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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】圧縮機及び冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/02 20060101AFI20250312BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
F04B39/02 Y
F04C29/02 361A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023114698
(22)【出願日】2023-07-12
(65)【公開番号】P2025012109
(43)【公開日】2025-01-24
【審査請求日】2024-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植村 泰拓
(72)【発明者】
【氏名】松川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】堤 慧
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健
(72)【発明者】
【氏名】姫田 晃
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-202208(JP,A)
【文献】特開2021-063453(JP,A)
【文献】特開2003-097470(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0263609(US,A1)
【文献】特開2003-148346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/02
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構(30)と、
駆動軸(40)と、
前記駆動軸(40)を回転させて前記圧縮機構(30)を駆動する電動機(70)と、を備え、
前記駆動軸(40)は、上下方向に延びており、
前記電動機(70)は、前記駆動軸(40)に結合された回転子(71)と、前記回転子(71)よりも外周側に配置された固定子(72)と、を含み、
前記回転子(71)には、上下方向に貫通する第1ガス通路(75)が設けられており、
前記回転子(71)よりも上方には、蓋部材(110)及び筒部材(103)が配置されており、
前記蓋部材(110)は、前記回転子(71)の上端(71a)における前記第1ガス通路(75)の開口端(75a)に対面する板状であり、
前記筒部材(103)は、前記第1ガス通路(75)よりも外周側で前記蓋部材(110)から下方に延びており、
前記筒部材(103)の下端(103a)と前記回転子(71)の上端(71a)との間には、前記筒部材(103)の周方向に延びる隙間(120)が形成されており、
前記回転子(71)の上端(71a)と前記蓋部材(110)と前記筒部材(103)とに囲まれて前記隙間(120)を通じて外周側に開口する第1空間(U)が形成されており、
前記駆動軸(40)には、バランスウエイト(60)と、前記バランスウエイト(60)の外周部(60b)を覆うカバー(100)と、が設けられており、
前記カバー(100)は、前記バランスウエイト(60)の下端(60c)よりも下方に延びており、
前記筒部材(103)は、前記カバー(100)における前記バランスウエイト(60)の下端(60c)よりも下方に延びた部分であり、
前記蓋部材(110)は、前記バランスウエイト(60)よりも下方に配置されており、
前記蓋部材(110)は、前記カバー(100)の内側の空間を上下方向に仕切る、
圧縮機。
【請求項2】
圧縮機構(30)と、
駆動軸(40)と、
前記駆動軸(40)を回転させて前記圧縮機構(30)を駆動する電動機(70)と、を備え、
前記駆動軸(40)は、上下方向に延びており、
前記電動機(70)は、前記駆動軸(40)に結合された回転子(71)と、前記回転子(71)よりも外周側に配置された固定子(72)と、を含み、
前記回転子(71)には、上下方向に貫通する第1ガス通路(75)が設けられており、
前記回転子(71)よりも上方には、蓋部材(110)及び筒部材(103)が配置されており、
前記蓋部材(110)は、前記回転子(71)の上端(71a)における前記第1ガス通路(75)の開口端(75a)に対面する板状であり、
前記筒部材(103)は、前記第1ガス通路(75)よりも外周側で前記蓋部材(110)から下方に延びており、
前記筒部材(103)の下端(103a)と前記回転子(71)の上端(71a)との間には、前記筒部材(103)の周方向に延びる隙間(120)が形成されており、
前記回転子(71)の上端(71a)と前記蓋部材(110)と前記筒部材(103)とに囲まれて前記隙間(120)を通じて外周側に開口する第1空間(U)が形成されており、
前記駆動軸(40)には、バランスウエイト(60)が設けられており、
前記蓋部材(110)は、前記バランスウエイト(60)よりも下方に配置されており、
前記蓋部材(110)と前記筒部材(103)とは、互いに一体である、
圧縮機。
【請求項3】
前記蓋部材(110)は、前記バランスウエイト(60)の下面(60d)に固定されている、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記圧縮機構(30)と前記駆動軸(40)と前記電動機(70)とを収容するケーシング(20)を備え、
前記固定子(72)の外周部(72c)と前記ケーシング(20)との間には、上下方向に延びる第2ガス通路(76)が設けられている、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記固定子(72)には、前記固定子(72)の周方向に沿って間隔を空けて配置されたコイル(73)が設けられており、
隣り合う前記コイル(73)同士の間には、上下方向に延びる第3ガス通路(77)が設けられている、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記筒部材(103)の外径(D1)は、前記回転子(71)の外径(D3)以下である、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記蓋部材(110)と前記回転子(71)の上端(71a)との距離(h)と、前記筒部材(103)の下端(103a)と前記回転子(71)の上端(71a)との距離(d)とは、d≦h/3の関係にある、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記筒部材(103)の下端(103a)と前記回転子(71)の上端(71a)との距離(d)と、前記筒部材(103)の内径(D2)と、全ての前記第1ガス通路(75)の全断面積(M)と、円周率(π)とは、M/(π×D2)≦dの関係にある、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の圧縮機(10)を備える冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機及び冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の圧縮機は、圧縮機構と、駆動軸と、駆動軸を回転させて圧縮機構を駆動する電動機と、を備える。駆動軸は、上下方向に延びている。電動機の回転子には、上下方向に貫通するガス通路が設けられている。電動機において、回転子よりも外周側には、固定子が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-017849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る圧縮機では、電動機の回転子に設けられたガス通路には、ガスが上方に流れる。通常、複数のガス通路が、回転子の周方向に沿って間隔を空けて並んで配置されている。回転子は、周方向に回転する。ガスは、回転子の上端におけるガス通路の開口端から、上方に吐出される。
【0005】
回転子には、ガス通路が有る領域とガス通路が無い領域とが、周方向に交互に並んで配置されている。回転子にガス通路が有る領域では、固定子の上方の空間へ向かって上方且つ外周側に吐出されるガスの流速が相対的に高くなり、回転子にガス通路が無い領域では、固定子の上方の空間へ向かって上方且つ外周側に吐出されるガスの流速が相対的に低くなる。
【0006】
このような状態で回転子が回転すると、回転子の上端におけるガス通路の開口端から吐出されたガスの流れの影響によって、固定子の上方の空間におけるガスの流れが乱れる。
【0007】
固定子の上方の空間におけるガスの流れが乱れると、圧縮機の油上がりが増大して圧縮機の信頼性が低下してしまう。
【0008】
本開示の目的は、圧縮機において、電動機の固定子の上方の空間でガスの流れが乱れるのを抑制することによって油上がりを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)は、圧縮機構(30)と、駆動軸(40)と、前記駆動軸(40)を回転させて前記圧縮機構(30)を駆動する電動機(70)と、を備え、前記駆動軸(40)は、上下方向に延びており、前記電動機(70)は、前記駆動軸(40)に結合された回転子(71)と、前記回転子(71)よりも外周側に配置された固定子(72)と、を含み、前記回転子(71)には、上下方向に貫通する第1ガス通路(75)が設けられており、前記回転子(71)よりも上方には、蓋部材(110)及び筒部材(103)が配置されており、前記蓋部材(110)は、前記回転子(71)の上端(71a)における前記第1ガス通路(75)の開口端(75a)に対面する板状であり、前記筒部材(103)は、前記第1ガス通路(75)よりも外周側で前記蓋部材(110)から下方に延びており、前記筒部材(103)の下端(103a)と前記回転子(71)の上端(71a)との間には、前記筒部材(103)の周方向に延びる隙間(120)が形成されており、前記回転子(71)の上端(71a)と前記蓋部材(110)と前記筒部材(103)とに囲まれて前記隙間(120)を通じて外周側に開口する第1空間(U)が形成されている。
【0010】
第1の態様に係る圧縮機(10)によれば、ガスは、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から上方に吐出されて、回転子(71)の上端(71a)と蓋部材(110)と筒部材(103)とに囲まれた第1空間(U)に導入される。ガスは、第1空間(U)で一時的に滞留して、周方向に拡散される。ガスは、第1空間(U)内から、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との隙間(120)を通じて、第1空間(U)外にある固定子(72)の上方の空間へ向かって、外周側に排出される。
【0011】
回転子(71)の第1ガス通路(75)から上方に吐出されたガスが第1空間(U)で一時的に滞留して周方向に拡散されるので、第1空間(U)外にある固定子(72)の上方の空間へ向かって隙間(120)を通じて外周側(R2)に排出されるガスの流速を、周方向に亘って均一に近づけることができる。
【0012】
第1の態様に係る圧縮機(10)によれば、電動機(70)の回転子(71)の上方に第1空間(U)を形成することによって、電動機(70)の固定子(72)の上方の空間においてガスの流れが乱れるのを抑制でき、ひいては油上がりを抑制できる。
【0013】
本開示の第2の態様は、第1の態様に係る圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)では、前記駆動軸(40)には、前記蓋部材(110)よりも上方に配置されたバランスウエイト(60)と、前記バランスウエイト(60)の外周部(60b)を覆うカバー(100)と、が設けられており、前記カバー(100)は、前記バランスウエイト(60)の下端(60c)よりも下方に延びており、前記筒部材(103)は、前記カバー(100)における前記バランスウエイト(60)の下端(60c)よりも下方に延びた部分である。
【0014】
第2の態様に係る圧縮機(10)によれば、筒部材(103)をカバー(100)の一部とすることによって、部品点数を削減できる。
【0015】
本開示の第3の態様は、第2の態様に係る圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)では、前記蓋部材(110)は、前記バランスウエイト(60)の下面(60d)に固定されている。
【0016】
第3の態様に係る圧縮機(10)によれば、蓋部材(110)を、バランスウエイト(60)よりも下方且つ回転子(71)よりも上方に簡単に配置することができる。
【0017】
本開示の第4の態様は、第1から第3の態様に係る圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)は、前記圧縮機構(30)と前記駆動軸(40)と前記電動機(70)とを収容するケーシング(20)を備え、前記固定子(72)の外周部(72c)と前記ケーシング(20)との間には、上下方向に延びる第2ガス通路(76)が設けられている。
【0018】
第4の態様に係る圧縮機(10)によれば、回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から吐出されたガスの流れに影響されて、固定子(72)の外周部(72c)とケーシング(20)との間における第2ガス通路(76)を通るガスの流れが乱れるのを抑制でき、ひいては油上がりを抑制することができる。
【0019】
本開示の第5の態様は、第1から第4の態様に係る圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)では、前記固定子(72)には、前記固定子(72)の周方向(T)に沿って間隔を空けて配置されたコイル(73)が設けられており、隣り合う前記コイル(73)同士の間には、上下方向に延びる第3ガス通路(77)が設けられている。
【0020】
第5の態様に係る圧縮機(10)によれば、回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から吐出されたガスの流れに影響されて、隣り合うコイル(73)同士の間における第3ガス通路(77)から固定子(72)の上方の空間に吐出されたガスの流れが乱れるのを抑制でき、ひいては油上がりを抑制することができる。
【0021】
本開示の第6の態様は、第1から第5の態様に係る圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)では、前記筒部材(103)の外径(D1)は、前記回転子(71)の外径(D3)以下である。
【0022】
第6の態様に係る圧縮機(10)によれば、回転子(71)よりも外周側を流れるガスが第1空間(U)に流入してしまうのを抑制する上で、より有利になる。
【0023】
本開示の第7の態様は、第1から第6の態様に係る圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)では、前記蓋部材(110)と前記回転子(71)の上端(71a)との距離(h)と、前記筒部材(103)の下端(103a)と前記回転子(71)の上端(71a)との距離(d)とは、d≦h/3の関係にある。
【0024】
第7の態様に係る圧縮機(10)によれば、固定子(72)の上方の空間でガスの流れが乱れるのを抑制する上で、より有利になる。
【0025】
本開示の第8の態様は、第1から第7の態様に係る圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)では、前記筒部材(103)の下端(103a)と前記回転子(71)の上端(71a)との距離(d)と、前記筒部材(103)の内径(D2)と、全ての前記第1ガス通路(75)の全断面積(M)と、円周率(π)とは、M/(π×D2)≦dの関係にある。
【0026】
第8の態様に係る圧縮機(10)によれば、固定子(72)の上方の空間でガスの流れが乱れるのを抑制する上で、より有利になる。
【0027】
本開示の第9の態様は、第1から第8の態様に係る圧縮機(10)を対象とする。この圧縮機(10)では、前記蓋部材(110)と前記筒部材(103)とは、互いに一体である。
【0028】
本開示の第10の態様は、冷凍装置(1)を対象とする。この冷凍装置(1)は、第1から第9の態様に係る圧縮機(10)を備える。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、第1実施形態に係る冷凍装置(1)を示す。
図2図2は、第1実施形態に係る圧縮機(10)を正面断面図で示す。
図3図3は、第1実施形態に係る圧縮機(10)における電動機(70)の周辺を正面断面図で示す。
図4図4は、第1実施形態に係る電動機(70)を上方から見た平面図で示す。
図5図5は、第1実施形態に係る圧縮機(10)におけるバランスウエイト(60)の周辺を正面断面図で示す。
図6図6は、第1実施形態に係るバランスウエイト(60)の周辺を下方から見た平面図で示す。
図7図7は、第1実施形態に係る拡張比(h/d)[-]と油上がり率(E)[%]との関係を示す。
図8図8は、第2実施形態に係る図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表す場合がある。
【0031】
<第1実施形態>
(冷凍装置)
第1実施形態に係る圧縮機(10)について説明する。圧縮機(10)は、冷凍装置(1)に適用される。図1は、冷凍装置(1)を示す。冷凍装置(1)は、冷媒が循環する冷媒回路(1a)を、含む。冷凍装置(1)の冷媒回路(1a)は、圧縮機(10)と、凝縮器(放熱器)(2)と、減圧機構(膨張機構)(3)と、蒸発器(4)と、を備える。減圧機構(3)は、例えば、膨張弁やキャピラリーチューブなどである。冷媒回路(1a)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う。冷凍装置(1)は、例えば、空気調和機や冷却機などに適用される。
【0032】
(圧縮機)
図2は、圧縮機(10)を正面断面図で示す。圧縮機(10)は、スクロール圧縮機である。圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、圧縮機構(30)と、駆動軸(40)と、ハウジング(50)と、バランスウエイト(60)と、電動機(70)と、下部軸受部材(80)と、油ポンプ(90)と、を備える。
【0033】
以下、駆動軸(40)の軸心の延びる方向を、軸方向として、(Z)で示す。駆動軸(40)の軸心に直交する方向を、径方向として、(R)で示す。径方向における駆動軸(40)の軸心に近い方を、径方向の内周側又は内方として、(R1)で示す。径方向における駆動軸(40)の軸心に遠い方を、径方向の外周側又は外方として、(R2)で示す。駆動軸(40)の回転方向を、周方向として、(T)で示す。
【0034】
駆動軸(40)の軸方向は、上下方向に延びている。上下方向を、軸方向と同様に、(Z)で示す。軸方向(上下方向)における上方を、(Z1)で示す。軸方向(上下方向)における下方を、(Z2)で示す。
【0035】
圧縮機(10)は、縦置きである。ケーシング(20)内には、上方から下方に向けて順に、圧縮機構(30)と、ハウジング(50)と、バランスウエイト(60)と、電動機(70)と、下部軸受部材(80)と、油ポンプ(90)と、が収容されている。駆動軸(40)は、ケーシング(20)内を軸方向(上下方向)に延びている。
【0036】
(ケーシング)
ケーシング(20)は、圧縮機構(30)と、駆動軸(40)と、ハウジング(50)と、バランスウエイト(60)と、電動機(70)と、下部軸受部材(80)と、油ポンプ(90)と、を収容する。
【0037】
ケーシング(20)は、軸方向(上下方向)に縦長に延びる円筒状の密閉容器である。ケーシング(20)は、胴部(21)と、上側蓋部(22)と、下側蓋部(23)と、脚部(24)と、を含む。胴部(21)は、軸方向(上下方向)の両端が開放した円筒状である。上側蓋部(22)は、胴部(21)の上端を閉塞する。下側蓋部(23)は、胴部(21)の下端を閉塞する。脚部(24)は、下側蓋部(23)の下部に設けられており、ケーシング(20)を基礎に対して支持する。
【0038】
ケーシング(20)には、吸入管(25)が接続されている。吸入管(25)は、ケーシング(20)の上側蓋部(22)を軸方向に貫通している。吸入管(25)は、圧縮機構(30)に接続している。ケーシング(20)には、吐出管(26)が接続されている。吐出管(26)は、ケーシング(20)の胴部(21)を径方向に貫通している。吐出管(26)は、ケーシング(20)の内部空間に開口している。
【0039】
ケーシング(20)の下底部(20a)には、油貯留部(27)が設けられている。油貯留部(27)には、潤滑油(L)が貯留される。潤滑油(L)は、圧縮機(10)の各摺動部を潤滑するためにある。
【0040】
(圧縮機構)
圧縮機構(30)は、ケーシング(20)内に設けられている。圧縮機構(30)は、冷媒を圧縮する。冷媒は、ガスである。圧縮機構(30)は、固定スクロール(31)と、可動スクロール(35)と、を有する。可動スクロール(35)は、固定スクロール(31)に噛み合わされる。
【0041】
固定スクロール(31)は、固定側鏡板部(32)と、固定側ラップ(33)と、外周壁部(34)と、を含む。固定側鏡板部(32)は、円板状である。固定側ラップ(33)は、インボリュート曲線を描く渦巻壁状であり、固定側鏡板部(32)の下面から下方に突出している。外周壁部(34)は、固定側ラップ(33)を外周側から囲むように形成されており、固定側鏡板部(32)の下面から下方に突出している。外周壁部(34)の先端面(下端面)は、固定側ラップ(33)の先端面(下端面)と略面一となっている。
【0042】
可動スクロール(35)は、旋回スクロールとも呼ばれる。可動スクロール(35)は、固定スクロール(31)よりも下方に配置されている。
【0043】
可動スクロール(35)は、可動側鏡板部(36)と、可動側ラップ(37)と、ボス部(38)と、を含む。可動側鏡板部(36)は、円板状である。可動側ラップ(37)は、インボリュート曲線を描く渦巻壁状であり、可動側鏡板部(36)の上面から上方に突出している。ボス部(38)は、円筒状であり、可動側鏡板部(36)の下面の中央部から下方に突出している。ボス部(38)の内周には、軸受(38a)が嵌め込まれている。
【0044】
圧縮機構(30)では、可動スクロール(35)の可動側ラップ(37)は、固定スクロール(31)の固定側ラップ(33)に噛み合わされる。固定スクロール(31)における固定側鏡板部(32)及び固定側ラップ(33)と可動スクロール(35)における可動側鏡板部(36)及び可動側ラップ(37)とに囲まれた領域には、圧縮室(C)が形成される。圧縮室(C)では、冷媒が圧縮される。
【0045】
固定スクロール(31)の固定側鏡板部(32)には、吐出ポート(P)が形成されている。吐出ポート(P)は、固定側鏡板部(32)の中央部を軸方向に貫通している。固定スクロール(31)とケーシング(20)の上側蓋部(22)との間の領域には、吐出チャンバ(Q)が形成されている。吐出チャンバ(Q)は、吐出ポート(P)に連通している。
【0046】
(駆動軸)
駆動軸(40)は、ケーシング(20)内を軸方向(上下方向)に延びている。駆動軸(40)は、主軸部(41)と、偏心軸部(42)と、を有する。偏心軸部(42)は、主軸部(41)の上端に設けられている。偏心軸部(42)の外径は、主軸部(41)の外径よりも小さい。偏心軸部(42)の軸心(42a)は、主軸部(41)の軸心(41a)に対して、所定距離だけ偏心している。
【0047】
駆動軸(40)の偏心軸部(42)は、軸受(38a)を介して、可動スクロール(35)のボス部(38)に、回転可能(摺動可能)に支持されている。
【0048】
(ハウジング)
ハウジング(50)は、上側に配置された軸受(52a)を、収容する。ハウジング(50)は、軸方向(上下方向)に延びる略円筒状である。ハウジング(50)は、ケーシング(20)内において、可動スクロール(35)の下方且つバランスウエイト(60)の上方に設けられている。ハウジング(50)の内周には、駆動軸(40)が挿入されている。ハウジング(50)の上側部分の外径は、ハウジング(50)の下側部分の外径よりも大きい。ハウジング(50)の上側部分の外周面は、ケーシング(20)の胴部(21)の内周面に固定されている。
【0049】
ケーシング(20)内におけるハウジング(50)よりも下方には、吐出空間(A)が形成されている。吐出空間(A)は、ハウジング(50)と電動機(70)との間の領域に形成されている。吐出空間(A)は、固定スクロール(31)及びハウジング(50)に形成された吐出通路(図示省略)を通じて、吐出チャンバ(Q)に連通している。吐出空間(A)は、吐出管(26)に連通している。吐出空間(A)は、高圧の吐出冷媒で満たされる。
【0050】
ハウジング(50)の上側部分の内径は、ハウジング(50)の下側部分の内径よりも大きい。ハウジング(50)の上側部分の内周側には、下方に凹む凹部によって、クランク室(51)が形成されている。クランク室(51)は、可動スクロール(35)のボス部(38)を収容する。
【0051】
ハウジング(50)の下側部分の内周側には、主軸受孔(52)が形成されている。主軸受孔(52)は、ハウジング(50)の下側部分を軸方向(上下方向)に貫通しており、クランク室(51)に連通している。主軸受孔(52)の内周には、軸受(52a)が嵌め込まれている。駆動軸(40)の主軸部(41)は、軸受(52a)を介して、ハウジング(50)の主軸受孔(52)に回転可能(摺動可能)に支持されている。
【0052】
(バランスウエイト)
バランスウエイト(60)は、圧縮機構(30)の可動スクロール(35)の旋回運動により生じる不釣合力を打ち消すためにある。バランスウエイト(60)は、ケーシング(20)内において、ハウジング(50)の下方且つ電動機(70)の上方に設けられている。バランスウエイト(60)は、駆動軸(40)の主軸部(41)に設けられている。バランスウエイト(60)は、駆動軸(40)と一体に回転する。
【0053】
バランスウエイト(60)は、駆動軸(40)から径方向の外周側に突出している。バランスウエイト(60)は、駆動軸(40)において偏心軸部(42)が主軸部(41)に対して偏心する側とは反対側に、突出している。バランスウエイト(60)は、軸方向(上下方向)にも延びている。
【0054】
詳細は後述するが、バランスウエイト(60)には、カバー(100)及び蓋部材(110)が取り付けられている。
【0055】
(電動機)
電動機(70)について、図3,4を用いて説明する。図3は、圧縮機(10)における電動機(70)の周辺を正面断面図で示す。図4は、図3のIV矢視において電動機(70)を上方から見た平面図で示す。電動機(70)は、モータとも呼ばれる。電動機(70)は、ケーシング(20)内において、バランスウエイト(60)の下方且つ下部軸受部材(80)の上方に設けられている。電動機(70)は、駆動軸(40)を回転させることによって、圧縮機構(30)を駆動する。
【0056】
電動機(70)は、回転子(71)と、固定子(72)と、を含む。さらに、固定子(72)には、複数のコイル(73)と、インシュレータ(74)と、が設けられている。
【0057】
回転子(71)は、ロータとも呼ばれる。回転子(71)は、金属からなる。回転子(71)は、軸方向(上下方向)に延びる円筒状である。回転子(71)は、駆動軸(40)の主軸部(41)に結合されている。回転子(71)の内周側には、駆動軸(40)の主軸部(41)が挿入されて固定されている。回転子(71)は、駆動軸(40)と一体に回転する。
【0058】
回転子(71)には、複数の第1ガス通路(75)が設けられている。第1ガス通路(75)は、回転子(71)の肉部を、軸方向(上下方向)に貫通している。換言すると、第1ガス通路(75)は、回転子(71)の上端から下端に亘って、軸方向(上下方向)に延びている。複数の第1ガス通路(75)は、回転子(71)の周方向に沿って所定の間隔を空けて並んで配置されている。
【0059】
固定子(72)は、ステータとも呼ばれる。固定子(72)は、金属からなる。固定子(72)は、軸方向(上下方向)に延びる円筒状である。固定子(72)は、ケーシング(20)の胴部(21)の内周面に固定されている。固定子(72)は、回転子(71)よりも径方向の外周側に配置されている。固定子(72)は、回転子(71)を径方向の外周側から囲むように配置されている。固定子(72)と回転子(71)とは、径方向に所定の間隔を空けている。回転子(71)は、固定子(72)の内周側に回転可能に挿入されている。
【0060】
固定子(72)は、バックヨーク部(72a)と、複数のティース部(72b)と、を含む。バックヨーク部(72a)は、軸方向(上下方向)に延びる円筒状に形成されている。複数のティース部(72b)は、バックヨーク部(72a)の内周面から、径方向の内周側に突出している。複数のティース部(72b)は、周方向に互いに所定の間隔を空けて並んで配置されている。
【0061】
固定子(72)におけるバックヨーク部(72a)の外周部(72c)には、複数のコアカット(72d)が設けられている。コアカット(72d)は、固定子(72)の上端から下端に亘って、軸方向(上下方向)に延びている。コアカット(72d)は、固定子(72)の外周面に開口し且つ固定子(72)の軸方向(上下方向)に延びる溝である。コアカット(72d)は、バックヨーク部(72a)の外周面から、径方向の内周側に凹んでいる。複数のコアカット(72d)は、固定子(72)の周方向に沿って間隔を空けて並んで配置されている。
【0062】
固定子(72)の外周部(72c)とケーシング(20)の胴部(21)の内周面との間には、複数の第2ガス通路(76)が設けられている。第2ガス通路(76)は、固定子(72)の上端から下端に亘って、軸方向(上下方向)に延びている。複数の第2ガス通路(76)は、複数のコアカット(72d)で構成されている。複数の第2ガス通路(76)は、固定子(72)の周方向に沿って間隔を空けて並んで配置されている。
【0063】
複数のコイル(73)は、固定子(72)に固定されている。複数のコイル(73)は、複数のティース部(72b)に対応している。コイル(73)は、固定子(72)のティース部(72b)に巻かれている。複数のコイル(73)は、固定子(72)の周方向に沿って間隔を空けて並んで配置されている。
【0064】
周方向に隣り合うコイル(73)同士の間には、第3ガス通路(77)が設けられている。第3ガス通路(77)は、固定子(72)の上端から下端に亘って、固定子(72)の軸方向(上下方向)に延びている。複数の第3ガス通路(77)は、固定子(72)の周方向に沿って間隔を空けて並んで配置されている。
【0065】
回転子(71)と固定子(72)との間に形成された空隙(エアギャップ)は、第4ガス通路(78)を構成する。第4ガス通路(78)は、回転子(71)及び固定子(72)の上端から下端に亘って、軸方向(上下方向)に延びている。第4ガス通路(78)は、軸方向(上下方向)に見て、円環状である。第4ガス通路(78)は、第3ガス通路(77)よりも、径方向の内周側に位置する。第4ガス通路(78)は、回転子(71)の外周部(71b)よりも、径方向の外周側に位置する。なお、回転子(71)の外周部(71b)は、回転子(71)の外周面である。回転子(71)の外周面は、径方向の外周側に臨む。
【0066】
インシュレータ(74)は、樹脂からなる。インシュレータ(74)は、2つある。インシュレータ(74)は、固定子(72)の上方及び下方に、配置されている。インシュレータ(74)は、固定子(72)とコイル(73)とを絶縁する。
【0067】
(下部軸受部材)
下部軸受部材(80)は、下側に配置された軸受(81a)を、収容する。下部軸受部材(80)は、軸方向(上下方向)に延びる略円筒状である。下部軸受部材(80)は、ケーシング(20)内において、電動機(70)と油貯留部(27)(ケーシング(20)の下底部(20a))との間に設けられている。下部軸受部材(80)は、円筒部(81)と、突出部(82)と、油分離板(83)と、を含む。
【0068】
円筒部(81)は、円筒状である。円筒部(81)は、駆動軸(40)の主軸部(41)を収容する。円筒部(81)の内周には、軸受(81a)が嵌め込まれている。駆動軸(40)の主軸部(41)は、軸受(81a)を介して、下部軸受部材(80)の円筒部(81)に回転可能(摺動可能)に支持されている。
【0069】
突出部(82)は、円筒部(81)から径方向の外周側に突出しており、ケーシング(20)の胴部(21)の内周面に固定されている。
【0070】
油分離板(83)は、円筒部(81)に固定されており、径方向及び周方向に延びている。油分離板(83)は、油貯留部(27)に対面している。ケーシング(20)の内部空間を流れるガス冷媒には、ミスト状の潤滑油(L)が含まれている。ミスト状の潤滑油(L)を含むガス冷媒が油分離板(83)に当たると、ガス冷媒と一部の潤滑油(L)とが分離されて、分離された潤滑油(L)が油貯留部(27)に落下する。
【0071】
(油ポンプ)
油ポンプ(90)は、ポンプ部(91)と、ノズル部(92)と、を含む。ポンプ部(91)は、駆動軸(40)の主軸部(41)の下端部に設けられている。ポンプ部(91)は、駆動軸(40)と同期して回転したり、駆動軸(40)と同期して往復運動したりする。ノズル部(92)は、下部軸受部材(80)の円筒部(81)の下端部に固定されている。ノズル部(92)は、ケーシング(20)の下底部(20a)における油貯留部(27)に貯留された潤滑油(L)に、浸かっている。
【0072】
油ポンプ(90)は、油貯留部(27)から潤滑油(L)を吸い上げる。潤滑油(L)は、駆動軸(40)の内部に設けられた油通路(図示省略)を通じて、圧縮機(10)における各摺動部に供給される。
【0073】
圧縮機(10)における摺動部として、可動スクロール(35)のボス部(38)の軸受(38a)と駆動軸(40)の偏心軸部(42)との間、ハウジング(50)の主軸受孔(52)の軸受(52a)と駆動軸(40)の主軸部(41)との間、下部軸受部材(80)の円筒部(81)の軸受(81a)と駆動軸(40)の主軸部(41)との間、可動スクロール(35)の下面とハウジング(50)の上面との間、などがある。
【0074】
(カバー、筒部材)
図5は、圧縮機(10)におけるバランスウエイト(60)の周辺を正面断面図で示す。図6は、図5のVI矢視においてバランスウエイト(60)の周辺を下方から見た平面図で示す。なお、図5において、簡単のため、コイル(73)及びインシュレータ(74)の図示を省略している。
【0075】
上述したように、バランスウエイト(60)は、電動機(70)の上方に配置されている。バランスウエイト(60)は、駆動軸(40)の主軸部(41)に設けられている。バランスウエイト(60)は、駆動軸(40)と一体に回転する。
【0076】
バランスウエイト(60)は、周方向の概ね半周に亘っており、駆動軸(40)から径方向の外周側に突出している。バランスウエイト(60)は、軸方向(上下方向)にも延びている。
【0077】
カバー(100)は、駆動軸(40)の主軸部(41)に設けられている。詳細には、カバー(100)は、駆動軸(40)に設けられたバランスウエイト(60)に、取り付けられている。カバー(100)は、下方に開口する有底筒状に形成されている。カバー(100)は、バランスウエイト(60)の回転によりガスが攪拌されるのを抑制するためにある。カバー(100)は、駆動軸(40)と一体に回転する。カバー(100)は、上カバー部(101)と、外周カバー部(102)と、を含む。
【0078】
カバー(100)の上カバー部(101)は、バランスウエイト(60)よりも上方に配置されている。上カバー部(101)は、円形の板状である。上カバー部(101)は、バランスウエイト(60)の上端(60a)を上側から覆っている。
【0079】
バランスウエイト(60)の外周部(60b)は、電動機(70)の回転子(71)の第1ガス通路(75)よりも、径方向の外周側に位置する。なお、バランスウエイト(60)の外周部(60b)は、バランスウエイト(60)における径方向の外周側に臨む部分である。上カバー部(101)の外周部は、バランスウエイト(60)の外周部(60b)よりも、径方向の外周側に位置する。上カバー部(101)の外周部は、電動機(70)の回転子(71)の第1ガス通路(75)よりも、径方向の外周側に位置する。
【0080】
バランスウエイト(60)の外周部(60b)は、電動機(70)の回転子(71)の外周部(71b)よりも、径方向の内周側に位置する。 カバー(100)の上カバー部(101)は、バランスウエイト(60)の上端(60a)に対して、固定具(61)(例えばボルトなど)によって固定されている。
【0081】
カバー(100)の外周カバー部(102)は、バランスウエイト(60)よりも径方向の外周側に配置されている。外周カバー部(102)は、円形の筒状である。外周カバー部(102)は、上カバー部(101)の外周部から下方に延びている。上カバー部(101)と外周カバー部(102)とは、互いに一体である。
【0082】
カバー(100)の外周カバー部(102)は、バランスウエイト(60)の外周部(60b)を外周側から覆っている。
【0083】
外周カバー部(102)の内周面は、電動機(70)の回転子(71)の第1ガス通路(75)よりも、径方向の外周側に位置する。外周カバー部(102)は、回転子(71)の第1ガス通路(75)よりも径方向の外周側で、上カバー部(101)の外周部から、下方に延びている。
【0084】
外周カバー部(102)は、電動機(70)の回転子(71)の外周部(71b)よりも、径方向の内周側に位置する。外周カバー部(102)は、電動機(70)の回転子(71)の外周部(71b)よりも径方向の内周側で、上カバー部(101)の外周部から、下方に延びている。
【0085】
カバー(100)の外周カバー部(102)は、バランスウエイト(60)の下端(60c)よりも下方に、延びている。以下、カバー(100)の外周カバー部(102)におけるバランスウエイト(60)の下端(60c)よりも下方に延びた部分を、筒部材(103)という。
【0086】
筒部材(103)は、カバー(100)の外周カバー部(102)の一部である。筒部材(103)は、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)よりも上方に、配置されている。なお、回転子(71)の上端(71a)は、回転子(71)の上面でもある。回転子(71)の上面は、上方に臨んでいる。筒部材(103)は、円形の筒状である。筒部材(103)は、駆動軸(40)と一体に回転する。
【0087】
筒部材(103)は、電動機(70)の回転子(71)の第1ガス通路(75)よりも外周側で、後述する蓋部材(110)の外周部(110a)(詳細には外周部(110a)よりもやや外周側の位置)から、下方に延びている。
【0088】
筒部材(103)は、電動機(70)の回転子(71)の外周部(71b)よりも内周側で、後述する蓋部材(110)の外周部(110a)(詳細には外周部(110a)よりもやや外周側の位置)から、下方に延びている。
【0089】
筒部材(103)の外径(D1)は、電動機(70)の回転子(71)の外径(D3)以下である。詳細には、筒部材(103)の外径(D1)は、電動機(70)の回転子(71)の外径(D3)よりも、小さい。筒部材(103)の内径(D2)は、電動機(70)の回転子(71)の外径(D3)よりも、小さい。
【0090】
筒部材(103)の下端(103a)と電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)との間には、隙間(120)が形成されている。なお、筒部材(103)の下端(103a)は、カバー(100)の外周カバー部(102)の下端でもある。隙間(120)は、筒部材(103)の周方向に全周に亘って延びている。
【0091】
(蓋部材)
図5,6に示すように、蓋部材(110)は、円環状に形成された板状である。蓋部材(110)は、径方向及び周方向に延びている。円環状の蓋部材(110)には、駆動軸(40)の主軸部(41)が挿し通されている。蓋部材(110)は、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)よりも上方に、配置されている。蓋部材(110)は、バランスウエイト(60)よりも下方に配置されている。換言すると、バランスウエイト(60)は、蓋部材(110)よりも上方に配置されている。
【0092】
蓋部材(110)は、バランスウエイト(60)の下端(60c)を下側から覆っている。蓋部材(110)は、カバー(100)の内側の空間を上下方向に仕切る。蓋部材(110)の外径は、筒部材(103)の内径(D2)よりも僅かに小さい。蓋部材(110)は、駆動軸(40)の主軸部(41)と同軸に配置されている。なお、本例では、バランスウエイト(60)の下端(60c)は、バランスウエイト(60)の下面(60d)でもある。バランスウエイト(60)の下面(60d)は、下方に臨んでいる。
【0093】
蓋部材(110)は、バランスウエイト(60)の下面(60d)に固定されている。詳細には、蓋部材(110)は、バランスウエイト(60)の下面(60d)に対して、固定具(62)(例えばボルトなど)によって固定されている。蓋部材(110)は、駆動軸(40)と一体に回転する。
【0094】
蓋部材(110)の外周部(110a)は、電動機(70)の回転子(71)の第1ガス通路(75)よりも、径方向に外周側に位置する。蓋部材(110)は、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)に対面する。なお、第1ガス通路(75)の開口端(75a)は、第1ガス通路(75)の出口である。
【0095】
上述したように、筒部材(103)は、回転子(71)の第1ガス通路(75)よりも外周側で、蓋部材(110)の外周部(110a)(詳細には外周部(110a)よりもやや外周側の位置)から、下方に延びている。 蓋部材(110)と筒部材(103)とは、互いに一体でなく別体である。蓋部材(110)と筒部材(103)とは、径方向に若干の隙間を空けている。後述する第1空間(U)を好適に形成するためには、蓋部材(110)と筒部材(103)との径方向隙間は、なるべく小さい方がよい。
【0096】
(第1空間)
電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)とバランスウエイト(60)の下端(60c)との間には、第1空間(U)が形成されている。第1空間(U)は、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)と、蓋部材(110)と、筒部材(103)と、に囲まれた空間である。第1空間(U)は、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)に、臨んでいる。第1空間(U)は、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との間に形成された隙間(120)を通じて、固定子(72)側に向かって、外周側に開口している。
【0097】
第1空間(U)の下端は、回転子(71)の上端(71a)に一致する。第1空間(U)の上端は、蓋部材(110)の下面に一致する。第1空間(U)の外周部は、筒部材(103)の内周面に一致する。第1空間(U)の下部且つ外周部には、隙間(120)がある。第1空間(U)は、吐出管(26)よりも下方に位置する。
【0098】
蓋部材(110)の下面と回転子(71)の上端(71a)との距離(h)と、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)とは、d≦h/3の関係にあることが好ましい。なお、距離(d)は、隙間(120)の上下寸法に対応している。
【0099】
筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)と、筒部材(103)の内径(D2)と、全ての第1ガス通路(75)の全断面積(M)と、円周率(π)とは、M/(π×D2)≦dの関係にあることが好ましい。
【0100】
なお、全断面積(M)は、全ての第1ガス通路(75)の断面積の合計である。全ての第1ガス通路(75)の全断面積(M)は、第1ガス通路(75)の個数(n)と、各第1ガス通路(75)の断面積(B)と、を用いてM=n×Bで表される。
【0101】
筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との隙間(120)の断面積(S)は、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)と、筒部材(103)の内径(D2)と、円周率(π)と、を用いてS=π×D2×dで表される。S=π×D2×dをM/(π×D2)≦dに当てはめると、M≦Sとなる。
【0102】
(圧縮機の運転動作)
圧縮機(10)の運転動作について説明する。電動機(70)が駆動すると、駆動軸(40)が回転して、圧縮機構(30)の可動スクロール(35)が駆動される。可動スクロール(35)は、自転が規制された状態で、駆動軸(40)の主軸部(41)の軸心(41a)を中心に公転する。
【0103】
低圧ガス冷媒は、吸入管(25)から、ケーシング(20)内の圧縮機構(30)の圧縮室(C)に吸入されて圧縮され、高圧ガス冷媒となる。高圧ガス冷媒は、圧縮室(C)から、固定スクロール(31)の吐出ポート(P)を通じて、吐出チャンバ(Q)へ吐出される。高圧ガス冷媒は、吐出チャンバ(Q)から、固定スクロール(31)及びハウジング(50)に形成された吐出通路(図示省略)を通じて、ハウジング(50)の下方にある吐出空間(A)に流出する。高圧ガス冷媒は、吐出空間(A)から、吐出管(26)を通じて、ケーシング(20)外(例えば冷媒回路(1a)の凝縮器(2)など)へ、吐出される。
【0104】
(圧縮機の内部を流れる吐出ガスの流れ)
圧縮機(10)の内部を流れる吐出ガス(G)の流れを、図3を参照しながら説明する。吐出ガス(G)は、圧縮機構(30)の圧縮室(C)で圧縮されてからケーシング(20)外へ吐出されるまでのガスである。なお、吐出ガス(G)には、ミスト状の潤滑油(L)が含まれている。圧縮機構(30)の圧縮室(C)で圧縮された吐出ガス(G)は、吐出ポート(P)を経由して、圧縮機構(30)に形成された通路(図示省略)及びガイド部材(図示省略)を介して、複数のコアカット(72d)で構成された複数の第2ガス通路(76)へ導かれる。
【0105】
上述したように、コアカット(72d)で構成された第2ガス通路(76)は、電動機(70)の固定子(72)の外周部(72c)と、ケーシング(20)の胴部(21)の内周面との間に、設けられている。第2ガス通路(76)では、吐出ガス(G)は、下方に流れる。
【0106】
第2ガス通路(76)を通過した吐出ガス(G)は、下部軸受部材(80)の油分離板(83)に当たって跳ね返される。このとき、吐出ガス(G)に含まれたミスト状の潤滑油(L)の一部は、油分離板(83)によって、吐出ガス(G)から分離されて、ケーシング(20)の下底部(20a)の油貯留部(27)に落下する。
【0107】
油分離板(83)に跳ね返された吐出ガス(G)の一部は、電動機(70)の回転子(71)の第1ガス通路(75)に、下方から流入する。第1ガス通路(75)では、吐出ガス(G)は、上方に流れる。第1ガス通路(75)を通過した吐出ガス(G)は、回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から、上方に吐出される。
【0108】
第1ガス通路(75)から上方に吐出された吐出ガス(G)は、詳細は後述するが、第1空間(U)から隙間(120)を通って流出する。
【0109】
油分離板(83)に跳ね返された吐出ガス(G)の他部は、電動機(70)における周方向に隣り合うコイル(73)同士の間の第3ガス通路(77)及び回転子(71)と固定子(72)との間の第4ガス通路(78)に、下方から流入する。第3ガス通路(77)及び第4ガス通路(78)では、吐出ガス(G)は、上方に流れる。第3ガス通路(77)及び第4ガス通路(78)を通過した吐出ガス(G)は、固定子(72)の上端(72e)よりも上方の空間(V)に、吐出される。
【0110】
以下、固定子(72)の上端(72e)よりも上方の空間(V)を、簡単のため、固定子(72)の上方の空間(V)という場合がある。固定子(72)の上方の空間(V)は、ハウジング(50)と電動機(70)との間の領域に形成された吐出空間(A)において、固定子(72)の上端(72e)の直上の部分である。
【0111】
(ガスの流れの乱れ)
図4には、第1空間(U)が形成されていない場合において、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から吐出された吐出ガス(G)の流れが、二点鎖線によって模式的に示されている。
【0112】
上述したように、複数の第1ガス通路(75)は、電動機(70)の回転子(71)の周方向に沿って所定の間隔を空けて並んで配置されている。吐出ガス(G)は、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から、上方且つ外周側に吐出される。回転子(71)には、第1ガス通路(75)が有る有通路領域(I)と第1ガス通路(75)が無い無通路領域(J)とが、周方向に交互に並んで配置されている。
【0113】
回転子(71)の有通路領域(I)では、固定子(72)の上方の空間(V)へ向かって上方且つ外周側に吐出される吐出ガス(G)の流速が相対的に高くなり、回転子(71)の無通路領域(J)では、固定子(72)の上方の空間(V)へ向かって上方且つ外周側に吐出される吐出ガス(G)の流速が相対的に低くなる。
【0114】
このような状態で回転子(71)が回転すると、回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から吐出された吐出ガス(G)の流れの影響によって、固定子(72)の上方の空間(V)における吐出ガス(G)の流れが乱れる。
【0115】
具体的には、固定子(72)の上側の周方向における任意の箇所(W)から回転子(71)を見ると、回転子(71)の有通路領域(I)と回転子(71)の無通路領域(J)とが、交互に通り過ぎるので、回転子(71)側から固定子(72)側への吐出ガス(G)の流速が時々刻々と変動して、回転子(71)側から固定子(72)側への吐出ガス(G)の流速が速くなったり遅くなったりする。
【0116】
第3ガス通路(77)及び第4ガス通路(78)から固定子(72)の上方の空間(V)に吐出された吐出ガス(G)は、回転子(71)側から固定子(72)側への吐出ガス(G)の流速の変動を受けてしまうので、上方への流れが阻害されて乱れてしまう。
【0117】
第3ガス通路(77)及び第4ガス通路(78)から固定子(72)の上方の空間(V)に吐出された吐出ガス(G)が乱れてしまうと、固定子(72)の外周部(72c)とケーシング(20)の胴部(21)の内周面との間の第2ガス通路(76)(コアカット(72d))を通る吐出ガス(G)は、下方への流れが阻害されてしまう。
【0118】
このように、回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から吐出された吐出ガス(G)の流れに影響されて、固定子(72)の上方の空間(V)で吐出ガス(G)の流れが乱れてしまうと、圧縮機(10)の内部を流れる吐出ガス(G)の流れが阻害されてしまい、十分な油上がり低減効果を得られなくなってしまう。
【0119】
油上がりとは、圧縮機(10)において、ケーシング(20)内の潤滑油(L)が、吐出ガス(G)と共に、吐出管(26)を通じてケーシング(20)外(例えば冷媒回路(1a)の凝縮器(2)など)へ吐出されてしまう現象である。油上がりは、圧縮機(10)の各摺動部を潤滑するための潤滑油(L)を減少させるので、好ましくない。
【0120】
本実施形態に係る圧縮機(10)では、回転子(71)の上方に上述の第1空間(U)を形成することによって、回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から吐出された吐出ガス(G)の流れに影響されて、固定子(72)の上方の空間(V)で吐出ガス(G)の流れが乱れるのを、抑制できる。さらに、本実施形態に係る圧縮機(10)では、固定子(72)の上方の空間(V)で吐出ガス(G)の流れが乱れるのを抑制することによって、油上がりを改善できる。
【0121】
(第1空間の役割)
第1空間(U)の役割について説明する。第1空間(U)は、回転子(71)の上端(71a)とバランスウエイト(60)の下端(60c)との間において、回転子(71)の上端(71a)と蓋部材(110)と筒部材(103)とに囲まれて形成されている。第1空間(U)は、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との間に形成された隙間(120)を通じて、固定子(72)側に向かって、外周側に開口している。
【0122】
吐出ガス(G)は、回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から、上方に吐出されて、第1空間(U)に導入される。吐出ガス(G)は、第1空間(U)において、蓋部材(110)に当たって、上方への移動を抑制される。吐出ガス(G)は、第1空間(U)において、筒部材(103)に当たって、径方向の外周側への移動を抑制される。
【0123】
吐出ガス(G)は、第1空間(U)で一時的に滞留して、周方向の全周に亘って拡散される。吐出ガス(G)は、周方向の全周に亘ってほぼ均等に、第1空間(U)内から、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との隙間(120)を通じて、第1空間(U)外にある固定子(72)の上方の空間(V)へ向かって、外周側に排出される。
【0124】
上述したように、隙間(120)は、筒部材(103)の全周に亘っている。そのため、隙間(120)を通って第1空間(U)から流出する吐出ガス(G)の流速は、筒部材(103)の周方向において均一化される。そのため、第1ガス通路(75)から流出した吐出ガス(G)の流れが、第3ガス通路(77)及び第4ガス通路(78)から上方に吐出された吐出ガス(G)の流れに与える影響は、従来に比べて小さくなる。その結果、電動機(70)の固定子(72)の上方の空間(V)における吐出ガス(G)の流れの乱れが抑えられる。
【0125】
(拡張比と油上がり率との関係)
上述したように、回転子(71)の第1ガス通路(75)から上方に吐出された吐出ガス(G)を第1空間(U)で一時的に滞留させることにより、固定子(72)の上方の空間(V)での吐出ガス(G)の流れの乱れを抑制することによって、圧縮機(10)の内部を流れる吐出ガス(G)の流れの乱れが抑制され、圧縮機(10)の油上がり率が改善される。図7は、拡張比(h/d)[-]と油上がり率(E)[%]との関係を示す。
【0126】
横軸に拡張比(h/d)をとる。拡張比(h/d)は、蓋部材(110)の下面と回転子(71)の上端(71a)との距離(h)を、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)で除することによって、得られる。
【0127】
縦軸に油上がり率(E)[%]をとる。油上がり率(E)は、吐出管(26)を介してケーシング(20)外に吐出される吐出ガス(G)と潤滑油(L)との混合物に対する、潤滑油(L)の割合を、質量パーセントで示したものである。
【0128】
図7のグラフを作成するための基礎となった各数値を下記に示す。下記の数値はあくまで一例であり、必ずしも下記の数値に限定されなくてもよい。なお、本実施形態に係る圧縮機(10)であれば、具体的な数値が下記のものと異なったとしても、数値同士の比は、下記のものと同様の傾向になることが多い。
【0129】
蓋部材(110)の下面と回転子(71)の上端(71a)との距離(h)を15.4[mm]とした。筒部材(103)の内径(D2)を76[mm]とした。第1ガス通路(75)の個数(n)を6[個]とした。各第1ガス通路(75)の断面積(B)を22.0[mm]とした。全ての第1ガス通路(75)の全断面積(M)は132.0[mm]となる(M=n×B)。
【0130】
図7のグラフを作成した際の吐出ガス(G)及び潤滑油(L)の条件を下記に示す。なお、下記の条件はあくまで一例であり、必ずしも下記の条件に限定されなくてもよい。吐出ガス(G)としてR410Aを用いた。潤滑油(L)として、ポリビニルエーテル系合成基油を主成分としたものを、用いた。
【0131】
筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)を変化させて、様々な拡張比(h/d)の場合での油上がり率(E)を測定した。
【0132】
油上がり率(E)が高いほど、油上がりが悪いとされる。油上がり率(E)の高さ(悪さ)は、圧縮機(10)の内部を流れる吐出ガス(G)の流れの乱れに起因する。
【0133】
図7に示すように、拡張比(h/d)が5以下の範囲では、拡張比(h/d)が大きくなるほど、油上がり率(E)は小さくなる。例えば、拡張比(h/d)が1(h=d)のとき、油上がり率(E)は6[%]程度である。拡張比(h/d)が3のとき、油上がり率(E)は2.1[%]程度である。拡張比(h/d)が5のとき油上がり率(E)1.5[%]程度である。
【0134】
拡張比(h/d)が5~29.8の範囲では、油上がり率(E)は、1.5[%]程度でほとんど変化しない。
【0135】
拡張比(h/d)が29.8以上の範囲では、拡張比(h/d)が大きくなるほど、油上がり率(E)は大きくなる。例えば、拡張比(h/d)が約29.8のとき、油上がり率(E)は1.5[%]程度である。拡張比(h/d)が31のとき、油上がり率(E)は2[%]程度である。拡張比(h/d)が32のとき、油上がり率(E)は4[%]程度である。
【0136】
図7によると、拡張比(h/d)が3以上のとき、油上がり率(E)が改善することが分かる。3≦h/dは、d≦h/3に対応する。拡張比(h/d)が5以上のとき、油上がり率(E)が特に改善する。5≦h/dは、d≦h/5に対応する。
【0137】
図7によると、拡張比(h/d)が31以下のとき、油上がり率(E)が改善することが分かる。拡張比(h/d)が29.8以下のとき、油上がり率(E)が特に改善することが分かる。h/d≦29.8は、M/(π×D2)≦dにほぼ対応する。具体的には、M/(π×D2)=132/(π×76)=0.55285となる。M/(π×D2)=dのとき、h/d=15.4/0.55285=27.855となる。h/dは、29.8に近い値となる。
【0138】
図7に示す試験結果によると、拡張比(h/d)は、3以上31以下であるのが望ましく、5以上29.8以下であるのが更に望ましい。
【0139】
(作用効果)
本実施形態に係る圧縮機(10)によれば、吐出ガス(G)は、電動機(70)の回転子(71)の上端(71a)における第1ガス通路(75)の開口端(75a)から吐出されて、回転子(71)の上端(71a)と蓋部材(110)と筒部材(103)とに囲まれた第1空間(U)に導入される。吐出ガス(G)は、第1空間(U)で一時的に滞留して、周方向に全周に亘って拡散される。吐出ガス(G)は、第1空間(U)内から、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との隙間(120)を通じて、第1空間(U)外にある固定子(72)の上方の空間(V)へ向かって、外周側に排出される。
【0140】
回転子(71)の第1ガス通路(75)から上方に吐出された吐出ガス(G)が第1空間(U)で一時的に滞留して周方向に全周に亘って拡散されるので、第1空間(U)外にある固定子(72)の上方の空間(V)へ向かって隙間(120)を通じて外周側に排出される吐出ガス(G)の流速を、周方向(T)に亘って均一に近づけることができる。
【0141】
本実施形態に係る圧縮機(10)によれば、電動機(70)の回転子(71)の上方に第1空間(U)を形成することによって、電動機(70)の固定子(72)の上方の空間(V)で吐出ガス(G)の流れが乱れるのを抑制でき、ひいては油上がりを抑制できる。
【0142】
具体的には、隣り合うコイル(73)同士の間の第3ガス通路(77)及び回転子(71)と固定子(72)との間の第4ガス通路(78)から固定子(72)の上方の空間(V)に吐出された吐出ガス(G)の流れの乱れを、抑制でき、ひいては圧縮機(10)の油上がりを抑制できる。
【0143】
固定子(72)の外周部(72c)とケーシング(20)との間における第2ガス通路(76)(コアカット(72d))を通る吐出ガス(G)の流れが乱れるのを抑制でき、ひいては圧縮機(10)の油上がりを抑制できる。
【0144】
筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)(隙間(120)の上下寸法)が大きすぎると、回転子(71)の第1ガス通路(75)から第1空間(U)に導入された吐出ガス(G)は、隙間(120)を通じて第1空間(U)外に過度に排出されてしまう。吐出ガス(G)は、第1空間(U)で滞留しにくくなって、周方向に拡散されにくくなる。
【0145】
本実施形態に係る圧縮機(10)によれば、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)(隙間(120)の上下寸法)を、所定値以下(d≦h/3)にする。回転子(71)の第1ガス通路(75)から第1空間(U)に導入された吐出ガス(G)は、隙間(120)を通じて第1空間(U)外に過度に排出されることはない。吐出ガス(G)は、第1空間(U)で滞留しやすくなって、周方向に拡散されやすくなる。固定子(72)の上方の空間(V)で吐出ガス(G)の流れが乱れるのを抑制する上で、より有利になる。
【0146】
筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)(隙間(120)の上下寸法)が小さすぎると、回転子(71)の第1ガス通路(75)から第1空間(U)に導入された吐出ガス(G)は、隙間(120)を通じて第1空間(U)外に排出されにくくなる。このとき、回転子(71)の第1ガス通路(75)を通る吐出ガス(G)の流通が阻害されるので、電動機(70)の下部空間を通る間にミスト状の潤滑油(L)の一部が分離される吐出ガス(G)の量が減少し、油上がり率(E)が上昇してしまう。
【0147】
本実施形態に係る圧縮機(10)によれば、筒部材(103)の下端(103a)と回転子(71)の上端(71a)との距離(d)(隙間(120)の上下寸法)を所定値以上(M/(π×D2)≦d)にする。回転子(71)の第1ガス通路(75)を通る吐出ガス(G)の流通が阻害されるのを、抑制できる。固定子(72)の上方の空間(V)で吐出ガス(G)の流れが乱れるのを抑制する上で、より有利になる。
【0148】
バランスウエイト(60)の回転により吐出ガス(G)が攪拌されるのを、カバー(100)によって抑制することができる。筒部材(103)をカバー(100)の一部にすることによって、部品点数を削減できる。
【0149】
蓋部材(110)をバランスウエイト(60)の下面(60d)に固定することによって、蓋部材(110)を、バランスウエイト(60)よりも下方且つ回転子(71)よりも上方に簡単に配置することができる。
【0150】
筒部材(103)の外径(D1)は、回転子(71)の外径(D3)以下である。回転子(71)よりも外周側を流れる吐出ガス(G)(例えば、第3ガス通路(77)及び第4ガス通路(78)から固定子(72)の上方の空間(V)に吐出された吐出ガス(G))が第1空間(U)に流入してしまうのを、抑制する上で、より有利になる。
【0151】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る圧縮機(10)について説明する。図8は、第2実施形態に係る図5相当図である。
【0152】
本実施形態では、筒部材(103)は、カバー(100)の外周カバー部(102)とは一体でなく別体に構成されている。カバー(100)の外周カバー部(102)は、バランスウエイト(60)の下端(60c)までにしか延びていない。
【0153】
蓋部材(110)と筒部材(103)とは、互いに一体である。筒部材(103)の上端は、蓋部材(110)の外周部(110a)に固定されている。筒部材(103)は、蓋部材(110)の外周部(110a)から、下方に延びている。
【0154】
<その他の実施形態>
筒部材(103)は、蓋部材(110)の外周部(110a)よりも内周側の位置から、下方に延びてもよい。
【0155】
圧縮機(10)は、冷凍装置(1)に適用されなくてもよく、例えば、空気等の冷媒以外の流体を圧縮する用途に、用いられてもよい。
【0156】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【符号の説明】
【0157】
Z 軸方向(上下方向)
Z1 上方
Z2 下方
R 径方向
R1 内周側
R2 外周側
T 周方向
L 潤滑油
G 吐出ガス
U 第1空間
V 空間
d 距離
h 距離
D1 外径
D2 内径
D3 外径
π 円周率
S 断面積
M 全断面積
n 個数
B 断面積
h/d 拡張比
E 油上がり率
1 冷凍装置
10 圧縮機
20 ケーシング
20a 下底部
26 吐出管
27 油貯留部
30 圧縮機構
31 固定スクロール
35 可動スクロール
40 駆動軸
41 主軸部
42 偏心軸部
50 ハウジング
60 バランスウエイト
60b 外周部
60c 下端
60d 下面
70 電動機
71 回転子
71a 上端
71b 外周部
72 固定子
72c 外周部
72d コアカット
72e 上端
73 コイル
75 第1ガス通路
75a 開口端
76 第2ガス通路
77 第3ガス通路
78 第4ガス通路
80 下部軸受部材
83 油分離板
90 油ポンプ
100 カバー
101 上カバー部
102 外周カバー部
103 筒部材
103a 下端
110 蓋部材
120 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8