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特許7649027表面層形成用組成物、該組成物から形成された表面層及び油性インク筆記用面材
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  • 特許-表面層形成用組成物、該組成物から形成された表面層及び油性インク筆記用面材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】表面層形成用組成物、該組成物から形成された表面層及び油性インク筆記用面材
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/08 20060101AFI20250312BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20250312BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20250312BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20250312BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20250312BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20250312BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20250312BHJP
   C08G 18/72 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
C09D175/08
C08G18/10
C08G18/42
C08G18/42 088
C08G18/76 014
C08G18/75 010
C08G18/73
C08G18/62 095
C08G18/62 075
C08G18/72
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021042264
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022037866
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2020142140
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591161623
【氏名又は名称】株式会社コバヤシ
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】坂上 哲也
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-068490(JP,U)
【文献】特開2005-007618(JP,A)
【文献】特開平01-156336(JP,A)
【文献】特開2011-162736(JP,A)
【文献】特開2008-127424(JP,A)
【文献】特開2007-112893(JP,A)
【文献】特開2009-155500(JP,A)
【文献】油性ペンの簡単な落とし方を素材別に解説!含む机も壁紙もきれいに♪,https://limia.jp/article/311499/#index-4198442(掲載日2019.11.25)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 175/08
C08G 18/10
C08G 18/42
C08G 18/76
C08G 18/75
C08G 18/73
C08G 18/62
C08G 18/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキドポリオールと、ペンタメチレンジイソシアネートと、を少なくとも含み、かつ、ポリウレタン構造を形成する表面層形成用組成物であって、
イソシアネート基/水酸基の当量比が0.5以上2.5以下であり、
油性インクで筆記可能であり、かつ、筆記した筆跡をプラスチック字消しで擦ったときに消去可能である表面層を形成する、表面層形成用組成物。
【請求項2】
ポリオールと、脂肪族又は芳香族に属するポリイソシアネートと、ポリオレフィンワックスを少なくとも含み、かつ、ポリウレタン構造を形成する表面層形成用組成物であって、
前記ポリオールがアルキドポリオールであり、
前記ポリイソシアネートは、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートから選択されるポリイソシアネートであり、
イソシアネート基/水酸基の当量比が1.2以上2.0以下であり、
油性インクで筆記可能であり、かつ、筆記した筆跡をプラスチック字消しで擦ったときに消去可能であり、かつ、筆記した筆跡を布でも消去可能である表面層を形成する、表面層形成用組成物。
【請求項3】
ポリオールと、脂肪族又は芳香族に属するポリイソシアネートと、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーを少なくとも含み、かつ、ポリウレタン構造を形成する表面層形成用組成物であって、
前記ポリオールがフッ素ポリオールであり、
前記ポリイソシアネートは、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートから選択されるポリイソシアネートであり、
イソシアネート基/水酸基の当量比が0.65以上2.0以下であり、
前記水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの添加量が、フッ素ポリオール100質量部に対し、0.1以上1.2以下であり、
油性インクで筆記可能であり、かつ、筆記した筆跡をプラスチック字消しで擦ったときに消去可能である表面層を形成する、表面層形成用組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の表面層形成用組成物によって形成された表面層。
【請求項5】
請求項に記載の表面層を少なくとも備える、油性インク筆記用面材。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面層形成用組成物等に関する。より詳しくは、油性インクで筆記可能であり、かつ、その筆跡をプラスチック字消し、さらには、プラスチック字消し且つ布より消去可能な表面層を得ることができる表面層形成用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙面に筆記された筆跡が消去可能なインクについて様々な提案がなされている。これは、同じ紙面に対して繰り返しインクで筆記できるようにすることを目的としている。しかし、これらの技術は、あくまで「紙面」に対して筆記されることが想定された技術である。また、マジックペン等のインクで筆記された筆跡を市販の字消しにより消去可能にした技術も存在するが、これは主にインク成分の組成を工夫した技術である。
【0003】
一方で、表面加工技術において、筆記と筆跡消去の両機能を追究した技術も存在する。例えば、下記特許文献1に開示された粘着テープの表面は、ポリウレタン樹脂等の特定のガラス転移点を有する有機樹脂と付加反応性シリコーンを含む剥離剤層となっている。この2成分がウミシマ構造を形成し、これにより油性マジックの筆記性(印字性)が発揮される。
【0004】
また、下記特許文献2には、水性艶消し塗料に関する技術が開示されている。該水性艶消し塗料は、ポリウレタン樹脂、重合性不飽和基を有する化合物、粒状充填剤及びコロイダルシリカを含んでいる。そして、該水性艶消し塗料によって形成された表面は、油性マジックの筆跡を「布」で消去することが可能となった結果、耐汚染性の効果が奏される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-228924号公報
【文献】特開2018-178066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、ポリウレタン樹脂を含む表面コーティングを採用することにより油性マジックによる筆記を可能としているが、該油性マジックの筆跡の消去性の評価ついては開示されておらず、油性マジックの筆記性と、筆跡の消去性を両立するということを目的にしているわけではない。また、上記特許文献2は、「耐汚染性」を主眼に置いた技術であって、耐汚染性の効果を検証するために、油性マジックの筆跡を「布」で消去できるか否かの検証が行われているに過ぎず、プラスチック字消しや布で筆跡を消去することにより油性インクで繰り返し筆記できるような表面層を得ることを目的とした技術ではない。
【0007】
そこで、本発明では、筆記された油性インクの筆跡を市販のプラスチック字消し、さらにはプラスチック字消し且つ布で擦っただけで容易に消去できるようにすることによって、油性インクの筆跡が残っていない表面層に対して、油性インクによる筆記を繰り返し行うことができる表面層形成用組成物等を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、油性インクで筆記可能であり、かつ、筆記した筆跡をプラスチック字消し、さらにはプラスチック字消し且つ布で擦ったときに消去可能である表面層を形成する、表面層形成用組成物である。より具体的には、ポリオールと、脂肪族又は芳香族に属するポリイソシアネートとを少なくとも含み、ポリウレタン樹脂表面層を形成し得る表面層形成用組成物を提案する。本発明に係る表面層形成用組成物の好適な組成の一例としては、前記ポリオールはアルキドポリオール(アルキッドポリオールとも言う。)であり、且つ、前記ポリイソシアネートはペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートである表面層形成用組成物が挙げられる。その中でも、前記ポリイソシアネートがペンタメチレンジイソシアネートの場合、前記表面層形成用組成物のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.5以上2.5以下が好ましい。また、前記ポリイソシアネートがヘキサメチレンジイソシアネートの場合、前記表面層形成用組成物のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.5以上4.0以下が好ましい。また、前記ポリイソシアネートがキシレンジイソシアネートの場合、前記表面層形成用組成物のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.5以上3.0以下が好ましい。また、前記ポリイソシアネートがイソホロンジイソシアネートの場合、前記表面層形成用組成物のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.4以上2.2以下が好ましい。さらに、プラスチック字消しと布の両方で消去性を実現する観点では、特に、イソシアネート基/水酸基の当量比が1.2以上2.0以下であり、ポリオレフィンワックスを更に含む組成が好適である。
また、本発明に係る表面層形成用組成物の好適な組成の一例は、前記ポリオールがフッ素ポリオールであり、前記ポリイソシアネートがペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートであり、且つ、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーを更に含む組成である。特にこの組成では、イソシアネート基/水酸基の当量比を0.65以上2.0以下とするのが好ましい。そして、添加される水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーの当量比は、フッ素ポリオール100質量部に対し、0.1以上1.2以下であることが好ましい。
さらに本発明では、上記した表面層形成用組成物によって形成された表面層、並びに、該表面層を少なくとも備える、油性インク筆記用面材も提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る表面層形成用組成物によれば、油性インクで筆記することができ、且つ、その筆跡をプラスチック字消し、さらには、プラスチック字消し且つ布により容易に消去可能な表面層や該表面層を備える油性インク筆記用面材を新規に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る表面層を備える面材の基本的な層構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、まず、表面層形成用組成物を提供する。より詳しくは、油性インクによって筆記可能であり、且つ、その筆跡をプラスチック字消し、さらにはプラスチック字消し且つ布で擦ったときに容易に消去可能である表面層を形成するための表面層形成用組成物を提供する。
【0012】
ここで、前記した「油性インク」の種類は、狭く限定されず、例えば、油性マジックや油性ボールペンにおいて一般に採用されている油性のインクを広く適用することができる。本発明の対象となる「油性マジック」は、狭く限定されないが、例えば、筒状容器の中に油性インクを含ませた吸収体を入れ、これらに繊維製又はプラスチック製ペン先を取り付けたマーキングペンである。
【0013】
上記油性マジックの「油性インク」については、狭く限定されないが、少なくとも、有機溶媒と、樹脂及び染料を含む組成を備えるインクである。油性マジック用の油性インクのより詳しい代表的組成例を挙げると、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、メチルエチルケトン等を合計65~91質量%含む溶媒と、1~10質量%の樹脂と、1~20質量%の染料から構成される油性インクである。
【0014】
また、本発明に採用可能な「油性ボールペン」は、狭く限定されないが、例えば、油性インクが入った細長い筒状レフィルの先端に組み込まれた回転可能なボールによって、レフィル内のインクを供給する方式のペンを挙げることができる。
【0015】
前記油性ボールペンの油性インクについては、特に狭く限定されないが、少なくとも、有機溶媒と、樹脂及び染料を含む一般的組成であればよい。油性ボールペン用のインクのより具体的な代表例を挙げると、例えば、フェニルセロソルブ、ベンジルアルコールを合計40~65質量%含む溶媒と、15~25質量%の樹脂と、20~30%質量の染料から構成される油性インクである。
【0016】
また、本発明に適用できる「プラスチック(合成樹脂製の)字消し(以下、「字消し」)は、主に鉛筆やシャープペンシルで描画されたものを消すために一般的に用いられる、市販の合成樹脂製の字消し(いわゆる、消しゴム)である。一例を挙げるならば、ポリ塩化ビニルを主成分とするプラスチック字消しである。
【0017】
また、本発明に適用できる「布」は、一般的に用いられる繊維状の布である。例えば、綿100%の繊維、ポリエステル100%の繊維、綿とポリエステルの混合繊維が挙げられる。さらに、日常的に汎用されている繊維としてティッシュペーパーも含むが、必ずしもこれらに限定されない。
【0018】
本発明に係る表面層形成用組成物は、油性インクでの筆記が必要になる様々な面材の表面層を形成するために使用される。なお、面材は、平面形状に限定されることなく、様々な形態をなす物品の表面にも用いられ、文房具にとどまらず、例えば、構造物の壁面材、カード類、机などの家具類、家電製品のケースなどにも広く採用され得る。
【0019】
その表面層を基材に対して形成する方法は、特に限定されないが、例えば、基材に対して、表面層形成用組成物を直接塗布したり、スプレーを施したりすることができる。あるいは、予め前記表面層形成用組成物でシートを予め作成しておき、該シートを基材に接着剤等で貼り付ける手法を採用してもよい。
【0020】
ここで、前記表面層形成用組成物は、(A)ポリオールと、(B)脂肪族又は芳香族に属するポリイソシアネートを含み、(C)ポリウレタン構造を形成し得る組成物を成す。
【0021】
(A)ポリオールについて。
ポリオールは、分子中に2個以上の水酸基を有する化合物の総称であり、公知の種々のポリオールから選択することができる。本発明で採用し得る好適なポリオールは、例えば、アルキドポリオールである。アルキドポリオールとポリイソシアネートとによって形成されるポリウレタン構造を備える組成物で形成された表面層は、油性インクの溶剤や染料が適度に浸透し難いなどの性質を有するので、該油性インクが筆記時にはじかずに表面に定着し易い機能と、該油性インクの消去が容易である機能の両立を達成することができる。
【0022】
本発明で採用し得るポリオール成分としては、例えば、アルキドポリオールが挙げられ、その中で、植物油由来(例えば、ひまし油、ヤシ油脂肪酸)のポリエステルポリオールが好適である。例えば、ひまし油及び多塩基酸と多価アルコールの縮重合から得られるアルキドポリオールが挙げられる。ここで、多塩基酸には、例えば、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸等を含んでもいてもよい。また、本発明で採用し得る好適な他のポリオール成分としては、フッ素ポリオールも挙げることもできる。
【0023】
本発明で採用し得るポリオール成分の例として、さらに、フッ素ポリオールを挙げることができる。前記フッ素ポリオールは、分子中に一個以上のフッ素を含んでおり、このフッ素ポリオールから形成される樹脂は、部分的にフッ素で覆われる箇所が生じる。これによりフッ素含有化合物特有の耐薬品性、耐候性、耐熱性などの性質を示すとともに、アルキドポリオールを採用した場合と同様の油性インクに対する効果を得ることができる。本発明で採用し得るフッ素ポリオールとして、その一例を挙げると、テトラフルオロエチレンとビニルモノマーの共重合体を含むものを挙げることができる。
【0024】
(B)ポリイソシアネートについて。
ポリイソシアネートは、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物の総称であり、本発明では、好適には、公知の種々の脂肪族又は芳香族に属するポリイソシアネートから選択することが可能である。本発明で採用し得る好適なポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネートとしては、ペンタメチレンジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネートを挙げることができる。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシレンジイソシアネートを挙げることができる。また、脂環族イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートを挙げることができる。
【0025】
(C)ポリウレタン構造について。
本発明に係る表面層形成用組成物は、イソシアネート基と水酸基の反応によりポリウレタン構造を形成するように構成されている。なお、このポリウレタン構造を備える表面層は、光透過性又は光不透過性のいずれであってもよい。
【0026】
イソシアネート基/水酸基の当量比について。
イソシアネート基/水酸基の当量比は、形成するポリウレタン樹脂から構成される表面層の親媒性(特に、親油性)や油性インクの浸透性を決定する要因となる物性値である。本発明では、さらに組成成分の構成によっては、例えば、ポリオールがアルキドポリオールであり、ポリイソシアネートがペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートである組成では、前記イソシアネートの種類によって、好適な当量比の範囲が異なる。例えば、前記ポリイソシアネートがペンタメチレンジイソシアネートの場合、前記表面層形成用組成物のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.5以上2.5以下が好ましい。また、前記ポリイソシアネートがヘキサメチレンジイソシアネートの場合、前記表面層形成用組成物のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.5以上4.0以下が好ましい。また、前記ポリイソシアネートがキシレンジイソシアネートの場合、前記表面層形成用組成物のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.5以上3.0以下が好ましい。また、前記ポリイソシアネートがイソホロンジイソシアネートの場合、前記表面層形成用組成物のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.4以上2.2以下が好ましい。
また、例えば、ポリオールがフッ素ポリオールであり、前記ポリイソシアネートがペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートである組成では、前記当量比が0.65以上2.0以下の範囲が好ましい。
【0027】
ポリオールがアルキドポリオールである場合、各種のイソシアネートについて、イソシアネート/水酸基の当量比が下限未満になると、未反応ポリオールの水酸基が過剰に存在する為、実験例によっては、経時によって塗膜がべたつくようになり、字消しや布での消去性が低下するので好ましくない。また、前記当量比が低くなるため、ポリウレタン樹脂構造の強度が低下し、字消しの摩擦に対する耐摩耗性と耐擦傷性が悪くなる。一方、それぞれのイソシアネートについて、イソシアネート/水酸基の当量比が上限を超えると、イソシアネートが過剰に存在するようになるため、塗膜の親油性が増し、油性インクの定着性が過剰に向上するので、実験例によっては、字消しや布による消去が困難になってしまう。つまり、イソシアネートの種類により範囲は異なるが、本発明が求める効果の観点で、少なくともイソシアネート基/水酸基の当量比が0.5以上、2.2未満の範囲であれば、アルキドポリオールやイソシアネートの種類にかかわらず、油性インクの筆記性と、字消し又は布による消去性が両立される。なお、ポリオールがフッ素ポリオールである場合、イソシアネート基/水酸基の当量比が0.65未満である場合、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加により、未反応水酸基が増加した結果、塗面がより一層べたつくようになり、油性インクの筆記性も悪化させる傾向もみられる。一方、イソシアネート/水酸基の当量比が2.0を超えた場合に不適になる実験例があるのは、アルキドポリオールの場合による理由と同様である。
【0028】
水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーについて。
ポリオールとして「フッ素ポリオール」を採用した場合では、ポリイソシアネートとしてはペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートが好適であり、この場合、水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーを更に適量含むようにした組成が特に望ましい。
【0029】
なお、水酸基を有する(反応性の)シリコン変性アクリルポリマーは、反応性を有する該水酸基とイソシアネート基との結合により、ウレタン樹脂構造に安定に固定されるため、シリコンが脱離し難く、時間が経過しても油性インクの消去性が保たれる。なお、反応性を有さないシリコン(水酸基がない、イソシアネートと反応しない)を採用した場合は、時間の経過によりシリコンが脱落してしまい油性インクの消去性が低下してしまうので不適である。
【0030】
また、添加する水酸基を有するシリコン変性アクリルポリマーは当量比で、0.1以上1.2以下であることが望ましい。添加量が0.1当量未満であると、字消しや布での消去性が改善されない。一方、添加量が1.2を超えると、前述のように、塗膜表面の水酸基が過剰に存在する為、塗面がより一層べたつくようになり、油性インクの筆記性が悪化する。
【0031】
ポリオレフィンワックスについて。
ポリオールとしてアルキドポリオールを、ポリイソシアネートとしてペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートを採用し、かつ、イソシアネート基/水酸基の当量比が1.2以上2.0以下である場合、ポリオレフィンワックスを更に適量含むようにした組成が特に望ましい。ポリオレフィンワックスの添加により表面の滑り性が向上し、プラスチック字消しのみならず、布での消去性が実現される。
【0032】
ここで、本発明に係る表面層を備える面材の基本的な層構造について、添付した図面に基づいて説明する。図1は、前記層構造の一例を示す断面図である。
【0033】
まず、符号1で示す面材は、基材層11と、該基材層11の上に積層された表面層12を少なくとも備えている。なお、表面層12をシート状に形成した後に、該シートを基材層11上に積層する構成では、基材層11と表面層12の間に接着剤層(図示せず。)が介在する。表面層12は、基材層11に対して塗布やスプレーの方法によって直接形成してもよい。なお、層構造の全体の層の数は特に限定されない。即ち、基材層11と表面層12の間に目的に応じた必要な層を介在させてもよい。
【0034】
以下に、本発明を実験例に基づいて説明するが、本発明は、これら実験例に何ら限定されるものではない。以下に掲げた表1から表5に示される組成を有する表面層形成用組成物の各実験例を、下記手法によりそれぞれ調製した。
【0035】
(実験例1~3)
ポリオール成分であるアルキドポリオール(TOKYD-25C,東新油脂社製、水酸基価105~160)及び酢酸エチル(溶剤)を、プロペラ式攪拌機を用いて1000 rpmの条件で3分間、撹拌混合した。酢酸エチルは、イソシアネートの添加後に固形分35質量%になる量を添加した。そして、脂肪族イソシアネートである1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(スタビオD-370N,三井化学)を、表1にしたがい、イソシアネート基/水酸基の当量比(以下、NCO/OH当量比)が0.5~2.5となる量でそれぞれ添加した。これらの溶剤をプロペラ式攪拌機で1000 rpmで3分間、撹拌混合し、表面層形成用組成物を得た。なお、本実験例1~3で採用した前記アルキドポリオールは、ひまし油由来のポリエステルポリオールである。
【0036】
(実験例4~9)
イソシアネート成分として、脂肪族イソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートの三量体(以下、ヘキサメチレンジイソシアネート)(コロネートHXR,東ソー社製)を用いた点、該ヘキサメチレンジイソシアネートを、表1にしたがい、NCO/OH当量比が0.5~4.0となる量で添加した点以外は、実験例1~3と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0037】
(実験例10~15)
イソシアネート成分として、芳香族イソシアネートであるキシレンジイソシアネートの三量体(以下、キシレンジイソシアネート)(XDIのイソシアヌレート、タケネートD-131N、三井化学社製、78%の酢酸エチル溶液)を用いた点、該キシレンジイソシアネートを、表1にしたがい、NCO/OH当量比が0.5~3.0となる量で添加した点以外は、実験例1~3と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0038】
(実験例16~18)
イソシアネート成分として、脂環族イソシアネートであるイソホロンジイソシアネート(デスモジュールZ 4470 BA,住化コベストロウレタン社製)を用いた点、該イソホロンジイソシアネートを、表1にしたがい、NCO/OH当量比が0.4~2.2となる量で添加した点以外は、実験例1~3と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0039】
(実験例19)
ポリオール成分として、アルキドポリオール(NT-11NX、東新油脂社製、水酸基価70~80)を用いた点、イソシアネート成分として、実験例1~3と同じ1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを用い、該1,5-ペンタメチレンジイソシアネートをNCO/OH当量比が1.0となる量で添加した点以外は、実験例1~3と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。なお、本実験例19で採用した前記アルキドポリオールは、ヤシ油脂肪酸由来のポリエステルポリオールである。
【0040】
(実験例20)
イソシアネート成分として、実験例4~9と同じヘキサメチレンジイソシアネートを用いた点、該ヘキサメチレンジイソシアネートをNCO/OH当量比が1.0となる量で添加した点以外は、実験例19と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0041】
(実験例21)
イソシアネート成分として、実験例10~15と同じキシレンジイソシアネートを用いた点、該キシレンジイソシアネートをNCO/OH当量比が1.0となる量で添加した点以外は、実験例19と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0042】
(実験例22)
イソシアネート成分として、実験例16~18と同じイソホロンジイソシアネートを用いた点、該イソホロンジイソシアネートをNCO/OH当量比が1.0となる量で添加した点以外は、実験例19と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0043】
(実験例23~25)
ポリオール成分であるフッ素ポリオール(ゼッフルGK570,ダイキン工業社製)と、酢酸エチルと、添加剤である水酸基含有シリコン変性アクリルポリマー(BYK-SILCLEAN3700,ビックケミー社製)を、プロペラ式攪拌機で1000rpmの条件で3分間、撹拌混合した。溶剤である酢酸エチルは、イソシアネートの添加後に固形分35質量%になる量を添加した。添加剤(補助剤)である水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーは、フッ素ポリオール100質量部に対し0.7質量部を添加した。そして、脂肪族イソシアネートである1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(スタビオD-370N,三井化学社製)を、表2にしたがい、NCO/OH当量比が0.5~2.2となる量でそれぞれ添加した。これらの溶剤をプロペラ式攪拌機で1000 rpmで3分間、撹拌混合し、表面層形成用組成物を得た。
【0044】
(実験例26~30)
イソシアネート成分として、脂肪族イソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートの三量体(以下、ヘキサメチレンジイソシアネート)(コロネートHXR,東ソー社製)を用いた点、該ヘキサメチレンジイソシアネートを、表2にしたがい、NCO/OH当量比が0.5~2.0となる量で添加した点以外は、実験例23~25と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0045】
(実験例31~36)
イソシアネート成分として、芳香族イソシアネートであるキシレンジイソシアネートの三量体(以下、キシレンジイソシアネート)(XDIのイソシアヌレート、タケネートD-131N、三井化学社製、78%の酢酸エチル溶液)を用いた点、該キシレンジイソシアネートを、表2にしたがい、NCO/OH当量比が0.65~2.5となる量で添加した点、実験例31に限り水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しなかった点以外は、実験例23~25と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0046】
(実験例37~39)
イソシアネート成分として、脂環族イソシアネートであるイソホロンジイソシアネート(デスモジュールZ 4470 BA、住化コベストロウレタン社製)を用いた点、該イソホロンジイソシアネートを、表2にしたがい、NCO/OH当量比が0.65~2.0となる量で添加した点以外は、実験例23~25と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0047】
(実験例40、41)
ポリオール成分であるフッ素ポリオール(ゼッフルGK570,ダイキン工業社製)と、酢酸エチルと、添加剤である水酸基含有シリコン変性アクリルポリマー(BYK-SILCLEAN3700,ビックケミー社製)を、プロペラ式攪拌機で1000rpmの条件で3分間、撹拌混合した。溶剤である酢酸エチルは、イソシアネートの添加後に固形分35質量%になる量を添加した。添加剤(補助剤)である水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーは、表2にしたがい、フッ素ポリオール100質量部に対しそれぞれ0.1、1.2質量部をそれぞれ添加し、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(スタビオD-370N,三井化学社製)をNCO/OH当量比が1.6となる量で添加した。そして、溶剤をプロペラ式攪拌機で1000 rpmで3分間、撹拌混合し、表面層形成用組成物を得た。
【0048】
(実験例42、43)
イソシアネート成分として、実験例26~30と同じヘキサメチレンジイソシアネートを用いた点以外は、実験例40、41と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0049】
(実験例44、45)
イソシアネート成分として、実験例31~36と同じキシレンジイソシアネートを用いた点以外は、実験例40、41と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0050】
(実験例46)
イソシアネート成分として、実験例37~39と同じイソホロンジイソシアネートを用いた点、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点以外は、実験例40、41と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0051】
(実験例47、48)
イソシアネート成分として、実験例37~39と同じイソホロンジイソシアネートを用いた点以外は、実験例40、41と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0052】
(実験例49~51)
ポリオール成分であるアルキドポリオール(TOKYD-25C,東新油脂社製、水酸基価105~160)と、酢酸エチルと、添加剤であるポリオレフィンワックス(ディスパロンPF-911,楠本化成社製)を、プロペラ式攪拌機を用いて1000 rpmの条件で3分間、撹拌混合した。酢酸エチルは、イソシアネートの添加後に固形分35質量%になる量を添加した。添加剤であるポリオレフィンワックスは、アルキドポリオール100質量部に対し5質量部を添加した。そして、実験例1~3と同じ1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを、表3にしたがい、イソシアネート基/水酸基の当量比(以下、NCO/OH当量比)が1.2~2.0となる量でそれぞれ添加した。これらの溶剤をプロペラ式攪拌機で1000 rpmで3分間、撹拌混合し、表面層形成用組成物を得た。
【0053】
(実験例52~54)
イソシアネート成分として、実験例4~9と同じヘキサメチレンジイソシアネートを用いた点以外は、実験例49~51と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0054】
(実験例55~57)
イソシアネート成分として、実験例10~15と同じキシレンジイソシアネートを用いた点以外は、実験例49~51と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0055】
(実験例58~60)
イソシアネート成分として、実験例16~18と同じイソホロンジイソシアネートを用いた点以外は、実験例49~51と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0056】
(実験例61、62)
前記1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを、表4にしたがい、NCO/OH当量比が00.4、3.0となる量で添加した点以外は、実験例1~3と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0057】
(実験例63、64)
前記ヘキサメチレンジイソシアネートを、表4にしたがい、NCO/OH当量比が0.4、5.0となる量で添加した点以外は、実験例4~9と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0058】
(実験例65、66)
前記キシレンジイソシアネートを、表4にしたがい、NCO/OH当量比が0.4、3.5となる量で添加した点以外は、実験例10~15と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0059】
(実験例67、68)
前記イソホロンジイソシアネートを、表4にしたがい、NCO/OH当量比が0.3、2.5となる量で添加した点以外は、実験例16~18と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0060】
(実験例69、70)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点、前記ヘキサメチレンジイソシアネートを、NCO/OH当量比が1.1、0.65となる量で添加した点以外は、実験例26~30と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0061】
(実験例71)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点、ポリオール成分として、フッ素ポリオール2(ルミフロンLF200,旭硝子社製)を用いた点、前記ヘキサメチレンジイソシアネートを、NCO/OH当量比が1.1となる量で添加した点以外は、実験例26~30と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0062】
(実験例72)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点、ポリオール成分として、シリコン変性フッ素ポリオール2(ZX-022-H,T&K TOKA社製)を用いた点、前記ヘキサメチレンジイソシアネートを、NCO/OH当量比が1.0となる量で添加した点以外は、実験例26~30と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0063】
(実験例73)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点、ポリオール成分として、アクリルポリオール1(XK-9012,東新油脂社製)を用いた点、前記ヘキサメチレンジイソシアネートを、NCO/OH当量比が1.0となる量で添加した点以外は、実験例26~30と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0064】
(実験例74)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点、ポリオール成分として、アクリルポリオール2(EXCELOL821,亜細亜工業社製)を用いた点、前記イソホロンジイソシアネートを、NCO/OH当量比が1.0となる量で添加した点以外は、実験例31~36と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0065】
(実験例75)
実験例74と同じアクリルポリオール及び酢酸エチル50質量部をプロペラ式攪拌機で1000 rpmで3分間撹拌混合し、表面層形成用組成物を得た。本実験例75は、イソシアネート成分が配合されていない実験例である。
【0066】
(実験例76、77)
前記1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを、表5にしたがい、NCO/OH当量比が00.4、2.5となる量で添加した点以外は、実験例23~25と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0067】
(実験例78、79)
前記ヘキサメチレンジイソシアネートを、表5にしたがい、NCO/OH当量比が0.4、2.2となる量で添加した点以外は、実験例26~30と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0068】
(実験例80、81)
前記キシレンジイソシアネートを、表5にしたがい、NCO/OH当量比が0.3、3.0となる量で添加した点以外は、実験例31~36と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0069】
(実験例82、83)
前記イソホロンジイソシアネートを、表5にしたがい、NCO/OH当量比が0.5、2.2となる量で添加した点以外は、実験例37~39と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0070】
(実験例84)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点以外は、実験例40、41と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0071】
(実験例85)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量が、フッ素ポリオール100質量部に対し1.5質量部である点以外は、実験例40、41と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0072】
(実験例86)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点以外は、実験例42、43と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0073】
(実験例87)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量が、フッ素ポリオール100質量部に対し1.5質量部である点以外は、実験例42、43と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0074】
(実験例88)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しない点以外は、実験例44、45と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0075】
(実験例89)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量が、フッ素ポリオール100質量部に対し2.5質量部である点以外は、実験例44、45と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0076】
(実験例90)
前記水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量が、フッ素ポリオール100質量部に対し1.5質量部である点以外は、実験例47、48と同様の手法にて、表面層形成用組成物を得た。
【0077】
評価について。
上記の方法により製造された表面層形成用組成物における、各配合組成の(1)NCO/OH当量比を以下の方法で算出し、(2)PET(ポリエチレンテレフタレート)密着性、(3)油性マジック筆記性、(4)油性マジック筆跡の字消し消去性、(5)油性マジック筆跡の布消去性、(6)油性ボールペン筆記性、(7)油性ボールペン筆跡の字消し消去性、(8)油性ボールペン筆跡の布消去性の評価を、次の方法によって行った。その各実験例の結果をそれぞれの組成と共に下記の表1及び表2に示した。
【0078】
(1)イソシアネート基/水酸基の当量比の計算方法
イソシアネート基/水酸基の当量比は、イソシアネート基一個当たりの分子量及び水酸基一個当たりの分子量をそれぞれ算出し、それらの比として示した。
イソシアネート基一個当たりの分子量を示すイソシアネート基当量は次の式1により求めた。
【0079】
【数1】
【0080】
また、本発明で使用されるポリオールは水酸基価の数値範囲が既知であることから、その中央値を水酸基価として計算に用いることにより、水酸基一個当たりの分子量を示す水酸基当量を次の式2で求めた。計算に用いたポリオールの水酸基価は、それぞれ、128(TOKYD-25C)、75(NT-11NX)である。
【0081】
【数2】
【0082】
ここで、ポリオールの水酸基価は、無水酢酸でアセチル化し、遊離酢酸を水酸化カリウムで定量したときに、ポリオール1g中に含まれる水酸基と等量の水酸化カリウムの量(単位は mgに換算される)で表される値である。なお、KOHの分子量を56.1とした。
【0083】
(2)PET(ポリエチレンテレフタレート)密着性
この評価項目は、基材に対する表面層の密着性を評価するものである。
各実験例の組成物を、PETフィルム(東レルミラーS10 厚み100 μm)に、No.10バーコーダーで塗布した後、オーブン150℃で10分加熱した。得られた積層体を、付着性試験(クロスカット法;JIS K 5600-5-6:1999 塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第6節)に付した。より詳しくは、表面層にカッターナイフを用いて、格子パターン(カット数6、格子幅1mm、100マス)を付した。この格子パターン上にセロハン粘着テープ(幅25 mm)を完全に圧着させ、60°の角度でテープの端をつかみ、0.5秒~1.0秒で確実に引き離すよう瞬間的に引き離した。その後、格子パターンの状態を目視で確認した。
【0084】
PET密着性の評価は、三段階評価を行った。評価の基準を下記に示す。
◎ (良好);カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
〇(合格);カットの交差点における塗膜の小さなはがれがある。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
×(不合格);塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのが、明確に5%を超える。
【0085】
(3)油性マジック筆記性
各実験例の組成物を、PETフィルム(東レルミラーS10 厚み100 μm)に、No.10バーコーダーで塗布した後、オーブン150℃で10分加熱した。24時間後、油性マジックで筆記し、筆跡を目視にて判断した。なお、今回実験に用いた油性マジックは、ゼブラ社のマッキー(登録商標)である。
【0086】
筆記性の各評価は、三段階評価を行った。評価の基準を下記に示す。
◎(良好);油性インクではじかずに書けた。
〇(合格);油性インクのはじきが5%未満であった。
×(不合格);油性インクのはじきが5%以上である、又は、書けなかった。
【0087】
(4)油性マジック筆跡の字消し消去性
各実験例で得た組成物を、PET製フィルム(東レルミラーS10 厚み100 μm)に、No.10バーコーダーで塗布した後、オーブン150℃で10分加熱した。24時間後、油性マジックで筆記し、更に24時間後、プラスチック字消しで所定の条件で擦過し、筆跡を目視にて判断した。擦過条件は、距離:10cm、速さ:10往復/6秒、荷重:800gとした。
【0088】
消去性の各評価は、三段階評価を行った。評価の基準を下記に示す。
◎(良好);試験条件より弱い圧力、少ない往復回数で消去できた。
〇(合格);消去できた。
×(不合格);消去できなかった。
【0089】
(5)油性マジック筆跡の布消去性
各実験例で得た組成物を、PET製フィルム(東レルミラーS10 厚み100 μm)に、No.10バーコーダーで塗布した後、オーブン150℃で10分加熱した。24時間後、油性マジックで筆記し、更に24時間後、布で所定の条件で擦過し、筆跡を目視にて判断した。条件は、距離:10cm、速さ:10往復/6秒、荷重:800gとした。
消去性の各評価は、字消しによる消去性評価と同様の方法で行った。なお、今回実験に用いた布は、綿100%の布及びティッシュペーパー(ロレーナ,日本製紙クレシア社製)である。
【0090】
(6)油性ボールペン筆記性、(7)油性ボールペン筆跡の字消し消去性、(8)油性ボールペン筆跡の布消去性の各評価については、油性マジックの評価と同様の方法で行った。
【0091】
表1から表5に、本発明の実験例の組成比及び評価結果を示す。表1には、アルキドポリオールと、各種イソシアネートの実験例を示す。表2には、フッ素ポリオールと、各種イソシアネートの実験例を示し、実験例31以外は、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加している。表3には、アルキドポリオールと、各種イソシアネートとともに、ポリオレフィンワックスを添加した実験例を示す。表1から表3に記載の実験例は、油性インクによる筆記性と字消し又は布による消去性の両立という観点から、実施例となり得る。表4には、主に各種ポリオールと各種イソシアネートの実験例を示す。実験例75のみ、イソシアネートを含まない組成である。表5には、主にフッ素ポリオールと、各種イソシアネートの実験例を示し、実験例84、実験例86、実験例88以外は、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加している。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
(実験例についての考察)
上掲する表1から表3に示される通り、実験例1~60の表面層形成用組成物は、油性マジック及び油性ボールペン筆跡の布消去性の評価項目を除き、各評価項目の判定結果がいずれも合格(〇又は◎記号)であった。すなわち、実験例1~60の表面層形成用組成物はいずれも、油性ボールペン及び油性マジックの筆記性、並びに、字消しによる消去性の両方に優れており、さらには、表面層の基材に対する密着性にも優れていた。
【0098】
一方、上掲する表4及び表5に示される通り、実験例61~90の表面層形成用組成物は、(2)~(8)の計7つの評価項目に関して、少なくとも一つが不合格(×記号)であった。より詳細には、実験例61~75、実験例77、実験例79~81、実験例83、実験例84、実験例86、実験例88に関しては、少なくとも(4)油性マジック筆跡の字消しによる消去性の評価が不合格となった。また、(4)の評価で不合格となった表4、表5に記載の実験例のうち実験例66以外については、油性マジックの布での消去性も不合格となった。一方、少なくとも(4)油性マジック筆跡の字消しによる消去性の評価で少なくとも合格となった実験例76、実験例78、実験例82、実験例85、実験例87、実験例89、実験例90については、いずれも(3)油性マジックの筆記性の評価において少なくとも不合格となった。すなわち、実験例1~60の表面層形成用組成物はいずれも実験例61~90よりも、本発明が求める効果、即ち油性インクの筆記性と字消し又は布による消去性の両立という点において優れていた。
【0099】
実験例1~22(すべてアルキドポリオールを採用)と、実験例72(シリコン変性フッ素ポリオールを採用)、実験例73(アクリルポリオール1を採用)、実験例74(アクリルポリオール2を採用)との各比較から、選択するポリオールの種類によって本発明の筆記性や消去性の効果に影響を与えることが示された。本実験例によれば、アルキドポリオールは、シリコン変性フッ素ポリオールやアクリルポリオールよりも、イソシアネートがペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートのいずれの場合でも、筆記性や字消しによる消去性の面において優れていることがわかった。
【0100】
さらに、実験例1~18(すべてアルキドポリオール1を採用)、実験例19~22(すべてアルキドポリオール2を採用)との結果により、選択されるポリオールが、いずれのアルキドポリオールでも好適であることが示された。
【0101】
NCO/OH当量比の影響について。
実験例1~18、実験例61~68の結果からわかるように、ポリオールとしてアルキドポリオールが採用されている場合、選択するイソシアネートの種類によって、NCO/OH当量比に好適な範囲があることが示される。
【0102】
実験例1~3と、実験例61及び実験例62の結果により、イソシアネートとして1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを選択した場合、NCO/OH当量比は0.5以上2.5以下が好適であることが分かる。
【0103】
同様に、実験例4~9と、実験例63及び実験例64の結果により、イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートを選択した場合、NCO/OH当量比は0.5以上4.0以下が好適であることが分かる。
【0104】
同様に、実験例10~15と、実験例65及び実験例66の結果により、イソシアネートとしてキシレンジイソシアネートを選択した場合、NCO/OH当量比は0.5以上3.0以下が好適であることが分かる。
【0105】
更に、実験例16~18と、実験例67及び実験例68の結果により、イソシアネートとしてイソホロンジイソシアネートを選択した場合、NCO/OH当量比は0.4以上2.2以下が好適であることが分かる。
【0106】
次に、ポリオールとして、フッ素ポリオールを採用した実験例23~48では、イソシアネートについてはペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネート、のいずれも採用可能であり、いずれのイソシアネートの場合でも、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加する組成では、油性インクの筆記性及び字消しによる消去性の両方が合格以上の評価となった。一方、フッ素ポリオールを採用した場合において水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーを添加しなかった実験例69、実験例70、実験例71、実験例84、実験例86、実験例88では、油性インクの筆記性と字消しによる消去性の両立ができなかった。つまり、フッ素ポリオールを採択し、イソシアネートがペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート又はキシレンジイソシアネートである場合は、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加が、筆記性と字消しによる消去性の両立に不可欠であることがわかった。
【0107】
NCO/OH当量比の影響について。
ポリオールとして、フッ素ポリオールを採用した場合においても、実験例23~39、実験例76~83の結果からわかるように、選択するイソシアネートの種類によって、NCO/OH当量比に好適な範囲があることが示される。例えば、実験例23~25と、実験例76及び実験例77の結果により、イソシアネートとして1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを選択した場合、NCO/OH当量比は0.5以上2.2以下が好適であることが分かる。
【0108】
同様に、実験例26~30と、実験例78及び実験例79の結果により、イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートを選択した場合、NCO/OH当量比は0.5以上2.0以下が好適であることが分かる。
【0109】
同様に、実験例31~36と、実験例80及び実験例81の結果により、イソシアネートとしてキシレンジイソシアネートを選択した場合、NCO/OH当量比は0.65以上2.5以下が好適であることが分かる。
【0110】
更に、実験例37~39と、実験例82、実験例83の結果により、イソシアネートとしてイソホロンジイソシアネートを選択した場合、NCO/OH当量比は0.65以上2.0以下が好適であることが分かる。
【0111】
以上の結果を総合すると、ポリオールとしてフッ素ポリオールが採用されている場合、NCO/OH当量比としては0.65以上2.0以下が好適な範囲があることが示された。
【0112】
水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量について。
加えて、本実験例によれば、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量に好適な範囲があることが示される。例えば、実験例40及び実験例41と、実験例84及び実験例85の結果により、イソシアネートとして1,5-ペンタメチレンジイソシアネートを選択した場合、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量は、フッ素ポリオール100質量部に対して0.1質量部以上1.2質量部以下の範囲が好適であることが分かる。
【0113】
同様に、実験例42及び実験例43と、実験例86及び実験例87の結果により、イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートを選択した場合、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量は、フッ素ポリオール100質量部に対して0.1質量部以上1.2質量部以下の範囲が好適であることが分かる。
【0114】
同様に、実験例44及び実験例45と、実験例88及び実験例89の結果により、イソシアネートとしてキシレンジイソシアネートを選択した場合、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量は、フッ素ポリオール100質量部に対して0.1質量部以上1.2質量部以下の範囲が好適であることが分かる。
【0115】
更に、実験例46~48と、実験例90の結果により、イソシアネートとしてイソホロンジイソシアネートを選択した場合、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量は、フッ素ポリオール100質量部に対して1.2質量部以下の範囲が好適であることが分かる。
【0116】
以上の結果から、水酸基含有シリコン変性アクリルポリマーの添加量に好適な範囲は、フッ素ポリオール当量比100に対して0.1以上1.2以下であることがわかった。
【0117】
実験例75は、アクリルポリオールが配合され、イソシアネートは配合されていない組成の実験例であり、このような組成ではポリウレタン構造が形成されていない。このような実験例では、油性マジックや油性ボールペンの筆跡に対する、字消し、布による消去性が不合格となった。この実験例75によれば、本発明に係る組成ではポリウレタン構造が必須と考えられる。実験例75のような表面層では、字消しや布の摩擦により、表面層自体が削れてしまいPET密着性の評価が不合格となり、その結果消去性の評価も不合格となった。したがって、ポリオールのみで形成される表面層は、本発明の組成例としては不適との結論を得た。
【0118】
以上から、油性マジックや油性ボールペンの筆記性及び字消しによる消去性を両立することが可能な実験例を説明したが、その実験例の中でも、布での消去性をも実現することは困難である。例えば、ポリオールとしてアルキドポリオールが採用された場合の実験例の中でも、実験例1、実験例3~5、実験例8~13、実験例16については、油性マジックまたは油性ボールペンの筆跡の布の消去性が不合格となっている。これに対し、添加剤として、ポリオレフィンワックスの添加によって、油性マジックや油性ボールペンの筆記性及び字消し及び布による消去性をすべて両立することが可能になる。
【0119】
実験例49~60の結果より、全ての評価が合格以上である。つまり、ポリオールとして、アルキドポリオールを採用し、イソシアネートについてはペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネート、のいずれかを採用した場合、NCO/OH比が1.2以上2.0の範囲において、ポリオレフィンワックスを添加することによって、油性マジックや油性ボールペンの筆記性及び字消し及び布による消去性をすべて両立することが可能となる。
【符号の説明】
【0120】
1 面材
11 基材層
12 表面層
図1