(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】細胞培養用の多孔質足場及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250312BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20250312BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20250312BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/04
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2024539225
(86)(22)【出願日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2023028625
(87)【国際公開番号】W WO2024029629
(87)【国際公開日】2024-02-08
【審査請求日】2024-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2022124446
(32)【優先日】2022-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516132301
【氏名又は名称】インテグリカルチャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 豊晃
(72)【発明者】
【氏名】盧 梦雪
(72)【発明者】
【氏名】大西 正展
(72)【発明者】
【氏名】前田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 允
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-525128(JP,A)
【文献】国際公開第2022/076519(WO,A1)
【文献】特表2021-519060(JP,A)
【文献】RONZONI, F. L. et al.,Myoblast 3D bioprinting to burst in vitro skeletal muscle differentiation,J Tissue Eng Regen Med,2022年05月,vol.16, no.5,pp.484-495,doi: 10.1002/term.3293
【文献】ABDOLLAHI, M. et al.,Physicochemical Properties of Foam-Templated Oleogel Based on Gelatin and Xanthan Gum,European Journal of Lipid Science and Technology,vol.122, no.2,2019年09月24日,e.1900196
【文献】KRSTONOSIC, V. et al.,Effects of xanthan gum on physicochemical properties and stability of corn oil-in-water emulsions st,Food Hydrocolloids,vol.23, no.8,2009年12月,pp.2212-2218
【文献】GUO, J. et al.,Periodate oxidation of xanthan gum and its crosslinking effects on gelatin-based edible films,Food Hydrocolloids,vol.39,2014年08月,pp.243-250
【文献】PIOLA, B. et al.,3D Bioprinting of Gelatin-Xanthan Gum Composite Hydrogels for Growth of Human Skin Cells,Int J Mol Sci,vol.23, no.1,2022年01月04日,e.539,doi: 10.3390/ijms23010539
【文献】SEO, H. et al.,Concentration of Cross Linker Considerably Influence Physicochemical and Bio-Properties of Scaffold,Science of Advanced Materials,vol.9, no.2,2017年02月,pp.268-275
【文献】Modern Applied Science,2019年,Vol.13, No.3,pp.101-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 1/04
C12N 5/071
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを混合し、起泡させる混合起泡工程;
得られた発泡体においてゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを架橋させる架橋工程;
架橋工程で得られた生成物を乾燥させる乾燥工程;
及び
乾燥工程で得られた生成物を150~210℃で加熱処理する加熱処理工程を含む製造方法で得られる、細胞培養用の多孔質足場であって、
ゼラチンの含有量に対するキサンタンガム又はその類縁体の含有量が、3~15質量%であ
り、
前記類縁体が、脱アセチル化キサンタンガム、低アセチル化キサンタンガム、低ピルビン酸キサンタンガム、カチオン化キサンタンガム、架橋キサンタンガム及び酸処理キサンタンガムからなる群から選択される、細胞培養用の多孔質足場。
【請求項2】
混合起泡工程が、ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体と不溶性セルロースとを混合し、起泡させる工程である、請求項1に記載の細胞培養用の多孔質足場。
【請求項3】
前記不溶性セルロースが発酵セルロース、シトラスファイバー又は微結晶セルロースである請求項2に記載の細胞培養用の多孔質足場。
【請求項4】
細胞培養用の多孔質足場の製造方法であって、
ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを混合し、起泡させる混合起泡工程;
得られた発泡体においてゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを架橋させる架橋工程;
架橋工程で得られた生成物を乾燥させる乾燥工程
及び
乾燥工程で得られた生成物を150~210℃で加熱処理する加熱処理工程を含
み、
ゼラチンの含有量に対するキサンタンガム又はその類縁体の含有量が、3~15質量%であり、
前記類縁体が、脱アセチル化キサンタンガム、低アセチル化キサンタンガム、低ピルビン酸キサンタンガム、カチオン化キサンタンガム、架橋キサンタンガム及び酸処理キサンタンガムからなる群から選択される、製造方法。
【請求項5】
混合起泡工程において、ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体と不溶性セルロースとを加えて混合し、起泡させる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
架橋工程において、酵素処理及び/又は加熱処理によって架橋が行われる、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の細胞培養用の多孔質足場上に、可食性の培養細胞が付着している、食品組成物。
【請求項8】
可食性の細胞を請求項1~3のいずれかに記載の細胞培養用の多孔質足場と共に培養する培養工程を含む、前記細胞培養用の多孔質足場上に可食性の培養細胞が付着している食品組成物の製造方法。
【請求項9】
可食性の培養細胞を分化させる分化工程を更に含む、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用の多孔質足場及びその製造方法に関する。更に、細胞培養用の多孔質足場上に可食性の培養細胞が付着している食品組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織は、一般に細胞と細胞自身が産生する細胞外基質で構成される。細胞外基質は、細胞を取り囲むようにして存在し、その主な成分は構造タンパク質(コラーゲン、エラスチン、ケラチン等)、グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等)、及び細胞接着分子(フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲン等)である。細胞外基質は、細胞の接着、増殖、分化等の細胞活動の足場として重要な役割を果たす。
【0003】
細胞培養においても、構造支持体として、また細胞の接着、増殖、分化等のために、細胞外基質に代わる足場が必要である。細胞培養のための足場には、細胞活動の活性化、細胞への十分な養分の提供、及び排泄物の排出の役割が必要とされるため、多孔質体又は高含水性ゲルの形態が好ましい。更に、近年、活発に研究されている再生医療、再生組織のための足場として、生分解性の足場も注目されている。
【0004】
主に用いられている生分解性の足場としては、合成高分子材料と天然高分子材料がある。合成高分子材料には、例えばポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸とポリ乳酸の共重合体(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリカプロラクトン等が挙げられる。天然高分子材料には、例えば細胞外基質の成分が挙げられ、具体的にはコラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、アガロース、キトサン、フィブリン、フィブロイン等が挙げられる。合成高分子材料は、一般に高い力学強度を有し、構造支持体としての機能は優れるが、細胞との親和性は低いとの問題があった。天然高分子材料は、一般に高い細胞親和性を有するが、力学強度は低く、容易に変形してしまうとの問題があった(非特許文献1)。このように、合成高分子材料と天然高分子材料は共に、細胞接着性と力学強度のいずれかに問題を有していた。
【0005】
多くの細胞の表面にはインテグリンをはじめとするコラーゲン接着タンパク質が発現しており、コラーゲンは様々な細胞に対して非常に強い接着性を有する。そこで、細胞外基質を模倣して、コラーゲン等の天然高分子材料を用いた足場が注目されている。しかし、上記の通り、天然高分子材料は、力学強度は低く、容易に変形してしまい、また加熱滅菌の際、形状が変化するとの問題があるため、天然高分子材料の特性を有しつつ、力学強度が向上し、加熱滅菌の際、形状が変化しない足場が求められていた。
【0006】
特許文献1には、コラーゲン、ゼラチン又はその他のタンパク質分子が、(-)-エピガロカテキンガレート又はその他のポリフェノールにより架橋された水不溶性の含水ゲル、又はこれを乾燥して得られるスポンジからなる組織再生用足場材料が記載されている。特許文献2には、コラーゲンの部分アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有する遺伝子組み換えゼラチンを含む血管内皮細胞遊走用足場が記載されている。
しかし、特許文献1及び2の足場が、オートクレーブ処理等の滅菌処理を行っても劣化することがなく、様々な細胞を培養することができるかは記載されていない。また、特許文献1及び2には、ゼラチンとキサンタンガム等を組み合わせた足場については、全く記載されていない。後述の比較例2の試験の通り、ゼラチンのみを含む足場では、細胞の接着性及び増殖性は十分ではなかった。
【0007】
非特許文献2及び3には、気泡方法を用いてゼラチンからグルタルアルデヒド等の架橋剤で安定化された多孔質足場を製造したことが記載されている。しかし、本発明者らが追試を行ったがこれらの安定な多孔質足場を製造することができなかった。
更に、非特許文献2及び3の足場は、変性温度が73.5~87.6℃(非特許文献2の表1,非特許文献3の表2)であり、オートクレーブ処理等の滅菌処理を行えば劣化する。非特許文献2及び3には、ゼラチンとキサンタンガム等を組み合わせた足場については、全く記載されていない。後述の比較例2の試験の通り、ゼラチンのみを含む足場では、細胞の接着性及び増殖性は十分ではなかった。
【0008】
更に、近年、世界人口の増加と共に、世界の食料需給に関して議論がされている。例えば、2050年の世界人口は2010年と比較して約1.3倍増加して約86.4億人に達すると予想され、2050年の世界農地面積は地球温暖化によって平均気温が約2℃上昇することで約0.7億ha増加して約16.1億haになると予測されている。このように、世界人口の予測増加率は世界農地面積の予測増加率を上回っている。
【0009】
そこで、新たな食品、例えば、培養技術等の他の手段を利用した新たな食品の開発が期待されている。例えば、培養肉は、組織工学技術を用いて、細胞培養から生産される食品であり、近年、様々な研究所、大学及び企業において研究開発が進められている。培養肉の技術は、動物が消費する大量の飼料及びそのために必要な広大な農地が用いられる畜産と比較して、食品の製造効率が高い。培養肉の技術は、畜産で問題となることがある動物の感染症等の疾患の影響、及び動物に投与される抗生物質等の薬剤の影響等を排除することができる。また、無菌環境で製造することで、畜産食品に混入し得る細菌・ウィルスの影響を排除することができる。
【0010】
特許文献3には、三次元多孔性足場と、筋管核を含む筋管と、複数の細胞型を含む食用組成物が記載されている。三次元多孔性足場として、テクスチャ加工タンパク質、非テクスチャ加工タンパク質、多糖類等が挙げられ、実施例ではテクスチャ加工大豆タンパク質が用いられている。しかし、本発明者らが、大豆タンパク質を用いて細胞を培養したところ、培養細胞の増殖が上手く行かず、培養細胞を含む食品組成物を製造することはできなかった。
【0011】
特許文献4には、植物由来のハイドロゲルと組み合わせた培養動物筋細胞を含む食用の脱水食品が記載されている。植物由来のハイドロゲルとして、表面上に培養細胞を増殖させた食用のマイクロキャリアを用いることができ、食用のマイクロキャリアとしてペクチン等の多糖、及びカルシドン等のポリペプチドが記載されている。しかし、具体的な実施例が記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-125916号公報
【文献】特開2013-074936号公報
【文献】特表2020-527054号公報
【文献】特表2017-505138号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】材料,2014年,63巻,9号,p.684~689
【文献】Materials Science and Engineering C, 48 (2015) 63-70
【文献】Materials Science and Engineering C, 63 (2016) 1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、オートクレーブ処理等の滅菌処理を行っても劣化することがなく、様々な細胞を培養することができる細胞培養用の多孔質足場、及びその製造方法を提供することにある。更に、細胞培養用の多孔質足場上に可食性の培養細胞が付着している食品組成物、及びその製造方法を提供することにある。
また、公知のPET樹脂製の足場(例えば、比較例1)及びゼラチン繊維基材の多孔質足場(例えば、比較例2)等では増殖性が悪い細胞系(セルライン)であっても、好適に増殖可能な足場を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは、上記の本発明の課題を解決するべく鋭意検討した結果、ゼラチンとキサンタンガムとを混合して架橋して調製した架橋凝集体を含有する細胞培養用の多孔質足場が、意外にも、細胞の接着、増殖、分化等のコラーゲン又はゼラチンの特性を保存しつつ、コラーゲン又はゼラチンには欠落していた力学強度が大きく向上し、形状が変化せず、オートクレーブ処理等の滅菌処理を行っても劣化することがなく、様々な細胞を培養することができることを見出して、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体の架橋凝集体を含有し、加熱滅菌の際、形状が変化しない細胞培養用の多孔質足場。
[2] 前記架橋凝集体が不溶性セルロースを更に含有する、[1]に記載の細胞培養用の多孔質足場。
[3] 前記不溶性セルロースが発酵セルロース、シトラスファイバー又は微結晶セルロースである、[2]に記載の細胞培養用の多孔質足場。
[4] 細胞培養用の多孔質足場の製造方法であって、
ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを混合し、起泡させる混合起泡工程;及び
得られた発泡体においてゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを架橋させる架橋工程を含む、製造方法。
【0017】
[5] 架橋工程で得られた生成物を乾燥させる乾燥工程を更に含む、[4]に記載の製造方法。
[6] 混合起泡工程において、ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体に更に不溶性セルロースを加えて混合し、起泡させる、[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7] 架橋工程において、酵素処理及び/又は加熱処理によって架橋が行われる、[4]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] [4]~[7]のいずれかに記載の製造方法で製造される細胞培養用の多孔質足場。
[9] [1]~[3]及び[8]のいずれかに記載の細胞培養用の多孔質足場上に、可食性の培養細胞が付着している、食品組成物。
[10] 可食性の細胞を[1]~[3]及び[8]のいずれかに記載の細胞培養用の多孔質足場と共に培養する培養工程を含む、前記細胞培養用の多孔質足場上に可食性の培養細胞が付着している食品組成物の製造方法。
[11] 可食性の培養細胞を分化させる分化工程を更に含む、[10]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、力学強度が大きく向上し、形状が変化せず、オートクレーブ処理等の滅菌処理を行っても劣化することがなく、様々な細胞を培養することができ、可食性である細胞培養用の多孔質足場、及びその製造方法が提供される。更に、細胞培養用の多孔質足場上に可食性の培養細胞が付着している食品組成物、及びその製造方法が調製される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】試験例1におけるHEK293T細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図2】試験例2におけるアヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図3】試験例3におけるアヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図4】試験例3におけるアヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図5】試験例4におけるニワトリ筋肉由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図6】試験例4におけるニワトリ筋肉由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図7】試験例5におけるアヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図8】試験例6における比較例1のPET樹脂製の足場、比較例2のゼラチン繊維基材の多孔質足場、及び実施例5の細胞培養用の多孔質足場を用いたRL34細胞(ラット由来肝上皮細胞株)の接着性及び増殖性の評価を示す図である。
【
図9】試験例6における様々な株化細胞及びウシ由来初代細胞を用いた実施例5の細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図10】試験例6における様々な株化細胞及びウシ由来初代細胞を用いた実施例5の細胞培養用の多孔質足場の接着性と増殖性の評価を示す図である。
【
図11】試験例7における粉砕工程を得た多孔質足場の形状を示す図である。
【
図12】試験例7におけるアヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の形状比較の評価を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.細胞培養用の多孔質足場
本発明は、ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体の架橋凝集体を含有し、加熱滅菌の際、形状が変化しない細胞培養用の多孔質足場に関する。ゼラチンとキサンタンガム等とを混合して架橋させて調製された架橋凝集体は、ゼラチンとキサンタンガム等との間に静電的相互作用(イオン結合、水素結合)が作用しつつ、ゼラチンとキサンタンガム等がそれぞれ会合して生成される網目構造の高分子ネットワークが相互に絡み合った凝集体を更に架橋させたものである。それによって、細胞培養用の多孔質足場の力学強度が大きく向上したと考えられる。
【0021】
<ゼラチン>
本発明に用いるゼラチンとしては、牛や豚などの哺乳動物の骨、皮部分や、サメやティラピアなどの魚類の骨、皮、鱗部分などのコラーゲンを含有する原料を用いて、例えば、コラーゲンを熱水抽出し、その後、アルカリ処理、酸処理、酵素処理等で加水分解することによって得られるゼラチンを用いることができる。前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。前記酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。前記酵素としては、ゼラチンのペプチド結合を切断する機能を有する酵素であればよい。通常、タンパク質分解酵素あるいはプロアテーゼと呼ばれる酵素である。具体的には、例えば、コラゲナーゼ、チオールプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、メタルプロテアーゼなどが挙げられ、これらを単独あるいは複数種類を組み合わせて使用することができる。前記チオールプロテアーゼとしては、例えば、植物由来のキモパパイン、パパイン、プロメライン、フィシン、動物由来のカテプシン、カルシウム依存性プロテアーゼなどが挙げられる。前記セリンプロテアーゼとしては、トリプシン、カテプシンDなどが挙げられる。前記酸性プロテアーゼとしては、ペプシン、キモシンなどが挙げられる。
【0022】
本発明において使用し得るゼラチンとしては、酸処理又はアルカリ処理で加水分解されたゼラチン、酵素処理で加水分解されたゼラチン等が挙げられる。いずれのゼラチンを使用しても良いが、本発明においてはゼラチンを正に帯電させることが望ましいことから、各種ゼラチンが有する等電点(pI値)を考慮する必要がある。例えば、酸処理又は酵素処理で加水分解されたゼラチンは、塩基処理で加水分解されたゼラチンと比較して、加水分解中に脱アミド化の進行が少ないために、コラーゲンと近いpI値7~9である。アルカリ処理されたゼラチンのpI値は5である。これらのpI値よりも低いpHに調整することでゼラチンは正に帯電することから、ゼラチンとキサンタンガムとの架橋工程で酵素処理等を行う場合があることを考慮すれば、酵素が機能しやすい弱酸性域(pH5~6.5)で使用しやすい、酸処理で加水分解されたゼラチンがより好ましく使用される。製造工程においてpHを適切に調整することで、キサンタンガム又はその類縁体との静電的な相互作用が強固となり、本発明の細胞培養用の多孔質足場の力学強度及び硬さに寄与する。
【0023】
また、本発明において使用し得るゼラチンの重量平均分子量としては、例えば約5000~約20000が挙げられ、好ましくは、例えば約8000~約15000、約10000~約17000、約12000~約18000、約15000~約20000等が挙げられる。ゼラチンの重量平均分子量を選択することで、又はゼラチンの原料の種類を選択することで、本発明の細胞培養用の多孔質足場の力学強度及び硬さを、望ましい範囲に調整することができる。
【0024】
<キサンタンガム又はその類縁体>
本発明で用いられるキサンタンガムは、キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)が菌体外に生産する多糖類である。例えば、キサンタンガムの製造工程で使用する塩類の種類によって、カリウム塩、ナトリウム塩、又はカルシウム塩等の形態のキサンタンガムを用いることができる。キサンタンガムの好ましい重量平均分子量としては、例えば、約200万~約5000万が挙げられる。キサンタンガムは、通常、グルコース2分子、マンノース2分子、グルクロン酸の繰り返し単位からなる。キサンタンガムは、酸性基を有するため、ゼラチンと、特に等イオン点がpH7~9である酸処理又は酵素処理で加水分解されたゼラチンと、強固な静電的な相互作用をして、本発明の細胞培養用の多孔質足場の力学強度及び硬さに寄与する。キサンタンガムの類縁体としては、例えばキサンタンガムと同様にゼラチンと凝集体を形成することができるキサンタンガムの誘導体が挙げられる。
また、キサンタンガムの誘導体としては、例えば、脱アセチル化キサンタンガム、低アセチル化キサンタンガム、低ピルビン酸キサンタンガム、カチオン化キサンタンガム、架橋キサンタンガム及び酸処理キサンタンガム等が挙げられる。
【0025】
本発明の細胞培養用の多孔質足場における、キサンタンガム又はその類縁体の含有量としては、ゼラチンに対して、例えば約1~約15質量%が挙げられ、好ましくは約2~約10質量%が挙げられ、より好ましくは約3~約8質量%が挙げられる。
キサンタンガム等の代わりに、ジェランガム又はアルギン酸ナトリウムを用いた場合、得られた細胞培養用の多孔質足場の力学強度及び硬さは十分には向上しなかった。
【0026】
<不溶性セルロース>
本発明の細胞培養用の多孔質足場における架橋凝集体は、本発明の細胞培養用の多孔質足場の効果を阻害しない範囲で、更に不溶性セルロースを含むことができる。不溶性セルロースとしては、例えば、発酵セルロース、シトラスファイバー、微結晶セルロース、又はこれらの混合物等が挙げられる。好ましい不溶性セルロースとしては、例えば発酵セルロース、シトラスファイバー又は微結晶セルロース等が挙げられる。例えば発酵セルロース等の不溶性セルロースを含むことで、本発明の細胞培養用の多孔質足場の製造において調製される気泡をより安定化することができ、更に細胞培養用の多孔質足場の力学強度が向上する。力学強度の向上は、ゼラチンとキサンタンガム等がそれぞれ会合して生成される高分子のネットワークが相互に、更に不溶性セルロースと絡み合うためと考えられる。
【0027】
不溶性セルロースの含有量は、不溶性セルロースの種類によって変わるが、ゼラチンに対して、例えば約0.1~約30質量%が挙げられ、好ましくは約0.2~約20質量%が挙げられ、より好ましくは約0.3~約10質量%が挙げられる。不溶性セルロースが発酵セルロースである場合、不溶性セルロースの含有量は、ゼラチンに対して、例えば約0.1~約15質量%が挙げられ、好ましくは約0.2~約12質量%が挙げられ、より好ましくは約0.4~約10質量%が挙げられる。
【0028】
<その他の成分>
本発明の細胞培養用の多孔質足場は、本発明の細胞培養用の多孔質足場の効果を阻害しない範囲で、更にその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば増粘多糖類、タンパク質分解物等が挙げられる。増粘多糖類としては、例えば脱アシルジェランガム(及びアルカリ土類金属塩)、白キクラゲ多糖体、寒天、マンナン、ヒアルロン酸、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、HPMC等の修飾セルロース、又はこれらの混合物等が挙げられる。タンパク質分解物としては、例えば小麦たん白分解物、大豆たん白分解物、コラーゲンペプチド、又はこれらの混合物等が挙げられる。増粘多糖類又はタンパク質分解物等の含有量は、増粘多糖類の種類によって変わるが、ゼラチンに対して、例えば約0.1~約30質量%が挙げられ、好ましくは約0.2~約20質量%が挙げられ、より好ましくは約0.3~約10質量%が挙げられる。
【0029】
<コート剤>
本発明の細胞培養用の多孔質足場は、更にコート剤で被覆することもできる。コート剤で被覆された場合、培養細胞と多孔質足場は、コート剤を介して付着していることが好ましい。コート剤としては、例えば、ポリリジン、RGDペプチド含有ポリペプチド、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲンなどのポリペプチド又はタンパク質からなるコート剤、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸又はこれらの混合物等が挙げられる。好ましくは、ポリリジン等が挙げられる。コート剤で被覆することで、可食性多糖類の多孔質足場への細胞の接着を調整し、細胞の増殖を促進させることができる。
コート剤の含有量としては、細胞培養用の多孔質足場に対して、例えば約1~50質量%が挙げられ、好ましくは約2~20質量%が挙げられ、より好ましくは約3~10質量%が挙げられる。
【0030】
本発明の細胞培養用の多孔質足場は、構成成分が相互に架橋しており、好ましくは、酵素処理及び/又は加熱処理で、構成成分が相互に架橋している。酵素処理及び加熱処理については、後述する。
本発明の細胞培養用の多孔質足場は、多孔構造を有することを特徴とし、その孔サイズは、例えば約10μm~約1mm等が挙げられる。
【0031】
本発明において、「加熱滅菌の際、形状が変化しない」とは、例えば高圧蒸気滅菌法(オートクレーブ)で加熱滅菌した際、細胞培養用の多孔質足場の形状が変化しないことを言う。具体的には、実施例で用いた条件である「120℃で20分間、オートクレーブでの滅菌」によって、足場構造が溶解し、多孔質構造が崩れないことを意味する。
【0032】
<本発明の細胞培養用の多孔性足場の形状>
調製された本発明の細胞培養用の多孔質足場は、細胞培養に用いるのに適した形状に成形又は裁断をして用いることが好ましい。形状としては、例えば、長方形、球形、円筒形、ビーズ、微粉末等が挙げられる。大きさとしては、用いる培養装置に適した大きさが挙げられ、長径が例えば0.5~20mmが挙げられ、好ましくは1~10mmが挙げられる。
【0033】
本発明の細胞培養用の多孔質足場は、粉砕しても一定の構造を維持することができる特徴がある。足場の比表面積を大きくする目的で、適宜、粉砕して微粉末に加工することもできる。粉砕後の足場の粒径は、例えば20~50μm、50~100μm、100μm~2mm等が挙げられる。
更に、本発明の細胞培養用の多孔質足場と同一の組成を有し、多孔質構造に加工せずに、微粉末に加工した足場であっても、本発明の効果を奏し得る。
【0034】
2.細胞培養用の多孔質足場の製造方法
本発明の細胞培養用の多孔質足場は、
ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを混合し、起泡させる混合起泡工程;及び
得られた発泡体においてゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを架橋させる架橋工程を含む方法で製造することができる。
【0035】
<混合起泡工程>
混合起泡工程において、まずゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体を、水中で混合する。具体的には、ゼラチン水溶液とキサンタンガム等の水溶液とをそれぞれ調製した後、両水溶液を混合する方法、キサンタンガム等の水溶液を調製した後、本水溶液にゼラチンを加えて溶解させる方法、ゼラチンとキサンタンガム等を粉体混合した後、水中で溶解する方法が考えられる。キサンタンガムは非常に水和しやすいために、水に溶解させる際、ダマになりやすい。また、ゼラチンとキサンタンガム等が水中に溶解する前に凝集することを回避するため、ゼラチン水溶液とキサンタンガム等の水溶液とをそれぞれ調製した後、両水溶液を混合する方法が好ましい。また、ゼラチン、及びキサンタンガム又はその類縁体の水溶液に、更に不溶性セルロース、その他の成分等を混合してもよい。例えば発酵セルロース等の不溶性セルロースを含むことで、気泡をより安定化することができ、更に細胞培養用の多孔質足場の力学強度が向上する。
【0036】
ゼラチンの水中の濃度としては、例えば約1~約10質量%が挙げられ、好ましくは約2~約8質量%が挙げられ、更に好ましくは約3~約7質量%が挙げられる。キサンタンガム又はその類縁体、酸及び増粘多糖類の添加量は、前記の通りである。混合する温度としては、例えば約40~約95℃が挙げられ、好ましくは約60~約90℃が挙げられ、より好ましくは約70~約85℃が挙げられる。
【0037】
更に好ましくは、混合起泡工程において酸を添加し、ゼラチンの等電点(酸処理ゼラチン、酵素処理ゼラチンの場合:pI値7~9、アルカリ処理ゼラチンの場合:pI値5)以下に調整する。以下の機構に拘束されるものではないが、足場の製造時に酸を添加し、pHをゼラチンの等電点よりも低くすることによって、ゼラチンを正に帯電させ、負の電荷を有するキサンタンガムと強く静電的に相互作用させることができる。この状態で更に、以下の酵素処理及び/又は加熱処理の架橋工程を行うことで、ゼラチンとキサンタンガム間の架橋化が促進されて、細胞培養用の多孔質足場の力学強度が向上する。
【0038】
酸としては、例えば、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、リンゴ酸、塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。好ましい酸としては、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、リンゴ酸、塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸等が挙げられ、より好ましくはクエン酸等が挙げられる。酸の含有量は、細胞培養用の多孔質足場の構成成分の種類及び含有量によって変わるが、ゼラチンに対して、例えば約0.1~約2質量%が挙げられ、好ましくは約0.2~約1.5質量%が挙げられ、より好ましくは約0.4~約1質量%が挙げられる。また、酸添加後の足場材料のpHは、例えばpH3~6であり、好ましくは、pH3~5である。
【0039】
続いて、得られた混合物を起泡させて、発泡体を調製する。起泡させる手段としては、特に制限されるものではなく、例えば約10μm~約1mm等の泡を形成させることができるものであれば、如何なる手段でも構わない。例えば、ミキサー等を用いて、空気を巻き込むように激しく攪拌することができる。また、マイクロバルブ等の気泡発生装置を用いて生成した気泡を吹き込むことで発泡体を調製することもできる。また、マイクロバルブ等の気泡発生装置を用いて生成した気泡を吹き込むことで発泡体を調製することもできる。
【0040】
<架橋工程>
所望の方法によって、得られた発泡体中で、ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体とを架橋させる。架橋させる方法としては、例えば、酵素処理及び/又は加熱処理が挙げられる。
酵素処理において使用し得る酵素としては、例えばトランスグルタミナーゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、リジルオキシダーゼ、プロテインジスルフィドイソメラーゼ、プロテインジスルフィドレダクターゼ、スルフヒドリルオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、及びポリフェノールオキシダーゼ(チロシナーゼ)等が挙げられ、好ましくはトランスグルタミナーゼ等が挙げられる。酵素処理の方法としては、用いる酵素ごとに従来知られた方法で実施することができる。酵素がトランスグルタミナーゼである場合は、例えば40℃で1時間酵素反応をさせることができる。また、酵素処理において使用する酵素の反応最適pHを考慮し、例えば、pH4~7に調整する。また、酵素を安定的に作用させるのに塩類が必要な場合は、必要に応じて塩類を添加することができる。酵素処理によって、ゼラチンの不溶化が促進され、細胞培養用の多孔質足場の保形性が向上する。
【0041】
増粘多糖類がアルカリ土類金属塩を添加してゲル化させるものである場合は、架橋工程で、アルカリ土類金属塩を添加して、ゲル化させる。
また、加熱処理によって架橋を強化する場合、特に限定されないが、例えば約150~約210℃、好ましくは約160~約200℃で、約1~10分間、行うことができる。加熱処理による架橋化で、細胞培養用の多孔質足場の力学強度が大きく向上し、オートクレーブ滅菌にも耐えることができるようになる。
【0042】
<乾燥工程>
架橋工程で得られた生成物でも、細胞培養の足場として使用することは可能であるが、輸送等の手間を考えた場合、当該生成物を乾燥させた方が良い場合がある。この場合、架橋工程に続いて、乾燥工程を実施しても良い。本発明において使用し得る乾燥工程としては、例えば、乾熱乾燥、減圧乾燥及び凍結乾燥等が挙げられる。
【0043】
また、当該足場を細胞培養に用いる前に滅菌処理(例、オートクレーブ等)したい場合は、ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体との架橋を更に強固にすることが望まれる。この場合においては、好ましくは、乾熱乾燥によって、前記生成物を処理すれば良い。
乾熱乾燥は、特に限定されないが、例えば、常圧下、約40~約90℃、好ましくは約50~約70℃で、乾燥するまで実施することができる。乾燥を行うことで、スポンジ状の多孔質のものが得られる。
【0044】
また、乾燥工程に続いて、更に加熱処理を行うことで、ゼラチンとキサンタンガム又はその類縁体との架橋を強化することもできる。加熱処理としては、特に限定されないが、例えば約150~約210℃、好ましくは約160~約200℃で、約1~10分間、行うことができる。加熱処理による架橋化で、細胞培養用の多孔質足場の力学強度が大きく向上する。
【0045】
得られた細胞培養用の多孔質足場を、細胞培養に用いる形状の足場に成形又は裁断を行う。形状については、上述の通りである。更に必要に応じて、細胞培養用の多孔質足場をコート剤で被覆することもできる。
【0046】
<粉砕工程>
上述の通り、本発明の細胞培養用の多孔質足場は、比表面積を向上させるために、適宜、粉砕工程を実施しても良い。具体的には、足場を裁断装置で微粉砕・裁断・カットし、メッシュで篩過することで、容易に調製することができる。
【0047】
製造された細胞培養用の多孔質足場は、使用前に滅菌処理することができる。滅菌処理としては、特に限定されないが、例えばエチレンオキサイドガス滅菌法、放射線滅菌法、高圧蒸気滅菌法(オートクレーブ)、乾燥滅菌法等で滅菌することができる。
【0048】
3.食品組成物
本発明の食品組成物は、前記の細胞培養用の多孔質足場上に、可食性の培養細胞が付着している、食品組成物である。
本発明の細胞培養用の多孔質足場の構成成分は、可食性であるため、当該細胞培養用の多孔質足場上に可食性の培養細胞が付着している食品組成物は、食品として摂食することができる。
【0049】
<可食性の細胞>
培養される可食性の細胞としては、一般的にヒト以外の動物の細胞である。例えば、細胞は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、シカ、イノシシ、ウマ、ウサギ、クマ、クジラ等の哺乳動物;ニワトリ、アヒル、シチメンチョウ、ガチョウ、ダチョウ、キジ、ハト等の鳥類;ワニ、アリゲーター等の爬虫類;マグロ、サケ、サバ、イワシ、カタクチイワシ、スズキ、ナマズ、コイ、タラ、ウナギ、カレイ、フグ、ハタ、オヒョウ、ニシン、シイラ、カジキ、ヒウチダイ、カワカマス、サメ、フエダイ、ヒラメ、メカジキ、テラピア、マス等の魚類;カニ、ザリガニ、ロブスター、エビ、小エビ等の甲殻類;アワビ、ハマグリ、カキ、ホタテガイ、カタツムリ等の軟体動物;コウイカ、タコ、イカ等の頭足類、コオロギ、バッタ、ミールワーム(ゴミムシダマシの幼虫)等の昆虫等が挙げられる。
【0050】
可食性の培養細胞は、上記動物の様々な臓器・組織の細胞であってもよい。例えば、臓器・組織は、骨格筋、平滑筋、心臓、肝臓、腎臓、胃、腸等が挙げられる。具体的には、筋芽細胞、衛星細胞、脂肪細胞、内皮細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞、腎細胞等が挙げられる。なお、培養した細胞を更に分化させた細胞、例えば筋原線維等も、本発明の培養細胞に含まれる。
本発明の食品組成物は、後述の製造方法で製造することができる。
【0051】
4.食品組成物の製造方法
本発明の食品組成物は、可食性の細胞を前記の細胞培養用の多孔質足場と共に培養する培養工程を含む製造方法で、製造することができる。
【0052】
<培養工程>
細胞の培養は、それぞれの細胞に適した通常用いられる培養方法が用いられる。細胞を、細胞培養用の多孔質足場と共に適切な培地中で培養する。適切な培地として、用いる細胞に適した培地を選択することが好ましい。
培養した細胞を更に分化させて、例えば筋原線維等にすることもできる。
【0053】
細胞培養用の多孔質足場と共に細胞を培養させて生成した混合物を、必要に応じて培地を除去して洗浄して、食品組成物として使うことができる。遠心分離等でペレット化して、すすぐことで洗浄してもよい。
得られた混合物にゲル化剤、増粘剤等を添加して、ペースト又はゲル状に加工・成形して食品組成物とすることや加熱、冷凍して食品組成物とすることもできる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明を実施例、比較例及び試験例等にて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1~3及び5~19
細胞培養用の多孔質足場の調製
80℃で攪拌しながら、表1~表3に記載された量のゼラチンを50重量部のイオン交換水に撹拌溶解した。80℃で攪拌しながら、表1~表3に記載された量のキサンタンガム及び増粘多糖類(塩化カルシウムを除く)、並びに任意に不溶性セルロース及び他の成分を50重量部のイオン交換水に撹拌溶解した。次に、調製したキサンタンガム及び増粘多糖類等の水溶液を撹拌しながら、そこに溶解したゼラチン水溶液を加え、更に、酸を加えて、各溶液を混合後の終濃度が表1~表3に記載の濃度となるように調整して、攪拌した。続いて、得られた組成物をハンドミキサーで起泡させた。酵素と実施例3では塩化カルシウムとを少量のイオン交換水に溶解した溶液を、起泡させた組成物に添加して、ハンドミキサーで均一になるまで混合した。ステンレスパッドに厚さ約1cmになるように加えて成形した。ステンレスパッドを40℃の恒温層に入れて、1時間保温した。60℃の恒温層で約15時間、乾燥させた。更に、180℃で7分間、オーブン中で加熱処理をした。5mm×5mmの大きさに裁断して、細胞培養用の多孔質足場を調製した。
【0056】
試験例1~4では、細胞培養に用いる前に、0.5質量%塩化カルシウム水溶液に浸漬して、120℃で20分間、オートクレーブで滅菌して使用した。
試験例5及び6では、細胞培養に用いる前に、イオン交換水に浸漬して、121℃で20分間、オートクレーブで滅菌して使用した。
オートクレーブ後も力学強度及び多孔質構造(孔サイズ:約100~約1000μm)は維持されていた。また、細胞培養用の多孔質足場の乾燥質量の40倍のイオン交換水を添加しても、細胞培養用の多孔質足場の構造が維持された。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
表1~表3に記載された各成分は、以下のものを用いたゼラチンの種類。
ゼラチン:サンサポート(登録商標)P-203(ブタ由来、酸処理)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、サンサポート(登録商標)P-204(ブタ由来、酸処理)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、サンサポート(登録商標)P-205(魚由来、酸処理)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)及びサンサポート(登録商標)P-206(ウシ由来、酸処理)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
キサンタンガム:サンサポート(登録商標)P-207(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
発酵セルロース製剤:サンサポート(登録商標)P-212(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製:発酵セルロース50.0%及びキサンタンガム33.0%、CMC-Na17.0%を含む)
アルギン酸ナトリウム:サンサポート(登録商標)P-208(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
大豆多糖類:サンサポート(登録商標)P-214(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
マンナン:サンサポート(登録商標)P-209(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
寒天:サンサポート(登録商標)P-210(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
小麦たん白分解物:サンサポート(登録商標)P-211(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
シトラスファイバー:サンサポート(登録商標)P-213(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
微結晶セルロース:サンサポート(登録商標)P-215(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
トランスグルタミナーゼ:アクティバTG-K及びアクティバTG-Kしなやか(味の素株式会社製)
ラッカーゼ:ラッカーゼ(天野エンザイム製)
【0061】
比較例1
PET樹脂製の足場
BelloCell Chip(CESCO BIOENGINEERING Co. Ltd)を5mm×5mmに切断して使用した。本PET樹脂製の足場を、以下、PET足場とも記す。
【0062】
比較例2
ゼラチン繊維基材の多孔質足場
細胞培養中も形状を維持できる特殊な不織布構造のゼラチン繊維基材であるGenocel(登録商標)(株式会社ニッケ・メディカル)を使用した。本ゼラチン繊維基材の多孔質足場を、以下、ゼラチン繊維足場とも記す。
【0063】
試験例1
HEK293T細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着能と増殖能の評価
<材料>
細胞:HEK293T(ヒト胚性腎臓細胞RCB2202;理化学研究所)
培地:10%FBS 1%PSA I-MEM(10%ウシ胎児血清(FBS)(富士フィルム和光純薬株式会社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB(PSA)(富士フィルム和光純薬株式会社)、I-MEM(食品組成培地,インテグリカルチャー株式会社))
ATP測定キットCellTiter-Glo@Luminescent Cell Viability Assay(プロメガ株式会社)
比較例1のPET樹脂製の足場
実施例1の細胞培養用の多孔質足場
【0064】
<細胞培養>
比較例1のPET樹脂製の足場及び実施例1の細胞培養用の多孔質足場を5mm×5mmに裁断し、0.5%CaCl
2溶液中で、120℃×20分間、オートクレーブ処理を行った。オートクレーブ滅菌した足場を、10%FBS 1%PSA I-MEMで洗浄し、CaCl
2溶液を十分に培地と置換し、96ウェルプレートの各ウェルに、比較例1のPET樹脂製の足場については4個/ウェル、実施例1の細胞培養用の多孔質足場については1個/ウェルを入れた(n=6)。HEK293T細胞については、10%FBS 1%PSA I-MEMに懸濁(
図1に記載の細胞数/ウェル)した状態で準備し、100μLを各ウェルに播種した。播種後のプレートを、37℃、5%CO
2の環境下で静置培養を行った。
【0065】
<ATP測定による培養後の生細胞数測定>
培養1日後と4日後の生細胞数の測定を行って細胞の接着能と増殖能を評価した。
培養後の生細胞数の測定は、CellTiter-Glo@Luminescent Cell Viability Assayを用い、キットに添付のプロトコールに従って行った。細胞播種後、1日後又は4日後の足場を新しい96ウェルプレートに移し替え、足場に対して50μL PBS、50μL CellTiter-Glo@Regentを加え、ヴォルテックスミキサーで十分に撹拌し、細胞を溶解させ、ATPの抽出を行った。得られた溶解液100μLを新しい96ウェルプレートに移し、マルチプレートリーダー(Glomax(Promega))にて発光量を測定することで、ATP量に基づく発光量を測定した。既知の細胞数の試料から作成した検量線を用いて、得られた発光量から生細胞数を算出した。その測定結果を
図1(n=6,エラーバー:標準偏差)に示す。
【0066】
<結果及び考察>
HEK293T細胞の培養1日目と4日目の生細胞数を計測した結果、HEK293T細胞の場合では、BelloCell培養器(CESCO社)で利用される比較例1のPET樹脂製の足場及び実施例1の細胞培養用の多孔質足場(以下、実施例1の足場とも記す)のいずれの場合でも、培養1日目において播種細胞数の増加に応じて培養後の生細胞数の増加が確認され、いずれの播種量の場合でも一定数、足場に対する細胞の接着が起こっていることが示された。また、いずれの足場を用いた場合でも、培養1日目~4日目にかけて生細胞数が増加することが確認された(
図1)。このことから、本発明の細胞培養用の多孔質足場は、HEK293T細胞に対して接着能と細胞増殖能を有していることが確認された。また、HEK293T細胞に対しては、本研究で開発した足場が、すでに培養用の足場として市販されているPET足場と同等の細胞接着能と細胞増殖能を有することが確認できた。
【0067】
試験例2
アヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着能と増殖能の評価
<材料>
細胞:アヒル肝臓由来初代細胞(自製品:アヒルの解剖により取得した肝臓組織から細胞を単離し、10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)にいれ、37℃で培養した)
培地:10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB(PSA)(富士フィルム和光純薬株式会社)、I-MEM(食品組成培地,インテグリカルチャー株式会社))
ATP測定キットCellTiter-Glo@Luminescent Cell Viability Assay(プロメガ株式会社)
比較例1のPET樹脂製の足場
実施例1~3及び5~6の細胞培養用の多孔質足場
【0068】
<細胞培養>
比較例1のPET樹脂製の足場及び実施例1~3及び5~6の細胞培養用の多孔質足場を5mm×5mmに裁断し、0.5%CaCl2溶液中で、120℃×20分間、オートクレーブ処理を行った。オートクレーブ滅菌した足場を、10%血清 1%PSA I-MEMで洗浄し、CaCl2溶液を十分に培地と置換し、96ウェルプレートの各ウェルに、比較例1のPET樹脂製の足場については4個/ウェル、実施例1~3及び5~6の細胞培養用の多孔質足場については1個/ウェルを入れた(n=6)。アヒル肝臓由来初代細胞については、10%血清 1%PSA I-MEMに懸濁(8×104細胞/細胞懸濁液100μLとなるように調整)した状態で準備し、100μLを各ウェルに播種した。播種後のプレートを、37℃、5%CO2の環境下で静置培養を行った。
【0069】
<ATP測定による培養後の生細胞数測定>
培養1日後と4日後の生細胞数の測定を行って細胞の接着能と増殖能を評価した。
培養後の生細胞数の測定は、CellTiter-Glo@Luminescent Cell Viability Assayを用い、キットに添付のプロトコールに従って行った。細胞播種後、1日後又は4日後の足場を新しい96ウェルプレートに移し替え、足場に対して50μL PBS、50μL CellTiter-Glo@Regentを加え、ヴォルテックスミキサーで十分に撹拌し、細胞を溶解させ、ATPの抽出を行った。得られた溶解液100μLを新しい96ウェルプレートに移し、マルチプレートリーダー(Glomax(Promega))にて発光量を測定することで、ATP量に基づく発光量を測定した。既知の細胞数の試料から作成した検量線を用いて、得られた発光量から生細胞数を算出した。その測定結果を
図2(n=6,エラーバー:標準偏差)に示す。
【0070】
<結果及び考察>
アヒル肝臓由来初代細胞の培養1日目と4日目の生細胞数を計測した結果、実施例1~
3及び5~6の細胞培養用の多孔質足場(以下、それぞれ実施例1~
3及び5~6の足場とも記す)について、培養1日目及び4日目で生細胞を確認することができた。また、培養1日目~4日目にかけて細胞数の増加がみられた(
図2)。従って、アヒル肝臓由来初代細胞において本発明の細胞培養用の多孔質足場が細胞接着能と細胞増殖能を有することが示された。
【0071】
一方、比較例1のPET樹脂製の足場については、生細胞は確認されたものの、培養1日目~4日目にかけて細胞数の増加が確認できなかった。従って、細胞種と培養足場および培養方法の組み合わせが培養結果に影響を与えることが推察され、PET足場は今回の試験で行った96ウェルプレートでのアヒル肝臓由来初代細胞の培養には適していない可能性が示唆された。
【0072】
一方、本発明の細胞培養用の多孔質足場については、細胞増殖が観察されており、PET足場より汎用性が高い可能性が示唆された。本発明の細胞培養用の多孔質足場は、ゼラチンをベースに、キサンタンガム等と複合化することで足場の熱、機械的な安定性を向上している。細胞接着にかかわるインテグリン等のタンパク質が結合するアミノ酸配列(RGD配列)は、ゼラチンに含まれることから、細胞接着性の高いゼラチンをベースに構成されていることが、PET足場よりも汎用性を高めたものと考えられる。
【0073】
試験例3
アヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着能と増殖能の評価
試験例3は、攪拌容器による攪拌培養での試験である。
<材料>
細胞:アヒル肝臓由来初代細胞(自製品:アヒルの解剖により取得した肝臓組織から細胞を単離し、10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)にいれ、37℃で培養した)
培地:10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB(PSA)(富士フィルム和光純薬株式会社)、I-MEM(食品組成培地,インテグリカルチャー株式会社))
Cedex Bio(キット試薬:Glucose Bio, Glutame V2 Bio, Lactate Bio, NH3 Bio; ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)
Crystal Violet Dye Nucleus Count Kit(CESCO BIOENGINEERING Co. Ltd)
Corning マイクロキャリア(コーニングインターナショナル株式会社)
比較例1のPET樹脂製の足場
実施例1~3及び5~6の細胞培養用の多孔質足場
【0074】
<細胞培養>
比較例1のPET樹脂製の足場及び実施例1~3及び5~6の細胞培養用の多孔質足場を5mm×5mmに裁断し、0.5%CaCl2溶液で、120℃×20分間、オートクレーブ処理を行った。オートクレーブ滅菌した足場を、10%血清 1%PSA I-MEMで洗浄し、CaCl2溶液を十分に培地と置換し、攪拌培養系に、比較例1のPET樹脂製の足場については9個/培養容器、実施例1~3及び5~6の細胞培養用の多孔質足場については9個/培養容器、Corningマイクロキャリアについては3mg/培養容器を入れた。アヒル肝臓由来初代細胞については、10%血清 1%PSA I-MEMに懸濁(5×106細胞)し、容器に細胞を播種した(5×106細胞(液量5mL)/培養容器)。播種後、37℃、5%CO2、5~120rpmの溶液攪拌で、9日間培養を行った。
【0075】
<培養後の総細胞数測定による細胞の接着能と増殖能の評価>
培養1日後と9日後の総細胞数の測定を行って細胞の接着能と増殖能を評価した。
培養後の総細胞数の測定は、Crystal Violet Dye Nucleus Count Kitを用い、測定操作はキットに添付のプロトコールに従って行った。Crystal Violet Dyeを用いて、細胞を溶解させ、核の抽出を行った。得られた抽出液に含まれる核の数をカウントし、足場一つ当たりの細胞数を算出した。その測定結果を
図3(n=3,エラーバー:標準偏差)に示す。
【0076】
<培養液中の代謝産物の測定による代謝活性の評価>
培養液中の代謝産物の測定は、Cedex Bioによる計測を行った(n=1)。代謝物の増減による評価は、グルコース及びグルタミン酸については、測定によって得られた代謝物量の消費量、乳酸及びアンモニアについては生成量の積算値を算出することで行った。その測定結果を
図4に示す。
【0077】
<結果及び考察>
攪拌培養系により、本発明の細胞培養用の多孔質足場の細胞接着能、細胞増殖能を評価した。アヒル肝臓由来初代細胞の培養1日目と9日目の総細胞数を測定した結果、本発明の細胞培養用の多孔質足場について、培養1日目~9日目にかけて細胞数の増加が確認された(
図3)。また、Crystal Violet Dye Nucleus Count Kitでは、総細胞数の評価しかできないため、代謝産物の消費量および蓄積量を調べたところ、総細胞数の増加がみられたものは、グルコース、グルタミンの適正な消費がみられ、また乳酸、アンモニアの蓄積量についても異常な点はみられなかった。従って、総細胞数の増加は生細胞の増加によることが示唆された(
図4)。足場を投入しなかった試験(足場なし)については、総細胞数の増加、グルコースの消費も見られず、アヒル肝臓由来初代細胞は、適切な足場がなければ、生存できないことが確認された。これらのことから、アヒル肝臓由来初代細胞において本研究で開発した培養足場が細胞接着能と細胞増殖能を有することが示された。
【0078】
Corningマイクロキャリアは、メーカーのホームページでは、ヒト間葉系幹細胞の培養で実績があると報告されている。Corningマイクロキャリアを、本実験では、ポジティブコントロールとして機能する可能性を考えて試験に加えた。Corningマイクロキャリアは、培養1日目~9日目にかけて増殖がみられたものの、PET足場及び本発明の細胞培養用の多孔質足場と比較して、9日後の細胞数が明らかに少なかった。このことから、本発明の細胞培養用の多孔質足場は、アヒル肝臓由来初代細胞においてはCorningマイクロキャリアに対して優位性を有することが示された。また、PET足場と比較した場合にも、本発明の細胞培養用の多孔質足場は、同等かそれ以上の細胞増殖能が確認され、Corningマイクロキャリア、PETの市販されている非可食性の培養足場に対しても優位性を有することが示された。
【0079】
試験例4
ニワトリ筋肉由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着能と増殖能の評価
試験例4は、攪拌容器による攪拌培養での試験である。
<材料>
細胞:ニワトリ筋肉由来初代細胞(自製品:ニワトリの解剖により取得した肝臓組織から細胞を単離し、10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)にいれ、37℃で培養した)
培地:10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB(PSA)(富士フィルム和光純薬株式会社)、I-MEM(食品組成培地,インテグリカルチャー株式会社))
Cedex Bio(キット試薬:Glucose Bio, Glutame V2 Bio, Lactate Bio, NH3 Bio; ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)
Crystal Violet Dye Nucleus Count Kit(CESCO BIOENGINEERING Co. Ltd)
比較例1のPET樹脂製の足場
実施例5の細胞培養用の多孔質足場
【0080】
<細胞培養>
比較例1のPET樹脂製の足場及び実施例5の細胞培養用の多孔質足場を5mm×5mmに裁断し、0.5%CaCl2溶液で、120℃×20分間、オートクレーブ処理を行った。オートクレーブ滅菌した足場を、10%血清 1%PSA I-MEMで洗浄し、CaCl2溶液を十分に培地と置換し、攪拌培養系に、比較例1のPET樹脂製の足場については9個/培養容器、実施例5の細胞培養用の多孔質足場については9個/培養容器を入れた。ニワトリ筋肉由来初代細胞については、10%血清 1%PSA I-MEMに懸濁(5×106細胞)し、容器に細胞を播種した(5×106細胞/培養容器)。播種後、37℃、5%CO2、5~120rpmの溶液攪拌で、9日間培養を行った。
【0081】
<培養後の総細胞数測定による細胞の接着能と増殖能の評価>
培養1日後と9日後の総細胞数の測定を行って細胞の接着能と増殖能を評価した。
培養後の総細胞数の測定は、Crystal Violet Dye Nucleus Count Kitを用い、測定操作はキットに添付のプロトコールに従って行った。Crystal Violet Dyeを用いて、ヴォルテックスミキサーで十分に撹拌し、細胞を溶解させ、核の抽出を行った。得られた抽出液に含まれる核の数をカウントし、足場一つ当たりの細胞数を算出した。その測定結果を
図5(n=3,エラーバー:標準偏差)に示す。
【0082】
<培養液中の代謝産物の測定による代謝活性の評価>
培養液中の代謝産物の測定は、Cedex Bioによる計測を行った(n=1)。代謝物の増減による評価は、グルコース及びグルタミン酸については、測定によって得られた代謝物量の消費量、乳酸及びアンモニアについては生成量の積算値を算出することで行った。その測定結果を
図6に示す。
【0083】
<結果及び考察>
攪拌培養系により、本発明の細胞培養用の多孔質足場の細胞接着能、細胞増殖能を評価した。ニワトリ筋肉由来初代細胞の培養1日目と9日目の総細胞数を測定した結果、本発明の細胞培養用の多孔質足場について、培養1日目~9日目にかけて細胞数の大幅な増加が確認された(
図5)。また、代謝産物の消費量および蓄積量を調べたところ、総細胞数の増加がみられたものは、グルコース、グルタミンの適正な消費がみられ、また乳酸、アンモニアの蓄積量についても異常な点はみられなかった(
図6)。従って、総細胞数の増加は生細胞の増加によることが示唆された。これらのことから、ニワトリ筋肉由来初代細胞においても本研究で開発した培養足場が細胞接着能と細胞増殖能を有することが示された。
【0084】
試験例5
アヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着能と増殖能の評価
<材料>
細胞:アヒル肝臓由来初代細胞(自製品:アヒルの解剖により取得した肝臓組織から細胞片を切り出し、10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)にいれ、37℃で培養した)
培地:10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB(PSA)(富士フィルム和光純薬株式会社)、IMEM(食品組成培地,インテグリカルチャー株式会社))
Cell Culture Plate Multiwell Plate, with Cover 24 Wells(Corning)
Crystal Violet Dye Nucleus Count Kit(CESCO BIOENGINEERING Co. Ltd)
比較例1のPET樹脂製の多孔質足場
実施例5及び13~19の細胞培養用の多孔質足場
【0085】
<細胞培養>
比較例1のPET樹脂製の足場及び実施例5及び13~19の細胞培養用の多孔質足場を5mm×5mmに裁断し、イオン交換水に浸漬した状態で、121℃×20分間、オートクレーブ処理を行った。オートクレーブ滅菌した足場を、10%血清 1%PSA I-MEMで洗浄し、十分に培地と置換し、Cell Culture Plate Multiwell Plate, with Cover 24 Wellsの各ウェルに、比較例1のPET樹脂製の足場、及び実施例5及び13~19の細胞培養用の多孔質足場を3個/ウェルを入れた。アヒル肝臓由来初代細胞については、10%血清 1%PSA I-MEMに、2.4×105細胞/ウェルとなるように播種した(液量は1mL/ウェル)。37℃、5%CO2の環境下で1日間又は7日間、培養を行った。培地の交換は、1日後及び4日後に培地の全量を抜き取り、新鮮な培地に交換することで行った。
【0086】
<培養後の総細胞数測定による細胞の接着性及び増殖性の評価>
培養1日後及び7日後の総細胞数の測定を行うことで、細胞の接着性及び増殖性を評価した。
培養後の総細胞数の測定は、Crystal Violet Dye Nucleus Count Kitを用い、測定操作はキットに添付のプロトコールに従って行った。Crystal Violet Dyeを用いて、細胞液を溶解させ、核の抽出を行った。得られた抽出液に含まれる核の数をカウントし、足場一つ当たりの総細胞数を算出した。算出された総細胞数を
図7(n=6,エラーバー:標準偏差)に示す。
【0087】
<結果及び考察>
図7から分かるように、比較例1のPET樹脂製の足場における培養1日目~7日目の細胞の接着及び総細胞数の増加と比較すると、実施例5及び13~19の細胞培養用の多孔質足場(以下、それぞれ実施例5及び13~19の足場とも記す)の培養1日目~7日目の細胞の接着及び総細胞数の増加はいずれも、顕著であった。
具体的には、不溶性セルロースとして、シトラスファイバー及び微結晶セルロースを用いても、同等の細胞の接着性及び増殖性を促進することが示された(実施例13及び14)。また、ゼラチンとして、魚由来のゼラチン及びウシ由来のゼラチンを用いても、同等の細胞の接着性及び増殖性を促進することが示された(実施例15及び16)。更に、酵素として、ラッカーゼを用いても、同等の細胞の接着性及び増殖性を促進することが示された(実施例17)。増粘多糖類としてガディガムを用いても、その他の成分(タンパク質分解物)を用いても、同等の細胞の接着性及び増殖性を促進することが示された(実施例18及び19)。
【0088】
試験例6
様々な株化細胞及びウシ由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の接着能と増殖能の評価
<材料>
細胞:RL34細胞(ラット由来肝上皮細胞株)、HepG2細胞(ヒト肝癌由来細胞株)、C2C12細胞(マウス骨格筋由来筋芽細胞株)、ブタ骨格筋衛星細胞由来株化細胞、ウシ最長筋由来初代細胞(自製品:ウシの解剖により取得した最長筋から細胞片を切り出し、10%血清及び1%PSAを添加したI-MEM培地(インテグリカルチャー株式会社製)にいれ、37℃で培養した)、ウシ筋間脂肪由来初代細胞(自製品:ウシの解剖により取得した筋間脂肪組織から単離し、10%血清及び1%PSAを添加したI-MEM培地(インテグリカルチャー株式会社製)にいれ、37℃で培養した)、ウシ二頭筋由来初代細胞(自製品:ウシの解剖により取得した二頭筋組織から単離し、10%血清及び1%PSAを添加したI-MEM培地(インテグリカルチャー株式会社製)にいれ、37℃で培養した)
培地:10%FBS(SERENA Europe GmbH)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB(PSA)(富士フィルム和光純薬株式会社)、D-MEM培地(D-MEM(High Glucose)with L-Glutamine, Phenol Red and Sodium Pyruvate)(富士フィルム和光純薬株式会社)
Cell Culture Plate Multiwell Plate, with Cover 24 Wells(Corning)
Crystal Violet Dye Nucleus Count Kit(CESCO BIOENGINEERING Co. Ltd)
比較例1のPET樹脂製の足場
比較例2のゼラチン繊維基材の多孔質足場
実施例5の細胞培養用の多孔質足場
【0089】
<細胞培養>
比較例1のPET樹脂製の足場及び実施例5の細胞培養用の多孔質足場を5mm×5mmに裁断し、イオン交換水に浸漬した状態で、121℃×20分間、オートクレーブ処理を行った。オートクレーブ滅菌した足場を、10%FBS 1%PSA D-MEMで洗浄し、十分に培地と置換し、Cell Culture Plate Multiwell Plate, with Cover 24 Wellsの各ウェルに、比較例1のPET樹脂製の足場、比較例2のゼラチン繊維基材の多孔質足場、及び実施例5の細胞培養用の多孔質足場を3個/ウェルを入れた。試験に用いた各種細胞については、10%FBS 1%PSA D-MEMに懸濁した状態で準備し、2.4×105細胞/ウェルとなるように播種した(液量は1mL/ウェル)。37℃、5%CO2の環境下で1日間又は7日間、培養を行った。培地の交換は、1日後及び4日後に培地の全量を抜き取り、新鮮な培地に交換することで行った。
【0090】
<培養後の総細胞数測定による細胞の接着能と増殖能の評価>
培養1日後と7日後の総細胞数の測定を行って細胞の接着能と増殖能を評価した。
培養後の総細胞数の測定は、Crystal Violet Dye Nucleus Count Kitを用い、測定操作はキットに添付のプロトコールに従って行った。Crystal Violet Dyeを用いて、細胞夜を溶解させ、核の抽出を行った。得られた抽出液に含まれる核の数をカウントし、足場一つ当たりの総細胞数を算出した。算出された総細胞数を
図8~
図10(n=6,エラーバー:標準偏差)に示す。
【0091】
<結果及び考察>
図8に、比較例1のPET樹脂製の足場、比較例2のゼラチン繊維基材の多孔質足場、及び実施例5の細胞培養用の多孔質足場を用いたRL34細胞(ラット由来肝上皮細胞株)の接着性及び増殖性の試験結果が示される。
図8から分かるように、比較例1のPET樹脂製の足場と、比較例2のゼラチン繊維基材の多孔質足場とでは、細胞の接着性及び増殖性は同等であったが、実施例5の細胞培養用の多孔質足場では、細胞の接着性及び増殖性が顕著であった。
図9及び
図10に、様々な株化細胞及びウシ由来初代細胞を用いて、比較例1のPET樹脂製の足場、及び実施例5の細胞培養用の多孔質足場の比較実験結果が示される。いずれの株化細胞及びウシ由来初代細胞の実験でも、実施例5の細胞培養用の多孔質足場は、比較例1のPET樹脂製の足場と同等又は優れた細胞の接着性及び増殖性の増加が見られた。
【0092】
試験例7
アヒル肝臓由来初代細胞を用いた細胞培養用の多孔質足場の形状比較の評価
<材料>
細胞:アヒル肝臓由来初代細胞(自製品:アヒルの解剖により取得した肝臓組織から細胞片を切り出し、10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)にいれ、37℃で培養した)
培地:10%血清 1%PSA I-MEM(10%血清、インテグリカルチャー株式会社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB(PSA)(富士フィルム和光純薬株式会社)、I-MEM(食品組成培地,インテグリカルチャー株式会社))
Crystal Violet Dye Nucleus Count Kit(CESCO BIOENGINEERING Co. Ltd)
LUNA-II(商標) 自動セルカウンター(Aligned Genetics Inc)
実施例5の細胞培養用の多孔質足場
【0093】
<細胞培養>
実施例5の細胞培養用の多孔質足場を5mm×5mmに裁断し、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌処理を行った。滅菌した足場を、10%血清 1%PSA I-MEMで洗浄し、十分に培地と置換し、500mLの容器に、実施例5の5mm×5mmに裁断した足場、又は実施例5の粉砕工程を経た足場(1~2mmに粉砕したもの)をそれぞれ乾燥重量2.5g入れた。試験に用いた各種細胞については、10%血清 1%PSA I-MEMに懸濁した状態で準備し、4.2×107細胞/容器となるように播種した(液量は200mL/容器)。37℃、5%CO2の環境下で1日間又は15日間、培養を行った。培地の交換は、毎日培地の全量を抜き取り、新鮮な培地に交換することで行った。
【0094】
<培養後の総細胞数測定による細胞の接着能と増殖能の評価>
培養15日後の総細胞数をLUNA-II(商標)自動セルカウンターを用いて評価した。
培養15日後の足場から細胞を剥離、細胞懸濁液の抽出を行った。得られた抽出液に含まれる細胞数をカウントし、足場一つ当たりの総細胞数を算出した。
【0095】
<結果及び考察>
図11に粉砕工程を経た実施例5の細胞培養用の多孔質足場の画像を示す。この画像から粉砕工程を経ても1~2mm足場は多孔質の構造を維持しているのが示された。従って、粉砕工程は、穴あき構造や表面構造を維持したまま多孔質足場のサイズを単純に小さくする工程である。多孔質足場は小さくなるに連れての表面積は増加するため、粉砕工程は結果的に同質量の多孔質足場の表面積を増加する工程でもある。これは、細胞培養可能面積の増加も想定できる。
【0096】
図12に、アヒル肝臓由来細胞を用いた実施例5の細胞培養用の多孔質足場の形状比較結果が示される。
図12から分かるように、5mm×5mmに裁断した足場を用いた場合と比べ、粉砕工程を経た足場を用いた場合の方がより多くの細胞を培養可能であることが示された。
図11から粉砕工程を経た多孔質足場の場合は同質量の粉砕工程を経てない多孔質足場と比べて表面積が増え、細胞の培養可能表面が増加することが想定される。
図12の結果は
図11の想定が示された結果であると考えられる。
【0097】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によって、オートクレーブ処理等の滅菌処理を行っても劣化することがなく、様々な細胞を培養することができる細胞培養用の多孔質足場、及びその製造方法が提供される。更に、細胞培養用の多孔質足場上に可食性の培養細胞が付着している食品組成物、及びその製造方法が調製される。