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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】植物系バイオマスの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/80 20220101AFI20250312BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20250312BHJP
   B09B 101/85 20220101ALN20250312BHJP
【FI】
B09B3/80
B09B3/35 ZAB
B09B101:85
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023186354
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】523412566
【氏名又は名称】株式会社オゥルテス
(73)【特許権者】
【識別番号】303031114
【氏名又は名称】株式会社キーステーション
(73)【特許権者】
【識別番号】591087703
【氏名又は名称】株式会社アロンワールド
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】長村 和典
(72)【発明者】
【氏名】藤村 慎一
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩史
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105920(JP,A)
【文献】特開2018-111055(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059737(WO,A1)
【文献】特開2018-127413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/80
B09B 3/35
B09B 101/85
C10L 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物原料を切断、破砕、又は、粉砕し、電解アルカリイオン水からなる浸漬液、又は、電解アルカリイオン水を水で希釈した浸漬液の中に10時間以上浸漬し、その後、乾燥させることを特徴とする植物系バイオマスの処理方法。
【請求項2】
浸漬液のpHが9以上であることを特徴とする請求項1に記載の植物系バイオマスの処理方法。
【請求項3】
植物原料として、トウダイグサ科トウゴマ属の多年草を使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の植物系バイオマスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物系バイオマスを燃料として使用する前に、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、ケイ素、マグネシウム等の成分の含有量を低下させることができる植物系バイオマスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物系バイオマス(木質系バイオマス、草本系バイオマス等)を燃焼させることによって、熱エネルギー及び/又は電気エネルギーを得ようとする場合、植物原料(幹、樹皮、枝等)を予めチップ化して貯留しておき、それらを燃焼炉内に供給して燃焼させるという方法が実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5753959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物系バイオマスには、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、ケイ素、マグネシウム等の成分が含まれているため、そのまま燃焼させると、燃焼炉や煙突の内壁、伝熱管等の表面にクリンカーが付着、堆積してしまうほか、金属部分の腐食を招いてしまうという問題がある。
【0005】
尚、特許文献1には、植物系バイオマスから、カリウム等の含有成分を除去する方法等が開示されているが、それらの成分を更に効率的に低下できる方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術における課題を解決しようとするものであって、植物系バイオマスを燃料として使用する前に、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、ケイ素、マグネシウム等の成分の含有量を、極めて効率良く低下させることができる植物系バイオマスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る植物系バイオマスの処理方法は、植物原料を、切断、破砕、又は、粉砕し、電解アルカリイオン水からなる浸漬液、又は、電解アルカリイオン水を水で希釈した浸漬液の中に10時間以上浸漬し、その後、乾燥させることを特徴としている。尚、浸漬液のpHは9以上であることが好ましく、また、植物原料として、トウダイグサ科トウゴマ属の多年草を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る植物系バイオマスの処理方法によれば、従来技術と比較して、カリウム等の含有量を極めて効率良く低下させることができ、燃焼時において、燃焼炉等への悪影響を効果的に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る「植物系バイオマスの処理方法」の実施形態について説明する。本発明に係る植物系バイオマスの処理方法は、基本的には、採集又は回収した植物原料を、取り扱い易い大きさに切断、破砕、又は、粉砕し、電解アルカリイオン水(浸漬液)の中に所定時間浸漬し、その後、乾燥させることを特徴とする。
【0010】
原料として使用できる植物としては、樹木(スギ、ヒノキ、モミ等の針葉樹、カシ、ナラ、クヌギ、カエデ等の落葉広葉樹、マテバシイ等の常緑広葉樹等)、草本類のいずれでもよく、また、部位は、幹、皮、枝、茎、葉、花、種子、根等のいずれでもよい。
【0011】
原料として、樹木の幹、皮、枝を使用する場合、予め適切な大きさ(例えば、長さ10~500mm程度)に切断する。小枝、茎、葉等を使用する場合は、チップ化する(例えば、10~50mm程度)。
【0012】
浸漬工程は、電解アルカリイオン水を貯留した水槽内に原料を投入し、殆どの部位(特に、切断面)が水面下に没した状態を維持して行う。浸漬中、必要に応じて、電解アルカリイオン水の撹拌を行ってもよい。尚、切断した幹や枝等は、取り扱いやすい大きさに束ねて水槽内に投入することが好ましい。チップ化した小枝、茎、葉等の小さいものは、適切な大きさの網袋(メッシュ袋)に収容した状態で水槽内に投入することができる。また、土が付着している根については、事前に土を除去する必要はなく、土が付着した状態のまま水中に投入することができる。
【0013】
水槽内に貯留する浸漬液としては、基本的には、電気分解処理によって生成されたアルカリイオン水であれば、問題なく使用することができる。例えば、特許第2949322号公報に開示されているイオン水の製造方法(結晶性粘土鉱物が溶解した原料水を電気分解処理して得られたアルカリ性および酸性の各イオン水に、結晶性粘土鉱物をさらに溶解させるとともに、各イオン水を所定の電極側に供給して電気分解処理するという方法)によって製造した電解アルカリイオン水等を使用することができる。尚、浸漬液としては、電解アルカリイオン水の原液(例えばpH12以上)を使用することができるほか、原液を水(水道水等)で希釈したもの(例えばpH9~12)を使用することもできる。
【0014】
浸漬工程は、10時間以上行うことが好ましい。また、浸漬工程は、インターバルを置いて、複数回実施することもできる。
【0015】
浸漬作業が終了したら、原料を水槽から取り出して、乾燥工程を実施する。乾燥工程は、自然乾燥(天日干し)、或いは、乾燥器(特に、バイオマス燃料を熱源とする乾燥器)を使用して実施することができる。
【0016】
乾燥工程の実施後、未だチップ化していない原料に対し、必要に応じてチップ化を行う。例えば、原料を破砕機に投入して、10~50mm程度の大きさに破砕する。また、粉砕機(ハンマーミル等)を用いて、例えば、粒径1mm程度となるように粉砕してもよい。破砕又は粉砕によって得られたチップに対し、更に乾燥工程を実施してもよい。
【0017】
本実施形態に係る植物系バイオマスの処理方法を実施することにより、従来技術(水道水等への浸漬)と比較して、極めて効率良く、カリウム等の成分の含有量を低下させることができる。かかる効果は、本発明の発明者らが行った実験によって確認されている。以下、本発明の発明者らが行った実験の結果を、実施例として説明する。
【実施例
【0018】
宮崎県で栽植された草を収穫し、裁断して得た試料を、各種の浸漬液中に浸漬し、浸漬液中に溶出したカリウム及び硫黄の量と、浸漬液のpHを経時的に測定する実験を行った。本実験においては、トウゴマ(トウダイグサ科トウゴマ属の多年草)(品種登録名:ヤマトダマ)の葉、茎、及び、根をそれぞれ10~30mmの大きさに裁断して試料とした。
【0019】
試料を浸漬する液体として、水道水(比較例)と、電解アルカリイオン水の原液(pH12以上)(本発明1)と、電解アルカリイオン水の原液を水道水で10倍に希釈したもの(pH9)(本発明2)を6Lずつ用意した。これら三種類の浸漬液を、それぞれ6個の容器(合計18個)に1Lずつ収容した。そして、それらの18個の容器に、試料を50gずつ投入した。尚、試料は、葉、茎、及び、根の構成比がほぼ同じとなるように分配した。
【0020】
容器への試料の投入から30分経過後に、上記18個の容器のうち、比較例を収容した容器と、本発明1を収容した容器と、本発明2を収容した容器を一つずつ選び、それらの容器から試料を取り除き、浸漬液中のカリウム及び硫黄の量と、浸漬液のpHを測定した。また、試料の投入から1時間経過後、2時間経過後、5時間経過後、10時間経過後、及び、24時間経過後に、それぞれ同様の測定作業を実施した。その結果を次表に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
上表に示されるように、本発明1(電解アルカリイオン水の原液、pH12以上)においては、カリウムの溶出量が、比較例(水道水)の約2倍となり、10時間以上浸漬した場合には、比較例を上回る量の硫黄が溶出した。また、本発明2(電解アルカリイオン水の10倍希釈液、pH9)においても、比較例を上回る量のカリウム及び硫黄が溶出した。
【0023】
これらの実験結果により、トウゴマ(トウダイグサ科トウゴマ属の多年草)を電解アルカリイオン水に浸漬する工程を実施することにより、従来技術(水道水等への浸漬)と比較して極めて効率良く、カリウム及び硫黄等の成分を溶出させることができること(トウゴマ中の含有量を低下させることができること)が確認された。
【0024】
尚、上記実験では、トウゴマを適用対象として使用したが、他の植物原料に対して本発明を適用した場合も、同様の効果を期待できると推察される。また、上記実験では、電解アルカリイオン水として、特許第2949322号公報に開示されているイオン水の製造方法によって製造した電解アルカリイオン水を使用したが、他の方法によって製造した電解アルカリイオン水を使用した場合においても、同様の効果が期待できると推察される。
【0025】
また、電解アルカリイオン水を水で希釈したものを浸漬液として用いた場合も、pHが9以上であれば、ある程度の効果を期待できると推察される。
【0026】
また、上記実験では、カリウムと硫黄の溶出量のみを測定しているが、他の含有成分、例えば、塩素、ナトリウム、ケイ素、マグネシウム等についても、同様に溶出させ、含有量を低下させることができると推察され、燃焼時における燃焼炉や煙突等への悪影響を低減できると考えられる。
【要約】
【課題】植物系バイオマスを燃料として使用する前に、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、ケイ素、マグネシウム等の成分の含有量を、従来技術と比較して極めて効率良く低下させることができ、燃焼時における燃焼炉や煙突等への悪影響を低減することができる植物系バイオマスの処理方法を提供する。
【解決手段】植物原料を、取り扱い易い切断、破砕、又は、粉砕し、電解アルカリイオン水からなる浸漬液、又は、電解アルカリイオン水を水で希釈した浸漬液の中に10時間以上浸漬し、その後、乾燥させることを特徴とする。浸漬液のpHは、9以上であることが好ましく、また、植物原料として、トウダイグサ科トウゴマ属の多年草を使用することが好ましい。
【選択図】なし