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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】撥剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20250312BHJP
   D06M 13/328 20060101ALI20250312BHJP
   D06M 15/267 20060101ALI20250312BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20250312BHJP
   D21H 19/24 20060101ALI20250312BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
C09K3/18 101
D06M13/328
D06M15/267
D21H21/14
D21H19/24
B65D65/42
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023190524
(22)【出願日】2023-11-08
(65)【公開番号】P2024069163
(43)【公開日】2024-05-21
【審査請求日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2022179760
(32)【優先日】2022-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023105151
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100224605
【弁理士】
【氏名又は名称】畠中 省伍
(72)【発明者】
【氏名】池内 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】芥 諒
(72)【発明者】
【氏名】島野 真由美
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 達記
(72)【発明者】
【氏名】松本 あかね
(72)【発明者】
【氏名】相原 麻里奈
(72)【発明者】
【氏名】東 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-098082(JP,A)
【文献】特表平09-507535(JP,A)
【文献】特開昭59-059998(JP,A)
【文献】国際公開第2021/118451(WO,A1)
【文献】特開2021-075609(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026593(WO,A1)
【文献】特開2017-222827(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01214528(GB,A)
【文献】米国特許第03420697(US,A)
【文献】特開平01-221572(JP,A)
【文献】特開昭59-109574(JP,A)
【文献】特表2004-516248(JP,A)
【文献】米国特許第03577447(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
D06M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン骨格、及び
下記式:
-X-R
[式中、
Xは直接結合又は1+n価の基であって、直接結合、-O-、-C(=O)-、-C(=NR’)-、-S-、-S(=O) -、-NR’-、-C(OR’)R’-、-C(OR’)(-) 、-N(-) 、2~4価の炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、2~4価の炭化水素芳香環、及び2~4価のヘテロ環
[式中、R’は、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。]
からなる群から選択される一以上で構成される1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
nは、1以上3以下の整数である。]
で表される長鎖炭化水素含有基を一以上有し、
少なくとも一の前記長鎖炭化水素含有基が、前記アミン骨格の有する窒素原子に結合している、撥液性化合物を含む、紙用の撥剤であって、
前記撥液性化合物が、
下記式:
N(-X-Rn)p(-H)q-L1-[N(-X-Rn)r(-H)s-L1-]t-N(-X-Rn)p(-H)q
[式中、
Xは、各出現において独立して、直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
1は、各出現において独立して、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の二価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、
nは、各出現において独立して、1以上3以下の整数である
pは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、
qは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、
p+qは、各N(-X-Rn)p(-H)qにおいて、2であり、
rは、各出現において独立して、0又は1であり、
sは、各出現において独立して、0又は1であり、
r+sは、各N(-X-Rn)r(-H)sにおいて、1であり、
全てのpと全てのrとの合計は1以上であり、
tは0以上10以下の整数である。]
で表される化合物、又は
下記式:
N(-X-Rn)p(-H)q-L(-X-Rn)u
[式中、
Xは、各出現において独立して、直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
は、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の1+u価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、
nは、各出現において独立して、1以上3以下の整数である
pは、0以上2以下の整数であり、
qは、0以上2以下の整数であり、
p+qは、2であり、
uは1以上3以下の整数であり、
pとuとの合計は1以上である。]
で表される化合物であり、
前記撥剤は、フッ素化合物を含まない、撥剤。
【請求項2】
前記アミン骨格は、1~3価のアミノ基と、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、鎖状飽和脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基と、から構成されている、請求項1に記載の撥剤。
【請求項3】
前記アミン骨格中の炭素原子と窒素原子のモル比(C/N比)が8以下である、請求項1に記載の撥剤。
【請求項4】
前記撥液性化合物が、
下記式:
[式中、
Rは置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基である。]
で表される化合物、又は
下記式:
[式中、
Rは置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基である。]
で表される化合物
である、請求項1に記載の撥剤。
【請求項5】
Rの炭素数が12以上である、請求項1に記載の撥剤。
【請求項6】
前記2~4価の炭素数1~10の脂肪族炭化水素基の炭素数が5以下である、請求項1に記載の撥剤。
【請求項7】
前記撥液性化合物の融点が40℃以上である、又は融点が存在しない、請求項1に記載の撥剤。
【請求項8】
前記撥液性化合物のn-ヘキサデカン接触角が10°以上である、請求項1に記載の撥剤。
【請求項9】
撥液性化合物のバイオベース度が30%以上である、請求項1に記載の撥剤。
【請求項10】
動的光散乱法又はレーザー回折散乱法により測定される100μm以上の粒子の体積存在比率が25%以下である、請求項1に記載の撥剤。
【請求項11】
水分散液である、請求項1に記載の撥剤。
【請求項12】
界面活性剤、シリコーン、ワックス、有機酸、及び硬化剤からなる群から選択される一以上を含む、請求項11に記載の撥剤。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の撥剤における前記撥液性化合物が付着した、耐油紙又は撥水紙。
【請求項14】
食品包装材又は食品容器である、請求項13に記載の耐油紙又は撥水紙。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の撥剤で紙を外添処理または内添処理する工程を含む、耐油紙又は撥水紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は撥剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種基材に撥水性や撥油性等を付与できる材料や方法の研究が進められている。特許文献1は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンオイルに由来する構成単位とを含有する非フッ素系アクリルポリマーを用いることで、繊維基材に撥水性を付与できることを開示している。特許文献1に記載の発明において、非フッ素系アクリルポリマーが必須成分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-199712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基材(例えば、繊維、紙)に撥液性を付与できる新規な撥剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は以下の態様を含む:
[項1]
アミン骨格、及び
下記式:
-X-R
[式中、
Xは直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
nは、1以上3以下の整数である。]
で表される長鎖炭化水素含有基を一以上有し、
少なくとも一の前記長鎖炭化水素含有基が、前記アミン骨格の有する窒素原子に結合している、撥液性化合物を含む、撥剤。
[項2]
前記アミン骨格は、1~3価のアミノ基と、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、鎖状飽和脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基と、から構成されている、項1に記載の撥剤。
[項3]
前記アミン骨格中の炭素原子と窒素原子のモル比(C/N比)が8以下である、項1又は2に記載の撥剤。
[項4]
前記撥液性化合物が、
下記式:
N(-X-Rn)p(-H)q-L1-[N(-X-Rn)r(-H)s-L1-]t-N(-X-Rn)p(-H)q
[式中、
Xは、各出現において独立して、直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
1は、各出現において独立して、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の二価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、
nは、各出現において独立して、1以上3以下の整数であり、
pは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、
qは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、
p+qは、各N(-X-Rn)p(-H)qにおいて、2であり、
rは、各出現において独立して、0又は1であり、
sは、各出現において独立して、0又は1であり、
r+sは、各N(-X-Rn)r(-H)sにおいて、1であり、
全てのpと全てのrとの合計は1以上であり、
tは0以上10以下の整数である。]
で表される化合物、又は
下記式:
N(-X-Rn)p(-H)q-L(-X-Rn)u
[式中、
Xは、各出現において独立して、直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
は、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の1+u価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、
nは、各出現において独立して、1以上3以下の整数であり、
pは、0以上2以下の整数であり、
qは、0以上2以下の整数であり、
p+qは、2であり、
uは1以上3以下の整数であり、
pとuとの合計は1以上である。]
で表される化合物である、項1~3のいずれか一項に記載の撥剤。
[項5]
Rの炭素数が12以上である、項1~4のいずれか一項に記載の撥剤。
[項6]
Xは、直接結合、-O-、-C(=O)-、-C(=NR’)-、-S-、-S(=O)-、-NR’-、-C(OR’)R’-、-C(OR’)(-)、-N(-)、2~4価の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、2~4価の炭化水素芳香環、及び2~4価のヘテロ環
[式中、R’は、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。]
からなる群から選択される一以上で構成される1+n価の基である、項1~5のいずれか一項に記載の撥剤。
[項7]
前記撥液性化合物の融点が40℃以上である、又は融点が存在しない、項1~6のいずれか一項に記載の撥剤。
[項8]
前記撥液性化合物のn-ヘキサデカン接触角が10°以上である、項1~7のいずれか一項に記載の撥剤。
[項9]
撥液性化合物のバイオベース度が30%以上である、項1~8のいずれか一項に記載の撥剤。
[項10]
動的光散乱法又はレーザー回折散乱法により測定される100μm以上の粒子の体積存在比率が25%以下である、項1~9のいずれか一項に記載の撥剤。
[項11]
水分散液である、項1~10のいずれか一項に記載の撥剤。
[項12]
界面活性剤、シリコーン、ワックス、有機酸、及び硬化剤からなる群から選択される一以上を含む、項11に記載の撥剤。
[項13]
紙用である、項1~12のいずれか一項に記載の撥剤。
[項14]
フッ素化合物を含まない、項1~13のいずれか一項に記載の撥剤。
[項15]
項1~14のいずれか一項に記載の撥剤における前記撥液性化合物が付着した、繊維製品。
[項16]
項1~14のいずれか一項に記載の撥剤における前記撥液性化合物が付着した、耐油紙又は撥水紙。
[項17]
項1~14のいずれか一項に記載の撥剤における前記撥液性化合物が付着した、ガラス。
[項18]
食品包装材又は食品容器である、項16に記載の耐油紙又は撥水紙。
[項19]
項1~14のいずれか一項に記載の撥剤で紙を外添処理または内添処理する工程を含む、耐油紙又は撥水紙の製造方法。
[項20]
下記式:
N(-X-Rn)p(-H)q-L1-[N(-X-Rn)r(-H)s-L1-]t-N(-X-Rn)p(-H)q
[式中、
Xは、各出現において独立して、直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
1は、各出現において独立して、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の二価の脂肪族炭化水素基であり、
nは、各出現において独立して、1以上3以下の整数であり、
pは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、
qは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、
p+qは、各N(-X-Rn)p(-H)qにおいて、2であり、
rは、各出現において独立して、0又は1であり、
sは、各出現において独立して、0又は1であり、
r+sは、各N(-X-Rn)r(-H)sにおいて、1であり、
全てのpと全てのrとの合計は1以上であり、
tは2以上10以下の整数である。]
で表される化合物、又は
下記式:
N(-X-Rn)p(-H)q-L(-X-Rn)u
[式中、
Xは、各出現において独立して、直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
は、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の1+u価の脂肪族炭化水素基であり、
nは、各出現において独立して、1以上3以下の整数であり、
pは、0以上2以下の整数であり、
qは、0以上2以下の整数であり、
p+qは、2であり、
uは1以上3以下の整数であり、
pとuとの合計は1以上である。]
で表される化合物。
[項21]
下記式:
[式中、
Rは置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基である。]
で表される化合物。
[項22]
下記式:
[式中、
Rは置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基である。]
で表される化合物。
【発明の効果】
【0006】
本開示の撥剤は、基材(例えば、繊維、紙)に撥液性を付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<用語の定義>
本明細書において用いられる場合、「n価の基」とは、n個の結合手を有する基、すなわちn個の結合を形成する基を意味する。また、「n価の有機基」とは、炭素を含有するn価の基を意味する。かかる有機基としては、特に限定されないが、炭化水素基又はその誘導体であり得る。炭化水素基の誘導体とは、炭化水素基の末端又は分子鎖中に、1つ又はそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有している基を意味する。
【0008】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素及び水素を含む基であって、炭化水素から水素原子を脱離させた基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、C1-20炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状又は環状のいずれであってもよく、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。環状基は鎖状の構造を含んでいてもよい。炭化水素基は、1つ又はそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0009】
本明細書において、「各出現において独立して」、「互いにそれぞれ独立して」、「それぞれ独立して」又はこれと同様の表現が明示的に記載されているか否かに関わらず、例外である旨の記載がある場合を除き、化学構造中に複数出現し得る用語(記号)が定義される場合、各出現に独立して当該定義が適用される。
【0010】
本明細書において説明される化学構造は、当業者によって化学的に不可能または極めて不安定であると認識される化学構造を包含しないように理解されるべきである。
【0011】
<撥剤>
本開示における撥剤は基材(例えば、繊維基材、紙基材、ガラス、例えば、布帛、紙等)に撥液性を付与するものである。本開示における撥剤は、撥水剤、撥油剤、耐油剤、及び耐水剤からなる群から選択される少なくとも一としても機能し得る。例えば、本開示の撥剤は、紙製品用添加剤としても有用であり、撥剤を添加したパルプ組成物から得られる紙製品は、その性能(例えば、耐水性、耐油性、紙力等)が向上し得る。
【0012】
本開示の撥剤における有効成分である撥液性化合物はその構造上、液状媒体への分散性に優れ、本開示の撥剤は性能が安定し得る。
【0013】
従来の有効成分としてポリマー型化合物を用いる撥剤の場合、分子量分布が広く、不純物成分を比較的多く含む傾向がある。一方で、本願の撥剤の有効成分は、低分子であり、分子量分布を狭く(単一化)することができ、性能が良好となり得る。
【0014】
本開示における撥剤は撥液性化合物を含む。本開示における撥剤は撥液性化合物単独であってもよい。本開示における撥剤は、撥液性化合物以外に、液状媒体等のその他成分を含んでもよい。
【0015】
本開示における撥剤は炭素数8以上のフルオロアルキル基を有する化合物、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物、炭素数4以上のフルオロアルキル基を有する化合物、炭素数4以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物、パーフルオロアルキル基を有する化合物、フルオロアルキル基を有する化合物、及びフッ素原子を有する化合物からなる群から選択されるいずれかを有しなくてもよい。本開示における撥剤は、これらのフッ素化合物を含まなくても、基材に撥液性を付与し得る。
【0016】
本開示の撥剤における動的光散乱法又はレーザー回折散乱法による測定される100μm以上の粒子の体積存在比率は25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、又は1.5%以下であってよく、好ましくは15%以下、又は5%以下である。100μm以上の粒子の体積存在比率が上記範囲にあることが被覆性の観点から好ましい。動的光散乱法又はレーザー回折散乱法による測定される100μm以上の粒子の体積存在比率を25%以下とする方法は限定されないが、例えば、粉砕機やホモジナイザー等を用いて、原料及び/又は分散液中の粒子を微細化すればよい。
【0017】
本開示の撥剤における動的光散乱法又はレーザー回折散乱法による測定される体積メジアン径は、10nm以上、30nm以上、50nm以上、100nm以上であってよく、好ましくは150nm以上、又は200nm以上であってよく、また、100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下であってよく、好ましくは30μm以下、又は25μm以下である。本開示において体積メジアン径とは、動的光散乱法又はレーザー回折錯乱法による体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)を指す。
【0018】
本開示における撥剤は好適には液状媒体とともに分散液(特に水分散液)として利用し得る。
【0019】
〔撥液性化合物〕
本開示における撥液性化合物は、基材に付着して、基材に撥液性を付与し得るものである。
【0020】
撥液性化合物のHD(n-ヘキサデカン)接触角は10°以上、15°以上、25°以上、35°以上、55°以上、55°以上、又は65°以上であってよく、また、100°以下、90°以下、又は75°以下であってよい。撥液性化合物が上記の下限以上のHD接触角を有することにより、基材に良好に撥液性(特に撥油性)を付与し得る。HD接触角とは、実施例に示すように撥液性化合物のスピンコート膜に対する静的接触角であって、スピンコート膜上に、2μLのHDを滴下し、着滴1秒後の接触角を測定して得られるものをいう。
【0021】
撥液性化合物の水接触角は35°以上、40°以上、45°以上、50°以上、55°以上、65°以上、75°以上、85°以上、90°以上、又は100°以上であってよく、また、160°以下、140°以下、130°以下、120°以下、110°以下、100°以下、又は90°以下であってよい。撥液性化合物が上記の下限以上の水接触角を有することにより、基材に良好に撥液性(特に撥水性)を付与し得る。水接触角とは、実施例に示すように撥液性化合物のスピンコート膜に対する静的接触角であって、スピンコート膜上に、2μLの水を滴下し、着滴1秒後の接触角を測定して得られるものをいう。
【0022】
撥液性化合物は、バイオベース起源の炭素を有する化合物であることが好ましい。バイオベース度は、ASTM D6866に準拠して測定される。バイオベース度は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上または90%以上、例えば100%である。バイオベース度が高いことは、石油等に代表される化石資源系材料の使用量が少ないことを意味しており、かかる観点において、撥液性化合物のバイオベース度は高いほど好ましいといえる。
【0023】
撥液性化合物の融点は30℃以上、40℃以上、60℃以上、80℃以上、100℃以上、又は120℃以上であってよく、好ましくは40℃以上であり、また、200℃以下、150℃以下、130℃以下、120℃以下、110℃以下、100℃以下、80℃以下、又は50℃以下であってよい。撥液性化合物は融点が存在しなくてもよい。
【0024】
撥液性化合物の180日時点の生分解性は、好ましくは5%以上の生分解性を有する。環境負荷が小さくなることから、かかる生分解性は高いほど好ましい。撥液性化合物の180日時点の生分解性は、例えば10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上であってもよく、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上であり得る。撥液性化合物の60日時点の生分解性は、好ましくは5%以上の生分解性を有する。環境負荷が小さくなることから、かかる生分解性は高いほど好ましい。撥液性化合物の60日時点の生分解性は、例えば10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、または45%以上であってもよく、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以であり得る。かかる生分解性は、JIS K 6953-1またはASTM D6400に規定される生分解性であり得る。
【0025】
撥液性化合物の分子量は200以上、300以上、350以上、400以上、500以上、550以上、又は750以上であってよく、また、3000以下、2500以下、2000以下、1500以下、1000以下、900以下、800以下、750以下、又は500以下であってよい。
【0026】
本開示における撥液性化合物は炭素数8以上のフルオロアルキル基、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基、炭素数4以上のフルオロアルキル基、炭素数4以上のパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、フルオロアルキル基、及びフッ素原子からなる群から選択されるいずれかを有しなくてもよい。撥液性化合物がこれらのフッ素含有基を含まなくても、基材に撥液性を付与し得る。
【0027】
本開示における撥液性化合物は活性水素含有基を有しなくてもよい。活性水素基含有基の例としてはアミノ基(カルボニル基に隣接しないアミノ基、例えば第一級又は第二級アミノ基)、ヒドロキシ基、及びカルボキシル基が挙げられる。特に本開示における撥液性化合物はカルボニル基に隣接しない第一級又は第二級アミノ基を有しなくてもよい。
【0028】
撥液性化合物は
アミン骨格、及び
下記式:
-X-R
[式中、
Xは直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
nは1以上3以下の整数である。]
で表される長鎖炭化水素含有基を一以上有し、
少なくとも一の前記長鎖炭化水素含有基が、前記アミン骨格の有する窒素原子に結合している。
【0029】
[アミン骨格]
本開示における撥液性化合物は、アミン骨格を有する。アミン骨格とは、アミン化合物から所定の数の原子又は原子団(例えば水素)を取り除いて得られる、所定の数の結合手(価数)を有する一以上のアミノ基を有する。アミン骨格中のアミノ基には、-NH、-NH-、及び-N(-)からなる群から選択される基を意味し、アミド基、ウレタン基、ウレア基、イミド等に含まれるカルボニル基に隣接するアミノ基も含むものとする。なお、アミン骨格は、一以上のアミノ基を有する脂肪族基又は芳香族基であればよく、窒素以外のヘテロ原子の存在を除外するものではない。
【0030】
アミン骨格の分子量は30以上、50以上、100以上、200以上、300以上、400以上、又は500以上であってよく、また、2800以下、2500以下、2000以下、1500以下、1000以下、750以下、600以下、450以下、300以下、又は250以下であってよい。
【0031】
アミン骨格の炭素数は、1以上、2以上、3以上、4以上、6以上、8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、又は18以上であってよく、また、100以下、80以下、60以下、40以下、30以下、20以下、10以下、又は5以下であってよく、好ましくは50以下、特に30以下である。
【0032】
アミン骨格はアミノ基を一以上有する。アミノ基は1~3価のアミノ基であって、-NH、-NH-、及び-N(-)からなる群から選択される一以上の基である。アミン骨格が有するアミノ基の数は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6以上であってよく、好ましくは2以上であり、また、12以下、10以下、8以下、6以下、4以下、3以下、2以下、又は1であってよい。
【0033】
アミン骨格は炭化水素基(脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基)を有する。炭化水素基は、環状、分岐鎖状、又は直鎖状であってよい。炭化水素基は、飽和又は不飽和(例えば飽和)であってよい。ここで、炭化水素基は酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよいし、炭素原子、窒素原子、及び水素原子のみからなってもよい。炭化水素基は酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい炭化水素基(例えば鎖状飽和脂肪族炭化水素基や1~2個の炭化水素芳香環を有する芳香族炭化水素基)であってもよいし、一般的な炭化水素基(例えば鎖状飽和脂肪族炭化水素基や1~2個の炭化水素芳香環を有する芳香族炭化水素基)であってもよい。炭化水素基は酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されている場合、エーテル、チオエーテル、ポリエーテル、又はポリチオエーテル構造を有することとなる。アミン骨格が有する炭化水素基の数は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6以上であってよく、また、12以下、10以下、8以下、6以下、4以下、3以下、2以下、又は1であってよい。
【0034】
アミン骨格は、1~3価のアミノ基と、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、鎖状飽和脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基とから構成されていてよい。
【0035】
アミン骨格中の炭素原子と窒素原子のモル比(C/N比)は、1以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、又は4以上であってよく、また、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3.5以下、3以下、2.5以下、又は2以下であってよく、好ましくは6以下又は4以下である。
【0036】
(原料アミン化合物)
アミン骨格の前駆体である原料アミン化合物の例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン等のアルキルアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチレンビスシクロヘキシルアミン等のアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリス (2―アミノエチル) アミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、 トリス (2―アミノプロピル) アミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミン、イミノビスプロピルアミン、ジブチレントリアミン、ビス(2-アミノエトキシ)エタン、ビス(2―アミノエチル) エーテル、ビス [2―(2―アミノエトキシ)エチル] エーテル、ビス[2―(3―アミノプロトキシ)エチル] エーテル、スペルミン、スペルミジン等のポリアルキレンポリアミン;1-アミノプロパンジオール、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等の酸素又は硫黄含有脂肪族アミン;アニリン、1-又は2-ナフチルアミン、1-、2-、又は9-アミノアントラセン、9-アミノフェナントラセン、2-、3-又は4-アミノビフェニル等の芳香族モノアミン等;o-、m-又はp-フェニレンジアミン、o-、m-又はp-キシリレンジアミン、ジアミノトルエン、2,3-、2,4-又は2,5-トリレンジアミン等の単環式芳香族ポリアミン;ジアミノビフェニル、ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、 ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルフィド、 ジアミノジフェニルスルホン、 ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジフェニルメタン、 ジアミノフェニルプロパン、 ジアミノフェニルヘキサフルオロプロパン、 ジアミノフェニルフェニルエタン、ビスアミノフェノキシベンゼン、ビスアミノベンゾイルベンゼン、ビスアミノジメチルベンジルベンゼン、アミノフェノキシビフェニル、アミノフェノキシフェニルケトン、ビスアミノジトリフルオロメチルベンジルベンゼン、アミノフェノキシフェニルスルホン、アミノフェノキシフェニルエーテル、アミノフェノキシフェニルプロパン、ビス(アミノフェノキシベンゾイル) ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ-α, a-ジメチルベンジル) ベンゼン、ビス[(アミノアリールオキシ) ベンゾイル] ジフェニルエーテル、ビス (アミノ- α, α - ジメチルベンジルフェノキシ) ベンゾフェノン、アミノフェノキシフェニルスルフィド、ビス [アミノ-α, α-ジメチルベンジルフェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4'-ビス[アミノフェノキシフェノキシ] ジフェニルスルホン、ジアミノジアリールオキシベンゾフェノン、 ジアミノアリールオキシベンゾフェノン、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノトリフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンビスアニリン、4,4’-オキシジアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ビス(アミノフェニル)アミン等の多環式芳香族ポリアミン;2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド等の酸素又は硫黄含有多環式芳香族ポリアミン等、;2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、 2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、 ジー2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジー2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、 2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジー2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基含有ポリアミンが挙げられる。
【0037】
[長鎖炭化水素含有基]
本開示における撥液性化合物は、下記式:
-X-R
[式中、
Xは直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
nは、1以上3以下の整数である。]
で表される長鎖炭化水素含有基を一以上有する。
【0038】
撥液性化合物が有する長鎖炭化水素含有基の数は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6以上であってよく、好ましくは2以上であり、また、12以下、10以下、8以下、6以下、4以下、3以下、2以下、又は1であってよい。
【0039】
撥液性化合物における少なくとも一の長鎖炭化水素含有基が、アミン骨格の有する窒素原子に結合している。撥液性化合物における全ての長鎖炭化水素含有基の数のうち、アミン骨格の有する窒素原子に結合している長鎖炭化水素含有基の数の割合は、10%以上、30%以上、60%以上、80%以上、又は100%であってよく、また、75%以下、50%以下、又は25%以下であってよい。アミン骨格の有する窒素原子に結合していない長鎖炭化水素含有基は、アミン骨格の有するその他の基(例えば炭化水素基)に結合する。
【0040】
(X)
Xは直接結合又は1+n価の基であり、好ましくは1+n価の基である。Xは、アミン骨格とn個のRとを繋ぐリンカーとして機能する。
【0041】
nは、Xと結合するRの数であり、1以上3以下の整数であってよい。nは1以上、2以上、又は3以上であってよく、また、3以下、2以下、又は1以下であってよく、例えば2以下である。
【0042】
Xは脂肪族基(不飽和脂肪族基又は飽和脂肪族基)又は芳香族基であってよい。
【0043】
Xの分子量は10以上、50以上、100以上、200以上、300以上、500以上、又は750以上であってよく、また、2000以下、1500以下、1000以下、750以下、500以下、又は300以下であってよい。
【0044】
Xはカルボニル基を有していてよい。Xは、アミド基、ウレア基、ウレタン基、及びイミドからなる群から選択される一以上を有してもよく、又は、Xは、アミン骨格中のアミノ基と共に、アミド基、ウレア基、ウレタン基、及びイミドからなる群から選択される一以上を形成してもよい。そのようなアミド基、ウレア基、ウレタン基、及びイミドの例としては、
-O-C(=O)-NR’-、
-NR’-C(=O)-、
-NR’-C(=O)-O-、
-NR’-C(=O)-NR’-
-C(=O)-NR’-
-C(=O)-NR’-C(=O)-
-NR’-S(=O)
[式中、R’は、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。]
が挙げられる。Xは好ましくは、-(C=O)-基を介してアミン骨格における窒素原子と結合する。
【0045】
Xは、直接結合、-O-、-C(=O)-、-C(=NR’)-、-S-、-S(=O)-、-NR’-、-C(OR’)R’-、-C(OR’)(-)、-N(-)、2~4価の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、2~4価の炭化水素芳香環、及び2~4価のヘテロ環
[式中、R’は、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。]
からなる群から選択される一以上から構成される1+n価の基であってよい。
【0046】
Xは、
直接結合、-O-、-C(=O)-、-C(=NR’)-、-S-、-S(=O)-、-NR’-、-C(OR’)R’-、及び-C(OR’)(-)、-N(-)(式中、R’は、各出現において独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。)からなる群から選択される一以上から構成されるXと、
2~4価の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、2~4価の炭化水素芳香環、及び2~4価のヘテロ環からなる群から選択される一以上から構成されるXと、
からなる群から選択される一以上から構成される1+n価の基であってよい。なお、本明細書において、Xとして記載している基は、左側がアミン骨格、右側がRに結合する。
【0047】
・X
は非炭化水素のリンカーである。
【0048】
は、直接結合若しくは二価以上の基である。Xの価数は2~4、2~3、又は2であってよい。Xは直接結合のみでないことが好ましい。
【0049】
の分子量は10以上、50以上、100以上、200以上、300以上、又は500以上であってよく、また、2000以下、1500以下、1000以下、750以下、又は500以下であってよい。
【0050】
は、直接結合、-O-、-C(=O)-、-C(=NR’)-、-S-、-S(=O)-、-NR’-、-C(OR’)R’-、-C(OR’)(-)、-N(-)(式中、R’は、各出現において独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。)からなる群から選択される一以上から構成される。Xの例としては、
直接結合、
-O-、
-O-C(=O)-、
-O-C(=O)-O-、
-O-C(=O)-NR’-、
-NR’-、
-NR’-C(=O)-、
-NR’-C(=O)-O-、
-NR’-C(=O)-NR’-、
-C(=O)-、
-C(=O)-O-、
-C(=O)-NR’-、
-C(=O)-NR’-C(=O)-、
-C(=NR’)-、
-S-、
-SO-、
-SONR’-、
-C(OR’)R’-、
-C(OR’)(-)
-N(-)
[式中、R’は、各出現において独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。]
が挙げられる。なお、Xがアミン骨格の有する窒素原子に結合している場合、当該窒素原子はアミン骨格の一部(アミノ基)とみなす。
【0051】
・X
は炭化水素又は芳香族のリンカーである。
【0052】
は炭化水素基又は非炭化水素基(ヘテロ原子を含む)であってよい。Xは脂肪族又は芳香族であってよく、好ましくは脂肪族である。Xは直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよい。Xは好ましくは鎖状である。
【0053】
は、二価以上の基である。Xの価数は例えば、2~4、2~3、又は2であってよい。
【0054】
の炭素数は、1以上、2以上、3以上、4以上、6以上、8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、又は18以上であってよく、また、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、15以下、10以下、又は5以下であってよい。
【0055】
は、2~4価の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、2~4価の炭化水素芳香環、及び2~4価のヘテロ環からなる群から選択される一以上から構成される。
【0056】
2~4価の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、環状、分岐鎖状、又は直鎖状の炭化水素基であってよく、好ましくは鎖状炭化水素基(特に直鎖状炭化水素基)である。2~4価の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和(例えば飽和)の脂肪族炭化水素基であってよい。炭素数1~20の脂肪族炭化水素基の炭素数は1以上、2以上、3以上、4以上、6以上、8以上、又は10以上であってよく、また、15以下、10以下、又は5以下であってよい。
【0057】
2~4価の炭化水素芳香環の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン(ナフタセン)、ペンタセン、ピレン、及びコロネン等の炭化水素芳香環から2~4個の水素を取り除いた基が挙げられる。炭化水素芳香環の環構成原子数は3~20、4~16、又は5~12であり、好ましくは5~12である。炭化水素芳香環は、置換基を有していてもよく、その置換基の例としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、-N(R’)(式中、R’は、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又はハロゲン原子等が挙げられる。炭化水素芳香環の価数は2以上、3以上、又は4であってよく、また、4以下、3以下、又は2であってよい。
【0058】
2~4価のヘテロ環は、脂肪族基又は芳香族基であってよい。2~4価のヘテロ環の例としては、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、キノキサリン、ピロール、インドール、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、ベンズオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、チアゾリン等から2~4個の水素を取り除いた基が挙げられる。ヘテロ環の環構成原子数は3~20、4~16、又は5~12であり、好ましくは5~12である。ヘテロ環は、置換基を有していてもよく、その置換基の例としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、-N(R’)(式中、R’は、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又はハロゲン原子等が挙げられる。ヘテロ環の価数は2以上、3以上、又は4であってよく、また、4以下、3以下、又は2であってよい。
【0059】
の例としては、
-Ali-
-Cy-
-Ali(-)
-Cy(-)
-Ali-Cy-
-Cy-Ali-
-Cy-Ali-Cy-
-Ali-Cy-Ali-
[式中、Aliは炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であり、Cyは炭化水素芳香環またはヘテロ環である。]
等が挙げられる。
【0060】
の具体例としては、
-(CH-(pは1~20、例えば1~10である)、
炭素数1~40、例えば1~10の不飽和結合を有する直鎖状の炭化水素基、
炭素数1~40、例えば1~10の枝分かれ構造を有する炭化水素基、
-(CH-Cy-(CH-(q及びrはそれぞれ独立して0~20、例えば1~10であり、Cyは炭化水素芳香環またはヘテロ環である)
等が挙げられる。
【0061】
・Xの例
Xの例を説明する。なお、下記において、R’は、各出現において独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。
【0062】
Xの例としては、Xが二価の場合、-X-、-X-X-、-X-X-X-、-X-X-X-X-、-X-、-X-X-、-X-X-X-、-X-X-X-X-、等が挙げられる。
【0063】
Xの例としては、Xが三価の場合、-X(-)、-X-X(-)、-X-(X-)、-X-X-X(-)、-X-X(-X-)、-X-(X-X-)、-X-X-X-X(-)、-X-X-X-(X-)2、-X-X-(X-X-)2、-X-(X-X-X-)
-X(-)、-X-X(-)、-X-(X-)、-X-X-X(-)、-X-X(-X-)、-X-(X-X-)、-X-X-X-X(-)、-X-X-X-(X-)2、-X-X-(X-X-)2、-X-(X-X-X-)等が挙げられる。
【0064】
Xの例としては、Xが4価の場合、-X(-)、-X-X(-)、-X-(X-)、-X-X-X(-)、-X-X(-X-)、-X-(X-X-)、-X-X-X-X(-)、-X-X-X-(X-)3、-X-X-(X-X-)3、-X-(X-X-X-)
-X(-)、-X-X(-)、-X-(X-)、-X-X-X(-)、-X-X(-X-)、-X-(X-X-)、-X-X-X-X(-)、-X-X-X-(X-)3、-X-X-(X-X-)3、-X-(X-X-X-);等が挙げられる。
【0065】
Xの好ましい例としては
-X-、-X-X-、-X-X-X-、-X-X(-)
-X-、-X-X-、-X-X-X-、-X-X(-)
等が挙げられる。撥液性化合物中、一以上のXが、アミン骨格側末端が-(C=O)-であって、かつ、アミン骨格における窒素原子と結合することが好ましい。
【0066】
Xは好ましくは、
-X-、-X-X-、-X-X-X-、-X-X(-)
-X-、-X-X-、-X-X-X-、-X-X(-)
[式中、
が、各出現において独立して、
直接結合、
-O-、
-O-C(=O)-、
-O-C(=O)-O-、
-O-C(=O)-NR’-、
-NR’-、
-NR’-C(=O)-、
-NR’-C(=O)-O-、
-NR’-C(=O)-NR’-、
-C(=O)-、
-C(=O)-O-、又は
-C(=O)-NR’-
-C(=O)-NR’-C(=O)-
(式中、R’は、各出現において独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。)
であり、
が炭素数1~10の2~4価の脂肪族炭化水素基、又は2価の芳香族基(例えば2価のフェニル基、2価のトリアゾール基)である。]
で表される基である。これにより、基材に良好に撥液性を付与し得る。
【0067】
Xのさらなる具体例としては、
*-(C=O)-
-O-(C=O)-NR’-
[式中、*はアミン骨格の窒素原子と結合していることを意味し、
R’は、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である。]
等が挙げられる。
【0068】
(R)
Rは、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基である。Rは、分岐鎖状又は直鎖状であり、より好ましくは直鎖状である。Rは、飽和又は不飽和であってよい。Rは、飽和の脂肪族炭化水素基(アルキル基)又は1~5価(例えば1価)の不飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0069】
Rの炭素数は、6以上、8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、又は18以上であってよく、好ましくは10以上、より好ましくは12以上であり、また、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、15以下、又は10以下であってよく、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。
【0070】
不飽和脂肪族炭化水素基の価数は、5価以下、4価以下、3価以下、2価以下、又は1価であってよい。
【0071】
炭化水素基は置換基を有してもよいが、無置換であることが好ましい。置換基の例としては、-OR’、-N(R’)、-COOR’、及びハロゲン原子等(式中、R’は、各出現において独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である)が挙げられ。置換基は活性水素を有してもよいし、有していなくてもよい。置換基の数は、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、1個以下、又は0であってよい。置換基を有する炭化水素基において、炭素原子及びヘテロ原子の量に対する炭素原子の量が70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、95mol%以上、又は99mol%以上であってよく、好ましくは75mol%以上であり、また、95mol%以下、90mol%以下、85mol%以下、又は80mol%以下であってよい。例えば、炭化水素基は、置換基として1~3個(例えば1個)の-OR’(特に-OH)を(例えば末端以外において)有していてもよい。
【0072】
[撥液性化合物の例]
(撥液性化合物例1)
撥液性化合物の例として、下記式:
N(-X-Rn)p(-H)q-L1-[N(-X-Rn)r(-H)s-L1-]t-N(-X-Rn)p(-H)q
[式中、
Xは、各出現において独立して、直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
1は、各出現において独立して、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の二価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、
nは、各出現において独立して、1以上3以下の整数である
pは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、
qは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、
p+qは、各N(-X-Rn)p(-H)qにおいて、2であり、
rは、各出現において独立して、0又は1であり、
sは、各出現において独立して、0又は1であり、
r+sは、各N(-X-Rn)r(-H)sにおいて、1であり、
全てのpと全てのrとの合計は1以上であり、
tは0以上10以下の整数である。]
で表される化合物(撥液性化合物例1)が挙げられる。
【0073】
撥液性化合物例1において、X、R、及びnの詳細については上述の説明を援用する。
【0074】
撥液性化合物例1において、Lは、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の二価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、環状、分岐鎖状、又は直鎖状の炭化水素基であってよく、好ましくは鎖状炭化水素基、又は芳香族炭化水素である。Lとしては上述した[アミン骨格]の説明における炭化水素基を援用してよく、炭化水素基は酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよいし、炭素原子、窒素原子、及び水素原子のみからなってもよい。Lは、例えば、飽和又は不飽和(例えば飽和)の脂肪族炭化水素基又は1~2個の炭化水素芳香環を有する芳香族炭化水素基であってよい。Lが、環(例えば芳香環)と鎖状構造(例えば直鎖状構造、エーテル酸素、チオエーテル硫黄)を併有する環状基であることが好ましく、具体例としては、1,3-フェニレンビスアルキレン基、1,4-フェニレンビスアルキレン基、ジフェニルエーテルジイル基、ジフェニルチオエーテルジイル基等が挙げられる。Lの炭素数は2以上、3以上、4以上、6以上、8以上、10以上、又は12以上であってよく、また、20以下、18以下、16以下、14以下、12以下、10以下、8以下、6以下、4以下、又は3以下であってよい。
【0075】
撥液性化合物例1において、pは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、qは、各出現において独立して、0以上2以下の整数であり、p+qは、各N(-X-Rn)p(-H)qにおいて、2である。好ましくは、pは、各出現において独立して、1以上であってよく、例えば2である。
【0076】
撥液性化合物例1において、rは、各出現において独立して、0又は1であり、sは、各出現において独立して、0又は1であり、r+sは、各N(-X-Rn)r(-H)sにおいて、1である。好ましくは、pは、各出現において独立して、1以上であってよく、例えば2である。
【0077】
全てのpと全てのrとの合計は1以上であり、すなわち、撥液性化合物例1は一以上の-X-Rを有する。全てのpと全てのrとの合計は1以上、3以上、5以上、7以上、9以上、12以上であってよく(全てのqと全てのsとの合計が0であってもよい。)、また、14以下、12以下、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよい。
【0078】
撥液性化合物例1において、tは0以上10以下の整数である。tは0以上、1以上、2以上、4以上、又は6以上であってよく、好ましくは0以上、又は2以上であり、また、tは8以下、6以下、4以下、又は3以下であってよく、例えば0、1、又は2、例えば0又は1である。
【0079】
(撥液性化合物例2)
他の撥液性化合物の例として、下記式:
N(-X-Rn)p(-H)q-L(-X-Rn)u
[式中、
Xは、各出現において独立して、直接結合又は1+n価の基であり、
Rは、各出現において独立して、置換基を有してもよい炭素数6以上40以下の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基であり、
は、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の1+u価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、
nは、各出現において独立して、1以上3以下の整数であり、
pは、0以上2以下の整数であり、
qは、0以上2以下の整数であり、
p+qは、2であり、
uは1以上3以下の整数であり、
pとuとの合計は1以上である。]
で表される化合物(撥液性化合物例2)が挙げられる。
【0080】
撥液性化合物例2において、X、R及びnの詳細については上述の説明を援用する。
【0081】
撥液性化合物例2において、Lは、酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよい、炭素数2~20の1+u価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、環状、分岐鎖状、又は直鎖状の炭化水素基であってよく、好ましくは鎖状炭化水素基、又は芳香族炭化水素である。Lとしては上述した[アミン骨格]の説明における炭化水素基を援用してよく、炭化水素基は酸素原子及び/又は硫黄原子により分断されていてもよいし、炭素原子、窒素原子、及び水素原子のみからなってもよい。Lは、例えば、飽和又は不飽和(例えば飽和)の脂肪族炭化水素基又は1~2個の炭化水素芳香環を有する芳香族炭化水素基であってよい。Lが、環(例えば芳香環)と鎖状構造(例えば直鎖状構造、エーテル酸素、チオエーテル硫黄)を併有する環状基であることが好ましく、具体例としては、1,3-フェニレンビスアルキレン基、1,4-フェニレンビスアルキレン基、ジフェニルエーテルジイル基、ジフェニルチオエーテルジイル基等が挙げられる。Lの炭素数は2以上、3以上、4以上、6以上、8以上、10以上、又は12以上であってよく、また、20以下、18以下、16以下、14以下、12以下、10以下、8以下、6以下、4以下、又は3以下であってよい。
【0082】
撥液性化合物例2において、pは、0以上2以下の整数であり、qは、0以上2以下の整数であり、p+qは、2である。好ましくは、pは、1以上であってよく、例えば2である。
【0083】
撥液性化合物例2において、uは1以上3以下の整数である。uは1、2、又は3であって、例えば2又は3である。
【0084】
撥液性化合物例2において、pとuとの合計は1以上であり、すなわち、撥液性化合物例2は一以上の-X-Rを有する。全てのpとuとの合計は1以上、2以上、3以上、4以上、又は5以上であってよく(全てのqの合計が0であってもよい)、また、pとuとの合計は5以下、4以下、3以下、又は2以下であってよい。
【0085】
(具体例)
撥液性化合物の具体例として、下記式で表される化合物が挙げられる。下記式中、X、R、及びnの詳細については上述の説明を援用する。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
撥液性化合物は動物・植物油脂から誘導された合成ワックスであってもよい。合成ワックスは、動物・植物油脂由来の脂肪酸と脂肪族アミン又は芳香族を含むアミンとを縮合することで得てもよい。合成ワックスの例としては、ヒドロキシ脂肪酸アミド化合物、パルミチン酸アミド化合物、オクタデカン酸アミド化合物、ステアリン酸アミド化合物、アラキジン酸アミド化合物、ベヘン酸アミド化合物、リグノセリン酸アミド化合物、オレイン酸アミド化合物、リノール酸アミド化合物、α-リノレン酸アミド化合物、γ-リノレン酸アミド化合物、アラキドン酸アミド化合物、イコサペンタエン酸アミド化合物、ドコサヘキサエン酸アミド化合物等の脂肪酸アミド化合物が挙げられる。
【0094】
[撥液性化合物の製造方法]
撥液性化合物の製造方法としては、限定されないが、各種アミンに対して、必要により縮合剤存在下、R基含有カルボン酸を反応させて合成する方法、各種アミンに対してR基含有の、カルボン酸の酸クロライド、酸無水物、イソシアネート等を反応させて合成する方法等が挙げられる。縮合剤は公知の縮合剤であってよく、例えばDCC、EDCI、CDI、BOP、COMU、DMT-MM、DPPA、Py-Bop等が挙げられる。
【0095】
[撥液性化合物の量]
撥液性化合物の量は、撥剤中、0.01重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上であってよく、また、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は3重量%以下であってよい。
【0096】
〔液状媒体〕
本開示における撥剤は、液状媒体を含んでもよい。液状媒体は水、有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合物であってよい。撥剤は分散液又は溶液であってよい。
【0097】
有機溶媒の例は、エステル(例えば、炭素数2~40のエステル、具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、炭素数2~40のケトン、具体的には、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン)、アルコール(例えば、炭素数1~40のアルコール、具体的には、イソプロピルアルコール)、芳香族系溶剤(例えば、トルエン及びキシレン)、石油系溶剤(例えば、炭素数5~10のアルカン、具体的には、ナフサ、灯油)である。有機溶媒は水溶性有機溶媒であることが好ましい。水溶性有機溶媒は少なくとも一のヒドロキシ基を有している化合物(例えば、アルコール、グリコール系溶媒等の多価アルコール、多価アルコールのエーテル体(例えばモノエーテル体)等)を含んでいてもよい。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用してもよい。
【0098】
[液状媒体の量]
液状媒体の量は、撥液性化合物1重量部に対して、1重量部以上、2重量部以上、3重量部以上、4重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、20重量部以上、30重量部以上、40重量部以上、又は50重量部以上、100重量部以上、200重量部以上、300重量部以上、500重量部以上、又は1000重量部以上であってよく、また、3000重量部以下、2000重量部以下、1000重量部以下、500重量部以下、200重量部以下、175重量部以下、150重量部以下、125重量部以下、100重量部以下、80重量部以下、60重量部以下、40重量部以下、20重量部以下、又は10重量部以下であってよい。
【0099】
水の量は、撥液性化合物1重量部に対して、1重量部以上、2重量部以上、3重量部以上、4重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、20重量部以上、30重量部以上、40重量部以上、50重量部以上、100重量部以上、200重量部以上、300重量部以上、500重量部以上、又は1000重量部以上であってよく、また、3000重量部以下、2000重量部以下、1000重量部以下、500重量部以下、200重量部以下、175重量部以下、150重量部以下、125重量部以下、100重量部以下、80重量部以下、60重量部以下、40重量部以下、20重量部以下、又は10重量部以下であってよい。
【0100】
有機溶媒の量は、撥液性化合物1重量部に対して、1重量部以上、3重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、20重量部以上、30重量部以上、40重量部以上、50重量部以上、100重量部以上、200重量部以上、300重量部以上、500重量部以上、又は1000重量部以上であってよく、また、3000重量部以下、2000重量部以下、1000重量部以下、500重量部以下、200重量部以下、175重量部以下、150重量部以下、125重量部以下、100重量部以下、80重量部以下、60重量部以下、40重量部以下、20重量部以下、又は10重量部以下であってよい。
【0101】
〔界面活性剤〕
撥剤は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤から選択された一種以上の界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は非フッ素であってもよい。
【0102】
[ノニオン性界面活性剤]
ノニオン性界面活性剤の例としては、エーテル、エステル、エステルエーテル、アルカノールアミド、多価アルコール及びアミンオキシドが挙げられる。
【0103】
エーテルの例は、オキシアルキレン基(好ましくは、ポリオキシエチレン基)を有する化合物である。
【0104】
エステルの例は、アルコールと脂肪酸のエステルである。アルコールの例は、1~6価(特に2~5価)の炭素数1~50(特に炭素数10~30)のアルコール(例えば、脂肪族アルコール)である。脂肪酸の例は、炭素数2~50、特に炭素数5~30の飽和又は不飽和の脂肪酸である。
【0105】
エステルエーテルの例は、アルコールと脂肪酸のエステルに、アルキレンオキシド(特にエチレンオキシド)を付加した化合物である。アルコールの例は、1~6価(特に2~5価)の炭素数1~50(特に炭素数3~30)のアルコール(例えば、脂肪族アルコール)である。脂肪酸の例は、炭素数2~50、特に炭素数5~30の飽和又は不飽和の脂肪酸である。
【0106】
アルカノールアミドの例は、脂肪酸とアルカノールアミンから形成されている。アルカノールアミドは、モノアルカノールアミド又はジアルカノールアミノであってよい。脂肪酸の例は、炭素数2~50、特に炭素数5~30の飽和又は不飽和の脂肪酸である。アルカノールアミンは、1~3のアミノ基及び1~5ヒドロキシル基を有する炭素数2~50、特に5~30のアルカノールであってよい。
【0107】
多価アルコールは、2~5価の炭素数10~30のアルコールであってよい。
アミンオキシドは、アミン(二級アミン又は好ましくは三級アミン)の酸化物(例えば炭素数5~50)であってよい。
【0108】
ノニオン性界面活性剤は、オキシアルキレン基(好ましくはポリオキシエチレン基)を有するノニオン性界面活性剤であることが好ましい。オキシアルキレン基におけるアルキレン基の炭素数は、2~10であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤の分子におけるオキシアルキレン基の数は、一般に、2~100であることが好ましい。
ノニオン性界面活性剤は、エーテル、エステル、エステルエーテル、アルカノールアミド、多価アルコール及びアミンオキシドからなる群から選択されており、オキシアルキレン基を有するノニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0109】
ノニオン性界面活性剤は、直鎖状及び/又は分岐状の脂肪族(飽和及び/又は不飽和)基のアルキレンオキシド付加物、直鎖状及び/又は分岐状脂肪酸(飽和及び/又は不飽和)のポリアルキレングリコールエステル、直鎖状及び/又は分岐状脂肪酸(飽和及び/又は不飽和)のソルビタンエステル、直鎖状及び/又は分岐状脂肪酸(飽和及び/又は不飽和)のグリセリンエステル、直鎖状及び/又は分岐状脂肪酸(飽和及び/又は不飽和)のポリグリセリンエステル、直鎖状及び/又は分岐状脂肪酸(飽和及び/又は不飽和)のショ糖エステル、ポリオキシエチレン(POE)/ポリオキシプロピレン(POP)共重合体(ランダム共重合体又はブロック共重合体)、アセチレングリコールのアルキレンオキシド付加物等であってよい。これらの中で、アルキレンオキシド付加部分及びポリアルキレングリコール部分の構造がポリオキシエチレン(POE)又はポリオキシプロピレン(POP)又はPOE/POP共重合体(ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってよい)であるものが好ましい。
また、ノニオン性界面活性剤は、環境上の問題(生分解性、環境ホルモン等)から芳香族基を含まない構造が好ましい。
【0110】
ノニオン性界面活性剤は、式:
1O-(CHCHO)p-(R2O)q-R3
[式中、R1は炭素数1~22のアルキル基又は炭素数2~22のアルケニル基又はアシル基であり、
2のそれぞれは、独立的に同一又は異なって、炭素数3以上(例えば、3~10)のアルキレン基であり、
3は水素原子、炭素数1~22のアルキル基又は炭素数2~22のアルケニル基であり、
pは2以上の数であり、
qは0又は1以上の数である。]
で示される化合物であってよい。
【0111】
1は、炭素数8~20、特に10~18であることが好ましい。R1の好ましい具体例としては、オクチル基、ノニル基、トリメチルノニル基、ラウリル基、トリデシル基、オレイル基、及びステアリル基が挙げられる。
2の例は、プロピレン基、ブチレン基である。
ノニオン性界面活性剤において、pは3以上の数(例えば、5~200)であってよい。qは、2以上の数(例えば5~200)であってよい。すなわち、-(R2O)q-がポリオキシアルキレン鎖を形成してもよい。
ノニオン性界面活性剤は、中央に親水性のポリオキシエチレン鎖と疎水性のオキシアルキレン鎖(特に、ポリオキシアルキレン鎖)を含有したポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテルであってよい。疎水性のオキシアルキレン鎖としては、オキシプロピレン鎖、オキシブチレン鎖、スチレン鎖等が挙げられるが、中でも、オキシプロピレン鎖が好ましい。
【0112】
ノニオン性界面活性剤の具体例には、エチレンオキシドとヘキシルフェノール、イソオクタチルフェノール、ヘキサデカノール、オレイン酸、アルカン(C12-C16)チオール、ソルビタンモノ脂肪酸(C-C19)又はアルキル(C12-C18)アミン等との縮合生成物、又は、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン誘導体が包含される。
【0113】
ポリオキシエチレンブロックの割合がノニオン性界面活性剤(コポリマー)の分子量に対して5~80重量%、例えば30~75重量%、特に40~70重量%であることができる。
ノニオン性界面活性剤の平均分子量は、一般に300~5,000、例えば、500~3,000である。
ノニオン性界面活性剤は、一種単独であってよく、あるいは二種以上の混合物であってもよい。ノニオン界面活性剤は、HLB(親水性疎水性バランス)が15未満(特に5以下)である化合物とHLBが15以上である化合物の混合物であってよい。
【0114】
[カチオン性界面活性剤]
カチオン性界面活性剤は、アミド基を有しない化合物であることが好ましい。
【0115】
カチオン性界面活性剤は、アミン塩、4級アンモニウム塩、オキシエチレン付加型アンモニウム塩であってよい。カチオン性界面活性剤の具体例としては、特に限定されないが、アルキルアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリン等のアミン塩型界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等の4級アンモニウム塩型界面活性剤等が挙げられる。
【0116】
カチオン性界面活性剤の好ましい例は、
21-N(-R22)(-R23)(-R24)X
[式中、R21、R22、R23及びR24は炭素数1~40の炭化水素基、
Xはアニオン性基である。]
の化合物である。
21、R22、R23及び-R24の具体例は、アルキル基(例えば、メチル基、ブチル基、ステアリル基、パルミチル基)である。Xの具体例は、ハロゲン(例えば、塩素)、酸(例えば、塩酸、酢酸)である。
カチオン性界面活性剤は、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩(アルキルの炭素数4~40)であることが特に好ましい。
【0117】
カチオン性界面活性剤は、アンモニウム塩であることが好ましい。カチオン性界面活性剤は、式:
-N
[式中、RはC12以上(例えばC12~C50)の直鎖状及び/又は分岐状の脂肪族(飽和及び/又は不飽和)基、
はH又はC1~4のアルキル基、ベンジル基、ポリオキシエチレン基(オキシエチレン基の数例えば1(特に2、特別には3)~50)
(CH、Cが特に好ましい)、
Xはハロゲン原子(例えば、)、C~Cの脂肪酸塩基、
pは1又は2、qは2又は3で、p+q=4である。]
で示されるアンモニウム塩であってよい。Rの炭素数は、12~50、例えば12~30であってよい。
【0118】
カチオン性界面活性剤の具体例には、ドデシルトリメチルアンモニウムアセテート、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド、(ドデシルメチルベンジル)トリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムクロライド、メチルドデシルジ(ヒドロポリオキシエチレン)アンモニウムクロライド、ベンジルドデシルジ(ヒドロポリオキシエチレン)アンモニウムクロライド、N-[2-(ジエチルアミノ)エチル]オレアミド塩酸塩が包含される。
【0119】
[アニオン性界面活性剤]
アニオン性界面活性剤の例としては、アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α-スルホン脂肪酸塩、N-アシルアミノ酸型界面活性剤、リン酸モノ又はジエステル型界面活性剤、及びスルホコハク酸エステルが挙げられる。
【0120】
[両性界面活性剤]
両性界面活性剤の例としては、アラニン類、イミダゾリニウムベタイン類、アミドベタイン類、酢酸ベタイン等が挙げられ、具体的には、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0121】
界面活性剤はノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のそれぞれが一種又は2以上の組み合わせであってよい。
【0122】
[界面活性剤の量]
界面活性剤の量は、撥液性化合物100重量部に対して、0.01重量部以上、0.1重量部以上、1重量部以上、3重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、15重量部以上、20重量部以上、50重量部以上、75重量部以上、又は100重量部以上であってよく、また、500重量部以下、300重量部以下、200重量部以下、100重量部以下、30重量部以下、20重量部以下、10重量部以下、5重量部以下、3重量部以下、又は1重量部以下であってよい。
【0123】
〔シリコーン〕
本開示における撥剤は、シリコーン(ポリオルガノシロキサン)を含んでもよい。シリコーンを含むことで、良好な撥液性に加え、風合いや耐久性を良好に兼ね備え得る。
【0124】
シリコーンとしては、公知のシリコーンを用いることができ、シリコーンの例としては、ポリジメチルシロキサン、変性シリコーン(アミノ変性、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン等)が挙げられる。シリコーンはワックス状の性質を有するシリコーンワックスであってもよい。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用してもよい。
【0125】
シリコーンの重量平均分子量は、1000以上、10000以上、又は50000以上であってよく、また、500000以下、2500000以下、100000以下、又は50000以下であってよい。
【0126】
[シリコーンの量]
シリコーンの量は、撥液性化合物100重量部に対して、0.1重量部以上、1重量部以上、3重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、15重量部以上、20重量部以上、50重量部以上、75重量部以上、又は100重量部以上であってよく、また、500重量部以下、300重量部以下、200重量部以下、100重量部以下、50重量部以下、40重量部以下、30重量部以下、20重量部以下、10重量部以下、又は5重量部以下であってよい。
【0127】
〔ワックス〕
本開示における撥剤は、ワックスを含んでもよい。ワックスを含むことで、撥液性を良好に基材に付与し得る。
【0128】
ワックスの例としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等)、酸化ポリオレフィンワックス、シリコーンワックス、動植物蝋、及び鉱物蝋等が挙げられる。パラフィンワックスが好ましい。ワックスを構成する化合物の具体例は、ノルマルアルカン(例えば、トリコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン、ヘントリアコンタン、ドトリアコンタン、トリトリアコンタン、テトラトリアコンタン、ペンタトリアコンタン、ヘキサトリアコンタン)、ノルマルアルケン(例えば、1-エイコセン、1-ドコセン、1-トリコセン、1-テトラコセン、1-ペンタコセン、1-ヘキサコセン、1-ヘプタコセン、1-オクタコセン、ノナコサン、トリアコンタン、ヘントリアコンタン、ドトリアコンタン、トリトリアコンタン、テトラトリアコンタン、ペンタトリアコンタン、ヘキサトリアコンタン)である。ワックスを構成する化合物の炭素数は、20~60、例えば、25~45であることが好ましい。ワックスの分子量は、200~2000、例えば250~1500、300~1000であってよい。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用してもよい。
【0129】
ワックスの融点は、50℃以上、55℃以上、60℃以上、65℃以上、又は70℃以上であってよく、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上である。ワックスの融点は、JIS K 2235-1991に準拠して測定される。
【0130】
[ワックスの量]
ワックスの量は、撥液性化合物100重量部に対して、0.1重量部以上、1重量部以上、3重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、15重量部以上、20重量部以上、50重量部以上、75重量部以上、又は100重量部以上であってよく、また、500重量部以下、300重量部以下、200重量部以下、100重量部以下、50重量部以下、40重量部以下、30重量部以下、20重量部以下、10重量部以下、5重量部以下であってよい。
【0131】
〔有機酸〕
撥剤は有機酸を含んでもよい。有機酸としては、公知のものを用いることができる。有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸等が好ましく挙げられ、特にカルボン酸が好ましい。該カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられ、特にギ酸又は酢酸が好ましい。本開示においては、有機酸は、一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。たとえば、ギ酸と酢酸とを組み合わせて用いてもよい。
【0132】
[有機酸の量]
有機酸の量は、撥液性化合物100重量部に対して、0.1重量部以上、1重量部以上、3重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、15重量部以上、20重量部以上、50重量部以上、75重量部以上、又は100重量部以上であってよく、また、500重量部以下、300重量部以下、200重量部以下、100重量部以下、50重量部以下、40重量部以下、30重量部以下、20重量部以下、10重量部以下、又は5重量部以下であってよい。撥剤のpHが、3~10、例えば5~9、特に6~8となるように有機酸の量は調整されてもよい。撥剤は酸性(pH7以下、例えば6以下)であってもよい。
【0133】
〔硬化剤〕
撥剤は、硬化剤(活性水素反応性化合物又は活性水素含有化合物)を含んでよい。
【0134】
撥剤における硬化剤(架橋剤)は撥液性化合物を良好に硬化させ得る。硬化剤は、撥液性化合物の有する活性水素又は活性水素反応性基と反応する活性水素反応性化合物又は活性水素含有化合物であってよい。活性水素反応性化合物の例は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、クロロメチル基含有化合物、カルボキシル基含有化合物及びヒドラジド化合物である。活性水素含有化合物の例は、ヒドロキシル基含有化合物、アミノ基含有化合物及びカルボキシル基含有化合物、ケトン基含有化合物、ヒドラジド化合物及びメラミン化合物である。
【0135】
硬化剤はイソシアネート化合物を含んでよい。イソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物であってよい。ポリイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物である。ポリイソシアネート化合物は、架橋剤として働く。ポリイソシアネート化合物の例は、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート及びこれらポリイソシアネートの誘導体等を挙げることができる。イソシアネート化合物は、ブロックドイソシアネート化合物(例えばブロックドポリイソシアネート化合物であってよい)。ブロックイソシアネート化合物は、イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でマスクし反応を抑制した化合物である。
【0136】
脂肪族ポリイソシアネートの例は、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエートの脂肪族ジイソシアネート、及びリジンエステルトリイソシアネート、1,4,8-トリイソシアナトオクタン、1,6,11-トリイソシアナトウンデカン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、1,3,6-トリイソシアナトヘキサン、2,5,7-トリメチル-1,8-ジイソシアナト-5-イソシアナトメチルオクタン等の脂肪族トリイソシアネート等である。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用して用いてもよい。
【0137】
脂環族ポリイソシアネートの例は、脂環族ジイソシアネート及び脂環族トリイソシアネート等である。脂環族ポリイソシアネートの具体例は、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、1,3,5-トリイソシアナトシクロヘキサンである。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用して用いてもよい。
【0138】
芳香脂肪族ポリイソシアネートの例は、芳香脂肪族ジイソシアネート及び芳香脂肪族トリイソシアネートである。芳香脂肪族ポリイソシアネートの具体例は、1,3-若しくは1,4-キシリレンジイソシアネート又はその混合物、1,3-又は1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(テトラメチルキシリレンジイソシアネート)若しくはその混合物、1,3,5-トリイソシアナトメチルベンゼンである。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用して用いてもよい。
【0139】
芳香族ポリイソシアネートの例は、芳香族ジイソシアネート、芳香族トリイソシアネート、芳香族テトライソシアネートである。芳香族ポリイソシアネートの具体例は、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,4’-又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート若しくはその混合物、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート若しくはその混合物、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネート、及び4,4’-ジフェニルメタン-2,2’,5,5’-テトライソシアネート等である。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用して用いてもよい。
【0140】
ポリイソシアネートの誘導体は、例えば、上記したポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、イミノオキサジアジンジオン等の各種誘導体を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用して用いてもよい。
【0141】
これらポリイソシアネートは、一種又は二種以上を組合せて使用することができる。
ポリイソシアネート化合物として、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でブロックした化合物であるブロック化ポリイソシアネート化合物(ブロックイソシアネート)を使用することが好ましい。溶液中でも比較的安定であり、撥剤と同じ溶液中でも使用可能である等の理由からブロック化ポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。
【0142】
ブロック剤は、遊離のイソシアネート基を封鎖するものである。ブロック化ポリイソシアネート化合物は、例えば、100℃以上、例えば130℃以上に加熱することにより、イソシアネート基が再生し、ヒドロキシル基と容易に反応することができる。ブロック剤の例は、フェノール系化合物、ラクタム系化合物、脂肪族アルコール系化合物、オキシム系化合物等である。ポリイソシアネート化合物は、単独で又は二種以上を組合せて使用することができる。
【0143】
エポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物である。エポキシ化合物の例は、ポリオキシアルキレン基を有するエポキシ化合物、例えば、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル及びポリプロピレングリコ-ルジグリシジルエ-テル;並びにソルビトールポリグリシジルエーテル等である。
クロロメチル基含有化合物はクロロメチル基を有する化合物である。クロロメチル基含有化合物の例は、クロロメチルポリスチレン等である。
カルボキシル基含有化合物はカルボキシル基を有する化合物である。カルボキシル基含有化合物の例は、(ポリ)アクリル酸、(ポリ)メタクリル酸等である。
【0144】
ケトン基含有化合物の具体例としては、(ポリ)ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
ヒドラジド化合物の具体例としては、ヒドラジン、カルボヒドラジド、アジピン酸ヒドラジド等が挙げられる。
メラミン化合物の具体例としては、メラミン樹脂、メチルエーテル化メラミン樹脂等が挙げられる。
【0145】
[硬化剤の量]
硬化剤の量は、撥液性化合物100重量部に対して、0.1重量部以上、1重量部以上、3重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、15重量部以上、又は20重量部以上、50重量部以上、75重量部以上、又は100重量部以上であってよく、また、500重量部以下、300重量部以下、200重量部以下、100重量部以下、50重量部以下、40重量部以下、30重量部以下、20重量部以下、10重量部以下、5重量部以下であってよい。
【0146】
〔他の成分〕
撥剤は、上記成分以外の他の成分を含んでよい。他の成分の例としては、多糖類、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり向上剤、凝結剤、バインダー樹脂、スリップ防止剤、サイズ剤、紙力増強剤、充填剤、帯電防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、消臭剤、香料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は二以上を併用して用いてもよい。
前記の成分以外に、その他成分として、その他の撥水及び/又は撥油剤、分散剤、風合い調整剤、柔軟剤、難燃剤、塗料定着剤、防シワ剤、乾燥速度調整剤、架橋剤、造膜助剤、相溶化剤、凍結防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、防虫剤、消泡剤、縮み防止剤、洗濯じわ防止剤、形状保持剤、ドレープ性保持剤、アイロン性向上剤、増白剤、白化剤、布地柔軟化クレイ、ポリビニルピロリドン等の移染防止剤、高分子分散剤、汚れ剥離剤、スカム分散剤、4,4-ビス(2-スルホスチリル)ビフェニルジナトリウム(チバスペシャルティケミカルズ製チノパールCBS-X)等の蛍光増白剤、染料固定剤、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン等の退色防止剤、染み抜き剤、繊維表面改質剤としてセルラーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ケラチナーゼ等の酵素、抑泡剤、水分吸放出性等絹の風合い・機能を付与できるものとしてシルクプロテインパウダー、それらの表面改質物又は乳化分散液(例えばK-50、K-30、K-10、A-705、S-702、L-710、FPシリーズ(出光石油化学)、加水分解シルク液(上毛)、シルクゲンGソルブルS(一丸ファルコス))、汚染防止剤(例えばアルキレンテレフタレート及び/又はアルキレンイソフタレート単位とポリオキシアルキレン単位からなる非イオン性高分子化合物(例えば互応化学工業製FR627)、クラリアントジャパン製SRC-1等)等を配合することができる。これらは単独で使用してもよく、また二以上を併用して使用してもよい。
【0147】
[多糖類]
多糖類の例としては、澱粉、キサンタンガム、カラヤガム、ウェランガム、グアーガム、ペクチン、タマリンドガム、カラギーナン、キトサン、アラビアガム、ローカストビーンガム、セルロース、アルギン酸、寒天、デキストラン、及びプルラン等が挙げられる。多糖類は、置換されている変性多糖類であってよく、特に、水酸基やカチオン性基を導入した変性多糖類であってよい。
【0148】
[紙力増強剤、凝集剤、歩留まり向上剤又は凝結剤]
紙力増強剤、凝集剤、歩留まり向上剤又は凝結剤の例としては、スチレン系重合体(スチレン/マレイン酸系重合体、スチレン/アクリル酸系重合体)、尿素‐ホルムアルデヒド重合体、ポリエチレンイミン、メラミン‐ホルムアルデヒド重合体、ポリアミドアミン‐エピクロルヒドリン重合体、ポリアクリルアミド系重合体、ポリアミン系重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、アルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンの縮合物、ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体、及びオレフィン/無水マレイン酸重合体等が挙げられる。
【0149】
[サイズ剤]
サイズ剤の例としては、セルロース反応性サイズ剤、例えばロジン系石鹸などのロジン系サイズ剤、ロジン系乳濁液/分散液、セルロース反応性サイズ剤、例えばアルキルおよびアルケニルコハク酸無水物(ASA)などの酸無水物の乳濁液/分散液、アルケニルおよびアルキルケテン二量体(AKD)および多量体、ならびにエチレン性不飽和モノマーのアニオン性、カチオン性および両性のポリマー、例えばスチレンとアクリレートとの共重合体が挙げられる。
【0150】
[帯電防止剤]
帯電防止剤の例としては、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1、第2、第3アミノ基等のカチオン性官能基を有すカチオン型帯電防止剤;スルホン酸塩や硫酸エステル塩、ホスホン酸塩、リン酸エステル塩等のアニオン性官能基を有するアニオン型帯電防止剤;アルキルベタイン及びその誘導体、イミダゾリン及びその誘導体、アラニン及びその誘導体等の両性型帯電防止剤、アミノアルコール及びその誘導体、グリセリン及びその誘導体、ポリエチレングリコール及びその誘導体等のノニオン型帯電防止剤等が挙げられる。これらのカチオン型、アニオン型、両性イオン型のイオン導電性基を有する単量体を重合若しくは共重合して得られたイオン導電性重合体であってもよい。これらは単独で使用してもよく、また二以上を併用してもよい。
【0151】
[防腐剤]
防腐剤は、主に、防腐力、殺菌力を強化し、長期保存中の防腐性を保つために用いられ得る。防腐剤としては、例えば、イソチアゾロン系有機硫黄化合物、ベンズイソチアゾロン系有機硫黄化合物、安息香酸類、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。
【0152】
[紫外線吸収剤]
紫外線吸収剤は、紫外線を防御する効果のある薬剤であり、紫外線を吸収し、赤外線や可視光線等に変換して放出する成分である。紫外線吸収剤としては、例えば、アミノ安息香酸誘導体、サリチル酸誘導体、ケイ皮酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、アゾール系化合物、4-t-ブチル-4'-メトキシベンゾイルメタン等が挙げられる。
【0153】
[抗菌剤]
抗菌剤は、繊維上での菌の増殖を抑え、さらには微生物の分解物由来の嫌なにおいの発生を抑える効果を有する成分である。抗菌剤としては、例えば、四級アンモニウム塩等のカチオン性殺菌剤、ビス-(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩、8-オキシキノリン、ポリリジン等が挙げられる。
【0154】
[消臭剤]
消臭剤としては、クラスターデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、モノアセチル-β-シクロデキストリン、アシルアミドプロピルジメチルアミンオキシド、アミノカルボン酸系金属錯体(国際公開第2012/090580号記載のメチルグリシンジ酢酸3ナトリウムの亜鉛錯体)等が挙げられる。
【0155】
[他の成分の量]
他の成分の各量又は総量は、撥液性化合物100重量部に対して、0.1重量部以上、1重量部以上、3重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、15重量部以上、20重量部以上、50重量部以上、75重量部以上、又は100重量部以上であってよく、また、500重量部以下、300重量部以下、200重量部以下、100重量部以下、50重量部以下、40重量部以下、30重量部以下、20重量部以下、10重量部以下、又は5重量部以下であってよい。
【0156】
<パルプ組成物>
本開示におけるパルプ組成物は撥液性化合物及びパルプ基材を含む。本開示におけるパルプ組成物は耐油性及び/又は耐水性、好ましくはその両方に優れ得る。
【0157】
本開示におけるパルプ組成物は、パルプ基材に撥液性化合物を添加することにより得られる。パルプ組成物は、パルプ基材を、撥液性化合物を含む撥剤で処理することにより得られてもよく、ここで、撥剤の添加量や撥剤の組成は、各成分が所望の量となるように、調整されてよい。撥剤に含まれ得る各成分を、別途添加剤としてパルプ組成物に添加してもよい。
【0158】
本開示におけるパルプ組成物は炭素数8以上のフルオロアルキル基を有する化合物、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物、炭素数4以上のフルオロアルキル基を有する化合物、炭素数4以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物、パーフルオロアルキル基を有する化合物、フルオロアルキル基を有する化合物、及びフッ素原子を有する化合物からなる群から選択されるいずれかを有しなくてもよい。本開示におけるパルプ組成物は、これらのフッ素化合物を含まなくても、基材に撥液性を付与し得る。
【0159】
パルプ組成物のpHは、3~10、例えば5~9、特に6~8であってよく、斯かるpHとなるように各成分の量は調整されてもよい。
【0160】
〔パルプ基材〕
パルプ組成物はパルプ基材を含む。パルプ基材はパルプから構成され、当該パルプは木材パルプ、非木材パルプ及び古紙パルプ等であってよい。
【0161】
パルプとしては、モミ属、マツ属等から得られる針葉樹クラフトパルプ、及びアカシア属、ユーカリ属、ブナ属、ヤマナラシ属(たとえば、ポプラ)等から得られる広葉樹クラフトパルプがある。針葉樹クラフトパルプとしては、たとえば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹晒パルプ(NBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹亜硫酸パルプ等が挙げられる。また、広葉樹クラフトパルプとしてはたとえば、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ等が挙げられる。なお、用いるパルプは単独または併用で用いる。また、クラフトパルプ以外にも針葉樹クラフトパルプおよび広葉樹クラフトパルプの他に、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプがある。更に、古紙パルプとしては、茶古紙、古紙クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプまたは離解・脱墨・漂白古紙パルプがある。非木材パルプの例としては、バガス、ケナフ、竹、リンター、木綿、リネン、大麻、ラミー、わら、エスパルト、マニラ麻、ザイザル麻、黄麻、亜麻、がんぴ、みつまた、こうぞ、バガス等から得られるパルプが挙げられる。
【0162】
パルプの平均繊維長は、耐油性向上の観点から、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、そして、製造容易性の観点から、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.0mm以下、さらに好ましくは3.0mm以下、とくに好ましくは2.0mm以下、最も好ましくは1.0mm以下である。
【0163】
[パルプ基材の形態]
撥液性化合物が添加される際のパルプ基材の形態は、パルプ単独、パルプスラリー、パルプ製品等であってもよく、具体例としては、クラフトパルプやサルファイトパルプ等の晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプあるいはサーモメカニカルパルプ等の晒あるいは未晒高収率パルプ等のパルプ;前記パルプを含むパルプスラリー;紙、紙容器、パルプ成形品等のパルプ製品が挙げられる。
【0164】
[パルプ基材の量]
パルプ基材の量は、パルプ組成物中、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、75重量%以上、又は90重量%以上であってよく、また、99重量%以下、75重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、4重量%以下、又は3重量%以下であってよい。例えば、内添によりパルプ組成物が作製される場合は、パルプ基材の量は、パルプ組成物中、30重量%以下であってよく、外添によりパルプ組成物が作製される場合は、パルプ基材の量は、パルプ組成物中、75重量%以上であってよい。
【0165】
パルプ基材の量は、液状媒体を除いたパルプ組成物中、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、又は99重量%以上であってよく、また、99.9重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、75重量%以下、65重量%以下、又は55重量%以下であってよい。
【0166】
〔液状媒体〕
パルプ組成物は、液状媒体を含んでよい。液状媒体は水、有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合物であってよく、典型的には水性媒体、特に水である。液状媒体は撥剤由来の液状媒体を含んでもよい。
【0167】
[液状媒体の量]
液状媒体の量は、パルプ組成物中、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、75重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上であってよく、また、99重量%以下、75重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、4重量%以下、又は3重量%以下であってよい。典型的には、内添によりパルプ組成物が作製される場合は、液状媒体の量は、パルプ組成物中、50重量%以上、特に90重量%以上であってよく、外添によりパルプ組成物が作製される場合は、液状媒体の量は、パルプ組成物中、30重量%以下、特に10重量%以下であってよい。
【0168】
〔撥液性化合物〕
パルプ組成物は、撥液性化合物を含む。撥液性化合物の種類の詳細については、<撥剤>における撥液性化合物の説明を援用する。
【0169】
[撥液性化合物の量]
撥液性化合物の量は、パルプ基材に対して、0.1重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、0.75重量%以上、1.0重量%以上、2.0重量%以上、又は3.0重量%以上であってよく、好ましくは0.5重量%以上であり、また、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、7.5重量%以下、5.0重量%以下、4.0重量%以下、3.0重量%以下、2.0重量%以下、1.0重量%以下、0.75重量%以下、又は0.5重量%以下であってよく、例えば15重量%以下、5.0重量%以下、又は3.0重量%以下である。
【0170】
撥液性化合物はパルプ基材(例えば紙、紙容器、パルプ成形品等のパルプ製品)の表面に外添処理されてもよく、外添処理により形成される塗布層に含まれる撥液性化合物の量は、0.01g/m以上、0.03g/m以上、0.05g/m以上、0.1g/m以上、0.3g/m以上、0.5g/m以上、又は1.0g/m以上であってよく、また、5.0g/m以下、4.0g/m以下、3.0g/m以下、2.0g/m以下、1.0g/m以下、0.5g/m以下、0.3g/m以下、又は0.1g/m以下であってよい。
【0171】
〔分散剤〕
パルプ組成物は、分散剤を含んでよい。分散剤の種類の詳細については、<撥剤>における分散剤の説明を援用する。
【0172】
[分散剤の量]
分散剤の量は、パルプ基材に対して、0.1重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、0.75重量%以上、1.0重量%以上、2.0重量%以上、又は3.0重量%以上であってよく、また、10重量%以下、7.5重量%以下、5.0重量%以下、4.0重量%以下、3.0重量%以下、2.0重量%以下、1.0重量%以下、0.75重量%以下、又は0.5重量%以下であってよく、好ましくは5.0重量%以下、より好ましくは3.0重量%以下である。
【0173】
〔紙力剤〕
パルプ組成物は、紙力剤を含んでよい。紙力剤の例としては、
カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミド等のポリアクリルアミド系紙力剤;
澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシエチル化澱粉など)、アルデヒド化澱粉、カチオン化澱粉、澱粉、キサンタンガム、カラヤガム、ウェランガム、グアーガム、ペクチン、タマリンドガム、カラギーナン、キトサン、アラビアガム、ローカストビーンガム、セルロース、アルギン酸、寒天、デキストラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キチンナノファイバー、セルロースナノファイバー及びプルラン、これらの変性多糖類(例えば水酸基やカチオン性基を導入した変性多糖類)等の多糖系紙力剤;
ポリアミド樹脂、ポリアミン樹脂、ポリアミド-ポリアミン樹脂、ポリアミド-エピクロルヒドリン樹脂、ポリアミド-ポリアミン-エピクロルヒドリン樹脂、ポリアミド-ポリ尿素-ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂などのポリアミド系紙力剤;
尿素樹脂、メラミン樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂等の尿素/メラミン系紙力剤;
ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、末端アルキル変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール系紙力剤;
スチレン・ブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、脂肪酸ジアミド、ポリエチレンイミン樹脂、ケトンアルデヒド樹脂等が挙げられる。
本開示における紙力剤としては、ポリアクリルアミド系紙力剤、多糖系紙力剤、又はポリアミド系紙力剤が好ましい。
【0174】
[紙力剤の量]
紙力剤の合計量は、パルプに対して、0.1重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、0.75重量%以上、1.0重量%以上、2.0重量%以上、又は3.0重量%以上であってよく、また、10重量%以下、7.5重量%以下、5.0重量%以下、4.0重量%以下、3.0重量%以下、2.0重量%以下、1.0重量%以下、0.75重量%以下、又は0.5重量%以下であってよく、好ましくは5.0重量%以下である。
【0175】
ポリアクリルアミド系紙力剤の量は、パルプに対して、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.4重量%以上、0.6重量%以上、0.8重量%以上、又は1.0であってよく、好ましくは0.3重量%以上であり、また、パルプに対して、1.1重量%以下、0.9重量%以下、0.7重量%以下、0.5重量%以下、又は0.3重量%以下であってよい。
【0176】
多糖系紙力剤の量は、パルプに対して、0.6重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%以上、2.0重量%以上、2.5重量%以上、3.0重量%以上、3.5重量%以上、4.0重量%以上、又は4.5重量%以上であってよく、好ましくは2.0重量%以上であり、また、パルプに対して、5重量%以下、4.7重量%以下、4.2重量%以下、3.7重量%以下、3.2重量%以下、2.7重量%以下、2.2重量%以下、又は1.7重量%以下であってよい。
【0177】
ポリアミド系紙力剤の量は、パルプに対して、0.3重量%以上、0.4重量%以上、0.5重量%以上、0.6重量%以上、0.7重量%以上、又は0.8重量%以上であってよく、また、0.9重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、0.5重量%以下、又は0.4重量%以下であってよい。
【0178】
〔サイズ剤〕
パルプ組成物は、サイズ剤を含んでよい。サイズ剤の例としては、カチオン性サイズ剤、アニオン性サイズ剤、中性サイズ剤、両性サイズ剤が挙げられ、例えばロジン系サイズ剤(例えば、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤))、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸等が挙げられる。
【0179】
[サイズ剤の量]
サイズ剤の量は、パルプに対して、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、0.75重量%以上、1.0重量%以上、2.0重量%以上、又は3.0重量%以上であってよく、また、10重量%以下、7.5重量%以下、5.0重量%以下、4.0重量%以下、3.0重量%以下、2.0重量%以下、1.0重量%以下、0.75重量%以下、又は0.5重量%以下であってよい。
【0180】
〔その他添加剤〕
パルプ組成物には、上記以外にも、定着剤(硫酸バンド等)、凝結剤・凝集剤(ポリアミン系樹脂等)、歩留り向上剤(ポリアクリルアミド系樹脂等)、有機酸(ギ酸、酢酸等)、染料、スライムコントロール剤、消泡剤といったパルプ製品の製造で使用される紙用併用薬品等のその他添加剤が含まれていてもよい。
【0181】
[その他添加剤の量]
その他添加剤の量は、各々、パルプ基材に対して0.01重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上であってよく、また、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、又は1重量%以下であってよい。
【0182】
<処理された繊維製品又は紙製品の製造方法>
本開示における撥剤で処理された製品の製造方法は、上述した撥剤で基材を処理する処理工程を含む。
【0183】
「処理」とは、撥剤を、浸漬、噴霧、塗布等により基材に適用することを意味する。処理により、撥剤の有効成分である撥液性化合物が基材の内部及び/又は表面に付着する。ここで、付着とは物理的な付着又は化学的な付着であってもよく、例えば、撥液性化合物が基材(繊維、紙、ガラス等)の有する水酸基に物理的又は(反応して)化学的に修飾されていてもよい。
【0184】
[基材]
本開示における撥剤で処理される基材は限定されないが、好適には繊維製品又は紙製品である。
【0185】
繊維製品の基材の例としては、綿、麻、羊毛、絹等の動植物性天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。繊維製品には、織物、編物及び不織布、衣料品形態(例えば撥水性衣服、例えば雨合羽)の布及びカーペットが含まれるが、布とする前の状態の繊維、糸、中間繊維製品(例えば、スライバー又は粗糸等)に対して、処理がなされてもよい。
【0186】
紙製品の基材の例としては、クラフトパルプあるいはサルファイトパルプ等の晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプあるいはサーモメカニカルパルプ等の晒あるいは未晒高収率パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙あるいは脱墨古紙等の古紙パルプ等からなる紙、紙でできた容器、紙でできた成形体等が挙げられる。紙製品の具体例としては、食品包装材、食品容器、石膏ボード原紙、コート原紙、中質紙、一般ライナー及び中芯、中性純白ロール紙、中性ライナー、防錆ライナー及び金属合紙、クラフト紙、中性印刷筆記用紙、中性コート原紙、中性PPC用紙、中性感熱用紙、中性感圧原紙、中性インクジェット用紙及び中性情報用紙、モールド紙(モールド容器)等が挙げられ、好適な例としては食品包装材及び食品容器が挙げられる。紙基材を本開示の撥剤で処理することにより、例えば、撥水性、撥油性、耐油性、耐水性が付与された紙製品(撥水紙、撥油紙、耐油紙、耐水紙)を得ることができる。
【0187】
本開示の撥剤で処理される基材としては、繊維製品又は紙製品に限られず、他にも、石材、フィルター(例えば、静電フィルター)、防塵マスク、燃料電池の部品(例えば、ガス拡散電極及びガス拡散支持体)、ガラス、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属及び酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面、及びプラスター等を挙げることができる。
【0188】
基材がガラスである場合、製造されるガラス製品は光学部材であってよい。ガラス基材の表面(最外層)に何らかの層(または膜)、例えばハードコート層や反射防止層などが形成されていてもよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してもよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiOおよび/またはSiOを用いることが好ましい。製造すべき物品が、タッチパネル用の光学ガラス部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(ガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I-CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0189】
[処理方法]
本開示の撥剤は、処理剤(特に表面処理剤)として、従来既知の方法により基材に適用することができる。処理の方法としては、本開示における撥剤を、必要により有機溶媒又は水に分散して希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布等のような既知の方法により、基材の内部及び/又は表面に付着させ、乾燥する方法であってよい。乾燥後、撥剤における固形成分が付着した繊維製品が得られる。また、必要ならば、適当な架橋剤と共に適用し、キュアリングを行ってもよい。本開示の撥剤に、必要により、さらに、撥水及び/又は撥油剤、スリップ防止剤、帯電防止剤、風合い調整剤、柔軟剤、抗菌剤、難燃剤、塗料定着剤、防シワ剤、乾燥速度調整剤、架橋剤、造膜助剤、相溶化剤、凍結防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、防虫剤、消泡剤等の各種添加剤とを併用することも可能である。各種添加剤の例としては、上述の撥水剤組成物における「他の成分」で説明したものと同様であってよい。基材と接触させる処理剤における撥剤の濃度は、用途によって適宜変更されてよいが、0.01~10重量%、例えば0.05~5重量%であってよい。
【0190】
撥剤は、基材を液体で処理するために知られている方法のいずれかによって基材に適用することができる。基材を撥剤に浸してよく、あるいは、基材に溶液を付着又は噴霧してよい。処理された基材は、撥液性を発現させるために、好ましくは、加熱により乾燥及びキュアリングが行われる。加熱温度は例えば100℃~200℃、100℃~170℃又は100℃~120℃であってよい。本開示において低温加熱(例えば、100℃~140℃)であっても良好な性能が得られる。本開示において加熱時間は5秒~60分であってよく、例えば30秒~3分であってよい。繊維製品が紙であるときには、紙に塗工してよく、あるいは、紙に溶液を付着又は噴霧してよく、あるいは、抄造前のパルプスラリーと混合して処理してもよい。処理は外添処理であっても、内添処理であってもよい。あるいは、撥剤はクリーニング法によって繊維製品に適用してよく、例えば、洗濯適用又はドライクリーニング法等において繊維製品に適用してよい。
【0191】
[紙基材の処理]
紙基材(パルプ基材)としては、紙、紙でできた容器、紙でできた成形体(例えばパルプモールド)などが挙げられる。
【0192】
紙製品(紙)は、従来既知の抄造方法によって製造できる。抄造前のパルプスラリーに撥剤を添加する内添処理方法、又は抄造後の紙に撥剤を適用する外添処理方法を用いることができる。
【0193】
内添処理方法は抄造前のパルプスラリーに撥剤を添加する処理方法を意味してよい。内添処理方法として、パルプスラリーに撥剤を添加して攪拌混合する工程と、当該工程で調製したパルプ組成物を所定形状の網状体を介して吸引脱水してパルプ組成物を堆積さてパルプモールド中間体を形成する工程と、当該パルプモールド中間体を加温された成形型によって成型乾燥することで、紙、紙でできた容器、紙でできた成形体を得る工程の一以上を含んでもよいが、この限りではない。処理された紙は、室温又は高温での簡単な乾燥後に、任意に、紙の性質に依存して熱処理を施してもよい。熱処理の温度は150℃以上、180℃以上、又は210℃以上であってよく、また、300℃以下、250℃以下、又は200℃以下であってよく、特に80℃~180℃であってよい。斯かる温度範囲で熱処理を行うことにより、優れた耐油性及び耐水性等を示し得る。
【0194】
外添処理方法のサイズプレスは、塗布方式によって以下のように分けることも可能である。
1つの塗布方式は、2本のゴムロールの間に紙を通して形成されるニップ部に塗布液(サイズ液)を供給し、ポンドと呼ばれる塗液溜りを作り、この塗液溜りに紙を通して紙の両面にサイズ液を塗布する、いわゆるポンド式ツーロールサイズプレスである。他の塗布方式は、サイズ液を表面転写型により塗布するゲートロール型、及び、ロッドメタリングサイズプレスである。ポンド式ツーロールサイズプレスにおいてサイズ液は紙の内部まで浸透しやすく、表面転写型においてサイズ液成分は紙の表面に留まりやすい。表面転写型は、ポンド式ツーロールサイズプレスと比べて、塗布層が紙の表面に留まりやすく、表面に形成される塗布層がポンド式ツーロールサイズプレスより多い。本開示では、前者のポンド式2ロールサイズプレスを用いた場合でも紙に性能を付与できる。このように処理された紙は、室温又は高温での簡単な乾燥後に、任意に、紙の性質に依存して300℃まで、例えば200℃まで、特に80℃~180℃の温度範囲をとり得る熱処理を伴うことで、優れた耐油性及び耐水性等を示し得る。
【0195】
本開示は、石膏ボード原紙、コート原紙、中質紙、一般ライナー及び中芯、中性純白ロール紙、中性ライナー、防錆ライナー及び金属合紙、クラフト紙などにおいて使用することができる。また、中性印刷筆記用紙、中性コート原紙、中性PPC用紙、中性感熱用紙、中性感圧原紙、中性インクジェット用紙及び中性情報用紙においても用いることができる。
【0196】
パルプ原料としては、クラフトパルプあるいはサルファイトパルプ等の晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプあるいはサーモメカニカルパルプ等の
晒あるいは未晒高収率パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙あるいは脱墨古紙等の古紙パルプのいずれも使用することができる。また、上記パルプ原料と石綿、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール等の合成繊維との混合物も使用することができる。
【0197】
サイズ剤を加えて、紙の耐水性を向上させることができる。サイズ剤の例は、カチオン性サイズ剤、アニオン性サイズ剤、ロジン系サイズ剤(例えば、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤)である。サイズ剤の量は、パルプに対して0.01~5重量%であってよい。
【0198】
紙には必要に応じて、通常使用される程度の製紙用薬剤として、澱粉、変性澱粉、カルボキシメチルセルロース、ポリアミドポリアミン-エピクロルヒドリン樹脂等の紙力増強剤、凝集剤、定着剤、歩留り向上剤、染料、蛍光染料、スライムコントロール剤、消泡剤等の紙の製造で使用される添加剤を使用することができる。澱粉及び/又は変性澱粉を用いることが好ましい。必要により、澱粉、ポリビニルアルコール、染料、コーティングカラー、防滑剤等を用いて、サイズプレス、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、キャレンダー等によって、撥剤を紙に塗布することができる。
【0199】
外添においては、塗布層に含まれる撥液性化合物の量が0.01~2.0g/m、特に0.1~1.0g/mであることが好ましい。塗布層は、撥剤と澱粉及び/又は変性澱粉によって形成されることが好ましい。塗布層における紙用撥剤の固形分量は2g/m以下であることが好ましい。
内添においては、紙を形成するパルプ100重量部に対して、撥剤の量が0.01~50重量部又は0.01~30重量部、例えば0.01~10重量部、特に0.2~5.0重量部となるように、撥剤をパルプと混合することが好ましい。
【0200】
外添において、ロールとロールの間に処理液をため、任意のロールスピードとニップ圧で、ロール間の処理液に原紙を通す、いわゆるポンド式2ロールサイズプレス処理を用いても紙に耐油性を付与することができる。
【0201】
外添処理において、紙基材はサイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤又は凝結剤などの添加剤を含んでよい。添加剤はノニオン性、カチオン性、アニオン性又は両性であってよい。添加剤のイオン電荷密度は-10000~10000 μeq/g、好ましくは-4000~8000 μeq/gであり、より好ましくは-1000~7000 μeq/gであってよい。サイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤又は凝結剤などの添加剤(固形分又は活性成分)は、パルプに対して、一般に、0.1~10重量%(例えば、0.2~5.0重量%)の量で使用できる。カチオン性の添加剤(例えば、サイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤又は凝結剤)を含む紙基材の場合は、撥剤はアニオン性であることが好ましい。
【0202】
内添処理において、パルプ濃度が0.5~5.0重量%(例えば、2.5~4.0重量%)であるパルプスラリーを抄紙することが好ましい。パルプスラリーに添加剤(例えば、サイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤又は凝結剤など)及び撥液性化合物を添加することができる。添加剤(例えば、サイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤又は凝結剤など)の例は、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン系重合体(スチレン/マレイン酸系重合体、スチレン/アクリル酸系重合体)、尿素-ホルムアルデヒド重合体、ポリエチレンイミン、メラミン-ホルムアルデヒド重合体、ポリアミドアミン-エピクロルヒドリン重合体、ポリアクリルアミド系重合体、ポリアミン系重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、アルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンの縮合物、ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体、オレフィン/無水マレイン酸重合体である。
【0203】
[繊維基材の前処理]
繊維基材(布帛基材)は、本開示の撥剤で処理する前に前処理されていてもよい。繊維基材の前処理を行うことで、撥剤で処理後の繊維製品に優れた堅牢性を付与し得る。
【0204】
繊維基材の前処理の例は、反応性第四級アンモニウム塩との反応等によるカチオン化処理、スルホン化、カルボキシル化、リン酸化等のアニオン化処理、アニオン化処理後のアセチル化処理、ベンゾイル化処理、カルボキシメチル化処理、グラフト化処理、タンニン酸処理、高分子コーティング処理等が挙げられる。
【0205】
繊維基材を前処理する方法としては、限定されないが、従来既知の方法により繊維基材を前処理することができる。前処理液を必要により有機溶媒又は水に分散して希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布等のような既知の方法により、繊維基材の内部及び/又は表面に付着させ、乾燥する方法であってよい。求める処理の程度に応じて前処理液のpH及び温度等が調整されてよい。繊維基材を前処理する方法の一例として、繊維基材を炭化水素系撥水剤で前処理する方法について詳述する。
【0206】
繊維基材の前処理方法は、繊維に-SO(式中、Mは一価のカチオンを示す)で示される1価の基、-COOM(式中、Mは一価のカチオンを示す)で示される1価の基、及び-O-P(O)(OX)(OX)(式中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~22のアルキル基を示す)で示される1価の基からなる群より選ばれる一以上の官能基(以下、「特定官能基」という場合もある)を付与する工程を備えてもよい。
【0207】
としては、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンが挙げられる。Mとしては、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンが挙げられる。X又はXがアルキル基である場合、炭素数1~22のアルキル基であることが好ましく、炭素数4~12のアルキル基であることがより好ましい。
【0208】
上記特定官能基を含む繊維(以下、「官能基含有繊維」という場合もある)は、例えば、以下の方法により調製することができる。
(i)繊維材料に、上記特定官能基を有する化合物を付着させる。なお、化合物の付着は、上記特定官能基が十分な量で残される範囲で化合物の一部と繊維の一部とが化学的に結合している状態であってもよい。
(ii)繊維を構成する材料として上記特定官能基が直接導入されている繊維を用いる。
【0209】
(i)の場合、例えば、繊維材料を、上記特定官能基を有する化合物の一種以上が含まれる前処理液で処理する官能基導入工程により、官能基含有繊維を得ることができる。
【0210】
繊維材料の素材としては、特に制限はなく、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ポリアミド(ナイロン等)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン等の合成繊維及びこれらの複合繊維、混紡繊維等が挙げられる。繊維材料の形態は繊維(トウ、スライバー等)、糸、編物(交編を含む)、織物(交織を含む)、不織布等のいずれの形態であってもよい。
【0211】
本実施形態においては、得られる繊維製品の撥水性が良好になる観点から、ポリアミド及びポリエステルを素材として含む繊維材料を用いることが好ましく、特に、ナイロン6、ナイロン6,6等のナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチルテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、及びこれらが含まれる混合繊維を用いることが好ましい。
【0212】
上記-SOを有する化合物としては、フェノール系高分子を用いることができる。このようなフェノール系高分子としては、例えば、下記一般式で表される化合物を一以上含むものが挙げられる。
【0213】

[式中、Xは-SO(式中、Mは1価のカチオンを示す)又は下記一般式で表される基を表し、nは20~3000の整数である。]
【0214】

[式中、Mは1価のカチオンを表す。]
【0215】
上記Mとしては、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンが挙げられる。
【0216】
上記Mとしては、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンが挙げられる。
【0217】
上記一般式で表される化合物は、例えば、フェノールスルホン酸のホルマリン縮合物、スルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物であってもよい。
【0218】
上記-COOMを有する化合物としては、ポリカルボン酸系ポリマーが挙げられる。
【0219】
ポリカルボン酸系ポリマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等をモノマーとして用いて従来公知のラジカル重合法で合成したポリマー、又は、市販されているものを使用することができる。
【0220】
ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法としては、例えば、上記モノマー及び/又はその塩の水溶液にラジカル重合開始剤を添加して、30~150℃で2~5時間加熱反応させる方法が挙げられる。このとき、上記モノマー及び/又はその塩の水溶液に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類やアセトン等の水性溶剤を添加してもよい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸塩と重亜硫酸ナトリウム等の組み合わせによるレドックス系重合開始剤、過酸化水素、水溶性アゾ系重合開始剤等が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は単独で使用してもよく、又は二以上を併用してもよい。さらに、ラジカル重合の際には、重合度を調整する目的で連鎖移動剤(例えば、チオグリコール酸オクチル)を添加してもよい。
【0221】
ラジカル重合には、上記モノマーのほかに共重合可能なモノマーを使用することができる。共重合可能なモノマーとしては、エチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系モノマー、アクリルアミド、アクリレート類、メタクリレート類等が挙げられる。アクリレート類及びメタクリレート類は、ヒドロキシル基等の置換基を有していてもよい炭素数1~3の炭化水素基を有するものが好ましい。このようなアクリレート類又はメタクリレート類としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート等が挙げられる。これらの共重合可能なモノマーは、単独で使用してもよく、又は二以上を併用してもよい。
【0222】
ポリカルボン酸系ポリマー中のカルボキシル基はフリーであっても、アルカリ金属やアミン系化合物等によって中和されていてもよい。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられ、アミン系化合物としてはアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0223】
ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量は、得られる繊維製品の撥水性が良好となる観点から、1000~20000が好ましく、3000~15000がより好ましい。
【0224】
ポリカルボン酸系ポリマーは、「ネオクリスタル770」(日華化学株式会社製、商品名)、「セロポールPC-300」(三洋化成工業株式会社製、商品名)等の市販品を用いることができる。
【0225】
上記-O-P(O)(OX)(OX)を有する化合物としては、例えば、下記一般式で表されるリン酸エステル化合物が挙げられる。
[式中、X又はXは上記と同義であり、Xは炭素数1~22のアルキル基を示す。]
【0226】
上記リン酸エステル化合物としては、アルキルエステル部分が、炭素数1~22のアルキル基であるリン酸モノエステル、ジエステル及びトリエステル、並びにこれらの混合物を用いることができる。
【0227】
得られる繊維製品の撥水性が良好となる観点から、ラウリルリン酸エステル、デシルリン酸エステルを用いることが好ましい。
【0228】
リン酸エステル化合物は、例えば、「フォスファノールML-200」(東邦化学工業株式会社製、商品名)等の市販品を用いることができる。
【0229】
上記特定官能基を有する化合物の一種以上が含まれる前処理液は、例えば、上述した化合物の水溶液とすることができる。また、前処理液には、酸、アルカリ、界面活性剤、キレート剤等を含有させてもよい。
【0230】
繊維材料を上記前処理液で処理する方法としては、例えば、パディング処理、浸漬処理、スプレー処理、コーティング処理が挙げられる。パディング処理としては、例えば、繊維染色加工辞典(昭和38年、日刊工業新聞社発行)の396~397頁や色染化学III(1975年、実教出版株式会社発行)の256~260頁に記載のパディング装置を用いた方法が挙げられる。コーティング処理としては、例えば、染色仕上機器総覧(昭和56年、繊維社発行)の473~477頁に記載のコーティング機を用いる方法が挙げられる。浸漬処理としては、例えば、染色仕上機器総覧(昭和56年、繊維社発行)の196~247頁に記載のバッチ式染色機を用いる方法が挙げられ、液流染色機、気流染色機、ドラム染色機、ウインス染色機、ワッシャー染色機、チーズ染色機等を用いることができる。スプレー処理としては、例えば、圧搾空気で処理液を霧状にして吹き付けるエアースプレーや、液圧霧化方式のエアースプレーを用いた方法が挙げられる。このときの処理液の濃度や付与後の熱処理等の処理条件は、その目的や性能等の諸条件を考慮して、適宜調整することができる。また、前処理液が水を含有する場合は、繊維材料に付着させた後に水を除去するために乾燥させることが好ましい。乾燥方法としては、特に制限はなく、乾熱法、湿熱法のいずれであってもよい。乾燥温度も特に制限されないが、例えば、室温~200℃で10秒~数日間乾燥させればよい。必要に応じて、乾燥後に100~180℃の温度で10秒~5分間程度加熱処理してもよい。
【0231】
なお、繊維材料が染色されるものである場合、前処理液による処理は、染色前でも、染色と同浴で行ってもよいが、還元ソーピングを行う場合は、その過程で吸着した上記特定官能基を有する化合物(例えば、フェノール系高分子化合物等)が、脱落してしまうおそれがあるので、染色後の還元ソーピング後に行うことが好ましい。
【0232】
浸漬処理における処理温度は、60~130℃とすることができる。処理時間は、5~60分とすることができる。
【0233】
前処理液による官能基導入工程は、上記特定官能基を有する化合物の付着量が、繊維材料100重量部に対し、1.0~7.0重量部になる量で処理することが好ましい。この範囲内であると、耐久撥水性及び風合いを高水準で両立させることができる。
【0234】
前処理液は、pHを3~5に調整することが好ましい。pH調整は、酢酸、リンゴ酸等のpH調整剤を用いることができる。
【0235】
前処理液には、上記特定官能基を有する化合物を塩析効果により有効に繊維材料に吸着させるために塩を併用することもできる。使用できる塩としては、例えば、塩化ナトリウ
ム、炭酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0236】
前処理液による官能基導入工程では、過剰に処理された上記特定官能基を有する化合物を除去することが好ましい。除去方法としては、水洗による方法が挙げられる。十分な除去を行うことにより、後段の撥水加工において撥水性の発現が阻害されることを抑制することができ、加えて、得られる繊維製品の風合が良好となる。また、得られる官能基含有繊維は、炭化水素系撥水剤に接触させる前に、十分乾燥させておくことが好ましい。
【0237】
(ii)繊維を構成する材料に上記特定官能基が直接導入されている繊維としては、例えば、カチオン可染ポリエステル(CD-PET)が挙げられる。
【0238】
官能基含有繊維は、得られる繊維製品の撥水性が良好となる観点から、表面のゼータ電位が-100~-0.1mVであることが好ましく、-50~-1mVであることがより好ましい。繊維の表面のゼータ電位は、例えば、ゼータ電位・粒径測定システムELSZ-1000ZS(大塚電子株式会社製)にて測定することができる。
【0239】
撥剤は、繊維製品を液体で処理するために知られている方法のいずれかによって繊維状基材 (例えば、 繊維製品など) に適用することができる。 繊維製品が布であるときには、布を溶液に浸してよくあるいは、布に溶液を付着または噴霧してよい。処理された繊維製品は、 撥液性 (撥水性およびまたは撥油性) を発現させるために、乾燥され、好ましくは、例えば、80℃~200℃で加熱される。
あるいは、撥剤はクリーニング法によって繊維製品に適用してよく、 例えば、 洗濯適用またはドライクリーニング法などにおいて繊維製品に適用してよい。
【0240】
処理される繊維製品は、典型的には、布であり、これには、織物、編物および不織布、衣料品形態の布およびカーペットが含まれるが、 繊維または糸または中間繊維製品 (例えば、スライバーまたは粗糸など) であってもよい。 繊維製品材料は、天然繊維 (例えば、綿または羊毛など)、 化学繊維 (例えば、 ビスコースレーヨンまたはレオセルなど)、 または、合成繊維 (例えば、 ポリエステル、ポリアミドまたはアクリル繊維など)であってよく、 あるいは、繊維の混合物 (例えば、 天然繊維および合成繊維の混合物など) であってよい。 また、本開示の方法は一般に、 繊維製品を疎水性および撥水性にする。
あるいは、繊維状基材は皮革であってよい。 製造重合体を、 皮革を疎水性および疎油性にするために、 皮革加工の様々な段階で、 例えば、 皮革の湿潤加工の期間中に、 または、皮革の仕上げの期間中に、 水溶液または水性乳化物から皮革に適用してよい。
【0241】
「処理」とは、撥液性化合物を、浸漬、 噴霧塗布などにより被処理物に適用することを意味する。処理により、撥液撥油性化合物の有効成分が被処理物の内部に浸透するおよび/または被処理物の表面に付着する。
【0242】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例
【0243】
以下、実施例を挙げて本開示を詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0244】
<試験方法>
試験の手順は次のとおりである。
【0245】
[パルプモールドの作製]
自動モールド成型機を使用し、パルプモールドを作製した。下部には、多数の吸引孔を設けた金属製のパルプモールド成形型の上に網状体を配置したもの、上部には、金属製の槽を配置させ、上部の金属槽にパルプスラリーを入れた。パルプモールド成形型の網状体が配置された側と反対側から、真空ポンプにより0.1~1MPaでパルプ含有水性組成物をパルプモールド成形型および網状体を介して吸引・脱水し、パルプ含有水性組成物に含まれる固形分(パルプ等)を網状体の上に堆積させて、パルプモールド中間体を得た。次に、得られたパルプモールド中間体を、60~200℃に加温された金属製のオスメス成形型で上下から、0.1~1MPaの圧力下で乾燥させる。これにより、容器の形状に成形されたパルプモールドを製造した。
【0246】
[実用耐油試験-65℃]
パルプモールドを23℃ 湿度50%の条件下で12時間保管することで前処理を行った。パルプモールドに65℃のコーン油100mlを注ぎ、室温で45分放置した後に、コーン油をパルプモールドから取り出し、パルプモールドの油染みの度合いを評価した。染み込みの程度により、以下のように評価数値を設定した。
5:内側に染み無
4:内側に染み有。裏側に染み無。
3:内側に染み有。裏側にわずかに染み出しあり。
2:内側に染み有。裏への染み出しが面積の50%未満。
1:内側に染み有。裏への染み出しが面積の50%以上100%未満。
0:裏側全体に染み出し。
【0247】
[実用耐油試験-80℃]
パルプモールドを23℃ 湿度50%の条件下で12時間保管することで前処理を行った。65℃のコーン油に代えて、80℃のコーン油を用いた以外は[実用耐油試験-65℃]と同様の操作及び評価を行った。
【0248】
[実用耐油試験-100℃]
パルプモールドを23℃ 湿度50%の条件下で12時間保管することで前処理を行った。65℃のコーン油に代えて、100℃のコーン油を用いた以外は[実用耐油試験-65℃]と同様の操作及び評価を行った。
【0249】
[実用耐油試験-110℃]
パルプモールドを23℃ 湿度50%の条件下で12時間保管することで前処理を行った。65℃のコーン油に代えて、110℃のコーン油を用いた以外は[実用耐油試験-65℃]と同様の操作及び評価を行った。
【0250】
[実用耐油試験-120℃]
パルプモールドを23℃ 湿度50%の条件下で12時間保管することで前処理を行った。65℃のコーン油に代えて、120℃のコーン油を用いた以外は[実用耐油試験-65℃]と同様の操作及び評価を行った。
【0251】
[実用耐水試験]
パルプモールドを23℃ 湿度50%の条件下で12時間保管することで前処理を行った。パルプモールドに100℃の水100mlを注ぎ、室温で30分放置した後に、水をパルプモールドから取り出し、パルプモールドの染みの度合いを評価した。染み込みの程度により、以下のように評価数値を設定した。
5:内側に染み無
4:内側に染み有。裏側に染み無。
3:内側に染み有。裏側にわずかに染み出しあり。
2:内側に染み有。裏への染み出しが面積の50%未満。
1:内側に染み有。裏への染み出しが面積の50%以上100%未満。
0:裏側全体に染み出し。
【0252】
[処理紙の作製]
耐水性(Cobb値)52g/m、坪量45g/m、密度0.60g/mの薄紙に対して、14.9 mg/cm3の撥液性化合物の溶液を、ギャップを0milに設定したベーカー式アプリケーターで3回塗工後、140℃で1分アニールすることで、処理紙を作成した。塗工液の溶液調製にはクロロホルムを用いた。撥液性化合物がクロロホルムに不溶の場合は、トルエン、アセトンなどの有機溶媒を用いた。
【0253】
[KIT試験(耐油性)]
3Mキットテスト(TAPPI T-559cm-02)により測定した。3Mキットテスト法は、ヒマシ油、トルエン、ヘプタンが配合された試験油を処理紙の表面におき、15 秒後に試験油を拭った際、処理紙への油染みの有無により評価する。キット番号1~6の試験油にて試験を実施し、染みが見られなかった最大のキット番号を耐油性の評価結果とした。
【0254】
[コーン油耐性試験(耐油性)]
コーン油を処理紙の表面におき、15秒後に試験油を拭った際、処理紙への油染みの有無により評価する。
染みがない場合を〇、染みが見られるときを×とする。
【0255】
[HD接触角]
撥液性化合物の固形分濃度1.0%の溶液(または分散液)を、シリコンウェハー上に2500rpm、25秒の条件でスピンコートし、平滑なスピンコート膜を得た。これを140℃で1分間加熱することで、化合物処理したシリコンウェハーを作製した。溶媒または分散媒にはクロロホルムを用いた。化合物処理したシリコンウェハー上に、2μLのHD(ヘキサデカン)を滴下し、着滴1秒後の静的接触角を撥液性化合物のHD接触角とした。
【0256】
[パルプモールド製品の引張強度]
パルプモールドの引張強度は、特に限定されないが、JIS P 8113:2006に準じて測定される乾燥状態での比引張強度で評価した。試験片はパルプモールドの底面から幅15mm、長さ50mm、厚み0.8mmの試験片を切り出し、それを使用した。装置は島津製作所社製のオートグラフを用い、引張間隔は30mm、引張速度は10mm/minの条件で試験を行った。
【0257】
[布撥水性試験]
固形分濃度16.8mg/mLの処理液をクロロホルムを溶媒として調製し、布をこの処理液に浸してからマングルに通し、 熱処理した試験布で撥水性を評価した。
JIS-L-1092(AATCC-22) のスプレー法に準じて処理布の撥水性を評価した。 下記に記載する表に示されるように撥水性No.によって表す。 点数が大きいほど撥水性が良好なことを示す。数字に付した 「+」 は、 その数字よりも良好であること、 「-」 は、 その数字よりも不良であることを意味する。 ポリエステル布 (PET) 又は ナイロン布 (Ny)を用いて評価を行った。
【0258】
<化合物2>
ステアリン酸(東京化成品)5.57g、2-アミノー1,3-プロパンジオール(富士フィルム和光純薬品)3.57g、4、4-ジメチルアミノピリジン(富士フィルム和光純薬品)0.239gを脱水ジメチルホルムアミド(富士フィルム和光純薬品)100.0mLに溶解後、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(東京化成品)4.50gの順に添加し、オイルバス温度100℃で一晩撹拌した。翌日、反応溶液を40℃まで冷却後、ろ過し、固体をジメチルホルムアミド、水で洗浄した、洗浄後、固体を乾燥させることで以下に示す化合物1を1.64g得た。
H NMR(CDCl3,400MHz)δ:0.87(t,3H),1.24-1.70(m,30H),2.22(t,2H),3.76-3.96(m,5H),6.16(brd,2H)
【0259】
化合物1 1.64gを脱水テトラヒドロフラン(富士フィルム和光純薬品)35.0mLに溶解後、イソシアン酸オクタデシル(富士フィルム和光純薬品)2.98g、ジラウリン酸ジブチルスズ4滴の順に添加し、オイルバス温度70℃で一晩撹拌した。翌日、反応溶液を室温まで冷却後、ろ過し、固体をテトラヒドロフランで洗浄した、洗浄後、固体を乾燥させることで以下に示す化合物2を4.32g得た。
H NMR(CDCl3,400MHz)δ:0.87(t,9H),1.24-1.75(m,94H),2.15(t,2H),3.00-3.20(m,4H),4.00-4.25(m,4H),4.30-4.40(m,1H),4.70-4.75(m,2H),6.05(brd,2H)
【0260】
<化合物3>
ステアリン酸(東京化成品)6.00g、N,N'-ジ(2-アミノエチル)エチレンジアミン(東京化成品)0.7g、4、4-ジメチルアミノピリジン(富士フィルム和光純薬品)0.12gを脱水クロロホルム(富士フィルム和光純薬品)60.0mLに溶解後、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(東京化成品)4.13gの順に添加し、オイルバス温度50℃で一晩撹拌した。翌日、反応溶液を室温まで冷却後、ろ過し、固体をメタノール、ジエチルエーテル、ジクロロメタンで洗浄した、洗浄後、固体を乾燥させることで以下に示す化合物3を3.76g得た。
H NMR(CDCl3,400MHz)δ:0.87(t,12H),1.24-1.70(m,120H),2.20-2.40(m,8H),3.27-4.10(m,12H),6.16(brd,2H)
【0261】
<化合物4>
CN109280362A(2019-01-29)を参照して、以下に示す化合物4を合成した。
[式中、Rはステアリル基である。]
【0262】
<実施例1~3>
上記で得られた化合物2~4を用いて、モールド試験を行った。
【0263】
化合物2を2gに対して、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル(HLB14 ) 0.2gを混合し、140℃に加熱し溶融した。得られた固体を乳鉢で粉砕し、水17.8gを加えた後、ホモジナイザーで10000rpmの条件で20分攪拌することで、化合物2の水分散組成物を得た。続いて、化合物2の水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。パルプモールドを実用耐油試験-65℃および実用耐水試験に処したところ、耐油性、耐水性が4点であった。
【0264】
化合物3を2gに対して、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル(HLB14 ) 0.2gを混合し、130℃に加熱し溶融した。得られた固体を乳鉢で粉砕し、水17.8gを加えた後、ホモジナイザーで10000rpmの条件で20分攪拌することで、化合物3の水分散組成物を得た。続いて、化合物3の水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。パルプモールドを実用耐油試験-65℃および実用耐水試験に処したところ、耐油性、耐水性が4点であった。
【0265】
化合物4を2gに対して、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル(HLB14 ) 0.2gを混合し、160℃に加熱し溶融した。得られた固体を乳鉢で粉砕し、水17.8gを加えた後、ホモジナイザーで10000rpmの条件で20分攪拌することで、化合物4の水分散組成物を得た。続いて、化合物4の水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。パルプモールドを実用耐油試験-65℃および実用耐水試験に処したところ、耐油性、耐水性が4点であった。
【0266】
試験結果を下記表1にまとめる。併せて融点も示す。
[表1]
【0267】
<実施例4~5>
上記で得られた化合物を用いてKIT試験(耐油性)およびコーン油耐性試験、撥液性の評価を行った。試験結果を下記表2にまとめる。
[表2]
【0268】
<実施例6>
N,N’-エチレンビスオクタデカンアミド(バイオベース度:97%、融点:143℃)2g、ポリエチレングリコールトリメチルノニルエーテル(HLB13)0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た(100μm以上の粒子の体積存在比率:3.9%、体積メジアン径:18μm)。
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して3wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-110℃、実用耐油試験-65℃、および実用耐水試験に処したところ、いずれの評価も4点であった。
【0269】
<実施例7>
N,N’-エチレンビスオレイン酸アミド(バイオベース度:96%、融点:116℃)2g、EO/POポリアルキレングリコールアルコールエーテル0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た。(100μm以上の粒子の体積存在比率:0%、体積メジアン径:24μm)
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
モールドを実用耐油試験-65℃に処したところ4点であり、実用耐水試験に処したところ、4点であった。
N,N’-エチレンビスオレイン酸アミドを用いてKIT試験(耐油性)およびコーン油耐性試験を行ったところKIT試験4点、コーン油耐性試験は〇であった。
【0270】
<実施例8>
N,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド(バイオベース度:83%、融点:124℃)2g、塩化ベンザルコニウム0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た(100μm以上の粒子の体積存在比率:0%、体積メジアン径:7μm)。
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して3wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ、4点であった。
N,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドを用いてKIT試験(耐油性)およびコーン油耐性試験を行ったところKIT試験3点、コーン油耐性試験は〇であった。
【0271】
<実施例9>
N,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド(バイオベース度:83%)2g、ポリエチレングリコールトリメチルノニルエーテル(HLB13)0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た(100μm以上の粒子の体積存在比率:0%、体積メジアン径:9μm)。
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
実用耐油試験-65℃に処したところ4点であり、パルプモールドを実用耐油試験-80℃に処したところ4点であり、パルプモールドを実用耐油試験-120℃に処したところ4点であり、実用耐水試験に処したところ、4点であった。
【0272】
<実施例10>
N,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド(バイオベース度:83%)2g、オレイン酸カリウム0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た(100μm以上の粒子の体積存在比率:0%、体積メジアン径:9μm)。
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ、4点であり、実用耐水試験に処したところ4点であった。
【0273】
<実施例11>
N,N’-エチレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド(バイオベース度:95%、融点:145℃)2g、EO/POポリアルキレングリコール天然アルコールエーテル0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た(100μm以上の粒子の体積存在比率:5%、体積メジアン径:17μm)。
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して5wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ4点であり、パルプモールドを実用耐油試験-110℃に処したところ4点であった。
【0274】
<実施例12>
N,N’-エチレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド(バイオベース度:95%)2g、EO/POポリアルキレングリコール天然アルコールエーテル0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た(100μm以上の粒子の体積存在比率:8.2%)。
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-80℃に処したところ、4点であった。
【0275】
<実施例13>
N,N’-エチレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド(バイオベース度:95%)2g、EO/POポリアルキレングリコール天然アルコールエーテル0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た。(100μm以上の粒子の体積存在比率:5%、体積メジアン径:17μm)
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して3wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐水試験に処したところ、4点であった。
【0276】
<実施例14>
N,N’-ヘキサメチレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド(バイオベース度:85%、融点:134℃)2g、EO/POポリアルキレングリコール天然アルコールエーテル0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た。(100μm以上の粒子の体積存在比率:3.5%、体積メジアン径:12μm)
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して7wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ4点であり、実用耐油試験-80℃に処したところ4点であり、実用耐油試験-100℃に処したところ4点であった。
【0277】
<実施例15>
化合物3を2g、EO/POポリアルキレングリコール天然アルコールエーテル0.2g、水17.8gを混合し、水分散組成物を得た。
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
【0278】
<実施例16>
N(CHCHNHCONHR)
[式中、Rはステアリル基である。]
で表される化合物5を2g、EO/POポリアルキレングリコール天然アルコールエーテル0.2gを混合し、得られた固体を乳鉢で粉砕し、水17.8gを加えた後、ホモジナイザーで10000rpmの条件で20分攪拌することで、化合物5の水分散組成物を得た。(100μm以上の粒子の体積存在比率:0%)
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して7wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ4点であり、実用耐油試験-80℃に処したところ4点であり、実用耐水試験に処したところ4点であった。
【0279】
<実施例17>
RNHCONHCHCHN(CONHR)CHCHN(CONHR)CHCHNHCONHR
[式中、Rはステアリル基である。]
で表される化合物6を2g、EO/POポリアルキレングリコール天然アルコールエーテル0.2gと混合し、得られた固体を乳鉢で粉砕し、水17.8gを加えた後、ホモジナイザーで10000rpmの条件で20分攪拌することで、化合物6の水分散組成物を得た。(100μm以上の粒子の体積存在比率:25.7%)
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ5点であり、実用耐油試験-80℃に処したところ5点であり、実用耐水試験に処したところ5点であった。
【0280】
<実施例18>
N,N’-エチレンビスオクタデカンアミド2g、塩化ベンザルコニウム1.2gポリエチレングリコールトリメチルノニルエーテル0.8g、水36gを湿式微細化装置で150MPaの条件で粉砕し、水分散組成物を得た。(100μm以上の粒子の体積存在比率:0%、体積メジアン径:52μm)
水分散組成物を、固形分換算でパルプに対して10wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。
パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ4点であった。
【0281】
<実施例19>
JIS K 6953-1:2011に基づき、N,N’-エチレンビスオレイン酸アミド(バイオベース度:96%、融点:116℃)の生分解性試験を実施した。試験期間30日時点の生分解性は65%、試験期間60日時点の生分解性は77%であった。
【0282】
<実施例20>
N,N’-エチレンビスオクタデカンアミド、N,N’-エチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド、N,N-エチレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドのHD接触角(n-ヘキサデカン接触角)の測定結果を表3に示した。
【0283】
[表3]
【0284】
<<撥剤添加によるパルプモールドの紙力改善効果>>
<実施例21>
実施例6(N,N’-エチレンビスオクタデカンアミド)にて作製したパルプモールド、実施例8(N,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド)にて作製したパルプモールドおよび、実施例12(N,N-エチレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド)にて作製したパルプモールドの引張強度を評価した結果を表4に示した。
【0285】
<比較例1>
撥液性化合物を加えずにパルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。作製したパルプモールドの引張強度を評価した結果を表4に示した。
【0286】
[表4.パルプモールドの引張試験の評価結果]


表4より撥液性化合物は引張強度を向上させ、紙力を高める効果があることがわかる。
【0287】
<<紙力剤の併用によるパルプモールドの紙力改善効果>>
<実施例22>
実施例8で調整したN,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドの水分散組成物を固形分換算でパルプに対して3wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し30秒攪拌した後、ポリアクリルアミド系紙力剤をパルプに対して0.1wt%添加し30秒攪拌することで、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ、4点であった。作製したパルプモールドの引張強度を評価した結果を表5に示した。
【0288】
<実施例23>
実施例8で調整したN,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドの水分散組成物を固形分換算でパルプに対して3wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し30秒攪拌した後、ポリアクリルアミド系紙力剤をパルプに対して0.5wt%添加し30秒攪拌することで、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ、4点であった。作製したパルプモールドの引張強度を評価した結果を表5に示した。
【0289】
<実施例24>
実施例8で調整したN,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドの水分散組成物を固形分換算でパルプに対して3wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し30秒攪拌した後、ポリアクリルアミド系紙力剤をパルプに対して0.5wt%添加し30秒攪拌することで、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ、4点であった。作製したパルプモールドの引張強度を評価した結果を表5に示した。
【0290】
[表5.パルプモールドの引張試験の評価結果]
【0291】
<実施例25>
実施例8で調整したN,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドの水分散組成物を固形分換算でパルプに対して3wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し30秒攪拌した後、カチオン性澱粉水溶液を固形分換算でパルプに対して3wt%添加し30秒攪拌することで、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ、4点であった。
【0292】
<実施例26>
実施例8で調整したN,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドの水分散組成物を固形分換算でパルプに対して3wt%の比率になるように濃度0.5wt%のパルプスラリーに添加し30秒攪拌した後、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー分散液を固形分換算でパルプに対して0.5wt%添加し30秒攪拌することで、パルプ含有水性組成物を調製した。パルプ含有水性組成物を自動モールド成型機に投入し、パルプモールドを作製した。パルプモールドを実用耐油試験-65℃に処したところ、4点であった。
【0293】
<<布処理 撥水性試験>>
<実施例27>
[撥水性試験〕
N,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドを用いて、固形分濃度16.8mg/mLの処理液をクロロホルムを溶媒として調製し、PET布をこの処理液に浸してからマングルに通し、室温で24時間風乾した。その後140℃で5分熱処理した後、室温に冷却し試験布を調製した。試験布で撥水性を評価した。 撥水性試験の結果、撥水性は90点であった。
【0294】
<<パルプモールドからの化合物抽出とH NMR測定>>
<実施例28>
実施例6と同様の方法でN,N’-エチレンビスオクタデカンアミドを添加したパルプモールドを作製した。3mm径の穴あけポンチを用いて、パルプモールドの底面から3mm径の切片を10枚切り出した。10枚の切片を2mLのバイアル瓶に入れ、CDClを2g加えた後、蓋をして60℃で1時間加熱した。バイアル瓶からCDClをNMRチューブに移し、H NMRを測定して以下の結果を得た。N,N’-エチレンビスオクタデカンアミドに相当するH NMRスペクトルを確認した。
H NMR(CDCl3,400MHz)δ:0.88(t,6H),1.20-1.80(m,60H),2.17(t,2H),2.35(t,1H),3.39(m,2H)
【0295】
<実施例29>
実施例7と同様の方法でN,N’-エチレンビスオレイン酸アミドを添加したパルプモールドを作製した。実施例28と同様の方法でH NMR測定を行い、以下の結果を得た。N,N’-エチレンビスオレイン酸アミドに相当するH NMRスペクトルを確認した。
H NMR(CDCl3,400MHz)δ:0.88(t,6H),1.20-1.80(m,44H),1.90-2.21(t,12H),3.38(m,4H),5.28-5.42(m,4H)
【0296】
<実施例30>
実施例9と同様の方法でN,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドを添加したパルプモールドを作製した。実施例28と同様の方法でH NMR測定を行い、以下の結果を得た。N,N’-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドに相当するH NMRスペクトルを確認した。
H NMR(CDCl3,400MHz)δ:0.88(m,6H),1.20-1.80(m,64H),2.21(t,3H),4.43(m,4H),7.15-7.21(m,4H)