(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】設備、設備状態監視装置、設備状態監視方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
F27D 1/00 20060101AFI20250312BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
F27D1/00 V
F27D21/00 G
F27D21/00 Q
(21)【出願番号】P 2024555903
(86)(22)【出願日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2024010726
(87)【国際公開番号】W WO2024214500
(87)【国際公開日】2024-10-17
【審査請求日】2024-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2023065494
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】塩川 将人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和也
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-074813(JP,A)
【文献】中国実用新案第212458319(CN,U)
【文献】特開2021-188895(JP,A)
【文献】特開2017-227350(JP,A)
【文献】特開平09-067607(JP,A)
【文献】特開2011-220933(JP,A)
【文献】実開昭61-38795(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00
F27D 21/00
G01B 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操業時に溶融金属が内部に存在する設備であって、
前記設備の側壁部の内周面は、耐火物で構成され、
前記側壁部を構成する部材に、光ファイバー温度センサが備える光ファイバーが埋設されて
おり、
前記側壁部を構成する部材のうち、前記光ファイバーが埋設されている部材は、前記光ファイバーが埋設された状態で不定形耐火物がプレキャストされることにより作製された耐火性のブロックである、設備。
【請求項2】
前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度を測定する温度センサと、
前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度を測定する温度センサと、を有し、
前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度を測定する温度センサは、前記光ファイバー温度センサである、請求項
1に記載の設備。
【請求項3】
前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度を測定する温度センサは、前記光ファイバー温度センサである、請求項
2に記載の設備。
【請求項4】
前記部材は、前記側壁部の内周面を構成する耐火物よりも前記側壁部の外周面側にある、請求項1
~3のいずれか1項に記載の設備。
【請求項5】
操業時に溶融金属が内部に存在する設備として、前記設備の側壁部の内周面が耐火物で構成されており、且つ、前記側壁部を構成する部材に光ファイバー温度センサが備える光ファイバーが埋設されている設備の状態を監視する設備状態監視装置であって、
前記側壁部の温度を測定する温度センサの測定値に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、前記側壁部の温度分布を算出する逆問題解析手段と、
前記逆問題解析手段により算出された前記温度分布に基づいて、前記内周面の位置を算出する耐火物位置算出手段と、
を有し、
前記逆問題解析手段は、前記側壁部の厚み方向における温度分布を算出し、
前記耐火物位置算出手段が算出する前記内周面の位置は、前記側壁部の厚み方向における位置を含み、
前記温度センサは、前記側壁部の部位のうち、前記側壁部の内周面とは異なる部位において、前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、を測定し、
前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、のうち、少なくとも前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度を測定する前記温度センサは、前記光ファイバー温度センサである、設備状態監視装置。
【請求項6】
前記側壁部を構成する部材のうち、前記光ファイバーが埋設されている部材は、前記光ファイバーが埋設された状態で不定形耐火物がプレキャストされることにより作製された耐火性のブロックである、請求項
5に記載の設備状態監視装置。
【請求項7】
前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、を測定する前記温度センサが、前記側壁部を構成する部材に埋設された光ファイバーを備える光ファイバー温度センサである、請求項
5または6に記載の設備状態監視装置。
【請求項8】
前記側壁部を構成する部材のうち、前記光ファイバーが埋設されている部材は、前記側壁部の内周面を構成する耐火物よりも前記側壁部の外周面側にある、請求項
5または6に記載の設備状態監視装置。
【請求項9】
前記逆問題解析手段は、前記温度センサの測定値に基づいて、前記側壁部の厚み方向における前記内周面の一つの位置を算出するための温度として、前記側壁部の厚み方向の一箇所あたりN個の温度を取得することと、当該N個の温度に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、前記側壁部の厚み方向における温度分布を算出することと、を行い、
Nは2以上の整数である、請求項
5または6に記載の設備状態監視装置。
【請求項10】
Nは5である、請求項
9に記載の設備状態監視装置。
【請求項11】
前記逆問題解析手段は、前記温度センサの測定値に基づいて、局所的に温度が最大になる位置を含むホットスポット領域の温度を取得することと、当該温度に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、前記側壁部の厚み方向における温度分布を算出することと、を行う、請求項
5または6に記載の設備状態監視装置。
【請求項12】
前記逆問題解析手段は、前記側壁部を構成する部材の物性値のうち、前記温度センサが埋設されている部材の物性値のみを用いて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う、請求項
5または6に記載の設備状態監視装置。
【請求項13】
操業時に溶融金属が内部に存在する設備として、前記設備の側壁部の内周面が耐火物で構成されており、且つ、前記側壁部を構成する部材に光ファイバー温度センサが備える光ファイバーが埋設されている設備の状態を監視する設備状態監視方法であって、
前記側壁部の温度を測定する温度センサの測定値に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、前記側壁部の温度分布を算出する逆問題解析工程と、
前記逆問題解析工程により算出された前記温度分布に基づいて、前記内周面の位置を算出する耐火物位置算出工程と、
を有し、
前記逆問題解析工程は、前記側壁部の厚み方向における温度分布を算出し、
前記耐火物位置算出工程で算出される前記内周面の位置は、前記側壁部の厚み方向における位置を含み、
前記温度センサは、前記側壁部の部位のうち、前記側壁部の内周面とは異なる部位において、前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、を測定し、
前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、のうち、少なくとも
前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度を測定する前記温度センサは、前記光ファイバー温度センサである、設備状態監視方法。
【請求項14】
請求項
5または6に記載の設備状態監視装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、設備、設備状態監視装置、設備状態監視方法、およびプログラムに関し、特に、操業時に内部に溶融金属が存在する設備に用いて好適なものである。本願は、2023年4月13日に日本に出願された特願2023-065494号に基づき優先権を主張し、その内容を全てここに援用する。
【背景技術】
【0002】
電気炉や高炉など、溶融金属を製造する設備においては、操業時に溶融金属が内部に存在する。このため、設備の内部が高温になる。したがって、設備の内周面に耐火煉瓦などの耐火物が配置される。このように耐火物は高温の溶融金属に曝されるため、設備の使用に伴い、その一部が溶損したり剥離したりすることにより損耗する。そこで、耐火物の状態を監視する技術が求められる。
【0003】
この種の技術として特許文献1に記載の技術がある。特許文献1に記載の技術では、高炉の炉床壁に埋め込まれた二つの熱電対の測定値を用いて、一次元の伝熱逆問題を解くことにより、炉の内周面の温度を算出する。そして、特許文献1に記載の技術では、このようにして算出した温度が、炉の内周面を規定する温度になる位置を、炉の内周面の位置として算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、耐火物に事前に埋め込まれた熱電対の測定値を用いる。したがって、設備の温度の測定位置が限定される。また、温度センサの新たな設置が容易でない。また、温度の測定位置を増やす場合には、多数の熱電対を耐火物に埋め込む必要がある。しかしながら、多数の熱電対を耐火物に埋め込むことは現実的には困難である。
【0006】
本開示は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、操業時に溶融金属が内部に存在する設備の側壁部の温度として、より広範囲における温度を測定することが出来るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の設備は、操業時に溶融金属が内部に存在する設備であって、前記設備の側壁部の内周面は、耐火物で構成され、前記側壁部を構成する部材に、光ファイバー温度センサが備える光ファイバーが埋設されており、前記側壁部を構成する部材のうち、前記光ファイバーが埋設されている部材は、前記光ファイバーが埋設された状態で不定形耐火物がプレキャストされることにより作製された耐火性のブロックである。
【0008】
本開示の設備状態監視装置は、操業時に溶融金属が内部に存在する設備として、前記設備の側壁部の内周面が耐火物で構成されており、且つ、前記側壁部を構成する部材に光ファイバー温度センサが備える光ファイバーが埋設されている設備の状態を監視する設備状態監視装置であって、前記側壁部の温度を測定する温度センサの測定値に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、前記側壁部の温度分布を算出する逆問題解析手段と、前記逆問題解析手段により算出された前記温度分布に基づいて、前記内周面の位置を算出する耐火物位置算出手段と、を有し、前記逆問題解析手段は、前記側壁部の厚み方向における温度分布を算出し、前記耐火物位置算出手段が算出する前記内周面の位置は、前記側壁部の厚み方向における位置を含み、前記温度センサは、前記側壁部の部位のうち、前記側壁部の内周面とは異なる部位において、前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、を測定し、前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、のうち、少なくとも前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度を測定する前記温度センサは、前記光ファイバー温度センサである。
【0009】
本開示の設備状態監視方法は、操業時に溶融金属が内部に存在する設備として、前記設備の側壁部の内周面が耐火物で構成されており、且つ、前記側壁部を構成する部材に光ファイバー温度センサが備える光ファイバーが埋設されている設備の状態を監視する設備状態監視方法であって、前記側壁部の温度を測定する温度センサの測定値に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、前記側壁部の温度分布を算出する逆問題解析工程と、前記逆問題解析工程により算出された前記温度分布に基づいて、前記内周面の位置を算出する耐火物位置算出工程と、を有し、前記逆問題解析工程は、前記側壁部の厚み方向における温度分布を算出し、前記耐火物位置算出工程で算出される前記内周面の位置は、前記側壁部の厚み方向における位置を含み、前記温度センサは、前記側壁部の部位のうち、前記側壁部の内周面とは異なる部位において、前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、を測定し、前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度と、前記側壁部の相対的に外周面側の位置の温度と、のうち、少なくとも前記側壁部の相対的に内周面側の位置の温度を測定する前記温度センサは、前記光ファイバー温度センサである。
【0010】
本開示のプログラムは、前記設備状態監視装置の各手段としてコンピュータを機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、電気炉の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、光ファイバーが埋設されたプレキャストブロックの構成の一例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、一次元非定常伝熱逆問題において考慮することが出来る伝熱の第1の例を概念的に説明する図である。
【
図4B】
図4Bは、一次元非定常伝熱逆問題において考慮することが出来る伝熱の第2の例を概念的に説明する図である。
【
図5A】
図5Aは、三次元非定常伝熱逆問題において考慮することが出来る伝熱の第1の例を説明する図である。
【
図5B】
図5Bは、三次元非定常伝熱逆問題において考慮することが出来る伝熱の第2の例を説明する図である。
【
図6】
図6は、設備状態監視装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、ホットスポット領域の一例を説明する図である。
【
図8A】
図8Aは、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う際に取得される温度の位置の第1の例を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う際に取得される温度の位置の第2の例を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、側壁部をその上方から見た場合の損耗部を含む領域の一例を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、側壁部を、電気炉の中心軸側から見た場合の損耗部を含む領域の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、設備状態監視方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図11A】
図11Aは、耐火物温度と耐火物厚み方向距離との関係の第1の例を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、耐火物温度と耐火物厚み方向距離との関係の第2の例を示す図である。
【
図12】
図12は、設備状態監視装置のハードウェアの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の一実施形態を説明する。なお、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、本開示の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。また、各図では、説明および表記の都合上、構成の一部を省略または簡略化する。
【0013】
後述する本実施形態の設備状態監視装置100は、操業時に溶融金属が内部に存在する設備の側壁部の内周面の状態を監視する。当該設備の側壁部の内周面は、溶融金属が存在し得る空間に接する面(例えば、設備の中心軸(中心線)側を向く面)である。当該設備の側壁部の内周面は、耐火物により構成される。本実施形態では、このような設備として、電気炉の一種であるアーク溶解炉を例示する。しかしながら、設備状態監視装置100で監視する設備は限定されない。アーク溶解炉では、1チャージ(ch)ごとに、炉内にスクラップ等の原料が装入される。その後、アーク電極から発生するアークによって原料は、溶解および溶融される。これにより、溶融金属(例えば溶鋼)および溶融スラグが製造される。なお、本実施形態では、原料を炉内に装入するタイミングから、溶融金属および溶融スラグを炉外に排出するまでの期間をチャージと称する。アーク溶解炉の側壁部は高温に曝される。したがって、アーク溶解炉の側壁部を構成するために、耐火煉瓦等の耐火物が使用される。前述したように設備状態監視装置100で監視する設備は、アーク溶解炉に限定されない。例えば、設備状態監視装置100で監視する設備は、アーク溶解炉以外の電気炉でも良いし、高炉や転炉等の工業炉でも良い。
【0014】
<設備>
図1は、電気炉1の構成の一例を示す図である。なお、
図1は、電気炉1の縦断面図である。
図1では、表記および説明の都合上、切断面を示すハッチングを省略する。
図1において本実施形態では、電気炉1が、上部蓋2と、アーク電極3a~3cと、炉底電極4と、炉底部5と、側壁部6と、を備える場合を例示する。
図1では、電気炉1が、三つのアーク電極3a~3cを備える場合を例示する。また、
図1では、三つのアーク電極3a~3cが、電気炉1の中心軸(中心線)O周りに等しい間隔(120°間隔)で設置される場合を例示する。なお、以下の説明では、電気炉1の中心軸(中心線)O周りの方向を、必要に応じて周方向と称する。また、以下の説明では、電気炉1の中心軸(中心線)Oを、必要に応じて中心軸Oと略称する。
【0015】
また、
図1において本実施形態では、側壁部6が、中心軸Oを取り囲むように設置される場合を例示する。また、
図1において本実施形態では、側壁部6が、ウエア煉瓦7と、パーマ煉瓦8と、プレキャストブロック9と、鉄皮10と、を有する場合を例示する。
ウエア煉瓦7を構成するために、耐火煉瓦が使用される。ウエア煉瓦7の面のうち、中心軸O側を向く面は、電気炉1の側壁部6の内周面6aを構成する。以下の説明では、電気炉1の側壁部6の内周面6a側を、必要に応じて内側と称する。なお、内側は、電気炉1の中心軸Oに近い側である。また、内側とは反対側を、必要に応じて、外側と称する。なお、外側は、電気炉1の側壁部6の外周面6b側(電気炉1の中心軸Oから遠い側)である。
【0016】
パーマ煉瓦8を構成するために、耐火煉瓦が使用される。パーマ煉瓦8は、ウエア煉瓦7よりも外側に設置される。なお、ウエア煉瓦7の外側の端部と、パーマ煉瓦8の内側の端部と、は、例えば、耐熱性且つ接着性を有する材料を介して相互に接続(固定)されている。耐熱性且つ接着性を有する材料は、例えばモルタルである。
鉄皮10は、パーマ煉瓦8よりも外側に設置される。鉄皮10は、電気炉1の側壁部6の外周面6bを構成する。鉄皮10の内側の端部と、パーマ煉瓦8の外側の端部と、は、例えば、耐熱性且つ接着性を有する材料を介して相互に接続(固定)されている。耐熱性且つ接着性を有する材料は、例えばモルタルである。
【0017】
以上の電気炉の構成は、一般的な電気炉の構成である。電気炉の構成は、以上の電気炉の構成に限定されない。本実施形態の電気炉1では、このような一般的な電気炉においてパーマ煉瓦8が設置される領域の一部の領域に、プレキャストブロック9が設置される。プレキャストブロック9は、プレキャストされた耐火性のブロックの一例である。後述するように本実施形態では、光ファイバー温度センサが備える光ファイバーが埋設された状態で不定形耐火物がプレキャストされることによりプレキャストブロック9が作製される場合を例示する。
【0018】
図1に例示する電気炉1では、原料であるスクラップが溶け落ちる際に、アーク放電により発生する輻射熱等によって、側壁部6が局所的に極めて高温になる。したがって、内周面6aに平行な仮想面における側壁部6の温度分布は局所的に最大値(極大値)を有する。以下の説明では、このように局所的に温度が最大となる位置を、必要に応じてホットスポットと称する。なお、アーク電極3a~3cを備える電気炉(アーク溶解炉)では、内周面6aに平行な一つの仮想面あたり、少なくともアーク電極の数のホットスポットが存在する(
図1に示す例では、少なくとも三個のホットスポットが存在する)。
【0019】
本実施形態では、以下の(A)~(D)の全てを満足するように、プレキャストブロック9が設置される場合を例示する。
(A) プレキャストブロック9の外側の端部の位置は、パーマ煉瓦8の外側の端部と同じ位置、または、パーマ煉瓦8の外側の端部よりも内側の位置である。
(B) プレキャストブロック9の内側の端部の位置は、パーマ煉瓦8の内側の端部と同じ位置、または、パーマ煉瓦8の内側の端部よりも外側の位置である。
(C) プレキャストブロック9の周方向における位置に、ホットスポットが発生することが想定される領域の周方向における位置が含まれる。
(D) プレキャストブロック9の高さ方向における位置に、ホットスポットが発生することが想定される領域の高さ方向における位置が含まれる。
【0020】
プレキャストブロック9は、側壁部6の温度を測定するための温度センサを側壁部6に設置するために用いられる。本実施形態では、側壁部6の温度を測定する温度センサとして、光ファイバー温度センサを用いる場合を例示する。
図1において本実施形態では、光ファイバー温度センサ111~112が、光ファイバー121~122と、測定器131~132と、を備える場合を例示する。測定器131~132は、光ファイバー121~122内に光(例えば赤外線)を出力する。光ファイバー121~122内に出力された光は、光ファイバー121~122内で散乱する。測定器131~132は、光ファイバー121~122内で散乱して戻ってきた光を入力する。測定器131~132は、入出力した光の強度、速度、および時間に基づいて、光ファイバー121~122内の各位置における温度を算出する。光ファイバー温度センサ111~112自体は公知の技術で実現されるので、ここでは、光ファイバー温度センサ111~112の詳細な説明を省略する。
【0021】
プレキャストブロック9には、光ファイバー121~122が埋設される。光ファイバー121は、相対的に内側の位置において、側壁部6の高さ方向の温度分布と、側壁部6の周方向の温度分布と、の双方が測定可能になるように設置される。光ファイバー122は、相対的に外側の位置において、側壁部6の高さ方向の温度分布と、側壁部6の周方向の温度分布と、の双方が測定可能になるように設置される。以下の説明では、相対的に内側の位置に設置される光ファイバーを、必要に応じて、内側光ファイバーと称する。また、相対的に外側の位置に設置される光ファイバーを、必要に応じて、外側光ファイバーと称する。また、側壁部6の高さ方向、側壁部6の周方向を、それぞれ、必要に応じて、高さ方向、周方向と略称する。
【0022】
図2は、
図1のI-I断面図である。なお、
図2でも、表記および説明の都合上、切断面を示すハッチングを省略する。
図2に示すように、本実施形態では、電気炉1が、複数のプレキャストブロック9a~9rを備える場合を例示する。複数のプレキャストブロック9a~9rは、電気炉1の周方向に並べられる。本実施形態では、複数のプレキャストブロック9a~9rが同じ構成を有する場合を例示する。ただし、複数のプレキャストブロック9a~9rのうちの少なくとも一つの形状および大きさが、その他のプレキャストブロックと異なっていても良い。複数のプレキャストブロック9a~9rの少なくとも一つの物性値(すなわち、プレキャストブロックを構成する材料)も、その他のプレキャストブロックと異なっていても良い。しかしながら、複数のプレキャストブロック9a~9rの物性値は略同一であるのが好ましく、同一であるのがより好ましい。後述する三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う際に用いるプレキャストブロックの物性値を、場所によって変える必要がなくなるからである。
【0023】
プレキャストブロック9a~9rのうち、周方向において相互に隣接する二つのプレキャストブロック(例えば、プレキャストブロック9a~9b)の周方向の端部は、例えば、耐熱性且つ接着性を有する材料を介して相互に接続(固定)されている。また、ウエア煉瓦7の外側の端部と、プレキャストブロック9a~9rの内側の端部も、例えば、耐熱性且つ接着性を有する材料を介して相互に接続(固定)されている。さらに、鉄皮10の内側の端部と、プレキャストブロック9a~9rの外側の端部も、例えば、耐熱性且つ接着性を有する材料を介して相互に接続(固定)されている。以上のようにしてプレキャストブロック9a~9rを接続(固定)するための材料(耐熱性且つ接着性を有する材料)は、例えばモルタルである。
【0024】
図2に示すように、本実施形態では、個々のプレキャストブロック9a~9rに、それぞれ、内側光ファイバー121a~121rと、外側光ファイバー122a~122rと、が設置される場合を例示する。また、本実施形態では、内側光ファイバー121~121rが同じ構成を有する場合を例示する。また、本実施形態では、外側光ファイバー122a~122rが同じ構成を有する場合を例示する。また、本実施形態では、各プレキャストブロック9a~9r内において、内側光ファイバー121~121rおよび外側光ファイバー122a~122rが相対的に同じ配置になる場合を例示する。前述したように本実施形態では、プレキャストブロック9a~9rが同じ構成を有する場合を例示する。したがって、各プレキャストブロック9a~9rの基準位置(例えば重心の位置)を原点とした相対座標系において、内側光ファイバー121a~121rおよび外側光ファイバー122a~122rが存在する位置の座標は同じになる。すなわち、本実施形態では、内側光ファイバー121a~121rおよび外側光ファイバー122a~122rを含め、プレキャストブロック9a~9rは同じ構成を有する場合を例示する。また、本実施形態では、プレキャストブロック9a~9rの少なくともいずれか二つを入れ替えても、入れ替え前の状態と同じになる場合を例示する。
【0025】
なお、
図1に示すプレキャストブロック9は、プレキャストブロック9a~9rのうちの一つである。以下の説明では、プレキャストブロック9a~9rの説明として、個々のプレキャストブロック9a~9rに限定されない説明を行う場合、プレキャストブロックの符号として9を用いる。また、
図1に示す内側光ファイバー121、外側光ファイバー122は、それぞれ、内側光ファイバー121a~121r、外側光ファイバー122a~122rの一つである。内側光ファイバー121a~121r、外側光ファイバー122a~122rの説明として、個々の内側光ファイバー121a~121r、個々の外側光ファイバー122a~122rに限定されない説明を行う場合、内側光ファイバー、外側光ファイバーの符号として、それぞれ121、122を用いる。
【0026】
図3は、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122が埋設されたプレキャストブロック9の構成の一例を示す図である。
前述したように、内側光ファイバー121は、相対的に内側に設置される。外側光ファイバー122は、相対的に外側に設置される。
図3に示すように本実施形態では、内側光ファイバー121が、仮想面31aにおいて、周方向を進行方向として蛇行するように設置される場合を例示する。仮想面31aは、側壁部6の内周面6aに平行な面である。このようにして内側光ファイバー121を設置する際に、内側光ファイバー121が蛇行している領域の高さ方向の範囲内に、前述したホットスポットが発生することが想定される領域の高さ方向の位置が含まれるようにする。
【0027】
同様に、本実施形態では、外側光ファイバー122が、仮想面31bにおいて周方向を進行方向として蛇行するように設置される場合を例示する。仮想面31bは、側壁部6の内周面6aに平行な面である。このようにして外側光ファイバー122を設置する際に、外側光ファイバー122が蛇行している領域の高さ方向の範囲内に、前述したホットスポットが発生することが想定される領域の高さ方向の位置が含まれるようにする。
以下の説明では、光ファイバー121、122が設置される仮想面31a、31b内の領域を、必要に応じて、光ファイバー121、122の設置領域と称する。
【0028】
なお、
図3では、表記および説明を簡単にするために、プレキャストブロック9の形状が、底面が中空扇形状である直柱体形状である場合を例示する。しかしながら、プレキャストブロック9の形状は、このような形状に限定されない。例えば、プレキャストブロック9の形状は、直方体でも良い。
【0029】
図3に示すように、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122の両端部は、プレキャストブロック9の外部に引き出される。内側光ファイバー121a~121rは直列に接続される。外側光ファイバー122a~122rも直列に接続される。直列に接続された内側光ファイバー121a~121rの一端部は、
図1に示す測定器131に接続される。直列に接続された内側光ファイバー121a~121rの他端部は、プレキャストブロック9に埋設されていても良いし、プレキャストブロック9の外部に引き出されていても良い。直列に接続された外側光ファイバー122a~122rの一端部は、
図1に示す測定器132に接続される。同様に、直列に接続された外側光ファイバー122a~122rの他端部は、プレキャストブロック9に埋設されていても良いし、プレキャストブロック9の外部に引き出されていても良い。
【0030】
プレキャストブロック9に埋設されている内側光ファイバー121の残りの端部の接続方法の一例は、以下のようになる。以下の説明では、電気炉1の高さ方向の上方向が上方向になる状態で電気炉1の中心軸Oから側壁部6(プレキャストブロック9)を見た場合の周方向の右側、左側を、それぞれ単に右側、左側と称する(
図3に示す「周方向」、「右側」、「左側」を参照)。
【0031】
プレキャストブロック9に埋設されている内側光ファイバー121の両端部のうち、右側から引き出されている端部は、当該プレキャストブロック9に対し右側において隣接するプレキャストブロック9に埋設されている内側光ファイバー121の両端部のうち、左側から引き出されている端部と、相互に接続される。例えば、
図2において、プレキャストブロック9aに埋設されている内側光ファイバー121aの両端部のうち、右側から引き出されている端部は、当該プレキャストブロック9aに対し右側において隣接するプレキャストブロック9bに埋設されている内側光ファイバー121bの両端部のうち、左側から引き出されている端部と、相互に接続される。
【0032】
プレキャストブロック9に埋設されている内側光ファイバー121の両端部のうち、左側から引き出されている端部は、当該プレキャストブロック9に対し左側において隣接するプレキャストブロック9に埋設されている内側光ファイバー121の両端部のうち、右側から引き出されている端部と、相互に接続される。例えば、
図2において、プレキャストブロック9aに埋設されている内側光ファイバー121aの両端部のうち、左側から引き出されている端部は、当該プレキャストブロック9aに対し左側において隣接するプレキャストブロック9rに埋設されている内側光ファイバー121rの両端部のうち、右側から引き出されている端部と、相互に接続される。
【0033】
以上のようにして内側光ファイバー121a~121rを構成および設置することによって、内側光ファイバー121a~121rは、仮想面31aにおいて周方向を進行方向として蛇行しながら電気炉1の中心軸Oを取り囲むように設置される。
【0034】
同様に、プレキャストブロック9に埋設されている外側光ファイバー122の両端部のうち、右側から引き出されている端部は、当該プレキャストブロック9に対し右側において隣接するプレキャストブロック9に埋設されている外側光ファイバー122の両端部のうち、左側から引き出されている端部と、相互に接続される。例えば、
図2において、プレキャストブロック9aに埋設されている外側光ファイバー122aの両端部のうち、右側から引き出されている端部は、当該プレキャストブロック9aに対し右側において隣接するプレキャストブロック9bに埋設されている外側光ファイバー122bの両端部のうち、左側から引き出されている端部と、相互に接続される。
【0035】
プレキャストブロック9に埋設されている外側光ファイバー122の両端部のうち、左側から引き出されている端部は、当該プレキャストブロック9に対し左側において隣接するプレキャストブロック9に埋設されている外側光ファイバー122の両端部のうち、右側から引き出されている端部と、相互に接続される。例えば、
図2において、プレキャストブロック9aに埋設されている外側光ファイバー122aの両端部のうち、左側から引き出されている端部は、当該プレキャストブロック9aに対し左側において隣接するプレキャストブロック9rに埋設されている外側光ファイバー122rの両端部のうち、右側から引き出されている端部と、相互に接続される。
【0036】
以上のようにして外側光ファイバー122a~122rを構成および設置することによって、外側光ファイバー122a~122rは、仮想面31bにおいて周方向を進行方向として蛇行しながら電気炉1の中心軸Oを取り囲むように設置される。
【0037】
なお、以上のように本実施形態では、相対的に内側の位置の温度を測定する光ファイバー温度センサ111と、相対的に外側の位置の温度を測定する光ファイバー温度センサ112と、が別の温度センサである場合を例示する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、一つの光ファイバー温度センサにより、相対的に内側の位置の温度と、相対的に外側の位置の温度と、の双方が測定されても良い。このようにする場合、光ファイバー121、122の設置領域に一本の光ファイバーが設置されても良い。
【0038】
プレキャストブロック9は、例えば、以下のようにして製造される。
プレキャストブロック9の外形に応じた形状および大きさを有する型枠内に不定形耐火物を入れる。その後、不定形耐火物が硬化する前に、プレキャストブロック9内の前述した位置に埋設されるように内側光ファイバー121および外側光ファイバー122を型枠内に入れる。内側光ファイバー121および外側光ファイバー122を型枠内に入れた状態で不定形耐火物を硬化(乾燥)させる。プレキャストブロック9内に埋設された状態においても、プレキャストブロック9内における内側光ファイバー121および外側光ファイバー122内の各位置(前述した相対座標系の座標)が特定されるようにするのが好ましい。そのために、例えば、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122を型枠の外側において保持する不図示の治具を用いることにより、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122を型枠内に入れてから、不定形耐火物が硬化するまでの間、プレキャストブロック9内において、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122の位置が変わることを抑制する(好ましくは位置が変わらないようにする)のが好ましい。
【0039】
例えば、型枠内における保持対象の位置を特定することが出来るように当該保持対象の位置を調整することが可能な構成を備える治具が使用されても良い。このような治具に取り付けられた状態で、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122を型枠内に入れる。その後、治具を調整することにより、型枠内における内側光ファイバー121および外側光ファイバー122の位置を所定の位置にする。その後、治具は、不定形耐火物が硬化するまで、プレキャストブロック9内において、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122の位置を保持する。
【0040】
なお、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122を型枠内に入れた後に、不定形耐火物を型枠内に入れても良い。
また、不定形耐火物の材料として、プレキャストブロック9の機械的強度が、側壁部6に要求される機械的強度を有し、且つ、プレキャストブロック9の耐熱性が、側壁部6に要求される耐熱性を満足する材料が用いられる。
【0041】
また、プレキャストブロック9から引き出されている内側光ファイバー121および外側光ファイバー122の長さは、プレキャストブロック9内に埋設された状態においても特定することが可能である。したがって、プレキャストブロック9内における内側光ファイバー121および外側光ファイバー122内の各位置が特定されれば、測定器131~132から、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122内の各位置までの長さも特定される。
【0042】
なお、本実施形態では、以下の(E)~(G)の全てを満足する場合を例示する。
(E) 側壁部6の内周面6aから内側光ファイバー121a~121rまでの距離は一定である。
(F) 側壁部6の内周面6aから外側光ファイバー122a~122rまでの距離は一定である。
(G) 内側光ファイバー121a~121rと外側光ファイバー122a~122rとの間隔(側壁部6の厚み方向の距離)は一定である。
【0043】
このようにすれば、後述する設備状態監視装置100において、光ファイバー温度センサ111~112で測定された温度を用いた温度の補間計算などの計算負荷を軽減することが出来るので好ましい。しかしながら、測定器131~132から、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122内の各位置までの長さが特定されれば、必ずしもこのようにする必要はない。
【0044】
また、周方向の位置が同じになる内側光ファイバーおよび外側光ファイバー(例えば、内側光ファイバー121aおよび外側光ファイバー122a)を同一のプレキャストブロック9に埋設すれば、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122の設置が容易になるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、周方向の位置が同じになる内側光ファイバーおよび外側光ファイバーは、それぞれ別のプレキャストブロックに埋設されても良い。また、内側光ファイバーおよび外側光ファイバー(例えば、内側光ファイバー121aおよび外側光ファイバー122a)の周方向の位置が同じであれば、後述する三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う際の計算負荷を低減することが出来るので好ましい。しかしながら、内側光ファイバーおよび外側光ファイバー(例えば、内側光ファイバー121aおよび外側光ファイバー122a)の周方向の位置は同じでなくても良い。
【0045】
また、光ファイバー温度センサ112に代えて、光ファイバー温度センサ以外の温度センサが用いられても良い。光ファイバー温度センサ以外の温度センサは、側壁部6に埋設されていなくても良い。光ファイバー温度センサ以外の温度センサは、例えば、鉄皮10の外側の表面の温度分布を測定する温度センサでも良い。かかる温度センサは、放射温度計や熱電対でも良い。また、かかる温度センサは、光ファイバー温度センサ(光ファイバー)よりも外側の位置において、側壁部6の高さ方向の温度分布と、側壁部6の周方向の温度分布と、の双方が測定可能になるように設置される。また、かかる温度センサは、前述したホットスポットが発生することが想定される領域の温度を測定することが出来る位置に設置される。
【0046】
また、パーマ煉瓦8の外側にパーマ煉瓦がさらに設置されていても良い。この場合、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122が埋設されたプレキャストブロック9は、鉄皮10に最も近い位置のパーマ煉瓦8が設置される領域の一部の領域に設置されるのが好ましい。例えば、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122が埋設されたプレキャストブロック9の設置およびメンテナンスが容易になるからである。ただし、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122が埋設されたプレキャストブロック9は、鉄皮10に最も近い位置のパーマ煉瓦以外のパーマ煉瓦が設置される領域の一部の領域に設置されても良い。なお、ウエア煉瓦7は、電気炉1の側壁部6の内周面6aを構成する。このため、溶損等によりウエア煉瓦7の厚みが減少する虞がある。したがって、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122が埋設されたプレキャストブロック9は、電気炉1の側壁部6の内周面6aを構成しないのが好ましい。例えば、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122が埋設されたプレキャストブロック9は、ウエア煉瓦7が設置される領域に設置されないのが好ましい。この場合、内側光ファイバー121および外側光ファイバー122が埋設されたプレキャストブロック9は、例えば、電気炉1の側壁部6の内周面6aを構成しない耐火物であるパーマ煉瓦が設置される領域に設置される。
【0047】
<設備状態監視装置および設備状態監視方法の概要>
詳細は後述するが、本実施形態の設備状態監視装置100は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、側壁部6の厚み方向における温度分布を算出する。なお、側壁部6の厚み方向における温度分布は、側壁部6の厚み方向の位置と、側壁部6の温度と、の関係を示す情報である。また、設備状態監視装置100は、その他の方向(例えば、高さ方向および周方向)の温度分布をさらに算出しても良い。なお、側壁部6の厚み方向における温度分布は、側壁部6の内周面6aが存在し得る範囲として想定される範囲において算出される。すなわち、側壁部6の厚み方向における温度分布には、側壁部6が実在している領域に加えて炉内の領域の温度も含まれ得る。
【0048】
そして、設備状態監視装置100は、側壁部6の厚み方向における温度分布に基づいて、内周面6aの位置を算出する。設備状態監視装置100が算出する内周面6aの位置は、側壁部6の厚み方向における位置を含む。なお、側壁部6の厚み方向は、内周面6aと外周面6bとを最短距離で結ぶ直線が延びる方向(電気炉1の半径方向)である。側壁部6の厚み方向における位置は、例えば、当該直線を座標軸とする場合の当該座標軸の値により表される。以下の説明では、側壁部6の厚み方向を、必要に応じて、厚み方向と略称する。
【0049】
ここで、非定常伝熱逆問題とは、計算領域を支配する非定常熱伝導方程式を基にした問題であって、領域内部の温度情報を既知として、領域境界での物理量(温度や熱流束等)の境界条件と、領域境界での物理量の初期条件と、のうちの少なくとも一方を推定する問題を指す。本実施形態では、非定常伝熱逆問題は、領域境界での温度(内周面6aの温度)を推定する問題である。なお、非定常伝熱順問題は、既知である境界条件を基にして、領域内部の温度情報を推定する問題を指す。
【0050】
前述したように特許文献1には、一次元非定常伝熱逆問題を解くことが開示されている。しかしながら、一次元非定常伝熱逆問題を用いる場合、側壁部6の厚み方向における温度分布の推定精度を十分に向上させることが出来ない。このことについて
図4A、
図4B、
図5A、および
図5Bを参照しながら説明する。
図4Aおよび
図4Bは、一次元非定常伝熱逆問題において考慮することが出来る伝熱の一例を説明する図である。
図5Aおよび
図5Bは、三次元非定常伝熱逆問題において考慮することが出来る伝熱の一例を説明する図である。
【0051】
後述するように本実施形態では、三次元非定常伝熱逆問題を、三次元直交座標系(x-y-z座標系)で定式化する場合を例示する。そこで、各図においてx-y-z座標を示す。ただし、各図に示すx-y-z座標の原点は、各図に示す位置に限定されない。また、各図において、白丸の中に黒丸が付された記号は、紙面の奥側から手前側に向かう矢印線(紙面の奥側から手前側に向かう方向が正の方向の座標軸)を示す。
【0052】
ここで、x軸方向は、厚み方向に対応する。y軸方向は、周方向に対応する。z軸方向は、高さ方向に対応する。なお、本実施形態では、側壁部6の内周面6aは平面ではない。したがって、本実施形態では、周方向の一箇所で高さ方向に沿って側壁部6を切断して展開することにより平面として現れる側壁部6の周方向、高さ方向を、それぞれy軸方向、z軸方向として、側壁部6の各位置のy座標、z座標を定める場合を例示する。同様に、本実施形態では、内周面6aに平行な面(仮想面31a、31b等)においても、内周面6aと同様にして、側壁部6の各位置のy座標、z座標を定める場合を例示する。
【0053】
図4Aおよび
図4Bにおいて、熱流束は、高温となっている内側から外側に向かう。一次元非定常伝熱逆問題を用いる場合には、伝熱の方向が側壁部6の厚み方向(x軸方向)のみであるものとして、側壁部6の厚み方向における温度分布を算出する。
【0054】
したがって、一次元非定常伝熱逆問題を解いて側壁部6の厚み方向における温度分布を算出する場合には、
図4Aおよび
図4Bに示すように、温度測定位置41a~41b、41c~41d、41e~41f、41g~41h、41i~41j、41k~41lは、側壁部6の厚み方向に並ぶ位置になる。この場合、非定常伝熱逆問題で考慮することが出来る伝熱の方向は、温度測定位置41a~41b、41c~41d、41e~41f、41g~41h、41i~41j、41k~41lが並ぶ方向(
図4Aおよび
図4Bに示す矢印線に沿う方向)に限定される。なお、
図4Aおよび
図4Bでは、説明および表記の都合上、温度測定位置41a~41b、41c~41d、41e~41f、41g~41h、41i~41j、41k~41lを誇張して大きく示す(このことは、
図5Aおよび
図5Bにおいても同じである)。
【0055】
しかしながら、実際の伝熱の方向は、側壁部6の厚み方向(x軸方向)だけではない。一次元非定常伝熱逆問題を解いて側壁部6の厚み方向における温度分布を算出する場合には、伝熱の方向が、側壁部6の厚み方向に限定される。このため、温度測定位置の数を増やしても、側壁部6の厚み方向における温度分布の推定精度の向上には限界がある。また、二次元非定常伝熱逆問題を解いて側壁部6の温度分布を算出する場合には、伝熱の方向が、側壁部6の厚み方向と、側壁部6の周方向および高さ方向のうちの一方のみの方向と、に限定される。
【0056】
これに対し、三次元非定常伝熱逆問題を解いて内周面6aの温度を推定する場合、
図5Aおよび
図5Bに示すように、内側の温度測定位置51a、51c、51e、51g、51i、51kから外側の温度測定位置51b、51d、51f、51h、51j、51lのそれぞれに向かう伝熱を考慮することが出来る。したがって、非定常伝熱逆問題で考慮することが出来る伝熱の方向は、温度測定位置51a~51b、51c~51d、51e~51f、51g~51h、51i~51j、51k~41lが並ぶ方向に限定されない。すなわち、非定常伝熱逆問題で考慮することが出来る伝熱の方向は、内側の温度測定位置51a、51c、51e、51g、51i、51kの任意の一つから外側の温度測定位置51b、51d、51f、51h、51j、51lの任意の一つに向かう各方向(
図5Aおよび
図5Bに示す矢印線に沿う方向)になる。このように非定常伝熱逆問題において、側壁部6の厚み方向と、側壁部6の周方向と、側壁部6の高さ方向と、の全ての方向を考慮することが出来る。よって、三次元非定常伝熱逆問題を解いて側壁部6の厚み方向における温度分布を算出すれば、側壁部6の厚み方向における温度分布の推定精度を向上させることが出来る。これにより、内周面6aの厚み方向における位置の推定精度を向上させることが出来る。
そこで、本実施形態では、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、側壁部6の厚み方向における温度分布を算出する。
【0057】
また、側壁部6の厚み方向における温度分布を可及的に広範囲にわたって算出するためには、温度測定位置も可及的に広範囲に存在している必要がある。特許文献1に記載のように温度センサとして熱電対を用いる場合、多数の熱電対を、正確に位置を定めて側壁部6に設置することは現実的には困難である。
そこで、本実施形態では、温度センサとして、光ファイバー温度センサ111~112を用いる。
【0058】
また、温度測定位置が、ウエア煉瓦7およびパーマ煉瓦8の間や、個々のパーマ煉瓦8の間にある場合、当該温度測定位置で測定される温度の測定精度が、他の温度測定位置で測定される温度の測定精度よりも低くなる虞がある。当該温度測定位置で測定される温度は、当該温度測定位置(温度センサ)の周囲の性状や空隙の影響を受けるからである。したがって、温度センサにより測定される温度の精度が、温度測定位置によってばらつく虞がある。一方、温度センサの周囲の物性値が略同一(好ましくは同一)であれば、このような温度のバラつきを抑制することが出来る。また、煉瓦に温度センサを埋設する場合、作業負担が大きくなる。
【0059】
そこで、本実施形態では、温度センサが、略同一の物性値(好ましくは同一の物性値)を有するプレキャストブロック9に埋設される場合を例示する。ただし、例えば、温度測定位置の周囲の物性値が略同一(好ましくは同一)であれば、温度センサは、必ずしもプレキャストブロック9に埋設される必要はない。例えば、パーマ煉瓦8に光ファイバー温度センサ111~112が埋設されても良い。このようにする場合、パーマ煉瓦8の内部の位置のみを温度測定位置とするのが好ましい。また、このようにする場合、プレキャストブロック9を電気炉1に設置しなくても良い。
【0060】
<設備状態監視装置100>
次に、設備状態監視装置100の一例について説明する。
図6は、設備状態監視装置100の機能的な構成の一例を示す図である。設備状態監視装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)など一またはそれ以上の数のハードウェアプロセッサと、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等、一またはそれ以上の数のメモリと、を、ハードウェアとして有する。設備状態監視装置100は、メモリに格納される一またはそれ以上の数のプログラムを一またはそれ以上の数のハードウェアプロセッサにより実行することで各種の演算を実行する。さらに、設備状態監視装置100は、入力装置、および出力装置をハードウェアとして有する。入力装置および出力装置のうちの少なくとも一方は、設備状態監視装置100の外部にあっても良い。この場合、設備状態監視装置100は、入力装置および出力装置と有線通信または無線通信を行う。
【0061】
本実施形態では設備状態監視装置100が、温度取得部61と、逆問題解析部62と、耐火物位置算出部63と、出力部64と、を備える場合を例示する。以下に、各部が有する機能の一例を説明する。なお、後述する計算において事前に設定することが出来る情報は、例えば、入力装置を介して設備状態監視装置100に記憶されているものとする。
【0062】
<<温度取得部61>>
温度取得部61は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値を取得する。前述したように本実施形態では、測定器131~132により、光ファイバー121~122内の各位置における温度が算出される場合を例示する。したがって本実施形態では、温度取得部61が、測定器131~132により算出された、光ファイバー121~122内の各位置における温度を、光ファイバー温度センサ111~112の測定値として取得する場合を例示する。温度取得部61は、測定器131~132と有線通信または無線通信を行うことにより、光ファイバー温度センサ111~112の測定値を取得しても良い。また、温度取得部61は、測定器131~132以外の装置を介して光ファイバー温度センサ111~112の測定値を取得しても良い。また、温度取得部61は、測定器131~132が有する機能を備えていても良い。
【0063】
光ファイバー温度センサ111~112の測定値を得る位置は、光ファイバー121~122内の位置の中から予め設定される。光ファイバー温度センサ111~112の測定値を得る位置は、可及的に広範囲であり、且つ、可及的に多いのが好ましい。後述する温度取得位置(ホットスポット重心位置、ホットスポット周辺位置)における温度の算出精度が向上するからである。ただし、光ファイバー温度センサ111~112の測定値を得る位置の数が多すぎると、計算負荷が高くなり過ぎる虞がある。したがって、光ファイバー温度センサ111~112の測定値を得る位置は、計算負荷の軽減と、計算精度の向上と、のバランスの観点から、予め設定されるのが好ましい。
【0064】
温度取得部61は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値として、チャージ中における測定値を取得しても良い。このようにすれば、設備状態監視装置100は、炉内に原料が存在しているために、プロフィールメータ等により側壁部6の内周面6aの状態を測定することが出来ない場合においても、内周面6aの厚み方向における位置を算出することが出来る。ただし、温度取得部61が光ファイバー温度センサ111~112の測定値を取得するタイミングは、このようなタイミングに限定されない。例えば、温度取得部61は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値として、チャージ間における測定値を取得しても良い。チャージ間は、例えば、溶融金属および溶融スラグが炉外に排出されてから次の原料が挿入されるまでの期間である。
【0065】
本実施形態では、光ファイバー温度センサ111~112が、光ファイバー121~122内の各位置における温度を一定の時間周期で測定する場合を例示する。また、本実施形態では、温度取得部61が、各時間周期における光ファイバー温度センサ111~112の測定値を取得する場合を例示する。以下の説明では、温度取得部61が、光ファイバー温度センサ111~112の測定値を取得する時間周期を、必要に応じて、温度測定周期と称する。
【0066】
<<逆問題解析部62>>
逆問題解析部62は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布を算出する。
【0067】
三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う場合、内周面6aの厚み方向における一つの位置を算出するための温度として、側壁部6の厚み方向の一箇所あたりN個の温度を用いることが出来る。本実施形態では、このようにする場合を例示する。Nは2以上の整数である。Nは3以上の整数であるのが好ましく、5であるのがより好ましい(このことについては後述する)。
【0068】
また、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う場合、内周面6aの厚み方向における一つの位置を算出するための温度として多数の温度を用いた方が、内周面6aの厚み方向における一つの位置の推定精度が高くなるとも考えられる。しかしながら、本開示者らは、必ずしもこのようにはならず、内周面6aの厚み方向における一つの位置を算出するための温度として、側壁部6の厚み方向の一箇所あたり五つの温度を用いるのが好ましいことを見出した。すなわち、内周面6aの厚み方向における一つの位置を算出するための温度の数(=N)を5よりも多くしなくても、内周面6aの厚み方向における位置の推定精度が、実用上要求される精度を満足する(実測値に近づけられること)が出来る(後述する計算例(
図11を参照))。
【0069】
そこで、本実施形態では、逆問題解析部62が、光ファイバー温度センサ111~112の測定値に基づいて、内周面6aの厚み方向における一つの位置を算出するための温度として、側壁部6の厚み方向の一箇所あたり五つの温度を取得し、取得した温度に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う場合を例示する。
図1~
図3を参照しながら前述したように本実施形態では、光ファイバー121、122の設置領域(仮想面31a、31b内の領域)が側壁部6の厚み方向に二つある場合を例示する。したがって、本実施形態では、逆問題解析部62が、内周面6aの厚み方向における一つの位置を算出するために合計10個(=5×2)の温度を取得する場合を例示する。
【0070】
側壁部6の厚み方向の一箇所において逆問題解析部62が取得する五つの温度は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値でも良いし、光ファイバー温度センサ111~112の測定値に基づいて算出された温度でも良い。以上のように、側壁部6の厚み方向の一箇所において逆問題解析部62が取得する温度の数は五つであるのが好ましい。しかしながら、側壁部6の厚み方向の一箇所において逆問題解析部62が取得する温度の数は五つに限定されず、例えば、五つを上回る数でも良い。ただし、側壁部6の厚み方向の一箇所において逆問題解析部62が取得する温度の数が多すぎると、温度の測定値として多数の測定値が必要になる。また、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより算出される後述の(3)式の重み係数wi,j,k、lの算出精度が低下する(具体的にはオーバーフィッティングになる)虞がある。したがって、これらの点を考慮して、逆問題解析部62が取得する温度の数を設定するのが好ましい。また、側壁部の内周面の厚み方向における一つの位置を算出するための温度の数(=N)の最適値は、例えば、設備に応じて変わり得る。この場合、側壁部の内周面の厚み方向における一つの位置を算出するための温度の数(=N)は、5を上回っても良いし、5を下回っても良い。
【0071】
また、側壁部6(ウエア煉瓦7)の厚みは、ホットスポット付近において減少し易い。そこで、本実施形態では、側壁部6の厚み方向の一箇所において逆問題解析部62が取得する五つの温度の位置が以下の位置である場合を例示する。
図7は、ホットスポット領域の一例を説明する図である。前述したようにホットスポットは、局所的に温度が最大になる位置である。ホットスポット領域は、ホットスポットを含む領域である。本実施形態では、光ファイバー121、122の設置領域(仮想面31a、31b内の領域)のx座標のそれぞれにおいてホットスポット領域が定められる場合を例示する。
【0072】
図7では、光ファイバー121、122の設置領域(仮想面31a、31b内の領域)における温度分布をy-z平面に表す。
図7に示す温度分布は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値に基づいて算出される。例えば、
図7に示す温度分布は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値を内挿補間することにより算出される。内挿補間の手法は限定されず、例えば、直線近似、スプライン補間、多項式補間等、公知の手法で良い。
【0073】
光ファイバー温度センサ111~112の測定値から、局所的に温度が最大になる位置を明確に一点に定めることが出来れば、当該位置をホットスポット領域の位置としても良い。この場合、当該位置の温度をホットスポット領域の温度としても良い。また、光ファイバー121、122で測定可能な温度範囲を複数に区分することにより得られる複数の温度区分ごとに、ホットスポット領域を探索しても良い。この場合、複数の温度区分のうち最も温度が高いことを示す温度区分の領域をホットスポット領域としても良い。このようにする場合、当該ホットスポット領域の代表位置をホットスポット領域の位置とすることと、当該位置の温度をホットスポット領域の温度とすることと、を行っても良い。
図7においては、500℃~525℃の温度区分の領域がホットスポット領域71である場合を例示する。ホットスポット領域71の代表位置は、例えば、ホットスポット領域71の重心の位置である。
【0074】
本実施形態では、逆問題解析部62が、光ファイバー温度センサ111~112の測定値に基づいて、ホットスポット領域71の温度を、光ファイバー121、122の設置領域(仮想面31a、31b内の領域)の全体を対象として算出する場合を例示する。この場合、ホットスポット領域71の温度が、前述した五つの温度のうちの一つの温度になる。光ファイバー121、122の設置領域(仮想面31a、31b内の領域)にホットスポット領域71がそれぞれ複数ある場合、それぞれのホットスポット領域71の温度が、前述した五つの温度のうちの一つの温度になる。
【0075】
なお、内側光ファイバー121の設置領域(仮想面31a内の領域)におけるホットスポット領域71の代表位置のy-z座標と、外側光ファイバー122の設置領域(仮想面31b内の領域)におけるホットスポット領域71の代表位置のy-z座標と、が一致しない場合、逆問題解析部62は、以下のようにして光ファイバー121、122の設置領域におけるホットスポット領域71の温度を算出するのが好ましい。すなわち、この場合、逆問題解析部62は、光ファイバー121、122の設置領域におけるホットスポット領域71の代表位置のy-z座標を一致させ、一致させたy-z座標の温度を、光ファイバー121、122の設置領域におけるホットスポット領域71の温度として算出するのが好ましい。例えば、逆問題解析部62は、光ファイバー121、122の設置領域におけるホットスポット領域71のy座標およびz座標の算術平均値を、それぞれのホットスポット領域71のy座標およびz座標としても良い。また、逆問題解析部62は、光ファイバー121、122の設置領域におけるホットスポット領域71のy座標およびz座標のうちの一方のy座標およびz座標を他方のy座標およびz座標にしても良い。
【0076】
本実施形態では、側壁部6の厚み方向の一箇所において逆問題解析部62が取得する五つの温度のうち、ホットスポット領域71の位置以外の四つの位置が、ホットスポット領域71の位置の周囲に分布した位置にある場合を例示する。分布とは、例えば、四つの位置を同一平面に投影した場合に当該四つの位置のうちの三つ以上の位置が同一直線上にないことを指す。
図8Aおよび
図8Bは、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う際に取得される温度の位置の一例を示す図である。以下の説明では、ホットスポット領域71の位置を、必要に応じて、ホットスポット重心位置と称する。
【0077】
図8Aは、内側光ファイバー121の設置領域(仮想面31a内の領域)において取得される五つの温度の位置81a~81eの一例を示す図である。
図8Bは、外側光ファイバー122の設置領域(仮想面31b内の領域)において取得される五つの温度の位置82a~82eの一例を示す図である。
【0078】
図8Aにおいて、内側光ファイバー121の設置領域におけるホットスポット重心位置81aの座標値を(x^
1,y^
1,z^
1)とする。なお、x^、y^、z^は、後述する数式において、それぞれ、x、y、zの上に^が付された記号に対応する。
図8Aに示すように本実施形態では、x座標がx
1の位置におけるy-z平面上において、ホットスポット重心位置81aの周囲の四つの位置81b~81eが定められる場合を例示する。位置81b、81c、81d、81eの座標値をそれぞれ、(x^
1,y^
0,z^
1)、(x^
1,y^
1,z^
0)、(x^
1,y^
2,z^
1)、(x^
1,y^
1,z^
2)とする。
【0079】
図8Aにおいて、ホットスポット重心位置81aの周囲の四つの位置81b~81eのうちの三つ以上の位置が同一直線上に位置することはない。したがって、位置81b~81eは、ホットスポット重心位置81aの位置の周囲に分布した位置にある。なお、
図8Aでは、ホットスポット重心位置81aの周囲の四つの位置81b~81eのうちの二つの位置(例えば、位置81b、81d)のみが同一直線上に位置する場合を例示する。
【0080】
同様に、
図8Bにおいて、外側光ファイバー122の設置領域におけるホットスポット重心位置82aの座標値を(x
2,y
1,z
1)とする。
図8Bに示すように本実施形態では、x座標がx
2の位置におけるy-z平面上において、ホットスポット重心位置82aの周囲の四つの位置82b~82eが定められる場合を例示する。位置82b、82c、82d、82eの座標値をそれぞれ、(x^
2,y^
0,z^
1)、(x^
2,y^
1,z^
0)、(x^
2,y^
2,z^
1)、(x^
2,y^
1,z^
2)とする。
【0081】
ホットスポット重心位置81a、82aから、当該ホットスポット重心位置81a、82aの周囲の四つの位置81b~81e、82b~82eまでのy軸方向およびz軸方向の距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2は、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う前に設定される。以下の説明では、ホットスポット重心位置81a、82aの周囲の四つの位置を、必要に応じて、ホットスポット周辺位置と称する。また、ホットスポット重心位置81a、82aからホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eまでのy軸方向、z軸方向の距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2を、必要に応じて、距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2と略称する。
【0082】
距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2は、例えば、後述するようにして算出される、内周面6aの厚み方向における位置の算出精度が、実用上要求される精度を満足するように定められれば、限定されない。
【0083】
例えば、内周面6aの厚み方向における位置の算出精度が実用上要求される精度を満足する距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2を試行錯誤的に探索しても良い。このようにする場合、例えば、電気炉1を模擬した試験炉を対象として後述する三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより内周面6aの厚み方向における位置を算出することを、距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2を異なせて行う。次に、それぞれの距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2での、内周面6aの厚み方向における位置の算出値と試験炉における実測値とを比較する。最後に、この比較の結果に基づいて、内周面6aの厚み方向における位置の算出精度が実用上要求される精度を満足する距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2を探索する。
【0084】
また、本実施形態のように、側壁部6の厚み方向の一箇所において逆問題解析部62が取得する五つの温度の中にホットスポット重心位置81a、82aを含める場合、ウエア煉瓦7のうち、ホットスポット重心位置81a、82aと、電気炉1の中心軸Oと、を最短距離で結ぶ仮想線と交わる位置にあるウエア煉瓦7が損耗していることがある。このようにウエア煉瓦7が損耗している場合、内周面6aの領域のうち、当該ウエア煉瓦7が位置する領域は、他の領域よりも窪んでいる。この場合、距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2を、当該窪んでいる部分の大きさに基づいて定めるのが好ましい。以下の説明では、ウエア煉瓦7の損耗により内周面6aが窪んでいる部分を、必要に応じて損耗部と称する。なお、ウエア煉瓦7の損耗は、ウエア煉瓦7の溶損や剥離等により生じる。
【0085】
図9Aおよび
図9Bは、損耗部の一例を示す図である。
図9Aは、側壁部6を、その上方から見た場合の損耗部を含む領域の一例を示す図である。
図9Bは、側壁部6を、電気炉1の中心軸O側から見た場合の損耗部を含む領域の一例を示す図である。なお、
図9Aおよび
図9Bでは、周方向の一箇所で高さ方向に沿って側壁部6を切断して側壁部6を展開した状態として想定される状態を示す。また、
図9Aおよび
図9Bでは、側壁部6の一部(一つのプレキャストブロック9に対応する領域)のみを示す。なお、
図9Aおよび
図9Bでも、表記および説明の都合上、切断面を示すハッチングを省略する。
【0086】
図9Aにおいて、損耗部92が形成されているウエア煉瓦7は、ホットスポット重心位置81a、82aと、電気炉1の中心軸Oと、を最短距離で結ぶ仮想線91と交わる位置にあるウエア煉瓦7であるとする。
【0087】
距離Δy
1、Δy
2は、例えば、損耗部92の周方向(y軸方向)の長さWL
yに基づいて定められる(
図9Aおよび
図9Bを参照)。具体的には、距離Δy
1、Δy
2は、損耗部92の周方向の長さWL
yの1/2以下(または1/2未満)の範囲であるのが好ましい。このようにすれば、損耗部92のy軸方向の両端の間にホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eを定めることが出来るからである。また、本開示者らは、距離Δy
1、Δy
2を、損耗部92の周方向の長さWL
yの1/4にすると、内周面6aの厚み方向における位置の算出精度がより向上するので好ましいという知見を得ている。
【0088】
また、距離Δz
1、Δz
2は、例えば、損耗部92の高さ方向(z軸方向)の長さWL
zに基づいて定められる(
図9Bを参照)。具体的には、距離Δz
1、Δz
2のとり得る範囲は、損耗部92の周方向の長さWL
zの1/2以下(または1/2未満)の範囲であるのが好ましい。このようにすれば、損耗部92のz軸方向の両端の間にホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eを定めることが出来るからである。また、本開示者らは、距離Δy
z、Δy
zを、損耗部92の周方向の長さWL
zの1/4にすると、内周面6aの厚み方向における位置の算出精度がより向上するので好ましいという知見を得ている。
【0089】
また、例えば、損耗部92の深さWLxに応じて、距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2を調整しても良い。例えば、損耗部92の深さWLxが長いほど、距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2を長くしても良いし短くしても良い。なお、損耗部92の深さは、損耗部92の厚み方向(x軸方向)における長さである。
【0090】
なお、説明および表記を簡単にするために
図9Aおよび
図9Bでは、損耗部92である空間の形状が直四角柱である場合を例示する。しかしながら、実際の損耗部Lの形状は、直四角柱よりも複雑な形状である。この場合、損耗部92の各方向の長さWL
x、WL
y、WL
zは、例えば、それぞれの方向における代表長さとすれば良い。
【0091】
例えば、損耗部92の幅WLyと、損耗部92の高さWLzは、損耗部92の開口端92a(口の部分)における長さでも良い。なお、損耗部92の幅は、周方向(y軸方向)の長さである。また、損耗部92の高さは、高さ方向(z軸方向)の長さである。
【0092】
また、例えば、損耗部92の各方向の長さWLx、WLy、WLzは、例えば、それぞれの方向における最大長でも良い。また、例えば、損耗部92の各方向の長さWLx、WLy、WLzは、損耗部92の重心位置における長さでも良い。
【0093】
ここで、損耗部92の各方向の長さWLx、WLy、WLzは、例えば、チャージ間において測定される、プロフィールメータの測定値でも良いし、チャージ間において観測される、目視での観測値でも良い。なお、プロフィールメータによる測定は、特開2018-185253号公報等に記載されているように公知の技術で実現されるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。また、電気炉1を模擬した試験炉を用いて、ホットスポット領域71の温度と、損耗部92の各方向の長さWLx、WLy、WLzと、の関係を調査しても良い。そして、当該関係の調査の結果に基づいて、ホットスポット領域71の温度と、損耗部92の各方向の長さWLx、WLy、WLzと、の関係を示す数式またはルックアップテーブルを作成しても良い。この場合、逆問題解析部62は、ホットスポット領域71の温度に対応する損耗部92の各方向の長さWLx、WLy、WLzを読み出す。
【0094】
逆問題解析部62は、以上のようにして定まる距離Δy1、Δy2、Δz1、Δz2と、ホットスポット重心位置81a、82aと、に基づいて、ホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eを算出し、当該ホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eの温度を取得する。
【0095】
逆問題解析部62は、以上のようにして、ホットスポット重心位置81a、82aの座標(x^1,y^1,z^1)、(x^2,y^1,z^1)における温度u^として、温度測定周期の時間隔の各時刻t1~tnにおける温度u^を取得する。同様に、逆問題解析部62は、ホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eの座標(x^1,y^0,z^1)、(x^1,y^1,z^0)、(x^1,y^2,z^1)、(x^1,y^1,z^2)、(x^2,y^0,z^1)、(x^2,y^1,z^0)、(x^2,y^2,z^1)、(x^2,y^1,z^2)における温度u^として、温度測定周期の時間隔の各時刻t1~tnにおける温度u^を取得する。
【0096】
そして、逆問題解析部62は、三次元の非定常伝熱逆問題解析を解く。
以下に、三次元の非定常伝熱逆問題の一例を説明する。以下の説明では、ホットスポット重心位置81a、82aおよびホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eを、必要に応じて、温度取得位置81a~81e、82a~82eと称する。
まず、三次元の非定常熱伝導方程式は、以下の(1)式で表される。
【0097】
【0098】
ここで、Uは、温度である。x、y、zは、それぞれx-y-z座標系のx座標、y座標、z座標である。tは、時刻である。αは、熱拡散率の平方根である。なお、熱拡散率は、熱伝導率、比熱、および密度(比重)を用いることにより算出される。
基底関数φ(x-xc,y-yc,z-zc,t-tc)は、以下の(2)式で表される。基底関数φ(x-xc,y-yc,z-zc,t-tc)は、(1)式の非定常熱伝導方程式を満たす基本解の形で表現された関数であって、中心点c(基準位置xcおよび基準時刻tc)を基準とする場合の関数である。
【0099】
【0100】
ここで、Tは、(1)式の非定常熱伝導方程式の基本解の空間分布の分散を表す定数(モデルパラメータ)であり、タイムシフトと称される。xc,yc,zc,tcは、ソース項と呼ばれる時空間座標の集合であり、設定値である(すなわち、xc,yc,zc,tcは、非定常伝熱逆問題を解く際の未知数ではない)。例えば、温度取得位置81a~81e、82a~82eの情報をxc,yc,zc,tcに設定しても良い。なお、この場合、tcは、温度取得位置81a~81e、82a~82eの温度を取得する際に用いた光ファイバー温度センサ111~112の測定値が得られた時刻になる。以下の説明では、光ファイバー温度センサ111~112の測定値が得られた時刻を、必要に応じて測定時刻と称する。
【0101】
ここで、温度取得位置81a~81e、82a~82eのx軸方向(厚み方向)の位置を識別する変数をi(i=1,2)とする。また、温度取得位置81a~81e、82a~82eのy軸方向(周方向)の位置を識別する変数をj(i=0,1,2)とする。温度取得位置81a~81e、82a~82eのz軸方向(高さ方向)の位置を識別する変数をk(k=0,1,2)とする。また、温度の測定時刻を識別する変数をl(l=1,・・・,2m)とする。
【0102】
側壁部6の温度を算出するための内外挿温度u(x,y,z,t)は、10×m個の基底関数φ(x-xi,y-yj,z-zk,t-tl)の線形和で表されるものとする。この場合、側壁部6の温度を算出するための内外挿温度u(x,y,z,t)は、以下の(3)式で表される。「10×m」の「10」は、温度取得位置81a~81e、82a~82eの数に対応する。「10×m」の「m」は、温度の測定時刻(1~m、m+1~2m)に対応する。内外挿温度u(x,y,z,t)は、(1)式で表される三次元非定常熱伝導方程式を満たす温度である。内外挿温度u(x,y,z,t)は、温度U(x,y,z,t)の近似解である。
【0103】
【0104】
(3)式の10×m個の重み係数重み係数wi,j,k、lを決定する必要がある。このため、10個の温度取得位置81a~81e、82a~82eのそれぞれにおける温度であって、2×n個の時刻における温度u^(x^i,y^j,z^k,tl)により構成される連立方程式を用いる。ここで、n≧mである。n=mとしても良い。また、時空間座標の座標値(x^i,y^j,z^k,tl)は、ソース項(xi,yj,zk,tl)と同じでも良い。この場合、10×m個の重み係数wi,j,k、lを決定するための20×n個の連立方程式は、以下の(4)式で表される。なお、(4)式では、表記の都合上、20×n個の連立方程式のうちの二つ(l=1、2nの場合の連立方程式)のみを示す。
【0105】
【0106】
(4)式の温度u^を格納する行列をU(∈R(2n×5)×1)と表記する。また、(4)式の基底関数φを格納する行列をΦ(∈R(2n×5)×(2m×5))と表記する。また、(4)式の重み係数wを格納する行列(ベクトル)をW(∈R(2m×5)×1)と表記する。また、(4)式の左辺と右辺との誤差項を格納する行列(ベクトル)をe(∈(2n×5)×1)と表記する。そうすると、(4)式は、以下の(5)式に書き替えられる。なお、Tは転置行列であることを表す。行列Wに関する最小二乗解を得るため、行列eに関する以下の(6)式のコスト関数J:R(2n×5)×1→Rを用いる。ここで、γ(∈R)は、解の安定性を補償するための正則化係数である。コスト関数Jの値が最小になるときの行列Wは、以下の(7)式を満たす行列Wである。具体的に、コスト関数Jの値が最小になるときの行列Wは、以下の(8)式で表される。ここでI(∈Z(2m×5)×(2m×5))は単位行列である。なお、コスト関数Jは、(4)式の左辺と右辺の誤差を評価する関数であれば、(6)式に限定されない。
【0107】
【0108】
(8)式から行列W(重み係数wi,j,k、l)を算出しても良い。しかしながら、逆問題においては、(8)式の右辺の逆行列を解くと、誤差が増幅することにより解が安定しない虞がある。そこで、本実施形態では、以下の(9)式のように行列Φを特異値分解する。ここで、S(∈R(2n×5)×(2n×5))は左特異値行列である。Σ(∈R(2n×5)×(2m×5))は特異値が格納された対角行列である。V(∈R(2m×5)×(2m×5))は右特異値行列である。そうすると、行列Wは、以下の(10)式で表される。本実施形態では、逆問題解析部62が、(10)式により行列Wを算出する場合を例示する。
【0109】
【0110】
逆問題解析部62は、例えば、温度取得部61により光ファイバー温度センサ111~112の測定値が取得されるたびに、以上の処理を行う。これにより、温度測定周期の時間隔の各時刻t(各測定時刻)において行列W(重み係数wi,j,k、l)が算出される。
【0111】
そして、逆問題解析部62は、重み係数wi,j,k、lと、プレキャストブロック9の熱拡散率α2と、光ファイバー温度センサ111~112の測定値が取得された時刻(基準時刻)tc(=tl)と、温度取得位置81a~81e、82a~82eの座標(x^i,y^j,z^k)(=(xi,yj,zk))と、を(3)式に代入することにより、内外挿温度関数u(x,y,z,t)の値を算出し、当該値を温度u(x,y,z,t)とする。
【0112】
ここで、プレキャストブロック9が存在する領域の厚み方向における伝熱は、炉内→内周面6aの付着物→ウエア煉瓦7→プレキャストブロック9→鉄皮10→炉外の順になる。なお、内周面6aに付着物が存在しないこともあり得る。前述したように、ウエア煉瓦7とプレキャストブロック9との間の領域、および、プレキャストブロック9と鉄皮10との間の領域には、それぞれこれらを接続(固定)するための材料が存在する。また、これらの領域には空隙が生じていることもある。したがって、これらの領域は伝熱を妨げる領域になる。よって、伝熱計算を厳密に行う際には、これらの領域の物性値を考慮する必要がある。そこで、これらの領域の物性値を考慮して、三次元の非定常伝熱逆問題を定式化しても良い。しかしながら、これらの領域の物性値を定めるのは容易ではない。また、付着物の種類によって物性値が異なるため、付着物の物性値を定めることは容易ではない。
【0113】
本開示者らは、以上のことを踏まえ鋭意検討した。その結果、本開示者らは、重み係数w
i,j,k,lを算出する際に、熱拡散率(αの平方根)として、プレキャストブロック9の熱拡散率を用いれば、重み係数w
i,j,k,lを算出する際に、その他の熱拡散率を用いなくても、内外挿温度関数u(x,y,z,t)により算出される温度の精度が、実用上要求される精度を満足すること(実測値に近づけられること)を見出した(後述する計算例(
図11を参照))。
【0114】
熱拡散率(αの平方根)として、プレキャストブロック9の熱拡散率を用いる場合、内外挿温度関数u(x,y,z,t)の値は、本来、プレキャストブロック9の温度になる。換言すると、熱拡散率(αの平方根)として、プレキャストブロック9の熱拡散率を用いる場合、本来は、内外挿温度関数u(x,y,z,t)を適用するx-y-z座標系の座標(x,y,z)の範囲を、プレキャストブロック9の領域の座標にする必要がある。しかしながら、本開示者らは、当該座標(x,y,z)をプレキャストブロック9以外の領域の座標として扱っても、内外挿温度関数u(x,y,z,t)の値の精度が、実用上要求される精度を満足することを見出した。そこで、本実施形態では、内外挿温度関数u(x,y,z,t)に含まれる熱拡散率(αの平方根)として、プレキャストブロック9の熱拡散率を用い、その他の部材の熱拡散率を用いない場合を例示する。例えば、パーマ煉瓦8に光ファイバー121~122を埋設する場合には、パーマ煉瓦8の熱拡散率を用い、その他の部材の熱拡散率を用いない。
【0115】
以上のように、本実施形態では、(3)式の内外挿温度関数u(x,y,z,t)の値に基づいて、側壁部6を含む電気炉1の各位置の温度が算出される場合を例示する。本実施形態では、設備状態監視装置100が、内周面6aの厚み方向における位置を算出する場合を例示する。したがって、本実施形態では、逆問題解析部62が、(3)式の内外挿温度関数u(x,y,z,t)の値に基づいて、少なくとも、側壁部6の厚み方向(x軸方向)の温度分布を算出する場合を例示する。
【0116】
より具体的には、本実施形態では、逆問題解析部62が、ホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標での、側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布を算出する場合を例示する。側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布を算出する位置(y座標およびz座標)を、ホットスポット重心位置81a、82aとするのが好ましい。損耗が最も進んでいることが想定される位置において側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布を算出することが出来るからである。
【0117】
しかしながら、側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布を算出する位置(y座標およびz座標)は、ホットスポット重心位置81a、82aに限定されない。
例えば、逆問題解析部62は、ホットスポット重心位置81a、82aに加えてまたは代えてホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eにおいて側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布を算出しても良い。
【0118】
また、例えば、ホットスポット領域71を特定することが出来ない場合がある。この場合、逆問題解析部62は、ホットスポット領域71を特定しなくても良い。例えば、逆問題解析部62は、ホットスポット領域71の位置を、予め設定された位置に置き換えて、当該位置において側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布を前述したようにして算出しても良い。ホットスポット領域71の位置を置き換える位置(前記予め設定された位置)は、例えば、ホットスポットが生じることが想定される位置でも良い。また、ホットスポット領域71の位置を置き換える位置は、補修することが予定されている位置でも良いし、その他の位置(例えば、電気炉1の状態の時間推移を管理するために定められた位置)でも良い。
【0119】
<<耐火物位置算出部63>>
耐火物位置算出部63は、逆問題解析部62により算出された側壁部6の厚み方向における温度分布に基づいて、内周面6aの厚み方向における位置を算出する。本実施形態では、逆問題解析部62が、ホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標での、側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布を算出する場合を例示する。したがって、耐火物位置算出部63が、ホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標での、内周面6aのx座標を算出する場合を例示する。
【0120】
例えば、耐火物位置算出部63は、側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布において、溶融金属の温度と同じ温度となる厚み方向の位置(x座標)を、内周面6aのx座標として算出する。溶融金属の温度は、測定値でも良いし、想定値(目標値や計算値)でも良い。なお、ホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標と異なるy座標およびz座標において側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布が算出される場合、例えば、ホットスポット重心位置81a、82aと異なる位置とy座標およびz座標が同じ炉内の位置の温度を、溶融金属の温度に代えて用いても良い。
【0121】
ウエア煉瓦7は内周面6aを構成するので、内周面6aのx座標により、ウエア煉瓦7の状態を特定することが出来る。例えば、
図9Aおよび
図9Bに示すようにしてx-y-z座標系を定めている場合、x座標の値が小さくなることは、損耗部92の深さWL
xが深くなることに対応する(すなわち、ウエア煉瓦7の厚みが減少することに対応する)。一方、x座標の値が大きくなることは、内周面6a(ウエア煉瓦7)に付着物が付着していることに対応する。
【0122】
ここで、鉄皮10から内周面6aまでの厚み方向(x軸方向)における長さを、耐火物相当長と称する。本実施形態では、耐火物相当長が、ホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標において、鉄皮10のx座標と、内周面6aのx座標と、の差を算出することにより得られる場合を例示する。
【0123】
例えば、耐火物位置算出部63は、新品の電気炉1における耐火物相当長を耐火物相当長の現在値として記憶する。新品の電気炉1における耐火物相当長は、例えば、設計値である。耐火物位置算出部63は、その後に算出した耐火物相当長が、耐火物相当長の現在値よりも短い場合、ウエア煉瓦7の厚みが減少したと判定する。そして、耐火物位置算出部63は、耐火物相当長の現在値を、当該算出した耐火物相当長に更新する。一方、算出した耐火物相当長が、耐火物相当長の現在値よりも長い場合、耐火物位置算出部63は、当該算出した耐火物相当長と、耐火物相当長の現在値と、の差を、付着物の厚み(厚み方向(x軸方向)の長さ)として算出する。なお、耐火物相当長を用いたウエア煉瓦7の状態の管理方法は、以上の方法に限定されない。例えば、耐火物位置算出部63は、耐火物相当長の前回値からの増減量を算出しても良い。
【0124】
<<出力部64>>
出力部64は、内周面状態情報を出力する。内周面状態情報は、耐火物位置算出部63により算出された内周面6aのx座標(内周面6aの厚み方向における位置)に関する情報である。内周面状態情報は、内周面6aのx座標に限定されない。例えば、内周面状態情報は、内周面6aのx座標を用いて算出される情報でも良い。例えば、出力部64は、内周面6aのx座標の現在値と、耐火物相当長の現在値と、のうち少なくとも一方を出力する。出力部64による情報の出力は、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、および設備状態監視装置100の外部の記憶媒体への記憶のうちの少なくともいずれか一つにより行われる。
【0125】
光ファイバー温度センサ111~112の測定値がチャージ中に取得された場合、出力部64は、当該チャージ中に内周面状態情報を出力することが出来る。したがって、内周面状態情報によって、チャージ中に、内周面6aの補修箇所を特定することが出来る。内周面6aの補修箇所は、オペレータによって特定されても良いし、設備状態監視装置100によって特定されても良い。例えば、設備状態監視装置100は、内周面6aのx座標の現在値に基づいて補修箇所を特定する補修箇所特定部を有していても良い。この場合、補修箇所特定部は、例えば、耐火物相当長の現在値が閾値未満であるか否かを判定する。この判定の結果、耐火物相当長の現在値が閾値未満である場合、補修箇所特定部は、当該耐火物相当長を算出する際に使用された内周面6aの位置を、補修箇所として特定する。また、閾値は、例えば、耐火物としての機能が損なわれるウエア煉瓦7の厚み(x軸方向の長さ)に基づいて定められる。このように設備状態監視装置100が補修箇所を算出する場合、出力部64は、補修箇所を示す情報を内周面状態情報として出力しても良い。そして、以上のようにして特定される補修箇所が補修される。補修は、例えば、損耗部92を補修材で埋めることにより行われる。なお、耐火物の補修の方法は、公知の技術で実現されるので、ここでは、その方法の詳細な説明を省略する。
【0126】
また、内周面状態情報によって、チャージ中に、炉内装入物(溶融金属等)が側壁部6から炉外に排出される虞があるために操業を中断または中止するか否かを判定することが出来る。この判定は、オペレータによって行われても良いし、設備状態監視装置100によって特定されても良い。例えば、設備状態監視装置100は、内周面6aのx座標の現在値に基づいて、電気炉1の操業を継続するか否かを判定する操業継続判定部を有していても良い。操業継続判定部は、例えば、耐火物相当長の現在値が閾値未満である場合に、当操業を継続しない(すなわち中断または中止する)と判定しても良い。閾値は、例えば、耐火物としての機能が損なわれるウエア煉瓦7の厚み(x軸方向の長さ)に基づいて定められる。なお、電気炉1の操業を継続するか否かを判定する際に用いる閾値は、前述した補修箇所を算出する際に用いる閾値よりも小さい値にするのが好ましい。この場合、前者の閾値よりも後者の閾値の方が、耐火物としての機能が損なわれるウエア煉瓦7の厚みに対し余裕がある長さになる。このように設備状態監視装置100が電気炉1の操業を継続するか否かを判定する場合、出力部64は、当該判定の結果を示す情報を内周面状態情報として出力しても良い。
【0127】
<フローチャート>
次に、
図10のフローチャートを参照しながら、本実施形態の設備状態監視装置100を用いて行われる設備状態監視方法の一例を説明する。なお、
図10のフローチャートが開始する前に事前に設定することが出来る情報は、入力装置を介して設備状態監視装置100に記憶されているものとする。また、
図10のフローチャートは、例えば、設備状態監視装置100が備えるプロセッサがメモリに格納されているプログラムを実行することにより実現される。
【0128】
まず、ステップS1001において、温度取得部61は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値を取得する。本実施形態では、温度取得部61が、複数の時刻t1,・・・,tmにおいて、光ファイバー121~122内の各位置における温度を取得する場合を例示する。
【0129】
次に、ステップS1002において、逆問題解析部62は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値に基づいて、温度取得位置81a~81e、82a~82eの温度u^(x^i,y^j,z^k,tl)を算出する。そして、ステップS1003の処理が行われる。
【0130】
ここで、温度取得位置81a~81e、82a~82eには、ホットスポット重心位置81a、82a(ホットスポット領域71の位置)が含まれる。ステップS1002において、ホットスポット重心位置81a、82a(ホットスポット領域71の位置)として複数の位置が得られた場合には、当該複数のホットスポット重心位置81a、82aのそれぞれに対して、ホットスポット周辺位置81b~81e、82b~82eが算出される。
【0131】
そこで、
図10においては、ステップS1003~S1106の一回の処理で、一つのホットスポット領域71に対する温度取得位置81a~81e、82a~82eの温度u^(x^
i,y^
j,z^
k,t
l)が用いられる場合を例示する。
【0132】
ステップS1003において、逆問題解析部62は、ステップS1002で算出した温度u^(x^i,y^j,z^k,tl)に基づいて、(3)式の内外挿温度関数u(x,y,z,t)の重み係数wi,j,k、lを算出する。
【0133】
次に、ステップS1004において、逆問題解析部62は、ステップS1003で算出した重み係数wi,j,k、lと、温度取得位置81a~81e、82a~82eの時間座標(x^i,y^j,z^k,tl)((=(xi,yj,zk,tl))と、プレキャストブロック9の熱拡散率α2と、を(3)式に代入することにより、内外挿温度関数u(x,y,z,t)の値(すなわち、温度u(x,y,z,t))を算出する。
【0134】
次に、ステップS1005において、逆問題解析部62は、内外挿温度関数u(x,y,z,t)の値に基づいて、ホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標での、側壁部6の厚み方向(x軸方向)の温度分布を算出する。
【0135】
次に、ステップS1006において、耐火物位置算出部63は、ステップS1005で算出された、ホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標での、側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度分布に基づいて、当該ホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標での、内周面6aの厚み方向における位置(x座標)を算出する。
【0136】
次に、ステップS1007において、設備状態監視装置100は、全てのホットスポット領域71に対する処理を行ったか否かを判定する。この判定の結果、全てのホットスポット領域71に対する処理が行われていない場合(ステップS1007でNOの場合)、ステップS1003の処理が行われる。そして、ステップS1003~1006において、逆問題解析部62および耐火物位置算出部63は、未処理のホットスポット領域71のホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標での、内周面6aの厚み方向における位置を算出する。
【0137】
そして、ステップS1007において、全てのホットスポット領域71に対する処理が行われたと判定されると(ステップS1007でYESの場合)、ステップS1008の処理が行われる。ステップS1008において、出力部64は、内周面状態情報を出力する。ステップS1002において複数のホットスポット領域71が得られた場合には、ステップS1003~S1006の繰り返し処理において、内周面6aの厚み方向における位置として、ホットスポット領域71の数と同数の位置が算出される。したがって、この場合、出力部64は、内周面6aの厚み方向における複数の位置のそれぞれに対する内周面状態情報を出力する。ステップS1008の処理が終了すると、
図10のフローチャートによる処理は終了する。
【0138】
<計算例>
次に、計算例を説明する。本計算例では、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う対象の側壁部6を、
図9Aおよび
図9Bに示すようにしてモデル化された側壁部とした。本計算例では、このようにモデル化された側壁部6の内周面6aのx座標を、本実施形態で説明したように三次元の非定常伝熱逆問題解析を行った場合と、一次元の非定常伝熱逆問題を行った場合と、のそれぞれにおいて算出した。
【0139】
損耗部92は、モデルのy-z平面の中心に形成されているものとした、損耗部92の各方向の長さWL
x、WL
y、WL
zを、それぞれ、0.14m、0.2m、0.2m(WL
x=0.14、WL
y=WL
z=0.2)とした。また、モデル化された側壁部6の高さ(高さ方向(z軸方向)の長さ)ZB、幅(周方向(y軸方向)の長さ)YB、厚み(厚み方向(x軸方向)の長さ)XBを、それぞれ、1m、1m、0.46m(ZB=YB=1、XB=0.46)とした。また、モデル化された側壁部6の外周面6bから内側光ファイバー121までの厚み方向(x軸方向)の距離Δx
inを、0.14m(Δx
in=0.14)とした、また、モデル化された側壁部6の外周面6bから外側光ファイバー122までの厚み方向(x軸方向)の距離Δx
outを、0.04m(Δx
out=0.04)とした。そして、
図8Aおよび
図8Bに示す距離Δy
1、Δy
2を、それぞれ0.05m(Δy
1=Δy
2=0.05)とした。すなわち、距離Δy
1、Δy
2を、損耗部92の幅WL
yの1/4とした。また、
図8Aおよび
図8Bに示す距離Δz
1、Δz
2をそれぞれ0.05m(Δz
1=Δz
2=0.05)とした。すなわち、距離Δz
1、Δz
2を、損耗部92の高さWL
zの1/4とした。
【0140】
以上の条件でホットスポット重心位置81a、82aのy座標およびz座標での、側壁部6の厚み方向(x軸方向)における温度を算出した。この際、温度測定周期を0.01Hrとした。また、温度の測定時刻の数mを50(m=50)とした。また、非定常伝熱逆問題のモデルパラメータとして、タイムシフトT((1)式を参照)を35Hrとした。また、正則化係数γ((6)式を参照)を0.00000000001とした(γ=0.00000000001)。なお、非定常伝熱逆問題のモデルパラメータは、非定常の度合いに応じて定めれば良い。
【0141】
また、モデルの各部の温度を真値として与えた。温度取得位置81a~81e、82a~82eにおける真値(温度)を取り出して非定常伝熱逆問題を行った。なお、一次元の非定常伝熱逆問題においては、温度取得位置は、ホットスポット重心位置81a、82aの二つになる。損耗部92の重心の位置のy座標、z座標は、ホットスポット重心位置81a、82aのy座標、z座標であった。また、内周面6aの温度TMは1665℃(TM=1665)であった。
【0142】
図11Aおよび
図11Bは、耐火物温度と耐火物厚み方向距離との関係の一例を示す図である。耐火物温度は、非定常伝熱逆問題解析を行うことにより算出された内外挿温度関数u(x,y,z,t)の値(温度)である。耐火物厚み方向距離は、モデルの外周面6bからの厚み方向(x軸方向)における距離である。
【0143】
図11Aは、本実施形態で説明したように三次元の非定常伝熱逆問題解析を行った結果を示す。
図11Bは、本実施形態で説明した三次元の非定常伝熱逆問題解析において、伝熱の方向を厚み方向のみに限定して一次元の非定常伝熱逆問題を行った場合の結果を示す。
【0144】
前述したように内周面6aの温度TMは1665℃(TM=1665)であった。内周面6aの温度TM(=1665℃)における耐火物厚み方向距離が、前述した耐火物相当長になる。
【0145】
図11Aに示すように本実施形態で説明した手法では、計算値は真値に近くなった。また、内周面6aの温度T
M(=1665℃)における耐火物厚み方向距離は0.323mであった。
図9Aおよび
図9Bにおいて、損耗部92aにおける側壁部6の厚み(=XB-WL
x)は、0.32(=0.46-0.14)である。内周面6aの温度T
M(=1665℃)における耐火物厚み方向距離(=0.323m)として、損耗部92aにおける側壁部6の厚み(=0.32m)に近い値が得られていることが分かる。
【0146】
これに対し、
図11Bに示すように一次元の非定常伝熱逆問題解析を行った場合には、計算値は真値よりも低温になった。また、内周面6aの温度T
M(=1665℃)における耐火物厚み方向距離は0.371mであり、真値(=0.32m)からの乖離が大きくなった。
【0147】
以上のように、
図11Aおよび
図11Bの比較結果から、y軸方向およびz軸方向の伝熱を考慮しないと、内周面6aの厚み方向における位置の算出精度が低くなる虞があるのに対し、本実施形態のようにy軸方向およびz軸方向の伝熱を考慮することによって内周面6aの厚み方向における位置の算出精度を向上させることが出来ることが分かる。また、
図11Aから、内外挿温度関数u(x,y,z,t)に含まれる熱拡散率(αの平方根)として、プレキャストブロック9の熱拡散率を用い、その他の部材の熱拡散率を用いなくても、内周面6aの厚み方向における位置を精度良く算出することが出来ることが分かる。
【0148】
<ハードウェア>
次に、設備状態監視装置100のハードウェアの一例について説明する。
図12において、設備状態監視装置100は、CPU1201、主記憶装置1202、補助記憶装置1203、通信回路1204、信号処理回路1205、画像処理回路1206、I/F回路1207、ユーザインターフェース1208、ディスプレイ1209、およびバス1210を有する。
【0149】
CPU1201は、設備状態監視装置100の全体を統括制御する。CPU1201は、主記憶装置1202をワークエリアとして用いて、補助記憶装置1203に記憶されているプログラムを実行する。主記憶装置1202は、データを一時的に格納する。補助記憶装置1203は、CPU1201によって実行されるプログラムの他、各種のデータを記憶する。
【0150】
通信回路1204は、設備状態監視装置100の外部との通信を行うための回路である。通信回路1204は、設備状態監視装置100の外部と無線通信を行っても有線通信を行っても良い。
【0151】
信号処理回路1205は、通信回路1204で受信された信号や、CPU1201による制御に従って入力した信号に対し、各種の信号処理を行う。
画像処理回路1206は、CPU1201による制御に従って入力した信号に対し、各種の画像処理を行う。この画像処理が行われた信号は、例えば、ディスプレイ1209に出力される。
ユーザインターフェース1208は、オペレータが設備状態監視装置100に対して指示を行う部分である。ユーザインターフェース1208は、例えば、ボタン、スイッチ、およびダイヤルなどを有する。また、ユーザインターフェース1208は、ディスプレイ1209を用いたグラフィカルユーザインターフェースを有していても良い。
【0152】
ディスプレイ1209は、画像処理回路1206から出力された信号に基づく画像を表示する。I/F回路1207は、I/F回路1207に接続される装置との間でデータのやり取りを行う。
図12では、I/F回路1207に接続される装置として、ユーザインターフェース1208およびディスプレイ1209を示す。しかしながら、I/F回路1207に接続される装置は、これらに限定されない。例えば、可搬型の記憶媒体がI/F回路1207に接続されても良い。また、ユーザインターフェース1208の少なくとも一部およびディスプレイ1209は、設備状態監視装置100の外部にあっても良い。
【0153】
なお、CPU1201、主記憶装置1202、補助記憶装置1203、信号処理回路1205、画像処理回路1206、およびI/F回路1207は、バス1210に接続される。これらの構成要素間の通信は、バス1210を介して行われる。また、設備状態監視装置100のハードウェアは、前述した設備状態監視装置100の機能を実現することができれば、
図12に示すハードウェアに限定されない。例えば、CPU1201に代えてまたは加えてGPUがプロセッサとして用いられても良い。また、設備状態監視装置100のハードウェアも、例えば、
図12に示す設備状態監視装置100のハードウェアと同じハードウェアで実現される。したがって、ここでは、設備状態監視装置100のハードウェアの具体例の詳細な説明を省略する。
【0154】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、操業時に溶融金属が内部に存在する設備の一例である電気炉1において、側壁部6の内周面6aを、耐火物で構成する。また、側壁部6を構成する部材に、光ファイバー温度センサ111、112が備える光ファイバー121~122を埋設する。したがって、側壁部6の温度として、より広範囲における温度を測定することが出来る。
【0155】
また、本実施形態では、側壁部6を構成する部材として、プレキャストブロック9を用いる。プレキャストブロック9は、光ファイバー121~122が埋設された状態で不定形耐火物がプレキャストされることにより作製された耐火性のブロックである。したがって、光ファイバー121、122の設置が容易になる。また、光ファイバー温度センサ111~112による温度の測定誤差にバラつきが生じることを抑制することが出来る。
【0156】
また、本実施形態では、設備状態監視装置100は、光ファイバー温度センサ111~112の測定値に基づいて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行うことにより、側壁部6の厚み方向における温度分布を算出する。そして、設備状態監視装置100は、側壁部6の厚み方向における温度分布に基づいて、内周面6aの位置として、側壁部6の厚み方向における位置を含む位置を算出する。したがって、内周面6aの状態を、容易に且つ高精度に監視することが出来る。また、炉内に溶融金属などが存在している状態でも、内周面6aの状態を監視することが出来る。
【0157】
また、本実施形態では、設備状態監視装置100は、内周面6aの厚み方向における一つの位置を算出するための温度として、側壁部6の厚み方向の一箇所あたり五つの温度を取得する。したがって、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う際に使用する温度の数を適正化することが出来る。
【0158】
また、本実施形態では、設備状態監視装置100は、ホットスポット重心位置81a、82aの温度を取得する。したがって、ホットスポットを含む領域において三次元の各方向への伝熱を考慮することが出来る。
【0159】
また、本実施形態では、設備状態監視装置100は、側壁部6を構成する部材の物性値(熱拡散率)のうち、プレキャストブロック9の物性値(熱拡散率)のみを用いて、三次元の非定常伝熱逆問題解析を行う。したがって、非定常伝熱逆問題が複雑な問題になることを抑制することが出来る。また、推定が困難な事象についての仮定を非定常伝熱逆問題に導入することによる計算精度の低下を抑制することが出来る。
【0160】
また、本実施形態では、相対的に内側の位置を測定する光ファイバー温度センサ111と、相対的に外側の位置の温度を測定する光ファイバー温度センサ112と、を別の温度センサとする。したがって、光ファイバー温度センサ111~112の設置が容易になる。
【0161】
また、本実施形態では、パーマ煉瓦8が設置される領域の一部の領域に、光ファイバー121、122が埋設されたプレキャストブロック9を設置する。したがって、プレキャストブロック9が損耗することを抑制することが出来る。
【0162】
(その他の実施形態)
なお、以上説明した本開示の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することが出来る。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本開示の実施形態として適用することが出来る。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることが出来る。
【0163】
また、以上説明した本開示の実施形態は、何れも本開示を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本開示は、例えば、操業時に溶融金属が内部に存在する設備に利用することが出来る。