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<図1>
  • 特許-めっき鋼板 図1
  • 特許-めっき鋼板 図2
  • 特許-めっき鋼板 図3A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/48 20060101AFI20250312BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20250312BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20250312BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
C25D5/48
C25D5/26 C
C23C2/06
C23C2/26
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024548768
(86)(22)【出願日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2024004426
(87)【国際公開番号】W WO2024166989
(87)【国際公開日】2024-08-15
【審査請求日】2024-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2023017667
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】二葉 敬士
(72)【発明者】
【氏名】上杉 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】久米 くるみ
(72)【発明者】
【氏名】福井 圭太
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/213690(WO,A1)
【文献】特表2022-515160(JP,A)
【文献】国際公開第2019/074102(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/194229(WO,A1)
【文献】特開2021-046597(JP,A)
【文献】特開2021-046598(JP,A)
【文献】特開2022-050256(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241475(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0092204(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00 - 7/12
C23C 2/00 - 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板であって、
母材鋼板と、
前記母材鋼板上に形成されており、表面にヘアラインが形成されているめっき層とを備え、
前記めっき層の表面において、
前記ヘアラインの延在方向と垂直な方向の5000μm長さの測定範囲で表面粗さプロファイルをレーザー顕微鏡により測定し、前記測定範囲の前記表面粗さプロファイルを求め、
前記測定範囲を、前記測定範囲の端から50μm長さピッチで配列される100個の微小域n(nは1~100までの整数)で区画し、前記各微小域nごとに、不感帯幅を360nmとするピークカウントRPcを求め、
前記測定範囲において、
隣り合う微小域nのピークカウントRPcの絶対差が6以上となる第1コントラスト部の総数をNとし、
前記微小域m(mは1~98の整数)のピークカウントRPcと前記微小域m+1のピークカウントRPcとの絶対差が6未満であって、前記微小域mのピークカウントRPcと前記微小域m+2のピークカウントRPcの絶対差が6以上である第2コントラスト部の総数をMとし、
前記微小域k(kは1~98の整数)のピークカウントRPcと前記微小域k+1のピークカウントRPcとの絶対差が6以上であって、かつ、前記微小域k+1のピークカウントRPcと前記微小域k+2のピークカウントRPcとの絶対差が6以上である第3コントラスト部の総数をKとしたとき、式(1)で定義されるコントラスト部の総数Jが7よりも多い、
めっき鋼板。
J=N+M-K (1)
【請求項2】
請求項1に記載のめっき鋼板であって、
前記めっき層を平面視したときの母材鋼板の露出率が5.0%未満である、
めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のめっき鋼板であって、
前記めっき層は亜鉛系めっき層である、
めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、めっき鋼板に関し、さらに詳しくは、表面にヘアラインが形成されためっき層を有するめっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器、建材、及び、自動車等の物品は、耐食性及び意匠性が求められる場合がある。このような用途に適した材料として、めっき層の表面にテクスチャの一種であるヘアラインが形成されているめっき鋼板が提案されている。
【0003】
例えば、特表2010-509495号公報(特許文献1)及び特開2006-124824号公報(特許文献2)では、溶融亜鉛めっき層が形成されためっき鋼板において、溶融亜鉛めっき層の表面にヘアラインを形成して、めっき鋼板の意匠性を高めている。
【0004】
また、特開2017-136645号公報(特許文献3)、及び、特表2013-536901号公報(特許文献4)では、電気亜鉛めっき層が形成されためっき鋼板において、電気亜鉛めっき層の表面にヘアラインを形成して、めっき鋼板の意匠性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-509495号公報
【文献】特開2006-124824号公報
【文献】特開2017-136645号公報
【文献】特表2013-536901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献では、ヘアラインが形成されためっき層の表面粗さを調整することで、めっき鋼板の意匠性を高めている。
【0007】
ところで、求められるヘアラインの見え方は、用途によって異なる。例えば、電気機器用途のめっき鋼板の場合、1m未満の近距離からめっき鋼板を見た場合に、ヘアラインが視認できることが求められる。本明細書において、ヘアラインが視認できることを、ヘアラインの意匠性が高いともいう。
【0008】
本開示の目的は、近距離から見た場合にヘアラインの意匠性を高めることが可能なめっき鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によるめっき鋼板は、母材鋼板と、めっき層とを備える。めっき層は、母材鋼板上に形成されており、表面にヘアラインが形成されている。めっき層の表面において、ヘアラインの延在方向と垂直な方向の5000μm長さの測定範囲で表面粗さプロファイルをレーザー顕微鏡により測定し、測定範囲の表面粗さプロファイルを求める。測定範囲を、測定範囲の端から50μm長さピッチで配列される100個の微小域n(nは1~100までの整数)で区画し、各微小域nごとに、不感帯幅を360nmとするピークカウントRPcを求める。測定範囲において、隣り合う微小域nのピークカウントRPcの絶対差が6以上となる第1コントラスト部の総数をNとする。微小域m(mは1~98の整数)のピークカウントRPcと微小域m+1のピークカウントRPcとの絶対差が6未満であって、微小域mのピークカウントRPcと微小域m+2のピークカウントRPcの絶対差が6以上である第2コントラスト部の総数をMとする。微小域k(kは1~98の整数)のピークカウントRPcと微小域k+1のピークカウントRPcとの絶対差が6以上であって、かつ、微小域k+1のピークカウントRPcと微小域k+2のピークカウントRPcとの絶対差が6以上である第3コントラスト部の総数をKとする。この場合、式(1)で定義されるコントラスト部の総数Jが7よりも多い。
J=N+M-K (1)
【発明の効果】
【0010】
本開示のめっき鋼板は、近距離から見た場合にヘアラインの意匠性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面に形成されたヘアラインの一例を示す写真画像である。
図2図2は、ヘアラインが形成されためっき層の表面のSEM画像である。
図3A図3Aは、ヘアラインの延在方向に垂直な断面でのめっき層の表面粗さの一例を示す模式図である。
図3B図3Bは、図3Aと異なる、ヘアラインの延在方向に垂直な断面でのめっき層の表面粗さの一例を示す模式図である。
図4図4は、本実施形態のめっき鋼板の断面図である。
図5図5は、図4に示すめっき鋼板を、めっき層の上方から見た平面図である。
図6図6は、レーザー顕微鏡で測定された表面粗さプロファイルの一例を示す図である。
図7図7は、1つの微小域n(nは1~100までの整数)でのピークカウントRPcの測定方法を説明するための模式図である。
図8図8は、測定範囲でのピークカウントRPcの一例を示す図である。
図9図9は、図8と異なる、測定範囲でのピークカウントRPcの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、ヘアラインが形成されためっき鋼板において、近距離から見た場合のヘアラインの意匠性を高める手段を検討した。本明細書において、近距離とは、ヘアライン鋼板との距離が1m未満であることを意味する。また、意匠性が高いとは、ヘアラインが視認できることを意味する。
【0013】
従前のヘアラインが形成されためっき鋼板では、ヘアラインが形成されためっき層の表面粗さ(例えば算術平均粗さRa)を調整していた。めっき鋼板のめっき層の表面にヘアラインを形成する場合、研削ベルト等を用いて、めっき層の表面に一方向に延びる複数の研削痕を形成する。従前のめっき鋼板では、この研削痕の深さを深くすることにより、ヘアラインの視認性を高めて、図1に示すような、めっき層の表面のヘアラインの視認性を高めていた。
【0014】
上述の技術思想は、ヘアラインのコントラストが、研削痕の深さ(表面に形成された凹凸の高低差)と相関することを前提としている。この場合、目視で視認可能なヘアラインのマクロな領域でのコントラストが、ヘアラインが視認される表面のミクロな領域での凹凸のコントラストと相関すると考えられる。そこで、本発明者らは、目視で視認可能なヘアラインが形成されためっき層の表面のミクロな領域の凹凸のコントラストを、以下の方法で確認した。
【0015】
具体的には、ヘアラインが形成されためっき層の表面の微小域を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。図2は、ヘアラインが形成されためっき層の表面のミクロ領域のSEM画像(二次電子像:視野面積は750μm×750μm)である。図2を参照して、ヘアラインが視認可能な表面のミクロ領域では、一方向に延在する研削痕(凹部及び凸部)が形成されており、研削痕の深さ(凹部及び凸部の高低差)によるコントラストが確認された。しかしながら、目視で視認可能なヘアラインのマクロなコントラストと、図2に示すミクロ領域での凹凸のコントラストとは必ずしも相関していない場合があることが判明した。つまり、めっき鋼板におけるめっき層の表面の研削痕(凹凸)の深さが、近距離からめっき鋼板を見た場合のヘアラインの意匠性とは必ずしも相関していなかった。
【0016】
以上の新規の知見に基づいて、本発明者らは、近距離で見た場合のヘアラインの意匠性を高めるために、従来のように研削痕の深さを深くして表面の凹凸の平均高低差を高めるのではなく、他の手段を採用することを検討した。
【0017】
検討の結果、本発明者らは、ヘアラインの視認性は、研削痕の深さ(凹凸の平均高低差)よりも、研削痕の分布状態(凹凸の密度差)と顕著に相関することを見出した。具体的には、コントラストとして視認可能な程度の高低差を有する凹凸を「視認凹凸」と定義し、ヘアラインの延在方向に垂直な方向を所定単位の複数の微小域に分割した場合、隣り合う微小域での視認凹凸の密度差が大きければ、隣り合う微小域の境界でのコントラストの視認性が高まる。その結果、ヘアラインの視認性が高まる。隣り合う微小域での視認凹凸の密度差が小さければ、隣り合う微小域の境界の視認性が低下する。その結果、ヘアラインの視認性が低下する。以降の説明では、隣り合う微小域の境界であって、隣り合う微小域の視認凹凸の密度差が大きい境界を「コントラスト部」と称する。コントラスト部が多ければ、ヘアラインの視認性が高まる。つまり、視認凹凸の密度分布を調整することにより、ヘアラインの視認性を高めることができる。
【0018】
図3Aは、ヘアラインの延在方向に垂直な断面でのめっき層の表面粗さを示す模式図である。図3Aを参照して、めっき層の表面を、ヘアラインの延在方向に垂直な方向に所定長さLの複数の微小域1~8に区画したと仮定する。各微小域1~8はいずれも同じ長さである。各微小域1~8において、所定の高低差以上の凹凸であって、視認可能な凹凸(視認凹凸)の密度(個/L)を求める。図3Aでは、微小域1での視認凹凸密度が10個/L、微小域2での視認凹凸密度が2個/L、微小域3での視認凹凸密度が1個/Lであったとする。図3Aにおいて、隣り合う微小域での視認凹凸密度差が6個/L以上となる境界は、十分視認可能である。そのため、当該境界を「コントラスト部」と認定する。図3Aでは、微小域1と微小域2との境界での視認凹凸密度差、微小域3と微小域4との境界での視認凹凸密度差、微小域7と微小域8との境界での視認凹凸密度差が、それぞれ6個/L以上となる。したがって、これらの境界が、コントラスト部に相当する。
【0019】
本発明者らはさらに、ヘアラインを近距離から観察した場合、隣り合うコントラスト部の間隔が狭すぎれば、視認凹凸と見なせず、ヘアラインの意匠性が低下することを見出した。例えば、めっき層の表面が図3Bの場合、微小域1及び微小域2の境界での視認凹凸密度差、微小域2及び微小域3の境界での視認凹凸密度差、微小域3及び微小域4の境界での視認凹凸密度差、及び、微小域7及び微小域8の境界での視認凹凸密度差が、それぞれ6個/L以上となる。したがって、これらの境界がコントラスト部に相当する。図3Bでは、隣り合う境界(微小域1及び微小域2の境界、微小域2及び微小域3の境界、及び、微小域3及び微小域4の境界)でコントラスト部が連続して存在する。近距離からヘアラインを視認する場合、遠距離からヘアラインを視認する場合と比較して、より細いヘアラインも視認可能となる。しかしながら、近距離であってもコントラスト部が連続して存在すると、隣り合う連続したコントラスト部を見分けることが困難となる。そのため、ヘアラインを近距離から観察した場合、微小域1~微小域4の領域では複数のコントラスト部が近接しているため、これらのコントラスト部が1つのコントラスト部として認識される。一方、めっき層の表面が図3Aの場合、複数のコントラスト部は互いに隙間を設けて配置されており、連続して配置されていない。そのため、ヘアラインを近距離から観察した場合、それぞれのコントラスト部が視認され、ヘアラインの意匠性が高まる。
【0020】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、近距離から見た場合のヘアラインの意匠性を高める手段をさらに検討した。その結果、亜鉛系めっき層の表面において、ヘアラインの延在方向と垂直な方向の5000μm長さの測定範囲で表面粗さプロファイルをレーザー顕微鏡により測定して得られた、測定範囲の表面粗さプロファイルにおいて、次の規定を満たせば、近距離から見た場合のヘアラインの意匠性が高まることを見出した。
【0021】
具体的には、測定範囲の表面粗さプロファイルにおいて、測定範囲を、測定範囲の端から50μm長さピッチで配列される100個の微小域n(nは1~100までの整数)に区分けする。各微小域nごとに、不感帯幅を360nmとするピークカウントRPcを求める。測定範囲において、隣り合う微小域nのピークカウントRPcの絶対差が6以上となる第1コントラスト部の総数をNとする。微小域m(mは1~98の整数)のピークカウントRPcと微小域m+1のピークカウントRPcとの絶対差が6未満であって、微小域mのピークカウントRPcと微小域m+2のピークカウントRPcの絶対差が6以上である第2コントラスト部の総数をMとする。微小域k(kは1~98の整数)のピークカウントRPcと微小域k+1のピークカウントRPcとの絶対差が6以上であって、かつ、微小域k+1のピークカウントRPcと微小域k+2のピークカウントRPcとの絶対差が6以上である第3コントラスト部の総数をKとする。この場合、式(1)で定義されるコントラスト部の総数Jが7よりも多い。
J=N+M-K (1)
【0022】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態のめっき鋼板の要旨は次のとおりである。
【0023】
[1]
めっき鋼板であって、
母材鋼板と、
前記母材鋼板上に形成されており、表面にヘアラインが形成されているめっき層とを備え、
前記めっき層の表面において、
前記ヘアラインの延在方向と垂直な方向の5000μm長さの測定範囲で表面粗さプロファイルをレーザー顕微鏡により測定し、前記測定範囲の前記表面粗さプロファイルを求め、
前記測定範囲を、前記測定範囲の端から50μm長さピッチで配列される100個の微小域n(nは1~100までの整数)で区画し、前記各微小域nごとに、不感帯幅を360nmとするピークカウントRPcを求め、
前記測定範囲において、
隣り合う微小域nのピークカウントRPcの絶対差が6以上となる第1コントラスト部の総数をNとし、
前記微小域m(mは1~98の整数)のピークカウントRPcと前記微小域m+1のピークカウントRPcとの絶対差が6未満であって、前記微小域mのピークカウントRPcと前記微小域m+2のピークカウントRPcの絶対差が6以上である第2コントラスト部の総数をMとし、
前記微小域k(kは1~98の整数)のピークカウントRPcと前記微小域k+1のピークカウントRPcとの絶対差が6以上であって、かつ、前記微小域k+1のピークカウントRPcと前記微小域k+2のピークカウントRPcとの絶対差が6以上である第3コントラスト部の総数をKとしたとき、式(1)で定義されるコントラスト部の総数Jが7よりも多い、
めっき鋼板。
J=N+M-K (1)
【0024】
[2]
[1]に記載のめっき鋼板であって、
前記めっき層を平面視したときの母材鋼板の露出率が5.0%未満である、
めっき鋼板。
【0025】
[3]
[1]又は[2]に記載のめっき鋼板であって、
前記めっき層は、亜鉛系めっき層である、
めっき鋼板。
【0026】
以下、本実施形態のめっき鋼板について図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0027】
[めっき鋼板1について]
図4は、本実施形態のめっき鋼板1の断面図である。図4において、めっき鋼板1の圧延方向をRDと定義する。めっき鋼板1の板厚方向をTDと定義する。めっき鋼板1の圧延方向RD及び板厚方向TDに垂直な板幅方向をWDと定義する。
【0028】
図4を参照して、めっき鋼板1は、母材鋼板100と、めっき層10とを備える。めっき層10は、母材鋼板100の表面上に形成されている。図4では、めっき層10は、母材鋼板100の片面にのみ形成されている。しかしながら、めっき鋼板1は、母材鋼板100の両面にめっき層10が形成されていてもよい。
【0029】
めっき鋼板1はさらに、図示しない樹脂層を備えてもよい。めっき鋼板1が樹脂層を備える場合、樹脂層は、めっき層10の表面に形成される。また、めっき鋼板1は、図示しない化成被膜を備えてもよい。化成被膜は、めっき層10の表面に形成される。めっき鋼板1は、めっき層10上に形成された化成被膜と、化成被膜上に形成された樹脂層とを備えてもよい。
【0030】
図5は、図4に示すめっき鋼板1を、めっき層10の上方から見た平面図である。図5を参照して、めっき鋼板1のめっき層10の表面には、ヘアラインHLが形成されている。ヘアラインHLは、圧延方向RDに延在する複数の微細な凹凸で構成されている。微細な凹凸は例えば、研削痕である。以下、母材鋼板100及びめっき層10について説明する。
【0031】
[母材鋼板100について]
母材鋼板100は、製造するめっき鋼板1に求められる各機械的性質(例えば、引張強度、加工性等)に応じて、周知のめっき鋼板(例えば、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等)に適用される公知の鋼板を使用すればよい。例えば、母材鋼板100として、電気機器用途の鋼板を使用してもよいし、建材用途の鋼板を使用してもよい。母材鋼板100は熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。
【0032】
母材鋼板の化学組成は例えば、質量%で、C:0.01~0.25%、Si:0.001~1.200%、Mn:0.01~2.50%、P:0.001~0.200%、S:0.001~0.050%、sol.Al:0.015~0.060%を含有し、残部がFe及び不純物である。
【0033】
[めっき層10について]
めっき層10は、母材鋼板100の表面上に形成されている。めっき層10の種類は特に限定されない。めっき層10は例えば、Ni系めっき層、Cu系めっき層、亜鉛系めっき層、Au系めっき層、Sn系めっき層、Al系めっき層、及び、Ni、Cu、Zn、Au、Sn及びAlのうちの2種以上を含有する合金めっき層等である。上述のX系めっき層(XはNi、Cu、Zn、Au、Sn及びAlの1種)とは、主としてXからなるめっき層を意味する。主としてXからなるとは、めっき層中の主成分元素であるXの含有量が少なくとも50.0%以上であることを意味する。例えば、亜鉛系めっき層は、Zn含有量が50.0%以上であるめっき層を意味する。
【0034】
形成されたヘアラインHLの美観の観点では、好ましいめっき層10は、耐久性に優れたNi系めっき層、Cu系めっき層、Au系めっき層、Sn系めっき層、Al系めっき層、又は、Ni、Cu、Au、Sn及びAlのうちの2種以上を含有する合金めっき層である。
【0035】
一方、めっき層10の表面にヘアラインHLを形成するときのめっき層10への損傷を考慮すれば、めっき層10はヘアラインHLが形成されても耐食性に優れた組成を有する方が好ましい。したがって、美観及び耐食性を両立させる観点で好ましいめっき層10は、犠牲防食機能を有し耐食性に優れる亜鉛系めっき層である。
【0036】
めっき層10が亜鉛系めっき層である場合、上述のとおり、めっき層中のZn含有量が少なくとも50.0%以上であることを意味する。亜鉛系めっき層の化学組成は例えば、質量%でZnを50.0%以上含有し、任意元素として、Al、Mg、Si、Ni、Fe、Co、Cr、Ca、Y、La、Ce、Sn、Bi、In、Ti、V、Nb、Cu、Mn、Sr、Sb、Pb、及び、Bからなる群から選択される1種以上を合計で0~50.0%含有し、さらに任意元素としてCを0~5.0%含有してもよい。亜鉛系めっき層の化学組成は、Al、Mg、Si、Ni、Fe、Co、Cr、Ca、Y、La、Ce、Sn、Bi、In、Ti、V、Nb、Cu、Mn、Sr、Sb、Pb、B及びCを含有しなくてもよい。
【0037】
亜鉛系めっき層中のZn含有量の好ましい下限は80.0%であり、さらに好ましくは85.0%である。つまり、亜鉛系めっき層は、Zn又はZn合金からなり、残部は不純物である。亜鉛系めっき層は、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきからなる層である。また、亜鉛系めっき層は、電気亜鉛系めっき層又は溶融亜鉛系めっき層である。なお、上述のとおり、亜鉛系めっき層の化学組成は周知である。
【0038】
[めっき層10の化学組成の測定方法]
X系めっき層からなる上述のめっき層10の化学組成は、次の方法で測定できる。めっき鋼板1の板厚方向TDに平行な断面を含み、めっき層10を含むサンプルを採取する。板厚方向TDに平行な断面を観察面という。サンプルの観察面において、めっき鋼板1の表面から板厚方向TDに、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)法に基づく線分析を実施して、測定対象となる線上での各元素の含有量(質量%)を求める。線分析において、主成分元素であるXを50.0質量%以上含有する領域(範囲)を、X系めっき層と特定する。サンプル観察面において、任意の10箇所で線分析を実施し、線分析により特定されたX系めっき層10の範囲(線上)での各元素含有量(質量%)を求める。10カ所の線分析で得られた、X系めっき層10の範囲での各元素含有量の算術平均値を求める。求めた各元素含有量の算術平均値に基づいて、X系めっき層10の化学組成を特定する。
【0039】
[めっき層10の厚さについて]
めっき層10の厚さは特に限定されず、周知の厚さであれば足りる。めっき層10が亜鉛系めっき層である場合、めっき層10の厚さは例えば、0.5~25.0μmである。
【0040】
[めっき層10の厚さの測定方法]
めっき層10の厚さは、次の方法により求めることができる。めっき鋼板1の板厚方向TDに平行な断面を含み、めっき層10を含むサンプルを採取する。板厚方向に平行な断面を観察面という。サンプルの観察面を鏡面研磨する。走査型電子顕微鏡を用いて、鏡面研磨後の観察面をめっき層10の板厚方向TDの長さ(厚さ)全体が観察できる倍率(500~3000倍)で観察して、反射電子像を生成する。反射電子像では、母材鋼板100と、めっき層10とはコントラストにより容易に区別可能である。そこで、コントラストに基づいて、めっき層10を特定する。特定されためっき層10の板厚方向TDの長さ(厚さ)を、任意の10箇所で測定する。測定された10箇所の厚さの算術平均値を、めっき層10の厚さ(μm)と定義する。
【0041】
[ヘアラインHLについて]
図5に示すとおり、めっき層10の表面には、ヘアラインHLが形成されている。図5では、ヘアラインHLの延在方向は、圧延方向RDである。しかしながら、ヘアラインHLは圧延方向RDに延在しておらず、他の方向に延在していてもよい。ヘアラインHLは、ヘアラインHLの延在方向と垂直な方向に配列されている。図5では、ヘアラインHLは、板幅方向WDに配列されている。図2で説明したとおり、ヘアラインHLが形成されためっき層10の表面の微小域では、一方向に延在する凹部と凸部とが形成されている。
【0042】
[微小域でのコントラスト部について]
上述のとおり、ヘアラインHLの視認性は、めっき層10の表面のヘアラインHLの延在方向に垂直な方向に形成されている複数の凹凸を複数の微小域に区画したとき、隣り合う微小域の視認凹凸の密度差が大きい境界であるコントラスト部の密度と相関する。さらに、近距離から見た場合のヘアラインHLの意匠性は、隣り合うコントラスト部の間隔も影響する。以下、コントラスト部の特定方法を説明する。
【0043】
[コントラスト部の特定方法]
コントラスト部は次の方法で定義される。
図5に示すとおり、めっき層10の表面のヘアラインHLの延在方向に垂直な方向の5000μm長さの任意の範囲を、測定範囲MRとする。測定範囲MRの表面粗さプロファイルを、レーザー顕微鏡を用いて測定する。レーザー顕微鏡は次の条件を満たす。
・レーザー共焦点型のレーザー顕微鏡を用いる。
・光源波長は410nm以下とする。
・高さ表示分解能を1nm以下とする。
・幅正確さが測定値の±5%以内を満たす。
・5000μm長さを一視野で観察した場合に高さ方向の測定値の精度を担保できる。
上記条件を満たすレーザー顕微鏡は例えば、株式会社キーエンス製の商品名:形状解析レーザー顕微鏡VK-X250である。なお、5000μm長さを一視野で観察した場合に高さ方向(Z軸方向)の測定値の精度が担保できない場合、Z軸方向の測定値の精度を担保できる倍率で観察した連続する複数の画像を連結して1つのプロファイルとして測定してもよい。得られたプロファイルの一例を図6に示す。
【0044】
なお、めっき層10の表面に樹脂層及び/又は化成被膜が形成されている場合、めっき層10を侵さない溶剤又はリムーバー等の剥離剤を用いて、樹脂層及び化成被膜を除去する。樹脂層及び化成被膜を除去した後、めっき層10の測定範囲MRの表面粗さプロファイルを測定する。剥離剤は例えば三彩化工株式会社製の商品名:ネオリバーS-701である。
【0045】
レーザー顕微鏡は光学的に表面形状を測定する。めっき層10上に形成された樹脂層は光を透過する。そのため、めっき層10上に樹脂層が形成されていても、レーザー顕微鏡を用いてめっき層10の表面形状を測定することはできる。しかしながら、レーザー顕微鏡から発信されるレーザーが樹脂層により屈折又は散乱する可能性がある。この場合、粗さプロファイルの精度が低下する可能性がある。そこで、めっき層10上に樹脂層が形成されている場合、めっき層10の表面の粗さプロファイルを測定する前に、樹脂層を除去する。
【0046】
測定範囲MRで得られた表面粗さプロファイルを用いて、JIS B0601:2013を参考にして、ピークカウントRPcを次の方法で求める。表面粗さプロファイルにおいて、測定範囲MRを、測定範囲MRの端Pから50μmピッチで配列される100個の微小域n(nは1~100までの整数)で区画する。そして、100個の各微小域nごとに、ピークカウントRPcを求める。
【0047】
ピークカウントRPcは次の方法で求める。図7は、1つの微小域nでのピークカウントRPcの測定方法を説明するための模式図である。図7に示すとおり、測定した断面曲線をカットオフ波長λ=0.08mmで処理して表面粗さプロファイルC1を得る。得られた表面粗さプロファイルC1の平均線Xを中心として、幅360nmの不感帯DBを設ける。表面粗さプロファイルC1において、不感帯DBよりも下に出た点から不感帯DBよりも上に出た後、再度不感帯DBよりも下に出るまでを1つのピークとしてカウントする。図7の例では、ピークカウントが6個である。なお、不感帯DBを360nmとしているのは、360nmが可視光線の最低波長であるためである。つまり、ピークカウントRPcとしてカウントされた凹凸は、視認可能な凹凸である。不感帯DBよりも大きい高低差の凹凸を「視認凹凸」と定義する。以上の方法により、各微小域nごとのピークカウントRPcを求める。微小域nのピークカウントは、微小域n内の視認凹凸の密度を意味する。
【0048】
得られた各微小域のピークカウントRPcに基づいて、隣り合う微小域nの視認凹凸が所定の密度差となる境界部分であるコントラスト部を特定する。具体的には、次の方法で、第1コントラスト部の総数N、第2コントラスト部の総数M、第3コントラスト部の総数Kを特定する。
【0049】
(1)測定範囲MRにおいて、隣り合う微小域nのピークカウントRPcの絶対差は、隣り合う微小域n,n+1の視認凹凸の密度差を意味する。そこで、隣り合う微小域nのピークカウントRPcの絶対差が6以上となる領域を「第1コントラスト部」と定義する。第1コントラスト部は、近距離から視認可能な領域である。測定範囲MRでの第1コントラスト部の総数をNとする。
(2)測定範囲MRにおいて、微小域m(mは1~98の整数)のピークカウントRPcと微小域m+1のピークカウントRPcとの絶対差が6未満であって、かつ、微小域mのピークカウントRPcと微小域m+2のピークカウントRPcの絶対差が6以上となる領域を「第2コントラスト部」と定義する。第2コントラスト部は、第1コントラスト部と同様に近距離から視認可能な領域である。測定範囲MRでの第2コントラスト部の総数をMとする。
(3)微小域k(kは1~98の整数)のピークカウントRPcと微小域k+1のピークカウントRPcとの絶対差が6以上であって、かつ、微小域k+1のピークカウントRPcと微小域k+2のピークカウントRPcとの絶対差が6以上となる領域を「第3コントラスト部」と定義する。第3コントラストは、2つのコントラスト部が連続して隣接しているために1つのコントラストとして視認される領域である。測定範囲MRでの第3コントラスト部の総数をKとする。
【0050】
以上の方法で求めた第1コントラスト部の総数N、第2コントラスト部の総数M、及び、第3コントラスト部の総数Kを用いて、測定範囲MRでのコントラスト部の総数Jを式(1)で定義する。
J=N+M-K (1)
【0051】
コントラスト部の総数Jは、測定範囲MRにおいて視認可能な微小域の境界部分(コントラスト部)の密度を意味し、視認可能なヘアラインHLの密度を意味する。コントラスト部の総数Jが7よりも多い場合、近距離から視認可能なコントラストの密度が十分に高い。そのため、近距離から見た場合にヘアラインの意匠性が高まる。
【0052】
図8は測定範囲MRでのピークカウントRPcの一例である。図8の測定範囲MRでは、第1コントラスト部(図8中でNで表記)の総数Nが10であり、第2コントラスト部(図8中でMで表記)の総数Mが8であり、第3コントラスト部(図8中Kで表記)の総数Kが1である。そのため、測定範囲MRでのコントラスト部の総数Jは17となる。したがって、図8の場合、近距離から見た場合のヘアラインの意匠性が高まる。
【0053】
図9は、図8とは異なる、測定範囲MRでのピークカウントRPcの一例である。図9の測定範囲MRでは、第1コントラスト部(図9中でNで表記)の総数Nが5であり、第2コントラスト部(図9中でMで表記)の総数Mが3であり、第3コントラスト部(図9中Kで表記)の総数Kが1である。そのため、測定範囲MRでのコントラスト部の総数Jは7となる。したがって、図9の場合、近距離から見た場合のヘアラインの意匠性は低い。
【0054】
以上のとおり、本実施形態のめっき鋼板1では、測定範囲MR内において50μmピッチで区分された微小域でのピークカウントRPcから導かれるコントラスト部の総数Jが7よりも多い。この場合、めっき層10の表面でのコントラスト部の密度が十分に高い。そのため、近距離から見た場合のヘアラインの意匠性が高まる。
【0055】
総数Jの好ましい下限は10であり、さらに好ましくは14である。
【0056】
[めっき鋼板1を平面視した場合の母材鋼板100の好ましい露出率]
めっき鋼板1のめっき層10を平面視したときの母材鋼板100の好ましい露出率は、5.0%未満である。母材鋼板100のさらに好ましい露出率は0%である。この場合、めっき鋼板1において、十分な耐食性(長期耐食性)が得られる。
【0057】
本実施形態のめっき鋼板1では、従前のめっき鋼板のように、めっき層10の表面の凹凸の平均高低差(研削痕の深さ等)を高めることでヘアラインHLの視認性及び意匠性を高めるのではなく、上述のコントラスト部の密度を高めることにより、近距離から見た場合のヘアラインHLの意匠性を高める。したがって、本実施形態のめっき鋼板1では、従前のヘアラインが形成された鋼板と異なり、ヘアラインHLの意匠性を高めるために、めっき層10を必要以上に研削する必要がない。その結果、めっき鋼板1において、母材鋼板100の露出率を抑制しやすい。特に、めっき鋼板1のめっき層10が電気めっき層である場合、電気めっき層が1.5~6.0μmの厚さで薄く形成してもよい。このような場合であっても、本実施形態のめっき鋼板1では、母材鋼板100の露出率を5.0%未満に抑えることができる。その結果、長期的な耐食性を確保しつつ、近距離から見た場合のヘアラインHLの視認性を高めることができる。
【0058】
[露出率の測定方法]
めっき鋼板1における母材鋼板100の露出率は、次の方法により測定する。初めに、上述の[めっき層10の化学組成の測定方法]に基づいて、めっき層の化学組成を特定し、めっき層の主成分元素Xを特定する。得られた化学組成において、質量%で50.0%以上の元素を主成分元素Xとする。次に、[めっき層10の化学組成の測定方法]のサンプルを採取しためっき鋼板1を用いて、めっき鋼板1をめっき層10の上方から見て(めっき鋼板1を平面視して)、1mm×1mmの任意の矩形領域を5箇所選択する。選択された矩形領域に対してEPMA分析(面分析)を実施する。画像解析により、各矩形領域中において、めっきの主成分元素Xが検出されない領域(めっき未検出領域)を特定する。本実施形態では、めっき主成分元素Xの検出強度が標準試料(純金属試料)を測定した場合の検出強度の1/16以下となる領域を、めっき主成分元素未検出領域と認定する。5つの矩形領域の総面積に対する、めっき主成分元素未検出領域の総面積の割合(%)を、母材鋼板100の露出率(%)と定義する。
【0059】
[本実施形態のめっき鋼板1の他の形態]
本実施形態のめっき鋼板1は、上述の実施形態に限定されない。上述のとおり、本実施形態のめっき鋼板1では、めっき層10の表面上に1又は複数の樹脂層が形成されていてもよい。本実施形態のめっき鋼板1ではまた、めっき層10の表面上に化成被膜が形成されていてもよい。本実施形態のめっき鋼板1はまた、めっき層10の表面上に化成被膜が形成され、さらに、化成被膜上に樹脂層が形成されていてもよい。
【0060】
[めっき鋼板1の製造方法]
以下、本実施形態のめっき鋼板1の製造方法の一例を説明する。めっき鋼板1は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態のめっき鋼板1の製造方法の好ましい一例である。
【0061】
めっき鋼板1の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)母材鋼板準備工程
(工程2)めっき層形成工程
(工程3)ヘアライン形成工程
以下、各工程について説明する。
【0062】
[(工程1)母材鋼板準備工程]
母材鋼板準備工程では、上述の母材鋼板100を準備する。上述のとおり、母材鋼板100は熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。
【0063】
[(工程2)めっき層形成工程]
めっき層形成工程では、電気めっき法又は溶融めっき法により母材鋼板100の表面にめっき層10を形成する。めっき層10の形成方法は、電気めっき法でもよいし、溶融めっき法でもよい。めっき層10が亜鉛系めっき層である場合、例えば、次の電気亜鉛めっき法又は溶融亜鉛めっき法を実施してもよい。
【0064】
[電気亜鉛めっき法]
電気亜鉛めっき法により亜鉛系めっき層10を形成する場合、電気亜鉛めっき法は、周知の方法で実施すればよい。本明細書において、電気亜鉛めっき法には、電気亜鉛合金めっき法も含まれる。電気亜鉛めっき法で用いるめっき液は、周知のめっき液を用いれば足りる。電気亜鉛めっき液は例えば、硫酸浴、塩化物浴、ジンケート浴、シアン化物浴、ピロりん酸浴、ホウ酸浴、クエン酸浴、その他錯体浴及びこれらの組合せ等である。電気亜鉛合金めっき液は例えばZnイオンの他に、Fe、Ni、Co、Cr及びCからなる群から選択される1つ以上の単イオン又は錯イオンを含有する。また、レベリング効果や硬度上昇などの所望の効果を得るために適宜有機添加剤などをめっき液に添加してもよい。
【0065】
[溶融亜鉛めっき法]
溶融亜鉛めっき法により亜鉛系めっき層10を形成する場合、溶融亜鉛めっき法は、周知の方法で実施すればよい。溶融亜鉛めっき法で用いるめっき浴は、周知のめっき浴を用いれば足りる。溶融亜鉛めっき浴は例えば、Alを含有し、残部がZn及び不純物からなるめっき浴が使用できる。不純物は例えばFeである。溶融亜鉛めっき浴は、Zn、Al及びFeに加えて、Mg、Si、Ca、Y、La、Ce、Sn、Bi、In、Cr、Ti、Ni、Co、V、Nb、Cu、Mn、Sr、Sb、Pb、及び、Bからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0066】
[(工程3)ヘアライン形成工程]
ヘアライン形成工程では、めっき層10の表面に対してヘアライン加工を実施することにより、めっき層10の表面に対してヘアラインHLを形成する。
【0067】
ヘアライン加工に用いる研削装置は、搬送ロールと、一対のコンタクトロールと、輪状の研磨ベルトとを備える。一対のコンタクトロールは、輪状の研磨ベルトを保持する。一対のコンタクトロールが回転することによって、輪状の研磨ベルトが一対のコンタクトロール間を移動する。めっき層10を表面に有する母材鋼板100は搬送ロールによって、搬送ロールと、輪状の研磨ベルトとの間に搬送される。めっき層10の表面には、輪状の研磨ベルトが押し当てられる。一対のコンタクトロールが回転することで、輪状の研磨ベルトは、母材鋼板100のめっき層10の表面を研削する。これにより、めっき層10の表面にヘアラインHLが形成される。研削装置は研磨ベルトに代えて、研削ブラシを備えてもよい。
【0068】
研削工程における、研削装置へのめっき鋼板1の通板速度、コンタクトロールの回転速度、及び、コンタクトロールのめっき鋼板1への押し付けの圧下力は適宜調整が可能である。研削工程で研削するめっき層10の研削量は、コンタクトロールの回転速度、及び、コンタクトロールのめっき層10への押し付けの圧下力を調整することにより、調整可能である。研削装置が研削ブラシを備える場合、例えば、研削ブラシの回転数、及び/又は、研削ブラシのめっき層10への押し付けの圧下力を調整することにより、研削量を調整可能である。
【0069】
好ましくは、研磨ベルト、又は、研削ブラシの幅方向の砥粒の粒度及び/又は砥粒の密度を異なる分布とする。ここで、研磨ベルト及び研削ブラシの幅方向は、母材鋼板100の板幅方向に相当する。
【0070】
従前のヘアライン加工に適用される研磨ベルト及び研削ブラシは、砥粒の粒度及び砥粒の密度が幅方向で均一になるように設定される。そして、従前では、ヘアラインの視認性を高める場合、砥粒の粒度を大きくしていた。これに対して、本実施形態の製造方法では、研磨ベルト、又は、研削ブラシの幅方向の砥粒の粒度及び/又は砥粒の密度を異なる分布とする。これにより、ヘアラインHLの延在方向に垂直な方向での各微小域nでの視認凹凸の密度を調整することができ、コントラスト部の密度を調整できる。なお、研磨ベルト及び研削ブラシの幅方向の砥粒の粒度及び密度の分布は、求める外観に応じて適宜調整すればよい。
【0071】
ヘアライン加工に研削ブラシを用いる場合、輪状の研削ブラシは、中心軸部と、中心軸部の径方向に伸びる複数のブラシ毛材とを含む。ブラシ毛材は、研削ブラシの軸方向に配列される。軸方向には、砥粒の密度が異なる複数のブラシ毛材を配列する。このような研削ブラシを用いてヘアライン加工を実施する。ブラシ毛材の砥粒密度を研削ブラシの軸方向で変化させることにより、研削ブラシによりめっき層の表面に形成される研削痕(凹凸)の密度を変化させることができる。めっき層の表面において、式(1)で定義されるコントラスト部の総数Jが7よりも多くなるように、研削ブラシのブラシ毛材の砥粒密度を調整する。
【0072】
ヘアライン加工に研磨ベルトを用いる場合、研磨ベルトの幅方向に砥粒密度を変化させる。これにより、研磨ベルトによりめっき層の表面に形成される研削痕(凹凸)の密度を変化させることができる。めっき層の表面において、式(1)で定義されるコントラスト部の総数Jが7よりも多くなるように、研磨ベルトの砥粒密度を調整する。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本発明の一態様の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態のめっき鋼板の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。
【0074】
表1に記載の試験番号のめっき鋼板を準備した。各めっき鋼板の母材鋼板はJIS G 3141(2017)に規定されているSPCCとし、厚さは0.6mmとした。各母材鋼板に対して、種々のめっき厚さとなるようにめっき層形成工程を実施した。具体的には、電気亜鉛めっき処理を実施して、めっき層として、電気亜鉛めっき層を形成した。なお、めっき層の厚さは、0.5~25.0μmであった。めっき層の厚さは、上述の[めっき層10の厚さの測定方法]に準拠して測定した。
【0075】
【表1】
【0076】
各試験番号の母材鋼板上のめっき層の表面に対して、ヘアライン形成工程を実施した。ヘアライン形成工程では、研磨ベルトの幅方向の砥粒密度の分布が異なる複数の研磨ベルトを用意し、ヘアラインを形成した。以上の製造工程により、ヘアラインを備えるめっき鋼板を製造した。
【0077】
ヘアラインを形成しためっき鋼板に対して、化成処理を実施して、めっき層上に化成被膜を形成した。具体的には、次のシランカップリング剤A及びシランカップリング剤Bを準備した。
シランカップリング剤A:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
シランカップリング剤B:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0078】
固形分質量比(シランカップリング剤A/シランカップリング剤B)を1.0の割合として、シランカップリング剤Aとシランカップリング剤Bとを、pH4に調整した水に添加した。その後、所定時間攪拌して有機珪素化合物を製造した。製造した有機珪素化合物にさらに、りん酸化合物であるりん酸を含有して、処理液を製造した。
【0079】
処理液をロールですくい上げて、めっき層上に転写した。このとき、焼付け乾燥後の化成被膜の付着量が0.3g/mとなるように、処理液をめっき層上に転写した。
【0080】
処理液がめっき層上に転写された鋼板に対して、焼付け乾燥を実施した。具体的には、処理液がめっき層上に転写された鋼板を、180℃に保持した炉に装入し、鋼板の到達温度が130℃に到達するまで鋼板を炉内で保持した。鋼板の温度が130℃に到達した後、鋼板を炉から取り出して、常温まで空冷した。以上の工程により、めっき層上に化成被膜を形成した。
【0081】
化成被膜が形成された鋼板に、樹脂層を形成した。樹脂被膜のバインダー樹脂として、ウレタン系樹脂(株式会社ADEKA製の商品名:HUX-232)を用いた。樹脂粒子として、ポリエチレン系樹脂粒子(三井化学株式会社製の商品名:ケミパール)を用いた。上述のバインダー樹脂及び樹脂粒子を水に分散し、塗料を準備した。
【0082】
準備した塗料をロールですくい上げて、鋼板上に転写した。このとき、焼付け乾燥後の樹脂被膜の平均膜厚が5μmとなるように、処理液の付着量を調整した。処理液を転写した鋼板を、250℃に保持した炉に装入した。鋼板の到達温度が180℃に到達するまで鋼板を炉内で保持した。鋼板の温度が180℃に到達した後、鋼板を炉から取り出して、常温まで空冷した。以上の工程により、樹脂層を形成した。
【0083】
[評価試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)コントラスト部の総数J測定試験
(試験2)研削痕深さ測定
(試験3)母材鋼板露出率測定試験
(試験4)近距離でのヘアライン意匠性評価試験
(試験5)耐食性評価試験
以下、試験1~試験5について説明する。
【0084】
[(試験1)コントラスト部の総数J測定試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、上述の[コントラスト部の特定方法]に記載の方法に準拠して、第1コントラスト部の総数N、第2コントラスト部の総数M、及び、第3コントラスト部の総数Kを求め、コントラスト部の総数Jを求めた。なお、レーザー顕微鏡として、株式会社キーエンス製の商品名:形状解析レーザー顕微鏡VK-X250を用いた。また、樹脂層及び化成被膜を剥離剤により除去した。剥離剤として、三彩化工株式会社製の商品名:ネオリバーS-701を用いた。求めたN、M、K及びJを表1に示す。
【0085】
[(試験2)研削痕深さ測定]
各試験番号のめっき鋼板に対して上述の[コントラスト部の特定方法]で得られた表面粗さプロファイルC1の最大高さと最小高さの差を、研削痕深さ(μm)と定義した。各試験番号のめっき鋼板の研削痕深さ(μm)を表1に示す。
【0086】
[(試験3)母材鋼板露出率測定試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、上述の[露出率の測定方法]に記載の方法に準拠して、母材鋼板の露出率を測定した。なお、めっき主成分元素をZnとした。測定した露出率(%)を表1に示す。
【0087】
[(試験4)近距離でのヘアライン意匠性評価試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、次の方法により、近距離でのヘアラインの意匠性を評価した。初めに、室内において、各試験番号のめっき鋼板を、水平方向に対し60°傾けて設置した。このとき、めっき層が室内の天井側に向くようにめっき鋼板を設置した。次に、めっき鋼板のうち、室内の床に設置した位置から50cm離れた場所から、めっき鋼板と対向するように観察者がめっき鋼板を目視観察した。このとき、観察者の目線はめっき鋼板と同じ高さとした。合計で10人の観察者が目視観察し、意匠性に優れているかどうか官能評価を実施した。具体的には、目視観察してヘアラインを明確に視認できれば、意匠性に優れると判断した。意匠性に優れていると判断した人数に基づき評点を付与し、評点B以上を合格とした。表1中の「評価結果」欄の「意匠性」欄に評価結果(A~C)を示す。
8人以上が意匠性に優れていると判断 :評点A
5人以上8人未満が意匠性に優れていると判断:評点B
5人未満が意匠性に優れていると判断 :評点C
【0088】
[(試験5)耐食性評価試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、次の方法により、耐食性(長期耐食性)を評価した。各試験番号のめっき鋼板から、75mm×100mm×板厚の試験片を採取した。試験片のうち、75mm×100mmの表面を、測定面とした。試験片の端面及び裏面をテープシールで保護した。その後、35℃に保持された5%NaClの塩水噴霧試験を、JIS Z 2371(2015)に準拠して実施した。試験を240時間実施し、試験後の錆発生率を求めた。具体的には、試験後の測定面において、錆が発生した面積を目視により求めた。錆が発生した面積及び測定面の面積に基づいて、錆が発生した面積率である錆発生率(%)を求めた。錆発生率が5%未満であれば、合格と評価した(表1中の「評価結果」欄の「耐食性」欄で「E(Excellent)」で表示)。一方、錆発生率が5%以上の場合、不合格と評価した(表1中の「評価結果」欄の「耐食性」欄で評価「B(Bad)」で表示)。
【0089】
[評価結果]
評価結果を表1に示す。試験番号1~試験番号10のめっき鋼板では、コントラスト部の総数Jが7より大きかった。そのため、これらの試験番号のめっき鋼板は、意匠性に優れていた。試験番号1~試験番号7ではさらに、露出率が5.0%未満であった。そのため、これらの試験番号のめっき鋼板では、意匠性に優れるだけでなく、耐食性も優れた。
【0090】
一方、試験番号11~13のめっき鋼板では、コントラスト部の総数Jが7以下であった。そのため、優れた意匠性は得られなかった。
【0091】
以上のとおり、コントラスト部の総数Jを7より大きくすることにより、研削痕深さが比較的浅くても、優れた意匠性が得られることが分かった。
【0092】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 めっき鋼板
10 めっき層
HL ヘアライン
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9