本発明の実施の形態に係る評価装置の概略構成を示すブロック図である。図7に示すように、本実施形態に係る評価装置10は、取得部12と、第1算出部14と、第2算出部16と、第3算出部18と、開口点判定部20とを備えている。以下においては、試験片として、上述の試験片100を用いて疲労き裂進展試験を行う場合について説明する。なお、疲労き裂進展試験は、例えば、ASTM E647に従って行えばよい。また、疲労き裂進展試験は、応力拡大係数漸減試験(荷重漸減試験)であってもよく、応力拡大係数漸増試験(荷重範囲一定試験)であってもよい。
【0057】
取得部12は、疲労き裂進展試験において試験片100に複数回負荷された試験力および試験片100の所定部位の変位に関する数値を含む試験情報のうち、試験片100に対して任意の回数目の試験力が負荷されたときの試験力と変位に関する数値との関係(以下、第1関係と記載する。)を取得する。
【0058】
本実施形態では、試験情報の試験片100の所定部位の変位に関する数値とは、切欠き100aに取り付けられたクリップゲージによって測定されるき裂開口変位である。したがって、本実施形態においては、試験情報には、試験片100に繰り返し負荷された試験力と、当該試験力が負荷されたときのき裂開口変位との関係が含まれる。また、本実施形態においては、第1関係は、例えば、図3に示したような、疲労き裂進展試験において任意の回数目の試験力が負荷されたときの、除荷時の試験力とき裂開口変位との関係である。
【0059】
本実施形態では、取得部12は、例えば、外部機器から試験情報を取得し、取得した試験情報から、試験力の繰り返し数ごとに第1関係を抽出してもよい。また、取得部12は、例えば、外部機器において試験力の繰り返し数ごとに作成された第1関係を取得してもよい。
【0060】
第1算出部14は、取得部12が取得した第1関係に基づいて、試験片100のき裂100bが開口している期間内の試験力の第1範囲におけるき裂開口変位(変位に関する数値)の変化から、試験片100の基準コンプライアンスCを算出する。本実施形態では、例えば、最大試験力Pmaxと最小試験力Pminとの差を試験力範囲ΔPとして、(0.7ΔP+Pmin)~(0.95ΔP+Pmin)の試験力の範囲が、第1範囲に設定される。図3に示した例では、範囲Aが第1範囲に相当する。なお、第1範囲の設定方法はこの例に限定されず、き裂100bが開口していると考えられる試験力の範囲を第1範囲として設定することができる。第1範囲の他の設定例については、後述する。
【0061】
また、本実施形態においてコンプライアンスとは、試験力の変化量に対するき裂開口変位の変化量の割合を意味する。したがって、基準コンプライアンスCとは、第1範囲における試験力の変化量に対するき裂開口変位の変化量の割合を意味する。コンプライアンスは、例えば、き裂開口変位と試験力との関係を示す曲線を線形近似することによって算出してもよく、き裂開口変位の変化量を試験力の変化量で除することによって算出してもよい。
【0062】
第2算出部16は、取得部12が取得した第1関係に基づいて、試験片100に対して任意の回数目の試験力が負荷されたときの最大試験力Pmaxおよび最小試験力Pminの間から試験力の複数の第2範囲ai(i=1~n)を抽出する。図3に示した例では、範囲a、a、a、・・・a20がそれぞれ第2範囲に相当する。
【0063】
本実施形態では、複数の第2範囲aiの大きさは、互いに等しい。第2範囲aiの大きさは、例えば、試験力範囲ΔPの0.1倍の大きさに設定される。また、本実施形態では、例えば、試験力が最も高い側の第2範囲ai図3に示した例では、範囲a)の最大値が、最大試験力Pmaxの0.95倍以上の値となるように、複数の第2範囲aiが抽出される。また、本実施形態では、例えば、試験力が最も低い側の第2範囲ai図3に示した例では、範囲a20)の最小値と最小試験力Pminとの差が第2範囲ai未満の大きさとなるように、複数の第2範囲aiが抽出される。
【0064】
また、本実施形態では、第2算出部16は、例えば、試験力の大小関係において隣り合う第2範囲aiの一部が重複するように、複数の第2範囲aiを抽出する。本実施形態では、例えば、試験力の大小関係において隣り合う第2範囲ai同士が、第2範囲aiの半分の大きさ分重複するように、複数の第2範囲aiが抽出される。
【0065】
なお、第2範囲の設定方法は上述の例に限定されず、試験条件に応じて第2範囲を設定してもよい。第2範囲の他の設定例については、後述する。
【0066】
第2算出部16は、抽出した複数の第2範囲aiそれぞれについて、き裂開口変位(変位に関する数値)の変化から部分コンプライアンスC(i=1~n)を算出する。本実施形態において部分コンプライアンスCとは、第2範囲aiにおける試験力の変化量に対するき裂開口変位の変化量の割合を意味する。
【0067】
第3算出部18は、第2算出部16が算出した複数の部分コンプライアンスCそれぞれについて、第1算出部14が算出した基準コンプライアンスCに対するずれの割合を示すずれ値Coffset,i(i=1~n)を算出する。本実施形態では、第3算出部18は、下記式(1)に基づいて、ずれ値Coffset,iを算出する。
offset,i=(C-C)/C ・・・ (1)
【0068】
開口点判定部20は、第3算出部18が部分コンプライアンスCごとに算出したずれ値Coffset,iと試験力との関係(以下、第2関係と記載する。)を生成する。図8に、試験力とずれ値Coffsetとの第2関係の一例を示す。
【0069】
本実施形態では、開口点判定部20は、一方の軸をずれ値Coffsetとし、他方の軸を試験力Pとする座標上に、各部分コンプライアンスCに対応するずれ値Coffset,iおよび試験力P(範囲aiの中間値。i=1~n)を示す点をプロットする。また、開口点判定部20は、上記のようにしてプロットした複数の点のうち、試験力の大小関係において隣り合う点を直線で結ぶ。本実施形態では、第2関係は、上記のようにして生成された複数の線分の集合を意味する。
【0070】
なお、図8に示す例では、部分コンプライアンスC19のずれ値Coffset,19がずれ値の最大値Coffset,maxである。部分コンプライアンスC19は、試験力が高い側から数えて19番目の第2範囲a19における試験力の変化量に対するき裂開口変位の変化量の割合である。
【0071】
図8を参照して、開口点判定部20は、上記のようにして生成した第2関係において、ずれ値の最大値Coffset,maxに対して予め設定された割合のずれ値Coffset,thとなるときの試験力を、き裂100bの開口点に対応する開口試験力POPと判定する。以下、具体的に説明する。なお、図8の例では、ずれ値Coffset,thは、ずれ値の最大値Coffset,maxの1/3の値に設定されている。
【0072】
本実施形態では、開口点判定部20は、例えば、以下の条件に従って開口試験力POPを判定する。図8を参照して、第2関係に含まれる複数の線分のうち、ずれ値Coffset,thよりも小さいずれ値に対応する点(以下、第1点と記載する。)とずれ値Coffset,thよりも大きいずれ値に対応する点(以下、第2点と記載する。)とを結び、かつ第1点に対応する試験力が第2点に対応する試験力よりも大きい線分を対象線分とする。図8の例では、線分L、L13、L17が対象線分となる。対象線分L、L13、L17のうち、最も低い試験力に対応する対象線分L17においてずれ値Coffset,thとなるときの試験力を、開口試験力POPとする。
【0073】
なお、開口点判定部20が行う処理は、上記の条件にそのまま従った処理である必要はない。具体的には、開口点判定部20は、上記の条件に従って判定した場合に開口試験力POPと判定される試験力を、第2関係およびずれ値Coffset,thに基づいて算出すればよい。したがって、開口点判定部20が実行する処理としては、第2関係として実際に複数の線分を作成する必要は無く、複数の線分に対応する1次関数の集合体を第2関係として、この第2関係およびずれ値Coffset,thに基づいて開口試験力POPを算出してもよい。
【0074】
以上のように、本実施形態に係る評価装置10によれば、疲労き裂進展試験において得られる試験情報から、き裂の開口点を評価することができる。また、本実施形態では、開口点を判定するために用いられるずれ値Coffset,thは、ずれ値の最大値Coffset,maxに対して予め設定された割合の大きさに設定されている。これにより、疲労き裂進展試験における負荷の繰り返し数によってずれ値Coffsetの発生状況(より具体的には、ずれ値の最大値Coffset,max)に差が生じても、ずれ値Coffsetの発生状況に応じた基準で開口点を判定することができる。その結果、開口点を適切に評価することができる。
【0075】
次に、評価装置10の具体的な構成について説明する。図9は、本発明の一実施形態に係る評価装置10の構成を具体的に示すブロック図である。
【0076】
図9に示すように、評価装置10は、上述の取得部12、第1算出部14、第2算出部16、第3算出部18、および開口点判定部20に加えてさらに、記憶部22および第4算出部24を備えている。以下、記憶部22について説明した後、取得部12等の動作を説明する。なお、取得部12、第1算出部14、第2算出部16、第3算出部18および開口点判定部20に関して、上述の実施形態の動作と同様の動作については簡単に説明する。
【0077】
記憶部22には、第1範囲、第2範囲の大きさ、および開口点を判定するために用いられるずれ値Coffset,thを設定するための割合が、試験条件に応じて記憶されている。本実施形態では、試験条件には、疲労き裂進展試験における応力比および試験対象となる金属材料の種類が含まれる。まず、記憶部22に記憶される第1範囲および記憶部22に記憶される第2範囲の大きさについて説明する。
【0078】
疲労き裂進展試験における応力比が大きいほど、試験力の変化量は小さくなる。このため、評価精度を向上させるためには、応力比が大きい試験では、応力比が小さい試験に比べて、試験力範囲ΔPに対する第1範囲および第2範囲の割合を大きくすることが好ましい。そこで、本実施形態では、応力比に応じて、第1範囲および第2範囲が設定される。
【0079】
具体的には、第1範囲は、例えば、以下のように設定される。以下において、Rは応力比を示し、Pmaxは任意の繰り返し数における最大試験力を示し、Pminは任意の繰り返し数における最小試験力を示し、ΔPは試験力範囲(最大試験力と最小試験力との差)を示す。なお、以下に説明する第1範囲および第2範囲は単なる一例であり、種々の金属材料について疲労き裂進展試験を行い、金属材料の種類ごとに、開口点を適切に評価できる第1範囲および第2範囲を設定すればよい。
【0080】
(第1範囲)
R<0,R=0~0.1:(0.70ΔP+Pmin)~(0.95ΔP+Pmin
0.1<R<0.3:(0.65ΔP+Pmin)~(0.95ΔP+Pmin
0.3≦R<0.5:(0.60ΔP+Pmin)~(0.95ΔP+Pmin
R=0.5:(0.55ΔP+Pmin)~(0.95ΔP+Pmin
0.5<R<0.7:(0.50ΔP+Pmin)~(0.95ΔP+Pmin
0.7≦R:(0.45ΔP+Pmin)~(0.95ΔP+Pmin
【0081】
また、第2範囲の大きさは、例えば、以下のように設定される。
【0082】
(第2範囲の大きさ)
R<0,R=0~0.1:0.10ΔP
0.1<R<0.3:0.13ΔP
0.3≦R<0.5:0.15ΔP
R=0.5:0.17ΔP
0.5<R<0.7:0.19ΔP
0.7≦R:0.20ΔP
【0083】
次に、開口点を判定するために用いられるずれ値Coffset,thを設定するための割合について説明する。本実施形態では、例えば、複数種の金属材料について任意の応力比(例えば、応力比R=0.05またはR=0.5)および高応力比(例えば、応力比R=0.7)で疲労き裂進展試験を行う。そして、金属材料の種類ごとに、上記任意の応力比の試験で得られる有効応力拡大係数範囲ΔKeffが、これと対応するき裂進展速度における高応力比の試験で得られる応力拡大係数範囲ΔKに略等しくなるような「ずれ値の割合」を求めておく。本実施形態では、記憶部22には、上記のようにして求めた「ずれ値の割合」が金属材料の種類ごとに記憶されている。なお、高応力比の疲労き裂進展試験は、き裂が停留するまで長期間継続させる必要はなく、「ずれ値の割合」が求められる程度の限定された範囲で実施すればよい。
【0084】
取得部12は、上述の実施形態と同様に、第1関係を取得する。第1算出部14は、上述の実施形態と同様に、試験片100の基準コンプライアンスCを算出する。なお、本実施形態では、第1算出部14には、試験条件として、疲労き裂進展試験の応力比が与えられる。本実施形態では、例えば、評価装置10のユーザが、図示しない入力部を操作することによって応力比を入力する。第1算出部14は、与えられた応力比に対応する第1範囲を、記憶部22に記憶された複数の第1範囲のなかから選択し、選択した第1範囲に基づいて基準コンプライアンスCを算出する。
【0085】
第2算出部16は、上述の実施形態と同様に、複数の第2範囲ai(i=1~n)を抽出するとともに、各第2範囲aiについて部分コンプライアンスC(i=1~n)を算出する。なお、本実施形態では、第1算出部14と同様に、第2算出部16にも疲労き裂進展試験の応力比が与えられる。第2算出部16は、与えられた応力比に対応する第2範囲の大きさを、記憶部22に記憶された複数の第2範囲の大きさのなかから選択し、選択した第2範囲の大きさに基づいて複数の第2範囲aiを抽出する。
【0086】
第3算出部18は、上述の実施形態と同様に、各部分コンプライアンスCについて、基準コンプライアンスCに対するずれの割合を示すずれ値Coffset,i(i=1~n)を算出する。
【0087】
開口点判定部20は、上述の実施形態と同様に、第2関係を生成し、生成した第2関係から、開口試験力POPを判定する。なお、本実施形態では、開口点判定部20には、試験条件として、試験片100の金属材料の種類が与えられる。本実施形態では、例えば、評価装置10のユーザが、図示しない入力部を操作することによって金属材料の種類を入力する。開口点判定部20は、記憶部22に記憶されたずれ値Coffset,thを設定するための複数の割合のなかから、与えられた金属材料の種類に対応する割合を選択し、選択した割合に基づいて、ずれ値Coffset,thを算出する。開口点判定部20は、このようにして算出したずれ値Coffset,thに基づいて、開口試験力POPを判定する。なお、詳細な説明は省略するが、金属材料の種類以外の試験条件(例えば、応力比等)も考慮して、試験条件に応じた「割合」が設定されてもよい。
【0088】
また、本実施形態では、開口点判定部20は、取得部12が取得した第1関係に基づいて、第1範囲よりも広くかつ最小値が第1範囲の最小値よりも小さい試験力の第3範囲におけるき裂開口変位(変位に関する数値)の変化から比較コンプライアンスCを算出する。以下、具体的に説明する。
【0089】
本実施形態では、第1算出部14および第2算出部16と同様に、開口点判定部20にも疲労き裂進展試験の応力比が与えられる。開口点判定部20は、与えられた応力比に対応する第3範囲を設定し、比較コンプライアンスCを算出する。本実施形態では、応力比に応じた第3範囲は、記憶部22に予め記憶されている。開口点判定部20は、与えられた応力比に対応する第3範囲を、記憶部22に記憶された複数の第3範囲のなかから選択し、選択した第3範囲に基づいて比較コンプライアンスCを算出する。第3範囲は、例えば、応力比に応じて以下のように設定される。
【0090】
(第3範囲)
0≦R:Pmin~(0.95ΔP+Pmin
R<0:0~0.95Pmax
【0091】
なお、応力比が0以上の疲労き裂進展試験において、最大試験力Pmaxから最小試験力Pminまで試験力が除荷される間にき裂先端が閉口するのであれば、比較コンプライアンスCは、基準コンプライアンスC以下になると考えられる。したがって、本実施形態では、応力比が0以上の疲労き裂進展試験において、比較コンプライアンスCが基準コンプライアンスCよりも大きい場合には、き裂100bが完全開口状態になっているとみなし、ずれ値Coffset,thを用いて開口試験力POPを判定するのではなく、最小試験力Pminを開口試験力POPと判定する。
【0092】
また、応力比が0未満の疲労き裂進展試験において、最大試験力Pmaxから0(kN)まで試験力が除荷される間にき裂先端が閉口するのであれば、比較コンプライアンスCは、基準コンプライアンスC以下になると考えられる。したがって、本実施形態では、応力比が0未満の疲労き裂進展試験において、比較コンプライアンスCが基準コンプライアンスCよりも大きい場合には、最大試験力Pmaxから0(kN)までの試験力の範囲においてき裂100bが完全開口状態になっているとみなし、ずれ値Coffset,thを用いて開口試験力POPを判定するのではなく、0(kN)を開口試験力POPと判定する。
【0093】
また、本実施形態では、開口点判定部20は、第2関係においてずれ値Coffset,thとなるときの試験力を最大試験力Pmaxで除算して得られる値が、予め設定されたしきい値を超えるか否かを判別する。本実施形態では、応力比に応じたしきい値が、記憶部22に予め記憶されている。開口点判定部20は、与えられた応力比に対応するしきい値を、記憶部22に記憶された複数のしきい値のなかから選択し、選択したしきい値に基づいて、上記の判別を行う。しきい値は、例えば、応力比に応じて以下のように設定される。
【0094】
(しきい値)
R≦0.1:0.70
0.1<R<0.3:0.75
0.3≦R<0.5:0.80
R=0.5:0.85
0.5<R<0.7:0.87
0.7≦R:0.90
【0095】
なお、これまでの発明者らの経験により、応力比が0以上の疲労き裂進展試験において、最大試験力Pmaxから最小試験力Pminまで試験力が除荷される間にき裂先端が閉口するのであれば、第2関係においてずれ値Coffset,thとなるときの試験力を最大試験力Pmaxで除算して得られる値は、上記のしきい値以下になると考えられる。したがって、本実施形態では、応力比が0以上の疲労き裂進展試験で得られた第2関係において、ずれ値Coffset,thとなるときの試験力を最大試験力Pmaxで除算して得られる値が上記のしきい値を超える場合には、き裂100bが完全開口状態になっているとみなし、ずれ値Coffset,thを用いて開口試験力POPを判定するのではなく、最小試験力Pminを開口試験力POPと判定する。
【0096】
また、これまでの発明者らの経験により、応力比が0未満の疲労き裂進展試験において、最大試験力Pmaxから0(kN)まで試験力が除荷される間にき裂先端が閉口するのであれば、第2関係においてずれ値Coffset,thとなるときの試験力を最大試験力Pmaxで除算して得られる値は、上記のしきい値以下になると考えられる。したがって、本実施形態では、応力比が0未満の疲労き裂進展試験で得られた第2関係において、ずれ値Coffset,thとなるときの試験力を最大試験力Pmaxで除算して得られる値が上記のしきい値を超える場合には、最大試験力Pmaxから0(kN)までの試験力の範囲においてき裂100bが完全開口状態になっているとみなし、ずれ値Coffset,thを用いて開口試験力POPを判定するのではなく、0(kN)を開口試験力POPと判定する。
【0097】
また、本実施形態では、第3算出部18が算出したずれ値Coffset,i(i=1~n)の全てが負の値である場合、開口点判定部20は、き裂100bが完全開口状態になっていると判定する。この場合、開口点判定部20は、応力比が0以上の疲労き裂進展試験では、最小試験力Pminを開口試験力POPと判定し、応力比が0未満の疲労き裂進展試験では、0(kN)を開口試験力POPと判定する。
【0098】
第4算出部24は、開口点判定部20によって判定された開口試験力POPに基づいて、有効応力拡大係数範囲を算出する。本実施形態では、例えば、記憶部22に試験力に基づいて応力拡大係数を算出するための数式が予め記憶されている。第4算出部24は、記憶部22に記憶された上記数式を用いて、開口試験力POPおよび最大試験力Pmaxに基づいて有効応力拡大係数範囲を算出する。
【0099】
以上のように、本実施形態では、試験条件に応じた基準によって、開口試験力POPをより適切に判定することができる。
【0100】
[装置動作]
次に、本実施形態に係る評価装置10の動作について説明する。図10は、本実施形態に係る評価装置10の動作を示すフロー図である。なお、本発明の一実施形態に係る評価方法は、評価装置10を動作させることによって実施される。
【0101】
本実施形態では、まず、取得部12が、上述したように、第1関係を取得する(ステップS1)。次に、第1算出部14が、上述したように、基準コンプライアンスCを算出する(ステップS2)。
【0102】
次に、第2算出部16が、上述したように、複数の第2範囲aiを抽出するとともに、各第2範囲aiについて部分コンプライアンスCを算出する(ステップS3)。次に、第3算出部18が、上述したように、各部分コンプライアンスCについてずれ値Coffset,iを算出する(ステップS4)。
【0103】
次に、開口点判定部20が、上述したように、開口試験力POPを判定する(ステップS5)。最後に、第4算出部24が、上述したように、有効応力拡大係数範囲を算出する(ステップS6)。本実施形態では、任意の回数目の試験力が負荷されたときの第1関係が第1算出部14によって取得されるごとに、ステップS2~ステップS6の処理が実行される。
【0104】
[プログラム]
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上述のステップS1~S6の処理を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態に係る評価装置と評価方法とを実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、取得部12、第1算出部14、第2算出部16、第3算出部18、開口点判定部20、および第4算出部24として機能し、処理を行なう。
【0105】
また、本実施形態では、記憶部22は、コンピュータに備えられたハードディスク等の記憶装置に、これを構成するデータファイルを格納することによって、又はこのデータファイルが格納された記録媒体をコンピュータと接続された読取装置に搭載することによって実現されている。
【0106】
また、本実施形態に係るプログラムは、複数のコンピュータによって構築されたコンピュータシステムによって実行されてもよい。この場合、各コンピュータがそれぞれ、取得部12、第1算出部14、第2算出部16、第3算出部18、開口点判定部20、および第4算出部24として機能してもよい。
【0107】
[物理構成]
図11は、本発明の一実施形態に係る評価装置10を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。コンピュータ110は、本実施形態に係るプログラムを実行することによって、本実施形態に係る評価装置10を実現する。
【0108】
図11に示すように、コンピュータ110は、CPU111と、メインメモリ112と、記憶装置113と、入力インターフェイス114と、表示コントローラ115と、データリーダ/ライタ116と、通信インターフェイス117とを備える。これらの各部は、バス121を介して、互いにデータ通信可能に接続される。なお、コンピュータ110は、CPU111に加えて、又はCPU111に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えていてもよい。
【0109】
CPU111は、記憶装置113に格納された、本実施の形態におけるプログラム(コード)をメインメモリ112に展開し、これらを所定順序で実行することにより、各種の演算を実施する。メインメモリ112は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性の記憶装置である。また、本実施の形態におけるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体120に格納された状態で提供される。なお、本実施の形態におけるプログラムは、通信インターフェイス117を介して接続されたインターネット上で流通するものであってもよい。
【0110】
また、記憶装置113の具体例としては、ハードディスクドライブの他、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置が挙げられる。入力インターフェイス114は、CPU111と、キーボードおよびマウスといった入力機器118との間のデータ伝送を仲介する。表示コントローラ115は、ディスプレイ装置119と接続され、ディスプレイ装置119での表示を制御する。
【0111】
データリーダ/ライタ116は、CPU111と記録媒体120との間のデータ伝送を仲介し、記録媒体120からのプログラムの読み出し、およびコンピュータ110における処理結果の記録媒体120への書き込みを実行する。通信インターフェイス117は、CPU111と、他のコンピュータとの間のデータ伝送を仲介する。
【0112】
また、記録媒体120の具体例としては、CF(Compact Flash(登録商標))およびSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、又はCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【0113】
なお、本実施形態に係る評価装置10は、プログラムがインストールされたコンピュータではなく、各部に対応したハードウェアを用いることによって実現されてもよい、また、評価装置10は、一部がプログラムで実現され、残りの部分がハードウェアで実現されていてもよい。
【0114】
[変形例]
上述の実施形態では、試験片の所定部位の変位に関する数値として、切欠き100aに取り付けられたクリップゲージによって測定されるき裂開口変位を利用する場合について説明した。しかしながら、試験片の所定部位の変位に関する数値は上述の例に限定されず、試験片の他の部位の変位に関する数値であってもよい。例えば、試験片100の背面100c(切欠き100aが形成される面の反対側の面)の中央部に生じるひずみをひずみゲージ(背面ゲージ)によって測定してもよい。この場合、上述の実施形態で説明した方法において、試験片の所定部位の変位に関する数値として、き裂開口変位に代えてひずみゲージによって測定されたひずみを用いることによって、上述の実施形態と同様に開口点を評価することができる。
【0115】
上述の実施形態では、ずれ値Coffset,i(i=1~n)と試験力との第2関係において、ずれ値の最大値Coffset,maxに対して予め設定された割合のずれ値Coffset,thとなるときの試験力を開口試験力POPと判定(第1の判定基準)する場合について説明したが、開口試験力POPを判定する際の判定基準は、上記の例に限定されない。
【0116】
具体的には、ずれ値Coffset,iと試験力との第2関係において、ずれ値Coffset,iの中央値に対応する試験力を開口試験力POPと判定してもよい(第2の判定基準)。この場合は、ずれ値Coffset,iを大きさの順に並べた場合に順位が中央となるずれ値Coffset,iに対応する試験力を開口試験力POPとすることができる。したがって、第2関係は、ずれ値Coffset,iと試験力との対応関係を示した情報であればよく、図8に示したような複数の線分の集合である必要はない。ずれ値Coffset,iの数が偶数である場合には、ずれ値Coffset,iを大きさの順に並べた場合に中央の順位となる2つのずれ値Coffset,iに対応する2つの試験力の平均値を開口試験力POPとすればよい。
【0117】
上記のようにずれ値Coffset,iの中央値に対応する試験力を開口試験力POPと判定することによって、上述の実施形態と同様に、疲労き裂進展試験における負荷の繰り返し数によってずれ値Coffsetの発生状況に差が生じても、ずれ値Coffsetの発生状況に応じた基準で開口点を判定することができる。その結果、開口点を適切に評価することができる。
【0118】
なお、開口点判定部20は、第2の判定基準によって開口試験力POPを判定する場合も、上述の実施形態と同様に、応力比が0以上の疲労き裂進展試験において比較コンプライアンスCが基準コンプライアンスCよりも大きい場合には、第2判定基準によって算出された開口試験力POPではなく、最小試験力Pminを開口試験力POPと判定してもよい。
【0119】
また、開口点判定部20は、上述の実施形態と同様に、応力比が0未満の疲労き裂進展試験において、比較コンプライアンスCが基準コンプライアンスCよりも大きい場合には、第2判定基準によって算出された開口試験力POPではなく、0(kN)を開口試験力POPと判定してもよい。
【0120】
また、開口点判定部20は、上述の実施形態と同様に、応力比が0以上の疲労き裂進展試験で得られた第2関係において、第2の判定基準によって算出された開口試験力POPを最大試験力Pmaxで除算して得られる値が上述したしきい値を超える場合には、第2判定基準によって算出された開口試験力POPではなく、最小試験力Pminを開口試験力POPと判定してもよい。
【0121】
また、開口点判定部20は、応力比が0未満の疲労き裂進展試験で得られた第2関係において、第2の判定基準によって算出された開口試験力POPを最大試験力Pmaxで除算して得られる値が上述したしきい値を超える場合には、第2判定基準によって算出された開口試験力POPではなく、0(kN)を開口試験力POPと判定してもよい。
【0122】
また、上述の実施形態と同様に、第3算出部18が算出したずれ値Coffset,i(i=1~n)の全てが負の値である場合、開口点判定部20は、応力比が0以上の疲労き裂進展試験では、最小試験力Pminを開口試験力POPと判定し、応力比が0未満の疲労き裂進展試験では、0(kN)を開口試験力POPと判定してもよい。
【0123】
なお、評価装置10が、開口試験力POPを判定する際の判定基準を、上述の第1の判定基準および第2の判定基準のうちの一方を選択可能に構成されていてもよい。この場合、例えば、評価装置10のユーザが、図示しない入力部を操作することによって判定基準を指定し、開口点判定部20が、ユーザによって指定された判定基準に従って開口試験力POPを判定してもよい。
【0124】
また、例えば、評価装置10のユーザが、図示しない入力部を操作することによって金属材料の種類を入力し、開口点判定部20が、ユーザによって入力された金属材料の種類に対応する判定基準で開口試験力POPを判定してもよい。この場合には、複数種の金属材料について、上記第1の判定基準および第2の判定基準を用いて有効応力拡大係数範囲ΔKeffを算出し、算出された結果に基づいて、金属材料の種類ごとに、好ましい判断基準を予め求めておけばよい。具体的には、例えば、複数種の金属材料について任意の応力比(例えば、応力比R=0.05またはR=0.5)および高応力比(例えば、応力比R=0.7)で疲労き裂進展試験を行い、金属材料ごとに、上記任意の応力比の試験で得られる有効応力拡大係数範囲ΔKeffが、これと対応するき裂進展速度における高応力比の試験で得られる応力拡大係数範囲ΔKにより近くなる判定基準が、第1および第2の判定基準のうちのどちらであるのかを予め求める。そして、金属材料の種類と判定基準との関係を記憶部22に予め記憶させる。これにより、開口点判定部20は、ユーザによって入力された金属材料の種類に対応する判定基準を記憶部22に記憶された上記関係に基づいて選択し、選択した判定基準で開口試験力POPを判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によれば、疲労き裂進展試験の試験情報に基づいてき裂の開口点を評価することができる。
【符号の説明】
【0126】
10 評価装置
12 取得部
14 第1算出部
16 第2算出部
18 第3算出部
20 開口点判定部
22 記憶部
24 第4算出部
100 試験片
100a 切欠き
100b き裂
100c 背面

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11